───UnlimitedBlackOrder-No.09守るべき楽園───
【ケース23:簾翁みさお/三人の至高魔導術師】 ガッションガッションガッションガッション……ポピーーーッ!!! ナノス「いいか?ここをこういじってから二番バルブを閉めて、     四番バルブを開けてからここの調整はするんだぞ?」 みさお「それじゃあ効率が悪いですね。このバルブの具合を未来視するに、     このバルブはニ、一の順に閉めて、五を冷やしてからの方がいいです」 ナノス「なんだと!俺の経験を無視するってのか!」 みさお「効率問題です。いいからやってみてください」 ナノス「言い出したのはお前だろ!お前がやれよ!」 みさお「……やれやれですね……」 蒸気製鉄釜(ポピーさん二号)の整備を始める。 といっても、機械の声を辿って、軋んでいるところを通してあげればそれでいいんだけど。 コンコン……コン…… スパナで管を叩き、具合を見る。 みさお「………」 渡された耐熱の式が編まれた手袋をして、小さなバルブを閉めて整備を開始する。 ……こう言うのもなんだけど、機械に関しては迷うことはない。 だって神魔を解放すれば機械の声だって聞こえるし。 それは人と同じで、異常の無い声に変えてあげればいいだけの話。 キ……コ、キン。 みさお「はい終わり。蒸気バルブ開けてください」 ナノス「え───な、なに言ってんだ、そんな早く終わるわけ───」 みさお「早く!蒸気が充満して爆発しますよ!?」 ナノス「うっ……わ、解ったよっ!」 ナノスが小走りに蒸気バルブに走る。 ……ちなみにこの男の子の名前はナノス=ウィリアムス。 このエデンに入ってすぐにカルナさんに紹介された子供だ。 ……紹介したのは向こうだけであって、 わたしと聖ちゃんは紹介しなかったってだけだけど。 キュッキュッ───ボシュゥウウウウッ!!! ナノス「え───正常になってる……?」 みさお「どんなもんですか」 ナノス「うぐっ───ま、まぐれだこんなの!!」 みさお「むっ───相手の実力を素直に受け止められないといい大人になれませんよ!?」 ナノス「うっさいうっさい!覚えてろくそっ!     別のことでギャフンと言わせてやるからな!」 みさお「フッ───返り討ちです」 ナノス「〜〜〜っ……むかつくやつだなぁあああっ!!かわいくねぇっ!!」 みさお「なっ───性格が最悪のあなたなんかにそんなこと言われる筋合いありません!」 ナノス「うるさいったら!俺は聖を見に行くからお前はここで待ってろ!」 みさお「だめです!そんなこと言って、聖ちゃんにヘンなことさせる気でしょう!」 ナノス「へ、ヘンなことってなんだよ!!俺は別に───」 みさお「貴方が今想像したことがヘンなことそのものです!!わたしも行きますからね!」 ナノス「お前ほんっとむかつくな!」 みさお「その言葉そっくりそのままお見舞いします!!」 ───……。 ……。 ───厨房。 ナノス「リミル〜、聖に料理教えたか〜?」 みさお「フッ……」 ナノス「なんだよその含み笑い……むかつくなぁ」 厨房に辿り着いたわたしは、その目で聖ちゃんの姿を探した。 けど───探すという行為をするまでもなく、その人垣は存在していた。 聖  「……それで、このスープにこの味付けをすると……」 リミル「わっ───美味しい!!聖ちゃん料理上手だね!!」 ナルナ「ほんとほんと」 キリナ「あ、わたしにも教えて教えて!」 聖  「え、えとえと……うう……」 人垣の中に、教えられる側から教える側になっている聖ちゃんが居た。 それを見たナノスの反応は……唖然。 みさお「聖ちゃんに料理を教えようなどという愚考……片腹痛いです」 千年生きた彰衛門さん直伝の料理の腕、甘く見てもらっては困る。 けど実際はわたしも驚いてる。 まさか空界の材料でも美味しいものが作れるなんて。 リミル「聖ちゃん、次デザート教えてデザート!」 聖  「う、うん。