───FantasticFantasia-Set27/無銘の黒紫剣と修行馬鹿───
【ケース60:晦悠介/ドラグナー】 悠介 「……あー……」 夢の内容を噛み締めるようにして頭を掻いた。 目を覚ましてみれば晴天の空と、空を飛ぶ鳥───ではなくモンスター。 悠介 「……うん」 体を起こしてから手を開いたり握ったりを繰り返し、 自分が生きていることを再度実感する。 再度、というのは夜に目を覚ました時にも一度やっていたからだ。 悠介 「───」 立ち上がって辺りを見渡してみると、彰利もみさおもリヴァイアもそこらへんで寝ていた。 起こすのも悪い気がした俺は小さく息を吐くと、 ゆっくりと竜人の力を解放させて翼を出した。 珠  『王、飛ぶのなら私を使え』 悠介 「んー……悪い、少しずつでも竜の力に慣れておきたいんだ。     正直……いつ力に飲まれるか解らない。     気張ってるつもりだけど、この力はそんなに甘くないみたいだからさ」 珠  『……黒竜王のことを言っているのか?』 悠介 「そんなとこかな。俺まであいつみたいに狂ってりゃ世話ない」 珠  『そうか。そういうことなら何も言うまい。     黒竜王に見つからぬように移動するのだぞ』 悠介 「解っている。そういう気配を感じたらすぐ転移するさ」 珠  『それでいい。では私も少し眠らせてもらうとしよう』 悠介 「なんだ、ずっと起きてたのか?寝不足は生き物の天敵だぞ」 珠  『解っている』 軽く言葉を返すと、珠は言葉を発するのをやめた。 恐らく眠りについたんだろう。 俺はそれを確認すると翼をはためかせ、空を飛ぶ。 目的地は───じいさんの錬成工房だ。 ───……。 ───ォオオオッ……バサァッ!! 悠介 「よっ───とぉっ!!」 高い位置で竜の力を引っ込めて着地。 穏やかな日差しの差し込む森の中にひっそりと建つ錬成工房を見上げ、その中へと入った。 悠介 「じいさーーん、調子どうだー?」 まるで、勝手知ったる他人の家。 遠慮も無しにズカズカと入り込み、じいさんの姿を探した。 すると大した間もなく、剣を鞘へと納めるじいさんの姿を発見した。 長老 「おお客人か、丁度よかったわい」 悠介 「丁度良かったって───じゃあ」 長老 「うむ。今完成したところじゃよ」 そう言って、じいさんが綺麗に磨かれた鞘に納められた剣を俺に渡してくれた。 俺はまず───その鞘に驚いた。 まるで鏡みたいに景色を映し、輝いている黒紫色の鞘。 鞘でさえ武器になるんじゃないかとさえ思わせる造型もさることながら、 見た目からは想像がつかない軽さにも驚かされる。 剣を抜いてみれば、それこそ見惚れてしまいそうなくらいに輝いた刀身が姿を現す。 この輝きは───オリハルコンだろうか。 金色にも似た刀色をしたそれは、やはり恐ろしいくらいに軽かった。 しかし、ふと造型に違和感を感じた。 それは───刀身と鍔、といったいいのかは解らないが、 ともかく刀ならば鍔と呼ぶべき場所にある丸い穴。 悠介 「……じいさん?この穴って───」 長老 「ほっほ、客人。確かお主、竜族の珠を持っとったじゃろ」 悠介 「あ、ああ。これが?」 長老 「それをその穴に嵌めてみぃ。お主の悩みが解消されると思うが」 悠介 「……俺の……悩み?」 悩んでたって仕方ない。 俺は首に下げていた皇竜珠を吸盤から外し、剣の穴に嵌めてみた。 すると─── 悠介 「う───!?あ、え……?」 ……するとどうだろう。 あれほど体の中に充満していた竜の力が消えていくじゃないか。 いや、消えていくというより、剣に流れていっている。 悠介 「じいさん、これって……」 長老 「お前さん、竜人の力を嫌ってたじゃろう。じゃからそれを作った。     その剣にはの、これと決めたモノの力を吸収し、力に変える魔導が施されておる。     干渉払いとは逆の力じゃな。