───UnlimitedBlackOrder-No.14時を経て発動するアレルギッシュ───
【ケース38:未来悠介/カニバリズマー】 ───……ズボァッ!! カルナ「うわぁっ!?」 ブラックホールから出てきた俺は、なんとも素晴らしいお迎えの言葉を頂いた。 ちなみに言うと、ディルゼイルなら黄竜珠に入ってもらってる。 悠介 「いきなり『うわぁ』は無いと思うんだが……」 カルナ「黒い穴がいきなり現れて、しかも人が出て来りゃ驚くわ!」 そうかも。 悠介 「まあそれは置いておくとして。お前さ、棒人間って知ってるか?」 カルナ「え?なんでそれを……って、どっかで会ったのか?」 悠介 「一応。あんな謎の生命体が地界に居たことがあるなんて初耳だった」 カルナ「俺としてはドラゴンとフェンリルを倒す地界人が居る方がどうかしてると思うが」 悠介 「一息で言うなよ……。     こっちだって命懸けだったってことに変わりはないんだから」 カルナ「命懸けでも倒せないものは倒せないだろが……」 悠介 「いやはやいちいちもっとも。だがな、七草。     逃げられないと解ったら戦うしかないだろ?     ちなみに俺は戦いたくて戦ったわけじゃないのでそこんとこよろしく」 カルナ「……ダンジョン内のイベント戦闘直前でセーブしてしまい、     しかもそのダンジョンがザコ敵が現れずに外にも出れない場所で、     回復アイテムも尽きていて絶望的状況に苦しむレベル不足の冒険者の如くか」 悠介 「喩えが長いけど、一番しっくりくるよ……」 強制バトルほど嫌なものは無いと思う。 それが最近のRPGの嫌なところだ。 RPGというよりは会話だけで物語が進んで、 行けと言われたダンジョンが無意味だと思えるくらいに謎解きばっかりで嫌になる。 時間稼ぎたいなら、会話よりむしろストーリーを増やすべきだ。 とは言ってもあっちへ行けこっちへ行け、あの爺さんの場所まで戻れとかそういうのは×。 話ばっかりのRPGほど疲れるものは無いと思うのは基本で、 行ったことのある場所へ何度も向かわせるRPGはストレスを溜める。 特に最近のRPGはフィールド画面が3Dになっていて、 マップは嫌になるくらいに広いくせにキャラクターの足が極端に遅い。 ようやく手に入れた乗り物でさえ究極に遅く、 遅いくせにとにかく偉そうな音楽がさらにストレスを増加させる。 ハッキリ言うとオンラインゲームのようにひとつのイベントに時間がかかり、 好きな時にパッとやめられないようなゲームでは、 キャラの走るスピードは速くするべきである。 ログアウトに30秒くらいかかる某ネットRPGは特に。 妙な紋章みたいなものは要らんから、パーフェクトハゲにしなさい。 カルナ「気づいて無いと思うが、口に出てるぞ?まったくもって同意見だけど」 悠介 「うお……」 気づかなかった……。 カルナ「それで、干渉払いは出来たのか?」 悠介 「うん?ああ、一応。じゃ、これ……みさおか聖に渡してくれ」 カルナ「ああ。そのまま使い方を教えて回収させていいんだな?」 悠介 「ん、頼む。その後は───なんとかするしかないな」 カルナ「?じゃあ渡してくるから待っててくれ」 七草は軽く手を上げると踵を返して、城壁から中の方へ降りていった。 ……ほんと、なんとかしないとな。 地界に帰る方法がまるで思いつかん……。 ルーゼンは……ダメだな。 俺が地界に帰るとか言ったら、あの性格のヤツのことだ…… 絶対に付いてくるか、帰らせようとしないだろう。 となると……ぬおお、思いつかん。 悠介 「どうしたもんかなぁ……」 出る溜め息は、なんとも重苦しいものだった……。 【ケース39:簾翁みさお/フォーティーフォーソニック】 ───……。 みさお「うう……なんですか?」 