───魔女と王様と空き缶の片鱗───
【ケース25:弦月彰(再々)/チュートリアルとサマルトリアる(動詞)の辛さの差】  ……で、到着したのが少し赤を混ぜた色の陸。  景色全体が軽く赤く、広い大地がそこにあった。 彰 「………」 カイ『………』  その頃には疲労もピークに達しており、俺達は無言で山をゆく。  道らしき道はあるものの、自然は無遠慮に生え放題。  生えてもほっときゃいいでしょ的にほうっておかれた自然は、たとえ道があったであろう場所にも無遠慮に生えていた。  唯一の救いは、その自然がマナ抽出の影響で枯れ、地面に落ちたりしおれたりして道が出来ていたことくらいだろう。  その道をザムザムと歩く。無言で。  座って力を抜けば一瞬で寝れる自信がある今の我らにとって、喋らずに歩くことは一番の緊張であるからして、迂闊に喋って力を抜くわけにはいかんのだ。  力を抜かずに喋れば、たちまち顔面をビキバキ鳴らしながら喋ることになるであろう。 彰 「《キッ!》」 カイ『《クワッ!》』  会話はもっぱらアイコンタクトゥ。  成功しているかは怪しさバツグンでお送りするのよ?  ともかくです。  建物があるからそこを目指してザムザム。  恐らくはそこは噂の魔女の館だろうから…………つーかなにこれ。  枯れた草花に混じって、元気に咲くブツがあるんだけど。 彰 「《キッ!》」 カイ『《クワッ!》』  アイコンタクトゥ再。  どうやらこれはマンドラゴラらしい。今ので解る俺も相当すげぇぜ?  ともかく抜かんほうがええらしいので無視の方向でOKね? 彰 「………」  さてさて、細かなことなどカカッと省略して現在は館前。  赤い館です。  挨拶をしてから扉を開けると、ゴンギギギギ……と重苦しい音が……鳴らず、簡単にスッと開いた。おお、手入れが行き届いておるでおじゃ。 彰 「……おっ?」 カイ『あれ……?』  それどころかどうでしょう。  扉を開けて中に入ると、体に溜まった嫌なことが少ぉ〜しずつ少ぉ〜しずつ無くなっていくではないかッツ!  思わず柴田亜美調に思ってしまうくらい意外でゴンス。 彰 「すげぇぜボブ! あれだけ溜まってた疲れがウソのようだぜ!」 カイ『誰がボブだ誰が』  早速口調が戻ってた。  さすがっつーかなんつーか。  しかし信じられん……館の中が浄化の空気で満たされているかのようだ……。  もしやこれはこの館で苦しめられた者達が、せめて空気だけでもと足掻いた結果だとでも……いうのだろうか。 彰 「ヤッホーイ! 魔女ちゃーん! あっそびーましょー!」 声 「じゃあ人体実験で」 彰 「イヤァアアアアアーーーーーーッ!!?」  突如声ッ!  振り向けばおなご!  誰!? 魔女だ多分! 魔女?「やは」  にっこり笑って手をわきわきしておる。  魔女ってわりには柔和だ。  だが俺の心はまだまだ安心しちゃあ……いねぇぜ!? 魔女?「女の子取り戻しに来たのよね?     私が皆様ご存知、ウェルドゥーンの赤い魔女、ヤムベリング=ホトマシー。     あ、ベリーでいいからね。この長い名前、あんまり好きじゃないし。     やー、よく来てくれたねー、モミアゲくんにツンツンくん。     そっちは知らないだろうけど、また会えて嬉しいわ。うん嬉しい」 彰  「ホエ? ……アタイらのこと知っとるの?」 カイ 『僕のことも……ですか?』  訊ねてみれば、「わはー」と笑う魔女さん。 ベリー「知ってる知ってる。前世からの付き合いだし。     ゼロのお陰で天界ともコンタクト取れたから、     “奇跡の魔法”のことも調べられたし。     その研究過程で“忘却”に関する抗体を作ることにも成功。さすが私」  自分の言葉に自分で「天才ですから」と胸を張る魔女。  ……天才ってやっぱ馬鹿と紙一重なのかもしれん。 ベリー「ミア子のことなら気にしなくていいわよ、別に薬浸けにしたりしてないし。     そもそも研究の成功の最後の鍵がミア子だったから攫っただけだし」 カイ 『へ? それって───』 ベリー「ん? だから、ミア子は散った魔力やマナを集合させて作られた子だって、     聞いたりして知ってるでしょ? 知らないなら今知ったから問題なしなし。     わはー♪ で、その集ったマナとか魔力に宿った歴史を解析して、     私が忘れてることを歴史ごと吸収したってわけよ。     