その魔導……まあ魔導と言っていいのかは別として、     その力はエルフにしか作れぬものでの。その力を込めてもらった鉱石と鍛冶具を、     フォードのヤツに頼んで届けてもらったというわけじゃよ」 悠介 「……そうだったのか。     って、じゃあそのフォードっていうヤツはもうここに来たのか?」 長老 「うむ。ちと申し訳ないがの、ほぼ入れ違いに到着したわい」 悠介 「ぐは……」 なんだそりゃ……。 でも、そのお蔭で剣もこうして完成したわけだし───感謝だな、うん。 悠介 「じいさん、ありがとう。助かった」 長老 「なぁに、ワシもその剣を作れて満足じゃ。     おお、言っておくが以前の屠竜剣の能力もそのまま備わってるでの、     それはそのままパワーアップしたと考えてもらってええぞ」 悠介 「ん……伎装弓術(レンジ/アロー)
」 パキィンッ!! レンジ/アローを唱えると同時に、刀身が皇竜珠を中心にふたつに割れる。 おぉ……以前よりカッコイイぞ……。 俺は刀が好きだが、剣に憧れない男など居ない。 ましてやこんな色々な能力の付いた剣だ……わくわくしないヤツは男じゃない。 悠介 「はっ……ははっ……サンキューじいさん!!」 俺は“伎装剣術(レンジ/ブレイク)”を唱えて剣を鞘に納めるとじいさんに向き直った。 長老 「なになに。ただひとつ約束事を守ってくれるだけでええ」 悠介 「なんだっ!?なんでも言ってくれっ!」 長老 「いつでもええ。エルフの里とドワーフの洞窟に行ってくれ。     魔力を込める鉱石を錬成したのはドワーフどもで、魔力を込めたのはエルフじゃ。     完成した魔力鉱石を貰うための条件として、     『剣の持ち主を寄越すこと』と言われての」 悠介 「そっか……悪い、面倒なことになったみたいだ」 長老 「構わんよ。あやつらもただ単に興味があるだけじゃろう。では、よいな?」 悠介 「ああ、お安い御用だ。     べつにエルフやドワーフと戦えっていうんじゃないんだろ?」 長老 「うむ。いつでもええ、地界に帰る時にでも何気なく寄ってくれればええわい。     行く時になったらワシに言ってくれれば場所を教えるでの」 悠介 「ん、解った。じゃあ俺は早速───」 早速、鍛錬を開始しよう。 この剣があれば、少しずつ竜の力と一緒に強くなれる筈だ。 少しずつ少しずつ竜の力を解放していって、 その状態で限界がくればまた竜の力を解放していけばいい。 死神の力ともそうやって馴染んでいったんだ、竜の力でだって出来る筈だ。 悠介 「よし───!!じゃあじいさん、悪いけど森の開けたところ、借りるぞ!」 長老 「うむ、好きにしろ。静かなのはいいが、ここは少し静かすぎる。     剣の試し切りでもなんでも好きにせい」 悠介 「ああっ!!」 今、俺の顔を見る人が見れば、きっと子供みたいな顔をしているだろう。 それほど俺はガラにもなくはしゃいで、駆け足のままに森の奥へと急いだ。 悠介 「イメージ解放!“月詠の黄昏(ラグナロク)”!!」 ───さあ、強くなろう。 あの馬鹿黒竜をブン殴ってやれるくらいに強く……!! 彰利 「まあ落ち着きたまへ」 悠介 「どわぁっ!!?」 意気込んだ途端、目の前に馬鹿者が降臨した。 広がってゆく黄昏の中で、この馬鹿の存在は個性的だった。 悠介 「お、脅かすなよ……もっと普通に登場できないのかお前は」 彰利 「そう言われてもなぁ。しかし話は草葉の影から聞かせてもらった」 それは死んでいる者を喩えて言うものだと思うが。 ある意味こいつは何度も死んだわけだからいいのかもしれない。 彰利 「いかん、いかんぞ悠介。目覚めたばかりで頭がボケたか?     その剣は貴様だけの剣だろう。いわば───『ダイの剣』!!」 悠介 「ダイ関係ねぇ」 彰利 「ごもっともだ。そこでだ悠介くん……その剣に名前をつけたまえ!」 悠介 「なんで」 彰利 「その方がキミの剣らしいから」 悠介 「………」 そりゃそうかもしれんが。 