───FantasticFantasia-Set04/死と生と枯渇───
【ケース08:晦悠介/邂逅】 ……何かが焼けるような匂いがした。 目を開けて最初に感じたのは───いや。 その匂いを感じたからこそ目を覚ました。 ゆっくりと開いてゆく視界と、目の前に広がる景色。 自分は木々を薙ぎ倒した先で横倒れになっていて、 けれどそれほど外傷は見当たらなかった。 問題は───別にあった。 悠介 「っ、はっ……」 満足に───いや。 恐らく彰利とジークンを飛ばした創造が限界だった俺は、 創造の理力が使えなくなっていた。 滅茶苦茶な創造に加え、超越を凌駕した代償だろう。 特に無茶だったのが多数の光の武具の連続複製。 自分の中の『ルドラ』を探してみても、極微量の気配しかしない。 悠介 「………」 けれど体は動かせないわけじゃない。 比較的自由には動かせる。 だが……今考えるべきことはそんなことではないのだ。 自分がこうして生きていられる理由は別のところにあるのだから。 悠介 「……ディル……」 そう……ディルゼイルだ。 蒼竜王の巨大な口から光が放たれた刹那、ディルが俺を庇ってくれた。 それが無ければ俺は確実に死んでいただろう。 目を覚ました時に感じた匂いがなんだったのか、俺は最初から知っていたのかもしれない。 この……傍で横たわり、動かないディルゼイルを見る前に。 ディル『王、よ……───無事か……』 ボロボロだっていうのに、ディルゼイルは俺の心配をしていた。 体のあらゆる部分は消し殺されていて、 だがそれでも絶命に至らなかったのは……竜族の生命力の強さのお蔭だろうか。 しかしそれもいつまで保つか解らない。 もしかしたら数瞬先で死んでしまうのかもしれない。 悠介 「……すまない。自分の力量も把握出来ないなんて……王失格だな……」 だから俺はそう言った。 自分の力量不足で、俺を信頼してくれている存在を瀕死にまで追いやってしまったのだ。 そうならないために自分を鍛えた筈だったにも関わらず、だ。 ディル『馬鹿なことを……私がお前を【王】と認めた……。     失格だの合格だのなど関係ない……』 悠介 「ディル……」 回復してやりたいのにそれも出来ない。 理力が無ければなんて弱い存在なんだろう……俺は自分の在り方を呪った。 ディル『たわけ……自虐など無意味だ……。     王よ……お前はお前に出来ることをしたらいいのだ……』 悠介 「一番やってやりたいことも出来ないで、     それをほうっておいてする『出来ること』ってなんだよ……!     今の俺が願う『出来ること』なんて、お前の治療に決まってるだろうが……」 ディル『無理だ……。ここまで傷を負えば、いかに竜族といえど助からん……。     ……ああ、先に言っておこうか、王よ……。     短い間だったが……お前との旅は───     今までの、我が生涯の中でも最高に……楽しいものだった……』 悠介 「ディル……」 ディル『そんな顔をするな……【存在】には【死】があるものだ……。     その死を……王の生命と引き換えに出来るのならば……私は───』 悠介 「───!」 頭の中に落ちた撃鉄。 その先の言葉を言わせないために、俺は怒りとともに声を放っていた。 悠介 「ふざっけんな馬鹿野郎!!」 ディル『……王……?』 悠介 「死ぬのが本望だなんて言わせねぇぞ!!     お前は生きるんだ!絶対───絶対死なせたりなんかしねぇ!!」 そうだ……死なせたりなんかするもんか。 ディルゼイルが俺のために命をかけてくれたのなら、それに応えるべきだ。 絶対に死なせない。 俺はその意思を噛み砕いて心に刻み込むと、 飛翼や尻尾が無残に消滅してしまっているディルゼイルを全力を以って持ち上げた。 ディル『馬鹿な……!何をする気だ王!』 悠介 「うる、せぇ……!死の覚悟さえしちまった馬鹿な家臣に、     生きることの意味ってのを意地でも教えてやるだけだ……!!」 