───きっともうダメなんだよ(漢には戻れないって意味で)───
【ケース05:晦悠介(超再)/告白魔人】 バンバンバンバンバン!!!! 声  『開けろコラァアーーーーッ!!!     今すぐ開けねぇとブッコロがすぞぉおーーっ!!!』 そして中井出の声。 あれからそう経ってないってのに、もう来やがった。 俺は玄関に降りて引き戸を開けると、なだれ込んできた人数にほとほと呆れた。 中井出「ぜはぁっ……ぜはぁっ……て、天海さまの命により……     わ、我ら原沢南中学校卒業生……降臨しました……」 総員 『サッ……ゲホッ!ガハホッ!!サー・イェッサー……!!』 悠介 「……天海さまでもなければ、     お前ら全員に来いだなんて言ってないし、命令でもない」 全員息切れだ。 そりゃそうだろう、この短時間であの石段を登ってくるとなると、 大体のヤツは吐くだろうし。 悠介 「お前らなぁ……あー、石段とか汚してないよな?」 中井出「フッ……侮るなよ晦……エチケット袋は完備だ……」 タプンッ、と揺れるビニール袋を見せる中井出……と、他数人。 ……見せんでいい。 中井出「それで……?例のブツは何処に……」 悠介 「上がった先のそこ……ああ、そこだ。その居間ン中に居る」 中井出「よ、よし!総員に通達!何があっても驚くな!     ヤツはついに『男』として成長したのだ!     ここは純粋にヤツの成長の記録を撮るべきだ!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「いい返事だ!では総員───」 悠介 「ちょっと待て。もしかして全員居るのか?お前ら仕事はどうしたんだよ」 総員 『都合良く休みでしたサー!!』 悠介 「うそつけっ!!大多数が作業着とか着てるだろうが!!     って、桐生……お前もかよ……」 真穂 「だって、お母さんがね……」 桐生 「アキちゃんが非道に走るのを見過ごせはしないよ!」 悠介 「………」 俺は今、はっきりとこいつらを呼んだことを後悔した。 いや、俺が呼んだのは中井出だけだった筈なんだが……。 中井出「では総員!突撃ィイイイーーーーッ!!!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 ドパタタタタタタ……!! 原中の猛者ども+1が居間へと全速前進。 大した間も無く辿り着くそこで、彼ら彼女らがとった行動とは─── 声  『お、おわぁああーーーーーーーっ!!!!!』 ……予想通りに絶叫だった。 もちろん俺はゆっくりとそのあとに続き、再び居間へと舞い戻る。 そこで見たものは…… 彰利 「女ァーーッ!!!女ァアアアーーーッ!!!!」 集まった原中の女子郡を見て鼻血を吹き散らすコワレた存在だった。 一応、未だに蓑虫状態だ。 中井出「うむ、これは貴重だ。藍田くん、カメラをくれたまえ」 藍田 「はい、先生」 そんな彰利を、途端に静かになった原中の猛者どもが見つめる。 黙ってカメラを構えた中井出は、そんな彰利をパシャリと写し─── 中井出「くっ……ぷ……く、くはっ……ぶははははははははは!!!!」 藍田 「らひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」 猛者ともどもに盛大に笑った。 すると彰利の目から溢れる血涙、血涙、血涙……。 自業自得だ馬鹿者……これを機に強くなれ……。 中井出「お、お前どんなことになってるかと思ったら……!!     女見た途端に鼻血噴き出すとは思わなかっ……くはあっはははははは!!!」 彰利 「ウ、ウウーーーッ!!女!女を寄越せ!」 藍田 「か、変われば変わるもんだな……凛々しかったお前がこれほどまでに……」 彰利 「ウギゴガゴーーーッ!!」 血涙の量が増した……よほど悔しいらしい。 ……と、そんな彰利に近寄るひとりの女性が居た。 すぐに止めようと思ったが─── 桐生 「アキちゃん!」 彰利 「ウ、ウググ……!!ウゥウウガァアーーーッ!!!!」 その人を前にした途端、彰利の様子が他とは明らかに変わった。 