───ウォルトデニスの泉跡へ───
【ケース17:弦月彰/空へ……ガンバリストフライハイ】  ゴーファが猫に戻ってからしばらく。  今、目の前には信じられん光景が広がっていた。  広がったってゆゥか、勝手に広がりやがりましたハイ。 キモエル『ウェーーーッハッハッハッハッハ!      当たらない! 当たらないなぁ水越ィイーーーーーッ!!』 ヘリョス『馬鹿なっ! 攻撃も魔法もここまで避けられるとはっ……!』  猫からチャチャブーの姿になった中井出が、なんかね、突然ね、長身になったんよ。  したっけ、これがまたキモいのなんのって。  自分のことマギエル=ティリングハーストとか言ってたから、キモエルで名前が安定。  オリジンが放つ魔法や近接攻撃の全てを、ゲッダンの音楽とともに恐ろしい速度で避けている。これぞ世に言うゲッダン避けである。 キモエル『揺ゥれるまァわる触ゥれるせっつなァーーーーーい気持ちィイーーーーーッ!!      二人ィイイでいぃっしょにねェーーーむるウィンタァラァーーーーン!!』  避ける避ける避ける!  あの長身がウネウネバタバタと避ける姿がまたキモくて怖い。  特にあの、腰を前後に振るう姿は……うん、吐けそうデスネェイ。 キモエル『ハッハァーーーッ! 我らが頑張っている中、      皆様の安全をしっかり守ってくれていたことには感謝する!      だがそれでもゲーム世界で着実に強くなった僕ら…………の武具には、      貴様はきっと多分勝てはしなぁあああああいのだぁあーーーーーっ!!』 ヘリョス『くっ……! なんのことだかさっぱりだが、      私がなんの策もなく魔法を放っていたと思うか!』 キモエル『うん思う《キリッ》』 ヘリョス『こ、この真顔ッッ!!』  顔を真っ赤にして怒るヘリョスさんに対して、放たれる魔法を華麗な動きで避けるキモエル。その動きはさながら、覇王愛人のあの人ようだった。  しかしその避けた魔法が地面へと落ち、繋がり、マナで紡いだ魔法陣となり───! キモエル『元素のマナよ。覇王であるこの博光が命じる。我が霊章に納まれ』 ヘリョス『なに───!? 馬鹿な!!』  なんとなにかしらの魔法が放たれる前に、霊章とかいうイレズミみたいな模様に吸い取られた。なにかの間違いだとばかりにヘリョスさんが魔法を放つが、やはりまた奇妙な動作で避けてゆく───! カイ『うわぁああ! 格好の所為で動きが気持ち悪い!』 彰 「いや……残念だけどなカイYO、あの動きは誰がやってもおかしいから」 カイ『いえ……でも、涎を撒き散らしているのに気づかないほど恍惚の笑顔で、    構えをとってますけど。無駄に避けながら』 彰 「…………なんか……腹立つな」 カイ『ですよね……』 彰 「あ、俺との会話の時は敬語っぽいのいいから。もっと気安くしてくれ。    なんかお前に敬語されると寒気する」 カイ『丁寧で居る甲斐が無いですね……。ん、んんっ。では───もとい。    じゃあ、こんな感じでどうで───どうだ?』 彰 「噛んだけどオッケン! その調子その調子!」 カイ『……しっくりこないんだかくるんだか。    まあ、丁寧語でツッコミとかしても全然堪えませんからね、あなたたちは。っとと』  苦笑。なのに、何故かこやつには苦笑がよー似合うと思ってしまった。  俺って結構ヒドイ?  まあいいや、気にしない気にしなーい。  重すぎない程度に考えよう。友達、そう、友達だ。  なんて思った直後にゴヴァーンと物凄い轟音。  軽く言ってるケド、音で突風が吹くくらいの。ショックウェーブか? 甲冑男爵『実にくどき!!』  音がした方向を見れば、全身甲冑の武装錬金に身を包んだキモエルが、ガンザックでヘリョスさんを星にしていた。…………つーかえぇえええええええっ!!? 彰   「おまっ……そんなことまで出来たのか!?」 甲冑男爵『人とは真に怒りし時こそ、芯の下に怒るべし!      怒りとは即ち全てを気にせず本能のままに! 純粋な感情に遠慮なぞ不要!!』  中身は細身のキモエルなはずなのに、甲冑つけると逞しく見えるんだから、人の視力ってあてにならねー……。  でも精霊……たしか高位精霊ってやつだったよな? を、一撃で吹き飛ばすって。  ……ほんと、中井出ってどこまで強いんだかねェ〜〜〜ィェ。 