ディル『よせ……!人の力で私を運ぶなど───』 悠介 「うるせぇって……言ってんだよ!!     命と引き換えがどうとか簡単に言いやがって……!!     ああもう、どうして俺がこんな当たり前のことを言わなくちゃならないんだ!     いいか───どんなものにしたって、     命と引き換えに手に入れるものに素直に喜べるものなんてねぇんだよ!!     死んだヤツが満足なら残されたヤツが満足だとでも思ってるのか!?     だとしたらお前は馬鹿だ!!」 ディル『なっ───』 悠介 「家臣は王を信頼するものなんだろうが……!だったら今だけでも黙ってろ……!     くだらない問答で……せっかく残ってる命を削るんじゃねぇよ……!!」 ディル『王……』 幸か不幸か、創造の理力は使えないが死神の骨子は生きている。 それさえもなんの冗談なのか、 ディルゼイルの飛翼と尻尾が無いお蔭でなんとか運べる重量。 まったく……人生、何が幸になるのか不幸になるのか解らない。 悠介 「く、う……あ……!!」 それでもやっぱり、それは『なんとか運べる』というものなのだ。 歩くたびに足が地面にめり込み、体中がミシミシと軋んでゆく。 ……だが置いていったりなどしない。 絶対に助けてみせる……決めたことは絶対に守る。 何か方法がある筈だ───なにか…… 悠介 「……あ───そうだ、送話───」 リヴァイアに貰った式があった。 俺はすぐに彰利にトランスを送ったが───なんの反応も無い。 それはリヴァイアも同様だった。 悠介 「……どうなってるんだ……?」 ディル『ここは……迷いの森だ……。式や魔導術の一切は遮断させる……』 悠介 「お、おい!喋るなって……!」 ディル『なに……フフ、見ておれんのだ王よ……。     まったく不思議な男だ、お前は……。     人など、下に就く者を道具としてしか扱わぬと聞き及んでいたが……』 悠介 「……怒るぞ。俺はお前の言うような『道具』を信頼したりなんかしないし、     そんなクズ野郎と一緒にされるのもごめんだ」 ディル『ああ……解っている、王よ……。     そんなお前だからこそ……私は楽しめているのだからな……』 悠介 「もう喋るな。絶対に生きないと許さないぞ……」 ディル『フフ……今までで一番難しい頼みごとだな……』 悠介 「難しくてもやるんだ……絶対だぞ」 ディル『そう、だな……。私もまだ……お前とこの世界を旅したい……』 ディルの声がどんどんと弱くなってゆく。 それを感じると、歩いていることさえももどかしくなって駆け出した。 ディル『王……よせ……。もう無駄だ……』 悠介 「うるせぇ……うるせぇうるせぇうるせぇ!!     助けるって決めた……!絶対に助けるんだっ!!」 ディル『……ククッ……王よ……お前は威厳があるのか子供っぽいのか……』 悠介 「喋るなっていっただろ!」 駆ける。 駆ける駆ける。 走っているためか一歩の度に足の筋がメキメキと軋み、 その一歩が回を増すごとに激痛へと変わってゆく。 だがそれがなんだというのだろう。 信頼した者の生命に比べれば、こんなものは些事でしかない。 それなのに俺の足は自分の意思とは関係無しに動かなくなってゆく。 悠介 「はっ……く、ああ……!!くそっ……!走れ……走れよ……っ!!」 やがて走ることが出来なくなった自分の両脚を嘆いた。 それでも歩みだけは止めない。 この森を抜けるんだ……抜ければ彰利を呼べる。 彰利が居ればこれくらいの傷、きっと治せる。 だから───ああ……だから…… 悠介 「動け……頼む……動いて……くれよぉ……!!」 いつしか動くことすら出来なくなった足を見て涙した。 足の筋の断裂、骨の軋み……それがなんだというのだ。 今の痛みなどよりも先にあるこいつとの旅を望みたいのに。 どうしてこの足は、もう一歩も動こうとしないのか。 ディル『……もういい、王よ……。十分だ……』 悠介 「十分なもんかっ!!