───彰利05:ひとりが大好き彰衛門───
───……。 彰利 「ゲハッ……カ、カカ、カ……」 予想通り……いや、予想以上にボコボコでした……。 水穂 「うあああん……!!うわぁああん……!!」 春菜 「よしよし、怖かったね……。───最ッ低!!」 水穂ちゃんには菩薩のような笑顔。 アタイには心底軽蔑の眼差しをプレゼントし、しかも『最低』付き。 ひどいや春菜ちゃんたら……。 悠介 「なんていうか、落ちるとこまで落ちたって感じだよな……」 ルナ 「ホモっちって女の子にだけは手を出さないって思ってたのに……ほんと落ちたね」 木葉 「……クズが!」 容赦の無い一言です、木葉ちゃん。 フッ……仕方ない。 ここはひとつ誤解を解いて、話の続きでもしますか。 彰利 「ウ、ウウ……実は俺は魔王サコタヨーシェによって操られてたんだ……」 みさお「……彰衛門さん。それきっと逆効果……」 彰利 「え?」 悠介 「……どのツラ下げて言ってんだこいつ……」 春菜 「別の誰かの所為にしようだなんて……最低だね」 木葉 「……クズが!」 みさお「……ね?」 彰利 「アレレーーーッ!!?」 バッチリだと思ったのに……。 なんていうか、 きっと『サコタヨーシェ』という名が全てを解決してくると信じてたんだが。 見損なったぞサコタヨーシェ。
佐古田「───ひっくち!!」 浩介 「む?なんだ佐古田好恵、風邪か?書類にナメクジ這わせるのだけはやめるのだぞ」 佐古田「?……いや、きっと誰かが噂してたッス」 浩之 「十中十句、悪い噂だろうがな」 凍弥 「だな。賭けてもいい」 浩介 「というか、佐古田好恵のくしゃみならもっと雄々しいものを予想していたんだが」 浩之 「そうだな、こう……『ドブラブッシャァアアオ!!』くらいのくしゃみを」 凍弥 「それだ。佐古田にピッタリだ」 佐古田「どういうくしゃみッス……」
夜華 「彰衛門……貴様は自分の時代でも、     自分の居場所を損ねるようなことをしていたのか……」 彰利 「夜華さんまで……。     あのね、俺ゃあその場その場で自分のやりたいように動いてるだけですよ?     クラース=F=レスターさんの言葉で、こげなありがたい言葉があります。     『リスクを負って自由を楽しむ』って言葉と、     『誰にも迷惑はかけない。だから、誰にも干渉させない』って言葉。     ステキじゃない。ステキすぎるじゃない」 聖  「パパの場合、思いっきり迷惑になってるよ……」 彰利 「な、なんと!?」 みさお「自覚がなかったんですか?……本当に凄いですね」 彰利 「や、そう褒められると……」 みさお「褒めてませんっ!」 彰利 「あらら……」 みんなヒドイや……。 夜華 「とにかく……!彰衛門!この濡れた巫女装束をどうしてくれる!」 彰利 「乾かしますよ?そ〜れリフレェ〜ッシュ♪」 パワ〜〜〜♪ 夜華 「うわっ!?うわわっ!!」 アタイが月然力を発動させると、水と風と熱が夜華さんの体を包み込んだ。 で、きっちり10秒後には風呂に入ったようにさっぱりした夜華さんがそこに立っていた。 夜華 「……相変わらず便利なのか迷惑なのか……」 みさお「きっと両方です」 聖  「………」(こくこく) 彰利 「みんな……ひどいよね……」 ほんと俺って言いたい放題言われまくってるよね。 反論したらしたでボコボコだし。(注:反論の仕方が悪すぎるだけ) 悠介 「彰利、そいつらは?」 彰利 「へ?あ、ああ……そうだな、話し始める前に紹介しとかなきゃ始まらん。     えーと……こちら、冥月刀に存在していた魂、冥月こと簾翁みさおさん」 みさお「簾翁みさおです。お話することが出来て、とても嬉しく思います」 悠介 「……ん、今の世の中じゃ珍しい、礼儀正しい子だな」 だって大昔に育った子ですもの。 彰利 「で、こちらは……えーと、俺の娘の弦月聖」 聖  「えと……ゆ、弦月聖です。よろしくお願いします」(ぺこり) 彰利 「で、こちらが」 全員 『ちょっと待ったァッ!!』 聖  「ひゃっ……!?」 彰利 「な、なんぞね!急に大きな声を出して!聖が驚くではないか!!」 悠介 「おまっ……どういうことだよ!お前の娘って!!」 春菜 「いつの間に!?ことと次第によってはお仕置きだよ!?」 彰利 「なんと!?じょ、冗談じゃありませんよ!?なにが不服なのかね!」 悠介 「俺達に内緒で子供作ってたのか!どうして言わなかったんだよ!」 春菜 「全部白状してもらうよ!?言いなさい!!」 