───“冒険”を取り戻すために───
【ケース07:第六天魔王(再)/モンゴルギャルド】  ユチャッ、ユチャッ、ユチャッ……ユチャッ。 魔王 『ギギギーーーーッ!!《カッ!》』  彰利の真似をして無駄に顔を輝かせてみた。  うむ、意味はまるでありゃーせん。  では恒例のアレで幕を開けよう。 魔王 『ここが水霊住まう洞穴の入り口ロックスフォールの滝か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!     どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!』  ザ・マスクドアラジン&ブキャナン。  意味はとくにないね。  そんなわけでロックスフォール。  相も変わらずバッシャバッシャと水があふれ出て、滝になっておるわ。 彰  「猫の肉球で、どうすりゃ“ユチャッ……!”なんて足音が鳴るんだよ」 魔王 『我が肉球は立体吸着ウェット仕様なんだ』 彰  「こえぇよそんな猫!!」  まったくだね、うん。  音はフツーに月奏力で奏でたわけだけどね。  いやしかし面白い。  今ちょっとランプレートいじくってるんだけど、なんかいろいろ機能があるみたいなの。  以前のプレート……ああ、晦が使ってたやつは、ただランクが上がるだけとか、アンテでバックパック解放とかそれくらい……だったよね?  これ、なんだかどっかと繋がってるみたいで、クエスト受注とか出来るみたいなの。  ……すごいね、技術。 カイ 『それであの……こんな場所まで来て、いったいなにを……?     大きな町はここらにはないと思いますが……』 ミア 「だよね。ここはえぇと、ロックスフォールの滝……だよね?     古い地図しかないからハッキリ言えないけど」 魔王 『うむ、精霊ウンディーネが住まう鍾乳洞の入り口、ロックスフォールである。     いやね、ちょっとここで貴様らに戦いに慣れてもらおうかと』 彰  「戦いに?」 魔王 『ウムス。剣を持ってたから仕方ないとはいえ、     リザードマンに勝てんようではこの先死ぬだけです。や、冗談抜きでね?』 彰  「ま……マジでか」 魔王 『空界と狭界が融合して久しいしね。     幻獣もモンスターも溢れ放題の今、地界の月の家系の力なんて下の下。     至高魔導術師くらいの力量がないと、グリフォンにすら勝てん』 彰  「……俺にはその強さの基準がよく解らん」  基準は……だって、特に思い当たらんし。  弱いと思った相手も滅茶苦茶強かったりするから、案外気が抜けないんだよね。 魔王 『そんなわけだからカイボーイ!     まずは剣になって彰ボーイの武器となるのデース! ワーオ!』 彰  「なんでそこで遊戯王のペガサス口調になるんだよ……カイ、頼んでいいか?」 カイ 『う、うん、それは構わないけど───』  促されたカイが目を閉じると、光に包まれ───懐かしのラグナロクへと変化する。  それはヒョルンと回転するとザコンと地面に突き刺さり、彰とミアを驚かせてみせた。 彰  「うぅおおおっ!? ほんとに剣になった……つーかカッケェ!!     剣だよ剣! マジもんの剣だ! すげぇ!」 ミア 「わぁっ、わぁっ、剣になった! すごいすごいっ!」 魔王 『おーおー! ラグだラグ! なぁあつかしぃいーーーーーっ!!』  鞘は無いようで、剥き身のまま地面に突き立ったラグ。  それを彰が壊れ物を扱うようなドキドキフェイスでソッと握り、ズボァと地面から引っこ抜く。 彰  「軽ッ!? 剣ってこんなに軽いのか!?」 魔王 『お前が使うってこと意識してるからだと思うぞー。     実際それ、1tどころじゃないし』 彰  「マジでか!?」 魔王 『……キミって“マジでか”って言葉好きだね。なに? サンゲリアさまの真似?』 彰  「ゾンビだってゾンビ! 時を越えてもまだサンゲリア扱いかよ!」 魔王 『いや……僕が言うのもなんだけど、本名ヘルレイザーだからね?』 彰  「あれ? バタリアンじゃなかったっけ?」  いや、ほんとはゾンゲなんだけどね? うん、解ってる解ってる。  知識としてしか詳しく知らんが、トリコは大好きだ。  今現在、猛者どもの知識と経験を収集して本を創っている。  僕の中の世界は無限に広がる異常空間さ。  基盤はもちろんフェルダールだけど、裏世界としてレゾンデートルもある。  まだ完全に修復出来たわけじゃないけどね。  本とゲームを作ったりしてるから、いつかは単行本とかも見れるようになるさ。 彰  「で、武器が手に入ったのはいいけど……大丈夫なんか?     これで敵を切ったらカイが痛がるとか……」 魔王 『欠けたりしなきゃ大丈夫だろ。そんなわけで、まずは剣と戦うことに慣れること。     カイはえーと、多分雷と光が主属性の創造の精霊だろうから、     それを意識して戦うことだな』 彰  「そーなのか。へぇ……」 魔王 『武器として強化するのもアリだな。     いっそのこと属性を付加させちまうって方法もあるが』 彰  「え……出来んの!?」  まあ……方法がないわけじゃないしね。  懐かしいなぁ……あいつまだ居るかな。  俺のこと忘れてるんだとしたら、あいつはまたああなってるだろーなぁ。 魔王 『属性ごとの素材があれば、案外出来るやもしれん。     火なら火の属性を含んだアイテムとかね。     ここは水の聖域がある場所だから、水の鉱石とかがあれば属性付加は可能だな』 彰  「へぇ〜」 ミア 「……それって、カイくんに鉱石鍛ち込むってこと?」 魔王 『うむ! 炉に放り込んで熱して鍛ち込むのだ!!』 ラグ 『死んじゃいますよ!?』 魔王 『大丈夫! キミなら出来る!!』 ラグ 『無責任なこと言わないでくださいよ!』 彰  「……? なぁ猫? 誰と話してるんだ?」 魔王 『ラグナロクと』  つーか……あらら、ラグの声も二人には聞こえないのか。  僕ァファフニール能力があるから聞こえるけど……ウーム。  まあいいや、ともかくいろいろ煮詰めていこう。 魔王 『ではちょっと剣を振るってみようか。     いーかい彰、“格好つけよう”なんて思うな。     武器はな、“生き残るために振るう”んだぜ?』 彰  「……格好つけって?」 魔王 『ステキな武器を手に入れた! 憧れの剣と魔法の世界!     モンスターだから斬っても犯罪にならない!     それどころか村人から感謝されるかもしれねーぜ!?     ……とりあえず、後ろ二つは忘れなさい。貴様は貴様のためだけの剣を振るえ。     武器を手に喜ぶのはいいでしょう。剣と魔法の世界に興奮するのもいい。     だが他人からの感謝のためだとか、斬っても犯罪にならないとか、     そ〜んな考えはとっとと捨てなさい。     犯罪? 感謝? そんなものは戦場には一切必要のない感情である』 彰  「いきなりシビアだなおい……」 魔王 『“こうなれ”とは言わない代わりに、戦いに対する姿勢だけは覚えてほしいのだ。     味方のサポートや旅人からのサポートに感謝するのはいいでしょう。     だが常にてめぇ第一に考えなさい。     言っておくが俺ゃあ貴様が死のうが復活させたりなんかしねーからね?』 彰  「………」  ごくり、と息を飲む音がした。  そりゃね、一度でもモンスターと戦ってみりゃあ、死ぬって緊張感は多少でも味わえてるはずだ。  そこに来ての見捨てる宣言めいた言葉だ。息も飲みたくなるでしょう。 魔王 『死なん限りは癒すくらいはしましょう。だが、死んだらもう知らん。     いいかいボーヤ、この世界は戦場である。     村や町では息を吐けるが、そこら以外は戦場だと心得るのだ。     命は一つ。平等だ。で、戦場ならば老若男女の差別など一切無し。     敵であるから殺す。己が生きるためだから殺す。     僕ァ寿命ってものを信じてるから、貴様がミスって心臓貫かれて死のうが、     それが貴様の寿命であり、天寿を全うしたことであると受け入れます。     だからグエフェフェフェ、死にたくなければ死に物狂いで生にしがみつくがよい。     逃げることを勇気とし、格好つけて死ぬことを最低行為と知りなさい』 彰  「……お前ってさ、それだけのこと言うほどのこと、経験しとるん?」 魔王 『む?』  ふと、彰利チックな口調で訊ねてくる彰。  