桐生 「アキちゃん、答えて……女の子を襲ったりなんかしてないよね?」 彰利 「ウ、ウグッ……ウグググ……!!」 桐生 「アキちゃん!目を逸らしたらだめ!ちゃんと答えて!」 彰利 「ウググ……ウウーーーーッ!!!」 女を求めてた彰利が目を逸らした……って待てよ? 確か空に映された映像の中で、こいつ……桐生センセに自分の過去を見せた時─── ……うわ、マジか? でも確かにあいつ、明らかに動揺してたし嬉しいって感情もあったみたいだし……。 彰利 「ウググッ……ウワァーーーッ!!」 桐生 「ア、アキちゃん?どうしたの?苦しいのっ?」 あいつの過去を見て初めて『頑張ったね』って言ってくれたのが桐生センセだ。 それに感動し、心を暖めたのは誰だったか。 彰利 「き、きききききき桐生さんっ!!!」 ズパァアーーーーーンッ!!!! 彰利 「ぶべぇえーーーーーーっ!!!!」 桐生 「キリュっちって呼ばなきゃだめでしょ!!」 ようやく『ウウーー』以外の言葉を発したと思ったらいきなりビンタ……こりゃイタイ。 しかしめげずに桐生センセを見つめる眼差しは、 もう既に先ほどまでの欲望に満ちた目ではなかった。 ……うわ……まさかあいつ─── 彰利 「だ、だめだ!僕はそんなくだらん呼び方であなたを呼びたくない!!」 ズパァアアアアンッ!!! 彰利 「ハベァアアーーーッ!!!!」 桐生 「くだらなくなんかないもん!!」 彰利 「そんなことはどうでもいい!桐生さん───いや、仁美さん!!」 桐生 「キリュっちって───え?」 名前で呼ばれたからだろうか、桐生センセは振り上げた平手を止めてしまった。 ああダメだ、こりゃもう止められん。 俺は静かに十字を切った。 さらには眠っている篠瀬を揺すり起こし、ただ彼のその後を祈った。 彰利 「仁美さん!!僕と───僕と付き合ってください!!」 桐生 「えっ───」 春菜 「なっ……」 粉雪 「───!?」 夜華 「……な、ななな……!?」 全員 『なんですってぇええーーーーーっ!!!?』 その瞬間、その場に居た皆様がMMR化した。 彰利は酷く冷静な顔で鎌を出現させて縄を斬り、 自由になった体で、呆然としている桐生センセの前に跪いて手をそっと握った。 やがてその手の甲にまちゅりとキッスをかました。 桐生 「───!!っ……!!〜〜〜……!!!」 当の桐生センセは軽い……いや、重い呼吸困難になっているようだ。 顔を真っ赤にして、どうしたらいいのか解らないって表情で口をパクパクさせてる。 桐生 「あ、あゎぅ……あ、あの、その……あ、アキちゃ……?」 彰利 「惚れました……あなたのその優しさに……。     惚れました……あなたのその美しさに……。     惚れました……あなたのその全てに……。     僕と……僕と、結婚を前提に付き合ってください……」 桐生 「〜〜〜〜っ───……」 ……ぼてっ。 あ、倒れた。 うあ〜、顔真っ赤……。 真穂 「うわわぁあっ!!お、お母さん!?ちょっ───お母さんってば!!」 すぐさまに桐生が駆け寄るが、 桐生センセは『はぅはぅ……』と目を回しているようで、起き上がることはなかった。 彰利 「さあ真穂さん……僕をパパと呼んでくれ!!」 真穂 「えっ……ほ、本気なの?」 彰利 「本気さ!僕は恋に目覚めたんだ!     この気持ちが恋なのだとするならば、僕は確かに仁美さんに恋をしてる!!     僕は……僕はあんな気持ちは初めてだったんだ!     僕を抱きしめ、僕に『頑張ったね』と言われた時、     まだ感情を受け入れてもいなかった僕の心に暖かいものが走った!!     ものすごく暖かくて、嬉しかったのだ!!     そして今、僕はその暖かさを思い出した!仁美さんが思い出させてくれたんだ!     もう煩悩なんて要らない!僕はこの人だけを愛してゆくのだ!!」 真穂 「………」 悠介 「………」 あー……多分、だが。 俺と桐生、今同じこと考えてると思う。 同じことっていうか、同じ結論っていうか。 真穂   「あ、あのね……弦月くん?言っておきたいことがあるんだけど……」 悠介   「俺からもだ。