───FantasticFantasia-Set05/届かぬ夢の剣───
【ケース09:ジークン/すったもんだカーニバル】 ザポリ……ゴポリ……バシャッ…… ジークン「お、おのれ……我は死なん……ぞ……」 幾度となく死に、蘇っては泉の底を歩き……ようやく陸にあがった。 死を体感したその数、実に27。 我……もう死なんて怖くねェザマス。 ジークン「さて……出たところで水を汲んで───入れ物が無ェザマス」 THE・後悔。 我は今一度集落へ戻り、再び泉へ転移しガボシャアァアーーーンッッ!!! ジークン「ギョォオオオーーーーーッ!!!!」 再び座標を間違えてダイヴ……もう泣きたかった。 ───……。 ……ザポリ……バシャリ…… ジークン「おおぉ、ぉおっ……おぉおお……」 死亡回数が倍になったところでようやく脱出。 血反吐を吐きたいところだが、我の口から出るのは神々の泉の水ばかりだった。 さすがにこれで麦茶を作るわけにもいかず、我は散々吐いたあとに泉の水を汲んだ。 ジークン「ウィ、水はこれでOKザマス。あとは集落に戻ってと───」 次元転移を実行して集落へ。 ───集落に着くと、エルフ族に頂いたエルフェム鉱石で作られたヤカンで水を沸かす。 ジークン「……沸くまでが暇なんザマスよねー」 その間に豆の下ごしらえでもしてますかのぅ。 ───……。 …………。 ドクン……ドクン……ドクン……ドクン…… ジークン「───!!」(ギラリ!!) ツパァンッ!! ジークン「───ホァアッ!!」 温度調整、麦茶の染まり具合───全て完璧!! 我は目を輝かせると火の上からヤカンをどけた。 ジークン「ウィ!あとはこれを自然に冷めるまで待てば完璧ぞ!」 …………冷めるまでが暇なんザマスよねぇ……。 まあいいザマス、冷めたらモミアゲのところに届けに行くザマスよ。 それまではのんびりと寝るとしよう。 【ケース10:晦悠介/人里離れた森の中】 ───ザッ……。 木  「ギャーーーッ!!!」 花  「ギャッ!!ギャーーーーッ!!!」 悠介 「……はぁ」 ディルに教えてもらった西の方角へととにかく歩いた。 歩いて歩いて、何があっても歩きまくった。 するとどうだろう、森の木々や草などが逃げること逃げること。 どうやら木々に扮していたモンスターでも居たらしい。 そりゃ、ファンタジーなら木の形をしたモンスターも居るだろうけど…… 悠介 「物凄く複雑だ……木と草花に逃げられる瞬間って……」 ともあれ面倒にならずに進めるのはありがたい。 俺はそのまま西へと歩き、やがて開けた場所に出ると……唖然とした。 悠介 「村……?」 そう、村だ。 いや、村というよりは集落と言った方がいいかもしれない。 どちらにしても迷いの森の中などに作るのはどうかと思うが。 悠介 「………」 だが俺は迷わず歩いた。 『何があっても西へ』と言われたのだから仕方ない。 ここが終着だろうがなんだろうがそんなものは知らん。 ???「……?こりゃあ珍しい……客人か……」 ズンズンズンズン…… ???「何処から来たのかは知らん。じゃが……ゆっくりしていくといい」 ズンズンズンズン…… ???「……?な、なんじゃな?ワシになにか」 ドゲシッ! ???「ウムオォッ!?」 ズンズングシャッ!ゴリリッ!ゴリャッ!ズンズンズンズン……!! ???「ウムォオオオーーーーーッ!!!!」 なにやら背の小さい何かがぶつかり、 倒れたソレを踏んだような気もするが無視して歩いた。 西だ───とにかく西だ。 ?? 「あ、あなた!長老になんていうことを!」 ???「落ち着けいレラ!ワシならばこの通りピンピンしておる!!」 レラ 「け、けれど長老……」 ???「そればかりか踏まれた拍子に腰痛と肩凝りが無くなったわい!     これは礼をせねばなるまい!     そこのモミアゲ殿!ゆっくりしていきなされ!」 悠介 「モミアゲ言うなっ!!