───たわけモン道中記─終/終わりの先にある始まり───
【ケース81:悟り猫/他が為には鳴っても武流豚くんのためには鳴らない鐘の音の響き】 ───文化祭最終日。 俺と世界猫とみさおさんは、 体育館でやるという劇を見るためにその場へ集まっておりました。 人々 『やんややんや』 見渡す限りの人、人、人。 既に満員のため、座れる椅子は皆無です。 世界猫「よくこれだけ集まったなぁ」 悟り猫「きっと演劇が好きなのよ」 みさお「でもどうしましょうか。これじゃあ疲れます」 悟り猫「そこはそれ。世界猫に後ろの方に高い椅子を創造してもらって、     まずみさおさんがそこに座ります」 世界猫「んあ?ああ……高い椅子が出ます、と」 ポムッ。 世界猫が椅子を創造し、それを登って座をとるみさおさん。 悟り猫「次に我ら猫どもがみさおさんの膝の上に座ります。これでOK」 世界猫「なるほど」 みさお「……まあ、軽いからいいんですけど」 スチャッ、と座る我らを見て溜め息を吐くみさおさん。 悟り猫「まあいいじゃないですか、たまには我らの骨休めになっておくれ?」 みさお「複雑な言い回しですね」 世界猫「まあまあ。始まるみたいだぞ?」 垂れ幕がゆっくりと上がる頃、会場……と呼べるのかは解らん体育館に拍手が響いた。 響いたけど…… 姉A 「こんの灰被り!!ちゃんと掃除しろっつってんでしょう!!」 シン1「え、ええっと……」 姉B 「ええっとじゃねえザマス!!掃除しろったらしろザマス!!」 シン2「それってタブレーさんの真似だよね?」 姉B 「知らねーザマス!!」 姉C 「それよりもシンデレラーズ、あんたら早く掃除しなさいってば。     さもないとパラガスさんがベジータ王に頼みごとしにくるわよ?」 シン4「シンデレラーズって……完全に一緒くたですか……」 シン3「くだらないな。なぜ私がこんなことを……」 いきなりの事態に皆様混乱。 水を打ったような静寂が体育館を支配しました。 つーか…… 世界猫「訊きたいんだが……どうしてシンデレラが四人も居るんだ?」 悟り猫「斬新に責めたかったんでないかい?」 みさお「じゃあパラガスさんとベジータ王は?シンデレラとどんな関係が……」 悟り猫「………」 解らねぇ……どうすればパラガスとベジータ王が関係するんだ……? そりゃさ、俺と悠介も中学の喧噪祭ではシンデレラで無茶はしたが…… 世界猫「ところで……壇上の隅でみの虫ダンス踊ってるのって……」 悟り猫「ウィ?あー……どういうダンスですかありゃあ」 みさお「そんなのわたしの方こそ訊きたいです」 いや〜、ほんと見れば見るほど訳の解らん演劇だ。 どうしていいのかがまるで解らん。 姉B 「オラオラシンデレラ3、悔しいか?悔しいだろ?     所詮貴様は姉である私を輝かす存在でしかないのだ」 シン3「き、貴様ぁぁぁ……っ!!!」 シンデレラには違いない……筈。 姉Bのシンデレラ3に対する仕打ちは相当なものだが、 一応シンデレラらしいといえばシンデレラらしい筈。 みさお「あの〜……まるで訳が解らないんですけど」 世界猫「俺もだ……」 ……普通のシンデレラでは、姉がシンデレラを踏みつけるようなことはなかった筈だが。 シン1「お、落ちついてください───、……お姉さま!!     確かに3は少し高飛車かもしれませんがそれでもあなたの妹ですよ!?」 シン2「そ、そうだよ!!     こんな屈辱的なことをお客さんの前でするってのもどうかと思うよ!?」 姉B 「ふふん、貴様等がそこまで言うならいいだろう。     命拾ったな小僧、仲間に感謝することだ。行きますわよ、姉さま、妹」 姉A 「はっ!」 姉C 「仰せのままに」 ホントに解らん。 姉さまなのに『はっ!』とか言うのも凄いが─── 次の瞬間には姉を踏みつけるシンデレラ3も相当だ。 姉B 「ぐおおおおおおっ!!こ、この小娘がぁぁっ!!     灰被りの分際で私の頭を踏み付けるとは!!     出会え!!出会ええい!!この不届き物を成敗してやれ!!」 兵士 「はっ!!」 ……兵士が出てきた───しかもシンデレラ3と激闘を繰り広げ始める始末。 もう決まった、確定だ……これ、シンデレラじゃねぇよ……。 ───……。 ……。 シン4「え、え〜と……セリフ、なんでしたっけ?」 シン2「あれだよあれ!ああ、私達も舞踏会に出たいわ」 シン4「あ、そうでしたね。     ああ、なんで私達だけこんな灰塗れでお掃除していなければならないのだろう」 声  『ト〜ットトトトト!!』 シン2「はっ!?」 シン4「なにやつ!?」 ババア「ト〜トットットットットッ!!わしは魔法使いのババアじゃ」 シン4「おのれ妖怪!!煙とともに現われるとは!!」 ババア「ストレートな感想どうもありがとう。     お礼に貴様らを舞踏会に送り届けてやろう」 シン2「ほ、本当ですか!?」 ババア「その代わりシンデレラ2よ、     貴様はわしと愛のねんごろをともにすることが条件じゃ」 シン2「ね、ねんごろって……」 ……そしていきなり百合ババア降臨。 既に体育館の観客たちはみんな絶句……みんなどうしたらいいのか解らなくなっていた。 村人B「た、大変だぁーっ!!暴れ馬……!!馬!?」 村人A「いや、ロバだろあれ!?」 村人B「と、とにかく暴れロバが出たぞぉーっ!!」 ロバ 「バロヒヒィィィーーン!!」 シン2「って、本物!?」 しかもここにきてロバが登場。 マジでホンマモンのロバが舞台袖から現れた。 ババア「無粋!!」 村人A「な、なにぃーっ!!     暴れロバを魔法使いのババアががぶりよりで食い止めたぁーっ!!」 村人B「そ、そして……あああああーーーーーっ!!     ちょっ、ちょっとそっちは客席……っ!!」 ───ドゴォォォォン!! 客A 『ぶ、武流豚くんが潰れたぞぉぉぉーーーーーっ!!!』 