───たわけモン道中記03/ブレードヘル&ヘヴン───
【ケース08:過去悠介/ブレードヘヴン1】 ───キィンッ!! 綺麗な音が鳴ると同時に視界が開けた。 辿り着いたそこは、いつ見ても変わらない美しい草原。 悠介 「………」 彰利 「………」 その草原を、親友と眺めた。 今まで何度だってやってきたことを、今初めて『何かのため』に眺める。 遠い昔、自分には親友が居て。 そいつとともに、今と然程変わらない馬鹿をやり合った。 そのことを今も忘れずに覚えている───いや、思い出すことが出来た。 みさお「あれ……悠介さん?」 聖  「パパ……」 黄昏が訪れようとする世界を眺める俺達に、弦月屋敷から声を掛ける存在があった。 パタパタと靴を履いて、こちらに来ようとするふたり。 けれどそれを、彰利と一緒に拒んだ。 みさお「……彰衛門さん?悠介さん?」 聖  「パパ……?」 悠介 「悪い、みさお、聖。     やらなきゃいけないことがあるから、今は近寄らないでそこに居てくれ」 彰利 「そこの縁側ででも茶ァすすっててくれ。     茶菓子があるから、それも食べててくれていい」 みさお「……は、はい」 聖  「うん……」 頷く。 けれどふたりは、茶菓子を取りに行くこともお茶を淹れに行くこともなく、 ただ縁側にちょこんと座って、草原に立つふたりの男を眺めた。 悠介 「───始めるか、親友」 彰利 「ああ、やろうか、親友」 ゆっくりと、約束の木へと歩いた。 距離なんてものはそう長くはなく、すぐにその木は目の前に存在することになる。 それを目の前にして───俺達はゆっくりと意識を沈めていった。 悠介 「今から約束を果たすよ。朋燐、お前の詩を詠おう」 鋭く、けれど静かに。 意識はゆっくりと深淵へと繋がり、その詩を包んで持ち上げてくれる。 彰利 「月永、お前の詩を借りるぜぇ〜〜っ!!」 と、そんな中。 ハワーーッ!と両手を挙げて叫んでいる馬鹿野郎が居た。 悠介 「……真面目にやれって」 彰利 「悠介こそ。ほら、儀式っぽく見えると嫌だと思うんだよ。     朋燐と月永は親友だった。それなのにマジメにやるのって変じゃないか?」 カタッ苦しいのは抜きにしようと、そいつの目は言っていた。 ……そんなの、俺だって同じ意見だ。 悠介 「じゃ、訊くけど。具体的にはどうすればカタッ苦しくなくなるんだ?」 彰利 「簡単なことよ!よいですか?まずですね……ゴニョゴニョ……」 どうせみさおと聖には聞こえないだろうに、彰利は耳打ちで話し掛けてくる。 しかもその内容ってのが、些か不安なものだった。 悠介 「……それをやるのか……?」 彰利 「押忍!」 悠介 「はぁ……お前って英語得意だったっけ……」 彰利 「全然!むしろ出来ません!!」 そう、英語だ。 英語で唱えようというのだ、この馬鹿は。 悠介 「後悔しても知らないからな、俺は」 彰利 「フッ……そういう悠介こそ、英語出来るのかね?」 悠介 「どうだか」 彰利 「む……曖昧な返事ですな。まあいいや、いきますぞ〜?」 再び意識を沈める。 一度やったことを再度やるのは面倒なことだが、 こればっかりはそんなことも言ってられない。 詩を持ち上げて、しかもそれを英語にするというのだ。 ……なんでこんなややこしいことしなきゃいけないんだ? 悠介 (けどまあ) つまらない、ってわけじゃないから。 多分それでいいんだと思う。 悠介 「───My body exists in order to make something.(思考を紡げ   意識を繋げ   異端の思考よ例外を創造れ)