俺は───俺はまだ……!!」 一歩も動かない筈の足───それを強引に動かす。 本当に少しずつ。 ズズ、と動く程度の……道を歩む蟻の方がまだ速いと思うくらいの速度で。 それでもこの森から出ればディルゼイルが助かることを信じて、俺は進んだ。 ディル『王……』 悠介 「喋るな……!絶対、絶対助けてやるから……!!     またこの世界の空を一緒に飛ぶんだ……!     デカい敵と戦えっていうならいくらでもやってやるから……!     知識が足りないっていうなら頑張ってつけるから……!」 ディル『……人は……人の中には……竜族のために泣ける者が……居るのだな……』 悠介 「喋るなったら……!助けるんだ……絶対に……!」 ディル『ああ……不思議なものだな……。かつてはあんなにも憎んでいた人の傍ら……     人の腕に支えられながら目を閉じることに……こんなにも暖かみを感じる……』 悠介 「っ……く、ぁああああっ!!!」 目を閉じる、と聞いた途端……俺の中で何かが爆発した。 動かなかった足が動き、走ることは出来なかったが歩くことには至れた。 大丈夫……きっと大丈夫だ。 俺ならまだ歩けるから……だから……だから……! 悠介 「……ディル……?」 だから……この腕に伝わっていた鼓動が無くなったことが嘘だって……言ってくれ。 悠介 「……ディル?」 頑張って持ち上げていた首が地面に力なく倒れた音が嘘だって言ってくれ……。 悠介 「ディル……」 俺の腕から落ちてしまった体に生命が感じられないことが嘘だって……言ってくれよ……! 悠介 「───嘘だ……」 足が支えを失ったかのように崩れた。 ディルを支えていたからこそズタズタになった筈の足が、 ディルが俺の腕から落ちた刹那に倒れた。 解らない、解らない。 どうして……どうして───! 悠介 「嘘だよな……?なんかの冗談で……」 呼吸をしない竜族の死体。 目の前に倒れている、一緒に旅をした飛竜。 削り殺された飛翼と尻尾の部分からは血が流れていて、 それを支えていた俺の体はいつの間にか血だらけで…… けれどそれに嫌悪感も覚えず、ただ……涙した。 嗚咽が森の中に虚しく響き、 どうしてこんなことになってしまったのかを思考する中で─── やっぱり自分の判断が間違っていたことに気づいて、さらに自分を責めた。 最初の思考の通り、 ベヒーモスとは戦わずに逃げていればこんなことにはならなかったのだ。 これが自分の判断のミスじゃなくてなんだ? 自分を信頼してくれた存在を失って、自分はこうして生きている。 ……いつだってそうだ。 俺は他人に助けられてばっかりで、彰利にしたってディルゼイルにしたって変わらない。 いつも俺が残されて、助けてくれたヤツは死んじまう。 これじゃあ俺はどうやって恩を返したらいいんだよ……。 死んじまったら……なにもしてやれないだろうが……。 声  『───人の子よ』 ───ふと、声が聞こえた。 聴覚ではなく、頭の中に直接響く声が。 声  『竜族のために涙する、心清き人の子よ……』 悠介 「っ……だ、誰だ……!?」 声  『怖れることはない……。私はお前に問いたいだけだ……。     人の子よ……お前はその飛竜を助けたいか……?』 聞こえる声。 俺はその質問に迷うことなく頷き、『助けることが出来るのなら』と答えた。 声  『それが、己の生涯を確実に変動させると知ってもか?』 悠介 「助けるって誓った……!こいつが俺のために命を賭けたなら俺だってそうする!」 声  『……よろしい』 理解の言葉が聞こえた途端、見えていた景色が瞬時に変わった。 周りにある景色こそ森だが、 俺が立っている場所は綺麗に広がる森に囲まれた草原。 その広い草原の中心に───枯れてはいるが巨大な大木と、 それを囲むようにして泉のようなものが存在していた。 声  『人の子よ……』 悠介 「っ!?」 聞こえた声は後ろから。 振り向くと、そこに大木よりも大きい緑色のドラゴンが居た。 