───たわけモン道中記32/いろいろアレコレメイドさん───
【ケース77:昏黄悠黄奈/おなご心】 彰利 「あハイ、ワァン?あヌゥ?あワァンヌゥスリィ」 メゴチャア! 彰利 「ヘナップ!」 拳が彰利の顎を打ち抜いた。 みさお「あぁ……やっぱりだめですか」 悠黄奈「当たり前だっ!俺は男を捨てた覚えはない!!」 ───文化祭二日目。 体育倉庫で一夜を明かした俺達は、いろいろあって早くも疲れてる。 その『いろいろ』ってのが今やっていること、というかやらされていることなんだが。 彰利 「キミね、おなごになったからにはおなご語を喋らんと」 悠黄奈「だからっ……!男を捨てた覚えはない!見縊るな!」 みさお「捨ててない以前に、戻れないんですけどね」 悠黄奈「言うなぁあああああああっ!!!!」 そうなのだ。 このメイド服の呪いの所為なのか、 みさおの神魔融合法術を以ってしてもこの女の体が男に戻ることはなかった。 殴ったさ、そりゃもう血涙流しながら彰利を殴りまくったさ。 聞けばあの看板が存在してるのは彰利が原因だそうじゃないか、殴らないなんて無理だ。 どうやって、誰があんなものを作ったんだかは知らんが、 ここが神降ならあの『葉流』って神の子が居てもおかしくない。 有り得る可能性があるとしたら、 彰利が飛ばしたっていう電波を葉流神様が受信、創造しちまったってことくらいだろう。 ……居ればの話だが。 彰利 「んーだば今日も元気に回りましょうか。     ここで別の時代に転移したらそれこそおめぇ……アレだ、     永久に元に戻れなくなるかもしれねぇぜ?」 悠黄奈「おのれは……!     俺に『元に戻る方法が見つかるまでこの格好で歩け』ってのか……!?」 彰利 「しょうがなかろうもん。キミ、覚悟出来てるって言ったし」 悠黄奈「ぐぐぐがが……!!」 おお、血管ムキムキだよ俺。 今すぐ全てを壊したい。 みさお「あの……吹っ切れてしまった方が案外楽かもしれませんよ?」 悠黄奈「だったらお前……自分を男にしてみろ」 みさお「うぐっ……!ご、ごめんなさい、失言でしたぁ……」 彰利 「ほっほっほ、まあよまあよ、そげなことはいいから楽しくいきましょうや。     祭りは楽しまなきゃ損だぜ?」 悠黄奈「わぁってるよ、くそ……」 心境は八方塞り。 だったら出来る限り楽しむしかないわけだ。 けどなぁ……足がスースーするわ胸が邪魔くさいわ……なんとかならんかこれ。 ───……。 ……。 サクサク、もぐもぐ……ごくん。 悠黄奈「おかわりだ!」 彰利 「速ッ!?もっと味わって喰おうよ!俺まだ一口も食ってないよ!?」 みさお「本当に速いですね……」 現在メイド喫茶にて食事中。 昨日は結局ヤケ喰いどころじゃなくなっていたため、今日にコトを移した次第だ。 さてそれはそれとして…… 悠黄奈「何故にねこミミ……そしてメイド服」 彰利 「猫神様だからさ!」 メイド喫茶には、いつの間に降臨したのやらの猫神様(彰利曰く)が居た。 俺が着ているのと同じメイド服を着ているところを見るに、 恐らくあの看板に触れたのだろう。 でもって、ねこミミが生えてて尻尾まである。 彰利が好きそうな感はあるが─── みさお「彰衛門さん、ああいうのが好きなんですか?」 彰利 「んにゃ。バランスは取れてるんだが、     ウェイトレスをやってる時点でウェイトレスなり。     ねこミミメイドというのはですね、みさおさん。     メイド業に時を費やすおなごさんがそうであるべきなんです。     だがここで間違うな。ねこミミはアクセサリーで付けるべからず。     ナマで生えているからこその価値でござる」 みさお「うーあー、腐ってますね彰衛門さん」 彰利 「自分から訊いといてそげな……。と、とにかくですね?     メイド業に専念していた人がここでこうしてメイド喫茶をやるなら     なんら文句はありません。