───若原先生彰衛門 〜漢が男へ堕ちたその日〜───
【ケース04:晦悠介(再)/変態考察】 ガララッ……玄関の引き戸が音と立てて開く。 かなり心の中が熱くなっている……焦っているっていうほうの熱さだ。 緊張する時に出てくる焦燥感とでも言えばいいのか、とにかく気持ち悪いことこの上ない。 焦り……焦りか。 焦るというよりは純粋な恐怖だろうか。 悠介 「………」 明日、空界に行く。 そしてそこで……弱っていない、純粋なるドラゴンの王と戦うんだ。 ……今考えてもまるで絵空事のように思い返される記憶。 自分がドラゴンと戦って勝ったなんて、正直今でも夢のようだ。 けれども自分の傍にはディルゼイルが居て、俺を『王』と呼ぶ。 悠介 「……はぁ」 どの漫画でも、物語でも…… 普通の日常を送っていた主人公が突然バケモノと戦う物語に違和感を感じていた。 だってそうだろう。 平凡な日常を送っていたそいつには、なんの力もなかった筈だった。 それなのに世界を救うくらいの人になっていたなんてこと、あまりにも現実から離れてる。 例えばそう……『普通の日常』に生まれてこなかった自分でさえ、それが異常と思う。 そんな果てにある竜族との争い───はっきり言ってその現実が霞んでる。 ドラゴンと戦って、銀狼と戦って……自分は王になって、主になって。 悠介 「………」 ヘンな気分だった。 嫌な気分ってわけじゃない、むしろ自分の力が認められているみたいで嬉しいくらいだ。 けれどその力の意味するところを違えるつもりは全然無い。 俺が力をつけたのは、守るべきものを守るためなのだから。 だからこそ……この戦いを素直に受け入れるべきかを考えあぐねていた。 悠介 「正気の沙汰じゃない、か」 どの口がそう言うのだろう。 事実自分は討伐の依頼を受け入れてしまって、明日には空界に行かなければならない。 当然、どれだけ生きようとしたって死ぬ時は死ぬんだ。 相手は竜族。それもシュバルドラインよりも強者なのだ。 思い返してもみよう。 シュバルドラインのレーザーは、当たった部分を残すような生易しいものだったか? 当たればそれこそ塵も残らないようなものが、 それ以上強くなって襲い掛かるとしたらどうする。 そんなもの、月癒力でも再生できるかどうか解らない。 悠介 「……まいったな。なんて滑稽な状況なんだ……」 例えば突然、武術大会を始めてしまう日常的な漫画のような気分。 突然大会なんてものに出て、エネルギー波なんかを撃ったりする気分。 言ってしまえば置き去りにされてしまった気分、だろうか。 矛盾だらけの日常になんか憧れてはいない。 俺は、静かな日常にあいつが居て、一緒になって馬鹿をやってるだけで十分なのに。 悠介 「……沈むなよ、俺」 やるって言ったからにはやる。 生きるって言ったからには生きる。 幸いにもこの体は死神に寄ることで、こと『死』に関しては頑丈になれる。 この日常を捨てるつもりなんかさらさら無い。 必ず生きて、ここに戻ってこよう。 そのためにも─── 悠介 「……ああ、やってやるさ。言い訳なんて必要無い。     俺はもう、人間なんてものを前世の頃から捨てちまってるんだ」 認めよう。 俺は漫画に出てくる主人公とは『魂』からして違いすぎた。 それと自分を比較すること自体が間違いだ。 俺は死神で、英雄になる漫画の主人公は人間なんだから。 悠介 「───よし」 開いた手を握り締めて頷く。 話すことをみんなに話して、それから行こう。 まだ時間はあるんだ、そうやってこの震えを落ち着かせていけばいい。 今から震えてるんじゃあ先が思いやられるから───。 ───……。 ……。 悠介 「………」 それは今に辿り着いた時のことだった。 俺はその居間で、とある異常空間を発見することになる。 ていうか発見した。 彰利 「っ……!!」 彰利が漂流教室の『大友組の領域を守る子供』の顔で、部屋の隅で震えているのだ。 悠介 「あー……彰利ー?」 彰利 「!!だ、誰だ!ここは大友組の領域だぞ!高松組のやつらは入ってくるな!」 悠介 「いきなりだなオイ」 今朝見た時は全然普通だった彼だが、何故か今は酷く(やつ)