客B 『魔法使いのババアに投げられたロバに潰されてぺしゃんこだぁぁーーーっ!!』 客C 『潰れた場所から血が滲み出てるぞぉぉぉーーーーっ!!』 客D 『な、なにぃっ!?武流豚くんを潰したロバがゆっくり消えてったぞぉーーっ!!』 客E 『ぶ、武流豚くんがロバを食べたんだぁぁぁぁーーーーーっ!!』 客F 『完全に消えたロバの下から     見るからにスプラッタな形をした武流豚くんが出てきたぞぉぉぉーーーーっ!!』 客G 『腕や足や首がありえない方向に曲がってるぞぉぉぉぉーーーーーーっ!!』 客H 『あ、大丈夫!生きてる!生きてるぞぉぉぉーーーーーっ!!』 ……武流豚くん……居たのか。 しかもまた潰れてるし。 世界猫「……おお、武流豚くんのこと完全に無視して演劇再開したぞ」 悟り猫「観客のみんなも武流豚くんのことを空気のような存在として認めたようだぞ」 みさお「救われませんねぇ……」 体育館にお集まりの皆様は、まるで最初から武流豚くんなど居なかったかのように構えた。 構えたっていっても驚くくらいの自然体だ。 潰した張本人のババア役の人でさえ、なにも気にしてない風に続けてるし。 シン2「ああ、馬車とドレスをありがとう!!     私達はこれから舞踏会に出向きます!!」 ババア「まてぇい!!誰がただでやると言った!?     その馬車の代金は貴様の身体だぞえ!!」 シン2「無償の親切ありがとう!!それじゃあシンデレラ4さん、行きましょう!!」 シン4「はい」 ババア「ま、待たぬか!!」 シン1「すいませ〜ん、私も乗りま〜す!」 シン3「……」 ババアを無視して次々と馬車に乗るシンデレラ。 武流豚くんの圧死……いや、死んでないけど、それっぽい事故のことで忘れてたが…… 本当に訳の解らんシンデレラだ。 なんかもうアレだね?シンデレ……ラ?って疑問系で呼びたくなるような演劇だ。 とまあ珍しく俺が呆れてる時でした。 世界猫「あ……ウポだ」 悟り猫「へ?」 世界猫の呟きが耳に届く。 舞台を見ると、舞台袖からゆっくりと現れる全身白タイツの男が。 ウポ 「オラオラ子供ォ!さっさと出さンかいクラッ!」 しかも思いっきりウポだし……。 みさお「あの……これって本当にシンデレラなんですか?     急にCOSMOS始めちゃいましたけど……」 世界猫「あいつ……心の底からウポだったのか」 全身白タイツの男を知っているのか、世界猫がどこか感心したような顔をする。 ウポ 「名前くれェ聞ィたことあンだろ。     チーム『タナトス』仕切ってるウポってなァ俺のことだ……     口の聞き方過ったら死ぬぜ」 ……ごめんウポ。 ボクもう、どう反応していいか解らないよ……。 ───……。 ……そんなこんなで舞台も佳境……だと信じたい。 馬車が城に着くまでの間に、 バドが現れたり霊媒師が現れたりアーリー・アメリカンが出てきたり…… 流石の俺も開いた口が塞がりません。 もちろんそれは他のお客様も同様です。 だってさ、城に着いたら着いたで……王子様が何故か殿様衣装だし、 ガーディアンヒーローズの兵士に混じって勇者とパラガスが居るし、 チャーリー・チャップリンとワカメとジャムおじさんまで居る…… ああ、こんなに度肝抜かれたのは久しぶりだなぁ……。 姉A   「ああ、殿……どうか私と踊ってください」 姉C   「いいえ、私と踊ってください」 パラガス 「お待ちくださいベジータ王!!       ブロリーは必ず、必ずやベジータ王子のお役に立つ筈です!ベジータ王!!」 ジャム  「いや待て!それよりもジャムおじさん特性のカレーライスはいかがかな?」 勇者   「魔王……いないね。私、なんのためにここにいるの?」 兵士   「ウォーッ!!」 ワカメ  「たっ……タラちゃんはどこだ……?」 チャーリー「っていうかなんでチャーリー・チャップリンなんだろうね……?」 シン1  「お、王子様……」 シン2  「やっぱり純乃ちゃんって殿様似合い過ぎてるよね?」 シン3  「そろそろこの茶番劇も終わりにしないか?」 シン4  「王子様、私と踊ってくださいな♪」 兵士   「ややっ!!もうこんな時刻でねが!!総員退避!!退避だぁっ!!」 姉A   「シンデレラーズはそこで大人しくしてなさい!!       私達は隊長の命で対比しなければなりませんからね!!」 ……だめだ……この演劇、原中の猛者どもがやった真デレラ以上に謎だらけだ……。 兵士がいつの間にか隊長って呼ばれてて、 しかもシンデレラと殿様残してとんずらしちまった。 世界猫「なぁ……俺、演劇を見ててここまで状況に迷ったのって初めてだぞ……?」 悟り猫「正直俺も……。なんかこう、どうしたらいいものかと……」 みさお「訳が解らないのに、オチが気になって出るに出られない状況、でしょうか……」 猫二匹『それだ……』 まさしくそれでした。 しかも今、舞台では突如現れた時神様が殿様に団子みたいなのを食わせて、 そこから始まる乱闘劇……もう訳解らん。 ていうかやっぱり時神様って乱闘殿様関連の人だったのね……。 ───パッパカパ〜♪ 兵士  「いううううしょおおおおおお〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」 ボザエラ「え……?」 兵士  「シンデレラ王国大武道会を制したのはまったく自らの手を下さず、      殿を始めとしたシンデレラーズを打ち破った      妖魔鬼将ボザエラ氏に決定しました!!おめでとうございます!!」 ボザエラ「………」 ……えーと。 これってオチ? 時神様……つーかボザエラ、本気で状況に困ってるようだが? 悟り猫「あー……解った。これってつまり行き当たりバッタリの劇だったわけだ」 世界猫「納得いった……。ボザエラがどうしていいのか解らないって顔してる」 みさお「神様でさえ裏をかいて利用しますか……。     