彰利 「俺にゃあプライバシーってモンが無いの!?」 悠介 「うるせぇ!いいから言え!」 がっし! 悠介がアタイの襟首を掴んできた! 彰利   「お、おわ〜〜〜っ!!!」 悠介&春菜『おわ〜じゃないっ!!』 フッ……さすがはアタイとの学生生活が一番長かったふたりだ……。 どうやらこの中じゃあ一番俺のことが気になるらしいぜ? ……考えてみりゃあ、俺と悠介との関係が何気に長いのって先輩殿なんだよね。 最初の頃は俺と悠介と先輩殿と中井出とで騒ぎ合ってたもんだ。 懐かしいなぁ、中学の頃が。 ルナ 「ねねね、聖、っていったっけ?母親は誰?やっぱり粉雪?」 聖  「え?えっと……そこの……」 ルナ 「え?」 夜華 「うん?」 聖  「この人がママ」 夜華 「え……」 ルナ 「な……」 全員 『なにぃいいいいいいっ!!?』 ……あれ? なにやら悠介と先輩殿の所為で見えないその後ろの方が騒がしいですな……。 何事? 悠介  「ど、どういうことだてめぇ!!」 春菜  「弦月くん!浮気するなんて最低だよ!!」 若葉  「日余さんの心を弄ぶなんて……!」 木葉  「……クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 悠介  「死ね!」 彰利  「え、ちょ……な、なんのことか……」 悠介  「しらばっくれる気かてめぇ!」 春菜  「最低だよ!」 若葉  「反省の心もないんですね……!」 木葉  「クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 悠介  「死ね!」 ゼノ  「自分の責任すらまっとう出来ぬのか……どこまでも見下げたヤツめ!」 彰利  「いや……お、お願いだから……」 木葉  「クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 悠介  「死ね!」 彰利  「おれ……俺の話……」 木葉  「……クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 彰利  「う、ううう……おね……お願いだから……」 夜華  「………」 聖   「……?」 みさお 「聖さん……もう少し後のことを考えて……って、      これも彰衛門さんの遺伝子の所為ですかね……」 ───……。 ───……。 彰利  「ひどいよ〜……みんながぼくの話を聞いてくれないんだよ〜……」 若葉  「本気で泣いてしまいましたが……」 春菜  「どうせウソ泣きだよ!」 木葉  「クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 悠介  「死ね!」 彰利  「しくしくしくしく……」 春菜  「そうやって誤魔化そうとしたってダメなんだからね!?」 木葉  「クズが!」 ルナ  「カスが!」 エドガー「ゴミが!」 悠介  「死ね!」 すぐに終わるだろうと思っていた罵倒の嵐は治まらない。 数人に囲まれて罵られる彰衛門を見て、 わたしの胸の中には苛々とした何かが膨れ上がってきていた。 夜華 「悠介殿も悠介殿だ……。未来に居た悠介殿は、     間違っても彰衛門に『死ね』などと言うお方ではなかった筈だ……」 みさお「確かにあっちより容赦ないですね……」 夜華 「彰衛門は本当にこんなところに帰ってきたかったのか……?これでは、     悲しみに染まるような苦しみを受けてきたあいつが報われないではないか……。     ……わたしは悠介殿も含め、あいつらが嫌いになってしまいそうだ……」 聖  「ひどいよ……」 みさお「自業自得な気もしますけどね……」 それに……よく見れば、同じ顔をした女ふたりとあの女は…… 子供の頃の彰衛門を誤解していたやつらではないか。 そんなやつらに……どうして彰衛門を罵る権利がある!! 夜華 「くっ……許せん!!もはや我慢の限界だ!」 みさお「待ってください、篠瀬さん」 夜華 「止めてくれるな!わたしはっ……わたしは悔しい!!     何故真実の全てを知らぬやつに彰衛門が罵られなければならない!!     もし彰衛門があの女どもをからかうのであれば、     彰衛門に向けられた誤解を思えば遥かに可愛いものだろう!!     何故っ……何故故郷に帰ってまで!彰衛門が泣かなければならないんだ!!」 みさお「篠瀬さん……」 聖  「ママ……」 夜華 「このような状況……おかしいじゃないか……!!何故っ……くそっ……!!」 