その感情ってな多分───」 真穂&悠介『恋とか愛じゃなくて、ただの母親を想う心じゃないかと───』 彰利   「……………………え?」 ピタ、と彰利が止まる。 やがて顎に手を当てて考え─── 彰利 「ちょ、ちょっと待ってくれ!それじゃあ恋ってなんだ!?好きってなんなんだ!?     僕はこれが『好き』って感情だと思ったのに!!     僕はこの人を!仁美さんを大事にしたいって心の底から思ったんだよ!?     それが好きとか恋じゃなかったら、いったい何が恋だっていうんだい!?」 悠介 「とりあえずその喋り方おぞましいからやめろ」 彰利 「なにを言うんだ!僕はずっとこんな喋り方だったじゃないか!!」 中井出「そうだったか?」 全員 『ノォサーーーッ!!』 中井出「だそうだが」 彰利 「………で、でも僕のこの思いは確かに仁美さんにだけ向かっているのだ!!     だったらこれは仁美さんにだけ抱いてる感情で、     恋っていうのはそういうものなんだろう!?」 丘野 「ああつまり……なんだ?もしかしてお前、     心のどこかでこの桐生先生って人のことを母親みたいに思ってたってことか?」 彰利 「違う!これは恋だ!おまえ!失礼なこと言うな!」 丘野 「確かにこの喋り方おぞましいな。何処のぼっちゃんだよお前」 あぁそっか、どこぞのぼっちゃんみたいな喋り方なんだ、これ。 物凄く似合わん。 それも素で喋ってるから余計に。 彰利 「起きてくれ仁美さん!     周りがこうやって否定する以上、もう僕たちは駆け落ちするしかないんだ!     大丈夫!僕が絶対に守ってみせる!きっと永遠に幸せにしてあげるから!」 粉雪 「うわ……わたしあの先生のこと嫌いになりそう……」 春菜 「一度は言われてみたかったことを、あのアッくんがあんなにハッキリと……」 夜華 「誰かのものになってしまうのならいっそ……」 悠介 「あー、そこ。抜刀は控えるように」 何気に刀を抜こうとしていた篠瀬を抑える。 しっかし……まいったな、正気に戻るどころかヤバイことになってきた。 彰利 「愛しているんだ!僕の生涯を賭けてキミに誓う!僕はキミを愛し続ける!     もしこの想いがあなたに届いたのなら、どうか僕のこの手を取って欲しい!!」 鬱陶しいくらいの愛を叫びながら、気を失っている桐生センセに手を差し伸べる彰利。 ……なんつーか、どこぞの演劇でも見ている気分だった。 このままじゃあまずいよな……しゃあない。 桐生 『ごめんなさい……あなたを好きになることは出来ません』 彰利 「エエッ!?そんな……どうして!」 桐生 『出来ないって言ってるんだからそれで納得してください』 彰利 「そ、そんなっ……!ぼ、僕の気持ちはどうなるのですか!?」 桐生 『それはあなたを好いている他の女性にも言えることですよ』 彰利 「アッ……アアーーーッ!!!!!」 ガーン!といった顔で数歩後退る彰利。 それを面白いものを見る目で傍観する原中の猛者ども。 その中で、中井出が俺に『GOサイン』を出す。 やっぱ気づいてたか、声を創造してるってことに。 桐生 『よく聞きなさい。     あなたのわたしを思う気持ちは【母親を思う気持ち】と同じもの。     だからわたしは母親代わりになることは出来るけど、     恋人になることはできないの。解って……つーかいい加減解れ、疲れる』 全員 『ブフッ!!』 その場に居た彰利以外の全員が噴き出した。 彰利 「───で、では母親として愛することは許されるのでしょうか!!」 桐生 『もちろんです。それは許可しましょう』 彰利 「じゃ、じゃあ───真穂さんを僕にください!!」 真穂 「えぁっ……!?」 春菜 「なぁっ───」 全員 『なんだってぇええーーーーっ!!!?』 総員、再びMMR。 彰利 「僕は必ず真穂さんを幸せにします!そしてあなたをお母さんとして受け入れます!     だからそれはもう結婚を許してくださった証拠ですよね!?」 真穂 「あ、あぅ……あぅあぅ……」 春菜 「き、桐生さん!!ただの知り合いだって言ったくせに!!あれ嘘だったの!?」 