───人類みなキョウダイ───
───……。 冥月 「なんだか新鮮です」 彰衛門「あ〜ん?」 旅を始めてから30分ほど経った頃、冥月が呟いた。 冥月 「彰衛門さんと一緒に旅することはあっても、一緒に歩いたことはなかったです」 彰衛門「む……言われてみれば」 随分一緒に居たにも関わらず、こうして歩く旅はこれが初めてかもしれない。 冥月 「のんびり楽しくいきましょうね、彰衛門さんっ♪」 冥月が俺の腕に抱き付き、上機嫌で歩く。 なにがしたいんでしょうね、まったく……。 ───ハッ!?ま、まさかこうして俺を歩きづらくさせることで体力の消耗を狙って!? 野郎……なかなか狡猾なこと考えるじゃあねぇか。 彰衛門「フフフ、だがな。     俺はこれしきで疲れるほど悲しい体力持ち合わせちゃいねぇぜ?」 冥月 「……なにを考えてたのかはなんとなく解りますけど、甚だしいほどに違いますよ」 彰衛門「あれ?」 違うらしい。 ……馬鹿な。 冥月 「……あのですね。わたしだって誰かに甘えたくなる時だってあります。     悲しいじゃないですか。父上も母上も存在した筈なのに、     わたしは一度も甘えることが出来なかったんです。     嗄葉母さまは……甘えられるような状況じゃありませんでした。     そんな時に現れたのが彰衛門さんなんですよ?」 彰衛門「そうでしたな、いやはや懐かしい」 冥月 「だから……ですね」 彰衛門「なにかね?」 冥月 「その……だから」 彰衛門「……?なにかね」 冥月 「……どうしてこういう時だけ先読みしてくれないんですか?」 彰衛門「いえその……貴様が何考えてんのかさっぱり解らんもので」 なにが言いたいんでしょうね。 なんつーかこう、もじもじしてるけど……ハッ!? 彰衛門「そうかそうか……すまんかったね……俺としたことが気づいてやれなくて……」 冥月 「あ……彰衛門さん……」 全て解った。 俺が馬鹿だった。 そうだよな……ああ、そうだよ。 彰衛門「すまんね……(かわや)
はここには無いのじゃ……」 その瞬間、容赦の無い拳がアタイの視界の目前まで迫ってきゴゴチャア!! ───……。 彰衛門「うべっ!ふぶべべっ!!鼻が……げっほ!はだがおでた……!!」 冥月さんに鼻っ柱を殴り折られた俺は、それはもう鼻血を流しまくっていた。 冥月 「どうしていつもいつもそういうことしか言えないんですか!!     ああもう!今ようやく篠瀬さんの気持ちが解りました!!」 彰衛門「そげなこと言われたかて……俺ゃキミのモジモジ感を悟ってだね……」 冥月 「そんなものは悟りとは言えません!」 彰衛門「あらら……」 なんつーか椛さん。 アータの娘、怒るとアータにそっくりですよ? 叫び方とか。 彰衛門「ではなにが言いたかったのだね……。     私にも解るように平明に答えてもらいたいものだね」 冥月 「だ、だからっ……ですね……」 彰衛門「なにかね!」 冥月 「うぐぐぐぐ……!!」 冥月さんが顔を真っ赤にして、だけど腕を掴んだままアタイを見上げてくる。 ぬう、まるでなにかを言おうとしてる夜華さんではないか。 冥月 「あのっ……わ、わたしも……彰衛門さんを『親』と思っても……いいですかっ!」 彰衛門「……今……なんと?」 冥月 「ですから!わたしも彰衛門を『親』と呼んでもいいですか!そう言ったんです!」 彰衛門「俺を……マジすか?」 冥月 「マジです!」 彰衛門「なんとまあ……マジすか」 いや……とんでもないことですよこれは。 彰衛門「いやしかし、冥月さんには小僧と椛が居るわけでして……解るでしょ?」 冥月 「キングオブファイターズなんか利用してません!」 彰衛門「ゲッ……」 言おうとしてたことを見切られてました。 ちなみに『KOFを利用』とは、 KOF97のラストバトル前の社、クリス、シェルミーの言葉の中にある言葉。 『並々ならぬファイターが集まる場所……解るでしょ?』という言葉から始まる。 だから『解るでしょ?』という言葉の後には、 『KOFを利用したな』という言葉が繋がるわけです。 ……まさか冥月に先を読まれるとは……。 彰衛門「でもさ、実際どうなん?俺なんぞを親と呼んだら大変なことになりますよ?」 冥月 「解ってますけど……彰衛門さんは本当はやさしい人です。     性格面の所為で誤解はされますけど、わたしは知っていますから」 彰衛門「グウウ……」 しかしですね、俺ゃ娘とかチスとかの誤解で粉雪に嫌われたわけで……───……いや。 元々俺なんぞが誰かを好きになるとか、 好かれるだとか……そんなこと事態が馬鹿げた考えだったのかもしれない。 ……だよな。 今まで俺はひとりだったんだ。 いまさらじゃないか。 彰衛門「………」 誰も好きにならなければいい。 もう……いいだろう。 幸せはなにも、誰かとのラヴの先にあるものじゃない。 いいじゃないか……こういう、血縁のない絆で固めてゆく幸せがあっても。 