意識とかはしてないんだろう……むしろ緊張とかしてると、口調が固くなるのかもしれない。  ……アレ? つーことは今結構落ち着いてる? 魔王 『まあ、無駄にいろんな物事の経験だけは多いよ?     人殺したし殺されかけたし、     死ぬ間際に人がどんな思いを残すのか、自分自身で体験して思い知ったし。     人に忘れられる怖さも、たった一人で運命に抗う怖さも知ってる。     だから、あー……うむ。僕のことなんていいからさ、武器振って振って。     そしたらヌ・ミキタカゾ・ンシみたいにゲロ吐き出すから』 彰  「怖ェエエよ!?」 ラグ 『吐き出しませんよ!?』  ほぼ同時のツッコミだった。  俺にだけしか聞こえてないのが残念です。 魔王 『さあギャルドよ、こっちはこっちでいろいろ勉強さ。     僕とリアクトすれば、いろんなものがとってもステキに!』 ミア 「……? 猫さんも剣になれたりするの?」 魔王 『ゲフェフェフェフェ、そこに眼球をつけるたぁ……こいつぁあオメガ高い……!』 ミア 「眼球!? オメガ高い!?」 魔王 『コココ……! この博光の武具はすげぇのだぜ……!?     なにせ……出来ないことなどあんまりない!!』 ミア 「……すげぇのだぜってなに……? ていうか、武具がすごいの?」 魔王 『うむ! 武具がすごいのだ! 間違うな、武具がだ! いいね!? 武具が!!』 ミア 「……猫さん自身は?」 魔王 『え? 飾りだけど? トンカツで喩えるところのキャベツあたり?』  ほら、サクサクした脂っこさと美味さの間に挟む、胸焼け防止の味わいみたいな。  脂好きな人には全く必要のない存在とか、そんなところ。 ミア 「…………猫さんって言ってることが滅裂だね……。     自分の方が大事だ〜って言ってたのに」 魔王 『フホホホッホッホッホ、そりゃあそうだ。俺ゃあその場のノリだけで生きている。     自分の芯だけは曲げず、ただひたすらに“楽しい”を探す修羅……それが博光よ。     ……セシルと同じ状況下に産まれた貴様にだからこそ言うけどな。     俺は誰かに好まれようとしての行動はしとらん。     むしろ嫌われる要素を残して、その上で人付き合いをするのです。     貴様や彰やカイが、“俺が人殺しだ”ってことに現実味を感じられてない今もね。     映像かナマで見るかしたら、こうして一緒に居ることなぞそうそう出来んよ。     だって……俺自身が、“俺だったら心安らがねぇな”って思うんだもん』 ミア 「猫さん……」 魔王 『俺はこれから永遠を生きるんだ。人殺しの咎を背負ったまま、ず〜〜っと。     償う方法なんて無いとか、外道に生きるとか、言うだけならタダさ。     忘れないだの死んで償うのは冗談じゃないとか……何処にも届きやしない。     外道に生きて、決して受け入れられずに生きていくのだよ。     ……俺は、誰かが知りたいって言えば自分のいろんなことを教えるつもりだ。     それで嫌うならいい。それでも歩み寄ってくれるなら、一緒に楽しいを探す。     ずっとずっとそうやって、何年でも何千年でも生きて、世界ってものを見て行く』  猫として生きてきたからだろうか。  散々と人に切り刻まれ、潰され、生き地獄を身に刻んだ結果、人を信じることに躊躇が生まれた。  いや、躊躇どころじゃない……信用するのが怖いのだ。  こうして話しているミア相手でも、その全てを信じようなんて気持ちは微塵にも湧いてこない。 魔王 『歩み寄ってくれる人にも、嫌われる要素を残すんだ。     いつか、その相手が一切の躊躇もしないようにって』 ミア 「……? 躊躇って?」  躊躇って言葉に引っかかりを覚えたのか、他のどんな質問も後回しにして訊ねてくる。  俺はそれに対して苦笑混じりに笑い、トトンッとミアの肩へと駆け上った。 魔王 『……なぁ、ミア。人が一番手を繋ぐ可能性がある状況って、どんな時だと思う?』 ミア 「手を……? 繋ぐ……?」 魔王 『そう。協力して、なにかを為そうとする時だ』 ミア 「ん……と。やっぱり話し合って解り合ったりした時……じゃないかな」 魔王 『…………そうだな。そうだと……嬉しいよなぁ……』 ミア 「……?」  もしそうなら、きっとそれはやさしい世界なのだろう。  そんな世界ばかりなら、きっと俺も笑っていられるのだろうけど……や、無理にでも笑うけどね? うん。 魔王 『よぅし暗い話終了! ちなみに答えは教えてやらねー!     答えっつっても俺が自分の経験から適当に考えたものだし!     さあリアクト開始! ヘッドバァッ!』 ミア 「《ゴスゥッ!》いたぁっ!?」  肩に乗ったまま、ミアの額にキャットバッド!(猫頭突き)  ううむ、今日も我が額が光って唸る! 魔王 『愛くるしく首で足で唇で喜ばせるニャッ♪《テコーン♪》     さあ狂おしいほどの猫っぷりも見せたところで、これより鍛錬さ!     愉快(ゆかい)なる 旅路(たびじ)(もと)(ちぎ)()』  いつかミクともやったリアクトもどきを執行!  すると僕の体がパァッと光になって、ミアの体にまとわりつく!  …………エロくないよ!? 別に幼女にひっついてウヒョヒョヒョヒョとかそんなこと考えてないんだからねっ!?《ポッ》  僕べつにロリコンじゃないもん! ロリコンなのはホギーだけで十分だよ!  ……あ、ちなみに今は晦の光化を使ってまとわりついてるだけです。  なにせ今の僕は亜人! アハツィオンの力だろうがなんだろうが使い放題よウエフェヒェヒェヒェヒェ!!  でも光のままなのもアレだし、剣───ジークフリードになって、ミアに思う様振るってもら───はうあ!! 光  (しまった無理だ! アハツィオンが……! アハツィオンが全力拒否してる!)  こりゃあ僕が剣になった途端、重さでミアが潰れるね……いや、冗談抜きで。  ならばどうするか?  ……武具をエジェクトして一本一本使ってもらおうね?  なんならバレットウェポンズでハイペリオン撃たせるのもいいし。  OK! 俺達に……敵はいねぇ!!  まずは防具だね! うん! 防具になろう!  ナウ! 今僕こそが光の武具! 文字通り! 光  『いくぜブリュンヒルデ! トランスフォーーーム!!』  武具と意思を繋ぎ合わせ、ミアにジャストフィットする防具と化す!!  光が瞬き、次の瞬間には───モンゴルマスクと肉襦袢を装着したミアの姿が!! 彰  「バブファァアアーーーーーゥア!!?」 ラグ 『プグファーーーッ!!?』  そして、離れたところで素振りをしていた彰……が、こちらの輝きに目を移した途端。  彼と、ラグになっているカイは盛大に吹き出していた。  剣が吹き出すって、おかしな喩えだけど。  そして、防具となった僕は体をよじることでミアの体を無理矢理動かし、ここで一言! モンゴルマン『ジャングルボディ〜!        ナイスポ〜〜〜〜ズ!!』  マッスルポージングを無理矢理とらせ、しっかりとミアの声真似をしてザ・ターちゃん。  ……刹那、彰とカイは声にならない笑い声を腹の底から発し───僕はといえば、怒り心頭に発したミア助さんに魔法で焼かれたのでした。 【ケース08:第六天魔王(再々)/実は空界人皆殺し伝説の時点で契約は完了している】  さて。  ロックスフォールで地道に経験を稼ぐ傍ら、僕はミアにアハツィオン武具と精霊武具等を吸いだした状態のジークフリードを預け、ジャガー目潰し(体育座り)をし、彰とミアの修行風景を眺めておりましたとさ。  反対してるのがアハちゃんだけなら、アハちゃんだけエジェクトすればいいんだけだし。  さて……そんなわけで現在は、最果ての精霊武具とアハツィオン武具を融合させた武器、刻震剣ラルシュヴァールと霊章輪だけを持っている状態なんだけど……。 魔王 『そんなわけで意思を通しているわけですが。どう? 気分は』 刻震剣『………』 魔王 『オ? 無視? 無視るったい?     ならば強引に意思から今の心境を読み取ってくれるわグエフェフェフェ』 刻震剣『やめろたわけっ!!』 魔王 『やあ、やっぱノートン先生』  たわけって言葉でピンと来たね。  どうやらきちんと意思は宿っているようだった。 魔王 『やあブラックノートン先生、こうして話すのは初めてに……なるのかな』 刻震剣『…………いちいち覚えていないな』 魔王 『ならばよし! 