真穂 「ち、違いますよ!!わたしべつに弦月くんとはそんな関係じゃ───!!」 粉雪 「真穂……どうして……」 真穂 「違うったら!粉雪もそんな顔しないで!これは弦月くんが勝手に……!!     ……!───!!」 困り果てた桐生が俺に視線を送る。 なんとかしてくれ、だそうだ。 桐生 『真穂との交際は認められません。ただ母親として接することを許しただけです。     頭あったけえのかてめぇ』 全員 『バハフッ!!』(原中総員が吹き出す音) 彰利 「そ、そんな!ではどうしたら!!」 春菜 「あ、え、えっと……わたしと付き合うと桐生先生の印象がよくなるよ?」 彰利 「そうなのですか!?では───」 ドンッ!! 春菜 「はきゅっ!?」 姉さんが突き飛ばされた。 横から現れたのは───日余だ。 粉雪 「せ、先輩なんかより真穂と友達のわたしと付き合ったほうが絶対にいいよ!」 春菜 「あ、ちょ、ちょっと粉雪ちゃん!!だめだよそんなウソ800言っちゃ!!」 粉雪 「人のこと言えた義理じゃないでしょう!!     なんですかその『印象がよくなる』って!関係もなにもないじゃないですか!」 春菜 「ウソついてでも言われたいことだってあるの!いいじゃん!!」 粉雪 「よくありません!!わたしは彰利の幼馴染としても元彼女としても、     そんなウソは認められません!!」 春菜 「うーーーーっ!!!」 粉雪 「ふかーーーーっ!!!!」 夜華 「あ、あの、だな、彰衛門。その、不本意ではあるのだが、な。     あ……わ、わたしとともにあったほうが、いろいろと、そのっ……!」 粉雪 「そこの人!ちゃっかりなにやってるんですか!!」 春菜 「篠瀬さん!抜け駆けなんてだめだよ!!」 夜華 「なっ───抜け駆けとは人聞きの悪いことを!!     だ、大体わたしが彰衛門になにを言おうが貴様らになんの関係もないだろう!!」 春菜 「あるよっ!大ありだよっ!!」 粉雪 「あなただけは正々堂々だと思ってたのに……!」 春菜 「『だけは』ってどういう意味なの粉雪ちゃん!!怒るよ!?」 あー……どうしたもんかなこの状況。 悠介 「よし行け藍田。オリバ薬やるからこの状況を沈めてくれ。     ちなみに濃度を上げたから一口飲めば二度と元の藍田には戻れん」 藍田 「そんなもん奨めんなよ!!」 中村 「俺達のために人生捨ててくれオリバ」 丘野 「きっと木村も頷いてくれるぞオリバ」 藍田 「勝手なこと言うな!!つーかそもそも人のことオリバとか言うな!!」 夏子 「オリバって……ビスケット?」 中井出「その通りだ。キューバ出身アメリカ人で筋肉ゴリモリのオリバさんだ」 夏子 「ごめん、頷けないや……」 中井出「木村もこう言ってる。ググッと行けオリバ」 藍田 「どこをどう聞いたらその言葉が出てくるんだよ!!」 総員 『全部だ。解ったら行け、面白そうだ』 藍田 「てめぇらぁああーーーーーーっ!!!!」 今日も藍田は元気そうだった。 ……っと、こっちもそろそろ決着つきそうか? 粉雪 「彰利!」 春菜 「アッくん!」 夜華 「彰衛門!」 三人 『誰にする!?』 とうとう出ました、モテる男の伝統修羅場地獄。 こういう場面に辿り着く輩の大多数は『優柔不断』なわけだが─── 彰利 「僕なら全員とだって大丈夫さ!!」 今のこいつにはそういう言葉は似合いそうになかった。 優柔不断とかじゃなくて、マジだもんこいつ。 選べないんじゃなくて選ぶ必要がないんだ、こいつの思考の中じゃ。 それは、親友の俺から言わせてもらえば『誰でもいい』んじゃなくて、 彰利がそれだけこの三人を大事に思ってる証拠だ。 だが─── 粉雪 「そ、そんなのが許されると思ってるの!?」 春菜 「アッくん!二股三股なんて許さないよ!?」 夜華 「貴様……わたしにあれだけのことをしておいて恥をかかせる気か……!!」 乙女心ってのはなかなかどうして、やはり複雑なものなのだ。 自分が一番じゃなきゃ嫌だってのは当然だろう。 粉雪 「誰かひとりを選んでよ!」 春菜 「誰!?アッくんが一番好きなのは誰なの!?」 