───FantasticFantasia-Set06/騎士道の果てに───
【ケース11:ジークン/デカルチャー(ゼントラーディー語)】 ───……ヒタ。 ジークン「……ウィ。どうやら冷えたようザマス」 ヤカンに触れて温度を調べるが、熱いと言えるほどの熱はもう消えた。 あとはこれをモミアゲ地界人に飲ませればいいだけぞ。 ジークン「場所的には迷いの森辺りに居る筈ぞ。      残念ながら転移は遮断されるだろうから徒歩で行くしかねェザマス」 はァ〜ンア、まったく面倒ザマスねぇ……。 しかしこのジークン、礼節など持たぬが恩義だけは染み入る亜人ぞ。 二回助けられたのに一回も助けないのは下の下ぞ。 ジークン「ではいざ出発ぞ!チョェエエーーーッ!!!!」 ヒタタタタタ……!! 集落を飛び出て草原を駆け抜ける。 こうして我の旅は始まったのだった……! ───……。 ジークン「もし、そこの方。西ってどっち?」 空界の中心からしてずっと東南にある棒人間の集落を出たまではよかった。 だがどっちがどの方角かなんて解らねェザマス。 無駄だと知りつつ草原に咲くタンポポさんに訊ねてみるも、 吹き抜ける風とともに一度だけ頷いただけである。アンハァ。 ジークン「……おおそうか、チャイルドエデンから東に突っ切れば北西側に辿り着く」 なんでこんなに簡単なことに気づかなかったのか! 我はすぐさま転移して、チャイルドエデンからの出発を心に決めた。 ───……。 ヒタヒタヒタヒタ…… ジークン「フム、いい天気ザマスねェ。      思わず朝でもないのに『モーニン♪』と言いたくなってしまう」 ポカポカ陽気に当てられながらのんびり歩く。 走ってもいいんだが、迷いの森のことを考えると……今から不安でしょうがない。 一度も入ったことはないが、迷いの森っていうくらいだからきっと迷うに違いねェ。 フフフ……我は用心深い男ぞ。行動するならば先の先まで読まねばいかんぜよ。 ───ドンッ。 ジークン  「ウィ?おっとこれは失礼。空を見ていたために前方不注意で……」 ミノタウロス「………」 ジークン  「が……がが……」 その日、我は風となった。 ミノタウロス「グォオオオオオオオッ!!!!!!」 ジークン  「ギョォオオオオーーーーーッ!!!」 草原を走る走る。 どうやらミノタウロスと奇妙な縁があるらしい我は、もう涙全開だった。 ───……。 ジークン「グハーゥ!ゲハーゥ!!」 全速力で逃げ出し───持ち前のすばしっこさと、 小さな体を生かしたアビリティ『かくれる』でなんとかミノさんをやりすごした我。 気づけばどこから来て何処へ行こうとしていたのかも解らなくなってしまった。 ……迷いの森に行く前に迷ってどうするよ我……。 ───……。 ジークン「歩き回ったはいいが、行き止まりに辿り着いてしまった」 目の前には雄大なる海。 かなり透き通っていて、しかもキラキラ輝いているザマス。 ジークン「フゥ、どれ……ちょほいとここらで休んでいきますかなぁ……」 ヒタリと腰を下ろして一服。 これから何処へ向かうかを考えていると───ふと、海面が盛り上がったのを見た。 ジークン「………」 途端に訪れる嫌な予感。 我は咄嗟にバックステップをして海面から離れた───刹那! ジョパァンッ!! ジークン「ギョッ……!?」 我が座っていた場所に、高圧縮の水が放たれた。 海面を見てみればトンデモナク巨大な蛇なのかなんなのか解らん生き物…… 早く言えば水竜のような生き物がおりました。 ジークン「な、なにしやがんだボケェエーーーーッ!!てめぇこの我を殺す気か!」 水竜  「───……」 ジークン「殺す気満々!?デ、デカルチャー(信じられん)
!!ヤック デカルチャー(なんと恐ろしい)!!」 ゼントラーディーの英知よここに。 タダイマ目の前にリヴァイアサンが存在しております。 笑える……まさかベヒーモスとの対峙のあとにリヴァイアサンとの邂逅を迎えるとは……! ジークン「きっと我、不幸の星の下に産まれたに違いねェ……」 殺されるのは嫌だったので次元転移を行使してとんずら。 我は再びエデンからの出発を余儀なくされた。 【ケース12:弦月彰利/カシの木】 瞑想をしている内に夕方になった。 とはいっても空の色がそうなっているだけで、 この世界に太陽なんてものも月なんてものも存在しない。 けど……夕焼け色を見るだけでも、黄昏の草原を思い出す。 無事でいてくれてるのだろうか。 そんなことばかりが頭の中を支配していた。 彰利 「フッ……情けねェぜ。この泣く子も笑うと評判の弦月彰利が……」 なんと無様なことか……しかし仕方が無いじゃないですか。 生きてることを信じてようが、無事かどうかは別問題。 怪我とかしてなきゃいいが……。 彰利 「ンマー、あれから結構経つんだし───     いくらなんでもジークンがなんとかしただろ。     あれだけ偉そうなこと言ってたんだし」 うん大丈夫……きっと大丈夫さね。 彰利 「さて……納得したらオイラ腹減っただよ。     リヴァイアに言ってメシでも食いますか」 降ろしていた腰を持ち上げて、リヴァイア工房への道のりをのんびりと歩いた。 ……どうでもいいけどこの家、リヴァイアの工房以外に存在理由はあるのだろうか。 などと思いながらリヴァイアの工房のドアに手を掛けて、 何気なく脅かしてやろうと静かに開ける───と。 声  「……またかオウファ。何の用だ」 ……声が聞こえてきたわけですよ。 ゆっくりと中の様子を見れば、虚空に馬鹿キングを映した画面が浮いてるし。 オウファ『リヴァイア……貴様、本当に地界人を連れてきたんだろうな』 リヴァ 「くどいな。そんなに麗しの民たちが信じられないのか?      お前の皇国の総力があれば竜など怖るるに足らないんだろう?」 オウファ『黙れ。質問しているのは私だ。      貴様はな、リヴァイア。私の質問に馬鹿正直に答えていればいいんだ』 リヴァ 「………」 リヴァイアから殺気が放たれる。 やがて何かをボソリと言ったようだが……残念、聞こえませんでした。 これはいかん、状況を把握するためにも聞き漏らしはあってはなりませんよ? 彰利 「………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!! 聞き漏らさないためにも ドアの影からローリングストーン(ズ)のようにねちっこく覗き見をベキャッ!! リヴァ「誰だっ!?」 彰利 「ゲゲェエエエーーーーッ!!!!」 いきなり見つかってしまった!つーかなんでこんなところに小枝が落ちてんの!? そりゃさ、覗き見してる時に見つかる代表的な理由って枝を踏む行為だけどさ!! リヴァ「検察官……!?」 彰利 「あ、あちょッス!」 こうなりゃヤケクソです。 俺は胸を張ってズンズンと歩き、馬鹿キングの映像の前に立った。 ちなみに一応プレートは隠してありますよ? こげなヤツに俺のデータ知られんのイヤだし。 