───UnlimitedBlackOrder-No.07魔物に恐れられるモミアゲ───
【ケース13:簾翁みさお/見届けたり守ったり、時には驚いたり呆れたり】 ───……タラララスッタンターン♪ みさお「あ……ランクアップ。ランクネームは……って、空界文字だから解らないね。     えーと……鍛冶屋さんに貰った辞書によると……すらいむ……きらー?」 聖  「スライムキラー……」 みさお「あんまり嬉しい名前じゃないね……」 あれから聖ちゃんとわたしは、『災い』である者を屠りまくった。 聖ちゃんには『静沈の神』と『災狩の死神』としての『災狩の法』があり、 わたしの武器に『災狩』を宿らせることも出来た。 さらに嬉しかったのはランクカードを持っている者の仲間が敵を倒しても、 きちんとランクカードに記録されることだ。 だから災狩した。 いや……しすぎたのかもしれない。 既にアントエンハンス地方には、スライムが存在しないかもしれないと思うほどだ。 だって、そんなのは仕方ない。 一匹二匹を災狩して調子に乗ってたのは確かだ。 けど、急に仲間を呼ばれるのは本当に困る。 だからわたしと聖ちゃんは抗って、 結果的に……ここら辺のスライムを退かせて治めた……文字通り退治してしまったのだ。 みさお「えっと……この場所は既にランク外。スライムは無視しましょう、だって」 聖  「災いを放ってはおけないよ、ね?」 みさお「それはそうだけど。じゃあ出会えば災狩って方向で行こっか」 聖  「うん」 にこりと微笑む聖ちゃんとともに、次の街を目指した。 聖  「えっと……ここから近い街、どこだったかな……」 みさお「確か『クグリューゲルス』って魔術街だったね。     魔導魔術じゃない、純粋な魔術の街だって鍛冶屋さんが言ってたよ」 聖  「魔術……使ってみたいね」 みさお「え?……えと、あのさ、聖ちゃん?     魔術なんて無くても、月操力があれば十分じゃない?     聖ちゃんの場合、それこそ彰衛門さんの遺伝子を継いだから、     本当に大半の月操力が使えるし」 聖  「……わたし、『魔術』が使ってみたいんだよ……?」 みさお「………」 ……ここに、ファンタジーに憧れる存在がまたひとり……。 みさお「でも───魔術かぁ。確か魔術師にもランクがあるんだよね。     魔術ではクラスって呼んでるみたいだけど。メイガスとかアコライトとかだっけ。     その中でも伝説、って呼ばれてるのがクリエイター……創造者、だっけ。     悠介さんが知ったら、いろいろ大変なことになるかもしれないね」 聖  「うん、そうだね」 みさお「魔術に関わる者なら憧れてやまないクラスらしいからね。     ゼロさんも内心、憧れてたりしたのかな」 聖  「……どうだろう」 そればっかりは訊いてみなきゃ解らない。 でもなんとなく、リヴァイアさんってプライドとか高そうだし……訊くに訊けなさそう。 みさお「悠介さん、今頃何処に居るのかな。ちゃんと目的地に───あ」 目的地。 目的地って、それはチャイルドエデンなわけで……くはぁっ、忘れてました……!! でもでも、自分が戦うことで功績が認められるのってなんだか嬉しくて仕方がない。 だからつい、この世界に染まりそうになってしまう。 聖  「?」 みさお「え?あ、なんでもないよ聖ちゃん。進も?」 聖  「うん」 落ち着こう。 辞書の他にワールドマップだって貰ったんだ、大丈夫、すぐ済みます、きっと、多分。 みさお「チャイルドエデン、チャイルドエデン……っと───あった。     えーと……アントエンハンス地方を……東に100キロォッ!!?」 聖  「え……?」 みさお「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください……!!     100キロって……!こんなの歩いたら一日どころじゃ済みませんよ……!?     ゼロさん、なんだってわざわざこんな遠いところにゲートを繋げたんですか!?」 ……そこまで言って思い至る。 喋っていたゼロさんの様子が、ほんの少しだけ変だったことに。 もしかして本調子じゃなかった……? いや、それにしたってこれはひどいと思う。 わたしとしては月生力展開しながら走り続ければいいと思う。 けど、聖ちゃんは違う。 見つけた災いは救ってあげたいと思うだろうし、そうなったら必然的に遅くなる。 つまるところこの旅は、如何にモンスターが居ない場所を通るかに終結する。 自分の勘のみが頼り───うん、行こう! みさお「聖ちゃん、行こう!     