───FantasticFantasia-Set21/力の在り方、英雄との邂逅───
【ケース48:晦悠介/英雄】 ───……。 巨人兵1「おのれ何処へ行った!」 巨人兵2「まだそう遠くへは行っていない筈だ!探せ!」 巨人兵が地面を軋ませるように走る。 しかし砕けることも無いこの石畳のようなものは何で出来ているのか─── 悠介 (しかし、デカいな) 巨人の里の大きさは想像以上だ。 自分が小さく見えることも確かなら、見える全てが新鮮だ。 なにせ植物から虫に至るまで、全てが巨大なのだ。 そんな眩暈さえ起こしそうな景色の片隅に俺は身を潜めていた。 悠介 (けどいつまでもここでこうしてても仕方ないな───) 目的のひとつはゼプシオンとの戦闘。 だったら逆に暴れるくらいのことをした方が好都合かもしれない。 だったら─── 悠介 「……悪い。あんたたちに恨みはないけど」 地盤を弾かせ、一気に潜めていた身体を疾駆させる。 すると巨人兵たちはすぐに俺を見つけ、武器を振りかざして襲ってきた。 巨人兵1「居たぞ!こっちだ!」 巨人兵2「竜の気配を出す人間───貴様何者だ!」 悠介  「晦悠介。ただの侵入者だ」 答えるまでもなく戦いは始まっていた。 次から次へと現れる巨人兵を前に、しかし俺は冷静だった。 巨人たちは確かにその一歩も瞬発力も攻撃力も相当だ。 けど、大きいからこそ小さな相手に数人がかりでの攻撃に向かない。 巨人兵1「オォッ!!」 たとえば───大振りされた巨大剣などは軽く一歩動けばかわせるし、 次いで降ろされた剣は大地に突き刺さった剣の影に隠れることで簡単に防げる。 巨人兵2「っ───!?おい邪魔だ!どけ!」 巨人兵1「なんだと!?お前こそ俺の剣に───!!」 悠介  「はあ……」 巨人兵といっても、やっぱり感情で動く生き物だ。 傲慢にもなれば何かを邪魔に思うこともある、か。 アホゥだな俺。 どうしてか巨人は普通の人間には無いやさしさを持っているなんて思ってた。 悠介 「“戦闘、開始(セット)
”」 意識を集中させる。 手の平に小さく創り出した黄昏から光の武具を創造し、それを構えた。 両方の手から腕にかけてを包み込むような輝く篭手と、足を包む具足─── “光獣宿す閃光の篭手(ベオウルフ)”と“氷狼砕く魔法の具足(ヴィーダル)”だ。 巨人兵1「なにっ!?こいつ、何処から武器を!」 悠介  「疾───!!」 踏み込んだ地面を爆発させるように疾駆。 巨人の驚愕とともに駆けた身体は一気に間合いを詰め、 速度を殺さぬままにその巨大な足をひと蹴りで払ってみせた。 巨人兵1「ぐぅっ!?お、おのれ!」 すぐに起き上がる巨人兵を前に、俺は頭の上に腕一本を構えた。 刹那、ガギィンッという音とともに俺の腕に衝撃が走る。 巨人兵2「馬鹿な!見切っていたとでも……!?」 見切ってなんかいない。 相手が巨人だからという先読みのようなものは確かにあったが、それが当たっただけだ。 巨人がもっとも威力を発揮出来るのは上から下へと体重をかけて下ろす攻撃だ。 だからこそ戦いになるとそれが癖になっていると踏んだまでだ。 巨人兵3「油断するな!この竜の人間、手強いぞ!」 巨人兵4「チッ───!」 その場に居た巨人が身構える。 俺はそれを確認すると、そのまま腕を斬ろうとしている巨大な剣を殴りつけて穴を開けた。 さらにその穴に手を引っ掛けて大きく振るい、それを離す。 巨人兵2「なっ───!?」 巨人が宙に舞う。 既に竜人の力は最大限まで引き出してある。 だからといって巨人を投げられるなんて思ってもみなかったが、それが軽くで出来た。 しかし……その事実に喜ぶことなんてまるでなかった。 悠介 「ッ───ぁあああああああああっ!!!!」 再び地面を爆発させた。 その疾駆は自分でも呆れるくらいの速度で、 それは得物を狩るチーターのそれを軽く上回っていた。 巨人兵1「速───」 驚く暇なんてない。 俺は再び巨人兵との間合いを詰めると拳を振るった。 ベガァンッ!! 巨人兵1「ギッ───!?」 その一撃は巨人兵の足を軽々と砕く。 それを見た巨人兵たちが次々と襲い掛かるのを見て、 俺はただただ辛い気持ちに追い遣られた。 ゼプシオンと戦うためだからって、なにをしてるんだ───と。 ヴオッ───ガギィンッ!! 