この学校の生徒さんって凄まじい根性してますねぇ……」 悟り猫「ですなぁ……」 我ら三人、心底ボザエラさまに同情しながらその行く末を見守ることにした。 兵士  「おお!ボザエラ氏、どうやら感激して声もでないようです!!」 姉A  「おめでとうございますボザエラさま。あなたのおかげでこの国は救われました」 姉C  「この国は本当は殿とシンデレラーズの所為でボロボロだったんです。      それを勇者さまの助言のお陰で武道会を開き、      それに生じてみんなを抹殺することが出来ました」 勇者  「礼を言いますボザエラさま。あなたのお陰で事は随分と楽に進んでくれました」 ワカメ 「これでこの街もカオスな街ではなくなります。ありがとう、ボザエラさま」 声   『かくして、      戦乱王国シンデレラーはひとりの妖魔鬼将の手によって救われたのでした。      ありがとう、ボザエラ。僕達の街を救ってくれて。      さあみなさん!英雄ボザエラを胴上げしましょう!!』 ボザエラ「ってちょっとあんた!!」 全員  『ウオオオオォォォォォーーーーーーーーッッッ!!!!』 ボザエラ「うわわわっ!!」』 ボザエラが胴上げされてる。 突然現れたボザエラはいきなり英雄に祭り上げられ、状況に戸惑っていた。 声  『さあみなさんも、英雄を称えて惜しみない拍手を!!』 パチパチパチパチ……!! 突然、客席から降って沸いたような拍手喝采。 俺と世界猫とみさおさんは呆然と固まるだけだったが───ドガシャッ!! ボザエラ「ぐげっ!!」 兵士  「しまった!英雄さまを落としちまったぞ!!」 ボザエラさまが落下するのを見ると、我らも惜しみない拍手を贈りました。 他のみなさまも一斉に拍手の音を高めます。 ワカメ   「うわぁ、痛そぉ〜……顔面からモロだったよね?」 ウポ    「なんかピクピク痙攣してないか?」 チビッ子  「顔面強打だしねぇ……」 ボザエラ  「お、おのれらぁぁぁ……」 ナレーション『胴上げから奇跡の落下を果たし、蘇った英雄ボザエラはその後、        悪の道へと走り、再び王都シンデレラーを死の街に変えましたとさ』 ボザエラ  「やかましい!!」 ナレーション『ここに、寄せ集め同士の演劇、英雄伝説シンデレラーを終わります』 観客衆   『ハワァアアーーーーーッ!!!!!』 パチパチパチパチパチパチパチ……!!! 客1 「いやー、訳解らんかった!」 客2 「おお!訳解らんかった!」 客3 「だが、思わず最後まで見ちまったってことは良い劇だったってことだよな!?」 客4 「おお!その通りだとも!」 客5 「なんていうか一風変わった味があったよな!     いろんなヤツが状況に困惑する場面なんて、ありゃあプロ並みだったぜ!?」 それは本当に困ってたからでしょう。 客6 「いやー!しかし特にアレがよかった!」 客7 「ああ!アレはよかった!」 客8 「終わりだと見せかけて顔面落下だ!しかもフリじゃなくマジでやってた!」 客9 「体張った劇だったな!最後にあそこまでやってくれるとは!」 客10「いい劇だったぞーーーーーっ!!!」 客11「なんか体が熱くなってきちまったぜ!よし!俺達も誰か胴上げしようぜ!」 客12「そうだな!こんなことがあってもいいよな!」 聞こえた声ののち、宙に浮かぶ誰かの姿。 しかしドゴチャアアアッ!!!! 声  『ぶ、武流豚くんが顔面から落ちたぞぉぉおーーーーーーっ!!!!!』 声  『ど、胴上げで支えきれなくて真っ逆さまだぁあーーーーーっ!!!』 声  『支えようとしたやつらは全員無事だぁぁーーーーーっ!!!!』 声  『だ、だが武流豚くんは運悪くパイプ椅子の上に落ちた所為で     顔面がズタボロだぁあああーーーーーーーっ!!!!』 声  『へしゃげたパイプが喉に引っかかった所為で首が折れてるぞぉぉーーーっ!!!』 声  『砕けた床の破片がところどころに刺さってるぞぉぉおーーーーっ!!!!』 声  『物凄い勢いで痙攣してるぞぉぉおおーーーーっ!!!!』 声  『あ───大丈夫!生きてる!生きてるぞぉぉおおーーーーーーっ!!!!』 武流豚くん……キミってやつはまた……。 世界猫「武流豚くんって何者なんだ……?」 悟り猫「そげなもん俺の方が訊きたいよ……」 みさお「なにはともあれ出ましょうか。     みんなももう武流豚くんの生存が確認できただけで十分みたいですし」 みさおさんの言うとおりです。 武流豚くんが生きてると知るや否や、 叫んでた人も含めた全ての人がさっさと体育館を出てゆく。 悟り猫「……いきますか」 世界猫「……だな」 みさお「そうですね……」 どこか不思議な気分の中、俺達も周りの人に習うように体育館を出るのでした。 ……武流豚くんを置いて。 【ケース82:世界猫/オクラホマ】 ───ちゃ〜かちゃ〜らら〜らら〜らら〜らら〜らら〜らら〜♪ ちゃ〜らちゃっちゃっちゃ〜らら〜らちゃっちゃっちゃ♪ 文化祭名物オクラホマミキサー……でいいのか? 体育祭じゃなかったっけ……まあどっちでもいい。 とにかく俺と悟り猫とみさおはキャンプファイアーを囲った人垣の一角に佇んでいた。 次々と投げ込まれる看板や作物が燃える中、俺はドゴチャァアアッ!!! 生徒A『ぶ、武流豚くんが潰れたぞぉぉぉーーーーっ!!!!』 生徒B『上から降ってきた女生徒にぺしゃんこだぁぁぁーーーーっ!!!!』 生徒C『女生徒は意識を失っているようだが傷はないみたいだぞぉぉぉーーーーっ!!!』 生徒D『コンクリの床に血が滲み出てきてるぞぉぉぉーーーーっ!!!』 生徒E『あ、でもその血は全部武流豚くんのみたいだぞぉぉぉーーーーーっ!!!』 生徒F『大丈夫、生きてる!生きてるぞぉぉぉーーーーっ!!!!!』 俺は……ってああもう! 世界猫「何者なんだよ武流豚くんって!さっき体育館で潰れてただろ!?」 悟り猫「い、いや、俺に言われても」 みさお「まあまあ……って、ふたりとも!