───スーパージャガー彰衛門&冥月───
彰衛門「いてぇよぉおお〜〜〜!!いてぇよぉおおお〜〜〜っ!!!」 大激痛。 膝は無残に砕け、皿は粉々。 それどころかスペックに銃で膝を撃たれた花山さんのように、膝に穴が空いてしまった。 動脈が切れたんでしょうね、物凄い勢いで血が飛び出てます。 冥月 「な、なにやってるんですか彰衛門さん!!」 彰衛門「うわひっでぇ!!キミが言うかね!?キミがそれを言うかね!?     蚊なんぞにアタイの膝の命運を預けたのはキミでしょうが!!」 冥月 「彰衛門さんなら守れるって思ったんです!!     どうして守ってあげなかったんですか!」 彰衛門「守ろうと思いましたともさね!!けどね!     不思議なことに蚊には瞬間移動呪文でもあるかのようにですね!     目で追っても途中で消えるかのように見失うんですよ!!     蚊ってそういう生物なのよ!!解るかね!この切ない思い!」 冥月 「解りません!」 彰衛門「あらヒドイ!」 どう喩えればよいのやら! 冥月さんたら血も涙もありませんよ!? ウウ……過去で会った頃のみさおさんが懐かしいねぇ……。 冥月 「とにかく止血です!というよりどうしてすぐに月生力を発動させないんですか!」 彰衛門「どんな状況をも利用して騒ぐのが俺の流儀だ」 冥月 「そんな流儀、捨ててしまってください!」 彰衛門「……光莉さんや……?冥月ちゃんが冷たいのよ……」 光莉 「パパが悪いっ!」 彰衛門「ゲッ!な、なんとまあ……マジすか?」 とショックを受けるのも束の間。 俺と冥月と光莉とで月生力を流した結果、膝が一気にウジュルウジュルと再生した。 ……気持ち悪いったらなかった。 彰衛門「うーしゃあ!さて冥月、光莉さん、氷雨さん連れてちょほいと外で待っといで」 光莉 「え……どうして?」 冥月 「またなにかしでかす気ですか……」 彰衛門「あの……冥月さん?少しは人のこと信用しましょうよ」 冥月 「信用してるからこそ『また』って言ってるんです。     『父上』にも言えることですけど、     あまり自分を削るような行為はしないでくださいね」 彰衛門「……ん、解っちょおよ。だから、ね?外で待っといで。     拙者は紅葉殿に用がござるでござる」 冥月 「……無茶はしないでください」 彰衛門「じゃーじょーぶだって。すぐ済むから」 光莉 「……パパ」 彰衛門「光莉も。ほら、ママ連れて外で待ってなされ」 光莉 「……うん」 それだけ言うと、光莉と冥月は氷雨さんを連れて外に出て行った。 ガラガラと道場の引き戸が閉ざされ、ここには俺と紅葉殿だけが残される。 彰衛門「待たせたかね」 紅葉 「ああ、待ったな」 お互いに木刀を握り合う。 これからが真の一本勝負。 紅葉 「加減されたままで下がるわけにはいかない」 彰衛門「こちらもね。夜華さんと闘わせればいいだけとは思っておったが、     それでは貴殿が納得せんでしょう。ならば……こうするまでよ」 木刀を構える。 紅葉 「貴様……名を聞いておこうか」 彰衛門「俺は最近結成したチーム『チョコレート』の弓彰衛門って(モン)
だ。     まだホヤホヤなんだが、名前ぐらい覚えておいてくれよ。     まァこれから死ぬンだからその必要もねェか((しょう))」 紅葉 「……悪いが名前を覚えるのは苦手なんだ」 彰衛門「あの……アンタが訊いてきたから答えたんですけど……」 やがて、どちらともなく駆け出した。 紅葉 「紅葉刀閃流───!」 彰衛門「体に教えねばわからんのだろう…… “神の定義”……!!」 紅葉 「刀覇-時雨-!!」 フォンッ!!バジィッ─── 紅葉 「っ!?」 紅葉殿が振り切った木刀が俺の横腹を切り、あっさりと抜ける。 己の体を雷としての攻撃避け……一度、夜華さんにもやったことだ。 彰衛門「貴様らがどう足掻こうが太刀打ち出来ない圧倒的な力ぁ!」 ガシッ!! 紅葉 「くっ!?チィ!離せ!」 紅葉殿の持つ木刀を手で掴み、ニヤリと笑う。 