───うん?」 モミアゲという言葉に反応して振り向いてみれば─── 明らかに人間とは違った存在がそこに居た。 言うなればこれは…… レラ 「……失礼しました。まさか長老の悩みを改善するための行為だったなんて」 ……エルフ、だな。 ドワーフも居るようだ。 悠介 「ここって……」 レラ 「ここですか?ここは亜人の里です。     エルフとドワーフが共存して暮らしています」 悠介 「エルフとドワーフが?     ……エルフとドワーフって大体他の種族と仲が悪いんじゃなかったっけ」 長老 「うむ……しかしそんなことは納得出来ないと思い、     揃って種族の中から外れたのが我らじゃ。     今もドワーフは何処かの地底に、エルフは何処かの森に居ることじゃろう」 レラ 「私たちは不仲の両種族に疑問を抱いていました。     こうして仲良く共存も出来るというのに、何故仲違いする必要があるのかと」 長老 「譲れぬものもそれはあるじゃろうが……     こうして共存した方が違った知識も得られるもんじゃ」 悠介 「当たり前だろそれは……」 レラ 「エルフの長はドワーフは知能レベルが低いとか仰ってました。     けれどとんでもない。私たちは確かに知識が高いですが、     こと鉱石や錬成、ブラックスミスのことにかかれば     私たちの知識などドワーフには及びません」 レラ、と呼ばれたエルフは苦笑するように笑って言う。 それを聞いた長老……ドワーフは、長い髭をワサワサと触りながら言う。 長老 「なんのなんの、エルフの技術にも毎度驚かされてばかりよ。     魔術や式、弓術を扱わせたら右に出るものなどとてもとても」 ……どうやらこの集落に居る者たちは互いを認め合っているらしい。 だからこそ仲違いなどせず、得手不得手を心得て共存している。 うん、こういうやつらは好きだ。 戒律ばっかり守って仲違いするよりはよっぽどいい。 長老 「ところで客人よ、この集落にいったい何の用かな?     見たところ、地界人のようじゃが……」 レラ 「人間が……それも地界人がここに来るなんて初めてですね。     迷いに迷った挙句ですか?」 悠介 「あ……いや。     実は緑竜王に言われてまっすぐこっちに歩いてたらここに辿り着いた」 長老 「グルグリーズの仕業か。     あのやんちゃ王め、また『なにがあっても』歩けなどと言ったんじゃろ」 悠介 「当たりだけど……やんちゃ王って?」 長老 「知らぬ仲ではないのでな。かつてはともに癒しの大樹を守った者同士じゃ」 悠介 「じいさんが?」 レラ 「こう見えても長老は空界の名工だったのですよ。     自分で()
った武具で人間と戦っていました」 長老 「奮戦も虚しく、木を枯れさせてしまったがの……」 フガフガと髭を触りながら笑う長老。 ふと気になったんだが───この集落にはこのふたりしか居ないのか? 悠介 「ここにはあんたたちふたりしか居ないのか?」 レラ 「あ、いえ。その……わ、私の恋人が居るんです。ドワーフなんですけど」 悠介 「ドワーフとエルフの恋仲か……」 そりゃ、それぞれの種族の中には混ざれないわなぁ。 レラ 「もちろん同じ種族の仲間達には散々否定されました。     けれど私たちは愛し合っているんです。だからここに移住したんです。     ここならば誰にも邪魔されずに愛し合えるから……」 悠介 「なるほど……ああいや、ノロケ話はそれくらいにして、     ここで出来ることを聞きたいんだけど」 レラ 「あ───うわっ……す、すすすすいません!私、客人に……!」 長老 「若いのはいいものじゃのう」 悠介 「まったくだな……」 レラ 「う、うううう……!!」 レラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。 初々しいというかなんというか…… 長老 「ここで出来ること、か。