聖  「………」 再び眠っていたわたしと聖ちゃんは再び起こされ、 まどろみを逃がさないように努めて話を聞く体勢を取った。 目の前にはカルナさん。 その手に握られているのはよく解らない手袋。 カルナ「起きろって。お前らの知り合いの地界人が来て、千年の寿命の回収を頼んできた」 みさお「え───あ」 ……忘れてました。 あぁあああ……なんといいますか、 この世界に来てからというもの、物忘れが激しくなったような気が……。 でも目新しいものを見ると、 別のことを忘れがちになるのは人間の人物特性のひとつですよね?……ね? みさお「え、と……それでわたしは何をしたらいいんでしょう……」 カルナ「……寝惚けてるな?あのな、千年の寿命を回収を頼まれたのはお前らだ。     そんなにボーッとしてると、回収する筈の寿命を自分で取り込んじまうぞ?」 みさお「う……ごめんなさい」 カルナ「謝られても困るが、千年の寿命が無駄になるのはもっと困るな。シャキッとしろ」 みさお「は、はいっ」 気合を入れるようにズパァーーン!!と頬を叩いた。 ……で、その直後に家系の力でこんなことするものじゃないと痛感した。 みさお「……痛すぎます……」 カルナ「あんなに勢いよくやれば当然だ。ほら、これ付けて」 みさお「……?なんですかこれ」 カルナさんに渡された手袋を、言われるままにつけてみる。 ……別に特殊能力があるとか、排撃(リジェクト)
が出来るとか、そういうことは無いらしい。 ちょっと残念です。 カルナ「地下聖堂に案内する。一緒に来てくれ」 みさお「はい。あ……聖ちゃん?」 聖  「………」 カルナ「……寝てるな。いいさ、ひとりの方が遣り易いと思う」 みさお「そうなんですか?……解りました。それじゃあ聖ちゃん、行ってくるね」 聖  「………」 返事はなかった……って、当たり前ですね。 こうしてわたしは眠る聖ちゃんを置いて、ひとり地下聖堂とやらに向かうのでした。 【ケース40:弦月聖/好き嫌いの上下。大人しい子はキレると怖い】 ───……。 声  「……行ったか?」 声  「行った行った……。じゃ、起こすぞ?」 声  「ああ」 ……? なんだろう……体が揺すられてる。 聖  「ん……う……?」 声  「起きたか?」 聖  「………」 コシコシと目を擦って、身体を起こした。 すると自分の視線の先に居るふたりの男の子。 確か、ナノスくんと……みさおちゃんが『アビディ』って呼んでたシリルって男の子。 聖   「……?」 ナノス 「目、覚めたか?」 アビディ「起きてるかー?」 アビディくんが目の前で手をひらひら動かす。 ……これはあまり好きじゃない。 馬鹿にされている感があって、あまり好きじゃない。 聖   「起きてるよ……」 ナノス 「そ、そっか。あのさ、みさおのヤツが居ない今がいいと思ってさ」 聖   「……?」 アビディ「あの……あのさ、えっと……い、いくぞ?せーのっ!」 ふたり 『将来俺のお嫁さんになってくれ!!』 聖   「いやです」 ふたり 『即答!?』 あらかじめ用意されていたように口が動いた。 だって、こんなことは過去に投影された夢の中で何度もされた。 その度にわたしは誰かをパパと重ね合わせて、その差に驚いたもので……。 途中から何を言われるのかをなんとなく感じ取っていたわたしは、 用意されていた言葉を自動的に使っていた。 アビディ「な、なんで!?俺じゃダメなのか!?」 聖   「ダメ」 アビディ「ぐあぁはぁっ!!」 ナノス 「お、俺でもか!?」 聖   「ごめんなさい」 ナノス 「はンぐぁはっ!!」 ふたりはショックを受けて、その場にパタリと倒れてしまった。 ……なにがしたいんだろう、この人たち。 アビディ「あ、あのさ……もしかして好きなヤツとか居るの……?」 