───百何年の時を経て───
【ケース27:創精霊・晦悠介/地界へ戻るために】  ハイタッチをされて、何がなんだか解らないうちに彰……いや、彰利でいいか。  彰利は俺の背後に回った。  なにがしたいんだと訊いてみれば、「ドラクエ的仲間の在り方」と答えた。  律儀にミアまで誘って、後ろに並ぶ始末だ。 悠介『鬱陶しいからやめろ。それよりだ。どうする?    ベリーに頼めば体の作り変えが可能だが───』 彰利「うす。やっぱやり直すんなら元の体っしょ。    ただそれだとギャルドがちと寂しい思いをしそうでね」 ミア「……? なんのこと言ってるのかよく解らないよ?」 彰利「う、うむ……実はな。ここにおわすモミアゲ様は、これが真の姿ではないのだ」 ミア「え……? そ、そうなの? カイくん」 悠介『いや……あのなぁ……』  つくづく相変わらずだこのたわけは。  晦悠介としては確かに真の体ではないのは確かだが、そもそも今はラグが人のカタチになった姿なんだ、これが真だと言えば真だというのに。 彰利「そィでダーリン? アタイは弦月彰利に戻るつもりじゃけど、ダーリンは?」 悠介『ダーリン言うな。…………なぁミア。お前は変身願望とか、あるか?』 ミア「変身? ……姿を変えるって意味の?」 悠介『そうだ。このたわけが言った通り、    俺達は実は前世……って言っていいのかは疑問は残るが、    解り易く言えば前世の記憶を持っている』 彰利「ホレ、話したべ? ご先祖さまの話。あれがアタイらなのYO」 ミア「えぇっ!? そうなの!?」 彰利「押忍。だからね?    まあ……謝罪のこととか無視すりゃあ、彰の意思もカイの意思も、    そんでもって貴様の意思も中井出が受け取ってくれるざましょう。    そこで提案だ。アタイらこれから身も心も先祖のものになるけど、    貴様は別人になってみたいとか思わん?」  彰利が直球で訊ねる。  こういう時、物怖じしないやつだよな、こいつは。  一方のミアは少し俯いてぶつぶつと言葉を発した。  拾ってみたその言葉は…… ミア「……彰くんまで……私のこと、要らないって言うの……?」  だった。 彰利「いえそうではありんせん。ただね?」 ミア「いいよ……いいよもう! 結局彰くんも《メゴキャア!》ウジューーーリ!?」 彰利「話聞けコノヤロウ! …………ゲェエーーーーッ!!!」 悠介『うぅわ馬鹿っ! 首捻るヤツがあるかっ!』 彰利「馬鹿とはなんだコノヤロウ! ともかくキツケねキツケ!    えーと確か上半身を起こして背中をこう……破ッ!!」 ミア「《ボゴォッ!》…………《ガクリ》」 彰利「死んだァァアーーーーッ!!?」  背中をゴッと押されたミアが、ついにぐったりと脱力した。  おまけに彰利はミアの肩を押さえてガックガックと揺さぶったのちに「ヨォオしっかりしてくれよぉお!」と叫んでトドメのビンタをズッパァーーンと。 彰利「い、いかーーん! やはりここはキツケを! 喝ぁつ!!」  そして再びキツケをすると、もはや反応も示さないミア。  ……のちには、にっこりと笑顔のままに汗をだらだら流す彰利が残された。 彰利「……ヤムヤムのとこ、行くべ……」 悠介『そうだな……』 彰利「ほんとそう……」  やがてとぼとぼと歩き出す。  さて……目覚めたあとのミアがどんな反応をするか……。 ノート『いや、少し待て汝ら』 彰利 「だめだ」 ノート『ぬごっ!? ……相変わらずだな汝……!』  溜め息を吐いたノートに対し、だってアタイだものと返す彰利。  結局は「ああもういい、行ってしまえ」とシッシッと手を振られてしまい、俺達は苦笑しながら歩いた。 ───……。  ベリーの館は相変わらずの姿でそこにあった。  マンドラゴラも変わらず存在し、それらを見ていると、かつて初めてこの大地に下りたことを思い出す。  館に辿り着いた頃にはミアも館の癒しの空気に触れ、目を覚ましていた。  で、気絶させたことなどの誤解を解いたのちにこうして立っているわけだが。 彰利 「ヨゥメェーーーン! アイはミーYO!     元気してたかベリっ子ヤムヤムーーーッ!!」 ベリー「おや、おかえりー。その様子だと記憶は戻ったみたいね」 彰利 「だめでした」 ベリー「わはー、それじゃあしょうがないねー。……実験台にでもなる?」 彰利 「お前には出来ないかもしれない《ニヤリ》」 ベリー「わはーーはははは! よく言ったトンガリくん!」 彰利 「オウヨ! さあデュエル! 俺のチームからは───ミアを出すぜ!」 ミア 「え? なに? 呼んだ?」 彰利 「押忍。このシェリルババーソンが遊んでくれるって。行ってこい!」 ミア 「え……あ、う、うん……?」 ベリー「……キミ、いろいろ最低ね」 彰利 「夢だけでメシが食えるか!」 ベリー「言ってる意味が解らないわよ」  律儀に歩いていったミアが、ベリーにデコピンされて「ぴあー!」と泣きながら戻ってきた。 彰利 「こ、この最低野郎! 何も知らない無垢な子供になんてことを! 死ね!」 