───次元考察───
【ケース28:晦悠介(再々)/話し始めると長いよ?】  さて。 彰利「夕暮れや カワズびっくり ボムの音」  河童の皿に水を注いでからしばらく。  起きてくれた彼(?)は堂々とした風情で俺達を迎えてくれた。……正座で。  なので俺達も正座で応え、現在は向かい合っている状態だ。  ゴツゴツした硬い地面に直正座の微妙な感触に、彰利がよく解らんことを言ったが……無視でいいな、うん。 彰利「それで河童さんや、あなたの名前は?」  こちらの名乗りはもう終わって、人語も解すことが解るや、早速質問。  それに対し、河童は─── 河童『ああ、これは失礼を。わたくし、河童と申します』 彰利「やはり河童だった!」 悠介『わたくし、って……あの、失礼だとは思うが、性別は?』 河童『両生類です。というか、性別はないのですよ。    我々河童は死期が近づくと転生の旅に出て、新たな体を得て生まれ変わるのです』 彰利「え? それって何処のガルカ?    まあいいや、河童って相撲強いんだよね? いっちょアタイとやらない!?」 河童『勝ったら尻子玉を抜きますが?』 彰利「私は一向に構わんッッ!!」  何故か微妙に頭を揺らしながら言った。  ……まあ、相撲は見てみたいがそれはそれだ。  早く次元の歪のことを調べないといけない。  名残惜しい……大変名残惜しいが、やらなければいけないことなのだ。 彰利「あ、ルナっちGYOUJI役お願いね」 ルナ「はっけよいとかのこったとか言えばいいのよね? それじゃあ───」  月聖力・固定モードで自らの周囲を円で固め、その円の中で彰利と河童が構えるのを最後に、俺はベリーと通信して探索を始めた。  直後に「はっけよい───のこった!」というルナの声。  見てみたいが、暢気にしている場合でもないので、結果だけを知ればいいだろう。  そんなわけで───   ドゴォオッシャアアッ!!   ズパパパパパドゴォンッ!! ドォッガァアアッ!!  …………うん、なんだろうな。とても相撲とは思えない音が聞こえてきてる。  だが先に安定化を進めよう。そうあるべきだ。 ミア「うわっ、うわー! これが“スモウ”なんだ……!    速くて目で追うのがやっとだよ!」 彰利「NOォ……違う! これは相撲ではなく世界最強の国技SUMOU!!    よもや……よもや河童の相撲がSUMOUだったとは!    つーかこれ子供じゃ誰も勝てないっしょ!    だがアタイは勝たせてもら《ズパパパパパ!!》ギャアーーーーーッ!!!」  破裂したような高い音が何度も耳に届く。  それでも無視して調査を続けていると、なんか彰利が負けたらしい。  嫌な音とともに「ほげろぎゃあああああああああっ!!」って悲鳴まで聞こえてきたが、やっぱり無視る。 ミア「ああっ! 彰くんが何か抜かれた!」 ルナ「へー……尻子玉って本当に玉なんだ。なんていったっけ?    てれほんしょっぴんぐとかでやってる真珠がもっと大きくなったみたいな」  ……抜かれたらしい。  さすがに放っておけなくなったので振り向いてみれば、 彰利「アー………………マー…………」 悠介『彰利ぃいいいいいっ!!?』  口からエクトプラズムチックな何かをモファアアと出す彰利が!  ……ああ、尻子玉抜かれると腑抜けになるって伝説は本当だったのか……。  そして河童は抜き取った尻子玉をじっと見つめ─── 河童『…………あの。この尻子玉、レタスの香りがするんですけど』  ───なんか妙に納得出来る言葉を仰った。 悠介『あー……すまん、出来れば返してやってほしいんだが』 河童『大丈夫……嫌いじゃないですよわたくし。───青臭いの!《どーーーん!》』 悠介『そういうこと言ってるんじゃなくてな!?』  なっ……なんだその妙に誇らしげな顔! 格好よく言ったつもりか!?  持ってるの尻子玉で、香りがレタスなのに格好いいつもりか!? 河童『返すのはべつに構いませんが、一応同意の上で手に入れたものですから。    