───澱み安定作戦───
【ケース26:晦悠介/いってみようやってみよう隙あらば打ってみよう】  ゴォオオオオオ…… 彰利「ロォーーーーレェーーーーンス!!」  彰利が叫んでいるのを華麗に無視し、ひとまずおさらい。  ゼットと戦ったのがブラックヘイル山の近く。  逝屠竜と戦ったのが北の大地。  ウォルトデニスの泉は世界の中心で、丘の魔女の屋敷はミアに案内を任せよう。  で……生贄の祭壇ってのは……どこだったっけ?  キリシマ村……じゃないな。  どっちかっつーとかつての王国の傍、だろうな。 彰利「ところで逝屠竜って口にすると、FF3のネプト竜思い出すよね?」 悠介『人の心を読むな』  さて。  現在は丘の魔女の屋敷を目指して移動中。  他の場所はちと危険が伴うってことと、当然屋敷は安全だろうという理由だ。  歪がどういったものかも解らないなら、まずは周囲だけでも安全であるところから調べるべきだろう。 ミア「でも驚きだね。カイくんってば頭の回転が速いよ」 彰利「そりゃあそうっしょ。同志ホギーに習い、精霊ってもんは思考が早いもんだ。    それに悠介は昔っからイメージが武器だったからのぅ。    そんじょそこらの頭でっかちには負けたりしねィェー」 ミア「ねィェー」 彰利「これ! 真似るでないよ!」 悠介『お前だって肉真似はいつ何時でもやるだろうが』 彰利「グ、グゥムッ」 ルナ「ホモっちは変わらないね」 彰利「アタイですもの。しかしまあなんだねぇ。    どうせならルナっちにも覚えておいてほしかったなぁ中井出のこと。    こうしてかつての知り合いと歩くなら、せっかくなら……ねぇ?」 悠介『まあ解るけどな。それは無茶だろ』  草原をゆく。  長い長い道のりだが、移動手段が徒歩しかないから仕方ない。  ディルゼイルでも呼べればいいんだが、生憎と奇跡の魔法で忘れられた身だ。 彰利「しかし、転生して思ったけどさ。    年代なんてどんだけ変わっても、退屈なもんじゃよね」 ミア「? そうなの?」 彰利「おー。家系がどうとかに係わらず、退屈ばっかだった。    平凡平凡へいぼーん。不満ばっかあるくせに、そこから踏み出す勇気も無い。    頑張って踏み出してみても、あるのは辛い現実と理想に溺れすぎてた自分ばっか。    で、思うのな。昔はよかったなーって」 ルナ「ホモっち、熱でもある?」 彰利「キミね、人がたまに真面目な話すりゃそれですか」 悠介『昔はよかったねといつも口にしながら生きていく自分は好きかー?』 彰利「お、ノったね。アタイ好きよ? 現実と向き合え〜ってんなら、    昔がよかったのは俺の中じゃあ間違い無く事実で現実だもの」 悠介『それが、お前が言っているような平凡な日常でもか?』 彰利「昔の退屈と今の退屈は違うもんっしょ? キミなら解ると思うけど」 悠介『……そーだな』  ちらりと、着物姿でふよふよ浮いているルナを見て頷いた。  基準なんていつでも変わる。一秒先でもきっと変わることもある。  受け入れられるかそうでないかは二の次で、よーするに退屈を刺激してくれるなにかを、俺達はガキの頃から求めていた。……それも、日常を壊さない程度の、激しい刺激を。  ガキの時分ってのはその点でいえば便利だった。  見るもののほとんどが輝いて見えた。  だから言える。昔はよかったと。 悠介『長生きなんてするもんじゃないよな』 彰利「その言葉、太鼓判押します」  現在に満足も出来ないままに別のなにかを探す。  それを中途半端と言ってしまうなら、きっと人間なんぞ誰もが中途半端で終わるだろう。  全てをやり尽くすには時間が足りない。  だからといって精霊になろうが死神になろうが神になろうが……不老不死になろうが、その先でいい未来が待っているとは限らない。  平穏が約束されているのなら歩くと言うくせに、運命は嫌いと謳うのならそれは矛盾しか生まなくて。そのくせ理屈だけでは唱えきれない明日を夢見ては、現実に嘆く。退屈ってのはその繰り返しだって昔誰かが言っていた。  生きていたらきっと今でも同じコトを言っていたであろうその人は、ずっと昔に一人のガキに殺された。人が死に掛けていた時にダニエルと一緒に現れたその人が今どうしているのかは正直知らん。ぶっきらぼうなあの人と一緒に俺の中に居るのか、それともダニエルとともにあるのか。後者は出来れば勘弁してほしいが─── 彰利「ホイ?」 悠介『んにゃ、なんでもない』  溜め息を吐きながら歩いた。  まあ、気にしても仕方ない。  今は自分に出来ることをひとつずつ潰して、その度に刺激を受け入れていこう。  こんな状態だ、日常が壊れる刺激を考えている余裕なんてないだろ。 彰利「あーあ。リガリガさん食いてー。ガキん頃に食ったの、美味かったなー」 悠介『ああ。当たりが出ると燥いだもんだ』 彰利「木葉ちゃんが当たり引くのやたらと上手くってなー?」 悠介『どこで盗み見てたんだおのれは』 彰利「しっ……失礼な! まだループする前の話だよ!    ループする前はそれなりに仲良かったんだからな、俺」 悠介『そうだったか?』  彰利にしてみれば相当に昔の話だ。  俺にとっても随分前だが。 彰利「ほんとだっての。悠介の隣でいつも輝くスマイルのアタイ。    