───(なぐさ)み者───
───…………。 達樹 「えーと……」 デパート街。 様々な店が点在する中で、汗をだらだらと流しているハゲが居た。 込み合う道も、こいつの輝きで道が開けるので便利と言えば便利だ。 鴉  「どうした?」 達樹 「ど、どうしてこんなことになったんでしょうか……」 鴉  「こんなことって?」 達樹 「……お、女の子と一緒に明るい家族計画を買いに行くような状況……」 鴉  「だから、言ったじゃないか。     『他人の目なんか気にならない、誰が居ようと必ず家族計画を購入する』、って」 達樹 「あの……500円返してもらいたくなってきたんですけど……」 鴉  「『俺が買い物に付き合う』って状況は確かにこの場に成立してるだろ。     それともお前と小鳥で買いに行くか?俺は降りても構わんが」 達樹 「あんた地獄の閻魔よりもヒドイッスね!!」 『俺ひとりでいい』という言葉が出ないあたり、案外小心者らしい。 小鳥 「義兄さん、どういうつもりなの……?こんなところに連れ出して……」 鴉  「ああ、服、選べ。気に入ったのあったら買ってやる」 小鳥 「え……?」 鴉  「お前も女なんだから、もっと着るものに気を使え。     ……もう、親父達が買ってくれた服も着られなくなったんだろ?」 小鳥 「……───あ……!」 小鳥は自分の服を見て、ハッと気づいたように俺を睨んだ。 小鳥 「わたしの部屋……勝手に入ったの!?」 鴉  「入ったぞー、入ってクロゼット開けて服取り出して届けたぞー」 小鳥 「っ……!信じられないっ!!義妹の部屋に勝手に───!!」 鴉  「お前の口から出た『信じられない』って、これで何度目だ?     その度に『信じてないだろ』って言ってる気がするんだが……。     なにお前、俺のことで信じてる部分なんてあるのか?」 小鳥 「うくっ……」 鴉  「よしんばあるとしても、『俺が金の亡者だ』ってことくらいだろ。     当たり前のこと信じてるんだなぁお前」 小鳥 「そんなこと信じてないよっ!!信じる価値もないっ!」 鴉  「金に価値はあるだろ。     お前がどうのこうの言おうが、俺達はこれが無いと生きていけない。     俺が憎いなら憎め。ソレを糧にしてでも生きろ。     それが、生き残ったものが死んだものへ贈る手向けの花だ」 小鳥 「え……?」 小鳥の呆然とした言葉が漏れた。 俺はそれを聞いて『喋りすぎたか』と舌打ちをして、 前を挙動不審に歩く達樹に追いついて促した。 鴉  「よっしゃあ!じゃ、買いに行くかっ!」 達樹 「ひいぃいいいいっ!!!!」 既にそのハゲは、先ほどまで熱い心を語ってたハゲではなくなっていた。 ───ガー……。 店員 「いらっしゃいませー」 総合ドラッグストアに入る。 不思議なもので、どうしてああいうものが『薬局』に売っているのかが解らない。 飲めというのか? 達樹 (ガタガタガタガタガタ……!!) ……今のこいつなら飲むかもしれないが。 小鳥 「義兄さんっ……義兄さんっ!」 鴉  「なんだ、店の中では静かにしろ」 小鳥 「今の、どういう意味っ!?わたしに義兄さんを恨めって……!」 鴉  「そのまんまだろ。お前、俺の金じゃあ買い物なんてしたくないんだろ?     だったらそのことを含めて俺を恨んででも、     その金を使って生きろって言ってるんだ」 小鳥 「使いたくないって言ってるの!     そんなお金が無くたって、わたしはわたしで生きていくよっ!」 鴉  「ガキがイッパシの口利くな、楽出来る内に楽しとけ、ばか者」 小鳥 「子供扱いしないでよ!わたしはそんなに弱くない!」 鴉  「達樹、覚悟決めろ」 小鳥 「義兄さんっ!?わたしの話を───!」 店員 「ん、んんっ!」 小鳥 「あ……」 店員の咳払いとともに睨まれた小鳥は、しゅんとするように俯いてしまった。 馬鹿め、人の忠告を聞かないからだ。 