それなりの何かと交換ということなら』 悠介『この馬鹿の毛という毛と交換でどうだ』 彰利「アー……! マー……!」 ルナ「あ、ちょっと反応した」 悠介『喜んでるんだ』 ミア「わっ、腑抜けた彰くんの目から涙が出てきた!」 悠介『感涙だ』 河童『そうですね……ではこの先にあるものをなんとかしてくれたら、    喜んでお返ししましょう』 悠介『普通に毛のことはスルーなんだな……。で、この先の? なにかあったのか?』  はいと頷く河童。その拍子に皿から水がこぼれ、またしてもドグシャアと倒れ……ってああもうなんなんだよこいつは! 悠介『面倒なやつだなお前! よくそれで相撲中はこぼさなかったよな!』 河童『フフフ、誰かと話すのも久しぶりで、    久しぶりに礼儀全開でやってみたらご覧の有様ですよ……。    かくなる上は尻子玉を食べて体力の回復を───』 悠介『皿に水入れなきゃ意味ないだろが! ええいくそ! 出会えた喜びを返せ!』 河童『勝手なイメージ押し付けて、イメージと違えば拒絶……。    わたくし、そういうのよくないと思うな……』 悠介『正論だけどちょっと黙れぇええええええっ!!』  弱るのかネチネチと絡んでくるのかどっちかにしような!?  つーか出来れば弱って黙っててくれ! ……。  さて。  皿に水をかけてやると、またしてもたっぷりと吸収した河童。  「このまま乾いて死んでいくのかと思いましたよ……」とか言って、いい男の顔で顎をグイっと拭っている。もうなんなんだコイツ。河童か。  で、聞くところによると、なんでもこの空洞の先には河童の家があるんだが、その途中の通路に空間の歪のようなものが出来ているらしい。  それの所為で家に帰れなくて困っているんだとか。 悠介『それを解決すれば尻子玉を返す、と』 河童『その通りです。それが面倒ならまた相撲で。    勝ったなら返しますし、負けたなら抜きます』 悠介『相撲で決めるっていうのは実に素晴らしいが、さすがに状況が状況だ。    負けたときのことを考えると無茶はできないから……』  やるなら次元の安定化だな。  でもなぁ……次元調整のスペシャリスト(自称)がこの腑抜けっぷりだからなぁ。 声 『大丈夫。不安がることはナイ』 悠介『へ? あ、彰利?』  河童と視線を合わせて話し合っていた俺の後ろから聞こえる声。  もしかして持ち前の非常識さで腑抜けを克服したのか、と振り向いてみれば、 彰利『ハーイ!《ムキーン》』 悠介『………………ほぎゃああああああーーーーーーっ!!』  なんかマッスルな親友が居た!  ななななんだこれ! ななななんだこれなんだこれぇええーーーーーっ!! 彰利『オォットォオ……ンッホッホッホッホ、ソウ慌てルなボーイ、私ダ。ダニエルだ』 悠介『ダニッ……!? お前かよ! おまっ……えぇえっ!?    なっ、どっ……何処まで自由なんだよ鎌能力! いきなり体乗っ取るとか何者!?』 彰利『死神ダ《ムキーン》』 悠介『そういう意味じゃなくてだな!』 彰利『……《ピクピクッ》』 悠介『無言で大胸筋ピクピクさせるな!』 彰利『フフッ……そう焦るなと言っテいル。この私にかかレば次元調節なドお手のモノ。    伊達にこのトンガリボーイの中でポージングを決めてはいなかっタ』 悠介『………………』  喋る度にムキムキとポージング取るのはなんとかならんのか。  いや、もうツッコむだけ無駄だって悟れよ俺……。  出来るっていうなら任せよう。その方がきっといいんだって……な、俺……。 悠介『解った……任せるからもう行ってくれ……』 彰利『オオ、急に物解りが良クなっタナ。    それでイイ、あるがママを受け入れるのは悪いことデはナイ』  ムキムキとポージングを続ける中身がダニエルなマッチョな親友から視線を逸らす。  と、腰を抜かしているミアとしゃがみ込んで頭を抱えるルナが。  ……まあ、なぁ……。急に腑抜けがムキムキマッスルになれば、誰でも驚く。 