こうでもしないと奇跡の魔法の質量に勝てないからね」 彰  「おうこら女、わけわからねーぞ」 ベリー「人一人の存在率を消費して起こす奇跡には、     その“生命ごと”が膨大な知識によって形成されているものの力が必要ってこと。     その点だけが解決できずに困ってたんだけどねー、そこに丁度いいカモが!     お陰で全部思い出せたわ。生きてく中でな〜んか引っかかることがあったんだ。     それも解決。だから───」  キッと目を鋭くさせると、ベリっつぁんが真剣な顔でアタイとカイを見る。 ベリー「ひろちー、居る? 会わせて」 彰  「ひろ……?」 カイ 『それって提督のこと、ですか?』 ベリー「あ、そっか。そう呼ばれてたっけ。そう、中井出博光。     ちょっとどころかシャレにならないこと、彼にしちゃったから。     その、謝りたいっていうか」  …………それって空界殺人伝説?  でもそれってべつにこの魔女がやらせたことじゃないんだよな?  じゃあなんのこっちゃ? ベリー「会ってくれないならそれでもいいわ。ただ、私はあなたたちに協力する。     困ったことがあったらなんでも言いなさい。     殺した人数がどうとかの問題じゃなく、     そもそも私にああいうこと言う資格なんてなかったもんね。     魔術のために人を利用、薬漬けなんて平気でしたし。     罪滅ぼしと自己満足のためでしかないけど、言ったことは守るわ」 カイ 『いろいろひどさが混ざってるな……』 ベリー「なに? 外面だけでもいい人で居てほしい? 私の本性なんて知ってるでしょ?     その上で猫被ってどーするの。で、ちょっとでも酷さが混ざれば人格疑う?     やめてよね、相手の勝手な感情起伏に自分を合わせてやれるほど、     私は自分以外が好きじゃないんだから。     あんたらの前世と知り合いじゃなかったら、ひろちーのことがなかったら、     誰が他人なんかをこうして招くもんか」 彰  「………」  怖ェエ。この人怖ェエ。  なので助けを求めるように一応内側に語りかけるみたいにしてみた。  驚くことに声が返ってきたが、「会うつもりはねー」だけだった。  ただ─── 彰  「えっと……中井出からだけど。会うつもりはないって言葉が返ってきた。     ただ、嫌ってるとかじゃなくて忙しいから無理、だとか」 ベリー「いそ……《うずり》なになにっ? なにやってるのひろちー!     教えなさい! 教えた上で手伝わせるの! わはー!」 彰  「ものすげぇ即答で“断る!”だそうで」 ベリー「ちぇー」  口を尖らせ、魔女が拗ねた。  ……魔女のイメージがどんどん崩れていく。怖いやつだと思ってたのに、フツ−にどこにでも居るようなやつだ。 彰 「やってるのはえーと……ヒロ、ライン? の、改装だそうな。    ラヴプリンセスの世界構築を進めてるから忙しい、って……ラヴプリンセス!?」  ラブ……あ、あー……恋姫とか愛姫って意味? よー解らん。 ベリー「わおっ、まだヒロラインあったんだ、なつかしいなぁ……。     ねねっ、私もそこに入れるかどうか訊いてみて?」 彰  「だめだとさ。もう意思専用にするつもりだから入れたくないと。なんのこっちゃ」 ベリー「意思……そっか、武具に宿る意思ね?     ……ん、いいや。ひろちーのところにはちゃんと“みんな”居るってことね?     だったら良かった。少し寂しいけど、ひろちーはもっと寂しかったんだもんね。     それをとやかく言う権利は、誰にだろうと無いわ。あったらシメる」  ……アタイの横で「どういう理屈だそりゃ……」と呆れてるカイが居た。  いやまったくその通り。同じ意見ですぜ。 彰  「あ、でもどーして俺のこと覚えてられたんだって訊いてきてる。     よく解らんが、なんで?」 ベリー「わは? あーそれ? 天界の忘却と、ひろちーにかけられた忘却は別物だけどね。     ちょ〜っと面白いもの、地界で拾ってさ。     百何年も前のものだけど、まあいろいろ。     で、それを研究してる中で出来たものを飲んだら思い出した」 カイ 『飲んだ? って、それって?』 ベリー「最果ての英雄の血。あ、飲んだのは血じゃないわよ?     