───たわけモン道中記13/そしてお馬鹿がもうひとり───
【ケース32:未来悠介/思考と覚悟】 ───……空界、ロトニウス地方上空。 悠介 「………」 それは、ディルゼイルの背に乗り風を切っていた時だった。 ふと───何気なく今までの自分を振り返った。 そろそろいいか、と思考した。 思えば散々なことを体験したものだと思いふけった。 臨死体験、死神との契約、ハトの創造からあらゆるものの創造、 人を生き返らせたり人をブラックホールに飲み込んだり。 悪霊退治やら死神退治やらモンスター退治もやった。 妻を持ち、子を持ち、孫を持ち曾孫を持ち。 集まればおよそ不可能はないんじゃないかってくらいの人達を知り合いに持ち。 だが─── 悠介 「……はぁ」 ……だが。 この世界に、この時代に、ただひとりの親友が居ない。 ディル『どうしたのだ王よ。溜め息など吐いて』 悠介 「……いや。そろそろいいかな、ってな」 ディル『む……?』 悠介 「俺さ、ずっと前から計画はしていたけど実行に移らなかった行動があるんだ。     それを、もうやっちまってもいいかな、って」 ディル『……よくは解らぬ。が───私は何があろうと王とともにある。     王よ、お前はお前の道を選べばいい』 悠介 「───……ん。ありがとな、ディル。     それじゃあ悪い、リヴァイアの工房に戻ってくれ。地界でやることが出来た」 ディル『そうか。だが王たる者がそうそう己の領地を捨て置くことは感心しない』 悠介 「大丈夫だって。きっと上手くいく」 ディル『…………?』 ディルゼイルは俺の言葉に困惑をしながらも飛翔する。 そんな忠誠に心から感謝しながら、この後のことを考えた。 ……ルナは納得してくれた。ああ、それはいい。 悠介 (それはいいが……あっちはどう思うかなぁ……) ちと不安だった。 もっとも、それ以上に楽しみでもあったが。 ───……。 ───地界、リヴァイア工房。 リヴァ「……なんだ、もう戻ってきたのか東の王」 戻った早々に言われた言葉がそれだった。 なんていうか俺、リヴァイアに敵視されてないか? 悠介 「ちょっと相談があるんだ。時間、いいか?」 リヴァ「ああ、腐るほど空いてる。言うなら言え」 悠介 「ん、それじゃあ遠慮無く。     過去の方のロディエルはどうなった?まずそれを確認したい」 リヴァ「ロディエルか───待ってろ、今過去のお前の記憶を映像に繋げる。     なぁにすぐだ、お前はそこで結果を待て……クックック……」 悠介 「マテ。いきなりプライバシー侵害してどうする───というより、     おいリヴァイア……?なんかお前、邪悪入ってないか?」 リヴァ「構うか、どうせお前だろう。晦悠介が晦悠介の記憶を見て何が悪い」 悠介 「過去と未来の違いはあるだろうが……って、お前苛立ってるだろ。     なにがあったのかは知らないが、怒り任せにヤケッパチになるのは感心しないぞ」 リヴァ「うるさい。どうせわたしはあいつの親友にはなれない存在だ。     お前はいいな、まったく」 悠介 「………」 親友……というと彰利関連か。 何を吹き込んだのかは知らんが……勘弁してくれ、 俺はリヴァイアに恨まれるようなことをした覚えはないぞ? ……空界でやってきたことの全てを含めて。 悠介 「彰利が何言ったのか知らないけどな、その親友のためにやりたいことがあるんだ。     ───違うか、これは自分のためだろうな。そうだ、自分のためだ。     いつかはやっちまおうと思ってた、一種の俺の我が儘だけど……うん。     ようやく決心も状況も落ち着いてくれたからな。     そろそろ決行しようと思うんだ。だから協力してくれ」 リヴァ「だから協力してやってるじゃないか。ほら、これがその映像だ」 悠介 「いや……だからな……?」 ふんっ、とソッポを向きながら、工房に大きな式の画面を広げるリヴァイア。 その画面には……どうやら過去の晦悠介の記憶が映し出されているらしく─── 悠介 「………」 その映像を見ていって、ますます乗り気になれた。 今度こそ覚悟は決まった。 もうぶらぶらする必要は無いだろう。 