そんなアタイを見て、いっつも双子のお子がギリギリと歯軋りしながら見つめて」 ミア「彰くん。それきっと恨まれてたよ……」 彰利「え? そうなの?」 悠介「俺とお前が会ってたのって大体弦月屋敷の木の下だったろ」 彰利「まあ。仲良ぉなってからあんま経たずに自己中タコが、    馬鹿女を殺すなんてことが始まったお陰で、いろいろと問題だらけだ」 ミア「自己中タコと馬鹿女って?」 彰利「自分のことしか考えないタコと、そんなヤツを信じた所為で、    家族丸ごと不幸になったことにも気づかなかった馬鹿女」 ルナ「ホモっちの両親のことよ」 ミア「えぇっ!?」 彰利「いやあのキミ?    驚く前にホモっちでアタイを認識し始めてる自分をなんとかしない?」  言いながらも笑っている。  なるほど、昔の話をしていたほうが笑えるっていうのも頷ける。 悠介『楽しかったよな、あの頃』 彰利「オウヨ」 悠介『ああそうそう。ガッコ、どうだ?』 彰利「アータは俺の父親か。まあ、つまらん。    相変わらず家系の力や創造の理力のお陰で暗黒に満ちた日々ですよ。    自業自得なんだけどねー、やっぱ他人なんざ簡単に信じるもんじゃねーよ。    そういう意味では中井出の言葉もさ、まあ解るんだわ。    俺らなんかよりよっぽど他人と係わって、他人に殺され続けたんだろうから」 悠介『……忘却の猫かぁ───』 ルナ「んー……ねぇ悠介? 魂結糸繋げば、なかいでーとかいうやつのこと、私も解る?」 悠介『そんな単純なことだったら、俺達は絶対に忘れなかったよ。    必要なのはたぶんルドラだ。体の一部でも残ってりゃ、    ベリーがやったみたいに記憶を取り戻せるんだろうけどな』  そのルドラも彰利が倒し、ルドラの世界ごと消え去った。  俺の……いや。ラグナロクの記憶は、そのあとに彰利に拾ってもらったところから続いているって程度だ。他の記憶はマナを辿って他の精霊の記憶や、身に纏わりついている提督の力から得たものにすぎない。  もちろん晦悠介としての記憶も、もう取り戻せてはいるんだが……。 ミア「そもそもあの人って何者なの?    なかいでー、って呼んでたってことは、あの猫なんだよね?」 悠介『そだな』 彰利「ただのエロマニアでござい」 ミア「うわぁ……」  妙にじっくりと頷かれた。  まあ、かつてのことながら事実は事実だ。  提督もツッコんだりしに出てこないし、好き勝手やらせてもらおう。 彰利「やあ、しかし昔を思い出したらいろいろと歌も思い出せたよ。    う〜さ〜ぎ〜追〜いし〜、ってやつあったよね? ウロボロスだけど」 ミア「……ねぇ彰くん。それってもしかしてうろ覚えって言いたいの?」 彰利「おおそれそれ。えーと……?    う〜さ〜ぎ〜追〜いし〜、か〜の〜や〜ま〜♪    小〜ブ〜ナ〜釣〜〜りし〜、か〜の〜か〜わ〜♪    ゆぅめ〜は〜いぃま〜も〜、ネェグ〜〜〜ゥリィジェ〜〜〜ッ♪    わ〜す〜れ〜が〜〜〜たき〜、せ〜い〜へ〜き〜♪    …………パーフェクトゥ!!《マゴシャア!》ちぇるしぃいーーーーっ!!」  ニカリと笑んだたわけの顎を、拳で的確に打ち抜いた。 悠介『過去を懐かしむ歌でどうしてネグリジェが出る! どうしてそこで性癖になる!!    ええいもういちいちツッコミ満載の行動取るな!!』 彰利「ほががががが……! い、いたい……!」 悠介『お前の思考回路のほうが痛いわ!』 彰利「ギャア正論! フッ、だがよ悠介YO……それってきっと、    いろいろな野郎が心に温めてる性癖なんじゃあねぇのかいヨォオ?    アタイはそれに従っただけで、別に悪くねーのよ?」 悠介『いや悪いだろ』 ルナ「悪いわね」 彰利「そ、そうなの!? 僕間違ってたの!?    なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! お陰で恥かいたじゃないか!」 悠介『お前は自分の遅刻や失敗の理由を親に押し付ける子供か!』 彰利「ママーーン! 母乳くださ《キョヴァァン!!》ヘギョギャアーーーーッ!!」  唇突き出してルナへとルパンダイヴをした彰利を、ルナとともに渾身の力で殴り飛ばした。おーお綺麗に飛んでく飛んでく。  その勢いのままに地面に落ちてバキベキゴロゴロズシャーーアーーーッ!と転がり滑っていくのも実に見事だ。 ミア「ふわはー……すごく飛んだね……」 彰利「おおまったくよ。少しは加減しろっての。ねぇ?」 ミア「……それでどうしてすぐ横に居るのかな、彰くんは」 彰利「そりゃアタイが強ぇええからよ」 悠介『彰利ー、体がカタカタ震えてるぞー』 彰利「しゃあないでしょ痛かったんだから! ちょっとしたオチャメにありゃひどいよ!」 悠介『おのれは妻が5人も居るんだから、お茶目ならその誰かにしろ』 彰利「ぬ、ぬう。高校生であったこのボデーに宿る性欲はハンパじゃねーのよ?    それをぶつけるなんてとんでもない!    むしろあのー、アタイとしては夜華さんとしか連れ添った覚えがないわけでして。    そうなるとアタイってただの最低ヤローじゃないですか?」 悠介『日本だとそうだろうな。けどここは重婚ご自由にって世界だ。    お前がやってるのは“そういうのが許されてる国で、    幸せそうに暮らしている人に対して汚らわしい”って言うのと同じだぞ』 彰利「グ、ググー」  まあ、だからって納得出来るかっていったらそうでもないんだろうな。  