彰衛門「……ふう」 心に決めた。 俺はもう、誰も好きにはなりません。 男一匹狼なんてものじゃない。 漢一匹狼だ。 彰衛門「フッ……」 気分は晴れやかだった。 昔っからよく言うじゃないですか。 人類、みなキョウダイ。 キョウダイは結婚なんてしません。 OK……インプット完了。 彰衛門「了承。では、ここに誓いを立てましょう」 冥月 「いいのっ?……え?誓い?」 彰衛門「そう、誓いです。これから僕らはキョウダイです。     義兄妹ってやつですね。ならば、義兄妹にしか出来ない誓いがあるわけですよ」 冥月 「それってもしかして……」 彰衛門「さあ、ご一緒に。『我ら、生まれた日は違えど死ぬ時は同じ日、同じ場所で』」 冥月 「桃園の誓いですか……」 彰衛門「そうです。さあ、ここに誓いを」 冥月 「……はい。我ら、生まれた日は違えど死ぬ時は同じ日、同じ場所で」 掌を合わせて、空に掲げた。 彰衛門「これを義兄妹の杯とし、我らを死が分かち合う時まで、共に生きることを誓う」 冥月 「キョウダイのために生き、キョウダイのために先を築くことを誓おう」 ……言い終えて、俺と冥月は手を握り合った。 やがて俺はガイア張りの極上スマイルをして冥月を抱き上げた。 彰衛門「共に生きましょうぞ!死が、我らを分かつ時まで!」 冥月 「はいっ!」 彰衛門「たとえどのような誤解が生まれようとも、     俺はキョウダイを裏切りません!!誓おう!ロミオ!」 冥月 「ロミオは関係ありませんけど、誓いましょう!」 抱き合って、笑い合った。 葉の影から差し込む陽の光が明かりとなる森林の中で─── 俺達は、笑いながらお互いの信頼を誓ったのでした。 ───……。 ぐつぐつぐつぐつ…… 彰衛門「ほっほっほ、今日もいい朝餉が完成しましたわ」 誓いを立ててから三日目。 俺は自分の中にある全てを、いつか聖に教えたように───冥月さんに教えていた。 彰衛門「よいですかね、この汁物は火加減が一番重要なのですよ」 冥月 「ふんふん……」 くたくたと煮えてゆく石鍋を見て、冥月がこくこくと頷く。 彰衛門「ほい、味見してみなされ」 冥月 「いいんですか?」 彰衛門「よいとも」 月然力で作った木の椀によそった汁物を冥月に渡す。 それをクッ……と口に含むと、冥月が顔を輝かせた。 それに対抗して、俺もフェイスフラッシュで顔を輝かせた。 冥月 「あまり無意味なことはしないでください」 彰衛門「あらヒドイ!」 何気ないことでも笑い合う。 今まで孤独だったキョウダイの語らいに。 冥月 「彰衛門さんって案外いろいろなこと知ってるんですね……」 彰衛門「伊達に長生きしとりゃあせんよ。海原雄山を唸らせる自信もある」 冥月 「偏りのある知識ですけどね」 彰衛門「それは言わないお約束……」 あれから俺と冥月は夜華さん(子供)を探しつつ旅をしている。 どこに向かったのかがイマイチ解らんから、当てのない旅にはなっているけれど…… 案外、俺達はこの状況を楽しんでいる。 冥月 「彰衛門さん、あっちのキノコは食べられるんですか?」 彰衛門「萌先輩のありがたいお言葉のによると、     縦に裂けるキノコは毒物じゃないらしい」 冥月 「そうなんですか。……あ、縦に裂けませんね」 彰衛門「したら毒じゃな。そげなもん食ったらチャトランみたくヨロヨロになってしまう」 冥月 「怖いですね……。チャトランってなんですか?」 彰衛門「猫」 冥月 「猫ってキノコを食べるんですか……」 彰衛門「俺も初めて見た時は驚いたけどね」 子猫物語を思い出してみる。 ………………愉快だった。 犬の方の扱いがぞんざいだった気がするが。 彰衛門「では、これを食べたらまたしばらく歩きますか」 冥月 「はいっ」 最近はずっと、キノコとか木の実とかを食べている。 時折、こうして山菜を見つけては汁物にしたりしてるが…… 如何せん、出汁となるものがそうそうない。 木の実を砕いて水に溶かしたものを焼いて、 パンみたいなものを作ったこともあるが……あれはなにか付けるものが欲しかった。 ソースとかだな。 彰衛門「馳走になりました」 冥月 「なりました」 ふたりで手を合わせて立ち上がった。 さあ、次はどこに流れますかね……。 ───……。 夜華さん捜索から一週間後。 冥月 「ここらへんは虫が多いですね……」 彰衛門「任せておきんさい。見よ!ファイヤープロレスリング直伝!ビッグファイアー!」 ゴワァッ!! 冥月 「……あの。なにやら仲間を殺された虫が、どんどんと集まってきてるんですけど」 彰衛門「ゲゲッ!これはいかん!とんずらぁああーーーーーっ!!!!」 冥月 「えっ!?あ、待ってくださいぃいっ!!」 ───……。 夜華さん捜索から10日目。 村人 「ど、泥棒だぁーーーっ!!!」 彰衛門「とんずらぁああーーーーっ!!!!」 冥月 「ご、ごめんなさいぃいいーーーーっ!!!!」 とある集落を襲って、果実を強奪。 ───……。 夜華さん捜索から二週間後。 彰衛門「はふ〜……そろそろこの果実にも飽きてきましたな……」 冥月 「種を成長させてからというもの、ずっとこればかりを食べてきましたからね……」 盗んだ果実の種を木に成長させて、食を繋ぐこと数日。 さすがに飽きた。 ───……。 夜華さん捜索から三週間後。 彰衛門「ぐあっ!また枯れた!!」 種籾(たねもみ)を強奪した俺は、なんとか調整して米を精製しようとしていた。 しかし、俺を襲う失敗と挫折……! 稲の発芽は思った以上に大変なものだった。 彰衛門「グウ……水を吸わせる時間が長すぎるのか……?解らん……」 冥月 「あっ!発芽しました!」 彰衛門「ゲェエエーーーッ!!!!」 稲精製勝負……俺は冥月に大敗を喫した。 ───……。 夜華さん捜索から四週間後。 とある寂れた村に辿り着いた俺達は、作りすぎてしまった米を村人に分けた。 さらに乾いてしまった土に潤いと聖なる波動を送り、その大地を蘇らせる。 村人1「お、おおお……!!大地が生き返った……!     あ、あなたさまがた、もしや神様では……!?」 村人2「おおっ……聞いたことがあるぞ!怠け者の神様を背負ったおなごの話を!」 村人3「しかし背負ってないぞ?それも、おなごふたりではなく男とおなごだ」 村人4「人違いか……」 村人5「馬鹿こくでね!村を救ってくれた恩人には違いねぇ!!」 村人が騒ぐ中で、何故か冥月が胴上げされていた。 どうやら村人達が言う『神様』と間違われているらしい。 村人6「わーーっしょい!わーーっしょい!!」 村人7「村を救ってくれてありがとーーっ!!」 冥月 「ひやぁあああああっ!!!」 ほっほっほ、冥月も楽しそうじゃよ。 ここを訪れた甲斐があったというもの。 彰衛門「ところでお訊ねしたいのですが。     このあたりに刀を持った少女が訪れませんでしたかね」 村人1「刀を持った少女……下助、お前知ってるか?」 村人2「いんやぁ、知らんね」 村人3「ここには来ておらんですよ」 彰衛門「むう……そうですか」 夜華さんたら何処に行ったのやら。 ドゴチャアッ!! 冥月 「ぴうっ!!」 村人6「ゲェエエーーーッ!!神様を落としてしもうたーーっ!!」 村人7「や、やべぇ……とんずらぁああーーーーっ!!!」 ズドドドドド……!!! 彰衛門「………」 冥月 「う、うぐぐぐ……」 振り向けばそこに、わっしょいで受け止められそこなった冥月が倒れていた。 彰衛門「なにやっとんの?キミ」 冥月 「やったのはわたしじゃあありませんよ!」 顔を真っ赤にした冥月が起き上がった。 ちなみに顔が赤いのは照れとかからではなく、顔面痛打の所為だろう。 彰衛門「あ、村人1よ」 村人1「(むらじ)です」 彰衛門「この果実も置いていきます故。ゆっくりと繁栄していきなせえ」 村人1「い、いいんですかい!?」 彰衛門「ついでにこの果実の生る木を立てていきましょう。     そうですな……この村を囲うくらいに作れば、食にもそうそう困りますまい」 村人2「あ、ありがとうごぜぇやす!!でも───ほんとにそんなことが出来るんで?」 彰衛門「できますよ?で、キミは……村人2だったね」 村人2「(あくた)です」 彰衛門「あ、あらそう。それじゃあ……キミは……ラファティくんだったね?」 村人3「朝加(あしたか)です」 彰衛門「……えーと。では俺も行動に移りましょう。     周りに木の実の生る木があったらそれも拡張するとして……冥月さんや?」 冥月 「な、なんですか……?」 彰衛門「村人の中に病気の方がいらっしゃったら治してさしあげなされ」 冥月 「それはもちろんです。     あの、みなさんの中で、病気になっていらっしゃる方は居ますか?」 冥月が声を少し高めて言う。 するとざわざわとどよめきだす村人。 だがひとりの男が率先して前に出て、腕の傷を見せた。 化膿してますな……これは治してさしあげねば。 冥月 「では……月生力+月聖力……」 傷を回復させるとともに、膿や黴菌などといったものを月聖力で殺してゆく。 ……あっという間に、村人の腕の傷は治った。 村人9「う、うおお……!き、奇跡だぁーーーっ!!」 村人8「か、神様!次はあっしの傷を!」 村人2「いいや俺っちの腰を!」 冥月 「あ、あわわ……落ち着いてくださいっ!順番に治しますから!」 冥月さんが村人達に囲まれる中、アタイはひとつの提案を出した。 彰衛門「冥月さんや?村人を集めて、そこに月生力を展開して、     さらにそれを月聖力の聖域で囲ってみてはどうかね?」 冥月 「あっ……それは名案ですねっ」 言うや否や、その場に光輝く結界が張られる。 薄い膜のような壁の内側に薄い緑色の光の粒子が飛び交い、村人達を癒してゆく。 村人1「おお!見えづらかった目が!」 村人2「腰の痛みが引いた!」 村人3「おおお!長年、折れたままだった鼻が!!」 村人 『わあっ!わあっ!!』 