───たわけモン道中記21/ホッと一息───
【ケース52:兇國日輪守悠之慎/………】 ───……。 悠之慎「………」 気づけば崩壊した村の中に居た。 ところどころは焼き爛れ───というか瓦礫の山となり、見上げてみればみさおと聖。 ふと手の平に何かの感触を覚えて見れみれば、ちょっぴり焦げて今が食べごろな彰衛門が。 悠之慎「……なにやってんだ?お前」 彰衛門「グビグビ……」 彰衛門は掟破りのロビンスペシャルをくらったロビンマスクのように泡を吹き、 ピクピクと痙攣していた。 悠之慎「……あー」 頭をコリコリと掻いた。 どうにも───神社を出てからの記憶が全く無い。 あ、いや……全くってわけじゃない。 神の子───遊羅っていったっけ?その子を逃がした覚えはある。 でもそれだけだ。 その先はどうにも…… 悠之慎「ぬう」 顎に手を当てて考えてみた。 それとともにゴシャアと持ち上がる彰衛門の体。 悠之慎「うおう」 ひとまずはそれを離して、思考を凝らしてみた。 ゴシャアという音とともに彰衛門の体が落ちたが、ひとまずは無視だ。 思考展開!!───カラカラカラカラ…… 悠之慎「うむ、見事なカラ回りだ」 こりゃいかん、どうしたものか。 悠之慎「高揚感は……無いな」 あれほどあった怒りの波動は無くなっている。 こんな景色を見たからだろうか……心が酷く冷めていた。 悠之慎「“超越せよ汝(クリエイション)
───月癒力”」 月癒力を創造とともに超越させる。 波動を村全体に流すと、廃れていた景色が元の景色を思い出すかのように元に戻ってゆく。 悠之慎「………」 村はこれでよし、と。 で─── 彰衛門「グビグビ……」 こいつ、どうしよっか……。 悠之慎「彰衛門の傷を治す霧が出ます───弾けろ」 指をパチンと鳴らす。 即座に創造される霧が彰衛門の傷を癒してゆく。 彰衛門「う、むむ……む、むおお……」 するとわざとらしい声とともに彰衛門が復活。 彰衛門「ややっ!?キャーーーッ!!!」 しかし俺と目が合うと、即座に逃走。 彰衛門「寄るなぁ!来るなぁ!モミアゲ魔人めぇ!!     来たら刺すぞぉ!本気だぞぉ!殺すぞコラァーーーッ!!!」 しかもヘンなこと言ってる。 悠之慎「……そういうこと言われる覚えがないんだが……何があった?」 彰衛門「そうやって俺を油断させてボコる気なんだろぉ!刺すぞぉ!本気だぞぉ!!」 悠之慎「………」 やっぱりよく解らん。 彰衛門に訊くよりはみさおに訊いた方が良さそうだな。 悠之慎「みさおー!現状の説明頼めるかー!?」 みさお「そうやって油断させて暴れる気ですねっ!?刺しますよ!?本気ですよ!?」 悠之慎「………」 やっぱり訳解らん。 悠之慎「聖───は……」 聖  「……!!」 悠之慎「あー……」 こりゃダメだ。 しゃあない、月視力を創造して過去を視るか。 悠之慎「クリエイ───」 彰衛門「隙ありゃぁあーーーーっ!!!!」 ドゴッシャッ!! 悠之慎「ごはぁっ!?」 突如、背中に衝撃が走った───つーか彰衛門がドロップキックしやがった。 悠之慎「て、てめっ……いきなりなにを───」 彰衛門「ブルドッキングヘッドロォーーックゥ!!!!」 ガッシィッ!!ドゴシャアッ!! 悠之慎「グギョオッ!?」 さらには倒れそうになった俺の首を極めて体重とともに倒す。 首がゴキリと奇妙な音を鳴らし、 激痛に苦しんでいる隙にこの馬鹿は次の行動に移っていた。 彰衛門「スコォーーピオンッ!!デスロォオーーーックゥ!!!」 うつ伏せに倒れた俺の足を掴んで極める。 それも全力で。 悠之慎「うゎだいだだだだだ!!!こ、こらっ!なにしやがっ───」 彰衛門「ヘイ・テリー!!」 みさお「おうっ!───フェニィックスニードロォーーーップゥッ!!!!」 