───地上最強猫列伝『第十七章◆壮絶!超回復の果てに!の巻』───
ずっとずっとやまない悲鳴を耳にして、 ついに最後のメンバーとなるわたしたちは歩を進めた。 真穂 「みんな、準備はいいかな」 夜華 「いいと思うのか……」 春菜 「〜♪」 粉雪 「………」 真穂 「ああ……」 どうしてわたし、この人たちと一緒のメンバーになったのかな……。 運勢って残酷だよ……。 夜華 「断っておくがな……わわわたしは別に、怖いとか……そういうのではないんだぞ」 真穂 「じゃあ先頭歩いてください」 夜華 「いや!わたしは臨機応変に動くために中心に立つ!」 真穂 「………」 その目が恐怖に彩られていた。 春菜 「こういうことなら任せてよ。わたし、霊とか全然平気だから」 真穂 「心強いです」 春菜 「───時に桐生さん」 真穂 「はい?」 春菜 「……弦月くんとはどういう関係?」 まただ……。 わたしはもうこの質問に飽き飽きしていた。 弦月くんが猫になっていたことを知っていたことと、 一緒に集合場所に到着したということも手伝って、 わたしは元クラスメイトからこのテの質問を嫌というほどされたのだ。 真穂 「知り合いですよ、ただの」 春菜 「……ほんと?」 真穂 「ほんとですっ。母が弦月くんと仲がよくて、     それで知り合ったってくらいの仲ですよ」 春菜 「そうなんだ……」 ホゥと息を漏らす先輩。 人を好きになるなとは言わないけど、誰かを誤解するのだけはやめてほしい。 粉雪 「わたし……べつにいいって言ったのに……」 真穂 「ま、まあまあ……暗いままで居てもつまらないよ?」 粉雪 「弦月くんが待ち伏せてるこんなところに来たりしたら……     余計につまらなくなるだけじゃない……」 真穂 「あー…………」 困ったなぁ。 これじゃあわたしも全然楽しめないよ……。 そう思いながら歩く中でも、遠くから悲鳴が聞こえ続けている。 不思議なもので、最初に出て行った佐野くんと三月さんのグループが戻ってきてない。 そればかりか、次々と出て行ったみんなも戻ってきてないのだ。 ……不安は相当だ。 夜華 「───!ひ、人だ……人が居るぞ……!」 真穂 「え?あ、ほんとだ……あれは藍田くんだね」 春菜 「うん?ああ、あれは人でも霊でもないよ。多分映像だね。無視しちゃっていいよ」 声  『なんと!?』 先輩がそう言った途端、茂みから『なんと!?』という声。 ……あの声は中井出くんだねぇ。 それはともかくとして───ヤケクソになったらしい中井出くんが、 大きな音を出して驚かせようとしたけど…… 夜華 「うるさいっ!!」 中井出「すみま千円……」 篠瀬さんの怒号をくらって縮こまってしまった。 中井出「ちぇー、お前らの前までのやつらは全員驚いてくれたのに」 真穂 「えーと……どうして付いてくるのかな?」 中井出「だってお前らで最後だろ?メンバー見れば解るよ、男子が居ない。     だったら俺があそこで待っててもしょうがないだろ」 真穂 「あ……それはそうだね」 中井出「だったら藍田と彰利と晦がなにしてたのか、気になるところだし」 真穂 「そうだね」 中井出くんが仲間に加わった。 真穂 「次が誰なのか解る?」 中井出「ああ。藍田の筈だけど……お?あれじゃないか?」 真穂 「あれ?……あの、俎板の上の魚みたいな、あれ……?」 中井出くんが指差す先───道端でぐったりとして動かない、足の生えた魚がいた。 まるで陸に上げられて窒息した魚だ。 中井出「窒息した魚だな、こりゃ」 中井出くんも同意見だったらしい……。 夜華 「……なんなんだこれは」 春菜 「えーと……顔は鮭だねぇ」 先輩がツンツンとその被り物を突付く。 でもピクリともしない。 多分気絶中。 中井出「なんつーか……こっちの方から聞こえる叫び声が全部同じだった理由、     今こそ解った気がする……」 真穂 「え?なにそれ」 中井出「いや……なんでもない……」 中井出くんは半魚人の足を掴んで引きずり始めた。 中井出「はー、こいつが痩せた男でよかった。重かったらここに放置だったよ」 ズルルル……ゴド、ゴシャッ…… 真穂 「引きずる半魚さんの顔面から鈍い音が聞こえてきてるんだけど……」 中井出「知ってるか?