───たわけモン道中記28/ありがとう殿様───
【ケース68:兇國日輪守悠之慎(超再)/時の夢】 ───……で。 俺と彰衛門と冥月は晃の家にて、晃とふみさんに向かい合うようにして座っていた。 彰衛門「ヘェ〜〜、ホォオ〜〜〜、フゥ〜〜〜ン?そんで?     勢い良く走っていったと思ったらなにキミ、     男として認めたヤツの愛の現場を豪快に覗いたって?     ヘェ〜〜、そりゃあ男らしい覗き方ですねィェ〜〜〜」 彰衛門が俺を妙な顔で罵り、しかもペチペチと軽く頬を叩いて挑発する。 覗いたって言葉自体は事実だから構わないんだが、とにかくその顔がやたらとムカツク。 悠之慎「やろっ……!!」 冥月 「あーハイハイ!     今回ばっかりは彰衛門さんの話を最後まで聞かなかった悠之慎さんが悪です!」 悠之慎「ぐっ……!」 そうなのだ。 俺が走り出した時にこいつらが叫んだのはそういう内容のことらしく、 彰衛門は後悔の探知とともにそれっぽい気配を感じてしまっていたらしいのだ。 ふみ 「あ、あの、あのあの……」 晃  「っ……」 ああもう、正面に座ってる晃とふみさん、すげぇ真っ赤だ。 本当に彰衛門の言うとおりだ……今回ばっかりは俺が悪かった。 悠之慎「……だめだ、彰衛門頼む」 彰衛門「あ〜〜〜〜ん?」 悠之慎「モンスターハンターのじいさんの真似はいいから……。     後悔のこと、調べといてくれ……」 彰衛門「ほっほっほ、もしかしてキミに覗かれたこと自体が後悔だったりして」 悠之慎「ブッコロがすぞこの野郎」 彰衛門「ほっほほほ、まあよ、任せておきんしゃい」 悠之慎「あー……頼む」 あんな場面を見てしまった所為か、顔が灼熱して仕方ない。 これじゃあまともに話をするのは無理だろう。 冥月 「悠之慎さん?」 悠之慎「冥月、ちょっと付き合ってくれ。頭冷やしたい」 冥月 「あ、はい。お安い御用です」 彰衛門を挟んで座ってた冥月を促して外へ。 たしんっ、と後ろ手に引き戸を閉めると、ゆっくりとその場を離れた。 冥月 「何処に行くんですか?」 悠之慎「畑と田圃。頭の中に蔓延るものを払拭するために、農作に没頭する」 冥月 「農作ですか……楽しそうですね。わたしも手伝っていいですか?」 悠之慎「ああ。何かあったら彰衛門が呼びにくるだろうから、     それまでは畑仕事に精を出すぞ」 冥月 「はいっ」 言って、まるで煩悩を払うが如く大激走! すぐさまに辿り着いた畑の傍で未だに寝転がっていたクワを手にして構えた。 悠之慎「うぉおおおおっ!!!豊作祈願ンンンーーーッ!!!!」 祈るわけでもないが、クワを動かしまくった。 それが終わると種を創造して撒き、埋めてから田圃に移る。 冥月 「うわっ!速い───ていうか速すぎです!」 悠之慎「冥月!そっちの畑に月空力頼む!ふわははははは!!豊作じゃあああーーっ!!」 冥月 「……うわぁ……畑仕事でも暴走できるんですね……」 冥月がどこか疲れた顔で俺を見たが、 それを気にすることなく田圃に創造した苗を埋めてゆく。 さらにその田圃に創造した栄養を振り撒く。 悠之慎「滋養強壮栄養満点!さあっ!育てよお米!」 冥月 「いつもより暴走してますねぇ……よっぽど見ちゃったものを忘れたいんですね」 悠之慎「それ以上言ったらグーで殴る」 冥月 「ハイ……」 早速忘れてたのにいきなり思い出しちまった……。 ああもう頭痛ぇ……。 ───……。 ……。 悠之慎「豊作じゃ〜〜〜〜っ!!!」 冥月 「豊作じゃ〜〜〜〜っ!!!」 小一時間でこの有様……凄まじい。 月空力を駆使しての農作業は、想像を超えた結果を齎した。 米俵は100を越え、出来た野菜は数知れず。 悠之慎「えーと……」 冥月 「どうしましょうか、これ……」 夢中でやっていたものの、正気に戻った時の驚愕といったら半端じゃなかった。 真剣にどうしようか。 悠之慎「町のヤツに配っただけじゃ無くならないよなぁ……」 冥月 「ひとつの家に米俵を三つ渡しても……無くなりませんよ?」 悠之慎「まいったな……まあいい、とにかく渡して回ろう。一気に三つ持てるか?」 冥月 「あ、はい。