───FantasticFantasia-Set16/一対の融合。翼竜王と創造神───
【ケース38:簾翁みさお/悠介サイド-その意思は無限の自由】 コォオオン……コーーーン…… 断続的に聞こえる音に溜め息を吐いた。 気づけばわたしとルナさんとゼノさんは全く見覚えのない草原に立っていた。 ルナ 「へー……ここが悠介の精神の中かぁ」 ゼノ 「穏やかな景色だな。ここは───空界の景色か?」 みさお「多分そうですよ。でも妙ですね……。     精神に飛ばされると大体がバラバラの場所からスタートするって、     前に悠介さんが言っていたのに」 ルナ 「じゃあこれってラッキーなのかな。それとも悠介が招待してるってこと?」 みさお「……だとしたら絶対に禄でもない招待ですよ?     彰衛門さんの方がまだマシだと思えるくらいです」 ゼノ 「フッ……望むところだ」 みさお「望んじゃだめですよっ!!」 はぁ……わたしって不幸の星の下に産まれたんでしょうか……。 どうして、なんで、何故に、よりにもよって悠介さんの精神に、このふたりと……。 ルナ 「で、まず何処に行けばいいのかな。     悠介を探せばいいっていったって、広すぎて解んないし」 ゼノ 「考える必要などない。思考した道筋を歩めば至る場所には至るだろう」 みさお「そういう思考は迷子を育成するだけですから今すぐ捨ててくださいね……」 どうしましょう悠介さん。わたし、心労がかさばっていきます。 物覚えの悪い子供を持つと、きっとこんな気持ちになるんでしょうか…… こんなことならひとりでスタート出来た方がよかった気さえします……ドォンッ!!! みさお「え……?」 ルナ 「……わ、なにこれ」 ゼノ 「牛、か?」 みさお「あ、あわわわわ……」 目の前に斧を持った巨大な牡牛が居ます……。 しかもなにやらわたしたちを狙っているご様子……。 これって、これって確か、ミノタウロス……!? ミノタウロス『グゥォオオオオオオオッ!!!!』 みさお   「きゃーーーっ!!?」 なにやらビンゴらしかったです。 叫ぶミノさん、振るわれる巨大な斧、敵と遭遇して歓喜に染まるゼノさんの表情、 どれをとってもなんというか悲しくなる状況がここに誕生しました。 ゼノ 「面白い───我に刃を向けたこと、後悔するがいい」 出現する鎌と、開始する刃と刃のぶつかり合い。 わたしはそんな状況に酷く困惑して、最悪の状況を想像し始めた。 ルナ 「?みさっちどしたの?」 みさお「か、考えてみましょう。ここは悠介さんの精神世界で、     精神の主が体験したことの数々が繁栄されるのはミノさんを見ただけで十分です。     とすると、それってもしかして───」 ルナ 「なになに?どしたのみさっち。自分だけ考えてないで教えろー」 みさお「………」 もしかして……ガガガンッ!ギンッ!ジャギンガギンゴギンッ!!! ゼノ    「フハハハハハハッ!!いいぞ!やはり戦いとはこうあるべきだ!!        久しく忘れていたこの感覚───気分がいいぞ!        そらどうした、もっと打ってこい!!」 ミノタウロス『グォオオオオオッ!!!!』 ガガゴンガンゴンギンッ!! ルナ 「……ゼノ、楽しそうね」 みさお「神様……どうしてわたし、こんな緊張感のない人達と一緒に……」 ピシャアンッ!! ルナ 「あいたっ!!な、なにっ!?」 蛇男 『はたらげーーっ!!スネーク!!』 ルナ 「……なに?こいつ」 みさお「わたしに訊かないでください……」 鞭が鳴る音がして振り向いてみれば、 蛇みたな姿の人型モンスターに鞭で叩かれてるルナさんが居た。 ルナ 「ちょっとあなたね、いきなり人を鞭で叩くなんて」 蛇男 『はたらげーーっ!!スネーク!!』 ぴしゃあんっ!! ルナ 「いたっ!?ちょ、ちょっと痛いってば!!」 蛇男 『うるせぇスネーク!!さっさと働かんとヒドイスネーク!!』 ルナ 「働けって、こんなところでなにしろっていうのよ!!」 蛇男 『なにって……スネーク。…………なにスネーク?』 ルナ 「わたしが訊いてるんだけど……まあいいわ、とりあえず消えて」 蛇男 『なんだとスネーク!!このスネークマンさまに向かって』 ズパァンッ!! 蛇男 『スネッ!?』 ルナ 「いーから消えなさいってば……」 ルナさんが手を振るうと同時に鎌が出現して、それはそのまま蛇男さんを両断した。 すると蛇男さんはあっさりと塵と化した。 みさお「……意外です。強かったんですね、ルナさんって」 ルナ 「え?あははー違う違う。     ここが精神ならそこに出てくるのって人でもなんでもないでしょ?     即ち『異端』。だから異端に強い“異端の三日月鎌(ディファーシックル)
