───たわけモン道中記12/502年前くらいの世界で───
【ケース29:世界猫/過去の在り方】 ……月空力の渦に身を投じてしばらく。 俺と悟り猫は、過去の時代へと飛ばされていた。 悟り猫が言うには……この場所にある後悔はなかなかのもので、 その後悔とはそいつらの未来にも響いてしまう後悔なのだそうだ。 悟り猫「世界猫、そっちはどうだ?」 世界猫「こっちも一通り終わった」 で、現在なにをしているのかと言えば……『そいつら』が入りやすくなるように、 門番だのなんだのを眠りにつかせたところ。 気でも緩んでたのか、一言も騒ぐことなくあっさりと眠りに落ちやがった。 悟り猫「そんじゃ、あとはショーヘーとかいう奴らがここに来るのを待つだけだな」 世界猫「そうだな。それまでどうする?」 悟り猫「む……言われてみれば、やることナッスィン。寝ます?」 世界猫「こいつらと一緒になって寝るのかよ……気が進まないぞ?」 悟り猫「えーがらえーがら。どの道この状況で悪い方向に落ち着くことなんてないでしょ」 世界猫「そうか……?」 時代は遙か過去。 悟り猫の言う『咲桜純』やその知り合いなどの前世が存在するくらいの過去だった。 その時代に降りた俺達は、その行く末を見守りながら現在に至る。 どんな経緯があったかといえば……『咲桜純』の前世がカツアゲしたり、 産まれる前の自分の子に首領墓琉癌(どんぼるがん)
という名前をつけようとしたり……。 経緯にもなりゃしないが、 彰利が憧れる人物の前世だけあって、やはり常識を逸脱した思考回路の持ち主だった。 ともかくそんな男とともに、三人の男が立ち上がった。 『昌平』、『晃』、『斬真』という名前の男だ。 雰囲気と物腰からして未来から来た人物だろう。 どうやったのかは知らんが……無茶をしないといいが。 世界猫「なぁ悟り猫……って」 悟り猫「すみすみすみすみ……」 世界猫「……もう寝たのかよ……」 頭を掻いてから考える。 『咲桜純』の前世である『秋守』という人物の住む町は、町長の怠惰と暴挙でガタガタ。 それを正すべく、秋守と未来から来た三人と村人達は立ち上がったらしい。 俺と悟り猫はそれを応援するように立ち回り、 ひとまずはこの屋敷に来て番人から始まるその他大勢を眠らせた。 あとはあいつらがこの屋敷に来て、町長を掻っ攫ってくれればそれでいい。 世界猫「……そっか。じゃあ俺達がすることなんて、もう無いじゃないか」 なら俺も眠ってしまおうか。 後悔レーダーが働けば、悟り猫もすぐに起きるだろう。 ───……。 …………。 声  「───感じる!感じるわゴメス!!まぁ大変!これは大きな後悔反応YO!!」 世界猫「ッ!」 聞こえた声に身を起こした。 見れば、既に秋守から始まる町人達はその場に存在し、 だが未来から来た者の中のひとりがその場に居ない。 世界猫「悟り猫!状況は!?」 悟り猫「ちとやべぇぜ!?町の方から後悔反応アリ!!     大変!誰かに襲われてるみたいだわ!」 世界猫「チッ───本気か、俺は……!!」 なにが『俺達がすることなんて無い』だ。 いくらすることがないからって、『油断』だけはしちゃあならなかったのに……! 世界猫「村へと続くブラックホールが出ます!───行くぞ彰利!」 悟り猫「ノゥッ!!オイラ悟り猫ネ!!」 世界猫「言ってる場合かっ!」 創造したブラックホールに身を投じる。 すぐに悟り猫も続き、その景色はすぐに開けた。 ……そう。 未来から来た存在のひとり、『晃』の腹に小刀が深く刺さる場面とともに。 世界猫「───!」 悟り猫「!───待たれよ!!」 刺した存在を殴ろうと駆けたが、悟り猫がそれを止める。 確かに俺が殴るまでもなく男は倒れたが……それでも怒りは治まらない。 誰かを守ろうとする存在を刺す存在を見ると吐き気がする。 ふみ 「あ、あきらさん!!なぜです!なぜ私を庇って……っ!!」 晃  「ぐっ……がはっ!!」 