───修行する者、男を拒む者、そして……───
【ケース01:晦悠介/バッドモーニング(DBDエディション)】 ───剣閃、槍閃の全てが火花を生じさせる。 交わりを連ねるのは武具のみ。 弾く武器が火花を散らせ、 しかし息を乱すことなく続く連撃は終えることを知らぬかのようだ。 悠介 「チィッ───」 舌打ちをする。 もう何十、何百と戦ったのかなんて知らない。 だが、自分が高まれば高まるほど相手も確実に強くなる。 それはまるで、終りの見えないマラソンのようだった。 朋燐 『疾───!』 俺の武器を弾く朋燐。 朋燐の武器を弾く俺。 その景色は既に一時間も前から展開されている。 悠介 「そこっ!」 朋燐 『囮だ、たわけ』 悠介 「くあっ───!」 確実なる隙を狙うが、その大半が囮。 振るう刀槍の全てはいなされ、 しかし武具にバランスを崩される前にそれを捨て、新たに創造する。 そうして互いの武具を合わせ、互いを睨む。 悠介 「っ……毎度毎度、よくも弾いてくれるよ」 朋燐 『当然だ。この身はお前の意思で出来ている。     お前が成長すれば私が成長する道理はあるだろう』 悠介 「ああそうかよっ……!」 ヂギィンッ!! 鍔迫り合いをしていた刀が鳴る。 弾くとともに互いに距離を取り、しかし着地と同時に疾駆する。 額と額がぶつかり合い、しかしたたらを踏むような無様もせずに連撃を重ねてゆく。 朋燐 『随分と長続きするようになったな。以前だったら十と保ったかどうか』 悠介 「やかましい。毎度毎度振り回されてりゃスタミナだってつく」 朋燐 『強くなった自覚があるのなら一撃ぐらい当ててみせろ。     お前の攻撃はまだまだ隙が多い。戦斧石とやらがなければ満足に動けぬか?』 悠介 「ほんと一言多いなお前は……!お前と戦う時はランクカードは外してるんだ、     戦斧石がどうとかは関係ないだろ……!」 朋燐 『だから言っている。石が無ければ、死神の力が無ければこの程度なのかと』 悠介 「お前、心底口悪いな」 朋燐 『生来だ。だがお前と大差はないだろう、来世』 悠介 「やかましいって言ってるだろうが前世」 刀を弾くとともに再び距離を取る。 刹那に刀を投擲したが、同じく投擲された刀によって互いに砕かれた。 しかし手には既に新たな槍。 疾駆とともに(はし)
らせ、だがその連撃の全てが脇差二刀によって弾かれる。 朋燐 『どうした。これでは以前の蒸し返しだが?』 悠介 「どうかな───!」 槍を疾らせる───当然それは弾かれた。 だが狙いは別のところにある。 一撃目の槍に重ねるように創造しておいた槍をさらに打突で放ち、 そうして脇差二刀を封じた刹那に脇差二刀を創造。 振り下ろされる交差がさらに朋燐の二刀を弾き、数瞬の停止空間を作る。 そこへ───! 悠介 「疾───!」 弧を描く刀剣ではなく、点である槍の一撃。 相手の二刀を弾くと同時に二刀を手放し、その手に創造した槍が風を裂く───! 朋燐 『───!』 ジュヒィンッ! 悠介 「なっ……」 最高のタイミングで放たれた槍はしかし、 朋燐の腕の皮一枚を裂く程度にしか至らなかった。 呆れるくらいの瞬発力。 ───この時の俺は真実愚かだった。 自分の前世の速さに素直に驚いたのが数瞬。 しかしその数瞬が戦いの中では命取りになるっていうことを、 俺はシュバルドラインとの戦いで情けないくらいに学んだ筈だったのに。 ───気づいた時には、自分の体が右肩から左脇腹まで裂かれていた。 悠介 「ぐあぁあああああっ!!!!」 両断、なんてことにはならなかった。 だが……咄嗟に退かなければ確実にそうなっていただろう。 朋燐 『随分と余裕だな。考え事か?』 悠介 「ぐっ……づぁ……!!」 胸骨が少し裂かれたのか、痛みが半端じゃない。 すぐに回復の霧を創造して治すが…… 悠介 「…………?」 その隙を狙い撃ちしようとしない朋燐が居た。 驚いた。 攻撃される覚悟で回復したっていうのに。 朋燐 『なにはともあれ、ようやく一撃か』 悠介 「……なにが言いたいんだよ」 朋燐 『なに。少しは出来るようになったなと言ったんだ。     速いばかりじゃどうにも出来ないこともある。     お前には速さや力はあるが、刀剣の技術が力と速さに追いついていない』 悠介 「追いついてないって……この技術はもともとお前の技術だろうが」 朋燐 『だから言っている。