村人どもの歓喜の声が飛び交う。 それを背にしながら、俺は俺で潤った大地を畑にしたり田圃にしたり、 稲を生やしたり、緑を広げさせたり。 やがて果実や木の実がや花が咲き乱れ、廃れていた村は一気に豊かな農村へと姿を変えた。 村人1「なんともはや、これは……」 村人2「ありがたやありがたや……」 村人3「お二方、もしや本当に神様では……?」 彰衛門「違いますよ?拙者、彰弓(あきゅう)と申す者」 村人2「あきゅう、ですかい」 冥月 (彰衛門さん、嘘はいけないことですよ?) 彰衛門(おばかさん。これからしばらくした未来で、     『彰衛門』は楓に降ろされた神ってことになってんですよ?     そんな俺が今この時代で『彰衛門』を名乗るわけにはいかんでしょう!) 冥月 (あ……そうですね。     でもわたし、散々『彰衛門さん』って言ってしまいましたけど) 彰衛門(……ま、大して気にせんでしょう) 冥月 (そうですか、なら……) 村人1「彰弓さま?」 彰弓 「いえいえ、なんでもござらんとです。では拙者らは先を急ぎます故」 村人2「おお……もう行ってしまわれるんですかい……」 彰弓 「急ぐ旅ゆえ。して……本当に刀を持った少女を見ませんでしたかね?」 村人4「そうは言われてもなぁ……」 ムラビトンどもが一斉に首を傾げたり、顔を顰めたりする。 ぬう……やはり収穫なしか。 村人9「あ……ちょっと待ってくれ。俺、多分その少女を見たぞ」 彰弓 「なに!?マジかてめぇ!!」 冥月 「あきえ───彰弓さん!言い方が悪いですよ!」 彰弓 「おっとすまねぇ。して、そいつはどちらへ?」 村人9「あ、ああ……えっと……『食べ物はありませんか』と訊いてきたんですがね、     先ほど見てもらった通り、この村は廃れてまして。     それを教えてやると、ふらふらしながらそっちの森の方へ……」 彰弓 「それはどれくらい前のことかね?」 村人9「つい最近……ですな。     ええ、あっしが惚れてた女が遠女峡(とおめきょう)に行った日だった筈ですから」 彰弓 「遠女峡?」 村人8「ああ、色町にある、女どもの楽園って呼ばれてる場所でさぁ。     男禁制の愛の巣だって聞いてまさぁ」 彰弓 「それはなんとも……」 少し意識が遠退いた。 昔の人は何考えておるんですかね……。 彰弓 「まあとにかく刀小娘はあっちの方に行ったのだね?」 村人9「へえ。間違いねぇです」 彰弓 「そうですか……して、この村におなごが少ないのはやっぱり……」 村人7「そうです……みんな、遠女峡を目指して村を出るんでさぁ……」 やっぱり……。 訊いてみるべきじゃあなかったか……。 彰弓 「……いきますか、冥月さん」 冥月 「そうですね」 小さな溜め息を吐きながら、ゆっくりと歩き出した。 後ろからは『ありがとうごぜぇました〜!』とか聞こえてくる。 誰かを救えるってのは、やっぱいいもんですね。 心が温まる気分さ。 ───……。 夜華さん捜索から一ヶ月後と二日後。 彰衛門「……おお、居た居た!夜華さんぞ!!」 アタイの視界の先には、刀を持った小娘がふらふらと歩いていた。 確かこの頃の夜華さんは14だった筈だ。 ふーむ……つーか今の夜華さんと大して変わらん。 変わったとしても2〜4歳くらいだろう。 楓のもとに辿り着くのが14〜15歳の間だとして、 アタイと出会ったのが16〜17の時の筈。 元服から二年だ〜、とか言ってたし。 んでもって鮠鷹が死んだのがその一月後。 その次の日には椛も死んで、その場には嗄葉だけが残された。 夜華さんは嗄葉を育てて、その途中で病に倒れて…… 彰衛門「……実際、夜華さんて今いくつなんだろ」 いやん、もしかして同い年? ……まあ、肉体年齢でって意味だけど。 俺の真の同い年っていうたらおめぇ……アレだ。 300歳以上だぜ? 冥月 「さすがに今の篠瀬さんとそうそう変わりませんね」 彰衛門「うんにゃ。こちらの夜華さんはまだ幼さと可愛さが残ってる。     どれ、ちぃとからかってみましょうか」 冥月 「そんなっ、可哀相ですよっ!」 彰衛門「これは俺の勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!」 冥月 「……理屈が無茶苦茶すぎます」 どうとでも言ってください。 というわけで、アタイはモンゴルマスク(夜華さんに被せたアレ)を被って、 夜華さんの前に浮きながら立ち塞がった。 ああ、マスクにはちゃんと穴を空けてありますよ? 彰衛門『人の子よ……。この森になんの用だ……』 夜華 「……あなたは……?」 彰衛門『私は森の神……。人の子よ……この森になんの用なのだ……』 夜華 「森の神……そのような存在があったのですか……」 彰衛門『人の子よ……。キミは私の姿が見えるのだな……。心が清い証拠だ……』 夜華 「……そんなことはありません。