───たわけモン道中記07/Mのソナタ───
【ケース20:簾翁みさお/ハルマゲニウム鉱石】 ───……。 中井出「えー。というわけで!我ら原沢南中学校クラスメイツ衆は、     クラスメイツである晦悠介の誕生日を祝いに参上した!     総員!心の巴里は燃えているか!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「長い長い石段をよくぞ耐えた!今こそ我らの総力を以って、晦を祝う時だ!     総員!クラッカーの予備は持っているな!?」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「うむ!では───」 みさお「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってくださいっ!」 中井出「む!?何用か小娘!     我ら原中の宣誓儀式を邪魔をすることはナンシーに値するぞ!」 みさお「誰ですかナンシーって!それを言うなら万死です!」 中井出「ベラボー!細かいツッコミはよろしい!キミの意見を聞こう!なんぞや!!」 家の中に押しかけてきたのは中井出さんたちだった。 記憶の通りなら、悠介さんと彰衛門さんの元クラスメイト。 でも、昨日仲違いしたって聞いていたのに…… みさお「あ、あなたたちは悠介さん達を裏切ったんじゃなかったんですか!?     バケモノとか言って、罵ったんじゃ───」 中井出「もちろんだ!バケモノと言ったし拒絶もした!しかし否!断じて否!     嫌ったことなど一度も無し!     むしろ───って更待先輩?もしかしてなァ〜ンにも話してない?」 春菜 「えっ!?」 予想外のところで話し掛けられたからだろう、春菜さんが肩を跳ねらせて驚いた。 春菜 「は、話したって……なにかな。     わたし何か言わなきゃいけないこと、あったっけ……」 中井出「へ……ちょ、ちょちょちょちょっと待った!!先輩マジ困るよ!     これじゃあ俺達完璧にただの悪者じゃん!昨日言ったっしょ!?     明日は晦の誕生日だから晦をどんな方法を用いてでも一度ヘコませて、     それから一気に盛り上げる古流式誕生日で祝うって!」 春菜 「え───あ、あぁあっ!!」 ……なんだか話が怪しい方向に向かってきました。 中井出「お、俺達そのために自己嫌悪しながら、     晦と彰利にバケモノとか言ったってのに……!     ノ、ノォーーーーーッ!!!これはヤバイぞヒヨッ子ども!     総員ただちにクラッカーで先輩を狙え!合図で一斉に断罪のクラッシャー!」 総員 『サー・イェッサー!!』 春菜 「えぇ!?ちょ、ちょっと待ってよ!     ふたりをバケモノって言うのがやりすぎだっただけだよ!?     それってわたし関係ないもん!」 中井出「フッ……我ら原中の猛者どもは、後の楽しみのためには手段を選ばん……。     たとえ晦や彰利に殴られようが、祝うことにこそ意義がある……!     しかし我らとて晦に落胆したのは確かだ。     我らがヤツらをクラスメイツとして信頼する中、     ヤツらは我らを完全には信じきれていなかったのだ。     俺はそれが悲しい!だが友情は砕いてから構築すれば強固になる!     だからこそっ!嗚呼だからこそ我らはこうして、     殴られることさえ厭わずにここに参上したのだ!     これぞクラスメイツ魂!もはや誰にも我らを止めることは出来ん!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「確かに彰利は過去において人を殺めてしまったかもしれん!     たとえそれが死神の所為だとしても、あいつはそれを自分の所為だと思っている!     だがそんなあいつを友と感じたのは我らであり、あいつは何も悪くない!     つーかもう時効だろ!何を悩む必要があるか!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「晦の言う通り『友情ごっこ』はこれで終わりだ!     これからは真にあいつらの友で居られる!     我らの心に揺るぎなどないわぁーーーっ!!