悠介  「チィッ───」 巨人兵5「甞めるなァッ!!      我ら巨人兵団はそこいらのモンスターなどに遅れをとったりは───!」 悠介  「モンスターか……違いない」 篭手で受け止めた剣を具足で砕き、そのまま身を翻して宙に舞う。 その身は次々と狙い撃ちされるかのように攻撃の雨に襲われるが、 その全てを篭手と具足で捌いて舞う。 巨人兵6「馬鹿な!我々の剣技が通用しないだと───!?」 悠介  「力があったって慢心しちまえばそれで終りってことだろ。      俺たち人間もモンスターもあんたたちも、そこの違いなんて絶対にない」 巨人兵5「黙れ!」 俺目掛けて振るわれる剣の悉くを虚空にて捌く。 捻る体の傍を裂いてゆく剣は、扱うものの怒りや焦りの所為か単純だ。 これが剣技だなんて言えるなら、子供だって兵士になれるだろう。 悠介 「───!」 振るわれる剣の群を弾き、逸らし、砕き、捌く。 不安だった篭手の強度はイメージの倍加によって支えられていた。 なにせこれ、彰利の記憶の中にあったとあるゲームのイメージを引っ張ったものだ。 不安が存在するのは仕方が無い。 それでも威力は信頼に足りるものだ。 こういうものを手にすると興奮するのは男として仕方の無いものだと思う。 俺はいつか装備したゴーレムナックルを思い返し、ベオウルフを弾き合わせて笑った。 悠介 「よっしゃこぉおーーい!!」 ガヅゥンという音が響き渡り、俺はさらに力を込めて拳や蹴りを振るった。 今だ虚空に浮いたままに巨人に踵落としをキメたり拳を落としたり。 そりゃあ攻撃を喰らうこともあったが、それでも攻撃は止めなかった。 というより、攻撃をする度に光り輝くベオウルフとヴィーダルが面白かった。 もはや竜人の強さの云々がどうより、武器の性能を楽しんでいるといった方がいい。 巨人兵9「ォァッ!!」 ドガァンッ!! 悠介 「甘いッ!!オォラァアッ!!」 バガァンッ!!───地面を砕いた剣を横殴りに破壊して疾駆。 既に地面に降りていた(叩き落された)俺は、素早さを生かして巨人兵たちを翻弄する。 しっかし…… 悠介 「キリがないな……」 来るのは兵士ばっかりだ。 隊長と呼べる存在が全然来ないのはどうしてだ……? 悠介 「───」 ふと思い立ったことを胸に、俺は足を弾かせた。 向かう先は巨人ではなく、景色の果てにある巨大な建物だ。 巨人兵21「コロシアムへ向かったぞ!」 巨人兵23「押さえろ!」 コロシアム……? 悠介 「───もしかしたら」 そう思った俺はさらに足を弾かせ、その場へと向かった。 当然後ろからは巨人兵の大群が来ているわけだが─── 悠介 「だぁっ!しつこいぞお前ら!」 巨人兵『黙れクズが!死ね!!』 悠介 「いきなりクズ呼ばわりかよ……」 苦笑する俺だったが、 ここはわりと楽しい場所かもしれないなんて馬鹿なことを思っている自分が居た。 ───……。 ドガァンッ!! 声  『ヴギュゥウーーーッ!!!!』 悠介 「お?」 コロシアムに入り、 巨人兵たちを撒くために滅茶苦茶に走っていたら……何かを吹き飛ばしてしまった。 しかし立ち止まっている暇もありそうになく、仕方なく見捨てて走─── 悠介 「あ」 ……った先は、なにやらとんでもなく広い場所だった。 まるで中世の闘技場、というのか…… 巨人1「───!竜族の反応だ!」 巨人2「殺せ!竜族は一匹残らず殺せ!!」 その場に出た途端、周りの全てが敵と化す。 まるで地鳴りでも聞いているかのような『殺せ』の絶叫。 巨人 「静まれ!!」 巨人 『ッ───!?』 しかしそれを止めたのは目の前に居た巨人だった。 巨人 「……竜人。貴様が次の相手というわけだな」 悠介 「へ?いやちょっと待て……今自分が置かれている状況を整理してる……」 そう、ここはどう見ても闘技場だ。 巨大な石で作られた闘技場……周りには巨人どもの観客も居るし、 俺と向かい合っている巨人もひとり。 しかし俺はその巨人に見覚えがあった。 悠介 「……ゼプシオン=イルザーグ」 イルザ「私を知っているのか。ああだがそんなことはどうでもいい。     貴様が竜族ならば心置きなく殲滅できるというもの。     ただし───ここはコロシアムだ。     闘技場に互い以外の者が立ち入るなど以っての外」 ゴゥンと風を斬る剣は、確かにあのリビングアーマーが装備していたものだった。 