俺だって重婚はしたくない。  原中に誓い、愛する相手は一人でいい。  ……とはいえ、誰かを好きだと思う気持ちが報われないのも寂しいとは思う。  しかし、今でも世の中解らん。  まさか俺がなぁ……死神とはいえ、誰かと一緒になるとは。 彰利「……よ、よし決めた! アタイ記憶を取り戻す!    誰か一人に絞ってからのアタイが、当時その人らをどう思っておったのかを!」 悠介『いや……本気か? 言っておいてなんだが』 彰利「本気も本気! だってそうなると他の人達可哀相じゃない!    以前のアタイが何をどう思ったのかは知りません!    でもそれを受け止めてやるのも───男ってもんだと思うのです」 ルナ「昔の女とヨリを戻すために必死に言い訳をする男の図?」 彰利「うーさい! なんとでも言いんさいと言いたいところじゃけんど、    なんか刺さるからやめて! ええいもうとにかくアタイに記憶をプリーズ!」 声 『力が欲しいか……!?』 彰利「ややっ!? 急にどこかから声が!」  どこかからというか、内側からだった。  間違いようもなく……何故か彰利の声。 声 『貴様だけ一人を愛するなんてそーはいかねー!    なので貴様にアタイの記憶を授けよう! そして愛することに苦労するがよいわ!』 彰利「エ? や、ちょっ……なんかスッゲェ嫌な予感がギャアーーーーーーッ!!」  彰利の体が輝く!  主に頭が光り輝き、恐らくは記憶の調整のようなものをされて─── 彰利「俺……今! とっても輝いてる!《ゴシャーーーン♪》」 悠介『お前はそれでいいのかっ!?』  体を変換されている時に思いつかなかったことを思いついたのか、やってみた例である。  ……そしてそのまま記憶整理は終了したようで、「抗えばよかった……」と大地に崩れ落ちて泣き出す男が一人。 悠介『あー……で、どうだ?』 彰利「お、押忍……曖昧だったところにきちんとした記憶が嵌め込まれた気分どすえ……。    でもなんつーかあのー……アタイアルティメッツ最低野郎っすね……。    うーわー……なによりも粉雪に謝りてィェー……」 悠介『謝罪は自己満足らしいぞ』 彰利「や……うん……解っとんねんけどね……」  頭抱えてカタカタ震えてるな……元を辿れば原中に生きたというのに愛多きを望んだこいつがアレだったわけなのだが───うーむ。 ミア「彰くんってお嫁さんがいっぱいいたんだ……」 悠介『エロマニアはどっちだよなーってのが今回のオチだな』 彰利「ギギグーーーッ!! 言い返せねぇえええええーーーーーーっ!!」 ルナ「ぼそぼそ……」 ミア「え? ホモが女に走るとこうなるっていう悪い例?」 彰利「はいそこうるせぇえーーーーっ!! ホモじゃねーーっつっとんでしょうが!!」  退屈だけはしないよなー、ほんと……。  騒ぐ三人を横目で見て、溜め息を吐きながら歩いた。 ───……。  日を跨いで丘の魔女の屋敷へ辿り着いた俺達。  野宿は大変危険だったが、剣化した俺を振るう彰利に斬れないものはあまりなく、敵に襲われても大抵は対処できた。  悲しいことにルナの回路の強化も夏にしたものだったため、封天眩き円月の極致を解放することが出来ないことに、俺も彰利も盛大なるショックを受けたわけだが……どうにも記憶と一緒に経験ってものも消失してしまっているらしい。厄介だ。  ならば俺や彰利が神や死神の力を行使できるかといったらそうでもない。  彰利が使えるのは彰の死神であるダニエルのアームストロングだけだし、俺が使えるのはカイ……ラグが得ていた能力のみだ。精々で創造とエンチャントだな。  幸い黄竜剣は撃てるらしく、彰利が俺を振るって豪快に使ってみせ、感激していた。 ルナ「へぇえ……結構広いんだ」 彰利「フッ、アタイの個人資産だ。ああ構わん、適当にくつろいでくれたまえ?」 ミア「彰くんのなわけないでしょ」  人里離れた草原の先の高原。  その先の丘に、ぽつんとあるのが丘の魔女の屋敷だった。  心配したようなこと───侵入されただのの心配はないらしく、出かけたままの姿で全てはそこにあったそうだ。 彰利「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のものという名言を知らんのか」 ミア「じゃあ彰くんのは私のものだよね?」 彰利「え? あれ? ギャア!    ───ハッ! だめだ! 貴様は自分を俺とか呼ばないからだめ!」 ミア「彰くんだってアタイって呼んでるくせに!」 彰利「口答えすんじゃないのォォォォ!!    アンタはもうホンット人の揚げ足ばっかり取ってェェェェ!!」 ミア「口答えはどっちだよぅ! もうほんとうに彰くんてばどうかしてるよ!」 彰利「おー!? なんだコラやんのかコラ!」 ミア「紅生姜雪合戦なら受けて立つよ!?」 彰利「なんでそげにノリ気なの!? 嫌いだったっしょキミ!」  静かに出来ないんだろうか、あの二人は。  溜め息を再度吐いて、屋敷の中を見て回った。  創造、エンチャントはもちろん、分析などの賢者の石の能力も使えるには使える。  それを利用した変換も、着物のことで確認済みだ。 悠介『ところでだ。この姿の状態でレンジ/アローと唱えたらどうなるんだ?』 