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 ……なんだ。 つまりこの人達は元々、悠介さんや彰衛門さんを嫌ったりなんかしてなかったんだ。 水穂 「あ……そうです。シェイドさんはもう記憶を消したんだから、     月の家系のことを良く思っていない人は覚えてる筈が無いんですよ。だから……」 みさお「あ───」 そうだ、この人達は確実に覚えてる。 だったらもう、そこに答えは出てる。 みさお「……春菜さん……」 春菜 「え───だ、だだだだって、あんな状態でやるだなんて思わなかったんだよ!?     わたしたちの深いところを知ったら、     前までみたいには居られないって、そう思ったから───!」 中井出「ぬううなんという暴言!我ら原沢南中学校の生徒を甘く見るな!     我らは何よりも友情を重んじる!後の喜びのためならば平気で人を蹴落とすが、     その後にはそれよりも深き喜びをその者に与えることこそ友情!     貴様にはそれが解らんのか!ええい不甲斐なや!     全体整列!構えェーーーー筒!!撃ェーーーーーッ!!!!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 ズパパァン!!ドパパパパパパァン!!!! 春菜 「きゃあああーーーっ!!!?」 数々のクラッカーが炸裂する。 その先には、祝われる必要もない春菜さん。 中井出「あ、ただしクラッカーの予備はひとつだけ残しておくように!」 総員 『サー・イェッサー!!』 ドパァン!ドパパパパァン!! 春菜 「きゃーーっ!!ちょ、ちょっと待って、待って……!!     わたしが悪かったから、もうやめてーーーっ!!」 藍田 「押忍!ではシメはこの藍田亮に仕切らせていただこう!!     この超絶炸裂バズーカクラッカーでぇええ……!!」 藍田、と名乗った人がズォオオとクラッカー(とは呼べないもの)を出す。 その大きさたるや、成人男性四人分くらいの大きさだ。 春菜 「えっ!?なにっ!?なになにっ!?」 その大砲が向けられる先では、 長い紙だらけになったモップお化けみたいな春菜さんが蠢く。 おそらく紙の所為で視界が塞がれてるんだろう。 その場に居る全員が耳を塞ぐ中、モップお化けだけがワサワサと蠢いた。 藍田 「お祭り開始(ファイエル)ァアアーーッ!!!」 ピンッ───ゴッパァアアアアアアアアアン!!!! 春菜 「ひきゃぁあああああああっ!!!!」 藍田 「ギョエェエエエーーーーーッ!!!!!」 耳を塞いでも強烈すぎる炸裂音と、 そんな炸裂音に混じって聞こえる小さな絶叫が耳に響く。 後に残ったものは……『音』に吹き飛ばされた長い紙の束と中に居た人と、 大砲のヒモを引くために耳を塞げずに散ったひとりの勇者の姿でした……。 中井出「藍田二等兵……見事な殉職であった……!この勇者に敬礼ッ!!」 総員 『サー・イェッサー』 ババッ! で、そんな勇者に敬礼する中井出さんたち。 ……正直、なにがやりたいのかはまるで謎でした。 中井出「拍手!」 総員 『サー・イェッサー』 パチパチパチパチ……。 中井出「ストンピング!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 ドゴゴシャベキボキガゴドゴゴスガス!!! 中井出「……黙祷(もくとう)」 総員 『………』 中井出「校歌斉唱!」 総員 『わ〜れ〜らはっらっさっわっ、ゆ〜めを〜抱き〜♪』 中井出「ストンピング!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 ドゴゴシャベキボキガゴドゴゴスガス!!! 中井出「───敬礼ッ!」 総員 『サー・イェッサー』 ババッ! 中井出「ストンピング!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 みさお「ちょ、ちょっと待ってください!いつまでやるつもりですか!」 中井出「むっ!?止めてくれるな名も知らぬ少女よ!     我らはこのオリバには喩えようもないくらいの怨念と憎悪を抱いているのだ!     斯様な好機、またと無いと断言出来る!つーか晦と彰利は?     