───たわけモン道中記19/破壊衝動考察───
【ケース47:弦月聖/心境。その狭間のコト】 ───……。 聖  「ン───……んぅ……?」 ふと目を覚ました。 いつの間に眠ってしまったのかも思い出せないままに意識を覚醒させて、辺りを見渡す。 聖  「神……社……?」 そう、その場は神社だった。 神社、といってもわたしが眠っていた場所は神社の傍にある竹林の影。 見渡してみればパパもみさおちゃんも悠介さんも居る。 倒れているパパに駆け寄りたい衝動に駆られたけど、 傍に居るふたりの存在がそれを許さなかった。 甘えたい。 甘えたいけど……人前では強くあろうと自分は誓ったから。 パパに甘えるのはふたりきりの時だけって決めたから。 聖  「………」 とはいっても、胸の高鳴りは止まらない。 パパが好きな自分が、今にも走り出そうとする。 その促しを振り払って、ただ自分の胸を押さえた。 ……落ち着こう、って。 聖  「ばかだよ、わたし……」 どうして……パパを好きになっちゃったんだろう。 あの人は『家族』を……『娘』を恋人として受け入るような人じゃないのに。 『親離れしよう』って思うたびに辛かった。 夢の中の過去でわたしのために衰弱しきったパパが悲しかったあの日。 それを思い出すだけで、今でも泣きそうになるくらいに辛い。 だから頑張ってパパに負担をかけないように親離れしようと思ってるのに……それが辛い。 パパの傍は暖かすぎて、離れることなんてきっと出来そうにない。 でも、終わりはきっときてしまう。 わたしが成長すれば、パパはきっとわたしを遠ざける。 ───解ってる。 それは全てわたしのためにしてくれることなんだってことくらい、解ってる。 でも…… 聖  「パパ……わたしは……わたしはいつまで……パパの娘で居られるのかな……」 ……離れたくない。 いつまでもパパの娘で居たい。 そうすれば……恋人にはなれなくても、ずっと一緒に居られる。 だから…… だから……─── 聖  「………」 ……強くなろう。 前に誓った気持ちよりも、もっと。 パパの重荷にならないくらい強くなろう。 そうすれば、どれだけ経っても傍に居てくれることくらい許してくれるかもしれない。 わたしはもう……パパが居ないとひとりぼっちだから。 パパはやさしいけど、筋の通らないやさしさはくれない人だから。 パパが居なくなったら、わたしはどうしていいか解らないから……。 聖  「───、……」 視界の中に居たみさおちゃんを、今度はハッキリと見つめた。 みさおちゃんも……いつまで一緒に居られるか解らない。 友達だって言ってくれたことはとっても嬉しかった。 でも───解らない。 わたしの何処が良くて友達になってくれたのか、全然解らない。 だからいつでも怖かった。 ううん、今でも怖いんだ。 ある日突然、わたしの中のなにかに呆れ果てて、離れていってしまうんじゃないかって。 ……わたしはパパとは違う。 パパが悠介さんを信じるみたいに一心不乱なことなんて出来ない。 もしそれが出来るとしたら、それはパパにだけなんだ。 だから……『友達を信じきる』っていうことがわたしには─── パパの娘のくせに、わたしにはそれがまるで解らなかった……。 聖  「パパ……」 パパ……パパはこんな娘をどう思いますか……? 一生懸命教えてくれて、倒れるくらいに無茶もして、それでも微笑んでくれたパパ。 そんな思いの『末』も理解出来ないこんな娘を…… 貴方は娘として受け入れてくれますか……? 聖  「っ……」 知らず、頬に伝うものがあった。 最初はじんわりと暖かいけど、途端に冷たくなるその雫が嫌いだった。 ───涙する度に思い出す。 わたしの所為で倒れて、わたしのために弱りきった笑顔を見せてくれたパパを。 