チャイルドエデンはここを東に100キロのところにあるって!     あ、えと……具体的に言えば100キロ先にあるのはロトニウスって地方で、     チャイルドエデンはその外れにあるって!     時間凍結がしてあるとはいえ、     わたし自身それを使うのは今回が初めてだったから、     どれだけ効果があるか解らないの!」 聖  「───じゃあ」 みさお「う、うん、葉香さんが居るから大丈夫だとは思うけど、     時間凍結の効果が切れる可能性があるの。     わたしは地界に居るわけじゃないから凍結の力に補給が出来ないし───」 聖  「い、いそごっ!?パパが居なくなるなんて嫌だよわたし!」 みさお「え?……や、居なくなるなんて言われてないんだけど───」 聖  「待っててパパ───!!」 ドシュゥウウウウウウウン!!!!!! みさお「速ァアアーーーーッ!!!?って、聖ちゃん!?ちょ───待ってぇえっ!!」 凄まじい速度で東を目指す聖ちゃんを、わたしは慌てて追うことにした。 ……いつかあの真っ直ぐさが後悔に変わらなければいい、と思いながら。 【ケース14:未来悠介/夢にまで見たゴブリンとの邂逅】 ───……。 悠介 「はぁああっ───!!!」 ヒュッ───ギキキキキキィインッ!!!! リザードマン「ケァアッ!!」 ガカァンッ!!ギンッ!カンッ!! 悠介 「つはっ───!!いいねぇ人型のモンスターは!!     やっぱファンタジーはこうだろう!!」 空界を迷走して、はや数十分。 俺はとある洞窟で出合ったリザードマンと一対一の戦いをしていた。 目と目で解ったのだ。 こいつは強敵だと。 その押さえ切れぬ闘争心が、互いの心に火を付けた。 ……ちなみに。 『戦闘開始』の合図は旅人に教えてもらった。 『そんなことも解らないのか』と笑われたが。 リザードマン「コアッ!!」 ヒュッ───ガギィンッ!! 悠介 「づっ───!!」 振り被り、降ろされた剣圧。 それは『人』なんかが想像するものよりも強く、あっさりと俺の手から剣を吹き飛ばした。 ……ああ、ちなみに竹の槍なら落ちてきた落石破壊するのに使ってしまった。 リザードマン「ケァアアッ!!」 悠介    「───!!」 武器を無くした俺の隙を、当然逃す道理も無い。 リザードマンは大きく武器を振り、一撃必殺の心構えで剣を向けてきた。 ───だが、大きく振るその動作が勝敗の決着を遠ざけたのだ。 悠介 「───はぁっ!!」 ガギィンッ!! リザードマン「グギュッ!!?」 交差する剣と剣。 弾ける火花に、リザードマンは驚愕を漏らす。 俺の手には新たな剣。 そう───無くなったのなら創造するだけ。 体力は削るが、武器が無いよりは随分マシだ。 だがこのまま続ければ間違いなく俺は負けるだろう。 だったらやることはひとつ。 悠介 「悪いな───決着、つけさせてもらうぜ───!!」 持っていた剣を投擲する。 なんの変哲もない剣だ、それはあっさりと弾き落とされ、地面に転がった。 だがそれでいい。 相手の剣が他に気を取られているのなら、 既にこの手に創造した剣で隙だらけの体を穿つのみ───!! ───ザゴォンッ!!! リザードマン「ゲハッ!?ギッ……ギュウウ……!!」 心臓を貫いたその剣は、リザードマンから生命を奪ってゆく。 目の前の強敵は地に膝を付き、胸に刺さった剣を不思議そうに眺めていた。 ……もし、このリザードマンと俺の実力差を考えるとして。 このリザードマンが俺に敗北した理由はただひとつ。 相手が創造者だとは夢にも思わなかったことのみだ。 悠介    「ただのトカゲだと侮ったこと、心から詫び───        その闘争心と誇りの高さに心から敬意を表する」 リザードマン「………」 剣を納め、頭を下げる俺を見て───リザードマンは笑った気がした。 が、次の瞬間には初めからそこに居なかったかのように塵と化し───消えた。 タララスッタンターン♪ 悠介 「うん?」 いきなりランクカードから聞こえた音。 見てみれば、カードがなにやら光っていた───が、文字が読めん。 空界文字なんて解らんし。 悠介 「まあいいや、次なる強敵を目指そう。そう……どこぞの格闘家のように───!」 俺は、俺より強いヤツに会いに行く───!! ───……。 ……。 悠介  「───」 ゴブリン「!?」 それは突然の邂逅だった。 洞窟を出た先に───ゴブリン。 間違いないよ、だって棍棒持ってるしすっげぇゴブリンっぽい顔してるし。 悠介  「ゴォオオオオオオブリィイイイイイイインッ!!!!!」 