達樹 「………」 スッ…… 鴉  (おおっ) ついに達樹の手が家族計画へと伸び……───隣のよく解らん薬を手にした。 鴉  「こらっ!」 達樹 「ひぃっ!ごごごごめんなさいっ!     で、でも避妊はしなきゃいけないと思うんですっ!!」 鴉  「………」 目の前に、友達に泣きながら謝るハゲが居た。 達樹 「あ、あれ……?な、なんだ、鴉じゃないか……」 鴉  「俺、今ほどお前が友達で自分が情けなかった時って無いと思う」 達樹 「え?なにそれ」 とりあえず達樹の手から謎の薬を奪って、棚に戻す。 鴉  「お前が欲しいのはそんなもんじゃなかっただろうが」 達樹 「で、でも小鳥ちゃんが見てるしさ、ほら」 鴉  「……?」 ……見てない。 めっちゃ見てない。 近くにあるボディーソープの棚をじーっと見てる。 達樹 「ねっ?だ、だからさっ、また次の機会にっ」 こいつの目は節穴な上に、その上からカムテープでも貼られてるんだろうか。 鴉  「今買えっ!お前なら買えるっ!自分の力を信じろ!」 達樹 「え……?俺、の……力?自分の……?」 鴉  「そうだ!俺の目に狂いがあれば、お前はやれば出来る男なんだ!」 達樹 「それって普段は俺のことヘタレって思ってるってことですかねぇっ!!」 鴉  「ばかっ、今はそんなこと気にしてる場合かっ」 達樹 「今気にせずに、いつ気にするんだよ!」 鴉  「買い物が終わってからいくらでも聞いてやる!いいか、お前は出来る!復唱!」 達樹 「お、俺は出来る!」 鴉  「お前は男の中の男だ!」 達樹 「俺は男の中の男だ!」 鴉  「恥も外聞も無い!」 達樹 「恥も外聞も無い!」 無いらしい。 鴉  「お前は未来のための買い物をしようとしている!」 達樹 「俺は未来のための買い物をしようとしている!」 鴉  「だからその欲情以外にやましいことは何も無い!」 達樹 「欲情以外にやましいことは何も無い!」 欲情丸出しらしい。 鴉  「よしっ!お前はやれば出来る男なんだ!行け!明るい未来のためにっ!」 達樹 「あ、ああっ!やっぱこれって友情パワーかなっ!     またなんでも出来るような気分になってきたよっ!」 そりゃああれだけ自分を罵れば、せめて自分が自分を許さなきゃやっていけないだろう。 鴉  「何度も言うようだが、それはお前の中に元からあった力だ。     だから友情パワーとか言って共犯を作ろうとするな」 達樹 「え?」 鴉  「男になってこいって言ったんだ」 達樹 「サンキュー!!」 達樹が明るい家族計画を手に、意気揚々と叫んだ。 やがて2秒後。 明るい家族計画を手にスキップしながら会計に向かうハゲが……そこに居た。 小鳥 「………」 しかも小鳥にバッチリ見られてた。 よかったな、お前を見守ってたのは俺だけじゃあなかったんだぜ……。 ───……。 達樹 「………」 小鳥 「………」 鴉  「………」 やがて俺と小鳥と合流するに至り、 小鳥を見て正気に戻った達樹が重苦しい沈黙を醸し出していた。 物凄く汗かいてる。 脱水症状にならないのかこいつは。 達樹 「えっと、その…………見た?」 小鳥 「劉堂先輩って……スキップしながらそんなもの買いに来てたんですね……」 達樹 「うぐっ!!」 女からの『そんなもの』という言葉が、達樹の心に深く突き刺さった。 達樹 「で、でもこれは未来のためには必要なものだからねっ」 小鳥 「結婚できる歳でもないのにですか?」 達樹 「はぐあぁっ!!」 年下に諭される事実が、達樹の心に深く突き刺さった。 達樹 「な、なにもそんなすぐ使うわけじゃないさっ!     ほら、必要な時に無かったら情けないじゃんっ!」 道端で頭を輝かせながら女にそういうこと言うことの方が、よっぽど情けないと思うが。 小鳥 「それじゃあなんですか……劉堂先輩は今日からそれを、     肌身離さず適齢期に至るまで持っている気ですか」 達樹 「ぐはっ!」 