彰衛門の合図とともにみさおが屈んだような状態で落ちてくる! 恐らくそのまま俺の背中にニードロップをキメるつもりなんだろう。 だとするなら一言言わせてくれ。 悠之慎「テリーマンはフェニックスニードロップなんて使わねぇえええーーーっ!!!!」 彰衛門「そんな言葉で誤魔化そうったってそうはいかねぇぜぇ〜〜〜っ!!!」 ギリリィッ!!! 悠之慎「ぐわだだだだだぁああっ!!!」 彰衛門がさらに足を極めようと、力を込めて海老反りになる。 その途端─── みさお「うわわわわっ!!彰衛門さんどいてくださいっ!!     そんなに海老反りになったら───」 彰衛門「え?あ、ギャア!!」 海老反りになった彰衛門の顔面目掛けてみさおのフェニックスニードロップがゴチャア!! 彰衛門「ぴゅぎっちゅ!!」 みさお「あぁあっ!!」 ベゴキュッ!!! 悠之慎「づはぁああーーーーーーっ!!!!」 顔面にニードロップが突き刺さった状態でも俺の足を離さなかったためか、 彰衛門の体が一気に反れたと同時に俺の脚関節が破滅的な音を演奏した。 みさおはみさおでバランスを崩して、 上乗せしていたらしい月然力・重力の所為で顔面から地面に激突。 目を回して動かなくなった。 悠之慎「いがっ……!くぁあ……!!は、離せ彰衛門……!     離してもらえなきゃ骨くっつけられねぇだろうが……!!」 彰衛門「ゲブッ……ゲブッ……」 みさお「きゅうぅぅう〜〜〜……」 訳も解らんままにほぼ全滅状態。 ただひとり元気な聖が、彰衛門と密着状態になっている俺を憎らしげに睨んでいた。 聖よ……こりゃ不可抗力って言うんじゃないか……? 悠之慎「とにかくっ……痛みを消して気付けになる霧が出ます───は、弾けろ……!」 伸びきり、今も尚プチプチと切れていっている脚の筋の激痛に耐えつつ創造。 それにより─── みさお「は、はうっ!?」 彰衛門「ムオオ!?」 ふたりが復活。 俺は早く離すように声を─── 彰衛門「おンのれ魔人め!よくも巧妙な手で我らを同士討ちにしおったな!?     この彰衛門、もう辛抱たまらん!!」 みさお「そうです!許しませんよ!?」 ───かける前にふたりが暴走。 悠之慎「なにっ!?やっ、ちょっと待───」 彰衛門「サミング!毒霧!眼底砕き!!」 トチュッ!ブシィッ!パキャア! みさお「耳削ぎ!風摩殺!くすぐり地獄!!」 ゾシャッ!ガコォッ!ワサワサワサワサ……!!! 悠之慎「ごわぁっ!ぐっは!いだぁっ!?ごげっ!?ぶはははははっ!!!!」 許さないとか言ったわりに姑息な手段の連発。 さらには噛み付いたり抓ったりエルボードロップしたり……ブチリ。 彰衛門「おやっ!?謎の効果音が!!謎なのにこの寒気はなんなの!?」 みさお「とんずらぁあーーーっ!!!!」 ドシュゥウウーーーンッ!!!! 彰衛門「あ、あれっ!?みさおさんどうして空に逃げるの!?なにかあるの!?     つーか『とんずら』って……待って!待ってよ!!     この膨れ上がる殺気はなに!?あ、待ってよ!ボクを置いていかないで!     膨れ上がる殺気に体が震えて───ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……!     震えてる……!!?わたしが恐れてる!!!敗けるのか!?このわたしが!!     恐れギョァアアアアアアアアアアアッ!!!!!     この頭を鷲噛む感触はなに……!?ていうか振り向きたくない!     振り向きたくないよ!振り向きたくないのに!     俺の首をゴキゴキと回転させようとするこの尋常ならざる力の波動はなんなの!?     やだぁあっ!!振り向きたくない!!でも逆らうと首が破滅的な音を出しそうで!     ちょっ───待って!