晃が助けた女性───ふみが、晃に駆け寄る。 だが、俺から見てもその傷はあまりに深い。 このままだとあいつは助からないだろう。 だってのに…… 悟り猫「安心おし、後悔の念はこの時点ではそう高くない。     あやつが死ぬ確率は0%じゃ。     確かにね、時間軸によっては死んでまう時代もあるかもしれん。     並列した時間軸の中にはあの屋敷の番が起きていて、     昌平や斬真や晃が死んでまう瞬間だって確かにある。     俺やお前だってそうだ。こうしてる次の瞬間には死んでおる時間軸も多分ある。     どんな瞬間であれ並列した世界では予想なんて出来ないことが起きるさね。     現に───んむ。俺達が番人どもを寝かさずに成功した例もあると思う。     些細なことから変わるのが時間軸じゃろ?     でも彼奴は大丈夫じゃ。俺が保障いたそう」 世界猫「……でもさ。治そうとすれば治せるヤツを放っておくのか?」 悟り猫「んにゃ。そこんとここそ友達ってやつよ。ホレ」 悟り猫に促され、見た先には昌平と秋守。 昌平は晃に黒いマントを羽織らせ、神妙な顔で『絶対生きろよ』と言った。 それを耳にしながら、晃は静かに目を閉じた。 ふみ 「い、いや……あきらさん……あきらさん……?」 秋守 「落ちつけ、どうやら眠っているだけのようだ」 ふみ 「で、でも……」 秋守 「看病してやれ、それが出来るのはお前だけだ」 ふみ 「はい……」 昌平 「絶対、何があっても黒マントは外さないでくださいね。     それが恐らく晃の生死を分かつ鍵になると思いますから」 ふみ 「はい……はい……」 俺達は物陰に隠れながら、ただその行く末を見守った。 やがて───昌平と秋守が家を出ていく中、悟り猫が頷きをひとつする。 悟り猫「あの晃という男からはステキな気配を感じるぜ……?     惜しい……死なせてしまうにはあまりに惜しい逸材ぞ……!!」 世界猫「ステキって……なんだそりゃ」 悟り猫「なにって……『メイド好き』」 世界猫「………」 最近の俺、呆れてばっかだな……。 悟り猫「OK、どうやらあの黒マントは神属性らしい。     ほっといても傷口なんぞ治るでしょうが、こちらも少し協力しましょう。     まずは月清力。ふみさんにおねむしてもらいます。     さらに月聖力でこの場に聖域をもたらし、月生力で回復の力場をギャアアア!!」 ジュワァアアアアッ!!!!! 世界猫「おわぁああああっ!!と、溶けてる!溶けてるぞお前っ!!」 悟り猫「イヤァアアアアーーーーしまったぁああーーーッ!!!     死神モードのままだから神側の聖域なんぞ作ったら溶けちまわぁーーーっ!!!     無し!聖域は無しです!!月生力だけでいいです!!」 シュワァッ……プスプス……。 悟り猫「ワガガガガガ……」 世界猫「……もうちょっと後先考えような、悟り猫……」 悟り猫「ま、まったくで……」 しかし一応ふみさんは寝てくれた。 それがまた、丁度晃に寄り添うような形になっていて微笑ましかった。 悟り猫「グウウ〜〜、よもや死神がこうも聖域に弱いとは……。     神降に住んでるルリっちに心底同情するよ……。そりゃ血も吐きます」 世界猫「なんのことかよく解らんが……どうする?晃のやつ、凄い汗だぞ」 悟り猫「恐らく傷口が高熱を発しておるのでしょう。     黒マントが作用しているとはいえ、     熱を沈めてやらねば部分的な障害も否めないでしょう。     まあそげなわけで、メイド好きに悪い人は居ないという論理に基づき……     拙者はこの人物の復活を承ります。月清力……!」 悟り猫は月清力を発動させて晃の傷口の熱を沈めていった。 すると、吹き出るように出ていた汗や熱は次第に落ち着いてゆき─── 苦しげだった寝息も、やがては静かなものへと変わっていった。 世界猫「大丈夫そうか?」 悟り猫「余裕ですよ余裕。     