───FantasticFantasia-Set24/ゼット───
【ケース52:晦悠介/竜人】 ───……そうして、レファルドに辿り着いた。 いや─── 悠介 「これは……」 そこはもうレファルドと呼んでいいのかも解らない場所だった。 城壁は無残に砕け、街は焼け落ち、 人々は意思の無い目で虚空を見つめたまま動かなくなっていた。 悠介 「………」 ディルゼイルを珠に戻してゆっくりとその場に足を踏み入れた。 死臭と人の焼けた匂いが嘔吐を促す中、それを噛み締めて前へ進む。 せめて生きている人は居ないのかと。 だが───何処に視線を向けたところで、動くものは炎だけだ。 生活の軌跡さえ破壊されたその景色は、まるで悪夢そのものだった。 悠介 「………」 貧民街に辿り着く。 俺と彰利とで少しずつ明るさを取り戻させたその場所に。 けど───そこにはもうかつての暖かさも、公園で遊ぶ子供の姿さえもない。 悠介 「───……」 ゆっくりと、髪の色が銀色になってゆくのを感じた。 目は真紅に染まり、衣服が紺色から黒色へと変わる。 悠介 「はは……馬鹿な、なんて現実だ……」 転がっている人型の炭の傍に落ちているぬいぐるみを見た時、静かに撃鉄が落とされた。 俺はそのぬいぐるみに見覚えがあったから。 これは───彰利が作って、貧民街の子供達に渡したものだったから。 だから…… 悠介 「───これが……人間のすることか?     こんなの、モンスターがすることより残酷じゃないか……」 だから怒った。 静かに、歯を噛み締めながら。 領地を手に入れるためだとか、世界を掌握するためだとか─── そんな私利私欲のために死んでいった人たちに報いるために。 でもまだだめだ───怒り狂う前にやらなきゃいけないことがある。 この街を、城を戻さないと……。 悠介 「く、ぐ……!!ぐあぁあああああああっ……!!!」 死神側に傾きすぎている肉体を無理矢理に神側に傾ける。 髪は金色と化し、だが怒りを拭い去れない状態が目を真紅にさせたままにする。 悠介 「ッ……!!く、そ……!安定しやがれ……!!みんなを救うんだ……!     ニンゲンどもに思い知らせるのはそのあとで構わない……!」 ビキビキと神経が引き攣る。 それでも黄昏を創造し、月癒力を超越、凌駕で創造。 今まででは考えられない規模の黄昏で皇国レファルドを包み込むと、 一気にイメージを弾けさせた。 悠介 「ル……ゥウウォオオオオオオッ!!!!!」 刹那、景色の全てが再生すると同時に───俺の体に異変が起こる。 視界が真っ赤に染まり、体の芯が灼熱し、その熱が背中へと集中する。 真っ赤に染まった景色の中でも自分の髪が金色であることは理解でき、 まるで神の状態と死神の状態とが合わさったような状態のままに体が固定されてゆく。 怒りと慈しみが融合される気分というのはこういうものなのだろう。 悠介 「ッ……!!」 背中の熱が外へと解放される。 それとともにバサァッという音が高鳴り、同時に視界の赤が薄れてゆく。 だが、赤が薄れたところで怒りは治まらない。 今や全てが元通りに戻ったレファルドの景色と人々を前にしても、 一度それを奪った存在が憎くて仕方が無い。 馬鹿みたいな黄昏の創造をしたために意識は混濁しているというのに、 憎しみだけが後から後から湧いてくる。 声  「……悠介、か?」 悠介 「───……」 その時、声が聞こえた。 リヴァイアの声だ。 悠介 「リヴァイアか……」 リヴァ「その姿……ど、どうしたんだ一体……」 悠介 「………」 その言葉に、再生した家の窓に映る自分の姿を見た。 髪は金色に染まった状態で浮き上がるようにざわめき、目は真紅眼。 服は黒衣で背中からは竜の翼が生えていた。 リヴァイアが困惑するのも当然だ。 けど───今聞きたいのはそんなことじゃない。 悠介 「リヴァイア……レファルドを破壊したのは何処のどいつだ……」 自分の口から出た、酷く落ち着いた声に驚いた。 怒りは本物なのに───俺の心の感覚は、落ち着いているときの感覚に酷似している。 あまりに怒りすぎると逆に冷静になるっていうのはどうやら本当らしいな……。 リヴァ「───……それを知って、どうする気だ」 悠介 「決まってる。それを実行したヤツに地獄を見せてやる」 リヴァ「馬鹿な。竜人の状態でそんなことをすれば、それこそそいつは確実に死ぬぞ。     こうしてみんなが生き返ったんだ、それでいいだろう」 悠介 「……死ぬ瞬間の絶望を感じたやつらの気持ちはどうなる。     