わたしが清い者だとするなら、     母上はわたしを追い出したりはしなかったことでしょう……」 彰衛門『お、お黙りこの野郎!私が清いって言ったら清いんだ!     あー……ゴホン。よいかね……我が姿は心の清い者にしか見えないのだ……。     キミは清く、それでいてやさしい娘だ。     ……正直に答えなさい。キミは今、空腹かね……』 夜華 「………」 彰衛門『答えなさい……』 夜華 「……はい。わたしは……卑しくも、神様の前で飢えに苦しんでいます……」 そう言った途端、夜華さんの腹が鳴った。 軽い音ではなく、 本当に……村を追い出されてから大した物を食べていないのだと理解できるくらいに。 彰衛門『辛かったろうに……。さあ、この果実を食べなさい。     キミが何処へ向かっているのかは解らないが……私はキミを応援するとしよう』 夜華 「神様……?」 果実と、俺と冥月とでメシを食った際に握っておいた、 具の無いオニギリを竹の葉の包みとともに渡す。 忘れちゃならんのが、竹の筒に入れた水。 夜華 「い、いいのですか……?そんな、もったいのない……」 彰衛門『ああ、いいとも。代わりに名前を聞かせてもらえないだろうか』 夜華 「はい。わたしは夜華。篠瀬夜華といいます」 彰衛門『……ああ、いい名だ。強く生きなさい夜華』 夜華 「は、はいっ!ありがとうございます!!」 演出をするために、月空力を発動させてその場で消えてみせる。 夜華さんは大層驚いてたが、一度ゆっくりと頷くと、誰も居ない森に向かって頭を下げた。 冥月 「素直ないい娘ですね……」 彰衛門「それがどうしてあそこまで刀振り回すだけのおなごに変貌したんだか……」 冥月 「………」 彰衛門「ウィ?なにかね?」 冥月 「……いえ。自覚無いってすごいことですね、って……」 ……よく解らんが、とにかくヒドイことを言われた気がした瞬間だった。 ───……夜華さんを発見してから三日目。 森の神「我ワワワワワワワ……森ノ神ナリナリナリナリナリ……」 夜華 「あ……森の神様……」 アナカリスの真似をしつつ、夜華さんの前に立ち塞がる……というか浮き塞がる。 森の神「コッチニハ崖ガアルアルアルアルアル……。     コッチニハ行クナナナナナナナ……」 夜華 「崖……いえ……いいのです森の神さま……。わたしはもう……疲れ……」 森の神「馬鹿野郎!!森の神として貴様が死ぬことは許さんぞ!」 夜華 「ですが……!です……がっ……!わたしはっ……!」 森の神「人の子よ……貴様の誇りとは、そんなものだったのか……。     落胆したぞ……人の子よ……」 夜華 「……森の神さま……。あなたはわたしに沢山の施しをくれました……。     ですがわたしは……!母上以外からの食を頂かないこともまた、誇りだった……!     母上との家族の絆だった……!ですが……わたしは飢えに負けてしまった……!     そんなわたしに、まだ……どんな誇りが残っているというのですか……!」 森の神「ソレハハハハハハ……     貴様コソガ知ルルルルル……確カナ絆ナリナリナリナリ……」 夜華 「わたしこそが知る……確かな絆……?」 夜華さんは解らないという顔をした。 しかしこれは夜華さん自身が気づかなければ、『与えられたもの』になってしまう。 森の神「ソレニ気ヅケババババ……貴様ハマダ誇レルルルル……」 その言葉とともに体を消してゆく。 夜華 「あ───お待ちください森の神様!     わたしの誇りとは───!まだわたしが誇れるものとは一体───!」 声  『人の子よ……北を目指しなさい……。     そこに、キミの望む未来の全てがあるだろう……』 夜華 「北に……?神様!それはどういう───」 …………。 ───……。 夜華さんを見守ってから一週間が経った。 夜華 「わたしの誇り……わたしの先にあるものとは……」 夜華さんはあれ以来、ブツブツと呟きながら歩く毎日。 その行く道に先回りして、果実の木などを精製しておいたが…… 夜華さんはそれに気づくこともなく歩いていた。 森の神「人の子よ……」 夜華 「───!神様!」 俺の声を聞いた途端にその目に覇気が戻る。 モンゴルマンを神様って呼ぶ人もどうかと思うが…… 夜華 「お教えください神様!わたしに……わたしに残された誇りとは!」 森の神「人の子よ……貴様は何を見て、なんのために生きる」 夜華 「それはっ……それは森の神様がわたしにこの道を行けと───!」 森の神「人の子よ……貴様は私の言葉だけを糧に生きるか……?     貴様には『確かな誇り』があるのだ……それを誇りとして気づけたなら、     貴様は私が道を報せるまでもなく……歩けるだろう」 夜華 「神様……!しかし神様……!!」 森の神「信念に生きよ……。ここから先に、もう森は無い。     貴様はここから貴様の力で生きてゆくのだ……」 夜華 「神様……」 不安げな顔をする夜華さんに、最後の食料を渡す。 