待ってってばっ!いやっ!     こんな強引なのアナタらしくない!やめてっ!いやぁあああああっ!!!!」 ベゴキャアッ!! 彰衛門「うんじゅっ!!」 ───……。 【ケース53:弓彰衛門/カタムキサン】 彰衛門「キミってヒドイよね……人をほっぽって逃走するなんて……」 みさお「反対の立場だったら彰衛門さん、絶対に逃げ出してましたよ?」 彰衛門「そっ───そったらことありませんよ?」 みさお「だったらどうしてどもるんですか」 彰衛門「グ、グムーーーッ!!」 ……さて、現在は悠之慎さんにボコられてから数十分経った頃のこと。 今では悠之慎さんも落ち着いて、 というか無理矢理骨子を外した所為でグロッキー状態です。 一応鎌を体に埋め込める者同士、相手の鎌も抜き取ることが出来たのです。 取った途端に筋肉断裂して絶叫したあとにポテッと倒れて動かなくなったけど。 俺は悠之慎のデコをテシテシと叩いて大袈裟に息を撒き散らかしてみた。 彰衛門「ハフゥ、大体ね……無茶しすぎなんですよキミ。     家系の人ですら難しい体の酷使すりゃあ、     鎌を抜いた時に反動くるのは当たり前でしょうが」 みさお「驚きましたよ。彰衛門さんが悠之慎さんの体に手を埋め込んだと思ったら、     鎌を抜き取るんですから。しかもその途端に筋肉断裂で悠之慎さん絶叫。     のた打ち回って気絶するなんて相当ですよ」 聖  「……自業自得だよ」 みさお「わぁ、聖ちゃんたら容赦ない」 彰衛門「……ふむ」 聖さんから嫌悪のオーラが滲み出てる。 その矛先は……うおう、悠之慎に向けられてますな。 何があったのかは知らんが───面白そうなので良し!! 好き嫌いを正せと言うつもりは皆無です。 悠之慎の場合、誰に嫌われようと気にしないだろうし。 もちろん俺もだけど。 彰衛門「しっかしほんにステキな瞬間でしたね。     鎌抜き去った途端に『ブチブチギャアアアア!!!!』ですもの」 みさお「見ていて良い気分はしませんでしたよ」 聖  「………」 みさお「……んー……ね、聖ちゃん?どうして悠之慎さんを睨んでるの?」 聖  「……わたし、この人嫌い」 みさお「解らないでもないけど……なにかしたの?     悠之慎さん、わたしを連れ回すことはしても───     聖ちゃんにはなにもしてなかったと思うけど」 聖  「でも嫌い」 みさお「……ほんとに嫌われてますね。親としてのコメントは?」 彰衛門「私は一向に構わんッッ!!     むしろ感情を受け入れてからは感情の衝突とかに興味シンシンのお年頃です!」 みさお「千歳のジジィが何ぬかしてやがりますか」 彰衛門「言うことキツイよキミ!!」 みさお「あ、すいません。千と一歳でしたね」 彰衛門「細かいなチクショウ」 そうです。 すでに過去に来てから一年は経ってるわけですから───もう拙者、千と一歳なのです。 彰衛門「フゥ〜ンム……この時代の後悔ももう無くなったみたいだし……。     そろそろ次の時代に行きますか?」 みさお「それは構いませんけど。悠之慎さんはどうします?」 彰衛門「ンー、一応月生力流してるんですけどねぇ……てんで治らねぇ」 みさお「流してたんですか……?ただ座ってるようにしか見えないんですけど」 みさおが倒れた悠之慎の上に座る拙者を胡散臭そうな顔で見つめる。 彰衛門「失礼な。あたしゃしっかりと月生力流してますよ?     じゃけんど蓄積された疲労の量がハンパじゃないんですよ」 みさお「そうですか───あ、じゃあわたしも月生力を流してみますね。     発動せよ骨子の『刀』。増幅の糧となりて意思を受け取れ───月生力」 みさおが自分の中の冥月刀を発動させて月操力の力を増幅。 効果はやっぱり流石の一言ザマス。 