悠介 「───っ……」 緑竜 『落ち着くのだ。危害は加えない』 悠介 「……───」 不思議なものだった。 緑竜が『危害を加えない』と言うと、俺の体はそれを簡単に信じてしまった。 ……そうか。 この緑竜の目、嘘をつくような腐った目をしてないんだ。 緑竜 『我が名は緑竜王グルグリーズ。空界の西を守る竜王だ』 悠介 「緑竜王……お前が……」 緑竜王『そういうお前はシュバルドラインを破った現在の東の王だな?』 悠介 「………」 緑竜王『胸を張れ。シュバルドラインが堕とされていたとはいえ、     お前がシュバルトラインと全力を以って戦い、勝ったことは事実だ。     お前がそれを誇らぬのであれば、シュバルドラインは無駄死にだろう。     私には、お前がそれを知らぬほどのくだらん人の子には見えない』 悠介 「……ああ」 緑竜はゆっくりと口の端を歪ませると、俺の目を真っ直ぐに見る。 そこに来てようやく気づいた。 この緑竜は、俺が人間だからって見下した態度は取らない。 それがきっと、この緑竜の言葉を信じることの出来る理由なんだろう。 悠介 「な、なあ……ディルを助けることが出来るって……」 緑竜王『可能だ。あの泉の中心にある大木の下でならばな』 悠介 「大木の……?」 訊きながら大木を見る。 淡い緑色の光を発している泉と大木は、なんだか神々の泉を思わせた。 緑竜王『人に神々の泉があるのように、我らにもそういったものがある。     それがあの大木だ。     お前があの泉を渡り、その飛竜を運ぶことが出来るのであれば、     飛竜は必ず助かるだろう』 悠介 「───!だったら───」 迷うことなんかなかった。 俺は俺と一緒に転移されてきたらしいディルゼイルをもう一度持ち上げようとして─── 悠介 「ツッ───!?」 自分の足が完全に使い物にならなくなっていたことを思い出した。 悠介 「くっそ……!動けよ……!」 緑竜王『その足では無理だな。どれ───』 悠介 「え……?」 緑竜が翼を広げ、俺の体を直視した。 するとどうだろう…… あれほどまでにズタズタだった手足や骨や筋に至る全てが治ってゆくじゃないか。 これがこの緑竜王の能力……? 緑竜王『お前の覚悟を見せてもらう。私はその準備をしたまでだ』 悠介 「準備───?」 疑問が残ったが、それすらももどかしくてディルゼイルを持ち上げた。 やがて走り───泉の傍まで行くと、感覚としての本能か……足を止めた。 緑竜王『気づいたか?その泉にあるものは水ではない……千年の寿命だ。     それも人間が受け入れるための加工が為されていないものだ。     それは人にとっては毒でしかない』 悠介 「っ……!」 緑竜王『言っただろう、覚悟を見せてもらうと。     竜族のために涙することの出来るお前だが、     そこに己の命が真に賭けられた時───お前はどうする』 緑竜はそう俺に問い詰めた。 当然だ、誰だってきっと自分が一番可愛い。 他人のために命を投げ出しちまうヤツはよっぽどの馬鹿だ、きっと長生きなんて出来ない。 だから─── 悠介 「───決まってるさ。それが毒でも俺は行く───!!」 だからきっと、俺は長生きなんか出来やしない。 この千年の寿命によって寿命が千年延ばされようが、毒となって俺の体を蝕もうが─── こんな馬鹿はきっと長生きしない。 悠介 「が、あ……うが、あぁああああああっ!!!!」 勢いよく沈めた足からジュウウ、という音が鳴る。 だが立ち止まることなく進みゆく。 どんどんと体が沈み、その度に焼けるような痛みが箇所を増やす。 千年の寿命が溜まる泉は俺の首下までの深さで、 つまり俺は首から下を毒に蝕まれながら進んでいる状態だった。 緑色の光は絶やすことなく俺の体を焼くように付着し、 そのあまりの激痛に思わず前進を止めてしまった。 緑竜王『そこまでか?知らぬだろうから教えてやるが、その飛竜はまだ生きているぞ。     