ベリー「わはー……あなたにだけは言われたくないわー……」 彰利 「おうおう可哀相にねェエ〜〜〜〜ィエ……!     このオーガババアにデコピンなんてされたら、頭から腐ってしまうところじゃわ」 ベリー「鬼ババアどころかオーガババアって……キミねぇ、     誰がキミたちの体の調整すると思ってるの?」 彰利 「オ? なんだ? 一度引き受けたくせに怒ったら撤回するんかコラ」 ベリー「普通するでしょ」 彰利 「おおそうかも。ならば安全を保障して痛くないように完了させろーーーっ!!     さもなくばこの娘の命が愉快だぞコナラーーーッ!!」 ミア 「えぇえっ!? 愉快ってなに!?」 彰利 「なんだそげなことも知らんのかこの小娘は……」 ミア 「私小娘じゃないよぅ!」  ミアを向かわせておいて、迎撃されて泣きながら戻ってきたミアを人質に取る。  ……うん、相変わらず清々しいほどに腐れ外道だこいつ。 悠介『前に訊いたか? どうしてお前と提督って性格が妙なところで似てるんだーって』 彰利「およ? 言ってなかったっけ? アタイのこの性格は中井出から。    中井出の性格もアタイから移ったものなんよ?    歴史の繰り返しの中盤あたりだったかねぇあれは。    ほれ、中井出もばーさん潰れたり両親死んだりでイジメにあってたらしいじゃない?    アタイも当時は心死んでたし。でもすこ〜しずつ繰り返すことに慣れてきた頃だ。    繰り返しの中で違うことを見つけて、周りの反応が変わってくることを知って。    で、迷惑部を発足していろいろやって……んで、    まずは中学3年の頃あたりに周りに影響されてアタイの性格が少し変わった。    次の繰り返しの時にはその性格に影響されて、少しずつ中井出が変わって。    で、また3年の頃あたりにその性格に影響されてアタイ、次は中井出って、    繰り返す度に成長していく性格の起伏ってやつを交換し合ってたわけですよ。    無意識だけど。んで、今のアタイらがあるわけ。    妙なところで似とるのはその所為YO」 悠介『で、それらの影響下には原中って存在までもがあるってわけか』 彰利「そやね。そういう意味では確かに、アタイと中井出って将軍と提督なのよね。    つーわけでベリっ子ヤムヤム、アタイらをかつての姿にしてたもれ?    この姿じゃ愛を語ることすら出来ん」  語る気なのか。  そういえばルナのこともアレコレ言われてたわけだが……ん? 愛? 悠介『愛といえば……お前の記憶って今どんな感じだ?    やっぱり篠瀬だけと連れ添ったってものになってるのか?』 彰利「ホヘ? なってるもなにも、そーでないの?」 悠介『…………そうだったな、いや悪い。ちょっとこんがらがってた』 彰利「ウフフ、ヘンなダーリン」  ……そっか、やっぱりそうなのか。  サーフティールのやつらを見る限り、しっかりと元に戻ってるみたいだったんだけどな。 悠介『で? お前は転生する前、他の妻たちとはどう付き合ってたんだ?』 彰利「訳も解らず逃げ回ってました。    なんかいきなりモテ期来襲って感じで、もうなにがなにやら。    聞けばドッキングまで済ませた仲というじゃないですか!    ホワイ!? いったいいつの間に!?」 悠介『あー……なるほど』  彰利は夏のことを覚えている。  しかし重婚の記憶は夏の中で封印して、残っていない。覚えているのは俺と提督だけ。  なのに他のやつらは夏の経験を忘れているから結婚したものとして覚えている。  ややこしいな。実にややこしい。 悠介『それに関してはお前がデスティニーブレイカーで過去の経験を破壊した。    それがヒロライン内で起こったことで、    ヒロラインのことを忘れてるあいつらは覚えてない。    でもお前は覚えてるからこそ忘れてる。そういうややこしい状況なんだ、今は』 彰利「あの……マジで?」 悠介『ああマジで』  提督の中の意思体の彰利なら、全部解った上でいろいろと大変だろうが、こいつの場合は覚えているのと覚えていないのとがごっちゃになってるだろうから性質が悪そうだ。  で、人質にされながらそんなことを間近で聞いていたミアは、“?”と疑問符を浮かべながら彰利を見ている。 ミア「えと。彰くん、ってそのまま呼んでもいいのかな」 彰利「美しい魔闘家鈴木と呼んでくれ」 ミア「あ、うん。美しい魔闘家鈴木くんは王様かなにかなの?    空界では一夫多妻が認められてるけど、地界がそうだなんて初めて知ったよ?」 彰利「鈴木だからな。    言っておくが地界には鈴木がたくさん住んでいて、その数だけ嫁が居る。    だから鈴木には嫁がたくさんなんだ」 ミア「そ、そうなの!? そんなに鈴木くんがいっぱいなの!?」 彰利「すげぇだろ」 悠介『地界におわす鈴木さんに謝れお前』  ツッコんだところで、いい加減話を進めよう。  さて、一応人質ってことで諦めたのか、溜め息ひとつ吐くベリー。  その上で俺を手招いて妙な魔法陣の上に立たせると、 ベリー「じゃあ属性解放をしてちょーだいな。先にトンガリくんを変換するから」 悠介 『大丈夫なのか?』 