”なら軽く消せるの」 みさお「……あ、そうなんで───すか……。     あ、ああああああのっ……!それって、超巨大な異端も消せますか……!?」 ルナ 「?超巨大ってどれくらい?相手の存在力にもよると思うけど……」 みさお「ど、どどどどれくらいって……あれくらいですけどっ……!!」 ルナ 「?」 きょとんとした顔で後ろを振り向くルナさん。 ……言ってしまえば、きょとんとした顔が驚愕に変わるのに一秒も要りませんでした。 黄竜 『ギシャァアアアアォオオオンッッ!!!!』 ルナ 「ひきゃあああああああああっ!!!!!」 みさお「わきゃあぁあああああああっ!!!!!」 とんでもなく大きい竜が居ました。 これってもしかしなくてもあれでしょうか、 カルナさんが言ってた黄竜王シュバルドラインっていうドラゴン……!!! みさお「ル、ルルルルナさんっ!どうぞ!遠慮なくズバッといってください!!     わたしその隙にとんずらしますから!!」 ルナ 「なにそれずっこい!!そんなところばっかりホモっちに似ることないでしょ!?     みさっちが行ってわたしが逃げるの!いい!?」 みさお「なに言ってるんですか!全然よくないです!!」 ルナ 「ちょっとゼノ!!あなたも───」 ズパァアンッ!!! ミノタウロス『グォオオオオオオッ!!!』 ゼノ    「フッ……クククハハハハ!        体が温まった……さあ、次はどいつだ……!!」 ルナ    「って勝ってるーーーっ!!!!」 みさお   「ひえっ!?ル、ルナさん飛んで!!」 ルナ    「え?あ、うわひゃあああああっ!!」 黄竜王   『ルォオオオオオオウウッ!!!!バガァッ!!チュゥウウウウウウウンッ!!!! 波動砲めいたレーザーが放たれ、草原を直線状に穿っていった。 ルナさんは抉れた地面を空中から見下ろして真っ青になり、 かくいうわたしもあまりの威力に愕然としている。 え……な、なんですか……? こんなバケモノに勝ったんですか、悠介さんって……。 ゼノ 「面白い……!」 みさお「全然面白くないですーーーーっ!!!!!」 ルナ 「あの空界人が悠介を解放することだけを考えろって言ってた意味が解ったわ……」 みさお「あ、あのっ!わたしもう行きますからねっ!?     真面目に戦ってたら命が幾つあっても足りません!!」 ルナ 「賛成……わたしは悠介さえ救えればいいもの……」 そう言うと、ふよふよと浮いていたルナさんが シュバルドラインさんを警戒しながらこちらへ飛んでくる。 ゼノ 「フン、腑抜けたなゼファー。やはり貴様はフレイアのおまけに過ぎんか」 ルナ 「───」 ……浮遊がピタリと止まった。 あああダメですよルナさん……そんな安っぽい挑発に乗ったりしたら……! ルナ 「聞き捨てならないわね、ゼノ。わたしがあいつのおまけ……?冗談はよして」 ゼノ 「フレイアより劣る貴様がなにを以って冗談と言う?     ここで逃げ出すも良し、しかし永劫に貴様はフレイアを越えることなど───」 ルナ 「むっ───わ、解ったわよぅ!やってやろうじゃない!!     そもそもゼノ!?あなたわたしのことルナって呼ぶって言ってなかった!?」 ゼノ 「腑抜けに名など必要なかろう?敵に背を向けることは腑抜けと同義だ」 ルナ 「っ〜〜〜いちいちむかつくわねっ!やっぱりあんた大嫌い!!」 ゼノ 「誰が好めと言った。それは心外というものだゼファー」 黄竜王『ギシャァアアォオオオオンッッ!!!!』 ドガァアッ!!チュゥウウウウウウウンッッ!!!! ルナ 「わひゃぁあああああっ!!!!」 ゼノ 「ぐぉおおおおおおっ!!!?」 ……長ったらしい言い合いの末、ふたりとも一撃で蹴散らされました。 避けはしたけど余波をくらってスッ飛ばされてます。 ルナ 「ああもうっ!フレイアがどうとか言ってる場合じゃないわ!!     あとは任せたわよ!倒せるもんなら倒してみなさいよぅ!!」 誰にともなく叫び、髪の毛を通している空き缶を抜き取るルナさん。 ルナ 「空き缶言うなぁああああっ!!!」 ……言ってません。 ていうか心を読まないでください。 なんて思っている内に、ルナさんから感じられる波動が別のものに変わった。 持っていた鎌も形を変え、凶々しささえ感じさせる。 あれは───フレイアさんだ。 