ここでは……そうじゃな。     エルフとドワーフが出来ることならなんでも出来るぞ。     ワシもまだまだ衰えておらんし、レラはエルフの長の元右腕じゃ」 レラ 「ちょ、長老っ!」 長老 「じゃから大体のことは出来るぞ。     材料があるなら武器を作ってやってもいいし、     魔導術や式や魔術を覚えたいならレラに言えばよいじゃろ。     もっとも、魔導術や式は千年の寿命が無ければ使うことなど出来んがの」 悠介 「───……」 ……なるほど、自分に出来ること、ね─── 悠介 「解った。それじゃあしばらく厄介になっていいか?」 長老 「うむうむ好きにせい。どうせ人が寄らねば静かすぎる集落じゃ、     愛し合うふたりが居るとワシひとりじゃ寂しくての」 レラ 「長老!!」 長老 「よいわよいわ、照れるな照れるな」 レラ 「うぅううう……!!」 レラってこういうからかいごとには慣れていないらしい。 かくいう俺もこういう話は苦手な部類だ。 そういう場面に直面した彰利をからかうのは好きなんだが。 悠介 「じゃ、まず武器からだけど……」 長老 「ほほっ、流石は男じゃ。武器に興味があるのかの?」 悠介 「ああ。今ちょっと武器が無いから欲しいんだ」 長老 「よいじゃろう、言った通り材料さえあれば作ってやれるぞい。     どんなものがよいかの」 悠介 「無茶言っていいかな。───ドラゴンの鱗も斬れるくらいのもの」 長老 「───」 言った途端、長老の目がギラリと光った。 長老 「お主……ブレイバーか?」 悠介 「一応。ほら」 首に下げてはいたが、黒衣の中に隠れていたランクライセンスプレートを見せる。 と─── レラ 「ドッ……ドドドドラゴンビーストブレイバー……!?」 長老 「こ、こりゃあ……たまげた……。     お主……まさかドラゴンとベヒーモスを倒してみせたのか……?」 悠介 「あー……まあその、なんとか。お蔭で今、能力が使えない状態なわけだが……」 長老 「お主……そこまで出来るのなら武器なぞ要らんのではないかの」 悠介 「そういうわけにはいかないんだって。言っただろ、能力が使えないって。     今までは創造してたけど、今はそれさえ出来ないんだ。だから───」 レラ 「創造!?」 長老 「こりゃあたまげた……!お、お主創造者(クリエイター)か!!」 悠介 「…………」 驚かれてばっかりで話が進まん。 どうしたものか…… 悠介 「あのさ。話進めたいんだけど」 長老 「お……お、おおこりゃあすまんかった。ドラゴンの鱗も斬れる武器、じゃったな。     材料さえあれば作れるが……よいかな?材料を言うぞ?」 悠介 「ああ。───アンテ……うおっ!?」 バックパックを出して、以上に大きくなっているそれにほとほと呆れた。 長老とレラも呆然としている。 悠介 「わ、悪い。ろくに整理もしてないもんだから……」 長老 「なに、構わんよ。では材料じゃがの。     竜の鱗、竜の爪、竜の角、竜の尾棘、竜の髭、属性の結晶、オーブの欠片、     獣の角、獣の牙、獣の皮。最後に……牛王の戦斧石じゃ」 悠介 「………」 長老 「……そう落胆するでない、どれもが入手不可能と言われたものじゃ。     ワシも昔は可能性のある『牛王の戦斧石』だけでもと思ったものじゃがな、     苦労して倒しても落とさなかったんじゃ」 悠介 「……───」 えーと……どうしよう。 なんか全部揃ってるようなんだが……。 悠介 「……あのさ。竜の鱗とかって、どんな竜のものでもいいのか?」 長老 「ああ。じゃがそれはその竜が強ければ強いほどいい。     竜王クラスの材料などなら文句のつけどころなどあるまいて。     解るな?竜に傷をつけられる者など、同種族の竜くらいなものじゃ。     故に、竜族の材料は必須なんじゃ」 悠介 「獣の角とかは?」 