───自分勝手に生きましょう───
【ケース05:提督猫(再)/とても短かろうがケースにする】  ガチャン、ガチャンッ! 提督猫『イエイ』《どーーーん!》 カイ 『鎧を試着して格好つけないでください』 提督猫『なんで!? いいじゃん!』  やあ僕博光。  今日はそう、ここ、とある町のとある防具屋からお報せするよ?  やあ、なんのかんのと町に来てしまったが……フ、フフフ、体が震えて仕方ない。  防具屋に来た途端、試着専用とか書いてあった鎧の中にスッポリですよこの猫は。  ただすっぽり入るだけじゃつまらないから、無駄に留め金でガッチリ固めてみた。  ……やべぇ、カッコイイよこれ! 買わねーけど! 提督猫『デッテッテッテッテテッテッテ〜♪ デッテッテ〜テテ〜ン♪     デッテッテッテッテテッテッテ〜♪ デッテッテ〜テテ〜ン♪     おっどろーよ! いや〜なこ〜と〜わ〜すれ〜ぇ〜!     おーきなこーえでー! 歌えたのーしくー!』 カイ 『……? なんの歌ですか?』 提督猫『覚えてる人も知ってる人も居るのかね……フラグルロックって知ってる?』 カイ 『いえ……』 提督猫『うん……そうだよね……』  好きだったなぁフラグルロック。いや懐かしい。  そんなわけでリズムに合わせて鎧着たまま浮遊してたんだけど、誰からのツッコミもなしだよ。カイ以外、なんか見ないフリしてるっぽい。  そうか……あまりに素晴らしすぎて直視出来なかったのか。 提督猫『で? 買う服は決まった? おいさんに任せればなぁんでも買っちゃうよ?』 彰  「……ほんとに金、持ってるんだろうな」 提督猫『だいじょーぶだいじょーぶ。ほれ、この通りごっちゃりありますわ』  時を止め、モミアゲ工房からかっぱらってきた財布の中身を見せる。  ……中はとんでもないことになっていた。 店主 「《ズザザァアッ!!》お客様は神様ですっ!」  すると突如、店主が滑り込みで揉み手しながら現れた!  まあ……ほぼ全部がM$な財布見りゃあ、滑り込みたくもなる。  彰利が言ってたな……えーと、記憶を遡るに……A$、B$、S$、PG、G$があって、それぞれを───アルデット、ブロデット、シルデット、プラデット、ゴルデットと呼ぶ。  ようするにアルミ、ブロンズ、シルバー、プラチナ、ゴールドって感じになってて、M$は……マテリア。マリデットっていって、一つで1億の価値がある。  空界の通貨がそのままなら、億万長者って言葉もまるっきり嘘じゃないやこれ。 彰  「……? きれーな石だな。鉱石かなんかか?」 提督猫『1億の価値のある空界通貨』 彰  「へー……いちお一億ぅ!?」  ひょいと摘もうとした彰の手が止まり、素直に絶叫。  ミアは財布の中身を見た途端に活動を停止していた。 彰  「いっ……いや、待て、まてまてまてよ?     1億通貨がこんなにごっちゃりあるわけないだろ……冷静になれ。     どうせまた猫がからかってるだけで───」 提督猫『ちなみにこれ、晦一等兵がクグリューゲルス院生時代に稼いだ金な?』 彰  「泥棒じゃねぇかよそれ!!」 提督猫『大丈夫、ちゃんと許可は得てる。これ、晦一等兵の工房から取ってきたものだし。     専用の鍵と合言葉みたいなものがなきゃ開かないのさ、そこ』 彰  「……ちょっと待て?     じゃあなにか? お前、今ご先祖さまと会話出来るとでも……」 提督猫『出来るけどさせてやらねー! ゲハハハハ俺は他人に厳しいのよ!     ていうかさっさとプレート小屋に戻るぞコノヤロー!     服くらいさっさと選びなさいまったく!』 彰  「やっ……だから待てって! ほんとか!? ほんとにご先祖さまとっ……!」 提督猫『ワハハハハうそだちょーーーっ!!』  直後にボコボコにされました。 【ケース06:第六天魔王/そんなこんなで───】  どどぉんっ!! 魔王 『第六天魔王! 降臨せん!!』  やあ僕博光。  今日はここ、技師の小屋からお送りするよ?  今日っていっても、まだ同じ日だけどね。  結局騒ぐだけ騒いで追い出された所為で防具買えなかったから、せっかくだし武具宝殿でまったりリズムの皆様に裁縫していただきました。  それぞれミアと彰の服が直り、+1がついております。 彰  「信じらんねぇ……ほんとに第六天魔王にしやがったよこの猫……」  彰の言う通り、毒々しいプレートには“第六天魔王降臨せん”と刻まれている。  技師に頼んでドギャッと新規作成してもらったさ。  この色このツヤ……なんてステキ。 魔王 『ブレイバーランクは1です。     レベルは何気に1192万2960レベルとなっているが』 彰  「レベル? なんだそりゃ」 魔王 『ナンデモナイヨ?』  ええまあ……ほら、あれですよ。  フェルダールを飲み込んでた所為か、オリジンをぶっ殺したあとにレベルが上がったようで。  そのオリジンがさ、ほら、物凄い数の黒を吸収してたじゃない?  その黒の中の一体一体が、ルドラや未来彰利とともに相当に強くなったモンスターやら幻獣やらなわけで。  それを倒した結果が……いい国作ろう鎌倉幕府。  今、僕の中が1192(いいくに)
です。  レベルももう上がることもないそうだから、僕は鎌倉幕府として生きていきます。  代わりに武具のレベルが上がっていくわけですがね。  我が体と一体になってからはレベルも一緒だった僕の相棒は、それ以上にいけるようだから。  よーするに、ヒロラインじゃあ“11922960”が上限だったわけだ。  武具のほうには上限がないようで、僕の中でみんなが冒険してレベルを上げるたび、ぺぺらぺっぺぺ〜とレベルアップしてるけどね。  そう、そして名前は第六天魔王。第六天が苗字で、魔王が名前です。  属性も全て手に入れたし、弱点である“洗脳”や“乗っ取り”も順応の回路でまあまあ克服済み。  あ、ちなみに各属性にあたる象徴はこんな風になっております。  ◆象徴属性(ヒロライン/フェルダール/レゾンデートル)  地:ノーム(両生類っぽい。のんのんやかましい。ブロシェットが嫌い)  水:ウンディーネ(女。オリバが滅茶苦茶嫌われてる)  火:イフリート(男。暑苦しい。オリバが嫌い)  風:シルフ(男。口悪し。殊戸瀬が嫌い)  雷:ヴォルト(両生類?……一緒に居ると和みます)  氷:悠黄奈さん(女。セルシウス。ワンチャイさまが嫌い)  光:レム(女。フェニックスドライバーが大ッ嫌い)  闇:シャドウ(男。真面目で律儀)  元:マクスウェル(男。マイケルジジーソン。浮遊闘技場の管理人)  然:ナギー、ローラ、ドリアード(女。どれだけ自然に縁があるんだろ)  時:ゼクンドゥス(少年。真面目で素直。時の回廊の管理人)  死:ケイオス(男。楽しいことが好きでうまティーが好き。結構気が合う)  無:神父(男。名前はファザー=ベント。神父弁当と呼ぶと半殺しにされる)  創:ジハード(男。かつての創造の精霊。シャモンに惚れてるロリコンワイバーン)  月:ルナ子さん、シャモン(女。前月の精霊の加護を得て、シャモンとともに象徴に)  災:バルバトス=ゲーティア(男。最強人類。イドに殺されたのに復活してた)  機:初音ミク(女。ジェノサイドハートやジェノサイドクロウ、オメガなどを搭載)  竜:バハムート(雄。セトのライバルの真龍王サマ)  はい、災あたりからおっかねぇですね。  なんの冗談なのか宛がわれちまってますよ、武具情報に書いてあるから間違いないよ。  しかも災属性から変換されたはずの竜属性まで独立しちゃってるし。  