あんな思いはもうしたくないから。 あんな思いはもうさせたくないから。 だから、泣いてなんかいられないのに……どうして─── どうしてわたしは、こんなにも弱いのだろう……。 聖  「………っ!」 嗚咽を潰すかのように涙をゴシゴシと拭った。 それでも嗚咽は止まってくれなかったけど、 固まったままだった視界をずらすことだけは成功した。 それを確認すると、今度はその場から離れた。 誰にも───パパ以外には誰にも泣き顔なんて見られたくなかった。 空界ではみさおちゃんの前で泣いてしまったけれど、 自分の意思が許されるのなら誰の前でも泣きたくなんてなかった。 弱さを見せる人は決まってる。 弱さを見せたくない人だって決まってる。 それが同じ人だっていうのがおかしなものだけれど、本当なんだから仕方がなかった。 声  「……、……?」 聖  「───?」 神社の外壁に沿って歩いていると、耳に届く声があった。 なにかな、と少し気になって、もう一度涙をゴシゴシと拭って歩いた。 女性1「あの、要芽様?」 女性2「私達をここに連れてきていったいなにを?」 神社の中の方で、三人の女性が何かを話し合っていた。 傍らには布団を被せられた男性がひとりだけ倒れていて、 死神の力の所為だろうか───その人の命が残り少ないことが解ってしまった。 要芽?「いやな、お前達にちょっと頼み事があってな」 女性1「頼み事……ですか?」 要芽 「ああ。実はな、今そこで眠ってる赤ん坊、葉流のことなんだが……」 女性1「要芽様!その子はそんな名前ではありません!」 女性2「その子は平八郎です!」 女性1「な、何を言うのです! その子は三平ですってば!」 女性2「いいえ平八郎です!」 女性1「三平です!!」 女性達は互いが敵同士ともとれくらいの険しさを出しながら叫んでいた。 言い合うふたりの女性からは……確かに叫んではいるのだけれど、 『覇気』というものが全然感じられない。 わたしはそのふたりの女性に嫌なものを感じていた。 喩えるなら『人なのに人であろうとしない』といった感じのものを。 ───ポン。 聖  「っ!?」 突然だった。 わたしの頭の上に何かが乗せられた。 びっくりして振り向くと、わたしの後ろで悠介さんが中の様子を見ていた。 聖  「あ、う……」 こういう時、自分はとても弱い。 好んで男の人と話そうとはしなかった自分は、パパ以外の男の人とはまともに話せない。 たとえこの人がパパが最も信頼する人であっても─── この胸の中で湧き上がる感情はきっと、嫉妬なんていう醜いものなのだ。 それがとても悲しくて……とても申し訳なかった。 悠之慎「無理して喋らなくていいよ。お前が俺のこと嫌ってるの、なんとなく解ってた」 聖  「えっ……?」 信じられない言葉を聞いた。 そんな素振りを見せた覚えがなかったのに、どうして───? 悠之慎「……ごめんな、彰利のこと独り占めにするみたいな状況になっちまって。     でも───お前にとって彰利がたったひとりの父親であるように、     俺にとってもたったひとりの親友なんだ」 聖  「………」 ……目の前で苦笑するように呟くその人は、 わたしの考えていることなんか解っているかのように小さく頭を下げた。 その態度がよく解らなかったのに、 どうしてこの人がわたしの考えていることを理解出来たのかが解ってしまった。 ……わたしとこの人は妙なところで似てるんだ。 互いに同じ人を必要と思い、辛い思いをしながらも生きてきた。 その過程でパパに苦労をかけたことが、この人にもあったんだ。 ケンカしたことだってあったのかもしれない。 それでも今のこの関係がある───そんな『現状』を持ったわたしたちなんだ。 自分の考えていることを汲み取るようにすれば、 似てる思考の先なんて簡単に見えてしまうのだろう。 ……なによりも、『思考』することを得意とするこの人なら特に。 悠之慎「お前が彰利にいろいろ教えてもらったように、     俺もあいつに教えられることは山ほどあった。     だから───今度はあいつに教えてやりたいんだ、『幸せ』ってやつを。     あいつはずっと『黒』として生きてきて───     幸せなんて意味も知らずに涙を踏み台にしてきた。     あいつは幸せなんて探す必要は無いって言うけどさ、     それなら誰かがあいつの代わりにあいつの幸せを探すことが出来れば、って……     俺はそう考えてきた」 ───生きることの意味と、死ぬことの答えを知っている人が居た。 その人は誰かのためばっかりに生きて、けれど幸せの意味も知らないままに歩いてきた。 ……千年間。 それはとてもとても長い時間だったに違いない。 悠之慎「あいつは馬鹿だから……どれだけ条件が揃ってようと、     自分に向けられる幸せがあったら他人に譲っちまうんだと思う。     あいつとの付き合いは長いから、それだけはなんとなく解る。     けどさ、そんなのはあまりにも残酷だろ。     だから出来ることなら……一緒に居て笑ったりすることしか出来ない俺だけど、     そんな俺でもあいつのために何かが出来るなら、って……ずっと考えてた」 聖  「………」 本当に呆れてしまう答え。 例えばずっと悩んでた問題があったとする。 自分はその答えをずぅっと探していたのに、いつまで経っても見つからなかった。 どうしてか、って自問自答も虚しく空に消えた。 だけどある日、それは簡単に見つかってしまった。 それこそどうしてかって思った。 ただ目の前には『自分の考えに似通ったものを持つ人』が居るだけだったのに。 でも結局、それが答えだったんだ。 ───自分には自分の心は見えないから。 だから自分に似たその人に会うことで、 自分の探していた答えが自分の中にあることが簡単に解ってしまった。 解らないことだらけで、手探りを続けて生きてゆく世界。 その中の何億分の一の自分が出せた答えは、やっぱりその人と同じで─── 聖  (ああ───) どうして今まで気づけなかったんだろう。 答えは本当に近くにあったのに。 あの人の傍に居たいと願える理由なんて、すぐそこにあったのに。 聖  「………」 小さく、だけど確かなやさしい微笑みがこぼれた。 この『聖』として産まれ、生きてきたわたしは─── 誰の前でもない……それこそパパの前でもないその人の前で、 初めてやさしい気持ちで笑みをした。 少し───ううん、とっても悔しかったけれど、それは仕方がないと思った。 だって笑むことが出来たのはパパを思ってのことだから。 だから、それは仕方がない。 わたしはやっぱりパパを独り占めにするこの人が嫌いだし、 同じ考えを持つという意味でもこの人が嫌いだ。 聖  「……初めてです。わたし、真剣にあなたのこと嫌いみたいです」 悠之慎「そか。いいんじゃないか?人生、綺麗事ばっかりじゃないから。     それがお前の感情の起伏に役立つなら、嫌ってくれて十分だ」 聖  「……あなたのそういうところ、半端にパパに似てるから嫌い……嫌いです」 悠之慎「構わないって。それより───」 悠介さんが三人の女性を見る。 言い合いを始めたふたりは本当にしつこいくらいにうるさい。 ふたりはひとりの子供を見て叫ぶくらいに言い合っている。 けど、そんなふたりを止める姿があった。 要芽 「ああもう!うるせえ!」 要芽、と呼ばれた人だ。 悠之慎「ゲッ……!!」 聖  「っ!?」 その人を見た途端、悠介さんの表情が固まった。 固まったそのままの状態で、『つ、塚本芽衣……!?』とか言ってる。 悠之慎「前世……!?