彰利 「大丈夫大丈夫。失敗しても顎が割れるだけだから」 ミア 「なんで!?」 彰利 「実はあの魔女様は術式の影響を受け易い体質なんだ。     それで失敗すると何故か顎が割れ、成功すると戻る。     弦月彰利として生きていた頃は、アゴケツァルカトリーヌの異名を誇ったほどだ」 ミア 「す、すさまじい名前だね……!《ドキドキ……!》」 彰利 「スランプ時には顎が割れまくって、     “乙女妖怪いろいろな意味でザクロ”の異名も誇ったほどだ」 ミア 「……《ごくり……》」 ベリー「ちょ、ちょっとちょっとー!? ヘンなこと教えるんじゃないわよー!     そんな異名で呼ばれたことないし、     異名をつけられるほど親しい相手も居ないわよ!」 ミア 「あの……違うって言ってるよ?」 彰利 「騙されるな。ありゃウソだ」 ミア 「そうなんだ……《ごくり》」 ベリー「……ほんとに失敗してくれようかしら、こんちくしょうめが……」  平和だなぁおい……。  むしろさっさと始めてくれ。 ベリー「じゃあトンガリくん、ちょっとそこ立って」 彰利 「こ、この痴女が! いきなり勃ってなんてなに考えてやがるこの痴女が!!」 ベリー「んなわけないでしょなに全力で誤解してるの! あとわざわざ二回痴女言うな!」 彰利 「聞いて痴女エリーナッ♪ ちょっと言いにくいんだ〜けどっ♪     聞いて痴女エリーナッ♪ この痴女が!」 ベリー「随分ハッキリ言ってるじゃないの! 今のどこに言いにくさがあるのよー!」 彰利 「聞いてくれてありがとぉ〜ぅお痴女エリ〜ナッ♪」 ベリー「ねぇ悠介。こいつマンドラゴラに変換して地面に埋めていい? 逆さで」 彰利 「ヴォソヴォソ……」 ミア 「え? あの人は本当は魔女じゃなくて痴女?」 ベリー「あっはっはっはぁ、なに教えてるのかなぁトンガリくん《ゴシャアアア!!》」 彰利 「ギャアエクスカリバーはマズイ!     やめましょう!? 話せばワカメ! じゃなくて話せば解る!」  手にエクスカリバーを溜め始めたベリーを前にあっさり折れるたわけが居た。  こんな状況で遊ぶな……あとが不安だから。 彰利 「いや、いざとなると結構緊張しちゃってね?」 ベリー「緊張してれば人を痴女扱いしてほぐすのかこのトンガリさんは」 彰利 「ほぐれたぜ?」 ベリー「そこでウィンクされるとすごい腹立つ」  言いながらも式を描き、魔法陣の魔力を増幅。  吸収したマナを解放させて、いざ変換を。 彰利「《パパァアア!!》ハッ!? か、体が光る!!」 ミア「わっ、わっ、彰くん光ってるよ!?」 彰利「い、今なら美白美人にも負けねぇ!    美白……それは血色の悪さが際立つ白色乙女の証……!」 悠介『なんでお前は自分を書き換えられながら乙女に喧嘩売ってんだ』 彰利「だってアタイ美白よりも血色いいのが好きなんだもの!    ターちゃんのクローンがパワーアップしすぎた時の血液沸騰状態とか」 悠介『血色云々の問題を超越してるだろうがあれは!!    お前はなにか!?    自分が好きになるならああいうヤツになってほしいとか思ってるのか!?』 彰利「かさぶたではない」 悠介『それを言うならやぶさかで、そしてそんなことに努力を惜しまないのかお前は』 彰利「ぬ、ぬう……えーとえーと……ググーーーッ!!    せっかく体が光ってるのになにも思いつかーーーん!!」 悠介『無理に何かを成さんでいいから黙って変換されろ』 ミア「ふぁ、ふぁいとだよ彰くん! じゃなかった美しい魔闘家鈴木くん!」 彰利「ごめんなさいやっぱ彰くんでいいっす!    つーかさっきもそう呼んでたでギャアーーーーッ!!」  彰利の体が光に混ざり、球体となって宙に浮く!  やがてその光が破裂するように瞬くと、その場には一人の男が立っていた……! ライデン「アイアムライデェン」  ライデンだった。 悠介 『……ベリーよぅ……』 ベリー「じょ、冗談冗談っ、わはー、すぐ直すからっ」  いや、本当に頼む。  つーか彰利も面白がって遊んでるし…… ライデン「ボーーーアーーーッ!!《シュゴォオオ》」 ミア  「ふひゃあっ!? ひ、火ぃ吹いた!」 悠介  『おーい彰利ー?      それライデンじゃなくて維新激闘編のひょっとこだからな〜?』 ライデン「え? マジで?」 悠介  「ライデン姿でそういう喋り方やめろ」  大体そういうことならお前のほうが詳しいだろうが───とか思っているうちにもう一度変換が行われる。  変化した先は───きちんと彰利だった。 彰利「アァーーキィーーートォオーーーーシィーーーーーッ!!《美ッシィーーーン!》」  光とともに美しいポーズ。  それからニコリと笑うと、驚いているミアをからかい始めた。 ベリー「じゃ、次は悠介ね」 悠介 『ああ。頼む』  俺も変換がなされ、悪戯は無しのままで晦悠介の姿に変換。  それを見ながら、どこか寂しそうにしているミアには新しい封冠が渡され、それはミアの頭の横あたりをふよふよと浮いていた。  