みさお「………………篠瀬さん。     だったら……彰衛門さんの過去をみんなに見せてしまいましょう。     もともと、彰衛門さんはそのために皆さんをここに呼んだんです」 夜華 「……しかし……それでは彰衛門が晒し者にされるだけでは……」 みさお「大丈夫です。     彰衛門さんは自らが進んで、皆さんに自分の過去を見せようとしました。     ……それはきっと、ここに居る皆さんが好きだからこそ、頷ける行動です」 夜華 「………」 みさお「信じてあげましょう、彰衛門さんを。わたしだって今、     彰衛門さんを泣かせた人たちのことが嫌いになり始めてます。……でも」 夜華 「……いいや、解った。すまなかった……見苦しいところを見せた」 みさお「あ……いいえ。それも彰衛門さんを思っていればこそでしょう?」 夜華 「……あ……う……ち、ちがうぞ?わ、わわわたしはっ……」 聖  「ママ、照れてる。かわいー♪」 夜華 「こ、こらっ!聖っ!!」 聖  「きゃーっ♪」 わたしはぱたぱたと逃げる聖を叱ろうとして追いかけた。 そんなわたし達を見て、みさおは穏やかに笑っていた。 ───……。 彰利 「ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜…………ど〜〜せ死ぬ時ゃ……ひとりきり〜……」 若葉 「……凄まじい鬱加減でイジケてしまいましたが……」 悠介 「あ〜……その、彰利〜?」 ルナ 「ホモっち〜?」 木葉 「クズが!」 春菜 「わっ、わっ、木葉ちゃんっ!さ、さすがにもう可哀相だからっ……!」 セレス「あの……状況が掴めないんですが……?」 ゼノ 「哀れな……」 水穂 「お気の毒ですね……」 みさお「………」 聖ちゃんと月視力を増幅させている頃、 彰衛門さんがドス黒い鬱オーラを背負いながらイジケてしまった。 さすがに発言も許されずに罵倒され続ければ泣きたくもなりますよね……。 聖  「パパ……」 みさお「聖ちゃん、彰衛門さんには悪いけど集中してください。     これが終われば、皆さんの彰衛門さんへの見方も変わる筈ですから」 聖  「うん……」 わたし達がやろうとしていることは、 月視力を増幅させて彰衛門さんの過去を『過去視』で見るというものだ。 それを皆さんに見せるのだから、並大抵の力じゃあちっとも足りない。 だからこそ、聖ちゃんにも協力してもらって集中している。 ルナ 「ああもう!こっちくらい向きなさいよホモっち!」 ぼかっ!! 悠介 「あっ!ばかっ!鬱なヤツにそんなことしたら……!!」 ルナ 「え?」 彰利 「…………ひ〜と〜り〜が〜……大好きさ〜………………。     ど〜せ……死ぬ時ゃ……独りきり〜…………」 悠介 「ほらみろ……余計に鬱になっちまった……」 ルナ 「あ、あう……」 木葉 「クズが!」 春菜 「こ、木葉ちゃんっ!!」 夜華 「っ……!!」 ルナさんが彰衛門さんを殴る中、篠瀬さんがギリ……と強く刀を握っていた。 掴んだ指が白くなっている……よほど強く力を込めているんだろう。 夜華 「悠介殿……」 悠介 「へ?あー……名前、なんだっけ?って……なんで俺の名前を?」 夜華 「あなたは……自分が存在する意味の深さを知るべきだと思います。     あなたがどんな男の生涯の先に存命しているのか……。     あなたが先ほど、誰を面白半分に罵倒していたのか……」 悠介 「……?なんだそれ……」 夜華 「わたしは正直……この時代のあなたが嫌いだ。     彰衛門の親友だなどと名乗ること自体が許せない」 悠介 「……ちょっと待て。彰衛門ってのは彰利のことか?     だったらそれは聞き捨てならないぞ。なんなんだよお前は」 夜華 「篠瀬夜華。貴殿らの家系の開祖、簾翁楓さまに仕えていた武士だ」 悠介 「開祖……?じゃあ」 夜華 「わたしはこの時代の人間ではありません。     そんなわたしがこの時代のことに口を出すことは間違いかもしれません。     ですが、これだけは言わせて頂きます。     ……知らなかったとはいえ、今のあなたは彰衛門の心の拠り所として不適格だ!」 悠介 「っ……おいっ!」 ガッ─── みさお「あ……!」 悠介さんが篠瀬さんに掴みかかった……! 悠介 「どういうつもりだ!俺があいつの友人やってるのが気に入らないってことか!?」 夜華 「っ……そう聞こえなかったのですか?     わたしはそう聞こえるように言ったつもりでしたが……」 悠介 「てめぇっ……!!」 ルナ 「えっ?わーっ!ちょっと悠介!