まだ幼い子供だってたくさん居たんだ。     俺達に助けを求めたヤツも居たかもしれない。     俺は……そんな時に、自分のために暢気にあちこち飛び回ってたんだぞ……!     こんな馬鹿げた残酷な現実なんてあるかっ……!!」 リヴァ「悠介……」 悠介 「俺は王としても民としても、この街のやつらに何も出来なかった……!     ここを滅ぼしたやつらがこの城に入ってこれたのだって、     俺が無責任に城をほっぽってあちこち飛び回ってたからだろ……!?」 リヴァ「悠介、それは違───」 悠介 「何も違わない!!……なんて馬鹿だ……!     人間の汚さなんて、育ってきた過程で嫌っていうほど知ってた筈だったのに……!     結局私利私欲しか持てない馬鹿が居る限り、人に平穏なんて無いんだよ!!」 リヴァ「悠介……」 激情を吐き出し、街を見る。 かつては人々の笑顔があった街なのに、今やその場で恐怖に怯える者ばかりだ。 みんながみんな、死ぬ瞬間の恐怖や致死の痛みを感じた者なんだ、当然だ。 悠介 「……リヴァイア。誰がこんなことをしたのかを言うつもりはないのか」 リヴァ「言うわけがないだろう。お前に殺しはさせたくない」 悠介 「そうか……だったらいい。どうせ前と同じだ。     他国のやつらが力を合わせて殺戮をしたんだろ?     だったらその頭の腐ったヤツらに恐怖ってものを思い知らせてやるだけだ……」 リヴァ「なっ───待て悠介!検察官はお前のそんな姿は望まないぞ!!     検察官はそんなお前を見たくてお前の未来を築いたわけじゃないだろう!」 悠介 「この感情に彰利は無関係だ……大丈夫さ、     あいつがここに辿り着くまでには済んでる」 リヴァ「悠介……!」 悠介 「───……安心しろよ、リヴァイア。殺したりなんかしない。     そんなことをしたらそいつらと同レベルのクズ野郎に成り下がるだけだ。     言っただろ、思い知らせるだけだって」 リヴァ「………」 リヴァイアは閉口して俺の目を見る。 俺もしっかりとその目を見てから翼をはためかせた。 無意識だったが、翼は簡単に動き───俺の体は簡単に空へと浮いた。 それを確認すると後は速かった。 何かを言おうとしたリヴァイアを置き去りにして、一気に風を切って飛翔する。 目指す場所は決まっている。 レファルドを狙ったであろうふたつの国だ……! 【ケース53:???/愚の骨頂。そして───】 αー2「───さて。レファルドは潰れたな」 αー3「ああ。案外容易いものだった。一度敗れ戻ったのが不思議なくらいだ」 αー2「まったくだ。でだ───残すは私とお前だけになったわけだが───」 αー3「そう急くな。我々が争う前にやるべきことがあるだろう」 αー2「……解っている。竜族とモンスターの排除だろう?それならば策はある」 αー3「ほう?」 空界の王であるふたりは怪しく笑う。 策というものにはαー3も予想がついていたのだ。 αー2「相手は竜族。そしてモンスターだ。生半可な攻撃ではビクともしないだろう。     ならばより強大な力を生み出せればいい。解るな?」 αー3「当然だ。召喚術のことを言っているのだろう?」 αー2「察しがいいな、その通りだ。     古の儀式において誕生したとされるゼプシオンとミルハザードの如く、     より強大な力を召喚すればいいのだ」 αー3「古の儀式?なんだそれは」 αー2「三千年以上前の歴史書に記されたものだ。大地に埋もれた遺跡───     かつてノヴァルシオと呼ばれた場所の底に書庫があってな。     それの解読に成功した。過去の儀式は素晴らしいぞ、     小娘ひとりを生贄に差し出すだけであれほど強大な力を手に入れられるのだ」 αー3「生贄?どうする気だそんなもの。国の者を使えば王の地位が危ぶまれるぞ」 αー2「そこも既に算段は立ててある。     監視者の情報でな、現レファルド王の仲間に活きのいい小娘が居る。     そいつを使えばどうとでもなる」 αー3「なるほど?だが情報からするとレファルド王は     単独で竜族に勝つ実力を持っているそうだが?」 αー2「馬鹿正直に向き合えば奪えるものも奪えん。     既に式を行使して女を眠らせ、強制転移で奪ってある」 αー3「なるほど、魔導術師の力を借りたわけか」 αー2「しかもこれは掘り出し物だ。神と死神の波動に加え、     天界の至宝である奇跡の魔法まで備えている小娘だとは。正直驚いたぞ」 αー3「ほう……素材としては申し分ないだろう」 αー2「ああ。