長老 「あれも刃の部分になるが、装飾や柄の部分にも使う」 悠介 「なるほど……えっとさ」 長老 「諦めぃ……今までそれを集められた者などおらんのじゃ。     ワシも様々な構想を続けて『真』に至りはしたが、やはり夢のまた夢。     竜殺しの剣などワシには───」 悠介 「材料、全部揃ってる。作ってもらえるか?」 長老 「そうじゃろうそうじゃろう……揃ってるわけがなんと!?」 彰利みたいな返事だった。 悠介 「だから、揃ってる。黄竜の鱗に黄竜の爪、黄竜の角に黄竜の尾棘と黄竜の髭だろ?     属性の結晶はフェンリルが持ってた氷の結晶。     オーブの欠片はグリフォンとフェンリルを初めて召喚した時に割れたオーブを。     獣の角と牙と皮はベヒーモスの角と牙と皮。一応氷狼の毛皮と牙もあるぞ。     それに牛王の戦斧石って……これだろ?ミル・ミノタウロスの戦斧石」 言われた材料をバックパックから取り出して地面に並べてゆく。 最後に置いた戦斧石が赤く光り、なんだか名残惜しい気持ちにさせる。 レラ 「───……!!」 長老 「カ、カカカカカ……!!」 彰利みたいな驚き声だった。 悠介 「あ……もしかしてダメか?獣の角とか属性の結晶とかってもっと別のを───」 長老 「出来るッ!!」 悠介 「うおっと……!?」 長老 「出来る!出来るぞ究極の屠竜剣(とりゅうけん)が!!     ワシの……ワシの百と数十余年の思いがついに叶う……!!     長生きはするものじゃあ……!!す、すまん!     早速錬成を始めてもよいか!?思い入れのある素材もあるじゃろうし、     お主が拒むなら作りはせんが───」 悠介 「作ってくれって頼んだんだけどな───いいぞ。使えるだけ使っちまってくれ」 長老 「おおお……恩に着るぞい!     ロッタ!ロッタァッ!!久しぶりの大仕事じゃあ!お前も手伝えぇえっ!!」 長老さんは鼻息を荒くすると材料を抱え上げて走り出した。 しばらく走ると長老が運んでいるものを半分受け取って手伝うドワーフが現れた。 あいつがロッタっていう、レラの恋人なんだろう。 レラ 「もう、長老もロッタも……すいません、あんなにはしゃいでしまって……」 悠介 「いや、それはいいんだ。夢が叶うってのは大事なことだと思うし」 レラ 「そうですね……あ、ところで───もうなにか魔術は習得済みですか?     あちらは時間がかかりそうですし、お暇でしたらなにか魔術でも……。     魔導術と式は流石に無理ですよね?あれは千年の寿命が無ければ───」 悠介 「や、その心配はないよ。俺、既にあと千年生きられる体になってるから……」 レラ 「え……?」 物凄く驚いた顔だった。 レラ 「地界人で創造者で、     ドラゴンとベヒーモスと召喚獣とミル・ミノタウロスを倒してるって……何者?」 悠介 「………」 存在を疑われたような眼差しだった。 しかしやることが無いのは事実。 俺は素直に魔術や魔導術、式の在り方について聞くことに頷いた。
ロッタ「うう……あの地界人、俺のレラに手ぇ出してないだろうなぁ……」 長老 「余計なことは考えるなロッタ。ワシらはこれから至高の武具を作るのじゃぞ。     様々な魔具や武具を作ってきたワシじゃが、     創造者に作ってやるのは初めてじゃわい……ほほ、腕が鳴るわ!」 ロッタ「レラ……レラァ……俺が居ないのをいいことに、     あの地界人、綺麗すぎる俺のレラにあんなことやそんなことを……」 長老 「聞いておるのかロッタ、失敗は許されんぞ。     どれも最高級の材料ばかりじゃ。     全てが一発勝負……失敗すれば死んでも償えんほどじゃ」 ロッタ「レラ……」 長老 「……そのレラも責任を感じて死んでしまうかもしれんのぅ」 ロッタ「!───お、俺やるぜ!?」 長老 「……それでええ。さ、始めるぞ。     創造者の武具となるものじゃ……半端なものは出来んぞ」 ロッタ「わ、解ってるさ」 長老 「どうじゃかの……」