カイ『まあ、あれくらいで驚いてたらもう……竜召喚とかたまげるよ』 彰 「そげにスゲーの?」 カイ『あとで訊いてみたんだけど、召喚した竜っていうのがこの空界における皇竜王。    つまり、竜族の王の中の王だったとかいう竜でさ』 彰 「あいつ、あの模様の中にどんだけバケモン飼ってんだよ……」 カイ『胸張って言ってましたよ。“絆の数だけ”って。他人にバケモンとか言われても、    俺は仲間だって思ってるからそれで十分だ、とも』 彰 「……あ、やべ。俺あいつのこと見直した」 カイ『それにそれだけ言うやつは散々からかえるからむしろどんと来い、とも』 彰 「わーいやっべー……俺あいつのこと見直し直しちゃったー……」  つまり元に戻る。  見直すところなどなにもなかったのだ……。 甲冑男爵『んじゃ、次いくべー! 次はいよいよ空中庭園サーフティール!      光の精霊ウィルオウィスプの聖堂だよー!』 彰   「その格好で気安く声かけられるとスゲー複雑なんざますけど」 甲冑男爵『僕らしくていいじゃん』 彰   「お前の“らしさ”っていったら、      妙に悟ってるところとか強いんだけど情けないところとかくらいじゃないか?」 甲冑男爵『あ、悟ってるってところと強いってところは除外して。      僕そんな自分大嫌い。俺が悟ってるのは自分の過去に関してだけであって、      本気で誰かの道を示してやれるほど偉くなんかないの。強くもないし。      でもそっかー。悟ってるとか思われてたのかぁ……。      あ、あのね? 誤解のないように言っておくけどね? ほんと自分のことだけ。      自分の過去を教訓に、ペラペーラ喋ってるだけだからね?      俺みたいな人生は、誰だろうと歩んじゃなりません。      途中までならいい。でもみんなに忘れられるような道だけは選んじゃだめ。      ………………後悔しか、しないよ?』 彰   「最後のはもう耳にオクトパスだな」 甲冑男爵『それでいい。      誰に馬鹿にされよーが、それさえみんなの笑みになる生き方をする。      俺がガキの頃に埋めた、タイムカプセルの中身、将来の夢だ。      悪の魔法使いになって、一生馬鹿やって誰かを笑わせるってね。      そんなわけでよっしゃー空の旅ィイーーーーッ!!』 カイ  『あの。先にロプロスト砂漠に行く気は』 甲冑男爵『え? 無いよ? だってそこ、最後の最後だもん。      イーディンジルド氷河の用事も、マナ採っただけで済ませてないし』 彰   「用事って?」 甲冑男爵『フレアブランドとアイスブランドを手に入れる。      俺がまだ魔王になる前にやり残したことだ。      で、それをノートン先生に融合してもらって───』 彰   「あっ……エターナルソードか!」 甲冑男爵『そゆこと。次元の歪み問題だからね、次元に干渉出来るものを作りたい。      能力だけじゃあ出来ないことっての、あるからね』  う……ちっと耳痛いやね。  敵と見るや能力ばっか使ってて、相手の体重を利用して相手の首を折るとか、考えもしなかった。  なんでもかんでも身体能力や月操力に頼りすぎてたんだよな、つまり。  なんだ、親父は体裁ばっか気にしてたけど、俺は能力ばっか気にしてたんじゃねーの。  いやなところで血ってものを知ってしまったが、それは今からでも直せることだと理解する。成長しようぜ、俺。  とか思っているうちに猫の姿に戻る中井出。 提督猫『ま、経験者は語るってやつだ。他人の人生経験ってこれで結構役立つよ?     それを聞いて笑うも良し見下すも良し共感するも良し。     選択するのはホレお前。ちなみに俺はもう過去のことだと受け容れているから、     盛大にばっかでー!と爆笑してくれても構わんぞ?     仲間の悪口をあからさまに言ったら怒るけど』 彰  「……大事なんだな、仲間が」 提督猫『ん? んー…………ああ、そっか。はははっ。     ま、大切なんだろーさ。じゃなけりゃ、過去のばーさんは見捨てておいて、     自分のためーとか言いながら仲間のために、     忘れられて人生無駄にして殺され続けてまで生きてねぇさ。     って、いーからいこーぜー? 俺の話なんてどーでもいいじゃん。     たのし? 