───FantasticFantasia-Set11/空界の歴史、国王としての在り方───
【ケース26:晦悠介(超再)/シゲル】 ───……ゴコォ……ン……。 背後で巨大な扉が閉ざされた。 国王就任の儀式だかなんだか知らないが、 レファルド皇国での仕来りに則った大袈裟な儀式がようやく終りを告げた。 大臣 「国王、今この時を以って、貴方は栄えあるレファルド皇国の王です。     民たちの見本となるよう、誇りを以って努めてください」 悠介 「………」 煌びやか、と言っていいのだろうか……ともかく大袈裟な装飾が成された広い廊下を歩く。 儀式が終わったら今度は民たちへの挨拶なんだそうだ。 王ってのは大変だな、これじゃあ見世物のパンダじゃないか。 人として存在してる気分じゃない。 大臣 「さ、国王」 悠介 「はぁ……」 溜め息が出るのは仕方が無い。 つい近日にこの先にあるテラスのような場所で演説してたのがオウファだ。 俺にあんなことをしろっていうのは土台無茶な話だ。 大多数のヤツに言えることだが、俺の何処を見て『王の器だ』なんて言えるのやら……。 でも言ったことは全力で守るつもりだ。 そう……俺は王になる。そう決めたんだ。 たとえそれが短い間のことだとしても、辞めてしまうまではやれるとこまでやりたい。 ───そんなことを考えている内にテラスへと辿り着く。 俺の姿がその場に現れた途端に耳をつんざくような歓声と、 俺を見上げて手を振る大勢の民たち。 けど俺は、そんな景色にとことんまでに嫌気が差した。 悠介 「なぁ大臣」 大臣 「は。なんでございましょうか国王」 悠介 「お前、ふざけてるのか?」 大臣 「は……?そ、それはいったいどういう───」 嫌気が差すのも当然だ。 見本になれって言ったばっかりなのに、なんだって───!! 悠介 「大臣、下に降りるぞ」 大臣 「なっ───お待ちください!まだ挨拶も禄に───」 悠介 「挨拶なら下でやる。……お前な、本気でこんなところで演説しろっていうのか?」 大臣 「は、は……?な、なにかおかしな点でも……?」 悠介 「……お前、てんで解ってないな。     それでよく見本になるようになんて言えたもんだ……」 大臣 「……?」 ともあれ、俺は大臣を置いてテラスから飛び降りた。 民たちはそれはもう驚いていたが、俺が着地するのを見ると胸を撫で下ろした。 民1 「こ、国王がこんなに近くに……!」 民2 「なんてステキな方……!あんなお方と結婚したいわ……」 悠介 「こら。会ったばかりの男と『結婚したい』なんて言うもんじゃない」 民2 「え……?」 民が困惑の顔で俺を見る。 俺はそんな民たちを前に、同じ視線の高さで言葉を発した。 悠介 「みんな、よく聞いてほしい。国王だの民だのと言っても、結局それは人間だ。     出来ることと出来ないことっていうのがあって、     国王にしか出来ないことと民にしか出来ないことが確かにある。     けどそれは、言ってしまえば『やろうとしないだけ』であって、     国王だって畑を耕そうとすれば耕せるし、     民だってやろうと思えば財政だって出来る。     俺は今、確かにこの国の国王として迎えられた。     けれどそれを盾に踏ん反り返るつもりはない」 ざわ、と───民たちからそれぞれの困惑が漏れた。 悠介 「ついさっき俺は、大臣に『民たちの見本になるように』って言われた。     国の王になるんだ、確かにそれは本人がどう嫌がろうが仕方ないことだと思う。     けど民たちと同じ視線で向き合わない王の何処が見本だ?     俺はあの場所からお前たちを見下ろした時、本当に嫌気が差した。     何故か?それは自分がお前たちを見下してるような気がしてならなかったからだ。     ……俺達は人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。     確かに上下関係ってのは嫌でも出てくるものだけど、     それはどちらか一方が嫌がっているのに無理にするようなことじゃない」 民1 「国王さま……」 民3 「国王……」 悠介 「だから最初に言っておきたい。