───たわけモン道中記04/長い一日の終わりに───
【ケース11:弦月彰利/ブレードヘル2】 ぞぶり、という音が聞こえた───生々しい、とても嫌な感触とともに。 肉が一気に掻き分けられ、異物が骨を砕き、心臓を穿つ音。 これで何度目か。 心臓は急所を貫かれたのかと思ってしまうほど、あっさりと運動を停止した。 彰利 「が、……ぶぐっ……」 口から血が溢れた。 意識がどんどんと削られていき、 一息でも吐けば自分は機能停止するだろうという直感が、 朦朧とする思考から弾き出された。 ───それでも、一呼吸は動けるということ。 彰利 「ッ───!」 目の前には『勝負はついた』と武器を納める月永。 ───ヒィンッ!ゾボォッ!! その最大の隙を、手に創造した槍で貫いた。 月永 『───……!?』 だが。 穿つに至ったのは左肩のみ。 この野郎、あの一瞬で狙った心臓を逸らしやがった。 彰利 「ッ……!!」 ……それで、一呼吸。 俺の体から生きるための様々なものが消えてゆく。 彰利 (これで、終わりか……) そう思った時、体が咳ととともに血を吐いた。 ───なんて愚か。 この体は……まだ咳を、血を吐けるほどの余裕があるというのに。 月永 『……大した闘争本能だ。     心臓を貫かれながらも、その機能を停止させながらも攻撃に転じるか』 そしてまた油断。 目の前のそいつは俺の行動に感心なんてしやがった。 それが油断だ。 月永 『だが───』 ヒュッ───ガキィンッ!! 彰利 「ぶ、ぐ……」 月永 『二度も同じ轍は踏まない』 打突が弾かれる。 それを読んでいたのか、相手に届きもしなかった。 彰利 「……、……」 今度こそ終わりだった。 血を吐きもせず、呼吸をすることもなく、ただ力を無くして倒れる。 倒れた筈なのにそんな音も聞こえず、心臓を回復させるイメージを弾かせようとしても、 そのイメージは砕かれた硝子のような思考の中では……固まることなどなかった。 元よりこの体も相手の体も、想像と創造になど長けていない。 ならばきっと……第一に攻撃に転じたこと自体が、敗因だったのだ─── 【ケース12:過去悠介/ブレードヘヴン3】 血が吹き出る。 肩から鎖骨を砕き、心臓に達したその斬撃はまるで悪夢。 どんな攻撃をされたのかも解らないまま、このまま死ぬのだろうか…… 悠介 「……、ふ、ざけんじゃ……」 ふたつに分かたれた心臓が、『苦しい』と血を吐く。 意識は朦朧とし、自分の意思とは関係無く体が『倒れたい』と泣き叫ぶ。 悠介 「……、……」 己の眼球はただ、自分の背後で脇差を納める存在をゆっくりと眺めた。 ……デタラメな強さだ。 考えられる限り、ここまで巧い戦いをする存在など見たことがなかった。 朋燐 『……生きているか。心臓を断たれて尚存命できるとは、大した生命力だ』 悠介 「………」 何かを言っている。 いや、ただ口を動かしているだけなのかもしれない。 ……何も聞こえない。 世界が色を無くしてゆき、自分の命がここまでなのかという事実に呆れた。 ───倒れれば楽になれる。だから、もう休ませて…… 体が泣いている。 こんな戦いが何になるのか、と。 ───休ませて、休ませて…… ……何になるのか?そんなの、俺だって知らない。 けど、倒れたら最後だってのは確かに解る。 だから……───倒れるわけにはいかない。 いかないのに……どうして倒れるわけにはいかないのか、それが解らなくなっていた。 ───倒れて、倒れて、倒れて…… だったら……もう倒れてもいいのだろうか。 休んでも、いいのだろうか……。 悠介 (……、……───) 体が傾く。 思考が働かず、ただゆっくりと倒れてゆく。 ───いや、倒れる筈だった。 だったのに……その視界の先で倒れてゆく親友を見た時─── 悠介 (───!) その理由を思い出した。 ……ああそうだ、倒れるわけにはいかない。 体が放つ泣き言も寝言も聞いてやらない。 朋燐 『……?倒れぬか。大した生命力だが───その先にどのような意味がある。     今のお前に何が出来る。動こうとすれば血を吐き、死が速まるだけだろう』 ……声が聞こえる。 