デザートならアセロラ───あ、えと……レッドムニルシャーベット」 リミル「あ───レッドムニル使うんだ。珍しいね」 聖  「う、うん」 聖ちゃん、人に囲まれてる所為か固まってる。 それでも美味しい料理を作ってみせるところは流石。 彰衛門さんに嫌われることを極端に恐れてる聖ちゃんは、 彰衛門さんに教わったことはとにかく完璧にこなす。 それがどんな状況であってもだ。 実際、地界での朝食の時も、 『パパが帰ってこなかった』と涙しながらも完璧な料理を作ってみせた。 ナノス「お、おいリミル?」 リミル「ごめん今忙しいから用が無いなら入ってこないで」 ナノス「え……」 リミルに話し掛けたナノスは、凄まじい早口で追い返された。 しかも言葉を放った瞬間、リミルは殺気まで出してたにも関わらず、今では笑顔だ。 凄い切り替え……感服です。 わたしはそんな殺気に後退った寂しい男の肩に手を置いて、 そいつが振り向くのを確認してから彰衛門さんばりの極上スマイルをプレゼントした。 みさお「フッ、カスが」 ナノス「うっ───うがぁああああっ!!!!」 効果は絶大でした。 さすがは彰衛門さん……神経を逆撫でする方法をよく知っている。 ナノス「お、おいお前っ、お前は厨房のポピーさん一号のメンテをしてろ!     俺は三号の様子見てくるからっ!いいなっ!?」 みさお「逃げるんですか?そうですか、ああいえ別にどうでもいいんですけどね」 ナノス「くあぁああああむかつくっ!!覚えてろよくそっ!!」 頭をガリガリと掻き乱しながらも厨房を出てゆくナノスを見送って、 わたしはポピーさん一号と向き合った。 みさお「………」 でも別に異常のある声はしない。 ……ナノスめ、適当に言ったな……? みさお「聖ちゃんも忙しそうだし……ん、わたしは別の場所の見学でもするかな」 うん、と頷いて、厨房をあとにした。 さて……何処から見て回ろうかな───(注:目的地に居ながらも目的忘却状態) ───……。 ……。 みさお「うーーん……」 エデンの城の外壁の上で、その景色を眺める。 凄く眺めのいいその場所は、なんだか見ているだけでも心が落ち着く。 みさお「いい所だなぁ、ここ……」 思わず素直な感想が口から出た。 ───その出た瞬間、巨大な咆哮とともに、天へと昇る鋭い光を見た。 みさお「───……」 光はその上空にある雲を捻り穿ち、なおも消えることなく飛翔する。 でもそれは突然に地面に向けて落下して───物凄い轟音を響かせた。 みさお「う、うぃいっ……!!」 空気が響く、なんてことがこう何度もあると怖い。 あの巨大な黒い竜を見た時ほどじゃないにしろ、あまり心によろしくないですよ……。 誰がイエロードラゴンっていうのと戦ってるのか知りませんけど、 もっと静かに戦ってほしい。 みさお「でも……どういう神経してるんでしょうね……ドラゴンと戦うだなんて」 多分戦ってる人は、筋肉ゴリモリ頭の中までパワーでいっぱいの人か、ただの無鉄砲か。 はたまた状況に流されて全力で戦ってる幸薄い可哀相な人くらいだろう。 ───ピキィイイインッ!!!! みさお「わ、わわっ!?」 ホケ〜っと遠くの景色を眺めていると、突然耳に響く謎の音。 他の人にも聞こえたのか、作業をしていた子供のみんなが城の外を見る。 ───トンッ。 みさお「え?あ───」 カルナ「お客人だ。子供じゃないとああいう音が鳴るんだ、覚えておくといい」 みさお「は、はあ……」 どこから来たのか、隣にはいつの間にかカルナさんが居た。 カルナ「何の用だ!ここがチャイルドエデンだと知っているだろう!!     子供以外が近寄るな!!」 兵士 「番人カルナ=ナナクサ!ここはフェルオーシュ王が居城とすると決めた土地だ!     これ以上この場に留まると言うのならば、こちらも実力を行使することになる!」 カルナ「王が決めた───?戯言言うな馬鹿野郎!     王が決めようがどうしようが、ここは子供達の最後の楽園だ!     