俺の過去なんて知って、たのし? つまんねーっしょ?     年頃の男の子はおなごの話題でモギャーリ騒いでなさいな』 彰  「騒がねーよ! なんだよそのモギャーリって!」  大体俺は好きな女なんぞすら居ない。  よくある幼馴染ってやつもいないし、そもそも嫌われてるしな、俺。  お陰でミアが女との最長会話記録更新相手だったり……。  …………でもなー、俺ってべつに女と付き合いたいとかそういう願望ないんだよなー。  どっちかってーと、ほら。死ぬまでダチと馬鹿やってたいとか、そんな感じ。 彰  「……ま、いいか。行きながらちょっと話…………まて。空中庭園っつったよな?     っかー……能力に頼らないようにって決意した矢先からっ……!」 提督猫『ふむ? …………それは、お前の覚悟か?』 彰  「月操力があれば誰にも負けねぇ、俺は選ばれた人間〜なんて思ってた。     初めて来た場所でも魔女とか呼ばれてるミアを、     平然とあしらう自分だーとか天狗になってた。     まいったね、どうも。天狗すぎて自分が笑える」 提督猫『ふむ。───接続・我が罪(アクセス、わがシン)
』  どっかで聞いた言葉が紡がれた。  俺はハッとして、遠くを見ていた自分の視界を猫に戻す───と、その途中で地面に魔法陣を描いているカイに気づく。 カイ 『よしっと。出来ましたよ、提督』 提督猫『タメ口でいいよ。はい、言ってみて』 カイ 『ほんと敬語甲斐がありませんよね……。あーはいはい、これでいいかよ』 提督猫『………………ん。ごめん。ありがとう』 カイ 『? なんでそこで謝る』 提督猫『同じに見ないって決めてたのにな。ごめんな。でも、ありがとう。     で、この魔法陣だけどね』 彰  「オウ?」  カイが描いた魔法陣を、後ろ足でテシテシと踏む中井出。  説明を聞いてみれば、これはマナを軽く増幅させる魔法陣らしい。  もっともそれは諸力的なものであり、世界に満ちるマナを増幅〜とかは不可能。  つまりあれだな、魔力増強魔法陣。 提督猫『これを使って、草木との会話をもっと容易にする。     ちと興味深い情報を得たんで』 彰  「興味深い?」 提督猫『まああれだ。お前のご先祖さまも空飛んでサーフティール行ったクチなんだが、     正規ルートがあるのだ。     多分、サーフティール側でゲートが閉じられてると思うが、     それをいじくることが出来る装置が下にもあるっぽい』 彰  「マジでか! じゃあ俺、能力使わずに済むな!」  ……ん? でも待て?  べつにこれ、使う必要ないよな? 俺のこと無視するか、一緒に飛んで連れていきゃいーんだし。  それをさりげなくカイに言ってみると、 カイ 『………』  苦笑で迎えられた。解ってるんでしょう?って顔だった。  …………まあ、察しはつくけど、ありえねーだろっつーか。  なんでこの猫、最近あった奴のことをこんなに信頼できるんだろな。  それが答えだってのをカイは言いたいんだろーけどさ。  ……こいつにとって、仲間とか友達ってのはそんなに大事なんかね。  俺、そんなの居なかったからわかんねーや。憧れてはいたけどさ。 彰  「お前ってさ、仲間のためならなんでもするのか?」 提督猫『え? しないけど?』 彰  「しないのかよ! じゃあなんなんだよこの魔法陣! なにに使うんだよ!     装置とか無視して飛んでいきゃいいじゃねーのよ!」 提督猫『な、なんだよ! たまには冒険してみたくなったっていいじゃないか!     キミは僕に冒険をするなっていうのか!?』 彰  「……おちゃらけるな。俺のためなんだろ?     俺が能力使いたくないって言ったから」 提督猫『自惚れるな馬鹿めが!!《ボゴシャア!》ゲファーーリ!!』  返事とともに拳が振るわれていた。  ああ、なんつーかこいつ、そういうヤツなのか。  いい人、じゃなくて人がいいってタイプだ。  ……無意識かどうなのか、自分を悪者にして言い訳を作るタイプだ。  しかもそれさえ自分の自由な発言のための覚悟の対価にしちまってる。  殴られるからこそ無茶苦茶を言う権利を得る。そんな覚悟をいつだって持った、多分、だけど……とっくの昔に“人としてのナニカ”が壊れたタイプの存在。  こいつ……俺や、そこいらの家系の連中よりもよっぽど深いぞ……?  