生きている内に至らねばどうなるか、知らぬブレイバーではないだろう』 悠介 「───!!」 その言葉が再び前進を促した。 ……そうだった。 この世界では、死んだ存在はどうなってた? リザードマンにしろミノタウロスにしろ───同じ竜族のシュバルドラインにしろ、 絶命に至れば『塵となって消えた』のだ。 ならば塵になっていないディルゼイルは……緑竜の言うとおりまだ生きているということ。 悠介 「ぐぅうう……あぁあああああっ!!!!!」 迷わず前進した。 首から下の部分がジュウジュウと焼け、煙まで上がる中で…… 俺はそれでも前へ前へと進んだ。 痛みは次から次へと叩き込まれ、その度に痛みが増してゆく。 気が狂いそうになる状況の中、 しかし俺の中にあるものは一刻も早い自分の救済などではなく、 一刻も早い信頼した者の救済だった。 自覚してる。 やっぱり俺は馬鹿なんだと。 けど、仕方ない。 俺はそんな自分の生き方や、 彰利やこいつの生き方も真剣に怒ってやれるくらい好きなんだから。 悠介 「……!……、……!!」 ……やがて。 大木の傍まで辿り着き、俺はその陸に上がると同時に倒れた。 首から下は真実焼け爛れたかのように変色し、今尚ブスブスと煙を上げていた。 それでも立ち上がるともう一度ディルゼイルを持ち上げ、大木の幹までの距離を歩いた。 悠介 「かはっ……!ア、ぐ───!!」 そこにディルゼイルをゆっくりと下ろし、今度こそ俺は倒れた。 ───その時。 声  『……お前の覚悟、見せてもらった。     よもや人間の中に己の命さえ厭わずに竜族のためを願える者が居たとはな』 再び頭の中に響いた声に、向こう岸をゆっくりと見た。 だがそこに緑竜王はおらず、何処か───と探した時。 枯れた大木の上に存在する緑竜王の姿を視界に留めた。 緑竜王『約束だ。お前の覚悟と在り方を認めよう。飛竜とお前の治療を開始する』 緑竜は大きく翼を広げると咆哮し、体を淡く輝かせた。 その色はまるで、泉を埋め尽くす千年の寿命のようだった。 やがてその光が翼のはためきとともに放たれた時───俺の体の傷は完全に消えていた。 ディルゼイルの傷も完全に塞がり、消された部分も完全に再生し─── 以前のディルゼイルそのままの姿へと戻った。 悠介 「は───はは……」 よかった。 心の底から安堵をして息を吐いた。 すると、そうしようと思ったわけでもないのに体から全ての力が抜けていき─── 気づく間も無く、俺は意識を失った。 【ケース08:弦月彰利/コロがすリストNo.1=馬鹿キング】 ───……。 彰利 「それはぁ〜、お江戸だったぁ〜♪怪しい〜お江戸だったぁ〜♪     ゆ〜ぅやっみを〜ぅお江戸〜に変〜えて〜……歌詞思い出せん」 リヴァ「来たと思ったらいきなりそれか……どうしたんだいったい」 えー、現在リヴァイア工房です。 ただいまのワタクシ、とても落ち着いております。 だって生きてるって信じてますし。 でもこげなこと考えてる時点で結構動揺してるんだと思います。 だから歌って誤魔化したのです。本当です。 彰利 「すみれセプテンバーラブはカブキロックスが歌ってなんぼだと思うんですよ。     あと『WAになっておどろう!〜イレアイエ〜』はアガルタに」 リヴァ「……用は無いのか?」 彰利 「グウ……必死に落ち着こうとしてる俺の男意気も汲んでやってください」 リヴァ「そう言われたって知るもんか。わたしだって対処に困ってるんだぞ」 彰利 「う〜ぬ……」 そらそうかも。 本題をパパッと出したほうがいうのでせうか。 彰利 「えーとですね?悠介が蒼竜王に襲われました」 リヴァ「───……そうか」 彰利 「……あれ?」 リヴァイアの反応は『解っていた』って感じのものだった。 おかしいと思って問い詰めてみれば、あっさりと『知っていた』って言葉。 おいおいおい……どうなってんのこれ。 彰利 「リヴァイア、そりゃどういうこった?     