」 意識が沈む。 彰利 「───My words become the poetry which makes something.(連ねるは言   連言より軌道と成す   意は創造と化し   その在り方は正に人)」 己の口から放たれる声は、どこか遠く聞こえる。 悠介 「Inconsistency becomes existence although existence is contradictory.(矛盾を抱きつつ既存を創り              既存を抱きつつ矛盾を目指せ)」 けれどもゆっくりと、自分の中に熱いものが湧き上がってくるのを感じる。 彰利 「Two persons' poetry sings much inconsistency.(無二で在りつつ無二に在らず   唯一で在りながら既に虚無)」 ……音も無く、その景色が遠くに見える夕陽に染まってゆく。 悠介 「My imagination transcends the existing thing.(枷は己の心にあり     臆せぬ思考が既存を超越る)」 沈む意識に果ては無い。 彰利 「Although there is nothing, something can surely be made.(束ねる思考は例外に堕ち   虚無なる無象は有象へ換わる)」 ゆっくりと持ち上げる詩を、一行ずつ詠ってゆく。 悠介 「Imagination is the only freedom for me.(想像は留まりを知らず 想像は無限に換わり 創造すらも無限に換える)」 向きからして見えないが、みさおも聖も『なにをしているのか』と疑問に思ってるだろう。 彰利 「Inconsistency frees an idea. Therefore, anything can be imagined.(その在り方は神が如く    越せぬ壁など我が身にあらず    我が意思こそが無限の自由)」 けど、自分達の意識は詠う度に鋭く尖ってゆく。 悠介 「Although not reached happily, I sing poetry.(生きた軌跡は至福に遠く   その思い出は黄昏へと集約せん)」 荒いわけでもなく、ただ鮮明に具現されていっている。 彰利 「If it is it, its world is surely unlimited freedom.(ならばその在り方をここに示し    無限の自由を世界と謳え)」 やがてそれを詠い終えた時、目の前にあった黄昏が黄昏に覆われた。 悠介 「“───World of nostalgia(遙かに遠き望郷の詩)”」 彰利 「“───Unlimited black order(無限を刻む真闇の魔人)”」 始まりには言。 (つい)には名を。 静かに詩を終えた俺達の前には、ただ黄昏の草原が広がっていた。 そこに、目の前にあった筈の約束の木は無い。 代わりに───ふたりの男が居た。 ……その顔を、名を……知っている。 朋燐 『……呆れてものも言えぬ。まさか異国の言葉で我らの詩を詠うなど』 その内のひとりが呆れ果てた声でそう言うと、その隣の男もその動作を同じくした。 月永 『まったくだ。己の来世がこれかと思うと、心底落胆する』 唯一違うのは、彰利を指差してモシャアと溜め息を吐いたことだ。 悠介 「……なんていうか、イメージとは違うなお前ら」 だから素直な感想をここに。 正直こいつらの性格ってもっと堅いものかと思ってた。 朋燐 『たわけ。己の全てを来世に託す馬鹿者が何処に居る。寝言は寝てから言うものだ』 悠介 「ぐあ……」 彰利 「よし悠介の前世だ間違いねぇ」 オイ。 月永 『おい来世。お前に言っておきたいことがある』 彰利 「告白?」 ボゴシャアッ!! 彰利 「ヘギョォーーーッ!!?」 あ、殴られた。 彰利 「な、ななな殴ったなぁーーっ!?オバケのクセに生意気だぞ!!」 月永 『うつけが、この世界は創造の世界だ。