あのままじゃ絶対誤解してるだろうから、誤解を解いておきたいんだが」 ドゴゴシャベキボキガゴドゴゴスガスガンガンガン……!! みさお「悠介さんなら上のお堂で何かやってましたけど……って、     ストンピングやめてくださいよ!」 中井出「ワンリトル♪ツーリトル♪スリーリトル♪」 総員 『イィンディアァアアアーーーン!!!』 ガスゴスガンゴシャベキゴキゴシャメキャ!!! 水穂 「あの……いい加減やめないと、大変なことに……」 中井出「え?あぁ大丈夫大丈夫、ちゃんと手加減してやってるから」 田辺 「なにっ!?俺全力でやってたぞ!?」 飯田 「なにっ!?お前もかっ!?」 清水 「おおっ……俺もだ!」 田辺 「お前らもかっ!俺……俺は……俺はひとりじゃなかったんだなっ……!」 清水 「田辺っ!」 飯田 「田辺ぇっ!!」 総員 『友情だ……』 中村 「ところで藍田のヤツが耳からドス黒い液体出しながら動かなくなってるんだが」 中井出「愛の力でなんとかなるだろ。愛以上に自分を強くさせるものは無いらしいから」 総員 『まったくだ』 みさお「つくづく容赦ありませんね……」 中井出「まあそんなわけで、一応プレゼントとかも用意してきたんだが……」 言って、みなさんが大きな袋をゴササッと見せる。 それはひとりひとりが持っていて、 家の中に置くとしたら相当にかさばるものだと見てとれた。 粉雪 「ねぇ真穂……さっきからこの匂い気になってたんだけど……まさかのまさか?」 真穂 「……えと……うん。予想通りだと思う」 粉雪 「……お店の人の反応は?」 真穂 「さすがに涙目になってた。だって400個だもん……」 粉雪 「だよね……」 日余さんと桐生さんが話し合う中、興味をそそられたわたしは訊いてみることにした。 みさお「その袋の中身、なんなんですか?」 中井出「一言で言えば……『パラッパッパッパ〜♪』だ」 みさお「……あー、解りました。お店の人に心底同情します」 中井出「ドナ様万歳!」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「Mのソナタ最高!」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「録画は毎週欠かすまじ!!」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「パラッパッパッパァ〜♪」 総員 『I'm lovin'It!!』 セレス「Mのソナタ……あれを見てるんですか……」 ルナ 「Mのソナタ?なにそれ」  ◆Mのソナタ───えむのそなた  マクドナルドのソナタの略。  冬のソナタに対抗して作られた、ドナルド(ドナ様)主演の最低傑作。  瞬間視聴率はついに0.1%を切り、しかし一部では熱狂的な支持を受けている。  原中大原則には『ドナルドを愛すべし』というものがあり、  今や『ドナ様』と呼ばれ、尊敬されている。  次回作として、ドナ様がドナルドマジックを駆使する最低スペクタクル、  『ドナー・ポッターと賢い者の石』というのが考えられているとかいないとか。  *神冥書房刊『ドナルディックバイブル第一章/お前ら表へ出ろ』より セレス「丁度良かったです。     CMで『ドナルドのウワサ』を見たときから気になっていたので、     せっかくですから質問をさせてください。     生憎ここにはインターネットをする環境が整っていませんので」 中井出「なんでもござれ!ドナ様のことならどんなことでも答えよう!」 インターネットを語る吸血鬼っていうのも、なんだかすごいものですけどね……。 セレス「ドナルドは本当に喋るんですか?」 中井出「喋るぞ。カマ声だが」 総員 『I'm lovin'It!!』 セレス「ドナルドは踊りが好きなんですか?」 中井出「ああ。しかもヒップホップが好きらしい。子供には思いっきり無視されているが」 総員 『I'm lovin'It!!』 セレス「ランランルーってなんですか?」 中井出「ドナ様が嬉しい時に使う言葉と行動だな。     しかし子供に引かれているにも関わらずひとりでやるのを拒み、     一緒にやってくれと願うくらいにやりたいらしい喜びの現れだ」 総員 『I'm lovin'It!!』 セレス「じゃあ……ドナルドの靴の大きさは?」 中井出「うむ。