知ってるだろうけど……ルドラは逝ったよ。     それを理解させた上で訊きたい。……お前ら、どうする?』 刻震剣『………』  沈黙。  俺の言葉をしっかりと受け止め、その上で深く考え、深く息を吸い、深く息を吐く。  そんな行為を見守り(まあ、剣だけど)、やがて声が届く。 刻震剣『……ならば、我らはもう……解放されたのだな』 魔王 『……ま、そうだわなぁ』  予想がついていた答えだ。  思い出すのは、精霊13体に蜂の巣まがいに串刺しにされた時のこと。  こちらに来いだのどーのと言いながら、俺を仲間として見なかったあの時のルドラだ。  精霊が俺に得物を突きつけた時の止め方は、同等のやつらに言うような口調じゃあなかった。  明らかに道具へ命令するような、そんな態度だった。  あれはもう、意思を託し合って契約した仲間なんかじゃない。  利用するだけ利用しようと見下した男の態度だ。  そんなものを思い返せば、“解放された”という言葉も酷く納得できた。 魔王 『ゲームの中のものと違って、意思読み取りづらかったけど……拒絶でもしてた?』 刻震剣『考えれば解ることだろう。ゲームの中の能力だからこそ、     ゲームの中の武具は読み易かった。それだけのことだ』 魔王 『あ、なるほど。じゃあ別世界で手に入れた武具とかの意思も、     読み取るには時間がかかると?』 刻震剣『そうなる筈だ、が……待て、何故私が相談役のようなものをやっている』 魔王 『それは貴様がノートン先生だからさ』 刻震剣『………』  理由になってない理由を聞いて、ノートン先生……つーか剣は疲れたような溜め息を吐いていた。  声が聞こえるだけで、息とかはほんとに吐いたりできないだろうけど。 刻震剣『と、いうかだな。汝……正気か? 敵であった我々の意思を浮上させるなど』 魔王 『あ、俺そーゆーのあんまり気にしないから。     むしろ戦いなんざやめて一緒に楽しいを探そう?って感じで、     ルドラを勧誘したほどの僕ですよ?     あの子ったら頑固だから、てんで頷かなかったけど。     そんなわけだからいがみ合う必要一切無し。     イドには酷い目に遭わされたけど、あれは本体であってこっちの意思じゃない。     オリジンにしたってそうだしね。     むしろウェエエッヒェッヒェッヒェ、自分の意思が混ざったジークフリードで、     カオスオリジンを斬り裂く感触とかってどうだった? ねぇどうだった?     言ってごらんよほらぁあああッフェッヒェッヒェッヒェ』 刻震剣『つくづくクズだな汝……』 魔王 『博光ですもの』  誰だろうとからかう時にはからかいます……こんにちは、博光です。  まあ僕自身一度殺されかけてるしね。  漢神の祝福が無ければ死んでたわけだし、おあいこおあいこ。 刻震剣『……それで、どうする気だ?     もし我らがともにあることを頷いたとして、手に入れた力でなにを為す』 魔王 『え? 楽しむだけだけど?』 刻震剣『そんなことは解っている。どんな楽しみ方をするのかと訊いている。     世界でも掌握するか? それとも新たなる世界でも創り、その場の王にでも……』 魔王 『やだよそんなつまらんの』 刻震剣『………………なに? なっ───つまらっ……!?』  王? 世界の掌握? 冗談ではない!  僕ァ一般市民、村人な僕として永遠を生きるのだ!  つーかもう村人が世界を救う大冒険はしたわけだから、僕もうただの村人でいい!  村人のままで、この世に生きる様々な偉そうなヤツを散々とからかってやるのよグエフェフェフェ……!! 刻震剣『……なるほど、クズだな』 魔王 『心読んでまでクズ呼ばわりはやめよう!?』  そしてあっさり読まれた僕の心。  や、いいんだけどね? 誰に止められようが愉快に生きるが僕の道。  心を読まれようと、楽しんだ者勝ちな世界だもの。 魔王 『まあうむ、そんなわけだから。武具に宿りし精霊たちの意思よ!     ……俺と、未来永劫に続く“楽しい”を……堪能しようぜ!?』 刻震剣『………』  ……あ、なんか呆れてるっぽい。  だが構わぬ! 言いたいことを言ったのだから、これ以上僕から言えることなんざ───山ほどあるね。今は言わないけど。 刻震剣『断る、と言ったら?』 魔王 『貴様ら精霊武具を融合させただけの状態の武具にリネーム使って、     精霊剣スマタノモロチンって名前に───』 刻震剣『よろしく頼まれよう!!     全力でともに生きるとここに契約する!!』 魔王 『───するっていうのは冗談です』 刻震剣『ギィイイイイーーーーーーッ!!!!』  ここに、契約が完了した───!! 刻震剣『な、なななな汝なぁああああ……!!』 魔王 『ルェエエエフェヘヘヘハハハハひっかかったなダボが!!     だがこれからよろしく精霊さん! これから僕とともに楽しいを探そう!!』 刻震剣『ぐっ……に、二言はない……!     ルドラ……晦悠介との契約も、既に切れているのだからな……!     だがしかし、こんな馬鹿者と契約……? 精霊王も落ちたものだ……』 魔王 『馬鹿め!!』《どーーーん!》 刻震剣『なっ……ききき貴様に馬鹿だの言われたくないわ!!     馬鹿は汝の方こそだろう!!』 魔王 『なんだとこの馬鹿!!』 刻震剣『誰が馬鹿だ!!』  そんなわけで、早速新たなる仲間が加わった!  まあ、他の12体の精霊はしぶるだろうけど…… 魔王 『そんなわけで他の精霊とも契約したいんだけど』 刻震剣『〜〜〜〜っ……好きにしろっ……!     むしろさっきはああ言ったが、意思体である我らに契約の楔などはない。     武器としての所有権が汝にあるのなら、間違いようもなく汝が主だ』 魔王 『おうおう頭が高ェぞシモベこの野郎……!     誰に向かってタメ口叩いてんだグオッフォフォ……!!』 刻震剣『きっ……切り替えが速いにもほどがある!!     いい加減にしろ汝! 契約するとは言ったが、その気になれば契約など───』 魔王 『リネーム! 精霊武具スピリッツグローリィの名前をスマタノ───』 刻震剣『やめろぉおおおおおおおおっ!!!!     やめろっ! 私が悪かったぁあああっ!! 許してくれぇええええっ!!』 魔王 『最初からそう言やぁいいんだよグエフェフェフェ……!』 刻震剣『グギリギギギギギギィイイイイ……!!《カタカタカタカタ……!》』  やあ、剣がガタガタと震えてる。  すげぇ……きっとこれからの冒険にハートがドキドキ震えてるんだぜ? 魔王 『というわけでタメ口大いに結構。どっちが上かとかそんなのどーでもいいし。     誰が王だの世界の覇権だの……僕は別にどうでもいいと思っています。     地位にも名誉にも、安楽な生涯にも何の興味もありません。     未来、世界、この世に生きる全ての生物……僕のポケットには大きすぎる代物さ。     僕はただ、常に楽しいを探す修羅でありたいと願っていました。     何事にも臆し、しかし自然に、愉快に。     規律を破壊し老若男女全てをからかい、     堕落に生きるを恥と知り、勝負相手への手加減は無駄と心得…………     ティータイムの時間に相手を笑わせ、     飲み物を吹き出させる時間を設ける余裕も忘れない。     その他の事など僕にとっては何の意味も無い。     ただ人間として生き、死す時もまた、人間でありたいと願っていただけです。     未来ある三人のお子を成長させ、自分が楽しむための糧とする…………     外道にふさわしい輝かしい一時だと思いませんか……?』 刻震剣『いろいろとツッコミどころが満載だが……     私にどういった反応を求めているのだ汝は』 魔王 『ん。仲間になろ? どっちが主だなんだってのはどーでもいいや。     無駄に悟る必要も無いし、教えられることは互いに教え合って、     黙るべきは黙って、相手の出方で楽しむ。     そんな生き方を適当に続けていこう。     ずっとこうやって生きていくんだ〜〜なんて決めると、大体ろくなことにならん。     芯は一本。そんで、それが曲がらない程度に適当に楽しんで生きていく。     臨機応変っていうんだっけ? よく解らんが、そっちのほうが“楽しい”ぜ?』 刻震剣『………』  沈黙。  また考え事かな……と思いつつも、人間が持つにしても少々デカいそれをゴファフォゥンっと振るい、テコテコと歩く。  