なにやってんの!!」 頭に血が登ったのか、思わず篠瀬さんを叩こうとした悠介さんの腕を、 危ういところでルナさんが止めてくれた。 夜華 「冗談じゃない……!なにが親友だ……!     この時代の貴方が彰衛門にどれだけのことをしてあげられたというのだ……!     失ってみなければ解らないのだろう!!     失ってないからこそ平気で『死ね』などと言えるのだろう!     彰衛門は本当に死と隣り合わせの道を歩んできたのだ!!     頼れる存在もなく、否定されてばかりでも歩んできたのだ!     それを冗談でも『死ね』などと……よくも!!     それでよく親友などと言えるな!!笑わせるな!!」 悠介 「っ───やろぉおっ!!」 ルナ 「わわぁっ!?ちょっ……悠介ストップ!ストォーーーップ!!!     ネッキー手伝って!!あなたも悠介を悪く言うのやめてよね!!」 夜華 「フン。いいか……わたしは貴様を未来の悠介殿と同一視などしないからな……!     未来の悠介殿こそ彰衛門の親友に相応しい……!」 悠介 「さっきから未来だのなんだの……!     だったらお前はこの時代の俺と彰利の何を知ってるんだよ!」 夜華 「知ってるさ……全て」 悠介 「なに……?」 夜華 「知らないのは貴様だけだろう……。     つくづく、この時代に来ることが出来てよかった。     こんな場所に彰衛門ひとりでは、悲しすぎる」 悠介 「っ……」 ……篠瀬さん……お気持ちは解りますけど、 あまり怒らせるようなことはしないでください……。 でも……冗談でも彰衛門さんに『死ね』と言ったのは、わたしも許せない。 この時代の悠介さんは、未来の悠介さんよりも『死』の印象が少なすぎる。 親友を失うこともなくここまで来れた悠介さんには、 未来の悠介さんとは決定的に違うなにかがある。 それは『死』への重み。 いくら子供の頃に一家心中に巻き込まれたといっても、それはもう遠い過去。 ろくに大事でもなかった親代わりを失った悲しみや辛さに比べれば…… 未来の悠介さんが背負った悲しみはあまりにも大きかった。 だから……篠瀬さんは怒った。 その怒りはもっともだし、そんな悠介さんが彰衛門さんに『死ね』と言うのは間違ってる。 きっと、未来の悠介さんがふざけて『死ね』とか言う分なら、 篠瀬さんも普通に受け取っていただろう。 この時代の悠介さんには『背負うもの』があまりに少ない。 恐らく、未来の悠介さんほど強烈なイメージによる創造は出来やしないだろう。 未来の悠介さんに比べれば、生き方がやさしいのだから。 みさお(あ……考えてたらだんだんイライラしてきました……) 彰衛門さんには悪いけれど、わたしもこの人たちのこと好きじゃあありません。 多分、聖ちゃんも同じ気持ち。 さっきから頬を膨らませてるし。 でも……まずは彰衛門さんの過去を見せて、 若葉さんと木葉さんと春菜さんに反省してもらいましょう。 自分らが、彰衛門さんにどれだけのことをしてきたのか。 まずそれを見てもらうことにしよう。 水穂さん達は関係ないけど……でも、きっと彰衛門さんに対する見方が変わると思うから。 みさお「彰衛門さん、準備が整いましたよ」 彰利 「ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜……     ど〜せ死ぬ時ゃ……独りきり〜……」 みさお「………」 聖  「パパ……」 仕方ない。 彰衛門さんはしばらくそっとしておこう。 みさお「じゃ、いくよ、聖ちゃん」 聖  「うん、みさおちゃん」 頷き合って、わたしたちはこの部屋を対象に月視力を発動させた。 その途端、部屋だったその景色は黒く染まって、やがて───景色を映し出していった。 そう……彰衛門さんの、ここに至るまでの景色を。 悠介 「これは……」 ルナ 「なに、これ……」 春菜 「あ、あそこに誰か居るね。子供……かな?」 夜華 「っ……」 その子供を見た途端、篠瀬さんが今にも涙をこぼしてしまうんじゃないかって顔をする。 それはとても悲しそうな顔だった。 ───……。 ───……。 若葉 「やめ……やめて……ください……」 最初に……若葉が泣いた。 親に殴られ、血を吐きながら生きてきた少年を見て。 必要ないと。 役立たずと罵られながらも母親の笑顔のために生きた、ひとりの少年を見て。 木葉 「………」 次に……木葉が目を逸らした。 目の前で母を殺され、悲しみのあまり絶叫する少年を見て。 