───たわけモン道中記25/不器用な人達の歩み───
【ケース60:弓彰衛門(再)/山の神様のくれた水と炭火焼】 ───悠之慎と別行動をとってから二十八日目。 ズズズ……!! 志京 「っ!?き、貴様……何者だ!!」 山の神『我ハハハハハハハ……山の神ナリナリナリナリナリナリ……』 光莉さんと離別した翌日、早速拙者は山の神になりつつ志京殿の前に降臨しました。 もちろん顔はモンゴルマスクで隠してあります。 山の神『人の子よ……我輩はこの山に住まう神なり……』 志京 「神……神様……?───で、ではひとつだけで構いません!     どうか願いを聞き届けてください!空さまに───空さまに会わせてください!」 山の神『だめじゃ』 志京 「なっ───何故ですか!?神ならば───同じ神である空さまを……!!」 山の神『空さまとは空神様のことであろう……?     空神様は我輩アポカリプスより位の高い神……。我輩が呼ぶことなど叶わぬわ』 志京 「そんな……」 あらら……志京殿ったら膝を崩してまで落ち込んじゃった……。 これはいけません。 山の神『空神様を呼ぶことは出来ぬが、おぬしに生きる力を与えよう。     この握り飯と竹筒を受け取りなさい……』 言いつつ、空に浮かせてつつ輝かせていた体をゆっくりと下ろしてゆき、 志京どのの前に握り飯と水入りの竹筒を差し出す。 志京 「……?こ、この握り飯は……」 山の神『ほっほっほ、おぬしとの食事……中々に楽しかったぞえ……』 パパァアアアと体を輝かせつつ、ゆっくりと消えてゆく。 おお、これぞ神っぽい演出。 志京 「あの時の───!?ま、待て!待ってくれ!何故見ず知らずの私にこんな───」 山の神『おぬしのことが気に入っただけじゃよ……。     さ、頑張って生きるのじゃ……その内きっと、生きる意味が見つかるじゃろうて。     さらばじゃあああーーーーーーっ!!!!』 コォアアァアアア……ビジュンッ!! 志京 「待───!」 聞こえる声も半端に、拙者は転移することで演出を過剰にしました。 ぬおお、このいつバレるかも解らないスリルがたまらねぇYO!! ───……。 ───悠之慎と別行動をとってから五十日目。 滝の神『我ハハハハハハ……』 志京 「……それはもういい」 滝の神『ゲェエエエーーーーーーッ!!!!!』 あっさり見破られました。 今度の滝の神はいいセンいってると思ったのに。 やっぱりつけるのがモンゴルマスクだけなのがまずいのだろうか。 いや、そんなことはない筈だ。 いくら山の神から始まって、様々な神になりすまして志京殿の前に現れたからって、 モンゴルマスクが原因でバレたわけではないだろう。 滝の神『うう……じゃあこれ、いつもの握り飯と竹筒ね?     今日のはシャケと鰹と昆布じゃよ。飲み物はお茶でござる』 志京 「……今日こそは話してもらうぞ。何故私を生かそうとする」 滝の神『え?だからですな?キミが気に入ったから』 志京 「気に入った……?それだけか」 滝の神『そうでござる。早く言えば死んでほしくないんですじゃ。     生きる意味と死の答えを見つけるまでは生きんしゃい』 志京 「私には……託されたものさえ満足に守れなかったのだぞ……。     そんな私に生きる意味など……」 滝の神『どんなカタチであれ生にしがみつくのです。     さすれば貴女は強くなれますでしょう』 志京 「強いことに意味などない……     多勢で責められて手も足も出ない強さになんの意味がある……」 滝の神『バカヤロコノヤロォ、じいやが言ってるのは精神面のことぞ。     喧嘩なんぞ誰も守れなけりゃ強くたって意味がねぇ。     しかし心はその本人の持ちようにてござる。     『やってやろう』って気持ちがあれば、いくらでも立ち上がれるのではないかね』 志京 「………」 滝の神『さ、おゆきなさい。喩えソレが一時の憎しみでもいいでしょう。     後悔のないよう、歯を喰いしばって生きなさい』 志京 「…………私は……」 毎度ですが、志京殿の言葉を最後まで聞かずにとんずら。 大いに悩みなさい若者よ……じいやはいつでも貴女を見守っておりますよ……。 ───……。 ───悠之慎と別行動をとってから百七十日目。 彰衛門「FUUUUM、丁度良い小川があってよかったわい。     