オウファ『お前が地界人か……?名を名乗れ』 彰利  「俺はハーン!よろしく頼むぜ!」 オウファ『ハーン?地界人とは思えない名だな』 彰利  「なんじゃコラ小僧、外国に行けばそんな名前のヤツくらいおるわ。      おめぇまさかぁ〜〜〜、外国の存在も知らねぇんじゃねぇええだろうなぁああ」 オウファ『なんだと……!?貴様、私に楯突くとどうなるか解ってて言ってるのか!』 彰利  「どうなんの?」 オウファ『フッ……フッフッフ……      この手にある水晶の檻が砕け、ゼロが死ぬことになるぞ!』 彰利  「ヘー……それが俺になんの関係があんの?」 オウファ『……なに?』 リヴァ 「け、検察官!?」 彰利  「正直言って俺、      そのゼロなんたらってのがどうなろうと知ったこっちゃありませんよ?      こちとら親友が大変な目に合わされてんだ、それこそ死に直面するような。      だってのに助ける相手が無傷?ハ、よしてくれ。冗談じゃない」 オウファ『な、なにを言っている!ゼロが死ねば───』 彰利  「だから。そのゼロなんたらがどうなろうと俺の知ったこっちゃない。      不老不死なんだろ?だったらやればいいじゃないか。      遠くはあるけど確実に死を受け入れられる悠介があんな目に合ったんだ。      不老不死のそいつがなんの苦も無く助けられるなんて、笑い話にもならない」 リヴァ 「け、検察官!正気か!?」 彰利  「んで?どうすんの?俺はそいつがどうなろうが知らない。      お前はそいつを盾にしているからこそ生きていられて、      リヴァイアにもこうやって命令が出来ている。      俺に襲われそうになったからって水晶割っても───どの道死ぬぜ、お前」 オウファ『───!!』 彰利  「言っといてやる。もし億が一にも悠介が死んでたりしたら───      てめぇはこの世に塵のひとつも残さず殺すと誓う」 視界が赤く染まる。 恐らくあまりの怒りに目が真紅に染まっているんだろう。 その目を見たからか馬鹿キングは息を飲むと、一方的に通信を切った。 あとに残されたのは何もない虚空と、その場に立ち込める殺気だけ。 椅子に座っていたリヴァイアは俺を呆然とした表情で見上げ、 俺は虚空を睨んだまま息を吐いた。 彰利 「───そんな顔すんな。     ゼロってやつはちゃんと無傷で助けるし、悠介は絶対に生きてる。     あいつが───あいつが死ぬもんか。     死んでたとしても俺が絶対に生き返らせてやるさ……どんな手を使ってでも」 その全ては本音。 いつものようにふざけることもなく、真剣にそう言った。 ……あの馬鹿キングの命令口調を聞いた途端に頭に血が上った。 正直に言えば、もう少し長引けば絶対に握り拳を工房の魔具に振り下ろしていた。 彰利 「……だめだな。普段平気なくせに、あいつが近くに居ないってだけでこれだ……」 一緒に居れば馬鹿をやって安心できるのに、居なくなれば心配せずにはいられない。 傍に居て当たり前っていう親友が傍に居ないのは、とても嫌な気分だった。 リヴァ「検察官───結局お前も悠介も親友すぎるんだな」 彰利 「……リヴァイア?」 リヴァ「以前、悠介にも言ったけどな。双方に意識のある時はふざけ合うだけで、     片方に意識が無ければ全力で心配して……お前らは不器用すぎる。     わたしから言わせてもらえばな、そんなことは意識のある時にするべきだ」 彰利 「……ふむ。その時悠介、こう言わなかったか?     『笑ってる馬鹿を心配して、せっかく楽しめる時間を潰すのは愚考』って」 リヴァ「………」 彰利 「ビンゴか?そりゃそうだ、俺達はそういう関係だから今まで友達で居られたんだ。     俺はさ、リヴァイア。     四六時中相手の心配ばっかりしてる関係って疲れるだけだと思う。     そんなことをするくらいなら一緒になって楽しんでた方がいいに決まってる。     だからこそ相手が居ない時や意識を失ってる時は全力で心配しちまうんだけどさ。     俺はそっちの方が関係としては楽しいと思うんだ」 リヴァ「だがしかしな……」 彰利 「誰になんて言われようと、俺達の生き方や在り方は俺達が決めることだろ?     俺達はこういう関係を満足してるし、ちゃんと楽しんでる。     だから全力で楽しむし全力で心配する。     今の俺にとってはドラゴンなんてどうでもいい。     ただあいつが生きてるなら……あいつが無事なら……」 リヴァ「……そうか」 リヴァイアはなんだか呆れたような溜め息を吐くと、ゆっくりとその場を離れていった。 気を利かせてくれたんだろう……けど、 どっちかっちゅーたらワイが出ていきたかったんやけどなぁ。 彰利 「ここでどないせぇっちゅうねん……」 置かれてるものの全てが魔導具。 ここで拙者に出来ることなど皆無じゃないですか……。 【ケース13:晦悠介/微かな希望】 ───そうして、朝が訪れた。 悠介 「…………」 俺は何かから逃げるように長老の鍛冶工房にあった武具を手に、 鍛錬とはまるで言えないことをしていた。 いくら重そうなものでも既に重くなく、軽すぎて筋力鍛錬には程遠い。 一心不乱になるにはあまりにも心許ない重さだった。 悠介 「───」 力も戻らず、屠竜剣の完成も無く─── 今日この日の昼に彰利とリヴァイアは突撃を実行する。 俺はそこに間に合うことも出来なければ、間に合ったところでなにも出来ない。 こんな馬鹿な話があるか……?笑い話にもならない。 悠介 「……くそっ」 落ち着こうとしても気が逸る───情けない。 声  「……荒れておるな」 悠介 「───じいさんか」 振り向きもしないで返した。 昨日からぶっ続けで武具を借りて暴れてたんだ、じいさんが知らないわけがない。 長老 「すまなんだの……お主の用意してくれたものの全てを無駄にしてしもうた……」 悠介 「戻ってこないんだったら仕方ないだろ。謝られると思い出しちまって辛いんだ。     じいさんだけでも忘れてくれ───ってのは無理か。     悪い、じいさん。せっかく夢が叶う筈だったのに」 長老 「それこそもう言ってくれるな……。     完成には至れんかったが……材料を手にし、     その過程だけでもこの体と目に焼き付けることが出来た。     技師として完成品をお主に使ってもらえんかったことが心残りじゃがの」 悠介 「……じいさん。材料の成れの果てはまだあるのか?」 長老 「む……おお。未練じゃな……既に崩れてしまっているが、     捨てようにも捨てることなど出来んのじゃ……。     ワシは生まれてこのかた、あの素材をこの目で見るのは初めてじゃった……。     その結晶がこんな変色した塊などと……誰が言えようか……」 悠介 「………」 ゴツゴツに硬い、もはや何にも形容しがたい塊に触れる。 