彰衛門「そして───そこで覚える絶望という名の恐怖!」 バヂッ───バッシャアアアアアアアン!!!! 紅葉 「ぐっ───くあぁああああああああっ!!!!」 その木刀に雷を流す。 あんまり伝導率は高くないが、それでも伝わってはいるらしい。 彰衛門「……全ての希望が絶たれることは“死”に同じ」 紅葉 「ぐああっ……!!が、はぁああっ!!」 彰衛門「人にとって死は最大の“恐怖”!!」 紅葉殿が無理矢理木刀を振るう。 俺はそれを軽く避けて、回転しながら着地した。 紅葉殿は体を痺れさせながらも向かってこようとしたが、 人体に巡る電気信号がそれを許さなかった。 紅葉 「ぐっ……はぁ……」 俺は倒れかける紅葉殿の頭を踏みつけ───ガツンッ!! 紅葉 「ぐあぁっ!」 その勢いとともに、床に叩きつけた。 彰衛門「だから人は地に顔をうずめ、神に慈悲を乞う……仕方のない事さ。     生物は恐怖の前にひれ伏すようにできている。本能というものだ」 ミシミシと踏みつけ、その抵抗が無くなるのを待ち……やがて、抗う力が無くなった頃。 彰衛門「人は神を怖れるのではない……───恐怖こそが神なのだ」 エネルの名言を発動。 これぞ……神の定義!! 彰衛門「フッ……貴殿にとって、ヨウカンとは圧倒的に違うものがある。     それは……家系の身体能力さね」 どれだけ極めようが所詮は生身の人間。 家系の身体能力にはそうそう敵わぬよ。 それに独練の経験は高くても、相手が居る鍛錬の経験は少なそうだ。 ……実践経験の少なさが大敗を生んだのだ。 精進せよ、紅葉殿。 俺はその姿に背を向け、ヒタヒタと裸足のままにその場を─── 声  「───刀覇-不知火-!!」 彰衛門「む……」 床と装束とが奏でる衣擦れの音を第一に聞いた俺は、体を捻って跳躍した。 紅葉 「くっ!」 クルクルと回転して、やがて着地。 彰衛門「なにをするのだ戦士ワイパー。勝負はもうついただろう」 紅葉 「生憎と私は負けず嫌いなのでな……。負けたままで黙っていられるか!     余力のある限り、貴様に向かってくれる!!」 彰衛門「ィヤッハッハッハ…………児戯なり!!」 ブゥウウ……ン!! 紅葉 「なにっ!?」 彰衛門「神の裁き……エル・トール!!」 ガォオオオオオオオン!!!!!! 右手に溜めた雷光を一気に放つ!! 紅葉 「う、あ……うあぁあああああっ!!!!!」 紅葉殿、抵抗も出来ぬまま飲み込まれる。 ィヤッハ、ふむ……ちとやりすぎたか。 まあいい。 彰衛門「これに懲りたら俺に勝とうなどと思わぬことだな……ィヤッハッハッハ!!」 ま、しばらくすれば回復するでしょう。 撃ったのは鑼衛門になって遊んだ時と同じ、痺れ雷光だし。 彰衛門「冥月、光莉さーん、もうよかとですよー」 引き戸まで歩いて、外へ声を掛ける。 が、特に返事がない。 代わりにどこぞかの人の声が聞こえる。 声  「いいだろう?どうせ捨て子だろう、俺のところで一生働けや」 声  「結構です」 声  「な、なんだとてめぇ!兄貴の言うことが聞けねぇのかい!」 声  「わたしはパパ以外の人に付いて行く気なんてない……」 声  「あん?」 こりゃまた……なんといいますか。 この世界って現代も昔も大して変わらんのかね。 まったく、男って生き物は……。 ガララララ…… 冥月 「あ───彰衛門さんっ」 光莉 「パパッ!」 男2 「あん?なんだ貴様は」 彰衛門「俺は最近結成したチーム『チョコレート』の弓彰衛門って(モン)だ。     まだホヤホヤなんだが、名前ぐらい覚えておいてくれよ。     まァこれから死ぬンだからその必要もねェか((しょう))」 男1 「死ぬ?はっはっは!じゃあ殺す気なのか俺達を!はっはっは!!」 彰衛門「これ、お侍さんや?ここは人を拾うような館じゃあありません。     お引取り願えますかい?」 男1 「なに?平民如きが何をぬかすか。死にたいか?」 彰衛門「滅相もございません……。     