今日の志京殿のゴハ〜ンは焼き魚にしましょう」 栄養のバランスも考えて、きちんと野菜も栽培してあります。 これぞ食への追求!エイメン・ゴッド! 彰衛門「しかしアレだよね。     志京殿って日記みたいなの書いてるみたいだけど……どげなこと書いてるのかね」 ちと気になります。 でも気にならないことにしておきます。 勝手に覗くなんて失礼だしね。 パシャリ……。 彰衛門「おっとと、大漁大漁と。さ〜て、調理を始めますかね」 早速月然力で枝を集め、月空力で枯らしてから月然力・火で燃やして焚火を作る。 その周りに内臓と骨を綺麗に取り出して串刺しにした魚を置いてゆく。 彰衛門「味付けは彰利秘伝の特性のタレをハケでヒタヒタと付けて、と……」 フオオ、付けたタレがゆっくりと焦げてゆくこの匂いがたまらねぇYO!! 彰衛門「ごらん?あまりの美味しそうな香りに山の動物達が降りてきたよ。     野鹿に野猿に野鳥に野熊。みんな元気そうなカワイ熊ァーーッ!!?」 熊  「グオオオ!!!」 ああっ!放たれた咆哮の所為で、集まった鹿や猿や鳥が一斉にとんずらした! ちくしょうなんてこった!何故にこげなところに熊が!? しかもドットコドットコ地面鳴らしながら走ってきてるし!! 彰衛門「お、オーケーどんと来い!必倒───ダイヤモンドナックルアタァーーック!!」 目前に迫る熊の眉間に、拳にタオルを巻いて固めたナックルパート!! それは『ドゴォン』という音を耳に響かせ、熊の眉間に確かにヒットした!! 彰衛門「……通った」 熊  「グォオオ……!!」 力を無くした熊がドゴシャアと倒れる。 熊をやっつけた!彰衛門は300の経験値を得た!! 彰衛門「危なかったぜ今のは……」 まさか熊まで招いてしまうとは……おそろしいタレだぜ。 彰衛門「まあ、なにはともあれそろそろ焼きあがるかなっと」 呟き、魚の具合を見ようと串に手を伸ばした時でした。 声  『居たァアアーーーーッ!!!』 彰衛門「キャーーーッ!!?」 突如、拙者を襲う声があったのです! 私はいきなりの事態に大変驚きました! 彰衛門「な、何奴!?」 驚きと不安を胸に抱きつつ振り返ってみれば───そこにおわすは悠之慎とみさおさん。 悠之慎「おんどりゃ今まで何処ほっつき歩いてやがった!!     探してたこっちの身にもなれスダコ!!」 彰衛門「スダコ!?って……え?なんでアタイ探してたの?     もしかして───ハッ!そうなのね!?やっとアタイの有難さが解ったのね!?」 みさお「彰衛門さん!志京さんは何処ですか!?隠すとためになりませんよ!?」 彰衛門「いきなり脅迫!?ちょいとみさおさん!?それは」 みさお「今はみさおじゃなくて冥月です!それよりも志京さんは!?」 彰衛門「知らんよ?」 悠之慎「チィ!使えんやつめ!」 冥月 「急ぎましょう悠之慎さん!     彰衛門さんがここに居るっていうことは近くに居る筈です!」 彰衛門「や!ちょっと待った!なんでアタイの近くに志京殿が居るって思うん!?     ていうか使えんヤツってヒドすぎません!?」 冥月 「『パパがわたしより女の人を選んだ』って聖───光莉ちゃんに聞きました!     だから探しに来たんです!」 彰衛門「うおう……で、光莉さんは?」 冥月 「ここに居ますよ!ほら光莉ちゃん、謝るんでしょ!?ガンバです!」 光莉 「あっ……」 冥月の後ろに居たらしい光莉が、ズイと押されて出てくる。 冥月 「それじゃあわたしたちは急ぎますんで!」 悠之慎「あんまり人泣かすなよ彰衛門!」 彰衛門「大きなお世話ですよ!あ、これ!お待ちなさい!これぇええーーーっ!!!」 ふたりは物凄い速さでその場から消えました。 なんだってんでしょうか……マジで解らん。 彰衛門「して……」 光莉 「っ……!」 視線を光莉さんに移すと、ビクリと震える光莉さん。 光莉 「あ、あの……あの……」 彰衛門「光莉や……訊きたいことは少しだけじゃ。     じいやの所へ戻ってきたということは───悠之慎には謝ったのじゃな?」 光莉 「………」(こくり) 恐怖に怯えるような首肯だった。 いやどすなぁ、別に何かするってわけでもないのですが。 彰衛門「ならそれでええ。仲直りは出来たんじゃね?」 光莉 「………」(……ふるふる) 出来てないらしい。 まあそりゃそうか、嫌いな人と仲直りってのはなんか違う気がする。 