あっという間に悠之慎は回復し、目を覚ました。 彰衛門「………」 みさお「えぅ……?な、なんですか?」 彰衛門「……ケッ、どうせオイラの月生力なんてクズですよ……。     人ッ子ひとり癒せられない脆弱能力ですよ……なんだいまったくちくしょい……」 みさお「イジケないでくださいよ」 彰衛門「いいんじゃよいいんじゃよ……どうせ拙者は……」 地面に『の』の字を描いてゆく。 適当にではなく、美麗に美麗に美麗に……キャアステキ! 俺は今、『の』の字を極めた!! 悠之慎「……頭痛ぇ……」 彰衛門「あっ!見てよ悠之慎!この『の』!すっげぇ上手くできてると思わない!?」 悠之慎「喩えるなら……『のたくったミミズが腕立て伏せしてるような字』……」 彰衛門「花丸家の文字!?キミそれすっげぇ失礼ぞ!?」 悠之慎「花丸……?なんだそりゃ」 彰衛門「い、いや……なんでもない」 みさお「『顔色が悪いようだが』とか言われたいですか?」 彰衛門「いりません」 別にモンゴルマンの真似したかったわけじゃないので。 悠之慎「なんのこっちゃ……そろそろ行くか?」 彰衛門「ちなみにモンゴルマンのパワーバランスを『モンゴル係数』と言い、     エンゲル係数に並ぶ語源の一であり」 みさお「はいはいデマカセはいいですから。月空力展開させてくださいよ」 彰衛門「ヘンッ、俺っちなんかより、     力の強いみさおさんが発動させたほうがいいに決まってるっす。     やりたいなら勝手にやればいいっす」 みさお「なんなんですかもう……教える人がイジケ人でどうするんですか?     わたしの親代わりになってくれるなら、もっと立派な人であってくださいよ」 彰衛門「……キミって親の性格とか知らないからそげなこと言えるんでしょうな」 みさお「なにを言うんですかっ!     わたしの父上と母上はそれはもう理知的で聡明な人です!」 彰衛門「嫉妬深くて喧噪の原因、の間違いじゃろ」 悠之慎「あぁ、そりゃ俺も同意見」 みさお「な、なにを証拠にそんなこと言うんですかっ!」 なにって……っと、悠之慎と目が合った。 で、頷き合う。 彰衛門&悠之慎『証拠っつーか、そのふたりの結晶である人物がここに』 みさお    「なっ───わたしの性格が悪いってことですかっ!?」 彰衛門    「嫉妬深いし」 悠之慎    「怒ると叫ばずにはいられないし」 彰衛門    「あ、そうそう、怒るっていやぁ怒り方が椛とそっくりなのな」 悠之慎    「だよなぁ。引くこと知らずの怒号女っつーのか」 みさお    「わたしはそんなのじゃありませんっ!!」 彰衛門    「あ、叫んだ」 みさお    「叫ぶなっていうのが無理ですっ!」 悠之慎    「冷静に怒ることも知らん」 みさお    「ステレオで馬鹿にされれば怒るのは当然ですよ!」 彰衛門    「いかん、それはいかんぞみさおや。         怒るなとは言わんが、怒るにしても楽しみながら怒らねば」 みさお    「楽しみながら怒るって───」 悠之慎&彰衛門『状況を楽しみに繋げる怒り方をすればいい。         完全に怒るんじゃなくて、         相手を思いやれるくらいの理性を残して怒るんだ』 みさお    「……悠之慎さんにだけは言われたくありませんね」 悠之慎    「なんでだよ……」 首を傾げる悠之慎。 拙者はそげな悠之慎に、過去視を映像化したものを見せるのであった。 ───……。 悠之慎「すこぶる申し訳ない」 それが彼の出した答えだった。 悠之慎「ヒドイなこりゃ……まさかこんなことになってるのとは……」 『確かに怒りに飲まれる感覚は覚えてるけど』と続ける悠之慎。 その顔はかなり嫌そうな顔だった。 