話としては聞いたけど、家系でもないヤツがこんなことを平然と出来るほどかよ。 彰  「反撃は?」 提督猫『好き勝手言った料でいいや』 彰  (ほらみろ《ゾブシャア!!》うぉあぁあっだいっだぁああーーーーーっ!!!?」  足に鋭い痛みが走る!  見れば、いつのそんな場所に詰め寄ったのか、右足に爪を突き立てる猫が! 提督猫『ヒョギョロヒャファファファファファ!! かかったなダボが!!     誰もがやられっぱなしで泣き寝入りしようともこの博光!     やられたことは素直に返す! 相手の都合などどうでもよいのだァーーーッ!!』  ……ウワー、忘れてた。そうだよ、こいつ外道じゃん。自他ともに認める。 彰  「なんか……ははっ、お前、おかしいよなぁ」 提督猫『僕はおかしくないよっ……! 世の中が……間違っているのさ……っ!』 カイ 『うわ、なんのためらいもなく世の中の所為にしやがったよこのナマモノ』 提督猫『許したの僕だけど敬語止めた途端に辛辣すぎやしません!?』 カイ 『いいんだ、俺はもうこの数日だけで50歳はフケた。     お前ら相手に敬語とかはもう無駄なんだって悟ったんだ。     俺は呆れるぞ。心底お前らという人間を呆れる。     呆れたら、その中から自分が付き合いたいやつらとだけつるむ。     俺を使ってたマスターはどうやら不良だったらしい。     マナを吸収してたら、おぼろげだけどいろいろ見えてきたよ』 提督猫『モミアゲが美麗だったろ?』 カイ 『ああ。あれはいいな。俺もこのモミアゲを大事にしていこう───     とでも言うと思ったかこのたわけっ!!』 提督猫『言ってるけど?』 カイ 『ぬおおしまった!』  カイがなんだか壊れてきた。  でもまあいい笑顔だから、ツッコミ入れるのはヤボってもんか。 提督猫『っと。そうこうしているうちに位置特定したぜよ。     …………うわちゃー、よりにもよってあそこかよ』 カイ 『? なにが』 提督猫『庭園までの無重力エレベーターのこと。     転移装置度外したらそれっきゃねーっつーんだもん』 彰  「へぇえ……この世界ってそんな技術まであるのか。で、それの位置は?」 提督猫『ポイント4092/4092.世界の中心の湖だ。     あー……なるほどなぁ、     狭界が無くなったからあの穴が別の能力場になってるってわけか』 彰  「? よく解らんぞ?」 提督猫『下……あ、ちと違うか。     別の場所に行くはずだった力が、上に向けられたーみたいなもんだと思う。     でもあそこ、まがりなりにも湖っつーか水中だしなぁ……大丈夫なのか、水』  なんのこっちゃ知らないが、中井出は「もしや無重力状態でお空の果てまで……!?」とか、やっぱりなんのこっちゃか知らないことをささやいていた。 提督猫『つーと、晦が保護した魚も、生きてりゃお空の上か。     ……………………みんな、元気かな』  で、空を見上げて遠い目をしている。  しかしすぐに顔を横に振るうと、「よっしゃいくべー!」と元気な声で妙な動物を模様から弾きだす。 提督猫『よしロドリゲス! 次はいよいよ三人乗りになるが、いけるか!?』 ロド 『ゴエッ! ゴエゴエッ!』 提督猫『し、失礼な! 猫だろうと僕は自分を一人と数えたいんだい!     でも女になった時には女の格好も平然とするこの博光、     確かに猫になったならば一匹と名乗るべき! 目が醒めたよロドリゲス!』 ロド 『ゴエエエ〜〜〜ッ!!』 提督猫『ゴニャーーーーッ!!』  なにやら通じるものがあったらしい。  うん、何言ってるのかまるで解らんね。 提督猫『よっしゃ、じゃあ乗ってくれ二人とも。     ちゃちゃっと済ませっぞー! セルフ・サマルトリアだ!』 彰  「サマルトリアって……世界の中心に行った程度じゃ済まなそうだなぁオイ」 カイ 『世界の中心には湖があるんですよね───あ、あるのか?』 提督猫『敬語が出るときゃしょうがないよ、カイ。     で、湖って言っておいてなんだけど、泉がある。     あれから何事もなければ、だけど。で、たしかそこには結界が張られてて……』  うんうん、と頷く中井出が何かを呟く。  “俺と晦と彰利しか例外作ってなかったから、ミアが居ないのは丁度良かった”……?  