まあそれとはべつに、この地から無までの属性にそれぞれ、三千年以上前に僕を殺しかけたルドラ側の精霊の皆さんの武具……あったよね?  あれに存在した意思と属性が合わさることで、属性の方では一切困ることがないほど充実しています。  オリジナルよりよっぽど強いんじゃあなかろうか。  どうせならルドラ側の精霊の意思も浮上させたいんだけどな……イドをブチノメしたいし。  何とか出来ないか、いろいろ試してみるつもりだ。  意思さえ掘り返すことが出来れば、ヒロラインももっと賑やかになるよ? 彰  「んー……なぁ猫。ひとつ質問していいか?」 魔王 『なんだね?』 彰  「や、軽い疑問なんだけどさ。ほら、ご先祖様が居たのって百年も前のことだろ?     それだけ生きてるあんたにこそ訊いてみたいんだけど───     あのさ。お前がこの世でもっとも大切だって思うものってなんだ?」 魔王 『自分』 彰  「うお即答!? しかも自分って……!     うーお……てっきり武具〜とか言うかと思ってた」 魔王 『俺が生きてなきゃ、武具はただの塊だからね。     そこんとこをしっかり受け止めて生きる。それこそ武具を愛する者よ。     よいかランポスよ。武具とは持つ者が持って初めて武具と成り得る。     武具自身が自立して行動するならまだしも、     助けなしに動けぬ武具を、人は装飾と呼ぶ。     そして僕が持つ相棒ジークフリードは、僕以外には扱えません。     だから俺は、なによりも自分を大切にします。     自分のため、武具を飾りにしないように』 彰  「なんだそりゃ。よーするに武具のためだろ? つーかランポスって俺?」 魔王 『馬鹿! アッくんの馬鹿! 俺は俺のためにしか行動しないの!     誰かのためなど冗談ではないわ! 俺は終生の瞬間までを己のために生きて、     己の悪のみを貫き他人の正義を根絶やしにするのだゴフェヘヘヘヘ……!!』 彰  「ほんといちいち猫らしくねぇなぁおい!!」 魔王 『ご主人、あんまりくどいと首掻っ切るニャッ♪《テコーン♪》』 彰  「あ……なんかもういっそ普通でいいです……」  ク……クワッ!と無理矢理口の端からニヒルに歯を覗かせ、笑ってみせた。  うむ、精一杯アイルーチックに出来たと思う。 ミア 「えーと……ブレイバーって初めてなったけど、これって……」 カイ 『ブレイバーって勇者って意味でしたよね。いいですね、凄いです。     ぼ、僕はその、勇者みたいな存在に憧れていまして』 魔王 『そうか! 俺は勇者が嫌いだ!』 カイ 『えぇ!? どうしてですか!? 格好いいじゃないですか!』 魔王 『な、なにを言うかこの歌って踊れる聖騎士めが! 俺はな、聖騎士よ!     魔王だというそれだけの理由で敵視する相手が大嫌いなんだ!     そいつらからかいまくって罠にハメまくって、     もがき苦しんでるところを貶して笑って、     ウソの助かり方教えて騙されて悔しがってるところに石とか投げまくって、     “悟空、修行じゃ”って言うのは超絶大好きですが』 カイ 『普通に魔王じゃないですか!     敵視される理由が今の言葉の中でどれだけありました!?』 魔王 『え? 全然だよね? だって悪いのは最初から敵視する勇者だもん』 ミア 「う、うーん……」  まったく、魔王のプライベートタイムというのも考えてもらいたい。  魔王だって人間なんだよ? 今猫だけど。 魔王 『えーとそれで…………ランポスはなに探してるんだっけ。胃潰瘍遺書?』 彰  「異界転移書じゃあっ!!     なんでそこで俺が胃潰瘍で遺書遺すみたいになってんだよ!」 魔王 『キミの声ってまんま緑川さんだよね。是非ともガンマ砲を撃っていただきたい』 彰  「あっ、結構俺、緑川さんの声真似には自信があるんだぜっ?     ……んまあ、ガッコのやつらが昔のアニメ知ってるわけないから、     全然まったく誰にも自慢出来なくて意味ねーんだけどさ」 魔王 『ちなみに俺の本体のハンサム顔は、どこまでいっても平凡だと有名だった。     村人の服来て町を徘徊すると、ウォーリーを探すよりも大変だって』 彰  「そんなお前がどうして魔王なんだよ……」  どうしてだろうね? ミア 「名前もヒロミツ=ナカイデ〜って、平凡だし」 魔王 『間違えるな小娘。我が名は中井出博光。     逆に呼ぶのは生粋の日本人たるこの第六天魔王に大して無礼である、ぞ』 ミア 「これがこっちの呼び方なんだってば」 魔王 『なにぃ、その例に習うのであれば、     貴様の名前もミアンドギャルドとなるが』 ミア 「うそだよそれ! 絶対うそだよぅ!     地界ではそんな名前で呼ばないよねぇ彰くん!」 彰  「え? お前知らないの? 本当だぜ?」 ミア 「えぇええっ!?」  ぬう、さすがは彰利の来世よ。  この瞬間的なノリの良さ……伊達に前世で原中を生きてない。  まあ、以前ドリアードが教えてくれなきゃ、こやつが来世だってこと自体わからんかったのだが。 魔王 『よろしくギャルド!』 彰  「ようこそギャルド!!」 ミア 「え、えうう……!? う、うそだよやっぱり!     だってほら、魔王さんニヤケ顔してるもん!!」 魔王 『え? 僕ニヤケてる?《モキリ》』 彰  「んあ? うぉおおおぁあっ!? ニヤッ……ニヤケどころか阿修羅面じゃねぇか!     おいおいギャルド目ぇ大丈夫か!? これがニヤケってどうかしてるだろ!」 ミア 「えぇ!? ち、ちち違うよ! だってさっきまでニヤケ顔で……ぇええ!?     なんで!? なんでそんな顔になってるの!?」 カイ 『あの……今思いきり、顔に細工してましたよね……』  一部始終を見ていたカイだけが、静かにそうツッこんでおがったとしぇ。  しかもしっかりそれを聞いてたギャルドがぷんすか怒って、俺と彰へ怒りをぶつける始末。 ミア 「じゃあじゃあ、わたしがミアンドギャルドなら、カイはなんなの!?」 魔王 『地界でカイって言ったら歌って踊れる聖騎士だろ』 彰  「ドルアーガ〜なんてありきたりな答えなんざ俺達は望んじゃいない。     大事なのは答えがいかに一部の人にしか伝わないか、だ。     その一部が理解するからこそ、そこに貴重性というものが生まれる。それが絆だ」 魔王 『というわけで結論だ。     “スーパーロボカイセカンド2ダッシュ! デュアルレベル99発進!”』 彰  「それ聖騎士違いでカイ違いだろ!! しかもロボだし!!」 魔王 『俺、刻の大地すごい好きだったよ? あの独特の雰囲気が特に。     他人の意見なんてどうでもいい、打ち切りになったのが残念な漫画だったさ。     作者が描けなくなったってのが痛恨の一撃だったわけだが……ああ残念』 彰  「いや……もっともなこと言ってるつもりなんだろうけど、     全然噛みあってないからな? カイの話はどうなった」 魔王 『長ったらしいからカイでいいや』 ミア 「えぇっ!? じゃ、じゃあわたしも」 魔王 『ああ。悪かったな長ったらしい名前にしちゃって。     これからもよろしくな、ギャルド』 ミア 「うん! ……あれ?」 彰  「悪かったな、えと……ギャルド?」 ミア 「あれぇええええっ!!?」  こうしてミアンドギャルドはギャルドへと元の鞘に戻った。  もったいないなぁ、長かったとはいえ、いい名前だったのに。 彰  「んで、結局ブレイバーになった俺達はなにすりゃいいんだっけか」 魔王 『おうそれよ。