大丈夫ですけど」 悠之慎「よし、じゃあ行くか」 米俵を抱え、歩き始める。……と、冥月が心底驚いた顔で俺を見た。 悠之慎「ん?どした?」 冥月 「……あの。米俵六個を平然とした顔で持たれると、立場が無いというか……」 悠之慎「アホゥ、妙なこと考えるなよ。     行動なんて出来る範囲のことが出来ればそれでいいんだ」 冥月 「そうですけど……」 悠之慎「解ったらほら、とっとと運ぶ」 冥月 「そうですね、考えてても仕方ありません。それでは───」 意気込んで、冥月が腕まくりをして米俵を抱えた。 なんの対抗意識か一気に七つ抱えようとして───ゴドド……ごしゃっ。 冥月 「ぴぎゃっ!?」 上から落ちてきた米俵に潰された。 悠之慎「なにやっとんのだお前は……」 声  「う、うー!うー!!」 米俵の山から覗いてる脚がバタバタと暴れる。 が、米俵の山が動くことはてんで無い。 悠之慎「ンー……助けるのと試練を与えるのと、どっちがいい?」 声  「けほっ!た、たすけてくらさい……!」 目の前で押しつぶされようとしている少女が、 ホテルケイヨー422号室の客人と化していた。 悠之慎「……お前って何気に漂流教室ファン?」 声  「けほっ!えふっ……!す、すきで『くらさい』っていってるわけじゃ……!」 どうやら米俵の重さで内臓と喉が圧迫されているらしい。 これはちょっと危ないか。 というか─── 悠之慎「冥月冥月、月空力」 声  「え……?あ───」 ……気づいたらしい。 すぐに俺の横でビジュンッという音が鳴り、 その場に冥月が現れた───が。 ゴシャアッ! 冥月 「ふきゅうっ!!」 接触していたために一緒に転移されたらしい米俵がその上から落ちてきた。 ……冥月、再び米俵の下敷きに。 悠之慎「……あのさ。転移って応用利かないのか?」 冥月 「けほっ!こほっ……!     うぅう……苦しさのあまりに転移の対象を限定するの、忘れてました……」 悠之慎「一応、応用は利くのか」 今度こそひとりで転移した冥月は、 どうやら背中を痛めたらしく……しきりに背中を擦っていた。 悠之慎「妙な対抗意識は燃やさないように」 冥月 「ぎょ、御意……」 彰衛門のような返事をして、冥月は米俵ふたつを抱えた。 冥月 「……あ」 しかし何を思ったのか月空力を発動させて米俵を浮かせると、米俵を幾つも抱えた。 なるほど、それなら重力は極力削れるが…… 悠之慎「先に言っておくぞ?やめとけ」 冥月 「む。負け惜しみですか?」 悠之慎「いや、純粋にお前の身を案じてだな」 冥月 「だいじょーぶです!これくらいの月生力の放出、『刀』で十分カバー出来ます!」 悠之慎「あー……そういうことじゃなくてだな……っていいか。死ぬなよ?」 冥月 「大丈夫ですったら!わたしは刀の巫女です!     まだまだ悠之慎さんには負けませんよ!」 悠之慎「老人かお前は……ああいい、ほら、行くぞ」 冥月 「ふっ、ふ……ふっふっふ、望むところです……!」 ちなみに冥月が浮かせつつ重ねてる米俵の数は十個。 総重量200キロ以上だが……ミンチにならなきゃいいが。 ───……。 ……。 ごたたっ!ごしゃごしゃごしゃごしゃっ!!! 冥月 「しゃぎゃああああーーーーーーーーーっ!!!!!!」 ……それは町に入ってまず丁さんの家に寄ろうとした時のことだった。 ひょいと現れた丁さんを見るなり能力を隠そうと月空力を解除した冥月は、 その瞬間に重力の餌食となった。 丁さん「うおっ!?どうしただべ!?なにごとだべ!?なにペギャアーーッっ!?」 どごごしゃっ……! あ……丁さんが巻き込まれた。 悠之慎「はあ……」 だから言ったのになぁ。 こんな馬鹿なところばっかり彰衛門に似なくてもいいってのに……。 米俵をごしゃごしゃと掴んでは投げ、血の海の中心で潰れている冥月を救出した……が。 ……ああもう……息してねぇよ。 悠之慎「はぁ……分析開始」 溜め息を吐きつつ米俵を地面に置いてから真紅眼を展開。 冥月の血の分析を開始───その在り方をイメージとして頭の中に叩き込んだ。 悠之慎「冥月の体の傷を治す霧と、読み込んだ血液が血管に出ます」 冥月の傷を治し、流れた分の血液を流してやる。 ……結果オーライというか、 米俵の流れ弾が丁さんに当たったのは嬉しい誤算だった。 見事に気絶してくれたらしく、能力も気兼ねなく使えた。 冥月も気絶したままだが……いいや。 悠之慎「飼い葉が出ます」 丁さんの家の前に飼い葉を山のように創造して、そこに冥月を寝かせる。 息は……うん、ちゃんとしてるし正常だ。 悠之慎「あとは俺がやっとくから、お前はここで休んでろ」 言って、冥月の頭をくしゃっと撫でて、置いてある米俵を持ち上げた。 こいつもまだまだ子供だなぁとか思いながら、 どこかやさしい気持ちのままで、俺は歩きだした。 ───……。 ……。 米俵と野菜を配布するのにおよそ30分。 さすがに何度も重いものを持ち上げると疲れはくる。 丁さん「いンやぁ〜、悠之慎の米と野菜は美味ェエエエからなぁ。     あんがとよぉ、俺も何かお返しが出来りゃあいんだが」 悠之慎「いいよそんなこと。ただ生きられるだけ生きてくれればそれでいい。     米の直撃くらったのに無事でよかったよ」 丁さん「オメ……やっぱいいやつだなぁ〜」 町人を代表して丁さんにお礼を言われた。 ……というのは建前というか、ただ俺と彰衛門の畑と田圃の近くに居て、 何気に馴染みの深い丁さんだからこそお礼に来たというかなんというか。 悠之慎「あ───ところで秋守はどうしたんだ?家には居なかった」 丁さん「おお秋守さんか。秋守さんなら川に釣りしにいっただべ。     遠くの方にある村の近くの川じゃあ、なんでもバケモンが釣れるらしくてなぁ。     それに対抗意識でも燃やしたのか、ヌシを釣ってくるとか言ってなぁ」 悠之慎「なにをやっとるんだあいつは……」 秋守の行動はイマイチ掴み所が無い。 自由奔放っていうのか、生き方の前提は嫌いじゃないんだが…… 悠之慎「……で、ほんとはなにやってると思う?」 丁さん「さぁなぁ……あぁけど、藤巻なんたらがどうしたとか言ってたなぁ。     自分でも訳が解らんとか言ってたが……     んあ、そういやフンドシ持ってた気がするだべ」 悠之慎「藤巻……」 フンドシ持ってたって……まさか藤巻十三現象? 川にはソレを洗いにいったとか……いや、まさかな。 声  「悠之慎〜!悠之慎や〜!?悠之慎〜!!」 ……っと、彰衛門の声だ。 悠之慎「ごめん丁さん、呼ばれてるから行くよ」 丁さん「おう、いつもありがとな〜!」 丁さんの元気な声に見送られて走る。 ……というか彰衛門よ……もうちょっとマシな呼び方は出来ないのか……? 悠之慎「っと、冥月忘れちゃだめだよな」 走った道を戻り、丁さんの家の前にある飼い葉の上から冥月を抱き上げる。 そのまま世に言うお姫様抱っこ状態にして走り、晃の家を目指した。 ───……。 ……。 ───さて……晃の家に辿り着き、 彰衛門に今回の後悔の詳細が解ったと告げられてから数分。 俺は内容を噛み砕いて頭に叩き込むと、あっさり協力することに賛同。 今回の後悔は随分と嬉しいものだった。 ───詳細はこうだ。 晃には現代に姉が居るらしく、その姉が近い内に結婚する予定だったらしい。 覚悟を決めてこの時代に残った晃だったが、どうしても姉の結婚式が気になるのだそうだ。 それが今回の後悔。 『せめて結婚式を見届けてからこの時代に来ることが出来れば良かったのに』…… という───晃の本心だ。 彰衛門「じゃけんどね、困ったことに晃くんたら次元干渉に影響されないように、     妙な封印が施されてるらしいのね。     妙なことが重なって戻ることがないように、とか」 悠之慎「次元干渉の影響?     それってつまり、時空転移を使っても晃は飛べないってことか?」 晃  「そういうことらしい。     さっきそいつが連れてってくれようとしたんだけど、失敗だった」 晃が視線で彰衛門を見ながら言う。 彰衛門「なにか心当たりは?」 晃  「俺をこの時代に送った人が神だった。     多分その人が封印ってのをしたんじゃないかと俺は思う」 彰衛門「むう……次元干渉系っつったら時神様か……?もしくは別のゴッドか。     まったく余計な面倒を増やしおってあのカスは……」 ───ドグシャッ! 