この黒マント、早く言えば死神のマントの神界版のようなものみたいでね?     ほんにジワジワとだけど傷口塞いでいってるのよ」 世界猫「そりゃ便利だな」 悟り猫「俺は悟ったね。     このにーちゃんと他ふたりをこの時代に送ったのは間違いなく時神さまだぜ?     普通の人間が神属性のマントなんざ持ってるわけねィェ〜」 世界猫「神か……ってことはこいつら神降の?」 悟り猫「そうでないかい?神と妙な繋がりがあるっつーたらあそこしかないでしょ。     実際にゴッド見た時は驚いたけどね、     あそこまでボコられちゃあ信じるしかあるめぇよ……」 世界猫「ボコられたって……ああ、あの面白珍道中か」 悟り猫「だから……それ訳解りませんて……」 喋りながらでも傷口の沈静が終わったのか、悟り猫が身を起こす。 世界猫「俺はその神様とやらは見れなかったけど、     お前の記憶の中での神の子なら何度か見たからな。     しかもその大半……というか全部か?それが神降関連だったからな」 悟り猫「月詠街が死神の降りる場所なら、神降は神様の降りる場所みたいね。     おかげで町自体に神力が溜まってて、気軽に遊びに行けないよ」 世界猫「俺はどうってことないんけどな」 悟り猫「そりゃキミが人間側になったからでっしゃろ?」 世界猫「ん、そりゃそうだ。で、これからどうする?傷口の熱は治まったんだろ?」 悟り猫「オウヨ、半端な仕事はしません。     これで彼が目覚める頃にはほぼ傷が塞がっていることでしょう。     つーわけで……寝ましょうか」 世界猫「またか……よくそれだけ寝てられるな……」 悟り猫「だってねぇ、さっきは後悔の念に起こされてもうたし。     しからばまた寝たいと思うのは当然のことでしょう?」 世界猫「そんなことしてたらまた誰かが傷つくかもしれないだろ。     ……ああもう、俺が起きてるからお前は寝てろ。状況が変わったら起こすから」 悟り猫「サー・イェッサー!」 世界猫「ここに来てまでその返事はやめろ……」 そんな言葉も聞かず、悟り猫は家の隅にあった木箱の中に入って眠ってしまった。 俺はというと……その木箱の上の蓋に乗り、ふたりの様子を見守った。 再び熱が出ればそれを沈める霧を創造し、 嫌な予感の所為か悪夢に魘されているらしいふみさんには、 いい夢を見れるように鎮静の霧を。 そんなことを何度か繰り返し─── ───……。 ───やがて深夜。 目覚めた晃に安堵した俺は、 悟り猫が入っている木箱の中に潜り込み、さらにその様子を眺めた。 そんな景色の中で、晃に髪を撫でられることで目覚めたふみさんは晃に抱きついて泣いた。 ふみ 「死んじゃうと……死んじゃうんじゃないかと思ってました……。     そう思うと恐くて仕方ありませんでした……。     よかった……生きていてくれてほんとうによかった……」 晃  「……ごめん。心配かけたみたいで……」 ふみ 「好きです……一目見たその瞬間に……。     私の心はあなたに奪われてしまいました……。     好きです晃さん……私にはあなたしか愛せません……」 晃  「……」 ……人生、何が吉になるのか凶になるのか解らないものだ。 人の告白現場なんて見るもんじゃない。 こんなことなら俺も寝てりゃあ良かったか……? ああもう……───いや。 でも待て、いくら好きになったところで、あいつは未来の人間で…… 世界猫「………」 修羅場、ってわけでもない。 どう見たってふたりは好き合っているし、普通に出会えたなら素直に愛し合えたのだろう。 ……そこに、『歴史』という壁が無ければ。 世界猫「……つくづくアホゥだな、俺……」 こんな現場を見ちまったらほっとけねぇじゃねぇか……。 ───……。 悟り猫「なんと!この歴史を脱しないと!?」 俺の提案に、悟り猫は驚愕した。 ……歴史は未だに過去のその場。 