俺はこの国の王になるけど、     威張るようなことはしないし無茶をするようなこともしない。     出来るならお前らの力になりたいし、でも出来ないことはやっぱりある。     そんな時は、同じ人として力を合わせて乗り越えていきたいと思ってる。     ……頼りない国王だろうけど、お前たちは俺を信頼してくれるだろうか」 民たちに訴えかけた。 途端、落ちた水滴の音さえ聞こえてしまうような静寂が、その場を支配した。 時折ざわざわと隣の人と話をするような声が聞こえたが─── 子供 「……あのね、おにーちゃんこくおー」 悠介 「うん?」 トコトコと、俺の足元に歩いてくる子供が居た。 くいくいと俺が着ている王族衣装を引っ張っている。 民4 「あっ……レナッ!申し訳ありません国王!どうかお許しを───!」 悠介 「待った」 民4 「え……?」 悠介 「服を引っ張られたくらいで怒るやつが何処に居る。     慌てなくても大丈夫。べつに取って喰ったりはしないよ」 民4 「こ、国王……」 近寄ってきた母親らしき女性に微笑みかけた。 どうせまた苦笑めいた笑みだっただろうけど、 その母親は心底安堵したように息を漏らした。 そうしてから子供の視線に合わせるためにその場に屈み、 今度こそ笑むことが出来たと思う。 悠介 「どうした?」 レナ 「あのね?レナね?」 悠介 「うん」 レナ 「レナ、おにいちゃんこくおーのこと、だいすきだよ」 悠介 「……へ?」 俺のことをお兄ちゃん国王と言った子供は、俺のモミアゲをキュッと掴んで笑った。 レナ 「おにいちゃんこくおー、まえのこくおーみたいに、へんなかんじがしないもん」 悠介 「………」 なんて言えばいいのか……子供ってのはやっぱりいろいろ見てるもんなんだな。 正直、素直に感心した───その時だ。 悠介 「え……?」 その場に、割れんような歓声と拍手、そして笑みが溢れたのは。 その場に居た民全員が何かを喜ぶように騒ぎ、中には涙する人まで居た。 当の俺は何が起きているのかもよく解らず─── レナ 「おにいちゃんこくおー?」 悠介 「おにいちゃんでいい。やっぱり俺は国王なんてガラじゃない」 子供に『にぃっ』と笑いかけると、俺は王族衣装を脱ぎ捨てて叫んだ。 悠介 「いい国にしよう!!活気溢れるやさしい国に!!     他の誰でもない、国王じゃなければ大臣でもない、俺達民の力で!!」 民たち『ウォオオオオーーーーーッッ!!!!』 そう、畏まる必要なんてなかった。 国民と向き合えっていうなら、それこそ俺は王じゃなくて民になるべきだったんだ。 俺はなんだか嬉しくなって、 俺が脱ぎ捨てた王族衣装を被ってもがいてた少女を肩に抱き上げた。 レナ 「ひゃううっ!?」 悠介 「レナ、って言ったか?この国は好きか?」 レナ 「えっと……まえはきらいだったよ?でもいまからすきになる〜」 悠介 「そっか。だったらみんなで頑張らないとな───」 騒ぎ、何故か俺を胴上げしだす民たちに、思わず苦笑が漏れた。 俺とレナは宙に舞い、それでも笑い合ってゴシャアッ!! 悠介 「ぐあっ!?」 民75「ゲェエエーーーーッ!!!国王を落としちまった!」 民54「こりゃやべぇ!!!とんずらぁあーーーーっ!!!!」 国民が蜘蛛の子を散らすようにとんずらする。 それを見るとやっぱり思うのだ……やっぱり王も人間であるべきだと。 悠介 「いつつ……なぁ、威張ってる王は、いいと思うか?」 ぶつけた鼻を擦りながら、なんとか庇ったレナに訊いてみる。 するとレナは首を横に振り、 しかし笑って『レナ、おにいちゃんのおよめさんになるー』と言ってみせた。 悠介 「んー……悪いけど、俺は『一応』結婚してる身なんだ。だからそれは出来ない」 レナ 「レナ、にごうさんでもいいよ?あいじんあいじん〜♪」 悠介 「ヘンなこと教えてる保護者ちょっとこっち来いコラ……」 民4 「はっ……え、ええと……!」 ともあれ息を吐くと、何故か戻ってきた民たちに向き直って苦笑する。 どのくらい国王やるのかは解らないけど、とりあえずってことで。 悠介 「まあその、これからよろしく」 民  『ハワァアアーーーーーッ!!!!』 