聖   「え……」 ふいに、アビディくんがわたしを見てそう言った。 言われた途端にパパの顔が頭に浮かんで、多分わたしは顔を真っ赤にしたんだと思う。 アビディ「あ……あ〜あ……」 ナノス 「だめだね、これ……」 聖   「………!」 ふたりがわたしの顔を見て、ひどく納得したかのように頷いた。 それくらいに顔が赤いんだろう、今のわたしは。 アビディ「そいつ、どんなヤツ?」 ナノス 「カッコイイのか?俺より?」 聖   「う、うん……パパは、誰よりもカッコイイよ……」 ふたり 『へぇ……って───パパァッ!?』 ふたりが驚いた顔をする。 どうしたんだろう、って思う間も無く、アビディくんがわたしに詰め寄った。 アビディ「パ、パパって父親のことだよな!?パパって名前のヤツじゃないよな!?」 聖   「え……う、うん」 ナノス 「なに?聖ってファザコン?やめとけって、そんなのただの憧れなんだから。      それなら俺の嫁さんになった方が」 アビディ「なに言ってんだよ、俺がそのパパってヤツよりいい男だって証明して───」 聖   「……『ファザコン』……?『そんなの』……?『ただの憧れ』……?」 ふたり 『あ゙……』 がぢんっ、て音がわたしの頭の中に鳴り響いた。 それとともになにか、とっても頑丈だった筈のヒモみたいなものが切れてしまって…… 聖  「パパより……いい人なんて───居ないもんっ!!」 ふたり『う、わっ───うわぁああああああああっ!!!!!』 多分、わたしはキレたんだと思う。 次の瞬間には、もう記憶が飛んでいた。 【ケース41:簾翁みさお/イワノフ】 ……その聖堂は、なんの隔たりもない場所にあった。 ただ石段を降りて、ずぅっと降りて、その先にあっただけ。 聖堂、と呼ばれたそこは、明かりらしい明かりもないのに薄く明るさを持っていた。 訊けば、それはこの部屋を作る際に使われた石が、発光魔力を持っていたのだとか。 みさお「…………」 一言で言うなら神秘的な場所。 それ以外には『綺麗』だとかしか言えないような場所だった。 光の粒子がフワフワと漂っていて、その先───部屋の中心には、 粒子を掻き集めて固まりにしたような大きな光が、 樹の枝のようなものに囲まれるようにして存在していた。 それが……『千年の寿命』なのだという。 カルナ「さ、みさお」 みさお「は、はい……」 手袋の使い方は石段を降りながら聞いた。 手袋の甲にあるスイッチを押して、光を両手で掬い上げるようにそっと持てばいい。 それだけなんだ、失敗する要素なんて何ひとつ無い。 みさお「………」 手袋の甲にあるスイッチを押す……と、その途端に手の平にある宝玉がカァと光った。 少しびっくり……したけど、深呼吸をすると、ゆっくりと光へと手を伸ばした。 みさお「わぁ……」 光は暖かかった。 まるで産まれたばかりの赤ん坊を抱いているような感覚が、手袋を通して伝わってくる。 けれどそれも少しだけ。 光はすぐに手袋に吸収されて、この場から消えた。 みさお「………」 赤ん坊なんて抱いたことありませんけど、でもなんとなくそんな暖かさでした。 うん、貴重な体験です。 みさお「戻りましょうか」 カルナ「ああ。……なんだか上の方が騒がしい。なにかあったのかもしれない」 みさお「そうなんですか?───あ、確かに……」 上の方からワヤワヤと喧噪が聞こえる。 悲鳴にも似たものも聞こえる分、急いだ方がいいかもしれない。 みさお「急ぎましょう!」 カルナ「ああっ!」 カルナさんはそう言うと、素早くタンタンと石段を上がって行ってしまう。 ……うわぁ、速いですね……。 声  「お、おわぁああーーーっ!!!」 ……で、カルナさんの姿が視界から消えたのちに、カルナさんの驚愕の声を聞いた。 なにごとですか……? 