彰衛門「ではこれが最後の質問じゃ。……黒になるのはやめるのじゃな?」 光莉 「っ…………」(びくっ……!) 明らかな狼狽えだった。 かたかたと震え、俯いていても解るくらいに泣きそうなのが伝わってくる。 彰衛門「……よいか光莉。『黒』という存在はじいや以外許さん。     いや、存在してはならんのじゃ。     じゃから───おぬしが『黒』を目指すというのなら、     その瞬間からおぬしはじいやの娘ではなくなる」 光莉 「!?」 ハッとして俺を見る光莉。 けれど俺と目が合うと、怖いものから逃げるように目を逸らした。 彰衛門「それだけではない、じいやはおぬしを嫌わねばならなくなる。     親と呼ぶのも不許可になれば、近づくことさえ許さん。     おぬしは黒に染まるべきではない……     こんな色を背負うのはじいやだけで十分なんじゃよ……」 光莉 「でも……」 彰衛門「でももヘチマもね!!ええがら頷いてけろっちゃ!!     この『黒』は感情の無いじいやが辿った末路の色なのですよ!?     じいやがそれを背負うのは当然ではあるが、     光莉がそれを背負う必要が何処にあるとお思いか!」 光莉 「だって……だってわたし……パパの……」 彰衛門「じいやの!?じいやのなにかね!」 光莉 「うぐっ……パパの辛さ……少しでも解りたいんだもん……!」 彰衛門「むっ!?」 光莉 「わたしだって───わたしだってパパのためになにかしたいんだもん!!     それっていけないことなの!?」 彰衛門「押忍!他のことでなら構いませんけど『黒』に関してのみいけないことです!     ですからじいやの『黒』には関わるでない!」 光莉 「え……?じゃ、じゃあ……他のことでならなにかしても……」 彰衛門「ウィ?ええそりゃ構いませんよ?『黒』に触れないなら最強です」 光莉 「じゃあ───わたし、もっとパパの手伝いをしたい……。     小さいものでもいいから……辛いことからパパを守りたいよ……」 彰衛門「む……」 光莉さんが小さく涙しながら拙者をまっすぐに見て言う。 そげな光莉さんの直向き(ひたむき)
さに、心の中に暖かいものが走った。 やべぇ……グッと来たよ。 彰衛門「ああもう愛いやつめっ!!」 がばしっ!! 光莉 「んやぅっ!?」 彰衛門「おぬしがそこまでじいやを心配してくれておるとは……。     じいやは嬉しいぞえ……」 光莉 「パパ……」 光莉さんを抱きしめて頬擦りをする。 おおまったく、なんとも良い娘に育ってくれたものよ……。 彰衛門「タワッシワッシワッシワッシ」 ゴリゴリゴリゴリ。 光莉 「パパ……?」 彰衛門「ハッ!」 妙な頬擦りしておる場合じゃあなかった。 彰衛門「光莉さんや?光莉さんはまず、じいや以外の人に慣れることが必要でござる。     このままではじいや以外とは話せなくなってしまいますよ?」 光莉 「……わたしはパパが居てくれればそれでいいよ……」 彰衛門「ダメです。せめて夜華さんや冥月さんや悠之慎と、     じいやに話し掛けるくらい積極的に話せるようにならねば。     人と話せなくなる人生というのはとてもつまらないものです。     人との絆は積み重ねですから。若い頃からそげなことではいけません。     特に光莉さんは今が大切な時期です。     感受性を育むことだけは蔑ろにしてはなりませんよ」 光莉 「う、うん……」 彰衛門「よろしい。ではまず、第一の課題をキミに与えましょう」 光莉 「課題……?」 彰衛門「うんむ。きっともっと仲良しになれるであろう課題です。     よいですか?ゴニョゴニョ……」 光莉 「……?うん、うん…………え……?それを……やるの……?」 彰衛門「イエス!疑ることなかれ!これは必ずキミの未来に繋がります!」 光莉 「……う、うんっ!わたしやるっ!パパのこと信じてるもん!」 彰衛門「おおっ!光莉さんっ……!」 光莉 「パパッ……!」 ひしっと抱き合うふたり。 その横で、焼き魚はひっそりと炭と化していた……。 【ケース61:屠神冥月/瞬殺】 ガササッ─── 冥月 「っ!?志京さん!?」 悠之慎「なにっ!?」 茂みが鳴った。 振り向いてみると、そこには光莉ちゃんの姿が。 冥月 「あ、れ……光莉ちゃん?」 ……うん、光莉ちゃんだ。 