悠介 「黄昏も創れるようになったんだな。それも……鎌としてじゃない。     これか、ルドラが言ってた『俺の言』ってのは」 映像の中で詠われる詩の中には、確かに俺の深淵に浮かんだ部分もあった。 過去の俺はそれの全てを読み上げ、黄昏を展開する。 その創造力は黄昏に後押しされるように大きくなり、 だがその代わりに死神の要素を一切無くしてしまったようだった。 悠介 「……なるほど」 創造の理力……ルドラが言っていた『枷』のことはなんとなくは解る。 だがあれは、なんの消費も無く出来るようなものじゃないと思う。 あの言葉は恐らく、ルドラが『死神』として言ったものだ。 死神でもない『俺』が使えば、いつかはボロが来るんじゃないだろうか。 悠介 「───」 うむ、思考停止。 先のことなんて考えてたって始まらん。 今は今だ。俺は『あいつのため』を貫きゃいい。 悠介 「じゃあリヴァイア。ルナを呼ぶから、     ルナと俺をまず向こう側のルナが居る時代に飛ばしてくれ」 リヴァ「……?よく解らないな。何をする気だ?」 悠介 「彰利のためになることと、俺が楽しむこと」 リヴァ「…………」 リヴァイアはどうしてか難しい顔で俺を見たあと、しっかりとゲートを開いてくれた。 俺は俺で工房のドアをノックして晦神社に繋ぎ(この数年でリヴァイアが繋げた)、 軽く『ルナ〜』と声を放った。 すると即座に現れる自由奔放死神娘。 ルナ 「なになにっ?悠介〜♪」 悠介 「………」 地獄耳って、多分そのままの意味なのかも。 ねぇ?ハーフだけど死神なルナさん 悠介 「アレの話だ。今日にしたいんだけど、いいか?」 ルナ 「あ、アレ?ん、いいよ。悠介が行くんだったらわたしも行く」 悠介 「よし決定だ。あとは───リヴァイア」 リヴァ「なんだ、さっきから。言いたいことはいっぺんに言えっていつも言ってるだろう」 悠介 「悪い、もうちょっと時間いいか?凍弥と椛に言っておきたいことがある」 リヴァ「好きにしろ。ゲートは開けたままにしておく。      わたしは少し調べごとがあるから好きに使ってくれ」 悠介 「ん、解った」 言って、ドアをノックして今度はカンパニーに繋げる。 ほんとよくこれだけ繋げたもんだと驚くが……まあ驚くのなんていつでもいい。 俺は空間が繋がるのを確認すると、すぐにルナを引き連れて部屋を出た。 カンパニーの中を走り回り、 凍弥と椛の部屋へ行き当たるとノックもせずにその部屋に入り─── 凍弥&椛 『あ……』 悠介&ルナ『うおう……』 接吻してるふたりと遭遇した。 凍弥 「うぁわっ!うわわわわっ!!ゆゆゆ悠介さんっ!?     どどどどうしたんですか急に!ていうかこの屋敷に来る人で、     ここノックしてくれる礼儀正しいのって悠介さんだけだったのに何故!!」 悠介 「落ち着け」 椛  「お、おばあさま……いきなりどうして……」 ルナ 「落ち着きなさい。それとおばあさま言うな」 凍弥 「………」 椛  「………」 悠介 「……落ち着いたな?よし」 紅花の前で熱烈なる接吻をしてたふたりがようやく落ち着く頃、 話を切り出すことにした。 悠介  「単刀直入に言う。お前ら晦神社継げ」 凍弥&椛『え゙っ……!?』 あ、固まった。 悠介 「ほれ、これが権利書。判子に口座に……その他もろもろの権利だ」 凍弥 「いやちょちょちょちょちょっと待ってくださいいきなり何言い出すんですか!!」 悠介 「モノ言い出してんだコノヤロウ」 凍弥 「彰衛門みたいな切り返しはいいですから!!     神社継げって……悠介さんはどうするんですか!?」 悠介 「俺か?俺は……まあ定年退職というやつだ」 凍弥 「若すぎるくらいじゃないですか!!」 グワシィッ!! 凍弥 「ゴワッ!?」 やかましい凍弥をアイアンクローで黙らせる。 悠介 「椛〜?」 椛  「わひゃっ!?……は、ははははいっ、なんでしょうっ」 悠介 「ここに、神社とこことを繋ぐドアを創造する。     いつでも行き来が出来るし、カンパニーのやつらも気軽に利用できる。     言い回しみたいだな……てっとり早く言おう。神社に住め。     