超越者ならばさっさと私も越えてゆけ』 悠介 「俺が強くなればお前も強くなるのに、どうやって越えていけってんだよ」 まったく訳解らん。 朋燐 『たわけが。頭が熱くなっているのならまず冷やせ。     今まで一撃も当てられなかったお前が私に一撃を当てたことをどう見ている』 悠介 「知らん」 朋燐 『なっ……少しは考えろキサマ!!喧嘩を売っているのか!!』 悠介 「うるせぇ!さっきから聞いてりゃぐだぐだ説教ばっか垂れやがって!!     他の誰でもいいがお前に説教されるのだけは嫌なんだよ俺は!!」 朋燐 『……上等だこの糞餓鬼が……!人が親切に説法してやれば……!』 悠介 「どこが親切だ!前から言ってやろうって思ってたんだけどな!     いちいち言い回しが多いんだよてめぇは!!」 朋燐 『ぐっ……やはり私と貴様は互いに相性が悪いらしいな!     もう構わん!力ずくでその身に叩き込んでくれる!』 悠介 「喋ってる暇があったらとっとと来いって言ってんだよ!     そこんところが言い回しが多いって証拠じゃねぇか!」 朋燐 『だっ───黙れぇえええーーーーーっ!!!!』 ───ヂギィンッ!!ゴギィ!ジャリィンツ!! そしてまた連撃。 互いが脇差二刀を手にしている今、その交わりが放つ音は先ほどまでの倍にもなっていた。 【ケース02:弦月彰利/のっぺらヴォーノ】 彰利 「……ま〜たやってるよあのふたり……」 母屋にまで聞こえる騒ぎを耳に、モシャアと溜め息。 ほんにのう、よくもまあ毎日毎日騒げるもので。 それも今日はこげな朝っぱらから。 春菜 「あれって同属嫌悪の典型だよね。前世なんだからしょうがないんだろうけど」 彰利 「それにしたってですね……って春菜さんたらいつの間に」 春菜 「さっきから居たけど。それでさ、今神社の境内で展開されてる騒ぎ……     あれって旅の最中でもやってたの?」 彰利 「オウヨー。隙があればやってたね。まず重い脇差二刀を創造して体を温めてさ、     その後にああやってドカバキギャアアと」 春菜 「戦果は?」 彰利 「何回くらいだったかなぁ……百回以上やってるのは確かなんじゃけどね?     まだ一回も勝ってないのよ悠介ったら」 春菜 「うわ……」 いくら死神モードじゃないとはいえ、 家系の身体能力と理想の筋肉像を鍛えてる悠介が一度も勝てないって…… 案外トンデモナイことですよ。 彰利 「あ、ちなみに俺も悠介の黄昏ン中で月永っていう自分の前世と再戦したけどね。     ええ、ものの見事にボコボコに負けました」 春菜 「強いんだ、すごく」 彰利 「強いっつーのかね……アレですよ。     人間は滅多なことじゃ自分の思考に打ち勝つことなんて出来ないわけですよ。     条件反射以外は思考しなきゃ行動できないのが人間でしょ?     悠介に言わせりゃあ、一度『勝てたのが信じられない』って相手と再戦すると、     大体が負けてちまうんだとさ。しかもその原因が自分の思考にあるんだとさ」 春菜 「あー……じゃあ悠介くんは大変だね。     思考するのが得意だから余計に勝てないでしょ」 彰利 「同意を求める必要なんて無いっしょ。証拠が今、境内で暴れてるんだから」 春菜 「ん、それもそうだね」 そうなのです。 悠介が朋燐に勝てない理由は想像力の豊かさに原因アリ。 なまじっか想像や思考展開に特化している分、想像と思考に半端が無いんですよ。 だから朋燐を創造するときも『自分が戦ってて強いと思った朋燐』を作ってもうて、 それが自分の首を絞めているのです。 ンマー、一応朋燐をコロがすのが目標みたいになってるなら、 嫌でもどんどん成長するんだろうし…… そうなればいつかは勝てる日もくるってことでしょう。 彰利 「その時、誰も辿り着けんような最強人類になってなけりゃあいいけど」 春菜 「?なにそれアッくん」 彰利 「なんでもござらん」 春菜さんの言葉を適当にやりすごし、伸びをしながら寝転がりました。 いやはや、やっぱ畳みとかがあるといいねィェ〜。 彰利 「若葉ちゃんと木葉ちゃんと水穂ちゃんはガッコ、     夜華さんはみさおと聖に刀術を教えてて、     ゼノはセレっちと囲碁対決……ルナっちは大根畑の様子見。     いンやぁ〜……退屈だけどこげな時間も悪くねぇやい」 伸ばした体をさらにウゴゴゴゴと伸ばす。 フオオ、最強。 しかしそげなことをしている時に、 拙者の顔を覗きこんできた春菜さんの目と我輩の目が合う。 