なんだか顔が真っ赤だけど───がばしっ! 冥月 「わひゃっ!?ちょ、ちょっと……光莉ちゃん!?」 光莉ちゃんは駆けてくるなりわたしに抱きついてきた。 ……何がなんだか解らず、目を回すばかりだ。 そんな混乱の最中、光莉ちゃんが耳元で一言だけ発した。 光莉 「め、めめめ冥月ちゃん!大好き!」 バシュウッ!! 光莉 「ひゃっ!?……冥月ちゃん!?冥月ちゃん!」 【ケース62:兇國日輪守悠之慎/一瞬でケースエンドした人】 突如、冥月が鼻血を噴き出して気絶した。 がっくりと力を無くし、だがその顔は幸福に満ちていた。 悠之慎「ってなにやってんだお前っ!     人に告白されて鼻血出して気絶なんて彰利でもやらんぞ!?」 メイド服姿の雪子さんを見て鼻血噴いて気絶ってのはあったが。 どちらにしろそれは人としてヤバイ方だということを理解してくれているだろうか。 ……多分無理だ……というより解ってない。 悠之慎「ああもう……あのさ、光莉。お前なにがやりたかったんだ?」 光莉 「───!」(キッ!) 話し掛けた途端に鋭い眼光で返事をされる。 いやー嫌われてるなぁ。 光莉 「……パ……」 悠之慎「パ?」 光莉 「パパが……パパ以外の人とも仲良くしろって言ったからやってるの……。     まず冥月ちゃんに『大好き』って言えってパパが言ったんだもん……」 悠之慎「………」 ……あの馬鹿。 悠之慎「そりゃあ仲良くなれるとは思うが、     鼻血出して気絶したヤツと会話は出来ないだろ……」 光莉 「う……」 悠之慎「仲良くなるんだったらまず、篠瀬あたりがいいんじゃないか?     一応母親なわけだし、邪険にしたりはしないだろ」 光莉 「……パパは冥月ちゃんに言えって言ったんだもん……。     パパは間違ったりしないもん……」 悠之慎「………」 大した信頼だとは思うけど、 その信頼を無視して泣きながら冥月に泣きついてきたのは誰だっただろうか。 悠之慎「とにかくまず冥月を起こそう。その後は愛の告白でもなんでも好きにしてくれ」 光莉 「こく……?」 悠之慎「好きなんだろ?」 光莉 「───!そ、その『好き』じゃないよ!」 悠之慎「いい……なにも言うな……解ってる、俺は解ってるぞ……」 光莉 「違うよ!違うったら!わたしが好きなのはパパだもん!」 悠之慎「………」 光莉 「……あっ」 ……今……なんと? 悠之慎「えーと……家族として?それとも……」 光莉 「〜〜〜っ!!!」 バッ!ガササササッ!! 悠之慎「お……」 顔を真っ赤にした光莉は冥月から手を離し、瞬く間に逃走してしまった。 そのために冥月がゴシャアと山の林道特有の枯れ葉の海に倒れたが、 一応それで目を覚ましたので結果オーライ。 冥月 「う、うぐぐ……?あれ……?光莉ちゃんは……?」 悠之慎「彰衛門のところに戻ったぞ」 冥月 「そうですか……いや、不覚でした……。     まさか光莉ちゃんがあんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるなんて、     思ってもみませんでしたから……」 悠之慎「おのれは不覚を取ると鼻血出して気絶するのか」 冥月 「え?うわっ」 冥月が慌てて鼻血を拭おうとする。 俺はそれを瞬速で押さえつけ、塗れハンケチーフを創造して拭ってやる。 冥月 「やぅっ……!ちょ、ちょっと悠之慎さん!こんなの自分で出来ますよっ!」 悠之慎「たわけ!いきなり和服の袖で鼻血を拭おうとしたヤツが一端の口を利くな!」 冥月 「うぐっ……」 まったく……和服の袖は汚れを拭うためのものではないというのに。 悠之慎「お前な、過去の育ちならもっと淑やかに出来ないのか?     それともじゃじゃ馬みたいに育てられたのか?     彰衛門の記憶を辿るところ、それっぽい場面は見られなかったんだが」 冥月 「それはそうですよ……母上───あ、嗄葉さまのことですけど、     母上はわたしのことを自然的に、でも咎めることは咎めるやり方で育てました。     自分で言うのもなんですけど、普通に育ってこれたと思いますよ?」 悠之慎「じゃあ───って訊くまでもねぇか……」 冥月 「刀になった後に一緒に居た人の性格が大雑把すぎたんですよ……。     自由奔放で隙があれば誰かをからかって、ボコボコに殴られて……。     