なにも凍弥に神主やれって言ってるわけじゃない。     ただ俺とルナは永い旅行に出るから、あとは頼んだって言ってるだけだ」 椛  「永い旅行……?ど、何処にですか?」 悠介 「知りたがりは長生きせんぞ」 椛  「………」 悠介 「あ、ちなみに。俺の『先』を月視力で覗こうなんて浅知恵を働かせようものなら、     我が左手を最大の武器とし、     戦斧石から流れ出る紅蓮がアイアンクローを凶器と変えることと知れっ……!!」 メキリキキキキキキキキ……!!!! 凍弥 「ごおおおおお……」 凍弥の体が浮いてゆく。 戦斧石の力は凄まじく、人ひとりを片手で軽く持ち上げてしまった。 ……というか。 凍弥の苦しみ方が異様に『けんけん猫間軒』か『殺し屋ジョージ』かに出てきた、 とある道場の猿の師範に首を絞められているウサギの苦しみ方に似てるんだが。 椛  「と、凍弥さんっ!?解りました!覗きませんからっ!!」 悠介 「ん、よろしい」 腕力にモノを言わせて持ち上げていた凍弥の体が畳につく。 凍弥 「いぢぢぢぢぢ……!!!」 椛  「凍弥さんっ……!」 両手で顔を押さえ、本気で痛がる凍弥がそこにいた。 まあ当然か、戦斧石の効果は俺も良く知るところだし。 椛  「もうっ……!いつもの冷静なおじいさまはどうしてしまったんですか!?     こんなの、おじいさまらしくありません!」 悠介 「フッ……冷静さなどは空界に降り立った時に置き去りにしてきてしまったよ」 椛  「な、なんですかそれは……」 悠介 「まあ気にするな。とりあえず神社はお前らに任せた。     けど篠瀬はちゃんと住ませてやること。     あいつがあっちの時代に居ようが、帰る家があるってのはいいもんだ」 椛  「それは……解ってますけど」 悠介 「よろしい。んじゃ行くか、ルナ」 ルナ 「もういいの?……ん、それじゃ」 悠介 「って待った。ルナ……お前は特に言うことないのか?」 ルナ 「言うこと、って……だってわたし、     もともと悠介が居なければ地界に永住なんかしなかったわよ?     悠介に言うことはあっても、他になんて特にないもの」 悠介 「………」 こいつは……どうしてこう人が答え辛いことを平気で言うかな……。 悠介 「解ったよ。……そのくせ深冬には一応いろいろ言ってくるんだろ?     自分が腹痛めて産んだ子が可愛くないなんてこと、ないもんな」 ルナ 「うぐっ……なんでわたしの行動が解ったの?」 悠介 「今言った通りだ。大体、これだけ一緒に居れば少しくらい解る」 ルナ 「………」 悠介 「……な、なんだよ」 ルナ 「ね、悠介。キスして?」 悠介 「たわけ」 べしんっ。 ルナ 「いたっ!……ぶー、いーじゃんちょっとくらい。なにさ、悠介のばか」 悠介 「やかましい、さっさと行ってこい。もたつくなら置いてくぞ」 ルナ 「全速力で行ってくるね〜♪」 引き攣った笑顔で、ルナが全速力を以って壁抜けをして消えていった。 ……慌ただしいけどまあいい。 悠介 「そんじゃな、神社のこと頼むわ。     神主やりたくなったら蔵にいろいろな資料があるから。     それと、北側にある屋根裏はそのままにしといていいぞ。     入ってもメイド資料館になってるだけだから」 凍弥 「メ、メイド資料館って……」 悠介 「彰利が作ってったモノらしい。     45年くらい前に、賽銭泥棒のひとりがそれを参考にしてメイド服作ってった。     メイド服の知識が無くてもそれが作れるくらいの異常空間だ、絶対に入るな」 凍弥 「………」 椛  「賽銭泥棒って……わたしが子供の頃に話してくれた『ウポ』のことですか?」 悠介 「そ。そのウポと一緒に居た女が作った」 椛  「………」 椛が凄まじい速度で表情を変えていった。 こいつがいくら彰利を『おとうさん』と呼ぼうと、あいつのメイド好きは絶対に治らん。 つーか……なぁ。 北側の屋根裏がメイド資料館になっていたのを見た時、 本気で思考が停止したのを覚えてる。 それなのにそこを片付けようとか思わなかった分、 彰利の記憶を忘れていた俺の深淵には 『メイド=彰利』という恐ろしい方程式があったのかもしれない。 ……そりゃあ、賽銭泥棒───木城と雷火っていったか? 木城がメイド服作って持ってきた時は本気で引いた。 どれくらい引いたかと言えば、俺とルナの顔が瞬時に引き攣るくらいだ。 悠介 「そういや、あいつら今何やってるんだろうな……」 またどっかで賽銭泥棒でもやってるんだろうか。 あの時は本気で呆れたからなぁ……って、その頃から俺って呆れやすかったのか。 いや、呆れるのは周りの所為だしな……。 【ケース33:45年前悠介/チームタナトスの雷火(ウポ)