その力で実態を制御しているに過ぎん。     霊体であろうがどうだろうが、俺は殴ると言ったら殴る』 彰利 「あの……殴るなんて一言も言われてなかったんですけど……」 月永 『黙っていろ。そも、お前は無駄口が多すぎる。     周りのために生きるなとは言わんが、無茶も大概にしろ』 彰利 「……これが俺の生き方だ。文句を言われる筋合いはねぇぜ?」 月永 『お前の生き方?馬鹿ぬかせ。     他人が望んだ在り方の仮面を被ることの何処に、お前の意思と生き様がある。     お前は人を守れるほど強くは無い。     確固たる意思の無い存在に、どうして人が救える』 彰利 「なんですと!?」 悠介 「───」 ……今のは聞き捨てならない。 前世だろうがなんだろうが、こいつを悪く言うヤツは───!! 朋燐 『何処を見ている、たわけ』 悠介 「っ!?なんだよ……!」 朋燐 『あの男は月永に託せ。今のお前よりはまともに向かえる』 悠介 「……?」 朋燐 『お前は親友を思うあまり、彼奴に降りかかる全ての火の粉を払おうとしている。     だがそれは大いなる愚考と愚行だ。それでは折角目覚めた感情が死んでしまうぞ』 悠介 「なに……?」 朋燐 『だが、まずは礼を言う。約束を果たさせてくれたこと、心より感謝を』 悠介 「………」 訳が解らない。 こいつの性格がてんで掴めない。 叱咤したと思ったら感謝?なんなんだよこいつは。 朋燐 『俺達は詩を詠い、この世界で果てよう。だがお前らの関係は俺達と同じく危うい』 悠介 「危ういだって?」 俺と彰利がか? 朋燐 『本人が気づいていないのがそもそもだろう。     訊くが、お前は親友を信じきれているか?』 悠介 「当たり前だ」 朋燐 『……ああそうだな、だからこそ危うい。     片方が死んでしまえば、片方は堕ちてゆくだけだろう』 悠介 「なっ───なにを根拠に───」 朋燐 『忘れたか?そら、俺の隣でお前の親友と言い合っている俺の親友は、     どんな道を辿って死に果てた?』 悠介 「あ───」 そう。 それは……とても悲しい結末だったんじゃなかったか。 何もせず、ただ黄昏の草原を眺め、孤独に生きただけで終わった彼の人生は…… 決して繰り返していいようなものでは、なかったのではなかったか。 朋燐 『それが答えだ。互いを大事にするなと言っているわけではない。     見る者が見れば、お前らの親友としての在り方を羨ましくも思うだろう。     だが───だ。そんなもの、俺から見れば崩れかけの吊り橋だ。     渡ろうと思えば渡れるというのに、崩れてしまえば絶命が免れぬほどの危うさ。     しかしお前らや俺達の【友情】というものは真実深い。     事実、未来のお前は親友の死を前に腑抜けと化した。     一度は立ち直れたが、あのままその親友が記憶を消さねばどうなっていたか』 悠介 「………」 それはそうだ……あの時彰利が記憶を消さなければ、 いつかきっと、未来の俺はダメになっていただろう。 そんなこと……言われるまでもなく解ってる。 悠介 「そんなことは解ってる。それを知らないあんたじゃないだろ。     今更そんなこと言って、どうしたいんだ」 朋燐 『───お前に詩を託したい』 悠介 「……へ?」 朋燐 『なにを腑抜けた声を出している。質問に答えたというのに、それがお前の反応か』 悠介 「……ちょっと待て、どうしてそうなるんだ。話の流れってのを考えろ」 いきなり何を言い出すんだ、と続ける俺に、朋燐は溜め息を吐いた。 ……うわ、自分に似た顔に溜め息吐かれるとムカつくわ。 朋燐 『言っただろう、俺達はここで詩を詠い、やがて消える。     そうなればこの黄昏を形成するものは【詩】ではなくなる。     お前はそれを探し出して、自分の力に出来るのか?     