その状態のままで、手にした武器を振るってみても─── 既に戦斧石の効果は完全に溶けてなくなっていた。 その時になって思い出すのだ。 草原で出会ったじいさんが言っていた言葉を。 『その戦斧石、大事にするんじゃぞ。  どのブレイバーであろうと、滅多に手に入れられるものではない』 その言葉が、今はこんなにも胸に突き刺さる。 大事にしろと言われたのにも関わらず、たたの石塊にしてしまったのだ。 悠介 「……なぁじいさん。この状態から作り直すことは出来ないのか?」 長老 「無理じゃ……。ここまで固まってしまってはもはや錬成不可能じゃよ。     それなりの道具があればなんとかなるやもしれんが……」 悠介 「───できるのか!?」 長老 「い、いや……あくまで可能性問題じゃよ。     いくらお主でも竜の涙は持っておらんじゃろ……?」 悠介 「持ってるけど」 長老 「そうじゃろ……なんと!?も、持っておるのか!?じゃったらあとは───」 声  「長老ーーーーーーーっ!!!!」 悠介 「───!?なんだっ!?」 長老 「レラ!?」 集落に響くレラの声。 俺とじいさんは顔を見合わすとすぐに錬成工房を出て、その姿を探した。 長老 「レラ!?どこじゃ!」 レラ 「長老!ああ、長老……!!」 長老 「レラ……なにがったんだじゃ?───ロッタはどうした」 レラ 「そ、それが……ロッタ、責任を取るって言って集落の外に出ていって……」 長老 「外へ!?馬鹿なことを!朝にこの森を出るのは危険だとあれほど……!!」 レラ 「ロッタ……不死虫を取ってくるって言って───     それがあれば一度失敗した素材も蘇るって……」 長老 「馬鹿な……!そんなものはドワーフ族の馬鹿者が謳った世迷言じゃぞ!!     虫の力ごときで失敗したものが蘇れば苦労はせんわ!」 レラ 「わたし、止めたのに……!どうすれば……長老……どうすれば……!!」 涙ながらに叫ぶレラの横を通り過ぎる。 両手と背にはありったけの武具。 役に立ってくれるかは使ってみなけりゃ解らないけど───それでも無いよりはマシだ。 悠介 「じいさん、武器借りてくぞ。ちょっとその馬鹿野郎を連れ戻してくる」 長老 「な、なんじゃと!?しかしお主───能力が使えないと!」 悠介 「なんとかなるって。───憂さ晴らしには丁度いい」 剣を片手に一本ずつ構え、飛び出すように集落を出た。 レラが走ってきた方向へとただ全力で疾駆する。 現れるモンスターの悉くは悲鳴を上げて逃げるが─── 時折に逃げもしないで襲い掛かってくるモンスターは、立ち止まることもなく一閃で殺す。 悠介 「へえ……」 驚いた。 この剣、見かけよりも刃が鋭い。 恐ろしく軽いし、それなのに頑丈だ。 グール「ぉおおぉぅう……」 悠介 「疾───!」 ザグシャッ───バキィンッ!! 悠介 「あー……」 前言撤回。 作られてから結構経ってるようで、何体か倒したらあっさり折れた。 悠介 「しっかし流石は迷いの森……アンデッド系と植物系のモンスターがわんさか居る」 中には骨のモンスターも居たが、見た瞬間に思い出したのはボーン=ナムだった。 当然、頭骨をホームランすることで事無きを得たが。 悠介 「くっそ、じいさんめ……!武器の手入れくらいちゃんとしとけ!!     こんなにバキバキ折れたんじゃあ代えが幾つあっても足りやしない!」 というかロッタは何処だ!? 結構先に来たつもりなんだが─── 声  「うわぁあああーーーーっ!!!!」 悠介 「……解りやすい発見情報をありがとう、モンスター」 聞こえた悲鳴を辿るように走る。 すると大して走らずに見えた開けた場所に、 モンスターに囲まれたドワーフの青年───ロッタが居た。 ロッタ「く、くそ……ここまでか……!     不死虫を見つけられずに死ぬことになるなんて……!     ああレラ……どうせ死ぬのならキミの腕の中で死にたかった───」 バギャンッッ!! スケルトン「ヘキャッ!?」 ロッタ  「え……?」 ロッタに切りかかろうとしていたスケルトンを、槍で頭から地面にかけて串刺しにする。 跳躍から投擲に移したために落下すると─── 槍の石突きの上に立ち、ひとまず溜め息を吐いてやった。 悠介 「それだけ上等な死に際の文句が言えるなら限界まで戦え、ドアホ」 ロッタ「え……あ……ど、どうしてここに……」 悠介 「お前を連れ戻しに来た。     不死虫で素材が生き返るのはデマだそうだ、さっさと戻るぞ」 ロッタ「なっ───そんなデマだなんて!!     お、俺のここまでの道のりと苦労はいったい……!!」 悠介 「それ悲観するんだったら屠竜剣の材料集める道のりと苦労も味わってみるか?」 ロッタ「うぐっ……!す、すいません……!     これくらいのこと、それに比べれば屁みたいなものでした……!!」 悠介 「悲観するのをやめたんならとっとと走れ。敵さん、物凄いことになってる」 ロッタ「ものすごおわぁああーーーーーーっ!!!!」 ロッタが大変驚いた。 そりゃそうだろう……集まってきた骨どもが合体して、 どんどんと巨大な骨へと変貌してゆくのだから。 ロッタ「あ、あわ……あわわわ……!!」 悠介 「だから……。悲観やめたなら走れって言ったろ。     なんだって今度は震えてるんだお前は」 ロッタ「だ、だだだだって……!あんな大きなモンスター……!」 悠介 「あのな、俺は逃げろって言ってるんだぞ?誰もお前に戦えなんて言ってやしない」 ロッタ「───い、いえ!俺も戦います!償いをするためにも!」 悠介 「俺、お前に逃げてもらった方が償いになるわ。だから失せろ」 ロッタ「うわヒドイ!!」 ロッタがそう言う中、骨たちは既に合体を終えてケキョキョと笑ってるところだった。 俺はそんな骨を見上げると、骨に効く武器はなんだっただろうかとバックパックを漁った。 ロッタ「ロ、ロッタ───行きます!」 悠介 「行かなくていいって。いいから集落に戻ってろ───っと、あったあった」 バックパックから目当てのものを取り出すと、槍から降りて巨大骨と戦闘開始。 悠介 「“戦闘開始(セット)”」 唱えるや否や、俺に向かって突進する巨大骨の足をソレで殴った。 するとコパキャアーーンッ!という音とともにあっさりと吹き飛ぶ骨の足。 スケルトン(大)「ケアッ!?」 おー、やっぱ鈍器は違うな。 ああちなみに、今装備してるのはゴブリンの棍棒だ。 ゴーレムコロがしの時に一緒にコロがしたゴブリンの物だろう。 それをギリリと構え、足の骨が無くなり倒れてくる骨目掛けて思い切り振るう!! 悠介 「“薙ぎ砕く(カティンクラッシュ)───”!!」 バガッシャァンッ!!! スケルトン(大)「ゲギョッ───」 スケルトンの頭骨が完全に砕ける。───まあその、棍棒も一緒にだが。 それを確認した途端、スケルトンの体が塵と化した。 ……どうやら弱点は頭だったらしい。 