みさお「ほんとに強いですよね〜……     あ、ちょっとこの映像の中で使ってる槍を貸してもらっていいですか?」 悠之慎「んあ?ああ、いいけど。ほら」 パチンと指を弾くと、みさおの手の平に槍が創造される。 おお便利だ。 みさお「ふえぇ〜〜……手の中にあるのに重さを全然感じません……。     これが一秒に六を連ねる理由ですか……」 と、みさおが槍を振るう。 しかし───せいぜいで三突き。 それ以上は達せないようだった。 みさお「………」 悠之慎「……なにかな、そのシンジラレナイものを見るような目は」 彰衛門「そうじゃよ?ホレ、貸してみ?」 驚愕の顔で悠之慎を見るみさおの手から槍を受け取る。 それを構え、いざ空連ねを。 ───しかし。 彰衛門「………」 限界で四。 悠之慎と同じ構え、同じ突き方でやると、どうしても四が限界だった。 悠之慎「だから……なんだよそのシンジラレナイものを見るような目は……」 実際にシンジラレナイものなんだから仕方ない。 彰衛門「だってYO〜、一度突いた後に十分後ろに戻してから突いてんだぞ?     それをもう一度突くって動作なのに、どうして一秒で六回も連ねられるんだよ」 悠之慎「……珍しく普通に驚いてるんだな」 彰衛門「そりゃ驚くって。どういうトリックザマス?」 悠之慎「トリックっていうかな……戦斧石のお蔭なわけだ、これは」 彰衛門「センブセキ?なにそれ」 悠之慎「ミノタウロス倒して手に入れた石のことだよ。     身体能力と武器の攻撃力を上げてくれる効果がある。     一秒に何発も攻撃できるのはそれのお蔭だな」 彰衛門「なぁんじゃい、道具に頼ってたのかYO。     ハハン、それならアタイが負けるのも当たり前よね」 悠之慎「みさお、なんだこの異常にムカツク物体は」 みさお「さっきから『自分の力が地味に思えてきた〜』ってスネてるんですよ」 悠之慎「……小学生かおのれは」 思いっきり冷めた上に呆れた顔で見られました。 ある意味滅茶苦茶ダメージデカいです。 悠之慎「ったく……アンテ」 などと傷ついていると、 悠之慎が首に下げた小さなカードプレートに手を当てて何か呟いた。 したっけ、悠之慎の目の前に大きな皮袋がポムッと出現したとですよ。 悠之慎はその皮袋をゴソゴソと漁ると、綺麗な石をアタイに向けて投げ渡した。 悠之慎「ほれ、それが戦斧石だ。手に持って行動してみろ」 彰衛門「あ〜ん?まったくなんだというのかね……。     こげなもんで強くなれるんだったら世界中は苦労しないんですよぉ?     やれやれじゃよ、所詮文化が違うんだよ文化が……」 言いつつも、手にした槍で風を貫くように突いてみた。 すると───ビュボッ!という効果音とともに、 確かにその速度が速くなっていたのを感じた。 彰衛門「………」 OH……空界ってすげぇ所。 悠之慎「正直、今ならそれが無くても一秒に六連ねくらいは出来ると思う。     ……ああ、もちろん死神の状態でだけど」 彰衛門「ウィ!?それじゃあなにか!?     キミは暴走してた時は手加減してたってことかね───って、     あぁ……そういやしてたんだったね……」 悠之慎「速いだけなら誰でも出来るだろ。     それこそ威力気にせず突くだけなら───彰衛門、石返してくれ」 彰衛門「む?オウヨ」 悠之慎「悪い。───“黄昏の骨子(ラグナサイス)”」 石を投げ渡すのとほぼ同時に、悠之慎が体の中に鎌を埋め込む。 すると悠之慎の着衣が黒衣に変わり、薄い赤の目が深紅に染まる。 悠之慎「疾───」 ヒュッ───ォウンッ…… 彰衛門「……オウ?」 風が吹き抜けた気がした。 しかし何がどうということはなく……むう? 聖  「……?」 みさお「……あ。あぁっ!?あ、あああ彰衛門さんっ!服っ!服っ!」 彰衛門「むっ!?ってうおっ!?」 