───ユデスキーさんと愉快な仲間たち───
───デッテーン!デーンデーゲデン! 彰衛門「ジャーンゴー!町を駆け抜けるゥ!ジャーンゴー!     人を愛した裏切〜り〜も〜の〜のめっひょっおが〜消〜える〜♪」 なにやら彰衛門さんが両手を頭の上に掲げながら腰を振って踊りながら……走ってる。 奇妙な動きなのに凄く速い。 彰衛門「ちなみに『ジャーンゴー!』の部分は『ジャングル』って意味だと思います。     歌詞はあんまり覚えてませんけど……あれ?     町を駆け抜けてるのになんでジャングルなんだ?……歌詞間違えたかな……」 疑問に思いながらも腰をクネクネ動かして踊りながら道を進む彰衛門さん。 気持ち悪いけど足が速い。 わたしはというと、彰衛門さんの背中に乗ってるわけですが……うう。 不必要にクネクネ動くものだから、ちょっとだけ酔いました……。 冥月 「あの……普通に走りませんか……?     そもそもそんなこと叫びながら踊って走るのっておかしいですよ……」 彰衛門「キミがこのジャンゴー走りについてこれないからいけないんでしょうが」 冥月 「こんなヘンな踊り走行なのに速すぎるのがおかしいんですっ!!」 彰衛門「いや、でも……CMで見た時、     地平線から目前までの疾走時間がものの数秒だった気が……」 冥月 「よく解りませんけど、多分それ地平線じゃないですよ……」 彰衛門「ぬう……しかし夜華さんを見失った以上、迅速に探すしかあるまいて」 冥月 「それは……そうですけど」 段々と気持ち悪さが蓄積されてきてるんですよ……。 女の子として、吐いたりなんかしたくないですし……かといって自分で走っても、 腹立たしいことに彰衛門さんの『ジャンゴー走行』にてんで追いつけやしない。 実際、さっき走り比べてみたんだけれど……わたしは『屈辱』という言葉を知りました。 あんな走ってるのか踊ってるのか解らないものに、わたしの足は負けたのです……。 だからこうして彰衛門さんの背中に負ぶさっているわけですが…… 冥月 (う、うぷっ……) そろそろ本当に気持ち悪くなってきました……。 彰衛門「ジャーンゴー!!」 それでもクネクネ踊るのをやめてくれません。 けれどもここでわたしが『気持ち悪い』と言おうものなら、 篠瀬さん探索が遅れてしまいます。 篠瀬さんは『刀を振るわない』と決めたからには、きっと振らないから。 だから悪漢さん達に囲まれたりでもしたら大変なわけで…… でもわたしも今まさに大変なわけで…… 彰衛門「ウォッウォーウ!!ワーウワッ!イェッイェーーーイ!!!」 デッテーン!デーデゲデデ!! クネクネユサユサ……!! 冥月 (うぶっ!うぐぐっ……!!) 彰衛門「ウォッウォーウ!!ワーウワッ!イェッイェーーーイ!!!」 デッテーン!デーデゲデデ!! クネクネクネクネ!! 冥月 (ぐぶっ!う、ううう……!!!) 危険です……。 ひ……非常に危険な状態です……!! わ、わたし……もう……!! 彰衛門「ウォッウォーウ!!ワーウワッ!イェッイェーーーイ!!!」 冥月 「うぐっ……う、うえええ……!!」 彰衛門「ウォッ?」 びちゃびちゃびちゃ…… わたしは我慢しきれず、彰衛門さんの首筋に胃の中のものを嘔吐してしまった。 それが彰衛門さんの首を伝って、彰衛門の黒衣の中に流れてゆく。 彰衛門「ワウワァアアアーーーーーーッ!!!!!」 冥月 「うえっ……!!げえっ……!!」 びちゃっ……びちゃちゃっ…… 彰衛門「イエェエエーーーーーーーーーッ!!!??」 首から伝う奇妙な感触に襲われた彰衛門さんはバランスを崩し─── ドゴゴシャバキベキズシャアアーーーーッ!!!! ───背負っていたわたしもろとも盛大に転倒したのでした……。 ───……。 彰衛門「……ジャ……ジャガー……目潰し……」 なんとも悲しそうな顔で泣きながら、彰衛門さんが体育座りをしていた。 視線の先には、月然力で洗っても嘔吐物の臭いが取れない、濡れたままの黒衣。 冥月 「ごめんなさい……」 彰衛門「……あのね、冥月さん……。気持ち悪かったら言いましょうね……?     俺、別にキミを軽蔑したりしませんよ?