じゃけんどね?     ある日……というか今日だけど、     急にメイド服を着たからってメイドになるわけじゃないのです。     特にその仕事先がメイド喫茶なのであれば、それはウェイトレスでしかない。     解るかね?メイドの道……冥道は険しいものなのです」 みさお「それでですね、その時聖ちゃんがですね」 悠黄奈「そうなのか?それは面白いな」 彰利 「いや……無視されるって予想はしてたけどさ……」 悠黄奈「冗談だよ。ちなみに俺はメイドの道を歩むつもりはないぞ」 彰利 「今すぐそれ脱げこの野郎!!」 悠黄奈「呪われてんだよ馬鹿野郎!!」 みさお「ま、まあまあ落ち着いて……」 落ち着けと言われても、元々みさおが俺に性別変換の法術なんぞ使わなければ……! ……後の祭りっつーか、今さらだな。 彰利 「グウウ……!なんだか俺、いろいろ考えてたらモヤモヤしてきたナリ!!     というわけで俺、これからメイドについてをいろいろな人に説教してくるよ」 みさお「説明して教えるんですね?」 彰利 「ウィ。つーかもともとそういう意味なのに、     なんだって叱りつけるって印象が取られるようになったんだか」 みさお「それは知りませんけどね。これから単独行動ですか?」 彰利 「だってキミたち、どうせメイドさまの素晴らしさに共感してくれないでしょ?」 悠黄奈「当たり前だ」 みさお「当たり前です」 彰利 「まあそんなわけですじゃ。───したらな!」 彰利が手を上げてスジャーーッ!と去ってゆく。 次の瞬間には『食い逃げよぉーーっ!』と叫ばれ、本気で驚いていたようだった。 悠黄奈「あ……そういやいつの間にか食い終わってたな、あいつ」 みさお「一口で飲み下してましたよ?」 悠黄奈「……随分と大きい食道持ってるんだな」 みさお「まったくですね……」 やっぱり呆れるばかりだった。 悠黄奈「あー……そうだ、まだ試してないことがひとつだけあった」 みさお「え?なんの話ですか?」 悠黄奈「───“時操反転(プリーヴィアス)
”」 ───シャキィンッ! 世界猫「……おお!!」 なれた───猫になれた!! みさお「す、すごいです悠黄奈さん!     てっきり呪いの所為で変身出来ないと思ってたのに!」 世界猫「う、うおおおっ!俺は!俺は勝ったぞぉおーーーっ!!」 何に勝ったのかは訊かないでほしい。 みさお「……でもメイド服は着たままなんですね……」 ザグシャアッ!!(心のキリストにロンギヌスの槍が刺さったような音) 世界猫「………!!」 みさお「うあっ……えっと、ごめんなさいっ……!」 痛い……今のは痛すぎるぞみさお……。 たしかに猫になった俺の体に合わせてメイド服は小さくなりやがった……。 だが、それくらい忘れさせてくれたっていいじゃないか……。 みさお「……あの。現実から逃げるのはよくないですよ?」 世界猫「現実問題をひとりで抱えきれなくなって、     俺を女にしてから百合屋敷に転移させたのは誰だよ……」 みさお「うぐっ!」 ……のちに訪れるのは結局痛い沈黙だけだった。 みさお「あ、あははっ……お、お好み焼き……美味しい、ですねぇ?」 世界猫「………」 むしゃむしゃと困った顔でお好み焼きを食べてゆくみさおを冷めた目で見る。 実際、心のダメージは相当なものだ……本当に勘弁してほしかった。 女生徒A「あっ!メイド服着た猫が居る!カワイ〜!」 女生徒B「あっ!ほんとだ!」 ……しかもそれ以上に頭を痛める要因が俺を囲みやがったのだ。 女の気持ちは多少だけ解ったが、 実際に女になってみても全く理解に至らないことがひとつある。 『女の【カワイイ】ほど説得力も信用も無いものはない』 なんでもかんでもカワイイカワイイって……その感性がまず解らん……。 猫がメイド服着てる姿がカワイイわけないだろうが……。 