ハンバーガー4個分と公式ホームページでは言っていたが、     実はハンバーガー4.5個分の大きさだ。騙されることなかれ」 総員 『I'm lovin'It!!』 セレス「……話を聞いてると、     どこが好きなんだかまるで解らなくなってきたんですけど」 中井出「なにぃそれは心外だ。我らはドナ様を崇拝しているぞ。     その証拠にほら、ハンバーガー400個買ってきた」 セレス「………」 中井出「店の人もあまりの崇拝っぷりに感動して泣いてた。我らの思いが伝わったのだ」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「しかし店員が耳の悪い人でな。     何度も『もう一度ご注文をお願いできますか?』とか言ってくる始末。     己の耳を疑うにも程というものがあるだろう。ねぇ?」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「で、ようやく『本当によろしいのですね?』って訊いてきたから、     誕生日プレゼントだから手抜きはしないでくださいと言ったのですよ」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「しかし店員はさらに『しばらく時間が掛かりますが』と仰る。     だから言ってやったね、     『ドナ様を思えばこそ、待たされることなど屁でもないわ』と」 総員 『I'm lovin'It!!』 中井出「そしたらあまりの崇拝っぷりに感極まったのか、本気で泣いてくれた」 セレス「……店員に心底同情します」 中井出「そんなわけで今すぐにでもパーティーを始めたいんだが。     晦と彰利は?って、晦はお堂に居るってのは解った。けど彰利は?見当たらん」 みさお「それは……」 朝、この家と神社を目指して登ってこようとした人を追い返しに行った。 それは間違い無いんだけど、それからのことはさすがに知らない。 ルヒド「彼なら今、インドでカレーを食べてるよ。     『記憶を消した』ってことは知らせたからどうとでもなると思うけど」 みさお「な……ど、どうしてインドに?」 ルヒド「空に映し出された月の家系の事柄を映像に残した人が居るみたいなんだ。     だから、そのカメラを破壊してる」 みさお「……それもなんとかなりませんか?」 ルヒド「なるよ?簡単だ。───……ああ、アメリカ以外は僕が壊そうか」 みさお「アメリカ?どうしてアメリカを残すんですか?」 ルヒド「うん、今彼と話をしてるんだけどね、     『アメリカには行ってみたかったから俺が行く』って」 みさお「彰衛門さん……」 なにをやってるんだろうか、あの人は……。 妙な放浪癖みたいなものがあるのは過去で解ったことですけど、外国にまで飛ぶとは……。 中井出「……もしかして、今日は無理っぽいか?」 ルナ 「見てきたけど、悠介熟睡してるわ。しかもボロボロ。起こしても起きなさそう」 中井出「あっちゃあ……どうする?」 清水 「無茶できるのはせいぜい今日までだったしな……」 田辺 「俺も……。流石に明日も休みを貰うなんてこと、無理だわ」 中井出「後味が悪い幕切れだな……。     誰かに言伝で謝るなんてこと、級友として絶対したくねぇし……」 中村 「申し上げます!それならば自分に良い手があるであります!」 中井出「なにっ!?その手とはなんだ中村ニ等兵!」 中村 「ハッ!こんなこともあろうかと用意しておいたテープレコーダーであります!!     これに我らの魂を吹き込み、     晦二等兵に聞いてもらうのはどうでありましょうか!」 中井出「お───おお!それは確かにいい手だ中村二等兵!     では早速このレコーダーに……ま、待て中村二等兵!     これは……このテープは散々苦労して手に入れたうっふんテープではないか!」 中村 「押忍!級友の魂のためなら惜しくは無いであります!お、惜しくはっ……!!」 中井出「〜〜〜……!!見事な血涙だ中村二等兵……!貴様は男の中の男だ……!     貴様ら!中村の男を無駄にするな!ありったけの魂を込めて発言せよ!」 総員 『Sir!YesSir!(サー・イェッサー)』 ……妙な空間が出来上がりました。 みさお「あの……『うっふんてーぷ』ってなんですか?」 