ルナ「いたるところの骨が折れたり関節が外れたりして、弓の形になる?」 悠介『ゾッとしかしないな、それ……』  さてどうする。一度気になるとやってみたくなるのが生きるものの馬鹿なところ。  しかし馬鹿無くして栄え無し。 1:逝ってみよう殺ってみよう 2:むしろブレードオープン 3:口からメガレールカノン 4:我が右手にマナと御身と栄えアリ! 黄竜剣エンチャント! カラミティエンド! 5:アイアムライデェン(口から毒霧でも吐いてみるか?)  結論:…………3 悠介『ザケルガァッ!!《コァアアドンチュゥウウウウウン!!!》    ウォギョロギャアアアアアアアアアアッ!!!!』  口からメガレールカノンを吐いてみた。  ……歯や唇が千切れ飛び、舌が燃え尽き、自分のとは思えない悲鳴が口から出た。  それをすぐに創造で癒し、涙を流しながら二度とすまいと誓った。  なるほど、口からシャドウフレアを放つ提督の気持ちがよく解った。 悠介『…………』  破壊してしまった壁も修復して、と。  あーくそ、なにやってんだか……。 悠介『それで? 彰利……彰が召喚されたっていう場所は?』 ミア「あ、うん。ずっと奥だよ。そこに魔法陣と式が書かれた石造りの部屋があるから」 悠介『ん、わかった』 ミア「さあ彰くん! いざ神妙に勝負だよ!」 彰利「尋常だタコ!」 ミア「なんだよー! 彰くんのスルメー!」 彰利「イカって言えコノヤロウ! タコって言ったらイカだろが!    大盛りたこやきそばナメんなよてめぇ!」 ミア「じゃあクラーケンだー!」 彰利「よくぞ言った! やっぱクラーケンはイカだよな!    タコっぽいのをクラーケンなんてアタイ認めねぇ!」 ルナ「……いいの? ほっといて」 悠介『どうしてほしいんだ、俺に……』  剣になってまで、精霊になってまで胃を痛めたくないんだよ、俺は……。 ……。  儀式の部屋は、どこかしっとりとした空気をこもらせていた。  木造の扉を開ければひんやりとした、先ほどもいったような空気が流れ、廊下へ消える。  石造りの冷たい地面には、言われた通り確かに魔法陣と様々な式が描かれている。  容易じゃない召喚を容易にするための式が何重にも。  契約しているものを召喚するのはさほど難しくはない。  だが、見たこともないものに乞い、呼び出すのは大変だ。  それこそ魔力が随分と充実してなければ失敗ばかりを引き起こすだろう。  セシルがいい例だ。用も無いのにただ漠然と呼びかけ、呼び出すだけ。  それをすればどんなものが呼び出されるのかは解らない。 悠介『………』  あんなことがなければゼットやセシルは不幸にはならなかった。  代わりに、人や竜族や亜人や魔物たちの戦いは安定を見せなかった。  ……上手くいかないよな、歴史ってやつは。 悠介『さて』  魔法陣の中心の虚空を、賢者の石を使って羅列の景色で見る。  するとどうだろう。  肉眼では何も無かったそこに、圧縮して蠢く文字の羅列がみっしりと存在していた。 悠介『───トランス。ベリー、聞こえるかー』 声 『おっす三河屋でっす。醤油買わなきゃ呪っちゃうぞー』 悠介『……俺の知り合いに三河屋兼業してる呪術師はいないんだが』 声 『わはーははは冗談冗談ー♪ で、見つかった?』 悠介『ああ。念話越しに馬鹿を一人発見した』 声 『目で見ないものは発見とは言わないけどね。いーから話進める』 悠介『お前に言われたかないわ。まあ、発見した。これを閉じるのか?』 声 『安定させるんだってば。空間固定の式は使える?    使えないならその屋敷の蔵書で覚えて。    というかクグリューゲルス卒業出来たなら、出来なきゃおかしいけどね』 悠介『わーってるよ。いちいち一言余計だ、お前は。    歪みの周りの空間を固定すればいいんだな?』 声 『そゆこと』  指に光を灯し、式を描く。  一応属性は揃ってるから魔導万象を引き出すのも苦ではない。  ここで使うのは時の属性と元素と無だ。 悠介『よし、固定したぞ』 声 『はいはい。それじゃあその中に入って、歪みの中の濁流を清流に変える。    次元干渉は結構ムズカシイんだけど、    後悔の旅〜とか言っていろんな軸を捻じ曲げてきた悠介とツンツン頭なら平気ね』 悠介『……それ、提督に怒られたことあるからあんまり言わないでくれ』 声 『だ〜まらっし〜ゃい、今は必要なことだからいいの。それに事実でしょーが。    とりあえず流されないようにロープかなんかで縛ってから狭間に入ること。    流されたりしたら本当にシャレにならないから』 悠介『───解った。ルナ、彰利呼んできてもらえるか?    能力の関係上、ここから動くわけにはいかない』 ルナ「ん、解った。ちょっとー、ちょっとホモっちー?」  …………。 声 『ホモホモ言いながら離れていく妻を見て悠介は思った。    俺の妻、あんなのでいいのか……と。    それなら苦労人仲間のイセリアと一緒のほうが……と』 悠介『浮気なんて死んでもやらん。生まれ変わってもやらん。    脅迫されようと刺し違えてでもやらん』 声 『うわはー……すごい覚悟だわ。そんなにいい? あの死神』 悠介『何がいいとかあれがダメとかじゃない。    ガキの頃から誰かを好きになったら自分の全部をそこに置こうって決めてたんだよ。    