拾ったものが英雄の血ってだけ。     黒で形成されたもので、たった一人の人間によって斬り滅ぼされた者が、     最果ての英雄から引きずり出した黒がた〜っぷり詰まったもの。     一滴だけでも物凄い記憶量だったわ。最果てって言うだけあるわ。     お陰でこの百何年、退屈することなかったし」 彰  「…………」  よく解らん。  我らにも解るように平明に話してほしいもんじゃて。 ベリ−「退屈潰すためならなんでもやったわ。     黒の能力得られないかなって血から作った飲み物飲んだり、     錬金でいろいろやってみたり。お陰でひろちーのことも思い出したんだけど。     ……私もね、この空界で生きて随分だけど、忘却の猫のことはよく知ってる。     だから自分が何をしたのかも知ってるし、     自分がどれだけ自分のことを棚にあげて彼を責めたのかも知ってる。     謝罪が自己満足でしかないと言われても、謝る以外に何が出来るっていうの。     だから、今は自己満足に付き合って。……ひろちー、許さなくていいから謝るわ。     むしろ許さないでほしい。その代わり、私に出来ることならなんでもする」 彰  「……体を許すって言ったら死ぬほど後悔させるって言ってる」 ベリー「そ? ならよかった。出来ることならって言ったとおり、するつもりないし。     子供は精子と卵子を合わせて作っただけで、私まだ乙女だもの。     初めてはやっぱり好きなコに捧げたいなー、なんて」 彰  「マジで!?」 カイ 『相手絶対見つからないだろそれ……』 ベリー「そりゃそうでしょ。     だって私ってば魔女だし、既に経験があるー、とか噂を流してた頃もあったし。     娘のイセリアだって、私が男にだらしないとか思ってた時期もあるほどよ?」  ……なんつーかほんと、ひどい印象しかないんだね、こいつ。  いっそ哀れに思えてしまったよ。でもそれも勝手な印象なんだよね。本人満足してるんだから、そんな押し付け感情なんて思うだけでも失礼だっつーのに。 ベリー「まあそんなことはどうでもいいわよ。私にしてもらいたいこと、ない?     ……っと、それってもしかしてフレアブランドとアイスブランド?」 彰  「あげませんよ?」 ベリー「いらないいらない。     それ持ってるってことは、これからエルフの森、行くんでしょ?     そこでオリジンとノーちゃんの力を使って合成させる、と。そんなとこ?」 彰  「ぬ、ぬう。よく解ったね貴様」 ベリー「貴様言わない。……んー……悠介の来世は剣の精霊か。     感じるマナの量から察するに、マナ集めをしている最中ってところ?」 カイ 『そんなことまで解るのか!?』 ベリー「……あのね。私これでも空界じゃ名の知れた存在なのよ?     魔術確立したのだって私だし、元赤竜王だし」  赤竜王? なんじゃらほいそれ。  とか考えとると、ヤムヤムが虚空に手を翳して指を動かす。  するとどうでしょう!  なんと虚空にキーボードでもあるかのように、指を動かした箇所が光るじゃないか!  天地無用とかで鷲羽さんがやってたなぁこういうの。  いやはや懐かしい。 彰  「あ……っと。もういっちょ質問らしいざんす。     最果ての英雄の血で作ったドリンクはもうないのか? と」 ベリー「血を使って出来ることはなんでもやったけど、量産だけは無理だったの。     だから生憎だけど、記憶を取り戻せたのは私だけ。     これからもその事実はきっと揺るがないわ」 彰  「…………。それならそれでいい、って」 ベリー「……うん。ごめん。期待持たせちゃったね」 彰  「いいって言ってんだろコノヤロー! だそうで」 ベリー「わはは、うん。言うと思った。変わってないなぁひろちーは」  ヤム子さんはどこか懐かしむように笑った。  それから最後にポチっと虚空のキーボードを押すと、空中でミヂィイイイと作られた何かを俺とカイに渡してくれる。 カイ 『あの……これは?』 彰  「きっとビックリマンシールだぜ」 ベリー「違う。偽造勲章よ。それ持ってレファルド行きなさい。     それがあれば問答無用でリヴァイアに会えるわ。     私のほうでニセモノの通行証作ってもいいけど、     疑り深いエルフのことだから、難癖つけて森に入れてくれないでしょ」 彰  「アー……やっぱ許可証は王様からっすか……」 ベリー「ルールを重んじる相手には正攻法が一番って話よ。