まず三国の王である三人……     レバイアタンやケバイノーやジジーソンと会うのは難しい。     そのために必要なのがライセンスのランクである。     異界転移書なんてものは、そりゃあもう高位技術だろうからね、     それを調べるために城の蔵書見せてくれ〜って言おうものなら、     我らのような平民なんぞは門前払いよ』 ミア 「あ……そっか。ランクを上げれば通れる場所も増えるから───」 魔王 『うむ、そういうことである。つまりランクを上げて王城に堂々と入って、     金銀財宝かっぱらってウエフェフェフェフェ……!!』 彰  「おぉおい! 途中で目的変わってるだろ!     思いっきり変わりすぎてるだろそれ!!」 魔王 『え? だって僕、べつに地界に戻れなくてもいいし。     そりゃね? あんなことがあったあとだから空界に居るのってヘドが出るよ?     もうこんな緑溢れる場所ってステキーなんて考えもブッ飛ぶほど。     空界人なんて皆死ねばいい……とか言えるね。以前の俺なら』 彰  「へ? 以前? つーか解らないことだらけなんだが」  何百、何千年とひどい目を見てきた。  空界人皆殺しの対価としては十分すぎるどころかおつりが欲しい。  欲しいが、生憎と俺は生きてて相手は死んじまってるんだ。  生きてる人間と死んじまった人間。咎を負うのは、生きてる野郎の役目だろ?  殺しちまう前の俺だったら、あんな目に遭えば空界人なんて死んじまえばいいって平気で言えた。  や、今でも言うだけならタダだから、隣にギャルドが居ようが平気で言えるけどね?  ウォッホン、閑話休題、と。……なんだっけそれ。まあいいや。 魔王 『解らんでよろしい。それよりランクアップを目指そう。     戻るためには順序が必要だしね』  どうせサーフティールに行ったところで、誰も俺を覚えてやしない。  まったく知らないヤツにゲートを使わせる馬鹿は居ない。  だから結局、これは必要なことなのさ。  ……晦の工房を開けて、ルナ子さん押しのければさっさと行けそうだけどね。 魔王 (でも……そだな)  元気でやっているか。  それだけ見るのも、悪くないかもしれない。 男  「では、お会計が3万$になります」 魔王 『カードで』 ミア 「そんなシステムないよ!?」 魔王 『フッ……馬鹿め。このカードを見てみるがいい。     これを見てもまだそんなことが言えるか?』 ミア 「…………? なに、これ。見たことない……」 彰  「……? ───!? な、なぁあああーーーーーーーーーーっ!!?     これっ、これはっ! これは伝説の───!」 魔王 『そう! 伝説のカード! “OH!MYコンブ”の会員証だーーーーっ!!』  どうだーーっ!と突き出して見せる!  素晴らしい! なんと素晴らしい! 相手は呆れてるけど! 男  「…………いや、どうしろと?」 魔王 『3万の価値あり!』《どーーーん!》 男  「ありませんよそんなもの!!」 魔王 『ゲゲェすげぇ正論だ! とても言い返せん!!』 彰  「納得しちゃったよこの猫!」  いやでも……実際500〜700円程度の価値だった気がするし。  ふむ、しかしどうしよう。  金は……うん、あるけど、M$じゃあ店の人がお釣り出せなかったから、防具買えなかったんだもんなぁ。 魔王 『ならば店主よ。この甲虫の紅玉はいくらで買い取ってくれる?』 男  「へ? 甲虫の紅玉? まったまた、数万に一個しか採れない、     しかも採取が難しいって言われている紅玉がそんなホギャアアアーーーッ!!?」  あ、腰抜かした。 男  「こっ……ここここっこっ……こここ甲虫の紅玉ァアアーーーーーッ!!?」 魔王 『や、コウギョクァーって叫ばれても』 男  「譲ってくれ! 全財産くれてやる!!」 魔王 『フン断る』 三人 『自分から振っといて断ったァアーーーーッ!!!』 魔王 『ホレ、代わりにこれをやろう。ありがたく頂戴するがよいぞ?』  ゴシャッ、と創造したブツを渡す。  と、男は困惑顔でそれを見下ろし…… 魔王 『カップ焼きそば“俺の塩”だ』  ゴシャーンと地面に叩きつけた。 魔王 『ああっ! なんてひどい! 日清に謝れてめぇ!』 彰  「あれマルちゃんだぞ?」 魔王 『ゲッ……!? え、えややっ……!? ししし知ってたよ!?     知ってたもん! ななななに言ってんのジョークだよ今の!』 ミア (素で間違えたんだ……) カイ (あー……今のは素で間違えたんだろうなぁ……) 魔王 『ククゥ〜〜〜ッ』 彰  「ムウウ〜〜〜ッ」  恥ずかしさのあまりにカオスチックに睨むと、きちんとマンターロチックに睨み返す彰。  ……ほんとにこいつ、十数年前に生まれたの? 過去の知識持ちすぎでしょう。 魔王 『そんなわけなのでM$硬貨で支払いたいんだけど、お釣りある?』 男  「あるわけないでしょう!?」  そりゃそうだった。9997万お釣りくれっていったって、ホイと出せるわけが無い。 魔王 『困ったことにM$しかないんだよね。あるのはA$とかB$ばっかだし。     じゃ、どっかで両替してくるから貸しにしてもらってていいかい?』 男  「仕方ないでしょう、この場合。     では何か質として預かっておきます。こちらも生活がかかっているので」 彰  「何かって……なにがいい?」 魔王 『解った。じゃあ彰くん、装備してるもの全部脱いでここで待ってて?』 彰  「ガーデンブルグで人質にされるトルネコさんかよ!!     い、いやだぞ! Sagaで別れることを拒む野郎どものように頑なだぞ!?     声を大にして唱えるぞ!? オレはいやだぜ!!」 魔王 『魔界塔士Sagaまで知ってるのか……ほんとにこのお子は……』 彰  「や、なんか屋敷の屋根裏に隠し部屋があってさ。     そこにゲームやらなにやらがごっさりと、     時間を止めた状態で保存されてたんだわ。     それやってるうちにどっぷりハマって、こうして無駄知識が。     ちなみに昔のジャンプとか、     サンデーマガジンチャンピオンもあったから、全部熟読した。     もちろんゲームの攻略雑誌とかもだぞ? 百魔道士ガーサは笑ったなぁ」  ……彰利よぉ。  お前はなんつーもんを時間冷凍保存しとるんだ……気持ちは解るけど。 魔王 『やってみたゲームで気に入った技とかってあった?』 彰  「ロマサガ3の黄龍剣。アレ滅茶苦茶気に入った」  ああ……解るわ。  龍神烈火拳もいいけど、あの剣をシャキィンと回転させてからぶった切るのは素敵だ。  俺や晦が使うのは、構えこそ同じだけど“黄竜剣”だしなぁ。龍と竜の違いね? 魔王 『じゃあ男よ、彰を置いてくね?』 彰  「っておいィ!? なに勝手に決定してるわけ!?     そこまで一方的な行動がマッハだと、     俺の怒りが有頂天に達するのは確定的に明らかだぞ!?」 男  「ていうか私の認識“男”ですか!?     ガラム=マッサラーって名前があるんですが!?」 魔王 『インド!』 彰  「ガラムさん、インド!!」 ガラム「なんですかインドって!」  特に意味はないね、うん。 ミア 「ううん……出会ったばっかりだけど、早速猫さんの異常さについていけない……」 カイ 『大丈夫ですよミアさん、それは僕も同じですから……』 彰  「こんなもんはノリでいけばいいんだって。     楽しもうって気持ちがあるなら、     自分の奥底から湧き出した生きる目的を惜しげもなくひけらかす。     