だから結婚したからには別の誰かにうつつを抜かすなんてことはしない。    そんなもん、ルドラが一人で居たこと考えても想像つくだろうが』 声 『あ、なるほど。最果てまで独りしか愛さなかったってわけね』  そういうことだろう。  あいつがどんな道を辿ったかなんてものは、晦悠介としては死んでしまった自分にとってはもうどうでもいいことだ。どうやってももう二度と、あの未来には辿り着くことはない。  なんてことを淡々と考えていると、顔面どころか体中をボロボロにした彰利が、ルナが担ぐ鎌に引っ掛けられた状態で運ばれてきた。 ルナ「難癖つけて渋ってたから実力を行使したんだけど、よかった?」 悠介『選択としては最善だな』 彰利「ひでぇ……誰も心配すらしねぇ……」 声 『いいツラになったじゃないか』 彰利「ご夫人方にまたモテそうだ」 悠介『ノリにノリで返すなよ……せめてツッコめ。ベリーも、あんまり妙なこと言うな』 彰利「やん、ダーリンたらそげな、    おなご相手にツッコめだなんて《ブスリ》ンゴォオオオアァアアーーーーッ!!!」 悠介『ああすまん、お前の目に指をツッコんでしまった。ついでに刳り貫いていいか?    肉食鳩でも創造して食ってもらおう。神経繋げたまま』 彰利「ごごごごぉおおごごごごめんなさいごめんなさいぃいい!!    アッ……アイムソーリー!? アイムソーリー!!」  なんかもうこのまま(目からブシーと血を出したまま)次元の狭間に突き落してくれようかとも考えてしまった。  しかしそんなことをすれば解決には至れない。  なので目を癒す霧を創造するとそれを振り掛け、目を治してやりながら説明を。 彰利「お、押忍。つまりこの狭間に入って、濁流を清流に変えりゃあええのね……?」 悠介『ああ。命綱はこっち側に繋いでおくから安心しろ』  縄を創造。  それを彰利を縛り付けるように器用に投げつける!  すると驚いた彰利は逃げようとし、器用に対抗して器用に避けようとし───結果。 彰利「………」 悠介『…………なぁ。どうすればただ投げつけた縄が、人一人を亀甲縛りで封じるんだ?』 彰利「……ア、アタイに言われても……」  亀甲縛りであった。  ……とりあえず空気が沈んでしまったので、このままゲシリと狭間へと蹴落としてみた。 声 「アァアアーーーーーーレェエエーーーーーッ!!!」  落ちた矢先から吹き飛んでいく彰利!  そして縄を持つ俺!  どうやら相当の濁流らしく、彰利の姿見ていられたのなんてほんの一瞬だった。 声 「ギエェエヤヤァアーーーーッ!! くくく食い込むゥウウーーーーーッ!!!    イヤァダーリン助けてぇえええ!! なにかに目覚めてしまいそうゥウウウウ!!」 悠介『………』 ルナ「切っちゃう?」 悠介『いや、気持ち悪いからってさすがにそれはまずい。    そもそも勝手に突き落としておいて一方的に切るのは最低だろ。    それより彰利ー? 次元調整さっさとしろー』 声 「鬼ッスねキミ! でもやるアタイ最強列伝! 月空力解放!」  …………。 声 「とりゃー! ほうりょぁあ! へありゃっちょ! むおりょっあっ!」  ……。 ルナ「頑張ってるんだろうけど、姿が見えないと応援のし甲斐もないよね」 悠介『だな』  ヘンな声ばかりが聞こえる。  “世紀末リーダー伝たけし”の“へるスィー”の奇声にも似た言葉まで聞こえてきたような気がするが、きっと気の所為だろう。 悠介『ていうかな、ベリー。協力してくれてる割りには濁流加減が異常なんだが?』 声 『や、手伝わないでどれくらい出来るかなーって』 悠介『よし解った。提督けしかけて貴様を大陸ごと消してやる』 声 『うひゃあああ!? じょじょじょ冗談! 冗談だってばちょっとやめて!?』 悠介『協力、するよな?』 声 『う、ううう……ちょっとした冗談じゃないのさ……。今やるからちょっと待ってて』  ……。言うだけあって、豪雨の中の川のようにゴヴォゴヴォと波打っていた狭間が、随分と静かになった。 声 『ほれー、がんばれー』 悠介『見事なもんだな……その調子でそっちで繋いだり埋めたりって出来ないのか?』 声 『鎮めるのと繋ぐのとはまた使う力が違うから無理』 悠介『どうしてこういうのって、そう簡単で単純にはいかないんだかな……』 ルナ「ほんと、同感……」  ともあれ、ロープがうぞうぞと蠢く中、次元の波はみるみるうちに安定してゆく。  しばらくすると「オッケーザマスー!」と彰利の声が聞こえて、引っ張ってみれば……亀甲縛り状態のままなにやら興奮した親友がのそりと現れた。 彰利「シュレティンガーホエールに会ったぜ!    歌ァ歌ってた! オンリーイエスタディだっけ!?」 悠介『あー……ああっ、女神さまっ、だっけか』 彰利「ウムス! そしてこれほどいて!?    亀甲縛り状態で次元安定ってすげぇ恥ずかしかったYO!」 悠介『やったな! 世界初だ!』 彰利「うれしくねぇよ!?」  叫びつつ、自力でブチーンと縄を千切る親友。  解く必要ないじゃないか。 悠介『随分とあっさりいったな。楽だったか?』 彰利「楽? 冗談じゃねぇやな! これかなりしんどい───というのは嘘だ」  ウソかよ。 彰利「ヤハハ、これしきのことアタイにかかれば楽勝だゼ!?    