彰利『と言うワケで、成功の暁には私と濃厚なチッスを』 悠介『今すぐ帰れぇええええっ!!! 俺達でなんとかするから帰ってくれぇええっ!!』  任せておけば大丈夫だなんて思った俺が馬鹿だった!  あるがままを受け入れるって、ダニエルのソッチ系のソレも受け入れるってことじゃねぇか! だだだ誰がそんなこと受け入れるか! 彰利『ハハハハハ! 無駄だボーイ!    私がサッサト解決してしまえば大きな借りが出来る!    キミはもはや逃れることナド出来ぬのダァーーーッ!!』  ダニエルが走る! 向かう先は……通路の先!  咄嗟にダニエルの腕を掴んで止めたんだが、逆に俺の腕をダニエルに握られ、全力で握っていた俺の握力が逆にキュッと殺され、軽く突き放された!  ……どういう握力してるんだよあのマッチョ! とか思ってる内に走ってるし! 悠介『だっ、ちょっ……待てぇえええっ!! 提督!? 提督ーーーっ!!    頼む! 一生のお願いだから助けてくれ! 俺じゃああいつを止められない!』  筋力にモノを言わせて地面を踏み砕かん勢いで走っていく!  筋肉ダルマが足が遅いって嘘だろ! 筋力を生かして物凄い速度で走ってくぞ!?  ってそれはもうゼプシオンとの戦いで思い知ったことだから今さらだ!  そんな、焦るあまりに思考が嫌な回転をしている俺へと、ついに救いの言葉が─── 声 『豆が欲しいか……!?』 悠介『だからそれはもういいっつーんじゃあああああっ!!』  豆だった。  救いなんて無かったさ、ああ無かったよちくしょう!  なんか泣けてきたよ! 叫びながら視界が滲んだよ! 中井出『な、なんだよう! 豆はすごいんだぞ!? 栄養とかなんかそういうのが!     で、一生のお願いってほんと!? 解決したら僕のお願い聞いてくれる!?』 悠介 『聞くからなんとかしてくれ! あいつとキスなんて冗談じゃない!』 中井出『解った! ……じゃあ解決するからお前、ダニエルとキッスな』 悠介 『解決してるのにしてねぇよそれ!!』 中井出『グボルヴェヘヘヘヘハハハハカッカッカッカ……!!     迂闊にこの博光に頼るからそんなことになるのだ……!     結果的に貴様の一生のお願いはダニエルのキッスとなるのだ!』 悠介 『おっ……おぉおおおおお前はぁあああああっ!!』 中井出『グヘヘヘヘ……さあどうする、俺を止めるか?     止めればダニエルが解決してキッス。     ダニエルを止めれば俺が解決してダニエルとキッス。     この連鎖……貴様に超えられるかな!?』 悠介 『成功報酬にお前とのキスを追加してもらおう。きっと喜んで引き受け───』 中井出『全力で止めよう!!《ギャオッ!!》』  感心する速度で彼は駆けた。  そして空洞の先の曲がり角に消えると、その先で炸裂音。  ……しばらくして戻ってきた彼の手にはプスプスと煙を立ち上らせた彰利が。 中井出『強敵だった……! ああしなければ俺がやられていた……!』 悠介 『いや……いったいなにをしたんだよ』 中井出『え? さっさと安定化させようとしてたから、     横からカーフブランディングのあとにマキシマリベンジャーを少々。     そのあとにゴブリン謹製爆弾投げを』 悠介 『ああ……だから焦げてるのか』 中井出『ちょっぴり焦げて今が食べ頃』 悠介 『そういう細かいことはどうでもいいから。     で、奥はどうなってたんだ? 澱み、あったんだよな?』  結局奥は見ていない。  そこがどうなっているかは行ってみたヤツじゃなきゃ解らないわけだが…… 中井出『まあまあ。まずは腰を抜かしているお二方に戻ってきてもらいましょう。     二人とも、すぐに立ち上がるヨロシ! でなければダニエルの熱いヴェーゼが』 ルナ 「!《シャキィーーン!》」 ミア 「……? ヴェーゼってなに?」 中井出『キスを意味するフランス語だそうだ。そんなステキをマッチョが進呈』 彰利 『ヨロシコ《ムキーン!》』 