───たわけモン道中記17/ガルガンチュア───
【ケース41:簾翁みさお/OHジョ〜ウナスァ〜ン】 ───……。 みさお「………」 なんていうか……平和です。 秋守    「王手」 彰衛門   「フフフ、擬態さ……!本物の王将はここさ!」 悠之慎   「おのれら将棋ナメとんのかぁあーーーーーっ!!!!」 秋守&彰衛門「おわぁああーーーーっ!!!!」 聖ちゃんが彰衛門さんの背中に張り付きながら喧噪に揺られている。 将棋のことでいきなり暴れ出す悠介さんも悠介さんですけど、 平然とイカサマだらけの将棋をする彰衛門さんと秋守さんも相当です。 みさお「あのー、いい加減寝た方がいいと思いますよ?」 彰衛門「なにを言うかお馬鹿さん!     いい若いモンがこういう時に夜更かしせんでどうする!     そう───それはまるで修学旅行に旅立った小僧どもの如く!!     騒げよ少年少女!枕投げに怪談話にトランプにウノ!     この世の修学旅行の全てはその夜のためにある!!」 悠之慎「そーゆーのはただのお泊り会って言うんだよ」 彰衛門「それこそアータお馬鹿さーん!!     教師の監視を掻い潜ってやるのがたまらねぇんでしょうが!!     その児戯に染まる勇気の無ェヤツは安らかに眠れ(Rest in Pease)
!!」 悠之慎「で、秋守。根四門の居場所は?」 彰衛門「無視ですか……」 至極普通に無視された彰衛門さんはどこか遠い目で悠介さんの背中を見た。 そんな中で悠介さんは秋守さんから何かを聞きだすと、ゆっくりと頷いて外へ。 みさお「あっ───何処に行くんですか悠介さんっ、もうこんなに暗いのにっ」 悠之慎「だから、ヤボ用だ。一緒に来たいなら止めないぞ」 みさお「全力で遠慮します」 悠之慎「………」 即答したわたしを見て、悠介さんが少し息を吐いた。 つまり、来ないんだったらわざわざ訊ねるなということだろう。 むう……気になるものは気になるんだから仕方ないじゃないですか。 なんですかその『彰利以外は深く俺に関わるな』って態度は。 悠之慎「そこ、妙な誤解するなよ?     お前の考えがどうであれ、お前には俺の目的は話しただろ。     妙な勘ぐりするくらいならそれを覚えておいてくれ」 みさお「目的って……あ」 そっか……この時代に来てからすぐ、悠介さんが言ってたことを耳にしたんだっけ。 その内容は『根四門』って人を倒すこと。だった筈。 悠之慎「じゃ、改めて。一緒に来るか?つーか来い」 みさお「え───え?えぇ……?えぇええええっ!!!?」 突如、ズカズカとわたしが座る場所に近づいてくる悠介さん。 彼の黒い和服から覗く、無駄な贅肉の無い引き締まった腕が、 わたしをまるで雑誌でも持ち上げるかのようにヒョイと持ち上げる。 みさお「わっ───ど、どういう腕力してるんですか!?片腕ですよ!?」 悠之慎「お前軽すぎ。ちゃんと食事取ってるのか?」 みさお「えっ?や、取ってますけど……」 悠之慎「そうか?その割に───って、そんなことはどうでもいいか。     そんじゃあ彰衛門、聖、俺はヤボ用済ませてくるから。     この用事が終わればこの場所の後悔も無くなるだろうから、     存分に楽しんでてくれ」 彰衛門「ム───つーことは、そやつを成敗したら次ってことかね?」 悠之慎「そーいうこと。そんなに時間は掛からないと思うから、出来るだけ迅速にな」 彰衛門「物凄い余裕ですな」 悠之慎「ん?んー……余裕かましてるつもりは皆無だ。     俺は俺で全力でたわけをブッ潰すだけだし。     考えてもみろ、そういう考えに余裕だのなんだのは関係ないだろ?」 彰衛門「そうかね。ま、頑張ってきんさい。あたしゃその間に一勝くらいはしてみせよう」 悠之慎「よっしゃあそれじゃあ賭けよう。     俺は『俺が戻ってくるまでにお前が秋守に勝てる見込みは無い』に賭ける」 彰衛門「うーわー、すげぇひでぇ親友。なんかキミあれだよね、なんつーの?     