彰利 「つけないなら俺がつけるぞ?そうさのう……カニバリズマーでどうだ?     奥義はカタルシス・デイだ」 悠介 「それは絶対に嫌だ」 彰利 「じゃあカオスブリンガー。剣なのに銃っつーか弓になるから」 悠介 「却下」 彰利 「だったらなにがいいのかね!!」 悠介 「いきなり叫ぶな!ったく……名前つけろって言われてもな……!     俺は名付けなんて上手く出来たためしがないんだよ……!」 彰利 「ネーミングセンスが無いって言えばいいのに」 悠介 「やかましい」 べつに名前なんてなくたっていいじゃないか。 俺は自分に名付けとかが向いてないって自覚してるから、そんなことしたくないんだよ。 彰利 「んじゃさぁ、んじゃさぁ、ポチョムキンとかどうかな」 悠介 「勘弁してくれ……」 彰利 「ムキンポ!」 悠介 「絶対ダメだ!なんだその『決定だ』って顔は!!」 彰利 「そこまで返せれば十分だが。それはそれとして、やっぱ武器には名前が必要ぞ?     前は『屠竜剣』だったわけだろ?だったら次もさぁ」 悠介 「オリハルコンで作ったんだから普通にオリハルコンソードとかでいいだろ……」 彰利 「オオ……ほんとネーミングセンス無いねキミ」 悠介 「やかましい」 自覚してるんだからわざわざ言うな……。 彰利 「そこで俺は考える!素材はオリハルコン!     さらにひとりの名工がひとりの勇者のために作った!     ───名付けよう!この剣は───『ダイの剣』だ!!」 ドペパァンッ!! 彰利 「ヘギャッシュ!!」 悠介 「あんまりしつこいと殴るぞ……」 彰利 「おごごががががが……も、もう殴られてますが……」 彰利が頬を押さえて悲しそうな声を出した。 それを見て安堵。 自分の力は確かに抑えられていたからだ。 悠介 「……よし。俺はこれから自分を高める修行するけど、お前はどうする?」 彰利 「フフフ、付き合うぜ友よ。そして今なら漏れなくみさおさんが付いてくる」 キュバァンッ!という音とともにその場に現れたのは───みさお。 どうやら異翔転移で引っ張られたらしい。 みさお「え……あ、あれ?」 彰利 「よかったな〜みさお。悠介が稽古つけてくれるって。     これなら夜華さんに習わんでも刀技を覚えられるし、昔語もバッチリだ」 みさお「……転移させた途端に絶望的なこと言わないでくださいよ……」 悠介 「絶望って……お前、人の修行をなんだと……」 頭を掻いてから、ひとまず空界と黄昏を遮断する膜を創造する。 彰利 「悠介?」 悠介 「気配が漏れたらゼットが来るかもしれないからな。     黄昏と空界の間に境界を作った。一応、外に気配が漏れることはないと思う」 彰利 「おおう……悠介ってばもうなんでもアリだね」 悠介 「あの馬鹿黒竜は倒してやれなかったけどな」 彰利 「まあまあ、そりゃ相手が悪すぎたってだけだろ。     それに……実際に勝てないなら想像の中で勝てばいいじゃん」 悠介 「思考の中で勝つか。イメージ展開の基本だな。     現実はそう甘くないから困りものだけど」 彰利 「悠介って毎度それやってるの?」 悠介 「ああ、やってる。     けどな、相手の強さが思考の上を行き過ぎるのってよくあることなんだ」 『特に空界では』と付け足すのを忘れない。 実際、空界はバケモノだらけだ。 ピッコロさんの気持ちが解って程度で自分をバケモノっぽく思ってた時代が霞むぞ? まあその、あれもバケモノって言えばバケモノだが。 彰利 「なぁ悠介?ほんまに剣に名前つけないん?」 悠介 「しつこいなお前も……」 みさお「名前ってなんのことですか?」 彰利 「ハッハッハァ、それがさぁちょっと聞いてくれよダニエル。     トムのヤツ自分のために作られた剣に名前もつけねぇんだぜ?信じられるかい?」 みさお「マイガー……なんてこったマイコー、信じらんねぇぜ。