ミア 「!《シャキィーーン!》」  こんがり状態から復活しつつもポージングなマッスル彰利を前に復活するミア。感心するほどの速さだったが、さすがに腰が抜けた状態での無理矢理の起立は無理があったらしく、フラついて壁に手をついていた。  というかルナ、お前立ったと見せかけて浮いてるだけだろ。  とりあえずルナを手招きして肩を貸し───って、何故首に抱きつく。 悠介 『あー……』 中井出『話が進まないからそのままでGO!』 悠介 『脱線するほぼの原因はお前と彰利なんだけどな……』 中井出『任せろ《どーーーん!》』 悠介 『いいから。無駄に胸張らんでいいから。さっさと話を進めよう』 中井出『ハイス。えーと、この先に澱みがあるのは間違い無いね。     妙な祭壇みたいなのがあって、そこにデカイ澱みがある』 悠介 『祭壇? ……自然空洞じゃなかったのか、ここ』 中井出『魚人が住む場所なら、こんなところに祭壇作っても不思議じゃないんじゃない?     というよりはむしろ───ノートン先生?』  提督が霊章から黒ノートを召喚。  この場の祭壇についてを訊いてみるが……まさかの“知らない”宣言。 悠介  『ノートが知らないって……じゃあここの淀みってのは……』 中井出 『空界創世の時に出来た可能性が高いとかそんなところ?』 黒ノート『そうなるな。そもそもこの水底都市には水流らしき水流はない。      故にその影響で岩が削れて空洞が出来る、ということなど無い筈だ。      この場は元々こういった形だったのか、      それとも魚人がそうしたからこうなのか。      この場の誕生に古の神々が係わっているのは間違いないだろう』 中井出 『あ、きっとこれアレだよ。      肉まんとかでもさ、餡を包むと閉じる場所があるじゃん?      ほら、あのてっぺんのちょっとトルネーディしてるとこ。      あれみたいに、空間の綴じ目みたいなところがここだったとか』 悠介  『……ありそうで嫌だ』 黒ノート『頷いてやりたいが、例えに肉まんはどうなのだ、中井出博光よ……』  さすがのノートも少し頭が痛いらしいようで、頭に手を当てながら溜め息を吐いている。  当の提督が「なんで!? すごい解りやすいじゃん!」と本気で戸惑っていたから、じゃあミアに訊いてみろと言ってみれば本気で訊き、「にくまん、ってなに?」と首を傾げられて「ごめんなさい……」と普通に謝る我らが提督。 中井出『僕は世界の広さを知りました。     そんなわけで晦、ギャルドに肉まん創造してあげて?』 悠介 『提督も出来るだろ?』 中井出『僕のはそんな上手いもんじゃないし。     というかさ、また脱線するから早いとこ安定させよ?』 悠介 『だからお前が話を掻き回してるからこうなったんだろ……。     肉まんが例えに出なければこんなことにはならなかったんだから』 中井出『ア』  気づいたらしい。  こうなれば責任以ってギャルドに肉まん食わせたる……! と妙な使命感を抱いたようで、自分で創造した肉まんをミアに渡していた。  ミアもミアで、そんなアツアツな肉まんをホゥウと目を輝かせながら受け取って、ぱくりと食べたら微妙な顔をしていた。 中井出『肉まんかと本気で思っていたのか? ───ミクまんさ!』 悠介 『おーい、また脱線するから早くしようなー?』 中井出『あ、ごめんなさい。     ちなみにミクまんとは……餡のほぼがネギで構築されたステキな饅頭である!     で、これが肉まん。おいしーよ? 僕のイメージだからどうだか知らないけど』 ミア 「………」 中井出『あれ? なんかすげー警戒されてる。なんで?』 悠介 『それを訊くか……』  そしてそこで“え? 訊いちゃだめだった?”って顔されても困るんだが。 中井出『ま、まあいいや。とにかくこれね。ハイ。     肉まんはねー、ものみの丘のキツネさんも好きなんだぞー?     ……キツネってアレルギーとかないのかね?     さあ、疑問も増えたところでレッツゴー!』 悠介 『お前は結局なにがやりたいんだよ……』 中井出『楽しいを提供したい! だからつまらないを排除する!     つまらないは敵だ! でもつまらないがあるからこそ楽しいが映える!     なんか悔しいよね! だから行こう!』 悠介 『いや……いいんだけどな?』  なんでこうも無意味にハイテンションなのかは訊かないでおこう。  それよりも澱みの方が気になる。  古の頃から存在するであろう……まあ、提督の予想が正しければの空間の綴じ目。  それがどうしていまさら、空間のバランスを崩しているのか。 悠介(…………ああ、ちょっと違うか)  いまさら、というか今だからこそなのかもしれない。  時間が経てば、完成品も劣化する。  つまり俺達にこういう面倒が訪れるのは、ある意味で必然めいてるってことか? 悠介(………)  きょ、巨大生物がらみじゃないから、俺の所為ってことはない……よな? 中井出『しかし可哀想にねぇギャルドも。     友達を信じてついてきたのに、その友達がこんなゴリモリマッチョに……』 悠介 『それ、歩きながら話すことか?』 中井出『歩かなきゃ進めないんだから仕方ないじゃないか』  歩く。  露明石に覆われた道を通ると、その先には確かに祭壇のようなものがあった。  ご丁寧に石段があり、その先に。  石段とはいってもあくまで自然的に出来たもののようで、段差がバラバラだ。  しかしその先に行くと、ああこりゃ澱みだって納得出来るほどの大きな空間の歪が。  空洞いっぱいに広がっており、その先にも道があるんだが、澱みが邪魔して先には進めそうもない。なるほど、河童の住処はこの先ってことか。 悠介『……なんか……ちょっと違うな』 彰利「オオ……なんか違うね」 悠介『……なぁ』 彰利「ウィ?」 悠介『なんでお前、普通に歩いてるんだ?』  澱みの前まで来た。ら、なんか彰利が普通に隣に立ってた。  その横にはミアが居て、足がふらつくらしく彰利の手をキュッと握っている。  ルナはまあ……首に抱きついて浮いたままだ。重さは感じないから別にいいんだが。 彰利「おおそれヨ。アタイは中井出ン中の意思の方のアタイよ。    元のアタイがなんか腑抜けてて、入り放題状態になってるらしいからね?    こうしてアタイが潜り込んだわけYO!    ちなみにダニエルも入ったままだから、部分的マッチョになれます。    筋肉大移動〜!《ムキーーン!!》」 悠介『やめいっ!』 彰利「これを利用すると、中井出ン中のどんな意思をも装填可能とナルノデス。    だから悠介と悠介で冒険することも可能YO!? ……やってみる?」 悠介『………い、いや、ちょっと待て、それはそれでややこし───』 彰利「《キィンッ!》………………あー、すまん。    もう手遅れだ。あの馬鹿、無理矢理交代しやがった」 悠介『…………苦労するな、持ち主』 彰利「慣れてるのに、もう慣れたよとは言いたくないのが不思議だな……」  二人してトホーと溜め息を吐いた。  そんな俺達を、ルナとミアは不思議そうな顔で見つめていた。  ……ああ、そうしてほっといてくれると助かる。 中井出『ハイ、そんなわけで───実はですね。     僕……コレと同じもの、見たことがあります』 悠介 『? 同じものって……これと同じ澱みってことか?』 中井出『そう。他の澱みというか歪というか、ともかくそれらとは明らかに違うね。     でも同じものを見た。……言ってしまえばその歪に入ったんだけどね、僕』 彰利 「入ったって……もしかしてアレか?」 中井出『そう、アレだと思う。だからコレは下手に入ったりはしないほうがいいね。     出来れば外から調整することをオススメします』  ……? 彰利の外見をした俺と提督はなんのことだか解ってるみたいだが、こっちはさっぱりだ。 ルナ 「それって、同じところに繋がってるってこと?」 