と木城】 ───……。 その日はいい具合に晴れた心地の良い陽光の差す日だった。 家族だった人達が既に出ていった母屋は遙かに静かで、 既に俺とルナとセレスしか居ないその場所で、俺もまた静かに暮らしていた。 そんな日々の中のひとつの日。 俺は母屋に居なかった自分の娘を探しながらゆっくりと母屋を出た。 なんとなく神社の方に居るんじゃないかと思ったからだ。 悠介 「はあ……」 障害物が無い分、この晦神社付近はとても暖かい。 冬になればそりゃ寒いけど、耐えられないほどでもなかった。 悠介 「………」 娘は、生まれつき体が弱かった。 死神と人間の子ともなると、やっぱり一筋縄ではいかないのだろう。 医者に言わせればどこにも異常は見当たらないのだそうだ。 それで酷く納得した。『そりゃそうだ』と。 でも俺は、娘をハンディキャッパーとして扱ったりはしなかった。 心配といえば心配だけど、そう器用に立ち回れる人格者でもなかった。 早く言えば……子供にどう接していいのかが解らなかったのだ。 悠介 「……ん?」 石段の途中、お堂の方から妙な声が聞こえた。 それは───自分の娘の深冬と、他ふたりの声だった。 やっぱりここに居たのかと思うのとは別に、少し悲しい気分になった。 ……娘は神社に登って、毎日祈ってる。 『早く体が良くなりますように』と。 でも……俺とルナは深冬の体が治らないことなんて知っていた。 事実、『異常なんて無い』んだ。 ───ただ病弱なだけ。 人より弱く生まれてしまっただけなのだ。 床に伏せることが他の人より異様に多いだけの、それだけの子だった。 悠介 「───」 ……そんな子が、石段を登った先でふたりの人物に迫られていた。 頭の中にチリッと何かが動いたが、それを面倒くさく流してから近づいてゆく。 男  「オラオラ子供ォ、さっさと出さンかいクラッ!」 深冬 「ひっ」 女  「その若さで墓石に入りたくないでしょうがオォ!?」 男  「俺たちゃ親切で言ってンだよ」 女  「どっちみち取られるのですからぁ、     ケガする前の方がよくはないですか?ン?」 深冬 「うっ……うええ……」 深冬はあっさり泣いた。 まあ当然だ。 体が弱い上に、もし学校に友達が居てもこんな場所に遊びに来る馬鹿は居ない。 人付き合いに慣れていないのも手伝って、 泣きやすいのがこの頃の深冬のクセみたいなものだった。 深冬は泣きながら、手に持っていた財布とお菓子をふたりに渡す。 ……あのアホゥ、また自分の家の神社に賽銭入れるつもりだったのか。 男  「そうそう、それでいンだよボケが…」 女  「ホッホォ〜、持っとるのォォォォ」 深冬 「うっ……ひっ……」 ……まだ成長を望むには早いだろうか。 まあそんなことは今はどうでもいい。 子供からモノを奪うような輩には罰が必要だろう。 溜め息ひとつを吐いて、既にふたりの後ろに立っていた俺は拳を落とした。 ガンッ!ゴンッ! 女  「いたっ!」 男  「つっ!!」 悠介 「……なにやってんだおまえら」 ふたりは殴られたことに気づき、すぐに俺に向き直る───などということはせず。 まずは痛がった後に俺に向き直った。 女  「……?」 ……そのふたりの内の女の視線が、 やけにモミアゲに釘付けになってるような気がするが……そんなものは無視だ。 深冬はその場で完全に泣きそうになったが、俺の姿を見ると泣くのをやめた。 ……泣いてくれてよかったのにな、と思う反面…… 強い子になるなという親ばか精神が溢れた。 けどそれを言ってやれないところが、所詮不器用な父親の底知れだった。 