れてる。 リヴァイアの言ってた『様子がヘン』ってのはこれのことか? 彰利 「ぼ、僕は女になんか興味無い!近づいたら死ぬと思った方がいい!     い、いや!出来れば近づかないでほしい!     近づいてしまったら僕は女を襲ってしまう!     ああ!ぼ、僕はなんて恐ろしい怪物を自分の中に封印していたのだ!     ぼ、僕は恐ろしい!自分の中の怪物が恐ろしくて仕方が無い!」 悠介 「落ち着け……つーか俺の何処を見て女だとか言うんだよ」 彰利 「え……あ、アアーーーッ!!キ、キタロ!」 悠介 「さらに落ち着け、誰がキタロだ」 彰利 「……あ、あれ?悠介?」 ようやく少し落ち着いたらしい彰利がゴッッファアアと息を吐く。 しかし窶れていることには変わりない。 彰利 「ゆ、悠介……アア、悠介ーーッ!!」 がばしぃっ!! 悠介 「おわっ!?」 何を思ったのか、彰利はいきなり俺にすがり付いてきた。 しかしすぐに離れると、母屋の支柱に腕を絡めるようにして立った。 彰利 「みなさんお願いですっ!!私を縛ってくださいっ!!     どうかお願いです!身動きの出来ないよう縛ってください!!」 悠介 「お、おい彰利?」 彰利 「お願いです!このままではきっと!早くっ!早く!!     この木に縛り付けてください!!」 悠介 「あー……」 『みなさん』って誰だ? 悠介 「とにかく落ち着け、お前に話しておきたいことが───」 彰利 「だめだもう遅い……!!」 ドタタタッ!! 悠介 「あ、おい彰利っ!?」 崩れるように蹲ったかと思いきや、彰利は物凄い速さで窓へと駆けていった。 開けるという行為すらもどかしかったらしく、窓を蹴り破ってさらに駆ける。 悠介 「な……」 あいつが窓ガラスをブチ壊すのは毎度のことだが、今回のは様子が違った気がした。 俺は呆然と、彰利の姿が見えなくなったその場で立ち尽くし─── 声  「うわぁあああっ!!!な、なにをする貴様!!」 声  「ナニをするんだ俺は!!」 声  「ちょ───彰衛門さん!?篠瀬さんを押し倒してなにを───」 声  「ナニをするんだ俺は!!」 声  「パ、パパ……?なにを……」 声  「ナニをするんだ俺は!!」 聞こえた声に、全速力で駆けた。 蹴破られた窓をくぐり、 靴下のままで庭へと駆け下りて───その状況に困惑する。 彰利 「女ァーーッ!!女が居るぞ!それもこんなに!     そこらに居る小娘もこの女も俺のもんだ!」 夜華 「き、貴様正気か!こんなことをしてただで済むと思っているのか!!     このような行為……貴様がもっとも嫌っていた行為ではないか!!」 彰利 「うるさい!俺はもう我慢できない!我慢の必要もない!     今すぐ俺のものになれ!いや!俺のものにしてやる!その全てを!」 悠介 「なにトチ狂っとるかたわけぇええーーーーっ!!!!!」 メゴシャアアーーーーッ!!!!! 彰利 「ぐげぇええーーーーーーっ!!!!」 ドゴシャッ!メゴシャッ!バキベキゴロゴロズシャアアーーーッ!!! 一目で『狂った』と解るそいつの顔面に全力で蹴りを入れた。 彰利は地面を跳ね転がり、やがて滑って止まった───が、すぐに起き上がった。 夜華 「ゆ、悠介殿……」 悠介 「逃げろ!なんかヤバそうだ!」 みさお「彰衛門さんに、いったいなにが……」 悠介 「お前らもだみさお!聖も!」 聖  「でも……」 何をぶつくさ言ってるんだ……今の彰利は完全に正気じゃねぇ。 女を見る目が完全に変わっちまってるんだ。 あの目は……あいつ自身が最も嫌ってたクズ野郎の目だ。 彰利 「逃がさない逃がさない!女は全員俺のもんだ!     千年間我慢した!もう限界だ!女!女をよこせ!!」 