───……。 レラ 「そう……その光を今度は指先に集めて……その状態で式を編むんです」 悠介 「───……っ……くはっ……!!」 ジュッ……指先に集めていた光が消える。 現在レラに『式』の編み方を教えてもらっているんだが、 編むための光を作ることだけで一苦労だ。 自分自身のやりやすいコツというのがあるらしいけど、 どうやらレラの集め方は俺には向いていないらしかった。 レラ 「それでは……自分が何か行動を取る時に一番やりやすい行動のイメージの展開。     その要領でやってみてください」 悠介 「やってみてくださいって……あのなぁ」 俺の得意なもの……行動しやすいこと……創造? 創造するとき……まずはイメージからだよな。 ゆっくりとイメージを纏まらせて、 次にそれを具現させるために頭の中に情報を固めていって─── 最後に思考の中から外に具現させるために弾けさせる。 それを式でやってみろってことか……よし。 悠介 「……思考、展開」 創造するもののイメージを頭に描くのと同じように集中する。 感覚を思い出しながら、ゆっくりと。 するとどうだろう……人差し指と中指の先に光が集まっていくじゃないか。 悠介 「……想像開始───」 創造するものの効果やカタチを思い浮かべて描くかのように、 光った指で虚空に式を描いてゆく。 それが終了するといつものように『弾けろ』という言葉を───頭の中で言った。 すると───ボガァンッ!! 悠介 「ぐわぁったぁあーーーーっ!!!!」 指の先の光が爆発を起こした。 お蔭で指先に火傷が……!! レラ 「……すごい。助言しただけで一回でやってしまうなんて……」 悠介 「感心してるとこ悪いんだが……どう見たって失敗だろこれ……」 爆発の中で火傷だけで済んだ俺の指も恐ろしいが、 そんな光景を感心した目で見るレラも相当だ。 でもコツは掴めた。指に光を集める方法はもう大丈夫そうだ。 レラ 「爆発したのは『式』が編まれていなかったからです。     適当に光を編めばいいというわけではありませんから。     この世界にはまだ未知の式の編み方もあって、     けれど失敗の爆発を恐れてか……あまり開発しようという人が居ないのです」 悠介 「そりゃそうだろ……好き好んで火傷するようなヤツなんか居るわけない」 溜め息交じりに言うと、レラは『それは違います』ときっぱり言った。 悠介 「違うって……なにがさ」 レラ 「式の爆発は火傷程度で済むようなものではありません。     普通だったら指の回路……筋とかですね。それが焼ききれているところです。     もしくは指先ごと肉塊になるか。     指から直接光を出して編むのですから、     どんな干渉払いでも指を守りきることなんて出来ないんです」 悠介 「……つまり、俺の指が火傷程度で済んだのって……」 レラ 「何者なんですかあなた……。式の爆発をそんな軽傷で済ますなんて……」 悠介 「あー、えーと」 火傷した部分を見下ろしながらひとまず心を落ち着かせる。 ふと感じた違和感の中に、死神化しているのに傷の治りが遅いというものがあったが…… これこそが恐らく『この世界の癒しの枯渇』に関係してるんだと思う。 いや、今はそれよりも─── 悠介 「えーと……俺、死神なんだ。     冥界の死神とはちょっと事情も産まれ育った環境も違うけど」 レラ 「死神……ですか」 悠介 「そう。元人間だけどね。……よし、指も治った。     光の出し方は解ったから、次は『式』の編み方を教えてくれないか」 レラ 「……はぁ……」 ───……。 レラは俺が死神と知ってから、少し訝しげな顔をしていた。 けれど式は基礎からきちんと教えてくれた。 レラ 「そう、それが回復の式です。これで基礎は大体覚えましたね?」 