肌身離さず……適齢期……卒業に至るまで…… 鴉  「ブフッ!!」 達樹 「な、なに笑ってんだよっ!」 鴉  「い、いや……なんでもないっ……!ブフゥッ!!」 小鳥 「あの……わたし、もう帰らせてもらいます。一緒に居る必要、なさそうですから」 達樹 「えぇっ!?あ、ちょっと待ってほしいな……誤解を解かせてほしいんだけど……」 小鳥 「解ける誤解なんてあるんですか?あるなら言ってください」 達樹 「あ、いや…………ないです」 なんとも情け無いハゲが居た。 小鳥 「それじゃあ」 鴉  「はい待った」 走ろうとする小鳥を捕まえる。 小鳥 「義兄さんっ!?な、なにするのっ!用なんてもうないでしょ!?     ただわたしを使って劉堂先輩をからかいたかっただけなんでしょ!?」 達樹 「えっ?そうなの?」 鴉  「なにをたわけたこと言ってるんだ、ばか。服買ってやるって言っただろうが」 小鳥 「え……?」 本気でポカンとする小鳥。 どうやら達樹の一件で、その出来事のために呼ばれたんだと思い込んでいたらしい。 鴉  「お前ね、ヘンな勘ぐりするのやめろ。     お前こそ解ける誤解があるのに解こうともしないで帰ろうとするなよな」 小鳥 「だって……義兄さんが服を買ってくれるなんて、     そんなことあるわけないって……」 鴉  「あのなぁ、お前が今着てる服を買ってやったのは何処の誰だよ」 小鳥 「そ、そうじゃないよっ!     わたしが言ってるのは、わたしが選んだものを買ってくれるわけがないってこと!     いっつもいっつも自分で適当に買ってきて、     『お前にはこの色がいい』とか言って選ばせてくれなかったのは誰っ!?」 鴉  「お前、ひどいことするのな……」 達樹 「なんで俺を見て言いますかねぇっ!!」 小鳥 「っ……ほらっ……わたしとなんか真っ直ぐに向き合う気が無いんでしょ!?     だったらそんなもの……買ってもらっても嬉しくないよっ!!」 バッ! 鴉  「あ……おいっ」 小鳥が俺の手を振り切って走り出した。 ったく、なに怒ってんだあいつは……! 鴉  「達樹」 達樹 「へ?なんだよ……て、おいっ!」 俺は達樹の頭を掴み、小鳥の走る場所の横にある綺麗な硝子細工の店の小物に光を送った。 計算からすればこの角度から反射させれば───ギシャア!! 小鳥 「あうぅっ!?」 ビンゴ。 小鳥の目を眩ませることに成功した。 鴉  「よしっ!行くぞ達樹っ!」 達樹 「……なんつーか俺、自分の存在意義が解らなくなってきた……」 鴉  「いまさら何言ってんだよっ!」 達樹 「もう取り戻せないような言い方しないでくれません!?まだ間に合うだろっ!?」 鴉  「………」 達樹 「そこで黙るなよ!!」 キラキラ輝く頭とは対象的に、そこ以外はボロボロなハゲを無視して小鳥へ走り寄る。 達樹 「キミね……あんまヒドイとこっちにも考えがあるよ?」 鴉  「考え?なんだよそれ」 達樹 「つーかもう決行する」 鴉  「全裸になって踊るのか?勇気あるな」 達樹 「何処の勇者だよ俺っ!!」 ひとまずは小鳥の手を掴んで引き止めておく。 達樹がなにをするのかは知らんが、俺は『コレ』と決めたことはあまり曲げたくない。 服を買ってやるって決めた。 故に、服は買ってやる。 そう思っていた時だった。 達樹が小鳥の耳に口を近づけて─── 達樹 「小鳥ちゃん!鴉のヤツはなっ!     キミに内緒で何件もバイトの掛け持ちしてるんだぞっ!!」 ───俺が秘密にして楽しんでたことのひとつを、暴露しちまいやがった。 鴉  「達樹っ!ちょっ……!」 小鳥 「え……!?な、なんですか、それ……」 ようやく視界が戻ったのか、 小鳥が信じられないような震える声で達樹を見上げて───ギシャア!! 小鳥 「あうぅっ!!」 再び、その輝きに視界を閉ざされた。 ……緊張感の無い暴露状況だった。 