みさお「うわ……」 聖  「パパ……」 夜華 「……彰衛門」 悠介 「目ェ覚ませ馬鹿野郎!!お前はそんなことしたがるヤツじゃなかっただろうが!」 彰利 「ウウーーーーッ!!だ、だめだ!自制が利かないのだ!女が欲しい!」 悠介 「そんなになってもまだ漂流教室なのかよ!!」 彰利 「お、女……女!!」 バシュン─── 悠介 「───!」 彰利が『消えた』かと思うくらいの速さで疾駆する。 その先にはみさお。 俺は彰利の手がみさおに辿り着く前に彰利の黒衣の襟首を掴んで投げ伏せた。 彰利 「ギギッ!?じゃ、邪魔をするな!もう我慢できない!女がたべたい!頂きたい!」 悠介 「こ、のっ……目ェ覚ませって言ってるだろうがぁああーーーーーっ!!!!」 ドゴバギャァンッッ!!! 彰利 「ハカッ……!!」 中腰になっていた彰利の顔面を、振り下ろした全力の右拳が襲った。 ジャギィ、と庭の小石の海が鳴り、彰利はその海にめり込む。 しかしまたすぐに起き上がる。 大した生命力と欲望だ……呆れ果てて泣けてくる。 彰利 「お、女……女!千年の禁欲生活が今報われるのだ!!     どれだけの思春期を潜り抜けただろう!ああ!今僕は救われる!」 悠介 「………」 みさお「腐ってますねぇ……」 悠介 「いや……同じこと考えてたけどさ。言ってる暇あったら避難してくれ。     多分こいつ、今の自分を誰にも見られたくなかった筈だ。血涙出してる」 夜華 「彰衛門……貴様……」 聖  「パパ……」 悠介 「ったく……」 責任の全てが彰利にあるわけじゃない。 あいつは拒んでいたのに、それでも執拗に迫ったどこぞの馬鹿たれ達にも問題がある。 感情を受け入れたんだ、あいつが嫌っていた『男』が発生する可能性は十分あった。 悠介 「お前らも彰利の記憶を見たなら知ってるだろ?     あいつの父親は女にだらしがなかったくせに、     プライドだけは高いってだけのクズだった。     彰利はそんな『男』にだけはなりたくなかったんだ」 夜華 「………」 悠介 「彰利は『好き』って感情が解らないままだ。     それなのに好きだのなんだの言われたら混乱するに決まってる。     感情を受け入れた今なら、そりゃいつかは解るかもしれない。     けどあいつは解らないっていうよりは『知りたくもない』んだ。     好きになった女性を、いつかは宗次みたいに利用するんじゃないかって。     きっとそう思ってる」 夜華 「あ、彰衛門はそんなことをする人間じゃない!!」 悠介 「理屈じゃないんだよ、今の彰利を見れば解るだろ。     あいつの中には確かに弦月宗次の血が流れていて、     今も『男』に飲まれて泣いてる。『そんなことをする人間じゃない』なんて、     それこそもっとも信用出来ない意識なんだ」 みさお「そんな……」 彰利がゆっくりと歩く。 その目にはもう女しか映っていないのだろう。 みさお「……でも、案外これってチャンスかもしれませんよ?」 ポムと手を打つみさお。 そんなみさおに、一斉に疑問の視線をぶつける篠瀬と聖と俺。 みさお「彰衛門さんを縛り上げて、日余さんと春菜さんと篠瀬さんの前に出すんです。     で、誰が一番好きなのかをハッキリさせるのはどうでしょうか」 悠介 「……お前、案外余裕なのな」 みさお「伊達に彰衛門さんに引っ張りまわされてませんよ。     それに、感情が爆発してるみたいな今なら、     彰衛門さんも『好き』って感情が解るかもしれませんし」 そうか?なんだか全然予想できないんだが。 悠介 「まあいいか。ここで『女女』叫ばれるのも困りものだし。     ───彰利の力と月操力を封じる縄が出ます……弾けろ」 ポムッ。 縄を創造して、構える。 悠介 「……じゃあ、いくぞ。全力で抵抗するし、お前らは襲われると思う。     