ゴブリン「ギャーーーーッ!!!!」 正々堂々と決闘を申し込もうと前に踏み出すも───ゴブリンが逃げ出した!! ───馬鹿な!何故逃げる!? 某ゲームでは無視してても襲い掛かってくるような種族が何故!? (注:リザードマンはゴブリンより5ランク上のモンスターです。    それを倒した悠介は当然ゴブリンよりランクが上なわけで、    ゴブリンが怯えて逃げるのは当然といえば当然なのである) 悠介  「うおぉおおおおおおおお逃がすかぁぁああああああっ!!!!」 ゴブリン「ギャーーーッ!!ギャーーーーッ!!!!!」 俺は全力でゴブリンを追った! が───凄まじく意外だが、このゴブリンの足の速いこと速いこと!! 家系の足の速度に負けてねぇ……どころか離されていってる!?マジか!? 悠介 「───……」 諦めて止まった。 これは絶対追いつけん。 あのデブい体のどこにあれほどの速さが───? 悠介 「……空界ってつくづく、男の浪漫をくすぐる場所だなオイ……」 ヤバイくらい面白い。 こんな世界があるなら、もっと早く知りたかったくらいだ。 悠介 「しかし……まいったな。正直どこに向かえばいいかが解らん」 チャイルドエデンってのはどっちにあるんだ……? 悠介 「勘を頼りに歩くか。歩き回ってれば街くらい見つかるだろ」 そう呟いて、やがて歩く。 遠くを見れば、既に豆のように小さいゴブリンの後姿。 ……速すぎだろ、オイ……。 【ケース15:未来悠介(再)/ミノさん】 ───……。 見知らぬ場所を放浪しまくった挙句ってやつだろうか。 ああいや、この世界に見知っている場所なんて無いわけだから、 そんなことはどうでもいい。 今、目下の問題は─── ミノタウロス「グゥウウウウォオオオオオオオウウウッ!!!!」 悠介    「ぉおおおおおおおおわぁあああああああっ!!!!!!!」 トンデモナイくらいの強敵に出会ってしまったことだ。 しかもこいつの足の速さがゴブリンの比じゃないこと。 加えて、なにかの冗談みたいにデカイ戦斧を片手で振り回すバケモノじみた行為…… ああ、これが絶望ってやつか。 なんとなく、今ならさっきのゴブリンの気持ちが解る気がする。 心境的にはゴブリンと戦いたかったどこぞのパーティーが、 突如現れたフロストギガースに驚愕する瞬間にも似ている。 悠介 「“───戦闘開始(セット)
”!砂塵が出ますっ!!弾けろっ!」 イメージを即座に纏めて弾かせる。 それは上手く風に乗り─── ミノタウロス「グォオッ!!?」 ミノタウロスの目を封じた。 悠介 「半端な行為は自殺行為───竹の槍が出ます!!」 狙うはその口内のみ! 打突ではなく投擲で一気に貫く!! 悠介 「スパイラル・エアァアーーーッ!!!!」 渾身の力とともに放たれる竹の槍───だったが。 ミノタウロス「───!グォオッ!!」 バキィンッ!! 悠介 「げっ───!?」 あろうことか。 ミノタウロスの野郎は目を閉じながらそれを弾いた。 ……半端じゃねぇ……戦闘経験に雲泥の差がある。 こうなりゃ─── 悠介 「戦術的撤退ィイーーーッ!!!!」 強敵から退くことは臆病にアラズ!! 敵わぬ敵と戦って死ぬくらいなら、経験を積んで再戦した方が遙かに面白いのだ!! ───が。 この歴戦の巨体から逃げられると思ったこと自体─── 自分の思考は甘かったのだと、後悔する。 ───ザキャアッ!! 悠介 「え───?」 走る目の前に、その浅黒い巨体が現れたのだ。 確かに、後ろに居た筈のその巨体が、だ。 つまり、それは─── 悠介 「は、ははっ……」 甘かった。 いや、甘すぎたのだ。 相手は半端じゃないって気づいたばっかりだってのに、それでも甘くみてた。 『目の前の巨体は、ハナっから本気など出してなかった』。 そして、今のこの速度こそがこの巨体の本当の速度であり─── ミノタウロス「グゥウウオオオオオオオッ!!!!」 この咆哮こそ、真実本気の合図。 両手で握られ振るわれる斧の速度は、片手で遊んでいた時の比になどするだけ愚考。 『避けなきゃ死ぬ』って危機感とともに後ろに飛べば、 その目の前を凄まじい風が吹き抜けた。 悠介 「はっ……ははっ……か、帰りてぇ……!!」 目の前にはそれこそ、『悪夢』と謳ってもおつりが来るくらいの『モンスター』が居た。 こいつに比べればゴブリンなど愛玩動物に過ぎない。 モンスターとはこれほどまでのものを言うのだろう。 でも……逆に、それほど絶望的な相手だからこそ覚悟が決まった。 相手が確実に自分を殺す存在ならば、出し惜しみなんて愚かしいって思えるものだ。 