鴉  「……はぁ」 お陰で、一瞬現れた怒りも消えちまった。 まあ、いずれ解ったことなんだし……それが早まっただけだ。 達樹 「へへっ、どうよ、この仕返しっ!悔しいか?」 鴉  「いや、お前の頭の秘密を全校生徒に暴露するのが楽しみになった」 達樹 「ひぃっ!?やめてくださいっ!俺が悪かったです!!」 達樹の輝きを知らない輩は、クラスメイツを除けば案外居たりする。 小鳥だって実は先月知ったばかりで、 その秘密を知った時は素直に大爆笑して、終いには泣いたほどだ。 それが、俺が見たこいつの初めての笑顔。 正直驚いた。 小鳥 「義兄さん……あの……本当、なの……?」 鴉  「…………本当だ。今は鈴訊庵と新聞配達とカルディオラを掛け持ってる」 小鳥 「ど、どうして……?どうして言ってくれなかったの……?」 達樹 「そりゃ簡単。自分を恨ませて罵声を浴びさせることで、     親を亡くしてショックを受けてた義妹に立ち直って欲しかったから、だよな?」 小鳥 「……!!」 鴉  「なぁ達樹。俺、夏休みが終わった頃のクラスメイトのお前に対する反応、     今から物凄く楽しみになってきたよ」 達樹 「やめてくださいよねっ!そういう陰湿なイジメ!!」 小鳥 「ねぇ……義兄さん……。     『俺を恨んででも生きろ』って……そういう意味だったの……?」 鴉  「…………行くぞ」 小鳥 「義兄さんっ!!」 鴉  「服、買ってやる。好きな服選べ」 小鳥 「義兄さん……」 達樹 「ごめんね、今まで口止めされてたから言えなかった」 小鳥 「……あの、それじゃあ知り合いからお金を巻き上げてるって噂は……?」 達樹 「ああ、一科目につき100円なんて可愛いもんだぞ?     それに、その方法で集めた金ってそういうやつらと遊ぶ金にしてるし」 小鳥 「……そんな……じゃあ、わたし……義兄さんにいっぱいヒドイことを……」 達樹 「あいつ、そんなこと気にするタマじゃないよ。幼馴染の俺が太鼓判押してやる」 鴉  「……ったく、置いていくぞっ!馬鹿者めっ!」 達樹 「……な?」 小鳥 「……───は、はいっ!」 ───……。 ───……。 鴉  「んー……どうもパッとしないな……」 小鳥 「ま、また……?いい加減にしてよ義兄さんっ!     わたしの気に入ったものを頭っから……あ、……ごめんなさい……」 鴉  「………」 さっきからこの調子。 適当なブティックに入った俺達は、小鳥の服を選んでいた。 が、どうにもしっくりくるものがなく、 小鳥が選んだものを否定した俺に言葉を放つ小鳥。 ……だが。 今まで通りの罵倒にも似た言葉を放つと、 小鳥は今までのことの罪悪感からか、すぐにしゅんとなって謝ってくる。 どうにもやりづらい。 達樹 「鴉っ!鴉っ!すっげぇよコレ!ナウイよっ!」 そんな俺達を余所に、一昔前の装備で身を固めてはしゃぐハゲ。 昔のものを悪く言うことは断じて無い俺だが、 どうしてこいつが着ただけでこうも見苦しく映るのか。 思いっきり似合ってなかった。 達樹 「うわー、気に入っちゃったよ俺っ!買っちゃおうかなっ!     きっと葉香もメロメロだよねっ!」 はしゃぐのは勝手だが、家族計画の入った袋を振り回しながら叫ぶのはやめてくれ。 知り合いだと思われたくない。 鴉  「ん……これなんかどうだ?小鳥の雰囲気によく似合ってる」 小鳥 「え……そうかな」 鴉  「ああ。ちょっと着てみろ」 小鳥 「う、うん……」 ………………。 …………。 シャアッ。 小鳥 「ど、どうかな」 鴉  「んー……達樹ー」 達樹 「あんっ?」 店員 「ありがとうございましたー」 ……買ってるし。 達樹 「なになに?惚れちゃった?」 鴉  「惚れないから。で、どう思う?」 顎で促して、小鳥を見る。 達樹 「ほえっ……───へえ、いい色選んだじゃん。     なんつーか、『小鳥ちゃん』って感じだね」 鴉  「それは素直な感想か?