正気かいトム」 悠介 「誰がトムだ……ったく。解ったよ、つければいいんだろ?」 彰利 「カニバリズマー!?」 悠介 「違う」 みさお「ブッシュベイビー!?」 悠介 「違う」 彰利 「どすこい喫茶ジュテーム!?」 悠介 「なんだそりゃあ!!」 みさお「エクスカリパー!?」 悠介 「違う!!」 彰利 「ドブルベイベー!?」 悠介 「だからっ!なんなんだよそりゃあ!!」 みさお「ハンバーグラーソード!?」 悠介 「だぁっ!黙れお前ら!!」 彰利 「サー・イェッサーッ!!」 みさお「はい黙りますね。だからキッパリと名前を決めてみせてください」 悠介 「うぐっ……」 野郎……この状況が目的か。 彰利 「えぇ〜っ?ホラァアアア〜〜〜ッ!!!言ってごらんよホラァア〜〜〜ッ!!!」 みさお「人の助言を跳ね除けるほどいい名前があるんでしょぉおおおお〜〜っ!!?     言ってごらんよホラアァアア〜〜〜〜〜ッ!!!!」 よし、とりあえずむかつく。 ガンッ!ゴンゴスガスボゴボカッ!!!! みさお「みうっ!!」 彰利 「しぎゃあああああーーーーーーっ!!!!」 みさおに一発、彰利に五発の拳を落とした。 双方ともに痛がっているが、大袈裟な声のわりに彰利はそう痛そうじゃなかった。 悠介 「まったく……誰にも似るなとは言わないけど、     こいつの変な性格に染まるのだけはやめておけ」 彰利 「サー・イェッサーッ!!オイラみさおさんのようにはならないよ!」 悠介 「お前に言ったんじゃない!!」 彰利 「な、なに〜〜〜っ!?証拠あンのかこの野郎〜〜〜っ!!」 悠介 「あーうっさいうっさい!もうどうでもいいから修行始めるぞ!」 彰利 「剣の名前〜」 みさお「剣の名前〜」 悠介 「っ……あ、あのなぁっ……!!」 まいった。こいつらこんなにしつこかったっけ? どうにもからかわれまくってる気がしてならないんだが…… 彰利 「キミも男ならば、自分のために作られた剣に名前くらい付けんしゃい。     じっちゃんが最初っから名前をつけなかったのはそのためだよ?多分」 悠介 「ぐ……それは……そうかもしれないが……」 彰利 「解ってるんならホレ、名前をつけようや。     そうすればもっと愛着が湧くってもんだ。な?」 悠介 「………」 それはそうかもしれない。 そうした方が大事に扱えるし、 屠竜剣の時のように折れてしまうことなど無いのかもしれない─── 悠介 「───……」 ふと物思いに(ふけ)る。 思うことは様々だが、 この剣に名付ける名前は───なんとなく自分の芯にあったのかもしれない。 悠介 「……ん」 剣を鞘から抜き、静かに頷いた。 名前は─── 悠介 「ゼプシオン」 彰利 「ウィ?」 悠介 「この剣の名前だ。ゼプシオンにする」 彰利 「オイオイオイ、それってば巨人の名前だったっしょ確か」 悠介 「ツブしたい相手が同じなんだ、あいつの意思も持っていく」 恐らく───俺が両腕をツブしてしまったために リビングアーマーを着るしかなかった英雄のためにも。 ノヴァルシオが落ちた原因がまさか彰利だったとは思わなかったが。 とはいえ、元となる歴史の中では彰利が原因じゃなくて落ちた歴史もあるのだろう。 この歴史が俺達の所為で捻れたものなかそうじゃないのかは解らないが───それでも。 リビングアーマーとゼプシオンと戦った手応えは、今でも俺の手に残ってる。 だからこの剣の名前をゼプシオンにしようと思った。 彰利 「ぬう……人の名前つけるよりさ、もっとシンプルに行かんか?     『剛刃モミアゲブレード』とか」 みさお「ぶしゅっ!?〜〜っ……!!」 言葉を聞いた途端に噴き出すみさお。 悠介 (嗚呼……なんだかとても暴れたくなってきたよ俺) 自分の髪が銀に変わり、目が真紅に変わるのを感じた。 嗚呼でも落ち着け俺、冷静になるのも修行のひとつだろう。 彰利 「とにかく!人の名前を武具につけるなど以ての外!!