しかし、このようなところを殿に見つかりでもすれば、     お侍さん方のほうこそただではすまないのでは……」 男1 「殿?殿か!うわぁっはっはっはっはっは!!」 目の前のお侍さんが雄山笑いをしてる。 斯様なところにも海原雄山の魂があったとは……。 男1 「この行為をしろと言っているのはな!貴様の言う殿様だ!     今、この町は我ら侍の天下だ!逆らえば斬っていいとも言っていた!」 彰衛門「あらら……こりゃ近年稀に見ぬクズですね……」 しかし適当ぶっこいて口にした殿様が、よもや最低な殿様とは。 一体なにが殿様を捻じ曲がらせたのか? よし気になるな。 まあどうせ殿様なんざそういう輩なのかもしれませんが。 夜華さん(子供)の行方も気になるし、ここはこの時代で少し遊んでいきますか。 彰衛門「あの……ここにいらっしゃるお侍さんはあなたとあなただけで?」 男1 「そうだ。こんな狭い町、我らだけで十分だ」 男2 「兄貴は強ぇんだぜ!?出すもの出して、とっとと仕事でもしてろ!」 彰衛門「はぁ……」 溜め息ひとつ。 それから小声で冥月と光莉に『目ェ瞑ってろ』と言った。 彰衛門「───シャイニングブレード」 ヒュキィンッ!! 月切力+月醒力。 手に輝かせた光で、お侍さん方の衣服を切り刻んだ。 男1 「あん?───うわっ!?」 男2 「な、なんだ!?なにがっ───」 さらにその体に“放電(ヴァーリー)”を流し、行動不能に。 光莉 「パパ?」 彰衛門「まだ目ェ開けるなよ。汚物を見ることになる」 冥月 「……なんていうか、その意味が手に取るように解ります……」 彰衛門「冥月は物分りが早くていいねぇ」 冥月 「ですから……何年一緒だったと思ってるんですか……。     わたしとしては、本当は解りたくもないんですよ……?」 ヒドイや冥月さんたら……。 まあとりあえずはそこらへんにあった縄でお侍さん方を縛り、 さらし首ならぬさらし裸体にすることにした。 お侍の誇り、ズタズタです。 彰衛門「さて、あとはこれをどっかの高台の木にでも縛り付けてと」 目に見える位置にある山に転移して、その木にキツく縛り付けてからまた転移。 これでよしと。 彰衛門「ほい、もう目ェ開けてよかよ」 光莉 「うん」 冥月 「……はあ」 まるでその現場を見たかのような溜め息を吐かれてしまった。 解りやすいような行動をとったつもりはないんですけどねぇ。 冥月 「それで、これからどうします?氷雨さんは先ほどから呆然としたままですし」 彰衛門「甘い!甘いわ!こげなものはね!こうすりゃ一発よ!ジュテェ〜ム♪」 ふうっ♪ 氷雨 「ひょえやぁああああっ!!!!??」 彰衛門「な?」 耳に息を吹きかけただけですがね、おなごでも男でも、誰しもが苦手なものですから。 氷雨 「き、きき貴様!なにをする!」 彰衛門「夜華さん!!」 氷雨 「うあっ!?な、なんだいきなり!」 彰衛門「オイラ、旅に出るよ!」 氷雨 「……旅にならもう出てるのではないのか?」 彰衛門「うんにゃ、今度の旅は俺だけ!解る?」 氷雨 「なに……?」 光莉 「パパ?」 冥月 「……なるほど。篠瀬さんを追うんですね?」 彰衛門「あの……いきなり見切らないでもらえません?」 とっても悲しいじゃないのよ。 氷雨 「待て。わたしを追うとはどういうことだ」 冥月 「つまりですね、彰衛門さんは『この時代の篠瀬さん』が気になるわけです。     無事に楓さんのところに辿り着けるのかどうか」 氷雨 「な……わ、わたしが気になるのか?」 冥月 「……氷雨さん。気持ちは解りますが、ここは顔を赤らめる場所ではありません」 氷雨 「わ、わかっているっ!!」 でも顔真っ赤です。 やぁねぇ氷雨さんたら、一体なにを考えてるのやら。 光莉 「パパ……行っちゃうの……?」 彰衛門「ウィ。光莉は冥月達と一足先に現代に戻っておりなさい。     アタイは一度気になったものは消化しないと気がすまんのですよ」 光莉 「うう……」 光莉がアタイの服をキュッと掴み、見上げてくる。 