そしてまた歓声。 騒がれる中で俺は当然困惑して、 やっぱり騒がしすぎるのは苦手だなぁと苦笑するのだった。 ───……。 ……。 大臣 「まったく……前代未聞ですぞ!!」 悠介 「そうか?」 再び大きな部屋に戻ってきた俺は、 窓からの景色を見下ろしながら大臣の声に耳を傾けていた。 大臣 「あのようなことでは民たちに示しが付きません!     民がつけあがり、暴動など起こしたらいかがなさるおつもりか!!」 悠介 「いいんじゃないか?それが民の意思なら」 大臣 「はっ───!?」 悠介 「だから、ここは王の国なんかじゃなくて民の国だ。     俺も所詮ここに住まわせてもらってるだけにすぎないし、民にしたってそうだ。     国ってのは民と王とが協力して初めて成り立つものだと思う     そんなことも出来ない国は国なんかじゃなくて、ただの住処の群れだ」 大臣 「し、しかしですなぁ……!!」 悠介 「それでダメになっていくなら仕方が無いだろ。     一部の民がそれを望んでるってことだ」 大臣 「で、では!その一部以外の民たちはどうするおつもりか!」 悠介 「だから。それは民たちの問題だろ。     そこに王が出てって『くだらんことはやめろ』とか言ってみろ、     それこそ暴動が起きて潰れるだけだろ」 大臣 「う、ぐ……」 悠介 「全部流れに任せろなんて言わない。俺は俺に割り当てられた仕事をするだけだし、     それは民にだって言えることだと思う。     相応不相応を知らなきゃダメだろ、こういうのって」 大臣 「……この国に仕えて20年……貴方のような王は初めてですぞ……」 悠介 「迷惑だったらすぐにでも辞めるよ。     俺自身、こういうのには向いてないって思ってるんだ」 大臣 「いいえなりませぬ。     王となった以上、『言われたから辞める』などと言ったことは許しませんぞ」 悠介 「……はぁ」 頬を掻く。 ファンタジーに憧れはしたが、別に王室に憧れるようなことはない。 俺はどっちかっていうとあの迷いの森……っと、もう迷いの森じゃなかったんだったな。 あの森の集落あたりが肌に合ってる気がする。 こんな、綺麗なだけの部屋なんて肩が凝るだけだ。 一言で言えば『自然が欲しい』。 晦神社然り、森の集落然り、神々の泉然り─── 俺はああいう、建物の密集から遮断されている場所にこそ身を置ける気がする。 大臣 「では早速ですが国王。聞けば国王は空界人ではなく地界人とのこと。     地界人が空界の皇国であるレファルドの王などと、それこそ前代未聞。     これから空界のことをみっちり習っていただきますぞ」 悠介 「解ってる。最初からそのつもりだし、こっちの歴史にも興味があった」 大臣 「なんとも珍しい。『歴史』に興味を持つ者などそうそう居ないと思っていたのに」 悠介 「いいからいいから。代わりに地界の歴史も教えるから、一緒に勉強でもしよう」 大臣 「一緒に、ですか。なんだかおかしなものですなぁ。     しかしこのダイ=ジン、歴史のことでは遅れを取らぬつもりです。     よろしいでしょう、その勝負……受けて立ちます」 悠介 「べつに勝負しようっていうんじゃないんだけどな。     ていうかダイ=ジンって名前なのか?     俺はてっきりセバスチャンとかアフルレッドとかかと……」 ここまで名前がそのままなヤツも珍しいと思うが。 ジン 「セバスチャンは先代大臣の名ですな。アルフレッドはその先代です」 悠介 「………」 ホントに居たのか……。 ともあれ俺とジンは立ち上がり、皇国の蔵書がある書斎へと足を運んだ。 そこで空界の歴史を学ぶこととなり、時には俺が地界の歴史を教えることとなった。 結果は…… ジン 「ほうほう、地界のニッポンという場所にはそういう歴史が。これは興味深い」 悠介 「おお!解ってくれるかジンさん!     いやいや空界も奥が深いな!これなら勉強も楽しくなる!」 ……なにやら楽しいことなっていたりした。 ジン 「しかし惜しいですな。地界の本があればそういったものを勉強できるのに」 悠介 「そういうことなら任せてくれ。