他の名前になさい!」 悠介 「まぁ待て。世の中には国の名前を弓につけている人だって居るんだぞ?」 彰利 「ファイヤーエムブレムか」 悠介 「うむ、パルティアだ」 本当かどうかは解らんが、パルティアってのは弓術に長けていた国の名前なんだそうだ。 実際にはそういう名前の弓は無く、弓の中には有名なものがなかったのだろう。 だから仕方なく国の名前を使った、と。 与一の弓にしても、あれは弓が凄いのではなく那須与一の腕があってこそだろうし。 言ってしまえばファイヤーエムブレムの世界に与一の弓があったら妙かもしれん。 悠介 「人の名前をつけるなっていうなら、     “氷狼砕く魔法の具足(ヴィーダル)”にしても考えなきゃいけないな」 彰利 「いやそれはいい。創造物にケチつけても仕方あんめぇ。     問題はじっちゃんが丹精込めて鍛えたその剣だ」 みさお「これだけ綺麗な剣に名前を付けないなんてもったいないですよ」 悠介 「じゃあ……『龍刀:無銘』とか」 彰利 「あ〜、悠介が好きそうな名前だね。でも刀じゃないからドゥァンムェ〜〜」 悠介 「ダメならダメって言え、わざわざねちっこく言うな馬鹿」 彰利 「馬鹿とは───!」 悠介 「しつこい!」 彰利 「グ、グムーーーーッ!!!」 毎度毎度『馬鹿とはなんだこの野郎』ってしつこすぎだ、まったく。 悠介 「はぁ……じゃあ『龍剣:無銘』になるのか?こう言うのはなんだけど、     刀以外に『無銘』って付けるのは異様に違和感感じるぞ?」 彰利 「龍剣……なんつーかドラゴンボールZの某劇場版を思わせる名前だな」 悠介 「……却下だな」 彰利 「いっそのことそっちじゃなくて『北斗のリュウケン』を連想してみては?」 悠介 「余計に却下だ」 みさお「パクリネタから離れましょうよ」 悠介 「そういうことはこいつに言え、俺は悪くない」 彰利 「まったくだ!」 悠介 「お前が威張るな!」 彰利 「グ、グウムッ……」 それにしたって、名前……ねぇ。 この馬鹿者はほうっておくとしても、どうしたものか。 いや、そもそも俺は修行がしたくて黄昏を創造したんだが…… どうしていつの間にか名前で悩んでるんだ? 彰利 「ハイハイハイハイ!俺いい名前思いついちゃったー!!     挙手だぜ挙手!使命しろウダラ!!」 悠介 「御託はいいからとっとと言え」 彰利 「あら冷たい!……フフフ、だがよ。この名前を聞けば貴様も俺を見直すぜ?     とくと聞け!いいか、その剣の名は───『ダイの剣』だ!!」 マゴシャアアンッ!!!! 彰利 「ギャメブロアァアアアアアアアアーーーッ!!!!!」 ゴォオオオオオオッ───マキーーーン♪ ……馬鹿者が星になった。 悠介 「……修行、始めるか」 みさお「はぁ……そうですね。     って、この黄昏って外界との干渉を遮断してあるんですよね?     果てまで飛んでいったらどうなるんですか?」 悠介 「ん」 みさお「え?」 ひょいと指差した方向から彰利が飛んでくる。 ようするにこの黄昏の果ては逆の果てに繋がってるわけだ。 悠介 「妙な歩き方すると迷う可能性があるから、あの木からあまり離れるなよ」 みさお「は、はい」 目印は俺と彰利の約束の木。 これを見失うともう終りだ。 竜人の力が自分の魂に根付いたからだろうか。 全体的に力が上がっているようで、黄昏の範囲が異常なくらいに大きくなっている。 それでも彰利は某ドッヂボールゲームの『しんいち』の必殺シュートを喰らったかのように 景色を一周してから黄昏の草原をゴロゴロと転がって倒れた。 彰利 「ハカ……ハカカカカカ……」 ピクピクと痙攣する彰利に溜め息を贈呈してから集中を始めた。 ここでこいつに翻弄されてたら修行にはならないだろうし。 けど───うん、気分転換になるから『邪魔』だなんてことは微塵にも思わなかった。 悠介 「じゃあまずは神の力の限界と死神の力の限界を目指すか。     