悠介 「いくぞルドラ……!     使えないなんて泣き言は、俺の精神が崩壊してから言え───!!」 自身の中の黄昏に問いかける。 手応え───酷く薄い。 だが手応えが無いわけではないのだ。 ただ一槍でいい、あいつを確実に滅ぼせるくらいの槍が創造できれば───!! ミノタウロス「グゥウウウウウォオオオオオオッ!!!」 悠介    「っ!?しまっ───」 振るわれる斧は視界に留まらない。 あくまで直感で剣を盾に構えた───刹那、剣とともに自分の腕の骨が砕ける音を聞いた。 悠介 「ガッ───ぐあぁああああああっ!!!!」 それでも痛みの心配など、それこそ刹那的。 自分の体が宙に吹き飛ばされ、意識が失うくらいの風の壁に阻まれる。 ……デタラメだ、なんて強さだ。 遊び気分なんかでファンタジーに憧れた報いってやつか……? 見下ろせば、大地には俺目掛けて地を蹴る巨体。 その巨体が俺の眼前まで跳躍し、その巨大な斧で俺を両断しようとする。 悠介 「───はっ、生憎だけど死んでやるわけにはいかない」 手の平に創造された、小さな点のような黄昏。 そこから、細く長い得物が放たれた。 悠介 「“───五股輝く光の戦槍(ブリューナク)”」 放たれた光は瞬時に五つの光となる。 それがミノタウロスの眉間から股間にかけての正中線を破壊し─── ミノタウロス「───ッ……!!」 ミノタウロスは言い残すこともなく、空中で霧散した。 悠介 「───……」 こっちもこっちで限界以上の創造しちまったもんだから、ただ地面へ落ちるだけだった。 ああ……落ちどころが悪けりゃ死ぬな、こりゃ……。 タラララスッタンタ〜ン♪ こんな時にも鳴る、よく解らない音に頭を痛めた。 悠介 「あ……だめだ……力、入らねぇ……」 意識を失った。 おそらく、数秒後にはミンチになっているであろう自分を思い浮かべながら─── 【ケース16:簾翁みさお/大空の王、黒竜王ミルハザード】 みさお「あ、は……はぁっ、はぁっ……そ、そろそろ……休憩……しよっか……!!」 聖  「う、うん……」 あれから数十分、全速力で走っていたわたしと聖ちゃんはいい加減限界だ。 途中、目に映る災いを一撃の下に屠ってきたけど、それだけでも体力は削られていた。 でも───悠介さんにもらったこの竹槍、ほんとにすごい。 螺旋は在りしを突き穿つ(スパイラル・エア)って言って突き出すだけで、 大体の存在が一撃で破壊できた。 しかもわたしにはなんの疲労も消費も無い。 ……創造の理力ってハンパじゃないです。 みさお「えっと……ここにこの川があるから……今丁度、60キロ地点かな……。     あはは、さすがに遮蔽物が無いと速いね……」 聖  「……、……」 とはいえ、さすがに飛ばしすぎた。 家系全力ダッシュに加え、消えてゆく体力を月生力で回復させるなんて無茶をしたのだ。 さらには月然力・風で追い風を発生させて、前からくる空気抵抗も月然力で殺した。 そうでもしなきゃ、こんなに速く60キロも走れない。 でも、ほんとに限界。 休まないと、もう動けなさそう。 ……だっていうのに。 ゴブリン「………」 みさお 「あ……」 聖   「あぅ……」 む〜ん……といった感じに立っているゴブリンが居た。 心無し、どころかかなり息を荒げているようにも見えるけど…… なにを急いでいたんだろう。 ゴブリン「………」 ゴブリンはわたしと聖ちゃんをジロジロ見ると、ニヤリと笑い─── ゴブリン「ボンゲェエーーーーッ!!!!」 突如!棍棒を片手に襲い掛かってきた!! 慌てて防戦しようとしたけど───あ、ダメ……体が動かない。 見れば、聖ちゃんも苦しそうに動こうとして動けない状態だった。 ───あ……避けられない…… ……なんて、諦めかけた時でしドォッガァアアアンッ!!! みさお「───!!きっ───!!?」 聖  「ッ……!!?あ、ああ……!?」 ゴブリンは、大空より舞い降りた、超巨大な足に掴まれた。 その大きさといったら、わたしたちが草原に落ちた豆に思えるくらい、だと思う。 今の状況で唯一確信が持てることと言えば、動けば確実に死ぬという事実だけ。 だって、今目の前には─── 黒竜 「ォオォオッ───ウォァアアアアアアォオオオンッ!!!!」 とんでもなく巨大な、黒い竜が居るのだから───!! みさお「っ……!!っ……!!」 聖  「……!!」 恐怖で頭がいっぱい。 そうしようとしなければいけなかった体はその実、 そうしようと思うまでもなく恐怖で動けなかった。 だって考えてもみてほしい。 