おにぎりと果実と水の入った竹筒。 夜華 「っ……か、神様!わたしを……わたしをこの森に置いてくれませんか!」 森の神「……ならぬ」 夜華 「そんなっ……神様!お願いします!わたしはあなたのお陰で生きてこられました!     いえ───あなたが食をさせてさえくれなければ死ねたのです!それを───」 森の神「人の子よ……『死』という言葉は軽々しく言うものではない。     清い心の者を、森の神として死なせるわけにはいかないのだ……。     生きよ……信念に生きよ。長く、たとえ病に倒れようとも。     死が貴様の息を引き取るまで、その信念を捨てずに生きよ……」 夜華 「ですから……わたしにはその誇りが!信念が!なんなのかが解らないのです!     わたしは───わたしはこれからどうすれば───!!」 森の神「人の子よ……案ずるでない。     ここからは地の神が貴様を導くだろう……。     ……生きなさい。貴様と、貴様の誇りのために……」 スゥウウ…… 夜華 「神様!神様ぁっ!!」 夜華さんの悲鳴のような呼びかけを耳にしながら、俺は森に消えた。 ───……。 地の神「人の子よ……よく訪れました」 夜華 「あ……」 日々の先。 夜華さんが地を歩く先に、冥月が扮した地の神が降り立った。 俺が森の神をやってる最中は、ずっと地の神の衣装作りに没頭してた。 自分でも満足の出来らしい。 夜華 「あなたが……地の神様?」 地の神「その通りです。さあ、導きましょう。     あなたが目指すべき、あなたの道を……」 夜華 「……あなたも。教えてはくださらないのですか……?」 地の神「それを教えられて……あなたはそれを誇りとして受け入れられますか?」 夜華 「あ……」 地の神「わたしや森の神は、あなたがそんな心の弱い者じゃないと知っています。     だからこそ、森の神はあなたに教えたりはしなかった」 夜華 「………」 地の神「さあ、あなたのこれまでの疲れを癒しましょう。     道は長いかもしれませんが、あなたなら歩いてゆけるでしょう」 言って、冥月が夜華さんに月生力を流す。 汚れた衣服を新しくしたり、髪を癒したり。 そうなると、今の夜華さんに少し近づいた気がした。 夜華 「神様……何故わたしなどを助けてくれるのですか……?」 地の神「森の神が言ったでしょう?あなたは清い子です。     信念に生きなさい。いずれ気づくであろうその誇りが、     いつまでも色褪せることが無いように……」 夜華 「神様……」 地の神「この道をまっすぐ進みなさい。     たとえあなたを襲うものがあったとしても、進んでゆきなさい」 夜華 「……はい」 ───……。 ───……。 彰衛門「さて……」 夜華さんが歩くのを、通行人AとBを装って追ってゆく。 冥月 「軽快に歩いてますね。今日は覇気がある方です」 彰衛門「そうザマスね……むむっ!!」 夜華さんの前に男が立ち塞がった!! 追剥ぎ「おうおう女ァ、金になりそうな刀ァ持ってるじゃねぇか。     俺っちにくれよ、なぁ?」 夜華 「なに……?」 ふらふらと揺れるようにして夜華さんに近寄る男。 その手には鋭く光る刀が───! 冥月 「助けなきゃ───!」 彰衛門「待ちなせぇ!行っちゃあならねぇ!」 走り出そうとした冥月を押さえつける。 追剥ぎ「あんっ!?あんだ、そっちにも居たのかい。せっかくの旅に水差すのは……     まぁ俺っちとしても心苦しいんだが……有り金全部置いてきな。     まぁこれは……幸せになるための最初の試練ってやつだな」 ……タイムマシンの追剥ぎですかアンタは。 彰衛門「そこなおなごさん……刀を持っておりますね?     それで我らを守っておく霊・守太郎くん」 夜華 「───!?」 冥月 (なっ……何を考えているんですか!そんなことしたら───) 冥月が俺の腕を引っ張る。 だが……未来で聞いた夜華さんの言葉が確かなものなのなら─── 追剥ぎ「抵抗するってかい!戦うってかい!俺っちは強ぇぞ!?」 夜華 「ま、待て……わたしは……」 彰衛門「キャー!やってしまって娘さん!その刀でその腐れ悪漢をブチ殺してくだせぇ!」 冥月 (彰衛門さんっ!) 彰衛門「オラオラ!その刀は飾りか!?     刀持ってるってことは、剣術のたしなみもあるんでしょう!?     だったらその剣術でそんなカス、殺しちまってくだせぇ!!」 冥月 (……何気にヒドイこと言ってますね) 夜華 「───っ……わたしの刀は人を殺めるためのものじゃない!!     わたしの刀技は母上に教えられた、『護るため』の術だ!     わたしにはもうそれしか誇れるものが───……え?」 冥月 (あ……) ビンゴ! うっしゃあ気づきやがったぜ!? あとは煽るだけぞ!? 彰衛門「オラどうしたー!カスー!ボケー!イモー!煮っ転がしー!!」 冥月 (あ、彰衛門さん彰衛門さんっ!目的が変わってますよ!!     