昌平と斬真が元の世界に戻る中、 ひとり残された……いや、ひとりで残った晃はふみと結ばれた。 それだけなら平気だった。 だが───見ちまったものは仕方がない。 消える瞬間の昌平は、確かに言っていた筈なんだ。 『この町は数年後に滅びる』、と。 転移中には外に声が届かなかったようだが、その口がそう言っていた。 そんなものを見せられたら、無視することなんて出来ない。 世界猫「自分の故郷を、時代を捨ててまでひとりの女を愛した男だ。     ああ、お前の言う通りだよ彰利。あいつほど死なせるのが惜しいヤツは居ない」 悟り猫「……ああもう」 彰利は頭をゴリガリと引っ掻き───ゾブシャア!! 悟り猫「ギャアアアアア!!!」 猫であることを忘れていたのか、その爪が頭に突き刺さり絶叫。 悟り猫「ぐええ痛やぁ!!……つーかね!キミ馬鹿でしょ!     つーか馬鹿!この馬鹿!馬鹿め!馬鹿め!!」 世界猫「なんとでも言え。守りたいって思う瞬間ってのは理屈じゃないだろ?」 悟り猫「グ……グウウ〜〜〜ッ!!で、でもね!?もう後悔レーダー動いてませんよ!?     それってこれ以上ここに居ても仕方ないってことじゃない!     えぇーーっ!?どうなんだい!!」 世界猫「この町な、昌平が言うには数年後に滅びるらしい。だとしたら───」 悟り猫「よし残ろう」 世界猫「……まだ全部言ってないんだが」 悟り猫「バッケヤラァ!!そういうことはもっと早く言えや!!     オイラが滅びる町を無視してどこぞへ去る者とお思いか!?     俺ゃあこう見えても村を豊かにしたり食い逃げしたりした男ぞ!?」 世界猫「威張って言うなよそんなもん……」 悟り猫「ままま!数年後の後悔まではさすがに探知出来なかったってことデショ!!     ならばその数年後になるまでこの時代で遊びましょうや!ね!?」 世界猫「遊ぶって……あのなぁ」 遊ぶってのは違う気がするが……でも確かに言ってみれば、 数年後まではこの町は無事ってことだ。 油断さえしなければ、なんとかなるだろう。 世界猫「一応言っておくけど、遊ぶってのは賛成出来ないぞ?」 悟り猫「フッ……その強がりがいつまで続くかな……?」 世界猫「知らん」 悟り猫「即答ですか……」 油断なんてしてやらない。 たとえ悟り猫の言う通りに遊ぶことになっても、 男の生き様を見守ってやりたくなったんだ……ヘマなんてしてられない。 世界猫「よし、じゃあまず───」 ゲルググ〜〜……。 悟り猫「……押忍、隊長……メシにしたいと思います」 世界猫「お前さ……もうちょっと自然的な腹の虫は持ってないのか……?」 どういう音だよ、ゲルググって……。 悟り猫「アッガイの方が良かった?」 世界猫「余計にたわけ」 ……そうして。 俺達の過去の生活は何気なく開始されたのであった。 【ケース30:弓彰衛門/ならず者の愛】 ドカバキ!! 彰衛門「ギャアアアーーーーーーッ!!!!!」 過去に在住しようと誓いを立ててから僅か10分後。 綿密に練られた計画を遂行するために人の姿でその場に向かったオイラは、 ものの見事にボコボコにされました。 町人 「オメェなにモンだ!!オラさ町になんの用だ!!」 彰衛門「やぁ、ボクはドラゴン山田だ」 ベキャア!! 彰衛門「ウギャアアアアーーーッ!!」 問答無用で殴られました。 しかも棒キレでですよ?これは痛いです。 町人 「そんでそのどらごん山田がオラさ町になんの用だ!」 彰衛門「名前信じてんならなんで殴ったの……?」 ゴキャア!! 彰衛門「はべぇーーーい!!!」 町人 「口答えするでね!オメは訊かれたことだけ答えりゃえぇ!!」 彰衛門「ウバラガガガガ……」 お、おのれこのハゲ……! 人が下手に出てりゃあ調子に乗りおって……!! 彰衛門「えーとですね、率直に申しましては……この町に住ませてください」 ゴベキャア!! 彰衛門「パペェーーーイ!!!」 町人 「なんだオメ!こったら町に住みてぇってか!!     