まるで最初っからこうなるって解ってたみたいじゃねぇの」 リヴァ「それは間違いだ検察官。     最初から、じゃない。わたしが知ったのはさっき通信をした時だ」 彰利 「……詳しく教えてもらえるかね?」 リヴァ「ああ。隠すことでもない」 リヴァイアが用意した椅子に座ると、早速経緯を聞こうと構えた。 やがて語られたものとは─── ……。 彰利 「……コロがそうか、そいつ」 話を聞いて俺はキレかけた。 いや、冷静なように振舞ってはいるが……実際はもうキレてるのかもしれない。 リヴァ「だ、だめだ、落ち着いてくれ検察官……!     あいつに手出しをされればゼロが……!」 リヴァイアが俺を止める。 俺はそれに促されるように怒りを沈めようとするが……はっきり言って難しい。 ───リヴァイアが言うには、あの場所に蒼竜王が現れたのは馬鹿キングが原因らしい。 『私たちには黄竜王を倒した勇者が居る。  蒼竜王といえど同じ末路に辿り着くだけだ』と空界中に広めるように公言したのだ。 当然誇り高い竜族が人間ごときに甞められっぱなしなわけがない。 そこで蒼竜王は悠介のもとへと現れ、力を試すように一撃を放った。 だが悠介は力も満足に使えない状態だった……それで─── 彰利 「っ……!!」 ……正直それを聞いた瞬間、体全体に冷たい何かが通り過ぎた。 恐らくは『殺気』の類。 そいつを視認した瞬間、 八つ裂き以上に無残な殺し方を平気でする自分が簡単に想像できた。 リヴァ「悠介は……どうなったんだ?」 彰利 「そんなのっ!!……くっ……そんなの……俺の方こそ聞きたいよ……」 リヴァ「………」 息を吐き、そして吸う。 その行為を何度も繰り返し、せめて怒りまかせに怒鳴ることをやめようと努める。 悪いのは馬鹿キングだ……リヴァイアじゃない。 そう言い聞かせて───ようやく心を落ち着かせた。 彰利 「……悠介がどうなったのかは知らない。でも……俺は生きてるって信じてる。     だから、な……リヴァイア。     あいつが無事で、馬鹿キングから水晶を奪うことが出来たら……     馬鹿キングに相応の地獄を見せてやってほしい。     お前が出来ないんだったら俺がやるまでだ」 リヴァ「……せっかくだけどあいつの死刑だけは誰にも譲ることは出来ない。     そこだけは安心してほしい。あいつを許すつもりなんてさらさらない」 彰利 「………」 その言葉を聞くと少しは落ち着けた。 ───許されるものじゃない。 あの馬鹿キングの勝手で他人任せな勝利宣言の所為で悠介は……! リヴァ「落ち着け、検察官。怒りは我を見失うことに繋がるぞ」 彰利 「……大丈夫。怒りすぎて逆に冷えた」 馬鹿キングを見つけた瞬間、殺さないようにするのは骨が折れそうではあるが。 彰利 「……リヴァイア。突撃の頃合に変動はあるか?」 リヴァ「少し怪しそうだ。既に準備は整っている分、     兵や民たちが怖気づく前に出た方がいいのではという声も出ている」 彰利 「そか……それじゃあその時は───」 リヴァ「ああ。悠介無しでの戦いになりそうだ」 彰利 「………」 勝てるんだろうか。 ベヒーモスにさえ傷をつけるのがやっとだった俺が協力したくらいで。 やってみなくちゃ解らないとはいえ───いいや。 あいつは抵抗出来ない悠介に向かって試すような波動を浴びせやがったんだ。 死んだなんて思わないけど、それでもひどいダメージの筈だ。 ……そうだ。 今、ドラゴンと戦う理由が出来た。 俺にとっては最大って言ってもいいくらいの理由だ。 あいつは───あいつは俺の親友を傷つけた。 彰利 「……変動があったら教えてくれ。俺、ちょっと深いところまで考えてみる」 返事を聞く前に工房をあとにする。 空界へ降りて、雄大に広がる自然風景に身を倒して、ただゆっくりと目を閉じた。 彰利 「……いいさ。勝てないかもしれないなら、せめて一泡吹かせてやる」 ベヒーモスのように目を潰すだけでもいい。 