新しい封冠の代わりに取り上げられた封冠はベリーの手に戻り、それを手に魔法陣の力を発動させると、封冠を媒体に召喚される何者か。  それは………… ベリー「で、おまけに死神をあなたに」 悠介 『へ? って、ちょっと待───!!』  封冠を媒体に呼び出されるものなんて予想がつく!  止めようとするも既に遅く、魔法陣が輝くと召喚される…………能天気死神。 ルナ「……? んあ? あ、あれ……? わたし、ゆーすけの工房で……あれ?」  どうやら寝ていたらしい俺がよく知るもう一人のたわけは、目をこしこしと拭いながら軽く欠伸。 ルナ「んん……いい夢だったなぁ……。    気づいたら目の前にゆーすけが居て、喉に噛み付いて……………………?」  で、そのぼんやりとした目が俺を捉える。  その瞬間には目がヴァチーンと見開かれ、ソッと逃げようとした俺は ルナ「ゆーーすけーーーっ!!」 悠介『《がばしぃっ!》だわぁああーーーーっ!!?』  ……あっさり捕まった。  呆れる速さで突撃&抱擁され、頬擦りされ、振り回され、まるで猫がそうするように顔をペロペロと舐められてぐああああああやめろやめろやめろぉおおおおっ!! ルナ「ゆーすけ! ゆーすけゆーすけゆーすけぇえええっ!!」 悠介『ばっ! ちょっ……ルナッ! 離せっ! みんな見てるだろ!』  言ったところで聞きやしない。  軽く抱くくらいじゃ足りないくらいに距離を縮めたいのか、強く強く抱き締めてくる。  それに抗おうとするも、てんで放そうとしない。  それどころかバランスを崩して倒れてしまった途端に接吻までしてきて、押し退けて逃げようとすれば足に足を絡ませ、腕はいつのまにか体ごと抱き締められていた。 ルナ「ゆーすけ……ゆーすけぇ……」 悠介『ふぐっ!? んぐっ……むぐぐっ……ぷあっ!    ま、待てと言っとるのが解らんのかたわけっ!    ていうか彰利! ミア! 見てないでなんとかして《まちゅり》ふむぐーーっ!?』 彰利「ぬ、ぬう……なんという濃厚ラヴ……!    百数年溜まった愛が今こそ溢れ、ダーリンを捕らえて離さない……!」 ミア「わっ、わっ、わぁあーーーっ……!」 悠介『濃厚だろうがなんだろうが今絶賛助けてほしいんだが!?    つーかわーわー言いながらしっかりと見てるなよ!!』 彰利「しっかりと見てルナよ! とは……愛だぜダーリン!」 ミア「愛だねっ」 悠介『てめぇらなぁあああああっ!!!』  叫んでいるうちに接吻の嵐。  いっそこのまま愛を育みましょうってくらいに密着し、幾度も幾度も。  喜びと興奮からか息を荒げるルナが、人の口内に舌を滑り込ませ、俺の口の中を味わわんとする。それは実際その通りで、緊張の所為か出てきた唾液を舐め取って飲んだりしているのだ。  ああ、もちろん押し退けようとしたんだが、こんにゃろ壁抜けの要領で自分の衣服を地面に通して、壁抜けを解除しやがった。  だから俺は床とルナに挟まれる状態で、押しても引いても逃げられやしない。  ルナの衣服を破れば逃げられるだろうが、さすがにそれはまずいだろ。なぁ? 彰利「ぶっちゅ! ぶっちゅ!」 ミア「うわ、うわーーわわわわ……! 唾液飲んでる……飲んでるよぅ……!」 悠介『だからまじまじと観察してるんじゃねぇえええーーーーーっ!!』  叫んだ瞬間に逆に口内に唾液を流し込まれ、思わず飲んでしまう。  するとどうだ、どれくらいかぶりに交換した体液の所為か思考が鈍り、感情ばかりが昂ぶっている。ああ、ようするに興奮しだしている。  しかしまあそれと見られている事実とは別問題なので、 悠介『裁きぃいいいいいっ!!』 ルナ「《ヂガァアンガガガガ!!》ふぎゃややややややあああああーーーーーっ!!?」  月鳴力を創造、体液で伝導率を高めて食らわせてやると、へたりと力を抜いて目を回すルナ。そんなルナの下から真上へとなんとか逃れ、目を回しているソレの頭を溜め息を吐きながら撫でた。 悠介『……すまん。寂しい思い、させたよな』  しかしそれはそれ、これはこれだ。  などと思っていると、頭を撫でている手にこしこしと頭を擦り付けてくる。  ……もう目が覚めたらしく、けぽっと煙を吐くなんてベタなことをしつつ、俺を見上げるその顔がにこーと微笑んだ。涙を浮かべながら。 ───……。  それからどうなったのかといえばだ。 ルナ「〜♪ ゆ〜すけ〜……ゆーすけー……♪ んふふ〜……ゆぅすけぇえ〜〜……♪」  喜びを体全体で表現しているかのような幸せ死神が、俺の首に抱き付きながらふよふよと浮いている。  彰利とミアはそんな俺を見てヒソヒソと話し合っていて……いやな、お前らさ。ほんとにヒソヒソ言うのってどうなんだ? 意味あるのかそれ。 ベリー「さてと。あとは地界に帰る方法、だったわよねー?」 悠介 『そうだな』 彰利 「そういやレファルドで本見せてくれ〜って頼むの忘れたし」 ミア 「えぇっ!? せっかく行ったのに忘れたの!? 彰くん馬鹿だよぅ!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!」  三者三様。  