悠之慎「うおっ!?」 彰衛門「グビグビ……」 いきなりだった。 瞬時にボコボコ顔になった彰衛門が畳みの上にドグシャと倒れ、泡を吹いた。 悠之慎「……なにやってんだお前」 彰衛門「い、いえ……どうやら時神様ったら悪口には敏感みたいで……。     止まった時の中でもうボコボコ……」 悠之慎「敏感って……」 ってことはどこかで俺達のことを見てるってことか? だったら封印ってのを解いてくれりゃあいいのに。 彰衛門「くそっ……見てるなら封印を解けばいいものを……!     そんなんだから陰険に思われて恋人のひとつも」 ───ドシャアッ!! 彰衛門「ブゲッ!ゴブゲゲッ!!鼻がっ……!鼻がっ……!!」 再び突然倒れる彰衛門。 しかし傷ついてるのは何故か鼻だけだ。 あー……鼻ばかり殴られたんだろうな。 彰衛門「ちくしょうてめぇ!時を止めねばなにも出来ねぇのかね!?     そんなに顔見せるのが照れくさいのかね!?このシャイ子さんめ!!     勇気出して自分からアタックしていかねば実るラヴも実ら」 ───ドシャアッ!! 彰衛門「……ケ……けひゅ……け……け、ひゅ……」 三度目。 彰衛門は干からびたカエルのように動かなくなってしまっていた。 いったいどんなことをされたのか……。 悠之慎「えーと、彰衛門は無視するとして。     要はお前の中にある『お前以外のもの』を遮断する『場』を作ればいいわけだろ?     それから転移すればなんとかなるかもしれない」 晃  「出来るのか!?頼むやってくれ!」 悠之慎「ただし、そんな封印が施されている以上、     元の時代でお前を覚えてるヤツが居る可能性は極めて少ないぞ?     それでもいいのか?」 晃  「構わねぇよ!誰に覚えてもらえてなくてもいい!だから頼む!」 悠之慎「……やっぱ、気持ちがいいくらいに真っ直ぐだな。     解った、お前を『信頼』する。いいよな、彰衛門」 彰衛門「………」 ……向き直った方向。 そこに倒れている彰衛門の周りには砂のようなものが舞い、 その周囲から少しずつ煙が集まるようにして天井に集まっていった。 あー……こんな場面、どっかで見たことあるぞ俺。 きっちりと煙がカタチを変えて、彰衛門の姿を模してるし。 彰衛門『これから……これからDIOが……ワシの体になにをしようとも……。     いいか承太郎……決して己を見失うな……』 晃  「………」 悠之慎「………」 彰衛門『……この旅は本当にいろいろあったなぁ……。     ふふ……本当に楽しい旅だった……』 誇らしげに微笑むスモーク彰衛門。 俺はその姿を、創造した団扇(うちわ)
(あお)いでやった。 彰衛門『あっ!いやっ!やめて消えちゃう昇天しちゃう!やめてやめてヤァーーーッ!!     散っちゃうって!それ以上はっ……!いやっ……やだぁあーーーっ!!     や、やめっ!いやっ!やめてぇええーーーーっ!!!』 遙かなる旅路……さらば友よ。 やがて煙は霧散し、その場には静寂のみが───流れなかった。 彰衛門「───ハッ!?あ、あれ……?」 ビククンッ!と痙攣して起き上がった彰衛門は辺りを見渡したのちに安堵。 どうやら性質の悪い悪夢を見ていたらしい。 悠之慎「よし、じゃあさっき話した通りだ。いいな?」 彰衛門「え?え?なに?なんの話?」 悠之慎「………」 俺は、纏めた話を彰衛門に話すハメになった。 ───……。 ……。 彰衛門「ほうほう……そりゃ名案。     でも解るん?その晃クンの中にある晃クン以外のモノって」 悠之慎「なんとかなると思う。じゃ、準備いいか?」 彰衛門「おっけーざますー!」 悠之慎「晃は?」 晃  「ああ……あ、いや───ちょっと待ってくれ着替えてくる!」 彰衛門「あ〜ん?そのままでええんじゃないのかね?」 晃  「あの時代に戻って姉さんの式を見るならあの時代の俺の姿で見届けたいんだよ!」 一気に言い放って古式の箪笥の上の葛篭(つづら)を下ろす晃。 開け放たれたその中には、この時代には似つかわしくない現代の洋服があった。 箪笥の中に入れてなかったのは恐らく、晃なりのケジメの付け方だったんだろう。 