覚悟してくれよ」 みさお「あぁ……彰衛門さん相手にこんなことをする日が来るなんて……ショックです」 聖  「パパのばか……」 夜華 「捕らえたら文句どころじゃ済まさん……」 彰利 「女……女ァアアーーーーーッ!!!!」 悠介 「今だ!捕らえろォオーーーーッ!!!」 ……のちに。 この戦いはクズ野郎捕り物帳として語り継がれなかったという……。 ───……。 ……。 彰利 「ウググ……ウウーーーッ!!」 さて……首から上以外の全てを縄で縛った彰利が目の前に転がってるわけだが。 悠介 「……言っておくけど、あまり期待しないでほしい。     今のこいつ、相当に腐ってるから」 粉雪 「………」 春菜 「えーと……」 夜華 「………」 居間に集めた三人に予め言っておく。 今のこいつに好きとかなんとかが解るとは到底思えないんだが…… みさお「さー、彰衛門さん?この中で一番好きなのは誰ですかー?」 彰利 「ウウ……」 みさお「彰衛門さん?」 みさおが彰利の目の前で手を左右に動かす───が、その途端! ベロンチョ。 みさお「うわひゃぁああああーーーーーーーーっ!!!!」 その手が彰利に舐められた。 当然みさおは飛び跳ねるように彰利から離れる。 彰利 「ウウーーーッ!!わ、若い女の味がする!たべたい!早くたべたい!」 みさお「……さようなら、子供には優しかった彰衛門さん……。     わたし、思い出『だけ』を大事にします……」 おお、いきなり見捨てられた。 悠介 「あー……とまあこのように。     今現在の彰利は千年分……っていっても本当に千年じゃないだろうけど、     ともかくそれくらい溜まった『男』としての本能に飲まれた状態にある。     ハッキリ言って正気じゃないのは明白だ、血の涙が出てるし」 一応深層意識の中で抵抗してるんだろうけど、無駄に終わってるんだろう。 俺は親友として悲しいぞ、友よ。 悠介 「今回集まってもらったのは他でもない。     みさおの提案で、今の彰利から『誰が一番好きなのか』を聞き出すためだ」 粉雪 「そうらしいけど……大丈夫なの?」 悠介 「ハッキリ言って無理だと俺は思うぞ」 春菜 「わたしもそう思う……」 夜華 「わ、わたしは別に好きがどうとかは……その」 みさお「じゃあ篠瀬さんは部屋に戻ってます?」 夜華 「あ、いやっ……わ、わたしも、その……あ、彰衛門に襲われたのだっ!     こここいつがまたなにか仕出かさぬよう見張っている義務があるっ!」 みさお「素直じゃないですね」 夜華 「ち、違うっ!わたしは別に彰衛門がどうなろうと知ったことじゃない!     心の準備もさせないままでいきなり押し倒すようなヤツに……あ、いや、     べべべつに心の準備をさせてくれるならいいとかそういったわけじゃなくてだな、     そ、そういうことをする前に、その……ちゃんと言って欲しいというか……違う!     あぁあっ……!何を言ってるんだわたしは……!!」 なにやら苦悩する篠瀬を余所に、俺達は彰利の様子を伺う。 せめて視線だけでも誰かひとりに絞らないものか、と。 しかし彰利は散眼を使って、部屋に居る女性全員を見渡していた。 悠介 「気持ち悪い見方するなよ!!」 彰利 「お、女ぁああああ……女ぁあああ……!!」 悠介 「はぁ……なんだってんだまったく……」 あれほどあった緊張感が消えてしまった。 気持ちの切り替えは出来たが、問題はこいつをどうするかだ。 こんな状態の彰利を空界に連れてったりなんかしたら、それこそ大変なことになる。 彰利 「お、幼馴染に先輩に年下に娘……選り取りみどりだぁ〜〜〜っ!!」 悠介 「あ〜あ……名実ともに変態オカマホモコンの出来上がりだよ……」 彰利 「!!」 みさお「……あ。反応しました」 悠介 「おお!───あ、彰利!?戻ってきたいなら抵抗しろ!『漢』に戻るんだ!     まだ帰れる!つーか帰ってこい!!」 彰利 「ウ、ウグググ……!!く、苦しい……アレーーーーッ!!!!」 