親友を名乗りながらその親友の彼女と相思相愛になっちまったってタイプ。     終いは親友に涙ながらに殴られて『里佳子を頼む』とか言われるヤツ。     主人公として最低だよなー、そういうタイプって」 悠之慎「いきなり訳解らん喩えを引っ張り出すんじゃない。     そもそも誰だよ、里佳子ってのは」 彰衛門「んあ?やー、なんてーかほら、     そういう物語のヒロインってそんな感じの名前が浮かばない?     『里佳子……!俺はお前を信じてたのに……!』とか。     あ、やべぇ。今俺の頭の中で鮮明にイメージできた。     これピッタリだよ、俺の想像の中の親友の恋人の名前に。     ってな感じでピピンッと来るモノがあるだろ?な?」 悠之慎「はぁ……どこぞの何かに出てきそうな『悪友キャラ』の真似するなよ……。     お前こそ『比喩』の時だけ口達者なくせに、     行動には移れないヘタレみたいじゃないか」 彰衛門「………」 悠之慎「………」 ガッシィ! 悠之慎&彰衛門『友よ……』 なんていうかもう相当に訳が解らないふたりでした。 なんだか握手して誇らしげに笑んでるし。 悠介さんも、状況によってはとことんまでに彰衛門さん寄りになるから性質が悪い。 似てないようで妙なところで似てるから困りものです。 彰衛門「トテアァーーッ!!合気道の一!小手返し!」 ───などと思った矢先、彰衛門さんが握手した悠介さんの手をギュッと捻ってガキィッ! 彰衛門「ややっ!?」 いや、捻ろうとしたみたいだけどビクともしなかったみたいです。 そればかりか握手したそのままの状態で片手で彰衛門さんを持ち上げた悠介さんは、 驚愕を隠し切れない彰衛門さんのお腹に拳を叩き込んでゆく。 彰衛門「ギャアアーーーッ!!こ、こゲフッ!!これはゲフゥッ!!     これは烈ゲブボッ!!れ───烈海王!?」 その光景はまるで、烈海王に翻弄される寂海王のようでした。 悠之慎「人をあんな顎マッスルに喩えるんじゃねぇええーーーーっ!!!!」 ズバァン!ドバァン!ズバァンッ!!ゴォッ───メゴシャア!! 彰衛門「キャーーーッ!!!!」 烈海王と言われた悠介さんは何が気に入らなかったのか、 片手一本で彰衛門さんを振り回してみせた。 その度に彰衛門さんの体が長屋の床に叩きつけられ、 それが三回続いた後に悠介さんは跳躍。 当然彰衛門さんも宙に浮き、最後は頭から板張りの床に叩きつけられていた。 彰衛門「オガガガガ……!!     きょ、今日からキミのことを七枷 社(ななかせ やしろ)と呼んであげましょう……」 悠之慎「そぉ〜ら〜を自由に〜、飛〜びた〜いな〜♪……ハイ、ナックルパート」 メゴボシャアアアーーーッ!!!! 彰衛門「ジェルァアアーーーーッ!!!!」 ……秋守さん家が鮮血に染まりました。 【ケース42:兇國日輪守悠之慎/漬物】 悠之慎「よっしゃあディル!北だ!とにかく北に進めぇっ!!」 ディル『承知!!』 大きく躍動するディルの飛翼が突風を生じさせ、俺とみさおを乗せた飛竜が飛翔する。 みさお「うわぁああああん!!いやです!わたしイヤですぅううううっ!!!!」 じたばたと暴れるみさをを強引に連れてきたのには意味が───無かったりする。 悠之慎「旅は道連れって言うだろ?そんなに嬉しがられると対処に困る」 みさお「今のわたしの何処を見て嬉しがられてるって言葉が出ますか!?」 悠之慎「知らん!いいから共に過去を汚すヤツをコロがしに行こう!     お前は過去の生まれだ!     過去に存在するたわけモンに人の道を教えてやりたくなるだろう!?」 みさお「そ、そんなの教えたくありません!ていうか悠介さんって元不良じゃないですか!     そんな人に人の道なんか教えてもらいたくないですよ!!」 悠之慎「不良でも過去が好きなら許される!!     うおおおーーーっ!!黒髪万歳!日本万歳!」 みさお「うわぁああああん!!また悠介さんが壊れちゃったよぉおーーーっ!!!」 