【ケース42:カルナ=ナナクサ/カタルシス・デイ】 ───それはなんと言い表せばいい事態だったのか。 ひとりの少女が、逃げ惑うふたりの男を追っている。 ああ、そんなものは普通に聞けば『追いかけっこでもしてるんだろう』と思うだろう。 だが見ると聞くでは大いに違う。 少女の素早さは人のソレを超えていた。 ナノス「あわぁああーーーーーーっ!!!!た、たすけてーーっ!!」 シリル「ひえぇええええっ!!!!」 逃げてるふたりはナノスとシリル。 で、追ってる少女は……聖だった。 聖  「にうぅううーーーっ!!!」 ナノス「や、やめてっ……!ミドリダケだけはやめてくれぇえええっ!!!!」 シリル「ケレット草は嫌だぁあああああっ!!!!」 で、ふたりを追っている聖だが……何故かミドリダケとケレット草を持って走っていた。 それはふたりが苦手なものだ。 食べるとアレルギー反応を起こしていたものだった筈だが……なにやってるんだ? カルナ「ふたりともっ!どうしたんだっ!?」 ナノス「え───あっ!カルナ兄ちゃん!」 シリル「なんか知らないけど、話してたら聖が怒ったんだ!     だから眠らせようとポリットを食べさせたら───!!」 聖  「にうっ!!」 がばしっ!! シリル「うわっ!?う、わ、わぁああああああっ!!!」 聖  「にうぅううう……!!」 ぐりぐりぐりぐり……がぼっ!! シリル「うぐぐっ!むぐぅううううううっ!!!───……」 がくっ。 あ、死んだ……じゃなくて気絶した。 そうなんだよな……シリルってどうしてか、ケレット草を食うと気絶するんだよな……。 ナノス「あ、あわわわわ……!!」 聖  「にう……」 ナノス「うわぁあああっ!!」 ギラリと自分を見た聖に恐怖したのか、ナノスが一目散に逃げ出す。 だがそれを追う聖の速度は尋常ではなかった。 ガシィッ!!ドサッ!! ナノス「うわっ!!」 ナノスはあっさりと捕まり、地面に倒された。 聖  「にぅううーーーーっ!!!」 ナノス「うわぁああああああああっ!!!!」 ……南無。 ナノスは口の中にミドリダケを捻り込まれ、痙攣を始めた。 ミドリダケを食うと痙攣するのがナノスのアレルギー症状だが…… カルナ「何処で知ったんだ……?」 謎は深まるばかりだった。 みさお「どうしたんですかっ!?」 と、そんな時、地下からみさおが上がってきた。 丁度いい……みさおなら何か知っているかもしれない。 カルナ「なぁみさ───」 みさお「キャアアーーーーッ!!?」 カルナ「うおっ!?」 絶叫……というか悲鳴。 変わり果てた聖を見たみさおは、それはもう驚き叫んでいた。 みさお「カ、カカカカルナさん!聖ちゃんにレタス食べさせましたね!?」 カルナ「レタス?……ポリットのことか?」 みさお「ポリット!?なんですかそれ!レタスです!」 カルナ「お、落ち着けよ。空界じゃレタスのことをポリットって言うんだ。     で……そのポリットならナノスが食べさせちまったらしい」 みさお「───……」 その顔が、一瞬にして絶望に飲まれる。 みさお「ひ、聖ちゃんは───聖ちゃんは適量以上のレタスを食べると、     ああして暴走するんですよ!!」 カルナ「なっ───なななんだそりゃあ!!」 レタスで暴走!?どういう人種だよ!! みさお「今思い出しても恐ろしい……!     紅葉刀閃流道場で異翔転移を使って未来から取り寄せたレタス……!     それを食べた聖ちゃんの変貌……!!     わ、わたしもう、グリーンピースなんて食べたくありませんよ……!?」 カルナ「む。好き嫌いは良くないぞ?」 みさお「そうじゃなくて!聖ちゃんの暴走は、食べる本人ですら知らない     『アレルギー症状』を引き出す食べ物を無理矢理食べさせるんですよ!」 