くっ……相変わらず抱きしめてやりたくなるくらい可愛いな畜生。 というわけでガバシッ!! 光莉 「パパッ……」 彰衛門「いい子で待っているのですよ光莉。じいやは必ず戻りますけぇのぅ」 光莉 「うんっ……うんっ……」 抱きしめた上でなでなでと頭を撫でてやる。 聖は俺の首に腕を回すように抱きついており、その暖かさが心地よかった。 冥月 「彰衛門さん。感動の場面を展開しているところ申し訳ないんですが」 彰衛門「……てんで『申し訳ない』ってツラじゃないんですが?」 冥月 「気の所為です」 気の所為じゃないと思いますが。 まあいいコテ。 彰衛門「して、なにかね?」 冥月 「氷雨さんの提案で、紅葉さんと食を囲みたいとのことです。     旅に出るのはその後でもいいんじゃないでしょうか」 彰衛門「ふむ……なるほど。しからばこの彰衛門、盛大に腕を振るってみせましょうぞ!」 氷雨 「いや、それには及ばない」 彰衛門「むむっ!?何故かね!」 氷雨 「ああ……その。こう言うのもなんだが……母上に孝行したいのだ。     だから……膳はわたしが作る」 彰衛門「───……」 冥月 「……彰衛門さん?」 戦慄が走りました。 しかも嫌な戦慄。 氷雨さんが?料理? 馬鹿な、あの口内江戸っ子症候群の氷雨さんが、料理だとぅ!? 彰衛門「……俺、絶対に『孝行』にはならないと思う……」 冥月 「?」 アタイは光莉に抱きつかれながら、心の中で十字を切るのであった。 嗚呼神さま、どうか晦の家で、氷雨さんが上達していてくれましたように。 ……ヘンな祈りだった。 ───……。 彰衛門「オエエ!!ゴエッ!マズッ!!」 彰衛門さんが涙を流しながら、ビクッ!ビクンッ!と震えている。 氷雨さんの料理がよっぽどマズイのか。 紅葉 「これはなんとも……」 氷雨 「うう……こんな筈では……」 光莉 「熱い……熱すぎるよぅ……」 氷雨 「なに?ぬるいくらいだが……」 彰衛門「だから随分前にも言ったでしょうが!     アータのその口内江戸っ子症候群を基準にするんじゃあねィェーーーッ!!」 氷雨 「黙れ!ぬるいものをぬるいと言ってなにが悪い!!」 痺れていた紅葉さんを回復させてからしばらく。 氷雨さんが調理した料理を口に運んだそれぞれが、それぞれの反応を示した。 一番ヒドイのが彰衛門さん。 よく解らない塊を口に放り込んだ途端、あの有様だ。 しかもこの料理、呆れるほどに湯気を吐き出している。 わたしは無難に、よく解らないスープを飲んでいるけど……これは意外に美味しい。 紅葉さんもわたしと同じものを手に取っていたけど、 それを鼻でひと嗅ぎすると、飲まずに置いた。 冥月 「?」 よく解らないけど、紅葉さんがわたしを見て『頑張れ』と言った気がした。 彰衛門「これは材料に対する侮辱以外のなにものでもないぞクラースくん!」 氷雨 「わたしは『くらーす』とかいう名前ではない!!」 彰衛門「オエッ……!     グ、グーヴ……よくもまあ食える材料でここまでの劇薬が作れるもんだ……。     そこんところは素直に感心しますよ……?」 紅葉 「私も自分で食は作るが……ここまで酷くはないぞ……」 彰衛門「だよね、まったく……」 もしゃ、もしゃ、もしゃ…… 彰衛門「おあじゅじゅじゅ!!あじゅっ!あじゅじゅっ!!」 冥月 「……なんだかんだ言って食べてるじゃないですか」 彰衛門「馬鹿者!メシには村人の丹精が込められているのですよ!?     この時代でメシを残すなど!恥を知れィ!!」 氷雨 「あ、彰衛門……すまない……。わたしが食べる、お前はどけ」 彰衛門「いいやダメです!こげなもんは拙者が全部───オエエ!ゴエッ!マズッ!!」 またビクンッ!!ビクンッ!と痙攣を起こす彰衛門さん。 本当に大丈夫なんだろうか。 光莉 「パパ……大丈夫?」 彰衛門「だ、だいじょうぶだよのび太くん……。ぼくは胃袋は頑丈な方……ゴポリ」 光莉 「っ!?」 彰衛門「うぶっ!うぶぶっ!!」 コポコポという音とともに、彰衛門さんの顔色が悪くなってゆく。 