とかなんとか思いながら、 既に女生徒達に振り回されている自分が酷く滑稽だったので泣いた。 猫でも涙は流せるらしい……。 【ケース78:弦月彰利/メイド考察】 彰利  「『メイドさん』の存在は……      現在のゲームが示すような欲望の捌け口などではなく───」 男子生徒「意義アリ!過去多くの文献、ゲームにおいて      そういった嗜好のものが既出している以上!      メイドさんは欲望の捌け口であるという定義に基づいて、      弦月くんの論説は論説足り得ない!」 彰利  「どの考察においても重要なのは、      考察そのものよりもむしろ、その考察が占める位置です。      すなわち。欲望に縛られ、愛すべきものを欲望にしてしまう考察は非合理的」 教師  「それは男子の欲望に対する侮辱以外のなにものでもないぞ弦月くん!!」 彰利  「私はっ!あなたと言葉遊びをするためにここに来たのではない!!」 男性  「なにを言いだすんだこの男は……」 教師  「弦月くん。そもそもメイドさんが欲望の捌け口ではないとするなら、      何故そういう『属性』が生まれてきてしまったのかね?      私にも解るように平明に説明してほしいものだね」 彰利  「何故ならば。人の欲望こそが全てを標的に変えてしまうものだからです」 男子生徒「異端だ!」 男性  「ああそうだ異端だ!」 彰利  「聞いてください!私は確かにこの目で真のメイドたる人物を───!」 教師  「キミに必要なのは研究資金ではなく……目医者と精神安定剤だよ」 ざわ……。 男子生徒「プッ……くははははは!」 男性  「くっはははははは!!」 彰利  「……みなさんにお配りしました資料をご覧ください。2ページ目に私の論旨の」 教師  「もう結構だ弦月くん」 彰利  「まだ何も説明していない!!」 教師  「キミには……巫女さんの知り合いが居るそうだね?      巫女さんやら巫女装束やらといった属性は、      夢と忠誠に立脚する我がメイド愛好会とは対極に位置するものだ。      我々の研鑽はそうした別属性の呪縛から人間を解放することを目的としている。      キミの大好きな、愛好会憲章で禁じられているのを……知らぬ筈は、あるまい」 彰利  「禁じ手ではない!      憲章には───他属性との友好に関する真実が含まれている!」 教師  「黙れ弦月彰利!キミを愛好会から……永久追放する!」 彰利  「なっ……」 男性  「異議無しぃっ!」 男子生徒「異議なしっ!そうだそうだ追放だ!出て行けぇっ!」 彰利  「なっ……何故目を開こうとしない……話を聞いてくれ!!      っ……!聞いてもらえば解るーーーーーーっ!!!!!」 ガララッ……バタン……。 ───……。 ……。 彰利 「ばかな……この俺が……追放……?」 風峰高等学校。 とある教室で密かに展開されていたメイド愛好会の集まりに入ったまではよかった。 だが……なんてことだ。 メイドさんを欲望の捌け口と断言されたばかりか、この俺が追放されるだなんて……。 彰利 「夢も希望もありゃしない……どうしたらいいんだ……」 ちくしょう、誰だエロゲーにメイドさんを存在させちまった人は。 夢と忠誠に立脚している愛好会の筈が、 欲望と従順に立脚したものになってしまったじゃないか。 彰利 「どうしたらいい……どうしたら───」 もはや妖精さんは俺の中に降り立たないのか? これが……これが大人になっちまうってことなのか? 彰利 「ならば───」 嗚呼、ならば─── 彰利 「……後継者が必要だ。     巫女さんに打ち勝ち、だがいずれは友好関係が結べるような後継者が」 俺ではその夢は叶えられなかった。 ならば誰かに託すしかないのだ。 幸い今は文化祭。人の集まりは郡を抜いている。 誰か巫女さんを憎んでいるヤツは居ないだろうか。 