大人の勝手な都合を振り翳してんじゃねぇ!!」 兵士 「黙れ!ここは王の土地である!!     貴様のような界外の者が王の土地を我が物顔で所有することは極刑に値するぞ!」 カルナ「王とて人だ。気に入らない人に就く馬鹿に説く説法なんて持ち合わせてない。     来るなら来やがれ───全員迎え撃ってやるさ」 兵士 「───……宮廷魔導魔術師も居るのだぞ、知らぬわけではないだろう。     三人の至高魔導術師の内のひとり、ルーゼン=ラグラツェルを」 カルナ「───……」 カルナさんの顔色が変わる。 それは、確かな戸惑いだった───けど、それもすぐに消えた。 カルナ「番人が子供を守らないで、なんのための番人だ」 真剣な表情でそう言ってのけたのだ。 その言葉に迷いなんて無い。 兵士 「───抗うようなら魔導砲を使用せよとの命も受けていたのだがな。     それだけの腕を持ちながら死に急ぐとは……馬鹿めが」 カルナ「───!」 魔導砲。 その名前を聞いた途端、カルナさんの驚愕の表情は確かなものとなった。 わたしはすぐに辞書を開いてみた。 すると───それはあっさりと、だけど絶望的な意を以って記されていた。 『対人消滅波動砲』。 人にのみ効果を齎し、壁さえも破壊せずに貫通する魔導魔術と魔導錬金術の末。 かつて三人の至高魔導術師が協力して作り上げた兵器だ。 三人の至高魔導術師─── ルーゼン=ラグラツェル、バルグ=オーツェルン、……リヴァイア=ゼロ=フォルグリム。 ゼロさんが昂い人だってことはなんとなく感じてたけど、 空界でそんなにも偉い人だったなんて……。 しかもその、自分の知り合いである人が作った魔導兵器が今、 この城のみんなを危機に追い遣ろうとしている。 みさお「………」 皮肉なものだ、と思った。 この辞書には当然、チャイルドエデンのことも書いてある。 そこに書かれた設立者の名前はリヴァイア=ゼロ=フォルグリムとゼロ=クロフィックス。 自分が子供のために作った場所を、 自分が製作に協力した魔導兵器でその『意味』を殺してしまうことになるなんて。 子供の楽園、と名付けられたこの場所が可哀相だ。 兵士 「……答えは、変わらんのだな?」 カルナ「くどいぞ。ここを追われれば子供達に行く場所なんて無い。     だったらどこで消えるよりもここで消えた方がマシだ」 兵士 「…………いいだろう。その旨、彼方に控える魔導術師に報告しよう」 それだけ言うと、馬に乗った兵士は去っていった。 みさお「……よかったんですか?」 カルナ「言ったろ?この城に住む子供たちは全員、行き場を無くした子たちだ。     ここを追い出されれば、それこそモンスターに食われて死ぬか、餓死するだけだ。     この世界はね、みさお。魔物と人とが居る分、     外から来た子供を拾おうと思う大人なんて居ないんだよ」 みさお「そんな……」 カルナ「それをおかしいと唱えた、     ゼロ=クロフィックスとリヴァイア=ゼロ=フォルグリムがこの城を作った。     金も無しに生活できる理想郷……子供達の楽園をね。     だから……元よりこの城に居る子供達に帰る場所も行く場所も無い。     俺はそんな子供達を守りたいと思った。だからこそ守るんだ、命を賭けてでも」 みさお「カルナさん……」 カルナ「けど───な。流石に年貢の納め時ってやつかな。     いくら俺が死力を振り絞っても、……いや。     この空界に魔導砲に抗える術なんて無い。     あるとすれば、標的を一瞬にして消すくらいの破壊力をもつ力くらいだ」 みさお「あの……三人の魔導術師はどうしてそんなものを……?」 カルナ「……王国同士の戦いをさせないため。     魔導砲が作られるまでは、この世界では人との争いも尽きなかったらしい。     そこで、三人の至高魔導術師は三つの魔導砲を作り、三国に設置した。     