ううむ、猫の姿でこのサイズの剣はちとデカい。  やぁ、しかしロード=ポリスはステキな紳士だった。あいつ大好きだよ僕。 刻震剣『……ところでだが。他の者との契約がどうとか考えているようだが、     空界人を殺している中でイドが届けた言葉は覚えているか?』 魔王 『む? むー……本能的に思い出したくない部分ではあるけど、覚えておるとも。     えーと確か……イドの本名がオボベバーニョさんだった話だよね?』 刻震剣『違う!!』 魔王 『グ、グゥムッ……!』  怒られてしまった。  や、覚えてる、覚えてるよ? ていうか言われて思い出した。 魔王 『生贄を捧げるがいい。     貴様が貴様のままに精霊の武具を操りたいのであれば。───だよね?』 刻震剣『ああそうだ。契約がどうの以前に、     汝が精霊の総意の通りに空界人を殺した時点で、我々は汝のものとなっていた。     ここで契約云々は、改めてという意味も含まれている。     ……脅迫されるとは思ってもみなかったがな』 魔王 『ナイス貴重体験!!』 刻震剣『やかましい!!』 魔王 『ヒィイごめんなさい!』  怒られてしまった……! しかも物凄い殺気だった……オラの十倍はありそうなくらい。  でも言われてみれば、手に入ってからは別に不自由なく使えたんだよね、精霊武具。  そっかそっか、そういう意味があったのか……。 刻震剣『そして、解っているとは思うが……合成させた時点で、     宿っていた力が枯渇することはない。汝が手にした精霊武具には間違いなく、     我々精霊とルドラの力が宿っている。     ……記憶消去に抵抗するようならば、力を解放する手筈だったのだがな。     汝が軽く受け入れすぎたために力が残りすぎた状態で固定された』 魔王 『…………あ』  そっか、そういうことか。だから、なんだね……? 魔王 『おかしいと思ったよ……。     ルドラが別世界……まあルドラの世界のことだけど、     別世界に居るのに、地界でオリジンとバトってた僕の記憶が消えるなんて。     よーするに、精霊武具にあるルドラパワーが記憶を消してたってことね?』 刻震剣『そういうことだ。そして、汝はそれを受け入れた。     もはや汝が汝を忘れることもなかろうが……いや。     これは汝がよく解っていることだったな』 魔王 『うむ。ありがたく使わせてもらうさ。恨むことなどなにもありはせんよ。     もう、過ぎたことで受け入れたことだ。     なんだったら、負けたルドラのラグを吸収して、意思を受け取ってもいい。     そして馬鹿騒ぎすんのさ。今度は、未来がどうのなんて気にせずね』 刻震剣『………………感謝を。変わってしまっても、あれは我々のマスターだった。     他でもない汝が受け入れるというのなら、あの馬鹿者もきっと喜ぶだろう』 魔王 『……ん』  過去に飛ぶことになるかなんて解らん。  解らんが、機会があったら手を伸ばしたい。  過去に手を加えて未来を変えるようなことは正直したくはないが、消えるしか道がないものなら、拾うのも悪くないって思えた。  拾って、意思を引き出して、ブン殴ってでも“感情”を持たせてやる。  あいつは結局……最後まで“クソガキ”だったんだろうから。  一人じゃあ自分の向かう先さえ不安になるくらいの、壊れちまっただけのガキだったんだろうから。 魔王 『……アレ? 力が弱くならないなら、なんで俺って自分のこと思い出せたの?     なんで平気なの? ねぇ』 刻震剣『どんな姿になろうと、汝の体に走る回路が“地界の回路”だったからだ』 魔王 『……………』  ……そっか、“順応”。  四千年かけて、ようやくそういった抗体が出来たってことか。  いや、霊章内のみんなの意思が後押しして、さらにあの写真を見なかったら……きっとまだまだずっと先になっていた。  ……いいな、仲間って。本当に、あいつらに会えてよかった。  会えたからこそこんな姿になっているんだとしても、会っていなかったら家を追い出された時点できっと死んでいた。  だから感謝を。奇妙な人生と、巡り合いってやつに。 魔王 『……うむ。いろいろと謎が解けたよ。     うじゃ、ちょいとお子めらにツッコみ入れてくるね?』 刻震剣『まあ……うむ。あまり無茶をしないようにな。     他の意思への通達は私からしておこう。     ……これからよろしく頼むぞ、マイマスター』 魔王 『だめだ』《どーーーん!》 刻震剣『ぬごっ!? こ、ここで断るか!?』 魔王 『馬鹿野郎! この馬鹿! ほんと馬鹿だなキミは! うん馬鹿!     なんていうか……馬鹿! もうどう例えたらいいのか……馬鹿だね! 馬鹿!』 刻震剣『待て待て待て! 何故そうまで言われなければならない!     よろしく頼むぞと言っただけだろう!』 魔王 『だから! よろしくはOK! だがマスターってのがいかん!     僕は貴様に楽しいを探す仲間になってと言っておるのだ!     主従関係よりも友達感覚! 解る!? 上下関係とかどーでもいいの!     え? ミクはどうなんだって? だって言っても直してくれないんだもん!!』 刻震剣『いつそこまで訊いた!? 〜〜ええい、例外があるのであれば納得しろ!     ともかく我々精霊は汝を“振るいし者”として認めた!     マスターと呼ぶのはある意味当然のことであり───』 魔王 『ゲフェフェフェフェそして当然を壊すのがこの博光の生き甲斐よ……!!』 刻震剣『とことんクズだな汝は!!』 魔王 『馬鹿野郎! 博光ですもの、クズなのは当然でしょう!?』 刻震剣『まずその当然を破壊しろこのたわけが!!』  口論しながらも、とりあえず歩を進めます。  向かう先には彰ボーイ。 魔王 『おーい彰〜、頑張っとるかね〜!』 彰  「イェー!」  剣をブンブカ振りながら近寄ると、何故かイェーと言われた。  Yシャツを汗で濡らしつつ、ラグを振るっては息を乱している。  ……うん、体を振るうとどれだけ注意しても息乱れるよね。  僕、鍛錬の虫じゃあなかったからその気持ちはよく解るよ。  つーかノートン先生が言いたいこと言ってさっさと引き篭もってしまった。  おのれ……今度会ったらひどいぞ。多分。 彰  「貴様に言われた通り、世に対する鬱憤を晴らすが如く振るっとるよ」 魔王 『わぁ、ナチュラルに貴様言われた』  人のことは言えんが。 魔王 『ところで貴様の鬱憤って?』 彰  「いや……とりあえずエロに走るのはどうかなって……」 魔王 『《ぐさり》……キミ、僕のこと嫌い……?』 彰  「なしていきなりそうなるん!? エロがどーとか言っただけっしょ!」 魔王 『いやその……まあ……うん……そうなんだけどさ……』  世代を越えて、もう僕のことをエロとか言うヤツは居なくなった……そう安心してたのに。意外な場所に伏兵がおったわ……!  ……や、僕が言われたんじゃないのは解ってるんだけどさ。 彰  「いや……猫に言っても仕方ないんだけどさ?     なんつーかこう……なぁ? たとえばさ、アニメとかがやったりするじゃん?     べつに好きな漫画や小説じゃなくてもさ」 魔王 『む? う、うむ……?』 彰  「で、そういったものに女キャラが出てくるとさ……いろいろあるわけよ」 魔王 『……あ、なるほど。とりあえずエロね』 彰  「そ」  女と見ればとりあえずサービスショットとか、そういったものは今も変わらずですか。 彰  「俺ゃあさ、ほら、こう……物語をしっかり見て、     キャラとかを好きになっていきたいんだよ。解るか?     かわいいから許すとかそういうんじゃなくてさ、     ボインだから髪が長いからスリムだからとか、そういうのは全部後回しで。     太ってようといいキャラはいいキャラだろ?     たとえハゲな女だろうといい女はいい女だ。     ぺったんこでも、自分が好きになりゃあその全てが愛しい」 魔王 『………』 彰  「待て、引くでない。俺は巫女さんが好きだが、それは崇高な愛だ。     二次元も好きだが、俺の嫁とかそういう気持ちは一切湧かない男だ。     キャラへの愛はもちろんあるが、それはストーリーあっての愛だ。     キャラ単体への愛じゃあ断じてない。作品を、キャラを愛しているからこその愛」 魔王 『いや、別に引いてないけどさ。