夜華 「いい加減にハッキリしろ貴様!!」 彰利 「解りました!ハッキリします!全員好きじゃあありません!!」 粉雪 「───!!」 春菜 「え……?」 夜華 「な……?」 全員 『な、なんだってぇえーーーーっ!!?』 悠介 「いや、ここでMMRは必要ないだろ」 ある意味解ってたことだし、彰利にしたって何度も『誰も好きにならない』と言った筈だ。 彰利 「僕のこの気持ちが『恋』という『好き』ではないのなら、     僕は誰も好きではありません!!     でも僕には守りたいと思う人が何人か居ます!     だから僕はそれを励みに生きたいと思ってます!本当です!」 粉雪 「誰……?その守りたい人って……」 彰利 「たったひとりの親友である悠介くんと、娘である聖さんとみさおさんです!!     仁美さ───桐生先生は守ることなんかしなくても大丈夫そうなのでいいです!」 粉雪 「わ、わたしは?」 彰利 「幼馴染です!」 春菜 「わたしは……?」 彰利 「悠介くんの姉です!」 夜華 「わたしは───」 彰利 「カスです!!」 夜華 「貴様ぁああああああああああっ!!!!!」 彰利 「キャッ……キャーーーーッ!!?」 ザクシュドシュザクシュッ……!バシュ……ゴシュベキュ……ッ!! 彰利 「ウギャアアアーーーッ!!!!」 ……篠瀬にザックザクに切り刻まれてゆく彰利を見て、俺は静かに十字を切った……。 ───……。 ……。 中井出「いやー、マジで斬るとは思わなかった」 丘野 「まったくだ」 素直な感想だった。 最初は流石に焦っていた原中の猛者どもだったが、 しっかりと回復する彰利を見ると安堵を漏らした。 悠介 「で……お前、少しは正気に戻ったか?」 彰利 「うぐっ……ひっく……!     ハイ……!もう穴を掘って入って未来永劫出てきたくないほどに……!」 正気は取り戻しているらしく、 彰利は顔を真っ赤にして居間の隅で泣きながらジャガー目潰しをやっていた。 どうやら先ほどまでの記憶は全て覚えているらしい。 まあなあ、血涙まで流してたし。 彰利 「キリュっちの様子、どう……?」 真穂 「まだ気を失ってるよ。でも大丈夫、起きたら夢だったってことにしておくから」 彰利 「すんません……なにからなにまで……」 真穂 「いいよ、なかなか貴重な体験だったから。     人に告白されるとあんな気分になるんだね、ほんとに焦っちゃったよ」 彰利 「オイラもう消え去りたいくらいに恥ずかしいとですよ……」 あまりの恥ずかしさの所為なんだだろう、確かに耳まで真っ赤だ。 悠介 「もひとつ訊きたい。お前さ、『好き』って感情解ったか?」 彰利 「うんにゃ、余計に解らなくなったみたいさね。     だいたいさ、『好き』ってなにさ、って感じだよね。     『好き』とか『嫌い』とか最初に言い出したのは誰なのかしら」 悠介 「そんなもんは剛田にでも訊け」 中井出「誰だよ」 知らん。 悠介 「まあこれを段落ってことにしてと。姉さん、俺明日から家空けるから」 春菜 「え……どうして?」 悠介 「……理由、聞きたいのか?」 春菜 「そりゃあ聞きたいよ?」 悠介 「そか。それじゃあ……ドラゴン退治だ」 春菜 「……悠介くん?わたしはキミを、     そんなウソ言うような弟に育てた覚えはないよ?」 そらそうだ、育てられてない。 まあ普通はウソだと思うよなぁ。 俺だってウソだって思いたくなる時がある。 悠介 「リヴァイアっていう未来の空界人に依頼されたんだよ。     ドラゴン討伐に出るから来てくれ、って。だから家を空ける。留守番頼むな」 春菜 「ダメ。ちゃんと理由を話さなくちゃだめだよ」 悠介 「話してるんだが……これ以上何を話せと?」 春菜 「全部だよ。……あ!ま、まさか悠介くん、どこかで女の人と……!?」 ルナ 「ゆーすけ!?それほんと!?」 悠介 「来るの早いよお前は!!なんでもないから向こう行ってなさい!!」 ルナ 「で、でも悠介が浮気したって!」 悠介 「ンなこと一言も言っとらん!!いいから向こう行け!!」 ルナ 「ぶーぶー、いいもん……ゆーすけのばかー……」 来た時と同様に壁抜けで去ってゆくルナを見送ると安堵。 