悠之慎「面と向かって壊れたとか言うなっ!俺は正常だ!“───黄昏の骨子(ラグナサイス)”」 言を唱えて、風に当てられながら死神へと変わる。 黒い和服は黒衣に変わり、薄く赤い瞳はきっと深紅へと変わった。 ───そして、この身と思考を熱くさせる高揚感が再び俺の中に流れてくる。 悠之慎「───さぁ行こうか。過去を汚す困った奴にはそれ相応の罰を与えなければ」 自然、口の端が歪む。 それは俺を見たみさおが息を飲むくらいだ、それほどまでに邪悪なものだったのだろう。 気分は本当に高ぶっている。 嫌な意味ではなく───いや、捉えようによっては嫌な意味ではある。 気持ちを高める要素の大半が俺の中で蠢いているのだ。 まるで性質の悪いギタリストだ。 それは───ギターを掻き鳴らすことに気が高ぶりすぎて、 一気に押し寄せた感情の波をそのまま破壊に繋げてしまうような───ああそうだ。 これはきっとソレの状況に似ているんだと思う。 瞬間的な破壊衝動が何度も押し寄せてくる感覚と、 愛でていたものを刹那とはいえ思い切り振り回したくなるような衝動。 喉が渇き、目が軋み、脳を巡る思考が苦しいほどに回転する。 ああ───熱くてたまらない。 なんでもいいから破壊したくなる─── 悠之慎「ッ───ク、ガァッ……!!」 高揚感を分散させるように頭を振る。 彰衛門「よし悠之慎、その状態で“式”を展開して力の解放を!!     言は“レスト・イン・ピース”だ!!」 悠之慎「なんだよそりゃ!───ってうおっ!?」 みさお「あ、彰衛門さん!?」 聞こえた声に振り向けば、ディルの尻尾にしがみついている彰衛門。 ……と、その背中にしがみついている聖。 彰衛門「ふ、ふははははゲッホゴホッ!!俺だけ置いていこうとしても無駄ぞ!     俺ゃあ貴様の行く道を共に歩みギャアアアアアア!!!!     つーか顔痛い!!スピード速すぎ!!タスケテー!タスケテー!」 聖  「う、うううう……!!」 悠之慎「………」 無茶な乗り方をするふたりを見たら、少し気持ちが落ち着いてくれた。 悠之慎「……はぁ」 紅く軋む視界が少しずつ紅を落ち着かせてゆく。 なんとなくそうじゃないかって思ってたものが少しほどけた気分だ。 ようするに───彰衛門には創造は向いておらず、俺には死神化が向いていない。 悠之慎「あー、すまん彰衛門、聖。     ディルのヤツ、一度飛翔したら目的地に着くまで止まらないんだ」 彰衛門「ゲェエエーーーーーーーッ!!!!」 聖  「うぐぐぅっ!?」 彰衛門「ぬおお負けてたまるかぁああああっ!!!!     ───内なる闇より来たれ我が漆黒の波動───     ディエス・マイエス・ジェイド・シルフ・エル・エニテマウス───     ハグエル・ベリアス・メイモン・マルバス・レキエス・レキエル!!!     蔓延る光の中の闇の全てを辞さん───闇を弾きて汝はさらなる光となれ!     レェェェェェスト・イン・ピィイイイイイイイス!!!!!!」 今度はなんの真似なのか、 ディルの尻尾を離した刹那に自分の後ろに向けて青白い波動を放った。 その波動たるや、かなりの抵抗を生んでいるようで彰衛門の体を前へ前へと飛ばす。 彰衛門「ふははははは!!!速い速いぃ〜〜〜!!     マッスルドラゴンにも負けない速さだぜ〜〜〜っ!!」 悠之慎「お〜、速い、速いぞ〜。まさかディルに付いてこれるとは思わなかったぞ〜。     これで顔面が歪んで涙が飛び散ってなけりゃあまだ格好ついたんだけどな〜」 彰衛門「うぅわすっげぇどうでもいいような口調!!つーか速すぎ!顔面痛い!痛すぎ!     あの!?ディルさん!?もうちょっと速度落としません!?」 ディル『何故私が王以外の言葉を受け入れねばならぬ』 彰衛門「即答!?ギャアヒドイ!!悠チャーーン!!悠チャンお願い!     この解らず屋の家臣に王の偉大さで説得を齎してよもう!」 悠之慎「彰衛門、救いにもなりゃしないがこいつは俺の言葉も大して聞かないぞ」 彰衛門「ほんとに救いにならねぇーーーっ!!!」 