魔導術師どもも口々に生贄にするには勿体無いと言っている」 αー3「それはそうだろうな。私でさえ勿体無いと思える」 言って、ふたりは再び笑った。 暗い空間にふたりの笑い声だけが響き、 その笑い声が途切れていった頃───αー2が口元を歪ませる。 αー2「儀式の準備は整った。今こそ古の儀式が復活する時だ」 αー3「フン……せいぜい食われんように気をつけることだな。     私はこれからの算段を立てるとしよう。     お前の召喚に太刀打ち出来そうな算段をな」 αー2「好きに足掻け。この世界を手中に収めるのはこの私だ」 それだけを言うと、各々通信を切る。 残されたものは暗い空間だけ。 しかし───以降、このふたつの国の王がこの空間に姿を現すことはなかったという。 【ケース54:弦月彰利/沈黙の刻】 ビジュンッ!! 彰利 「悠介!───って、リヴァイア!?ああいい!リヴァイア!悠介は何処だ!?     大変なんだ!みさおが攫われちまった!」 レファルド皇国に転移した俺は、口早に喋った。 もしかしたらここに居るかもと転移しても、その場には悠介もみさおも居ない。 居るのはリヴァイアだけで、だけどそのリヴァイアもどこか疲れたような顔で俯いていた。 リヴァ「検察官か……」 彰利 「おう俺だ!ベルト破壊して美麗な俺に戻った俺だ!で!?悠介は!みさおは!?」 リヴァ「……悠介ならここには居ない。     みさおも……わたしは知らない。ここには居ないだろう」 彰利 「───じゃあ何処に居るんだ!     いきなり居なくなっちまったんだ!どうなってんだよ!」 リヴァ「そんなこと言われたって知るもんか。     ただ……悠介は他国へ向かっている筈だ。それだけは間違い無い」 彰利 「他国?なんで」 リヴァ「レファルドは一度、他国のやつらにツブされたんだ。     信じられるか?さっきまでこの景色は焼け野原だったんだ。     それを、悠介があっという間に再生させた」 彰利 「悠介が……?ってあの馬鹿!     こんなバカデカい場所を再生させたりしたら余力なんて残ってねぇだろうに!」 まさか悠介に向かって純粋に『あの馬鹿』とか言う日が来るとは……!! でも馬鹿だ……馬鹿すぎる。 無茶は修行の時だけにしろっての……! 彰利 「リヴァイア!他国ってのはどっちだ!?援護に向かうから教えろ!」 リヴァ「……援護なんて必要ない。すぐに終わる」 彰利 「終わるって……何がだ」 リヴァ「他国の命運だ。……なぁ検察官、『反発反動力』って知ってるか?」 彰利 「───真面目な話か?」 リヴァ「真面目な話だ。悠介の援護は本当に必要ないって意味での話に繋がる」 彰利 「……聞こうか。続き」 リヴァ「ああ。空界には『反発反動力』って言葉がある。     空界だけじゃなく、どの世界ででも言える言葉なんだが───     例えば地界で言う油と水だ。熱した油に水を注ぐと弾かれるだろう。     磁石での喩えでもくっつく力と弾く力がある。     『反発反動力』っていうのはそういうものの喩えとして空界で使われている」 彰利 「……それが?」 リヴァ「今の悠介はまさにその塊なんだ。     神と死神の力が合わさって、『反発反動力』を産み続けている。     喩えを挙げれば───油はどうして水を弾くと思う?」 彰利 「勉学はちと……」 リヴァ「解らないならそれでいい。だが現象としては理解できるだろう?     油は水と合わせることで『弾く力』を生む。     それと同じで、今の悠介は神と死神の力が内側で弾け合って、     無尽蔵に力を生んでいる状態だ。     しかもその状態を固定するために竜人の力が発生している。     どんな武力を行使したところで、国ひとつで勝てるような存在じゃない」 彰利 「………」 呆然。 や、どう反応しろと……? 彰利 「……ハッキリ言うけどさ。悠介ってどこまで人間やめりゃあ気が済むのかな」 リヴァ「仕方ないさ。人間の黒い部分ばかりを見れば、やめたくもなる」 彰利 「……ま、そりゃそっか。愚問でしたな」 そげなこと、俺もしっかりと解ってたことだし。 でも、難しいけれど人は好きだよ?DEENの如く。 一部だけどね。 彰利 「じゃあ、マジでほっぽっといてええんじゃね?」 リヴァ「ああ。それはわたしが保証する。どうせみさおもそこに居るだろう」 彰利 「そうなん?」 リヴァ「想像に容易いよ。力を欲するなら古の儀式に頼るだろうし。     