難しい話じゃないわ。     っと。ちょっと待ってなさい、今リヴァイアに通行証発行させる脅迫状書くから」 カイ 『脅迫状!?』 彰  「おおナウイじゃねーか魔女てめぇ。やっぱ時代は脅迫状だろ」 ベリー「よねー? わはーはははは!!」 彰  「ぬっはっはっはっは!!」 カイ 『……《しくんっ……》……アレ……なんだろ……胃が痛い……』  そんなわけでヤムさんが偽造勲章と脅迫状を作ってくれました。  軽くサマルトリってますが、これも冒険の世界では仕方なきこと。  せっかくだからと次元の異常についてを訊いてみたのですが、なんともはや、魔女殿も困っておるというではございませんか。 ベリー「調査はしとくから、エルフの森での用事が終わったらもう一度来ること。     その時はひろちーも一緒だと嬉しいけど……贅沢ね、それは。     あ、ミアのことだけどもうちょい預けといて。     魔力が凄いのは結構だけど、このままじゃ太古の巫女みたいに大変なことになる」 カイ 『太古の巫女?』 ベリー「セシルっていうコのこと。なまじ扱いきれない力を持ってるとね、     些細なことで次元の扉とか開いちゃうもんなの。     セシルが召喚で狭界の扉開いちゃったみたいにね。     ……今回のことも十中八九、あの子の次元干渉が問題なんだろうし」 彰  「耳が痛ぇ……」 ベリー「そんなわけだから、ちょっと魔力の抑え方とか叩き込んでおくから。     それと一緒に次元の安定も出来たら楽なんだけどねー……わはは」  ケタケタと笑って、じゃ、頑張ってと手を振られた。  ……ぬう、やはりサマルか。サマルトリアなのか。  帰りもまた筏を漕いでいけと。 彰  「レファルドへの近道とかって……ない?」 ベリー「今なら最高に命が危ないドキドキディメンション転移にご招待!」 彰  「自力で行くッス結構です!!」 ベリー「死にたくなったらいつでも言って?     あなたの犠牲で一箇所だけ転移調整が可能に!     飛んだ場所インプットすれば、その穴は安全だって解るから」 彰  「アタイが安全じゃねーべよ!」  結局筏になました。  だって、普通に行動すれば戻れるところに、何も命懸けで戻る理由、なぎゃあも……。 彰  「あ、そうだ。ヤム子さんって調合とか出来る?     マナとかとは別に、記憶に刺激を与える薬の調合を依頼したい。     材料はこのアルマデルカナブンでなんとか」 ベリー「カナブンで作る……ああ、あれね。いいわよ、やっといたげる」 彰  「すまんこってす。ではアタイらもう行くね?」 ベリー「はいはいいってらっしゃい」 カイ 『挨拶軽いなぁ……』  チャーオーと手を振りつつ行動開始!  ミッション:通行証を手に入れろ───始動! ───……。  つーわけで帰ってきました。  途中、何度か海産軟骨魚のシャークさんに似たモンスターに筏を壊されそうになったが、アタイらはやりきったぜ! やりきったからこそ…… リヴァ「よく来たな、検察官。ああ、話はサーフティールの連中から聞いている。     夜華が随分とお冠だったぞ」 彰  「冠?」  なんだか急に“剣冠太郎”という名前が浮かんだ。  ……誰?  まあいいコテ。そげなわけで現在偽造勲章装着ののち、通してもらってレファルド皇国。  その先のリヴァイアって国王の私室に案内されて、今ここに立っているッツ! 彰  「まあそげなことはどうでもヨロシ。     おいこら王様この野郎! 通行証よこせ通行証! 持ってんだろテメー!」 リヴァ「それが人にものを頼む態度か……」 彰  「通行証くださいお願いします。さー態度改めたぞ王様の言うとおり!     まさか人に注意促すだけ促しといて、     改めたのにブツをよこさねーなんて言わねーよなー王様よォオオオ!!」 リヴァ「性格最悪だなお前……」 彰  「正論を一つ提示! 急に訳解らん世界に飛ばされて命のキケンにも遭って、     すぐに帰れない状況であなたはやさぐれずに居られますか!?」 リヴァ「なるほど、それが原因か。前世のよしみでいろいろと都合をつけてやりたいが、     生憎と王にもなると贔屓が出来ない。     