やがて思い出すのだっ……! 橘旅館にて、我が唇と漢のカケラが彼女によって略奪されたことをっ……!! 彰利 「っ……!!」 春菜 「……なんでいきなり漂流教室の飢えた子供の顔をするかな」 彰利 「やっ……夜華さーーーん!夜華さんやぁーーーっ!!オ、オイラにも刀を教え」 がばちゅっ! 彰利 「キャーーーーッ!!!」 慌ててお庭に駆け出そうとした拙者の体を畳みに押し付ける力。 思わず怪虫に襲われそうになった仲田くんの叫びを上げてしまった。 春菜 「ダメだよアッくん、そういうのは。わたしじゃなくても傷つくよ?」 彰利 「ギャーーーーッ!!!ギャーーーッ!!!」 春菜 「ねぇ、アッくん。わたし……」 彰利 「ギャーーーッ!!ギャッ!ギャーーーッ!!!」 春菜 「あ、あのね?アッくん……なにかこの状況を誤解してないかなぁ。     わたしべつに押し倒そうとか思ったわけじゃなくて……」 彰利 「イヤァアアーーーッ!!これ以上俺を『男』にせんといてぇえーーーーっ!!!     汚される度に『漢』が『男』に戻っていくのが物悲しいのよぉおおーーーっ!!     誰かっ!誰かぁあっ!!タスケテー!タスケテー!!」 春菜 「思いっきり誤解してるね……。     大丈夫だよアッくん、わたしもうアッくんの嫌がることはしないから」 彰利 「うそだっ!僕は人間だ!そんな薄気味悪い人体模型の人形なんかじゃない!」 春菜 「どうしてここでいきなり地獄先生ぬ〜べ〜ネタを出すかなぁ……」 どうでもいいですそげなこと。 とにかく俺はこれ以上『漢』を削られるわけにゃあいかんのです! これ以上はヤベェ!これは最近解ったことだけど、 おなごに囲まれてると落ち着かない自分を自覚しちまったんです! 以前ならばこげなことはなかった……所詮は俺も男ってことなのですか!? 否!実に否!俺は、俺は確かに漢に……! 春菜 「アッくん?」 彰利 「っ……!!」 春菜 「……だから。どうして漂流教室の飢えた子供の顔するの?」 現在、庭に駆けようとした状態で潰されたわけですから…… 春菜さんが我が背中に体ごと乗っかってるような状態です。 ともすれば、解るでしょ? 我が背中にやーらかい感触が───って 彰利 「きゃーーーっ!!!きやーーーーっ!!!きやぁあああーーーーっ!!!!」 春菜 「わっ!?ど、どうしたの!?アッくん!」 彰利 「きやぁあーーーーっ!!きやーーーーっ!!!!」 やべぇ!意識したら相当にヤバイことになってきました! これも我が精神の……感情の力なのか……!? 受け入れた感情にこげな落とし穴があろうとは……って、 前にもこげなことを言った記憶があるようなないような。 春菜 「アッくんしっかり!」 ドシュリ。 彰利 「オギャーーーーッ!!!」 突如、亜門を襲う激痛。(亜門:後頭部の頭蓋と首骨の付け根あたりのくぼみ) どうやら我が亜門に春菜さんの一本拳が降ろされた模様です。 思わず絶叫───それで一応ざわめき出した心は落ち着いてくださいました。 彰利 「お、押忍!持ち直しました!つーわけで離れて!?ね!?」 春菜 「……どうしたの?まだなにかあるの?」 彰利 「なにもない!なにもないから離れて!?ていうかなんでそげなこと訊くの!?     『まだ』もなにも、俺ただ千道安やっただけだよ!?     って、そげなことはいいから離れておくんなまし!     俺ァ漢じゃけぇ!おなごを背に乗せる趣味はねぇ!」 春菜 「……あのさ。もしかして……」 彰利 「なんでもござらんってば!べつに風呂に居た時の春菜さん思い出して     ウェポンが一大事とかそげなことはぐっはぁあーーーっ!!!」 自滅って知ってるかいトニー。 それってばね?焦ってるときほどポロリと口に出してしまうものなのだよ。 彰利 「殺してェエエーーーッ!!オイラもう漢として生きていけないぃいいっ!!!     おなごに対して!守るべき者に対してなんたる軟弱な人体!!     感情には感謝してるけどこげな現象には感謝の『か』の字も存在しねぇーーっ!」 春菜 「あー……えっと。でもさ、それって男の子として仕方ないことなんじゃ……」 彰利 「失礼な!!俺ゃ生まれてこのかた、     裸のおなごを前にしたってこげなことになったことなど皆無!     故に漢!漢だったのだ!!それが……嗚呼それが……!!」 漢としてではなく男として成長してしまうなどっ……恥を知れっ……!! 