あんだあんだ、それならそうととっとと言えやぁ!!     オラてっきり盗賊かなんかだと思って殴っちまったでねがぁ!!」 彰衛門「う、ウソつけこのハゲ……!!今の絶対わざとだろ……!」 ズパァーーンッ!! 彰衛門「キャベーーーイ!!」 町人 「オメ!オラに向かってなんてこと言うだ!     オラがそったらことするようなヤツに見えるってか!」 彰衛門「見えるっつーか実際やってるだろうが!」 町人 「あ、あんだとオメ!それ以上の暴言はオラ許さねぇぞ!」 彰衛門「もうええわい!この町に住むってのは却下だ!     俺ゃ町の外れの方に家を建てるからええ!てめぇの許可なぞ要らんわ!」 町人 「おーおー出てけ出てけ!オラさ町にオメみたいなヤツは要らんね!!」 同じ町人となって町を見守るという作戦は見事に失敗に終わりました。 ───……。 ……。 彰衛門「なぁ〜頼むよ〜……。確かに粘り強くいかなかった俺も悪かったけどさ……。     でもあいつがオイラを殴るから悪いんだYO〜……」 悠之慎「まったく……あのな、俺はドラえもんじゃないんだぞ?」 作戦が失敗に終わった今、結局は悠之慎に頼むことになりました。 だって俺、建物作る技術なんぞ無いし。 ええ、つまりは住処を創造してくだされと頼んでいるわけですが。 悠之慎「建物を作る経験が無いなら実際にやってみればいいだろ。     それこそいい経験になる」 彰衛門「グムッ……!なんという正論……!     馬鹿な……否定論ばっかりの悠之慎がこげな正論を……!     って、これってただオイラの言葉を否定しただけ?」 悠之慎「オイ。……ったく、なんだってお前は人の言ったことを素直に受け取れないんだ。     そんなだから要らない誤解もされるし、余計に傷つくんだろうが。     俺が否定論ばっかりの男だってのは認めるけど、     だからって俺の言葉全てが否定論だって言われるのは心外だ」 彰衛門「む……そりゃ確かにソーリー。だから家創造して?」 悠之慎「丁度、今までの修行でどれほど腕力が上がったか確かめたかったんだ。     全力で人を殴ったら何秒地上から居なくなれるか試していいか?」 彰衛門「ゴメンナサイ」 おおう……まさか人の身になっても目は変異するとは。 悠之慎ってば滅多に怒らない分、怒ると怖いのよね……。 ふざけて怒るのは何度も見てるが、純粋に怒ってる時の悠之慎って苦手です。 多分ね、すっごく怖いと思うから……俺でも手ェつけらんないと思うよ? 彰衛門「でもYO、ここらへんって木々があまりないよ?     家建てるにもどうしろってのさ。ていうかさ、悠之慎は家どうすんの?」 悠之慎「猫になって丸まる。     一応猫になった時の和服には防寒効果もあるからどうってことはない」 彰衛門「ぬう、でも病気になったりとかしません?     そりゃ俺の黒衣にだって防寒作用くらいあるけど」 悠之慎「死神は病気になるのか?」 彰衛門「───……おお」 言われてみれば、しませんな。 悠之慎「理解出来たらそれでいいだろ。それと、俺のことなら心配するな。     万一への心配事対策のイメージは服に大体的に組み込んである。     他にある心配事っていったら、誰かさんのアホゥな行動に頭を痛める瞬間だ」 彰衛門「………」 悠之慎「『結局要らないもの』をねだるのはよくないことだぞ。     けど───ああ。どうしても必要になったら言ってくれ。喜んで創造する」 言われてますなぁ俺。 けど良かった。 だって悠之慎ってば遠慮が無いもの。 俺のことを完全に『死神』って言ったし、それでも最後にゃニカッと笑ってくれた。 悠之慎が俺にしか見せない笑顔だ、 それは昔っからずっと信用できたものだから、酷く嬉しかった。 悠之慎「まず、小さくてもいいから畑と田圃を作るか。     それからいろんな果実も作ったりして、ゆっくりと行く末を見守ろう」 彰衛門「……何気にノってます?」 