あとは、相手がそれを受け入れてくれるかどうかだろ。     人の付き合いなんてそんなもんで、俺はそれで孤立したけど後悔はしてないぞ」 魔王 『そうそう。信じた道を突き進み、     そんな道もいいなって頷いてくれるヤツと永劫に馬鹿をやる。     それが“楽しい”を探すってことだといいね!』 彰  「ハッキリしないやつだなお前……」 魔王 『だって感性なんて人それぞれだし。ボカァ我が道突き進むド外道だけど、     みんながみんなド外道ってわけじゃないなら押し付けるわけにもいかん。     からかうのは好きだが…………うむ』  今になって思い出す、小さな背中があった。  俺は何も思い出せないままにその子と別れ、彼女もまた───……でも、意思だけは。  なんか心がしんみりしちゃったね。  いいや、これを機に少しだけ真面目な話をしようか。 魔王 『どう足掻こうと、立派な大人にゃなれねぇってことだな。     人の感性がそれぞれだっていうなら、     どんな性格のいいヤツにも相性の合わない相手が居る。     そうなれば、万人にとっての良いヤツなんてのは……存在するわけないんだよな。     だから小さな衝突から争いが起きて、     争いが広がって、意見の食い違いがそれを大きくして……』  ただ、小さく願う。  もう離れてしまった相手のことだけど、あいつらが幸せじゃなくても笑っていられますようにと。  だから胸に手を当てて、目を閉じて……この場の誰にも聞こえない声で呟いた。   たとえいずこにあれど、ゆかしき喜びが、あなたとともにあらんことを、と。  桃園の誓いも今は過去。  文字通りの過去って外史に置き去りにし、俺は今この世界に居る。  義兄妹の契りを交わし、ただ“ともに生きる”を誓った。  そんなものが無かったことになり、みんなと別れ…… 魔王 『彰や』 彰  「へ? な、なんだよ」 魔王 『俺は、貴様に立派になれなんて口が裂けても言わん。     なりたい大人にお前はなれ。     先祖のあとを追うのもいいし、それ以外を目指すのもいい。     外道に生きたって構わないし、殺人鬼になろうが俺は祝福しよう。     だからな……せめて、“自分が笑っていられる世界”を生きろ。     それが、あいつらと一緒に笑ってられた、俺から言える言葉だよ』 彰  「…………あんた……」 魔王 『……よく産まれてきてくれた。産まれてきてくれてありがとう。     自分を思い出せた時、近くに居た人間がお前で本当によかった』  ……なんとなく解ってる。  “おまじない”が解けたのは俺だけだ。  だからきっと、俺は永遠に繰り返すのだろう。  出会いと……再会を。  こんな弱い気持ちで感謝をぶつけるのも、そんな恐怖を覚悟として受け止めるため。 魔王 (……大丈夫だよ、ばーさん。もう、ずっと悪を続けてきた。     俺はさ、もう今更……正義の味方なんかになりたくないんだ。     ずっと悪を続けていく。ずっと全てを、俺が持っていく。だから……)  もう一度、胸に手を当てる。  猫のままだからヘンな格好になるけど、それでも当てて……いつかばーさんに教えてもらった魔法を、何度も、何度でも繰り返して、これから自分に降りかかる怖さも悲しみも、覚悟にして受け止める。 魔王 (勇気をください。永遠を生きる勇気を。     自分が受け取った全てが死んでゆく様を見送る勇気を。     勇者になんてなりたくない……覚悟の魔法で固められた魔王で居るために)  ……少しだけ、手が震えた。  だけどそれも一瞬だ。  全部を飲み込んで、俺は彰を見上げた。  妙なポーズで固まっている俺を不思議に思っていたんだろうか……そんな彰にニカッと笑ってみせる。 魔王 『お前の先祖は立派なやつなんかじゃあなかった。     でも、親友のために頑張れるヤツで、     守りたいものを守ろうとする馬鹿どもでもあった』 彰  「……ああ」 魔王 『でもな、だからってそれが眩しいことだって決め付けて、     そこを目指したりはするな。お前は何処までいってもお前であれ。     そうすりゃ……“お前の道”がどんなものだろうと、     俺もあいつらも胸張って誇れるよ』 彰  「それが殺人鬼でもか?」 魔王 『───おう、誇ってやる。こんな話、知ってるか?     百と何年か前、空界で惨殺事件が起きたんだ。     空界に生きる人間は、老若男女問わず、そのほぼが死に絶えた。     なにが原因だと思う?』  チラリとミアを見て言う。  ミアは少し困惑しながらも……恐らく文献かなんかで知ったのだろう。  「地界人に殺されたのが原因」と言った。 魔王 『そ。で、殺したのは俺だ』 ミア 「───!?」 カイ 『え……なっ!?』 彰  「…………マジかよ」 魔王 『大マジ。でも、なんだかんだで仲良くやってるよ。     ひどく特殊な例だろうけどね。だから、これは経験者からの忠告』 彰  「お、おう……なんだ?」 魔王 『やってはいけないことをやっちまった時は、     誤魔化さないでいっそのこと受け入れちまえ。     それが人を殺したとかそういうのだったら余計にだ。     殺しておいて俺はやってない、故意だったのに事故だって言い張るんじゃあ、     殺された相手がいつまで経っても浮かばれない。     しでかしたことは背負って受け止めて抱いて、一緒に持っていけ。     いつかそれらが生かされる時がくるかもしれないって、     気休め程度にでも思いながら』 彰  「……あんたはそうやって生きてるのか?」  ふむ?  俺……俺は……そうだなぁ。 魔王 『俺は常時進化している。考え方も常にゴワゴワと。     楽しいのが好きで、うどんが好きで、あんぱんが好きだ。     辛い時は素直に辛いって言うし、面倒な時も面倒だって言うなぁ。     でも……泣きたい時に泣ける自分には、     きっといつまで経ってもなれないんだと思う』 彰  「………」 魔王 『しでかしたことが生かされるのなんて、まだまだ先のことだって思ってるよ。     全部背負って全部抱いて、全部覚えて。     いろんな経験を積んでもまだ、経験し足りないことなんて山ほどある。     それでもな、笑う門にはちゃあんと福ってのが来るって、勝手に信じて生きろ。     家系の言い伝え通りに孤独を味わうことになっても、     くそったれな人生を生きることになっても、     世の中に向けては笑えなくても、自分自身では笑える馬鹿になりなさい』 彰  「馬鹿に……?」 カイ 『それは……人を殺して笑っていろって意味ですよね?     貴方はそれで、胸を張って生きていられてるんですか?』  カイが言葉を投げてくる。  それに対し、きちんと胸を張って頷いてやった。 魔王 『ずうっと落ち込みながら生きていくなんて、やってられない。     殺してしまったから自分も死のうなんて、それこそ冗談じゃない。     償う方法なんてものが存在しないなら、せめて自分らしく生きるのさ。     だから、殺人鬼になっても祝福してやる。お前がその生き方を誇れるなら』 ミア 「じゃあ……誇れなかったら……?」 魔王 『その時の感情に任せる。殴るのか、それとも呆れるのか。     あ、でもな。勝手な理想を押し付けて殴ることだけはしないから安心をし。     俺はお前があいつらの子孫だからって、そこをそうしなさいとは言わん。     貴様が貴様らしくあれば、俺ゃあそれでいいと思っている。     