大木ですら豆腐を斬るように切り裂いたあの剣だ。 悠介 「……丁度いい。あんたの胸、貸してもらう」 イルザ「生憎だな。竜族に貸す胸など持ち合わせていない」 始まりの合図などなかった。 あるとするならばそれは、互いが一気に疾駆した時こそがそれだった。 悠介&イルザ『ォオオオオオオオオオオッ!!!』 互いが立っていた地面が爆発する。 それほどの脚力を以っての疾駆は自分が思うよりも一気に互いの間合いを殺し、 しかしそれでも互いがその速度に瞬時に反応して武具を振るっていた。 ガヅゥウウンッ!!!! 悠介 「つ───あぁっ!!」 弾きあわされる武具と武具───しかし吹き飛んだのは俺だけだ。 尋常じゃない……やっぱり英雄だなんて云われてただけのことはある。 悠介 「けどな……それで納得して帰るほど素直な性格なんてしちゃいない!!」 再び疾駆し、空いた間合いを再び詰めた。 刹那に振るわれる剣を篭手で逸らし───否! ドガァンッ!! 悠介 「が……はっ……!?」 逸らすもなにもない。 そうなるように構えた筈が、それさえも潰された。 篭手はその衝撃に耐え切れず破壊され、しかし迫る追撃をヴィーダルで弾く。 いや、この場合『弾かれた』と言うべきだ。 何故なら、本来弾いた刹那の隙を狙うべきだというのに、 俺は間合いから吹き飛ばされていたからだ。 捌くどころじゃない……こいつ、やっぱりリビングアーマーの状態より確実に強い。 竜人の力の全力でもこれだ、確かにミルハザードと戦おうとするのも頷ける。 そう───強さとはなにか。 その具現が目の前に居た。 悠介 「イメージ解放……!“不避死を齎す破生の竜槍(ゲイボルグ)”」 覚悟は決まった。 英雄……そう、英雄が目の前に居る。 英雄を前に力の出し惜しみなんてするのは馬鹿だ。 創造したゲイボルグを握り、自分の力を最大まで引き上げるイメージを解放する。 悠介 「よし……───っ!?」 風を斬る音───目の前! ガギィンッ!! 悠介 「づ───!!」 イルザ「フン───!」 振るわれた剣が槍ごと俺を吹き飛ばす。 アホウか俺は……!相手は鈍間なヤツでも余裕ぶってるヤツでもないんだぞ……!! 相手も見ないで創造にだけ集中するなんて、なんて馬鹿───!! 悠介 「ッ───疾!!」 吹き飛ばされた身体で闘技場の壁を蹴り弾き、間合いを詰めようとする。 が───再び詰めようとした間合いは、 既に目前まで疾駆していたゼプシオンによって詰められていた。 イルザ「オォッ!!」 悠介 「くあっ!!」 間合いを詰めるために蹴り弾く筈だった壁を、避けるためのものへと変えた。 刹那、壁がまるでチーズのようにザックリと横薙ぎに斬られる。 悠介 「〜〜〜っ……!!」 感じるそれは戦慄だ。 竜族にすら単独で立ち向かえる英雄がそこに居る。 俺はそいつが敵であることも忘れ、目の前の彼を完全に英雄として認めていた。 ───その一瞬の忘我が己を傷つけると知っても。 イルザ「遅い───!」 悠介 「!」 剣ではなく盾で殴り落とされた。 それを理解した瞬間に体勢を立て直し───ドガァッ!! すぐさま落とされた剣をかわした。 イルザ「いい反応だ───!」 悠介 「っ……そりゃどうも!!」 出し惜しみはするな。 如何なる手段をも用いて生に執着しろ───!! 勝つことなんて考えるな!これはもうそういう戦いだ───!! せめて一秒でも長く、この英雄と─── 悠介 「イメージ!超越にて解放!“芯を穿つ竜牙の閃槍(ゲイボルグ)───”!!!」 バッ───ガォオオオンッ!!! 放たれたゲイボルグがゼプシオンの心臓目掛けて飛翔する。 それは構えられた盾でさえ捻り穿ち、なおも心臓を狙う───筈だった。 イルザ「小癪!!」 あろうことか。 ゼプシオンはゲイボルグをその手で掴み取り、想像外の力を以って砕いてみせたのだ。 悠介 「かっ───アホゥ!!」 呆然としてる場合じゃねぇ! 攻めろ───攻めて攻めて攻めまくれ!! 悠介 「イメージ、超越にて───」 イルザ「させると思うか!!」 悠介 「っ!?くあっ───!!」 ギ───ザパァンッ!! 悠介 「かふあっ……!?づっ───あぁあああっ!!」 咄嗟に盾にした腕が虚空に舞う。 竜人として肌が硬くなってなければ今の時点で身体を横薙ぎに両断されていただろう。 