中井出『同じとは限らないけど、多分“似たところ”には飛ばされるんだと思うね。     そしてきっとこれらの事柄には、     僕らでは想像がつかないほどに大きな力が係わっているんだ……!』 ミア 「……大きな力……?《ごくり……!》」 中井出『そう! その大きな力の背後に存在するのが───!』 彰利 「ノストラダムスって言ったらグーで殴るぞ、提督」 中井出『……………………』 彰利 「………」 中井出『ノストラダムスなんだよ!《どーーバゴシャア!》あぽろぉ!!』  躊躇したあとにしっかりと言った! そして殴られた! 中井出『それでですね? オリジンを斬滅した先で、     僕はこれと同じ歪を次元の濁流の中で見たというわけでして……!《ズキズキ》』 悠介 『提督ー、涙溢れてるぞー』 中井出『痛いんだからしょうがないでしょ!?     ちょっとの冗談も見逃さずに的確に殴るとか鬼だよもう!     でも話を進めよう。X-MENは挫けない』  お前XMENとなんの関係もないだろ。 中井出『えっとね、つまりはさ、ここの澱みを直すには……』 悠介 『直すには?』 中井出『中に突っ込んでその世界の終わりを見届けるか、外から無理矢理塞ぐか。     俺が最初に入った澱みの世界は……えーと、猛者知識によるところの、     “真・恋姫無双”ってものの世界だった』 悠介 『…………へ?』 彰利 「いやちょっと待て提督。     それってなにか? 世界に名前がついてるってことは───」 中井出『そ。ゲーム、漫画、アニメ、小説……そういったもので構築された世界。     俺達が知ってる世界だな。俺は知らなかったけど』 彰利 「………」 悠介 『人の思考が作り出した世界……? 冗談だろ……?』  澱みを見る。むしろ見上げた。  馬鹿げた大きさのそれは、このままほうっておけばノヴァルシオごと空界を飲み込んでしまうかもしれない。もちろんゆっくりと拡大しているから、そうなってしまうのは相当後のことなんだろうが───これを放置したままでは別の世界への移動は出来そうにない。 中井出『や……俺も“ンナバカナー”って気分だけどさ。     なにもおかしなことはなかったりするんだよね。     考えてみれば、この空界自体が“神々が創造した世界”だ。     人が世界を創ることは出来ないってことを一度破壊してみて考えよ?     まずはさっきの空洞に居た河童。     日本の妖怪で例えるなら、結構例に挙げやすい存在だよね?』 悠介 『……いや、ちょっと待て? 人が世界を創る、って……』 彰利 「俺達は、もう散々創ったりしてた……よな?」 中井出『まあねぇ。神々は創造者のてっぺん的存在って考えれば、答えは簡単。     でもさ、ほら。人がなにもないところからカタチを作るみたいに、     世界もまたって感じなんだと思うよ?     人の水死体を河童と勘違いして、その異形にあれは妖怪だと言った人が居た。     それから河童って生物が創作されて、     いつしかそれは様々な信憑性を持って河童としてのカタチを得た。     世界もそれと一緒なんだよ。     そんな世界があると様々な人が思えば、そこに世界が創造される』 彰利 「“行けはしないけどそこにあるもの”か」 悠介 『……そして、“神々が創ったここ”だからこそ、     人間たちの思念が集まって、それらをカタチにしやすい……?』 中井出『たぶん。まあ適当な予想だからなんとも』  真実だとは思えないし、それを教えてくれる人はいない。  ただ実際に提督はその恋姫って世界に降りて、終わりを見てきたと言う。 悠介 『……? いや、けど提督。提督がその澱みを見たのは───』 中井出『地界の空間を切った次元の狭間だね。いや、おかしいと思ってたんだよ。     晦の時みたいに空間切断してみせたのに、     ノートン先生みたいに自分が突撃して空間を閉じるようなことをしなかったのに、     あら不思議。