そしてそれは、お前の親友が困っている時に間に合うと断言できるものなのか?』 悠介 「っ……嫌なヤツだなお前……!」 朋燐 『似た者は相容れぬ。俺達はその典型だろうよ、来世よ。     お前が気に入らない俺が、どうしてお前を気に入れる』 悠介 「……いちいちもっともだよ。で、どうするんだ」 こっちは殴ってやりたくて仕方が無い。 『やる』っていうなら全力で相手になる。 朋燐 『胸を貸してやる。殺す気で来い。ただし、俺も殺す気で行く』 悠介 「───上等!!」 放たれた声を聞き終えるのとほぼ同時。 俺は草原の地を蹴って拳を固めた。 創造するよりもまず、殴ってやらなきゃ気が済まないからだ。 そして俺の拳は確かに朋燐の頬を捉え───ブワァッ!! 悠介 「へっ───?」 ……俺の景色が回転して、体に強い衝撃が走った。 悠介 「げっ……は……!」 そこまでされてようやく、『投げられた』ってのが解った。 悠介 「こ、古流柔術か……!?」 頬を囮にして、家系の身体能力と鍛えた己とで、頬に全ての衝撃が走る前に腕を掴まれた。 さらにはその腕が引かれ、捻られ、気づいたら地面に叩きつけられていた。 ……口だけじゃない。 こいつ、本当に強い。 朋燐 『そら、口達者はいい。相手の技を口で理解する暇があったら立ち上がれ』 悠介 「こ、この───!」 見下した態度が気に入らない。 すぐさまに立ち上がった俺は少し開いた距離を一気に詰め、今度は蹴りを放っていた。 朋燐 『脚力はしっかりしているようだ。バランス感覚が実にいい───が』 パァンッ!! 悠介 「くわっ!?」 軸足を一気に払われ、放った蹴りの勢いに持っていかれた体は再び地面へ。 悠介 「くあぁああああっ!!」 再度起きる。 もういい、拳を当てたことに変わりは無い。 だったらもう全力だ。 悠介 「クリエイションッ……!!」 朋燐 『最初からそれでこい、たわけ』 言って、創造を開始する俺を前にして刀を創造する朋燐。 驚いたが───そうだ。 この世界は元々あいつらの世界だ。 だったら、いくら俺の中に創造の理力があろうと、優先されるのはあいつらの方。 相手は刀。 対する俺は───槍だった。 朋燐 『長い武器を選んだか。いやいや立派なことだな。     戦いというものを知っていれば、大体の輩がそうするだろう』 悠介 「……何が言いたいんだてめぇ……」 朋燐 『先に言っておく。【得物】はそれでいいのか?』 悠介 「なに……?───!!」 トン、という軽い音だった。 にも関わらず、瞬時に風を切るその姿は疾風。 本来槍で迎え撃つべき間合いなどあっさりと詰めたそいつは、 驚愕する俺を小さく笑い、真横から刀を振るってきた。 悠介 「っ───!!」 ぎぃんっ!! 鋭い音が聴覚を痺れさせる。 ───否。 痺れは聴覚だけに留まらず、得物を手にしたその両手さえも蝕んだ。 それを無視して、なによりも先に間合いを取るべく後ろに退いた。 朋燐 『そら、もう一度言ってやる。【得物】は、それでいいのか?』 悠介 「っ……」 強い。 なにがむかつくって、口の悪さと腕の良さが正比例してやがる自分の前世がむかつく。 だからそんなヤツが言う言葉を受け入れるのも癪で、俺は槍を打突に構えて閃かせた。 朋燐 『疾───』 ギンッ!! 悠介 「なっ───」 が。 弧を描くために動作が遅れる筈のそれは、無拍子とも言える槍の突きを払ってみせた。 悠介 「こ、この───!!はぁあっ!」 閃く打突は無数。 己の筋肉の限界の下あたりを行き来するくらいの力を以って、幾度と無く打突を浴びせた。 だが───その悉くが弾かれる。 馬鹿な、と思うより先に─── 相手の武器がふたつになっていることに今更気づいた自分を心の中で罵倒した。 長身であった刀などとうに消えている。 