悠之慎「馬鹿おまえ、過去の時代の生活に憧れないヤツなんか居ないぞ?」 彰衛門「………」 その時の俺の心の言葉は、『ああ……悠介だなぁ……』でした。 つーかね、そげなこと堂々と言えるのって俺の知る限りじゃキミだけですよ? 【ケース31:兇國日輪守悠之慎/過去を愛する人】 過去での生活を始めて1日が経った。 俺と彰衛門はまず畑を耕すことから始める。 前日に地ならしはしておいたので、あとは地に栄養と肥やしとなる生き物を集めるだけだ。 悠之慎「この町の周辺、思ったよりミミズが少ないな」 彰衛門「んむ……これでは畑の成長もあまり望めません」 困った事実だった。 畑を育むためにはミミズは必要不可欠と言ってもいい。 農薬などは死んでも使わないと決めたからには、意地でもミミズは必要だ。 まあ農薬を使おうがミミズは必要になるわけだが、 害虫を殺すソレがミミズにとっては平気なわけがない。 故に意地でも使わない。 悠之慎「仕方ないな……畑を育むミミズが出ます」 畑を育むというイメージを組み込んだミミズを創造。 いや……困ったことにミミズの生態なんか知らないから、 姿カタチと畑を育むというイメージ以外は特に無い生き物だ。 一応創造したのは一匹だけだが─── 彰衛門「悠之慎?」 悠之慎「あ、いや……ちょっと待ってくれ」 畑ミミズを地ならしした土に潜りこませる。 ミミズは素早く地中に潜り込み、やがて───ゴォッファァアアアアアアッ!!!! 彰衛門「お、おわぁあああーーーーーーーっ!!!!!     すげぇ勢いで雑草が生えてきたあああああーーーーーーっ!!!!! 悠之慎「………」 理屈としては間違っちゃいないんだけどな……。 悠之慎「今のミミズを転移させるホワイトホールが出ます……弾けろ」 ポムッ……。 自分の手の平にミミズを転移させる。 これは明らかな失敗だ……。 悠之慎「自分のイメージにケチつけるのもヘンな気分だけどな……     俺が育んで欲しいのは畑であって雑草じゃないんだよ……」 イメージをミミズに上乗せして、もう一度土の中に潜りこませる。 一応『雑草だけ食う』というイメージ付きだから、作物は安心だ。 事実、土はどんどんと彩りを手に入れ、うざったいほどに伸びた雑草はすぐに死滅した。 悠之慎「よし、成功だ。もう種植えてもいいと思う」 彰衛門「オウケ〜イ♪……って、あ───」 悠之慎「……?ほら、種だよ種。昨日創造したの渡しといたろ。どうした?」 彰衛門「………」 悠之慎「………」 彰衛門が固まった。 先日、種入りの皮袋を腰に付けて誇らしげにポージングしてた彼の面影は、 そこにはもうなかった。 彰衛門「あ、あの……あのね?寝る前までは確かにあったんだよ……?     でもね?朝起きたらね……?     なにやら穀物っぽいものの破片が体の周りに落ちててね……?」 悠之慎「……おい、まさか……」 彰衛門「えーとね……?ど、どうやら野鳥に食されてしまったようでして……」 悠之慎「かっ───!このたわけぇえええーーーーーーーっ!!!!!」 彰衛門「キャーーーーッ!!!!!」 悠之慎「お前っ!どこの世界に野鳥の襲撃にも気づかずに熟睡する死神が居る!!」 彰衛門「お、押忍!貴君の目の前に世界代表が君臨しております!     不服ならばオイラが世界初になっても───」 悠之慎「なら世界初記念に空飛ばせてやる……!歯ァ喰いしばれ……!」 彰衛門「イヤァアアアアーーーーーーーッ!!!!!」 ボゴッシャァアアアアアアアアアンッ!!!!!! ───その日、ひとりの男が星になりかねんほどに空を飛んだ。 ───…………。 悠之慎「世界初男、それはそっちだ」 彰衛門「あい……」 とたとたとた…… 悠之慎「世界初男、それはそっちじゃない。こっちだ」 彰衛門「あい……」 とたとた…… 悠之慎「世界初男、こっちのこれ手伝ってくれ」 彰衛門「あい……」 顔を腫らした世界初男が悲しそうな顔で歩く。 