からかいはするけど」 冥月 「でも、気持ち悪いって言ったら止まっちゃうと思って……。     篠瀬さん、早く見つけないといけないと思って……」 彰衛門「……はぁ。俺達はキョーダイですよ?そんなことで気を使ってどうすんですか。     確かに夜華さんのことは心配です。ですがね、俺ゃあ誰かひとりに夢中になって、     辛い思いをしてるキョーダイを見捨てるようなことはしたくないのですよ」 冥月 「彰衛門さん……」 彰衛門「今度からはちゃんと言いなさい。     『ゆっくり行きましょう』って言ったのはキミでしょうが」 冥月 「はい……ごめんなさいでした……」 ……反省。 義キョーダイの誓いをしたっていうのに、わたしは彰衛門さんを信じきれてなかった。 心のどこかで彰衛門さんは『篠瀬さんを優先させるに決まってる』って思ってた。 ……やっぱり反省。 彰衛門「しゃあない……死神の黒衣に制限なんて無いだろうし……。     システムナム、発動」 ───バサァッ! 彰衛門「くさっ!」 彰衛門さんの言う『システムナム』を発動させた途端、 彰衛門さんの体には乾かしていた筈の黒衣が纏われた。 彰衛門「グウウ……ならば!死神の黒衣の特製を利用した解決法!」 彰衛門さんは黒衣を脱ぎ捨てると、それにブラストを放って微塵にした。 その上でもう一度システムナムを発動させる。 すると───バサァッ!! 彰衛門「……むう!完璧じゃ!」 彰衛門さんの体に、再び黒衣が纏われた。 臭いもないらしく、彰衛門さんは両手を挙げて喜んでいた。 冥月 「どうやったんですか?」 彰衛門「簡単じゃよ。ゼノとかの時もそうだったんだけどさ、     死神の黒衣って再生能力あるみたいなのね。     ゼノとかと戦ってた頃のこと思い出すとね、どうもヘンだと思ったのよ。     腕を斬ってやっても黒衣まで再生するし」 冥月 「なるほど……だから一度、塵にしてからシステムナムを発動させれば……」 彰衛門「そ。黒衣も再生するってわけです」 彰衛門さんは黒衣に触れてニッコリしてる。 上機嫌だ……何気にお気に入りらしい。 あれだけ自分の中の死神は嫌っていたのに。 彰衛門「む……黒衣に罪はありませんよ?」 冥月 「え?あ……よく解りましたね、わたしの考えてたこと……」 彰衛門「んだってけしぇ、     黒衣ばっかジロジロ見られてりゃあなんとなく気づきもしませう」 冥月 「そうかもしれませんけど」 彰衛門さんってどうしてこう鋭いんだろう。 そのくせ別のところで鈍すぎる……バランスの悪い人だ。 彰衛門「さてと、今日はここでキャンプにするとしようかね」 冥月 「そうですね。もう空が暗くなってきましたし」 彰衛門「うんむ」 パキッと折った木の枝で小さな山を作って、それを焚き火にして燃やす。 やっぱり野宿はどの季節でも寒いもので、夜を越す場合は自然に焚き火は必要になる。 パキ、ペキ、と音を鳴らして燃える枝は、段々と周りを暖かくした。 彰衛門「冥月さんや、ぬくくして寝なさいね。夜は冷えるけぇのぅ」 冥月 「毛布もなにも無いのは問題ですよね……ラグナロクで創れませんか?」 彰衛門「無茶言うねキミ……あのね、ラグナロクコピーは消耗が途轍(とてつ)
もないし、     頭が割れるように痛むんですよ?辛いんですよ?」 冥月 「それは……解りますけど。     鎌としての形が無いものを完全にコピーできるわけがありませんし」 彰衛門「せめて形があったなら、完全にコピーできたんでしょうけどねぇ」 『いやはやまいったねィェ〜』と言う彰衛門さん。 余裕があるように見えるのは気の所為でしょうか。 彰衛門「……寒いのかね?」 冥月 「はい……」 いくら焚き火で暖がとれるとはいえ、眠る時は消してしまう。 ともなれば、眠る時は一層寒く感じてしまうだろう。 そんなのは……あ。 冥月 「彰衛門さんっ」 彰衛門「ぐごー!!ふんごー!!」 冥月 「思いっきりバレバレの寝たフリなんかしないでくださいっ!」 彰衛門「グムムーーッ!!」 彰衛門さんの傍にまで近寄って、寝たフリをする彰衛門さんの体を揺する。 彰衛門「ヒ、ヒイ!