フレイア「───……なんてもの相手にしてるのよゼノ」 ゼノ  「フレイアか。強者を求めるのは存在として当然のことだ。      久しく忘れていたこの身を焦がす意識はたまらなく清々しいぞ」 フレイア「ハンターであるあなたが清々しい?やめてよ、そんな人間みたいな感情」 言って、シュバルドラインさんに向けて鎌を振るうフレイアさん。 斬りつけるのではなく、実際にその場で振るうだけ。 それでもその一閃が空気を裂き、波動となってシュバルドラインさんを襲った。 結果は───無傷。 フレイア「……うそ。うわー、これって現実?」 コリコリと頭を掻いて、フレイアさんは手馴れた手つきで髪の毛を空き缶に通した。 フレイア「空き缶言わないっ!!」 ……言ってませんてば。 ともあれ意識がルナさんに戻った刹那、わたしとルナさんとゼノさんは逃走していた。 ゼノ 「くっ……この我が退くことになろうとは……!!」 ルナ 「やーい腑抜け腑抜けー!!」 ゼノ 「おのれぇえええええっ!!」 みさお「こんな時まで喧嘩しないでくださいっ!!」 傍では子供みたいな喧嘩、後ろからは一撃で消し炭さえ残らないレーザー…… なんだか今、とても悠介さんの今までの心労が理解出来そうな気がしました……ドンッ! みさお   「わぷっ!?な、なん───ひえっ!?」 ルナ    「ひきっ!?」 ゼノ    「……面白い」 みさお&ルナ『面白くない(です)っ!!!』 走った先で何かに衝突。 見てみれば、とてつもなく大きな物体……というか生き物。 ああ悠介さんごめんなさい、 あなたの苦労も知らないで適当なことばっかり言ってごめんなさい。 謝りますからこの状況をなんとかしてもらえないでしょうかっ……!! ベヒーモス『ルォオオオオオオオオッ!!!!』 ルナ   「きゃーーーーーっ!!!ちょ、ちょちょちょちょっとたんまーーーっ!!       なにっ!?悠介ってば空界でこんなやつと戦ってたのーーっ!!?」 みさお  「戦っただけじゃなくて勝ってるんですよぅ!!       あぁぁあさよなら平凡だった悠介さん!!       今あなたはわたしたちの中で超人と化しました!!」 ルナ   「ていうかなんでこう大きなヤツばっかりなの!?       こんなのばっかりと戦ってたら命がいくつあっても足りないわよぅーーっ!」 多分意識して大きいのと戦ったわけじゃないでしょうね……。 解る……今なら解りますよ、悠介さん……。 黄竜王  『ギシャァアアォオオンッ!!!』 ベヒーモス『ルゥォオオオオオンッ!!!バガァアッ───!!! みさお「いっ───!!」 ルナ 「〜〜〜っ……!!」 聴覚が聞き取ることを拒絶するくらいの轟音。 放たれたレーザーと紫色のレーザーがぶつかり合い、 鬩ぎ合う極光の下に居たわたしたちの周りでは地面が次々と砕けてゆく。 みさお「〜〜〜っ!!う、うううう……!!!」 震えることしか出来ない。 逃げたいのに、 一歩でも動けば周りの地面のように余波に浮かされて消滅してしまいそうで動けなかった。 信じられない……こんなのと戦ってたんだ、悠介さんは。 ルナ 「───行くよみさっち!ほら立って!」 みさお「え?あ───」 気づけば既に極光の鬩ぎ合いは終わっていた。 わたしは飛翔するルナさんに抱きかかえられて、震えたままにその場をあとにする。 あとに聞こえるのは二体の超獣が戦う轟音。 どれだけ離れても聞こえるその轟音と声に、 やっぱりわたしは震えることしかできなかった。 ───……。 ルナ 「……はぁ。悠介って無茶ばっかりしてるんだね。     戦うならゴブリンくらいにしておけばいいのに」 ベヒーモスさんやシュバルドラインさんから随分と離れた先で、 ルナさんがぽつりと呟いた。 わたしはそれに『ゴブリン、知ってるんですか?』と訊ねてみる。 返ってきた言葉は『ホモっちの漫画の中に居た』っていうものだった。 ……どちらにせよ、漫画と現実は違いすぎるのだと心底溜め息を吐いた。 みさお「で、ゼノさんは?」 ルナ 「あそこでゴブリン追ってるけど。     速いねー、ゼノが全力で追っても追いつけないなんて」 みさお「ですね……。追いつけないばかりか距離が開いていってますよ」 ルナ 「空界ってヘンなとこだねー」 みさお「そうですねー」 やがてダークネスフラッシャーを発動させて、マントから漆黒の矢を放ちまくるゼノさん。 その矢に足を貫かれたゴブリンさんがようやく倒れ、 『男ならば戦え』と怒るゼノさんに両断された。 ……南無です。 