半魚人って再生能力があるんだぜ?」 真穂 「初耳だし胡散臭いよ……」 ともあれ先へ進む。 次は弦月くんか晦くん……。 おそらく今までのものとは比べ物にならないくらいに怖いだろう。 中井出「実はな、俺自身……彰利と晦の仕掛けは楽しみなんだ」 真穂 「え……どうして?」 中井出「だってさ、あいつらなんでもアリだろ?だから」 真穂 「………」 なんでもあり。 その言葉を聞いて、『知ってるのかな』と思ったけど…… あのふたりは普段からしてなんでもありのような人達だから、判断しづらかった。 真穂 「もしかして……知ってる?晦くんと弦月くんの能力のこと」 中井出「え───あ、なんだよ……桐生も知ってたのか?」 ……よかった。 知らなかったとしたら、随分と危険な質問をしたことになる。 中井出「不思議だよなぁ……いや、不思議に思うよりも、そういう能力が欲しいな。     創造の理力っつったっけ?ありゃいいよ、うん」 真穂 「中井出くんはどんな風に能力のことを知ったの?」 中井出「んあ?話として聞いたんだけど」 真穂 「そっか、やっぱり。……あのね、あのふたりが持ってる能力、     そんなに軽いものだなんて思っちゃだめだよ?」 中井出「……?なんだそりゃ」 真穂 「忠告とお願い。あれは『欲しい』だとか思っていい能力じゃないから」 中井出「……なんか詳しそうな。あとで教えろ」 真穂 「ヤ」 中井出「一言かよ……」 中井出くんがどこか呆れるような声を漏らす。 だけどそれ以上追求してくることはない。 こういう人だからこそ、弦月くんも晦くんも付き合いやすいんだろう。 ───……〜〜♪ 夜華 「……?なにか音楽が……」 春菜 「あ……みんなっ!耳を塞いでっ!」 真穂 「え?あ、はいっ」 その場に居た全員が耳を塞ぐ。 ───その途端、猫がのっしのっしと二本足で歩いてきて、先輩になにかを叫び始めた。 そっと耳を塞いだ手をどかしてみると…… 悟り猫「まったくけしからん!耳を塞がれては鬼喪堕痲死にならんでしょう!!!     なにを考えておるのかねまったく!」 春菜 「怖いのが回避できるなら迷わずやるべきだよ!」 悟り猫「なにを言うのかね!!     それではなんのために『鬼喪堕痲死』をしているのか解らんでしょう!!     キミの鬼喪堕痲死とは恐怖にも立ち向かわずに避けることかね!?     ほっほっほ!随分とまた肝の小さいことよのゥォ〜〜〜ッ!!」 春菜 「うぐっ……」 夜華 「わ、わたしは怖くなどないぞ!今の発言を撤回しろ!」 悟り猫「ややっ!?夜華さんでねが!やはり夜華さんは言うことが違いますな!」 春菜 「むっ───い、いいよっ!わたしだって怖くないもの!!」 悟り猫「ディ・モールト・グラッツェ!!     ではとくとお聴きなさい!月奏力・幻惑の調べ!!」 えーと、まあ。 わたしは怖いから耳を塞いでおくことにした。 どう思われようが、耳を塞ぐか塞がないかは個人の自由であるわけだし。 で───弦月くんがヴァイオリンを弾くような姿勢を終えた頃。 夜華 「うわわわわぁあああああーーーーっ!!!!」 中井出「おわぁあああーーーーっ!!!」 春菜 「だ、だだ大丈夫だよ!     これは幻覚っ……幻覚な、なん……ひやぁああああああーーーーーっ!!!」 わたしと日余さんを除く三人が叫んだ。 篠瀬さんは虚空に刀を振って、 更待先輩は中井出くんの背後に隠れて……盾にしてるんだろうね、多分。 悟り猫「ややっ、そこのお二方は耳を塞いでおったとね?」 粉雪 「………」 悟り猫「だんまりですか……やれやれじゃて。あのね、あたしゃもう怒ってませんよ?     逆に礼を言いたいくらいさね」 粉雪 「礼……?なにそれ……」 悟り猫「そもそも俺ごときが誰かを好きになること自体が間違いだったんだ。     所詮俺は友情の先にしか生きられない男だって自覚しちまったからね」 粉雪 「っ……!?」 悟り猫「だったらその先を歩き続けて、     誰も好きにならずに生きていくのもいいって思えた。     漢として生きていくのもいいんじゃないかと思えたわけですよ」 粉雪 「……やめてよ」 悟り猫「ウィ?」 粉雪 「やめてって……言ったの」 悟り猫「?