セレス「え───あ、えぇと……子供は知らなくていいことです」 みさお「……?あの、わたし一応300年以上生きてるんですけど……」 セレス「それでもいけません。わたしの口からはとても言えないことです」 みさお「………」 木葉 「僭越ながら、この木葉がその全貌をお報せしましょう」 若葉 「やめなさいっ!!!」 木葉 「……チッ」 水穂 「木葉お姉さん、今……チッて……」 木葉 「空耳です。寝惚けたこと言ってんじゃねぇですよ水穂」 水穂 「え?いえ、でも……」 木葉 「……最近ヤケに刃向かいやがりますね。ちょっとこっち来ォ、     事柄に深く関わろうとする者の末路をその身に刻んでくれましょう」 がっし! 水穂 「え───えぇっ!?や、ちょ、ままま待ってくださいぃいっ!!     わた、わたしは別に刃向かうとかそんなつもりは全然なかったんですよぉおおっ!     た、助けてぇええみさおちゃぁあああん!!」 みさお「エイメン」 水穂 「あ、あわぁああああああっ!!!」 わたしは静かに十字を切った。 ズルズルと引きずられ、隣の部屋の襖がピシャンと閉められたのち、 その奥から喩えようの無い音と、 『と、溶ける!溶けるっ!溶けちゃいますぅっ!』っていう悲鳴が聞こえてきたけど…… きっと聞いちゃいけない悲鳴だったんだろうから聞こえないフリをした。 ……ややあって、すとんと開いた襖からは特に何事もなかったように振舞う木葉さんが。 その後ろの景色で水穂さんが謎の汁を吐いた状態で倒れてることは、 きっと追求してはいけないことなんだと思う。 セレス「お悔やみしますよ水穂さん……。貴女はこの家の良心です……」 ルナ 「本当に溶けてないことを祈るわ……」 襖の奥で何が披露されたのか知っているような口ぶりのふたりは、 体を抱くようにして震えた。 ……溶けるって、何が溶けたんでしょうかね。 みさお「それで、あの……中井出さん、でしたっけ」 中井出「ああ。俺こそが原沢南中学校の提督、中井出博光だが」 みさお「そうですか、わたしは簾翁みさおっていいます。     それで、ですが……さっきから気になってたことを訊いていいですか?」 中井出「?なんだ?」 みさお「……あの。さっきから窓の外で薄笑いを浮かべているピエロ、誰です?」 総員 『ざわっ……!!』 中井出「───あ、慌てるな!落ち着けみんな───落ち着くんだ!」 中村 「し、しかし上官殿……!」 中井出「我らは確かにドナ様への反逆行為をしてしまったかもしれん……!     しかしあれは本意ではなかったのだ……!     あの時、藍田二等兵が……間違えてマサクゥルドナルドに入らなければ……!」 ……確かにあのピエロさん、ドナルドさんとはちょっと違うような……。 みさお「それで、あれはなんなんですか?」 中井出「っ……!」 みさお「あ、あの?」 中井出さんが物凄く辛そうな顔で唇を噛んだ。 しかも相当に強く噛んでいるらしく、唇からは血が出ている。 それでもやがては口を開いて、言葉を発した。 中井出「……『スマイル』だ……」 みさお「え?」 中井出「すまない……。     藍田が面白半分に『スマイルをテイクアウト』なんて言っちまったために……」 みさお「………」 妙な薄笑いをしたまま、窓にへばり付いているピエロさんを見る。 ……確かに、スマイルに見えないこともなかった。 みさお「あの……それって物凄く迷惑なんですけど……。     どうするんですか、あのピエロさん……」 中井出「言うな……っ!言わないでくれっ……!     ドナ様を崇拝する我らにとって、     マサクゥルドナルドのピエロは宿敵と言っても過言ではない存在なんだ……!」 セレス「そうなんですか?ですが空に映された映像の中には     マサクゥルドナルドの無料パスを手に入れるために、     彰利ランドに入った記憶がありましたけど」 中井出「メシが無料になるのと崇拝は別問題だ。     マサドナルド(マサクゥルドナルド)自体が嫌いなんじゃなくて、     ドナ様の宿敵、マサルドが嫌いなだけなんだ」 セレス「それなのにマサルドを引き連れてここまで登ってきたんですか……」 中井出「途中で諦めると思ったんだ。     それなのに意外に体力あるみたいで半笑い浮かべながら登ってくるんだ。     