ロッタ「は……───」 砕けた棍棒の柄の部分をその場に捨てると、 俺の後ろでロッタがようやく呼吸が出来たといった感じにヘタリこんだ。 悠介 「よしじゃあ戻ろう」 ロッタ「ちょ、ちょっと待ってください……少し休ませて」 悠介 「だめだ」 ロッタ「うわヒドイ!!」 悠介 「ヒドくない!自業自得だと思って諦めて歩け!     誰もお前に責任取れだなんて言ってないだろうが!無茶すんな馬鹿!!」 ロッタ「うぐっ……で、でも……心が苦しかったんです……仕方ないじゃないですか」 悠介 「じゃあ行くか」 ロッタ「話を聞いてくれないんですか!?」 悠介 「あーうっせうっせ!こちとらご機嫌ナナメなんだからとっとと歩け!     それとも気絶させてから引きずってやろうか!?」 迷いの森で朽ちたヤツのものだろうか、 霊体どもが俺の方に纏わりついてきやがる……気分悪いったらない。 なんとか追い払いたいが理力も使えないし、 ルドラが引っ込んでる所為で月操力も使えない俺じゃあ追い払えやしない。 つくづく情けない……理力の使えない俺はこうも弱かったのか……? 悠介 「───い、いや!神社の神主として、迷える霊魂をこのままにはしておけない!     我が身体に眠る力よ───今こそその力を示せ!バァアーーッ!!!」 イメージの解放をするかのごとく、力を放ったつもりで掌を振るう! すると───何故か霊魂が余計に寄ってきた。 悠介 「……あー……なんか今、死神であるこの体が恨めしくなってきた……」 纏わりつかれてる理由って多分そんなとこかと。 いっそこの魂を喰らって回復に使うか───なんて考えが出た途端に無に滅する。 魂を喰らうなんて、そこまで死神化したくはない。 悠介 「じゃ、戻るか。じいさんの話じゃあなんとかする方法があるみたいだから」 ロッタ「なっ───そ、そんな方法があるなら早く言ってほしかった……」 悠介 「竜の涙が必要だったんだとさ」 ロッタ「……言う必要もなかったわけか……手に入れられるわけがない……」 ここで『持ってる』なんて言ったら、またバケモノ見るような目で見られるんだろうなぁ。 面白いから別にいいんだが。 ともあれ俺とロッタは集落への道を……───迷いながら戻った。 【ケース14:ジークン/ジャングルの王者ジークン】 デンッ!テンッ!トンッ!テンッ! ドントトントデンットンッ!! ジークン「妙な音楽とともにポージングしてる場合じゃねェザマした……」 なにはともあれ迷いの森。 早速迷った我は、いつも通りアビリティ『かくれる』を酷使…… というか使いまくりながらここまで来た。 辿り着いたこの森はまるでジャングルぞ。 聴覚を澄ませば、ケキョキョキョケキョという鳥の泣き声が聞こえ、 さらに澄ませばケキョキョキョキョとスケルトンの笑う声が。 とてもシャレにならねぇ森ザマス。 ジークン「………」 無心……無心ぞ。 探知からしてこの森のとある場所にモミーが居るのは間違い無しぞ。 ならばそこまで逃げられれば─── スケルトン「……コアァッ!」 ジークン 「ギョーーーッ!!」 カショカショと通り過ぎるだけだった筈のスケルトンの首がぐりんっと回り、 木の影に隠れていた我を発見! なんという策敵能力……!これが……これが生態感知という能力か……! などと感心してる場合ではねェザマス。 ブレイバーでもなんでもない我は、もちろん恥など感じぬままに逃走。 執拗に追い掛け回されたが、なんとか逃げ延びることに成功した。 ───……。 ……。 ジークン「おっおっきっなっそぉらを〜♪なっがっめたぁ〜らぁ〜♪」 グール 「ウルェエーーーッ!!!」 ジークン「ギョォオオオーーーーーッ!!!!」 逃げた先でもまたモンスター。 しかもこの森、やたらとアンデットが多いんザマスよね……勘弁したれや神よ。 このままでは目的地に辿り着けん……。 我は逃げた……とにかく逃げた……。 そして気づいた時には───帰り道も解らぬまま、完全に迷っておったとさ……。 【ケース15:晦悠介/旅立ち、のちに帰還】 悠介 「……神々の泉の水が必要!?」 長老 「うむ……」 集落に戻った俺とロッタはその言葉に眩暈を起こした。 手に入らないものじゃない……他の素材に比べれば随分と楽なものだ。 だが、それは比較の話であり─── この森からあの神々の泉まで行くには時間が無さすぎる。 ロッタ「他のもので代用は出来ないんですか?」 長老 「無理じゃな。今のところ解っているのは、     竜の涙と神々の水と魔物の硬貨で『魔導の砂』が作れることくらいじゃ。     あとはこの森に生息する次元虫を手に入れるか、次元の力を誰かに借りるか……     それが出来れば『時の砂』が錬成できるんじゃが」 悠介 「……条件がキツイな。もう少し負からないか?」 長老 「ワシゃぁ気前のいい店屋じゃないんでな」 そりゃそうだ。 けどどうする……?もうあまり時間が残されて無いってのに─── 悠介 「……行くしかない、か」 ……こうなったらそう……行くしかない。 俺が行って、全てを揃えてくるんだ。死神の身体能力があればなんとかなるだろう。 それを考えれば、戦斧石を無くしたのは本当に辛い事実だ。 長老 「客人?」 悠介 「俺がひとっ走り行って集めてくる。     次元とかの力を持ってるヤツに心当たりがあるんだ」 長老 「し、しかしこの迷いの森はそう簡単に出られるような場所では……」 悠介 「……なにか頑丈な武器あるか?木を切り倒しながら行く」 レラ 「なっ……」 長老 「ほほっ……そりゃあ豪気なもんじゃあ。じゃがな、解るじゃろう。     この集落にはまともな鉄や鉱石といったものがない。     じゃから碌な武具が作れなければ、それを鍛え直すだけの素材もない」 悠介 「……それであのナマクラーか?」 長老 「脆かったじゃろ?あんなものは武具とは呼べんよ。     どれ……なにか適当な素材をくれればそれで武具を作ろう」 素材か……───俺はすぐにバックパックを出して、それをじいさんに見てもらった。 じいさんはバックパックの中身を見てうんうんと頷いている。 悠介 「やっぱり時間かかるか?」 長老 「なに、軽いものならすぐに出来るわい。ロッタ、次こそ集中せいよ」 ロッタ「は、はい!必ず!───でも一応レラは俺と一緒に居てくれないか?」 レラ 「はいはい、もう……仕方の無いんだから」 長老 「イチャついて失敗でもしおったら許さんぞ?」 悠介 「だな。俺も今度こそ許さん」 ロッタ「うぐっ……だ、大丈夫ですって」 レラ 「そ、そうですよ……。もうあんな居心地の悪さは御免です……」 長老 「ふむ。では客人よ。なにを作ろうかの。     お主の持つ素材ではこんなものが作れるが───」 じいさんが製作可能なものを次々と挙げてゆく。 