朋燐が持つそれは、一対の脇差。 それを捌き、槍の連撃を弾いてやがるのだ。 悠介 「く、この───!」 朋燐 『どうした、先ほどから『この』という言葉しか聞こえないが?』 悠介 「かっ───こ、このやろっ……!!」 ああもう頭にズガンと来た! こいつ絶対にブチのめす!! 悠介 「“───死生担う毒巨槍(アキレウス)”!!」 未来の俺の経験をイメージから弾き出し、それを槍に託して放った。 虚空から現れたそれは、ほぼ零距離と言えるくらいの間合いの中で風を切る。 だが───それが放たれるより先に後ろへ飛んだソイツは、手の中に弓を創造した。 朋燐 『───“死生を滅する不避の光弓(ディグ・アポロン)”───』 ギィンッ!! 放たれる矢は光。 槍を矢で迎え撃つなんて馬鹿げてると思った刹那、そんな思考は巨槍とともに砕かれた。 『過去の人間のくせに英語使うな』とか言いたかったが、そんな思考はそれでブッ飛んだ。 相手が俺の中に居た存在なら、それだけの知識と経験を手に入れてる道理は存在する。 ───だが驚いてなんていられない。 後ろに跳んだそいつは弓を消して、再び刀を手に地を蹴った。 手に持っていた槍をより鋭く、軽く創り換えてそれを迎えた。 バギィンッ!! 悠介 「づっ……!」 飛び散る火花は幾筋。 それでも前進を許せば負けるのは俺だと理解している。 冗談じゃない……こいつ、馬鹿みたいに強い。 朋燐 『どうした?未来の人間というのは既存に溺れすぎて己の鍛錬も満足に出来ぬか』 悠介 「くそっ───ほざけっ!!」 多分それは正しい。 事実、家系の身体能力なんかに頼らず、 しっかりと自分を高めていれば善戦くらいは望めたという確信がある。 もっとも、押されていたのはこちらの方なんだろうけど。 ああもう、なんだって俺は死の遣り取りの真っ只中で敵を褒めてんだ。 悠介 「“突き穿つ(ディグ・スラスト)”!!」 埒が開かぬと判断し、力を込めて一気に放った。 だがそれは簡単に避けられ、自分に隙をつくった。 朋燐 『うつけが』 その隙を逃す朋燐じゃない。 回転することで槍を避けた朋燐は、その遠心力とともに一振りの脇差を振るってきた。 ───ここまではいい。 悠介 「“衝撃(ショック)”!」 脇差が喉を突くか突かないかの間際に槍を弾かせた。 その衝撃に朋燐の体勢は崩れ───……え? 悠介 「脇差だけ───!?」 槍を弾かせた隣に居る筈だった姿は無い。 ただ───自分の頭の上から風を切る音と、『言ったろう、うつけが、と』という声が…… 【ケース09:弦月彰利/ブレードヘル1】 ───殺し合いはとうに100度。 弾け合う火花は何度目か。 互いが互いを殺す気で振るう凶器は、その都度互いに弾かれ、砕けては創られる。 彰利 「アァアアッ!!」 月永 『閃───!』 砕けた武器は数にして50。 弾く度に破壊され、破壊されずとも次撃で砕ける。 この世界での救いは、自分にも創造することが出来たということのみか─── 彰利 「砕けろっ───」 剣、槍、弓、ナックル、鎌、短剣───創れるものはとにかく創った。 だが、その悉くが砕け、双方が唇を噛んだ。 遣り合ってみて解る。 実力じゃあ俺が上───しかし、ヤツの攻撃はとにかく巧みだ。 振るう攻撃には必ず存在する隙というものを極力無くし、 俺が構えるよりも先に合わせてくる。 それが神業でなくてなんだというのか。 いつものようにふざけることも出来ず、 俺の仮面は既に戦うことしか出来ない仮面に変わっていた。 月永 『ふっ───』 月操力を放ったところで、それと同等の力を持った武具で破壊される。 相手はこの世界での戦い方というのを既に体で覚え、ただその通りに行動している。 なるほど、巧いわけだ。 この世界に合った戦い方をすれば、誰であろうと立ち回れるだろう。 ───つまり。 