体見てください体!」 世界猫「体?」 悟り猫「体がどう……って」 見れば、体を纏っていた忌々しいメイド服が、 元の猫型標準装備の和服に変わってゆくではないか! それは悟り猫も同じようで、メイド服が黒衣に変わってゆく。 世界猫「みさお!」 みさお「あ、はい!性別変換を解除します!」 パキィンッ! 軽い音とともに、体を包んでいた違和感が消し飛んだ。 すぐに悟り猫とともに時操回帰を唱えると───バボンッ!! 悠介 「お……お、おおぉっ!!」 彰利 「こ、これは……!」 ……なんと、体が元に戻っているではないか。 俺は思わず大地に膝を着き、両腕を天に振り上げてプラトーンのポーズを取った。 無意識だったが、ようするに嬉しかったのだ。───が。 彰利 「キャーーーーーーッ!!!?」 ……そんな感激に水を差す声。 何気なく彰利の視線を追ってみれば、キャンプファイアーで燃えるメイド喫茶の看板。 その時俺は全てを理解したのだ。 やはり現況はあの看板にあり、 あの時と同じように燃やしてしまえば呪いからは解放されるのだと。 彰利 「イヤァアアアーーーーッ!!!     お、俺の中に!俺の中にあの刹那の悲しみが蘇る!!     うおぉおおお燃やすなぁあああっ!!     あれは!あれは俺の愛と怨念を込めた最強の出来栄えの」 悠介 「やめんかぁっ!!」 ベゴチャアッ!! 彰利 「ヘゴバッ!」 燃える看板を救い出そうとする彰利の顔面にナックル。 悠介 「お前なぁっ!俺があれの所為でどれだけ嫌な思いをしたと思ってんだ!     あのまま燃やせ!取り出したらまた呪われるかもしれないだろうが!」 彰利 「だ、だってYO!!」 悠介 「やかましい!!」 彰利 「ヒィイ疲れた顔して怒らんといて!コワイ!死神の波動がコワイ!」 みさお「あ……そういえばふたりとも、     呪いにかかってる時は死神の波動を出しませんでしたね。どうしてですか?」 彰利 「呪いだからでないかい?一応自分でも引っ込めてたつもりはあったけど」 みさお「そんなもんですか……」 みさおが溜め息を吐く中、俺は周りから怪しまれないように一部分の火の勢いを強めた。 するとあっという間に炭になるひとつの看板。 悠介 「おー燃えた燃えた、全部燃えた。呪いの駆除はやっぱお焚き上げに限るなぁ」 彰利 「へ?───雄ォオオオオオオオオオッ!!!!!     メイドさんが!メイド喫茶の看板が!オイラの看板が炭に!     イヤァアアアアアッ!!メイドさんがメイドさんがぁあああああっ!!!     げげげ月癒力!今すぐあの看板を蘇らせて!!」 悠介 「たわけ!」 メゴシャア!! 彰利 「しゃぺぇえーーーーーっ!!!!?」 悠介 「文化祭終了だ!つまり休憩も終わり!次行くぞ次!」 彰利 「待って!待ってぇええええーーーーーっ!!!     後継者は見つけたけど俺自身はメイドさんを捨てたわけじゃねぇえーーーっ!!!     ならば救わねば!愛の証に救わねば!     今ならまだ間に合うのです!早く!早くぅ!」 悠介 「メイド喫茶の看板の炭化した部分を全て消し去るブラックホールが出ます」 パチン、と指を鳴らしてイメージを弾けさせた───途端、 燃え盛る炎の一角が刹那に崩れた。 もちろんその一角にあったのはメイド喫茶の看板の炭だ。 彰利 「ゲゲェエエーーーーーッ!!!!」 悠介 「よーし、心配ごとは無くなったな。次行くぞ」 彰利 「…………鬼ですね、キミ……」 みさお「いじけてないでいきましょうよ。ね?」 彰利 「ソウデスネ……ボク漢だから頑張るヨ……。月空力……」 頑張るという意気込みがあるとは思えないほどの蚊の鳴くような小さな声だった。 悠介 「まあ、レタスでも食って元気だせ。な?」 彰利 「オイラ頑張るよ!」 みさお「………」 今本気で、こいつの立ち直りの速さが羨ましく思えた。 ……そんなこんなで月空力が発動する頃、 彰利の助言で俺は俺達の体を包んでいる神力を遮断する透明の膜を消した。 どうやら向かう先は神降ではないらしい。 【ケース83:晦悠介/次元遊戯の終わりに】 ───キィンッ! 彰利 「あい、到着」 到着した場所は……夜の歩道だった。 静かで、まさに人通りが少ない場所だ。 ここにある後悔がなんなのかは解らないが、いい予感はあまりしない。 悠介 「後悔反応は?」 彰利 「ン───おお、すぐですよ。近づいてきてます」 みさお「近づいて……?」 彰利の言葉に、耳を澄ましてみる───と、確かにこちらに向かってくる足音が。 彰利 「あ、えっとね?     今回のこのミッション、相手に見つかるといろいろと都合が悪いみたいじゃけぇ、     気をつけてたもれ?」 悠介 「そうなのか?どんな風に」 彰利 「いやぁ〜……ちと言えません。     言えるとしたら、時神様に見つかるのは好ましくないってことくらいです。     自分たちに都合のいい未来を作ろうってんだから、もしもがあると困るでしょ?     今現在はシェイドに目くらまし使ってもらってるからどうにかなってるけど」 悠介 「……あいつも相当暇人だな。って、ここって俺達の時代に近い場所なのか?」 彰利 「いや、結構前ですよ?俺達が高校二年の時の時代です」 悠介 「……まさかまた神降関連か?」 彰利 「んにゃんにゃ、今回はそげなものじゃあござんせん。さ、行きますよ!?」 彰利がクワッと目を見開く。 それとほぼ同時に、横断歩道にひとりの女が辿り着いた。 悠介 「……あいつが?」 彰利 「そゆこと。シェイドの話じゃああと一分後、車に撥ねられて死亡確認」 みさお「そんな……」 悠介 「……そか。つまるところ、女を助けるんじゃなくて車を止めればいいわけか」 彰利 「ザッツライトゥ!話が早いぜ強き友よ!」 とか言ってる内に車が道路を走る音。 女はまだ横断歩道の赤信号に捕まっている……となると車が信号無視するってパターンか。 