なにが?」 弦月くんが小さな頭をかくんと傾かせる。 なんにしても……猫が二本足で立っている事態を見慣れてしまった自分が、 少し悲しい気分でもある。 粉雪 「桐生さんから全部聞いた……。     彰利がどれだけの苦労の上でこの時代に戻ってこれたのか……」 悟り猫「なんと!?こ、これ真穂さん!なんてことを!」 真穂 「なにも知らないのってフェアじゃないって思ったの。だから」 悟り猫「ひでぇ……俺にはプライバシーってもんがなかとですか……?」 真穂 「う……それは素直にごめんなさい……」 日余さんのことばっかり考えてた所為で、そっちまで考えが回らなかった。 悟り猫「しかし……だったらさ、何故にそげな膨れっ面をしておるのかね?」 粉雪 「………」 悟り猫「あぁ〜〜〜ん?」 真穂 「弦月くん、日余さんはね?     わたしには見せたものを自分には見せてくれなかったのが悲しかったんだよ」 悟り猫「なんと!一方的に誤解しまくってさっさと『別れよう』とか言ったのは誰かね!」 粉雪 「……ご、ごめんね……」 悟り猫「あいや、謝ってもらわんで結構。     そこまで言うならせっかくだから貴様にも我が過去を見せましょう。     月明かりを吸収しまくった上に悠介にレタスもらったから、月操力は万全です」 粉雪 「ん……」 ふたりが木の陰へと歩いてゆく。 わたしはというと、未だに騒いでいる三人に目を移して……溜め息を吐くばかりだった。 ───……。 しばらくして日余さんと弦月くんが戻ってきた。 日余さんはやっぱり泣いていて、 弦月くんは『ゴニャアァアアァ〜〜〜ォ』と鳴いて、わたしにお辞儀をしてきた。 ようするに『終わりました』と言いたかったんだろう。 粉雪 「ごめん……ごめんねっ……!」 悟り猫「はぁ……」 日余さんが泣いてしまう理由はよく解る。 弦月くんの過去は本当にひどいから。 その過去に自分が存在しているっていうだけで─── 『あの時もっと気の利いたことをしてあげればよかった』とか、 『あの時、ああいうことを言ってあげればよかった』とか…… 『あの時自分が理解者になってあげられたなら』とか、どうしても思ってしまうんだ。 そうなってしまうと次々と展開されてゆく過去の全てが、 『自分がこうしてあげられなかった所為で……』と想像してしまい、泣いてしまう。 悟り猫「だからね?あたしゃもう気にしてませんって。     確かにチスなどされたのは我輩の不手際だったし、     人間であるなら嫉妬は当然の行為でござる」 粉雪 「うん……」 悟り猫「なんにせよ、ひとまずは仲直りでござる。     恋仲には戻れぬが、いつまでもギスギスしたままってのは勘弁ノリスケでござる」 弦月くんが肉球ふにふにの手を差し伸べる。 でも……日余さんは手を出さない。 悟り猫「む?どうしたのかね」 粉雪 「……恋人には……戻れないの……?」 悟り猫「押忍。拙者、既に漢の道に染まりし修羅。     元より孤独に生きた拙者が誰かを好きになったり好きになってもらったりなど、     人並みのことを望むこと自体に間違いがありもうした。     みさおの言う通り……拙者はバケモノなのでござる。     普通の人間は空も飛ばないし妙な力も持ってないでござる。     故に、この能力が無くならん限りは、拙者は人ではないのでござる」 粉雪 「そんな……そんなことないでしょ……!?     だったらわたしだってバケ───」 悟り猫「これ!」 粉雪 「っ!!」 悟り猫「キミのはただ未来と過去を見るだけでしょう!     そげなだけで自分をバケモノなどと言おうとするなど……恥を知りなさい!     よいかね!バケモノっていうのはですね!     何度も生き返ったり骨になったり猫になったり、     さらには滅茶苦茶な能力を使う者のことを言うのです!     キミは人間!俺は漢!OK!?」 粉雪 「でも……」 悟り猫「どの道拙者、もはや誰も愛する気はござらん!     この気が変わってしまうこともあるやもしれぬが、現段階では有り得ませぬ!!     しからば誰かを思い続けるのは苦痛というもの!     日余殿!今から頭の切り替えをするのです!     