それは─── トゥースブレード───(氷狼の牙+氷狼の毛皮) 毒針─────────(キラービーの針) ガーゴイルメイル───(ガーゴイルの頭+ガーゴイルの翼+ガーゴイルの爪) エルフの弓──────(レラの持つレフエノの木の枝+ベヒーモスの髭) 獣王の鞭───────(ベヒーモスの髭+キラービーの針) ゴーレムナックル───(ゴーレムの体石) 聖剣ナマクラー────(砕けた剣のカケラ) ───と、なかなか充実していたりした。 流石に聖剣ナマクラーは要らないが、 ファンタジーに憧れる男としては『エルフの弓』は捨て置けない。 ベヒーモスの髭を使うってのは正直驚いたが、それは多分弦に使うんだろう。 問題は……矢が無いことだよな。 悠介 「エルフの弓を作るとしたら『矢』はどうなるんだ?」 長老 「他のものを作らぬのであれば、牙素材から骨の矢が出来るぞい。     ゴーレムの体石から石の矢も出来るし、剣のカケラからも出来る」 悠介 「……なるほど」 長老 「ただ、弓となるとそれなりの弓術の技術が必要じゃが……」 悠介 「問題はそれなんだ。この森、アンデッド系が多いから弓の攻撃が効くかどうか」 特にスケルトン。 骨だから矢が当たり辛いに違いない。 だったら無難にトゥースブレードでいくか? いや、骨が相手の場合はやっぱりナックルの方が…… いやいや意外性を行って獣王の鞭なんかも─── ……いかん、やはりファンタジーの武器製作は男の浪漫だ。 そんな時間はないと解っていても、どうしても迷ってしまう。 長老 「言うまでもないが───エルフの弓を作れば獣王の鞭は作れんぞ。     ベヒーモスの髭が一本しかないからのぅ」 悠介 「……それも問題なんだよ……」 あのベヒーモスの素材を使った武具だ……できることなら両方欲しい。 だがそれは確実に無理なのだ。 くっ、悩ませてくれるぞファンタジー───って、だから考える時間なんて無いんだって。 悠介 「よ、よし。それじゃあエルフの弓を頼む」 長老 「いいんじゃな?     後戻りは出来んぞ───というより、ワシとしては別のものをオススメする」 悠介 「へ?……なんでさ」 長老 「『弓』は『時の砂』が手に入れば嫌でも手に入る。     それも、エルフの弓より高性能なものがな」 悠介 「……そうなのか?まあ素材を渡した者が出来ることは技師を信じることだけだし。     それじゃあゴーレムナックルと獣王の鞭を頼む。ふたつだけど───大丈夫か?」 長老 「任せておけぃ。ロッタ、腕の見せ所じゃぞ。集中を乱すでないぞ」 ロッタ「もちろんです!」 レラ 「私に手伝えることはあるかな」 ロッタ「あぁ〜、レラは傍に居てくれるだけで最高さぁ〜」 レラ 「もう……ロッタったら……♪」 長老 「激烈不安じゃな……」 悠介 「ああ、不安だな……」 けれども素材を任せた俺に出来ることは結局信じること。 三人が錬成工房に入るのを見届けると、鳥の鳴き声が聞こえる木々の下で息を吐いた。 せめて空でも見えれば───と思ったが、 やっぱり見上げてみても見えるのは葉と枝の密集だけ。 どうにもならん。 ───……。 ……。 ……ややあって、武器はふたつとも完成した。 長老 「待たせたの。大急ぎで作りはしたが手抜きはないぞ」 悠介 「助かる」 ナックルと鞭を受け取ると、すぐさまに集落から出る。 声  「気をつけるんじゃぞーーーっ!!」 背にじいさんの声を受けながら、ただひたすらに走った。 真っ直ぐ行けばどうにかなるだなんて思っていない。 早速ナックルを装備すると、手頃な木を殴り倒した。 悠介 「お───おお……!こりゃ頑丈だ……」 ゴーレムナックルは非常に硬く、しかも俺の手にそこまで衝撃を通さない。 お蔭で楽に木を倒すことが出来た───途端。 悠介 「あ……」 倒れた部分に僅かだが光が差し込む。 邪魔なものが無くなった分だけ、光が届いたってことだろう。 悠介 「───よし!どんどん行こう!」 拳をギリッと握り、次から次へと破壊活動を行っていった。 ───……。 突き進むことどのくらいか……。 途中、何処かで俺のことを見ているだろうグルグリーズに声を掛けた───が、無視。 返事する必要がないのか、それとも森に終着がないのか。 ともあれ一直線に折り進んだ先には、ようやく外の景色があった。 どれくらい殴ったのかは覚えてないけど、ここからが勝負だ。 まず行くとしたら神々の泉だな。 そこで創造の理力を回復させて、 あとはブラックホールの転移で彰利を連れていけば─── 声  「ギョォオオオオーーーーーーッ!!!!」 悠介 「───って」 迷いの森の中から、確かに聞こえた声に頬を掻いた。 俺の知る限り、あんな妙な叫び方をするのはひとりしか居ない。 悠介 「ジークン……なんだってこんなところに……」 呟いて、迷いの森に向き直る。 と─── 声  「ギョォオーーーーッ!!!」 再び聞こえる声。しかもかなりヤバイらしい。 悠介 「───ああもう!時間がないってのに!」 ふざけてる中でなら出来るが、普通に人を見捨てることなんて出来やしない。 自分の馬鹿さ加減に頭を痛めるぞ、くそ……!! こんな思考を展開しちまう俺にも、 せっかく出ることが出来た迷いの森に向けて駆け出した自分にもだ───!! 【ケース16:晦悠介(再)/誇り高き古の魂】 スケルトン「ケァアーーーッ!!!」 悠介   「邪魔だっ!」 パキャアッ! スケルトン「オギョッ!?」 次々と襲い掛かるスケルトンどもをゴーレムナックルで砕いてゆく。 両手に備え付けたそれは、まるで削岩機のように対象を砕いていった。 その感触のなんと物楽しいことよ……。 そうなのだ。 俺はあまりゲームをやる方ではないが、いざやるとなると体術を選んでしまう男なのだ。 RPGでも拳一筋、好きなジョブはモンクであり、 某RPGにおいてはヨーゼフの死に様に呆然としたほどだ。 死ぬ意味なかったよヨーゼフ。 悠介 「よっしゃ来ぉおーーい!!」 ガヅゥンッ!!とナックルを打ち鳴らし、モンスターどもの群集に突っ込んでゆく。 どうでもいいがジークンの声のする方向ってどうしてこんなにもモンスターが居るのやら。 ……しかも気づけばジークンの声がどんどん遠ざかっていってるし。 グール  「ォオオオ……!!」 ゾンビ  「ジアァアアア……」 スケルトン「ケァアア!!」 が、目の前には……いやまあ背後にも居るわけだが、 どこを見てもアンデッドなモンスターが俺を狙ってきている。 不死のヤツにはランクの差なんて関係ないんだろう。 悠介   「……どうでもいいけどな、お前ら臭いぞ」 アンデッド『ルゥェェエエーーーーーッッ!!!!』 言いたいことを言った途端、アンデッドモンスターどもが一斉に襲い掛かってきた。 何気に気にしてたのか……? 悠介 「“───戦闘、開始(セット)”」 唱え、体を閃かせた。 放つ拳は槍よりも手数が多く、飛び掛ってきたモンスターを一気に一層できた。 ───が、その後ろからノソリノソリと現れるモンスターども。 