少年は人が変わったようにその場に居た人を殺し、 馬鹿みたいな顔でその境内に登って来た俺に向かって駆けて。 だけど……自分の腕で自分を貫いて……微笑の中で倒れた。 悠介 「………」 そして俺がその引き金を引く。 『運命の無限地獄』の引き金を。 自分の都合で少年を生き返らせ、そのくせさっさと気絶しやがって。 あとから境内に辿り着いた若葉と木葉、 そして……姉さんに誤解を抱かせるようなことをして。 春菜 「あ……、あああ……!!」 少年は……笑った。 悲しくて。 悲しみのあまり。 三人が向ける視線が、あまりにも殺意に満ちていたから。 そして傷つけられるのだ。 木の棒で頭を殴打され、刀で斬りつけられて。 それでも彰利は反撃をしなかった。 ただ殴られ、斬られ……悲しみに抱かれたまま、いつしか涙して。 けれど、それすらも否定され…… 『───あなたなんか、死んじゃえばいい!!』 若葉&木葉『───!!』 その言葉に……あいつは心を砕かれた。 涙して……苦しそうに涙して。 あいつが殴られる理由なんてどこにもなかったっていうのに…… ガツッ!! 彰利 『あっ……』 無抵抗だった泣き顔の少年は……頭を強く殴られて、血に塗れながら……やがて倒れた。 ……見ていられない。 とてつもない罪悪感が自分の中に渦巻いて……苦しくて仕方が無い。 倒れた少年は、俺が若葉と木葉に病院に連れていかれてもなお倒れたままで……。 きっと強い筈だった俺の友達は……その、小さな体を震わせながら……泣いていた。 ───初めてかもしれない。 彰利が……こんなに大声で泣くのを見たのは。 ルナ 「な、なによ…………なんなのよこれ…………。     だ、だってホモっち、いっつも馬鹿やってて、楽しそうで……」 ルナの言葉ももっともだ。 普段の彰利からなんて、こんな過去は考えられない。 悠介 「っ……」 でも……目を逸らしちゃいけないんだ。 篠瀬ってやつの言ってたことが解った。 俺がどれだけの親友のお陰でこの場に立っていられてるのか。 それを、俺は見届けなければならないんだから……。 みさお「………」 聖  「ママ……」 夜華 「いつ見ても……笑んでやれない過去だな……」 聖  「………」 ……景色が変わる。 俺が病院から退院して、神社の境内で『よっ』と挨拶する彰利を見て。 彰利の心はもう砕けてしまっていて…… 砕かれた心のままで微笑むあいつのことを、なんにも気づいてやれずに……時は流れる。 春菜 『あ、弦月くん美味しそうなおべんとだねー。卵ひとつもらっていい?』 彰利 『ノォサーッ!!』 春菜 『あ、ケチッ!弦月くんのケチンボ!ひとつくらいいいじゃない!!』 彰利 『これ!年頃の娘っ子が【チンボ】などと!はしたない!』 春菜 『わ、わたし、はしたなくなんかないもん!』 中学で中井出と出会って馬鹿やって、姉さんにも出会って馬鹿やって。 砕けた心が少しずつ形を取り戻していっていた……そんな時。 春菜 『……あなたがあの時、悠介くんを殺そうとした人だったなんてね……』 彰利 『え……?あ、……先輩?』 春菜 『気安く呼ばないでっ!!……本当、どういう神経してるんだろうね……。     信じられないよ……きっと今も悠介くんを殺すために一緒に居るんでしょ!』 彰利 『ち、ちがう!違うよ!話聞いてくれっ!』 春菜 『人殺しなんかと話すことなんてないよ!     あの日、キミが殺したんでしょ!?浄子さんも、宗次さんも!』 彰利 『っ……』 春菜 『最低だね……危うく騙されっぱなしになるところだったよ……。     でもね、もう悠介くんと一緒になんかさせないからね……!』 彰利 『先輩っ……!違うんだよ……!俺っ……俺は……!!』 春菜 『うるさいっ!人殺しっ!!』 彰利 『あ……───っ……』 ……心は……砕けてしまった。 春菜 「やめて……やめてよぉ……っ……!!」 水穂 「……春菜お姉さん……」 春菜 「ごめんね……ごめんね弦月くん……!ごめんねぇっ……!!」 あいつは……周りから否定されながら、それでも生きることをやめずに生きてゆく。 ただ、友達である俺と一緒に居るために。 自分の日常が感じられる場所を守るために。 けど、やがてはそこに辿り着いてしまう。 絶望っていう二文字が待つ、運命の無限地獄に。 ゾバァッ!! 彰利 『あ、あ……?』 ゼノ 『ムシケラごときが我の前に立つな……』 わけも解らないままに胸を貫かれ、心臓を鷲掴みにされて。 血を吐いて、恐怖に体を震わせて。 彰利 『けほっ……、あ……』 ゼノ 『そら、心臓に触れているぞ。