聖  「う、うくっ……あぁうっ!!」 それは突然の出来事だった。 風圧に負けた聖が彰衛門の背から剥がされ、俯瞰の景色へと落下してゆく。 彰衛門「ややっ!?聖さん!?」 それに気づいた彰衛門がすぐに波動を止め、 ギャオッ!とドラゴンボールさながらの効果音とともに飛び離れてゆく。 みさお「彰衛門さんっ!?」 彰衛門「先に行ってろーーっ!!僕は必ず貴様らと合流するから!誓おう!ロミオ!!」 ……とまあそんなことを言って、やがて彰衛門と聖の姿は見えなくなった。 というよりディルゼイルが速すぎるだけ。 悠之慎「………」 みさお「………」 なんだか出た溜め息は、それはもう濃いものだった。 ───……。 ───……。 バサァッ!! ディルゼイルがとある上空で止まる。 見下ろしてみれば、無駄にデカイ城が。 それこそ、根四門というやつの城に他ならなかった。 みさお「結局来ちゃいましたけど……どうするんですか?やっぱりここは慎重に侵入して」 悠之慎「正面突破ァーーッ!!!!」 みさお「やだぁああーーーーーっ!!!!」 小脇に抱えたみさおとともにディルゼイルの背からレッツダイヴ!! 高揚感が抑えられない───いざ!いざ名誉ある戦いを!! ドッカァアアアンッ!!! お庭番1「な、何事!?」 お庭番2「どうした!曲者か!?」 かなりの高さから着地しようが、その足はてんで痛まない。 おお、さすが死神の体だ。 よし、人間に戻るのが怖くなってきた。 お庭番3「おのれっ……!砂塵で何も見えぬ……!」 お庭番4「塵など払ってしまえぃ!曲者であったら大事なるぞ!!」 お庭番1「お、おおっ!───お?」 ドココココォンッ!!! お庭番『ギャーーーッ!!!』 砂塵の中から『人の気配』を探り、槍を閃かせた。 結果的には声が聞こえなくなり、 砂塵が晴れる頃にはその場で寝転がっている四人のお庭版が確認できた。 みさお「……なんだか今、この人達が凄く可愛そうに思えました」 悠之慎「気にするな。したら負けだ」 家臣 「むっ!?く、曲者じゃーーっ!!出会え出会えぇーーーっ!!!」 みさお「あぁあっ!!なんだかどんどん泥沼に入ってる気がぁっ!!」 悠之慎「馬鹿おまえ!城に侵入して敵が来ないのは嘘だぞ!?おぉおおおおっ!!     夢にまで見た『曲者』って言葉!ナマで聞けるなんて最高だ!」 みさお「お願いですから!お願いですから帰ってきてください悠介さん!!」 ジャカチャーーン!!チャッ・チャッ・チャッ・チャ〜〜〜ン!! みさお「はっ!こ、この音楽は!!」 デーンテテーン・テケーテテーン! デッテッテ〜〜ケテーン!! みさお「あ、暴れん坊将軍!!     って悠介さん!音楽創造して遊んでないで───」 悠之慎「いざぁあああああっ!!!」 みさお「聞いてくださいよ!!」 みさおの言葉を無視して、槍を軽量鉄刀(例によって斬れはしない)に創り変える。 それを二刀用意して片手ずつに持ち、人の群れへと疾駆!! みさお「あぁああもう!!どうしてそう先のこと考えないんですかっ!!     ここで暴れたら家来の人がもっと出てくるだけですよ!?」 悠之慎「ばかっ!男ならこのシチュエーションで暴れないヤツなんて居ないぞ!?」 みさお「そんなの悠介さんだけですってば!!」 悠之慎「ええいやかましい!!オォオラァァッ!!!」 ギャガガガガガギィンッ!!!! 家来ども『ぐわぁあああっ!!!』 刀を手に襲い掛かってきた家来どもの刀を刹那に破壊する。 そう……こんな状況で高揚しない男など男ではないッ……!! 迫る悪漢どもを千切っては投げ千切っては投げ!! 悠之慎「フォオオオオオッ!!!!来い!どんどん来い!!」 みさお「……さようなら、凛々しかった悠介さん……。     貴方はもう戻れないところまで至ってしまったんですね……?」 悠之慎「人を精神異常者みたいに言うなっ!!」 ギャリィインッ!! 家来 「ぐああっ!!」 喋りながらも敵さんの刀を根元から破壊。 