悠介 「キリが無いな……しかも臭い」 服に付いたグールの肉片を拭い落とす。 モンスターと戦う際に完全に無視しなければならない事柄。 相手がアンデッドの場合、殴れば腐った肉塊が飛ぶことになる。 しかしその謎の液体や肉塊を怖れていては隙が出来るだろう。 なので肉も汁もくらわんように、出来るだけ高速で動きながら屠りましょう。 もしくは長い武器で─── 悠介 「って、そうか」 思い当たった俺はナックルを仕舞い、獣王の鞭を装備した。 付属されていたグローブも、なんの意味があるのかと思いつつも一応装着。 鞭なんて扱うのは初めてだが───って長いなオイ。 振り回すまでが大変そうだ。 しかも柄……っていうか持つところが毒針を加工したものらしい。 これ自分の手に刺さったら毒受けるんだろうなぁ……。 悠介 「まずは慣れないとな───ハァッ……!!」 長い鞭をヒュンと跳ね上がらせ、まずは振ってみた。 こういうのは力任せよりも遠心力を利用して───パシャァンッ!! ゾンビ「ゲウッ───」 振った刹那、ゾンビの下顎から上が消し飛んだ。 ……すげぇ……鞭の威力って馬鹿にならねぇ。 さすが音速を超える武器だけのことはある。 悠介 「よしっ、いけそうだ───!!」 感覚は掴んだ。 あとはこれをどのようにして行使するかだが───俺は素早く腕を回して鞭を浮かせると、 自分の体ごと遠心力をつけて周り一帯に鞭を振るった。 するとどうだろう。 鞭の長さの射程距離に存在したもの全てが一撃で倒れるじゃないか。 俺は改めて、ベヒーモスの雄大さを知った気がした。 だってこの髭自体に高い雷属性みたいなものが付加されてるみたいで、 当たるだけでもかなりのダメージになるようなのだ。 どうやらこの付属のグローブは、その雷から持ち主を守る役目にあるらしい。 さすがファンタジー……いろんな武器がある。 悠介 「っと、感心してる場合じゃなかった。ジークンを───」 シパァンッと鞭を跳ねらせ、その反動で戻ってきた鞭を束にして一纏めにする。 それを仕舞うと再びナックルを装着して疾駆。 薄暗い迷いの森の中を掻い潜るように走った。 ───走ったが……ガシャコガシャコガシャンコン!! 悠介 「………」 開けた場所に出た途端だった。 妙な石碑が立てられた場所で、急に硬い何かが混じり合わさるような音が聞こえる。 音の発信源は……上!?───ドッカァンッ!! 悠介 「くぅうあっ!?」 空からというわけではないだろうが、 森の中空から降ってきたのは頭の無い巨大なフルアーマーだった。 足から鎖骨まで、全身鎧の存在……だが頭だけが無い。 悠介 「……リビングアーマー!?こんな巨大なヤツが居るのかよ!!」 驚愕も束の間。 身の丈が俺の五倍はあるだろう巨大なリビングアーマーは、 俺に向かって巨大な剣を横薙ぎに振るってくる。 悠介 「っ───!くあぁあっ!!」 それをナックルの甲の部分で受け止める───が。 力がハンパじゃなく、逆に吹き飛ばされてしまう。 宙に浮かされたが体を上手く振り、樹木を足蹴にして体勢を立て直す。 悠介 「上等───“戦闘開始(セット)”」 こんなところで戦ってる場合じゃないだろう。 だが、これも男としての在り方。 モンスターに戦いを挑まれて背中を見せるのは、なんていうか嫌なのだ。 悠介 「武器のリーチが無いのが問題か……鞭でもいいんだけど───」 ゴゥッ───!!! 悠介 「ッ!!はぁっ!!」 風切り音を耳にして右腕を一気に振るった。 するとそこに剣が現れ、ゴギンと高い音を鳴らす。 ───そう。 相手のスピードはそこらのザコモンスターとは比べ物にならないほど速いのだ。 鞭なんて構えれば、それこそ狙ってくれと言っているようなものだ。 悠介 「くそったれ!なんだって俺はこうデカいモンスターに縁があるんだ!!」 そりゃあディルゼイルに『デカいヤツと戦えっていうなら戦ってやる』とか言ったが、 いきなりこれはないだろう。 リビングアーマー『ォオオオオオオオンンンンン!!!!』 吼える。 頭部の無いバケモノは何に向かってか咆哮し、構えた俺に向けて剣を縦に構えてみせた。 悠介 「……?」 無骨なまでにぞんざいな構えに、揃えた肉の無い体と足並び。 俺にはそれが───どうしてか敬礼のように見えてならなかった。 リビングアーマー『ォオオオオオンンッ!!!』 その在り方はまるで『言葉』を知らない幽鬼。 疾駆は刹那に、一歩も数えられない内に目の前に疾った濃い紫色のオーラを纏ったソレは、 俺から見て右下から右上へと掬い上げるように剣を振るう。 風が切られ、地面が裂け、木々が巻きこまれ、一太刀で樹木の年輪が綺麗な姿を現す。 拳を構えるが、確実に嫌な予感を感じた俺は身を伏せてソレをかわした。 ───刹那、大気を刻むほどの鎌鼬が発生し、伏せた体の背を刻んでゆく。 悠介 「づっ───!!」 血が出た───が、大した出血じゃない。 それを確認するや体を起こして距離を詰める。 体が大きい分、一振りの隙が大きいのだ。 それを狙わない手はない……しかし───!! 悠介 「なっ───!?くあっ!」 バギィンッ!───咄嗟に盾にしたナックルが剣を受け止めた。 空振りをし、頭上にあった木々の枝をおもむろに切り裂いていた筈の剣が、 俺の左鎖骨へとあっさりと振り下ろされたのだ。 ガードが間に合わなければ一発でお陀仏だ。 悠介 「チィッ!!」 受け止められて尚、俺を押し潰そうとする剣圧にほとほと呆れる。 力を込めてそれを弾くが、そこに隙が生まれ─── 弾いた筈の剣が即座に振るわれるとそれを捌く。 リビングアーマー『ォオオオッ!!』 悠介      「ァアアアアアアッ!!!!」 幾度も連ねられる連撃。 拳が剣を弾き、剣が拳を弾き。 小回りならこちらが上と踏んでいたにも関わらず、 目の前の存在の速さは俺とそう変わらない。 悠介 「チッ───」 知らず、舌打ちをした。 戦斧石があれば、などと考えたがそれを振り払うように頭を振ると、 さらに攻撃を連ねてゆく。 その悉くが弾かれるが、何も無鉄砲に攻撃だけを繰り返していたわけじゃない。 悠介 「───!今っ!!」 剣が縦に振り下ろされた刹那、その剣に正中線で向き合う状態で紙一重に避ける。 その極なる刹那に、地に向けて落ちる剣に重ねるように拳を落とし、 巨大な剣を地面にめり込ませた。 リビングアーマー『───!?』 悠介      「疾───!!」 ちゃんと地面に埋まったかなんて確認するまでもない。 剣を殴り落としたと同時に俺はもう駆けていた。 リビングアーマーとの距離を詰め、その巨大な足に渾身の一撃をお見舞いする。 悠介 「ォオオオオァアアアーーーッ!!!!」 ガヂィインッ!!!───硬い何かがぶつかり合うような音。 渾身の一撃は具足にヒットし、しかし破壊するには至らない。 悠介 「ッ───!チィッ!!」 一撃じゃ足りない。 