もう少し自分がその先に居たなら、ああして捕まっていたのはわたしかもしれないんだ。 それを考えたら、自然と涙が出てしまうのも仕方が無い。 ……それでも必死に声が漏れるのを耐えた。 こんなものには敵わない。 いや……戦うだなんて思うこと自体が馬鹿だ。 そんなことをすれば、自分はひとつの塵すら残らず死ぬだろう。 それを確信させる何かが、目の前のその存在にはあったのだ。 ヴオッ───バッサァアアアアッ!!!! みさお「っ───!!」 聖  「っ……!!」 羽ばたいただけで吹き飛ばされた。 その風圧は、月然力で放てる風の最大を軽く超えている。 まるで台風だ。 わたしと聖ちゃんは路上に転がるゴミ袋のように簡単に吹き飛ばされて、 遠い遠い草原に転がった。 みさお「は、はっ……はぁっ……!!ぐすっ……はぁっ……!!」 聖  「っ……っ……!!」 そこでようやく、金縛りから解放されたように酸素を吸った。 遠くの空には、大空を舞う黒。 それを追う存在は無いし、追おうとも思わない。 みさお「うっ……ひっ……うあぁああああああんっ!!!」 聖  「くっ……ふくっ……あぁあああああん!!!」 ……ただ、わたしたちは───そんな光景を目にしてから、弾けるように泣いた。 想像もつかない恐怖というものは存在するものなのだと。 思考にはもう恐怖しか残っておらず、 やがて心が落ち着くまで、ずっとそうやって泣いていた。 【ケース17:未来悠介/救いは時に、己も救う】 悠介 「───!?」 遙か遠く。 きっと想像もつかないくらいの遠くから聞こえる、巨大な咆哮に目を開けた。 悠介 「っ!?」 ───途端に、腕に走る激痛。 何事かと見れば、プラプラと折れたままの腕。 悠介 「いぐっ……!!」 目が完全に覚めた。 すぐさまに『腕を元通りにする霧』を創造してそれを治した。 小さいとはいえ、無理矢理な黄昏の創造の所為で使えないんじゃないかって思ったが…… 悠介 「……にしても……ここは?」 どこかの森……だよな。 でもヘンだ。 俺は確かにミノタウロスに吹き飛ばされて、大空から落下して潰れると覚悟してたのに。 しかも───驚いたことに『体力』が回復してる。 寝たからとかそういう次元の話じゃなくて、体の中の『黄昏』の存在率が回復してる。 探ってみれば、ルドラの反応が強いものになっていた。 悠介 「……この場所に……なにかあるのか?」 見渡してみる───と、自分が小さな湖の中心にある小さな島に居ることに気づいた。 そこには、天を覆うような木々の隙間から差し込む光があって…… その光に、とても神秘的な何かを感じた。 悠介 「……いいや、細かいことは気にしない。     この場所が黄昏を回復させてくれたんなら、それは素直に喜ぶことだ」 なにはともあれ立ち上がり、その景色を眺めた。 そこにあるのかと驚くくらいに透明の湖に、風も吹かないのか波すらないその景色。 そんな景色の中───ふと、ギチュウという鳴き声を聞いた。 それだけで───落下する筈だった自分が、 どうして無事だったのかがなんとなく解ってしまって……笑ってしまった。 悠介 「創造(クリエイション)───“聖災を誇る無情の兵槍(ロンギヌス)”」 黄昏から槍を引っ張り出す。 投擲じゃなく、武器としてだ。 もう油断はしちゃいけない。 すれば死ぬだけだとよく解った。 悠介 「よし、行くかっ!」 今の創造分の体力を回復させてから───……どうしろと? 悠介 「辺り一面、湖……」 濡れずに済む方法はあるだろうか。 ……いいや、助走付きでジャンプして、足りない分は風を創造して渡ろう。 悠介 「そうと決まれば……せぇのぉっ!!」 助走とともに跳躍。 すぐに落下の重力に囚われるが、それを創造した風で殺す。 悠介 「───っとぉっ!!」 スタッ! 無事に湖を越えた俺は、なんとなく…… 『俺って人間じゃねぇなぁ』とつくづく思ったのだった。 悠介 「ああもうそんなことはどうでもいい。     今度こそ目が覚めた、さっさとチャイルドエデンを目指そう」 気の所為か、ランクカードが胴色から銀色になってる気がするが、それこそどうでもいい。 急ごう、道草食ってても仕方ない。 悠介 「待ってろよ彰利ぃっ!!」 今度こそ止まらなかった。 神聖な雰囲気を出す森を抜け、ただ走った。 その過程、遙か大空の景色に巨大な黒を見た。 悠介 「───……」 息を呑む。 それこそは、おそらく男ならば一度は実物を見たいと焦がれるであろう『ドラゴン』。 が───高さを考える。 この地面からあの空へは相当な距離だ。 