悠介 「ああ、思考やイメージなら得意分野だ。     覚えたことはそうそう忘れないと……思いたいな」 不安全開である。 この式、案外複雑で困る。 段階からして描き方に一定の動きがあるのが救いだな。 基礎系はまず、必ず漢字の『一』を描いてから始まる。 例えば回復の式は『一』を描いた後に重ねるようにして上から一線を描く。 ようするに『+』って文字を書くように編むんだ。 ……これってアレだよな。救急箱とかにある『+』の文字。 『+』を描くっていっても指を描いてる時は光は繋がってるから、 『+』の光の右と上の端は繋がってるわけだけど。 レラ 「……では次に移ります。まず……」 レラが描き方の手本を見せてくれる。 基本までは実際に光を灯して式を編んで見せたが、今度は光を灯してなかった。 実戦するとマズイものなのか……ってそうか、攻撃とかの式だと大変なことになる。 レラ 「……です。やってみてください」 悠介 「了解」 集中し、光を集める。 それを見せられた通りに動かして、編み終りの思考スイッチをボガァンッ!! 悠介 「いってぇえええっ!!!!」 ……失敗。 焦りすぎたのか、ものの見事に爆発しやがった。 レラ 「だ、大丈夫ですか?」 悠介 「悪い……もう一回やってもらえないか……?」 レラ 「いえ……一度失敗したものは連続してやらない方がいいです。     失敗の編み方まで頭の中に入ると大変ですから」 悠介 「む……なるほど。じゃあ次を」 レラ 「は、はい。次は……」 レラが光の灯っていない指先を動かす。 それを描き終えると俺にどうぞと言い、俺の指先をジッと見つめる。 ……案外これ、見られてると恥ずかしいんだが。 悠介 「───」 それでも開始する。 しかし───ボゴォオオオンッ!!!! 悠介 「ぁいってぇっ!!」 指の爆発とともに、仮面ノリダーのような声が漏れた。 レラ 「失敗ですか……?」 悠介 「攻撃系に向いてないのか……?俺……」 レラ 「───諦めないでください。次ですけど……」 悠介 「あー……」 連続して失敗したために少々コゲてる指先に回復の式を流す。 ……一応微量だが回復した。 この世界の癒しのこと……考えないと危ないな。 こんな回復量でドラゴンに挑んだらそれこそ全滅だ。 レラ 「……こう、です。やってみてください」 悠介 「………」 意識を集中させる。 レラの指の動きを完全に把握し、さらにそれをなぞるように式を編む。 引っかかることがあるんだ。 それが証明されるか否かがこの式にかかってる。 悠介 「───!」 ……そして。 俺はレラの手の動きを完全に真似て、式を編み終えた。 当然それを解放したが───結果は爆発。 ……もう決定だ。 涼しい顔をしているが、レラの目的は─── レラ 「大丈夫ですか?それでは───」 悠介 「待った。……ひとつ訊いていいか?」 レラ 「……?なんでしょう」 悠介 「新しい式を開発して、どうする気だ?」 レラ 「───!!」 レラの動揺は、教科書に載せられるくらいに明らかなものだった。 肩を跳ね上がらせ、視線を泳がし─── 蚊の鳴くような小さな声で『いきなりなにを……』と言った。 悠介 「そりゃあな、普通は指先が残らないような式の失敗を、     何度やっても平気な死神が相手だ。新しい式を開発するにはうってつけだろうな。     けどな───俺が死神だからなんだ?好き勝手に利用していいのか?     あんた、種族の差別が嫌いでここに逃げてきたんじゃないのかよ。     これがあんたが嫌った種族差別じゃないのか?」 レラ 「あ───……」 悠介 「……呆れたヤツだなおい……。もしかして自覚なかったのか?」 レラ 「………」 レラは居心地悪そうに俯くだけだ。 しかし俺は続ける。 悠介 「とにかく、もう騙すようなことはよしてくれ。     式を教えてもらって感謝してるのに、     感謝に泥を投げつけるような行為をして気分いいか?     