この戦士に隙というものがある内に終わらせなければならないのに、 なに一撃で倒せるつもりでいやがる───!! 何度確認すれば気が済むんだ馬鹿野郎!相手は生半可な『人間』なんかじゃないんだぞ! 悠介 「───集中、解放───!!」 深淵にある理力のカスを一点に集める。 これをやればただでは済まないかもしれないが───それでもだ。 リビングアーマー『───!!ォオオオオオオンン!!!』 リビングアーマーが地面に埋まった剣をその地面ごと抜き去り、 剣を振るう遠心力をもって土や草を振り落とした。 やがて俺と距離を取ると、再び足を揃えて胸の前で剣を縦に構える。 ……やっぱりだ。こんな姿をしてはいるけど、こいつ─── 悠介      「───地界人、ドラゴンビーストブレイバー……晦悠介」 リビングアーマー『オ……ォオオ……!          巨人族騎士団……第十一番隊、隊長……ゼプシオン……!』 悠介      「いざ───」 リビングアーマー『いざ───!!誇りある戦いを───!!』 地面が爆発する。 それが疾駆だと気づいた時、 俺は構えたナックルもろとも地面と平行にフッ飛ばされていた。 すぐさまに手頃な木を殴り飛ばして勢いを止め、着地と同時に地を蹴る。 リビングアーマー『ォオオオオオオオンンンン!!!!』 巨人の亡霊が叫ぶ。 恐らくあの石碑はこいつの墓標なんだろう。 眠りについて尚、強者を求める魂がこの森と石碑に根付いていたんだ。 モンスターばっかりだと思ってたけど、まさか巨人族なんてものが居るなんて─── 悠介      「ォオオオオオオオオオッ!!!!」 リビングアーマー『ォオオオオオオオンンン!!!!!』 猛り、ともに己の武具で火花を散らす。 力、速度、耐久度ともに人のソレとは明らかに違う。 こういうものを『段違い』と言うんだろうかと本気で舌打ちをした。 連撃に次ぐ連撃、火花に次ぐ火花。 ナックルは殴り合う度にどんどんと磨り減っていき、それが焦りを呼んだ。 悠介 「くあ……っ!!」 木を殴り倒す衝撃さえ吸収していたナックルから響く衝撃。 木を切り倒すなど赤子の手を捻るよりも簡単だと、 その衝撃を以って説法されている気分だった。 悠介 「───!シッ!」 地を掬うように振るわれた薙ぎ払いを跳躍で避ける。 すぐ後ろにあった木が豆腐でも切るかのように簡単に切られ、 だがそれを跳躍した体で思い切り蹴飛ばすと一気に距離を詰める。 ───いや、詰める筈だった。 それはなんの冗談だったのか、 突如襲い掛かってきたスケルトンが俺の集中力を一気にかき乱した。 俺の標的はリビングアーマーを敵と見据えた時点で 他に集中力を分ける余裕などなかったんだ、当然だ。 集中が途切れた刹那、 木を弾いた跳躍のままに見上げたリビングアーマーが俺を見下ろした気がした。 悠介 「───!!」 やがて振るわれる剣。 しかし───パギャッ!!! スケルトン「ギッ───」 振るわれた剣は俺ではなく、部外者であるスケルトンを文字通り粉微塵にした。 それを視認したと同時に俺は跳躍から地面に降り立ち、 困惑のままにリビングアーマーを見上げた。 するとリビングアーマーは再び剣を胸の前に構える。 悠介 「……仕切り直しって訳か」 まいった。 こいつ……とことんまでに騎士らしい。 邪魔者は無粋な存在でしかなく、一騎打ちとは他者の干渉を許さぬもの。 ……確かにな。 一騎打ちの決着が第三者が作り出した隙の所為で終わるなんて冗談じゃない。 悠介      「───いざ、誇りある戦いを」 リビングアーマー『ォオオオオオオオオッッ!!!!』 大気が震える咆哮もこれで何度目か。 もはや耳を塞ぐ行為でさえ失礼と断じ、全身から全力で隙というものを排除してゆく。 ───いつでもそうだった。 全力以上の戦いをしなければ勝てなかったのがこの空界に居る存在。 だったら全力以上の全力を出さなければ勝てる道理なんて存在しないのだ。 相手はこんな姿になっても誇りを糧に戦う存在。 それが俺を敵と見なして一騎打ちを申し込んだのだ───応えないで何が男だ。 悠介 「疾───!!」 再び疾駆。 余力など考えず、自分の出せる限りの速度で地面を蹴り、 振るわれた剣さえも地面を滑走するように身を屈めてくぐる。 リビングアーマー『───!?』 その無茶な動きが予想外だったのだろう。 リビングアーマーは確かな驚愕を見せ、だがその隙も刹那に潰える。 逃す隙などあってはならないこの戦い。 だが隙と解っていても尚消される隙の速度も、それこそ互いが互いを強者だと思えばこそ。 自惚れるつもりなどさらさらないが、こいつは俺との戦いを楽しんでいるような気がした。 悠介 「“突き穿つ(ディグスラスト)”!!」 残りカスを絞り、イメージを拳に込めての一撃───!! それは先ほど殴った具足の部分を的確に狙い撃ち、 だが次の瞬間にはリビングアーマーの盾によって俺の体は横殴りに吹き飛ばされていた。 悠介 「づ、あぁあっ!!」 すぐに体を曲げる反動で地面に足を着き、それでも止まらない衝撃と反動に地面を滑る。 リビングアーマーはそれさえ隙と断じて一気に疾駆をし、 それを確認するや否や俺も敢えて滑っていた足を弾かせ、バックステップをしていた。 瞬間、地面を抉り裂く巨大な剣。 俺はステップした背後にあった樹木を足蹴にすると同時に体を前へ出すと、 地面に埋まった剣に一撃を加えて再び数瞬の隙を作る。 悠介 「“───突き穿つ(ディグスラスト)”!!」 潜り込ませた体を再び捻り、渾身とともに理力のカスを弾けさせる。 狙う場所は同じ。 なんとか弾けた理力はナックルに輝きを齎し、 リビングアーマーの体を纏っていたオーラを拳の一撃とともに数瞬の間掻き消した。 途端、オーラが掻き消えた具足に亀裂が走った。 リビングアーマー『グォオオオオオオオッ!!!!』 ───!そうか……このオーラ。 これがこのリビングアーマーの強度をこんなにも高めて……! 悠介 「“───突き穿つ(ディグスラスト)”!!」 さらに拳を固め、イメージの解放をして殴りつける。 ───否、殴りつけるつもりだった。 だがその途端に俺の視界が真っ赤に軋み、吐き気とともに眩暈が起こる。 悠介 「は、あ───づっ……!!」 しかしその歪む視界の中でハッキリと見たリビングアーマーの行動。 俺はなんとかバックステップを───ガギャァアアンッ!!!! 悠介 「がはぁあっ!!!!」 なんとか構えていた左腕のナックルが砕け、 バックステップだった筈の小さな跳躍は飛翔へと変わっていた。 埋まった剣を土ごと振るってきたその衝撃に俺は弾丸と化し、 開けた森の端の大木に体を強打する。 悠介 「ぐぶっ……がはっ!!」 血を吐いた。 背骨が軋む音を確かに耳にし、しかしそれでも降参なんてしてやらない。 衝撃から解き放たれた体を無理矢理起こして、右腕だけで構えた。 ナックルとともに砕けた左腕は、もう使いものにならないだろう。 