色眼鏡かけてないよな?」 達樹 「俺には葉香が居るからねっ!」 その自信がどこから滲み出てくるのかは知らないが、正直な感想らしい。 鴉  「だ、そうだ」 小鳥 「え……あの、義兄さんの感想は……?」 鴉  「……着替えろ。買ってくる」 小鳥 「えっ?あ……義兄さんっ?」 カシャアッ! カーテンを閉めて、さっさと着替えを促す。 …………少しして、渡された服を手に会計へ。 小鳥 「わたし……やっぱり義兄さんに嫌われてるのかな……」 達樹 「へ?なんでさ」 小鳥 「だって……」 達樹 「……ふ〜む……。あのさぁ、人に何かを買ってあげるのってどんな気分かな」 小鳥 「どんなって……?」 達樹 「例えばさ、小鳥ちゃんの友達が選んで試着した服が『いいな』って思ったとして、     その友達がその服を買うって時になったら、小鳥ちゃんはどうする?」 小鳥 「どうもしませんよ……?いいなって思ったらそのまま……───あ」 達樹 「……そゆこと。あいつはね、金の無駄遣いなんかしないよ」 小鳥 「義兄さん……」 ───……。 ───……。 鴉  「ほれ。いきなり破いたりすんなよ」 小鳥 「う、うん……ありがとう、義兄さん……」 鴉  「改まった礼なんて言うな、ばか」 小鳥 「あ……ご、ごめんなさい……」 鴉  「………」 小鳥 「あっ……」 急におどおどしだした小鳥を置いて、さっさと歩き出す。 小鳥 「義兄さん……」 達樹 「今のは鴉語で『家族なんだから遠慮なんかするな』って意味ね」 鴉  「ハゲッ!!余計なこと言うなっ!」 達樹 「『ハゲ』って言葉の方がよっぽど余計だと思いますよ!?     その言葉が無くても台詞は伝わりますよねぇっ!?」 鴉  「ったく……あのな、小鳥。お前は謝りすぎだ。     俺の家に来たばっかりの頃みたいなお前にはもうなるんじゃねぇよ。     俺はな、今のお前に戻ってほしくて憎まれ役してたわけじゃねぇんだぞ」 小鳥 「………」 達樹 「へ?なになに?」 鴉  「なんでもない」 達樹 「そうか?まあいいけど」 歩き出す。 なんだか急につまらない気分になったな……。 大体小鳥も小鳥だ。 俺がバイトしてることが解ったからって、なんだって急に態度を変えやがるんだか。 やりづらいったらない。 達樹 「……はぁ〜はぁ〜ん……?鴉ゥ、おめぇ寂しいんだろォ」 鴉  「何処の誰だよお前……ヘンな喋り方するなよ」 達樹 「いーじゃん。でさ、お前。     小鳥ちゃんが自分に突っかかってこなくなったから寂しいんだろ」 鴉  「やり辛いって思ってるだけだ」 達樹 「それが寂しいって言うんだよっ」 鴉  「よしんばそうだとしても、始業式後のお前には負ける」 達樹 「イジメはやめましょうねっ!?マジで!!」 小鳥 「義兄さん……そうなの?わたしが急に態度を変えたから怒ってるの……?」 鴉  「はぁ……」 まったく面倒臭い。 どうして俺が事細かに話してやらなきゃならないんだ。 いまさら事実を知ったからって何かが変わるわけじゃないだろうが……。 それを、どうしてわざわざ変えてしまうんだこいつは……。 鴉  「逆に訊きたいくらいだ。どうしてわざわざ態度を変えた」 小鳥 「それは……だってわたし、     知らなかったからって義兄さんにひどいこと言ったりして……」 鴉  「それで、事実を知ったからってお前の気持ちは晴れるのか?     散々からかったりして、面倒なこと押し付けられて」 小鳥 「からかわれなかったら元気に言い返せなかったし、     押し付けられなきゃ自分じゃなにも出来ない子になってたよ?わたし……」 鴉  「………」 達樹 「あーあ、お前の行動、ぜ〜んぶ理解されちゃったみたいだな」 鴉  「……で。お前には不満ってもんが無い、って。