彰利 「堪忍してぇ……!後生どすから背中から離れてぇ……!     アタイもう、人としても漢としても汚れてしまったどすえ……!」 涙が止まらんとです……これが……これが真の悔し涙か……。 まさか自分に対してここまで情けないと思う日がこようとは……。 春菜 「え、えっと……泣かないで?わたしは……その。そんなアッくんでも好きだから」 彰利 「えぇっ!?嫌いになってくれないの!?」 春菜 「……なってほしいの?」 彰利 「いや……ですからね?オイラ誰も好きになる気はないんですよ?     だ、だからね?俺ごときを好きになってても意味ないじゃん」 春菜 「意味はあるよ。わたしはアッくんのこと好きだもん」 彰利 「オイラと愛を育んでも子供は授かれませんよ?オイラもう死神だし」 春菜 「子供が欲しくて好きになったわけじゃないよ?」 彰利 「グムッ……」 やべぇ、そらそうだ。 子供が欲しいからって好きになる人など多分おらんでしょう。 好きって感情は未だよう解らんけど。 春菜 「それに……いざとなったらアッくんにはアレがあるからね」 彰利 「っ……!!」 や、やべぇ……まさか見破られてる!? そりゃそげなことに使う機会自体が訪れないと自負しておりますが、 まさか我輩以外の誰かに悟られる日がこようとは……!! 春菜 「運命破壊せし漆黒の鎌、っていったっけ。     それがあれば『死神は子を作れない』なんて決まりごと、壊せるんでしょ?」 彰利 「ぐあ……!」 やっぱりだよ……見透かされてる。 でも使う予定なんぞありません。 ありませんから……とにかくどいてほしいのです。 彰利 「あ、あのね?オイラにはもう娘がふたり居るからね?     それ以上はいらんとですよ?」 春菜 「だから、わたしは子供が欲しくてアッくんを好きになったわけじゃないの。     子供が出来なくても一緒に居られればいいんだよ」 彰利 「却下却下大却下!そんな意見は通りません!世の中甘くないんです!」 春菜 「辛いなら甘くすればいいだけだもん」 彰利 「アータそげな、身も蓋もないことを……」 意味がまず違う気がするんですがね。 彰利 「と、とにかくですね!アタイは永遠に独身でいいんですよ!     だからどいて!?これ以上触れられてたらアタイ、おかしくなっちまう!」 千年もの間、封印されていた『男』としての本能が目覚めようとしています。 それは俺的にかなり冗談じゃねぇ。 俺は我が身に宿る千年の寿命とともに、のんびりと時を過ごすのだ! 今まで蓄積されてきた『生きた時間』が千年の寿命でカバーされたってことは、 少なくとも俺はあと千年は生きられるってこと!(月空力を使ってですが) ならばその時の中を悠介巻き込んで生きるのも最強じゃないですか! 彰利 「おお!これいいじゃないですか!俺と悠介が新たな時の番人に!」 ナイス!ナイスですよ!? 月の家系の行く末とこの天地空間の行く末をのんびりと見守るんです! それってとってもステキなことじゃないですか!? 彰利 「そ〜と決まれば善は急げだ〜!     空界とやらに行って千年の寿命をふたつ用意して俺と悠介が新たな神に!」 ドシュリ。 彰利 「オギャーーーーッ!!!!」 再び亜門を襲う激痛。 春菜 「会話をしてるのに、相手をほっぽって騒いだらだめだよ?」 彰利 「うがががが……!だからってキミね……!亜門に一本拳はいかんよ……!」 春菜 「それはアッくんが悪い」 彰利 「完全に俺の所為っすか……」 いいじゃないか、未来に希望を託して生きようと思うくらい。 春菜 「ね、アッくん」 彰利 「な、なんですか?」 春菜 「……なに警戒してるの?」 彰利 「ん、んだってけしぇ、     春菜さんがこう改まると禄なことがなかった気がしまして」 春菜 「ヒドイねそれ……。傷つくよ」 彰利 「ややっ!?こ、これは失礼を。漢を自負する身でありつつおなごを傷つけるなど」 春菜 「お詫びにキスして?」 彰利 「やっぱ禄でもねぇえーーーーーーっ!!!!」 ザカザカザカ! 【ボクは逃げ出した!】 ガシドシャア!! 【しかし押さえつけられた!!】 ───そんな!あっけなさすぎる!! 彰利 「ぐおおおお馬鹿な!!男が!男の俺が死神の力を出させまいと抵抗しやがる!     なに考えてんだ男の俺!漢としてあろうって気がねぇのか!?     今やらなきゃ!今逃げなきゃオイラもう漢として立ち直れねぇ!!     