確かにそんな生き方も楽しいかもしれないって思ったわたしも悪いんですけどね」 悠之慎「……あの馬鹿」 頭痛ぇ……。 あいつって周りにヘンな影響ばっかり出すよな。 悠之慎「……よし、綺麗になった」 コシコシと拭っていた冥月の鼻周りを見て満足の内に頷く。 冥月は冥月で『自分で出来るって言ったのに……』とぼやいている。 これが刀の中で300年は生きた娘だっていうんだから不思議だ。 悠之慎「じゃ、志京を探すか」 冥月 「はい」 再び行動開始。 しかし案外困ったことに、志京のやつ気配殺すの上手いんだよな……。 足跡も残さないし……何者? 悠之慎「昔の人って凄いのな。感心するよ」 冥月 「いきなりなに言い出すんですか」 悠之慎「そのままの感想を口にしただけなんだけどな。     まあいいか、今度はこっちを探してみよう」 冥月 「そうですね……って、どっちから来たんでしたっけ」 悠之慎「………」 冥月の鼻血騒動で忘れてしまった。 似たような景色だから迷いやすいぞこの山……。 ───……。 ……。 ───この時代に来てから二百日目。 悠之慎「……頭痛いぞ俺……」 冥月 「わたしもです……」 志京が見つからん。 山といっても無駄に広いし、 ここらは山が並ぶようにあるからひとつひとつ虱潰しに探さなけりゃならない。 その間にも志京は行動しているんだろう、とことんまでに見つからん。 悠之慎「……思ったんだけどさ、     彰衛門の野郎が何か細工して見つからないようにしてるんじゃないか?     どう考えてもおかしいだろ、こうまで見つからないのは」 冥月 「それはわたしも考えたんですけどね……。     でもそれをやる理由が解りませんよ?」 悠之慎「そんなの簡単だ、楽しいからに決まってる」 冥月 「あぁ〜……」 だはぁ、と息が漏れた。 冥月も妙に納得してしまったんだろう。 感情が戻ってくれたのはいいが、 今のあいつは『感情』に興味を持ちすぎてるのかもしれない。 悠之慎「後悔を見過ごすことはないだろうし、     他人の心を弄ぶようなヤツじゃないだろうから心配はしてないが……。     とにかくあの村は志京が居なけりゃ始まらない。     俺だって今さら他の野郎が村長になるって言われて黙ることなんか出来ない」 冥月 「そうですよね……。しかもあの人、見たことない人でした。     多分、男の人達が嫌ってた『よそ者』です。     『よそ者』には『よそ者』で対抗、って考えなんでしょうけど……」 悠之慎「一目で解ったよ。あいつこそ人の上に立つ器じゃない。     そんなヤツに村長の座を奪われて、しかも追放されたんだ。     志京のヤツ、相当まいっちまって───」 …………あ。 冥月 「……悠之慎さん?」 悠之慎「あー……俺もまだまだ考えが足らないな……」 頭をカリカリと掻いて、自分のアホさ加減に呆れる。 冥月 「どうしたんですか?」 悠之慎「……彰衛門の考えてることが解った。     さっきの状態の俺達が志京に会うと、ちと面倒なことになってたと思う」 冥月 「あの、訳が解りませんよ?自分だけで納得するんじゃなくて、教えてくださいよ」 悠之慎「……あのさ。志京は空ってやつと相馬ってやつと、     それから純之上にあの場所を任されたって言ったよな?」 冥月 「はあ……そうですね」 悠之慎「あいつが不安抱えながら頑張ってたのは目に見えて明らかだったし、     それでも懸命に村長として頑張ろうとしてた。     けどそれがどっかから来たよそ者に奪われて追放。     あいつは相当落ち込んでるだろう」 冥月 「それはそうですけど……それとこれと───あ」 悠之慎「彰衛門の考えそうなことだよ。     ようするに『考える時間』とか『冷静になれる時間』を志京に齎してるんだ。     こういう時は他人の意見に流されないように、     ひとりで思考してひとりで覚悟を決めるのがいい。     それが昔の人の、それもああいう誇りを大事にしているヤツに必要なことだ」 それに関しては、篠瀬と散々騒いだ彰衛門だからこそ察することが出来たんだろう。 冥月 「彰衛門さんってほんと、他人のことには頭が回りますよね……」 悠之慎「まったくだ……。どうせ今もどこかで妙な格好しながら志京で遊んでるぞ」 冥月 「遊んでるんですか……」 悠之慎「あいつなら遊ぶだろ。     