悠介 「よし行けテリー!!新幹線を止めるが如く、正面から車を止めてこい!」 彰利 「オーケーキン肉マン!!うわーーっ!!!」 彰利が意気込んで走ってくる車へと駆けてゆく。 すぐにブレーキが踏まれるが、それでも彼は駆けた。 みさお「いったいったーっ!テリーがいったーーっ!!」 キキィイイーーッ!ドグシャッ!! 彰利 「ぶべい!!」 そしてあっさり轢かれた。 悠介 「よし行けテリー二号!」 みさお「悠介さんが行ってくださいよ!!」 悠介 「むう……仕方ない」 さすがに子供を向かわせるわけにもいかない。 彰利を轢いておきながら、スピードをてんで下げない車へと疾駆する。 悠介 「ドブ川に続くブラックホールが出ます───!」 やがて接触しようという刹那、両手を突き出してブラックホールを創造する。 運転手「───!?」 運転手が何か叫んでいたが気にしない。 大した間も無く車の全ては闇に消え去り───やがて、その場には車の陰すら無くなった。 みさお「ブラックホール創るなら、車に向かって走る意味はあったんですか?」 悠介 「ない」 みさお「………」 悠介 「彰利〜?こっちは終わったぞ〜」 道端に大の字に倒れている彰利に声をかける。 が、少し不安になって女の方を見るが───何かを急ぐように走り去ってしまった。 ……よかった、気づかれなかったみたいだ。 みさお「これで終わりですか?なんだか呆気ないですね」 悠介 「アホゥでたわけ。簡単に終わることの何が悪い」 みさお「それはそうですけど……こう簡単に終わると不安が残るじゃないですか」 ……それはそうかもしれない。 まあそこのところは彰利に訊いて、後悔の念があるかどうかを調べればいいだけのことだ。 みさお「彰衛門さ〜ん?終わりましたから次に行きましょうよ〜」 みさおと一緒に、倒れている彰利のもとへと歩み寄る。 車に轢かれたってのにてんで心配してないのも凄いもんだ。 彰利 「あの……キミたちさ。こういう時って普通、駆け寄って抱き起こしてさぁ……」 悠介 「すまん、全然そんな気が起こらなかった。だってお前だし」 みさお「そうですね、彰衛門さんですし」 彰利 「どういう理屈ですかちくしょい……」 悠介 「あ〜ぁハイハイ、これからは急いでやるんだろ?     シェイドにどんなことさせてるのかは知らんが、早くするなら早く行動しよう」 彰利 「ぎょ、御意に……」 ババッと起き上がった彰利が早速月空力を発動させる。 どうやらこの場所の後悔は今のでよかったらしい。 彰利 「んじゃあちゃっちゃとやりますよ!?いちいち疑問を持たんこと!OK!?」 悠介 「OKOK」 みさお「はい」 彰利 「では転移!GO!激しくGO!」 ビジュンッ、という音とともに視界が弾けた。 ……それからの俺たちは、とにかく『後悔のみ』に手をつけることにしたのだ。 ───……。 少女 「与一、こんなものが届いたです」 穂岸 「捨ててきなさい」 少女 「捨てるです?」 ……ブラックホールが出ます、と。 ズゴゴゴゴゴゴゴ……!! 少女 「やぅっ!?お、お届けモノが黒い渦に飲まれていくですーーーっ!!」 穂岸 「いや、あれはあれでいいだろ。     それよりサクラ、俺これからバイトに行ってくるから」 サクラ「えぅ?いいです?」 穂岸 「いいです。じゃあノア、サクラ、留守番よろしくな〜」 サクラ「はいです〜」 ノア 「お早いお帰りを、マスター」 ───……。 男性 「馬鹿っ!!立ち止まるな!!」 女  「───凍弥く……っ!」 彰利 「ザッ───ワァアアアアーールドォオオーーーーッ!!時よ止まれ!!」 メギャアアーーーンッ!!! 彰利 「えーと。時を止めたらこの男とおなごを歩道に移して、と。     よしこれでOKね。汝が轢かれることもなし───そして時は動き出す」 ドッギャアアアーーーーン!!!キキィイイーーーッ!メゴシャアアーーーンッ!!!! 彰利 「ギョエェエエエエーーーーーッ!!!!」 ───……。 …………。 彰利 「ぐしゃぁはぁああーーーっ!!」 ドシャアッ。 連続して転移を続けてた彰利がとうとう倒れた。 場所は現代───つまり、俺達が居るべき世界。 その晦神社の境内で、彰利はドシャアと倒れた。 彰利 「も、もうイヤ……後悔にキリがねぇ……」 グビグビと泡を吹きつつ言う彰利……相変わらず妙なところで器用だ。 みさお「じゃあ……そろそろ後悔探しの旅も終わりにしますか?」 悠介 「ああ。俺はもう十分だが……お前はどうなんだ?彰利」 彰利 「お、押忍……この時代の土台作りは叶ったのですから……もういいです……」 悠介 「……土台作り?」 妙なことを言う。 俺達がこの現代に立っている時点で、 この時代の土台作りなんてものは意味が無いし必要もないと思うが。 彰利 「フッ……お、俺が言いたい『時代』とはだね……?     この時間軸に酷似した、枝分かれしている並列世界のことなのだよ……。     知っての通り、俺達が生きる世界には並列した時間軸が腐るほど存在します。     俺達が過去で何かをやれば、その分だけ新たな可能性のある時間軸が出来上がる。     この時代にしたって別の時間軸の拙者たちが同じようにしたことで出来た世界だ。     ようするに、ちと『歴史』ってもんをなぞってみたかったのです」 悠介 「待て、じゃあなにか?俺達がこの時代にこうして立ってるのは、     他の時間軸に居る俺達のお蔭ってことか?」 彰利 「そこまで大袈裟にはいかんよ。     でも、精霊野郎やらその他がこの時代で生きてるのは関係してる。     あそこで俺達が降り立たなかったことの先にあるのが、未来の悠介の時間軸だ。     未来じゃあ幽霊だったっしょ?閏璃凍弥って」 悠介 「………」 次元干渉のことはよく解らん。 けど……この旅のお蔭で誰かが救われたことが事実なら、それはきっと喜ぶべきことだ。 