拙者のような化け猫はただの家畜のようなものだと!」 ……弦月くんは必死だ。 自分から日余さんを遠ざけるために、自分を卑下し続けている。 自分のためなんかじゃなく、日余さんのために。 『自分と居ると不幸になるから』。 弦月くんが言っていたことの意味はきっと、ここにこそあるんだと思う。 バケモノみたいな力を持っている所為で、人の黒い部分までも知っているから。 全ての人がわたしたちみたいな理解者になるわけじゃないから。 いつかそれがバレて、自分の傍に居る人が傷つくのが嫌だから。 自分が原因で傷ついてしまうのが嫌だから……。 ───だっていうのに……日余さんは─── 粉雪 「だめだよ……。だってわたし……まだ彰利のこと……」 悟り猫「───!言ってはなりませぬ!解っているのかね!     拙者は既にその想いには応えられませぬ!」 粉雪 「いいよっ───!嫌ったフリをずっとしてるよりかはマシだよ!!     わたしはっ……わたしはまだ彰利のことが好き!嫌いになんてなれないのっ!!」 悟り猫「っ…………馬鹿者めがっ……!」 日余さんの告白に、弦月くんは帽子を深く被ってそう言った。 自分の真剣な思いが届かなかった……きっと弦月くんはそう思ってる。 なによりも日余さんのことを案じての言葉だったというのに。 悟り猫「もう知りません!好きにすればよいでしょう!     ですがね!言っておきますがね!     俺ゃキミを無視するような下劣な行為はしませんよ!?     俺はキミに幼馴染として接します!キミがどのような行動に出ようとも、     のらりくらりと逃げてさしあげますから覚悟しろチクショォーーーィ!!」 粉雪 「……望むところだよ!絶対にまた『好き』って言わせてあげるから!」 悟り猫「ほっほっほ!なにをたわけたことを!この悟り猫がそげなことを言うとお思いか!     そげなことはあの階段の先のノートに名を連ねてから言うのですね!!     ほほほほほ!それでは皆様!ごきげんよう!!」 トカカカカカ……!! 『ゴニャァアアアァ〜〜ォ』と鳴きつつ小さな足で走ってゆく弦月くん。 そのまま階段を登っていき……やがて見えなくなった。 粉雪 「彰利……」 ふと横を見てみれば、恋する乙女の眼差しの日余さん。 真穂 (うわ……日余さんのこんな顔、初めてみたよ……) 憑き物でも取れたかのような顔だった。 大切なものを取り戻した時って、多分こういう顔をするものなんだろう。 ───でぇ〜も。 真穂 「『弦月くんが待ち伏せてるところに来たら余計につまらなくなる』、     なんて言ってた人……誰だったっけ?」 粉雪 「うぐっ」 その恋する乙女の顔が気まずい顔に変わった。 真穂 「日余さんて意外と素直じゃないんだね」 粉雪 「うぅうぅう……あうあうあう……」 困ったように顔を真っ赤にする日余さんはなんだか可愛かった。 真穂 「まあそれはそれとして……えっとさ、日余さん」 粉雪 「な、なに……?」 真穂 「粉雪、って呼び捨てていい?     わたしのことも呼び捨てていいから。ね、友達になろ?」 粉雪 「え……わたしと?」 真穂 「うん。『月の家系』がどんなものかを知った上で言います。     わたしと、お友達になってください」 粉雪 「……───う、うんっ!」 ───差し出した手をきゅっと握るその人の顔は、まるで子供のような無邪気さだった。 でも、やっぱりそれはそれとして。 真穂 「じゃあ……粉雪」 粉雪 「うん……真穂」 真穂 「うん、やっぱりこの方が呼びやすいね。それでね?問題があるんだけど……」 粉雪 「?」 真穂 「あの三人、どうしようか……」 粉雪 「え?あ……」 粉雪と一緒に視線をずらす。 と─── 春菜 「消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえぇええーーーーーっ!!!!」 ドチュチュチュチュチュチュゥウウーーーーーン!!! 夜華 「うわぁああっ!!!何故消えないぃいいいっ!!!」 ブンブンブンブンブン!!! 中井出「ちょっ───先輩っ!!危ないっ!死ぬっ!!     篠瀬さんっ!危ないっ!死ぬっ!イヤッ!イヤァアアーーーーッ!!!!」 