みさおが拙者の黒衣を指差して大変驚いていたもんだから視線を落とすと、 服に穿たれた10個もの穴に気づく。 悠之慎「……とまあ、『速い』だけならこれくらいは出来る」 彰衛門「………」 ……や、さすが一日たりとも修行をサボらん根気の人です。 あんたホンマに人間超越しちゃってるよ……。 なんてこと俺が思ってると、悠之慎は伸びをして息を吐いた。 悠之慎「しっかし……なるほど、今さらだけど納得できた。     前にシェイドが言ってたな、免疫がどうとか。     一度暴れればイヤでも免疫は出る、か」 彰衛門「オウコラテメェ!なにひとりで納得しとんのかね!     訳解らんから説明プリーズ!     それといつかキミの技量を超越するから俺はまだ負けてません」 悠之慎「こだわるなぁ……。一緒の内容で修行するかって言ったのを断ったの、誰だっけ」 彰衛門「一緒の修行じゃ意味ねぇのよ!!やっぱ独力で強くなりたいじゃない!ね!?」 悠之慎「えーとだな、みさお。俺が話そうとしたのは俺の高揚感の話でだな」 彰衛門「またかよ!もう無視されるの飽きたよ!ねぇ聞いて!?俺の話を聞いてよ!」 悠之慎「俺は一度、文化祭で小さな暴走をしたことがあるんだ。     そのことについてシェイドのヤツに『免疫』のことを言われたことがある」 みさお「はぁ。それと高揚感のことと、どんな関係があるんですか?」 彰衛門「………」 ……今日は……悲しい風が吹いてるな……。 悠之慎「ようするに───知らない間に暴れたお蔭で免疫が出来たんだ。     だから死神化しても滅多なことじゃ暴走はしないし、     暴走したとしてもそれによってまた免疫が出来る。     だからまあそれはそれで安心の要素が出来たってことで」 みさお「簡単に言ってくれますね……。わたしと聖ちゃんはともかく、     そこで黄昏て遠くの景色を見ている人は散々な目に合ってるんですよ?」 彰衛門「ナ・ナナナナナ〜ナナ・ナナナナナ〜ナナ・ナナナナナ〜ナナナナナ〜ナ〜」 悠之慎「黄昏てるというよりは腐ってるな」 みさお「……そうですね、前言撤回です。聖ちゃん、慰めGOです」 聖  「う、うんっ」 聖さんが拙者に話し掛けてきた。 じゃけんど拙者はボ〜ッと黄昏ながら遠くの景色を眺めていた。 それでも聖さんを胸に抱いて頭を撫でることを忘れないかぎり、 拙者の親馬鹿はなかなかに筋金入りに近いらしい。 【ケース54:簾翁みさお/ダットさん】 ───……。 彰衛門さんに駆け寄る過程、射抜くような嫌悪の目で悠之慎さんを睨む聖ちゃん。 なにがあったのかは解らないけど、相当に嫌われているらしい。 みさお「……聖ちゃん、素直だから『嫌い』って言ったからには相当嫌いますよ?」 悠之慎「俺は全然構わないけど。     誰に嫌われようが、あいつと一緒に馬鹿やって歳取れればそれでいい」 と、悠之慎。 口ぶりからするに、本当に聖ちゃんのことはどうでもいいらしい。 みさお「悠之慎さん……そんなことを言う人のどの口が、     『友達馬鹿』じゃないなんてことを言えるんですか」 悠之慎「この口だ。文句あるかコノヤロウ」 わたしの問いに自分の口を指差して応える悠之慎さん。 彼は案外ヒネクレモノなのかもしれないと思ったのはそんな時でした。 みさお「普段性格が似てないくせに、こういう時だけは似てますよね」 悠之慎「やかましい。とにかく今は高揚感の心配はないから安心してくれていい。     まあそんなわけで───おい彰衛門、そろそろ次行くぞ〜」 安堵の溜め息───自分に対する安堵っていうのも妙なものですけど、 そんなものを吐き捨てて悠之慎さんが彰衛門さんに声をかける。 けど─── 彰衛門「ル〜ルル〜ル〜ルル〜」 彰衛門さんはどこか遠くを見る目で鼻歌に似た悲しい曲をさえずっていた。 