腫れた頬にはマジックペンで『自業自得』と書かれており、 それがまた悲しみを引き立てる。 今現在は、空の旅から戻ってきた世界初男と共同作業で畑に種を植えている。 これが終わったら次は田圃だ。 彰衛門「あの……そろそろその『世界初男』ってやめません……?     俺物凄く後悔してるからさ……ほら、レーダーすら反応する始末ですよ……。     自分から後悔反応が出るなんて泣けてくるじゃない……」 悠之慎「そんなもん頬に書いてある通りだろうが……」 彰衛門「ウグッ……ウ、ウウーーーーッ!!!」 悠之慎「漂流教室はいいから、さっさと作業するぞ。今日中には終わらせたい」 彰衛門「ウウ……悠介ったら過去に来た途端俺に冷たくなっちゃってまあ……」 悠之慎「そんなもん幻覚だ。俺は普通通りだし、お前がアホゥに走るのも普通通りだろ。     ほら、それの何処に冷たさがある」 彰衛門「押忍!貴殿の普段のやさしさはバファリンに配合される成分にも届きません!     だから俺にもっとやさしさをプリーズ!詳しく言えばレタス食いたい!     畑耕すのもいいけど、レタスも作ろうよレタスも!!     それなら俺頑張っちゃうよ!?最強!俺最強!」 悠之慎「………」 レタスを育てるためのブツなら皮袋の中にあったんだが……。 悠之慎「解った、レタスも創るからちゃんと田圃作りも真面目にやってくれよ?     というかさ、お前って記憶の中じゃあ     畑や田圃を豊かにするのなんてお手の物だったじゃないか。     それがなんだってこんな手間ばっかりになってるんだ?」 彰衛門「そりゃあおめぇ、アレだ。     傍にみさおが居たし、ダメな見本を見せるわけにゃあいくめぇよ?」 悠之慎「……遊ぶなっつーとるのに」 彰衛門「ィヤッハッハッハ!!     ええじゃないの、ヘンに真面目にいくよりのんびりいこうや。     一年ってのは長いよ?大体にしてショーヘーは『数年後』っつーとったんでしょ?     だったらそれまでは長いんですから。今から気張ってたらマジで疲れますえ?」 悠之慎「む……」 それは、確かに。 未来の記憶があるから、長生きなんてするもんじゃないってのは良く解ってる。 悠之慎「……やっぱりお前ってこういう状況に慣れてるな。     俺はどうにもダメだ、趣味が先行しちまう」 彰衛門「伊達に累計1000年生きちゃいませんよ。     じゃけんど、過去に打ち込める趣味があるのはよいことですよ?     それって最大の暇潰しじゃないですか」 悠之慎「……それもそうだけどな。それだとお前の趣味が無いだろ」 彰衛門「いやいやそうでもない。     あたしゃあこう見えてもいろいろと暇の潰し方ってのを知っております故。     ヘタに現代じゃない分、過去だといろいろ出来ることがあるのですよ」 悠之慎「ん……そっか。それ聞いて安心した」 俺ばっかりが趣味に走るわけにもいかないし、 かといって畑や田圃を作らないわけにもいかない。 畑や田圃を作るのにはきちんとした目的がある。 悠之慎「……じゃ、作物が十分に育ったら町のやつらに配って回るか。     最初は怪しまれるだろうけど、そうやってこの時代に慣れていこう」 彰衛門「ん。さっすが悠介だ」 彰衛門はそんな俺の考えを汲んでいたのか、当然というかのように頷いた。 そんな時にやっぱり思うのだ…… こいつは理屈よりも先にその言葉に辿り着けるくらいの親友なのだろうと。 ここまで遠慮なくぶつかれる『他人』も、本当に珍しい。 それでもここまで一緒に馬鹿をしてきた時間はウソじゃない。 それを、俺は受け入れられたから。 悠之慎「よっしゃあ!目指せ過去の味!     現代社会に溺れた舌を、過去の味によって取り戻すのだ!」 彰衛門「オウヨーー!!って悠之慎?俺達の舌って他のヤツに比べりゃあ過去的ですよ?」 悠之慎「違う違う、過去の味を覚えるってことだ。     