軽く撫でてやれば……お前は死ぬ』 でも……死ぬ直前だっていうのに、あいつは自分の命よりも『俺』を選んだ。 ゼノ 『───!?な、なんだこの光は……!貴様、なにをした!』 彰利 『いかせ、ない……いかせない……!守るんだ……守る、ん……───』 それは、小さな光だった。 『死ぬための光』。 過去の月へ転移して、あいつは自分の全てを犠牲にして……俺の未来を守った。 ゼノ 「チィッ……!!なんという愚直……!真の愚かが己にあるとも知らず……!!     我は……我は儚き命を弄び、一体なにをしていたのだ……!!」 そうやって死んでしまってもまだ……彰利は俺の手によって蘇らされる。 再び目が覚めた時、再び若葉と木葉に傷つけられて。 若葉 「ちがっ……わたし……!そんなつもりじゃ……!!」 木葉 「っ……なんてことを……!」 同じ時を繰り返し、何度も傷つけられ、何度も否定されて。 いつしかあいつは自分の心が完全に砕けていたことを知った。 何度目か蘇らされて、若葉と木葉に傷つけられても……あいつはもう泣かなかった。 ……違う、か。 泣けなかったんだ、きっと。 彰利 『あ、あの、さ……先輩……』 それでもきっと、心のどこかで希望を持って。 あいつは日常を求めてみることもした。 でも……いつかは裏切られてしまう。 楽しかった時間は必ず裏切りで終わってしまう。 そう感じるようになってしまった。 春菜 『ふざけないでよ!そんな言葉、信じると思ってるの!?     あなたが自分の親を殺したのは事実じゃない!!』 春菜 「やだぁっ……!!やめて……っ!!やめてよぉ……!!」 だからきっと、涙は出なくても…… あいつは繰り返した歴史の数だけ違う罵倒を浴びせられて。 その数だけ……心の中で泣いてたんだと思う。 彰利 『ふむ。月生力と月清力は十分だな、もうマスター出来たみたいだ。     ───ま、こんなもんでゼノを消せりゃあ……苦労はしないよな。     で。お前は悠介とどんな関係なんだ?』 凍弥 『……孫の知人だ』 彰利 『孫?……悠介の?』 けど……彰利はそんなそぶりは全然見せやしなかった。 他人のために自分を傷つけて、自分のことなんか後回しにして。 彰衛門『なっ……やめろ月空力!まだ助かるんだ!今ならまだ救ってやれるんだ!     邪魔すんじゃねぇ!これも……これも運命だとでも言うのか!!     だったらそんなものは俺が変えてやる!!     だから……だからぁあっ!!邪魔すんなぁあああああああっ!!!!』 運命を嫌って、偶然を好んで……その度に傷ついて。 夜華 「彰衛門……辛かったのだろうな……」 聖  「パパ……泣いてる……」 みさお「彰衛門さん……」 それでもあいつは、きっと無理にでも笑って。 彰衛門『俺はっ!!俺は……目の前で母親を殺された!』 夜華 『っ!』 彰衛門『そしてこの歴史の前では娘が目の前で死んだ!     楓巫女が自分の胸に矢を刺し!動かなくなっていくのをこの目で見たんだ!!     知った風な口を叩くな!?どうしてお前にそんなことが言える!!』 夜華 『あっ……ぐ……す、すまない……』 夜華 「……すまない。本当に……すまなかった……」 みさお「篠瀬さん、顔を上げてください……。     彰衛門さん、そんなことされても喜ぶ人じゃあありませんから……」 きっとこいつらには俺が知らない分の辛い歴史があって。 親友である俺がぼ〜っとしている間に、想像も出来ないくらいのことがあって……。 彰利 『悠介悠介〜、退院祝いに俺の唐揚げやるよ〜!いや〜、運がいいねコノヤロウ!』 悠介 『……何度目だっけ、退院祝い』 彰利 『さあ?まあそれよりもホレホレ、食いなせえ!     食うモン食って体を全快にするのよ!』 若葉 『待ちなさい』 彰利 『なにやつ!?……あ……若葉ちゃん……』 若葉 『おにいさまには近づかないでくださいって……言いましたよね?』 彰利 『あ……えっと……』 若葉 『あなたは今まで通り、     あの桐生とかいう先生と一緒にお弁当を食べていればいいでしょう。     それなのに最近行ってないらしいじゃないですか』 彰利 『………』 木葉 『……目障りです。さっさと行きなさい』 悠介 『若葉っ!木葉っ!なんて言い方してるんだよ!』 彰利 『あ、あはは……いいんだよ悠介。そういや俺、キリュっちと約束してたんだった。     あんまり待たせると悪いから……』 悠介 『あ……彰利っ?』 彰利 『ほんと、俺のことは気にしなくていいからっ!』 