人を確実に消滅させるそれは脅威だからな、     迂闊にそれを放てば次に狙われて死ぬのは自分だと解ってる。     上手い具合の三竦みの完成、ってわけだ」 みさお「……なるほど」 カルナ「でも───ある時、そこに歪みが出来た。     三国の王全てが、この城を欲しいって思うようになったんだ。     あとは───予想がつくだろ?」 みさお「……三竦みがひとつの標的に的を絞ることで、協力する形になった。     だから───説得に応じないのなら魔導砲を使うまで、ですか」 ……カルナさんはわたしの言葉に『そういうこと』と頷いた。 なんてことでしょうか……困りました。 カルナ「ヘンなこと訊くけど───なにか能力はあるか?」 みさお「月操力と神魔融合法術が使えます」 カルナ「……へ?」 みさお「?……なんですか?」 カルナ「……能力、あるのか?」 みさお「ありますけど……いけませんでした?」 カルナ「───いや、予想以上のいい答えだ。魔導砲と真っ向勝負する気、あるか?」 みさお「もちろんです。面識は少ないですが、同じ子供として───     子供達の居場所を奪う最低の大人の暴挙を許すわけにはいきませんから」 カルナ「───よし!お前の力がどういうものかは不問だ!     それだけの意気があるなら止めることすら馬鹿馬鹿しいや!     じゃ───覚悟、決めろよ」 みさお「覚悟ならとっくに出来てますよ。伊達に300年以上生きてませんから」 カルナ「───へ?」 ポカンと口を開けるカルナさんを余所に、 わたしは聖ちゃんを呼びに外壁横の石段を駆け下りた。 魔導砲がいつ放たれるか解らない分、急がないといけない。 聖  「あっ───みさおちゃんっ」 みさお「聖ちゃん!?あ、よかった!こっち来て!」 聖  「え───うん」 少し戸惑う聖ちゃんの手を引いて、駆け下りた石段を再び登る。 外壁の上まで昇るとその遠くの景色をしっかりと見てから、聖ちゃんに全てを話す。 聖  「魔導砲───」 みさお「うん……その、正直対抗出来るだなんて思ってないけど……」 カルナ「まあ、やるしかないなら全力出し切るのが熱い魂ってものだろ。     俺はやる。ひとりでもやるぞ」 みさお「……あの。もしかしてカルナさん、熱い人ですか?」 カルナ「うん?よく解ったな、確かに俺の能力は炎だが」 みさお「あ、いえ……そういう意味じゃなくて……」 ビギンッ─── 三人 『───!!』 戦慄が走った。 いや───空気が凍った、と言えばいいのか。 そこから確信に至るまでは、とても速かった。 魔導砲が放たれる。 それは絶対に間違い無いと言い切れた。 現に───遙か遠くから、こちらに向かって飛んでくる光を見たのだ。 【ケース24:未来悠介/その速さは一線を画し、困惑人は絶叫する】 ───……。 悠介  「あ」 ゴブリン「!?」 奴隷都市を出た俺を待っていたのは、ゴブリンとの邂逅だった。 ゴブリン「ギャッ───ギャーーーーーッ!!!!」 しかし……例の如く漂流教室の登場人物のような恐怖の叫びを上げるモンスターに、 些か呆れを隠せないでいる。 ゴブリン「ギャーーーッ!!!!」 悠介  「あっ───コラ待て!」 ゴブリンは逃げ出した!! しかも相変わらずの足の速さ───だが!! 悠介 「逃がすかぁああああああっ!!!!!!」 今度という今度は逃がさん!! 俺は『足が速くなる薬』を創造し、それを一気に飲み下した!! 悠介 「韋駄天走法(カルルイス)───”!!」 その様は、さながら玄丈の如く。 即座に足が速くなった俺は───ドグシャバキベキゴロゴロズシャーーーアァアア!!!! 悠介 「ギャーーーーーッ!!!!」 足をスカらせ、盛大にコケた。 は、速くなりすぎだ馬鹿……!! しかもその間にも凄まじい速さで小さくなってゆくゴブリン。 ありゃあ……メタルスライムも追い越せる速さだぞ、絶対……。 悠介 「はぁ〜ぁ……今飲んだ薬の効果を打ち消す水が出ます……」 創造した水を飲み干して、韋駄天の効果を消すついでに喉を潤す。 