前に小川で見つけた時も、どうしてかモンゴルマスクつけてただろ?」 冥月 「……あれ、意味あるんですかね」 悠之慎「遊びはまずカタチから入り、勢いに身を任すのが原沢南中学校の原則だ」 冥月 「どういう原則ですか」 冥月が心底呆れた顔でそう言った。 まあ原中はなんでもありみたいな中学だったからなぁ。 厳しい先生というのがとにかく居なかった。 それどころか一緒になって騒ぐ先生の方が多かったくらいである。 俺達のクラスの担任はどうしてかそういうタイプの教師ではなく、 俺達が騒ぐ度にシクシクと泣いていた。 あれで案外苦労人だったからな、今ならその気持ちがよく解るぞ。 悠之慎「そういや劉堂教諭、今何やってんのかなぁ」 冥月 「劉堂?って、確か彰衛門さんの記憶の中にあったハゲでヅラな教師ですよね?」 悠之慎「そうそう、劉堂達樹教諭だ。まあ、教諭っていっても研修生だったんだけどな。     俺達の入学式と一緒に訪れて、少し学んで帰ってった」 冥月 「あれは凄かったですね。     いきなり『押忍!胸ェ貸していただきます!』って言って」 悠之慎「劉堂のヅラ取ろうとしてボコられてたっけな。     輝きを守る男の強さは尋常じゃあなかった。     あ……そういやあの頃はまだ中井出も悪ガキ程度だったなぁ……」 中井出をあそこまで大胆な性格にしたのは間違い無く彰衛門だ。 それが少し不憫でならんが、結局は中井出は今の性格の方が面白い。 冥月 「えっと、話を戻しますけど。これからどうします?     志京さんに考える時間と落ち着く時間が必要なら、     わたしたちこれからすること無いじゃないですか」 悠之慎「いやー……もう山に来てから六ヶ月近くだぞ?     考える時間にしてみれば申し分無いと思うんだが」 冥月 「それでも彰衛門さんが志京さんの傍に居てわたしたちを遠ざけてるんだとしたら、     まだそういった時間が必要っていう意味なんじゃないですか?」 悠之慎「そうなのか……?     あいつの場合、ただ俺達にからかいの仕返ししたいだけなんじゃなかろうか」 冥月 「……十分有り得そうでイヤですね……」 いい加減疲れたといった感じの冥月を見て歩みを止めた。 ここで休憩するか、と言った時の冥月の安堵の息の吐き様は、 かなりぐったりしたものだった。 【ケース63:偽神(彰衛門)/様子のおかしい志京さん】 ───この時代に来て二百五十五日目。 いつからか周りが見えなくなってきた志京殿は、 なにやらぶつぶつと呟きながら、だけどしっかりとした足取りで山道を歩いている。 どうやら目的の場所があるようですが……嫌な予感が隠し切れませんな。 ちなみに拙者は風の神となって、 高く伸びた木の枝から枝へ飛び移りながら志京殿を追っています。 あ、しっかりとモンゴルマスクは付けてますよ? けど……ヤバイんですよ志京殿。マジで周りが見えてないんです。 拙者を見ても見えてないって言うんでしょうか、 とにかくいつからかブツブツと呟くことが多くなりましてね? 話し掛けても聞こえないみたいなのです。 風の神「もしやなにかの病気にでもなっているんじゃああるまいか……」 少し心配なわけですが、有り得るとしたら心の病です。 聞けば志京殿は村を追放されたそうじゃないですか。 そげな状態でひとりで山道を延々と歩いていれば気がおかしくなることもありましょう。 風の神「まいったね、ほんと……」 悠之慎たちを幻惑の調べで騙すのもそろそろ疲れてきました。 じゃけんど今の志京殿は間違いなく何か目的を持っているようですから、 誰かと会わせて決心を曲げてしまうような事態は避けねばなりません。 己が導きだした決心ならば、たとえどのようなことでも応援しますと誓ったのですから。 風の神「頑張りなされ、志京殿……」 木の上から志京殿を見守りつつ、やはり拙者の旅は続くのでした。 ───……。 ……。 ……どれくらい歩いただろうか……志京殿はとある大木の前で立ち止まった。 大木の根元には何かを埋めたような痕跡があり、傍らに突き立てられた小刀。 風の神「……む?」 その小刀の柄をジッと見つめる志京さんを余所に、 拙者は大木に刻まれた文字に気が付いた。 風の神(ピエロアイーーーン!!!) 近づくわけにもいかず、木の上からその文字を見る。 