騒がしい景色の中で、何故か先輩と篠瀬さんに狙われている中井出くんが居た。 その顔はもう涙でくしゃくしゃだ。 粉雪 「あー……えと。幻覚を見てるだけの筈だから、     わたしたちのことはちゃんと認識できる筈だよ。誘導して階段を登ろう?」 真穂 「ん。了解っ」 こうしてわたしと粉雪は先輩と篠瀬さんに大声で呼びかけて誘導し、階段を登った。 中井出くんは随分とボロボロだったけれど、ひとまず我慢してくれるように頼んだ。 ……ら、泣いた。 涙をドバーッと流しながら……いわゆるマンガ泣きで。 でもその手には半魚さんが引きずられていて、 階段を登る度にゴトッ、ゴトッと音を立てていた。 ……なんだか半魚スーツを取り外すのが怖くなった瞬間だった。 ───やがてそこに辿り着く。 階段を登り終えたわたしたちを待っていたのは、とんでもなく広い黄昏の草原だった。 見覚えのある景色……確か、弦月くんの過去の中にもあったものだ。 ラグナロク、だっけ。 ルドラっていう死神の鎌の世界……。 その世界の中に、クラスメイト全員が存在していた。 みんなは何かを見せられているようで、それぞれが叫びながら逃げようとしていた。 皆川 「寄るなぁ来るなぁチュー魔人めぇ!!     来たら刺すぞぉ!本気だぞぉ!!殺すぞコラァアーーッ!!!!」 佐野 「うわぁあーーーっ!!!三月ぃっ!三月がぁっ!!     誰か……誰か三月を助けてくれぇえっ!!このままじゃ死んじまうぅっ!!」 三月 「佐野くん!佐野くんっ!!だ、誰か助けてぇっ!!     このままじゃ……このままじゃ佐野くんが死んじゃうよぉっ!!」 野中 「いやぁああーーーっ!周富徳(しゅうとみとく)
似のキョンシーが跳ねずに走ってくるーーっ!!」 田辺 「さ、殺虫剤をかけても蚊が死なない!これはまさか───『超蚊(スーパーモスキート)』!!」 蒲田 「な、なんだってぇーーーっ!!?」 岡田 「キ、キバヤシさん!俺の体が『超細菌(スーパーさいきん)』に犯されてしまいました!」 永田 「ま、まさに……複合クライシス!!」 島田 「お、恐るべしノストラダムスの予言!!」 下田 「ゲ、ゲェエエーーーッ!!ナ、ナワヤさんがナンパに成功してる!!」 中村 「ば、馬鹿な!こんな場面見たくなかった!!」 田辺 「うわぁあーーーっ!!な、なんてこった!武流豚くんが喋ってる!!     悪夢だ!なんてこった!武流豚くんは喋る機会が皆無だから武流豚くんなのに!」 佐東 「ド、ドラゴンボールのゲームって、     SFCのファイナルバウトで終わったんじゃなかったっけ!?     俺はドラゴンボールやZが金儲けのために利用される場面なんざ、     もう二度と見たくなかったんだぞちくしょーーーーっ!!!」 藤堂 「ゲゲェエエーーーッ!!     ドラゴンカードゲーム爺さんがかめはめ波の最中にギックリ腰で倒れた!!」 清水 「や、やめろぉおおおおっ!!!     支左見谷にフラれる場面を何度も見せるのはやめろぉおおおっ!!!!     こ、この清水国明がいったい何をしましたか神様ぁあああっ!!     閏璃に頼んで支左見谷にラヴレターを渡してもらおうとしたのは謝ります!!     謝りますから勘弁してくれぇええええええええっ!!!!」 三島 「ぐあぁあああああっ!!!お、俺の髪の毛が三島平八みたいにぃいいっ!!     や、やめてくれぇえええっ!!!俺にとって平八はタブーなんだぞぉっ!!」 藍田 「や、やめろ……やめろぉおおおっ!!!     俺に無理矢理『バキSAGA』を見せるのはやめろぉおおおっ!!!     イヤァアアーーーーーーッ!!!!恥ずかしくて見てらんねぇええーーーっ!!」 灯村 「ヒィイイ!!テスカポリトカが!テスカトリポカが襲ってくる!!     助けてボーマンさぁーーーん!!!!」 丘野 「ぎゃああああ!!ほ、保存しておいたCOSMOS掲載の週刊少年ジャンプが、     母者の魔手によってトイレットペーパーに化けちまったぁーーーっ!!!!」 全員 『な、なんだってぇええーーーーっ!!?』 あ、正気に戻った。 全員 『───ハッ!?い、いったいなにが……』 その場に居た全員がそう呟いた瞬間、景色が元に戻った。 