さっきから気になってたけどレラ、あんた凄く辛そうな顔してるぞ」 レラ 「…………見返してやりたかったんです。エルフの仲間たちを……」 悠介 「じゃ、次の式教えてくれ」 レラ 「話聞いてくれないんですか!?」 悠介 「たわけ。人を騙しておいてさらに自分の自虐話を聞けっていうのか?     ムシが良すぎるぞ馬鹿者。     これでおあいこにしようって言ってるんだ、教えてくれ」 レラ 「けど……」 悠介 「どうせ他の仲間たちにいろいろ言われたんだろ?     エルフの里を出た者、ましてやドワーフに恋をした者は高みになど行けないとか」 レラ 「───!ど、どうして……」 悠介 「本当にそうなのかよ……」 経験上、適当に言ってみただけだったんだが……。 でもようするにアレだ。 レラは『高みに行けない』って言葉に対抗意識を燃やして、 それなら新しい式でも編めればと思ったんだろう。 悠介 「それにしたって利用されるのは心外だ。     最初に言ってくれれば手伝いだってしたってのに」 レラ 「えっ!?それじゃあ───」 悠介 「さらにたわけ。ムシがよすぎるって言ったばっかりだろうが。     自分の里を出てきたヤツが、     どうして他のエルフに対して対抗意識燃やす必要があるんだよ。     言いたいヤツには好きに言わせておけばいい。     言うことしかできないヤツは、それこそあんたより格下だって証拠だろうが」 レラ 「あ……」 レラが再びしゅんとなって俯いた。 ……これでエルフの長の元右腕とは……ううむ、想像がつかんぞファンタジー。 悠介 「あのさ、落ち込むなとは言わないが……     俺もこうしてボーっとしていられる心境じゃないんだ。     自分に出来ることを思いっきりやりたい。だから教えてくれないか?」 レラ 「……うっ……うくっ……」 悠介 「ってどうして泣くんだぁあーーーーーっ!!!?」
ピキィイーーンッ!! ロッタ「───ハッ!か、感じる!レラが……俺のレラが泣いている!」 長老 「なっ……こ、こりゃ!手を離すな!     ここで判断を誤ればせっかくの屠竜剣が───!」 ロッタ「まさかあの余所者、俺のレラに何か───うぉおお待ってろレラァアアアッ!!」 長老 「ムオッ───こ、この馬鹿モンがぁあーーーーーーっ!!!!」
───ドバァンッ!! ロッタ「レラッ!無事か!?」 レラ 「うくっ……ひっく……ロッタ……ロッタァ……」 ロッタ「レラ───貴様ァアア……!!レラになにをした!!」 悠介 「説教」 即答。 ロッタ「……説教?」 悠介 「説教」 ロッタ「襲ったとか……そんなんじゃなくて?」 悠介 「だから、説教だって」 ロッタ「馬鹿なことを言うな。レラはエルフの中でも忍耐と語力に長けた女性だった。     それを説教で泣かせるなんて芸当、出来るわけが───」 人を泣かせるのってこの世界じゃあ芸当だったのか。 ミステリーだ。 レラ 「ちがっ……違うの……。この人は本当になにもしてなくて……。     ただわたしが……自分のされたことも鑑みないで、この人にひどいことを……!」 ロッタ「お、おいレラ……?訳が解らないよ、ちゃんと説明してくれないか?」 レラ 「うん……うん……」 悠介 「…………はぁ」 どの世界でもバカップルへの対処って疲れるんだな……。 ───……。 ロッタ「す、すいませんでした!まさかそんなことになっているとは知らず……!」 悠介 「ああいい、いいって。顔上げてくれ……。     本人がいいって言ってるのに頭下げられるのとか、そういうの嫌いなんだよ……」 ロッタ「しかし……!」 レラの口からことの経緯が語られた途端にこれだ。 正直まいってる。 でもそれだけ『差別』に嫌気を感じていた証拠なんだろう。 謝り方がかなり本気だ。 悠介 「それよりもさ。ロッタ……っていったか?