好き勝手に罵倒してどうするんですか!) 彰衛門「え?すっげぇ勢いで誘導してると思うんだけど」 冥月 (……どういう思考回路してるんですか) 彰衛門「や、照れるな……」 冥月 「何度も言わせないでくださいっ!褒めてませんっ!!」 あらヒドイ……。 夜華 「護る術……誇り……?わたしの手に……最後に残ったもの……。     ……そうか……そうかぁ……!そういうことかぁ……っ!」 追剥ぎ「あんっ!?ぐずぐずしてねぇで金目のモン置いてきな!」 追剥ぎが苛立ちながらズイと前に進む。 が、夜華さんは今までに無い覇気を含む表情で追剥ぎを睨んで言った。 夜華 「……悪いがそれは出来ない。これは───この刀はわたしの『誇り』だ!」 冥月 「……!」 彰衛門「……うむ」 夜華さんは炎紅諡を抱くようにして、誇らしげに言った。 追剥ぎ「へぇ……その刀で抗ってみるかい」 夜華 「いいや。わたしは『無駄な暴力』を振るったために捨てられた。     ならばそれも、今のわたしには必要なもの。     言葉で諭す前から術を振るえば、そこには暴力しか生まれないというのに……     わたしにはそれが解らなかった……」 追剥ぎ「あぁん!?なんなんだよてめっ!さっきから!」 夜華 「そこの男!あとはお前に任せる!わたしは逃げるぞっ!」 追剥ぎ「あんっ!?逃がすと思ってんのか!」 追剥ぎが走る。 だが、紅葉殿直々に鍛錬された夜華さんは、思いのほか足が速く、軽快だった。 脇目も振らずに走る夜華さんと、俺達の方をチラチラ見ながら走る追剥ぎ。 ……知ってる?二兎を追うもの一兎も得ずって言葉。 彰衛門「んじゃ、ちょっとモーロックしてくる」 冥月 「え?なんですか?それ」 彰衛門「まあまあ、見てなさいって。とぁっ!」 バシュンッと走り、追剥ぎに追いつく。 追剥ぎ「な、なぁあっ!!?な、なんて速───」 ガッシ!! 追剥ぎ「うあっ!?な、なにしやがるんでい!」 彰衛門「ごっふ!!ごほふ!!」 追剥ぎの胴を掴み、鼻をハスッハスッと動かしつつ月然力・地を発動させる。 すると、今立っている地面の土がサラサラの砂へと変化する。 ズボボボボボボ……!! 追剥ぎ「ひっ!?ひやっ───あぁっ!!ああぁあああああああっ!!!!!     ぎゃあっ!!ひぎゃあああああっ!!あぁああああっ!!!!」 まるで蟻地獄のように沈んでゆく俺と追剥ぎの体。 その恐怖からか、追剥ぎは理性を失ったかのような、人間本来の叫び声をあげた。 必死にサラサラと流れる砂を掻いて逃げようとするが、掻いても埋まるだけだった。 これぞタイムマシン奥義『モーロック』。  ◆猛岩───モーロック  タイムマシンに出てくる獣人。足が速く、走る時のみ四足走行。  土の中から現れて、吹き矢を当てた獲物のみを土の中に連れていき、地底にてお食事。  その凄まじい握力のお陰か、壁に張り付くことも可能。  *神冥書房刊『エマこそ最高の死に際人【みんな、言い残す余力ありすぎ】』より 彰衛門「成敗!」 全身が砂に埋まって10秒経ったところで、追剥ぎを大地に下ろした。 ……思いっきり気絶してます。 冥月 「……よっぽど怖かったんですね」 彰衛門「そりゃそうでしょう。ありゃ誰だって怖いよ」 獣人奥義モーロックは、心臓の悪い人にはやっちゃあいけねぇ奥義だ。 ……初めてやった俺でも、自分で怖かったし。 この時思ったね、俺ゃ。 ルナっちに壁抜けの要領で地底に行った水穂ちゃんは、きっとこんな気持ちだったんだと。 泣くのは当然だ。 しかも普段踏みしめてる土が砂に変わって、さらに自分を飲み込むってんだから。 壁抜けなんかよりよっぽど怖いよ。 彰衛門「さ、夜華さんを追いますよ。楓の居る村に辿り着くまで」 冥月 「はいっ」 ───……。 ───二日後。 追剥ぎ「そこの女ぁ!刀置いてけぇーーーっ!!」 夜華 「また追剥ぎか!」 冥月 (……ほんとにしつこいですね) 彰衛門(何人目だったっけ) ───三日後。 男  「おっ!色っぺぇおなごがいるじゃねぇか!どうでぇ!俺の女にならねぇか!」 夜華 「冗談じゃない!」 彰衛門(ひとりモーロックの刑) 冥月 (ですね。強引な上に礼儀を知らない人に容赦はしません) ズゴゴゴゴゴゴゴ…… 男  「ひぎゃあああああああああああっ!!!!!」 ───四日後。 男  「うへへへへ!!俺の女になれぇええっ!!」 夜華 「っ……男というやつはっ!!」 彰衛門(フォイエル) 冥月 (ヤー) ズゴゴゴゴゴ!!! 男  「ギョェエエエエーーーーーッ!!!!!」 ───五日後。 追剥ぎ「身包み全部置いて───」 ズゴゴゴゴゴ!!! 追剥ぎ「ギャオォオオオーーーーーーッ!!!!!」 ───六日後。 とある村の外郭に歩いていると、気分の悪さが襲ってきた。 冥月 「あの……彰衛門さん。さっきから気持ち悪いんですけど……」 彰衛門「やっぱり?」 どう感じ取ったって、こりゃあ神の領域に入った時の辛さだ。 