まったく、今頃解読出来るだなんて……最近の魔導術師のレベルは低いな」 ぶつくさ言うリヴァイアをよそに、やはり俺は心配していた。 悠介じゃなく、みさおのことを。 だってさ、悠介が大丈夫すぎるとしたら、 それに巻き込まれてみさおが大変なことになったりしないだろうかと思うだろ? 不安なのは仕方ねぇや。 俺はそんなモゴモゴした状況の最中、 ただ待つことしか出来ない乙女の気分を十二分に味わうこととなったのだった。 いやん乙女チック♪……じゃなくて。 彰利 「リヴァイア〜……せめて他国の映像を見ることって出来ない?」 リヴァ「……出来るが、魔導ハックすることになる。ちょっと面倒だ」 彰利 「俺が許す!」 リヴァ「誰に許されても面倒なことに変わりはないんだけどな……」 変わらずの男語を喋るリヴァイアが虚空に式を描くと、 その場に文字が書かれていないキーボードのようなものが出現した。 リヴァ「アクセス、魔導の軌跡」 リヴァイアはソレを凄まじい速さで操作してゆくと、一気に画像を引き出した。 そこは───儀式の祭壇ような場所だった。 しかもその祭壇に上げられているのは───みさおだったのだ。 彰利 「ゲゲェエエーーーーッ!!!     みさお!みさおーーっ!!じいやはここじゃぞーーっ!!」 もちろん言葉なんて投げかけても届かない。 今身を持って知ってしまった。 リヴァ「声は届かない。映像と声を拾うくらいがせいぜいだ」 彰利 「チィ……!助ける方法とかは!?」 リヴァ「見ることが出来ないか、と言ったのはお前だろう。     干渉払いの結界が張られてて強制転移も出来やしない」 彰利 「ぬぐっ……歯がゆいってイヤだなオイ……!!」 頭を掻き毟って悠介の到着を待った。 どちらにせよ悠介を信じて待っていた方が効率的にはいいかもしれんが───アアアア!! 彰利 「───!」 リヴァ「うっ……」 体が凍りついた。 いや、実際に凍りついたわけじゃない……恐怖に体が竦んだって言うべきか。 虚空に浮かぶ景色に異常が起こったのだ。 儀式の祭壇に巨大な影が差し、そこに一気に降り立ったのは───真っ黒な竜。 一目で『こいつには敵わない』と意識させる力を持つソレが、祭壇に降り立ったのだ。 リヴァ「っ……黒竜王……ミルハザード……!!」 彰利 「こ、こいつが!?」 素直に驚愕した。 映像だけで恐怖を感じさせるソレが、噂には聞いていた黒竜王だったなんて……。 ───その状況は戦いにもならなかった。 巨大な黒竜は咆哮だけでその場に居た人間を吹き飛ばすと、みさおを足で掴んで飛翔した。 次の瞬間には口に凄まじいほどに圧縮させた光を溜め、一気に放った。 ……それだけで、その国の城は跡形もなく消え失せた。 彰利 「っ……!!」 心底震えがきた。 この国のものほどじゃないにしろ、見えていた城は相当に大きいものだった。 それがたった一発でコナゴナ……いや、塵すらも残らず消えてしまった。 もはやそこに城があったのかさえ解らない。 だが俺の目は黒竜王に掴まれているみさおから離れない。 どうしてみさおごと消そうとしなかった? どうして……城もろとも街を消すことはしなかった? 訳が解らない。 あいつはこの世界の均衡だとでもいうのか……? ───などと考えている時だった。 飛翔する黒竜王の前に、金色に輝く存在が辿り着いた。 彰利 「……って、悠介!?」 信じられない事実だった。 その存在ってのは間違いなく悠介で、 だけど髪が金色で目が真紅眼、背中には翼まで生えている。 彰利 「リヴァイア……これって」 リヴァ「言っただろ。神と死神の状態が同時に出ていて、     しかもそれを竜人の力で固定している状態だ。     反発反動力……その力は大きいが、それでもミルハザードには……」 彰利 「………」 えーと、一言感想。 超サイヤ人が居る。 違いと言ったら目が赤いのと翼と二本の角が生えていることくらいだ。 でも相手が悪すぎだ。 フリーザさまにだったら勝てるかもしれんが、ここは漫画の世界じゃない。 彰利 「どうなると思う……?」 リヴァ「100%、悠介の負けだ。せめてみさおだけでも助けられればいいが───」 ───……。 【ケース55:晦悠介/竜王対竜人】 ───他国に辿り着いてみれば、そこはもう崩壊していた。 存在するのは伝説の黒竜王ミルハザードと、 その足に包み込まれるようにして動かないみさおの姿。 何故みさおが……?と思う余裕も無い。 この場に居るのなら、攫われたとしか考えられないだろう。 正直、勝てるだなんて思えもしないが……みさおだけは助けないといけない。 悠介 「……みさおを離せ」 黒竜王『……竜人か。