欲望一直線の『男』になっちまう!!」 ぼ、ぼくは知っているのだ!人間、欲望に飲まれたら禄でもない人間になる! そんなことを、ぼくは宗次の生き様を見て知ったのだ!! 欲望なんかに負けたくない!俺は!俺はぁああーーーーーっ!!!! 春菜 「……怖がらなくてもいいよ」 彰利 「断る!」 春菜 「うわっ……こういう言葉を出した人にそうやって切り替えした人初めて見た」 彰利 「当たり前です!現実は厳しいんです!漫画やアニメのようにはいきません!!」 春菜 「そうは言うけど……つまり、怖いんだよね?」 彰利 「滅茶苦茶怖いです!白状したから見逃してください!」 春菜 「───カワイイ……♪」 彰利 「キサマどういう視力してんだ!     あぁ今すっげぇこういう状況に巻き込まれた悠介の気持ちが解った!!     これだよ!こういう時に言いたくなるんだよ!!     今こそ声を大にして言える!寝言は寝て言え!!」 春菜 「えっ……い、一緒に寝てくれるの……?」 彰利 「イヤァすっげぇ傍迷惑な自己解釈してるよこの人ォオオーーーッ!!!!     タスケテー!タスケテー!!抵抗するどころか     春菜さんに触れようとしてる我が肉体が信じられねぇえーーーっ!!!」 ヤバイ……ヤバイよ俺……このままだと帰ってこれなくなるよ……! 千年ごしの男の欲望……サウザンドマンフッドがここまで強敵だとは思わなかった……!! ボクの心の荒神さま……ボクもうダメです。 精一杯頑張ってみたけどダメだった……。 今ももう、かつてのレッドマムシャーの脅威と戦った時の如く腕の筋がズタズタです。 それほどまでにもう頑張ったんです。 でも勝てなかったんです、本当です。 だからもう……この欲望に身を任せてもよろしいですか? 荒神様『構わんヤッちまえ』 なんか偉そうなんでやめときます。 荒神様『なんと!?』 だ、大丈夫だよのび太くん……!ボクはまだ頑張れる……! 漢にとっておなごに手を出すことは負けを意味する……! 今までの人生、一度もそげなことはなかったのだ……きっとこれからだって───!! 彰利 「ポピーよ……俺に力を分けてくれ……。     家事育児、一心腐乱、鬼嫁退治……武士道、騎士道、相撲道……!」 ……よし負け。 ブチャアと切れた数本の何かを代償に、 俺の体は背に抱きついている春菜さんに向き直り───ビジュンッ!! リヴァ「邪魔をする。悠介は居るか?」 彰利 「───!!」 ……その声に、なんとか戻ることが出来ました。 彰利 「リ、リヴァっち……っ!!うあぁああああリヴァっちぃーーーっ!!!」 がばしぃーーーっ!!! リヴァ「うわっ!?こ、こらなにするんだっ!!」 彰利 「あっ……ありがっ……ウググッ!!     来てくれてっ……ほんとありがとっ……!!     う、うぁああああっ……!!お、俺……もうダメかと……!!!     もうほんとにダメかと……!!ありがと……ありがとぉおおお……!!     ううっ……うあぁあああああああああっ!!!!」 リヴァ「あー……その。またなのか……?」 一瞬緊張を取り戻してくれた我が理性を総動員させて春菜さんから逃走。 涙を散らしながらリヴァっちに抱き付き───ドクンッ……! 彰利 「ギャヤヤァアーーーーーーーッ!!!!」 すぐさまに離れた。 リヴァ「……?検察官?顔色がすぐれないようだが……」 彰利 「い、いや……なんでもない」 やべぇ……こりゃ見境なしだ。 女と見たら『男』が反応しやがる。 おちおち感動の対面も出来ないってことかよ……。 ……俺、人としても漢としても最低ね……。 彰利 「解った認めよう……所詮ワシは『真の漢』の器じゃあなかったのじゃな……。     まさか我が深層の感情にこげな爆弾があったとは……迂闊じゃった……」 俺、今なによりも自分が信じられん。 でも信じるしかないんです。 人の在り方って無情です。 リヴァ「悩んでいるところをすまない。検察官、悠介は何処に居る?」 彰利 「ギャア!!ダ、ダメヨー!!半径2m以上は近づかないで!!」 リヴァ「……検察官?」 彰利 「すんませんすんませんごめんなさい!訳解らんだろうけどお願い!     今の俺に半径2m以上近づいてみろ!口では言えねぇようなことするぜ!?」 春菜 「謝ってるのかお願いしてるのか脅迫してるのか、どっち?」 彰利 「全部です!もう手遅れなのだ……!     春菜さんの所為で我が『男』が目覚めちまった……!     