ルナ 「べつにフラッシャーじゃなくても鎌で十分だったんじゃない?今の」 みさお「きっとそれだけ怒ってるんですよ」 ルナ 「……それはべつにいいんだけどさ、深淵ってどっち?」 みさお「わたしに訊かれても……」 ルナ 「………」 みさお「………」 出た溜め息は同時でした。 ゼノさん、元気でいいですねー……って、あ…… なんだか急に現れたリザードマンさんと戦ってます。 ルナ 「飽きないわね、ゼノのやつ。わたしもういい、悠介見つけてここ出たいよ」 同感です……。 ───……。 そうしてしばらく進んでいくと、ただの草原だった筈の景色が黄昏の草原へと変わる。 ……いよいよもって深淵に来たって感じです。 ルナ 「ここが深淵ってところかな」 みさお「確信は持てませんけど、多分そうです」 心の中で覚悟を決めながら歩く。 どうせこんなもので終わったりはしないだろうと踏んだ上での行為だ。 ルナ 「あ、悠介だ」 みさお「え?あ───ほんとだ」 ルナさんの視線を追うと、確かにそこに悠介さんが居た。 ただし大きな木の前の虚空に浮いた状態で、 彼の周りには四つの異なった色の珠が彼を中心に廻っている。 ルナ 「ゆーすけ……?」 そっと触れるようなルナさんの言葉。 けど悠介さんは反応を示さず、ただ周りの珠だけが悠介さんを中心に廻っている。 ゼノ 「目を覚ませ晦悠介。貴様を起こしに来た」 悠介 「───……」 ゼノさんの言葉に、その目がゆっくりと開かれる。 薄い赤なんかじゃない、真紅眼の瞳が。 ゼノ 「殺気……?面白い、やる気か」 悠介 「───……」 悠介さんは何も言わない。 ただ円を描く四つの珠に導かれるように ゆっくりと黄昏の草原に降り立って……わたしたちを見た。 結果、わたしたちも悠介さんを直視することになったんだけど─── その首に下がっているプレートの文字に愕然とした。 それは『“四竜を統べる竜王(ドラゴンマスター)”』と刻まれたプレートだった。 つまりこの人は本当に、彰衛門さんの手紙の通り竜王になってしまったということだ。 ゼノ 「ハァッ!!」 ゼノさんが草原を蹴って鎌を振り下ろした。 ルナさんが止めようとしたが、悠介さんが真に竜王に至ったのならそんな心配こそ無粋だ。 悠介 「“鏡面にて弾く石眼の盾(イージス)”」 瞬時に虚空に創造された鏡のような盾がゼノさんの鎌を受け止めた───途端。 ザブシャアッ!! ゼノ 「ぐぉおおっ!!!?」 斬りつけた筈のゼノさんの肩から脇腹にかけての斜めの直線が切り裂かれ、血が吹き出る。 信じられない……相手の攻撃を完全に跳ね返した。 ゼノ 「ぐっ……!?馬鹿な……有り得ぬ!」 ルナ 「ちょ、ちょっと悠介……?どうしたの?わたしたち、悠介を助けに……」 悠介 「………」 悠介さんはルナさんの言葉にちっとも反応を示さない。 それは、その目にまるで生気がこもっていないことに原因があるのだと思う。 つまり、悠介さんは─── みさお「ルナさん、今の悠介さんにはなにを言っても無駄です。     多分……悠介さんは誰かに操られてます」 ルナ 「誰かって誰よ!」 みさお「そこまでは解りません。解りませんけど……」 悠介 「“捻り穿つ”(スパイラルディガー)」 虚空に現れ、その虚空に弾かれるように放たれた槍を避ける。 空気さえ捻り穿ち、やがて見えなくなる槍はまるで鎌鼬を圧縮したような槍だった。 ルナ 「ん……そうね。多分ここに来るまでに出会ったなによりも厄介な相手だと思う」 みさお「ですよね……」 ───そんなことを話した時だった。 景色が歪み、四つの珠とは別に二つの珠が出現した───。
リヴァ「どういうことだランス!悠介の精神がハックされている!」 ランス『対処が間に合わないんです。     元より私が太刀打ち出来るような速度じゃあありません。これは───』 リヴァ「───くっ!!ヤムベンリグか!」 ランス『そういうことでしょう。次元干渉まで無視したハックをするとは……やれやれ』 リヴァ「暢気に笑っている場合か!なんとかしろ!」 ランス『そうはいいますがね……元よりこれは無茶な仕事です。     ヤムベリング=ホトマシー以外のハックは対処しますが、     私ごときではウェルドゥーンの赤い魔女には太刀打ちできません』 リヴァ「っ……何をしているのかは解らないが……無事でいろよ……!」