この娘を救いに来たのか』 悠介 「……ああ。出来れば戦いなんてしたくない。みさおを返してくれないか」 黒竜王『断る。生贄の行使などされては困るのだ』 悠介 「そんなことはしない。だから───」 黒竜王『証拠などどこにもなかろう。ニンゲンなど私欲の俗物だ。     身勝手な魔力行使の末、罪も無い存在を生贄に召喚だと?     たわけが、命をなんだと思っている』 悠介 「そいつは俺の親友の娘だ。連れて帰らないわけにはいかないんだよ」 黒竜王『簡単に攫われ、生贄にさせてしまう父親に価値など無い。     この娘を返したところでまたいつ攫われるか……』 悠介 「ッ……あいつを侮辱するんじゃねぇ!     あいつは誰よりも相手のことを思いやれるヤツだ!」 激昂を放つ。 だが黒竜王を鼻で笑うようにすると俺の横を通り過ぎようとする。 俺はそれを阻止するように前へと出て、睨み付けた。 黒竜王『命は粗末にするな。我はこの世界が平和な状態を保てていられればそれでいい』 悠介 「大事な娘の居ない親が平和を噛み締められるかよ……!     いいからみさおを返しやがれ……!」」 黒竜王『声が震えているぞ。それでは虚勢にも至らん。     出直せ。我は貴様を殺したくはない』 悠介 「馬鹿言うな───俺が戻るとしたらみさおと一緒の時だ!!」 黒竜王『───……力の差が解らぬ者でもないだろう。退け』 悠介 「………」 ……ダメだ。 話し合いで返してもらえる様子は無い。 だったらもう実力行使しかない。 勝つだなんて考えるな……みさおを取り返して、ブラックホールで逃げ出せば─── 悠介 「オォオオオオオオオオッ!!!!」 算段を纏め、一気に飛翔した。 向かう先は黒竜王の足───即ちみさおのみ。 すぐさまみさおだけを転移させるブラックホールをイメージし、それを弾く───が。 ゴォオオウンンッ!!!! 悠介 「づっ───!?」 黒竜王は凄まじい速さで創造されたブラックホールから離れ、俺を見下ろした。 黒竜王『こうなった時点で相手の取る行動は転移くらいだろう。     それが解らぬ我とでも思ったか』 悠介 「っ……」 読まれていた……嫌なヤロウだ。 黒竜王『退け、竜人。この娘に危害を加えたりはしない。     そのまま背を向け、己の住むべき場所へ戻るのだ』 悠介 「アホぬかせ、たわけ」 黒竜王『なに……?』 悠介 「同じこと言わせるなよ。俺が戻る時は───みさおと一緒の時だ!」 もはや小細工は通じないと判断した俺は再び飛翔。 黒竜王へと一直線に向かい、黄昏を創造した。 黒竜王『……攻撃を仕掛けられれば抗うぞ、我は。覚悟しろ』 油断してるかどうかなんて知らない。 ただ絶対者には必ず、強者としての隙がある筈だ。 そしてそれは戦いが完全に始まる前に他ならない───!! 悠介 「充満せし魔力を糧とし、我が呼びかけに応えよ!     契約は完了せり!出でよ───バハムートォッ!!!」 黒竜王『……なに?』 思考の回転とともに、すぐさま自分の中の魔力を爆発させた。 刹那、その場に出現するバハムート。 その大きさたるや、黒竜王の大きさに負けていない。 黒竜王  『召喚獣……?貴様、魔導術師か』 悠介   「そんな立派なものじゃないさ。       ただ……融通の利かない馬鹿野郎は大嫌いな死神だ。       ───バハムート!みさおには当たらないように全力をぶつけてやれ!!       魔力解放!“黒紫より放たれん絶望の極光(シャイニング・メガフレア)
”!!!」 バハムート『ギシャアァアアォオオオンッ!!!バガァッッ───ボガガガォオオオオオオオオンッッ!!!!! 空気さえ破壊し尽す極光が黒竜王に襲い掛かる。 刹那、その威力を瞬時に悟った黒竜王は身を翻すように避けに入る。 俺はその隙を見逃さず、全速力を以って黒竜王の避けの軌道へ回り込むと 全力を込めたヴィジャヤを放ち、それを押し返す───!! 黒竜王『グッ───!?貴様───!!』 悠介 「最初っから勝てるだなんて思ってない!     そうさ───俺の力は守るべきものを守るためだけに存在する───!!」 だから。 たとえ勝ち負けがどうでも守りたいものを守れればそれでいい……!! バガァアアォオオオンンッッ!!!! 黒竜王『グォオオオオオオッ!!!』 全力を以って押し戻した黒竜王の尾をメガフレアが破壊する。 それをみて確信した。 たとえヴィジャヤで傷ひとつつかないバケモノでも、 メガフレアでなら傷つけられるのだと。 