リビングアーマー『ゴォオオオオオオオンンンッ!!!!』 何度目かの疾駆。 リビングアーマーはその巨体からは信じられないくらいの速度で地を走り、だが─── リビングアーマー『───!?』 突如にその体が崩れ、咄嗟に振り下ろした剣が大地に刺さる。 騎士として倒れるわけにはいかないのか、 体勢が崩れた原因である砕けた左足を震わせてなお立ち上がる。 砕けた部分……それは俺が散々狙った箇所だった。 よかった……どうやら無駄じゃあなかったらしい。 悠介 「ち、くしょう……」 それでもこちらはいっぱいいっぱいだ。 相手の速度は殺せたが、果たしてあと何回拳を振るえるのか。 悠介 「……なに言ってんだ。そんなの───」 そんなの、自分が死ぬか相手が死ぬかの瞬間までに決まってる───!! 構え直し、疾駆する───いや、しようとした瞬間、俺の目の前まで迫り来る影があった。 確認するまでもない、リビングアーマーだ。 砕けた足を使わず、片足だけでこれだけの速度を出して見せたのだ。 あれだけあった距離が、地面を滑るような超低空の跳躍で一瞬だ。 俺はなんとかそれを横に避けることで、片足が使えない相手の隙を作ろうとしたが─── リビングアーマー『ォオオオオオオオオンン!!!!』 ───隙だなんてとんでもない。 片足だけで跳躍したリビングアーマーは、さらに片足だけで着地とともに疾駆。 地面を爆発させつつ、猛攻を避けた俺へと距離を詰めてきた。 ……判断ミスだ。 片足が潰れれば相手の速度が落ちるだなんて、それは人としての常識にすぎない。 相手は俺の知識なんて簡単に跳ね除ける存在だっていうのに、なんて愚か───!! 悠介 「くっそ───!!」 振るわれた剣を、受けるんじゃなくて弾くことで軌道を変えさせた。 刹那に横で爆裂する地面。 あんなものをまともにくらったら、俺があの地面のように肉塊になるだけだろう。 しかしそんな思考をする暇もなく、 再び片足で着地すると同時に地面を弾くリビングアーマー。 こちらは体勢を立て直す暇も無いっていうのに、相手の速度と力は相変わらずだ。 悠介 「なんとかあのオーラが消せれば……!」 再び剣を弾くとともにイメージの解放。 真っ赤に軋んだ視界がさらに軋むが、どのみち勝てなければ死ぬだけ。 これはそういう戦いなのだから───出し惜しみをした時点で敗北なんて決定する。 だったら───!! リビングアーマー『ォオオオオオオオオンンンッッ!!!!』 再度の疾駆。 俺はそれに合わせるように剣を弾くとともに、 空洞になっているリビングアーマーの中へと存在しない首の部分から潜り込んだ。 悠介 「ぐ、っ……づ、あぁあああっ……!!!」 その瞬間、紫色の凶々しいオーラが俺の皮膚を焼いてゆく。 しかし俺はそんなことさえ気にせずに、少しずつ溜めたイメージを解放し───ザギンッ! 悠介 「なっ───!?」 ───鎧を突き破って俺の頬を切り刻んだその巨大な剣に驚愕した。 自分の身に入り込んだ異物を取り除くためならば、 自分を傷つけることさえ躊躇しない在り方。 しかし幸か不幸か、その一撃がリビングアーマーの体のオーラを数瞬歪ませたのだ。 ───思うに、この鎧を纏うオーラはこの鎧自身が放つもの。 それはこの鎧自体がオーラの発生装置みたいなものになっていて、 装置ってのは傷つけられれば弱まってゆく。 ならば己を傷つけたこの一撃こそが、リビングアーマーにとっての失態だったということ。 悠介 「イメージ解放───!!」 この誇り高き騎士が出した、今までで最高の隙を逃す手は無い。 枯渇した理力を生命で補うようにイメージを振り絞り、 体が血を噴き出そうともイメージの解放を止めはしなかった。 それでも解放できるイメージなんて、それこそ雀の涙程度のものだ。 だがオーラが歪み、巨大な剣が鎧に亀裂を作った今なら───!! 悠介 「ッ……“突き穿つ(ディグスラスト)───”!!」 亀裂をなぞるように渾身の一撃を叩き込む。 オーラを歪ませた鎧は今までの頑丈さが嘘だったかのように砕け、 俺はその砕けた部分から鎧の外へと脱出した。 ───しかし。 リビングアーマー『ルォオオオオオオオンンンッ!!!!』 それでも。 鎧が大きく砕けようとも、それでもリビングアーマーは止まらなかった。 咆哮し、鎧を貫いていた剣を抜き去ると同時に再び疾駆。 もう走るだけの力も残っていない俺目掛けて、巨体から放たれる一撃は振り下ろされた。 悠介 「───!!」 もうダメか、と思った時だった。 どういうわけかその剣が虚空で停止し、リビングアーマーの体が震え始める。 さらには自分の体を剣で砕いていき、 その場に崩れ落ちそうになったところを剣で支えるようにして蹲った。 悠介 「…………」 訳が解らない。 けれどもリビングアーマーを覆っていた紫色のオーラはどんどんと消えてゆき─── 紫色だと思っていた鎧が白銀のそれに変わると、 何もなかった筈の頭部が現れた。 もちろん、存在していなかった肉体もだ。 悠介 「これは……?」 現れた体、現れた巨人の顔が俺を見下ろし、やがて薄い笑みを浮かべ─── 巨人 『……礼を言う、少年。いい戦いだった……』 俺に、そう言ったのだ。 俺は訳が解らないままに巨人を見上げ、その意味を知るために開口した。 悠介 「いい勝負なもんか……最後の一撃を止めなければ、あんたは俺を殺せた筈だ」 当然だ。 俺はあの時、もう動く力も残ってなかった。 あのまま振り切れば俺は微塵と化し─── 巨人 『……いいや。最後の一撃は私の意志ではない……。     生前に身に着けていた鎧によるものだ……。     己の敗北も悟れず無様に突進することは我が騎士道に反し、     己の意思以外の決着は私の望むところではない……』 既にいい歳だったらしい巨人の騎士は、そう言うと真っ直ぐに俺の目を見た。 巨人 『幾年ぶりか……私を打ち負かす存在など。     我を失ってから幾千年、二度と敗北など無いと断じていた私が……。     ───いいや、もはや過去は振り返るまい。私は全力を出し、そして負けた。     鎧に意識を奪われていた時点で、もはや私は負けていたのかもしれない』 悠介 「………」 俺はただ呆然と巨人を見上げていた。 巨人の体から完全にオーラが無くなったと同時に、 巨人の体がどんどんと崩れていっているのだ。 巨人 『……いい勝負だった。……私の負けだ、少年───』 最後にそう言い残すと、 敗北を認めたと言うにはあまりにも穏やかな笑顔のまま、塵と化した。 悠介 「………」 知らず、俺は石碑に頭を下げていた。 戦いの中で砕けた石碑にはもはや何が書いてあるのかも解らず─── しかしひとりの男として、ひとりの騎士に敬意を表し、頭を下げていた。 薙ぎ倒された木々と、そのお蔭で見上げることの出来る大きな蒼空を仰ぐ。 やがてその場に吹いた風に流されてゆく塵を見送りながら、俺はもう一度頭を下げた。 Next Menu back