相手の凶器は少ないに越したことはないから。 家臣 「お、おのれ……貴様何者だ!!」 悠之慎「───!!」 き、来た!名乗りの場面が!! 水戸黄門ならばここで印籠を出すところだが、生憎と俺は持っていない。 だが!だがだ!この見せ場を最大限に、 且つ最高に盛り上げるための言葉は我が生涯の積み重ねが知っている!! 悠之慎「俺は───」 みさお「漬物です。美味しいですよ?」 悠之慎「───……」 頭の中でカラスが鳴いた。 家臣 「つ、漬物という名なのか……!おのれ!その名、忘れまいぞ!!」 家来1「くっ……!漬物とはふざけた名だ!!」 家来2「我らはこのようなふざけた名の者に負けたのか!おのれ漬物め!!」 家来3「漬物め!!」 家臣 「こうなれば───者ども!一斉にかかれ!相手はひとりじゃ!!     漬物だかなんだか知らんが、思い知らせてやれ!!」 家来 『ハッ!!この漬物がぁあああああっ!!!!』 ブチリ。 みさお「あ───」 ソノトキ ボクノアタマノナカデ ナニカガキレマシタ 悠之慎「ぬぅうがぁああああああっ!!!!!!」 家来 『なっ───う、うわぁああああああああっ!!!!!!』 【ケース43:簾翁みさお/ほんとにあった怖い話スィ】 これは……わたしが確かな後悔をした時の話です……。
キレた漬物と月の刀
                          体験者:屠神冥月(仮名)
ドゴベシャベキゴキガゴドゴメキャボキャガンガンガン!!!! 声  『しぎゃあああああああああっ!!!!』 みさお「うわ……」 修羅が居ました。 長い刀二本を手にした修羅が、確かに視界の中に存在しました。 目を深紅に染め上げて、 口からはゴファァアアアとよく解らない湯気のようなものを吐いてます。 呆れるくらいに集まってきたお庭番の人や家来の人達の悉くは瞬殺…… というか瞬時に倒され、庭の砂利の上や板張りの床で夢の中に旅立ってる。 ───本当に。 本当に怒らせないようにしよう。 キレた悠介さんはちょっとどころかかなり怖い。 もちろんこれは軽くキレたくらいなんだろうけど、それでも怖い。 悠之慎「………」 みさお「はうっ!?」 ふと気づくと、 口からゴファアアと煙のようなものを出している悠介さんがわたしを見ていた。 で、気づいた途端にわたしの脳内に駆け巡る闘争本能ならぬ逃走本能。 つまりは全身が『逃げなさいトニー』と命令を下しているわけで…… あぁあ混乱してますヤバイです。 悠之慎「オマエ ツケモノ イッタ オレ オマエ ブッチギリ」 みさお「あ、あの……何言ってるのかよく解らないから失礼させてもらっていいですか?」 悠之慎「ソレ キョカスル ゼッタイ ナイ」 無情でした。 悠之慎「アバラスタァアアーーーーーッ!!!!」 みさお「ひぃやぁああああああああっ!!!!」 やがて妙な言葉を絶叫して襲い掛かる悠介さんからわたしは逃げ出した。 脱兎も追い抜くくらいの速さで───そう、城の中の屋敷に。 ───今思えば、それは良かったのか悪かったのか……。 ドゴゴシャバキベキゴシャベキャドッガァアーーーンッ!!!! みさお「ひやぁあああああっ!!!!」 家臣 「ヒ、イィイイイッ!!!」 ベゴシャッ!! 家臣 「オゲッ!」 みさお「ああっ!オジサンが!」 ドゴシャアッ!!! 家来 「ヘボベッ!!」 みさお「ああっ!家来さんがっ!」 長い長い廊下を走る中で、一緒に逃げ回ってた人々が悠介さんの鉄刀の前に散ってゆく。 や、追われてるんだから前っていうよりは後ろなわけですけど。 悠之慎「ガァアアアアアアッ!!!!」 正直、なんというかこれによく似た場面を彰衛門さんの記憶の中で見たことがあります。 悠介さんは二本の野太刀を振り回しながら追ってきて、 そこら中にある屋敷の支柱とか平気で破壊したりしてるし。 なんでしたっけ……『バイオハザード』とかいうやつの、 ウィルスかなんかに侵されて巨大な斧振り回して追ってくる人によく似てる。 えーと、そう。