溜め息が尽きない状況の中、それぞれが事情を話して転移書を探していたことを知ってもらうと、ベリーは「あーあれね」と頷いた。 ベリー「暗記してるから使えないこともないわよ?     ていうかそれ言ったら悠介のほうが覚えてるでしょうに」 悠介 『あのな、こちとらついさっき記憶が戻ったばっかりなんだが?     体に馴染ませるまでは無理は出来ないんだよ』 ベリー「まあそれもそうでしょーね。じゃあ今回は私が。言っとくけど貸しだからね?」 彰利 「フッ、望むところだ。うちのミア助の器のデカさナメんなよテメー」 ミア 「え? あ、あれ……? 彰くん!? なんでそこで私の名前出すの!?」  何故か彰利が踏ん反り返りながらミアをズイと前に出した。当然ミアは困惑状態だ。 彰利「すげぇだろ。ミア助さんは俺達に代わって借りを返してくれるんだぜ?」 ミア「返さないしそもそも負わないよ!?」 彰利「フッ……そういうことだ。さあなんでも言ってみるがいい。    負うまでもなく貸しを叶えてくれるそうだぜ?」 ミア「そういう意味じゃないったら!」 彰利「なんと!? だったらどう貸しを返すってんだい! 言ってごらんなさい!」 ミア「だからどうして私が返すこと前提になってるの!? 私関係ないよ!?」 彰利「なんだとてめぇ! 誰の所為でこの美しいアタイが召喚されたとお思い!?」 ミア「二度目は自業自得だよぅ……」 彰利「グ、グム〜〜〜〜ッ、それ言われるとオラつれぇ……」  しでかしたのはお前であってお前じゃないって感じの彰だが。 ベリー「ん、んー……やっぱダメね。次元干渉が出来ないわ。     出来るには出来るけど、中を通ればただじゃ済まないわね」 悠介 『彰利が千切れるのか?』 彰利 「え? なんでアタイ限定?」 ベリー「それも面白そうだけど、普通に次元がおかしくなってるのよ。     元々空間世界だからねー、こういう乱れには滅法弱いし。     狭界が無くなった分、以前よりは安定してる筈なんだけど……んーと」  眉間にシワを寄せて、虚空の見えないキーボードを叩くベリー。  少しすると映像の式が出現、次元の状況とやらをグラフめいたもので見せてくれた。 彰利 「ウヒョウ、すげぇ荒れてんね。どういう見方すりゃいいのか知らんけど」 ベリー「見方は見たとおりでいいわよ? 荒れてるの確かだし」 彰利 「……………」 悠介 『なんでお前はそこで得意げな顔でこっちを見るかな……』  「すげぇだろ」って顔が言っていた。むしろ今言った。 ベリー「んー……安定させるには各世界に行って、空間安定させるほかないわね」 悠介 『空間安定?』 ベリー「そ。知っての通りここは空間世界でしょ?     空間世界ってのは言ってみれば全ての世界の狭間にあるような世界で、     手順さえ踏めば天地空間どの世界からでも来ることが出来る世界。     つまりね、そういった世界に足を運んで、     ほつれている部分を繋ぎなおして欲しいって話」 彰利 「クォックォックォッ……大船に乗るがいい。あとで後悔しても知らねーぞ。     なにせこちらにはミア助が居るんだからな」 ミア 「……ねぇ彰くん? さっきから私のこと無理矢理陥れようとしてない?」 彰利 「なにを弱気な。貴様が居ればこの条件、勝ったも同然だぜ?     なんでか知らねーけど」 ミア 「彰くん……自分が地界に戻れるかどうかのお話なんだから、     もっと真面目に聞こうよ……」 彰利 「グムムー……真面目な空気はどうも苦手で……」  空間安定か。  落ちかかっている釣り橋を繋ぎ直すようなもの、だよな? 悠介 『なんとなくだけど解った。で、どうすればいい?     このパターンだとお前は動く気がないんだろ?』 ベリー「わはー、失敬だねー。私がここで多少の安定を支えてあげてないで、     いったい誰がどうやって繋げるまでの次元安定をするっていうのさ。     別に繋げようとしている間、なにもせずに波打つ次元を傍観しててもいいのよ?」 悠介 『………』  なるほど、そういうことなのか。  これはいろいろと面倒そうだなぁ……。  しかしながらそう言われては頷かないわけにもいかない。  溜め息を吐き、軽く手を挙げて降参と了承の意を示す。 悠介 『解った。で、今度こそどうすればいい?』 ベリー「ん、よろしい。     ようは空間と空間を繋いでる場所に行って、そこを埋めちゃえばいいのよ」 悠介 『埋める?』 ベリー「そう。外れかけた橋の隙間に足場をつくるようにベタ〜って。     で、埋めたらそこに固定の式を埋め込む。それでOK」 悠介 『……それで? そのほつれた場所ってのは大体どこにあるんだ?』 ベリー「次元の狭間」 悠介 『無茶言うな!』  そんなの、次元の流れに飲み込まれてくださいって言ってるようなもんじゃないか! ベリー「だいじょぶじょぶ〜♪ そのために私が居るんだし、     そういう次元の狭間での行動が得意なの、居るでしょ?」 悠介 『得意なの、って…………あ』 彰利 「……ホイ? なにやら視線が集っているような……ややっ!? なんだべ!     