喰い縛った歯がギチリと鳴って、自分の中の限界を超越させる。 だが届かない。 恐らく、自分は目の前の相手を技術的に超越することなど出来はしまい─── こいつの技術はバケモノ級だ。 俺が、未来の俺が見てきたどんなヤツとも違う戦い方を持ってる。 その戦い様は酷く美しい。 ああ、それは認めよう。 認めるけど───認めるのはそれだけだ。 敗北も敗走も認めてやらない。 だったら……最後まで足掻くだけだ。 悠介 「───」 小さく声を放った。 手には二振りの脇差。 傷を回復させることもなく、真っ直ぐに相手を見た。 朋燐 『……?馬鹿者が、死を早めるだけだぞ。     今ならば回復が間に合う。とっとと敗北を認めろ』 ……冗談じゃない。 たった今、それを認めないと誓ったのだ。 悠介 「……、は……あ……」 イメージは内に。 確かに流れ込んできたそれを、ただそれだけを強くイメージした。 ───読み込め。そして─── 喉の奥から溢れる血を、一気に吐き出してから息を吸った。 それでいい。動くための酸素さえあれば十分だ。 悠介 「───“我が意思は擬似をも越える(イミテーション・サーパッシング)
”」 思考の中からソレを読み込んだ。 技術で劣る自分がそれを真似るに至るかなど解らない。 悠介 「“四空、誓約ヨリ矛盾ヲ分カツ(人技、疾空にして蒼雷)”」 左肩など動かない。 だが、それはイメージが許さない。 鎖骨を砕かれて尚、意思でそれを動かす。 ああ、当然だ。 この身は意思と創造の塊。 体が動かせぬと泣くのであれば、意思と想像、そして創造で動かすのみ。 人体というひとつの世界が作った『誓約』を『矛盾』で破壊してゆく。 枷などは邪魔でしかない。 動くわけがない?動けるわけがない?ふざけろ、そんな枷───全て越えてゆく。 朋燐 『───』 ギリ……と左腕が動く。 肩から心臓まで斬られ、神経すらも繋がっていないものを思考とイメージで繋げる。 ああそうだな、そんなことが出来る存在は、かつての級友に言われるまでもなく化け物だ。 悠介 「“───閃空 飛翔ニ堕ツル万物(閃技 飛翼にして刃)”」 虚空から創造した野太刀を放った。 ───そいつの反応は既に神掛かり。 瞬時よりも刹那と喩えられるほどの速度を以って、それを弾いた。 悠介 「“───疾空 交差セシ白銀ノ閃(疾技 交わりにて無二を砕く)”」 動作の内、筋肉が悲鳴をあげようとも疾駆し───二振りを交差させた。 朋燐 『チ───』 ギヂィンッ!───激しい剣戟が火花を散らした。 その衝撃に、イメージで繋げた左腕から血が吹き出る。 その様はまるで壊れた配水管のようだった。 悠介 「“───烈空 無斬ガ故ニ砕ヲ齎ス(烈技 無刃にして連壊)”」 だが終わらない。 足の筋肉も腕の筋肉も自分の限界を越え、既に切れている。 だがそれをもイメージのみで繋げる。 朋燐 『───』 ガシャァンッ!!───双方の武器が同時に割れた。 朋燐の手には既に新たな脇差があった。 ───それでも。 この身は既にイメージの塊。 いくらこの世界が『詠う者』を優先させようとも、いくら想像が誰よりも速かろうとも。 その速度がイメージの塊を超越することなど─── 朋燐 『な───』 ソイツが脇差を創造したその刹那、既に腕と刀身は振るわれていた。 相手が動くより速く、思考するより早く。 悠介 「“───終空 是即チ歴戦ニテ敗北ヲ知ラズ(終技 我が生涯は刹那にして無限)”」 閃速の身体の弾きとともに対象を斬り伏せるその奥義に、 体はおろかイメージさえも悲鳴をあげる。 心臓はとうに活動を止めている。 それを、イメージと化した意思のみが支えているだけだ。 ───されど。 この身はとうの昔に意思の塊。 この身は意思により動き、我が意思は無限の自由だった。 ───ならば。 越せぬ壁など我が身に在らず───!! 朋燐 『───、!』 何かが聞こえた。 既に己の体は相手を越し、向かうべき相手は自分の背後に居た。 それに気づいた時、 背後から『がしゃん』という音と……水のようなものが草原を打つ音が聞こえた。 それは俺も同じ。 なら……ああ、案外それは幻聴で、 この水が大地を打つ音は……自分の傍から聞こえているのかもしれない。 