───オーブはゆっくりと光る動作と暗くなる動作を繰り返している。 虚空に浮き、まるで脈打っているような気配─── ひとつはさっき遭遇したベヒーモスのものだ。 けどもうひとつは───ドクンッ……!! みさお「……!!」 それは一瞬の躍動。 強く脈打ったふたつの珠から、一瞬だけだけど巨大な姿が見えた。 一方はベヒーモスで、もう一方は水竜のような姿のバケモノ。 どちらも巨大で、わたしたちじゃあ太刀打ちできないと確信できるものだ。 けれど悠介さんは何かに促されるようにそれらを手に取って、手に輝きを灯した。 これは───月癒力の波動? 悠介 「……イメージ……超越にて解放……。     融合の力をここに……ベヒーモスとリヴァイアサン、     この一対の雌雄をひとつにせん……」 ───わたしがまだ刀のままだった頃、彰衛門さんに聞いたことがあった。 その時はくだらない笑い話みたいに聞いていたけど、 元々リヴァイアサンとベヒーモスは二体でひとつって言えるくらいの雌雄的な存在。 その一対が揃うと神でさえ太刀打ちできぬとして、 神は二体のリヴァイアサンを陸と海に分けて存在させた。 やがて陸に生きるリヴァイアサンをベヒーモスと称し、 海の存在をそのままリヴァイアサンと呼んだ。 故に───その一対を融合させるということは、まさしく悪夢なのでは…… 悠介 「誕生せよ至高の悪夢───創造主の名の下に名付ける。     至高の悪夢───名を、“翼竜王(バハムート)
”」 珠が融合してゆく。月癒力に加え、悠介さんのイメージを取り込んで。 途端に力が溢れ出し、その力が悠介さんの体を切り刻んでゆく。 しかしそれでも悠介さんは微動だにせず、融合してゆく珠を見つめるだけ。 いけない……あのまま傷つけば、精神が傷を負うことになる。 精神が傷つくのはこの世界じゃあ一番危険だっていうのに───!! 悠介 「……我が名は晦悠介……輝石の加護の下、この儀式を司りし者───     充満せし魔力の下、我が思考を糧として無象より有象に至れ……。     契約は完了せり───出でよ、バハムート」 悠介さんが波動によって切り刻まれた手で珠に触れた───瞬間。 虚空に浮く珠が破裂し、その場に巨大な黒紫竜(こくしりゅう)が現れた。 バハムート『ゴァァアォオオオオンンッッッ!!!!』 みさお  「〜〜〜っ……!!」 ルナ   「あ、あぅう……!!」 産声にしてはあまりに大きい咆哮。 わたしたちは思わずその場に尻餅をついて、みっともなく震えた。 この感覚は、空界で黒い竜を見た時と同じ感覚だった。 怖くて、怖くて……息をするのでさえ辛いくらいの恐怖が体を支配してゆく。 ───その時だ、妙な声が聞こえたのは。 ???『やー、成功成功。まさか本当に融合できるとは思わなかったわー』 この場には相応しくない、あまりにのほほんとした声が聞こえた。 見渡してみても、姿形もない。 ???『やっぱり竜王名乗るなら召喚獣も竜王じゃないとねぇ。     っと、わたしを探したいんだったら空界まで来なきゃだめよ?     いくらここで探しても無駄よ無駄。わたしは送話で話してるだけだもの』 みさお「送話……?」 ???『戯言はおしまい。さぁ悠介?手始めにそいつら殺してみせなさい。     その召喚獣……バハムートは、     あなたの中の召喚獣全てとベヒーモスとリヴァイアサン、     さらにあなたの魔力とイメージを受け取って創造されたもの。     あなたの言うことならなんでも聞くわ』 悠介 「………」 悠介さんがゆっくりとわたしたちを見る。 それとともに四つの珠が悠介さんの周りを速度を増して廻り出す。 ???『邪魔くさいなぁ……家臣として王の乱心を見てられない?     そんな古臭い思考は消しちゃいなさいよ邪魔臭い』 みさお「あ」 ルナ 「あ」 ???『……?なによ』 あ〜あ……言っちゃった。 恐る恐る伺ってみれば、操られている筈の悠介さんの額にメキメキと血管が……!! みさお「あの〜、謝っちゃった方がいいと思いますよー?」 ルナ 「そうだわよぅー?悠介が居るところで『古臭い』だの『邪魔臭い』だの言ったら、     それはもう大変なことになるのよぅー?」 ???『───冗談。わたしの魔術は完璧よ。     ひとりの人間程度の力で押しのけられるほどヤワじゃないわ。     ほら悠介、こいつらを殺してしまいなさい。あなたなら簡単よ』 悠介 「───……イメージ……超越にて解放……。     月の空と書く次元の理をここに……。超越次元干渉……異翔転移───」 キィッ───バジュンッ!! 女性 「……へ?」 それは突然の出来事だった。 