今の俺はそこらに居る欲望一直線の男となんら変わらん……!!     傷つきたくなかったら……俺に近寄るんじゃあねぇぜディアヴォロ!!」 春菜 「……余裕そうに見えるんだけど。気の所為?」 彰利 「気の所為ですじゃ!こちとらふざけでもしとらんと、     自己嫌悪で潰れてしまいそうじゃわい!!」 この2m……!この2mが俺の全てを極める距離───制空圏!! 俺は思わずジョジョのリゾット・ネェロのようなセクシーポーズを取りながら、 彰利 「俺は……お前に……近づかない……」 と言ってみせた。 ドッピオもびっくりだ。 春菜 「……どう見ても余裕そうに見えるよ?またからかってるんでしょ」 などと言いつつ一歩を踏み出す春菜さん。 その足が我が制空圏に侵入し─── 彰利 「ワギャーーーッ!!だめだったら春菜さん!     こりゃ冗談なんぞじゃなくてマジで───!!」 ガバドシャアッ!!! 春菜 「はぅくっ……!?」 彰利 「ゲゲェエエエーーーーッ!!!!」 瞬足でした。 自分でも驚くくらいのスピードを出した拙者のボディーは、 それこそ瞬く間も無いくらいの速さで春菜さんを押し倒し─── 溢れる欲望と情熱を燃やしながら、春菜さんの体へと手を 彰利 「ズガベヂャァァアアアリヤァアアアアーーーーーーッ!!!!!!」 勝手に動き出した手を本気で噛み砕き、 しかし激痛にさえ怯まない体を強引に動かして、震える春菜さんから距離を取った。 彰利 「がはーーっ!!がはーーーっ!!!わ、わわわ解ったでしょ!?     今の俺かなりヤバイの!解る!?解ったよね!?     だからほんとお願い!俺に近づかないで!!マジで!!」 春菜 「……う、うん……ごめんね……」 倒れた拍子に乱れた着衣を整えると、春菜さんは居間から出ていきました。 ぬおお、罪悪感が津波のごとく……。 リヴァ「……お前もなかなか大変そうだな」 彰利 「リヴァイアも……俺には近づくんじゃあ……ねぇぜ!?」 リヴァ「解ってるよ。それと、呼び方はそのままでいい。     リヴァっちっていうのはやっぱりくすぐったい」 彰利 「御意……それよりリヴァイア……来て早々で悪いんだけど、     出来ればリヴァイアも出てってくれんかな……。     俺、今本気で泣きたい気分だし……」 リヴァ「それはいいが、悠介は何処だ?話さなきゃならないことがある」 彰利 「神社の境内でいつもの修行してます……って、いつもって言っても解らんか。     とにかく神社の境内に居るから、行ってくだされ……」 リヴァ「ああ解った。悪かったな、急に現れて」 彰利 「いえ……現れてくれへんかったら俺、春菜さんのこと傷つけてただろうし。     現れてくれたことにはすこぶる感謝してますよ」 俺の言葉も中途半端に聞きつつ、リヴァイアは虚空に式を描いて転移した。 そうしてようやく、俺は安堵の息を吐いてヘタリこんだ。 彰利 「男……ねぇ……」 いっそ誰かと一緒になった方が楽なんかなぁ。 でも『好き』って気持ちはまだ解らずじまいだし。 彰利 「はぁ〜あ……どっちらけ……」 気持ちの堂々巡りってとっても癪だということがよく解った瞬間でした。 【ケース03:晦悠介/ぐったりマイハート】 ───……どしゃっ。 悠介 「だはっ……ぐはぁーーっ!!はぁっ!はぁっ……!!」 草原に倒れ、一息ついたと同時に黄昏が消える。 ゆっくりと景色が変わるように消えていった先に広がるのは神社の境内。 俺はその石畳の上に寝転がっていて、空を見ながら息を吐き散らしていた。 悠介 「当てられたのは結局あの一回だけかよ……」 上手くいかないものだ。 最後の方はもう全力と全速力で形振り構わず向かった所為で、 スタミナがどうとか考える余裕もなかった。 お蔭でこの有様。 まったく情けない限りである……。 悠介 「はぁ、まったく……体やスタミナを作る前にまず、     我を見失わないようにすることから始めるべきだった……」 戦いの中でそれは致命的だ。 ……よし、これからはちょっとのことで怒るようなことが無いように努めよう。 さすがに朋燐相手じゃ無理そうだが。 ───ビジュンッ! 悠介 「───っと……なんだ?」 背後で、後悔の旅で聞きなれた音───次元が歪む音がする。 条件反射みたいに振り向いてみると、そこに立っていたのはリヴァイアだった。 悠介 「リヴァイア……じゃないか。どうしたんだ?」 そう、立っていた。 