が、そんなことも余裕を持って考える暇もなく連ねられる攻撃。 腕を創造したくても休む暇もない。 悠介 「せめて一撃───そこっ!!」 斜めに振り下ろされた剣を 左足の回転蹴りで弾くことで刹那の時間を作り、剣を創造。 しかし弾いた足はいとも簡単に砕けていて、その激痛を耐えることでも精一杯だった。 イルザ「ここまでか」 座り込むような形で動けない俺にダメ押しの一撃。 けど、剣とは別に纏めておいたイメージを弾かせることが左足を犠牲にした狙いだ。 悠介 「くらいやがれ……月醒光!!」 ガカァッ!! イルザ「ぐっ───!?」 振り上げた剣に創造した月醒力の光を重ねる。 それは予想通りにゼプシオンの視力を奪い、 振り下ろされた剣は俺の剣に弾かれ、すぐ横の地面へと突き刺さった。 悠介 「ぐ、づ……!!」 その隙を逃す手は無い。 俺は体を回復させる時間すら惜しみ、自分の中にイメージを溜めていった。 悠介 「ッ……イメージ……!超越、凌駕にて解放───!“架空・雷迅槍(ヴィジャヤ)”!!!」 ガカァァォオオオオオオンッ!!!! 積み重ねたイメージは解放されると同時に雷鳴の如き轟音を響かせ飛翔する。 しかしさすがは英雄───そう思わせる事態がその場で起こった。 イルザ「ヌゥウウッ!!!!!」 己の身に迫る何かを、歴戦を駆け抜けた体に染み付いた何かが防ごうとした。 視力を失っているにも関わらず腕を構え、穴の空いた盾がヴィジャヤを迎えた───!! ───だが。 ガジュンッ───バガガォオオオオオンッ!!!! イルザ「ォオオオオオオオオオオッ!!!!」 ヴィジャヤはそんな盾をいとも簡単に砕き殺すと、 その先にある左手から左肩までの全てを破壊し殺した。 ───それは、きっと誰が見ても『俺が有利になった』と見える光景だった筈だった。 けど……俺にはこの状況が。 ゼプシオンが構えた盾の意味が理解出来てしまっていた。 ゼプシオン……目の前の英雄は、己の左腕を文字通り『盾』にしたのだ。 ヴィジャヤの一撃が盾などで弾けるなんて思えないことは、 言った通りその身体が知っていたのだろう。 だからこそ『最小限』。 左腕を盾にすることで、雷迅槍を逸らしてみせたのだ……!! 悠介 「っ……」 心底ゾクリと来た。 ここまでいってこそ『英雄』なのだと思い知らされた。 ちやほやされるだけが英雄じゃない……実力があってこそ、誇りがあってこその英雄。 その意味の具現が目の前に立っている。 悠介 「は、……っ……体を回復させる霧が出ます……!」 血が流れる中、これ以上は意識が保っていられないと踏んで身体を回復させた。 切れた腕も砕けた足も、流れた血も全てだ。 だがそれもまた愚か。 目の前の英雄の戦意は喪失になど至っていないのだ。 気づけば風を斬っていた剣が、 盾にした剣ごと俺の腕の骨とアバラ骨を軽々しく砕いてゆく。 悠介 「く、ぐ……!!」 宙に浮き、そして倒れる体。 しかしすぐさま起き上がってゼプシオンを見るも、視力はまだ回復していないのだ。 ……再び襲い掛かる寒気。 これが彼を英雄たらしめている闘争本能なのだろうか。 視力もない状態で相手を確実に攻撃するなど、真実偶然じみているというのに…… 恐ろしいのは、俺には今の一撃が偶然当たったようには思えなかったという事実だ─── イルザ「ッ───!!ォオオオオオッ!!」 悠介 「ぐっ……!」 視力が回復すると同時にその足が岩盤を砕いて疾駆する。 吹き飛ばされ、距離が離れていたというのにその間合いを詰めるのに一秒も要らなかった。 悠介 「は、はは……か、帰りてぇ……!!」 腕を破壊されてもなお止まらない英雄が居た。 振るわれる剣の重さは多少は落ちているものの、 それでも俺なんかを弾き、吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。 しかも俺は剣を受けるたびに骨が軋み、まともに立っていられなくなっている。 ここまで相手の強さに愕然とするのはどれくらいぶりだろう。 素直に『帰りてぇ』なんて言えるのなんて、それこそミル・ミノタウロスぶりだ。 竜人になったことで半ばヤケみたいになってここまで来たけど…… 初心忘るるべからず、か……なんてマヌケな答えだ。 既に目の前の英雄には隙らしい隙なんて見当たらない。 