悠介 「───、……」 声を出そうとしたつもりが血を吐いた。 既に立っていることも出来ず、本当に殺し合いをするなんて馬鹿だな……と自分を笑った。 その笑った刹那に、 自分の神経という神経、筋肉という筋肉が破裂するような感触に襲われた。 ……肉体の限界を超越した代償。 気づけば五体はとうにボロボロで、よくこれで立っていられたものだと感心した。 ───どう、という音。 俺の体はようやく訪れた休息に歓喜するかのように、倒れた俺から意識の全てを掠め取る。 まるで餓死寸前の人間が、差し出された食べ物を貪り尽くすかのような侵食。 なにを語ることも出来ず、 ただ───その視界の先で立ち上がる存在を、声の無い言葉で応援した。 【ケース13:弦月彰利/ブレードヘル3】 ───そう、それは敗因だった。 貫かれた肩を直すこともせず、愚直に槍を奔らせたそいつの敗因。 ゾボシャアッ!! 月永 『なっ───!?』 その槍を左手と腕の肉で食い、右手で槍を迸らせた。 完全なる驚愕。 手の平から肘にかけての直線を盾に使う馬鹿野郎を前に、そいつは完全に驚愕した。 ……なにを馬鹿な。 命が果てようって時に、今更腕や骨子を心配する馬鹿が何処に居るか。 ヂュゴンッ!! 月永 『───、……ア……』 放った槍はソイツの心臓を貫いた。 本来、驚愕だけでなら避けられたであろうその隙は、 ソイツの肩に空く風穴の激痛により長引いた。 それが、ヤツの敗因。 何よりもまず肩を回復させていれば、この槍に心の臓を穿たれることなど無かったろうに。 月永 『……、真実……狂っているのだな、来世……。     ああ……その生き様……まるで俺を見ている……ようだ……』 血を吐きながら、目の前のそいつは言った。 『だが、実に俺の来世らしい』と。 けど俺はそれ以上立っていられず、どう、と倒れ伏した。 左腕には槍の骨。 少しも曲げることの出来ないソレは、出来の悪いロボットじみていた。 彰利 「………」 心臓なんてとっくに止まっている。 だっていうのにここまで動けたことは、真実奇跡。 今では思考以外は動いてくれず、その思考もイメージを纏めさせてはくれない。 ……だとするなら、待っているのは確実に『死』なのだろう。 彰利 「………」 そういえば、親友はどうしたのだろうか。 もう剣戟が聞こえない。 いや、もしくは既に自分の聴覚が壊れてしまっているだけなのかもしれない。 想像と創造に長けるあいつが、自分が信じるあいつが負けるだなんて思わない。 されど、聞こえない剣戟に不安が降りてくる。 ……だというのに、もう何処も動かない体が……ただ恨めしかった。 彰利 「───、……」 ……もう何も考えられない。 もういい、休もう。 疲れているんだ、ゆっくり休めば……またすぐに、あいつと、一緒に笑ってられるさ。 彰利 「………」 だからほら、休まないと……。 この、言うこと聞けよ……。 『目を閉じたら二度と目覚めない』なんて、そんなことどうでもいい。 もう眠らせてくれ、疲れてるんだ。 彰利 「………」 ───……。 動かない筈のものが、ただひとつ動いた。 それは……『感情』。 そいつはただ死にたくないと言っている。 死んだらもう、二度と親友には会えなくなるって。 自分は黒く染まりすぎていて、白いあいつとは違う場所に堕ちるだろうからと。 ああ、それは確かにそうかもしれない。 この身が、あいつと同じ場所に行ける筈は無い。 それでも……選べるとしたら、あいつは笑って黒になるんだろう。 ……こんな、俺のために。 彰利 「……、あ……」 今一度、と……言えばいいのか。 活動を停止していた体が、少しだけ息を吹き返した。 『感情』が体に種火を作ってくれたのだ。 それでも……そんなもの、すぐに消えてしまうだろう。 第一……心臓が動いてない。 だというのに声を出し、呼吸が出来たことが奇跡だ。 声  『……もう、動くな。それ以上動けば……それこそ本当に死んでしまうぞ』 声が聞こえる。 聞こえるということは、耳が聞こえないっていうわけではないらしい。 ああ、そんなものは自分の声が耳に届いた時点で解っていた。 