ん、んん? なんのこっちゃ? ───……。  そんなわけで世界の中心、ウォルトデニスの泉前まで来た。  っていっても広い草原、その中心に存在する木々に囲まれていて、そこに泉があるのかなんてのはまだ解らないんだが……中井出がそう言うんだから、そーなんデショ。  その中井出がおそるおそる歩を踏み出し森に入ると、どこか憂いを混ぜた声で呟いた。 提督猫『……ほんと。なにが吉になるかなんて、解んねぇもんだよな……。     あったんだ。俺が空界に……過去に居たって証が、人殺し以外に……』  森に入ったくらいで何をと思ったが、俺やカイが入ろうとするとバヂィッ! 彰 「いぃってぇっ!?」 カイ『ぢっ!? な、なんですこれ! ……な、なんだこれ!』 彰 「やっぱ咄嗟に出る言葉は敬語なのな。……じゃなくて、中井出、これって」  一人、こちらへと振り返り、どこか悲しそうな顔をした中井出に声を投げる。  と、そいつは何を思ったのか右の前足を真っ直ぐ付き出し……開いていた掌をグッと握り締めた。するとどうだろう、見えはしなかったが、おそらくそこにはあったであろう結界が……ガッシャァアアアアンッ!!! 彰 「うおぉっ!?」 カイ『えっ……あっ……?』  轟音を立てて、崩れた。 提督猫『オラこいてめーらー。さっさと無重力エレベーター探すぞー』  砕けた透明の何かを目で追おうとして、ハッと気づいた時にはソイツは笑顔だった。  証がどうとか言っていたのに、そいつはそれを容易く壊した。  ……こいつが何を考えてるのか、ますます解らなくなった瞬間だった。 提督猫『…………消えちまえ、全部。俺はもう散々受け取ったから十分だ。     ヒルルク、俺は全てに忘れられても生きていく。     万象に、意思に忘れられてもだ。死を選んだお前は俺を笑うかい?     ……そだな、笑ってくれ。それが──────俺の起源だろうから。     なぁ! 日本っ! アメリカッ! 俺、ドナルドが好きでよかった!     道化結構!! 馬鹿やって誰かが笑って俺も笑うっ!     そんな生き方を永遠に続けていく! それがマロンってもんじゃねぇか!     あ、しまった、ロマンねロマン』 彰  「いいのかよ。なにかの証だったんだろ?」 提督猫『ああいーのいーの。俺が居た証なんてどの世界からも消していくよ俺。     俺の過去は俺の中にある。今を生きる野郎ども全部がそれを否定するっつーなら、     俺は元から居ない人間なの。世の中は集団結論で成り立ってるの。     だから独りの俺がなに言ったってだぁああ〜〜んめ。     ならどうするか? んなもん、誰に解ってもらわんでも俺が知ってりゃいい。     悟ってるって言ってくれたけどね、俺ゃ今を生きるので精一杯のヒューマンよ。     一歩一歩を怖がりながら歩いて、その一歩ずつ悟ってるんだわ。     一歩先の行動なんざ、一歩先の俺にしか解らん。     そんなもん、悟ってるなんて言わねーわな。     って、だからこーいう話はいいんだっての!     おら冒険いくぞ冒険! 不老不死の未来でも人生って呼べるなら、     俺はその人生を謳ってやる! 歌ってやる! 謳歌する!     そのためには刺激が必要だ!』  猫が一気に喋る。  落ち込んだり怒ったりと忙しいようだが─── 提督猫 『……刺激ってなんだろ』 彰&カイ『知るかっ!!』  やっぱりこいつはどこまでいってもこいつだった。 提督猫『ま、いーや。生きてりゃいろいろあるだろ。何年だって生きてくれよう、ぞ。     そんでそんで、未来の果てまで行って弥勒菩薩とかと会ったりしてー!』 彰  「何年生きる気だよ! それって56億7千万年後じゃねーか!」 提督猫『だって不老不死なんだから仕方ないじゃん。     あ、でもその前に太陽が地球に落ちるって話じゃん。     まずはその太陽を押し返して……おお楽しそう! やばいよ未来が楽しみだ!』 カイ 『押し返す気満々ですね……』 提督猫『だいじょーぶだいじょーぶ、人間助ける気なんてさらさらないから。     てきとーに生きててきとーに死んでくれ。     俺は自分と仲間のこと以外は基本どーでもいいから。     仲間の家族も知ったこっちゃないよ? だって仲間じゃないもん』 彰  「そして外道だな……」 提督猫『一度、それをして世界を壊した馬鹿が仲間うちに居てね。     