そう言うのか」 小鳥 「義兄さんが使ってたお金が、     他人の人の弱みに付け込んだものじゃないって解れば、     わたし……そんなに義兄さんのこと嫌いじゃないから……」 鴉  「………」 達樹 「………」 ……本当に、困ったことになった。 利益もないのに面倒なのは好きじゃないのに。 小鳥 「あ……でも義兄さん。勉強を見せたり助っ人したりして稼いだお金は、     友達と遊ぶお金として使ってるって聞いたけど……」 鴉  「………」 達樹 「ヒュ〜♪ヒュヒュ〜♪」 じっと達樹を睨むが、ヘタクソな口笛を吹いてソッポを向いた。 こんな誤魔化し方、子供でもやらない。 小鳥 「あのね、義兄さん。     友達と遊ぶために使うなら、そもそも貰う必要が無いと思うの。     だから……ね、やめにしよう?」 鴉  「………」 小鳥にしてみれば、俺への誤解が解けて服も買って貰って、 遠くに居た義理の兄が急に身近に感じられたってところなんだろうが。 俺からしてみればこんな状況、面倒なだけだ。 俺とこいつは深く干渉し合わない程度が丁度よかったに違いない。 これから家の中でも、こうして指図されるのだとしたら……正直、冗談じゃない。 鴉  「それは、俺に無償で助っ人だのなんだのをやれっていうことか?」 小鳥 「え……」 鴉  「『楽をしたい』って思ってるヤツに無償で勉強見せたりしたら、     そいつがつけあがるだけだって思わないのか?」 小鳥 「でも、それでお金を取るのはやっぱりいけないことだと思うし……」 鴉  「……達樹、どう思う」 達樹 「へっ?って、どうしてお前ってこういう時に俺に振るかね……」 鴉  「いいから」 達樹 「どうって言われてもね……     ここはお前が考えて答えなきゃならない場面なんじゃねぇの?」 鴉  「そーかい。だったら俺の答えは『NO』だ」 小鳥 「え……?」 達樹 「ま、そうだろうな」 小鳥 「ど、どうしてっ!?だって、そんな無理に取る必要なんて……!」 鴉  「俺とクラスのやつらはそれくらいの関係が丁度いいんだよ。     人のリズムにまで突っかかってくるな。俺は俺、お前はお前だ」 小鳥 「……どうしてもやめないつもり?」 鴉  「くどい。実力を行使したいなら勝手にしろ」 小鳥 「………」 きっぱりと言ってやると、小鳥は服の入った紙袋を胸に抱いてから息を吸って吐いた。 やがて─── 小鳥 「じゃあ、蹴るから」 鴉  「あぁ?なに?」 小鳥 「蹴る。義兄さんの、そういう現場を見たら蹴るから」 鴉  「………」 なに考えてんだこいつは。 ま、好きにさせておこう。 鴉  「さっき言った通りだ、勝手にしろ」 小鳥 「うんっ」 オイ。 どうしてそこで嬉しそうな顔をする。 お前はなにか?なんだかんだ言って、兄を蹴る条件を掴めたことが嬉しいのか? …………いいや、面倒臭い。 それこそ好きにさせておこう。 いつか飽きるだろう。 達樹 「なんかよく解らないけど、まあいいや。     やー、言えなかったことを言えるのってスッキリするねっ!     なんかこう、のびのびと歩きたくなるよっ」 言った通り、大手を振って歩くハゲ。 が、その瞬間───ズルッ! 達樹 「あ」 その手から、明るい家族計画入りのビニール袋がすっぽ抜ける。 ボスッ。 女性 「?」 達樹 「うわっ、やばいっ!」 しかも先の方を歩いていた女性に当たる……つーか、担任の島田じゃん。 達樹 「………」 達樹もそれに気づいたのか、駆け出そうとした状態で固まる。 俺は状況を逸早く察知し、小鳥の手を引いて適当な場所に身を潜めた。 小鳥 「義兄さん?」 達樹 「静かに」 島田に気づかなかった小鳥に静かにするように注意を促す。 島田 「あら……その頭は劉堂くん?」 達樹 「あ、あはは……こ、こんちはー……」 シマちゃん(島田のこと)もプリントを配るだけでガッコの用事は済んだのか。 結構なことだ。 達樹もいつもなら『ハゲで識別しないでくれますかねぇっ!』くらいは言うのにな。 