声  『愚直なまでに突き進むその行為……誰に似たのやら。     力任せに、ではなく……もう少し策を練って行動しろ、たわけ……』 声が遠ざかってゆく。 それとも自分の意識が遠ざかっていってるのか。 とにかく聞こえていた声は遠くに聞こえる。 声  『……負けは負けだ。お前の生き方に口を出すのは……これで最後にしよう』 ……。 声  『難しいことは言わない。ただひたすらに、その感情を大事にしろ』 ……待て。 動けるくせにトドメも刺さないのか? 声  『……生憎だが。泣いている存在を殺すほど、非道な生き方はしていなかった』 それが最後。 聞こえていた声は聞こえなくなり、そこでようやく……視界が滲んでいる理由が解った。 そっか……俺はただ…… 彰利 (……死にたく、なかったんだ……) この世界には未練がある。当然だ。 この世界は、自分が初めて築き上げられた結果なのだから。 感情も無くし、きっと何もなかった筈だった自分が、 ただひとつ願い続けた希望の、その結果なのだから。 だから泣いた。 それを『感情』の所為にするまでもなく、自分は既に悲しかったのだ。 とっても癪だ。 癪だけど……その涙がこんなにも暖かい。 仮面が涙を流すなんて、ほんとどうかしてるけど…… 彰利 (……こんな暖かさも……悪くないかな……) そう思えた。 で、思えた途端に胸に込み上げるものがあって─── 彰利 (あ……) 気づいた時には、まあその、いろいろと遅かった。 沢山あった仮面が壊されていって、その欠片が少しずつ感情に食べられていってる。 それは悪い意味じゃなくて…… 彰利 (……馬鹿か、俺) ようするに『俺』という仮面が、感情を受け入れてしまったのだ。 死にたくないだとか、もっとあいつと馬鹿をやっていたいだとか…… そんなもの、最初から感情が無ければ楽しめるわけがなかったのだ。 だったら─── 彰利 (───ああ……もっと早くに……) そう。 もっと早くに、受け入れていればよかったんだ。 そうすればリヴァイアに泣かされることなんかなかったのに。 彰利 「……、は……あ……」 肉体が感情と一体になってゆく。 『俺』の全てを司っていた仮面の大半は感情と一体化する。 俺は、自分が作った仮面が否定されなくて済んだことを、ただ安堵した。 彰利 「ぐ、う……」 自分の中で唯一生きていた『感情』は、 自分の体に生命力……というか、生き汚さを遺してくれた。 彰利 「げっ、は……!!!」 途端に激痛。 感情の無さでカバーしていた激痛が、今までとは桁違いの痛さとして襲い掛かった。 彰利 「あ、ぎ、ああ、あぁああああっ!!!!」 待て。 こんなの我慢出来ない。 気が狂う。 月操力も無くて、イメージを纏められるほど集中も出来ない。 そんな状態でどうやって生きろというのか。 折角活動を再開した心臓も、貫かれていることに変わりは無い。 早くしないと、早く、早く───!! 死ぬ、死ぬ……!死んでしまう……!! ああ、でも───自分には助かる術がもう無い。 そんなのは嫌だ、嫌だ……! 折角受け入れられたのに。 折角、作らなくても笑えると思ったのに……! どうしていつも、この世界は俺からいろんなものを奪ってゆくんだ───!! 彰利 (ちくしょう……!ちく───……あれ?) 痛みが引いてゆく。 体は……恐ろしいけど、貫かれた箇所がみるみる内に塞がってゆく。 理由がまるで解らなかったけど、 動けるようになってから立ち上がることでその意味を知った。 彰利 「ばっ───馬鹿野郎!!」 視線の先には、血を吐きながら倒れている悠介。 口から出た罵声は、その姿がてんで回復してないことに対してのものだった。 その体は一目で、誰が見たって満身創痍のくせに……ああもう、なんか頭の中で音がした。 何を、自分を治さずに俺を治して、しかも笑ってるんだあいつは───! 彰利 「こ、の……!なにやってんだよ!俺なんかより自分を治せよ!」 悠介 「……、……」 ひゅー、ひゅー、という音が聞こえた。 その音に、きっと自分は本気で怒った。 こんなになるまで戦いを強いた相手に対してじゃない。 満足に喋れもしないくせに、他人の命を優先した親友に対してだ。 