だからハイ、人質になって?』 彰  「結局それかよ!! なんだったんだよ今までのしんみりした空気!!」 魔王 『や、だってほら、急に店の中でシリアス始めちゃったから、     インドも困ってるし』 ガラム「ガラムですってば……」  うむ、しんみりよりも賑やかが好き。こんにちは、博光です。 カイ 『随分と勝手な思考の持ち主ですね……』 魔王 『悲しいよりも、楽しいを探したいお年頃なのさ。未来永劫ね。     まず、生きてみろ。彰は無理かもしれないけど、     創造の精霊であるお前なら、千年も生きれば見えるものくらいあるさ』 カイ 『せっ……!? あ、あの、貴方は一体、どれくらい生きて……?』 魔王 『ほぼ四千年になる。     これでもかつて3428歳だったヤムベリング=ホトマシーより上よ?』 カイ 『四千!?』 ミア 「えぇええええーーーーーーっ!!?」 彰  「うぇっ……ま、マジでか!?」 魔王 『うむ。この博光、この空界と同じ時間を生きている』  俺達と初めて会った時の年齢が3428歳だった筈だから……まだしぶとく生きてるなら、三千五百なんぼの年齢か。  今なにやってるんだろうな、ベリッ子さんは。 魔王 『千年の寿命で延びた寿命は千年きっかり。     ヤムベリングやリヴァイアさんみたいに寿命を体に刻み込んでるわけじゃなく、     飲んだだけからそんなもんだ。でも、生きる時間は永遠。     出会いと再会を繰り返す記録者ってヤツだな』 カイ 『……? 出会いと再会って……当たり前のことじゃないですか?』 魔王 『はっはっは、もし永遠を生きることになったなら、お前にも解る時がくるよ。     旅ってのは出会いがあってこそだ。     それがいつか再会しかしなくなったら、そこで旅は終わるんだよ』 カイ 『再会しか……? あの、意味がよく……』 魔王 『解らんでもよろし。そんなわけで、M$硬貨を一枚置いていこう。     両替したら交換しにくるから、それまで預かっておいて』 ガラム「へっ……は、はいぃっ! そりゃあもうっ……!」  ピンッと弾いて、M$硬貨をインドに渡す。  ……おお、上手い具合に届いてくれた。  カッコつけて弾いたはいいけど、なにせ猫の手だから届くかが不安だったのだ。 魔王 『持ち逃げしたら、地の果てまで追いかけて絶望をくれてやりますから。     ちゃあんとここで待っててね?』 ガラム「持ち逃げなどとんでもないっ!     ものを売るものとして、それだけは絶対にしませんよ!」 魔王 『うむよろしい! じゃあ行きましょうか皆様』 ミア 「行くって……M$を両替してくれるところなんて、あるのかな」 魔王 『学院とか王国とか、探せばあるだろ。     その途中でモンスターでも狩って、ランクを上げればいいさ』 彰  「モンスターでも狩って、って……随分軽く言うなぁ。     リザードマン相手でも勝てなかったぞ俺」  そりゃあなぁ……初めてまともに戦う相手がリザードマンじゃあ分が悪い。  ランクから言えば雑魚の分類だが、剣を持たせたリザードマンはほんとに怖い。  モンスター自身が剣を持つこと自体が珍しいってこともあるけど、それにしたってあの剣捌きは見事だもの。  まあそれはそれとして。  そんな話をしながら、インドに軽く手を振りながら小屋をあとにした。  向かう場所を適当に決めながら、やっぱり雑談混じりに。  そんな中でふとカイが静かに話し掛けてきた。 カイ 『……疑問があります。     貴方は何故、僕らに自分が殺人を犯したことを話したんですか?』  それは至極尤もな質問だった。  何故……何故か。  軽く考えてみて、答えなんてものを探してみたが…… 魔王 『んー……あのさ。     お前はそうやって質問を飛ばして、答えだけを聞ければそれで満足か?』 カイ 『え……? や、だって、それは』 魔王 『俺がここで美談を話して、それに妙な説得力があれば納得するか?     俺はイイヤツに違いないって納得して、ずっと一緒に居るか?』 カイ 『あ……えと、それは……』 魔王 『結論から遠ざけて言えば、俺はただの外道で道化の元人間だよ。     美談なんてそこには含まれないし、     どっちかって言えば嫌われるように振る舞ってる。     そんなわけだから話ましょう。どうするかはそれから決めなさい』  そっちの方が、俺も気が楽そうだし。  ではえぇと、どう話したもんか。説教はされるのもするのも好きじゃないんだが……ううむ。 魔王 『えーとな。さっきは先祖があーだから、     お前はこうあるべきだなんて言わないなんて彰に言ったが、     根っこを掘り返してみれば俺の勝手な言い分だ。     自分の汚いところをさらけだして、それでも一緒に居てくれるならいい。     外道と受け取って嫌悪して、地界に戻るまで利用するのでも構わない。     俺が空界人惨殺事件の犯人であることを口にしたのだって、     そうすることでお前らからもっと遠慮が無くなればいいって、     勝手に思ってやっただけのことだし』 カイ 『……貴方は……そんな寂しい生き方を、ずっと続けるつもりですか?     いろいろなものに誤解される生き方を……自分自らそうなるように振る舞って。     ずっと、そうやって生きていくつもりですか?』  あら……可哀相なものを見る目を向けられた。  が、そんなもんはもはや慣れっこだ。  俺は溜め息を吐くでもなくニカッと笑い、返してやった。 魔王 『当たり前だ。だって博光ですもの。俺が俺である限り、俺の道は俺の道。     今更償って死ねとか言って攻撃してくる野郎が居るなら、     逆に殺してでも生きるぞ俺は。     俺が死ぬことが償いになる? ワハハ、冗談ではないわ。     そんなもんは生きてる者の勝手な都合だ。     残ったヤツらが俺を殺してうさばらししてぇだけじゃねぇか。     死に対する償いなんてありゃしないよ。     そいつの分まで生きるなんて、肩が凝るようなこともしたくねぇ』 カイ 『っ……貴方はっ……! それは本気で言っているのですか!?     いくら外道だどうだと口で言おうが、それは───!     元人間だったのでしょう!? 命を奪うことや償いを勝手な都合だなんて!』 魔王 『……だから、忘れない。ずっと覚えて、殺した感触も忘れない。     真っ赤な景色も直さず、永遠にこの赤とともに生きていく』  四千年経っても赤いままの景色。  罪の意識がそうさせているのかなんてのは解らない。  それでも、直せるのだとしても直さないで生きていく。  謝ることはしないし、後悔なんていまさらだ。記録者としてずっとずっと覚えていく。  それぐらいしか出来ないし、するつもりもないんだから。  猫として生きて、殺した数だけ十分殺されたって思ってる。  それでも足りないなら、人は平等なんてものを謳うべきじゃあねぇのさ。 魔王 『0歳のガキには解りゃあせん。     人に説教くれる前に、もうちょい世の中体験してみろ。     世の中の汚さ、人の醜さ、理屈のくだらなさ……いろんなものを経験して、     それでもまだ同じことが言えるなら───俺は、心の底からお前を尊敬する』 カイ 『…………そんな……』 魔王 『同じ人間だったのに、同じ種族を悪く言うなんてって思うだろ?     世界の在り方だってそうだ。     故郷である地界を、そこで育ったヤツが空気が汚いだの嫌なことばかりだの、     けなしてばっかりなのは悲しいことだって思うだろ?     