何かを犠牲にして隙を作るなんてことも出来ず、 少しずつイメージを纏めようにも、剣を受ける度に軋む骨がイメージを掻き消してゆく。 まったく……なんて性質の悪い冗談。 既に立っているのでさえ限界だというのに、どうして攻撃を受け続けているんだろう。 もう弾く剣を握る手にも力が入らない───ああ、言ってる傍から剣が弾き飛ばされた。 次で終りだろう。 俺はこのまま両断されて─── 悠介 「……冗談」 ゾバァンッ!! 悠介 「ぎっ───!!!」 イルザ「……!?」 相手に『勝利の確信』の中で出来る油断なんてなかった。 目の前の英雄が油断なんてものをすること自体があるわけないと踏んでもいた。 だからこそ、相手がそうしたように片腕を犠牲にして時間を作った。 右腕は無残に斬り潰され、砕けた岩盤とともにミンチになっている。 俺はそれを見下ろして笑い、ゼプシオンを見上げてイメージを解放した。 悠介 「“魔剣を砕く主神の輝槍(グングニル)”……」 唱えた言とともに、虚空に文字の連なりが出来る。 選んだ武具がグングニルという時点で俺の敗北は確定だ─── だが、この英雄にダメージを与えられる武具なんてこれくらいしかなかった。 この数瞬で纏められるイメージなんてそれこそ数瞬のものだ。 だから……そう。たとえ─── イルザ「ヌゥォオオオオオッ!!!!」 ザガァンッ!! 悠介 「ガッ───……」 この身が斬られようとも、敗北しようとも……それを選ぶ以外に道はなかったのだ。 逃げるなんて選択肢がなかったんだ、それこそ仕方が無かった。 ───ゼプシオンが俺の体を切断した刹那、 虚空に存在していた文字の連なりから極光が放たれた。 それは俺を殺しきるために剣を振るい、 反動で伸びきったゼプシオンの右肩を完全に破壊し尽くした。 それを確認すると俺は苦笑のままに自分の先を思った。 恐らくこのまま自分は死ぬだろう、と。 身体を切断されて意識を失うってのに、生きてたら本当にバケモノだ。 悠介 「ア、───」 しっかし……まいったな、これが負けるってことか……。 思った以上に悔しいんだな……。 ───両腕を無くし、絶叫を吼えながら膝をつくゼプシオンを見て意識を失った。 恐らく、二度と目を覚まさないであろう深淵に沈みながら─── 【ケース49:タイニーマンドラゴラ二号/四苦八苦】 ───ピキキィイイイイイインッ!!!! 二号「サ、サムワァアアアアン!!!!」 一号「オヒョオッ!?」 ───ハッ!?わ、わたしはなにを……!? 一号「……キミ、もしかしてサムワン海王のファン?」 二号「そんなことは奇跡が起きても有り得ませんけど……    ああつまりそんなことが起きる奇跡自体を完全に否定してるわけですけどね?」 一号「キミの成分の30%は奇跡の魔法で出来てるのにねぇ」 二号「成分言わないでください」 それよりも……大変です。 この大陸から神力反応……つまり悠介さんの反応が完全に消えました。 ひょっとして危険を察知して別の次元に転移した……? いや、それはないと思う。 悠介さんは普通の転移はできるけど時空転移は出来ない筈だ。 じゃあ……? 二号「あのー……ちょっと気になるんですけど。悠介さんどうしたと思います?」 一号「どうしたって……ああ、気配無いね」 二号「無いね、って……そんな軽く言ってる場合ですかっ!?」 一号「だってオイラ信じてるしど〜せまた飛竜とともに飛んできてボディプレスを当てたの    に相手をキリモミさせながら上空に飛ばしてガッツポーズ取りながら『ハラショウ』    とか言うんだよザンギエフの如く」 二号「なんの話だかまるで解らない上に一息で話さないでください」 それにしても驚いた。 彰衛門さんのことだから悠介さんのこととなると取り乱すと思ったのに。 案外冷静なんだなぁ……ドゴゴシャ! 一号「ウベッ!」 あ……コケました。 冷静に振舞ってるだけでかなり動揺してるみたいです。 二号「彰衛門さんってやっぱり親友ですよね〜」 一号「う、うっさいやい!そげなこと当たり前じゃろうが!    ぁあああ〜〜悠介〜……アータどうしてそうポンポンと気配消しちまうんだよ〜」 二号「空界での悠介さんの災難っぷりは言うまでもないくらいですからね……今さらです」 災難というか、自ら墓穴を掘って掘って掘りまくって、 泉を掘り当ててしまうくらいの喩えでも足りないくらいですからね……。 