前世か……!?」 聖  「静かにしてくださいっ……!気づかれたら大変でしょう……!」 悠之慎「い、いや……ここは未来のために輪廻の因果をブチャアと千切った方が───」 聖  「馬鹿なことを言わないでください……!」 何を考えてるんだろう、この人は。 こういう人のことを何かのきっかけで危険になる人って言うのかもしれない。 要芽 「いいか?お善、珠枝。こいつの名は葉流。     この男、純之上が友人から受け取った忘れ形見だ。分かるよな?」 珠枝 「要芽様!この人は純之上などという……!」 要芽 「うるせえ!てめえらよく聞け!     いいか?てめえらの夫はもう死んだんだよ!ガキも兄も共にな!」 お善 「……!」 珠枝 「……!」 ……え?死んだ……? 悠之慎「……やっぱりか」 聖  「え……?」 悠之慎「───秋守……晃……丁さん……」 すぐ近くでギリ、と歯が軋むような音が聞こえた。 その音に振り向くと、悠介さんが立ち上がって目を深紅から真紅へと変えていっていた。 悠之慎「……わり、俺……気ィ沈めてくるわ……」 聖  「───ッ!!」 怖いくらいの殺気だった。 思考が停止して、体が固まってしまうくらいの殺気がすぐ近くで放たれた。 震えることすら許されないわたしには、ただ─── 女性達が語る言葉を耳にすることくらいしか出来なかった。 【ケース48:弓彰衛門/破壊衝動】 彰衛門「う、むむ……む、むおお……」 ふと目覚めると、そこは神社の傍らの竹林の隅っこでした。 どうやらハンマーで殴られて見事に気絶していたらしいぜ〜〜〜っ。 や、キン肉マンチックに解説する余裕があるならまず立とうか。 ゴチャッ……ゴトゴキ…… 彰衛門「あいたたた……まったく無茶を───ウィ?おわぁっ!!」 ふと気配を感じて振り向いた───ら、その場におわすは悠之慎。 みさお「あ、悠之慎さ───ひきっ!?」 近くに居たらしいみさおもその気配に気づいて振り向くが、一瞬にして固まった。 そりゃそうだ、こりゃあ驚くなってのが無理ってもんです。 彰衛門「キャッ───キャーーーッ!!?お、おぉおおおお(はる)
さん!?     なに真紅眼の死神化してるんですか!?つーか怖い!マジで怖いって!!     落ち着こっ!?ねっ!?キミいつも俺に言ってるじゃん!───え?あ、あれ?     きょわぇぁああーーーっ!!?な、ななななに!?なんで頭掴むの!?     オリバ───オリバ!?違うよね!?違うって言って!!───え?違う?     そ、そうなの?よかっ……って、じゃあなんで頭掴むの!?     いたっ!なんか頭がメキメキって───いたっ!痛いって!     爪めり込んでる!メキメキいってるって!メキごぉおおおおぉぉおおっ!!!」 みさお「うわわわわっ!!悠之慎さんそれ以上は危険です!     彰衛門さんの両耳から謎の汁が飛び出してますよ!?     なにがあったのか解りませんけど落ち着いてください!」 悠之慎「彰衛門……晃達が殺されたぞ」 彰衛門「痛い痛い!ダメ!これ以上はダメ!やめて!     これ以上やられたら人様には見せられない危険なゾーンに───……あれ?」 今……なんと? 悠之慎「出来れば予想通りになんてなって欲しくなかったのにな……。     時間軸ってのは残酷だな、これほど思い通りにいってくれないものはない」 彰衛門「ンマー、そりゃあ俺も嫌ってほど知ってるけど。     ……そか。秋守達───死んだんか」 頭に蘇る秋守とのゲームバトル……後になればなるほど勝てなかった悔しさも相乗され、 ヤツとともに騒いだ日々が美化されて思い返される。 彰衛門「けどさ、実際時間軸の流れからして……言うのもイヤだけど、     運命っていうくらいに固定された事柄ってのがある。     