男  「オウ、これを見な」 思考の最中、男が賽銭箱をコンッとノックする。 悠介 「───?家の賽銭箱がどうかしたか?」 男  「名前くれェ聞ィたことあンだろ。     チーム『タナトス』仕切ってるウポってなァ俺のことだ…。     口の聞き方過ったら死ぬぜ」 悠介 「………」 男  「ウダラ今鼻で笑っちょがァ!!売っとるぞ!こいつ完璧に売っとるぞ!!」 悠介 「呆れてんだよ……」 その瞬間、男の名前が『ウポ』に決定した。 こんなところでCOSMOSの名言聞くことになるとは思わなかったが、 自分の名前を名乗る気がないならそれでもいい。 悠介 「おいウポ、それとお前。この娘にそれ、返してやれよ」 ウポ 「誰がウポだコラ!!」 悠介 「自分で名乗っただろうが」 ウポ 「こォのタコ助がァ!!ゆでるぞコ───」 ───パゴォン!! ウポ 「ごぺっ!?」 言ったことの全てを頭ごなしに否定したそいつが空を飛んだ。 モノは奪うわ人の話は聞かないわ、名乗った名前すら自分で否定するわ…… とにかく礼儀知らずだったそいつを思いっきり殴った。 ウポは虚空を切り裂くように数メートル飛び、転がり滑る頃には動かなくなっていた。 悠介 「……お前はどうする?」 続いてゆっくりと女を見るが、女は意外と表情を変えないままに笑った。 女  「返しますよ。ですが条件付きで」 悠介 「条件?」 ……どういう神経しとるんだろうかこいつは。 人のモノを奪っておいて条件けしかけるなんて、どっかの地上げ屋かお前は……。 女  「お昼ご飯を恵んでください♪」 悠介 「………」 ……いや。 どうやら『妖怪・飯喰いお化け』だったらしい。 ───……。 ……で。 悠介 (どうして馬鹿正直に料理作ってやってるかな、俺は……) 本気で頭痛ぇ……本気か俺は。 けどまぁ一応、財布もお菓子も深冬には返ったわけだし───材料も丁度余ってた。 それはそれで別にいいか。 ウポ 「うんめえええええっ!!」 木城 「これはこれは……」 雷火(ウポ)と木城(料理を作ってる間に名前を聞いた)が食事を食い荒らす。 よほど腹が減っていたのか、それはもう狂うように。 しかし段々と腹が落ち着くと、ふたりの様子も落ち着いていった。 悠介 「よく食うな……」 木城 「お腹減ってましたからね」 ウポ 「くっ、神主さん、俺ゃあんたを誤解してたぜ……。     こんな美味い飯を作るやつに悪者はいねえ……」 悠介 「黙って食え雷火(ウポ)。それと悪者はお前らだ」 木城 「………」 ウポ 「くそっ……だがこの料理が美味いのは事実……言い返せねえぜ」 後悔に満ちた表情をした雷火(ウポ)だったが、それでも料理を食うのは忘れない。 大した根性だが、どこか哀愁が漂っているようにも見えた。  *教訓:自分の名前なんてそうそう偽るもんじゃない。 【ケース34:未来悠介/やりたいこと】 ───……。 ……んで、その後だったな。 その場にルナが壁抜けして現れて、 木城にいきなり『サインください!』とか言われたのは。 『空飛ぶ壁抜け空き缶女の子』って言われた時のルナの微妙な表情は今でも忘れん。 悠介 「うん、あの顔は面白かった」 ……面白かったが、どうしてか俺にまでサイン色紙とペンを渡すルナに困惑した。 言っておくが、サインを書いたのなんて生まれて初めてだった。 というよりまず、何故俺が書かなけりゃならなかったのかが解らん。 ……で、だ。 悠介 「そのサインのお礼がアレだもんなぁ……」 見事なまでに作成されたメイド服を思い出す。 ……それを見た俺とルナは、本気で思いっきり引いたというわけだ。 悠介 「……なにも置き土産にあんなもん選ばなくてもいいだろうに……」 むしろ和服だったら、製法から着付けまで全てを教えてやったんだが。 そしてゆくゆくは和をないがしろにしてしまっている若人達に、 過去の素晴らしさと和の素晴らしさをじっくりと─── リヴァ「おい……おい!」 悠介 「───ハッ!?」 リヴァ「しっかりしろ、なにブツブツ言ってるんだ」 悠介 「………」 気づけばリヴァイアの工房だった。 ……うわやべぇ、完全に意識飛んでた。 