確かドゴシャァアンッ!!! みさお「スティうひゃぁああああああっ!!!!」 曲がった角の壁が吹き飛びました!! 凄いパワーです!わたしの数倍はありそうです!! 掠りでもしたら死んでしまうんじゃないでしょうか!? みさお「あ、やっ……吹き飛ばされた家来さんたちは大丈夫だったんだし、多分───」 ドゴシャアァアアアアアンッ!!! 凄まじい轟音とともに、すぐ横の壁があっさりと破壊された。 みさお「うあぁああん!!こんな効果音じゃ安心出来ませんよぉおおっ!!!!」 悠介さんが正気に戻るより先に、わたしが殲滅されそうな気分です! もう余裕なんてありません!だって悠介さんとんでもなく足が速いんです! いったいどんな特訓したのかは知りませんが、 家系の身体能力なんてとうに超越しちゃってます!! それにプラスして死神の人外能力───なんだか泣きたくなってきました。 みさお「こ、ここここうなったらぁああああああっ!!!!」 その時。 きっとわたしの中でも何かが切れたんだと思います。 疾駆する体をさらに速めて、屋敷の奥へ奥へと駆けました。 こうなったら……ふふっ……こうなったらぁああ……!!! ───……。 ドゴシャァアアアアッ!!!!バキベキッ!メリッ!! 男  「何者だ貴様!ここをこの根四門の屋敷と知っての───」 みさお「見つけたァアアアアアッ!!!!!」 悠之慎「ガァアアアアアアアアッ!!!!!」 根四門「なっ───」 ドンガラガッシャンドカバキゴワシャァアアアアアアアアンッ!!!! 根四門「ひぎゃぁああああああああああっ!!!!!」 ……その後のことは覚えてません 気が付けば畳が敷かれた綺麗な部屋は無残に血が飛び散り 畳の上では血達磨になった根四門とかいう人が痙攣してて─── ただ あとから駆けつけた彰衛門さんと聖ちゃんが酷い絶叫を聞いたのだとかなんとか…… 【ケース44:弓彰衛門/フォーティーフォーソニックブゥ〜ンム】 ───……。 彰衛門「あー……なに?そんで暴走して?大好きな屋敷系ぶっ潰した挙句?     相手さんとは関係ない人までひとり残らずボコったって?」 悠之慎「うぐっ……」 事が済んでからしばらく。 止まることなく暴走してた悠之慎とみさおを月清力で沈め、今に至る。 いやァ〜ンア疲れましたよ?思いっきり暴れてくれるんですもの。 彰衛門「まあいいコテ、     根四門ってヤツもブラックホール行きになったことだし、次行こう次。     反応からしてこの時代からそう離れてないみたじゃし、     心境の変化なんてそうなぎゃあも。つーわけでGO!激しくGO!!」 みさお「あ、待ってください彰衛門さん。     後悔の念を潰す旅っていうのは教えてもらいましたけど、     それがどういうものに繋がるのかを聞いてませんよ?     どういう目的でこの旅を始めたんですか?」 彰衛門「THE!暇潰し!!」 みさお「………」 彰衛門「な、なにかねその目は!キミはなにかね!?私を疑っておるのかね!!」 みさお「そうじゃありませんけど……はぁ。     もういいです、次っていう場所に向かいましょう」 彰衛門「なんですかねこの……!」 みさおは心底溜め息を撒き散らし、 じゃけんど義キョウダイですから何処までも付き合いますよと笑って言った。 彰衛門「ム、義キョウダイを続けるだけの度胸は身に付きましたかね?」 みさお「無ければ言いませんよ。だから、思いっきり楽しみましょう」 彰衛門「……キミ、人の後悔なんだと思ってるのかね」 みさお「人の後悔を暇潰しに使ってる彰衛門さんに言われたくありませんよ!」 あら痛いお言葉。 返す言葉もござんせん。 ……からかう言葉ならあると思うけど。 彰衛門「ほっほっほ、まあそう言うでないみさおや。     じいやとしてもその言葉は痛いでの」 爺語を呟きつつ、みさおをそっと抱きしめた。 おおこの感触、まるで楓巫女のソレじゃわい。 みさお「わっ、ちょっ……ななななにするんですか彰衛門さんっ!」 