悠介   「ははっ……デカイ図体が仇になったな……!バハムート!次だ!」 バハムート『ォオオオオオオオオオオオオンッ!!!!』 咆哮を放ち、光を込めるバハムート。 俺はその次弾を確実に当てるためにイメージを解放し、 光の武具の全てを降り注がせた。 黒竜王『……図体のデカさが仇となった……?ならばこれでどうだ』 だが黒竜王はうっすらと楽しげに笑うと、己の体を輝かせた。 悠介 「ッ……!?目眩ましか!?」 その光ごと切り裂こうとブルトガングを手にして振り下ろした。 が───ガギィンッ!! 悠介 「なっ───……!?」 光の中でそれは受け止められ、やがて光が晴れる頃……俺は驚愕した。 何故なら……そこには俺と同じ、竜の飛翼を生やした男が居たからだ……!! 黒竜王「……言った筈だ。俺はお前を殺したくなどない。     自分と同じ『竜人』を殺したりなどしたくないからだ」 悠介 「竜……人……!?馬鹿言うな!お前は召喚された黒竜じゃないのか!?」 黒竜王「ああ、召喚されたとも。黒竜として。だがそれがなんだ?     お前だって至るところに至ってしまえば俺のようにドラゴンになるだろう。     俺とお前の違いはそんな些細なことに過ぎない。     そして……同じ『守りたいもののためにつけた力』を持てばこそ、     お前に死んでほしくなどないのだ」 悠介 「ふ……ざ……けんなっ!!俺とお前が同じだって!?なんの冗談だそれは!」 黒竜王「同じだ。俺はニンゲンだった頃に守りたいものがあって力を求めた。     その末に竜の力を手に入れ、気づけば黒竜になっていた。     確かに力は得た。が、人生というのはあまりに残酷だ。     狭界に落ちた俺がこの空界に戻るためには召喚される以外に方法がなかった。     その挙句が、俺が守りたかった人を生贄にした召喚だ。     こんな馬鹿げた末路があるか?馬鹿馬鹿しくて笑う気にすらなれぬ……!!」 悠介 「───……」 召喚……生贄……!? 悠介 「じゃあ、お前の守りたかったものってのは───」 黒竜王「そうだ、晦悠介。俺の名はゼット。ゼット=ミルハザード。     俺が守りたかったものはセシル=エクレイル……     三千年以上も前に、俺を召喚するために生贄にされた人物であり、     この少女……簾翁みさおの前世だ───!!」 悠介 「───!?」 意識が凍る。 みさおの前世が……セシル=エクレイル……!? 悠介 「……は、はは……なんだよそれ。ここは空界で、みさおは地界産まれだぞ……?」 ゼット「自分すら騙せない言葉は放つな。もう解っているだろう。     いくつもの世界があろうとも、死へと誘われた者が向かう先は冥界。     その先で何に転生するかなど、死神の王にしか解らん」 悠介 「……っ……!」 なんて馬鹿げた冗談。 そう思っているのに、俺の中で酷く辻褄が合ってしまうことが許せなかった。 あの時───俺と彰利が猫になっていた時、みさおに前世のことを訊いたらなんて答えた? あいつはこう言わなかったか? 『人身御供の村娘だった』って。 ゼット「同じ竜人であるお前にだからこそ見せたのだ、俺の過去とセシルの過去を。     理解しただろう。俺はもう二度と、誰かを生贄にした召喚なんて見たくない」 悠介 「………」 夢の中で、セシルを生贄にした長はどうなっていただろうか。 突然現れた黒竜に、殺されていたんじゃなかったか───? だったらそれはこいつの怒りが故のことで、 こいつが世界の均衡になっていたのはセシルの願いを叶えるためだったのか……? ゼット「俺はな、晦悠介。狭界で地獄を見ながら生き延びた。     力をつけるために死に物狂いで生にしがみつき、     力に出来るものは全て力にしてきた。     ザコを殺すことでいろいろな能力を手に入れ、     巨人と戦って瀕死になっていた竜から竜の力を吸収し、黒竜王となった。     ……守れるって思ったんだ。これなら守れるって……!     だが結果はどうだ?守るべき存在を俺が殺してしまったようなものだ!     それが『守るための力』の末路だったんだよ!なんて悪夢だ!笑えもしない!」 悠介 「………」 俺の中で疑惑が確信へと変わった。 目の前のこいつは、既にコワレてる。 こいつは誇り高き竜族なんかじゃなくて、ただの狂った人間なのだ。 そして確かに……こいつのこの姿こそが『守るべきもの』を守れなかったものの末路。 俺もその場所に至れなかった時、こいつのように不完全な竜に堕ちるのだろうか。 