どういう聴力してんだかなぁ。 悠介 「で、姉さん。言っておかなきゃならないことがある」 春菜 「なに?アリバイ工作なら手伝わな───」 悠介 「俺が死んだら、ここのこと……頼む」 春菜 「───え?」 彰利 「なに!?そんなこと神が許さんぞ!!」 悠介 「ならば神とも戦うまで!!」 彰利 「退けぬか!!」 悠介 「退けぬ!!」 彰利 「よし俺も行こう。留守番よろしくね春菜さん」 春菜 「え、えぁあ……?」 中井出「ナチュラルに訳解らんな。先輩が困ってるぞ」 悠介 「なにぃ、お前なら理解できると思ったのに。     いいか?ドラゴン退治だ。解るな?」 中井出「そりゃ解る。どこぞのゲームでもやりに行くのか?」 悠介 「………」 ああもう、こいつ肝心な時に理解力が無い。 こういうところは彰利に似てる。 悠介 「あー……俺達の記憶見たんだったら天地空間のことくらい知ってるよな?」 中井出「そりゃまあ。詳しくは覚えとらんが」 悠介 「その中の空界……早く言えばファンタジー世界に行って、     ドラゴンと戦ってくるって言ったんだよ。     でもって、当然ドラゴンと戦うとなると五体満足に帰れるかは解らない。     というより死ぬ確率の方が絶対に高いと思う」 中井出「……マジなのか?あ、会ったことは?」 悠介 「ある。ていうか倒した」 中井出「……お前って普通にスゴイのな」 感心されてしまった……。 しかも中井出を含めた原中の男子どもの俺を見る目が憧れの眼差しに……何故? 丘野 「ファンタジーか……男ならば一度は夢見る楽園だな……」 中村 「お、俺も行っていいか!?」 丘野 「あちきも!」 中井出「あたいも!」 田辺 「やきいも!」 悠介 「………」 ああ……何も知らなかった俺も、きっとこいつらと同じ顔してたんだろうなぁ……。 俺は遠い目でそんな原中の男どもを眺めたあとに庭に出た。 そこで首にぶら下げた黄竜珠をココンッと突付く。と───ヴァサァッ!!!! ディル「ギシャァアアアォオオオンッ!!!!」 全員 『キャアアアアーーーーーーーッ!!!!』 総員絶叫。 現れたディルゼイルはいい加減にしろとばかりに咆哮したのだ。 流石の原中の猛者どももその咆哮を耳にした途端、その場にヘタリ込んでしまった。 悠介 「あー、空界にはこういうヤツがゴロゴロ居る。     言っておくけど好奇心で勝てるほど生易しくないぞー。     それでも行きたいってヤツは立ち上がってディルに触れてみろ」 中井出「我らは全面的に前言を撤回するものとする!依存はないなッッ!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 素直な奴らだった。 ディル『王よ……確認などこれっきりにしてもらいたいのだが』 悠介 「悪い……地界のヤツらって頭カタくてな……」 中井出「あ、ち、ちなみにそちらのドラゴン……じゃないな、ワイバーン系かな……?     そちらのワイバーンさん、炎とか吹けますですかね……」 悠介 「ワイバーンだ。火も吹けるしレーザーも撃てる」 中井出「……で、なんだってお前はそんなワイバーンさんを出したんだ?やっぱ創造?」 悠介 「それを説明すると長くなるんだが……」 中井出「私は一向に構わんッッ!!そうだなお前ら!!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 悠介 「……はぁ」 結局出る溜め息……やっぱこんなもんだろう。 見知らぬ知識に対する興味と憧れを込めた視線がこうも多いと、 流石に応えないわけにはいかなかった。 ……とまあそんなこんなで説明したり騒いだりで時間は過ぎて─── あっと言う間に、翌日は訪れた。 【ケース06:晦悠介(極再)/夢精格闘家・藤巻十三の悪夢】 声 「ギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」 …………んぐ? 悠介 「くあ……あぁ〜あ……っと」 耳に届いた絶叫に目を開けた。 