通行証が必要なら、いろいろと条件が必要になるんだが───」 彰  「あ、これヤムベリングさんからの手紙っす」 リヴァ「《びしり》……っ……な、ん…………だと……!?」  うおっ!? すげぇ!  手紙差し出された途端に、にこやかだった顔が固まった!  しかもさらに差し出すと、手を自分の背中側に隠してしまう始末!  ……すると自然と胸を突き出す姿勢になるわけで。 彰  「なんだ突然胸突き出してきた>>王様。揉むぞこの野郎」 リヴァ「やったら殺す」 彰  「だったら殺されるまで堪能するまでだ! 高校生の性欲ナメんなよテメー!」 リヴァ「……これが検察官の来世か……頭が痛い……」 彰  「お前勝手に前世と比べられて落胆される奴の気持ち考えたことありますか?     マジでぶん殴りたくなるほどむかつくんで止めてもらえませんかねえ……?」 リヴァ「……ふむ」  タイダリアサン(笑)が俺とカイを見比べるように見る。  んで、仕方も無しといった表情のまま右手を差し出してくる。 彰  「ややっ!? こりゃどうも!」 リヴァ「《きゅむ》……いや、握手じゃなくてだな」 彰  「ほっほ、解っちょーよ。はいこれ。脅迫状」 リヴァ「普通に手紙と言え……というか脅迫状と解るのか? 中身は見ていないだろうな」 彰  「脅迫状だと渡されたし。中身見んでもはっきり言われりゃ解ろォモン?」 リヴァ「…………見たくないなぁ」  王様がごねた瞬間ザマした。  しかし折り畳まれて仕舞われているそれをコサ……と広げると、目を通して───項垂れた。 リヴァ「……どうしてもエルフの森に行かなければだめなのか?」 彰  「記憶を取り戻すためにいろいろと必要なもんで。あと帰るために。     ファンタジーは好きだし興奮もしたけど、     帰って“木”を守るって使命があるんじゃい。     それを求めるアタイの心は誰にも止めることは出来ぬゥウウ!!」 リヴァ「無駄に気合を込めなくていい。……やれやれ」  盛大に溜め息を吐いたクヴァッチ……もとい、リヴァっちが机に向かい、そこで何かに何かを書き連ねてゆく。しばらく後に差し出してきたのは、妙なプレートに変わった装飾のペンで名前を書いたもの。 カイ 『変わったカタチのペンだな』 彰  「趣味わりーなオイ」 リヴァ「随分失礼だなお前は……言っておくがこのペンに滲むインクは大変貴重で、     これからしか出てこないという特殊なものなんだ。     だから発行できる通行証にも限りがある上、私が認めなければ渡すこともない」 カイ 『へ……? って、じゃあ認めてくれたってこと……か?』 彰  「アタイの偉大さがようやっと伝わったのよきっと」 リヴァ「お前そこまで自分を誇張して恥ずかしくないのか……?」 彰  「クォ? 記憶が少しずつ体に馴染んでいくとよォォォォ……     なんかもうこんなアタイが普通な気がしてきてやがて自然へと至る病。そして……     って感じでしてね? あ、解らなくてもいい。ただ感じ取って。     アタイはノリと素直な自分とで進んでいる自分が嫌いじゃねー。     むしろアタイ弦月彰利! って叫びたいくらいなのさ今は」 リヴァ「前世と同じに見られるのは嫌だと言った矢先にか」 彰  「だってアタイ、前世っつーよりは転生しただけっぽいし。     友達とのノリで転生しといて、記憶が戻ったら別人ってのもやっぱね。     だからアタイ、別に弦月彰利でも構わねー。     親友が消えるってんで、転生しようって思ったらしいしね、アタイ」  ちらりとカイを見る。  そのダチコーともこうして会えたっぽいのなら、なんかもう彰利でいいじゃないの。  転生しなけりゃ生まれなかったアタイです。ならばアタイ彰利。  ギャルドと接する時は彰に戻るとか、そんなんでええっしょ?  つーわけで認識変換! 彰利 「…………うむ!《ジャーーーン!》」 リヴァ「なにが“うむ”なのかは知らんが……いい加減通行証を受け取れ」 彰利 「ややっ!? これはテンテン失敬!」  許可証を受け取る。なんかプレートっぽいもので、結構硬い。  カイ……もとい、悠介もそれを受け取ってふむと頷いている。 悠介『これを見せればいいのか?』 彰利「きっとこれを突きつけて“余が水戸黄門である!”とか言えば、    ズヴァーとひれ伏したあとに襲いかかってくるに違いねー」 悠介『通行証の意味ないからな、それ』  まったくじゃね。  