カルナ「───なにぃ!?」 戦慄が走った。 まさか───まさかあの少女は、俺の苦手なアレまで出すのか───!? ……とか思いつつ、何気なく見やった少女の手には、蟹の身とグリーンピース。 カルナ&みさお『キィイイーーヤァアアアーーーッ!!!!!』 もはや絶望的だった。 俺は瞬時に逃げ出し、何故か動こうとしないみさおの手を引いて逃げようとした。 ───が。 今思えば、きっとそれがいけなかったのだろう。 そう……動いたこと自体がいけなかった。 聖  「にうーーーーっ!!!」 カルナ「えっ───オワァアアアーーーーッ!!!」 聖は真っ先に俺へと突っ込み、信じられないくらいの力で俺を地面に倒れさせた。 やがて─── カルナ「ぐわぁあああっ!!や、やめろ!蟹の身だけはダメなんだ!!     食べると昔っから悪寒と吐き気が───ぎっ……ぎぃいやぁあああああっ!!!」 目の前に無情の悪魔が居た。 抵抗も虚しく、俺の口内に捻り込まれる蟹の身が俺の体の自由を奪ってゆく。 ぐおお……ダメだ……キ、気持ち悪ぃいい……!!! み、みさお……ヘルプみさお……って、逃げてるし……!! 【ケース43:未来悠介/待機する人】 悠介 「……何事だ?」 城の中が凄まじく騒がしい。 ギャーとかキャーとかいう叫びが断続的に耳に届く。 城壁から覗いてみてはいるのだが、 騒ぎが聞こえる場所が丁度影になっていて、何が起きているのか解らない。 だが───何も動かなかった景色から、ひとつの人影が飛び出した。 それはこちらへと向かって走ってくる……みさおだった。 みさお「あっ……は、はぁっ……悠介さぁあーーーーんっ!!!」 叫ぶまでもなく声が聞こえる場所で、それでもみさおは叫んだ。 それだけの大事があったのか、と思いきや─── 聖  「にぅうーーーっ!!!」 悠介 「ぎゃあああーーーーーっ!!!」 遠くからみさおを追って走ってくるその姿を見て、叫ばずには居られない状況が確立した。 そう……かつて俺も一度だけ、あの聖を見たことだあった。 それは過去に照らし合わせたメルティアの夢……。 その中で、彰利が作ったレタス極盛りチャーハンを食った聖は……暴走。 俺と彰利と浅美と篠瀬(浅美が気絶したために意識交換)は地獄を見たのだ。 ───そして今。 その悪夢がみさお(みさおが気絶したら次は俺)を目指して走ってきている。 悠介 「えーとえーと───!!」 みさお「悠介さん!キャベツ!キャベツです!早く!」 悠介 「お、おおおおうっ!!キャベツが出ますっ!!」 ポムッ。 キャベツが我が手に創造される。 俺はそれを手に一気に聖の懐へと潜り込み─── その口へと、千切ったキャベツを捻り込んだ!! 聖  「!!」 ───……ドサッ。 聖、停止……。 悠介 「はぁ……口にキャベツ入れただけで停止するなよな……」 みさお「この際それは言いっこ無しです。助かったんだからいいじゃないですか……」 悠介 「……だな。で、訊くまでもないと思うけど、エデンの中は……」 みさお「……ええ、ほんと訊くまでもないと思います」 悠介 「やっぱりか……」 みさお「やっぱりです……」 エデンの中がかなり心配だが…… 悠介 「なぁみさお、千年の寿命は手に入れたのか?」 みさお「え?あ……はい、この手袋の中に入ってます」 悠介 「そか。じゃ……逃げるか」 みさお「えぇっ!?救助しないんですか!?」 悠介 「ハッキリ言って俺はファンタジーの『イベント』にはまるで興味無い。     ファンタジーの代名詞は『剣と魔法』だろ?     固定概念に縛られるつもりはないが、俺もそう思ってるものは仕方が無い。     第一、今回のこれは聖にレタスを食わせたエデンのやつらの落ち度だろ」 みさお「う……的確ですね」 悠介 「解ったらほら、こっち来い。