しかもこりゃあ、神の力を持ったとかじゃなくて、神の子そのものの波動っつーか…… 彰衛門「む?あれに見えるは……虚無僧ではないですか」 冥月 「え?あ……ほんとですね。初めて見ました」 村の外れにある場所に、虚無僧と虚無僧が背負ってる子供と…… その目の先にひとりの男と子供が居た。 ありゃあ……うわ、神の子じゃないですか。 しかもあの顔……確かナムが攫おうとした神の子だよね? ……間違い無いと思う。 武流豚さんの名前が印象的だったから覚えてる。 神界に帰ったわけじゃあなかったのかね。 冥月 「彰衛門さん?」 彰衛門「しっ、静かに……!我らの中の死神の波動……悟られてはなりませぬ!」 冥月 「は、はいっ……」 四人はなにかを話し合っているようだった。 俺の感覚からするに、神の波動を感じさせるのは三人。 男ひとりを除いた三人のおなごだ。 虚無僧「君達、こんなところで何をやっているのかね?」 男  「……虚無僧か? それに……」 子供 「……おぬし、葉流か?」 ……。 子供 「ほう、念声の法が使えるようになったか。     それより桜はどうした?いつも一緒だったじゃろ?」 あら…… 彰衛門(やべぇぞ冥月。あの子供、独り言の趣味があるみてぇだ) 冥月 (違いますよ。念声って言ってましたから……念で送る会話のことかと思います) 彰衛門(そうなん?……つーか、葉流ってどっかで聞いた名前のような……) ……思い出せないのは兄さんが満たされてるからだよ。 というわけで俺は満たされてるので無理に思い出す必要無し。 彰衛門(神様達は会話に夢中のようですし、今の内に行きますえ) 冥月 (は、はいっ) ───……。 ───……夜華さんを見守り始めてから再び一ヶ月。 男1 「来たぞっ!ふたり連れのやつらだ!」 彰衛門「へ?」 男2 「お前ぇっ!!以前ここで食い逃げをしただろう!」 彰衛門「え?え?な、なに?え?」 冥月 「あの……なんだか囲まれてるみたいですけど……」 男3 「こっちは知ってるんだからな!子供を背負った者が食い逃げをしたことを!」 いや……そりゃあ今、 冥月が『ちょっと甘えさせてください』とか言ったから負ぶってはいますけど…… 女1 「この泥棒め!」 女2 「五体満足で逃げられると思うんじゃないよ!!」 彰衛門「……なんかやべぇことになってません?」 冥月 「子供を背負った者って……まさかあの時の虚無僧さんじゃ……」 彰衛門「ぬお……」 男1 「見ろ!なにか食料を持っているぞ!全て奪ってしまえ!!」 村人 『わあっ!わあっ!!』 村人が漂流教室の少年少女の顔をして襲い掛かってきた!! こりゃいかん!! 彰衛門「霧遁の術!」 ボフンッ!! 村人 『ギャッ!!』 彰衛門「とんずらぁああーーーーーっ!!!!!」 月然力・水で霧を発生させて、村人たちが怯んだ隙にとんずらをした。 ───……。 彰衛門「昔の神の子って凄かったのな……」 冥月 「ですね……」 まさか食い逃げをするとは……。 冥月 「神様っていうのは誇り高いものなんじゃないんですか?」 彰衛門「神の声が聞ける神官の言葉がどれだけ絶大な力を持っているか、     お前たちにこそ解るまい……」 冥月 「……なんのことですか」 彰衛門「なんでしょうね……」 自分で言ってて悲しくなった。 ───……。 彰衛門「やべぇぞ!夜華さんにメシをあげるあまり、俺達の食料が尽きた!」 冥月 「えぇっ!?なにやってるんですか彰衛門さん!」 彰衛門「…………しゃあないよね……」 冥月 「……はぁ……」 ───……ドガシャーーーン!!!! 村人 「ど、泥棒だぁああーーーっ!!!!」 彰衛門「とんずらぁああーーーーっ!!!!」 冥月 「ち、父上、母上、ごめんなさぁあーーーいぃっ!!!」 ───……。 冥月 「……なんていうかもう……     人として、刀の楔として……いろいろなものを失った気がします……。     もう、父上にも母上にも合わせる顔がありません……」 彰衛門「いまさらですね……」 かつて『神』とまで言われた俺は、たった一度の旅でお尋ね者に成り下がっていました。 号外されることこそなかったものの、 特定の村には『お尋ね者立て札』みたいなものに貼られていた。 その人相書きがまた似てないこと似てないこと。 そのおかげで平気で村に入れるわけですがね? 彰衛門「『右の者、彰弓という者。この者を窃盗、食い逃げの罪においてお尋ね者とす。     捕まえた者には褒美をとらせる』……ね」 ショックでした。 しかも俺の罪人報せはあるくせに、冥月の報せは無いんだよね……。 純之上ってヤツも、こげな気持ちだったんでしょうか。 しかし生きるためには仕方なきこと。 前に進むしかないのですよ。 彰衛門「さて……のんびりしてた所為で夜華さん見失ったね」 冥月 「そうですねぇ……」 前途はまるで多難だった。 Next Menu back