俺の知識のあらんばかりを本に変えて創造しよう。     あ───でも地界の文字とか解るか?」 ジン 「馬鹿にしてもらっちゃあ困りますぞ。     このダイ=ジン、大臣に就いてからというもの、他の世界のことも調べました。     流石に歴史とまではいきませんでしたが、大半の文字は理解できるつもりです」 悠介 「だったら話は早い。俺の知識を纏めた本が出ます───………………弾けろ」 1ページ1ページを鮮明にイメージして創造。 細かい分、いつもよりイメージに時間がかかった。 それでもこうしてポムッと創造出来るあたり、なんだか自分を誇りたくなる。 ……誤字なんかが無ければいいが。 ジン 「これが?」 悠介 「そ。えーと……」 パラパラと流し読みをしてみる───と、どうにも平仮名ばっかりで書かれていた。 急いでイメージしたからだな……一番簡単なもので書かれてしまってる。 悠介 「これでいいか?ダメなら新たに創ってみるつもりだけど」 ジン 「ええ、これで構いません。     白状すると、『漢字』というものには慣れていないのです。     お心遣い、感謝の極みですぞ」 悠介 「べつに心遣いだったわけじゃないんだが……まあいいや」 創造した本をジンに渡すと、俺は空界の本を次々と読んでいった。 中にはきちんと『巨人の里』というものが存在したとされる歴史もあり、 巨人族の英雄として『ゼプシオン=イルザーグ』という騎士団長の名もあった。 悠介 「───……」 ───ゼプシオン=イルザーグ。 空界の巨人族として竜族と果敢に戦った英雄。 巨人族騎士団第十一番隊隊長を務め、 しかしその実力は他の巨人とは明らかに離れた実力だった。 その一太刀は竜の鱗さえ切り裂くと云われ、 竜族と渡り合えたのもこの者の存在があってこそだったとか。 しかし里の平和を願うあまりに力を望み、 呪いの鎧に手をつけてしまったゼプシオンは呪われることとなる。 強者を求める鎧と化した彼は黒竜王に戦いを挑み、 しかし黒竜王どころか、その家臣である黒飛竜ジハードによってその命を落とす。 結果的に巨人族は竜族に敗北し、里は滅んだのだという。 それを哀れんだ人間がゼプシオンの勇姿と巨人族を忘れぬために、 とある森に石碑を立てたんだとか。 ───けどそれだけじゃ終わらなかったそうだ。 英雄の石碑を一目見ようとその場に訪れたブレイバーは、 その悉くが巨大な鎧のバケモノに襲われたらしい。 紫色のオーラを纏った鎧には首が無く─── 生前、ジハードに顔面を消し滅ぼされることで絶命した ゼプシオンの霊ではないかと書かれている。 でも追記には─── しかしあの霊がゼプシオンなのだとすれば、竜族と戦ったという噂は嘘になる ───と書かれている。 その鎧のバケモノは竜族と渡り合ったとされるにはあまりに力不足だったのだそうだ。 バケモノと化したからなのか、それとも鎧によって弱体化したからなのか。 その真偽は今となっては解らない……と書かれている。 悠介 「………」 迷いの森で戦った巨人の霊は、確かに自らをゼプシオンと名乗った。 もし彼が生前、ドラゴンと戦っていたのだとしたら……確かに心許ないかもしれない。 あのリビングアーマーは確かに強かった。 けど───あの強さでは竜族と……ましてや黒竜王ミルハザードと渡り合うなんて無理だ。 だからこそこのジハードいう黒い飛竜に殺されたんだろうし…… しかしもし、あの鎧の所為で本来の力を出せていなかったのだとしたら、 それは紛れも無く英雄と呼ぶに相応しい勇ましさだったのかもしれない。 悠介 「……絶滅、か……」 最後に書かれていた『こうして巨人族は絶滅した』という文字に寂しさを感じた。 一言にファンタジーと言ってもいろいろあるのは当然だ。 俺達がこの世界に降りてきた途端に物語が始まるわけじゃないし、 この世界はゲームや夢なんかじゃなくて現実だ。 死ねばゲームオーバーとかいって、直前からやり直しが出来るわけでもない。 そういったものの末路がこの巨人族の滅亡なんだろう。 悠介 「………」 名残惜しさ、と言っていいものなのか。 ともかく俺は後ろ髪を引かれるような思いのままに、巨人族の歴史の本を閉じた。 ───……。 しばらく本に見入っているとジンが俺の傍に来て、 俺が創造して渡した本を開いて見せてきた。 そこには───懐かしのミズノスペシャルの写真が存在していた。 どうやら現在、料理部分のページを見ているらしい。 ジン 「地界ではこれが一番美味しいのですか?」 悠介 「美味しいっていうか、敵わない。多分俺が食った中で一番美味かった料理だ。     俺も何度か試したんだけどな、どうしても一味足りない」 ジン 「国王、貴方は料理をなさるのですか」 悠介 「一応って程度には。知人の中じゃあ三番目だ」 一番がミズノおばちゃんで、二番目が彰利だ。 このふたりにはどうしても料理では勝てる気がしない。 特に彰利の場合、料理に関する知識じゃあ500年以上の差があるからな。 それでもミズノおばちゃんには勝てないってあたり、 あの人の料理の腕はバケモノ級だな……。 ジン 「ほうほう……地界の食文化もなかなか……」 悠介 「中でも昔っから伝えられてきている料理が一番だな。     ご飯に味噌汁、漬け物に海苔に焼き魚……こたえられん」 大人になった時、楽しみだったのが握り飯と冷酒の組み合わせだったんだよなぁ。 あれは美味かった……あれのために良い酒を探し回ったこと、今でも覚えてる。 ルナのやつ酒に弱くて、一口飲んだらひっくり返ってたっけ。 悠介 「ジンさん、空界で一番美味いって思うものってなんだ?」 ジン 「空界でですか?はは、それを言ったらひとつしかありません。     といっても私が美味いと感じるものなのですが……     空界の中央、ジンストン地方にある泉にのみ生息するウィリブ……     地界で言う魚ですね。まあその魚が居るのですが……     その魚の卵がなんとも言えぬ美味さでして」 悠介 「魚の卵か……」 ジン 「ただ今では絶滅の危機に瀕しています。     卵を狙うくだらない美食家が居まして、年々魚の数が減っていっているのです」 悠介 「そうなのか……───よし、最初の仕事はその魚を救うことにしよう」 ジン 「えぇっ!?そんな、どうやって!」 悠介 「運が良ければなんとかなる。ちょっと聞きたいんだけど、     ジンさんはその卵を食ったことがあるんだよな?」 ジン 「あ、はい……恥ずかしながら」 悠介 「いや、今はそれが『良かった』って思えるんだ。味は覚えてるか?」 ジン 「味、ですか。一応覚えてはおりますが、鮮明にとまでは……」 悠介 「……そうか」 それは困ったな……鮮明に覚えててくれなきゃ困るんだが……。 悠介 「……仕方ない、そのジンストン地方の泉に行こう。こうなったら実力行使だ」 ジン 「は……いったい何を……?」 困惑するジンさんを余所に、俺は窓を開け放った。 そしてそのままの勢いで飛び降りると、黄竜珠を突付いてディルゼイルを呼び出す。 悠介 「ディル、世界の中心にあるジンストン地方に行ってもらえるか?」 ディル『安い用だ。行くぞ───!』 その背に乗って風を切る。 向かう先でなにをするのかといえば、絶滅の危機を救うためのことに他ならない。 ───……。 で、そこには大した間も無く到着した。 さすがディルゼイル……と言いたいところだけど、今はそれどころではない。 男  「クックック……ジェットモモンガは妙な男に邪魔されましたけどね……。     このウォルトデニスの卵は     ジェットモモンガとは比べものにならないくらいに高く売れますからね……!!」 先客が居たようだ。しかも何処かで見た顔。 以前アントエンハンス地方で、森で見かけた密漁者だった。 しかしウォルトデニス…… 一応読んでた本の中にも出てきたけど、ここに居る魚がそうなのか。 男  「クックック……魚はいいですねぇ、逃げはしますが卵は守りません。     まったく飛竜の卵を食べたいなんて、     食通から依頼があった時はどうしようかと思いましたよ」 悠介 「───……」 その言葉を聞いたら、俺は無意識に竜王の珠を突付いていた。 するとその場に三体の飛竜が舞い降り、ズシンと地震めいた着地をする。 男  「あ〜ん?」 