これは危険……かもしれない。 でも予想に反して、彰衛門さんはこみ上げてきたものを押さえ込んだ。 彰衛門「ゲホッ!ゴホッ!無理!やっぱ無理!勘弁してこれ!口の中がマジでとろける!」 氷雨 「う……」 彰衛門さんは本気で涙目になっている。 でも、こういう時にからかってこそ彰衛門さん魂。 わたしは紅葉さんにアイコンタクトを送り、その意図を知らせた。 解らない、って顔をした紅葉さんだったけれど、その意図を読み取ってくれて、 料理の器ごと手に持った。 ……そして、わたしも。 彰衛門「ゲホッ!エッホ!オホ!!……あ、あれ?紅葉殿に冥月さん……?     な、なんで料理を手に持ってボクに近づいてくるの?     あ……あれ?おかしいよね?食べるだけならボクに近寄る必要ないよね?     え?あ───ギャア!!や、やめれ!寄るな!!     ボクはもうダメだ!食べられないんだ!!そんなものいらない!やめろ!     やめ───ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」 その昼。 紅葉刀閃流道場に、彰衛門さんの絶叫が木霊した。 ───……。 ぎゅるるるるる……ぐきゅ〜るるるるる…… 彰衛門(はっ……腹が痛ェ!!) 昼餉が終わってからしばらくした頃のこと。 俺は大変な事態に見舞われていた。 いざ旅に出ようとしたらこれだ。 彰衛門(胃薬ッ……!胃薬が欲しいッ……!!) ま、まさか夜華さんのメシがこうまで腹を痛めるものだったなんてッ……!! アタイは道場を出た先にある森林から、道場に戻っている途中でした。 内股で。 始めた旅が早くも挫折に追いやられた瞬間です。 彰衛門「おぉ〜〜〜……クスリィよこせェ〜……」 冥月 「カアァッ……!!」 しかも何気にCOSMOSの真似をして薬を所望したところ、 冥月さんがわざわざアーリー・アメリカンの真似までしてくれました。 でもさすがに殴ってくるようなことは無かったので安心です。 冥月 「まったく……なにをしてるんですか彰衛門さんは」 彰衛門「そげなこと言われたかて……俺も苦労してんのよ?」 そもそも腹を下したのは俺の意思じゃないです。 冥月 「異翔転移」 ヒュキィンッ! 冥月さんが月空力を発動させて、胃薬を渡してくれた。 べつに俺が出してもよかったんだけど、 ヘンなところに力を入れるとビッグウェーブが訪れそうでね? そういう行動もままならない状況なんですよ。 彰衛門「嗚呼、胃薬が美味く感じるなんて……。オラの舌、どうかしちまったのか……?」 冥月 「正常だからそう感じるんだと思いますが」 結構ヒドイこと言うのね、冥月さんたら。 彰衛門「あとは全力で月生力を腹に……」 ぎゅるるっ! 彰衛門「はうっ!!」 冥月 「え?」 ぴりっ…… 彰衛門「キャッ───キャアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!!」 冥月 「あ、彰衛門さん?」 ブリピーーッ!!ニチチチチ!!モリブリ!! 冥月 「ひゃっ───ひゃぁああああーーーーーーーーーっ!!!!!」 彰衛門「キャーーーッ!!キャアアアアーーーーーッ!!!!!!」 …………。 ───……。 彰衛門「ジャガー目潰し!!」 冥月 「……はあ」 まあるい太陽の下、水に濡れて干されている衣服を、体育座りして眺めている。 なんだか人として大切ななにかを失ってしまった気がする……。 冥月 「……最低ですね」 彰衛門「あの……冥月さん。     俺、人にあんなもんを食わせたキミにだけは言われたくない……」 冥月 「それは素直にすいませんでした、ですけど……」 はぁ……。 出る溜め息は同時。 はたはたと風に揺れる衣服が、やはり悲しみを誘う。 冥月 「光莉ちゃんが居ない場所でよかったですね……。     さすがにあんなところ、パパ好きな光莉ちゃんには見せられませんから……」 彰衛門「つーか誰にも見せたくないもんだと思いますよ……?」 