悠介 「漂流教室はもういいから帰ってこい!!」 粉雪 「そ、そうだよ彰利!戻ってきて!わたしそんな彰利イヤだよ!?」 夜華 「あ、そ、そうだ……乱暴なお前も、その……いいかもしれない。     けど、どれだけ口は悪くても暖かかったお前のほうが、わたしは……好ましい」 彰利 「ウウーーーッ!!だったら俺の物になれっ!!」 夜華 「うわっ!?」 縄まみれな彰利が、体を無理矢理跳ねらせて篠瀬に襲い掛かった!! しかしそれを殴り落として息を吐く。 悠介 「不用意に好ましいとか好きとか言わないこと!」 夜華 「うぐっ……も、申し訳ない。     しかしわたしは以前の彰衛門が好ましいと言ったのです。     今の彰衛門に『俺の物になれ』と言われる筋合いは……」 悠介 「今のこいつに理屈は通用しないってことだろ……」 夜華 「はあ……」 みさお「あの、篠瀬さん?     彰衛門さんのこと、好きがどうとかは関係ないんじゃなかったんですか?」 夜華 「か、関係ないだなんてことは一言だって言っていない!あ、いや……違う!     好ましいといったわけで、誰も好きだなんて言ってないだろう!?」 みさお「篠瀬さんって嘘をつけない人ですよね」 夜華 「だ、黙れ!!」 みさお「焦ると『黙れ』って言うの、もう癖になってませんか?」 夜華 「だ、黙───うぐっ……!!」 みさお「あははっ、わたし、篠瀬さんのそういうところ、好きですよ?」 夜華 「ば、ばかっ!からかうな!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 悠介 「落ち着け彰利!つーかどうしてそんなところで反応してるんだお前は!!」 彰利 「ウウウーーーーッ!!!!」 蓑虫状態でジタバタ暴れる彰利をさらに縄でぐるぐる巻きにする。 さらにその縄の端を居間の四隅に縛りつけ、彰利をその場から動けないようにする。 粉雪 「……どうしよっか、コレ」 みさお「うわ……いきなりコレ呼ばわりですか」 春菜 「うーん……でも、これっていいことだよね?     いきすぎだけど、男の子っぽくはなったし。     これを抑えた状態で感情を落ち着かせれば、     普通の男の子の感情に近づけるんじゃないかな」 みさお「理論的には間違ってないと思いますけど……     『普通の男の子』な彰衛門さんってどんな彰衛門さんですか?」 春菜 「え?そ、それは……て、手を握ってくれたりだとか、     恥ずかしがりながらデートに誘ってくれたりだとか、     一緒にご飯食べたり、遊園地行ったり、     わ、別れ際に手を引っ張って振り向かせてキスしてくれたり……     や、やだっ!みさおちゃん何言わせるのっ!!」 ばしばしばしっ! 顔を真っ赤にしたネーサンがみさおの背中を叩く。 きゃー、とか言ってる……とうとうヤツもイカレちまった。 みさお「夢見る少女ですかあなたは……。     というよりそれ、既に彰衛門さんじゃない気がします」 同意見だみさお。 あいつなら手を握ると見せかけて小手返ししてきたり、 デートに誘ってきたと思ったら『ウソじゃ』とか言ったり、 一緒にご飯食べる時にはマサドナルドとか行ってスマイルテイクアウトしたり、 遊園地では末堂厚の如く、コーヒーカップで遊ぶ人に襲い掛かったり、 別れ際のキスと見せかけて腕引きウェスタンラリアットをするに決まってる。 みさお「日余さんはどう思います?普通の男の子な彰衛門さん」 粉雪 「そうだね……変態行動が少なくなって、     その分女の子には積極的になっていくんじゃないかな」 みさお「変態じゃない彰衛門さんなんて彰衛門さんじゃないです」 悠介 「まったくだ」 粉雪 「や、そんな断言しなくても……そんな人が親友でいいの?晦くん」 悠介 「それがあいつなら文句なんてない。     けど今のこいつは変態じゃなくてクズ男で変質者なだけだ」 粉雪 「大差ない気がするんだけどなぁ……」 みさお「日余さん、それは違いますよ?