リヴァ「……あのな、ひとつ確かめたいことがあったんだが」 悠介 「あ、ああ……なんだ?」 リヴァ「彰利───いや、検察官は『メイド』ってやつに熱を上げてるな?     お前はそれを異様に思っているが、     わたしから見ればお前と検察官はそう変わらないと思うんだが」 悠介 「!!」 あ……ズガンッ!て音がした。 悠介 「な、なにを言うかぁあーーーーーっ!!!!     素晴らしき和とメイド服を一緒にするな!     お前はなにか!?俺に喧嘩売ってんのか!?」 リヴァ「怒るな。わたしはただ単純的な結論を言ったまでだ。     お前が和服や和を好んでいるように、検察官もメイド服とメイドを好んでいる。     ほら、差なんてものは種類の違いだけじゃないか」 悠介 「断じて違うわ!!」 リヴァ「熱をあげるって部分に違いなんて無い。     我を忘れるくらいに思考に没頭してたくせに、     その姿のどこに説得力があるっていうんだ」 悠介 「うぐっ───!!」 ……ヤバイ、反論、デキナイ……。 悠介 「あー……」 リヴァ「……まったく。本当にどこまでも親友なんだな。そんなところまで似るなんて」 悠介 「やかましい!!」 ああくそ、完璧に油断した。 アホか俺は……いや、和のことで周りが見えなくなるなんてアホでしかない。 しかしそれは忘れちゃならない意思であり……あぁぁぁああ……!! 悠介 「ルナァーーッ!!まだかルナァーーッ!!早く!早く行くぞォーーッ!!」 リヴァ「恥ずかしいからって逃げるな。ゆっくりしていけ、存分にからかってやるぞ」 悠介 「せんでいい!!」 もう確実だ。 なんでか知らんが、リヴァイアのヤツ俺を敵視してやがる。 もちろん思いっきりってわけじゃないんだが……ああ、 これはどちらかというと『拗ねている』感に似ている。 彰利……いったいリヴァイアになに言いやがったんだ……? ルナ 「お待たせ〜……って、どうしたの?悠介、疲れてる?」 悠介 「来たか……ああいや、なんでもない。行こう、とにかく行こう」 ルナ 「……?うん」 そうしてようやくリヴァイアが作ったゲートをくぐることになる。 そうすることで、俺とルナとで考えた悪巧みの第一作戦が実行されたのだった。 ───……。 ……。 で、過去の晦神社に降り立つ。 悠介 「フッ……準備いいか?」 ルナ 「フッ……いつでも平気」 さてこの作戦、相手にとってはとてつもなく迷惑な話である。 最初の標的はこの時代のルナ。 そいつを捕まえて、常識では考えられんことをするのだ。 それが第一使命。 第二使命は過去の俺を捕まえて、常識では考えられんことをすることだ。 まあ俺達は常識から外れてるからどうとでも考えられるんだが。 悠介 「反応は……滝壺の方からだな。いつもの深呼吸か?」 ルナ 「ん、そうかも。あそこの空気って美味しいから」 うんうんと頷くルナ。 確かに滝壺の傍は空気が澄んでいる。 澄んでいるが……なんか『死神が吸う空気』のイメージにはほど遠い気がする。 ルナ 「じゃ、行ってくるね。全力で捕らえてくる」 悠介 「おう行ってこい。ここで待ってられるか?」 ルナ 「平気でしょ。どうってことないよ。月癒力あるんだし、すぐ実行できるから」 悠介 「そか。じゃあ俺はみさおのところに行って、     過去の俺の居る時間軸に飛ばしてもらうか。     工房で見た映像によれば、『俺』はずっと昔に居るみたいだし」 月空力を創造してしまえばいいんだろうが、俺は時間軸を読むことは出来ないから無理だ。 昔に飛ぶっつったって無茶すぎる。 悠介 「じゃあな、頑張れよ」 ルナ 「わかってるー!」 わはー!と大きく手を振りつつ、ルナが滝壺方面に消えてゆく。 やがて『わきゃああーーーーーっ!!!!』という声が聞こえてくるが、 それもまたルナの声なので任せることにした。 俺は俺でやることをやればいい。 だってな、やっぱどう考えたってあいつの傍の方が楽しい。 悠介 「弦月屋敷へ続くブラックホールが出ます───弾けろ」 キュバァンッ!! 大きな球体を創造すると、すぐにその中に身を投じる。 