じ、地震じゃあーーっ!!」 冥月 「ふざけないで聞いてくださいよっ!」 彰衛門「嫌じゃあ〜〜〜っ!!な、なにやら嫌な予感がするので嫌じゃあ〜〜〜っ!!     おわぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」 冥月 「嫌な予感なんてしなくて結構です!」 彰衛門「グウウ〜〜ムムウ〜〜!!」 無理矢理眠ろうとする彰衛門さんをさらに揺する。 彰衛門「こ、これ!眠ろうとする人の邪魔をするとはなにごとですか!     それは睡眠に対する侮辱以外のなにものでもないぞクラースくん!!」 冥月 「そんなの知りません!あのっ……寒いから一緒に眠ってくださいっ!」 彰衛門「あぁ……やっぱり……」 冥月 「なんですか、やっぱりって……」 彰衛門さんはまるで、 わたしがそう言ってくることが読めていたかのように溜め息をついた。 そして言うのだ。 『やっぱり親子どすなぁ』と。 彰衛門「今までひとりで眠れたでしょう?我が儘言って俺を困らせるんじゃあありません」 冥月 「こういう時に助け合わないで、なんのための義キョウダイですか」 彰衛門「ぬう……然り。だがねぇ……     この時代ならば既に婚儀をしてもおかしくない年頃のおなごが、そげなこと……」 冥月 「それなら大丈夫です。ブラインさんを刀から吸い出す時に、     『成長』を吸収されてしまいまして……     だからわたし、今は聖ちゃんと同じ9歳です」 彰衛門「……あー、納得がいった。     どうして14なのにこんなにちっこいのかと思ったら……。     そもそもおかしかったんじゃよ。過去で最後に会った時、14だった筈なのに」 冥月 「わたしも予想外だったんですけどね……。     でも、わたしはもう開き直ることにしたんですっ。     どうせ子供に戻ってしまったなら、     いつか出来なかった『誰かに甘えること』を全力でやろうと。     だからですね、彰衛門さんっ」 彰衛門「すみすみすみすみ……」 冥月 「………」 彰衛門さんは思いっきり寝たふりをしていた。 冥月 「……もういいです。     そっちがその気なら、わたしも勝手に抱きついて寝ちゃいますから」 ……あ、彰衛門さんの体が跳ねた。 『ギクッ』て感じに。 冥月 「あ……もしかして彰衛門さん、     一緒に眠ってた母上の前世を襲いそうになったこと、トラウマになってます?」 彰衛門「……ッ!!」 手首を持ってみると、脈が速かった。 図星らしい。 冥月 「あれは『あかまむし』とかいうものの所為ですよ?     それに彰衛門さん、ちゃんと耐えたじゃないですか」 彰衛門「あの……人の最大の汚点をほじくりかえして楽しいですか?」 冥月 「彰衛門さんを一方的にイジメられる状況、     人生の中に何度あると思ってるんですか」 彰衛門「知らないし知りたくもありませんよ?そんなの……」 そうかもしれない。 冥月 「とにかく、一緒に眠りましょう。わたし寒いの苦手なんです。     それに彰衛門さん……子供の頃に『桐生真穂』って人に言ってたじゃないですか。     『おなごが腰を冷やすものじゃない』のようなことを」 彰衛門「忘れましたじゃ!!」 冥月 「月視力ならすぐに発動できますが……上映しましょうか?」 彰衛門「ごめんなさいやめてください……」 この人は……本当に話を円滑にすることを考えない人だ。 からかえる要素があったら、なんでもその材料にしてしまうんだろう。 ……いろいろ考えることが面倒だ、彰衛門さんの了承なんて無視してしまおう。 ゴソゴソ…… 彰衛門「ややっ!?これ!なにをなさる!」 彰衛門さんの黒衣に自分の身を包み、抱きつくように目を閉じた。 うわー、あったかいです……。 冥月 「この黒衣……伸びるんですね……」 彰衛門「死神の黒衣ってのはもともと『無形』なの!伸びもするし縮みもするわ!」 冥月 「……どこからそういう知識を?」 彰衛門「……あのねぇ。俺ともあろう人間が記憶や経験を奪われっぱなしだと思うかね?     俺だってレオの記憶と経験を吸収してたんですよ。     