溜め息ひとつ、体を起こして空を見上げた。 悠介 「………」 で、ふと。 思い当たるものを感じてバックパックを出した。 悠介 「………」 手にしたのは黄竜王シュバルドラインの黄竜珠。 手の平サイズの黄金石をシゲシゲと見て、ひとまずバックパックを収納した。 悠介 「これは───なんの効果があるんだろうな」 試しに適当な木の枝を拾い、振るってみる───が、戦斧石のように光ったりはしない。 身体的になにかがあるってわけでもなさそうだ。 悠介 「…………?」 こう言うのも贅沢な気がするが、あれだけ苦労して『ただの珠』ってのは勘弁してほしい。 今まで、いい意味で期待を裏切ったこの世界だ、今度もなにか素晴らしいものなら─── いや待てよ? 悠介 「───竜の珠よ!我が身を竜に変えたまえ!!ドラゴラム!!」 ………………。 悠介 「出来るわけねぇよなぁ……」 わざわざ叫んだ俺が馬鹿だった。 じゃあなんなんだ……? 悠介 「あ───もしかして掲げて呼べば、いつでもドラゴンと戦えるとか」 ……や、まさかなぁ。 悠介 「ドラゴンさん!!カァアアムヒァアアーーーーーッ!!!!」 でも試しに珠を天に掲げて叫んでみました。 ………………だが、来る筈もない。 悠介 「………………まあ、そりゃそうだ」 大体本当に来たら今度こそ死ねるし───ゴォオオオオオオオッ…………!!!! 悠介 「ってギャア来たぁああーーーっ!!!!」 遠くの空から風を切り、一直線に俺に向かってくる飛竜を目にして絶叫。 嗚呼神様……俺、今日ほど自分が馬鹿だったと思った日は絶対に無いと思います……。 【ケース25:簾翁みさお/守れ!子供達の楽園!】 カルナ「───来たぞ!弾き返せなんて言わない!持ちこたえてくれ!!」 みさお「アイアイサーッ!!」 聖  「は、はいっ!!」 光の速度はまさしく光。 遠くにあった筈のその光は既に目前まで迫っている。 カルナさんはそれを目に留めて、指をパチンと鳴らして種火を作った。 カルナ「“着火”(イグニス)!!ヴォルカニックブレイザァーーッ!!」 みさお「我が身を神魔の刀として紡ぎ出す───アルファレイドカタストロファーッ!!」 聖  「───……」 わたしとカルナさんがお互いに全力の攻撃を放つ中、 聖ちゃんは目を閉じて、胸の前で手を握り合わせた。 みさお「聖ちゃん!?なにを───うあっ!?」 疑問を叫んだ途端、目の前で火花が弾け飛んだ。 カルナ「───!っ……くはっ……!や、やっぱ甘かったか……!!」 みさお「う、うああ……!!」 魔導砲はわたしとカルナさんの全力を受け止めて、それでもズンズンと進んでくる。 勢いをほんの少し抑えるだけで精一杯だ。 だったら───聖ちゃんが手伝ってくれればなんとかなるじゃ───!? みさお「ひ、聖ちゃん……っ……!!早く、なにか……波動系の月操力をっ……!!」 聖  「───……」 訴えかけるも、聖ちゃんは目を閉じたままだ。 まさか怯えてしまっているんじゃ───と思った。 でも、その思った次の瞬間には自分が馬鹿だったと痛感した。 聖  「“Pacify(鎮め)───”!!」 そう───それは聖ちゃんの『静沈の神』としての力と、月清力を合わせた力。 開かれた瞳と、前に広げられた手が、 目の前に輝く強大な光の『力』を───完全に鎮めた。 みさお「───!!カルナさんっ!今ッ!!」 カルナ「ああっ!!消えろォッ!!」 ビジュンッ……バッシャァアンッ!! 勢いが無くなり、『在るだけ』となった光をカルナさんとともに破壊する。 みさお「はっ……は、は……」 カルナ「くあっ……」 わたしもカルナさんも全力だった。 流石に全力放出のしっぱなしっていうのは初めての体験で、わたしはすごく疲弊していた。 それは───カルナさんも同じだったらしい。 そんな中で、きっと一番無茶な力の解放をしたであろう聖ちゃんは…… ───その場に、倒れてしまった。 