そんでもって、激闘の末に芽生える友情……! ……いや、やっぱメイドさんと巫女さんは相容れないや。 場面が想像できないもの。 しかし属性としては対極に位置するものであっても、 人としては相容れるものだと信じよう。 彰利 「というわけで───」 声  「ゲファァアッ!!!」 ……ウィ? なんだかどっかで聞いた覚えのある吐血音が……。 と、見れば……窓から外に向かって、血を吐いている少女を発見。 あれってばルリっちじゃ───ってぬおっ! 彰利 「こ、これ!そげにちっこい体で身を乗り出したりしたら───!」 ズルッ───と落ちちゃうじゃない……!! いや落ちたけどドグシャアアアアッ!!! 声  『ぶ、武流豚くんが潰されたぞぉぉぉーーーーっ!!!!』 声  『顔が体に減り込んで、首を引っ込めたバータみたいになってるぞぉぉーーっ!!』 声  『三階から降ってきた女の子には傷ひとつないぞぉぉぉーーーーっ!!!』 声  『それどころか視線に耐えかねて逃走したぞぉぉぉーーーっ!!!』 声  『ぶ、武流豚くんの減り込んだ部分から謎の汁が出てるぞぉぉぉーーーーっ!!!』 声  『衝撃で足の骨がヘンな方向に折れ曲がってるぞぉぉーーーーーっ!!!』 声  『あ……だ、大丈夫!生きてる!生きてるぞぉぉーーーーーっ!!!!』 ……えーと。 彰利 「……不死身だなぁ、武流豚くん……」 しかし、『武流豚くんには心配無用』とまで言われてるほどだし……よし。 落下したルリっちを探そう。 確かルリっちは塚本芽衣(巫女さん)を憎んでた筈だ。 きっと意思を継いでくれることでしょう。 彰利 「んむ」 コクリと頷いて走った。 そのままルリっちが落ちた窓から飛び降りて、ルリっちを追う。 しかし飛び降りる際に窓際上部に頭を強打。 意識朦朧で落下し───ドゴチャァアアッ!! 声  『ぶ、武流豚くんがさらに潰されたぞぉぉぉーーーーっ!!!!』 声  『減り込んだ首がさらに陥没して、既に人じゃない何かに見えるぞぉぉーーっ!!』 声  『三階から降ってきた黒い服の男には傷ひとつないぞぉぉぉーーーーっ!!!』 声  『それどころかさっきの少女を追うように走り出したぞぉぉぉーーーっ!!!』 声  『倒れた武流豚くんがグラウンドへの石段を転げ落ちていったぞぉぉーーーっ!!』 声  『石段が次々といびつな形に破壊されていってるぞぉぉーーーーっ!!!!』 声  『お、落ちた先のクレープ屋のプロパンガスに突っ込んで爆発したぞぉーーっ!!』 声  『ク、クレープ屋のやつらは全員無傷だぞぉぉーーーーっ!!!』 声  『ぶ、武流豚くんの体からプスプスと煙が出てるぞぉぉーーーっ!!!』 声  『腕と足が複雑骨折したみたいにぐにゃぐにゃに曲がってるぞぉぉーーーっ!!!』 声  『夥しいほどの血液がグラウンドの片隅を染めていってるぞぉぉーーーっ!!!』 声  『あ───で、でも大丈夫!生きてる!生きてるぞぉぉーーーーーっ!!!!』 ……ごめん、武流豚くん。 でも急いでるから失礼。 何故だか解らんが、武流豚くんならきっと平気だと思い、 俺は駆けていったルリっちを追うように走った。 ───……。 ……。 彰利 「プリーズアフタミー!……ってどんな意味?」 ルリ 「………」 それからルリっちに追いついた拙者は、滅茶苦茶怪しいものを見る目で睨まれてました。 彰利 「押忍!名も名乗らずに失礼した!我が名は弦月彰利!     今日は貴様に譲りたいものがあって馳せ参じた所存!」 ルリ 「わ、わたしは死神になんて用はない」 彰利 「おお、アナタ私が死神、ワカリマスカ」 ルリ 「わ、解るさっ!見縊るブヘェアァッ!!!」 彰利 「キャーーーッ!!?」 いきなり吐血。 悟り猫として会った時から変わらず、吐血はしやすいようです。 そういや今さらだけど……あの時代で塚本芽衣に奪われた小判、回収すんの忘れてたね。 