すぐに開けた視界には弦月屋敷があり、 そこではみさおと聖が仲良くひなたぼっこをしていた。 その様はまるで、寒さから逃げるように固まる子猫のようだった。 悠介 「みさお、聖、ちょっといいか?」 みさお「むにゃう……ん、んん……あれ、悠介さん……?」 悠介 「おう、悠介さんだぞ。ちょっと頼まれてくれないか?     この時代の俺が居る場所まで俺を飛ばしてくれ」 みさお「…………───あぁっ!?悠介さんっ!?     この時代でなにやってるんですか!わ、わたしもう空界には行きませんよ!?」 悠介 「落ち着け、別に連れていきゃしない。     今、彰利とこの時代の俺が過去に飛んでるんだ。俺をその座標まで飛ばしてくれ」 みさお「な、なんでですか……?」 悠介 「…………」 みさおもほとほと懲りないな。 彰利と一緒に居るなら、『知りたがりは長生きしない』ってのが解りそうなものなのに。 悠介 「まあいいや。えーとな、ちと用事があって行かなきゃならんのだ。     というか───用事も無しに行くわけないんだから、     『なんで』って聞かれるのは妙な気がしないか?」 みさお「それはそうですけど、聞かなきゃ解らないことだってあります。     彰衛門さんは知りたがりは長生きしないって言いますけど、     知らなかったから長生き出来ないっていうこともあるんじゃないですか?」 悠介 「まったくだ。さあ俺を過去へ飛ばせ」 みさお「……人の話、全然聞く気ありませんね……」 悠介 「はっはっは、そんなことないぞーぅ?どちらにせよ行く必要があるんだ、頼むよ」 みさお「んー……わたしも行っていいですか?     考えてみれば、まだ義キョウダイのことで彰衛門さんに謝ってませんでした」 悠介 「義キョウダイ?     ……よく解らんが、俺がお前を止める理由は今現在持ち合わせていないな。     いいんじゃないか?」 みさお「そうですか。それじゃあ───あ」 ふと、みさおの目に聖が映る。 するとみさおの意気が消沈してゆき、『やっぱりいいです』と苦笑しながら言う始末。 悠介 「どうした?」 みさお「過去っていろいろ物騒ですから。     刃物が平気で出回ってる時代に聖ちゃんを連れていきたくないんです」 悠介 「……お前だけ来ればいいじゃないか」 みさお「そんなことは有り得ません。わたしと聖ちゃんは何処に行くにも一緒です」 悠介 「………」 まあ、なんだ?そんな友情もありか? 悠介 「そか。お前がそう決めたんなら俺がどうこう言う必要はないな。     それで、いいか?」 みさお「え?あ、はい。     彰衛門さんと、この時代の悠介さんが居る場所に転移させればいいんですね?     『刀』の力を使って、     彰衛門さんと悠介さんが行った行動を辿っていけば上手くいくと思います」 悠介 「よし、じゃあ頼む」 みさお「はい。……我が身を冥界に浮かぶ月の刀とし、この秘術を高める。     神魔融合法術───空狭・時空転移」 みさおの体が淡く輝く。 その様は、いつか彰利が冥月刀を介して月操力を使っていた時のソレに似ている。 みさお「いきますよ」 悠介 「ああ、やってくれ」 みさおの問い掛けに頷く。 その瞬間、みさおを包んでいた光が俺に移り─── ───…… ……気づけば、過去の景色に降り立っていた。 悠介 「………」 見知らぬ、ってのは当然だよな。 けどまあファンタジーなんかよりはよっぽど見慣れてる方だ。 悠介 「さて……『俺』と彰利は、っと」 目の前にある畑と田圃を見る。 なにやら激戦の跡も見受けられるが、見なかったことにしよう。 特に、すぐ近くに転がっているよく解らんバカデカイ緑色の物体とかは。 悠介 「……何処に居るんだ?」 感じる波動は……上? 悠介 「ん……」 見上げてみる。 丁度、そこには横に立つ木の枝があった……が、そこにニ匹の猫が眠っていた。 悠介 「あれか……?うりゃ」 どごっしゃぁあああああああんっ!!!! 悠介 「おわぁあああっ!!!」 『攻撃』というイメージを吸ったのかどうなのか解らんが、戦斧石が発動したらしく…… 軽く揺らすつもりで殴った木は、たった一撃でヘシ折れてしまった。 