目の前の相手は、そういう事柄に長けた使い手なのだ─── 彰利 「ハァアッ!!」 月永 『砕ッ!!』 ガシャアンッ!! 彰利&月永『───……』 砕け、しかし手には既に武器。 まるで硝子細工が砕けるかのような音を立てて消えるそれは、 儚い命を瞬時に散らす弱い存在のようだった。 彰利&月永『───!』 ガギィンッ!!ギンッ!!ギヂィンッ!! そして剣戟。 火花は虚空を燃やし、連続で放たれる凶器と凶器が幾度となく火花を虚空へ飛ばす。 既に辺りは灼熱。 絶え間なく繰り返される攻防と、 それに合わせるように絶え間なく飛ぶ小さな赤が、この場の空気を散らしてゆく。 彰利 「チィイッ!!アルファレイド───」 月永 『たわけが!』 詰める間合いは刹那。 しかしそれを待っていた俺にとって、月永のその言葉などどうでもいい。 彰利 「フッ───!」 体を低くして飛び込んできたそいつに、一気に凶器を下ろした。 その速度は恐らく、自分が出せる最高の速度の攻撃だっただろう。 ───だが。 その速度が流星だとするならば、 それを避けてみせたソイツの動きは───とうに人間を越えていた。 彰利 「───!!」 背後に気配。 形振り構わず体ごと振るった武器が、振り下ろされた武器を轟音とともに破壊した。 彰利 「───っ」 月永 『チィ───!』 砕かれたのはこちらも同じ。 だが既に武器はその手にあり、休むこともないままに火花が散る。 眩暈がするくらいの火花の霧。 弾かれては破壊され、破壊されては創造され。 それでも破壊された武具は虚空に消え、地面にあるのはただ草原のみ。 彰利 「シィッ───!!」 相手の攻撃を弾くとともに剛斧を創造、投擲する。 だがそれは、同じく放たれた斧に破壊された。 ───いや、同じくどころか相手の方が早かったのだ。 巧いどころの話じゃない。 こいつは、技術で俺の先などとうに見ている。 そのバケモノめいた直感の先に見るは、果たして俺の敗北かお前の敗北か───! 彰利&月永『オォオオオオオッ!!!!』 再び合わさる武器と武器。 既に何合目になるのか。 数えることさえ馬鹿らしいほどに火花は散る。 砕かれ、砕き、創造し、破壊する。 限界を越して尚限界へ。 とうに、疲労のカバーで月操力なんて残ってない。 先ほどのアルファレイドはただのカラのエサ。 だがそのエサを使った戦法も無駄に終わった。 認めるだとか認めないだとかなんてない。 俺と向かい合うそれ以前に、こいつは既に強者だった。 彰利 「くそがっ───!」 純粋に相手が強いなんて思うのはどれくらいぶりか。 ただ相手が男であることが嬉しく思える。 月永 『焚ッ───!!』 手にしていた武器が投擲された。 それを武器で弾く───いや、弧を描いて襲い掛かるそれを前に、俺は構わず突進した。 月永 『ッ!?チィ!』 予想外の行動だったのか、月永の反応が刹那に鈍る。 その瞬間を貫けるだけの能力は自分の内にある。 ならば─── 彰利 「その隙、貰った!!」 言葉を放つより先に剣を前に。 その武器は確実に相手を貫く勢いで突き出された筈だった。 だが。 その剣に、何かが刺さることなどなかった。 彰利 「───!?」 あるのは陽炎。 幻影を突いたような何の手応えもない剣の先に、そいつは立っていた。 それをなんと喩えればいいのか。 何かの能力ではなく、ただ退いただけ。 それだけで、瞬時にあの距離を退いてみせたのだ。 ───その瞬間に悟った。    隙を出したのは。誘われていたのは俺の方だったのだ、と。 月永 『終いだ、受け取れ』 その手には既に武器。 無拍子で放たれたその槍の切っ先が、真っ直ぐに俺の心臓目掛けて放たれていた。 【ケース10:過去悠介/ブレードヘヴン2】 ───防衛本能がそうさせた。 