ディル『飛竜の卵を喰う、だと……?』 ヴァル『食通が聞いて呆れます。     あなた……生まれてくる筈だった我が眷属たちの恨み、受けてみますか?』 アーガ『眷属がどうとかは関係ねぇけどよ。     一歩間違えれば俺が卵のまま食われてたなんて考えるとゾッとするぜ。     お前、ただで帰れると思うなよ?』 男  「なっ……あ、あがが……!!ひ、ひひひ飛竜ぅううっ!!!?」 三体の飛竜にドシンドシンと詰め寄っていく。 当然、密漁者はその場にヘタリ込んで震えるだけだ。 ……ていうかアーガスィー、もう平気なのか? 悠介 「アーガスィー?殺しはご法度だからな」 アーガ『ぎっ───あ、ああ!解ってるぜ蒼竜王!!』 悠介 「………」 あまり大丈夫というわけでもないらしい。 男  「あっ……あ、貴方は……!!」 悠介 「よっ、久しぶりだな。元気だったか?」 男  「たたた助けてください!急に飛竜たちがこんな場所に現れて───!!」 悠介 「俺が連れてきたんだから言われなくても解ってる」 男  「連れてきた!?───ひぃっ!?ド、ドドドッドラゴンルーラーの称号!?」 悠介 「じゃあ、くれぐれも殺さないように。     俺はウォルトデニスっていう魚を探すから」 三飛竜『了解』 震える男の横を通り過ぎると、そこにはどこまでも澄んだ泉があった。 風景は神々の泉のそれと酷似していて、 おそらくこの泉も神々の水が少なからず混ざっているんだろうと、なんとなく思った。 しかしこの泉にあって神々の泉にないものがある。 それは───なにやら恐ろしく深そうな穴と……生物の存在。 この泉の中には確かに魚が生息しているが、 神々の泉には魚はおろか他の生き物も生息していなかった。 ……水の中には、って意味だが。 悠介 「……よし、分析開始───」 泉の底にある岩の傍らにあった卵を分析する。 もちろん一箇所にあるものだけではなく、別の箇所にあるものもだ。 ついでにウォルトデニス自体の分析もして、 それが終了すると次に泉の成分を分析し、頭の中に叩き込む。 悠介 「あとは……」 あとはこの泉の周辺に、人が通れない膜でも創造しておこうか。 ……うん。 悠介 「じゃ、戻ろうか」 ディル『なに?もういいのか王よ』 ヴァル『まだ物足りないのですが……』 アーガ『つーか気絶しちまったぜこいつ。どうする蒼竜王』 悠介 「うおう……」 見れば、飛竜たちに囲まれて失禁しながら気絶している男が。 どうしたものか───ってそうだ。 悠介 「棒人間の集落に続くブラックホールが出ます───弾けろ」 纏めたイメージを弾かせると、その場にブラックホールが出現する。 投じるのはもちろん密猟者だ。 ヒョイと投げてやると、なんの抵抗もなくズゴゴゴゴと飲み込まれていった。 悠介 「じゃ、行くか」 ディル『了解だ、王よ』 ヴァル『王、たまには私がお運びいたしましょう』 アーガ『俺は面倒くせぇからさっさと珠に戻らせてもらうぜ。いいよな、蒼竜王』 悠介 「ああ、構わない。ディルもいいよな?」 ディル『む……王がそう言うのなら仕方ない。ヴァルトゥドゥス、今回はお前に譲ろう』 ヴァル『感謝します。さあ王、まいりましょう』 もうこいつらに王って呼ばれるのは慣れたよ俺……ていうか慣れなきゃやってられない。 何度言っても俺のことを王としか呼ばないんだもんなぁ……。 ともあれディルゼイルとアーガスィーが珠の中に戻るのを確認すると、 俺はヴァルトゥドゥスの背に乗った。 悠介 「じゃあ悪い、頼むよ」 ヴァル『了解しました。レファルド皇国に戻ればいいのですね?』 悠介 「ああ。皇国城内の庭でウォルトデニスを孵してみる。     一応水の分析と一緒に微生物の分析もしたからなんとかなると思うけど───」 ヴァル『養殖をする、ということですね?さすが王、絶滅種を育てようとは』 悠介 「そんなこと言うなよ。ほんとは自然の在り方に人が手を出すべきじゃないんだ。     自然に絶滅するのは仕方ないことかもしれないけど、     それが人の所為だとしたらあんまりに居た堪れないだろ?     だから苦肉の策だけど、こうやって養殖って手段を選んだんだ。     