ディル、いいか?」 聖を担いで、みさおを手招いてからディルゼイルに訊ねる。 もちろん『乗せてもいいか』という意味だが。 ディル『王の願いならばどうとでも取ろう。乗るがいい、小娘』 悠介 「……お前。なんでもないように振る舞いつつもツッコミどころ満載なのな」 ディル『ツッコミ?よく解らぬな』 悠介 「……ああ、それでいい。じゃ、行くか」 ディルゼイルの背に乗って、みさおに手を伸ばした───んだけど。 そのみさおさんが怯えた様子で俺とディルゼイルを見比べている。 みさお「……乗ってもいいんですか?」 悠介 「何言ってんだ、ちゃんと許可も得たんだから遠慮せず乗れ」 みさお「は、はあ……でもその、悠介さん?わたしにはこのドラゴンさん、     グルルとかグゥとか言ってたようにしか聞こえなかったんですけど」 悠介 「ドラゴンじゃない、ワイバーンだ」 みさお「いえ、そういう問題じゃなくて……」 悠介 「ダメだぞみさお。ファンタジーではモンスターの種族判断を誤ると死に繋がるぞ」 ディル『私は王を殺す気はないが?』 悠介 「そういう意味じゃなくて……ああもう、ほら乗った乗った」 みさお「え?あ、ひゃあっ!」 いつまで経っても乗らないみさおの手を引いて、半ば強引に乗らせた。 みさおは身を硬くして縮みこませたが、無視してディルゼイルにGOサイン。 ディルゼイルはどこか不機嫌そうに飛翼をはためかせると、空へと飛ぶのだった。 みさお「う、わ、わわ……!と、飛んでますよ!?」 悠介 「飛竜が飛ばなくてどうする……。大体お前、月空力で飛べるだろ」 みさお「自分で飛ぶのと竜に乗るのと、どれだけの差があると思ってますか」 悠介 「天と地」 みさお「……解ってるなら訊かないでください」 悠介 「お前の意見を聞きたかっただけだ。気にするな」 空を飛ぶ。 そんなこと、ずっと無理だろうとか思ってたが……。 およそ自分で空を飛ぶようになるより、こっちの方がずっと貴重だと思う。 みさお「うわぁ……!!」 みさおが空からみる空界───アルマデルの景色に息を漏らす。 真っ青な空に澄んだ空気、心地よい風。 これに文句を言う地界人など存在しないだろう。 どれも、地界では味わえないものばかりだ。 みさお「聖ちゃん聖ちゃん!起きないと損だよ!?ほら!凄いよ!?」 聖  「ん……んう……」 みさお「んう、じゃなくて起きてっ!」 みさお、奮闘……とは、ちと違うか。 どちらにしても寝てる人を乱暴に起こすのはどうかと思う。 みさお「あ───そうでした。     悠介さん、何処に向かってるんですか?あとはもう地界に帰るだけですよね?」 悠介 「ああ。適当に飛んでもらってるだけだぞ?」 みさお「え……?あ、ああ、散歩ですよね?空界の景色を眺めておこう、とか」 悠介 「いや。むしろ帰る方法があるなら是非教えてくれ。俺には解らん」 みさお「えぇええええええっ!!!?」 絶叫。 聴覚のいいディルゼイルがその声に振り向いて、ギロリとみさおを睨んだ。 みさお「ひきゅっ!?」 結果、みさおは突然チョークスリーパーをされた少女のような声を出して固まった。 そりゃそうだ、飛竜にガン飛ばされれば誰でもビビる。 悠介 「さて……どうしたもんかな。みさおは空界に知り合いでも居ないのか?」 みさお「あ、あああ……あのエデンの人たちと、     アントエンハンスの鍛冶屋さんくらいですよ……」 悠介 「む。そか……」 震える声を出すみさおの言葉に落胆。 まいった……帰る手段が無い。 ヤバイ……これはヤバイぞ? 悠介 「ルーゼンに頼んでみるか……?あぁ〜〜……でもなぁ……」 彼奴に会うのは危険だと、身体が危険信号発信してるんだよな……。 ……よし、ルーゼンに会いに行くという案は却下だ。 