誰も居なかった筈の景色にひとりの女性が現れ、目をパチクリと動かす。 女性   「え……えぇっ……?ウソ……」 悠介   「───あのな、いい言葉を教えてやる」 バハムート『ルゥウウウウォオオオオオオッ!!!!』 額の血管がヒクヒクと動いている悠介さんが、その女性を睨む。 それに呼応するようにバハムートさんが首を大きく振って口に極光を溜め込む。 女性 「やっ!ちょっと待───!!」 悠介 「───寝言は寝て言え」 バガァッ!!!ボガガガガォオオオオオンッッッ!!!! 悠介さんの言葉が発射の合図だとでも言うように、 バハムートさんの口から凄まじい極光が放たれた。 それは空気さえ爆砕し、漂ってきた風さえも捻り穿ち消滅させる。 何もない虚空に幾度の爆発が起こり、光の先でその現象を見ていた女性はすぐさま構えた。 やがて放たれるエクスカリバーという名の『言』と極光。 しかしそれは盾にもならず───女性は驚愕の表情のまま極光に飲まれて消え去った。 悠介 「……はぁ」 ルナ 「ゆ、悠介……?」 みさお「悠介さん……ですよね?」 悠介 「……?俺が俺じゃなかったらなんなんだよ───ってゼノ、どうしたんだそれ」 ゼノ 「………」 傷ついたゼノさんを見下ろして、首を傾げる悠介さん。 ゼノさんは『貴様につけられたものだ』と言うのは情けないと思ったのか、 『些事だ』とだけ答えた。 それにしても……操られてた時のこと覚えてないのかな。 でももういいや……考えるのも疲れた。 わたしとルナさんはその場にへたりこんで、そのまま草原に倒れた。 悠介 「……悪い、フェンリル、グリフォン……。     俺がしっかりしてなかったばっかりに……」 けど、ふと聞こえた声に目を向けると……バハムートさんを見上げている悠介さん。 ……そっか、確かにさっきの女性が言ってた。 あのバハムートさんには悠介さんの中の召喚獣全てを融合させたって。 つまりフェンリルさんとグリフォンさんはもう…… みさお「悠介さん……」 悠介 「……はぁ。いつまでも悔やんでたって仕方ないよな。あのさ、ここ何処だ?」 頭を振ってわたしに訊ねる。 その顔は『思いっきり無理してます』な顔だった。 でもわざわざ蒸し返す必要なんてない。 わたしは素直に『悠介さんの精神の中です』と答えた。 悠介 「俺の精神か……ていうことは今のが噂の魔導ハッカーか。     あいつ、本当になんでもありだな」 ???『そう褒められても困るけどね』 みさお「え───死んでなかったんですか!?」 ???『勝手に殺さないように。瞬間的にダミー作成してわたしは逃げたのよ。     ところで悠介?わたしに逆らって無事でいられると───』 悠介 「イメージ、超越にて……」 ???『うわやめて!!解った!もうハックしないから!!』 悠介 「あのな……趣味悪いぞお前。遊びたいなら迷惑がかからないように遊べ」 ???『だってなまじっか実力あるとつまらなくなるのよ。     悠介もじきに解るわよ?強すぎるのっていいことばっかりじゃないんだから』 悠介 「だったらバハムートと一騎打ちでもしてみるか?     強すぎるって自負するなら平気だろ」 ???『死にたくないから勘弁して……』 なんとも情けない限りだった。 や、わたしも人のことは言えませんけど。 ???『ちょっとそこの小娘?バハムートに適当な攻撃してみなさい。     なんだったら石投げるだけでもいいわ』 みさお「自分でやってくださいよカスが……」 ???『口悪いわねこのガキャア……』 みさお「一緒に居た人の所為にさせてください。     そもそも誰かを操る人の言うことなんて聞いてあげません」 ???『やれやれ……それじゃあ』 その場に張り詰めた空気が溢れた。 それと同時に草原の草の数本が宙に浮き、一気にバハムートさんへと放たれる。 けれどその悉くが虚空で凍りつき、終いには塵となって崩れてしまった。 悠介 「これって……絶氷なる繋がりの無い膜(ダイヤモンドダストカーテン)……?」 ???『わたしはこれでも魔女であり研究者であり遊び人。半端な仕事はしてないつもり。     他にもグリフォンの千里眼だってベヒーモスの雷撃だって、     リヴァイアサンの水を操る力だって備えてある。     ……まあそれをいきなり自分に放たれるとは思ってもみなかったけど』 悠介 「結局なにがしたかったんだよお前は」 ???『相応しい男を作りたかったのよわたしは』 悠介 「相応しい?なんだよそれ」 ???『解らない?