角を捻り折るのもいいだろう。 打倒できないなら傷のひとつでもつけてやらなきゃ気が済まない。 彰利 「やってやる。もう───無様に怖れるようなことがないように……!」 そうならないように───俺は心を落ち着かせるように目を閉じて集中を始めた。 【ケース09:晦悠介/癒しの枯渇】 ───……目を覚ました時、最初に自分を襲ったのは罵倒だった。 罵倒、というか説教というか。 どうやら大木からは離れたらしく、俺は泉の外側の草原に倒れていた。 ディル『まったくお前は底なしの馬鹿者だな王よ。     家臣のために命を捨てようとするその思考、もはや度し難い』 悠介 「───……あー……その言葉そのままそっくりお見舞いするぞディル。     王のためだからって命を捨てようとするその思考、実に度し難い」 ディル『真似をするな、子供かお前は』 悠介 「やかぁしい、怒ってるんだからな俺は───いつっ……!」 ディル『───王?』 次に襲ったのが体の痛み。 不快感というものはあまりないし、痛みも強いものじゃない。 痛みの原因の予想は……まあなんとなくだけどついてる。 ようするに俺、晦悠介は─── 緑竜王『寿命からしてあと千年は死ねぬ体となったな』 ……そういうことだ。 あの泉にある千年の寿命が人が受け入れるための加工を施されていないものだとするなら、 死神であり人間ではない俺は……それを体に吸収してしまったのだ。 つまり『焼けた部分』が人間であり、『焼けながらも進めた理由』が死神にある。 あんなもの、普通の人間が入ったら一歩進んで即死だ。 運良く一歩目で死ななかったにせよ、精神異常は確実だろう。 緑竜王『一歩目で退く程度の人間ならばどちらにせよ死んでいた。     言った通り、人間よ。お前の覚悟次第でどうとでもなったものなのだ』 悠介 「………」 緑竜王『どちらにせよしばらくは動かぬことだな。     今ここで無茶をすれば、その状態が寿命とともに定着することになるだろう。     見るに、今のお前は本調子ではなさそうだ』 悠介 「……大正解。肝心な能力が使えない状態だ。     神々の泉に行けば治るとは思うけど……」 緑竜王『その体では無理だな。休むのならこの森で休んでいくといい。     神々の泉ほどではないが、少しは治癒の力が働いている』 『もっとも、それはあの大木が生きている内だがな』と続ける緑竜に、 ふい、と泉の中心にある大木を眺めた。 それは……最初に見た時と同じように枯れていた。 緑竜王『あれはこの世界の【癒し】を担う大木だ。     この世界に生きる生物は皆、あの木によって傷の癒しを速めている』 悠介 「そうなのか……?あんな枯れ木が……」 緑竜王『最初から枯れ木だったわけではない。     かつて人間があの木を竜族の生命の源だと勘違いしたのがそもそもの発端。     竜王ともあろうものが一本の木を守っていることに疑問を抱いたのだろうな。     人間どもはこの大木と根が繋がっている別の樹にあらゆる弱体魔導を流し、     あの樹を枯れさせてしまったのだ』 悠介 「───……」 あの樹……?千年の寿命に関係あって、大きい樹っていったら─── 悠介 「───加齢樹」 緑竜王『その通りだ。人は自らあの樹を滅ぼそうとし、自ら後悔を抱いた。     当然だ。今まで癒しをもたらしていたものを崩したのだ。     モンスターどもと戦っていたブレイバーは、     今まで助かっていた傷を癒すこともままならずに息絶えていった』 悠介 「自業自得だな……」 緑竜王『しかしその影響が現れたのはなにも人間だけではない。     我ら竜族にもそれは及び、我らは子孫を残す術を失ったのだ』 悠介 「子孫を……?」 緑竜王『こう見えて、竜族の子は脆い。     竜族が縄張りとして決める場所は、何処も人が寄り付かない場所だ。     故にそれだけのリスクがあり、竜族も産まれた時から強いわけではない。     