彰利 「あーあー、解った解りました、簡潔にいきましょう。     えーとキミ、塚本芽衣が嫌いだよね?勝ちたいよね?」 ルリ 「ゲフッ……な、なぜ貴様がその名を知っているのかは知らんが……     ヤツは俺の得物だ……手を出したらぶっ殺すぞ……」 なにやらいきなり漫画やアニメでありがちな脅迫気味です。 案外なにかに影響されやすい性質なのか、 塚本芽衣の妹、塚本椎名さんのジャスティスレイザー好きの影響なのか。 彰利 「ノウ!クライスト。これはあなたのための助言ネ!     よいですか神魔の君!塚本芽衣は『巫女』である!     巫女とは聖なる力を持っているもので、     なんの冗談か塚本芽衣にもそういった力があると見る!     しかもあの邪悪さ、極悪さ、姑息、醜悪、外道っぷりから鑑みるに!     神魔の君!汝が勝てる確率は露にも満たない!」 ルリ 「な、なんだとぉっ!?」 彰利 「そこでキミにアドバイス!     ……よいかね?『巫女』に勝てるのは『メイドさん』のみだ。     もう一度言いましょう。巫女を倒すならメイドさんしかない!!」 ルリ 「なんとぉっ!?そ、それは本当なのか!?」 彰利 「然りでござる。これは世界が定めたものなのです。     神界や冥界で生きるならまだしも、     地界に生きるのであればこの法則───知らぬままではちとやばい。     郷に入りては郷に従うもの。立ち回るためにはその知識が必要なのでござる」 ルリ 「メ、メイド……」 彰利 「ノウ!クライスト。『メイド』ではない、『メイドさん』だ!」 ルリ 「メ、メイドさん……」 彰利 「イエス!よいかルリっち、メイド業とはとても過酷なものでござる。     命令ばかりをされ、心がくじけてしまうこともあるだろう。     しかし私はキミがそんな心の持ち主じゃないことを知ってる。     だからキミがメイド業に身を費やし続けるための方法を授けようと思う」 ルリ 「方法……?」 彰利 「いいかね?よく聞いてほしい。     これからキミは『神城』さん家にメイドとして働かせてくれと言うのです。     そこにはタブレーという因業ババアが居るが、     キミはそいつの下で働くことになる」 ルリ 「わ、わたしに誰かの下で働けっていうのか!?冗談じゃない!」 彰利 「もちろんキミがそうくることも知っていた。だがね、ルリ子くん。     キミはそいつの下で働きはするが、心までは下にはならない」 ルリ 「ルリ子言うなぁっ!!!」 彰利 「まず、メイド服を愛することから始めなさい。     どれ、神魔の君。キミの体格によく合うメイド服を今、私は持っている。     それを私の歴史と暖かみとともにキミに譲りたいと思う」 ルリ 「あっさり無視するな!」 彰利 「さあ受け取ってくれたまえ。これが、俺が再び魂を込めて縫ったメイド服。     そしてこれが……約千年もの間、     メイドを愛した俺が書き溜めた秘書……『メイド秘術書』だ」 ルリ 「人の話を───え?秘術書?」 秘術、と聞いた途端にルリっちの表情が変わった。 おずおずとメイド服とともにそれを受け取り、シゲシゲと眺める。 彰利 「巫女に負けないための心意気、メイドさんとはなんぞや、     メイドさんとしての在り方、メイドさんの仕事、メイドさんの仕草、     メイドさんの暖かみや、時には見せる厳しさの中の希望、     尽くす気持ちと包む気持ち、清楚にして忠義に溢れ、     しかし所有物ではない例外無き完璧なる仕事人───メイドさん。     その全てを俺が研究、書き連ねた秘書だよ」 ルリ 「お、おお……!感じる……!     過去から未来にかけて、あらゆる時代の思念が脈打っているのを……!」 彰利 「……ここまで説明をしてからだが、今一度キミに問おう。     