悠介 「旅の目的……プレゼントってのはこういうことか」 彰利 「お?よく覚えてたねぇ〜。まあそういうこっちゃけん。いろいろ学べたっしょ?」 悠介 「ああ。一応」 なんのことはない、これは本当にただのプレゼントだったわけだ。 こいつに計画性があったかどうかはこの際不問。 俺は確かに自分のことや次元の在り方、人の生き様ってのを学ぶことが出来た。 ……襲われた女の気持ちも、学んじまったし。 こと人の在り方については、俺なんかよりも『黒』である彰利の方が詳しいんだ。 そういう意味では、この旅は確かなプレゼントだった。 名前が『面倒』ってだけのことはあって、本当に面倒だったが。 彰利 「んじゃあそろそろ帰りますか」 みさお「そうですね」 悠介 「だな。いい加減休みたい───って、なぁ〜んか忘れてる気がするんだが……」 彰利 「忘れてる?過去関連で?」 悠介 「いや……多分この時代のことだ。……なんだったかな」 彰利 「思い出せないのは兄さんが満たされてるからだよ」 悠介 「誰が兄さんだ誰が」 彰利 「ままま、思い出せないんだったら大したことじゃないって言うじゃん。     大多数の人間の場合、それが大したことである場合が多いんだけど」 悠介 「だな」 ようやく一息つける。 忘れてるんだったら確かにどうでもいいことだ。 俺は倒れている彰利の手を掴んで引き起こすと、ぐぅっと伸びをして─── 声  「ゆ〜すけ〜!」 ───忘れていたなにかのことを思い出した。 悠介 「あー……ル、ルナ……」 振り向いてみれば満面の笑みのルナ。 彰利とみさおが見ていようが構わないといった感じに俺に抱き付き、 俺の頬に自分の頬を擦り付けてくる。 ルナ    「えーと、こういう場合は───        『おかえりなさい、あなた』の方がいいのかな」 彰利&みさお『!?』 ゾザザザザッ!!! 苦楽の旅をともにしたふたりが、瞬時に俺と距離をとった。 彰利 「き、貴様……いつの間にルナっちとそげな仲に……!?」 みさお「ふ、ふけつです悠介さん……!     悠介さんだけは結婚する前にそんなことをする人じゃないって信じてたのに!!」 悠介 「ま、待て!落ち着けお前ら!特にみさお!お前飛びすぎ!     彰利には話しただろうが『融合』の話!」 彰利 「………………オオ!あれか!そうかそうか!     そういや未来ルナっちも現代ルナっちと融合したとかなんとか言ってたっけ!」 悠介 「そうだよ!だから俺とルナはこの時代では結婚なんかしてないんだ!     つまり『あなた』だとかなんとか言われる覚えはありゃしない!!」 ルナ 「むっ。じゃあ結婚しよ?」 悠介 「………」 ルナ 「悠介?」 悠介 「イヤ、ナンツーカ……俺、モット遊ビタイッツーカ……」 ルナ 「いーじゃないのよぅ、未来では夫婦だったんだからさ。     ね?結婚しよ?それでもって、妹たちの悔しがる顔をもう一度見てやるのだー」 悠介 「あのな……!俺の苦労も少しは考えてだな……!」 ルナ 「夫婦に危険は憑き物ーーーっ!!」 ズビシャア!と、立てた親指を俺に突きつけるルナ。 悠介 「待て!今『つきもの』って言葉に霊的な何かを感じたぞ!?     お前喩える言葉を間違えてないか!?」 ルナ 「そんなことないよー。だから結婚しよ?     わたし、今度はいっぱい子供欲しいなー」 悠介 「なっ───ば、馬鹿者ォッ!!     そういうことを人前で!しかも彰利の前で言う馬鹿が居るかっ!!」 叫びつつ、チラリと彰利を見てみる───と。 彰利 「ちょいと聞いてくれよトム……子供がどうとか言ってるぜ?」 みさお「お熱いこったぜマイコー、これじゃあ俺たちゃ蚊帳の外じゃねぇか」 彰利 「やってらんねぇぜトムよ。ここは一発、洗剤の宣伝でもしとくか?」 みさお「えぇっ?なんだって突然洗剤なんだいマイコー」 彰利 「今日はこの、なんでも消せる彰利クリーナーの紹介だ。たまげるぜ?」 みさお「熱くいこうぜマイコー」 彰利 「任せておくれよトム。まずは少量をスポンジに付けてだね」 みさお「お、おいマイコー!スポンジが溶けて消えちまってる!」 彰利 「え?お、おわぁあああーーーーーーーーーっ!!!!!」 ……余裕そうでいて、かなり動揺しているようだった。 悠介 「あー……彰利ー?」 彰利 「あっ……や、ご、ごめんなさいねぇ?いつまでも気が利かない俺で。     い、今すぐ退場するからね?ほんとにもうごめんなさいねぇ?」 みさお「あ、あとはお若いおふたりに任せて……」 悠介 「待たんかぁっ!!いいから話を聞け!」 彰利 「やっ……ほんと大丈夫!誰にも言わないから!     悠介がルナっちとそげな関係だったなんてこと!」 みさお「『今度は』って……もう子供も居たんですね……。     わたし、悠介さんがそこまで大人な人だとは露ほども知らず……」 悠介 「だから待て!お前ら『融合』って大前提を完全に無視してるだろ!!     今ルナが話したのは未来のことでだな!!」 みさお「幸せになってくださいね……」 彰利 「お、俺達しばらくここに来ないようにするから。     あ、なんだったら若葉ちゃんとかも俺の屋敷に連れていこうか?」 悠介 「無視して話進めんなよ!!ていうかお前ら完全に遊んでるな!?」 彰利 「あの……避妊は大事でござるよ?」 悠介 「くぅうあぁああああああーーーーーーっ!!!!!     てめぇらそこ動くなぁああああーーーーーーーっ!!!!!」 彰利 「オワッ!?や、やべぇキレた!逃げるぞみさお!」 みさお「は、はい!って月空力が使えません!」 彰利 「なにぃ!?あ、俺もだ……」 ガシリ……。 みさお「はおっ!」 彰利 「ゲゲッ!こ、この頭をやさしく掴み、     しかし段々と握力を込めてゆく手の感触は……!」 悠介 「月空力が使えなくなる『場』が出ます……便利だろォ……?」 