晃はすぐにそれを手にして着替え始めた。 彰衛門「ええぞーにいちゃん!色ッぺぇ〜!!」 悠之慎「カァアアーーーッ!!!」 ボゴシャアッ!! 彰衛門「つぶつぶーーーっ!!!」 突発的にトチ狂ったアホゥの顎を容赦なく殴り砕いた。 彰衛門「うきっうきっうきぃいいいーーーーっ!!!!」 結果、彰衛門は顎を押さえながら畳みの上を転がりまわった。 ……当然、そんなことをしている内に晃は着替え終わっていた。 悠之慎「ほら、いつまで遊んでんだよ。やるぞ」 彰衛門「おげげげげげ……!悪魔よ……アナタ悪魔よ……!!」 悠之慎「やかましい。……あ、ふみさんには言ってあるのか?」 晃  「ああ。珠枝のところに行ってもらってる」 悠之慎「そか、それじゃあ───」 意識を集中させる。 思考を回転させ、意識を次々と編んでゆく。 晃のためだ、失敗は絶対にしたくない。 だったら全力だ……ルドラは今回は手を貸す気はないだろうから俺の全力ってことになる。 それならやることはひとつだ。 発動時間が限られるが、より密度の高い黄昏を創造する。 彰衛門「ところでキミ、住んでた場所は神降?」 晃  「ああ、それが?」 悠之慎「───……」 彰衛門「えーと、頑張れよー悠之慎。結婚式っつったら教会だろうから───」 悠之慎「馬鹿野郎!結婚っていったら和式に決まってるだろうが!」 彰衛門「いきなり怒鳴らんでくださいよもう!     あたしゃただ予想を立ててるだけなんですから!     とにかく!……結婚式っつったら教会だろうから、多分相当辛いぞ。     神降で、しかも教会……死神にとっては意地でも近づきたくない部類だ。     無茶だけはするでないぞー」 ……それは一応覚悟はしてる。 嫌な状況を想定しておけば大体のことには耐えられるだろうからと、 転移先は神降になるんじゃないかと予想はしておいた。 晃  「……?なんだよそれ」 彰衛門「む?ああ、簡単に言いますとね?俺と悠之慎は神降の空気が苦手なんですわ。     訳解らんかもしれんけど、     今の俺達にとっちゃあ神降の空気は毒以外のなにものでもないぞクラースくん」 晃  「なに……?ちょっと待て!     俺は他人を苦しめてまで見届けたいわけじゃねぇぞ!?」 彰衛門「もう無理ネー。悠之慎、キミのこと『信頼』しちゃったから。     クォックォックォッ、後の祭りってきっとこげな時に使う言葉なのでしょうね」 晃  「おいモミアゲ!何かするつもりなら今すぐやめろ!     毒っていったら相当辛いんだろ!?」 悠之慎「モミアゲってあのなぁ……殴るぞ?」 なんだって行く先々でモミアゲモミアゲ言われなきゃならんのだ。 『モミアゲ=俺』なんて方程式、冗談じゃねぇぞ……? 彰衛門「キミってホント、何処の時代でもモミアゲ言われてるよね」 悠之慎「やかましい!!……悪いけど、俺はやめる気はない。     お前はその姉の式を見届けることだけ考えろ」 晃  「でもよっ……!おいお前!お前もモミアゲを止めろよ!友達なんだろ!?」 彰衛門「ウィ?……いやいや、友だからこそ信用しとるんですよ。     こやつはきっとやり遂げます。     だからね、晃クン。貴様もひとりのメイド好きなら胸を張って構えなされ」 晃  「ここでメイドは関係ねぇだろ!!」 彰衛門「ええい黙らっしゃい!悠之慎!準備はOK!?もう強引にやっちゃいましょう!」 晃の罵倒を無視してババッと構える彰衛門。 晃  「なっ───ちょっと待ててめぇ!止めろって言ったんだぞ俺は!」 彰衛門「待たねぇでござる!男が男の望みを叶えることによどみなど要らぬ!!     貴様も男ならばドンと構えたまえ!貴様は悠之慎に認められた男なのですよ!?」 晃  「〜〜……ああ訳解んねぇ……!!     お前らどうして見ず知らずに近い俺のためにそこまで言えるんだよ!」 彰衛門「……こりゃまた随分とおかしなことを。     キミの親友、こういう時に理屈をどうこう唱えた?」 晃  「……───!?……お前ら、純のことを……?」 彰衛門「知りませんよ?適当ぶっこいただけですし」 晃  「くあっ───てめえ!!」 