変態とクズ男変質者には壁があるんです!     彰衛門さんで言う変態っていうのは、     ふざけながらも他人のためにはなんでも出来る異常者のことを言うんです。     クズ男変質者っていうのはそれとは逆で、     己の欲望のために他人を好き勝手に扱う人のことを言うんです。     どうです?全然違うでしょう?」 粉雪 「はあ……まあ」 熱弁するみさおを前に、日余は苦笑するだけだった。 そりゃそうだ。 みさお「で……篠瀬さんはどう思いますか?普通の男の子な彰衛門さん」 夜華 「それが『彰衛門』なら拒む理由はない。     驚きはしたが……その。さっきのような彰衛門も悪くは……あ、いや───     そうじゃなくてだなっ、やはり人間、段階というものを弁えて……違う!     べ、べつに嫌というわけではないんだ。     だがやはり、ああいうことをする前にはきちんと言ってほしい。     相手の気持ちも解らぬまま抱かれるのは───くわぁああっ!!!!     ななななにを言っているんだわたしはぁあああああああっ!!!!」 篠瀬、暴走するの巻。 抜刀された刀がおもむろに振り回されてゆく。 みさお「きゃーーっ!!?ちょ、ちょっと落ち着いてください篠瀬さん!!     刀なんて振り回さないでください!危ないじゃないですか!!」 悠介 「じゃあ暴走した篠瀬はみさおに任せるとして。     聖、お前の力で彰利の欲望を沈められないか?」 みさお「あっ───ダメです!聖ちゃん、前に空界で無茶したから     それ以上静沈の力を使うと危険かもしれません!」 悠介 「……ふむ」 どうしたもんか。 本当はこんなことでぐずぐずしていたくはないんだがなぁ……。 悠介 「お前ってどうしてこうタイミングが悪いんだ……」 彰利 「ウウ……ウウーーッ!!お、女に触りたい!女に!」 悠介 「ああ困ったな……俺、今のこいつ見てると無償に腹が立つ」 みさお「気持ちは解りますけどね」 悠介 「はぁ……って、篠瀬は?」 みさお「ちょっと眠ってもらいました」 みれば、畳の上で眠っている篠瀬が。 篠瀬には悪いが、一応静かにはなった。 悠介 「彰利ー?さっさと打ち勝たないとこの場に原中の猛者どもを呼ぶぞー」 彰利 「!!」 みさお「あ、また反応しました」 悠介 「戻ってこれるかー?どうなんだー?」 彰利 「ウ、ウググ……女……女……!!ギィグググ……!!」 悠介 「……人罰決定。悪い、ちと中井出に電話し掛けてくる」 みさお「あ、はい。こっちはちゃんと見張っておきますから」 悠介 「悪い」 ギャーギャー喚き出す彰利を完全に無視して居間を出る。 状況に呆れながらゆっくりと歩き、やがて美しき黒電話の前に立つ。 悠介 「あー……中井出の電話番号は、と……」 ジーコロロロロ……ジーコロロロ……ルルルル……ブッ。 声  《誰だー?仕事中のこの俺に電話し掛けてくるナイス度胸なヤツはー》 悠介 「中井出か?こちら晦悠介だけど」 声  《っと、晦か?     どうしたんだよ、『携帯になんぞ死んでも電話し掛けん』とか言ってたお前が》 悠介 「状況が変わった。神社まで来れるか?     一生に一度見れるかどうか解らん状況が展開されてる」 声  《……つーかさ、お前の周りで起こることって大体が     一生に一度見れるかどうか解らんことな気がするぞ?》 悠介 「そう言うなよ、これは別の意味で珍しいんだから。     俺が見ても疲れるだけだけど、お前らならなんとかなるだろ」 声  《……?何が起こってるんだよ。こちとら実際仕事中なんだけど》 悠介 「……彰利が『男』として目覚めて、女に襲い掛かった」 声  《今すぐ行く!!悪ィ、収集かけるから切るぞ!!》 悠介 「お、おお……」 ブツッ! 悠介 「……収集、ねぇ……」 絶対全員来るんだろうなぁ……。 Next Menu back