とりあえず顔近づけすぎだから離れて?』 彰  「おっと、すまんね。けど考えてもみてくれよ。     俺ゃ常々思っていたんだが、サービスショットって必要なくないか?     確かにキャラを目立たせるためには必要なのかもしれないが、     なんかどうにもこう……なぁ?」 魔王 『………』  地界を離れて久しい僕になにを求めているのでしょうこのお子は。  でもまあ、言いたいことはなんとなく解る。 魔王 『つまりストーリーとともにキャラを愛する愛の戦士な貴様は、     サービスカットとかサービスショットとかサービスシーンとかなぞ素っ飛ばし、     とりあえずストーリーを進めてほしいと思うわけだ』 彰  「そうそれだ! ちなみに俺が一番ぐったりするアニメや漫画の回ってのは、     プールとか海とか温泉に行く回だ! いらんだろあれ!     そんなことするのが大事ならいっそ、     ずっと男の水着姿や入浴姿を映してみろってんだ!     それでプールや海や温泉の回を放送する意味もあるってもんだ!     ポロリもあるよじゃねーっての! 女の体で点数稼いでんじゃねィェーーーッ!」 魔王 『……えっとさ。お前それで嬉しいの?』 彰  「いえあの……出来ればそんな回は放送せず、フツーの物語を希望します……」 魔王 『だよなぁ……』  でもまあそれはそれで面白そうではあるが……ウーム。  ただ、視聴者は怒るだろうね。怒って、ついでにネタにするだろうね。  僕はむしろそっちのほうが面白いとは思うけど。 彰  「まあともかく、多感なお年頃だとしてもだよ猫よ。     俺は男だけが見ててウホォゥって思うものよりも、     差別なく楽しめるものを見たい知りたい楽しみたい。     そりゃあそういうシーンで喜べる女も居るかもだけどさ、     ……無駄に静止画ばっかで腹立たない?」 魔王 『…………ねぇ、僕もう向こう行っていい?』 彰  「お待ちなさい!」 魔王 『《ガシィッ!》…………はぁ』  捕まった。  ……どうしてくれましょうかねこのお子は……。 彰  「本音混じりの冗談はここまでとして。     お前ってどうなの? エロとかフツーに好き?」 魔王 『いきなりなんなんだこの男は……』 彰  「悟ったような顔でそれ言うのやめない!? なんかスゲェ傷ついたんだけど!?」  いや……だってさぁ、戦いのための鍛錬してたのに、いきなりこんなこと訊かれるって誰が予想しますか?  いくら常識破壊が好きなこの博光でも、これは予想だにせんかった……。  だが! 魔王 『いいだろう……ならばこの博光、存分に貴様の話につきあってやろう!』 彰  「おおっ!? 話が解るねお前!」 魔王 『つーかもっと砕けて話しなさい。たまにポロリと漏れる口調が貴様の素でしょ?     ミアには容赦なく使ってるし』 彰  「……っとと、気づいてたか。     いや〜、ご先祖さまの知り合いともなると、ガラにもなく緊張しちまってさ」 魔王 『ワーイほんとガラにもねーやー』 彰  「ほんと正直だねキミ!」  ……と。これでようやく普通に話せそうだ。  えぇと、それでなんの話だったっけ?  ああそうそう、女キャラの扱いについてとかだっけ……。 【ケース09:第六天魔王(超再)/多感なお年頃】  ……。 彰  「あそこではさすがのこの紳士も怒ったね! 激怒ザマスよ!!     なんだねアレは! 馬鹿にしているのかね!?」 魔王 『うるせー! そんなもんは個人の好き好きだろーがーーーっ!!     一人一人の意見ってもんがあるんだからいちいち騒ぐんじゃあ……ねぇぜッッ!』 彰  「だっておかしいだろアレ!     どう見ても誇りを持ってやってる人への侮辱デショ!?     あれ以来あたしゃああのキャラだけは好きになれんのだ!」 魔王 『ん……そうかい、よかったねぇ……』 彰  「いやいやいやいやそんな輝くやさしい笑顔で突き放すでないよ!?     だってほらおかしいっしょ!?     アタイ巫女さん好きだけど、それでもあれはないわって思うもの!」  いつしかヒートした彰の話は、止まることを知らない列車がごとく続いておりました。  なんでも“怨”と書かれたハヤテのごとくの内容で、とても残念なことがあったんだとか。……話を聞く限り、怨と書いたのは間違いなく彰利だろうけどね……。  ていうかね、もう彰の口調が彰利になってる。ヒートしすぎだ。アタイとか言ってるし。  とどのつまりはメイドさんのことらしいのだが……え、えーと、彰利〜? 思い出し怨念出すのやめない……? 霊章の中が怨念で埋め尽くされそうだよ〜……? 魔王 『ち、ちなみに怨って書かれてたのって何巻?』 彰  「死神13」 魔王 『………』  よかったなぁ元死神王。  13巻だってさ……。 魔王 『子孫だから先祖みたいになれって言うつもりはないけどさ……。     とりあえずお前、巫女好きには向いてないわ……』 彰  「なんで!? いーじゃん巫女さん! 清楚だし!     あ、てめぇアタイのこと誤解しとるんじゃね!?     アタイが好きなんは巫女さん! そう! 清楚で神聖なる巫女さん!     コスプレだのなんだの、そーゆー方向のじゃねィェーーーッ!!」 魔王 『じゃあメイドのことはどうだっていいじゃん』 彰  「メイドじゃねぇ! メイドさんだ!!」 魔王 『………』  こいつ、愛の向ける場所をいろいろ間違ってない……?  思うつもりなかったのに、さすがは彰利の来世だって思っちゃったよもう……。  みずきも巫女好きだったけど、こいつはちといろいろおかしい。  そしてまあきっと、こいつン中には晦の血も流れてるんだろうね。  和好きが高じて巫女好きとメイド好きが混ざったとかか……? 魔王 『おー解った解った、じゃあ修行続けようね?』 彰  「待て! まだいろいろ言い足りない!」 魔王 『うるせー! 俺はもう内側からの絶叫で十分なんだよ!     メイドさん魂はもう解ったから大人しく修行してお願いだから!』 彰  「……ちなみに、叫んでるのってご先祖さま?」 魔王 『弦月彰利っていう、貴様の先祖です』 彰  「な、なんて叫んでる!? なぁっ、なんて!?」 魔王 『………』  もういや……楽しみ方はそれぞれだとは思うけど、このテの話になるとついていけない……。だって地界のアニメとか漫画の話題って、もう百数十年も遅れてる僕だし……。  でも埒が空かないので音声だけ再生。 声  『ダメ! このメイドさんの回だけはダメ! どーしてもダメ! うん、解る。解る     よ? メイドターンの素晴らしさは俺にもよーく解る。むしろワタルくんはよくぞ     言ってくれた! 人の目の前であれだけ言えるんだから彼は男さ任侠さ! しかし     ……しかし! ミニスカメイドが全てを壊してくれた! 俺はど〜〜もヘラヘラし     て騒がしいメイド嫌いらしい……! 特にミニスカの場合は軽く殺意さえ覚えるね     ……! 慎ましく多くを語らないメイドさんが大好きだ! ……一言言おう。あれ     はメイドさんじゃない、メイド喫茶の従業員だ。従業員風情を真のメイドさんな     どとよくぞ口にした! 実に愚か! 真のメイドさんとは人に見せて悦に入るよう     なものではなく、主のため己のため、誠心誠意を尽くし仕事に励む姿を言うのだ!     作り笑顔が特に大事と申したな! そんなものは嫌々仕事をしなければならぬ所詮     従業員止まりのエセメイドが身に着けるセコさのことだクズめが! ギャアアアだ     め! あの女嫌い! 自然の作り笑顔が出来れば客の八割は騙せます!? 思いっ     きり従業員じゃあねぇかこの馬鹿ァアーーーッ!! もういや、ほんといや……!     そりゃね……? 漫画やアニメのことに本気で怒ってどうすんだーって話ですよそ     りゃあそうですよ……? でもさぁこれはさぁ……!! 作り笑顔を忘れないでと     彼女が言った時にはモキリと心が震えたよアタイ……もちろん殺意的に……! そ     してトドメ……これで貴女も立派なメイドさんですと言った時……! 俺はぁあー     ーーーっ! 俺はよぉおおーーーーーっ!! ……いやね、そりゃ……一応最後ま     で見たよ? レジオスターさんが見事なメイド魂だったって言った時にも震えまし     たさ(殺意的に)……けどさ……。うん、OK。