そいつを否定した先に、お前らは生きてる。……俺はお前が思うような外道か?』 彰  「神様です」 カイ 『崇めます』 提督猫『外道って言ってくれよ頼むから……』  苦笑しながらそいつは言った。  ……否定って意味は、そいつを殺したって意味だと、後になって教えられた。  自分を貫くってことが、時にはかつての仲間だったやつを殺してまでしなきゃいけないことなのだと、俺は初めて知った。だから正義は名乗らず悪を往く。仲間だった者を殺すのだ、正義なんて名乗ってなどいられないだろう。  変わってるけど、こいつの考え方、なんか解ンだよなー……。  あ、話続けさせようとしたらさっさと行きおったわ。  なんでか気になるから、いろいろ話させたいのに。 提督猫『さて、泉ウオッ!? い、泉がないとな!?』 彰  「見事に干上がってるんだが……ここ、ほんとに泉だったのか?」 提督猫『マジですよ失礼な! なんて失礼なんだ! 失礼だなこの! 失礼! 失礼が!』 彰  「質問しただけでそこまで言うかよ!」 提督猫『や、でもこれで確信が持てる!     俺、ここに初めて来た時、裸の妖精が居ないか血眼になって探したんだぜ!』 彰  「よっしゃ今すぐ死ね」 提督猫『フッ、貴様に出来るかな? 不老不死の《バゴシャア!》ジェルァーーーッ!!』  とりあえず蹴っといた。  すると面白いくらいにポーンと飛んで、草木の生えていない……結構深い窪み状になっていた場所。おそらく泉だった場所にその体が飛ぶと、なんとその場で停止。それどころか少しずつ空へと浮いていくではないか!! 提督猫『え? あれギャア飛んでる!!     こ、これはあれですか!?     強力なマグネットに引っ張られる機械人形がごとく!?』 彰  「な、中井出! 中井出ぇええっ!!」 提督猫『…………言えること、届けられることは一つだ。     “I am...I was”───私は生きた。私は消える。     ならば私は私であった───!』 彰  「ジゴロォーーーーーッ!!」 提督猫『誰がジゴロだこの野郎!!』 彰  「ええっ!? ここで怒るの!?」  ジゴロ・ジョー。A.Iという名の映画のキャラである。  彼の最後の言葉は深かったなぁ……。 カイ 『って言ってる場合かっ! どんどん上昇していってるぞ!?』 提督猫『うむ! よくぞ見抜いた! 俺の心はいつでも上昇中なんだ!     テンション上げていかなきゃだもんね!』 カイ 『そーいう意味じゃないわこのたわけ!!』 提督猫『フライングたわけです』《どーーーーん!!》 彰  「飛ばされながら自己紹介した! どこまで無駄に逞しいんだよこいつ!」 提督猫『体は鉄で出来ている。血潮はオイルで心はA.I。     幾たびの口説きを越えて廃棄処分対象。     敗走などは結構あり、勝利もやはりそうそうない。     担い手はここに独り、人の里で女を口説く。     故にその生涯は生命へと至り。その心は、きっと人の想いで出来ていた───』 彰  「どんな結界を作る気だよ!」  そうこう言ってる間にどんどん高い位置に!  これ、そのままサ、サー……さーふてーる?に行くんだとしても、解らないだろ!  何も無い上空に飛ばされて落とされるだけかもしれないし! カイ  『ていうかこんな状況でツッコミ合戦してる場合か!      提督! 俺に掴まれ!』 提督猫 『フン断る《バシッ》』 彰&カイ『えぇええええーーーーーっ!!?』  猫が、なんとカイが差し伸べた手を払った!  その途端にエレベーターは力強く発動し、猫は遥か天空の彼方へ───!! カイ『こ、これなんかヤバイでしょう! ───や、やばいだろ!』 彰 「追うぞカイ! あの馬鹿を“独り”にしちゃだめだ!    なんだか知らんけど考えただけで気分が悪くなる!」 カイ『同感だよ! ほら、彰!』 彰 「オウヨ!」  カイが駆け、不可視のエレベーター領域に入るや手を差し伸べる。  俺はそれを力強く握ると、引っ張られるように空へと……お、おっ……おぉおおお!? 浮くっ! 浮っ……うぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…………─── Next Menu Back