そこには─── 『彦次郎 阿夢さん  二人の愛がいつの日か実るよう願って              桜 純之上』 と刻まれていた。 どうやらあれは純之上が刻んだものらしく、 同じくその文字に気づいた志京殿は、どうしてか愕然としていた。 彦次郎と阿夢さんとやらが誰なのかは解らないが、 そこに埋めてあるものが何なのかは大体予想がついた。 ……やがてゆっくりと、コワレた何かのように歩き始める志京殿。 その顔には、既に生気と言えるようなものが存在していなかった。 ───……。 ……。 ───この時代に来て二百八十九日。 意外なことに寺へと戻った志京殿は、 なにやら踏ん反り返っていた男の衣服を切り刻んで村から追い出した。 『俺は村長だぞ』とかほざいていたヤツだが、なんとも度胸の無い男だった。 ありゃ器じゃないわ、出直せぃ。 寺の神「じゃけんど……」 志京殿は、既に初めて会った時の誇りに溢れた表情をしていなかった。 ヤケになったわけでもない。 ただ、何かをひたすらに憎んでいるような……そんな表情をしていた。 寺の神「……憎むにしたって、なにを?」 やはりムラビトンでしょうか。 ちと解らん。 解らんけど、後悔の気配は少しずつ近づいてきていた。 ───……。 ……。 ───この時代に来てニ百九十五日目のある日。 ムラビトンどもが志京殿に謝罪しつつ、村作りや寺作りに協力し始めた。 どういった心境の変化なのか。 ただ前村長が粗悪すぎたのか。 けれど志京殿はそんな村人達の協力をどこか遠い目で眺めては、 興味無さそうに時を過ごしていった。 ───……。 ───この時代に来て三百十五日。 出来上がった寺を見て、志京殿は呆然としていた。 一度は壊したソレは、出来上がってみれば結局同じ形だったのだ。 『全て壊してくれる』とまで言ってたその言葉は何処に行ったのか。 それを訊きたいのは恐らく、他の誰でもない志京殿だったに違いない。 そんな様子を見て俺は、志京殿が憎んでいたのは…… この寺や村を任せた空神様や純之上だったのだろうと確信した。 それでも憎みきれなかったのでしょう。 志京殿は支柱に頭を打ち付けたあと、崩れるように涙した。 ───……。 ……。 ……翌日。 憑き物が取れたように、 かつての覇気を取り戻した志京殿は村人と一緒になって談笑をしていた。 いや、前の志京殿ともちと違っている。 以前のようにトゲトゲした気迫は無いし、代わりに穏やかさを持っていた。 モンゴル神「……ふぅむ」 気づけば後悔の気配などは無く、 後悔の念を自己解消してしまった志京殿を素直に感心した。 こんな後悔のパターンもあるんだな、と。 モンゴル神「だとしたらもう、この時代に居る意味なんて無いか」 ウムスと頷いた。 あとやることといったら───志京殿の日記の観覧と、 そこにあるかもしれない我らに関しての事柄の消去のみだ。 モンゴル神「よっし、そうと決まれば───異翔転移」 悠之慎と冥月の気配を探知して、彼らを転移させる。 悠之慎「っと、おわっ!?」 冥月 「あわわっ!?」 いきなりの出来事に大変驚くふたりだったが、 事の次第を話して聞かせると素直に頷いてくださったのでした。 冥月 「あ、あれ?光莉ちゃんは?」 彰衛門「ウィ?ああ、なんでも夜華さんともっと仲良しになりたいらしくてさ。     突然何を言い出すのかねと思ったんじゃけどね?何か言う前に転移しちゃって」 悠之慎「あ〜……まさか本当にやるとは」 彰衛門「おや悠之慎さん、心当たりでも?」 悠之慎「まあ一応……篠瀬ならすぐに仲良くなれるんじゃないか?的なことを言ったんだ。     まさか本当に実行に移るとは思わなかったが」 冥月 「え……じゃあ光莉ちゃん、今現代に?」 彰衛門「そゆこと」 冥月 「うう……なんてことですか……。このままじゃわたし、     このふたりに振り回されっぱなしになっちゃいますよぅ……」 彰衛門「いきなり失礼だねキミ……」 そりゃまあいろいろ教える気はありますけどね? 今はそれよりも志京殿の行く末を見守るとしましょう。 たとえ今、志京殿の日記の中から我らのことを消したところで、 それ以降に志京殿が我らのことを書かないとも限りませんし、 そもそもいきなり文字が消えてりゃ驚きます。 記憶を消していけばいいんでしょうが…… 感情が戻った今、人の記憶を無闇にいじくるのは嫌になりました。 