アタイの中のメイドさん好きと他     は違うということなのですね? 一般のメイド好きはあくまでコスプレメイドが好     きで、主にメイド喫茶とかそういうところに居るメイドが好きなわけだ。アタイが     好きなのはさ、ほら。シャーリーとか、あっちの……そう、仕事に熱心なほうのメ     イドさんね? 仕事に熱心って言ったけど、断じてメイド喫茶に熱心って意味では     なく。つまりあれです。結論はこうだ。アタイはメイド喫茶のメイドはメイドさん     として認めてないから、メイドが好きな人はそりゃあメイドが好きだ。けどアタイ     が好きなのはメイドさんなわけであって、メイド好きにはメイドさん好きの気持ち     は解らないと、つまりそういうことなわけなのね!? メイド好きの気持ちがアタ     イには解らないように! そうなのよね!? そうだと言ってダーリン!!』 声  『あーそーかいよかったなー』 声  『キャアなにその疲れたような返事!     こ、これ! 人が真面目に話しておるというのになんなのその態度!!     ダーリンちょっとそこ座りなさい! アタイにとっては真面目なことなのYO!?     そげな態度で《ヂガァンガガガガ!!》ひょえらりやぁああーーーーーっ!!!』  …………。 魔王 『と、こんな感じだ』 彰  「…………うん……俺……ちょっと冷静になるよ……」  テレッテッテー!  彰はレベルアップ! 賢さが少しだけ上がった!! 彰  「先祖……あれが先祖………………俺って…………」  テレッテッテー!  彰はレベルアップ! 先祖への憧れが随分下がった!  先祖っつーか、前世だけどね。 魔王 『まあ……生きてりゃいろいろあるさ……』 彰  「…………そうだな……」 魔王 『ほんとそう……』  互いにいろいろありました。  俺のはほぼ全部が自業自得だけど。  知ってるかい? 俺ってね……どれだけ後で素晴らしいことをしようと、過去の経歴はエロマニアなんだぜ?  たとえ勇者になって世界を救おうが、世界最強、不可能を可能にする力を手に入れようが、どう足掻こうとエロマニアなんだぜっ……!? 魔王 『…………《ホロリ……》』  でもOK、それが僕の過去であり、現在の僕を形成するもの!  否定すれば僕は僕じゃなくなるのさ! だから僕は僕の過去を変えたりなどせぬ!  これで……いいんじゃよ……。 魔王 『さあそんなわけで。悟空、修行じゃ』 彰  「修行っつったってつまらんのだけど」 魔王 『わあ、とっても正直』  まあ修行なんざやるよりは冒険したいお年頃だよね。僕もそうだったし。 魔王 『じゃあサハギンと戦って勝てたら冒険に出かけよう。     それ関係のクエストが幾つかあった筈さ』 彰  「クエスト?」 魔王 『うむ。なんかランクプレートが新しくなっててさ、クエスト確認とか出来るの。     今受注できるクエストに、     “サハギンの水掻き納品”ってのがあるから、それを請け負ってみよう』 彰  「へー……《ピピッ》……あ、ほんとだ」  プレートに触れるといろいろ項目が浮かび上がる。  技術の進歩ってやつだろうけど……ううむ、なんかハイテクすぎてもあんまり嬉しくないのはワガママですか? 彰  「納品って……どうすりゃいいんだろ」 魔王 『ンー……《ピッ、ピッ》……納品って項目押すと、     簡易転移魔法が展開されるそうな。     で、その魔法陣にブツを置いてスイッチオンでOK』 彰  「……達成感が無さそうなシステムだなぁ」 魔王 『やっぱなぁ……? こういうのは酒場とかで受注してさぁ……なぁ?』  マニュアルがあるから見てみてるんだが、しっかりとそこに対するツッコミもありました。よーするに“人手不足”。処理する人間が少なすぎるのだ。  まあ……こんな世の中だし、受注するヤツよりは頼むヤツのほうが多いのも頷けるけど。  …………あ。そういやインドは人間なのかな、ホムンクルスなのかな。 魔王 『言ってても仕方ないか。えーと……』  とりあえずデュエルディスクを左前足にセット。  デッキをディスクに差し込んで準備完了さ!  これより僕は……嘘つきになる! 彰  「おおっ!? デュエルディスク!? キミそんなんまで出せんの!?」 魔王 『うむ! そしてこのデュエルディスクで場に出したカードは全て具現化する!     カードを使った時に限り、我が内側から様々な意思を召喚できるのだ!』 彰  「おおおおお! そりゃすげぇ! み、見せれ! やってみせれ!」 魔王 『だめだ』 彰  「お前どこの世紀末伝承者!?」  まあつまり、そういった嘘です。  デュエルディスクなぞ使わんでも召喚くらいなんのそのだ。  だが……だからこそいいんじゃないか。  僕は全てを語りません。  そう語らない……今回ばっかりはね、億泰くん……。  語らないからいいんじゃないか(・・・・・・・・・・・・・・・)……!  ……ウン、なにがいいかはこの博光にも解らん。 魔王 『まあでも試しに適当に引いてみましょう。完全にランダムだし』 彰  「へー、そうなんか。     相手が居るわけでもないんだし、好き勝手にデッキ組めばええのに」 魔王 『それじゃあつまらないじゃないか。     緊張感……そう、何が出るか解らない……緊張感っていうものがさ、     あるのがいいんじゃないか』 彰  「ジョジョっぽいセリフ回しはいいからさ、な?」 魔王 『うむ! では───俺のターン! ドロー!!』  シュピィンッ!!  山札より! カードを一枚ドロー!! つーかその前に手札をちゃんと揃えないとね。  はいピッピッピッピッと。 魔王 『では仕切り直しを。───俺のターン! ドロー!!』  シュピィンッ!!  山札より! カードを一枚ドロー! 魔王 『このターン、俺は場に一枚のカードを伏せ、次にモンスターカード!     柿崎稔を守備表示! ターンエンドだ!』 柿崎 「《マキュリィイイン♪》…………おや?」  パーシモンが召喚された!  ……何故かラーメンどんぶりを持ちつつ、ラーメンすすってる状態で。 柿崎 「え? え? な、なに?」 彰  「俺のターン! 柿崎稔へダイレクトアタック!!」 柿崎 「《マゴシャア!!》ぶべっしゃあああーーーーーっ!!?《シャアアアン……》」  そして炸裂する渾身ナックル!! 柿崎稔、撃破!!  見事に光となって消えた彼へとハンケチーフを振るい、だがしかし! 魔王 『だがここでリバースカードオープン!!     特殊カード“月癒力”! このカードの効果により、     一度破壊されたモンスターでも再び場に戻ることが出来る!』 柿崎 「《シャランラァ……♪》おがぢぢぢ……!! え、え? なにっ!?」 魔王 『そして俺のターン! ドロー! 特殊カード“生分身”!!     このカードの効果により、場に出た攻撃力500以下のモンスターは、     25回攻撃されるまで破壊されない!!』 柿崎 「えっ……!? やっ……ちょっ……!?」 魔王 『場にカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!』 彰  「よしっ! 俺のターン! 柿崎稔へダイレクトアタック!!」 柿崎 「だ、だからなに《バゴシャア!!》ウベシャーーーーーッ!!?」  そして再び殴られる柿崎くん!  だが大丈夫! あと24回殴られるまでは絶対に消えぬ!! 魔王 『俺のターン! ドロー! 魔法カード“モミアゲへの挑発”!!     このカードの効果により全ての存在が、     このターンと次の相手ターンの間のみ物理攻撃以外不可能になる!』 柿崎 「ちょちょちょちょぉおおっ!? お前狙ってないか!?     つーかなにこの状況! なんで俺いきなり殴られてんだ!?     つ、付き合ってられるか俺は逃げ《グキキッ》……アレ?」 魔王 『ゲフェフェフェフェ無駄だァアア!!     このデュエルシステム上で召喚された者は、     指令や魔法効果以外では決して動けぬわウェエエッヒェッヒェッヒェッ!』 柿崎 「うぉおおおおおおいい!!?     そんな滅茶苦茶なルールでなんで俺引き当ててんの!?     もっと他に適任が居るだろ!? おい! なぁっ!?」 魔王 『さらにリバースカードオープン! 永続魔法カード“斬鉄剣”!!     