でもな、そんな世界じゃなければ、そんなことを思う必要なんてなかったんだ。     そんな世界にしたのが人間で、そう思ってしまったのも人間なんだよ。     故郷を良く思うのは立派だ。でも、その物差しでは、俺達を計らないでくれ』  俺達は立派でなんてなかった。  日々を不満だらけに過ごして、だけど楽しいことを楽しいと笑いながら生きた。  何処で何かが起きても「へぇ」とか思うだけで、遠くの誰かが死のうが「そっか」で済ませてばかりだ。  自分の周りのことには敏感なくせにな。ほんと、勝手だ。  でも、じゃあ何が出来るのかといえば、せいぜいで募金程度だ。  僅かな募金で救える命がありますとどれだけ言われようが、我らは買い物のあとのお釣りをチャラリと募金箱に入れるだけ。そのあとその金がどう使われるのかなんて知らんのだ。  金を渡したら、あとは他人任せ。そうすることしか出来んと自覚しております。  探せばやれることなんてあるだろうけど、探す気があるわけでもない。そんなもんだ。 カイ 『では、貴方の物差しは、人の生き方につべこべ言うほどの力があるんですか?』 魔王 『え? ないよ?』 カイ 『なっ……!?』  まあ、そんなものは無い。  誰もが勝手であるように、この博光とて勝手よ。 魔王 『俺は故郷を追われた身だしねぇ。助け舟が無ければそのまま死んでたよ?     誰かの助けがあって初めて、ようやく生きていられるようなことが何度もあった。     そんな世界を良く思うなんて、俺には無理だったんだよ』  楽しいことはそりゃああったさ。  子供の頃はそれなりに楽しかったし、原中時代なんてそれこそだ。  でも、家族が亡くなって一人になって、残ったものといえば多少の思い出と、人の汚さに対する絶望ばかりだった。  あそこでもし晦たちと友人でなかったら? 空界っていう住む場所がなかったらどうなってた? 他の世界の助けも無しに本当に生きてこられたなら俺だって胸を張っていられた。  綺麗なのは思い出ばっかりで、歩んできた道なんてのは実際ひどいもんだった。 魔王 『だからね、俺にはその物差しを向けないでほしいのだ。     もちろん、我が内に宿る意思全てにも。     結局、いろんな世界のお陰で俺達って生きてるからさ。     でも、だからって故郷を悪く言うこたぁない。そりゃそうだ。     だから、感じたことをきちんと言う。空気が汚いのは事実だ。     空気清浄機なんてものが発売してる時点で、     そういうふうに認められてるってことだろ?     それと同じように、俺がいくら謝罪したり償おうとしたりしたところで、     “俺が人を殺した”って事実はどう足掻いても消えないの。     それは償ったんだからとかそーゆー次元の問題じゃなくてさ。     殺したんだから、殺人犯なんだよ。そういうふうに出来てるんだ』  だから、と。  トトンとカイの肩に上って、その頭をテシテシと叩く。 魔王 『覚えとけ。償いなんてのは本人同士の自己満足だ。     殺した事実は変わらないし、死んでしまった相手が生き返るわけでもない。     許すか、許されないか。ただそれだけの問題だ』 カイ 『けど、償おうとする姿に心動かされる人だって───』 魔王 『ふむ……で? それが自己満足以外のなんだってんだ?     心動かされたから、“あいつのためにも絶対に許さない”って思いを無くす?     それのどこに“あいつのため”がある』 カイ 『! え、あ……』 魔王 『死人はなにも語れんよ。そして、他人がどうあれ俺は生きる。     永遠に殺人鬼って言われたって、時効になろうが事実は事実だ。     軽蔑してくれて構わん。恨まれるのも殺意を向けられるのも慣れっこだ。     償わない代わりに永遠に恨まれる覚悟も出来ている。だがな、カイよ。     もし仮に……たくさんの人を殺さなければ自分たちの未来がないって時。     お前ならどっちを選ぶ?     たくさんの見知らぬ誰かか、心から大切だと思える仲間の未来』 カイ 『それは……』  嫌な選択肢を並べてみる。  それは、かつて自分も選ばなきゃならないものだった。  仲間……晦たちを取るか、たくさんの見知らぬ人……仲間以外の見知らぬ人を取るか。  俺の場合は、仲間かルドラかだったんだろうけどさ。  もうちょっと心にやさしい選択肢が欲しかったね。  お陰で僕、散々だったよ。 魔王 『俺は仲間を選んだよ。結果がこの姿だ。     選んだ仲間全てに忘れられて、     この四千年のほぼを人間どもの実験体として生きてきた。     ……仲間を選ばなかったらどうなってたんだろうな。     俺はそこで、笑ってたと思うか?』 カイ 『………』 魔王 『……それでいーよ。解るわけがないんだから、沈黙が正解だ。     俺はこっちを選んだ。だからあっちの結果なんか知らない。     選択肢ってのはさ、そーゆーもんだろ?     戻りたくても戻れない。     戻って修正しても、“自分の未来”が変わってくれるわけでもない。     俺達ゃそういう世界に産まれたんだ。     いくら常識を破壊したって、それだけは変わってくれないんだ、仕方ない』  カイの肩に腰を下ろしながら、空を見上げた。  ……変わらず、自分が自分であることを思い出してからは真っ赤なソレを。  どれだけ自由奔放に生きたところで、この赤が自然に消えることは絶対にない。  でも、だからって、この赤の世界を直さないことが償いになるだなんて思っちゃいないし、ただずっと忘れないための戒めだってことくらい、自分で認識できている。  っていうより、多分直らんぞこれ。だって俺、絶対に忘れられないと思うし。  記憶が戻る前は普通の景色だったんだから、精神からくるものだろうし。 魔王 『で? 貴様はどうする? 俺をパーティーから外すか否か』 カイ 『………』 魔王 『これは元々貴様や彰やミアの旅だ。     彰の理力がお前に流れて、彰はそれを取り戻したい。     彰自身の目的は地界に帰ることで、お前やミアはそれに同行している。     俺が一緒に行く理由はゼロに近いし、必要とあらば俺は去ろう』 カイ 『………』 魔王 『思った通りに言ってみろ。今だけは、お前の決めた通りに動いてくれよう、ぞ』 カイ 『………』  …………あ、あらだんまり?  返事ないと寂しいのですが? カイ 『ひとつ、聞かせてください』 魔王 『む? うむ』  と思ったら反応。  きょとりとしながらも返し、続く言葉を待った。 カイ 『何故、空界人を殺したのですか?』  そしたら……当然の質問が飛んできましたさ。  あっちゃああ……よりにもよってそれですか。  だがOK答えよう。 魔王 『地界人は洗脳に弱いって知ってる?』 カイ 『はい? あ……あ、はあ、知識としてだけならばですが』 魔王 『そか。まあ、そういうこと。     俺は当時、仲間の中でも異常であるほどの武具好きシャイボーイだったのだ。     もうね、いつもいつもツンデレ怒りで頬を染めるほどのシャイっぷりさ』 カイ 『いえ、シャイについてのお話はいいです』 魔王 『え……あ、そ、そう?』  何気にショックだった。 魔王 『ある日ね、敵さんの精霊に殺されかけたんだわ。     13体の精霊に、それぞれの武器で体を突き刺されて。     