だっていうのに十分に巨大だと思えるその姿は、 間近でみれば……ビルの大きさなど軽く凌駕するのでは───? そう考えたら体が震えた。 『あれには勝てない』と、体が警告している。 悠介 「っ……」 思わず目を逸らした。 じっと見ていたら頭が恐怖でおかしくなりそうだ。 悠介 「落ち着け……落ち着け、落ち着け……」 アレは俺に見向きもしなかった。 アレは俺を襲ったりはしないだろう。 だから、落ち着け───と、何度も言い聞かせた。 そうでもしないと紛らわせないくらいの恐怖を感じたのだ。 現に、足が震えたままだ。 悠介 「は、は、あ……」 別に情け無いなんて思わない。 あんなものを前に平気で居られる方が異常だ。 悠介 「どうなってんだ……この空界ってのは……」 驚きの連続だ。 確かに憧れた世界そのものだ……ああ、それはてんで間違ってない。 自分がどれだけ強くなっても強敵が居るような世界がいいとも願った。 だが───それは所詮願望。 現実とは大きく異なり、あんなものを前に『戦う』なんて選択肢を選べるヤツは、 きっととっくにコワレてる。 悠介 「───よし、足の震えは止まった」 自分を勇気付けるように、胸をドンと叩いた。 それにより、走れるくらいの度胸はついた。 悠介 「まいったな……今まで、あそこまで何かが怖いだなんて思ったことがあったかな」 そう呟いてから走り出す。 目的地がどこにあるのかは解らないが、立ち止まってるよりはいいだろう。 悠介 「───っと、お?」 走り出して5分も経たず、人を見つけた俺は立ち止まった。 人───爺さんはフガフガと顎を動かしながら、もっさりとした白い髭を撫でていた。 悠介 「あのー……爺さん?ちょっと道を訊ねたいんだが」 爺さん「あぁ〜ん?」 悠介 「………」 その爺さんはカゴを背負いながら、キノコのようなものを取っていた。 しかも返事の仕方がモンスターハンターの爺さんにすげぇ似てた。 悠介 「チャイルドエデンに行くにはどっちに行けばいいのか知りたいんだ。     教えてくれないか?」 爺さん「そりゃあ……タダでは教えられんなぁ……───ン?」 悠介 「?」 爺さん「……こりゃあ〜たまげた……。お主、ミノタウロスバスターか……」 悠介 「へ?」 爺さん、なにやら俺が首に下げているランクカードを見て驚愕の表情。 しかもそれを見てから、なにやら急に畏まった態度になった。 爺さん「チャイルドエデンじゃったな……     それならばこの方向を70キロ行った場所にあるわい」 悠介 「なっ───ななじゅっ……!?」 爺さん「お主……ミノタウロスの戦斧石は持っておるな……?」 悠介 「センブセキ?なんだそれ」 爺さん「……───」 悠介 「?」 爺さん「もしやとは思うが……バックパックの存在すら知らぬのではあるまいな……」 悠介 「バックパック?なにそれ」 爺さん「……困ったブレイバーじゃ……よくそれでミノタウロスを倒せたもんじゃあ……」 悠介 「ほっとけ、こっちだって死ぬ思いだった。で、バックパックって?」 当然の疑問を爺さんにぶつける。 すると、爺さんは『カードに指を添えて【アンテ】と言ってみぃ』と言った。 俺はよく解らないままにカードに指をつけて、アンテと呟いていた。 と───ボムンッ!! 悠介 「くわっ!?」 なかなかに大きな皮袋がその場に出現した。 爺さん「これがバックパックじゃ。ランクカードの中にある袋じゃな、覚えとけ」 悠介 「あ、ああ……で、これがどうかしたのか?     言っておくけどこれに何かを入れた覚えはないぞ?」 爺さん「たわけモンが。バックパックは、     倒したモンスターが落とすものを自動的に吸収するものじゃ。     倒したモンスターが奈落の底に落ちたら、     貴様はそのアイテムを取りにいくために自分も落ちるのか?」 悠介 「………」 そりゃそうだ、ある意味便利だ。 爺さん「開けるのが初めてならば調べてみぃ。     作成した者が気の利いた者ならば、地図くらいはあるじゃろ」 悠介 「…………」 一応、おそるおそる開けてみる。 すると─── 悠介 「ぬお……見覚えのある剣とかが……」 出てきたそれは、リザードマンが装備していた剣と盾、そして鎧。 さらにはよく解らない硬貨とか、綺麗に輝く石───これか?戦斧石ってのは。 あ───でも確かにミノタウロスの斧の中心に、こんな輝きがあったような─── 爺さん「お主……何者じゃ?」 悠介 「へ?何者って?」 爺さん「この戦斧石は……ミル・ミノタウロス……───     つまり、ミノタウロスのボスの持つ戦斧のものじゃ……」 悠介 「ミル?」 