どうかしてるぜあいつ……」 未だに薄笑いを浮かべているピエロさん(マサルドさんというらしい)を見る。 ……あんなのにずっと付き纏われたら、夜も眠れませんね……。 丘野 「おい中井出、コメント入れてないのあとお前だけだぞ。さっさと入れちまえ」 中井出「ぬ。解った、今入れる。他の者どもは全員入れたんだな?」 丘野 「ぬかり無し。テープの容量を踏まえた上で、ピッチリになるくらいに入れたぞ」 中井出「了解だ。では───」 中井出さんがテープに言葉を録音してゆく。 それはバケモノって言ったことへの謝罪であり、 クラスメイツを信じないでいたことへの糾弾。 そして『これからは友情ごっこじゃなくて、真の元級友となろう』という言葉。 それは悠介さんの『友達はひとりでいい』という思いを想定した上での言葉だった。 『友達』じゃなくて、あくまで知り合いとしての『級友』。 それでも相手のことを受け入れるつもりの言葉に偽りなんてなかった。 ……いいな、こういう人が知り合いに居るのって。 中井出「うむ!ジャストでぴったしカンカン!     テープ残量ゼロにして、言葉が途中で途切れることも無し!     ではこれはあなた方に託そう。俺達はそろそろおいとましなけりゃならん」 中井出さんがテープを若葉さんに渡す。 若葉さんはそれが『元うっふんテープ』ということが気になるのか、 受け取る時に少し戸惑っていた。 ……なんでしょうね、うっふんテープって。 中井出「各員に通達!これより我らは各々の住居へと戻り、明日に向けることとする!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「よいかっ!石段を降りた刹那、全速力にて駆けろ!理由は解るな!?」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「マサルドスマイルをお持ち帰りすることは原中生として恥ずべき行為だッッ!!     確実に散開し、マサルドを撒くのだぞ!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「買ってきたプレゼントをこの場に置き、     せめて倒れている先輩にクラッカーの全てを砲撃!     とにかく身軽になった後に帰還体勢に移行!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 スパパパパパパパパパァアアアアアアアアンッ!!!! ……春菜さんがより一層、紙くずだらけになった。 中井出「それでは覚悟を決めろヒヨッコども!!貴様らの健闘を祈る!!」 総員 『Sir!YesSir!!(サー!イェッサー!!)』 ババッ!と敬礼をしたのち、ぞろぞろと帰ってゆくみなさん。 ……何気にマサルドさんがそれに反応して窓から離れてゆく姿が、 ストーカーのそれのようで不気味だった。 みさお「………」 セレス「……どうしましょうか、このハンバーガーの山……」 夜華 「はんばーが?食べ物なのか?」 ルナ 「ホモっちでも居れば、海原雄山(うなばらおっさん)として全部食べてくれそうなんだけどね」 若葉 「篠瀬さん、でしたね。食べてみたかったらどうぞ。     どうせわたしたちだけでは食べきれませんから」 夜華 「そうか?では……」 みさお「……はぁ」 ハンバーガーをひとつ手に取り、包装紙をガサガサと取ってゆく篠瀬さんを横目に、 外の方から聞こえる奇妙な声に耳を傾けて溜め息を吐いた。 無事にマサルドさんから逃げられるといいですね……。 【ケース21:中井出博光/スマァ〜イリィ〜♪】 ───どたたたた……!! 石段を駆け下りる。 既に石段の先の道路は目前と迫り、だが背後から追ってくる存在も目前と迫っていた。 中村 「き、来ました提督!マサルドです!」 中井出「と、飛ばせ飛ばせぇええっ!!目一杯飛ばせぇえええっ!!!」 丘野 「つーか提督!オリバが重くて仕方ありません!捨ててもよろしいでしょうか!」 中井出「特別に許可する!」 丘野 「提督の許可が出たぞぉおおっ!!シュートヒム!!」 ブンッ───ドシャア!! 藍田 「ギャア!って……あいててて……え?」 なんと!石段に捨てられたオリバが蘇った! ───そしてその藍田に向かって駆け下りてくる、薄笑いのマサルドさん。 