彰利 「ゲェエエーーーーーーッ!!!!」 みさお「あ、あのあの……ゆ、ゆゆゆ悠介さん!?     わ、わたしは彰衛門さんにたぶらかされたんです!!」 彰利 「ゲェエーーーーッ!!?ちょ、ちょいとみさおさん!?なにその世紀末的ウソ!!     つーか今一瞬俺に振り回されてた夜華さんの気持ちが解っちまった!」 悠介 「心に刻め、戦友よ……そして願わくば───」 みさお「ひやっ───!?」 彰利 「おわっ───」 ゴコォンッッ!!!! 彰利&みさお『オギャーーーーーーッ!!!!!』 悠介    「目覚めるな、永久(とこしえ)に……」 鐘を打ち鳴らすが如くふたりの額を激突させ、大地に沈めた。 ふたりが気絶しているのを確認するとゆっくりと向き直り…… 悠介 「……何処に行く気だァ……?」 ルナ 「ひくっ!?」 そろりそろりと逃げようとしているルナに声をかけた。 ルナ 「え、えと……だ、大根が───そう!     大根の成長の記録でもつけようかと!」 悠介 「未来でも言ったよなぁルナ……。     人前で結婚がどうとか子供がどうとか言うなって……。     特にこういう誤解から誤解を発生させるやつらの前では特に、って……」 ルナ 「あはっ……あはははは……わ、忘れてた〜……ごめんねっ?」 悠介 「だめだ許さん」 ルナ 「やだぁあーーーーーーーっ!!!!」 その日。 いつも通りに静かで、鳥の鳴き声と滝の音だけが耳に届く境内に─── 雷鳴と、女の叫び声が響いた……。 【ケース84:???/死の息吹が届く矛先】 ───……空界、魔導会議の場。 虚空に浮かぶ六の映像がそれぞれ人を映し、互いが互いを映像で認識する。 αー1   「……通達をする。我がレファルド皇国は時雨の刻に、       南の王である蒼竜王マグナスに総力を以って攻撃を仕掛ける」 魔導術師1「馬鹿な!そんなことは死に急ぐようなものだ!」 空界の王のひとりであるαー1の言葉に反応したのはひとりの魔導術師。 彼女は空界では異端視されているが、その分知識には特化していた。 故に、無謀な行為に待ったをかけるのは当然のことだ。 αー2   「愚かなりオウファ。汝の理解は愚の域を脱しない」 魔導術師2「国ひとつの総力程度で潰せる相手ならば、とうの昔に倒しておるだろうに」 魔導術師3「同意見ですわね。       いくら空界最大の皇国、レファルドであろうとも……       蟻は何匹集まろうとドラゴンには勝てはしませんわよ」 αー3   「一概にそうとは言い切れまい?       聞けば東の王が地界の人間ごときに遅れをとったらしいではないか」 魔導術師1「シルバスタ、お前も一国の王ならば知っているだろう。       空界の人間がどれだけ挑んで死んでいった?       シュバルドラインは『まぐれ』や『偶然』で死んでくれるほど       隙のあるドラゴンじゃあなかった。       ましてや『知性竜』の異名を持ったシュバルドラインだ。       見せる隙など皆無といってもいい筈だ」 αー3   「む……」 楽観視の原因は噂にある。 空界から見れば劣等世界でしかない地界人ごときに、竜族の王の一片が欠けたのだ。 ならばこの世界で噂されていた竜族の強さとはなんだったのか。 それを考えれば、αー1の言葉やαー3の言葉には確かに一理が存在する。 魔導術師2「やめよオウファ。東が崩れたからといって、       蒼竜王マグナスが同様に屠れるなどと思うな」 αー2   「その通りだ。       地界の人間がどのようにしてシュバルドラインを屠ったのかは知らん。       だが、『知らない』からこそ迂闊な手出しで国民を危険にさらすなど……」 αー1   「ならばそのシュバルドラインを屠った地界の人間を利用してやればいい。       適当な褒美を与えれば、地界人などすぐに飛びつくわ」 魔導術師1「……それこそ無理だ。あいつはそういった輩じゃない」 αー1   「……うん?まるで知っているような口ぶりじゃないかリヴァイア。       そういえばお前は今、地界に工房を構えているんだったな?」 リヴァイア「………」 魔導術師のひとり、リヴァイア=ゼロ=フォルグリムは閉口する。 自分の愚かさを呪うべきだろう。 彼女はαー1……オウファ=フォン=レファルドの狡賢さを知っている。 上に上がるためならばなんでもするようなクズだ。 その男が、たとえ小さな情報でも逃そうとする筈が無い。 魔導術師3「オウファ?まさか本気でわたしのダーリンを利用する気?」 αー1   「黙れルーゼン。召喚獣を失った貴様に、今さら指図される謂れは無いわ」 ルーゼン 「……よく言うわね。あなたごときのボンボン、秒殺じゃあ永すぎるくらいよ」 αー1   「……フン。バルグ=オーツェルン、私の案をどう思う」 バルグ  「薄いのぅ。大方ドラゴンを屠って己の手柄にし、       国の名声を上げようなどという戯言じゃろう?」 αー1   「名声を上げることの何処が悪い。       自分の手は汚さずに己が高まる……結構なことじゃないか。       それが王というものだ。       私はそうすることで、レファルド皇国をここまで大きくしたのだ」 ルーゼン 「大きくしたのは貴方の父でしょうに」 ルーゼンの発言。 この意味のすることは他にある。 オウファは父が大きくした国欲しさに父を毒殺し、自分を王位に辿り着かせた男だ。 真実、自分のためならなんでもやるという典型だ。 αー1  「黙れと言ったぞルーゼン。首と胴体を分けられたいか」 ルーゼン「出来るものならね。      そこらへんに居る兵士なんか使ったところでどうなるわけでもないけれど」 αー1  「どうかな?私の兵団は魔導魔術を無効化する鎧を身に着けている。      相手が魔導術師ならば負ける要素などない」 ルーゼン「あらそうですの?