腕を組みながら俺の顔をジーーッと睨み、何を言うまでもなく立っていた。 悠介 「な、なんだ?言いたいことがあるなら言ってくれ、睨まれる理由が見つからん」 そう言ってみても睨んだまま動かない───と思った矢先。 大袈裟なくらいの溜め息を吐いて、組んでいた腕を解いた。 そして─── リヴァ「おい悠介。お前にドラゴン討伐の依頼が下された」 悠介 「他アタッテクダサイ」 リヴァ「感心するくらいの即答だな……拒否は認められない。いいから来い」 悠介 「俺、怒ラナイ、決メマシタ。温厚ナウチニ、退去、願ウ」 リヴァ「なんだそれは……。あのな、なにもひとりで戦えって言ってるんじゃない。     空界最大の皇国、レファルドの精鋭達が一緒に戦うことになっている。     もちろんわたしも討伐には加わるし、お前が行くならルーゼンも出るだろう。     ドラゴン全てと戦えっていう依頼じゃないんだ、どうとでもなる」 悠介 「……あのな。お前ならそれ、     戦ったことがないから言える言葉だってことくらい解るだろ?     弱体化したドラゴンで、しかも東西南北のドラゴンのうち     最弱って言われてたイエロードラゴンであの強さ……。     他のドラゴンと戦おうだなんてこと、正気の沙汰じゃない」 リヴァ「……正気じゃないと疑われるならそれでも構わない。     わたしにとっての盟約は、     人に疑われた程度で捨てるような安いものじゃない」 悠介 「盟約……?」 リヴァ「……なんでもない。とにかくわたしはお前を連れていくぞ。     悪いとは思ってる。けど……可能性が少しでも上がるのなら、     連れて行かないわけにはいかないんだ」 悠介 「………」 訳が解らない。 言葉の意味を探してみたところで、そんなものの答えはいつだって見つからない。 悠介 「全力で抵抗するって言ったら?」 リヴァ「……そうだな。お前にも故郷がある。     死ぬ可能性のある戦いに向かうのは愚かでしかない……     そんなことはわたしだって解ってる」 悠介 「だったら行くことなんてないだろう。     あのさ、蟻が何匹集まろうと、ドラゴンには勝てないんだぞ?」 リヴァ「それは既にガチガチの石頭野郎にルーゼンが言った」 悠介 「……解っててやろうっていうのか。ちょっと無謀すぎやしないか?」 リヴァ「仕方ないだろう。どうこうできるとは思っていないが、     レファルドの王に人質を取られてる。     可能性が低いとはいえ、あいつを死なせるわけにはいかない」 悠介 「人質って?」 リヴァ「ゼロ=クロフィックス。わたしの盟友だ」 悠介 「………」 ゼロって……確か未来で、何度かリヴァイアが言っていた名前の筈だ。 悠介 「なぁ、そいつってお前に『どっかで団子でも食ってるんじゃないか?』とか     言われてたヤツじゃなかったか?捕まってたのかよ」 リヴァ「ああ。妙なことから不老不死になったあいつは、     団子を食うことと寝ることばかりが趣味な変わったヤツだった。     その日も暢気に寝てたんだろうな、     わたしが工房に戻った時にはもうあいつは水晶の檻に封印されていた」 悠介 「……アホゥだな」 水晶の檻ってのがなんなのかは解らないが、 封印ってことはどっかの馬鹿にやられたってことだろう。 リヴァ「言った通りあいつは不老不死の状態だ。     どんなことをされたって確かに死にはしない。     けどな───お前ならどうだ?死なないと解っていても、     『普通なら死ぬ』っていうくらいの苦痛がそいつに齎されると知っててなお、     傍観するだなんてことが出来るか?……わたしは出来ない。     それでお前に正気を疑われたって構わない。     わたしはあいつを救い出すだけだ」 悠介 「思ったんだが……転移の式でその檻ごとこっちに飛ばせないのか?」 リヴァ「水晶の檻は外部からの式や、他すべての干渉を全て断つ。     唯一有効な事柄が物理的干渉だ。大きさは手の平に乗るくらいに小さくて、     そこに入れられたヤツはそれだけ小さくなる。     そこから出ない限りは小さくなったままなんだ。つまり───」 悠介 「水晶ってんだから、ハンマーのひとつででも殴れば……死ぬ?」 リヴァ「そういうことだ。……他でもない、作った本人が言うんだ……間違いない」 悠介 「…………お前」 リヴァ「解ってくれ。