まあともかく貰えたわけだし……あ、そだ。 彰利 「そうそうクヴァッチ、最近の次元の歪み、どう思いマッスル?」 リヴァ「クヴァッ……!? ……なんだ、そのヘンテコな名前は」 彰利 「オブリビオンの町の名前だった気がする。で、どう?」 リヴァ「リヴァイアとでもリヴァっちとでも好きに呼べ。ただそれは認めん。     ……そうだな、おかしいとは思っている。     中々都合つかずだったが、今日ようやく都合がついた。     王二人を招いて調べてみるつもりだが───」 彰利 「あ、それについてはもうベリっ子ヤムヤムが調べとーぜ?」 リヴァ「だろうな。あの退屈嫌いが調べていない筈がない。     なにか協力できることがあるなら言えと言伝を頼んでいいか?」 彰利 「オ? なんだ? アタイをパシらせよーってのかてめぇ。     べつにいいけど駄賃よこせコラ」 リヴァ「本当にいい性格してるなお前は……」 彰利 「キャア褒められた!」 悠介 『褒めてない褒めてない』  でも律儀に金くれました。  なんだ……思ってたよりもいいヤツじゃないか。 彰利 「でも駄賃って文字にすると嫌な言い方よね?     お金に“駄”をつけるって心苦しいことなのよさ」 悠介 『語尾がいろいろおかしいぞ』 彰利 「某ゲームのおなごの喋り方ざんす。ま、それよりGO! 激しくGO!」 リヴァ「最近、何者かがマナを吸収しているためかモンスターも大人しい。     あまり暴れて刺激してくれるなよ」 彰利 「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ! 吸収してるの悠介だし!」 リヴァ「悠介? ……誰だ? それは」 彰利 「ぬおっと、そうだった」  奇跡の魔法の所為で、家族とアタイとヤム子さん以外にゃ忘れられてるんだっけ。  あ、あと中井出ね。 彰利 「えっとね、こやつの持ち主の名前がそうなん。     リヴァっちは忘れてるだろうけど、ゼットンのライバル的存在。     空界の王になったこともあるのよさ」 リヴァ「………………知らないが」 彰利 「だよね。とても寂しいことだけど、仕方なや」 悠介 『………』  悠介も困ったように苦笑しておる。  ほんに、世の中って上手く回っちゃくれねーもんだよね。  アタイだって弦月彰利の転生先ってことじゃなけりゃあ、こうして優遇なんてしてもらえなかったわけだし……既にどっかで死んでたんだろうね、きっと。 悠介 『じゃ、行くか』 彰利 「せやね。ほいじゃあね、リヴァっち。     誰かE男見つけてさっさと結婚でもなんでもしなさい?」 リヴァ「大きなお世話だ。     いろいろとツッコミたいこともあるが、それは様々が落ち着いてからにしよう」  ではな、とかではなく、リヴァっちは「またな」と言って我らを見送った。  ンム、やっぱ完全に記憶取り戻さんとな。まだまだモヤがかかっとる部分が多すぎる。  すっきりしないのは嫌なので、さっさとマナを集めよう。 彰利「あれ? そういや随分と無粋な話になるけどさ。あ、性欲の話ね?    真剣に頼んだら夜華さん、アタイと愛を育んでくれるかしら」 悠介『斬られるだけだろ』 彰利「せやね。ならよかった」  全部を取り戻しても体は彰だからね。  夜華さんが別の誰かに抱かれるなんて、意思が彰利でも嫌だィヤ。 彰利(………)  転生した先でダチコーともう一度。  その願いは叶った。  でも、それではアタイは別人で、悠介もラグナロクなわけで。  唯一そのままなのが中井出だけで、他のメイツや知り合い達は何も覚えていないまま、同じ容姿で空で生きている。 彰利「……それが何だというのだ。かつてあんなにも煌めいていたものが、    いまや私の目の前から永久に消え去ったからと言って───」 悠介『! ……草原の輝きと、花々の誇らしさ。そんな日々は還ってきはしない』 彰利「……へへっ。……だが、私たちはもう悲しむまい」 悠介『残されたものの中にこそ』 彰利「幼い日の思い出の中にこそ」 悠介『見いだすのだ……』 彰利「───力を」  俺達は不思議な関係の上に立っている。  他人同士のくせにひどく近い生き方をして、親友が消えるからって自分まで未来を求めて転生までして。  