創造神で死神で創造者で竜王で召喚者で魔導魔術師な晦悠介』 悠介 「さっぱり解らん。脳髄洗って出直せ馬鹿」 ???『真面目に聞く気がないわね……?     つまり、わたしはあなたを夫として迎えたいって言ってるの』 悠介 「───へ?」 ルナ 「却下却下大却下ァッ!!そんなのダメ!ゆーすけはわたしのゆーすけよ!!     あんたみたいな子供は引っ込んでなさいよぅーーっ!!」 ???『あなた幾つ?』 ルナ 「む。300───合わせれば600くらいよ」 ???『わたしは3428歳よ?子供はどっちかしらね』 ルナ 「うわ……エンシェントババアだ」 ???『ブチコロがすわよコノヤロウ……』 悠介 「はぁ〜〜〜ぁぁあああ……」 あー……悠介さんが凄まじいほどの溜め息吐いてます……。 悠介 「あのな、俺はお前なんかと夫婦になるつもりはないぞ」 ???『あらだめよ。わたしがもう決めたもの。空界ではわたしが法律よ』 悠介 「ここは俺の精神の中だが」 ???『………』 悠介 「お前ってさ、案外馬鹿か?」 ???『う、うるさいわねっ!歳とればそれだけ間違いも増えるわよ!』 ルナ 「やっぱりエンシェントババアだ……」 みさお「エンシェントババア……」 ???『今すぐハルマゲドンを起こしたい……』 悠介 「そんなもん起こさなくていいからとっとと帰れ。……っと、そうだ。     なんだって俺を気絶させたんだ?そこんところがよく解らん」 ???『え?だって悠介って創造を行使する時、深淵を引き出してイメージするんでしょ?     だったら最初から深淵でやった方が危険も少ないし、成功率も上がるし。     一言で言えばリヴァイアサンとベヒーモスを融合させるには     ここが一番安全且つ確実だったのよ』 悠介 「なんで融合なんてさせた」 ???『見たかったのと、わたしに相応しい旦那を完成させるため。     竜王にまでなったんなら扱う召喚獣も至高のものにしておきたかったのよ』 悠介 「………」 悠介さんがギリ……と拳を強く握る。 でもバハムートさんを見上げてから大きく息を吸って吐くと、冷静に話を続けた。 悠介 「俺を精神の奥底に追い遣ったのはそれだけが目的か?」 ???『まさか。まだ最後の仕上げが残ってる』 悠介 「仕上げ……?」 ???『知ってる?空界って案外死神との交流は深いの。     特にシェイドとの交流はね。だから死神なんてものは見飽きてるし、     そんな人を夫にしたところでつまらないと思う』 悠介 「……なにが言いたいんだよ」 ???『簡単よ。あなたの中のルドラ=ロヴァンシュフォルスを創造神ソードに戻す。     そしてあなたの月の家系としての神魔のバランスを魔から神に傾ける。     そうすればホラ、難しいことするまでもなく神の出来上がり』 悠介 「なっ───そんなことさせると思ってるのか!」 ???『思ってるわよ。そう難しいことじゃないもの。     精神干渉なんて空界の魔導術師には朝飯前みたいなもんだし、     既に精神に入ってる分有利な上にわたしは魔術師。     魔導術師みたいに式なんか編む必要もなく魔術行使が出来る。こんな風にね』 ドックンッ!!───精神の世界が脈打った。 それとともに悠介さんは頭を押さえて苦しみ出す─── 悠介 「く、あぁぁっ!!づ、……てめぇえっ……!!」 割れるくらいの頭痛に耐える人とは、恐らくこういう感じに苦しむのだろう。 まるでその見本のように苦しむ悠介さんは、本当に辛そうだった。 すぐに月生力を流そうとするけれど、 その途端にわたしの体は見えない力に弾き飛ばされた。 ルナ 「みさっち!?」 みさお「う、……うぅう……!!」 物凄い衝撃に、息をするのがやっとないくらいに体を折る。 そうしている間にも悠介さんは苦しみ、やがて……着ていた黒衣が真っ白に染まってゆく。 真っ赤だった目も赤の色を失っていき、ついには完全に赤を無くした。 悠介 「ガッ……───!!ギ、ウ……!!」 悠介さんの体がガタガタと震える。 そんな中で虚空には女性の笑い声が響き───しかしその笑い声が突然途切れる。 ???『ン……傾かせるには存在力が足りないわね。     仕方ない、王様に仕える四飛竜に役立ってもらいましょうか』 悠介 「テ、メエ……!!」 ???『そう怒らないの。ステキじゃない?親友は死神で自分は神だなんて。     これがきっかけで仲違いでもするのかしらね』 悠介 「俺だけならまだしも……!!     こいつらをお前の遊び道具に……するんじゃねぇ……!!」 ???