卵を食らうモンスターや、子を喰らおうとするモンスターも居る』 悠介 「………」 緑竜王『竜族を食らうモンスターなど想像がつかぬか?     ならば問おうか。その相手がベヒーモスなどの超獣だったならどうだ?     想像に容易いと思うのだがな』 ……ベヒーモス。 聞いた途端、あいつならば竜族の子供くらい簡単に食えるだろうと思えた。 悠介 「つまり……モンスターに襲われても癒しがあったから今までは生きられた……?」 緑竜王『いいや。癒しがあったとしても生き残る者は唯一程度なのだ。     竜族は子を守ったりはしない。産まれし頃より強くあれと願うが故だ』 悠介 「……そっか。あ……じゃあ今、この世界には子供の竜族は───」 緑竜王『存在しない。癒しが薄れた今、ブレイバーの数も減り───     モンスターはその数を増やすばかりだ。私から言わせてもらえばな、人間よ。     今は竜族と人間とが争っている場合ではないのだ』 悠介 「そうかもしれない。     けど、俺は別に蒼竜王に狙われるようなことをした覚えはないぞ?     それをいきなりドカンだ。売られた喧嘩は買うべきだろ」 ディル『晃、という男との対峙時、売られた喧嘩を買おうとしなかったのは誰だ?』 悠介 「こんな時に細かいツッコミはやめような、ディル」 まいったもんだ……ほんとこいつって俺に似てる。 からかわれた時の彰利の気持ちが少しだけ解った気分だ。 ……ツッコミ入れたら入れたで、さっさと黄竜珠の中に入っちまったし。 緑竜王『先に突撃を企てたのは人間たちであり、お前も参加するのだろう。     ならばその時点でいつ攻撃をされてもおかしくはないのではないか?』 悠介 「……そりゃそうだけどな」 それにしたっていきなりはないだろう、いきなりは。 緑竜王『ともあれ、その飛竜を殺したくなければ今はまだ飛ばぬことだ。     治癒は完了したが、飛べば再生させた部分が崩れるだろう』 悠介 「……それも、この世界の癒しが少ない所為か?」 緑竜王『お前らの回復のために力を使ってしまったからな。     これ以上は保証出来るものでもない』 つまり……次にディルゼイルがあんな状態になったら、 俺の力が回復してるか回復出来る誰かが居ない限り─── ディルゼイルは助からないってことか? ……そんなのは嫌だ。 だったら───休むしかないわけか。 悠介 「解った、休むよ。……ああ、休むのはいい。     けど、治療の効果が体に完全に馴染むのっていつ頃だ?」 緑竜王『風切りの刻……ああ、地界の言い方で一週間ほど先だろうな』 悠介 「いっ……!?ちょ、ちょっと待て、それは困る。     明日の昼頃には突撃指令が出されるんだ。     こんなところで休んでるわけにはいかない」 緑竜王『動けば突撃するまでもなく崩れるだけだ。     突撃したところで、あの人間どもに勝ち目は無いだろう』 悠介 「だからマズイんだって!突撃するやつらの中に俺の親友が居るんだ!     見過ごすことなんて出来ないんだよ!」 緑竜王『………』 緑竜は俺をひと睨みすると、呆れたかのように息を吐いた。 その次の瞬間には俺をこの草原に運んだ時と同じ要領で景色を変えて、 いつの間にか俺は元の迷いの森に立たされていた。 声  『その場より西へ向かえ。なにがあろうとも西へだ。     何も出来ないのが辛いのならば、せめてそこで己に出来ることを探してみろ』 悠介 「……出来ること?」 声を返しても、声はそれを最後に聞こえなくなってしまった。 ……とにかく行け、ということらしい。 どうして竜王の一角が俺に助言してくれるのかは解らない。 けど、人がそうであるように、 竜族にもとっつきやすいヤツとそうでないヤツが居るんだろう。 俺は小さく苦笑を漏らしたあと、素直に頭を下げてから歩きだした。 歩き出したけど…… 悠介 「……西ってどっちだ?」 ……いきなり前途多難だった。 Next Menu back