爺さん「バカモン、空界語で『王』という意味じゃろうが。     それくらいも勉強しておらんのか、最近の空界人は」 悠介 「………」 いや、俺空界人じゃないし。 爺さん「そうかそうか……ミノタウロスハンターではなく、     ミノタウロスバスターだった意味が解ったわい。     お主、馬鹿だが実力は確かなようじゃな」 悠介 「馬鹿は余計だ、馬鹿は……お?これか?地図って」 爺さん「……うむ。よいライセンス屋だったようじゃな。お主はついておる」 悠介 「そうなのか?よく解らん」 爺さん「さて……戦斧石をくれるのならば、     転移でロトニウスまで送ってやろうと思ったが……さすがにそれは受け取れんわ。     よいじゃろ、ワシの肩に手を置けぇぃ」 悠介 「爺さん?」 爺さん「タダで送ってやると言っておるんじゃ、早ようせい」 悠介 「あ、ああ……」 言われるままに爺さんの肩に手を置く。 すると爺さんは虚空に光のを描き───って、式!? 爺さん「ほっほっほ、ワシもまだまだ現役じゃ!」 何かを言おうと思った矢先、俺の視界は光に遮られた。 ───……。 で、気づけば平原。 変わったことと言えば、モンスターがごっちゃりと居たことだが─── 魔物ども『ギャーーーーッ!!!!』 そのモンスター全てが、俺を見るなり逃走した。 悠介 「…………えっと」 爺さん「胸を張らんかい。ここらにはミル・ミノタウロスに勝るランクは存在せん。     モンスターが逃げ惑うのは、お主の実力ゆえじゃ」 悠介 「へえ……」 素直に驚いた。 驚いたが……モンスターに『バケモノを見た顔』で逃げられたら流石にショックだろ……。 爺さん「ここから東───こっちじゃな。こっちにずっと進むがええ。     そこにチャイルドエデンがあるわい」 悠介 「そっか、助かったよ爺さん」 爺さん「構わんよ。それから───その戦斧石、大事にするんじゃぞ。     どのブレイバーであろうと、滅多に手に入れられるものではない」 悠介 「そうなのか……ああ、大事にするよ」 爺さん「うむ、それではの」 爺さんが再び式を描き、光とともに消える。 ……速いな、描くのが。 リヴァイアでもあれだけ早く描けただろうか。 悠介 「ま、いいや。さっさと行こう」 難しいことは後回しだ。 大体、式のことは俺が気にしても仕方のないことだし。 悠介 「…………」 でも、なぁ。 悠介 「───…………」 よし、やることは決まった。 大体、聖とみさおも心配だ、それを探すついでということで─── 【ケース18:簾翁みさお/ゴーレムの悲劇】 ───ドドドドドドドド……!! みさお「……?」 聖  「なんだろ、あれ……」 心を落ち着かせたわたしたちは、あれから随分と歩みを進めた。 その先───遠くの方から、土煙を出しながらこちらへ走ってくる─── みさお「え───えぇっ!?」 『モンスターの大群』があった。 まるで何かから逃げるように走ってきたそれは、『ギャーーーッ!!!』とか叫んでる。 オークにゴブリン、リザードマンにキラービー、数えればキリがない。 その中にゴーレムまで居たんだけど、それまで逃げてきてる。 ……いったい何から逃げているのか。 さっき、あれだけの巨大なものを見たわたしの中には、嫌な予感しか流れていなかった。 声  「ワァーーーッ!!ワァーーーッ!!ウオーーーッ!!!!」 魔物 『ギャッ!!ギャーーーーーーッ!!!!!』 声  「ワアッ!ワアッ!!」 ───え? みさお「あ、あああああれって……」 聖  「……悠介、さん……?」 ……そう。 モンスターたちを追い立ててるのは悠介さんだ。 何故か漂流教室の飢えた子供の真似をしながら、泣き叫ぶモンスターたちを追っている。 でも……ちょ、ちょっと待ってほしい。 逃げてるモンスターの中には、相当に強いやつも混ざってる。 それが一目散に逃げるほどって…… 聖  「あ……ランクカード」 みさお「え───あ、ほんとだ」 驚いたことに、悠介さんの首にはランクカードが下がっていた。 しかもみさおちゃんの緑色のものとは違い、銀色。 ランクが一定以上上がるとカードの色が変わるって言われてたけど、 悠介さん……いったいどれくらいのランクなんですか……? みさお「あ、でも窮鼠猫を噛む、って言うし、あれだけ怖がらせると───あっ」 予想通りだった。 今まで逃げていたモンスターの中の一匹が急に振り向き、悠介さんに牙を剥いた。 それに続くように他のモンスターもだ。 だっていうのに。 ヒュッ───ドガガガガガガガガガガガガ!!!!! 