一号「ところでさ、サムワンがどしたの?」 二号「いえあの……なんでしょうね。誰かの敗北を感じたような感じなかったような……」 一号「なんじゃいそりゃあ、訳解らん」 二号「しょうがないじゃないですか、わたしにもよく解らないんですから。    そんなことよりこれからどうするんですか?    オリハルコンがどうとか言ってましたけど」 一号「ウム、なんでも新たな武器を作るために必要なんだとさ。    その武器作ってなにするのかは解らんけど」 二号「解らないんですか?一緒に聞いたりしてたんじゃないんですか?」 一号「や、一応気絶したフリしてたわけだしね?    ……いきなり裁きやられたからしこたま驚いたけど」 二号「相変わらず無意味に死んだフリとか気絶したフリとかしてるんですね……」 一号「面白いし!」 ズビシィとポーズをキメる彰衛門さん。 この人の思考回路って本当に平和でいいですよね。 二号「ところで……認識はどうしても『一号二号』じゃなくちゃダメなんですか?」 一号「いきなりなにを言うのかね……そんなの当然に決まってるいるだろう。    キミはなにかね?私を馬鹿にしておるのかね」 二号「そういえばそういう口調になる人って    どうして大体が『私を馬鹿にしておるのかね』とか言うんでしょうね」 一号「不思議だねぇ」 くだらない話をしながらも歩く。 この『たいにーさん』とかいう格好だと、 歩くだの走るだのといったものの一歩が狭くて困る。 鉱山のようなものは見つかりませんし…… 二号「鉱山なんて本当にあるんですかね。なんだか怪しくなってきました」 一号「鉱石が鉱山で採れんと、一体どこで採れるというのかね。    オリハルコンがこの大陸のどこかにある以上、鉱山はきっとあるさね」 二号「それはそうなんですけど。    見渡しても見つからないんだから不安になるのも仕方ないですよ」 一号「ム、そりゃ当然。ならば───ピエロEYE(アイ)〜〜〜〜〜ン!!!!」 グミミミミ……!! 彰衛門さんが妙なポーズを取ると、眼球がメキメキと伸びて───って 二号「あの……果てしなく不気味ですよ?」 一号「そうハッキリ言わんでくださいマジで───オウ」 二号「?彰衛門さん?」 一号「まあゴメス!見つけたわゴメス!    大変驚いたことに、鉱山じゃなくてオリハルコン見つけちゃったわ!」 二号「え……ええぇっ!?ど、何処ですか!?」 一号「こっちじゃ!ついてまいれ!」 二号「あ、はいっ」 彰衛門さんがトトトト……と走る。 全速力なのに流れる景色がゆっくりなのはもう気にしないことにしました……。 ───……。 ……。 走って走って時には隠れて、そして目の前には巨大な輝く物体。 何かで囲まれて浮遊しているソレは金属とは思えないくらいに輝いていた。 二号「これが……?」 一号「ウ、ウム!きっとオリハルコンYO!……ていうか浮いておるね。    すげぇやオリハルコン……    アトランティス文明において浮遊金属だったってのは本当だったんだね?    って……じゃあここってアトランティス?」 二号「ん……いえ、なんだか違うみたいですよ?    これ、この金属が浮いてるんじゃなくて、    金属に浮遊の式か魔術かなんかが編まれてるんだと思います」 一号「なんと!?……あ、ホントだ。    リヴァイアが式とか使うと感じる波動がコレからも感じられるわい」 『オリハルコンじゃねぇんか……?』とか言ってる彰衛門さんをよそに、 そっとその金属に触れた。 二号「わ……」 それは不思議な感触だった。 輝いているのにひんやりと冷たく、鉱石なのに弾力があるような…… 一号「じゃ、もらって行こう」 二号「え……全部ですか!?」 一号「オウヨ?オウヨオウヨ〜!!オウヨ!!」 何を思ったのか、彰衛門さんが浮遊金属を囲っている石を破壊し始めた。 囲っている石は大地と繋がっていて、 そのためにこの大陸は浮いているのだとわたしにだって確信させるものなのに。 二号「ちょちょちょちょっと待ってください!    この浮遊鉱石取っちゃったらこの大陸は落ちてしまうかもしれないんですよ!?」 一号「悠介を殺そうとする巨人族なぞ死んだほうがいい……いや!死ぬべきだ!」 