このカードが場に出ている限り、     攻撃力500以下のモンスターは始末され、召喚することも出来なくなる!!』 柿崎 「なんのために呼んだんだよ俺を!!」 魔王 『実験である! 他に意味はねー!!』 柿崎 「てっ……ててててめぇええーーーーーーーっ!!!」  ガパラッ……ガパラァッ……!! 柿崎 「うぇっ!? き、来た!     来た来た来たぁあああオーディンが来たァアアーーーーッ!!!」 魔王 『あ、ちなみに貴様攻撃力500以下で生分身中。     しかもこの場に存在する者全てが武具使えない状態になってるから、     まあそのー……言いたいこと、解るよね?』 柿崎 「今すぐ帰してぇえええええええっ!!!」 魔王 『ホホホやだ』  ……その日。  たまたま手札にあった唯一のモンスターカードだった柿崎氏は。  雄々しく馬に跨り駆けてきた主神様の大きな拳で24回殴られた。  ゴッシャメッシャとなんかいろいろ砕ける音と悲鳴が聞こえて、僕と彰はとりあえず耳を塞ぎながら俯き、やりすごした。  やがて全てが終わると……そこには争いの空しさだけが残っていたのでした……! 魔王 『争いって……なんて悲しいんだろう……』 彰  「そうね……」 魔王 『ほんとそう……』  彰の手にあるラグがいろいろツッコんできてたけど、無視しました。最強。 【ケース10:第六天魔王(喝再)/そんなこんなで───】  サハギン。  魚人科半魚目。  性格は獰猛で、移動は主に二足歩行。  エラはあるものの普通に呼吸する。  ただし水中でも呼吸が出来るため、水陸両用のニクイヤツ。  過去、彰利の肉技オンパレードにも随分と堪えて見せた、中々のタフガイである。 彰   「エィヤァッ!!」 サハギン『ギギー!《シェエエイ!》』 彰   「うおお避けた!? つーか今ヘンな音鳴ったぞ《ベパァン!》へぶぅっ!?」  身の振り方も剣捌きの下の下。  あっさりとサハギンに避けられ、張り手をくらって吹き飛ばされた。 彰  「うわ強ぇえこいつどうしよう!」  彰は慌てている! だが助けぬ! ミア 「ねぇ猫さん……サハギンって、     初期ランクのブレイバーが戦うような相手じゃないよね……?」 魔王 『うん。リザードマンと渡り合えるくらいじゃないと辛いです』  ただし、剣を持ってないリザードマンね? 剣持つとサハギンより余裕で強ぇぜ? 魔王 『条件を飲んだのは彼さ……! 可哀相だけど僕らは見守るしかないッ……!』 ミア 「わー……」  ギャルドがとても遠い目で僕を見てきました。  呆れてるのか呆れてるのか……呆れてるんですね、うん。 魔王 『じゃあ僕、宝箱が無いか調べてくるね?』 ミア 「えぇええっ!? こ、ここに居てくれないの!?     彰くん死んじゃうかもしれないのに!」 魔王 『だ、だって彼が負けたら次僕が狙われるじゃないか! 僕そんなの怖い!』 ミア 「ええぇええ!? ベヒーモス怯えさせといてあんなのが怖いの!?」 魔王 『だって魚人だよ魚人! 怖いじゃん!     俺、弟切草やってからというもの、半魚系ダメなんだよウソだけど!     見なさいあのヌメヌメザラザラしてそうな玉のようなお肌!』 ミア 「それ玉のようなって言わないよぅ!」 魔王 『えぇ!? そうなの!?』  し、知らなかった……! そうか、玉のようなお肌って、光沢が見えるお肌のことを差すんじゃあなかったんだ……! 魔王 『じゃあ行こう《がしぃ!》離してぇえええ!!』 ミア 「とにかくだめっ! 条件を出した猫さんには、     ここでちゃんと彰くんが勝ったかどうか見る責任があるんだよ!」 魔王 『だって僕怖い! こんなジメジメした滝裏の洞窟なんて……!     つーかなんでこんなところに住んでるんだろうねウンディーネ。     正気を疑うよね、もう』 ミア 「わたしは猫さんの正気を疑うよ……」 魔王 『愚かな……この博光が正気だとでも?』 ミア 「そっ……それを人に訊くのはどうかと思うなぁわたし!!」  でも奥地が綺麗なら、住めば都なのかねぇ。コスモス荘が如く。 魔王 『おーい彰ー! 助けが欲しくなったらいつでも言えー!?     チョコレートパフェ奢ってくれるなら助けてやっからー!     まあこの空界にチョコレートパフェがあればの話だがなぁあああ!!     ルウェエエエエフェヒェヒェヒェヒェヒェ!!!!』 彰  「ぜっっっってぇえええ言わねぇえええええっ!!!!」 魔王 『よし、これで安心だ。さあ行こう』 ミア 「えぇえええっ!?」  助けてやるとか言えば、絶対に反発すると思ってたさ。  そしてこの博光、言われたところで多分助けないで遊ぶと思います。 ミア 「もう……彰くんってば馬鹿だよぅ……」 魔王 『大丈夫大丈夫きっとなんとかなるさ。     それより水の聖域に行ってウンディーネからかおうぜっ!』 ミア 「元気に言うことじゃないと思うなぁそれ……」  だからするのですと返して、僕らはやがて歩きだした……!  まあその、彰とラグを置いて。 ───……。  で……数々の仕掛けを抜け、やってぇんきました水の聖域!  僕はその場にズチャアアアと立ち、 魔王 『磯野ー! 野球しようぜー!』  叫んでみました。  ちなみに水の精霊だから、磯あたりでせめてみた。磯が原っぱみたいな感覚だろうから、そこからもじって磯野。ステキだ……! 魔王 『………』 ミア 「………」  でも反応がねー。  あれ? おかしいな……居留守? 魔王 『おーいウンディーネちゃーん? ウンディーネちゃーん?』 ミア 「………」 魔王 『………』 ミア 「………」 魔王 『磯野居ないみたいだね』 ミア 「精霊になんてことを……あの、ウンディーネだよ?     空界の水を司る象徴精霊。     わたしたちがお水を飲めるのも、ウンディーネが居るからで───」 魔王 『なんの! この博光の武具とて、お水を出すくらい出来るさ!』 ミア 「………」 魔王 『………』  返す言葉を失ってしまったようでした。  まあともかく居ないなら仕方ない。  よし、せっかくの広い聖堂だ……ここはえーと。 魔王 『火闇ファイア! アーンド───ウンディーネさん召喚!!』  ルドラ側のウンディーネの意思を、火闇として召喚!!  お陰で黒いけど、まあルドラの黒に吸収されてた存在なんだから元から黒い。OKだ。 ウンディーネ『……はぁ』 魔王    『人の顔見て溜め息つくのやめよ!? 晦でなくて悪かったね!』 ウンディーネ『ああ、いいえ、べつに貴方の顔を見て溜め息を吐いたわけでは……。        ただ、思い返してみれば狂ってしまってからの悠介さま……        いいえ、マスターは、どこまでも寂しいお方だったなと……』 魔王    『思い出し溜め息ですか……それはそうとウンディーネさん、        ちょっとお願いがあるんだけど』 ウンディーネ『……? なんでしょう。        スピリットオブノートより全てを聞かされています。        条件も既に果たされ、今や我々精霊は貴方の力となる存在。        どんな願いでも、可能な限りを聞き入れますが』 魔王    『じゃあフェルダール側の精霊と融合してみない?        そうすりゃあ、黒の体から元の青い貴女に戻れると思うのです』 ウンディーネ『───…………え……あの。え……?        もどっ……戻れるのですか!? あの頃の姿に!?』 魔王    『うむ多分!!        こっちにゃあデスティニーブレイカーっていう運命破壊の鎌があるし。        能力全部解放してブレイクすれば、        黒の戒めくらいちょちょいのパッパよグエフェフェフェ……!!』 ウンディーネ『〜〜〜〜……!!』  あ。感激で震えとる。  なんか目をぎゅうって閉じて、まるで酸っぱいものを口に含んだみたいにして。  ……まあ、アレだ。  ブラックノートンの言葉が確かなら、狂ってからのルドラからの扱いは、仲間としてじゃなく道具扱いだったわけだし……そんな頃の姿のままじゃあ、存分に楽しめやしねーに違いねー! そんな気持ちから湧きだした行動です。  どうせ進むなら皆様が楽しいほうがいいもの。  だからやるのさ! 魔王    『で、ここで召喚したのは他でもない。        元の姿に戻りやすくするために、        この聖堂、この聖域に溜まってる水のマナを吸収してほしいのです』 ウンディーネ『……なるほど。