他人の罪滅ぼしや盟友としての在り方、     過ちの因縁なんかと無関係なお前を巻き込んですまないと思ってる。     だが……それこそ解ってくれ。わたしには……他に頼れる存在が居ないんだ」 悠介 「リヴァイア……」 ……驚いた。 リヴァイアは頭を下げて、本当に申し訳無さそうに声を漏らした。 俺はそれにどう応えるべきだろう。 かつて、目に映る全てのものを守りたいと思ってた俺は、 今……目の前で苦しそうに困っている存在になにをしてやるべきだろう。 悠介 「………」 死ぬ覚悟なんて出来やしない。 やっとこの平穏に辿り着いたんだ、この時代を無くしてしまうのは本当に馬鹿らしい。 だったら─── 悠介 「……はぁ」 ……そう、死ななきゃいい。 リヴァイアの助けになって、ゼロってヤツを救って、 それで───胸を張って生きて帰ろう。 シュバルドラインの時と同条件ってわけじゃない。 自分を鍛えたし、死神の力も備わった。 戦うのは俺ひとりじゃないし、多分─── 悠介 「……行くのは俺ひとりでいいのか?」 リヴァ「……いいのか!?」 悠介 「命が危なくなったら逃げさせてもらうけどな。それでいいだろ?」 リヴァ「あ、ああ、当たり前だ。命まで捧げろだなんて言わない」 悠介 「そう言ってくれると助かる。で───行くのは俺だけでいいのか?」 リヴァ「……いいや。どうせ黙っていても付いてくる男が居るだろう」 悠介 「違いない」 ───多分、彰利も来るだろう。 元々、空界には行こうっていう話し合いはしていたんだ、 それがまた『イベント戦闘』になるだけの話。 リヴァ「あ……だが、少し心配なことがある。     なんだか検察官の様子がおかしかったんだ。心当たりはあるか?」 悠介 「……?あいつがおかしいのはいつものことだろ?」 リヴァ「あ、いや……それはそうだが……」 おお、納得されてるぞ彰利。 悠介 「心配なら後で俺が様子見ておくよ。ところでその討伐ってのはすぐなのか?」 リヴァ「いや、そういうわけじゃない。     空界には明日行く計算でも時間が余るくらいだ」 悠介 「そか。じゃあ悪いけど行くのは明日にさせてくれ。     家族にいろいろ話しておかなきゃいけない」 リヴァ「そうだな。じゃあ出発は明日の朝だ。それまでゆっくりと休んでくれ。     ───明日、また来る」 そう言うと式を描こうとするリヴァイア。 悠介 「あ、ちょっと待ってくれリヴァイア」 俺はそれを止めると、提案……というよりは頼みごとを切り出した。 悠介 「リヴァイアって確か魔導魔術と魔導錬金術が出来るんだよな?     出来たらでいいんだけど彰利の分のランクカード作ってくれないか?     あいつのことだ、空界に行くとしたら欲しがると思うんだ」 リヴァ「……なるほど、確かにそうだな。     だったらわたしが持ってるランクカードをやる。     検察官と出会う前のものだが、今の技術のものとそう変わらない。     一応地図も入ってるものだ、すぐにでも使えるぞ」 式を描き、虚空に手を突っ込んで引っ張り出したのはランクカード。 真新しい、誰の首にも下がったことがないと一目で解るものだった。 リヴァ「これを渡してやってくれ。それから……巻き込んでしまって本当にすまない。     この借りは……ひとりの下衆に地獄を見せたあとに必ず返すと誓う」 悠介 「………」 下衆ってのは……ドラゴン討伐なんてものを考えたヤツだろうか。 どちらにしろ正気じゃないな、うん。 悠介 「一度空界に帰るのか?」 リヴァ「ああ。あっちはあっちで皇国ごと戦場に出るようなものなんだ。     魔導船の準備や武具一式と魔導術師を揃えることも必要だ。     わたしだってな、悠介。国ひとつ如きで倒せるドラゴンなら、     とっくの昔に滅びていたと思うよ」 悠介 「………」 リヴァ「全員を生かしてくれだなんて言わない。     ただせめて───好んで戦に出る者以外は生還させてやりたい。     あんな王国、あんな王でも……わたしが育った世界の一部なんだ……」 悠介 「リ───」 ビジュンッ……! 悠介 「あ……」 言葉をかける前にリヴァイアは行ってしまった。 悠介 「……守るべき故郷、か」 自分以外には誰も居なくなった境内に静かな風が吹く。 それは毎日のようにやさしく吹く風などではなく─── まるで、これから先のことを暗示させるような嫌な風だった。 Next Menu back