その後は神魔融合状態の限界を目指して、次に竜人の限界。     最後は神魔融合を竜人で固定した状態の限界を目指そう」 みさお「そんなことを平然と言わないでください」 悠介 「任せろ」 まるで彰利みたいな返事をして、体に重りを創造した。 さあ───修行開始だ!! 【ケース61:晦悠介(再)/超越野郎】 ───ガガギィン!ガンッ!ギヂィンッ!! カァンッ!!ギャリィンッ!! 悠介 「───フゥッ!!」 弧を描く軌道が弾かれ、しかし連ねられる刃は絶え間ない。 混ぜる打突は軽々と防がれ、交わる刃はとうに百。 だが息切れをすることもなくそれは続く。 その様はまるで火花の製造工場。 綺麗と呼ぶにはあまりに掛け離れた火花が黄昏の空に散り、場の空気を熱くさせる。 それだけの連撃を耐えることなく続けて尚、勢いは止むことを知らない。 朋燐 『ぐっ───チィ!!』 目の前には俺と同じく双刀を持つ朋燐。 今まで勝てなかった相手だが、どういうことか今は対等に渡り合えている。 それはどういうことだろう、と考えたが─── ようするに今までの俺の心の持ち方が悪かったのかもしれない。 心構えは想像にも影響する。 俺自身が『こいつには勝てない』と思った時点で、 『想像』から創造される存在に勝てるわけがないのだから。 つまり今の自分の思考が『もう負けるわけにはいかない』という意思の塊であるのなら、 今のこの状況は確かに頷けるものではあった。 悠介&朋燐『疾───!!』 ギャリィッ!!ヂ……ギィンッ!! 疾駆し、衝突した鍔と鍔が弾かれる。 それを合図に矢継ぎ早に連ねられる太刀筋が再び幾重もの火花を空に散らす。 悠介 「おぉおおおおおおおっ!!!!」 朋燐 『はぁああああああっ!!!!』 咆哮とともにぶつかり合う影はまるで弾丸。 衝突しては弾かれ、弾かれては衝突。 連ねられる『撃』を流しては、己の連ねを奔らせる。 その悉くが双方に弾かれる時は実に刹那。 既に常人では軌道しか捉えることさえ出来ぬ速度へと至って尚、二人は息を乱さなかった。 ───その在り方は神が如く。    越せぬ壁など我が身に在らず、我が意思こそが無限の自由。 そう、目の前に大きな壁が出来たのであればそれを超越していけばいい。 元よりこの身は意思を糧にする具現であり、それを具現とせしめる意思は無限の自由。 ならば止まる必要など何処にも無い。 ただ望み、ただ思考せよ。 我、既に現世の理など置き去りにした超越者。 ヒヤァアッ───ガキィンッ!! 朋燐 『づ───!!おのれっ!』 今でさえ残像こそ残す速度が、より疾風へと変貌する。 全力を超えて尚全力。 至高に至りて、尚限界を破壊せよ。 勝てぬ相手は想像の中で勝ち、その事実さえ具現せよ。 そう───我が意思こそは───無限の自由。 悠介 「ッ……!!まだだ……!まだ足りない……!!」 愚か。 『限界』などまやかしだ。 想像に限界を付けたらそれこそ人は先になど進めない。 全ては想像から生まれ、創造にて形を成すのだ。 ならば至れ、至高になどほど遠い、果ての無い領域へ。 悠介 「ぐ……、づ───!!」 刹那に交わる刃の連なりは、軽く二十合。 限界だと思っていた速度などとうに超越し、 それでも尚互いに劣ることなく剣戟を高鳴らせる。 残像さえ霞むほどの速度は、神をも超越せんとする意思によるものか。 豪雨のように降り注ぎ、嵐のように横殴りに繰り出される連撃は真実疾風の如く。 だがその全てが弾き、捌かれ、流されてゆく。 依然として刃と刃の剣戟は止むことを知らない。 ただただ剣合を為すふたりと、 それに合わせて狂った楽器のように高鳴る刃の音だけが高鳴る。 朋燐 『小癪───!!』 悠介 「たわけ、小癪はどっちだ───!!」 罵倒こそ無駄と言う如く、さらに速度は増してゆく。 突風が疾風と化し、高鳴る軽音が轟音と化してなお速く。 