アタイなんかを見てなにがやりてーんだべ!」  ……そういえば、そもそもこいつって月空力を得たり無限地獄繰り返したりして、空間移動のことなら随分と上手に出来るわけで…… ベリー「こっちもリヴァイアとかイセリア、ルーゼンやバルグ老に手伝わせるし」 彰利 「ホ? おおそうそう。     リヴァっちが何か協力できることがあったら言えって、伝言頼んできたのよ。     確かに伝えたぜ? 駄賃分くらいは」 ベリー「そ? 手間が省けていいわ。     じゃあ困ったことがあったらリヴァイアにもらった連絡の式を……って、     もう前の悠介とトンガリくんじゃないから式は無くなってるか。     でもやり方は覚えてるわよね?     送信はトランス、受信はアクセス、切断はカティング」 悠介 『ああ、あれか。覚えてる』 彰利 「キャア懐かスィー!     ……あれ? でもなんかアタイに重大な使命が課せられたような。気の所為?」 悠介 『次元の狭間に行って空間のほつれを直してくれ、だそうだ』 彰利 「…………えーと。もし次元の濁流に飲まれたら?」 ベリー「わはー♪ どこに飛ぶか解らないわねー♪」 悠介 『やったな。運が良ければノートみたいに古の神々の世界に飛べるかもだ』 彰利 「ウギャア全然ちっとも嬉しくねィェーーーーーッ!!     あ、でも興味があるかって言われたらちょびっとだけ。でも嫌よ嫌嫌!     あなたっていつもそう! アタイに恐ろしいことを任せて自分だけ───」 悠介 『とりあえずお前にだけは言われたくない』 彰利 「ウ、ウン……ソウダヨネ」  こいつにかけられた迷惑の量なんて、今回のことを任せてもおつりが欲しいくらいだ。  とはいえ……確かにこれでもし次元の波に飲まれたりしたら、空間を安定させるまではどうあっても空界には来れないってことなんだよな?  ……こわいな、それは。 ミア「彰くんにそんなこと出来るの?」 彰利「出来ますよ失礼な! 言っておくがアタイはその道のプロヘッソナルだぜ?    なにせ自分を未来とかに飛ばしながら転移を覚えた超実戦流時空マスターだぜ?」 ミア「でも自分ひとりじゃ地界に戻れないんだよね?」 彰利「う、うるせーーーっ!!」 ミア「やーい彰くんの超実戦流時空マスタ〜ッ♪ マスターなのに戻れない〜っ♪」 彰利「グムムギギ〜〜〜ッ!! お、俺をその名で呼ぶんじゃねぇえ〜〜〜っ!!」  自分で自己紹介したんだろうが……。  まああっちはほっといて……ってちょっと待て。 悠介『ミア……なんていうかお前、変わらないな。    一応彰から彰利に変わったっていうのに』 ミア「え? だってあんまり中身が変わってないんだもん。姿は違っても彰くんだよコレ」 彰利「コレです《バァアーーーーン!!》」 ミア「それに私と彰くんはお友達だし、姿が変わったくらいじゃどうってことないよ?    彰くんだったらいつか変態するかもとか思ってたし」 彰利「アタイはまだ3回、変態を残してる。    そしてその変態ごとにパワーアップするんじゃぜ?    主にナスになったり着ぐるみ着たり」 悠介『着ぐるみはやめとけ。どうせ脱げなくなる』 彰利「ウフフダーリンたら心配性♪ アレなにかの偶然なのよきっと。    だから大丈夫。アタイ最強、アタイステキ」 悠介『……そうか。お前がいいんならいいんだけどな……?』  気にしないことにした。  いい加減話を進めたいし。 悠介 『で、その時空の歪みは何処にあるんだ?』 ベリー「丘の魔女の屋敷にひとつ。悠介が黒竜王を斬り滅ぼした場所にひとつ。     三下レヴァルグリードを斬り滅ぼした場所にひとつ。     空界の中心、ウォルトデニスの泉跡にひとつ。     次が……生贄の祭壇。かつて、ゼプシオンとミルハザードが召喚された場所。     あとは……微弱な反応だけど、サーフティールの水没神殿にひとつね」 悠介 『サーフティールに?     水没神殿ってのは浮遊塔に入るために通った、あの水竜が居た場所だよな?』 ベリー「そう。他のところはいずれも次元干渉があった場所なんだけど、     どうしてか他に反応するところに水没神殿が含まれてるのよね。     魔女の屋敷にはツンツン頭が召喚されたり飛んできたりが原因。     黒竜王を斬り滅ぼした場所は、まあ悠介の所為ってことで。     三下……十六夜逝屠を斬り滅ぼした場所は、まああいつと悠介が原因。     ウォルトデニスの泉跡は空界と狭界を繋いでいた場所だから。     元生贄の祭壇は……解るでしょ? でも水没神殿はよく解らないわ」  ……何があるんだろうか、そこに。  考えてみても解らん。  行ってみるしか……ないよな? 悠介『じゃ、早速行くか。つーかな、ルナ。そろそろ離れ───』 ルナ「ヤ」 悠介『………』  野郎……。 彰利「おっほっほっほっ、元気だぁ。ほいじゃあまず何処さ行く?    アタイとしては近いところから滅ぼしたいところじゃけんども」 ミア「屋敷でいいんじゃないかな。