まあ……人間と死神とじゃあ吸収量の差や得意不得意ってもんがあって、     圧倒的に劣ってたってことも確かじゃけんど」 冥月 「そうなんですか……めげない人ですね」 彰衛門「褒めてんの?それ」 冥月 「一応は。どうしてこういう時に『そう褒められると……』とか言わないんですか」 彰衛門「いや……今回ばっかりは思いっきり褒められてねぇじゃない」 冥月 「普段からそうなんですけど……」 彰衛門「ヒドイこと言うね、キミ……」 ……眠くなってきた。 彰衛門さんの傍って落ち着けるんですよね……。 安心……そう、酷く安心できる。 居心地が良すぎて、甘えたくなる。 彰衛門「あの……マジでここで寝るつもりかね?」 冥月 「……ん……んぅ……」 彰衛門「そうパーフェクトにスタンバイされても困るんですがね……まあいいコテ」 意識が混濁する中、彰衛門さんの諦めたような声が聞こえた。 次いで、頭を撫でられる感触。 その心地よさ、くすぐったさに……わたしはすぐに眠りの中に誘われた。 ───……。 ゴソゴソ……グルルルル……!! 冥月 「うん……?」 朝日が昇る頃、眩しさと物音で目が覚めた。 ゆっくりと目を開けると……視線の先に食料を漁る───。 冥月 「ッ!!」 彰衛門「───!」 がばっ! 冥月 (んぐっ!?) 思わず声が漏れそうになったわたしの口を、彰衛門さんが押さえる。 熊 「グゥウ……?」 わっ……こっちに気づいた……! わわわ……!のっしのっし近づいてきてる……!! 彰衛門(よいか……!決して動いてはならぬ……!死んだフリだ……!) 冥月 (で、でも……熊への『死んだフリ』って逆効果だって聞きましたけど……) 彰衛門(腹が減ってるならそれも有り得るが、ヤツは今、腹が膨れてる) 冥月 (え……どうして?) 彰衛門(……俺達の食料、全部食ったから) 冥月 (うあ……) 食料っていったら……溜めてあった果実が結構あった筈。 それを全部……うああ、考えただけでもお腹が膨れます……。 冥月 (だったらどうしてわたしたち目掛けて近づいてきてるんですか……?) 彰衛門(それだ……それが解らねぇ。だが、とにかく食われる心配はない。     だったら死んだフリをするのが一番安全だ) 冥月 (そうですか……そうですね。     食べられそうになったら全力で抵抗すればいいわけですし) 彰衛門(その通り。さ、目を閉じて微動だにすることなかれ) 冥月 (はい。───はい?) 目前に熊が居た。 彰衛門(───!!) そう……彰衛門さんの目前に。 熊  「……?」 ハスッ!ハスッ!! 熊  「グォゥフッ!!」 カプッ…… 彰衛門(おやっ?) 熊さんが彰衛門さんの頭を噛み……ベゴキュッ!! 彰衛門「ユデスキーーッ!!?」 勢いよく回転を加えて離した。 そのため、彰衛門さんの首から上が180℃回転した。 けど首の筋やら組織やらが回転運動の反動を利用して、 再び首を正位置に戻す……けど、首から上がダラリとしている。 彰衛門「カカカカ……!!」 一応生きてるみたいだ。 しかも『代紋TKAE2』の真似をしてるあたり、随分余裕があるように見える。 バケモノだね、彰衛門さん。  ◆代紋TAKE2───エンブレムテイクツー  極道漫画。銃で乱射されたりすると『ギャン!ギャン!ギャン!』とか、  『カカカカカカ……!!!!』とか叫ぶ。  凄まじい極道の生き様を描いた漫画だが、  オチが『ゲームの中の世界だった』という、なんとも物珍しい漫画だった。  *神冥書房刊『簡単に小指(エンコ)切る人多すぎですよこの漫画』より ───のっしのっしと歩き去ってゆく熊を見送ってから、力を発動させる。 冥月 (月生力……) 彰衛門「カカカカカ……!!!」 だらりとしている首に集中して流す。 すると……首が元通りになった。 彰衛門「ゲホッ!ゴヘガヘッ!!……あ゙〜……た、助かった……。     死ぬかと思ったね、いや……つーかあの熊、     なんのために俺の首折っていったんだ……?俺に恨みでもあったんかね……」 確かに……あればっかりは謎だった。 でも、それはそれとして……どうしよう。 