そんな、やることなすことなんでもかんでも大変なわけねーべよ。    まあどこと何処が繋がってつのかーとかが解れば、直すのなんて簡単サ。    解らなけりゃ難しいけどね。    つーわけでこの調子でいくべ! ちょちょいと片付けてやンョ」 悠介『お前が急いで、しかも調子に乗ってると大体が碌なことにならないんだが』 彰利「美しい信頼関係だ」 声 『そこで胸張れる貴方は確かに美しいわね』 彰利「みろ。魔女も認める美しさぞ? アタイパーフェクト! パーフェクトアタイ!」 悠介『じゃ、この調子でパーフェクトを次元の歪に突き落とせばいいんだな?』 声 『そ。突き落とせばいいの』 彰利「突き落とす限定!? フッ、だがOKだ。どんな歪もたちまち修正!    思えば“長い時”と書いて“なごォとき”と言いたくなるような───    そんな長い長い時の中を生きてまいりました。そんなアタイは今や特別な存在。    ヴェルタース地方のみなさまもきっとスペシャルだと頷いてくれます。    次元の調整も出来てイケメンでイケメンなんて最高だね。    ちなみに驚き役兼ツッコミ役のミアンドギャルドは、    紅生姜まみれになって雪原に散りましてございます」 悠介『いちいち自画自賛が長い』 彰利「ヴェルタース地方のオリジナルキャンディーだからヴェルタースオリジナル。    ヴェルタースオリジナルの袋の後ろに書いてあるから、    CMしか印象に残ってない人は是非一度見てみようね!」 悠介『…………次、行くか』 ルナ「そだね」  何処から出したのか、いつの間にか持っていたヴェルタースオリジナルを片手に、いかに自分が特別かを語りだす彰利をほったからしのまま、俺達は歩き出した。  さて……次の次元の歪はどこかな……。 彰利「私のおじいさんがくれた、初めての“キャンディ……!”    ……キャンディの説明だからだと思うけど、    あのおじいさんって“キャンディ……!”の部分にやたらと力入ってるよね。    まあそこが好きなんだけどね! そー思うわよネ? ダァ〜アリンッ♪    ………………あれ? ダーリン? ダーリンがいねー! ルナっちもだ!    あ、あンの泥棒猫ッ!! 娘にッ……なにすんだいッッ!!    ……ヴァルキリープロファイルのおばはんの声っていいよね。    この泥棒猫っ! 娘にッ……なにすんだいッッ!! って。    あの溜め方……きっと只者じゃあねぇぜ?    つーかアレェ!? ねぇちょっと待ってよ!    誰もツッコんでくれないのって悲しいじゃない! ダーリン!? ダーリーン!!」 ───……。 ……。  じゃーんじゃーんじゃーーーん!! 彰利「じゃーーん!! 僕ジャン!!」 悠介『黙れ』 彰利「えっ……あ、す、すんません」  さて。次の目的地へ……と太陽……は無いから、精霊の光の下を歩き出したところで、わざわざ窓ガラスをぶち破って飛び出てきた彰利と合流。  わざわざ月奏力で音を鳴らしてまで叫んだやかましさに冷静に返しつつ、俺とルナは歩き出した。 彰利「キャア疎外感! そしてミア助がいねー!    きっとモズマにキャトルミューされたに違いねー!    その名も……アイゴリーニョ=ミア=ビッグハット!    また新たなあだ名が誕生しちまったぜ……!」 悠介『どうしてそこでやり遂げたように顎をぬぐえるんだよお前は』 彰利「そりゃおめぇ、あれだァ、顎が痒いからに違いねーのよ?」 悠介『馬鹿』 彰利「キャア! こりゃまたストレートっすね!    なしていきなり馬鹿呼ばわり!? 馬鹿だけど!」 悠介『お前に訊いた俺が馬鹿だったって言ったら、お前絶対に馬鹿馬鹿言いまくるだろ。    だから先に言っておいた』 彰利「オイオイまいったな、アタイのことなんてなんでもお見通しかよ。    さすがに付き合いが長いといろいろ違うね。もういっそ結婚しちまわん?」 悠介『ルナ。親友がただの血痕と化したいらしい。遠慮はいらない』 ルナ「よく言ったわホモっち!!《ニコォオオオンッ!!》」 彰利「ウギャア信じらんねぇほどの笑顔!!    アータどれだけアタイのこと殺したかったの!?」 ルナ「日常的に」 彰利「日々常に!? まあいいや!」 悠介『そこ納得するのか!?』 彰利「当たり前じゃないか!    せっかく考えることが出来る生命体なんだもの、納得のひとつくらいするよ!」  いや……そういう意味じゃなくてだな……。  …………まあいいか、こいつだし。 彰利「ククク、夏の知識と経験の無くなったルナっちなぞアタイの足元にもおよばねー。    さあ、来るがいい……ハデに暴れて、    せっかく着付けてくれた着物を崩して悠介に嫌われればえーのよ」 ルナ「うぐっ………………う、うー……!」 彰利「ほっ! 出来まい!? ウヒョヒョヒョヒョ出来まいて!    クォックォックォッ、これぞアタイの狙いよ……!    着物を着せてしまえば派手になど動けやしねー!    その上で散々っぱらからかえばアタイ勝利激しく勝利!    着物なのにナイフ片手にあれほど動ける誰かさんが異常なだけなのよきっと!    というわけで次行くべー!    今宵アタイは……勝利の美酒に酔って道端リヴァース!」 悠介『そこは酔っておくだけにしような……』  移動を開始する前に彰利がミアを呼びに行き、連れてくる。  