だからつまりその……えーーー……なんというか……おーーー、なんだ? あーーー……そう、あれだ。 志京殿が天寿をまっとうするまではこの歴史に留まろうかと思います。 悠之慎「お前の考えなんてなんとなく解るけどさ。     これで時間重ねていって、     また千年の寿命がどうとかいう話になるのは勘弁だぞ?」 彰衛門「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ!     死神と同化した我らや『刀』である冥月さんは時の干渉はあまり受け付けません!     むしろサイヤ人みたいにこのままの状態が続きますよって!多分」 悠之慎「多分ってのが気になるけど……はぁ。     当てになる知識が無いんだから信じるしかないよな」 彰衛門「解ってるならそげに溜め息吐かんでよもう……」 疲れた顔をしている悠之慎を余所に、冥月はなにやら少々寂しそうだった。 それが当たり前なのかもしれませんね。 同年代の光莉さんが元の時代に戻ってしまったのです、 冥月さんとしては寂しさを隠しきれないことでしょう。 アタイはそげな冥月さんをせめて慰めてげようと、肩膝を着いて両手を広げて構えた。 彰衛門「飛び込んでこ〜い!」 その刹那、唸るシャイニングウィザード。 その時の俺は、少女が非行に走る様を鋭い膝蹴りとともに見届けた気分であった……。 や、非行になど走っていないのですがね? 【ケース64:弓彰衛門/ある夜の晩はナイトだった】 ───…………。 彰衛門「えー……ハイ。とある深夜にお送りするテレフォン民話、キッチョム話」 既にこの時代に来てからどれくらい時が経ったのかも解りません。 ていうか途中で数えるのが面倒になりました。 悠之慎「しかし趣味が悪いぞ。天井裏に潜むなんて」 冥月 「でも流石に堂々と志京さんの部屋に居るわけにもいきませんし」 悠之慎「そりゃ解っちゃいるが……」 天井から覗く志京殿の容態は、お世辞にもステキと言えるものではございませんでした。 何故かって、彼女は病に侵されているのです。 この過去の医学では治療不可能といわれた病気でござる。 我らならばそれを治すことも出来るのだが…… 悠之慎「……ん?どした?」 彰衛門「……うんにゃ、なんでもない」 志京殿には後悔の念が無いのだ。 ここで病気によって朽ちることを、この瞬間では一切の後悔も無い。 むしろその顔は、苦しみながらも達成感に溢れていた。 そんな幸福の内の死を邪魔することなど、我らには出来なかったのです。 たとえ生まれ変わった先でこの時代のことを後悔しようと、 この瞬間の志京殿に後悔は無い。 ならば……それでいいではありませんか。 冥月 「………」 冥月さんが志京殿を見下ろす。 志京殿は病に蝕まれながらも書記───日記を書き、 命が尽きようとしている今でもそれをやめない。 伝えたいことでもあるのか、書き残したいことでもあるのか。 その筆が止まることは無く─── ……やがてその筆がようやく止まった頃。 志京殿はゆっくりと、その体から離れていった。 悠之慎「…………」 俺の横では悠之慎が手を合わせ、志京殿の冥福を祈っていた。 冥月さんは泣くことこそしなかったが、 その現実を直視したくないと言うかのように顔を伏せている。 そして俺は───天井の一部を外し、志京殿の部屋へと降り立った。 彰衛門「志京殿……永きに渡るお勤め、ご苦労でござった……」 動かなくなった体にそっと祈りを捧げる。 次に書記を手に取り、涙と血で濡れたそれから俺達の存在を消した。 これでこの日記には俺達の名前と存在を証明するようなものは一切なくなった。 でもなんとなく寂しい感じがして、特殊な果実液で文字を連ねていった。 彰衛門「───この歴史と、キミの生き様に感謝を。     弓彰衛門、兇國日輪守悠之慎、屠神冥月、弓光莉より」 ……と。 あぶり出し文字だから多分誰も気づかないでしょう。 あとはこのあぶり出しの部分だけ時間の流れを最適にして、と。 OK、これでこの文字はあぶり出しじゃなければ絶対に発見されん。 彰衛門「……じゃ、行こうか」 全てを終えてから天井に向けて言う。 それとともに悠之慎と冥月が降りてきて、軽い返事をした。 ───やがてその場が月空力の輝きに満ちる頃。 我らは、眠りについた志京殿に小さく別れの言葉を吐いた。 Next Menu back