でもまあ生きてて、突き刺さったままの武器を手に入れて、     ステキな武器を手に入れたって喜んだもんさ』 カイ 『あの、ですからシャイとか武具の話は───』 魔王 『でも、その武器は合成させると、とある仕掛けが発動するようになってたんだ。     その仕掛けってのが洗脳で、下された命令が空界人のほぼを殺すことだった』 カイ 『え───』 魔王 『実の娘の友達まで殺して、     仲間のもとに戻った俺を待っていたのは、仲間からの拒絶だったよ。     それがきっかけでみんなは俺のことを忘れて、     当時妻だった麻衣香も、娘だった紀裡も、別の男を夫や父として見てたよ』 カイ 『そんな……』 魔王 『解るかいカイくん。たとえ洗脳されようがどうしようが、殺した事実は消えない。     “洗脳されてたから殺すことを止められませんでした”で償いになるか?     そんな理由だってのに懸命に誠意の心で償おうとして、誰が納得する?     許しなんて求めたってどうにもならないことだってあるんだよ』  謝ってもらえれば救われる人だってそりゃあ居るだろうけど……その謝られるべき人までもが極僅かだったんだ、仕方ない。  謝りに行ってりゃ殺されてただろうし、死ぬわけにはいかなかった。 魔王 『ま、そんなわけだから。俺が空界人を殺した理由は解ってもらえたね?     それを理解させた上で問おう。俺にどうしてほしい? 去ってほしい?』 カイ 『…………』  ノートン先生の真似をして、それを理解させた上で〜とか言ってみた。  最初の頃、結構言ってたよね。やあ懐かしい。  で………………あの、答えは? 魔王 『カイ?』 カイ 『…………決めました』 魔王 『決め? ……お、おお、俺にどうしてほしいかね?     さ、さあ山岡くん! 説明してくれるね!?』 カイ 『僕が勇者になり、その間違った性根を叩き直してあげます!!』 魔王 『うわーいさっぱり意味が解んねぇーーーっ!!』  なに!? 今の会話で何故そんな答えが!?  もしやこいつ……頭が愉快な人!? カイ 『貴方の理屈では誰一人救われない!! 特に貴方が救われない!!     だから僕が貴方を救う勇者になる!』 魔王 『他にも救われてない人山ほど居るよね!? それら完全無視!?』 カイ 『大して知りもしない大多数など勇者は気にしません!!』《どーーーん!!》 魔王 『ゲゲェすげぇ勇者だぁあーーーーーっ!!!     俺が言うのもなんだけど貴様それでいいの!?』 カイ 『貴方が言ったんじゃないですか! 感性などそれぞれだと!     そしてこれが僕にとっての勇者像です!!     僕は僕だけの正義のために動く勇者になる!』 魔王 『ならば俺はその正義を打ち砕く悪となろう!!     ……クックック……上って、こられるかな……?』 カイ 『貴方を救うための正義を貴方が打ち砕いてどうするんですか!!』 魔王 『え? ど、どう? どうって………………どうするんだろう』  解りませんでした。  そしてあっさり白い目で見られる僕。  つーかいつの間にか彰が混ざってて、本当に白目で見ていやがりました。 彰  「さっきからなにギャースカ騒いでるんだ?     楽しい話なら俺も混ぜろ」 魔王 『うっしゃっしゃっしゃっしゃ、ねぇねぇみんな聞いてよ〜!     カイくんってば勇者になりたいんだって〜!』 彰  「勇者? へぇ……」 ミア 「もうブレイバーだよ?」 彰  「いいやミア助、こんなプレートぶらさげてなる勇者じゃない……。     カイはきっとホンモノの勇者を目指してるのさ」 ミア 「本物の……勇者?」 魔王 『う、うむ……! その勇者、地面に落ちた剣を握りて、     跳躍とともに“勇ぅうう者ぁああーーーっ!”と叫び剣を振るう───』 彰  「ワンダープロジェクトJじゃねぇか!!」 魔王 『それまで知ってるの!?』 カイ 『いえ……あの……』  本人そっちのけで騒ぎまくりました。最強。  やっぱりね、ぐちぐち喋るよりは賑やかなほうがいいよね。  でも、知っていてほしかったのです。一応いろいろと嫌な思いをしてきた先人ですもの。  産まれたばかりのベイビーに、この世はいいことばっかじゃないんですよと伝えたかったのですもの。  ……まあ、どれだけなにを教えようと、やっぱり世の中は人それぞれだ。  カイも勇者になる気満々になっちゃったし……でもそれ、勇者っていうより魔王チックな気が……ああうん、いいや。  カイにとってのそれが勇者なら、それは間違い無く勇者だ。  僕の理想が外道魔王であるように、彼の理想も外道勇者。  それでいいのですよね、きっと。 魔王 『あ、そうそう。彰ボーイやギャルドにも訊くけどさ。     僕こう見えても惨殺犯です。一緒に旅していいと思う?     嫌ならこれからは俺一人で旅するけど』 彰  「ん? べつにいいんじゃないか?     俺達まで殺す気でいるっていうなら別だけど。     俺べつに殺されたヤツの知人ってわけじゃないし」 ミア 「……わたしも。どっちかっていうと空界人嫌いだし」 魔王 『あれ? そうなの? ……うむ、ではこういう場面での恒例として訊こう。     同じ空界人なのに空界人嫌いなの?』  同じ世界の人だからって、好きじゃなきゃいけない理由なんて知らんけど。 ミア 「うん、嫌い。彰くんにはもう話したけど、私は……その。     マナを掻き集めて作られた実験体みたいなものなんだよ。     あ、作られたって言っても、     木に宿った魔力を千年の寿命として埋め込まれただけで……     わたし自身はちゃんと、お母さんの娘として…………多分、産まれた、んだよ」 魔王 『むう』  自信が持てない理由があるのやもしれぬ。  母から産まれた確信が持てぬやもしれぬし、それ以外の理由があるのやもしれぬ。  なんにせよ、視線を泳がせながら喋るギャルドを見るのは少々いたたまれぬわ。  そして、マナを掻き集めて作られたってのは……かつてのセシルと同じものだ。  空気中に霧散したマナを掻き集めて、埋め込むことで異常な魔力を持って産まれる。  その技術……技術って呼んでいいのかは判断に悩むが、そのために過去に生贄にされたのがセシルだ。  これは……見過ごせませんぞ? 俺の勝手な理由で。 魔王 (ふむ)  考えてみれば……そっか。  この世界には今、みさおちゃん……セシルの来世も、ゼットも居る。  かつて猫として生きた我輩アポカリプスは、今にして思う。  絶望から救っていただいたお礼をまだ言えていないと。  そかそか、そうだよな、だったら───この旅、けっして無駄にあらず!! 魔王 『俺決めたよ! これからは北斗の犬と呼んでくれ!』 彰  「なんでいきなりそんな話になるんだよ!」 魔王 『ノリである!! そんなわけだからやっぱ同行するね俺!!     たった今目的が出来た! そしてギャルドよ!     俺は俺の自己満足のためにも貴様の歩む道の補助をしよう!!』 ミア 「え? え? ど、どうして?」 魔王 『ノリである!! 理由なぞそんなもので十分よ!     ゲフェフェフェだから今更ついてくるなと言われても、     知ったことではないわグオッフォフォ……!!』 彰  「よろしくな殺人犯!」 魔王 『うむ! 殺人犯よろしくされる!』 彰  「うおおちっともショック受けねぇよこの猫!     あ、でもさ。これだけは訊かせてくれ。     あー……そのさ。べつに罪の意識がないとかじゃないんだろ?」 魔王 『当たり前だろ。見知らぬ人を大量虐殺してその場で笑えるほど、     コワレた意識の持ち主じゃないぞ俺は。     