地界に影響はなかった。     たぶんその時に発生したこれと同じ澱みが、     綴じ目の役割でも果たしたんじゃないかね。だから俺が落ちることで解決した』 彰利 「無茶苦茶だな……」 中井出『俺もそう思う……。でも実際に澱みは消えたみたいだし、いいんじゃない?     俺から言える解決策なんて、そうして中から閉じることくらいだよ』 ルナ 「……? よく解んないけど、どうして中に入ることが澱みの解決に繋がるの?」 中井出『おお、これは良い質問。ほれ、よーするに次元の狭間の澱みが、     この神々の頭の中を具現化した世界を侵食しようとしてるんだったら、     別の誰かの頭の中のものが世界を侵食することもあるってわけで。     神々数人と違って、人間なんて天地空間の様々に存在してて、     しかもそれらのどの世界ともここは繋がってる。     なにせ、思念が辿り着く狭界と融合しちゃったからね』 ルナ 「わちゃー……じゃあつまり、融合した時点でいろいろな侵食は始まってたわけね」 悠介 『……なるほど。     空界を救うつもりが、別の意味で侵食の手伝いをしちまってたってわけか』  しかも、融合させなかったらさせなかったで、狭界のほうがそうなってた可能性もある。  結局のところはこうなるのは時間の問題だったわけだ。 中井出『つまりさ、澱みの世界に飛んで、     その世界に“一つの結論”を持たせてやればいいんだ。     RPG世界なら魔王と戦って世界を救う! なんてエンドでもいい。     人の想像が途切れる物語のエンディングにまで持っていけば、     それでその澱みへの思念は途切れるわけだ』 悠介 『あっ───』 彰利 「なるほどっ、そういうことかっ」 ミア 「…………?」  さっきからミアがしきりに首を傾げまくっているが……すまん、こっちも頭の整理が大変で気を使っている余裕がない。 中井出『あるいは外から強制的に澱みを断ち切る。     手っ取り早くていいけど、またすぐに澱みになる可能性が大いにある。     なので中に入って物語を終わらせるってのが一番なわけだけど───』  …………はて?  何故か提督が俺達の顔を交互に見ていくんだが……? 中井出『えーと、誰か入らない? 先にあるのがなんの世界かは知らないけど』 悠介 『えっ』 彰利 「えっ」 ルナ 「えっ」 ミア 「えっ」  みんなが一斉に耳を疑った。  ……入れと申すか。この、よく解りもしない澱みの中に。 中井出『人の想像が時に妖怪を形作り、人の恐怖がその妖怪をより具現化させる。     そして、それらを退治するのもまた人の仕事。魔払い師とかがそうだね。     人と妖怪とはそうした奇妙な連鎖で成り立っておるそうです。     もしやすれば、この澱みの先はそんな連鎖の最果てなる世界かもしれませぬ。     なんかいいよね、そういうの。娯楽に染まり、いつしか恐怖を忘れた故に、     人に恐怖されない妖怪は幻想となりました。     でもそんな幻想が“居ることを許される場所”があるなら───     それは、なんつーか……幻想郷って呼べる場所なのかもね』 悠介 『幻想郷か……』  幻想の(さと)
。なるほど、それはなんというか、空界を和式にしたものを思い浮かべてみれば理解が早い。  もし古の神々が和に近い存在だったなら、きっとそうなっていたんだろう。 中井出『解りづらいから、     今度から澱みを安定化させたらその部分の安定化を世界のカケラと呼びましょう。     それぞれの世界と繋がってるここと、他の世界との繋がりの安定を図る。     一応二つの安定には成功したけど、それも完璧じゃあないかもしれない。     ……ところでこうやって話してると、     なんか僕って解説役に回された脇役みたいだよね!?』 