あ、言っておくけど食用にするつもりなんてないからな。     ニセモノになるだろうけど同じ環境を創って、その中で育てていく。     それで上手く孵ったらこの泉に放してやるんだ」 ヴァル『しかし王、環境を同じくしても     ここで育つのと他で育つのとではやはり些細な差が出ます。     その些細な差がここに居るウォルトデニスを病気にするかもしれません』 悠介 「んー……それは俺も考えたんだけどな。どうしたもんかな」 ヴァル『自然は自然に任せるのが一番でしょう。     ならば、少し残酷かもしれませんが養殖のウォルトデニスを食用にするのです。     そうすればここが狙われることもないでしょう』 悠介 「………」 食用にする、と言われた時……正直ギクリと来た。 だってそうだろう。 それはつまり、俺がこの魚を食用として育てるきっかけとなってしまうってことだ。 そりゃあ俺だって魚は喰う。 ジンに言った通り、焼き魚にしろイクラにしろ食べるのだ。 けどその引き金を俺が引くことになると感じた時の、この嫌な気持ちはなんだ? これもエゴってやつか? 守ろうって思った魚を、次は食用として用意して喰わせるっていうのか? 悠介 「っ……!」 ヴァル『王……?』 人間は、その存在だけで罪深い。 自分が作ったから自分のものだとか、 そんな道理は何処にもないのに『そうである』と断じてしまうのが人間だ。 養殖した魚を自分のものだと言うのなら、 それは他者の命を自分のものだと言ってることに過ぎない。 その時点で罪深いというのに、さらにそれを金で買って食べているんだ。 悠介 「……いや。食用になんかしない」 ヴァル『王……?ではいったいどうすると……』 悠介 「育てるだけだ。泉に戻しもしないし食用にもしない。     創造するのは『複製』だから、絶滅になんかならないって俺の我が儘だ。     ……どうかな。やっぱりだめか?」 ヴァル『……いいえ。悪くない考えだと思います。     ならばこの泉を進入禁止にしては如何でしょうか』 悠介 「ああ、それなら一応人間は入れないっていう膜が張ってあるから大丈夫だと思う。     これ以上人間に脅かされることはないと思うぞ」 ヴァル『そうですか。さすがは王、手際がいいですね。     ……しかし、それでしたらなにを悩んでいらっしゃったのですか?』 悠介 「あー……まあその、いろいろとだよ。戻るか、レファルドに」 ヴァル『そうですね。かしこまりました、王』 ヴァルトゥドゥスが飛翼を振り下ろす。 瞬時に地面が遠ざかり、風を切り裂くように飛翔する。 その過程、なにか話そうと思ったが─── ヴァル『着きました、王』 悠介 「…………」 ただ一言。 ディルより速ぇ……。 ───……。 ……。 さて、そんなこんなで止めに入るジンを押し退けての作業。 まずは城内の綺麗な庭に穴を掘り、地均ししてから構造を読み取った水を創造。 穴一杯に満たし、その中に卵とウォルトデニスを複製した。 それをしばらく見ていたが、どうやら死んでしまうようなことはなさそうだった。 ついでにあの泉の周りに生えていた草花や木も創造すると、なんとなくホッと息が漏れた。 ───そんな時。 彰利 「ヨゥ」 何故か物陰から現れるようにして出てきた親友。 俺に向けて軽く手を挙げ、テコテコと歩いてきた。 悠介 「お前なぁ……人が大変な時に何処行ってたんだよ」 彰利 「何処って……ちと地界に行ってた。ホラ、いろいろ話すこともあるじゃん?」 悠介 「話すことって?」 彰利 「ホレ、例えば悠介が王サマになったこととか、     悠介が阿修羅マンに狙われてることとか、悠介が竜王になったこととか」 悠介 「全部言わなくてもいいようなことじゃねぇか!!     おんどりゃ俺に喧嘩売ってんのか!?そんなことしたらルナが───」 彰利 「ンム、怒っとったよ?     『悠介のばかー!』とか言って、母屋とか神社とか大変なことに」 悠介 「歴史ある母屋と神社を壊すとはいい度胸だアノヤロウ……」 彰利 「ままま、落ち着きましょうや悠介。ここで怒るのはよろしくない」 よろしくないもなにも、お前が余計なこと報告しなけりゃよかっただけなんだがな……。 彰利 「で、まあさぁ、ホラ、悠介ってば王サマになっちまったわけじゃない。     するってーと、リヴァイアに呼ばれた用事は済んだけど、     まだ少し空界には居るってこったよね?」 悠介 「ん……そうなるな」 彰利 「ンム。つーわけでさ、俺も少々暇潰しが欲しいわけよ。     まさか連日連夜モンスターと戦ってるわけにもいかんしさ。     ……ていうかブルードラゴンとの戦いの時に“戦闘開始(セット)