あんたここに居ても平気なのか?     いくら名工だったとはいえ、じいさんひとりで武器を打つってのは……」 ロッタ「え?あ───!!」 途端、ロッタが顔面蒼白になる。 すぐさま立ち上がって駆け出そうとするが……その先にじいさんが居た。 ロッタ「あ……長老」 長老 「この───馬鹿者めがぁっ!!」 バガァッ!! ロッタ「ぷぐっ!?」 レラ 「きゃあっ!?ロ、ロッタ!」 ロッタは長老に殴られて地面に転がった。 上半身を起こして長老を見上げるロッタだったが、 殴られた理由がなんなのかは解っているようだった。 長老 「……なんてことを……ロッタ……貴様なんてことを……!!」 ロッタ「ちょ、長老……剣は……」 長老 「そんなもの失敗に決まっておるだろうが!!」 ロッタ「ひっ───!?」 レラ 「───!!」 悠介 「へ……?」 失……敗? 長老 「あれほど武具錬成に必要なのは集中力じゃと言ったのにそれを忘れおって!     どうしてくれる!客人になんと詫びれば……!!」 ロッタ「あ……あぁあ……!!」 レラ 「ちょ、長老……材料は……」 長老 「……全て使った……余りなんぞあるものか……っ!!」 レラ 「そんな……!」 悠介 「ちょ、ちょっと待ってくれ……失敗って……」 本当、なのか? だってあれだけの材料を集めるのにどれだけの苦労と思い出があると…… そりゃあ、集めようとして集めたわけじゃない。 けれども材料のひとつひとつにはそれだけの苦労と思い出があった……。 それが……全部パア? 悠介 「………」 湧き上がる怒りはとりあえず殺した。 誰にだって失敗はある……それは仕方が無いことだ。 俺はそれを諦められる。 けど───それじゃあじいさんの夢はどうなる? 描き続けてきた夢の屠竜剣……それがやっと作れるって喜んでいたのに。 そして……創造することの出来ない俺が屠竜剣無しでどうやってドラゴンと戦える? 長老 「すまない客人……ワシの教えが至らぬばっかりに……!」 悠介 「俺のことはいい……。けどじいさん、あんたの夢が……」 長老 「………!!」 じいさんは唇を噛んでいた。 それこそ、白い髭が血に染まってゆくくらいに。 ロッタ「すっ……すいませんでした長老!!俺っ……俺っ……!!」 長老 「馬鹿モン!!謝る相手が違うじゃろう!!     貴様、あれほどの材料を集めるのにどれだけの地獄を味わうと思っとる!!     貴様に黄竜王やベヒーモスやフェンリルに打ち勝つだけの力があるか!!」 ロッタ「ひっ……す、すいません!!すいませんっ!!」 悠介 「もういい……やめてくれ」 長老 「ワシは……!ワシはなぁっ……!!」 悠介 「やめてくれって言ってるんだ!!」 ロッタ「あ……」 レラ 「………」 長老 「客人……しかし……」 悠介 「……すまない。少しひとりにしておいてくれ……。     あんたたちも……冷やせるなら頭を冷やしてくれ」 長老 「……すまん」 ロッタ「………」 レラ 「ごめんなさい……」 立ち上がり、俺がレラの家を出ても尚───その集落はひどく静かなものだった。 悠介 「どうすりゃいいんだ……」 剣は作れなかった。 材料はよりにもよってじいさんの夢もろともバカップルに潰され、 今の俺には結局ドラゴンと戦う術もない。 悠介 「明日の昼には彰利とリヴァイアが突撃しちまうっていうのに……」 俺はそれを、ここで見守ることも出来ずに待つしかないのか? 生きるか死ぬかで考えれば『死ぬ』という確率が圧倒的に高い結果を待つしか……。 悠介 「………」 空を見上げようとして溜め息を吐いた。 目に映るのは蒼空なんかじゃなくて、うっそうとした迷いの森の木々。 差し込む光は枝や葉が入り組んだ相当先の方から降りてきているようで、 運良くこの集落に差し込んでいるに過ぎないだろう。 そんなこの場所が、余計に心を枯らせていった。 Next Menu back