その宝具を己のものとして、生涯をメイドとして生きることを誓えるかね?」 ルリ 「……そ、それで塚本芽衣は倒せるのか?」 彰利 「キミがそれを信じ続けることが出来るなら」 ルリ 「───よ、よし!だったらやってやる!     メイドってやつになって、塚本芽衣に復讐を!」 彰利 「……よろしい。では今この刹那をもって、     メイドさん愛好会元No.1の我が名の下に……ルリよ。     キミをひとりのメイドさんとして認めよう。     “無形なる黒闇(ダークマター)───モード運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)”」 ルリ 「……え?」 彰利 「我が漆黒の鎌よ……個々の在り方という運命を破壊せよ。     今よりこのメイド服をルリとともに成長する武具として構築する。     ともに生き、ともに学び、ともに真のメイドたる者に成長しなさい」 ヒィン───パキィンッ!! 鎌から黒い光が放たれると───数瞬、メイド服が淡く輝いた。 彰利 「……さ。これでそのメイド服はキミだけのものだ。     他の誰が袖を通そうとしようとも、着衣するに至れぬだろう。     いいかねルリくん。先に言った通りそのメイド服はキミとともに成長する。     至るところにまで至れば、塚本芽衣に匹敵する力を得ることも出来るだろう。     だが───おそらくその場所に至った時、キミは別の志を得ていると信じてる。     メイドさんとは無闇に人を憎まぬもの。     メイドさんとは深い慈愛に満ちているもの。     いくら真に至ったところで、心から人を憎むことなど滅多には出来んのだよ」 ルリ 「なっ……それじゃあ話が違う!塚本芽衣を倒せるから受け取ったんだぞ!」 彰利 「聞けこの野郎。それだけの力はキミの努力次第でいくらでも手に入れられる。     だがな、ルリよ───いや。これ以上はなにも言うまい。     キミはキミの手で、キミの思考でそこに至りなさい。     その時が来たのなら……     キミはメイドさんとして仕事が出来ることに涙すら流せるだろう」 ルリ 「涙……?」 彰利 「信念に生きよ、ルリ。ここに、宝書・メイド秘術書を授ける。     これぞ我が家の宝なり。     だがルリよ……汝がメイド業を愛したその時の思いこそ、汝の真の宝なり」 それだけを言い残して転移を実行。 ルリ子さんがなにかを言っていたが、それは完全に無視して転移しました。 ───……。 ……。 悟り猫「てわけで、メイドさんに関する思いの丈をルリ子さんに託してきました」 世界猫「誰だよ……」 疲れた顔の世界猫がモシャアと息を吐く。 みさおさんの話では、女生徒たちに散々振り回されて酔っているのだそうだ。 ちなみに俺が猫化しているのは、そげな世界猫に合わせるためである。 みさお「ここでわたしも猫になれたらいいんですけどね……」 悟り猫「自分で時操反転かけてみりゃいいじゃん。運が良ければ猫になれるやもしれん」 みさお「あ、いえ……わたし、自分の前世には興味がないので……」 悟り猫「そうなん?なんで」 みさお「……自分の記憶を前世にまで遡らせてみたんですけどね……?     わたしそこで、人身御供の村娘やってました……」 悟り猫「あー……」 みさお「………」 悟り猫「えーと……」 みさお「……今、今も前世も変わらないねぇとか思いませんでした……?」 悟り猫「思いましたじゃ!」 みさお「うぅ……いいですよー、どうせわたしなんて……。     人身御供にされたり刀の楔にされたりの因果人生ですよぅ……」 悟り猫「ほっほっほ、そう悲観するでない。     今こうして生きてるんじゃから、今を思いっきり楽しめばええことじゃて」 みさお「……それは、そうですけど」 悟り猫「そんなわけで……どれ。