プスッ……ちう〜〜……。 彰衛門(……むっ!) ふとした感覚! 気づけば、アタイの腕には蚊が留まっており、ちうちうと血を吸っておった!! 彰衛門(くっ……ショックを受けた我が心の隙をつくとは!     ……いい度胸だクソモスキート野郎……) アタイにゃあお前の同種族に膝を破壊された恨みがあるんだ。 ただで帰れっと思うなよ? 彰衛門(ヌン!!) ビチィッ!! 腕の筋肉を隆起させ、硬質化させるッッ!! すると、蚊が羽を羽ばたかせながらも飛び立てずに暴れた。 クチバシ……というか針が抜けなくなったのだろう。 彰衛門「おい蚊。これから一分間、0.1秒だけ筋肉を緩めてやる。逃げてみろ。     一分経っても逃げられなかった時……貴様は俺の血とともに灰燼(かいじん)と化すだろう」 蚊の体が躍動した気がした……が、人の言葉なんぞ解らんでしょう。 気の所為だ。 彰衛門「チク、タク、チク、タク、チク、タク……焚ッ!!」 シュババッ!! 彰衛門「チク、タク、チク、タク、チク、タク……焚ッ!!」 シュバッ!! 5秒ごとに筋肉を緩める。 さあ逃げてみよモスキート。 逃げられなかった時が貴様の最後だ。 逃げられたのなら、俺は貴様の行為を許すとしよう……。 …………………………。 彰衛門「あたぁ!」 ぼちゅーーん!! デコピンを食らった蚊が塵と砕けた。 冥月 「なにをやってるんですか……」 彰衛門「いや……この不条理な気持ちをどこかにぶつけたくてね……」 さらばモスキート、永久に眠れ……。 冥月 「はあ……」 彰衛門「はぁ〜〜あ……」 ちなみに今、俺はドッスィーです。 ドッスィーというのはフンドシのこと。 漢らしさ溢れる赤フンを装着しております。 冥月 「大体ですね、いくら力が込められなかったとはいえ、     あんなところで漏らす人が居ますか?     最後の最後なら厠へ転移するべきだったでしょう……」 彰衛門「そういう状況に陥ったことのない輩だから言える言葉だねそりゃ……」 冥月 「そんなことありません」 キッパリと言う冥月さん。 いやはや、勇ましいことで。 何も知らないってのは平和って証拠やね、まったく。 彰衛門「俺、ちょっと枯れ枝とか探してくるわい。     こういう時代でこそ木で火を起こして服を乾かしたいさね」 冥月 「そんなもんですか?」 彰衛門「そうなのです。そんじゃあここで待っといで」 冥月 「はあ……」 というわけで、アタイは衣服が揺れる場所……道場の屋根から飛び降り、 赤フンを揺らめかせながら駆け出した。 声  「───あっ……!!」 彰衛門「?」 その時、冥月さんの切なげな声が聞こえた気がしたが……気にしないことにした。 ───……。 彰衛門「フフフ、こりゃあよく燃えそうだぜ」 それからしばらくして森林で枝や枯れ葉を集めてきたアタイは、 道場の屋根を眺めながらゆっくりと歩いていた。 が、その屋根の上で震える冥月を見た瞬間、アタイは嫌な予感がして走り出した!! 月空力で空を飛び、一気に冥月のもとへ辿り着く。 彰衛門「冥月!?冥月!!」 冥月 「はっ……く、うう……!!」 冥月は苦しそうに汗をかきながら顔を真っ赤にしていた。 もしや……なにかにあたった!? すげぇやさすが氷雨さんの料理だ! って、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!! 苦しみが続くようなら布団に寝かせてやらんと!! アタイは冥月を背負って、屋根から飛び降りた。 その際、着地時にアタイと冥月さんの体が揺れた……その時でした。 冥月 「あ、あぁああっ!!」 彰衛門「むむっ!?どうされた!!」 チョロ……チョロチョロ…… 彰衛門「へ?ゲッ……ゲゲェエエエエーーーーーーーーーッ!!!!!」 冥月 「あ、ああ……あああっ……!!!」 アタイの背に広がるなまら暖かい感触……!! こ、これってば─── 彰衛門「キャーーーッ!!!キャアアーーーーーーーッ!!!!」 冥月 「あぁああん!!