『寒気の具現』を脳に差し込まれる直前、 俺は全力で地を蹴り横に飛ぶことで、足を斬られる程度で済んだ。 悠介 「───!が、あ……づぁ……!!」 だが深刻じゃないわけがない。 膝から先の感覚が草原に弧を描いて落ちた。 すぐに足を創造して立ち上がるが、その目の前には間合いを詰める朋燐。 ……巧すぎる。 『戦闘』というものを熟知してなけりゃ、 ここまで先読みをした攻防なんて出来るわけがない。 既に槍の間合いなど潰れてる。 振り下ろされた脇差は、確実に俺を刻むだろう。 ……冗談じゃない、自分の前世なんかに殺されてたまるか。 だったら───! 朋燐 『疾───!』 ギィンッ!! 朋燐 『───』 だったら。 癪ではあるが得物を換える他無い。 悠介 「く、あぁっ!!」 ヂュィンッ!! 朋燐 『む───』 朋燐の脇差を強引に押し退け、間合いを広げる。 手には脇差。 こいつと同じ武器を手に取ることが物凄く癪だけど、贅沢なんて言ってられない。 朋燐 『脇差二刀か。真似るなとは言わないが、果たして───』 目の前のそいつが『くっくっ』と笑う。 それは、明らかに状況を楽しんでいる者の目だった。 悠介 「どうとでも思えばいい。     ガキの頃から誰かの代わりに生きて、雷の戒めを真似てきたんだ。     今更誰に真似だとか言われようが構わない」 朋燐 『いや、実にいい。元よりこの状況は俺が望んだ通りの状況だ。     喜びこそすれ、文句などある筈が無い』 悠介 「なに───?」 朋燐 『お前に【槍】は扱いきれない。     未来のお前ならまだしも、今のお前は未来のお前を強者と思いすぎている。     そんな状態で槍を高めたところで、永遠に理想を追うだけとなろう。     だが刀剣は違う。本気で向かえば俺くらい越せぬ道理は無い。     故に───越えてゆけ。その先に、お前の望む強さがあるだろう』 悠介 「お前……」 朋燐 『さて、御託はここまでだ。全力で抗えよ、死にたくはあるまい』 その言葉がスイッチだった。 瞬時にその場に殺気が溢れ出し、肌で『危険だ』と感じた。 頭の中に叩き込まれる。 次に来るものは今までとは違うと。 飛翔から始まる武器の連撃。 その名───閃技・飛翼にして刃、疾技・交わりにて無二を砕く、 烈技・無刃にして連壊、終技・刹那にして無限。 その全てが俺の思考の中に流され、目の前のそいつは受けきってみろと笑っていた。 朋燐 『“───閃空 飛翔ニ堕ツル万物(せんぎ ひよくにしてやいば)”』 野太刀が投擲される。 それを相手から目を逸らさずに避け───だが、避けるという動作は変えようがない。 その動作自体を隙と見て疾駆する影は、明らかに人間離れした速度だった。 朋燐 『“───疾空 交差セシ白銀ノ閃(しつぎ まじわりにてむにをくだく)”』 バギィンッ!! 悠介 「つあっ───、あ……」 脇差が破壊される。 だが休む間も無く次の太刀が振るわれる。 朋燐 『“───烈空 無斬ガ故ニ砕ヲ齎ス(れつぎ むじんにしてれんかい)”』 (くろがね)が襲い掛かる。 振るわれるは刀身の峰。 振り下ろされた脇差が逆手に持たれ、まるでトンファーでも操るかのように戻ってくる。 悠介 「───!」 それをなんとか、瞬時に創造した二振りの脇差で弾いた。 だが───それは元々、俺の腕を脇差とともに弾くことが目的だったのだ。 朋燐 『“───終空 是即チ(ついぎ わがしょうがいは)───”』 悠介 「あ───」 冷たいものが、ただ自分の体を通り抜けていった。 ……解ったのはそれだけ。 気づけば───ブシャァアッ!! 悠介 「が……」 朋燐 『“───……歴戦ニテ敗北ヲ知ラズ(せつなにしてむげん)”』 通り抜けて行った朋燐の後。 ただ、俺の赤だけが……黄昏の景色に飛び散っていた。 Next Menu back