秋守が住んでた町は───そういう事柄に縛られた場所だったってことだろ?」 悠之慎「解ってるよ。解ってるけど最初から決まっちまってることなんて嫌いだ。     そんな、最初から死ぬために生きたみたいな結果論なんて冗談じゃない。     だからそんな結果を齎しちまう存在が居るなら、俺はそいつを許さない」 彰衛門「ゼノは?」 悠之慎「認められるヤツはまだいいだろ。今のゼノはきちんと『相手』を選ぶ。     昔のゼノが望月恭介の魂を喰らおうと、     今のゼノが落ち着いてるなら文句なんてない。     それよりも───無差別に自分本位で領地の拡大とか言ってるヤツは許せない」 彰衛門「……あれ?つーと……」 悠之慎「お前も気づいてるだろ?あの街を壊滅させたヤツが居て、     その時代に近いこの時間の中に後悔があるとしたら、あいつが起こす後悔だろ」 彰衛門「………」 あー……なんつったっけ? 根四門……だっけ。またあいつが原因なのか? 悠之慎「あぁくだらない……     どうしてあんなヤツの所為で誰かの未来が潰されなけりゃならないんだ」 キャア、悠之慎ってば血管ムキムキ。 こりゃあ……やべぇぜ!?って───あ…… 悠之慎「……あ」 目の前で悠之慎が顔をしかめた。 悠之慎もどうやら気づいたらしい……神社の中で誰かが死んだ。 元々弱っていた気配だが、それが───今消えた。 彰衛門「……これは───純之上、か」 間違い無い。 消えた気配のパターンは桜純之上のものだった。 死神としての能力なのか、そういうものに敏感になっていた。 悠之慎「彰衛門」 彰衛門「オーライメェ〜ン!サーチライトオォーーーン!!」 ギシャアア!! 悠之慎「顔光らせるな気持ち悪い!!」 彰衛門「言うことヒドイよキミ!!べつにいいじゃない!!」 とはいいつつも後悔サーチを発動。 ───と、今ではないが近い内に迫る後悔を探知。 彰衛門「近い───近いわゴメス!これは」 悠之慎「ゴメス言うなっ!!つーか誰だよソレ!!」 彰衛門「知らんですじゃ!!むしろ俺が訊きてぇわ!」 悠之慎「誰か解らんのに自信満々に言うな!訳解らんぞお前!!」 彰衛門「人生いつでも訳解らん!故に運命に縛られていないことを実感出来る!     最強!コレ最強!俺も最強!俺様最強!超最」 めしゃり。 彰衛門「はぺっ!」 我が顎に鋭い一撃。 揺れる視界で見てみれば、呆れ顔で俺を見ている悠之慎。 その拳がモロに我がジョーに─── 彰衛門「フ、フフフ……!的確なナックルだぜトニー……!     おいちゃん思わず足にキて……」 悠之慎「で、みさお。これからのことだけど」 みさお「あ、はい。そうですねぇ……」 彰衛門「また無視ですか!?」 悠之慎「あ、なに?居たのお前」 彰衛門「居たでしょうが思いっきり!!     人の存在を忘却の彼方にスッ飛ばさないでよもう!!」 悠之慎「なぁ彰衛門、『近い』ってことは近い内に後悔が現れるってことだよな?」 彰衛門「人の罵倒も無視ですか……ソウデスヨー、近イ内ニ訪レルトデスヨー」 悠之慎「……そか。神社周りでいいのか?」 彰衛門「そうやのぅ、村から神社にかけてってところかいのぅ。     ……んむ、こりゃマジで近いですよ?」 悠之慎「───っ」 トンッ───ドシュゥウウウンッ!!!! 彰衛門「あっ!こ、これ!少しは落ち着きめされ───って速ァアーーッ!?」 軽い跳躍の後に弾けるような疾駆。 あっという間に悠之慎が視界から消えました。 みさお「……なんだか物凄くイヤな予感がするんですけど」 彰衛門「うおう……実は拙者も……」 それはとてもとても、なんと嫌な予感でしょう……。 彰衛門「ンマー、あれだけ張り切ってるなら見張りは悠之慎だけでOKザマショ。     