では、これから全ての聖域巡りを?』 魔王    『うん。自分が破壊しちまった世界くらい、目に焼き付けないとね。        だから巡る。久しぶりに会いたい奴も居るしね』 ウンディーネ『……解りました。では───』  そう言うと、聖堂内の大きな泉……その水底の碑石の上辺りまでを静かに飛ぶと、スゥ……と目を閉じて、マナの吸収を開始する。  僕はといえばそんなウンディー姉さんの行動を確認してから能力を解放。  デスティニーブレイカーを発動させると、彼女が元の姿に戻れないって既存を破壊。  即座に、既に許可を得ていたフェルダール側のウンディーネを召喚し───融合させる!  まああれだ、どっちも武具に宿る意思だから、武具を灼闇スキルで融合させるような感覚で同化させた。  すると…… ウンディーネ『───…………』  聖堂で輝く水晶。  それらに照らされてきらめく水面が光を反射し、その上に浮くウンディーネをさらに照らす。  その姿は既に黒ではなく……透き通るような青の美しき彼女でした。 ミア 「わ……わぁあああ……!! 綺麗……!」 魔王 『えっ!? なに!? 今ハンサムって言った!?』 ミア 「どうすればそんなふうに聞こえるの!?」  ともあれ、儀式は無事終了。  ウンディーネは閉じた時と同様にゆっくりと目を開き……自らの傍を舞う青色のマナの粒子と、自分の体の色とを見て、頬が自然と綻ぶように笑った。  さらにはこの場のマナを利用して指輪を生成、猫な僕を見下ろしてニコリと笑むと、なんと特に何も言わずに霊章にスポーンと潜りこんでしまい───   ペペラペッペペ〜♪ ジャンッ!   ピピンッ♪《水の精霊との契約が大樹ユグドラシルに託された!!》 魔王 『ゲェエエーーーーーーーーーーーッ!!!!』  なんとウンディー姉さんめ、僕じゃなくユグドラシルと契約を結びやがった!!  お、おのれっ……これは僕が契約を断ると見越しての所業!? 実に見事!!  うん、だって実際、ノートン先生にはああ言ったけど……契約じゃなく仲間になろーぜって言うつもりだったし!  おおおなんてこと……! よもやこの博光が裏をかかれるとは……!  でも馬鹿だから気にしないことにした。 魔王 『へっちゃらさーーーーっ!!』  OK! 僕自身への契約は必要ありません!  何故なら僕は───ドリアードのみとともにあればいい存在!  そして知るのです……!  ユグドラシルに空界の精霊の加護やマナが加わるということは、僕が内包した全てに活力が湧き出るということ!  今はまだ猫の里だけのフェルダールに、今ようやく“水の加護”が加わった!  これによりフェルダールの存在した泉や川などといったものが復活してゆく……!!  基盤に宿った意思を具現化させただけの、隠れん坊程度しか出来ないイメージで象った悲しい世界じゃない……! もっともっと、活気に溢れた世界が再び構築されるのだ!!  だからこの世界を巡りましょう。  巡って、フェルダールを再び冒険の世界に……!! 魔王 『ニンフ全員にも手伝ってもらわないとな。えーと確か〜……』  地属性、ノームがドワーフの洞窟の奥。  水属性、ウンディーネがここ、ロックスフォールの滝の裏の洞窟。  火属性、サラマンダーがロプロスト砂漠の何処か。俺が会いたい奴もここに居る。  風属性、シルフがハローナル渓谷の奥地。  雷属性、ニーディアがチャイルドエデンの祭壇のさらに地下。ちと辛いが……行こう。  光属性、ウィルオウィスプが空中大庭園、光の聖堂。  闇属性、シェイドがロジアーテ鍾乳洞。彰利がサハギンと戦ったのはここだったな。  無属性、スピリットオブノートがエルフの里の奥地、無の聖域。  然属性、ニンフが……いろいろだな。  海がネレイド、水がナイアード、木がドリアード、山がオレアード、森がアルセイド、谷がナパイア。  ナギーは融合嫌がりそうだし、全員ローラと融合してもらおう。  ドリアードは……どうしようか。こっちのドリアードと融合してくれるでしょうか。  それとも僕のような者を好きになるのは冗談じゃあありませんとか言うのかな。  こちらのドリアードはユグドラシルとして、この博光の霊章内に核を残してるから、今更融合する意味は……まあ、相手のほうにあるか。  でもニンフは探すの苦労しそうだね。それぞれ持ち場ごとに聖堂作っちゃってそうだし。  で……と。  氷属性、セルシウスがイーディンジルド氷河。ここにも普通に用があるから、必ず行かねば。  死属性、イドが元・北の大地。っていっても、死の気配が多い場所にはフツーに居そう。  時属性、ゼクンドゥスが……以前は海底神殿に居たみたいだけど、今回はどうなってるんだろ。解らん。  元素属性、オリジンがマナの樹……だったけど、石碑自体はノートン先生の聖堂にあったはず。そこで僕は洗脳されて殺人を犯したわけだし……うん。忘れられんわ、これは。 魔王 『……ふむ』  じゃあ、まずは何処に行こうか。  ウンディー姉さんが留守だったのはラッキーだったが、もし精霊たちがどっかに集まってるんだとしたら、少々厄介だ。  見つかったら精霊全員に襲われるやもしれぬ。  欲しかったから聖堂にあったマナいただきましたー!なんて言って、許してもらおうなんてなんて面白そうなんだ……!  よしOK! 見つかっても構うもんか! 僕はいろいろ嘘つきでいろいろ正直なヒューマン魂で我道と外道を進みゆく!  そこでどんな報復を受けようがグヘヘヘ……本望よ!  からかいとは! その一瞬に全てをかけてこそ、からかいと呼べる!  弱きを延々とからかうのではなく、老若男女種族強弱無選でからかうべし!  それが僕の生きる道! 楽しむことこそ我が人生!! 魔王 『よぅしっ! それじゃあこれから彰とカイを回収して、町に行こう!     そこでさっさと金を換金して、インドに届けるのだ!』 ミア 「えと……次は何処に行くのかな。     ていうかモンスター倒してランク上げるんじゃないの?」 魔王 『バトルは彰がなんとかしてくれるさ!     僕は楽しむ以外で能力はあまり解放したくないんです。     だから僕らは情報収集と楽しむことに力を注ぐのです』 ミア 「わー……」  おお、わー、だって! 感心されてるよ僕!  なんか溜め息混じりだったけど気にしないでGO! 魔王 (フェルダールが蘇る……!     基盤の意思だけじゃあ鮮明には再現出来なかった全てが!)  心が逸る! 抑えられぬ!  元々基盤の動作には精霊たちの力が必要だったんだから、これでようやく復活を果たすんだ……! どこかボウっとしていたNPCたちも、全ての風景やモンスターも、かつての活気を取り戻すぞ!  そしたらそれに合わせて恋姫の世界で得たものも設置するんだ!  僕……やるぜ!?  自分が見たもの知ったものの全てを、フェルダールという我が内に刻み込み、ともに生きていくのだ!  俺が全てを覚えていよう……俺が全てを持っていこう。  だから───………… 魔王 『〜〜〜っ……いやっ……いやいやっ……!』  俺の願いは叶えられん。  それはもう、そうと決まっていることだ。  不可能を可能にする力を使えばどうにでもなるだろうが、それに対して使う気はさらさらないのだ。  ……いいじゃん? どうせ、永遠を生きるんだし、このままで。 魔王 『……うふふ、うふふふふふ……! いくぜギャルド!     俺達の戦いは───始まったばかりだ!』 ミア 「え? う、うん………………ねぇ猫さん?     なんだか今の言葉聞いた途端、旅が終わりそうな気がしたんだけど……」 魔王 『気の所為さ!』  来た道を戻っていく。  彰が頑張っているであろう場所を目指して。  この先の未来で何が待っているのか……月視力で見れば一発だろうけど、それはしない。  何故なら、そのほうが楽しいから。  ……怖いしね、未来見るの。知らない方が気楽に楽しめるよ。  知ってようと散々楽しんでから死にかけたけどね。  じゃあ、参りましょう。  きっと今頃、彰がサハギンの水掻きを納品している頃さ。  そんで彰とカイを回収して換金も済ませたら、次の目的地は───会いたかった相手、炎のオールヌーダーが待つ、炎の聖堂ロプロスト砂漠だ!!  カイに融合させるフレアブランドを今度こそもらいに行くッッ!!  ……まあ、ぜってー忘れてるだろうけどね、僕のこと。 Next Menu Back