じゃあどうするか……だよな。 ふむ…… 悠介 「ディル、誰か時空干渉能力を持ってる人物、知らないか?」 ディル『ルーゼン=ラグラ───』 悠介 「悪い、ルーゼン以外で」 ディル『……そういうことは先に言うものだぞ、王』 悠介 「いきなりルーゼンの名前が出されるとは思ってなかったんだよ……」 ディル『ふむ』 思考を巡らせるわけでもないのだろう、 ただ間を得るために小さく息を吐いたディルゼイルは、候補をいくつか挙げていった。 が、そのどれもが変わり者らしく、話が通じるようなヤツらではないらしい。 現在時空干渉を使える空界人は三人。(ルーゼンは度外視) フォルグリム、チェルシートン、フルマリア。 その内のチェルシートンとフルマリアは魔術書無しでは使用不可。 唯一通常に扱えるのがフォルグリム……つまりリヴァイアらしい。 悠介 「はぁ……でもその肝心のリヴァイアからなんの連絡もないんだよなぁ……。     こうなりゃあれか?助手が居たとしたら、そいつに───え?」 助手に……頼む? 助手……付き人…………ランス。 悠介 「あっ───あぁあああっ!!!」 居た!リヴァイアと関係があって、しかも付き人っていう男が! リヴァイアの工房の画面越しに何度か会ったことがある! ていうか───そうか!この世界のリヴァイアの工房に行けば、 ノックの回数で鈴訊庵のドアに繋がる筈だ! 悠介 「ディル!リヴァイア=ゼロ=フォルグリムの工房が何処にあるか知ってるか!?」 ディル『愚問だな。そこへ行けばいいのか?』 悠介 「ああ。そこに居る人物に用がある」 ディル『承知───!』 悠介 「あ」 来た。 ディルゼイルが『承知』と言ったら、絶対にアレだ。 悠介 「みさお!俺の体に掴まれ!早く!」 みさお「え?あ、は、はいっ!!」 きゅむっ───ゴオッ!!! みさお「ひえぇええええっ!!!!?」 悠介 「くあぁああああっ!!!」 みさおが俺に抱きつくのとほぼ同時。 ディルゼイルは風を切り、なおもスピードを上げてゆく。 俺は聖を抱きかかえるようにして手綱を握り、 みさおはただ一心に、振り落とされないように俺にしがみついている。 悠介 「だぁあっ!!ディル───ディル!もっとゆっくり───!!」 ディル『耐えよ!直に着く!』 悠介 「これで着かなかったら泣くわぁぁあああっ!!!」 やっぱり慣れん!! この風圧すっげぇ苦手!速すぎ!! 止め───止めてくれぇええええええっ!!! ───……。 ォオオオオオオ───バサァッ!! ディル『……着いたぞ、王よ』 悠介 「……は、はは……はあ〜ぁぁ……」 みさお「い、生きてます……」 ディル『おかしなことを。空を飛ぶだけで死ぬ筈はあるまい』 それだけ怖かったってことだろが……。 ま、まあ……一応着いたということで……。 悠介 「みさお、聖、降りるぞ……」 みさお「は、はいぃ……」 聖を創造した長い布で背中に括りつけて、 足がガクガクと震えているみさおを抱き抱えるようにして降りた。 その先に───人が寄り付かないような高い丘と、大きな屋敷のようなものがあった。 悠介 「……こりゃまたヘンピな場所に……」 ディル『魔導術師とはそういうものだ。では、私は黄竜珠に入っているぞ』 悠介 「へ?あ───」 何かを言うより早く、ディルゼイルは俺が首に下げている黄竜珠の中に消えてしまった。 ……速いな、オイ。 悠介 「……よし、気を取り直して行くか」 みさお「はい」 聖  「………すぅ」 眠っている聖に苦笑しながら、その屋敷の扉を開け放った。 てっきりなにかあるのかと思ったが、その扉は簡単に開いた。 悠介 「……無用心だな」 みさお「そうですね……強盗でも入ったら大変です」 声  「そうでもありませんよ」 悠介 「───!?」 みさお「誰っ……!?」 