冥月 「彰衛門さん……」 彰衛門「う、うむ……また食料がなくなってしまった……」 冥月 「どうしましょう……」 彰衛門「歩くと汗もかくし、着替えも欲しいところだ……。     このままでは俺達は、この事態の前に滅ぶことに……!!     ま、まさに……複合クライシス!!     ───などとMMRやってる場合ではなく」 かなり動揺しているらしい。 篠瀬さんに分けるために残しておいた食料も結構あったのだ。 彰衛門さんにしてみれば、それはショックだったんだろう。 彰衛門「エイィ!!こうなりゃ全速力で夜華さん見つけますよ!?     種なら数個、懐に仕舞っておきました故!これを育てて食料とせむ!OK!?」 冥月 「は、はいっ」 彰衛門さんは自分の計画を崩されたのが悔しいらしい。 ……滅多に計画なんてしない人に限って、 珍しく計画なんてものを立てると失敗するものですよね……。 彰衛門「さぁ!アタイの背中に乗りなさい!全速力で行きますよ!?」 冥月 「え?は、はあ……」 彰衛門「マッスルインフェルノォーーーッ!!!!!」 ドシュゥウウウウウウウン!!!!! 冥月 「ひえっ!?ひえぇえあぁあああああああっ!!!!!」 彰衛門さんの背中に乗った途端、その景色は残像を残すかのようにきゃあああああっ!!! ───……………………。 ゴォオオオオオオウウウウンッッ!!!! ギュルルルバサァッ!!! 彰衛門「コォオオゥウ……!!」 冥月 「あわ、あわわわ……!!」 一度雲を突き抜けそうになるところまで高く飛んで、 その後に一気に雲の下に下りた彰衛門さんは、 旋回しながら黒衣のマントのような部分を広げた。 その反動で空中静止をした状態になる。 バサッ……バサッ……!! 冥月 「あ、あの……彰衛門さん?まさか……」 キュゥウォオオオオオ……!!!! 彰衛門さんが広げた口に光を集める。 これって……これって確か……ドシュンドシュンドシュンドシュン!!! ───ドゴゴゴゴォオオオオン!!!! 冥月 「あぁあっ!やっぱり!やっぱりバハムートさんのまねですぅっ!!」 コォオオアァアアアアアアアッッ!!!!! 冥月 「って!彰衛門さんが『なりきる』と暴走するのは知ってますけど!!     それはやっぱり危険だと思いますよ!?     ほら!民家とかに落ちたら大変ですし───あ、あぁあっ!!」 ドチュッ───ゥウウウウウウウン!!!! 冥月 「あぁああーーーっ!!!!」 トドメのメガフレアが放たれてしまいました───…… 月清力で静めようと思ったけど間に合う筈もなく……バッガァアアアアアアアン!!!! 声  『グゥウウウォオオオオオオオオッ!!!!!!!』 冥月 「あれっ!?」 彰衛門「グオッ!?」 冥月 「彰衛門さん……バハムートになってる場合じゃないですよ……」 彰衛門「……あ、あれ?俺は一体なにを……」 正気を取り戻した彰衛門さん。 でも……本気で正気を無くすのはどうかと思う。 それにしても……今のバケモノみたいな声は? 化け物『グウウウ……!!』 彰衛門「あら……?」 冥月 「あ……」 視線の先には、地上でわたしたちを見上げている化け物。 なんだろう、あれは……あ───……!! 冥月 「あ、あれは……!」 彰衛門「し、知っているのか雷電……!」 冥月 「う、うむ……あれは───『魔獣鬼』……」  ◆魔獣鬼───まじゅうき  神界に住む神が堕ちた存在。腐った根性を持った神や、  その修行過程で怠惰した神が歪んだ堕ち方をすると魔獣鬼になると言われているらしい。  聖の場合、完全に堕ちる前にシェイドに拾われたため、災狩になることが出来た。  噂では、神界は魔獣鬼退治をも修行過程に取り組むことがあるらしい。  ちなみに好物は神や人らしい。もちろん『食う』方向で。  *神冥書房刊『神界蔵書・魔獣鬼、神魔獣の生態』より 冥月 「というわけなんだ……」 彰衛門「いやあの、雷電の真似までしっかりとやってくれたのは嬉しいんですけどね……。     ……どうする?なにやらあのバケモノ、     こっち見上げて怒ってるみたいなんだけど」 冥月 「彰衛門さんがメガフレアなんて撃つからですよ!」 