こいつのように……セシルの願いをがむしゃらに叶えようとするだけの魔物に。 でも─── 悠介 「……みさおを離してくれ」 ゼット「いろいろな能力を得た……過去を見る能力や魔術、いろいろなものを。     だが……唯一欲しかった筈の次元干渉が手に入らなかった……!     それがあればセシルは俺を召喚して死ぬことなんかなかった筈だったというのに」 悠介 「みさおを、離してくれ……」 ゼット「ああ、解ってる。俺はもうとっくに狂ってる。     だってそうだろう。狭界は人間が生きていけるような世界じゃない。     この世界で言う召喚獣ばかりの世界だ。竜も居れば巨人も居て悪魔も居る。     様々な世界で言う絶望なんてあの世界に比べれば生易しくて反吐が出る。     簡単に絶望なんて言葉を使うヤツが許せないくらいだ」 悠介 「………」 でも───それでも俺は確信する。 俺はこいつのようには間違わないと。 同情なんてしてやらないけど、この姿が俺の未来の先なのかと考えると意識が凍る。 それでも立ち止まってしまったら何処にも行けやしないのだ。 だから……ああ、だから─── 悠介 「“戦闘、開始(セット)……”」 もう、解放してやらなきゃいけない。 この悲しみを背負った絶対の王を。 俺なんかじゃ役不足だっていうことは解っているけど…… それでも俺は、こいつを救いたいって思ってしまったから─── ゼット「セット?ハハ、俺と戦うつもりかツゴモリ。     酷いな、唯一の竜人同士だっていうのに」 悠介 「生憎だけどお前には友情も親近感も感じないよ。     俺は無理矢理竜人にさせられて、お前は自分から竜の力を受け入れた」 ゼット「結果は変わらない。お前はいつかは竜になり、人には戻れなくなる。     ただの人だった俺が黒竜王になったのだ。     最初から力のあったお前は俺なんかよりバケモノになるに決まっている」 悠介 「最初から力があった……!?この馬鹿野郎が!!     てめぇは手に入れた力で俺達の過去の何を見た!!     俺が最初から力を持ってたっていうなら     どうして俺達はあんな悲しみを受け入れなきゃならなかった!!     あんなものが力の末路だっていうなら、俺はそんな力なんて欲しない!!」 ゼット「欲しなくとも竜の力がそうさせる!     何故解らない!お前はもう戻れやしない!!俺とともに来い!」 悠介 「ハッ!冗談じゃない!!お前なんかに怯えてた自分に腹が立つ!     この際だから言ってやる!     お前なんかに付いていくやつなんか何処にも居やしない!!」 ゼット「ッ───ああそうか……!だったら殺してくれる!     お前の力はこの世界の均衡の妨げになる!!」 ゼットがブルトガングを握り砕いて構える───その刹那、 話し合いのために待機させていたバハムートにメガフレアを放たせた。 途端に驚愕の色に染まるゼットの表情。 ああ確かに。 片腕にみさおを抱いている状態のゼットにそれを放つのは正直馬鹿げている。 けど俺だって頭にきてるんだ、覚悟の程を見せてやる。 ゼット「チッ───正気か貴様ァアッ!!」 舌打ちをし、しかし容易く極光をかわす黒竜王の後ろで大爆発が起こる。 轟音を高鳴らせる景色と、少なからずその音に嫌悪感を抱く真実の刹那に、 一気にイメージを解放させてみさおをブラックホールで転移させた。 さらに…… ゼット「なっ───」 悠介 「オォラアァッ!!」 バガァンッ!! ゼット「ぐっ……!!」 みさおが転移されたことで驚愕した刹那の隙をも逃さず、拳を振り切る。 仰け反るゼットを見て確信した。思っていた通りだと。 竜人同士なら、下手な光の武具を創造するより直接攻撃の方がダメージがある───!! じいさんが言ってたじゃないか。 『竜に傷をつけられる者など、同種族の竜くらいなものだ』と。 ゼット「貴様……!!ツゴモリィイイッッ!!!」 悠介 「───!?」 確信とともに繰り出そうとした再度の拳が虚空で止まる。 目の前ではまるで竜のように口の中に光を溜めているゼットと─── 当たれば死ぬという絶望的な瞬間的結論だけだ。 悠介 「どっちが正気だよ馬鹿野郎!」 轟音を立てて放たれると同時に、ブラックホールを創造してゼットの背後に転移する。 出される前に転移したんじゃあ狙い打ちされる可能性があるからだ。 悠介 「イメージ、超越にて創造!“屠竜剣(グラム)”!!」 イメージを弾かせて、じいさんが作ってくれた屠竜剣を創造する。 それを強く握り、極光を放ち終え、隙だらけのゼットの背へと振り下ろす───!! ガシャアアンッ!! 