うわぁああああん!!!」 ……ここに、我が盟友が誕生した。 ───……。 はたはたはたはた…… 彰衛門&冥月『ジャガー目潰し!!』 ……人として、なんとも大切ななにかを失った気がする瞬間・パート2。 俺と冥月さんは揺れる衣服を眺めながら、道場の屋根で体育座りをしていた。 彰衛門「誰も見てなくてよかったねぇ……」 冥月 「はい……先ほどはすいませんでした……」 なんとも悲しい反省会。 誰が悪いわけでもなく、氷雨さんの作った料理が極悪すぎた。 思うに、冥月がごくごくと飲んでいたあのスープ。 それが、どういうわけか利尿作用を引き起こしたのだろう。 しばらくしてからその効果は現れ、 ヘンなところに力を入れようものなら漏れてしまう事態が冥月を襲った、と。 そこへ俺が戻ってきて、背負ってジャンプして着地。 その着地の衝撃で力の法則がズレ、それは起こってしまった、と……。 さすがだぜ氷雨さん……この時代でそんな料理を作ってみせるとは……。 彰衛門「解ったでしょ……?あんな状態で月操力なんか操れませんよ」 冥月 「はい……集中すら出来ませんでした……」 ……はあ。 再び溜め息。 ちなみに冥月さんは今、メイド服を着ている。 もちろんアタイお手製。 どのような体躯だろうと、 アタイのメイド服コレクションで着飾れない者などおりませんよ!? メイドキャップ(ヒラヒラのついたカチューシャ)も完備です! で……俺はというと、赤フンMk.Uを装着している。 いやはや、この漢らしさがなんともかんとも、気に入ってしまったとですよ。 彰衛門「なんつーかもう、いろいろ言ってられない状況ですな……。     月然力で乾かしちまいましょうか……」 冥月 「賛成です……。もう死にたいくらい恥ずかしいです……」 そう言った冥月の顔は、確かに真っ赤だった。 何気に涙目だし。 いやしかし、待てよ? 彰衛門「なぁ冥月さんや?どうせならこのまま旅立たないかえ?」 冥月 「……あの。もしかして、わたしが付いて行くの、気づいてました?」 彰衛門「キミこそ何年俺と一緒に居ると思ってんの。当たり前でしょう」 冥月 「……そうですね。わたしは構いませんよ?この服、可愛くて気に入りました」 “ジャガー目潰し(体育座り)”をやめ、立ち上がる冥月。 その場でひらりと回ってみせると、遠心力でスカートがひらりと軽く舞い上がる。 冥月 「ただ、彰衛門さんは……」 彰衛門「いや、これはこれで漢気(あふ)るる格好だとは思いません?」 冥月 「溢れすぎてて、かえって嫌ですよ」 彰衛門「あらそう……」 赤フンのみで旅立つという案は却下されました。 彰衛門「んじゃあ……システムナム、起動」 ───バサァッ!! システムナムを起動させて、死神の着衣に身を包む。 冥月 「それは……」 彰衛門「んむ、レオの黒衣だけどね。カタチは気に入ってるからこれでいきますえ」 冥月 「それはいいですけど……妙な組み合わせですね」 冥月さんが自分のメイド服と俺の死神黒衣を見比べる。 ……確かに。 でもまあこれでいきましょう。 細かいことは気にしません。 彰衛門「したら、あとは氷雨さんと光莉さんを現代に送るだけですが」 冥月 「いえ。それは『仲間はずれ』って言うんですよ彰衛門さん。     おふたりにはここに留まってもらいましょう。成長の時間を止めて」 彰衛門「おお、なるほど。そりゃ名案」 冥月 「では、その旨を伝えてきますね」 彰衛門「御意」 冥月さんがトンッと跳躍して屋根から下りる。 アタイはそれを見送ってから、ボ〜ッと待つことにした。 ───……。 冥月 「了承してくれました」 数分後、冥月さんが戻ってくる。 『現代に戻すと言った時の方が怒られましたよ』と続ける冥月さんに、 アタイはそかそかと言って頷いた。 彰衛門「んじゃ、そろそろ行きますか」 冥月 「そうですね。頑張って、篠瀬さんの行く末を見届けましょう」 彰衛門「ウンム」 ふたりで頷いた瞬間、俺と冥月の旅は始まったのでした。 Next Menu back