晃の問いに、彰衛門はとにかくトボケまくった。 けどまあビンゴだ……やっぱり晃も咲桜純関連の人物ってことか。 この旅、なんだかあいつに関係したことばかりだから、もしやと思ってたが…… 彰衛門「ほっほっほ!いいパンチだ!キレがあり、隙というものが極力殺されている!     だがまだまだ俺を捉えるには至らんようだな!!」 晃  「さっきから当たりまくってじゃねぇか!!」 彰衛門「うっさいやい!!     時神様に殴られたダメージが引いてねぇんだからしょうがねぇでしょ!?」 ふたりがじゃれ合っている中、『晃』の『構造』を透視する。 ───本名:鳴海沢晃。 咲桜純の親友であり、彼に何も言わずに過去に残ったことを少なからず悪いと思っている。 重度のシスコンであるが、今はふみさんを第一に考えている。 ……いや、こういうプライベートなことはいい。 俺が探すのは神力の波動だ。 悠之慎「───……、づ……!」 頭が軋む。 自分の力じゃなく、ルドラの力を行使している結果だ。 集中すればするほど視界が赤く染まってゆき、───!! 悠之慎  「あった!」 晃&彰衛門『え?』 晃の中にあった神力の波動を発見した。 それ自体の構造は───よかった、そう複雑なものじゃないらしい。 あとはこれを広げて効果を弱らせた状態にして───ビヂッ……! 悠之慎「くがっ……!?」 左目全てが真っ赤に染まった。 次の瞬間には左目は視覚を失った。 ちと困った……保つかな、俺の精神……。 悠之慎「彰衛門、行くぞ……!」 彰衛門「へ、へぇっ!?じゃけんどキミ!その目───」 悠之慎「やかましい!やるって言ったらやる!月空力の準備しろ!早く!」 彰衛門「うぅ、解ったよぅ……」 彰衛門が意識を集中させて月空力を圧縮させてゆく。 失敗しないようにという心遣いだろう……俺は素直に感謝した。 あとは─── 悠之慎「思考を紡げ。意識を繋げ。異端の思考よ例外を創造れ。(連ねるは言。連言より軌道と成す。意は創造と化し、その在り方は正に人。)     矛盾を抱きつつ既存を創り、既存を抱きつつ矛盾を目指せ。(無二で在りつつ無二に在らず、唯一でありながら既に虚無。)     枷は己の心にあり。臆せぬ思考が既存を潰す。(束ねる思考は例外に堕ち、虚無なる無象は有象へ換わる。)     想像は留まりを知らず、想像は無限に換わり、創造すらも無限に換える。(その在り方は神が如く。越せぬ壁など我が身にあらず、我が意思こそが無限の自由。)     生きた軌跡は至福に遠く、その思い出は黄昏へと集約せん(ならばその在り方をここに示し、無限の自由を世界と謳え)」 最も自分が集中出来る『言』を連ねてゆく。 それとともに部屋という景色は高い密度の黄昏へと変貌する。 それを確認するとその世界に困惑している晃の中の封印の環を、 この黄昏の世界に居る時のみ解除するイメージを弾けさせる。 悠之慎「“───月詠の黄昏(ラグナロク)”」 そんなイメージを黄昏と同化させ、全ての準備は整った。 悠之慎「彰衛門!」 彰衛門「サー・イェッサー!!」 悠之慎「気ィ抜ける掛け声だすな馬鹿っ!!」 彰衛門「なんと!?いいじゃないですか別に!───ところで座標は?」 悠之慎「アホゥ!晃に後悔の念があるなら、     何処に飛べば解決出来るのかはお前にしか解らんだろうが!     念を辿れ!後悔を探る能力はお前にしかないだろ!?」 彰衛門「そ、そうか!私にはそれがあった〜〜〜っ!!」 悠之慎「オメガマンやってねぇでさっさとやれたわけ!!」 彰衛門「ヒィイごめんなさい!!」 ガオォと咆哮めいた声をあげると、すぐに彰衛門が月空力を解放させた。 悠之慎「行くぞ晃……。最初に言っておくが、俺のことはわざわざ気にするなよ……。     お前はお前の悔いの念を出来るだけ解消することだけを考えろ……」 晃  「モミアゲ……」 悠之慎「……それとそのモミアゲってのをやめろ」 晃  「だったら名前くらい名乗れよ……」 悠之慎「兇國日輪守悠之慎」 晃  「長いな。やっぱモミアゲだ」 悠之慎「……この用事が済んだら、いっぺん殴り合うか」 晃  「返り討ちだ。あんたの敗北を姉さんに捧げてやる」 よし上等だ。 