黄昏は消えて、ただそこにはベンチとノートだけが残される。 悠介 「ほいおつかれさん」 蒲田 「あ、あ……つ、晦……?」 皆川 「あれ……俺、なにを……」 佐野 「───!三月ぃっ!」 三月 「佐野くぅんっ!!」 がばしーーっ!! 悟り猫「ふむ……誰も攻略出来なかったみたいですな」 抱き合って泣き始める佐野くんと三月を完全無視の弦月くんがマントを揺らしながら言う。 でもそれは間違い。 だって─── 真穂 「えーと、桐生真穂、と。はい、粉雪」 粉雪 「え?あ、そっか」 かきかき…… 悟り猫「……ややっ!?これっ!なにをしておるのかね!」 真穂 「なにって……名前を書いてるんだけど」 悟り猫「何故かね!キミ達はここを攻略出来なかったでしょう!?」 真穂 「出来たよ?そもそもわたしたちの前に幻覚なんて出てこなかったし、     辿り着いて間も無く黄昏が消えたし。だから攻略」 悟り猫「なんとまあ……マジすか。これ悠介!黄昏消すの早すぎYO!?」 悠介 「いや……お前の後先考えると消しておいた方がいいと思ってな」 真穂 「うん、わたしもそう思う」 悟り猫「へ?なんで?」 首を傾げる猫を見下ろしてから晦くんと目を合わせて、小声で話し合った。 真穂 「まず一。粉雪は弦月くんのことがやっぱり好きだと言った」 悠介 「そうなのか?ああまあそれはまたあとでいい。     二。さっきまで俺が発動させてた黄昏は『見たくないもの』を見せる」 真穂 「うん、そんな感じがしてた。     で、三だけどね。先輩と篠瀬さんと粉雪、     その三人が『見たくないもの』ってなんだと思う?」 悟り猫「(かわや)に紙が無かった事実」 その瞬間、わたしと晦くんの拳が猫に向かって振るわれた。 ───……。 悟り猫「ぶべっぴ!!ぐべぼげっ!!あ、あいたたた……!!」 ホオオ……鼻が潰されてしまったがよ……!! 悟り猫「あの……真穂さんのゲンコツは我慢出来ますけど、     悠介のナックル……こりゃ死にますよ?」 悠介 「オリバの拳を喰らっても生きてたんだ、平気だろ」 悟り猫「いや……俺が言いたいのはそういうことではなくて……」 どうして毎回『鼻か顎』を狙うのかを訊きたいのですよ……。 真穂 「弦月くん!」 悟り猫「なんぞね!!」 真穂 「お、女の子のことで、か、かか紙が無いとか言っちゃだめでしょ!!」 悟り猫「なんだとオウコラ女ァ!!紙が無いのは見たくない事実だろうがオォ!?」 真穂 「それでもだめっ!!」 悟り猫「……そうなの?」 悠介 「少しはデリカシーってものを考えろ馬鹿……」 悟り猫「バカとはなんだコノヤロウ!!」 悠介 「はいはいそれはいいから……いいか?     あいつらが見たくないのは『お前にフラれる事態』だ」 悟り猫「オゥコラなにたわけたこと言ってんだ。寝惚けてんじゃねーぞ小僧」 悠介 「カァアーーッ!!」 ボゴシャアッ!! 悟り猫「つぶつぶーーーーっ!!!!」 鋭いナックルが閃きました。 それは拙者の顎を打ち砕き、鮮血を撒き散らせたのです。 悟り猫「うきっ!うきっ!!うきぃいいいーーーっ!!!」 久しぶりに砕けた顎を押さえながら、猫になってもなおゴロゴロと転がって痛みに耐えた。 相変わらず顎への拳は痛すぎます。 悠介 「お前は……少しは『想像』ってものを働かせたらどうだ……」 悟り猫「それで殴られてちゃ笑い話にもならんと思うデスヨー……」 顎を治しながら立ち上がる。 血は……うむ、止まり申した。 悟り猫「して?もし俺にフラれることが見たくない事実だとしてもだ。     何故俺の行く末が危険だというのかね」 真穂 「一。その創造景色を見て三人ともショックを受ける。     二。それが幻だと知って、今以上に弦月くんにアタックする。     三。三人ともフラレる恐怖を知ったから、誰にも負けまいと努力する。     四。その努力が行き過ぎて、弦月くんがボッコボコにされる」 悟り猫「ありがとう悠介。キミはボクの恩人さ」 悠介 「よっぽど嫌な想像したんだな……」 真穂 「仕方ないよ。先輩も篠瀬さんも粉雪も、     集中すると周りが見えなくなるタイプだろうし。     それに先輩と粉雪は家系のお蔭で力が強いし、篠瀬さんは刀が怖い。     