悠介 「………」 ま、まあ……一応猫は落ちてきたし。 俺は目を回している猫の内の黒衣を纏った方を摘み上げた。 悟り猫 「ゴ、ゴニャニャ……」 悠介  「ゴニャニャじゃない、起きろ」 悟り猫 「…………ややっ!?悠介でねが!って、アレ?悠之慎は?アレ?」 和服の猫「うぐぐぐぐ……だ、誰だこら……!」 悟り猫 「……ああ、そっちね。つーことはキミ、未来の悠介?」 悠介  「そうなる」 悟り猫 「ふむん?そげな悠介サンが何用で?」 彰利が器用に腕を組んでみせる。 俺はそんな『猫』に苦笑し、地面に降ろしてからもう一匹の猫を見た。 悠介 「こっちは過去の俺だよな?」 悟り猫「然り。“時操回帰(アフティアス)”」 和服猫「“時操回帰(アフティアス)”」 軽い合言葉のようなものを唱えると同時に、二匹の猫が人の姿になる。 彰衛門「で、どぎゃんしたとよ悠介。     こげな時代にまで追ってくるたぁなかなかやりますね」 悠介 「ああ悪い、今回用があるのはお前じゃなくてこっちだ」 悠之慎「俺……?なんだよそれ」 過去の俺は訳が解らんにしても、それ以上にぶっきらぼうな態度で迎えた。 ……他人から見れば俺はこういうヤツなのか、気をつけよう。 悠介 「お前、黄昏は創れるよな」 悠之慎「……ああ」 悠介 「よし、今すぐ創れ。俺も創る」 悠之慎「……待て、どうして───って訊くのもバカらしいか。     『自分』相手に苛立っても仕方ない」 悠介 「そういうこった。悪い方向には転がりようがない。いいから創れ」 悠之慎「やかましい」 悠介 「それこそやかましい」 彰衛門「…………なんだか置いていかれてますねボク」 彰利が少し悲しそうな顔をする中、俺と俺がゆっくりとそれぞれの『言』を唱えてゆく。 そうすることで、やがてはその場に木のある黄昏と木の無い黄昏が創造された。 悠之慎「……ようするに、『その気になった』ってことなんだよな?」 悠介 「解るのか?ってそうか、お前の中には俺の記憶もあるんだっけ。     まったくリヴァイアのヤツ、驚かすことも出来ないじゃないか」 だが目の前の『俺』からは拒絶の様子は無い。 それなら上等だ。 悠介&悠之慎『“超越せよ汝(クリエイション)”』 創造し、超越するものは『月癒力』。 やることなんてひとつだけだ。 未来は他のヤツらに託してきたし、ルナは一緒に来てくれた。 ルナはもう終わらせてるだろうし、あとは俺達だけだ。 悠介 「───」 悠之慎「………」 黄昏がゆっくりと『融合』してゆく。 それとともに俺と『俺』も。 それが俺の我が儘だ。 未来は他のヤツに全部任せて、俺はただ親友のために生きる。 ずっと前から考えていて、それでも躊躇していたもの。 それが、彰利がもう一度未来に来たことで決定になっただけのこと。 そもそも彰利には返さなきゃいけない恩が腐るほどある。 それは俺にとって、未来を───自分が住むべき世界を捨ててでも返したい恩だ。 なにより俺は……この馬鹿野郎の傍で、もっとバカをやっていたい。 悠之慎「……解るよ。どんな馬鹿やってても、傍にあいつが居なけりゃ意味が無い」 悠介 「……そういうこった」 そうなんだ。 確かにファンタジーの世界はわくわくした。 夢中になったし、無茶も沢山した。 けど、後になって思い返せば─── その瞬間その瞬間に彰利が一緒に居たらどうしてただろう、なんて考えばっかりだった。 だから吹っ切ることができたんだと思う。 凍弥と椛に全部押し付けるような結果になっちまったけど、 『背負え』と言った覚えはない。 あいつらがあいつらなりに、あいつららしくやってくれれば満足だ。 悠介 「言っとくけどな、お前に『譲る』気はないからな。あくまで『融合』だ」 悠之慎「そんなもん、言われるまでもない」 結局俺達の意思は『親友のため』ってところに落ち着いてしまう。 けど、その親友が存在しない未来ってのは案外寂しいものだ。 だから───キィイイイイ……パキィンッ!!! ……この、目を開けた先の景色の全てが、あいつのためになるように。 俺はもっと、あいつの親友であるために、融合を選んだのだ─── Next Menu back