みさお「あっ……ひ、聖ちゃ……っ!!」 ……当然だ。 既に神としてではなく家系の子として産まれ、 その身に死神の血まで流れている状態で『神の力』のみを全力で使ったんだ。 その反動はきっと、想像を絶する苦痛の筈だ。 わたしは能力の突然的な大解放に眩暈を起こしながらも、聖ちゃんに歩み寄った。 どこか寝室で寝かせようと思ったからだ。 ……だっていうのに。 カルナ「───!!なっ……」 その、無情なる第二撃は、あっさりと放たれた───……。 みさお「っ……どうして……?どうしてそんな、酷いことが出来るんですか……!?     大人だってだけでそんなに偉いんですか……!?     行き場の無い子供を殺してまで手に入れたいものって……なんなんですかぁっ!」 自然に涙がこぼれた。 とても悔しかったから。 だって、こんなの間違ってる。 王様っていうのは弱い人の味方じゃないのだろうか。 王様っていうのは、自分に利用価値のあるものしか守らないものなのだろうか。 ……悔しい。 悔しい悔しい悔しい……!! どうして……!どうしてそんな人として最低の王様なんかに、 たくさんの未来が消されなきゃいけないんだ───!! みさお「こ、のっ───!!」 迫る光をガンとばす。 お行儀良くなんてしてられない。 だって、そんな王様になんか負けたくない。 負けを認めるのも嫌だ。 だったら───消滅するその寸前……ううん、消滅したって抗うべきだ!! みさお「っ……」 でも……怖かった。 だって、いくら刀の中で長い時を生きてきたとしても……わたしもまだ子供なのだ。 辛い時には助けてもらいたいし、誰かにだって甘えたい。 でも───助けてくれる人も、甘えさせてくれる人も傍に居ない。 『自分を信じてくれる』と言ったあの人は、この世界には居ないのだ─── みさお「っ……!あっ……彰衛門……さん……!怖いよぅ……!!」 涙に濡れたその景色。 その滲む世界さえも、光が乱反射するかのように迫り来る。 ……手を翳して、集中した。 でも───自分でも呆れた。 『もう自分の中に、力なんてこれっぽっちも残ってなかった』のだから。 瞬時にわたしを包んだのは『絶望』の二文字。 みさお「たす……たすけて……っ……───誰か……助けてよぅ……!」 死ぬのが怖いって感じたのはこれで二度目。 自分を貫き、ブラッドリアさんに『強くあれ』と言われたあの時以来。 その時自分に救いがあっただろうか、と考えて……流れる涙は勢いを強めた。 きっとそれで終わり。 わたしの人生も、救う筈だった彰衛門さんの命も……それで終わるんだろう。 ただその場に、悔しさだけを残して───
「“───神槍、是総てを無限と穿つ(グングニル)”」
───でも……声が聞こえた。 みさお「え───?」 風を切るような風圧とともに光の前に現れたその影は、 その光以上に眩く鋭い光を以って───ガォオオオオオオォォォォン!!!! みさお「ひうっ───!?」 三人がかりでやっと消せたその光を押し返すばかりか、 光を裂き貫きながら、遠くの空へと飛翔するだけの光を放ってみせ、城を救ったのだ。 みさお「っ……!?」 わたしは訳が解らないままにゴシゴシと目を擦って、突然現れた存在を視界に収めた。 悠介 「……よっ」 ───がーん、なんて音が頭の中で響いた。 だってその人は、人がとんでもなく絶望感を抱いていたっていうのに、 暢気に飄々と笑いやがったのだ。 しかもそれ以上に驚いたことは、その人物が跨っている存在。 ……見間違えるなんて馬鹿はしない。 それは、濃い紫色をした飛竜(ワイバーン)だった。 みさお「な、あ……う、え……?」 ああもう、悔しかったり訳が解らなかったり、 驚いたり安堵したりで、頭の中が纏まってくれない。 それでも拭った筈の目からはポロポロと涙がこぼれて……結局。 みさお「うぐっ……う、うあぁああん……」 ……わたしはまた、泣いてしまったのだ─── Next Menu back