家族が悲しむとかそんなことを思っても、ごめん夜華さんだけで済ませるような生き方。  それでも───“苦楽をともにする”って言葉を、生きながら知ってきた親友同士だ。  俺の中ではそうするのが当然なくらい……家族よりも大切だったってことなんだろう。 彰利「マナ集ったら、また融合すっかんなー、コノヤロー」 悠介『はいはい。その時は全部思い出せよー、コノヤロー』 彰利「ま、そうする必要もなく全部思い出せんのが一番やね」 悠介『だな』  二人顔を見合わせ、苦笑しながら拳を合わせた。  歩く足はそのままに、王室大広間を抜け、やがて城の外へ。 彰利「いつになってもサマルトリアに縛られてるアタイらだねぇ……。    空界ってほんにこんなんばっか」 悠介『たまにはいいだろ? 転移慣れとか空跳ぶ仲間に慣れてる証拠だ』 彰利「そういやディルゼイルとかってどうしとるん?」 悠介『それぞれの縄張りに戻ったんじゃないか?    そこのところはノートが上手くやってくれてるだろ』 彰利「せやね」  木さえ回収できれば地界に未練らしい未練はなかったりする。  ならどうするか? そげなもん、家追い出されたときから決まっておるのでしょうね。 彰利「とりあえず俺、記憶全部取り戻したら弦月彰利になるわ」 悠介『そりゃまた随分と豪快な……』 彰利「地界に未練なんざありゃしねー。    アタイが好きだったのはアタイがアタイだった頃の景色だけだし。    あそこにゃもうなんの繋がりもありゃしねーのよ。    だからね? もしこれから出会う者に不可能を可能にする力があるなら───」  俺とカイを、彰利と悠介に。  そう願いたいと……僕は思うのです。勝手なことだけどね。  きちんと“俺”として考えた結果だから、別に文句ないし。 ───……。  いい加減サマルトリアるのも疲れました。  でも動きます。だってオラは……人間だから……! 彰利 「ウォーリャー! 戻ってきたぜヤムヤム〜〜〜ッ!!」 ベリー「はいはいおかえり。通行証は貰えた?」 彰利 「オウヨ! ほれ見ぃやぁ〜〜っ! ほれ見ぃ〜〜〜っ!!」 ベリー「うぅわウザッ……! まあいいや、はいこれ、万能霊薬マスオウィタエ」 彰利 「なにそのアクアウィタエっぽいのにマスオな水!」  戻って早々に、小さなビーカーに入った水を渡されました。  香りはなんだかドクターペッパーっぽい。 ベリー「名前は適当に考えた。お望みの記憶の薬だから、オヴァーと飲んじゃって」 彰利 「なんか効果音からして怖いんだけど僕は負けませんよ?」  飲みました。ゴクリと。  ヤム子さんは別の容器を悠介に渡し、悠介もまたそれを飲む。  ……ドクターペッパーだ、これ。味が思いっきりドクターペッパーだよコレェェェェ。 悠介『……!? このわざとらしいメロー味!』 彰利「メロンじゃなかと!?」 悠介『いや……これはメロンじゃない、メローだ! メローイエロー!』 彰利「なんですって!? アタイのドクターペッパーだったのに!」  ……ふむ。  しかし特に記憶に刺激とかが全然ない。  強いて言うならメローイエローなんて懐かしい言葉がするりと出たくらい? ベリー「効果はちょっと遅らせてあるから、とりあえずマナ集めに行っちゃいなさいな。     私はエルフの里には入れないから、そこらへんはあなたたち二人で。     っと、ミア子も一緒か。じゃあ三人で」 彰利 「せやね。で? そのミアンドギャルドは?」 ベリー「ちょっと改造……もとい、安定化を進めるあまりにいろいろやっちゃってね。     もう来る頃だからちょっと待ってて」 悠介 『マテ。今聞き捨てならんことが聞こえたんだが?』 彰利 「改造ってどういうこっちゃァテメェエエーーーーーッ!!」 ベリー「あなたたちが思うような機械チックなものとは違うわよ。     元々集めたマナや魔力や諸力に対して、ミア子の体は器として小さすぎたの。     それをなんとかするためにいろいろと考えたんだけどね。     ほっといたらミア子、あと一週間もしない内に死ぬわよ?」 彰利 「いっしゅ───!?」 悠介 『なっ……なんでだよ! マナや諸力がそんなに大量に詰まってるってことか!?』 ベリー「いえーすざっつらいと!」  駅前留学の誰かさんっぽい返しかたされた! なんか腹立つ! ベリー「で、考えたわけね。     