どうやら日記を書いていたようで、それも済んだらしく、待たせてごめんなさいと素直に言った。 彰利「クォックォックォッ、まあよ。まぁあああよ」 ミア「なんで彰くんが偉そうになるのさ」 彰利「そりゃアタイが偉ェからよ」 ルナ「ミアっちょ、頭がエライことになってるって意味だからそのまま受け取っていーよ」 ミア「あ、そっかぁ。彰くんってちゃんと自分のこと解ってるねー」 彰利「すげぇだろ《ヴァアアアーーーン!!》」 悠介『威張るなよそこで……』  とりあえずは行き先を決める。  位置からするとウォルトデニスの泉跡が一番近いだろうか。  逝屠を仕留めた場所、ゼットを仕留めた場所、生贄の祭壇跡……あとは水没神殿か。 彰利「そィで? 次何処行くか決まったん?」 悠介『ウォルトデニスに行こうと思う。    あそこを安定化させた方が、サーフティールにも行きやすいだろ。    そのついでに───トランス』 声 『はいはいなにかな愛の告白? いやぁまいったなぁ』 悠介『哀しいって書く方の哀の告白なら今すぐにしてやれるぞ。    やったな、お前の工房が吹き飛ぶ』 声 『ふざけないからやめて!? ……うう、なんか扱いがひどい。    それで、なに? 次行くならちゃっちゃとやっちゃってよ。    こちとら暇だから、なにか面白いこと起きないかなーってワクワクしてるんだから』 悠介『なにか? ……彰利が変態に進化した』 声 『前からじゃない』 彰利「馬鹿め……これだから貴様は……。このアタイは変態の上に、    さらに大変態、超変態、超変態2、    超変態3、超大変態、超変態4への進化が可能なのだ。    超変態2の時点で突然変異として伝説の超変態にもなれるくらいで、    人参に対して異常なまでに殺意を覚えるんだ。    赤子のくせに隣で寝てる相手のことねちっこく覚えてられるんだぜ、すげーだろ」 悠介『………』 声 『いや……うん。ただの変態じゃないなーとは思ってたけど。    そっかそっかー……そこまで変態だったかー』 彰利「ゲゲェなんか納得された!?    ツッコむどころか受け入れられちゃったよアタイの変態力!」 ミア「……!」 彰利「いやあの……そげな期待を込めた目で見られてもそのー……エ、エィイやったらぁ!    《バッババッ!!》超変身!! アァーーキィーーートォーーーシィーーーッ!!」  彰利がなにやら後方でやらかし始めた。  ミアとルナが驚く声が聞こえるが、振り向いたらいけない気がしたからやめた。 悠介『あー、その、な。水没神殿の歪のこと、なにか解ったか?』 声 『あ、訊きたかったことの本題ってそれ?    そうねー……わは、なんか歪が大きくなってるわね。    タイミング的には、そっちの歪を安定させてからよ』 悠介『へ? ……あ、安定させたのに歪が大きくなるのか?    もしかしてこっちの濁流がそっちに流れた、みたいな感じか?』 声 『そうじゃないみたいだけど。まあいいわ、とりあえずも一つ安定させてみて。    ただの偶然かもしれないし、偶然じゃなくても……    それならそれでいろいろ対処も出来るだろうし』 悠介『……そか。じゃあ先にゼットと逝屠の方の歪に向かうな。    ウォルトデニスと水没神殿は後回しだ』 声 『あいあーい』  カティングを唱えて歩きだすと、すぐにルナが横に並ぶ。  後ろは……振り返らなかった。 声 「どぉよ! あぁん!? どぅよ!」 声 「す、すごいよ彰くん! 変態だよ! すっごい変態だよ!」 声 「SO……変態と聞いて、脱いでいるとか思うという先入観を破壊する変態度。    変態とはなにも、裸体をさらすことにあらず!    だってそれじゃあ風呂に入れば変態さんだもの!    じゃあ人前で裸になるのが変態?    ───否! ならば赤子は産まれた瞬間から変態さんだ!    ならばなにが変態なのかを究極に追い求めると書いて追求し、    辿り着いた真が───」  ……振り向かないからな。 ───……。 ……。  さて、そんなこんなでアズナトラ地方。  かつてゼットと戦ったこの場所に立って、空を見上げる。  確か……確か、あそこらへんだった気がする。 悠介『正確な場所がちと解らん。ベリー、どうだ?』 声 『直したのが精霊王だからねー、下手な修復はしませんってことでしょ。    それでも完璧じゃなかったか、次元の歪がほつれを広くしたかね。    ん、大丈夫、その上で間違いないわ。石拾って投げてみて』 悠介『石をか? ……よっ』  適当な石をひょいと拾って、空へと投げる。  すると重力に引かれて弧を描くように落ちるはずの石が、何かに弾かれるように落下。  それが丁度、ミアと話をしていた彰利の黄金にホゴォンと直撃。 彰利「覇王ォオーーーーッ!!」  ……どさり、と。一人の変態が大地に伏した。 声 『ね?』 悠介『なにがだよ!』 声 『や、そこの歪のカタチ。    近寄るものを弾くように蠢いてるみたいだから、気をつけてねーって』 彰利「言葉で伝えんしゃい! 危うくアタイの子孫繁栄能力が消えるとこじゃねーべさ!」 ルナ「……ホモっちならすぐ復活するでしょ?」 ミア「彰くんだもんね……」 声 『今更なに言ってるんだか、ほんと』 悠介『彰利よぉ……そろそろ現実見よう? な?』 