悠介 『どうしてそれを笑顔で自慢げに言える』 中井出『脇役素晴らしいじゃないか! というわけで、     しばらくこのポジションを大切にしたい……博光です《脱ぎャアーーーン!!》』 彰利 「脱ぐな!」 ミア 「え、えと……よくわかってないけど、つまりはその澱みの中に入って、     起きることの全てを見届ければいい……んだよね?」 中井出『あ、僕は結構いろいろと無茶したよ?     だって既に存在している物語が舞台だろうと、     自分が降りたからには自分がやりたいようにやらないともったいないし。     ていうかかずピーのポジション奪っちゃったから、     天の御遣いとか言われて、物語の脇役になる道はあっさりと封殺されたよ……』 ミア 「ん、んんう……?」  哀しそうに言われても、やっぱりミアはよく解っていないようだった。  漫画アニメ等を知らない人にしてみれば、いきなり説明されても解らないのは当然だ。 中井出『まあそんなわけだ。     とりあえず、入れば無理矢理重要人物のポジションに置かれる可能性は大だ。     無視して重要なイベントから逃走して、世界の終幕を見届けるも良し!     係わって全力で楽しむも良し! もちろん僕は後者を全力で推します!     誰ぞ! 誰ぞおらぬかぁ! 我こそはと言うものは前へ出ろぉ!』 悠介 『いや……そういうのは楽しめそうなヤツが行くべきだろ』 中井出『彰利だな!』 彰利 「いや、今の中身は悠介だが。交代しようとしたら提督の方へ逃げやがった」 中井出『ぬう。じゃあギャルドさん!』 ミア 「そ、そんなわけの解らないこと、嫌だよぅ!」 中井出『ならばルナ子さ───』 ルナ 「面倒だからヤ」 中井出『即答!? ならば河童───は、空洞で待機中か。     ええい不甲斐ない! 貴様らそれでも楽しいをクリエイトするヒューマンか!』 悠介 『まあまあ、落ち着こう提督。慌てなくてもうってつけのヤツが居る』 中井出『え? マジで?』  提案すると、何故か声高らかに演説するみたいな身振りを見せていた提督がピタリと止まって俺を見る。 悠介 『それを言う前にさ、その……恋姫、だったか?     そこのことを聞かせてもらってもいいか?』 中井出『む。確かに未知のエリアへ突撃するのはとても怖いもんね。     よし解った、ならば俺が恋姫の世界で見たこと感じたことを全力で伝えよう。     そうすれば次に旅立つ誰かも安心して飛べるよね!』 悠介 『ああ、もちろんだ!』 彰利 「当たり前じゃないか!」 ルナ 「……《ピーン♪》ん、そうかもね。それはとても安心できるかもね」 ミア 「……《!》……私も聞きたいな、その時のこと。やっぱりよく解ってないし」 中井出『そ、そんなに聞きたい? え、えへへ……仕方ないなぁ!     じゃあ僕の嬉し恥ずかし珍道中を事細かに話すよ!     ───そう。あれは……僕がオリジンを斬って、     次元さえも切り裂いた後のことだった。力を使い果たした僕は、     ルドラの力が残っていた世界に中井出博光に関する記憶を奪われて、     次元の狭間へと落ちました』  ……ん?  あれ? ちょっと待て? 中井出『ちなみに夏の記憶と経験を世界から奪ったのに、     なんで忘却能力は残ってたのかといいますと、     まあその場にオリジンが居たって歴史があった所為で、     既にその時に辻褄合わせが始まってたんだよね。     黒オリジンが居る→ルドラが存在する→記憶消去は実行された→忘れられる。     そんなこともあって、俺は忘れられたってわけで。     さ、そんなことより話の続きさ』  いろいろと気になることも言っていたが、訊いてみようとした矢先に提督の物語は語られ始めた。タイミング悪いな本当に。  「あれはァ……オラが流星と化して、恋姫の大地に降り立った頃の話だァ」と妙にナマりを入れた語りで始まったこれだが、流星ってなんのことだか……。 ◆そのまま次の話へ(執筆中) ◆外史/博光無双へ Menu Back