誰か侵入してないか心配だし」 彰利「せやね。つーわけで悠介、丘の魔女の屋敷さいくべー」 悠介『魔女の屋敷だな? 解った』  一応マップを開いて、歪みがある場所にマークをつけておく。  その途中、ベリーが機械を渡してきた。 悠介 『これは?』 ベリー「ナメタケにムナゲが生える薬」 悠介 『全力で要らん』 ベリー「まあ冗談。まあ気が向いたら使ってみるといいよ。     ちなみに使わないと一週間でミア助が死ぬわ」 ミア 「ええっ!?《がーーーん!》」 悠介 『あー……つまり、なんだ? なにかを発散させる道具とか……か?』 ベリー「発散……そうね。そういうことになるわ。     ルナがつけてる他に封冠がある。それでなんとなく予想はつくと思うけど」 彰利 「………」 悠介 『…………それは……』 彰利 「つかいたく……ねぇねぇええ……」  予想どころか確信した。  使えば絶対にフレイアだ。  ていうことは……? 悠介『ルナ、ちょっとすまん』 ルナ「?《カギャンッ》えっ───あっ!」  失礼して、ルナの髪に通された空き缶……もとい、封冠を取ってみる。  しかしフレイアになることはなく、ルナは慌てて頭を押さえた状態のまま疑問符を浮かべて俺を見ていた。 彰利「……ますます使いたくねぇやね……」 悠介『疑問が確信に変わったな……』  ちらりとミアを見る。  そのミアも、疑問符を浮かべて俺と彰利と見ていた。 彰利「いやしかし、フレっちと交代するとおっかなくてマジマジと見れなかったけども。    ストレートなルナっちも結構イイネ」 悠介『実は俺も驚いてる。和風美人って感じだな。実にいい』 彰利「……キミ、剣として生まれ変わってもそういうところは治ってねぇのね」 悠介『日本が好きでなにが悪い』  じっと見ていると、ルナが恥ずかしそうに身を縮みこませた。  思えば容姿を褒めることもじっと見つめることもほとんとしていない俺だ。  そんな視線が気恥ずかしいのだろう。  ああ、もちろん俺自身も恥ずかしいさ文句あるかこの野郎。 彰利「ルナっち〜、かぐらしめって呼んでいい?    もしくはカグヤ・ザ・グレートバトラー」 悠介『どっちもやめい』 彰利「だってさ、かぐや姫じゃヒネリがねぇじゃねぇの。    いや、むしろこのストレーティンヘヤーで死神の黒衣はいかんよ。    つーわけで悠介!」 悠介『任せろ! 生まれ変わって初めての最高の創造を見せてやる!    イメージ、超越凌駕にて解放!! はぁああああ……!! 和服が出ます!!』  超越も凌駕も出来やしないが、気分だけでも全力全開!!  そして出来上がった創造物は、黒に四季の彩を縫った美しい着物!! 彰利 「うおすげぇ! なにこれ! すっげぇ細けェ!!」 ミア 「わー! わー! 綺麗だねっ! 綺麗だねぇっ!」 ベリー「わーはー……無茶するわー……。     安定してないとか言ってたの誰よ……完璧すぎるじゃない……」 悠介 『いや……ここな、この部分にもうちょっと花をだな……』 彰利 「十分だっつの! なんなのその異常なまでのこだわり!     ちょっ……ルナっち!? ルナーーーっち!!     悠介が作り直す前にさっさと着ちゃって!」 悠介 『〜〜〜……いやちょっと待て! やっぱり変換する!』 彰利 「なんだと!? だめだ!     これはもう低松組のものだ! おまえなどにやるものか!」 悠介 『なにが低松だ! いいから返せ!』 彰利 「《ぐいっ!》あっ! な〜〜〜ん〜〜〜だ〜〜〜よ〜〜〜っ!!」 悠介 『や〜〜〜め〜〜〜ろ〜〜〜よ〜〜〜っ!!』 彰利 「なにっ!? ノってきやがった!」 悠介 『隙アリおぉりゃあっ!』 彰利 「《ゾブシャア!》ミギャァアアーーーーオォオーーーーッ!!!」  着物を掴み、放そうとしない彰利が驚いた刹那、その目にサミングを進呈。  悶絶したところ回収し、変換、完了!! 悠介『さあルナッ! 着てくれっ! 俺の真心と渾身がここにあるっ!』 ミア「わぁっ! やっぱり綺麗だねっ! 刺繍がさっきよりもっと綺麗になったよっ!」 悠介『渾身だからなっ!《キラキラ……!》』 彰利「ゲゲェすっげぇ輝いた顔してる! そしてもう復活してるアタイ。最強」 ルナ「…………《キュム》」  着物を受け取ったルナは、少し顔を赤く染めながらキュッとソレを胸に抱き、ほにゃあ……と頬を緩ませて笑った。  ……こういう時のルナは普通に可愛いと思えるから困る。  思うだけで言うつもりはないのだが。 彰利 「……やべぇすげぇ破壊力だ……」 ミア 「い、いいのかな……可愛いって素直に言っちゃっていいのかなぁ……!」 ベリー「ふ〜ん……? ねぇねぇ悠介? 私にも和服───」 ルナ 「ふかーーーっ!!」 ベリー「ふわっ!?」  で、ほにゃりとしているかと思えば、ベリーが俺に近付けば猫よろしく、ふかーと喉の奥で叫んで威嚇する始末。  ご丁寧に「う〜〜〜……!」と唸りつつ、俺とベリーの間につつっと歩いてくる。 ベリー「わはー……愛されてるねぇ悠介……。