あなたたちどうせ、記憶が戻れば元の自分に戻りたいって思うでしょ?     いいわよ? そこのところは私がどうにかしてあげる。     不可能を可能にする力とかそんなものを使うよりも、     手っ取り早く解決してあげるから」 悠介 『そんなことが出来るのか!?』 ベリー「あなたたちの前世がやってきたことに比べれば軽い軽い。     それに、あなたラグナロクでしょ?     中にある賢者の石を全力で使えば、人一人の構造を書き換えるくらいわけないわ」 彰利 「……マジで?」 ベリー「はいマジで」  つッ……つくづく…………魔女ッッ!!  つーかそれよりもすげぇことやってたらしいアタイらの前世って何者!?  あ、でもやっぱマナとかは使うらしいから、しっかりマナを集めてこいとのこと。  そう言われちゃあやらねぇわけにはいかねぇぜぇ〜〜〜〜〜〜〜っ!! ベリー「……ん、ミア子も来たみたいだし、頑張っていってきなさいな。     ノーちゃんは協力してくれるだろうけど、面倒ごとはまだありそうだから」 彰利 「そうなん?」 ベリー「そうなん」  ウハーイ面倒くさそう……だが地界に帰るためなら頑張るアタイが今日も往く。  ほいで? ギャルドのヤローは……おお来た。 彰利「………」 悠介『………』  …………。 彰利 「……考えた結果って……コレ?」 ベリー「そゆこと。どうせ百何年も腐ってたんだから、別にいいでしょ?」 悠介 『……《だらだらだら……》』  悠介がカイスマイルのまま汗をだらだらと流す。  そう……やってきたおなごは確かにミア。  なのに、なんでか髪の毛の横に“空き缶”みたいなものを浮かせていて……! ベリー「あ、もちろん感情のほうまではいじくってないわよ?     それすると怒られそうだしね。わはー♪」  いや、そういう問題でもねー気が……。 彰利「……ミア?」 ミア「なに? 彰くん」 彰利「……おお、ミアだ」 悠介『!? …………は、はぁあ……そっか、そうだよなぁ、まさか……なぁ?』  話しかけてみれば、きちんとギャルドの反応。  そのことに心底安心を得たのか、悠介がてこてこと歩いてミアの頭をぐしぐしと撫でた。  どうやらよほどに緊張していたらしく、キャアそげなことするなんて、めっずらC! と冷やかしたのですが───ええ、その際、撫でる手が空き缶に触れたのですよ。  するとどうでしょう。  その空き缶がキャガンッとミアの髪の毛の一部を包み、房を作ると─── 悠介『へっ!?《がぶぅ!》うああっぎゃぁああーーーーーーっ!!!』  なんと! ミアが突然悠介の飛びつき、首筋を噛むではありませんか!!  ああJOJOッ、悲しすぎる!  彼女はきっとヤム子さんの手で吸血鬼に変えられてしまったのだッッ!! 悠介『いたたいたたたた! ちょっ、なにするんですかミアッ! 痛い痛い!』 ミア「ふぐー! ふぐー!!」 彰利「河豚とな!? おいおいなに言ってんだギャルドてめぇ、    吸い付いて離れねぇのはスッポンじゃぜ?」 ミア「……《ギロリ》」  キャア睨まれた!? なんで!? 彰利「オウコラてめぇなにガンくれてんだコラオウ? オ? もしかしてアレか?    おめぇ俺とやろうってのか?」  理屈はともかく眉間に皺寄せて軽くムキ歯になりながらシャドーボクシングをする。  するとどうでしょう! ……なんかすげぇ濃い溜め息を吐かれました。 ベリー「まあお察しの通り、     悠介の工房の中でイジケにイジケて腐ってたルナを使ったわけだけどね?     試験段階ってことで、封冠だけを移植したわ。     それが馴染むのに少し時間が必要だから、今はそれで我慢して。     マナ手に入れたらまた来なさいな。     もちろん、そのままのルナがいいっていうならそれでもいいけど」 彰利 「ウェーイ……」  空き缶娘……略してアキ子さんが仲間に加わった。 彰利 「アンテ!」 空き缶「《キャガンッ》───! ……あれ? 彰くん?」  ガッシィイイと空き缶を掴んで無理矢理開いてみせると、なんとギャルドの意識が戻ってきた! ……おおう、やっぱこの空き缶が全ての元凶か。 ミア「? なに?」 彰利「なんでもねーです」  ぽむぽむと頭を撫でて溜め息を吐いた。  こりゃあ大変なお子が仲間になったもんじゃて……。 Next Menu Back