彰衛門「む?ほっほっほ、顔を真っ赤にしおって初々しいのぅ。     しかしの、みさおや。親代わりになってほしいと言ったのはおぬしじゃろ。     じゃからじいやが責められる謂れは一切ないぞえ?」 みさお「そ、それはそうですけどっ……!」 屈み、正面から抱きしめたみさおを抱き上げる。 その過程で後ろから抱きしめるような体勢にして、頭を撫でてやる。 ……ハッキリ言ってみさおさん、耳まで真っ赤です。 彰衛門「おっほっほ、めんこいめんこい!さ、行きましょうぞ悠之慎よ」 悠之慎「……ん、そりゃいいけど。     お前さ、もう誰かの日常になるのはやめたんじゃなかったのか?」 彰衛門「別に誰にもやさしくしないって言ったわけじゃないって。     俺にとっちゃあ聖もみさおも娘みたいなもんだし、     可愛くないって言ったらそれこそ……嘘だぜ!?」 みさお「彰衛門さん……」 悠之慎「そこでわざわざ力込めるなよ……」 彰衛門「まぁよ、まぁあああよ。とにかくです。俺は誰かの日常になるのはやめたけど、     守ってやろうって思ったヤツの日常にはなりたいと思ってる。     楓巫女も楓も飛鳥も椛も、ミントもリーフも聖も、みんな俺から巣立っていった。     それが、今度はみさおの番になっただけさね」 みさお「あの……聖ちゃん、全然巣立ってない気がするんですけど……」 彰衛門「ノゥッ!聖は一度じいやから巣立ってますじゃ!だからOK!!     そして次はキミなのです!我が内に眠る全ての真髄をキミに!」 みさお「真髄って……あ、料理とかですか?」 彰衛門「料理に裁縫、炊事洗濯掃除と、その全てを叩き込みましょうぞ!     つーわけでみさおや?今からキミを娘として見ますのでそのつもりで」 みさお「えっ───」 アタイの言葉を聞いたみさおが、ふと俺の背中で眠っている聖を見た。 心配ごとがあるんじゃろうが、そこのところは安心させてやらねばなりません。 なでなで……。 みさお「あ……」 彰衛門「……大丈夫じゃよ。聖はじいやを取られたなどと言って、     みさおを嫌うような娘ッ子じゃないわい……。     じゃから……の、みさおや?     小僧や椛に甘えられなかった分、じいやに沢山甘えるがええ。     どんな我が儘も聞いてやるから、無理に強くあろうとするんじゃないよ……?」 みさお「彰衛門さん……」 彰衛門「楓巫女にも言ったが、わしゃあ貴様のような子供の味方じゃ。     じゃが、みさおがじいやから親離れしたいと思った時は───     遠慮無く、胸を張って巣立って欲しい。     じいやと悠之慎は既に子供を作れない状態じゃ。     じゃからの、貴様らのような子供達が     じいや達の分まで未来を築いてくれれば嬉しい。     わしはきっと、それを誇りに思えるよ」 悠之慎「……そうだな」 視線の先で悠之慎が小さく笑った。 死神に繁殖能力など無い。 そのことを、自分の親友もよう解っているのだ。 そして───自分がもう、誰を愛したところで子供を残せないことも。 悠之慎「次の後悔の場所が穏やかな場所だといいな。     ……なぁみさお、俺もお前にいろんなことを教えたい。     それを何かのために役立ててくれると嬉しいよ」 みさお「ゆ、悠介さん……」 彰衛門「ほっほっほ、これこれ……彼は今『悠之慎』ですぞ?     間違えてもらっては困ります」 みさお「あ、えっと……悠之慎、さん」 悠之慎「……ん」 名前を呼んだみさおの頭を、悠之慎が撫でる。 かつて頭撫で魔王だった彼の頭撫で……そういえば久しぶりに見た気がする。 悠之慎「じゃ、行くか」 彰衛門「オウヨ。んじゃ───月空力!」 キュバァンッ!! 虚空に月空力の渦を作って、その中に身を投じる。 抱きしめたままのみさおの感覚を懐かしく思いながら、 ただ───あの頃に感情があれば、もっと楓巫女にやさしく出来たんじゃないかと…… 小さく、その過去を思った。 Next Menu back