どれ、みさおさんや?じいやが作法製法の一式を教えて差し上げましょう」 みさお「あ、はい。頑張ります」 コクリと頷くみさおの頭を撫でて、先のことを少々心配した。 せめて地獄絵図なんてものが描画されませんように。 ───……。 ……。 グツグツグツグツ…… みさお「あの……彰衛門さん?     人が死んだのにこうやって料理の練習してていいんですかね」 彰衛門「ほっほっほ、構わんよ。純之上とやらは死にはしたがなんとかなりそうじゃわ。     彼奴からは後悔反応は感じられぬ。     多分───この歴史、というのもヘンなものじゃが、     彼奴を蘇生させる術でもあるのでしょう」 みさお「そうなんですか?」 彰衛門「んむ、なんとかなりますわい。     それはそれとしてみさおや?この鍋は火の止めどころが肝心での」 みさお「あ、はい」 彰衛門「山菜ってのはなかなかどうしてアクが出るでの、     根気よくアク取りしてからゆっくりと火を弱めてゆくのです。     ここんところはまあ……焚火じゃあちと難しいんじゃけどね」 みさお「ふむふむ……」 日がゆっくりと傾いてゆく。 ゆったりとした時間の中で、 常備用裁縫箱とサバイバルセットを駆使してみさおに様々なことを教えてゆく。 やぁ〜、なんつーかこういう後継者を残すように誰かに何かを教えるのって嬉しいです。 拙者の知識なんぞで誰かが高まってくれる……それはなんとも喜ばしいことですじゃ。 みさお「味付けとかはどうするんですか?」 彰衛門「む、い〜い質問です!」 ズビシィと親指を立てて突きつける。 彰衛門「よいですか?サバイバルってのは手強いものですじゃ。     その時その時によって常備用の調味料とか持ってなかったら味付けは難しいです。     じゃけんどそんな時は物体に少し焦げ目をつけて素材の味を引き出すのです。     鍋の場合はそれも難しいけどね、そんな時こそ工夫を凝らして上を目指すのです」 みさお「へぇえ……そうなんですか……」 山から掘ってきた山芋をショリショリと削って鍋へ入れてゆく。 彰衛門「ン〜……ホイ」 ポムッ。 マツタケモドキを生やして抜き取り、それも削って入れてゆく。 月然力の強さによって笑い度を抑えられるそれは、 確かな味を誇っているので鍋に入れるだけで絶品料理が完成します。 みさお「いつ見ても奇妙な能力ですねぇ」 彰衛門「きっと生きすぎて脳内に妙な味わい菌が詰まっておるのですよ」 みさお「や、そんなこと満面の笑みで言われても……」 彰衛門「ほっほっほ、まあまあ」 鍋をくたくたと煮てゆく。 そげな中、鍋を挟んだ正面に居るみさおさんがなにやら拙者をじぃ〜〜っと見る。 彰衛門「む?なにかね?」 みさお「え?あ、えっと……」 ふと目が合った途端、みさおが顔を真っ赤にして俯く。 ───むう!そうか! 彰衛門「ほっほっほ、こりゃあ気づけませんと済まなんだなぁ。     よいですか?厠なら向こうの村の方にありますよ?」 みさお「───」 その瞬間、我が視界いっぱいに眩い光がドッガァアアアアアアンッ!!!! ───……。 ……。 彰衛門「ゲベッ!ゴベッヘヘヘ!!ゲッホゴホ!!い、いきなりなにをするのかね!!」 みさお「あ、彰衛門さんこそいきなりなんてこと言うんですかっ!!」 どうやらブラストを撃たれたらしい……顔面がヒリヒリします。 ていうかね?どうしてみんな顔面ばっかり狙うんでしょうね。 オラァそれが解らねぇだよ。 彰衛門「アァダラ!?オラァッ!!そりゃあ俺が悪いってことかね!?     おなごが顔真っ赤にしてモジモジしてりゃあ厠だって思うのは当然でしょう!?」 みさお「そ、そんなのじゃないです!わたしはただっ……!」 彰衛門「ただ?ただなにかね!ハッキリ言いたまえよ!」 