それまでフツーの人間として生きてきたんだ。     潰れなかったのは、やらなきゃいけないことがあったお陰だ。     立たなきゃいけない理由がなかったら、最後に絶叫した時点で完全に壊れてたよ』  だから、俺はあの時に“仲間”を選んでよかったんだって思ってる。  結果としてこんな姿だけど、それでもさ。 魔王 『じゃあ僕からも質問。我に別行動を命じる者は誰も居ないの?     ほんとにいい? ここまで暴露した俺は相当に遠慮無しだぞ?』 彰  「遠慮無いほうがやりやすいだろ?     って、そうだよな。じゃあ俺も自分のこといろいろ暴露するわ。     ミア助、この際だしお前も全部喋っちまいなさい」 ミア 「え……で、でも」 彰  「猫はきちんと喋っただろ? 殺人を犯した〜なんてこともさ。     それに比べりゃ孤独がどうとかなんてちってぇちっちぇえ。な、猫よ」 魔王 『フッ、当然よ。なにせこの博光も現在実体の友達一人もおらず状態だし』  意思にはたくさん居るけど、それを馬鹿正直に話すのってほら……ねぇ?  空想の友達を自慢してるみたいでとても遠い目をされそうで。  いやまて、それも面白そうだ。 魔王 『よっしゃー! ならばこの博光もとことん暴露してやるぜ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!』 彰  「の、望むところだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」 カイ 『……あの、僕は暴露するほど経験がないんですけど……』 彰  「私は一向に構わんッッ!!」 魔王 『むしろ産まれるまでに見てきたこととか感じたことを聞かせれ!     多少なりとも知識があるってことは、そーゆーきっかけがあったんでしょ!?     そうなんでしょ!? ならばそれを聞かせなさい!     もはや我らに遠慮の二文字は必要なし!!     全てを語り、許し合えた時こそ───僕らは仲間だ!!     まあ、許すも許さないもないけどね。互いに対する罪があるわけでもないし』  …………こうして、僕らはピクニック気分で自然満載の道を歩きながら、互いのことを話し合った。  小さな頃に恥ずかしい思いをしたとか、産まれる前に見た景色はずぅっと森の風景だったとか、ずっと城で一人ぼっちだったとか、猫になる前の魔王やってましたとか。  そんな話を散々として、やがて互いに話をする際に感じていたであろう緊張も無くなる頃、ふと彰ボーイが僕に訊ねた。 彰  「そういやさ。町に居る時にあんた、突然動かなくなったよな。     子供からアイス強奪したあたりだったっけ?」 カイ 『カブレライトビートルから剥ぎ取りをしている時にもですね』 ミア 「もしかして魔導兵器さんなのかな。定期的に一時停止しちゃうとか」 魔王 『し、失礼な! 兵器じゃなく猫だよ! 現在進行形で!     で、えーとそのー。僕のこの霊章の中には一つの世界があるって言ったよね?     そこに僕自身……まあ意思だけど、     それがもぐるとね、体を操るものが居なくなるから棒立ち状態になるんですよ』 彰  「あ、それでか」 魔王 『流れる時間自体が違うから、     長く遊んでようがこっちの時間じゃ一分程度のことだし、     そう長くは硬直してないと思うけど』 彰  「ヒロラインっていったっけ? そこにご先祖さまの意思とかも居るんだよな?」 魔王 『うむ。だが入れてやらねー! ヘンな影響受けて性格変わられても困るし!』 彰  「や、そりゃ同感だからいいけどさ。俺が勝手に憧れてるだけだし」  彰は結構物解りのいいお子でした。  ツッコミ入れる時は相当しつこいけど。  でも言われてみれば、棒立ちなのはちと怖いよね。  猫が二足で棒立ちだよ? これは……ちょっとした恐怖ですよ?  アイルーの意思でも浮上させて、行動を任せてみようか?  はたまた暇な誰かの意思に僕の本体を操縦してもらうとか。  猫として行動させるのもいいかなとは思ったが、生憎と猫と僕は同一物体。  猫の頃の僕に任せるなんてことは無理だ。  そうなると……ウーム。なにかの切欠で僕と猫が切り分けられるなら別なんだが。  いっそ月切力でズバーンと切ってみる? 僕と猫とを乖離させるみたいに。  デスティニーブレイカーを織り交ぜれば、案外容易く出来そうな気がする。 魔王 (………)  うん、却下。  もしそうなるんだったら、実際にきっかけがあってからでいいや。  僕が人間に戻るきっかけがあったとして、亜人とは違うからって意味で亜人と人間とを切り分けられた時とか。  …………アレ? そうなると僕ってフツーに人間の寿命で生きることになる? 魔王 (…………ま、いいや)  そうなったら、そうなった時に考えよう。 彰  「それよかさぁ、そろそろ腹減らない?」 魔王 『オッ……いいねぇ〜』 彰  「何がいいんだか知らんが、減らないって言っただけだぞ俺」 魔王 『オホホ、まあまあ。じゃあここらで食事といきますか。     貴様ら嫌いなものとかある? 今回はこの博光が料理当番を担当しよう!』 彰  「あ、俺キャベツだめ」 ミア 「お肉類はちょっと苦手かな……」 カイ 『脂っこいものはちょっと……』 魔王 『ワーオ誰一人嫌いなものがないヤツがいねー!     つーかカイてめぇ! 産まれたばかりのお子がなんばぬかしちょっとか!』 カイ 『い、いいじゃないですか、嫌いなものは嫌いなんですから!』 彰  「そーゆーてめーは嫌いなもんねーのかコノヤロー!!」 魔王 『え? 僕? ………………ホムンクルスが嫌いです……』 三人 『食ったの!?』  ええ、食べました……吐き気を抑えながら食いましたさ……闇鍋で。  その時のことを事細かに説明してやると、みんなの印象に“ヤムベリング=ホトマシーはホムンクルスを食用として扱っている”という認識が刻み込まれた。  ふう……いつかの借りはきちんと返しましたぞ、ベリーさん。 彰  「まさか食人鬼でもあったとは……」 ミア 「ホ、ホムンクルスって人間とあまり変わらないんだよね?」 カイ 『しょ、食感とかはその〜……ど、どうでした?』 魔王 『完成前の未熟児なものだから、バキベキと鳥の軟骨を噛み砕くみたいな食感……』 カイ 『すいません……聞いた僕が馬鹿でした……』 魔王 『馬鹿め!!』《どーーーん!!》 カイ 『そんなはっきり言いますか!?』  まあ、そんなもんです。  特に嫌うでもなく、それぞれの思いを暴露し続けた。  実際に遠慮は無くなっていって、ツッコミにも鋭さが増したというかなんというか。  ともあれ、これでようやく旅らしくなる。  あの時代からここまでで、どれほどモンスターが強くなったかは知らんが……グホホ。  様々な冒険を、これから体験していこうじゃないか。 魔王 『あ、そういえばカイくん?     貴様、元々剣なんだし、ラグナロクになれると思うんだけど』 カイ 『え……あ、はあ、それはもちろんなれますけど』 魔王 『ベネ! では貴様は彰の剣になるのだ! 俺はギャルドの武器になるから!     そうすれば敵を倒した時点で貴様ら二人にランクポイントが入ると思うし』 彰  「そう上手くいくかねぇ」 魔王 『ものは試しである! そんなわけだからギャルドよ!     僕が貴様をサポートするニャッY《テコーン♪》』 ミア 「歯を光らせて貴様って言われても、嬉しくないよ……」  まったくだった。 Next Menu Back