外はまだ少し暗さを残した景色……つまり早朝だ。 もう一度寝ようかとも考え、しばらくの間は布団の中のぬくもりにしがみついていた。 悠介 「………」 ───だが。 先ほど聞こえた声が気にかかったために、数分後にそれを断念。 布団から出て立ち上がると同時に消えてゆく眠気にサヨナラをして、俺は歩き始めた。 悠介 「ふむ……なんだろな」 まだ誰も起きてないんだろう。 母屋は酷く静かで、さっき聞こえた悲鳴がまるで幻聴であったかのように思わせる。 しかし耳に届いてしまったものは仕方が無い。 悠介 「誰だろうな。中井出達は昨日の内に帰ったし……」 となると彰利か? 確かに昨日はここに泊まっていったが……チャボッ……ざしゅざしゅ…… 悠介 「───?」 なにか聞こえた。 小さいが、確かに聞こえた……あれは水の音か? 悠介 「………」 気配を殺しながら動いた。 泥棒だったら成敗してくれようと思ったからだ。 悠介 (……庭の方からだ) 水の音は庭の方から聞こえていた。 俺はその庭へとゆっくりと近づき、そして─── 悠介 「………」 そして……あー……やっぱり呆れた。 悠介 「……藤巻十三」 彰利 「ひきっ!?」 ビククゥッ!と肩を跳ねらせて心底驚く彰利。 俺はそれを特に気にせずにただ哀れんだ。 彰利 「あ、い、いや……!やっ……!こ、これはっ……!!     そ、そう!寝汗をかいてしまいましてね!?だから決して藤巻十三などでは!!」 悠介 「『あの』お前がなぁ……まさか藤巻十三をしてしまう日が来るとはなぁ……」 彰利 「ち、違う!俺じゃない!!」 悠介 「どう見たってお前だろ。パンツだけ洗ってるのを見ちまったらもう、な」 彰利 「ゲ、ゲゲェエエーーーーッ!!!」 まだ薄暗い景色の中でも解るほど、今の彰利は顔が真っ赤だった。 どうやら見られたのがしこたま恥ずかしいらしい。 彰利 「違うんだぁ〜〜〜〜っ!!違うんだぁあ〜〜〜〜っ!!!     こんな筈じゃなかったんだぁああ〜〜〜〜っ!!!     オイラ……オイラ漢だった筈なのに……!!     男に成り下がっちまった所為でこんな初体験まで……ウグッ……ぐふおっ……!!     ぉおおぉぉぉおぉぉぉぉ……!!!」 悠介 「別に責めてるわけじゃないんだがな……」 しかし親友のこんな場面を見てしまうと、なんとコメントしていいやら……。 しかもこいつ、本気の本気で泣いてるし……。 そりゃなぁ……憧れてたものにもなれず、自分が嫌っていた感情が芽生えて、 更には今現在の目の前の脅威である藤巻十三に襲われりゃあ……泣きたくもなるわな。 悠介 「あー……その、なんだ。頑張れ?」 彰利 「ウッウッ……ど、どうかこのことはご内密に……」 悠介 「……すまん、多分手遅れ」 彰利 「え……?」 ルナ 「おはよーゆーすけー!!……ってあれ?なにやってんのホモっち」 彰利 「きやっ───きやぁあああーーーーーーっ!!!!     きゃーーーーっ!!!!きやぁああーーーーーーっ!!!!!」 ルナ 「わっ!ちょ、ちょっとうるさいよホモっち!今何時だと───」 ドタタタタタタ……!! 彰利 「キャッ───キャーーーッ!!?」 若葉 「何事ですか騒々しい!あのですね!泊まるのは勝手ですが───はぅっ!?」 木葉 「姉さん、目撃ドキュン」 水穂 「う……あ……」 セレス「あらまあ……」 夜華 「貴様、なにを……」 みさお「……?洗濯ですか?」 聖  「パパ?」 春菜 「アッくん……そんな……」 ゼノ 「…………堕ちたか」 彰利 「いっ……いやぁあああああ見ないでぇええーーーっ!!!!」 ……その日、彼は名実ともに……『漢』には戻れない『男』となった……。 ───ちなみにこの後、彼がとった行動といえば苦肉の策というか諸刃の剣で。 まあようするに彼はこう言ったのだ。歯をギシギシと噛み締めながら。 『ト、トトトトイレに間に合わんかったのです……』と。 そのお蔭で藤巻十三がバレることはなかったが、 彼は何か大切なものを少年の頃に置き去りにしてきてしまった老人のように、 静かに、もの悲しそうに遠くの空を眺めていた……。 Next Menu back