もはや『隙を見せて避ける』などという誤魔化しなど意味の無い速度へと至る。 速度、威力ともに人の限界を超えている。 そんなことをすれば腕の筋が千切れるのがせいぜいだろう。 悠介 「───!!」 ───だがここに。 その『せいぜい』を超越した結果がある。 ならばこそさらなる超越を目指すことさえ出来、それさえも次々と超越出来る。 朋燐 『貴様、化け物か───!?』 それこそ朋燐にとっては信じ難い事実だったに違いない。 思うより先に出たであろうその言葉が俺の理性に突き刺さる。 だがそれがどうした。 俺は既にそれを認めてしまっているし、それこそ朋燐だってそれを知っている筈だ。 ───だが、この状況は彼の確信を揺るがすものだったのだろう。 それはそうだ。 かつては一撃を浴びせるだけでも稀であった筈の存在が、 こうも連撃に耐えられるのだから。 ───もし、かつての自分と今の俺とで違う場所があるというのなら。 それは心の在り方ひとつのみなのだろう。 だが創造者にしてみればそれは大きな問題だ。 迷うことなく想像し、俺のに勝つことこそが創造者に必要なこと。 ならばもとより相手が誰であろうと同じ。 そう……『壁』は『壁』なのだ。 その壁が意思で越せるものならば、元より越せぬ壁の存在など有り得ない───! 悠介 「疾ッ───!!」 朋燐 『───!!』 相手が驚愕に身を置いた刹那。 その場には血飛沫が待った。 誰のものでもない、朋燐の血が、だ。 朋燐 『……、ぐ……!!』 脇腹には切り傷がくっきりと存在し、まるで競うように血が流れ出る。 朋燐 『チィ……!よもや、こうも早く負けるとは……!』 悠介 「………」 膝を着く朋燐に一礼をする。 感謝の意を込めてだ。 あまりこいつに感謝するのは好ましくないが、 それでもこいつのお蔭でここまで強くなれたのは事実だから。 朋燐 『……卒業、というやつだな。どうせ次は別の相手と戦うんだろう?』 悠介 「ああ。もっと強くならないと嘘になる。     約束なんかしてないけど、あいつに気づかせてやりたい。自分の馬鹿さ加減を」 朋燐 『……好きにしろ。俺は疲れたから眠らせてもらうぞ』 悠介 「ん、今まで……まあ、サンキュ」 朋燐 『似合わんことをするな、馬鹿者。貴様に感謝されるなど鳥肌が立つわ』 それだけ言うと、朋燐の野郎は塵になって消えた。 ……とことん、最後まで嫌なヤツだった。 悠介 「……はぁ」 とはいえ、俺も少し疲れた。 少し休憩を入れてから次に向かおう。 と───そんなことを思い、寝転がった時だった。 彰利 「何者ですかアータ」 彰利が俺を見下ろしながらそう言ってきた。 悠介 「あれ……なんだ、みさおと修行してたんじゃなかったのか?」 彰利 「んむ、みさおさんも『鎌』を出せるかな〜って頑張ってるところだけどね。     視界の片隅であんな戦いされちゃあ集中出来るわけねぇだろ馬鹿」 悠介 「腐るなよ、俺だって必死なんだ」 彰利 「けどさ、見てるこっちはもういつ傷つくかってヒヤヒヤもんだぞ?     刀の筋は見えないし、火花ばっかり散るし、     でもぶつかりある刀の音だけはてんで間も空けずに聞こえてくるし」 悠介 「……悪い」 彰利 「んー……まあ勝てたんならそれでいいけど。修行はこれで終りかえ?」 悠介 「いや、まだまだ続けるぞ。今は小休憩だ」 彰利 「……俺、なんだかキミの未来の先がとんでもなく気になってきた」 悠介 「はは、実は俺もだ」 苦笑を漏らしながら大の字になった。 なんにせよ修行の後はこうして体を休めないと、てんで実にならないから。 あぁ、それにしても自分以外の力と一緒にゆっくりと強くなっていくのっていいもんだ。 やっぱり力をもらって『ハイ強くなりました』なんてのは好きじゃない。 こうしてゆっくりと体に馴染ませていくのが一番だ。 ……なんてことを思いつつ、俺はやがて眠りの中へと潜っていった。 Next Menu back