彰利「なして痛い目遭ったってのにそこまで言われにゃならんの!?    あーもーえーわよ!    ようはあそこに入ってちょちょいと修正すりゃあえーんでしょ!?    余裕だぜっ! Yah!」 悠介『えっあ、こらっ! 待』  待て、と言うより先に空を飛ぶ親友。  その勢いのままに石が弾かれた場所まで飛び、弾かれて地面に頭から突き刺さった。 彰利「《ボコリッ……》…………いや。言っとくけどこれアレだから。失敗じゃねーから。    コレアレだよ? テイルズオブファンタジアのノームの真似だから。    ミサイルになって地面に突き刺さっただけだからね?」  で、地面から頭を抜いて、顔の土をはたきながらのお言葉と。それを見て、聞いて、ただ静かに見守る俺達。 彰利「オイオイ次元よォオ? お前アレだよ? 俺を本気にさせちゃったよ?    今からアタイの手練手管でメロメロにしてやンョ」  そして何故か手をわきわきと動かす変態さんが居る。  やがて彼は地を蹴り空を飛び、……ノームになった。 悠介『だ、大丈夫かノーム(笑)!』 ルナ「だいじょーぶ? ノーム(笑)」 彰利「(笑)つけんじゃねィェーーーーッ!! でも“w”じゃないだけでベリグー!    いやこれまだ本気じゃないからね!? ちょっとミスっただけだから!」 ミア「そーだよ! 彰くんは超変態4にまで変身できるんだからね!《どーーーん!》」 彰利「いやァアア!? ちょ、やめて! そこで胸張って言わないで!?    それ強さと関係ねぇからァァァァ!! 結局ただの変態だからァァァァ!!」 悠介『頑張れノーム(変態)!』 彰利「なんか無駄にグレードアップしとらん!? ち、ちくしょうお前ら馬鹿だ!    えーからアタイに縄つけて持っといてYO!    今からバッチシ片付けてやっかンョ! ヨルロシク!」 悠介『素直にヨロシクと言えないのかお前は……ほらっ』 彰利「《キュッ》!?」  彰利の首を、キュッとロープで絞める。  あとは……解るな? 悠介『さあ。頑張れオヤジ』 彰利「…………!!」  みるみる顔を真っ赤にして窒息しそうな親友の図。  なんのことはないザ・モモタロウの真似だが、しっかりとその時の坂田鋼鉄郎の反応を真似ている彰利もさすがだった。  と、アホゥなことはやめるとして。  はらりと解いた縄を彰利の腰に回し、キュッと縛ると─── 彰利「ハラショウ」  何故かザンギエフの声真似をしてポージングを取る親友がいた。 彰利「昔ロープを腰に巻いて“サイヤ人……!”とか言ってるヤツ、居たよねー」  お前だ。 彰利「よし、ほいじゃあアタイ……行ってくるぜ?」 ミア「ふぁいとだよ、彰くん」 悠介『頑張るのは結構だけどな……お前、入る方法とか解ったのか?』 彰利「偉い人が言うには、反発する力が発生した瞬間に手を引けば殴れるらしいぜ?」 悠介『………』 ルナ「反発って決まってることなの? ただ弾かれるだけじゃなくて?」 彰利「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ! とにかくやってみりゃあ全て解るね!    一方通行を乗り越えてこそだよ! エア゙ッ!」  彰利が再び飛ぶ。  見た目では何もない空間へ向けて、何故かウルトラマンチックな声とともに。  そしてその勢いが急に弱まった途端、自ら後方へと思い切り下がり───自分で地面に突き刺さった。 悠介『ノーム(変態)……』 ルナ「ノーム(変態)………」 ミア「ノーム(変態)……」 彰利「ちょほいとタイミングミスっただけですよ!? いやマジですからね!?    えーからちょっと黙って見ときんさい!? あとノーム言うのやめよう!?」 悠介『変態か』 彰利「そこだけ取らんでえーから!! 見とけやアタイの超雄度!!」  言うや彰利が跳躍!  そのまま飛行して、弾かれた場所を大きく迂回するようにしてさらに空へと! 彰利「キョホホ! 下からの力が下に弾かれるのなら、上からの力は上へ!    これでアタイがノームになるこたぁ……ねぇぜ!?」 悠介『やめろ彰利ー! お前のそれは失敗フラグだー!!』 彰利「オウヨ! だがこれで成功すれば───フラグを破壊した男!    もうこれ超雄だろ! カッケェエエエぜ!? つーわけでGO!」  彰利がおそらくそこにあるであろう歪へと急降下してゆく!  妙な当たり方とかしてどうせ弾かれて地面に突き刺さる未来が、頭の中で簡単に構築されてゆき───スボッ、と……あっさりと彼はなにもない空間へと消え去った。 悠介『………………あれ?』 ルナ「……えっと。ノームは?」 ミア「わっ、もしかして成功したの!? すごいよ彰くん!」  そう……彰利は姿を消した。そして中空に飲み込まれてゆく縄だけが、あいつが空間の歪に入ったことを教えてくれて───って! 悠介『掴んでなきゃやばいだろ! ちょっ、待───』  しゅるるるるる……すぽんっ。 三人『あ…………』  ……そうして俺達は───     縄が、最後まで空に飲まれてゆくのを……       ただ静かに、見送ったのだった…………───
ダスクダークドレイク/黄昏月下……完
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