二号「どちらにしたってこの格好じゃ運べないって解ってます!?」 一号「え?あ、ギャア!」 解ってなかったみたいです……。 一号「そうだった!ワシャア今タイニーさんだったんだ!」 二号「そうですよ!だから───」 一号「手や足で石を破壊するなんて邪道だよね。やっぱ頭突きだ」 二号「そうじゃなくてですね!!」 一号「おー!?なんだコラおうコラ!    この俺が間違ってるとでも言いたげな白目じゃねぇか!」 二号「白目なのは彰衛門さんも同じです!    ああもういいからこのタイニ−状態をなんとかしましょうよ!」 一号「馬鹿野郎!馬鹿かねキミは馬鹿野郎!    そんなことしたらタイニーさんになれなくなっちまうじゃねぇか馬鹿野郎!!」 二号「馬鹿馬鹿言わないでください!    壊して治るんだったら悠介さんにまた創造してもらえばいいじゃないですか!」 一号「む───然り。そうと決まれば善は急げだ〜。奥義!爆肉鋼体……!!」 メコッ!モココッ……!! 彰衛門さんの筋肉が盛り上がる。 多分、筋肉の隆起で変身状態を内側から破ろうとしているんだと思うけど……。 一号「ぬぉおおおおおおおっ!!!100%中の100%ォオッ!!」 ……葉っぱのような手が少し膨らんだだけで終わりました。 一号「───ややっ!?」 二号「ややっ、じゃないですよぅ……」 一号「エィイ黙らっしゃい!ようは人間に戻れればいいんじゃろ!?    だったら簡単!“無形なる黒闇(ダークマター)、モード運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)”!!    デラックス変身ベルトに付加された効果を殺したまへ〜!!ヘイリァッ!!」 掲げた鎌がマキィンと黒い光を放つ……と同時に、 わたしはハッとしてベルトのスイッチを押した。 すると───ポムッ。 みさお「あ……あ、あははっ、も、戻れましたぁああーーーっ!!!」 元に戻った体を自分で抱くようにして歓喜乱舞……。 あのまま戻れなかったらどうしようと本気で思ったところだったから、 それはもう嬉しい出来事でした。 タイニー「ほっほっほ、喜んじゃってまあ。どれ、じいやも……おろ?」 カチッ……カチ、カチカチ…… タイニー「あれっ?あ、あれっ……?おかしいな、あれっ……あれっ……」 カチチカチカチカチチチチ…… タイニー「えーと……」 何度押しても戻らない彰衛門さんの体。 その白い目がわたしを見上げ、やがて─── タイニー「いやーーん!!」 叫んだ。 タイニー「ちょっと待てどうなってんのおかしいよこれ!      ちょっとデスティニーブレイカー!?おんどりゃしっかりしてよ!      俺戻れないじゃん!どうなってんの!?」 みさお 「彰衛門さんの場合、ベルトの故障とか悠介さんのイメージがどうとかより、      ただ単に呪われてるだけなんじゃないでしょうか……」 タイニー「俺ベルトに呪われるようなことした覚えないんだけど……」 みさお 「じゃああれです。日々の素行の悪さがここでしっぺがえしになったとか」 タイニー「ケカカ〜〜ッ、素行の悪さだと〜〜っ!!?俺はいい子だぜ〜〜〜っ!!!」 みさお 「どの口がそんなこと言いますか……」 タイニー「俺の口はひとつしか無いんでな……この口だとしか言いようがねぇ」 そもそも『ケカカ〜〜ッ』てなんでしょうね。 タイニー「まあそげなわけじゃて、みさおさんそれ運んで?」 みさお 「あの……いっつも着ぐるみとかに呪われたときってどうしてるんですか?」 タイニー「どうって……爆発とか切り刻まれたりとか、まあいろいろあって脱げてるけど」 みさお 「そうなんですか、じゃあ今すぐアルファレイドで……」 タイニー「殺す気かてめぇ!!こげな愛くるしいタイニーな俺を殺す気なのか!!」 みさお 「大丈夫です!これも彰衛門さんを元に戻すためです!骨は風化させますから!」 タイニー「えぇっ!?拾ってよ!!風化なの!?」 みさお 「じゃあ拾えば了承ってことですね?」 タイニー「あ……ギャア違う!待てキサマ!親であるこの俺を殺す気か!」 みさお 「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」 タイニー「返事になってねぇええーーーーーーっ!!!!」 