悠介 「っ───!?」 が……屠竜剣はその一撃にすら絶えられずに砕け散った。 悠介 「チィッ!イメージが完全に辿り着いてないのか……!?」 考えられるとしたらまさにそれだった。 超越させて創造するにしても、 構造自体を完全に把握していなかったために超越に至らなかったのだ。 結果、屠竜剣は容易く砕け散った。 悠介 「だったら───」 ゼット「いつまでも隙を見せていると思うな───!!」 悠介 「っ!?」 ザフィィンッ!! 悠介 「がはっ……!?」 振り向きざま、遠心力とともに大振りにされた無骨な剣のようなものが俺の肩を裂いた。 激痛に耐えながらも振り切られた剣を見てみれば、 それはやはり『剣のようなもの』としか喩えられないものだった。 そう、まるで鱗と爪を鍛えて剣にしたようなもの。 ゼット「……言え。セシルを何処に転移させた」 悠介 「言うと思うか、馬鹿野郎っ……!!」 ゼット「───……」 冷たい目が俺を射抜く。 俺はそれを射抜き返しながら光の武具の方のグラムを創造し、 虚空を疾駆するように飛翔した。 間合いはそう遠くない。 一気に振り切る屠竜剣が、ゼットの剣に受け止められる。 悠介 「づっ……!」 ゼット「っ……」 斬られた肩が激痛に軋む。 だがそんなことを無視して剣と剣の鬩ぎ合いに集中する。 が───屠竜剣は俺の体ごと押し戻された。 悠介 「チィ……!」 単純な力なら相手の方が上─── そんなことを思った刹那に、剣閃の連なりが俺に落とされる。 ───ガガギンガンギキィンッ!!! それらを屠竜剣で弾き、返す刃でゼットに攻撃を仕掛けるが─── 屠竜剣はゼットの左手に掴まれ、 その事実に動揺した俺の隙を狙ったゼットの剣が俺の脇腹をえぐっていった。 悠介 「っ……づ……!!てめぇっ!」 斬られた反動を利用し、身を翻してゼットの顔面に蹴る。 それとともにヤツの手から屠竜剣の刃を引き抜くと、 隙を小さくするために月醒力の光弾を放った。 しかしゼットは光弾の存在など無いものと思うかのようにそのまま飛翔し、 間合いを一気に詰めると同時に剣を振るう。 ───ギジィイインッ!! 咄嗟に構えた屠竜剣が火花を散らす。 まったく、なんて愚か───!! 竜人とはいえ、 今さら竜王クラスに月操力なんかが効くわけないってのは理解の範疇だったろうに……!! ゼット「シィッ!!」 悠介 「くああっ!?」 逆さの状態でゼットの剣を受け止めた俺は、 その状態のまま強引に振り切られた剣によって地面へと叩きつけられた。 悠介 「っ……!」 けど暢気に寝ていられる状況じゃない。 すぐに身を起こしてゼットの存在を視界に入れる。 ……まったく冗談じゃない……!大空の王の名は飾りなんかじゃない……! 見る者が見るなら『渡り合えてるじゃないか』とか思うだろうが、 そんな事実は存在しない。 ゼット「ハハ、どうしたツゴモリ。もう終いか?」 なぜなら……そう。 この野郎は完全に遊んでやがるからだ……!! ゼット「もう解っただろう?俺とともに来い。世界にたったふたりの竜人だろう」 悠介 「寝言は寝て言え馬鹿野郎……!誰がてめぇなんかと……!」 ゼット「……つくづく愚かしいな、ツゴモリ。手加減がお前を調子に乗らせたか?     だったら見せてやる。『守るべきもの』のためにつけた力の末路を……!!」 ドクン、とゼットの体が躍動する。 ともに振動した大気が俺の体さえ振動させ、その波動が地面さえも揺るがす。 ゼット「オ……オォオ……オオオオオ……!!!!」 ───変身。 体が変わるというのは、真実このことを言うのだろう。 生えた翼と角以外は『人』のそれだったものが、竜のそれへと変貌してゆく。 肌は黒く染まり、鱗が現れ───尾が生え、翼がさらに黒く染まると大きく躍動した。 そう、喩えるならまさに『竜人』。 その姿を前に、俺もいつかはああなるか、という思考をめぐらせた刹那───! ───ガギギギギガンッ!!ジギィンッ!! 悠介 「ッ……!!」 一瞬にして詰められた間合いとともに放たれた剣閃の全てを無我夢中で弾いた。 ……冗談じゃない、目で確認できる速度を完全に越えている。 今のだって勘だけで動かしたらたまたま弾けたにすぎない。 現に弾いただけで手は痺れ、握っていた筈の屠竜剣を無様にも落としてしまった。 そして───それが敗北の合図だった。 『溜め』も無しにゼットの口から放たれた極光が俺の体を襲い、 叫ぶ暇も与えられないままに……俺の体は灰燼と化した。 Next Menu back