用事が終わったあとが楽しみだよ。 彰衛門「───ムムッ!ピピっと来たァッ!!行きますよ悠之慎!晃クン!」 悠之慎「来いっ!」 晃  「……姉さん───」 キュバァッ!! 彰衛門が放った黒い光が俺達の視界を黒く染める。 感情と『黒』を受け入れた今、どうやら様々な光も黒く染まってしまったらしい。 フェイスフラッシュも、眩しくはあるが確かに黒だった。 悠之慎「……アホか、余計なこと考えるな……」 意識をより集中させる。 やがて転移した俺と晃は、創造した黄昏とともに時間の壁を突き破った。 ───……。 ……。 ……突き破ったが……正直体がゆっくりと溶かされていってる気分だ。 復唱するようで癪だが、彰衛門の言う通りだ。 神降で教会ってのはかなりまずい。 神降にあるのに暗黒に満ちていた塚本神社の存在を本気で疑った瞬間がここにある。 晃  「モミアゲ……」 悠之慎「モミアゲ言うなっ……!とにかく行け……!     いいな……絶対に悔いなんか残すなよ……!?」 晃  「……だな。お前の苦労が水の泡に───」 悠之慎「たわけ!俺の苦労云々より離れる現代に未練なんて残すなって言ってんだよ!     俺の都合なんか忘れちまえ!お前はお前のために悔いを───ゔ」 ヤバイ、眩暈がしてきた。 悠之慎「行け……今すぐ。俺は姿が見えないようにしておくから、早く……」 晃  「……悪い」 晃が真っ直ぐに、視線の先にある教会を見る。 ここでは辛うじて新郎新婦の姿が見えるくらいだが─── 晃はそこを動こうとはしなかった。 挨拶しにいくこともなく、拍手することもなく。 ああつまり……こいつは本当に『見届け』に来ただけだったんだろう。 悠之慎「……?っと、俺の姿を見えなくする透明の膜が出ます」 晃とともに結婚式を眺める中、突如晃へ向けて走ってきた女を見て創造を。 姿を消して様子を伺うが───いきなり晃は殴られていた。 誰でもない、走ってきた女に。 本気で驚いたもんだが……交わされる罵倒の中で驚きの事実を知った。 この女……いや、女といっていいのかは解らないが、 ともかく晃を殴ったこいつは自分を『咲桜純』なのだと言う。 晃は親友が女になってしまった事実を受け止められずに困惑する。 そんな中、その女が女化の経緯なんかを軽く話した。 なんでも『神界』に行った際にいろいろあったらしく、 遺伝子レベルから女にされてしまったのだそうだ。 ……悟った。 こんなことばっかりあるから、こいつらの後悔に振り回されるんだ。 別に悪い気はしないんだが……ゲスどもばかりに会うのはなんとかならないだろうか。 晃  「シ、シンデレラが死んでれら……」 咲桜 「ロシアの殺し屋恐ろしや」 晃  「本物だ……」 咲桜 「おい……」 信じられらなったからだろうが、晃はよく解らない言葉で相手の正体に確信を得ていた。 まあなんだ……?親友だからこそ出来る会話ってのもあるだろうしな。 悠之慎(……っと) 俺は……ふたりの会話に首を突っ込むべきじゃないな。 そう感じてからの行動は速かった。 静かにふたりから離れ、声が聞こえない程度の場所で意識を少し休めた。 が……ああくそ、気持ち悪い。 ルドラと同化するまでは、神降の空気もそう重くなかったんだが…… 悠之慎(ってそうか、馬鹿正直に神力の空気に当てられる必要なかった) 少し頭を痛めて、潰れた視界を治す霧をまず創造。 目を治してからは、この町全体を覆っているであろう神の力場を分析した。 その分析が終わると、ゆっくりとイメージを物質化した。 悠之慎(神力と力場の影響を遮断する膜が出ます) 弾かれるイメージとともに、黄昏が神力を弾く場となる。 悠之慎(はぁ……) ここにきてようやく一息つけた。 あとはのんびりと待つとしよう……ルドラの能力の行使の所為で頭痛が止まらない。 試しに頭痛と疲労感を取り除く霧を創造してみたが、まるで効果がない。 どうやら自然に治るのを待つしかなさそうだ。 ───……。 ……式は恙無く進行した。 教会での結婚を見るのは初めてじゃないが、 どうにも自分的には和式のおごそかな雰囲気じゃないのは不思議と苦手だ。 