みさお 「アルファレイド───」 光を極限まで溜めて、さらに様々な月操力を混入! あとは狙いを定めて一気に─── 巨人 「そこで騒いでいるのは誰だ!」 みさお「ひあっ!?」 駆けられた声に驚き、振り向いた途端にアルファレイドが発射された。 巨人 「ぬおっ!?ぬわぁああああああああっ!!!!!」 ボッガァアアアアアアアアアンッ!!!! みさお「あ……───」 巨人さんがキリモミで吹っ飛んでいった。 加減していたとはいえ、吹き飛ぶだけで済むとはさすが巨人です……じゃなくて。 ああどうしましょう……やっちまいました……!! ───ポム。 みさお「え……?」 おろおろとしていたところに、タイニー彰衛門さんの葉っぱのような手が私の足を叩いた。 そして─── タイニー「おめぇ……もう戻れねぇぜ?」 ニヤリとガイアさんばりの極上スマイルで笑ってみせた。 ああ……なんだか今物凄く、 こういう時に彰衛門さんを殴ってる悠介さんの気持ちが解ります……!! だいたい、タイニーさんの顔で極上ガイアスマイルなんて無理があるにもほどがあります! ああでも今はそんなこと考えてる暇なんて……!! みさお 「と、とにかく!これを持っていけばいいんですね!?」 タイニー「そうナリ!キテレツ!」 みさお 「踏み潰しますよ……」 タイニー「ホッホホ、やれるもんならやってみい!      そんなことをしている余裕があるならなぁ〜〜っ!!」 みさお 「え?うあ……」 見れば、アルファレイドくらった巨人さんがムクリと立ち上がっていた。 もちろんわたしはサァッと血の気が引く音を聞いて、 慌てて鉱石を抱えるようにして転移を実行してとんずらするのでした。 ───……。 ……で。 みさお 「うわぁ……」 タイニー「あ〜あ……」 結局浮遊鉱石だったオリハルコンなのか緋緋色金(ヒヒイロカネ)なのか解らないものを抱え、 わたしと彰衛門さんは落下してゆく浮遊大陸をこの目で見届けた。 みさお 「ど、どうしましょうか……」 タイニー「ザ・シカト!!きっとなんとかなるさ!      彼らはあそこで生きていくんだよトニー!」 みさお 「誰がトニーですか」 ともあれ目的の鉱石は手に入った……んだと思う。 あとは悠介さんさえ戻ってくればそれでいいのに…… みさお 「……悠介さん、来ませんね」 タイニー「なぁに、きっと待ち合わせ場所が潰れたってんで迷ってるんだぜ〜〜〜っ!!」 みさお 「………」 わたしたちは大陸が落ちる前の、大体にして陸の下あたりに居た。 今はもう大陸が落ちてしまっているから陸の下だなんて言えないけど…… でも悠介さんは全然現れなかった。 みさお 「彰衛門さん……」 タイニー「大丈夫、大丈夫だって。どうせまたすぐに……」 みさお 「………」 タイニー「こ、こうなったらアレだみさおさん!元気を出す呪文を唱えるんだ!」 みさお 「元気を出す呪文?ど、どんなやつですか?」 タイニー「ウム!それはだな……」 彰衛門さんは意味もなく耳元で囁く。 そのあまりの意味のなさにわたしは少々苦笑をもらしたけど…… それで場の雰囲気が少しでもゆるくなるのならと、わたしは了承した。 ───……。 ───スコンッ♪ みさお&タイニー『モンスターハンターは狩ァりッ!!』 タイニー    「依頼を受けたら狩りに出る!」 みさお     「武器はしっかり装備して!卵もちゃっかりいただいて!」 タイニー    「と思ったらワイバーンに見つかっちゃって超ガッカリ!」 みさお&タイニー『狩り狩り狩りで狩りばっかァりッ!!          モンスターハンター出来たばっかァりッ!!』 みさお     「上手に焼けました〜♪」 タイニー    「カプコン」 ………………ヒュゥウウウォオオオオオオ〜〜〜〜……。 みさお 「ああっ……!!どこからか辿り着いた悲しい風がっ……!!」 タイニー「みさおさんや……胸を張れ。人はこうして強くなってゆくんじゃよ……」 みさお 「恥ずかしさのあまりに泣くくらいならやらせないでください!!」 もう滅茶苦茶だった。 こうまでしても悠介さんは現れないし、暗い雰囲気は一層暗くなるし…… みさお(決断……早まったかもしれません……) そんな風に思って、 心の中から少しずつ湧き上がってくる後悔の念を千切っては投げるわたしなのでした……。 Next Menu back