そして、自分もこんな生き方をして誰かに心配をさせたのだと思うと、ほんと呆れる。 彰利 「イメージイメージ……!!」 イメージを展開させて傷を治そうとする。 が、救いである筈のその黄昏が消えてゆく。 それはつまり─── 彰利 「ば、馬鹿っ!こんなことで死んでみろ!俺は───俺はお前を一生許さないぞ!」 ……つまり、ゆっくりとその瞳から光を無くしていってるそいつが、死ぬということ…… 彰利 「くそっ!慌てるな……!まだ、まだ間に合う……!イメージを……!」 イメージを組み立ててゆく。 だが───さっきも理解しただろう。 俺の体は想像と創造には向いていない。 だっていうのに、それに特科している人物が息を小さくしてゆく。 彰利 「ちくしょう……!馬鹿野郎……!俺は、俺はまだ平気だったんだ……!     お前がっ……先にお前が回復してれば、こんなことにはならなかったのに……!」 自分のものになった感情で涙した。 けれどそんなものが何になる。 親友だからこそ、こんな瞬間に遭遇なんてしたくなかった。 この涙は本来、流す必要の無い涙だった筈なのに。 朋燐 『……案ずるな。我が来世は助かる』 月永 『黄昏の内からは退場してもらってはいたが、     黄昏が消えればあのふたりも駆け寄れるだろう』 彰利 「え……?」 ───見れば。 弦月屋敷から駆け寄ってくるふたつの姿がそこにあった。 ……そうだ、月操力があれば治せるんだ……。 彰利 「は、はあああ……」 力が抜けた。 腰が抜けたかのようにその場に崩れ、迷うことなく悠介の回復をするふたりに感謝をする。 ……本当に疲れた。 悪い夢でも見てたかのようだ。 実際、悠介の治療はすぐに終わったし、 悠介は悠介で状況に呆れる俺を見て笑ってみせやがった。 彰利 「……お前ね、俺じゃなかったらこの時点で友達やめてるぞ……」 悠介 「お前が親友のままなら文句なんかいらないだろ、馬鹿かお前は」 笑いながらそんなことを言う親友に、もうほんと呆れ果てた。 だってそれは、俺と全く同じ意見だったのだから。 悠介 「朋燐と月永は?」 彰利 「黄昏と一緒になって消えた。結局なにがやりたかったのかね」 悠介 「……解ってるだろ?」 彰利 「む」 見破られてる。 悠介は俺を見て、『今のお前、どのお前よりも自然だからな』って笑ってみせた。 こんなにまで笑うヤツだっただろうかって思考が、おかしく思えるほどだ。 彰利 「えーと、訊きたいことはひとつだけど……お前は喜んでくれるか?」 悠介 「当たり前だ。今まで否定してた一歩を、親友が踏み出したんだ。     ほら、それって他の誰でもないお前の意思だろ?     俺はそれが嬉しいから、それだけで十分だよ」 彰利 「………」 今度こそ本当に呆れた。 目の前のそいつが笑っている理由が、俺が感情を手に入れることよりむしろ─── 俺が俺として感情を受け入れた事実を喜んでいるようにしか見えなかったからだ。 そう、こいつは『俺の意思』を喜んでいる。 『誰かのため』じゃなくて、『俺のために俺が起こした行動』を喜んでいる。 ……ほとほと馬鹿だ。 しかもそんな馬鹿が自分の親友だっていう。 彰利 (……まったく、最高だ) 最初に苦笑が漏れて、それはすぐに笑いに変わった。 困ったように笑いたかったのに、自分は真実嬉しくて仕方なかったらしい。 いつしか、状況に戸惑う聖とみさおをほったらかしにして、 俺と悠介は心の底から笑い合っていた。 どうやら感情っていうのは……中々どうして、 自分の思う通りには行動させてくれないらしい。 やれやれだ……とんでもないじゃじゃ馬を受け入れちまったらしい。 だというのに笑っていられてる。 それがまたくすぐったくて、俺達はしばらくそうして笑っていた。 【ケース14:過去悠介/黄昏の木の下で】 ───……そうして、笑い終えてから少し時間が経った。 俺と彰利は黄昏の景色にある約束の木に寝転がり、 『安静にしていないとだめですよ』と言うみさおを遣り過ごしながらボ〜ッとしていた。 彰利 「……なぁ悠介」 悠介 「ん〜……?」 彰利 「お前は何を教えられた?」 悠介 「ん……ああ、『友を思うなとは言わないが、友のためだからって命を捨てるな』。     ……とまあ、そんな言葉と奥義をひとつ」 彰利 「へぇ……奥義って?」 悠介 「……今の俺じゃあ満足に実行出来ない、とんでもない月の家系の奥義かな。     行動のひとつひとつが俺の限界以上の速度と限界以上の力が必要だ。     生前の朋燐は元々、野太刀と脇差二本を携帯してたようだけど……     確かに創造で用意すれば、野太刀や脇差を抜く隙が無くなって随分強い」 彰利 「?よォ解らんわ」 悠介 「……極めてみせろってことだろ。     あの野郎、『お前には槍は向かない』とか言ってきた。     刀剣ならば望みはあるんだとさ」 彰利 「そうかね。槍なら未来の悠介の技法があるだろ?」 悠介 「ん……なんて説明すればいいのか」 確かに槍の技法は自分の中にある。 それでも、過去から受け取るものと未来から受け取るものは、やっぱり違うらしい。 悠介 「俺は俺として生きてきて、でも確かに俺には前世ってものがあった。     それは俺をゆっくりと成長させていって、     当然刀剣技術も自然と染み渡っていったとする。     未来の俺はそれを槍に転化させただけで、今じゃあ槍の法が巧みになってる。     けど今の俺は槍の技法を育てたわけでもなく、     ただイメージとして持ってるだけなんだ」 彰利 「ふむふむ。つまり、記憶と経験があってもそれを補うための身体が無いと」 悠介 「そういうことだろうな。     で、それを言うなら刀剣の方でも俺の身体は付いていけてない」 彰利 「なんだいそれ。じゃあどっちを極めようが同じってことか?」 悠介 「ところがそういうわけでもないらしい。言っただろ?     俺の中では前世からの記憶と経験があって、それと一緒に俺は生きてきた。     今俺が槍を手に取ってもそれはゼロからだ。     けど、それが刀剣だったら話は別だ。     この身体は一応、前世の経験を少しでも喰いながら生きてきたらしい。     10じゃなくても1にはなってるだろ」 彰利 「……なるホロ。     それなら今のお前はそのまま刀剣を高めた方が伸びはいいってわけだ」 悠介 「そうなる」 言って、脇差二本を創造した。 ……まったく、過去の日本好きがこんなカタチで纏まるなんてな。 ようするに俺の『日本好き』ってのは、前世からのプレゼントだったらしい。 悠介 「まあ、滅多なことじゃ身体を鍛える必要なんてないだろ。     別にこの世界にモンスターが出る〜とか、     そういう事態に巻き込まれたわけじゃないんだし」 彰利 「けどさ、この世界でやれることが極端に無くなったのは事実だろ。     街に繰り出せば『ギャーーッ!!』って叫ばれるだけだと思うぞ」 悠介 「……それを言うなよ。     正直、そういうことになるんだろうなって頭抱えてたんだから」 彰利 「ぬお、それはソーリー」 状況に困っていたのは確かだった。 別に誰にどう思われようが構いやしないんだが、 会う人全員にヘンな目で見られるのは冗談じゃない。 彰利 「そんならさ、やっぱ……自分でも鍛えてるしか無いんでないかい?」 悠介 「………」 そうなのだろうか? 俺ってこんなに無趣味だったっけ……。 彰利 「もしくは───精霊野郎達とでも騒ぐか?」 悠介 「……なにも今ここで決めなくてもいいだろ。     身体は鍛える。誰か───というかお前とも騒いだりするし、あいつらとも騒ぐ。     俺達の行動はそう変わらないだろ」 彰利 「……そか。元々、ご近所付き合いがあったわけじゃないしな。     そう考えると案外気楽かもしれない」 悠介 「ん、それでいいと思う……ていうかいい加減段落つけたい」 彰利 「そうだな、もういい加減段落つけたい」 言って、ふたりして大の字になるように身体を広げて一言。 悠介&彰利『……疲れたぁ〜……』 それで、今日の出来事は終わり。 身体がどれだけ元気になろうと、気分が追いついてくれなかった。 本当に疲れた。 黄昏ももう夜へと変わったし、ふたりの詩はふたりに届けた。 だったらもう、今日のところは眠るとしよう……ゆっくりと。 Next Menu back