その数だけ、彰利は傷ついてきたんだと思う。 彰利 『まあそんなわけで、またしばらく厄介になるでゴワス。よいでゴワスか?』 桐生 『いいっ……!いいよぉ……!!アキちゃん居ないとつまんないよぅ……!!』 彰利 『……告白?』 真穂 『絶対に違うよ……』 彰利 『…………ごめん、キリュっち、真穂さん……逃げ道みたいなことして……』 …………。 彰利 『え……?あ……えっと……や、やった……んだよな?     俺……未来、開けたんだよな……?ゼノに……勝てたん……だよな?     あ……ははっ!やった……やったぁあああっ!!』 悠介 『未来開けた?なんだよそりゃ、訳解らん。っはぁ〜疲れた……俺ゃ寝るぞ……』 彰利 『……え?あ、ちょっと待ってくれよ悠介!     せ、せっかくだしさ、もっとこう喜びを……』 悠介 『やーかーまーしい。壊れた家とかの修理も考えなきゃいけないんだぞ?     喜んでなんていられるか、ばか』 彰利 『あ……うん。そう、だよな……うん……悪い……ごめん……な』 ッ……!!なにやってんだよ俺……!! どうして……どうして気づいてやれなかったんだ……!! あいつが……あの彰利がここまで悲しそうな声出してるってのに……!! これが親友のすることか!? これが……!こんなことがっ……!! 彰利 『俺はもう……弦月彰利でなんて居たくない……。     もう解放されたいんだ……。家系だとか罪だとか呪いだとか、     そんなものから懸け離れた……自由な何かになりたい……』 ……なんて……人生なんだろうか。 幸せよりも絶望が多すぎる……呪われた人生と言われても首を横に振れない……。 あいつはちょっと欲張ってみただけなのに。 今までの辛さの分、そんなことが許されても良かった筈だったのに……。 あいつは死んでしまって、いつしか……彰利ではない別の存在になっていた。 救いがあるとするなら……少しでもあいつが楽しくいられる状況があること。 彰利であった時も、骨であった時も。 その全てが不幸だったわけじゃない。 特に……篠瀬とかいうやつと一緒に居るときのあいつは、ひどく楽しそうだった。 はは……まあ、相手の方はたまったもんじゃなさそうだが。 南無 『ははははは───あはははははは!!楽しみだよシェイド!!     かつての知り合いは俺を見てどんなことを言うかな!?     恐れるか!?バケモノと呼ぶか!?ああそれでいい!!     堕ちてしまえ!!罪とは!罰とはそういうものだ!!     暖かみなんて要らねぇ!!元より感じることすら出来ねぇ!!     その瞬間を楽しめれば───俺は満足だ!!!』 壊れる魂、壊れる人格……。 その全てが悲しかった。 どうしてこんなことになってしまったのか……。 俺にはもう、解らなかった。 南無 『もう……こんな時代か。     あと少し……あと少しで夜華さんの童心がこの教室に来る……』 晴男 『待ち人でも居るのかい……?』 南無 『やあ、人体模型の佐藤晴男くん。お前に会うのもどれくらいぶりかねぇ』 晴男 『初対面だけど……それよりぼく、人間になりたいんだ……』 南無 『絶!対!無理!!     つーか人間じゃないって解ってたならどうしてあの時訊いてきたほね!?』 夜華 「……あの時は随分驚かされた」 聖  「いろいろあったよね……」 でも、骨は生きてゆく。 その状態でも否定されながら、自分は彰利ではないと言いながら。 その不器用な生き方、受け入れられない生き方の全てが彰利そのものだったというのに。 レオ 『は、離せっ!!消滅したいのか!!』 彰利 『解ってねぇなぁ……。俺だって死ぬのは怖いよ……。     けどな……それでも……───守りたいものがあるんだ……。     だから死ぬことだって我慢できる……。お前も……俺なら解るだろ……。     【俺達】はずっとそうやって死んできたんだから───……』 消滅と再生を繰り返して、生きては死んで、死んでは生き返され。 そして……そいつはようやく、『本当の未来』を手に入れることが出来た。 彰利 『俺のことは忘れて、今の幸せを追いかけてみろよ、親友───』 俺を親友と呼んで、笑う彰利。 その、俺の知らない時間の中で……あいつは俺のために俺の中の彰利の記憶を消した。 ようやく手に入れた自分の解放を前にしても、 俺のことばっかりを気にしている馬鹿が……そこに居た。 悠介 「………」 その後のことといったら……正直、情けない。 日余にフラレて未来に飛ぶ彰利と、その先で簡単に騙される篠瀬。 