聞こえた声に、瞬時に戦闘態勢を取る───が。 薄暗い屋敷の奥から現れたのは、何処かで見たことのある顔だった。 悠介 「あんた……ランス、だったよな?」 ランス「ええ。ランス=ウィールドマイヤ。リヴァイアさんの付き人をしている者です」 ランスは人懐っこそうな笑顔をして、怪しむこともなく『こちらへ』と促した。 ランス「元より警戒は必要ありませんよ。リヴァイアさんから、     ここに貴方がたが来るようなら工房に通すようにと言われてますから」 悠介 「……そっか」 警戒してることなんてお見通しらしい。 こりゃまいった、そういう素振りは殺していた筈だったんだが。 悠介 「悪かった、案内してくれ」 ランス「言われなくても、元よりそのつもりですよ」 悠介 「………」 あ、なんとなくだけど……。 みさお(このランスさん、口癖は絶対に『元より』ですよね) 悠介 (……やっぱそうだよな?) 俺が思っていたことをみさおが言う。 俺はそれに力強く頷いて、みさおは少し漏れそうになった笑いを噛み締めた。 ランス「さて───先に言っておいた方がいいと思うので言いますが」 みさお(わっ……!?き、聞こえちゃいましたかね……) 悠介 (知らんが) ランス「現在、地界のリヴァイアさんの工房へ続くドアが壊れていまして。     ですから元より、この工房から地界の工房へ戻ることは出来ませんよ」 悠介 「な、なんだってぇーーーっ!!?」 みさお「え───ここから帰れた筈だったんですか!?」 悠介 「なにがだ!なにが原因で!?」 ランス「以前、地界の方の工房で大きな爆発が起こりまして。     その拍子にこちら側のドアが破壊されたのですよ。     向こうの方は直したようですが、こちらの方は直していないようで」 悠介 「以前って───ぐあ」 みさお「悠介さん?」 以前って……あれか? 彰利が押したあの自爆装置の……。 悠介 「ぐあぁマジか!?こんなところでしっぺ返しが来るなんて!!」 みさお「なんのことですか!?解りませんよ───っていうか落ち着いてください!」 悠介 「う、うぐぐぐぐ……!!」 過去の出来事が裏目に出ることってあるよな……。 しかもそれが、あの何気ない出来事のしっぺ返しだとは……。 彰利よ……『我が軍に栄光あれ』どころか、祖国に帰れなくしてどうすんだよ……。 悠介 「あ、あんたは直せないのか……?」 ランス「無理ですね。元より私の職業は魔導ハッカーですから。     頼むなら魔導技師に頼むべきです」 悠介 「……ちょっと待て。     じゃあなんだってリヴァイアは、俺達を工房の中に通すように言ってたんだ?」 ランス「元より自分でなんとかするつもりだったんじゃないですか?     今は無理のしすぎで倒れてますけど」 悠介 「ぐは……!」 な、なにをやってるんだあいつは……! 悠介 「解った、じゃあその魔導技師ってのを連れてくればいいんだな?     何処に居るんだ?」 ランス「ここから西に行った場所に、腕のいい魔導技師が居ます。     ですが何日か前から、小屋へと続く道を塞いでいるモンスターが居まして。     彼は小屋から出られずに困っているんですよ。     おまけに食料の蓄えもそろそろ無くなる頃かと思いますので、早急に助けないと」 悠介 「そ、そうか!そいつを連れてくればいいわけだな!?行くぞみさお!」 みさお「えぇっ!?そんな、安請け合いしていいんですか!?」 悠介 「どの道助けないと帰れないんだから仕方ないだろ!?行くぞ!」 みさお「は、はい……」 俺は聖を背負ったままみさおを促すと、そのまま外に飛び出てディルゼイルに乗って西へ。 こう言うのもなんだが、やっぱりファンタジーのこういうところは好かん……。 Next Menu back