苦手だけど……ここでそんなことを言うのはあまりにも無粋だ。 そもそも彼女らの結婚式に俺の意思は関係無いのだ、何を考えたって結局無粋。 せめて祝うのが人ってものだろう。 ……死神だけどな。 悠之慎「………」 ふと、離れた場所に居る晃を見た。 咲桜純と会話をしながら、式の壇上に居る新婦を眺めている。 結婚式ってこともあって、解らない方がおかしいものだが─── 悠之慎(そっか、あの人が晃の……) 新婦は幸せそうな顔をしている。 それを見て、 幸せを受け入れた人ってのは本当に嬉しそうな顔をするな、とかそんなことを思う。 咲桜になにやら説教めいた態度をとっている晃を見て、俺はそろそろかなと思考。 式も終わろうとしていたし、既にブーケを投げる行為も終了していた。 晃の気が済むまでこの場に居ようと思ったが、 困ったことに頭痛と疲労感が増してきやがった。 さらには圧縮された月空力を介して、彰衛門が 『もう限界ヨーッ!!帰ってきてーーっ!!タスケテー!タスケテー!』 とか叫ぶ始末。 どうやら能力を圧縮させすぎて大変なことになってるらしい。 月操力が枯渇しそうなのか、それとも別の問題に直面してるのか。 悠之慎(ったくあの馬鹿っ……!) 俺はその旨を晃の思考に流すイメージを弾けさせた。 晃が数瞬後ろを振り向いた───そこはこの時代に転移してきた時に俺が降り立った場所。 そこに向けて小さく頷いた。 どうやら『解った』と言いたかったらしい。 晃  「さって、俺もそろそろ行くかな」 咲桜 「行くって、何処へ?」 晃  「何処だろうな。ただもうモミアゲの方も限界らしいし、     これ以上あいつに負担はかけたくない。だから消える」 咲桜 「そっか……」 晃  「完全に忘れられてる筈なのに覚えてくれててありがとな。     本当は誰とも会わず、ただ姉さんのドレス姿を見られるだけでよかったんだ。     だが、お前は俺を見つけてくれた。お前は俺を覚えていてくれた。     それがなによりの冥土の土産だ」 咲桜 「言い得て妙だな」 晃  「まったく、その通りだ。じゃあな、元気で暮らせよ」 咲桜 「お前も早く生まれ変わってこい。そしたら命一杯イジメてやるから」 晃  「お前にイジメられるほどヤワには生まれねえよ!」 ───ガツッ! ふたりは笑い合いながら拳を合わせた。 その瞬間、黄昏は薄い光に包まれ─── 晃の姿は最初からそこになかったかのように消えた。 厳密に言えば彰衛門が限界を迎えて、過去に引き連れたんだろう。 俺の方は……困ったことに、 『神力を遮断する膜』を張っていた所為で飛べなかったらしい。 神魔融合の力ってのも考えものだよな……。 そう思いながらゆっくりと黄昏を消してゆく。 もちろん神力を遮断する膜と姿を消す膜は張ったままだが。 悠之慎(それはそれとして……) どうやって帰ったものか……。 と───そんなことを思案している時だった。 咲桜 「ありがとな!本当にありがとう!晃の願いを叶えてくれて!!     たとえお前らがどんな死神だろうと俺は感謝してる!!     してもしきれないくらい感謝してる!!じゃあな!!」 視線の先で、誰にともなく感謝の言葉を叫ぶ咲桜が居た。 俺はそれに小さく『ああ』と返事を返して、これもまた小さく苦笑した。 自分勝手に───時間軸は違うとはいえ他人の過去を変えてしまっている自分たちに、 怒りこそすれ、まさか感謝をしてくれるヤツが居るなんて思ってもみなかった。 死神、と言われた時は驚いたが……そんなことはどうでもよく思えた。 悠之慎(……俺からも。晃のことを覚えていてくれてありがとう) 次元干渉を否定するほどの封印が生されていたのだ、きっと誰も覚えていない筈だった それなのにあいつは覚えていてくれた。 故郷である筈の世界で誰にも覚えていてもらえないってのはあんまりすぎるから。 だから、ありがとう、と。 それだけを言い残して、 俺はゆっくりと月空力の残留軌道を辿るブラックホールを創造した。 それに身を投じるとともに、離れてゆく景色に大きな鐘の音が鳴り響く。 心地よい浮遊感に抱かれながら、静かに───鐘の音に耳を傾けながら笑った。 Next Menu back