神降街に行って散々な目に合うふたりと……決定的に喧嘩をする彰利と日余。 そして…… 全員 『………』 そして……ようやく未来を手に入れることが出来た彰利を、よってたかって罵倒する俺達。 ……彰利の視線から見るだけで、こうも見苦しく見えるのか。 まるで集団イジメだ。 そんなもの、俺達家系の人間が一番嫌っていたことだった筈なのに。 ───キィンッ。 小さな音がして、景色が部屋のそれに戻る。 みさお「……如何でしたでしょうか。これが彰衛門さんの生きた道です」 夜華 「知らなかったという点では確かに仕方が無かったかもしれない。     だが……それにしてもあなた方はやりすぎだ」 聖  「お願いだから……パパを傷つけないで……」 彰利と一緒に現れた三人が、それぞれ言葉を発する。 それに対しての俺達は…… 悠介 「正直……なんて言っていいか解らない……」 春菜 「ひっ……ひっく……ごめんなさい……ごめんなさい……」 若葉 「言葉も……ありません……」 木葉 「許されるとは思いません……いえ……思えませんね……」 ゼノ 「弦月彰利は……元より強かったわけではなかったのだな……。     不覚を取るわけだ……己が情けなく思う」 セレス「人間が……亜種側の者よりもひどい生き方をしている……。     こんな現実が……実際に存在するものなんですね……」 水穂 「わ、わたし……そんな弦月さんに一生もののヒドイあだ名を……」 全員 『いや、それは許される』 水穂 「えぇっ!?」 ふざけていたとはいえ、あいつが変態オカマホモコンなのは事実だ。 実際、見境なく人の胸触る変態だったり、 カマっぽい発言もしたりホモっぽかったり、挙句の果てに生後一日の子が初恋の相手……。 もはや救いようのない変態オカマホモコンだ。 悠介 「彰利、すまん……俺、なんて言っていいか……。     考えが足らなかったうえに、殴っちまって……。お前が怒るの、当然だった……」 彰利 「ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜……     ど〜せ死ぬ時ゃ……独りきり〜……」 悠介 「って……まだイジケてたのか……」 がばっ! 彰利 「ひとぉーーーーっ!!?」 夜華 「くわがっ!?なななにをする貴様っ!!彰衛門から離れろ!!」 少し呆れが入った時、イジケる彰利を姉さんが背中から抱きしめた。 春菜 「ごめんねっ……ごめんね弦月くんっ……!!     あんなに楽しそうだったのに……わたしの友達で居てくれようとしてたのに……!     わたしっ……わたしっ……ごめっ……ごめんねぇえ……っ!!」 彰利 「……告白?」 みさお「絶対違いますっ」 彰利 「…………ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜……     ど〜せ死ぬ時ゃ……独りきり〜……」 みさお「ああもうっ!またそうやってイジケるっ!」 若葉 「すみませんでした弦月さ───あ……っ……!     本当にすみませんっ……情けないです……!     おにいさまの恩人の名前を一度も呼んだことがなかったなんて……!」 木葉 「クズが!」 若葉 「こっ……木葉ちゃん!それは姉に向かって言う言葉じゃ……あ」 悠介 「………」 随分久しぶりに聞いた。 若葉が木葉のことを『木葉ちゃん』と呼ぶのを。 夜華 「離れろっ!はぁああなぁああああれぇええろぉおおおっ……!!」 春菜 「ごめんね……ごめんね……!」 聖  「パパから離れてっ!パパに甘えていいのはわたしだけだよっ!」 彰利 「ひ……どりが……ががが……!!だだだ……ゲブッ!!     だぶっ……ず、ぎ……ざ……!!     どぜっ……げぶぶ……じぬどぎゃ……げ、げげ……びどぢ……ぎ、ぎぎ……」 みさお「あの……みなさん?春菜さんの腕が見事に彰衛門さんに首に極まってますが。     そんな状態で引っ張ったら……」 彰利 「ゴゲッ……ゴゲッ……ブ、ブゲゲ……」 ゴトッ。 ふと、首を庇おうとして宙を掻いていた彰利の手が畳に落ちた。 それとともに、彰利の体から力が抜けていくのが解る。 悠介 「お、おわっ!?彰利ぃーーーっ!!」 夜華 「───はっ!?あ、彰衛門!?おい彰衛門!!」 彰利 「フフフッ……ド、ドジこいちまったぜ……」 全員 『なんだ無事か……』 彰利 「………」 みさお「こういうところは見切られてますね……彰衛門さん……」 彰利 「言わないで……涙が出ちゃう……」 Next Menu back