みさお「で、ですから……」 彰衛門「なにかね!早く言いたまえ!」 みさお「そのっ……」 彰衛門「だからなにかね!私はこれでも暇ではないのだがね!」 みさお「だ、だからぁっ……!!」 彰衛門「なにかね!!そうやっていつまでも言わないつもりかね!!     キミは私を馬鹿にしておるのかね!!」 みさお「あのっ……そうやっていつまでも人の話を聞かないつもりですか……!?」 彰衛門「むっ!いい質問だ!サブリガをやろう!穿きたまえ!」 みさお「それはもういいです!!」 彰衛門「むう、なんとそっけない!そんなキミにサブリガプレゼント!」 みさお「いいですってば!」 彰衛門「拒絶ばっかりしていては碌な大人になれんぞ!だからサブリガを穿きたまえよ!」 みさお「い、いりませんってば!」 彰衛門「なんと謙虚な!そんなキミにサブリガを進呈!穿きたまえ!」 みさお「っ…………!!」 彰衛門「おお沈黙は美徳!高みを目指すキミにサブリガを贈ろう!さぁサブリガ!」 みさお「いい加減にっ───してくださぁあああああいっ!!!!!」 彰衛門「ややっ!?」 その時ボクは眩い光の凝縮を見ました。 そして悟ったのです、父蔵のように。 彰衛門(ああ……死ぬ……死ぬな……こりゃ……) ただ最後に言わせてください。 ツッコミは大事ですよ?ええ、大事です。 でもね?ツッコミに神屠る閃光の矢はどうかなぁ……って思うんですよボク。 ああ、そうこうしてる間に光が輝いてギャアアアアアアアア!!!!!! ───……。 ……。 彰衛門「う、むむ……む、むおお……」 プスプスと煙を上げる体を起こして目を開けた。 視界の先には怒ったような困ったような顔のみさおさん。 いやはやまったく無茶を───ドクンッッ……!! 彰衛門「───ッ!?」 みさお「ひうっ……!?」 意識が躍動する。 まるで後悔の念がこの世に溢れるかと思うくらいのものだ。 彰衛門「やべぇぞこれ……!急ぎますよみさおさん!」 みさお「は、はいっ!」 彰衛門「これ!親と娘の仲で『はい』などと言うでない!返事は『うん』ですじゃ!」 みさお「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!」 彰衛門「そんなこととはなにかね!     キミはなにかね!?私の娘にはなりたくないというのかね!?」 みさお「そ、そうじゃなくて───」 彰衛門「ならばなにかね!キミはわたしを馬鹿にしているのかね!?」 みさお「ああもう!この殺気の正体を調べないといけないんでしょう!?     それこそこんなところで言い合ってる場合じゃないですよ!」 彰衛門「こんなところとはなにかね!キミは神社を馬鹿に───」 みさお「アルファレイドォオオッ……!!」 彰衛門「ややっ!?キャアアーーーッ!!」 刹那!バカデカくて眩くて凄まじき光が瞬時に我が眼前にギャアアアアアアア!!!! ───……。 ……。 拙者はプスプスと煙を上げる体を庇いながら殺気が溢れる村へと向かっていた。 彰衛門「キミね!普通ツッコミにアルファレイド使うかね!?     さっきのはマジで死ぬかと思いましたよ!?」 みさお「彰衛門さんがもたもたしてるからですっ!!」 彰衛門「ンマーこの子ったら責任転嫁する気かね!?     じいやは貴様をそげな子に育てた覚えはありませんよ!?」 みさお「教わりはしましたけど育てられてはいませんっ!!」 正論だ。 彰衛門「ンマーそれはそれとしてさっさと行きますよ!?     村の方が凄まじいほどにやかましいですよ!     気配からして死んだ者は居そうにありませんが───」 ザァッ!! 彰衛門「っと……」 林を抜け、村の方へと抜け出た。 するとその景色に───修羅が存在した。 Next Menu back