だったら少し本気を見せて差し上げてもよくってよ?」 その場に殺気が溢れてゆく。 召喚獣……フェンリルとグリフォンを無くしたとはいえ、 彼女の魔導力はこの世界ではかなりの高位に位置する。 ともなれば、どこぞの誰かが作った魔導錬金の鎧ごとき、壊せぬ道理もないだろう。 この場で息を飲んだのは当然、ルーゼンではなくオウファの方だった。 バルグ  「……やめいルーゼン。ここは話し合いの場ぞ。争うのであれば余所でやれ」 ルーゼン 「……はいはい。殺す価値もない存在を殺すわけがないでしょう。       手が汚れるだけだわ」 最初から戦う気などなかったのか、ルーゼンは手をプラプラと揺らして笑った。 オウファは安堵こそすれ、しかし見下されたことに歯を噛み締めた。 リヴァイア「オウファ。どうしても蒼竜王マグナスに挑む気か」 αー1   「……当然だ。魔導砲が無くなり、       ルーゼンの脅威の条件が消えた今……国同士が競うのは当然のこと。       それを私が先んじるだけだ」 αー2   「愚かしい。先んじた道が死の道ではなければいいがな」 αー1   「ほざいていろ。後に後悔するのは貴様らだ。       ……おい、リヴァイア=ゼロ=フォルグリム。       先の地界人の件、貴様に任せるぞ。貴様が連れてくるんだ」 リヴァイア「ふざけるな。どうしてわたしが」 αー1   「断るかどうかは貴様の判断次第だがな。       貴様の盟友の件、忘れたわけではあるまい?」 リヴァイア「………」 盟友……生涯、リヴァイア=ゼロ=フォルグリムが認めた盟友といえばひとりしか居ない。 名をゼロ=クロフィックス。 天界で産まれた空界人と天界人のハーフであり、 レイルとレインのオリジナルでもある『カオスの波動』の持ち主だ。 その名を聞いた途端、リヴァイアは奥歯を力強く噛み締め、搾り出すように言葉を発した。 リヴァイア「下衆が……!」 αー1   「そういきり立つな。貴様が黙って頷けば、       貴様の盟友……ゼロ=クロフィックスが死ぬようなことはない」 リヴァイア「………」 αー1   「なにを迷う。地界の人間一匹と盟友を天秤にかけるのか?」 リヴァイア「知った風な口を叩くな……」 実にくだらない、と頭を振るのはリヴァイア。 それを見たルーゼンは癪に障るものを見たかのように声を発した。 ルーゼン 「ちょっとリヴァイアさん?       ダーリンを売るような真似、まさかしないわよね?」 リヴァイア「………」 ルーゼン 「ちょっと。リヴァイアさん?」 リヴァイア「……解った、いいだろう。地界人にはわたしから伝えておく」 ルーゼン 「なっ……」 αー1   「……そうだ。それでこそ『冷徹』と言われたリヴァイアだ」 リヴァイア「それは貴様らが勝手に呼んでいるだけだ。       わたしはそういう名に嵌まるる器じゃあ無い。ああ、それとな、オウファ」 αー1   「なんだ?」 リヴァイア「───地獄に落ちろ」 バヅンッ!───映像が途切れる。 恐らく工房の機材を殴り壊したのだろう。 ルーゼン「……やれやれね。まったくつまらないことを考えるんだから」 αー1  「なに……?」 ルーゼン「いいこと?わたしはあくまでダーリンの味方よ。      ダーリンが坊やの国を滅ぼすって言うなら喜んで協力するわ」 αー1  「ハッ!?地界人が私の国を滅ぼすだとっ!?      笑わせる!出来るものならやってみろ!」 ルーゼン「そう……それは楽しみですこと。それじゃあわたしは失礼させてもらうわ。      ああそうそう、坊や?言っておきたいことがあるわ」 αー1  「地獄に落ちろか?芸が無いな」 ルーゼン「いいえ。坊や……貴方の言う地界人はね、      わたしのフェンリルを殺してみせた張本人よ。      そのフェンリルに怯えていた坊やがどうやって立ち向かうつもりなのか、      今から楽しみだわ」 αー1  「なっ───」 ヴンッ……映像が消える。 バルグ「真実愚かよの、オウファ。お主は王の器ではない」 αー1 「チッ……どうとでも言うがいい!     だが───この空界を統べる器は私だけのものだ!」 バルグ「国がなければ何も出来ぬヒヨッコが、まったく情けない……。     ああそうじゃの、ワシも言っておこうか。せいぜい安らかに死ねるよう祈れ」 ヴンッ……。 αー1「……!!」 オウファは歯を噛み締めて、自国の映写器を殴りつけた。 が、それすらも破壊できないで、 それを破壊したリヴァイアによくも一端の口を利けたものだ。 『器じゃない』……それは確かな真実だった。 αー2「我らはそのドラゴン討伐とやらには干渉せん。せいぜい自滅しろ」 αー3「その方が民も喜ぶだろうよ。よしんば生き残れたとしても、    お前はリヴァイアに最高のカタチで捻り殺されるだろう。    あの女の『盟友』に対する信頼は厚い。     今のお前が存在出来るのは、ゼロが動こうとしないだけ、というものだ。     あれしきの魔導でゼロを捕らえているなどと、おごることはするな」 αー1「なにを馬鹿な!我が国の魔導は完璧だ!」 αー2「それがおごりだと言っているのだがな。     まあいい、我らとしては貴様が死のうがどうでもいいことだ。     お前が死ねば、国も少しは持ち直すだろう」 ヴヴンッ─── αー1「…………好き勝手に言いおって……見ていろ……!    蒼竜王マグナスを殺すのはこの私だ……!    ついでに地界人を殺して竜王の証である珠を奪えば……!     私は、私は南と東の王になれるのだ……!怖れるものなどなにもない!    王としてワイバーン二匹を手に入れられれば他ふたつの国など簡単に消滅だ!」 狂ったような笑い声がその場に響く。 誰も居なくなったその場に映像を介して笑うその男の顔は、ただただ狂気に満ちていた。 Next Menu back