どれ、ちょっと接近」 ルナ 「フヂャッ!! ……〜〜ふか〜〜っ……!!」 彰利 「急に驚かされた猫みたいな反応したね今。一瞬猫パンチ出かけたし」 悠介 『ル〜ナ、いいから着てみてくれって。間違いなく似合うから。俺が保証する』 彰利 「なんと!? 日本魔人の悠介のお墨付きが出おった!     こうなりゃ似合うに違いねぇ!     さ、さあ山岡くん! 早速着て見せてくれたまえ!」 ルナ 「………」 ミア 「? ヤマオカくんて誰?」 ルナ 「………」 悠介 『……なぁルナ? まさかとは思うが、着方が解らないとかか?』 ルナ 「……さすがに100年以上も前だと……。     ずっと前にゆーすけに教えてもらいはしたけど……その」 彰利 「ンマァーーーアアア悠介の妻ともあろうものが着物の着方を忘れたッッ!!     これはとても許せることではないざますわよ!?」 ルナ 「うぅっ……」 彰利 「あ、あれ? 反論がこない? おっ……おーーーっほっほっほ!?     ちょちょちょちょいとルナ子さん!? いや、あの……お、落ち込まないで?     今の冗談、冗談だから……ね?」  彰利の言葉がよっぽど突き刺さったのか、着物を抱き締めたまましょんぼりとしてしまうルナ。いや……懐かしいなこの反応。そういえば最初に着物を贈った時も、申し訳なさそうに着物を抱いてたっけ。  ならばと笑い、頭をポンと撫でて「着付けを教えてやる」と言う。  するとぱぁっと表情が明るくなり、今度は忘れたりしないからと約束をする。  ……ほんと、100年もの間ほったらかしにしてしまったんだ。  忘れてたって怒れるわけがない。むしろ待っていてくれたことにありがとうだ。 彰利「なんだろ……すっげぇ罪悪感が生まれた……ルナっち相手にこんなの初めて……」  その一方で彰利は、ルナの落ち込み様を見てダメージを負っていた。  あのルナが、だもんなぁ。そりゃ驚くさ。  というわけで着付けを……─── 彰利「………」 悠介『………』 彰利「…………ありゃ? 着付け教えんの?」 悠介『いや……あのな。お前は外で待ってろ』 ルナ「むしろ女連中も。私の肌を見ていいのはゆーすけだけなんだから」 ミア「わあっ……愛だねっ! ほらほら彰くんっ、愛する二人を邪魔したらだめだよっ」 彰利「なんと!? てめぇいつからそげに他人に気を使えるようになりやがった!」 ミア「彰くんに振り回されたりしてから」 彰利「ソ、ソーリー……」  おかしなところで素直だな、おい。  ともあれ彰利もミアも、ベリーも出て行き、この場には俺とルナだけが残される。  そんな中で、いつかを思い出しながら着物の着付けを教えた。 ルナ「……えへへー♪」 悠介『うん? なんだ、随分嬉しそうだな』 ルナ「だって、もうずぅっと一人だと思ってたのに。    こうしてゆーすけと会えて、また着物を貰えて。    えへ……えへへ……なんか、うん。幸せだなー、って」 悠介『……すまん。随分待たせた』 ルナ「待った時間なんてどうでもいいんだ、うん。どうでもいい。    悠介と一緒じゃない時間なんて、私にとってはどうでもいいし」 悠介『お前なぁ……娘とか孫の面倒を見ようとは思わなかったのか?』 ルナ「楽しそうにやってたなーって、それだけ。柾樹にべったりで幸せそうだったし。    そんな幸せそうな顔見るの、ちょっと辛かった。だから工房にこもったんだもん」 悠介『……そっか』  喋りながらも足袋、裾除け、肌襦袢を着付けさせ、補正で整えてゆく。 ルナ「んうう……ゆーすけ、ちょっと胸がきついよぅ」 悠介『下着も補正下着だから我慢しろ。そんな窮屈なものじゃない筈だぞ』 ルナ「うん……まあ、裸の上に着ろって言われないだけよかったけど……」 悠介『旧日本が好きでも、お前がそういう目で他の男から見られるのはなんか気に食わん。    だから下着はきちんとつける。それでいい』  補正が済めば長襦袢を着させ、襟元をきちんと整えたら次は着物を。  最後に帯で仕上げて……はい完成。 ルナ「うわー……相変わらずお見事というか……。    えと、その……ゆ、ゆーすけ? どうかな」  恥ずかしいのか、少し苦笑気味になるルナの顔。  しかし間違い無く喜びをこらえている表情でもあり、 悠介『ああ。よく似合ってる』  俺がそう答えた途端、勢い良くがばしー!と抱き付いてきた。 悠介『だっ! こらっ! 着崩れするだろっ! せっかく整えたのにっ!』 ルナ「ゆーすけ……ゆーすけゆーすけゆーすけゆーすけぇっ!!」 悠介『いやちょっと待っ……! 接吻も大概に───! ていうかな!    お前は人が着物創造して着付けてやって改めて“俺だ”って認識するのか!?    そういう認識のされ方ってどうなのかって思ってるくせに、    どうしてだろうなぁちょっと嬉しいのは!』  言ってる間に唇を奪われた。  涙まで流しながら再会を喜んでくれる妻を押し退けることなどできるはずもなく。  俺は為すがままされるがままに、それらを受け入れ……さすがにエスカレートしすぎたあたりで裁きを放った。 Next Menu Back