彰衛門「なんだとてめぇ!!俺ゃそんなもん撃った記憶ねぇぞ!?     だからアイツを怒らせたのはきっと貴様ぞ!!」 冥月 「そんなことないです!!」 彰衛門「なんだと!?人に罪を擦り付ける気だなっ!!」 冥月 「飛んだ状態で腕グルグル回さないでくださいっ!危ないじゃないですかっ!!」 彰衛門「回したい気分だったのだ!!」 化け物『グオオオオッ!!!』 冥月 「え?」 彰衛門「あら……」 大驚愕。 翼を生やした化け物が、目の前に飛んでいた。 彰衛門「ンだコラ!!なにガンくれてんだオルラッ!!」 冥月 「彰衛門さんっ!!」 彰衛門「なにかね!俺はこの無礼者に人と道を教えねばならんのだ!黙ってなさい!」 言うや否や、彰衛門さんは魔獣鬼の肩を掴んだ。 彰衛門「俺の目を見ろ!!」 魔獣鬼『グオオ!!』 バリッ!! 彰衛門「解ったらもう帰ンな……ってゲゲェエエーーーーーーッ!!!!     なに人のお肉かじっちゃってんのアンタァアーーーッ!!シャラッ!!」 ガコォッ!! 魔獣鬼『ギャッ!?』 肩を噛まれた彰衛門さんが魔獣鬼の耳と頬の境目辺りに手刀を打ち込んだ。 すると魔獣鬼の顎の縫合が外れ───顎が外れた。 彰衛門「神心会愚地流……風摩殺!!」 魔獣鬼『ハオォッ!!!』 ザクッ!ガコッ!ジュッ…… 彰衛門「うわ……」 冥月 「うっ……」 気持ち悪かった。 顎が外れ、だらしなく垂れ下がっているというのに……まだ噛もうとしている。 上顎だけで肉を突き破ろうとするけど噛み切れる筈もなく、 ガタガタと上顎だけを動かしている。 なんていう、食に対する絶対なまでの欲求。 化け物だ……気持ち悪いくらいに化け物だ……! 冥月 「彰衛門さんっ!だめっ……相手にしちゃだめっ!!」 彰衛門「おお!シカトすりゃいいのか!?シカトなら任せろ!」 冥月 「そういう意味じゃないです!今の内に逃げましょう!!」 彰衛門「なんと!?漢である俺に敵に背を見せろと!?」 冥月 「そう言ってるんです!     戦わなくても済む戦いはするべきじゃないんでしょう!?」 彰衛門「フッ……それは漢以外に唱えるべき言葉だ。     まあ見てなさい、紳士としての立ち去り方というのを見せてあげましょう」 魔獣鬼『グルルルル……!!』 彰衛門「サミング!!」 ゾブチャアッ!! 魔獣鬼『グギャアアアアアアアアッ!!!!!!』 彰衛門さんの人差し指と中指が、魔獣鬼の両目を潰した。 魔獣鬼は叫び、目を両手で庇うように俯くけど─── 彰衛門「初めてお目にかかる…………捕まえられようとする逃亡者……」 冥月 「え?」 彰衛門「視力がないようだな……まったく見えてない」 あの……彰衛門さん?それは彰衛門さんが目潰しなんかしたから…… ガッシィッ!! 魔獣鬼『ギィッ!?』 彰衛門さんが魔獣鬼の頭を両手で掴む。 そして血の流れる魔獣鬼の目を見て一言。 彰衛門「毒によるものだな……」 擦り付けも甚だしかった。 すごい神経の図太さだ。 やがて彰衛門さんは魔獣鬼の大きな体に腕を回して───ゴギュッ!! 魔獣鬼『ガギュウッ!!?』 彰衛門「しかも猛毒……」 死国(ベアハッグ)で腰骨を砕いた。 ……どういう腕力をしているんだろうか。 聞いた話じゃあ、魔獣鬼はとっても頑丈だって……はぁ。 でも多分、目の傷だって腰の負傷だってすぐに回復してしまうだろう。 彰衛門「腰の骨が折れちゃあ戦いにはなりませんね……この勝負、次に預けましょう。     その頃までにキミが生きていたら……いつでもかかってきなさい」 好き勝手に目潰ししたり腰折ったりした人の言葉とは思えなかった。 彰衛門「というわけでとんずらぁあああーーーーーっ!!!!!」 ドシュウゥウウウウウウンッ!!!! 冥月 「ひゃあああああああっ!!!     す、少しは速度ってものを考えて飛んで───あぁああああああっ!!!!!」 彰衛門さんは凄まじい速さで飛行した。 それはもう、まさに逃げるように。 どこらへんが紳士的なのか、まるで謎だった。 そもそも紳士は『とんずら』なんて言わないと思ったわたしだった……。 Next Menu back