世界猫よ、ちと遊んでいかんか?」 世界猫「……遊び……?」 ぐったり、といった感じで俺に向き直る世界猫さん。 悟り猫「ウィ。このメイド喫茶を手伝うのですよ。アイルーの如く。     注文を聞いて料理を持ってきてゴニャァ〜ォァア〜〜ォオって鳴くんです」 世界猫「………」 悟り猫「よい気晴らしになると思うがね」 世界猫「……そだな。よし、やるかぁ」 のっそりと起き上がる世界猫。 それから俺と世界猫は猫神様に取り入って、手伝いをさせてもらうこととなったのです。 ……思いっきり怪しまれてたけどね。 ───……。 ……。 男性 「すんませ〜ん、注文いいすか〜」 トカカカカカ…… 悟り猫「ゴニャァアアア〜〜ォオ」 男性 「うおっ!?猫が二足歩行で!?」 悟り猫「ゴニャッ」 男性 「………」 悟り猫「………」 女性 「……ね、ねぇ、なんだかこっちをず〜〜っと見てるんだけど……」 男性 「な、なんだよ……食い物ならこれから頼むんだからねぇぞ?」 悟り猫「………」 いや……注文してほしいんですけどね。 我らがここの手伝いをするって事態に猫神様が出した条件の中に、 『決して人の言葉を出さないこと』ってのがあったのだ。 だから喋るわけにはいかない。 一応アイルー語は許されたからアイルー語で話すけど。 男性 「あのー、すんませーん?注文お願いしたいんすけどー?」 悟り猫「ゴニャッ」 女性 「………」 男性 「……来ないな」 女性 「そうね」 悟り猫「ゴニャァアア〜〜〜〜ォオ」 男性 「うるさいよ……」 ゲシッ。 悟り猫「ゴニャァアア〜〜〜ォッ!!ゴニャ〜〜ォオ……!」 顔を軽く蹴られました。 そうされることでクルクルと回転しながらヘタりこみ、顔をブルブルと震わせる。 男性 「───うあ……なんか俺、この猫の動きってどっかで見たことある気がする……」 女性 「わ、わたしも……。間違いなんかじゃなかったら、多分このあと……」 悟り猫「ゴニャアァアアアア〜〜〜ォオオッ!!!」 鳴いて、小タル爆弾を構えた。 男性&女性『やっぱりぃいいいいーーーーーーっ!!!!』 突如逃げ出す男性と女性。 それを執拗に追い掛け回し、やがてバゴォオオオオーーーーーーーーンッ!!!!! 男性&女性『オギャアアーーーーーッ!!!!!』 悟り猫  「ゴニャニャアーーーーッ!!!!」 もろともに爆発。 男性と女性は退場と相成った───途端。 猫神様「ちょ、ちょっと!お客さんになんてことしてんの!?」 我輩を仮厨房の影まで引っ張る姿があったのです。 悟り猫「ややっ!?おお猫神様!ちょっと聞いてくれよトム、     俺ってば必死に自分がウェイターアイルーであることをアピールしてんのに、     あいつらときたら目の前で他のヤツを指名だぜ?やってらんないと思うだろ?」 猫神様「あたしはトムじゃないし、猫に注文する人なんて普通居ないよ……」 悟り猫「なんだとてめぇ猫神様この野郎!     貴様猫たちの希望のくせに、よもや人の味方をするというのか!?」 猫神様「猫たちの希望になったことなんてまったく身に覚えがないんだけど?」 悟り猫「俺がそう決めました。     猫なのに神界に行き、しかも神の子の姉とまで呼ばれる猫神様だ……。     猫たちが憧れるのは仕方の無いことでしょう?というわけで寛大な心で許して?」 猫神様「……あたし、一応楽しんでやってるんだからさ。     迷惑起こすようなことは控えてよ?」 悟り猫「解りましたじゃ猫神様!控えます!」 猫神様「……控えめにやるならなんでも許すって言ったわけじゃないからね?」 悟り猫「ゲッ……!」 猫神様「図星……?」 先読みされてしまいました。 やはり『控えます』を強調してしまったのがまずかったらしい。 仕方ない……普通にアイルーらしくいきますか……。 Next Menu back