悠之慎「よし行けみさお。アルファレイドだ」 しかもそんな彰衛門さんを見て悠之慎さんの一言。 とことん救いが無いです。 みさお「黄昏てる親友を気づかせるためになんていう手段選びますか……」 聖  「……!」 みさお「ほらほら、あんまり彰衛門さんを傷つけるようなことをしようとすると、     聖ちゃんにもっと睨まれちゃいますよ?」 悠之慎さんを睨む聖ちゃんの後ろに立って、その両肩に手を置きながら言う。 けど悠之慎さんは気にした風もなくあっさりとした口調で─── 悠之慎「だから。俺は誰に嫌われようが構わないって言っただろ?」 なんてことを本当にあっさりと言った。 どうやら本気らしい。 みさお「それって気分悪くありません?」 悠之慎「ん?なんでだよ。     小学と高校の頃はずっとこんな気分だったんだ、むしろ懐かしいくらいだぞ?     ってそっか、妙にしっくりくると思ったら……     これって以前の俺の感情なんだよな。     中学は別としても、小学と高校は本当に他人を拒絶してたからな」 みさお「孤高感に『しっくりくる』なんて言えるのって、     きっと悠之慎さんと彰衛門さんくらいなものですよね……」 悠之慎「だから……。お前はいちいち言うことが鋭いんだよ……。     もういいから月空力発動させてくれないか?」 みさお「無茶ですよ。わたしはべつに後悔を探知できるわけじゃないんですから」 悠之慎「……そうだった」 悠之慎さん、片手で片目を覆うような格好で溜め息。 ほんと悠之慎さんって溜め息が多いですよね。 悠之慎「彰衛門、次の後悔行くぞ〜」 彰衛門「ワァ〜、綺麗なお花畑ダァ〜」 悠之慎「何処に精神飛ばしてんだおのれは。ほれ、戻ってこい」 ポムポム。 悠之慎さん、紳士的に彰衛門さんの肩を叩くの図。 相変わらず聖ちゃんには睨まれてるけど、絶対に殴って気づかせると思ったのに。 彰衛門「ウ、ウィ……?ボクの肩を叩く貴方はだぁれ?」 悠之慎「俺だ」 正論です。 彰衛門「そうですか、『俺だ』さんイイマスカ。     アタイはインドの大地に育まれしパンジャブの奇跡とイイマス」 悠之慎「誰だよ」 彰衛門「オォ、貴方モミアゲがセクシーね。アタイあなたとは仲良くやっていけそうYO」 悠之慎「そーかそーか、で、パンジャブ。     早速だが次の後悔に向かいたいから月空力を発動させてくれ」 彰衛門「OKOK!それくらい造作もねぇわYO!     このパンジャブに掛かれば時間移動のひとつやふたつ!」 悠之慎「御託はいいから早くしろパンジャブ」 彰衛門「ノリに付き合ってくれたなら最後まで付き合ってよもう!!」 そんなことしたら夜が明けちゃうと思います。 悠之慎「ほれ、さっさとする」 彰衛門「ぬうう、なんだかドラえもんの気持ちが今なら解る気が……。     ちくしょうのび太くんめ、すぐに人に頼りやがって……」 悠之慎「この旅に巻き込んだのはお前だろ?     それがどうしてドラえもんの気持ちを味わうんだ」 彰衛門「いや、そりゃそうなんですけどね?     ああもう解ったわYO!やりゃいいんだろやりゃあ!」 みさお「逆ギレはみっともないですよ?」 彰衛門「やかまっしゃあ!!ほれ!みんなアタイに掴まりなされ!     浅瀬の貝みたいにへばりつけばいいじゃない!なにさもう!」 悠之慎「……なにを怒っとるんだ?こいつ」 みさお「散々無視されたのに急かされてるからどうしたらいいか解らないんですよ」 悠之慎「あぁ〜あ、なるほど」 彰衛門「そこ!やかましいですわよ!?ゆでるぞコラ!」 みさお「だったら早く次に行きましょうよ」 彰衛門「……そうですね……いいよもう……」 ああ、またイジケました。 Next Menu back