そう考えると怖くなったんじゃないかな」 悟り猫「バカこくでね!オラに怖いものなどありませんよ!?」 悠介 「キャベツが出ま───」 悟り猫「ごめんなさい」 即答でした。 キャベツだけはこの悟り猫でも攻略出来そうにねぇ。 悠介 「で、だ。あとはこの状況をどう収拾つけるかだが……」 悟り猫「そりゃ大丈夫デショ。みなさん楽しんだだろうし……これ中井出!!」 中井出「へ……へ?あ、あれ……?ああ、弦月か……どうした?」 悟り猫「確か勝者には豪華賞品が出るんだよな?」 中井出「あ、ああ……一応。で、誰が勝ったんだ?」 悟り猫「真穂さんチーム」 中井出「桐生達か……随分と叫んでたような気もするが?     前提条件は叫ばなかったヤツが居るグループだぞ?」 悟り猫「真穂さんと粉雪が叫ばなかった。OK?」 中井出「……そか。全員叫んだら俺達に商品が回ってくるってものだったんだが」 悟り猫「それは惜しいが、ここはズバッと渡してしまいましょうぞ」 中井出「そだな。んじゃあ……総員ッ!ご苦労であったッ!!」 全員 『イェッサーーッ!!』 号令を下すと一気に気を付けをする、騒いでいたクラスメイツ。 流石だ……。 中井出「これより旅館へ帰還する!各自、忘れ物が無いように努めろ!」 全員 『サー・イェッサーーッ!!』 号令のあと、クラスメイツ達が軍隊のようにザッザッと綺麗に歩き去ってゆく。 ……別に練習したわけでもないのに、妙なところで息の合うメイツ達だ。 悟り猫「んで?賞品ってなんだったの?」 中井出「ああ、それはな───」 ───……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!! 全員 『ゴ、ゴクッ……!!』 さて……どうしてこんなことになってしまったんでしょうか……。 今俺は『豪華賞品』を前にしてるわけですが…… 悟り猫「ね、ねぇ真穂さん。一番に名前書いたんだからこれは真穂さんが……」 真穂 「あ、あげるって言ったでしょ!」 悟り猫「や、夜華さん?」 夜華 「必要ない!」 悟り猫「こゆ───」 粉雪 「いらない!」 悟り猫「即答!?せ、先輩殿っ───」 春菜 「わ、わたしもいらないよっ!」 無情でした。 何故こげなことになったのかと言えば、話は数分前に遡るわけですが……
悟り猫「んで?賞品ってなんだったの?」 中井出「ああ、それはな───」 春菜 「あっ、だめだよ言ったら。つまらなくなっちゃうよ」 真穂 「そうだね。やっぱりこういうのは楽しみとして想像しなくちゃ」 夜華 「よく解らんが……それはいいものなのか?」 中井出「ま、ある意味で」 粉雪 「………」 真穂 「……?粉雪?」 粉雪 (……真穂、賞品を貰う権利を彰利に渡して) 真穂 (え?どうして……あ、もしかして未来視───?) 粉雪 (ん。彰利と喧嘩別れした時から退屈になれば練習してたんだけど、     少しだけコントロール出来るようになったの。     で……賞品なんだけど、───だからね、あげちゃった方がいい) 真穂 (うわっ……それ豪華でもなんでもないよ……) 粉雪 (うん。だからお願い) 真穂 (うん、わかった) 春菜 「?なに喋ってるの?」 粉雪 「実はですね……あ、あなたも」 夜華 「うん?」 真穂 「あのね、弦月くん。その賞品を貰う権利、弦月くんに譲ってあげるよ」 悟り猫「え───なんと!よいのですか!?     あ───しかし、キミらの賞品を受け取るわけには」 真穂 「よくよく考えたらさ、やっぱり最後の黄昏……     わたしたちにだけ効果がなかったのは不公平だと思うからさ。     この勝負は中井出くんメンバーの勝ちでいいよ」 悟り猫「なんとまあ……心得た!ここでヘンに遠慮しては漢の名折れ!!     貴様らの心意気、確かに受け取りましたぞ!!」