過去の土で出来る作物には興味があったんだ。     現代にはどうしても煙草や廃棄ガスなんかの匂いが微量でも大気中に混ざるだろ。     その点、この過去にはそういうものがない。     これがどういうことかお前なら解るだろ?」 彰衛門「ま、まさか……プリオン!?」 悠之慎「MMRはどうでもいい!!」 彰衛門「ま、まさに───複合クライシス(危機)!!」 悠之慎「だからっ!MMRはどうでもいいと言ってる!!」 彰衛門「ヌッハッハッハッハ!!まあよまあああよ!!時が来るまで楽しみましょう!     感情を受け入れた今こそ、     ほんに思いっきり楽しめる気がするんですよあたしゃあ!」 悠之慎「───」 その言葉に、一瞬呆然としてしまった。 けどそれは本当に一瞬。 自然に頭を掻いた俺は溜め息をひとつ吐き、呟いた。 悠之慎「まったく、お前は……」 続く言葉なんて特に無い。 それでもやっぱり、考えることは同じなんだと思う。 『こいつとなら、きっと楽しめる』と。 だから言葉を続かせるまでもなく手を弾き合わせ、ふたりで笑った。 ───そう。そうやって笑った時だった。 ゾッパァアアアアアアンッ!!!! 彰衛門「おわぁああああああーーーーーーーーっ!!!!」 悠之慎「ほうわああああああーーーーーーーーっ!!!!」 畑から謎の物体が飛び出しギシャアアアアアと鳴いてみせたのだ。 巨大であるそれは、なにやらどこかで見たことのある物体なわけで…… 彰衛門「レ、レタス……?まあ……あなたレタスなの……?」 その正体に逸早く気づいたらしい彰衛門がヨロヨロと近づいてゆく。 ───ってレタス!?あれがレタスか!? 悠之慎「ぐあぁあっ!!雑念でも入ったのか!?」 畑を育んだはいいが、どこかで捻れが生じたらしい。 畑に植えた全てはモンスターと化し、ギシャーーーと叫びまくってる。 彰衛門「そんな……!あの綺麗だった姿がどうして……!」 そうした不思議空間の中で、 彰衛門は子供の変わり果てた姿を見た母親のようにレタスモンスターに近寄りガブリ。 彰衛門「あれ?」 悠之慎「うおっ!?」 ……あっさりと食われた。 声  「きゃーーーっ!!!ちょ、ちょっとたんまーーーっ!!!     いくらオイラがレタス好きだからって食われてやるほど愛しくねぇーーーっ!!     へ、へるぷ!へるぷよーーーっ!!」 コリコリコリコリコリコリ……!!! 声  「うゎだぁーーーーっ!!いだだだだだ!!!     ななななにこのレタス!しっかり歯が生えてるよ!?     まだ青臭いボウヤだと思ってたのに、こげに成長して……」 サクッ。 声  「きゃーーーーーーっ!!!!やっぱたんまーーーっ!!!     刺さってる刺さってる!歯が思いっきり頭に刺さってるーーーっ!!     へるぷーーーっ!!これ以上はグロテスクな表現になってしまうーーーっ!!     そしたら少年が直視できないスプラッタなハウスがレタスの口内で展開されて、     ていうかレタスに口内があることを認めてる自分が物悲しいーーーっ!!!」 ゴクリ。 ……あ、飲み込まれた。 悠之慎「………」 あー……まあその、なんだ。 確かにあいつと一緒なら退屈なんてしないかもしれない。 呆れ果てることなら腐るほどあるだろうけど、 自分で選んだ行動に付き合ってくれる馬鹿が居るんだ。 それを喜ばない手は無いし、受け入れない手も無い。 だったたら、まずはこんな失敗事も笑って対処していこう。 悠之慎「───よし、まずはあのバケモノ作物をなんとかしないとな」 それもまた修行の一環。 刀剣を構えた俺は疾駆して、やがてバケモノ作物と戦うのだった。 ……その過程。 斬った部分から『キャーーーッ!!』という、 怪虫に襲われそうになった仲田くんの悲鳴が聞こえてきたが、 当然の如く無視することでその戦いは続行に傾き、やがて終幕を迎えたのだった。 Next Menu back