藍田 「おわっ───おわぁああああああっ!!!」 オリバはその姿にこそ恐怖した───っつーか誰でも恐怖する。 中井出「オリバ二等兵!貴様に殉職を申し渡す!そこでマサルドを食い止めろ!」 藍田 「ノォサーッ!!そんな命令聞けません提督!!     ていうか殉職じゃあ死ねって言ってるようなもんじゃねぇか!!」 中井出「聞けこの野郎!そもそもお前が不用意にスマイルなんぞテイクアウトするから!」 藍田 「普通はこんな状況誰も予想しねぇだろ!!」 ───タンッ! 石段を降り切ると同時に、 総員 『散ッ!!』 総員がズババッ!と散開する。 女子軍の大半が左へ逃げる中、男子軍の大半は右へ逃げた。 ちなみに俺は左に逃げた。 ……しかも何故かオリバまでもが。 中井出「付いてくんなぁああああああっ!!!!」 藍田 「ノォサーッ!!呪われる時は一緒だって誓い合っただろ!?」 中井出「そんな誓いは一度としてしちゃいねぇーーっ!!     ってやっぱ来たぁああーーーっ!!     お前狙ってんだよマサルドは!大人しく殉職しろオリバ二等兵!」 藍田 「オリバ言うな!!」 麻衣香「ちょ、ちょっと藍田くん!どうしてこっち来るのよ!     マサルドの狙いは藍田くんでしょ!?     ここで生贄になって勇者にクラスチェンジしないでどうするの!」 藍田 「それって結局俺に殉職しろってことじゃねぇかぁあーーっ!!     クラスメイツ生贄にするのやめようよ!!     俺もう勇者じゃなくて村民でいいから逃げ延びたいよ!」 総員 『だめだ死ね!!』 藍田 「うわぁああん!ヤだいヤだい!明日の朝日をみんなで見るんだぁーーーっ!!!」 オリバがナチュラルに幼児退行する中、 その後ろから恐ろしい速度で走ってくるマサルドさんを確認。 その速さたるや、スプリンターも挑みたくなるくらいの速度だ。 中井出「バケモノかあいつは!よしオリバ、貴様に竹の槍を託す!     華々しく散って矢島と化せ!じゅうまんボルトだ!」 藍田 「無茶言うなっ!!」 中井出「桐生っ!タッグフォーメーションエースだ!」 真穂 「えっ!?ま、待っていたぜそいつを!」 スパァンッ!! 藍田 「オワッ!?」 桐生が藍田に足払いをキメた! すかさず俺は倒れかけた藍田を肩に担ぎ─── 中井出「ウォーズ……お前の死は無駄にはせん……」 藍田 「なっ───ま、待て!話せば解る!生贄なんか作らなくても逃げ切れるだろ!?」 中井出「ロォーーーリングベアクロォオーーーーッ!!!!」 走ってきたマサルド目掛けて、おもむろに投げた。 藍田 「うわっ、ちょっ───キャーーーッ!!!!」 宙に舞った藍田が、どしゃっと無様にアスファルトに落ちる。 嗚呼、後は野となれ山となれ。 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……。 藍田 「中井出ぇええええっ!!てめぇえええっ!!     ってヒィ!!なんか生暖かい感触がギャアアアッ!!!!     マサルドが!マサルドが微笑を浮かべながら俺をやさしく抱擁して───     イヤッ!!イヤァアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!!」 駆けることで過ぎ去ってゆく景色の中、 ただひとりの勇者の絶叫だけが……ボクらの脳裏に焼きついていた……。 中井出「───ってなんかマサルドがまた走り出したぞ!?」 麻衣香「いやぁあああっ!!聞きたくない聞きたくないぃいいいっ!!」 真穂 「もうやだぁああああっ!!!」 ───…………。 【ケース22:桐生真穂/ミルクは飲みません】 …………がちゃっ……。 真穂 「……ただいま……」 とたとたとた…… 桐生 「おかえり真穂───って、その人、なに?」 真穂 「……スマイル」 桐生 「……?うち、もうルーが居るからこれ以上ペット飼えないよ?」 真穂 「お母さん……ツッコムところはそこじゃないと思うんだ、わたし……」 本気で首を傾げるお母さんを、わたしは本気で心配した。 でもとりあえずは空手の奥義を駆使してもらって、マサルドさんにはご退場いただいた。 ……教訓。 面白半分でスマイルのテイクアウトを願うのはやめよう……。 Next Menu back