というわけで……目の前にあるのが、確かに受け取ったおなごたちの心意気……青汁。 これが豪華賞品だったわけです。 何故か悠介も中井出も藍田も、口々に『俺はいいや、お前だけ受け取れよ』と言い、 今のこの状況が存在している。 悠介のはただの遠慮で、中井出と藍田は知っていたようだ。 ……勘弁してください。 丘野 「イッキ!イッキ!イッキやイッキ!!」 悟り猫「簡単に言うんじゃあありませんよ!!」 中井出「オラどうした猫〜!『漢』って言葉は飾りか〜!?」 悟り猫「なんですと!?」 蒲田 「ここで挑戦しなけりゃ漢じゃねぇぞ〜!!」 悟り猫「お、おのれ漢を侮辱しおって!見ておれ!その顔をボケヅラに変えてくれるわ!」 まったく冗談じゃありません!! 漢をバカにされて黙っていられるほど温厚じゃあありませんよ俺は! 悟り猫「いざ……!」 俺は目の前に君臨する青汁を見上げた。 腕力を使えば持てないことはない。 ただ体が猫だから飲みきれるかどうか。 春菜 「が、がんばって〜」 悟り猫「無責任なこと言うんじゃありません!」 春菜 「はうぅっ!ご、ごめんね……」 ぬうう!物理的に不可能ですよ! こんなちっこい体にこれだけの量の青汁……!! 悟り猫「だが……漢にはやらなきゃいけねぇ時ってのがある」 覚悟……完了!! 俺は綺麗な石のバケツのようなものに注がれた青汁を手に持ち、いざと構えた。 ───……。 ───14キロの……砂糖水……(注:青汁) 悠介 「奇蹟が起こる」 ズ……ゴク、ゴク…… 猛毒に(おか)され─── 極限まで衰弱しきった少年の肉体…… ゴキュ……ゴキュ…… そこへ闘争による更なる負担が加わり─── 人体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓の グリコーゲンすらも底をついた……………… ゴキュ……ゴキュ…… 闘争に加え酷使に次ぐ酷使………… もはや破壊され尽くした少年の筋肉細胞達…… 細胞達(かれら)は……復讐を誓っていた!!! ……コトン。 春菜 「う、うわぁ……」 真穂 「す、すごいすごい!!」 蒲田 「全部飲みやがったよ……!!」 次なる酷使に対する復讐…… 今後もし……同じ事態が起こったなら 必ず………… 必ず独力で乗り越えてみせる!!! 中井出「どうでもいいけどこの奇妙なナレーションに意味はあるのか?」 悠介 「皆無だな」 人ならぬ神の創造(つく)(たも)うた肉体…… 神の誓いし復讐に誤り(ミス)はあり得ない! 今、少年の肉体に 空前の超回復が起ころうとしていた!!! 悟り猫「ゔっ……」(ゴポリ) 全員 『!!』 ずざざざざっ!!! 猫なのに顔を変色させてみせた彰利から何かを感じ取った俺達は、 一瞬にして彰利から距離を取った。 悟り猫「ぶっ!!うぶっ!!うぶぶっ!!」 中井出「う、うわっ……なんかやべぇぞ!!」 藍田 「ゆ、弦月!!超回復はどうしたんだよ!!」 悟り猫「ふぶぶっ!!うぶぅううううううっ!!!!」 ブシュッ!! 全員 『あ───』 彰利が押さえる自らの口から、緑色の液体が吹き出た。 それは見紛う筈もない、 たった今あの猫が飲み込んだ14キロの青汁に他ならなかった……。 悟り猫「っ……!!」(ゴポッ……ゴポリ……) 春菜 「やっ……!!ゆ、弦月くん!?どうしてわたしのところに来るの!?」 悟り猫「ヴググググ……!!」 春菜 「ば、ばかばかっ!こっち来ないでよっ!!汚いよ!?」 悟り猫「バカとはなんだコノヤ───ゔっ」(ゴポリ) 春菜 「───!!や、やめ───ごめんなさいっ!!ばかって言ってごめんなさい!     謝るからっ!謝るからそれ以上近づかないで!!や───やぁああっ!!」 やがて彰利は逃げようとする姉さんの襟首を引っ張り、その服の中へ───吐いた。 ごぼしゅっ!!!ゴエッ!!ビチャビチャビチャビチャ!!! 春菜 「やぁああああーーーーーーっ!!!!!」 ───その後、姉さんの悲鳴は数十秒続き……その悲鳴が終わる頃。 悟り猫「……スッキリ……Y」 胃の中の物を全て吐き出した彰利は、ガイアばりの極上スマイルをしていた。 とりあえず猫であの顔は脅威でしかないと思った瞬間だった。 春菜 「うっ……うぐっ……ひっく……!!     ゆっ……弦月くんの───ばかぁああああああああっ!!!!」 悟り猫「え?あ───キャアアアアアアアアアッ!!!!!」 ドカバキベキゴキガンガンガン!!! 悟り猫「ひょえらりやぁあああああああっ!!!!!」 俺はただ、殴られ続ける彰利を眺めつつ、十字を切るのだった……。 Next Menu back