”言い忘れて、     ランクアップはおろかアイテムのひとつも手に入らんかったんだよね……」 悠介 「お前、それ痛いなぁ……」 彰利 「いやいや、暇潰しとそれは関係ないんじゃよ。     キミにひとつ頼みがあるんでぃ。国王として」 ニヤリと笑う彰利……不気味だ。 顔が不気味というよりは、その裏にあるなにかが。 けど聞かずに追い払うのもどうかと思うし─── 悠介 「頼みって?出来ることならするけど」 彰利 「あー、その、おー、なんだ?えー……この世界の営業許可証くれ」 悠介 「…………営業許可証?なんだってまた」 彰利 「うむ、ちと城下町の一角でお腹空かしてる子供を見つけてね?     メシを喰ったらどうかね?って聞いたらさ、お金が無いんだとか言うんですよ。     可哀相でしょ?だからオイラが小さな店を構えて、その手伝いをしてもらうのだ。     その代わりにご馳走するって寸法よぉ」 悠介 「……ふむ。べつにいいぞ」 彰利 「……随分あっさりした王サマですこと」 悠介 「王になったからって本質が変わるのは心が弱いヤツの典型だろ?     俺はそういうヤツが大嫌いだ」 彰利 「なるホロ。んじゃあ頼まれてくれや。     ついでに食材なんかも創造してくれると助かるんだけどね。     お題は『地界料理専門店』!!どうかね!?」 悠介 「……そりゃいいな。地界の味が恋しくなった時にいつでも喰えるってわけか」 彰利 「だしょ?だから材料は瑞々しく頼んますよ?」 悠介 「解ってる」 地界の料理を作る店で子供を救おうっていうなら助力は惜しまない。 彰利に必要な材料を言ってもらい、次々と創造してゆく。 彰利 「あ、せっかくだから鍋とかフライパンも頼んます。     出来れば手入れ要らずの洗浄要らずの焦げ付き知らずがよいです」 悠介 「それは構わないけど、料理の腕落とすようなことするなよ?」 彰利 「あのね、あたしゃこれでもフライパン焦がしたことなんぞありませんよ?     料理の真髄だって忘れるつもりはござんせん。     けどね、子供達が真似事とかして間違って焦がす可能性もあるでしょう」 悠介 「ふむ……」 なるほど、子供のこととなると細かいところまで気が回るヤツだな。 よし、じゃあ注文通りのものをイメージに組み込んで、と─── 悠介 「よし、これだけあれば足りるだろ?」 風呂敷の上にごっちゃりと乗せた材料を見て一息。 しかし─── 彰利 「あ、すまん。悪いんだけど屋台を創造してくれんか?     車輪のついた移動できるヤツ」 悠介 「……あんまり創造に頼ると人として腐るぞお前……」 彰利 「腐るとまで言いますか……大丈夫じゃよ、これで最後じゃけぇ。     んでさ、良かったら和菓子とか煎餅を作ってくれんか?     これは創造じゃなくて、悠介が普通に」 悠介 「和菓子と煎餅?」 彰利 「そ。他の料理だったら勝てるけど和菓子とか煎餅だけは勝てる気がせんのです。     だったらさ、いっそのこと悠介に作ってもらったほうがいいかなぁと」 悠介 「……そんな暇があったらな」 彰利 「ウィ?それってどういう───」 声  「国王ーーーーッ!!」 ……来たよ。 ジン 「国王、まだこんなところにいらしたのか……。さ、お戻りください。     まだ空界の勉強が残ってますぞ」 悠介 「まあ……こういうこと」 彰利 「なるほど……王サマってのは大変だな」 現れたジンさんが俺の腕を引っ張って歩く。 俺はそんな状況に狂おしいほど溜め息を吐くと、 哀れみを含んだ顔で俺に手を振る彰利に手を振り替えすのだった……。 Next Menu back