状況が状況だからなぁ。 島田 「なにか飛んできた気がしたんだけど……あ、これね?」 達樹 「あ、うわっ……お、俺が取りますからっ!」 シマちゃんが、ぶつかった拍子にビニールから落ちた物体に手を伸ばして───固まった。 島田 「………」 達樹 「あ、あわわ……」 ガタガタと震えながら、汗をだらだらと流すハゲが居た。 汗の所為で、輝きも二割り増しだ。 達樹 「か、鴉っ……!フォローしてくれ……!鴉……!カラ……って居ねぇっ!!」 ようやく気づいたらしい。 島田 「……劉堂くん。これはどういうことかしら?」 達樹 「え、えっと」 島田 「正直に言いなさいっ!」 達樹 「ひいっ!あ、あのですね!     まだ早いと思ったんですけど、でも必要な時に無いと格好つかないと思って!」 今のこの状況を見て、あのハゲにつけられるほどの格好があるとは思えないが。 小鳥 (凄い勢いで墓穴掘ってるね……) 鴉  (あれがあいつだからな……) 毎度毎度、こんなことがある度に楽しんではいるが、 時々本気で友達の縁を切りたくなる時もあったりする。 島田 「これは没収しますっ!一体なにを考えているの!」 達樹 「そ、そんな!俺の明るい未来はっ!?」 島田 「そんなもの卒業してから探しなさいっ!!     いいっ!?今度こんなものを買ったりしたら注意だけじゃあ済みませんからね!」 達樹 「は、はいぃいいっ!」 ……島田が去っていった。 それを確認してから俺は動く。 小鳥 (行くの?) 鴉  (いいか、俺達はこの場に居なかった。OK?) 小鳥 (?……う、うん) 小鳥が頷くのを見てから、達樹に近づいてその肩をポンと叩く。 達樹 「ひいっ!?……って、なんだ、鴉か……」 鴉  「悪い、小鳥がちょっと見たいものがあるって言って、道草食ってた」 達樹 「え……そ、そうなんだ」 小鳥 「………」 小鳥が『そういうことか』って顔で微笑む。 鴉  「あれ?お前、家族計画は?」 達樹 「えっ!?」 途端に立場の悪そうな顔をする達樹。 しかし無理矢理ニッコリ微笑むと、語りだした。 達樹 「あ、ああ、あれねっ!いや、さっきシマちゃんがそこに居てさっ!     でね、彼と熱い夜を過ごしたいけど買うお金がないから、     俺に譲ってくれって言ってきてさっ!     ほら、俺学生だからまだ使わないし、あげちゃったんだよねっ!」 鴉  「………」 小鳥 「………」 達樹 「あ、あれ?どうしたのふたりとも、可哀相な人を見るような目で」 シマちゃんに男が居ないのは、学校全土における周知の事実である。 それが言い訳に出てくれば、 その程度の言い訳しか思いつかなかったこいつの状況があまりに可哀相に思えた。 達樹 「?な、なんだよ」 鴉  「いや……いい。いいんだ……行こう……」 小鳥 「劉堂先輩、生きてればきっといいことありますから」 達樹 「あの……小鳥ちゃん?それって俺が死ぬみたいに聞こえるんだけど」 鴉  「また買えばいいさ……。元気出せって……」 達樹 「あ、あははっ!なに言ってんの!?俺元気だって!」 鴉  「いいから……な?行こう……な?」 小鳥 「先輩、わたしたちは友達ですから……」 達樹 「ふたりとも、なんでそんなにやさしいのかな」 鴉  「いいから……」 小鳥 「いいですから……」 やがて、心なしか頭の輝きにキレが無くなった達樹と一緒に帰り、仕事の用意をした頃。 そんな俺を見た小鳥が『ほんとに仕事してたんだね……』と感心していた。 ……ちなみに、家で待っていた矢沢に人数分の金を受け取ろうとしたところ、 小鳥のやつしっかりと俺を蹴りやがった。 ペチペチと可愛いものだったが、義妹に蹴られるという事実は妙な気分ではあった。 効いてないと理解した小鳥は『次はもっと強く蹴るからねっ!』と叫んで逃走。 『なにあれ……』と呆れる矢沢を余所に、俺は長い長い溜め息を吐いた。 Next Menu back