『遊び道具なんかじゃないわ。あなたを真の王にするのに役立ってもらうだけ』 女性の声が響いた途端、四つの珠から血のように赤い液体が吸いだされた。 いや───あれは血のように、なんてものじゃない……本物の血だ。 それが苦しんでいる悠介さんの口に染み込んでゆく。 悠介 「ぐっ───!?がはっ!ぐ、あぁああああっ!!!」 ???『焼けるようでしょう?人間にとって竜族の血は毒みたいなもの。     でも悠介、あなたは死なない。     千年の寿命の原水に潜っても死ななかったあなたが、     今さらこんなもので死ぬ筈がないんだから』 悠介 「がっ───あ、ぐあ……!!」 ???『さあ、これで仕上げ。“接続(アクセス)───”』 ビギィンッ!! みさお「っ!?」 ルナ 「な、なにっ……!?」 見えていた黄昏の景色が一気に暗転する。 見渡しても全てが真っ黒で、見えるのはただ人の姿だけ。 景色だけが無くなってしまったのだ。 けれど突然、この場に嫌な気配が溢れてくる。 これは───神力に近いものだ。 やがてそれが『真』に至る時───彼の苦しみの声も完全に消えた。 悠介 「───……」 もう確定だった。 悠介さんからは神力しか感じられず、 それは月の家系であるわたしに少なからず嫌な気配を味わわせる。 ???『……素晴らしい。本当に神に至ったわ……これでこそわたしの───』 悠介 「───何度も言わせるな。寝言は寝て言え」 ツッ───パァンッ!!───悠介さんが左から右へ払うように右手を振るう。 すると、まるで本のページをめくるかのように景色が元の黄昏へと変異する。 わたしを襲っていた嫌な気配も完全に消え、 それどころかわたしの月操力を力強く支えてくれさえする。 ???『なっ……ど、どうなって……?     神なのにどうして死神側の波動を作りだせるの……!?』 悠介 「さっきから聞いてりゃ神だの死神だの……。     俺はお前の玩具じゃないし、お前の夫でもないし、なる気もない。     俺の波動が神力になったからどうだっていうんだ。     あいつはそれでも俺の親友だし、俺だってあいつの親友だ。     ……俺の力は『守るもの』のためにある。     今の俺の波動を不快に思うヤツが居るなら、     そいつらが不快に思わない波動に創り変えてやればいい」 ???『つ、創り変える……!?あなた何者!?     イセリアにだってそんなこと出来なかったのに───!!』 悠介 「空界と神界とじゃあ創造者の格が違ったってこったろ?     どのみちお前は苦楽をともにした俺の仲間を勝手に生贄にしやがったんだ。     このままじゃ済まさねぇ……!!」 ???『あ……“切だ(カティ)───”』 ビジュンッ───……!! 女性 「え……あ……」 切断を唱えようとした女性は、今再び精神の中へと引きずり込まれた。 驚愕の顔で再び逃げようとしたけれど、黄昏の世界がそれを許さなかった。 女性 「え……?そ、そんな……」 悠介 「お前の魔術はもう解析済みだ。確かにな、ここは便利だ。     わざわざ深淵から力を引きずり出す必要もないからすぐ使える。     ……魔導術、魔術を無力化する場が出ます。便利だろ」 女性 「あ、あああ……!!」 女性は初めて『恐怖』に出会ったように震えている。 怒り顔の悠介さんを前にして、涙さえ溜めて。 やがて悠介さんが目前へと迫り、 彼女の目がキュッと閉ざされた時───バゴォンッ!!! 女性 「ふきゅっ!!?」 炸裂弾でも爆発したような音がその場に響いた。 ……べつに爆弾を行使したわけではなく、 悠介さんの全力デコピンが女性の額を襲っただけだ。 けど女性は数メートル吹き飛び、草原をゴロゴロズシャーーーッ!!と転がり滑った。 悠介 「……はぁ、これで許してやる。     今度こんなことしやがったら流石に許さないからな」 そう言う悠介さんが女性の近くに歩み寄って、女性を抱き起こす。 が、女性は目を回した状態で『きゅぅう〜〜〜〜……』と唸りながら気絶していた。 悠介 「……?おいこら、なにふざけてんだ。     デコピン一発で気絶なんかするわけないだろ」 あそこまで物凄い音をデコピンなんかで鳴らしておいて、 よくもそんなことが言えますね……。 ともあれ全員無事で悠介さんの精神の解放と、黒幕の成敗は成功しました。 本気で安堵の息を漏らし、そんな時に聞こえてきたゼロさんの声に余計に安堵した。 ……どうやら精神の旅も終りらしい。 Next Menu back