襲い掛かってきたモンスターの群れの一匹一匹を、一撃で確実に殺してゆく。 戻す槍は刹那に、その在り方は次弾が放たれる銃口が如く。 悠介 「……焚」 そこに居た大半のモンスターを全て一撃で倒したその槍を構え直し、 悠介さんは残っている巨大なゴーレムを見上げる。 悠介 「さあ───名誉ある戦いを!」 あ〜……あれは戦いに酔ってる顔ですね……。 何を言っても届きそうにもありません……。 ゴーレム「ゴォオオオオッ!!!!」 悠介  「よし来いっ───って、お、おい?───こらてめぇぇっ!!」 ……結論を言うと、ゴーレムさんは逃走しました。 それを全速力で追う、槍を持った人間。 普通に見ればゴーレムの方が強い筈なのに、 今はゴーレムが苛められているようにしか見えなかった。 みさお「あの槍……なんだったんだろ。とんでもない威力だったよね」 聖  「うん……攻撃しようとすると、赤く光ってた……」 みさお「え……?」 それは気づかなかった。 赤い光が動いたと思った時にはもう、モンスターは塵になってたのだ。 悠介さん、槍の扱いが上手かったんですねぇ……。 もしかしたら彰衛門さんとわたしたちが帰った時から今の時代まで、 訓練してたのかもしれないけど。 みさお「って───もうチャイルドエデンはすぐ近くなのに!     ゆ、悠介さんっ!?悠介さぁあああんっ!!!!」 叫ぶも、悠介さんは既に豆ほどに小さくなっている。 その遠くの景色では、余裕で確認できる逃げ惑うゴーレム。 ……不憫です。 みさお「いいや……どうせすぐ来るよね。わたしたちだけでも行こ?」 聖  「うん」 頷く聖ちゃんと手を繋いで、わたしはのんびりとチャイルドエデンを目指した。 ───……。 で───チャイルドエデンに辿り着く。 感想は───そう、木と草に包まれた城。 嫌な雰囲気はせず、むしろ綺麗だと思える外観をしたお城がそこにあった。 門は硬く閉ざされており、わたしと聖ちゃんの力で押してもビクともしない。 聖  「どうしたらいいのかな……」 みさお「ん……困ったね」 中に入れなければまるで意味がない。 というか───わたしたちはこの中に入ってなにをしたらいいんだろうか? 千年の寿命がどうとか言われたけど、それを持って帰ればいい───のかな? 悠介さんが頼まれたことがそれらしいし、きっとそうだ。 でも……それは手に取れる物体なんだろうか。 ……ちょっと不安。 そんなことを考えていた時だった。 すぐ目の前に、トンと着地する存在があったのだ。 男  「っと……あれ?なんだ、敵じゃないのか」 聖  「………」 みさお「えっと……」 黒い髪に、バンダナの似合う男の人だった。 やさしそうな顔───だけど、解る。 この人は『戦う人』だ。 注意しておくに越したことは無い。 男  「……誰かに、捨てられたのか?それとも遊びに来た───って、     こんな場所に遊びにこられる子供なんて居やしないか」 聖  「パパはわたしを捨てたりなんかしませんっ!」 男  「っと……───うん、そうだな。子供を捨てるヤツなんて親じゃない。     ま、とにかく入っていくといい。こんな場所に子供を置いておけないし」 みさお「え───いいんですか?」 男  「構わない。それともモンスターに食われたいか?」 みさお「いえ、是非入れてください」 男  「ははっ、正直な子だな。じゃ、先に自己紹介だ。     俺はカルナ。カルナ=ナナクサだ。このチャイルドエデンの番人をしてる」 聖  「え、えと……わたしは弦月聖、です」 みさお「わたしは簾翁みさおといいます。よろしくです」 カルナ「弦月……簾翁……?もしかしてキミ達、地界から?」 聖  「はい」 みさお「いろいろと事情がありまして……」 カルナ「───そっか。気にしなくていい、この城は子供を拒まない。     どんな事情があろうと、子供は受け入れるさ。それが罠でもね」 聖  「そうなんですか、立派ですね」 カルナ「………」 聖  「?」 カルナ「あ、いや……そうだな。ごめん」 聖  「?……どうして謝るんですか……?」 カルナ「さあね、謝りたかったんだ」 みさお「………」 この時感じた。 この人、悪い人じゃない。 子供相手に皮肉を言った自分を、ちゃんと叱ってる。 カルナ「みんな、新しい子たちだ。仲良くしてやってくれ」 カルナさんは城の門に何かを呟くと、あっさりと門を開けてみせた。 ───そうして。 わたしたちは極々簡単に、チャイルドエデンへの侵入を果たした。 けど───ゼロさん?これからわたしたちは、なにをどうしたらいいんでしょうか……。 Next Menu back