───FantasticFantasia-Set29/混沌と皇竜───
【ケース64:晦悠介(再)/金色の限界突破野郎】 ───修行を始めてから31日目。 ミノタウロス『グォオォオオオオオオッ!!!!』 悠介    「ッ───ハァアッ!!!」 ヂギギガガガガガガガガァアアアンッ!!!!! 連ねる連撃を弾き、弾かれる。 コンマ1秒ともとれる全ての隙を逃さぬように集中を最大に発揮し、 振るわれる剛斧を弾き、逸らし、強引に隙を発生させる。 ミノタウロス『グォオオオッ!!』 悠介    「その隙、もらった───!!」 無拍子にて疾駆。 刹那に消えた間合いと確かな手応えを感じた瞬間─── 悠介 「だぁあああああっ!!!」 バガァアアアアンッ!!! ミノタウロス『グッ───』 ───力を流し込んで爆発させる。 ミノタウロスが塵と化したことを確認してからすぐにイメージを解放。 ミルミノタウロスを創造してさらに戦う。 武器は最初のゴブリンからゴーレム、ミノタウロスに至るまでずっと真・屠竜剣一本だ。 もちろんこれも重くしてあるため、隙を見せればこちらは確実に死ぬ。 相手は黄昏に強化された相手であるために、刹那の隙さえ許されないから困りものだ。 この真・屠竜剣の破壊力や切れ味は驚くべきものだけど、 だからといって相手の武器を破壊して決着をつけたんじゃ修行にならない。 あくまで回復のみが許された条件を貫くため、 真・屠竜剣には『武器の切断』を許さない薄い膜が張った状態でずっと戦っている。 悠介 「───っ!!」 懐に潜り込むための疾駆。 地面すれすれ、体を寝かせるってくらいに低くした姿勢の上を戦斧が通り過ぎ、 翻った黒衣のマントがあっさりと両断される。 ───切れ味は恐ろしく鋭い。 だが時にそれは敗北を呼ぶ。 戦斧の切れ味がマントを切り裂かない程度のものだったなら、 俺はきっとマントごと巻き込まれて捕まっていただろうに。 悠介 「斬───!!」 ゾパァンッ!!───鋭い音とともに首が飛ぶ。 全力で振り切った屠竜剣はその切れ味の下に強化ミルミノタウロスを一撃で仕留めた。 相手の武器を斬ることは出来ないが、それ以外ならば容赦なく切断するのがこの剣だ。 悠介 「……はぁ」 そこまで来てようやく一息。 神魔状態を解くと、草原に倒れた。 悠介 「あー……ダメだ。疲れた……」 流石に連続十試合は体の芯にズシリと響く。 試合って呼んでいいものなのかどうかはこの際抜きだ。 ともかく俺は疲れた体に、 いつものように『二日分の休息』を編みこんだ回復の霧を浴びせる。 それが終わると立ち上がり、───ボテッと倒れた。 ……まいった、連続して修行しすぎた所為で精神の方が休みを欲しがっている。 心配ではあるけれど、ここでまた急いでもどうしようもない。 黒竜王だって空界の均衡になることを望んだ男なんだし、 空界を無闇に襲ったりなんかしない筈だ。 だったら少し……休もう。 【ケース65:簾翁みさお/セルゲイ】 ───修行から一月と一週間後。 彰利 「フルブレイクッ……カタストロファーーーーーッ!!!!」 バッッッガァアアアアアアアンッ!!!! 彰衛門さんを中心に黄昏の景色が削れてゆく。 その破壊力は凄まじく、かなり離れて見ていたわたしも吹き飛ばされてしまうほどだった。 彰利 「…………フ、フフフ……我、極めたり……!!」 普通なら使った時点で命さえ危ういフルブレイク。 けれど彰衛門さんはついにそれをコントロールし、完全に自分のものにしていた。 ようするに、イメージを纏めて創造することに成功したのだ。 彰利 「勝てる!勝てるぞーーーっ!!     俺はついに究極のパワーを手に入れたのだーーーっ!!」 両手を空に向けて広げながらそんなことを叫んでる彰衛門さんに近寄って一言。 みさお「それでも悠介さんひとりには負けると思いますけどね」 彰利 「それ言うなよ!!あいつ速すぎなんだよ!!」 つい三日前、彰衛門さんは 『100倍の重力に耐えた修行の成果、今こそ見せてやる!』 とか言って悠介さんに戦いを挑んだ。 結果は言うまでもないと思うけど、一度も触れることなく惨敗。 少し修行が身に着いたからって慢心して、 『最初から全力で来やがれ〜〜〜っ!』なんて言うからあんなことになるんだと思う。 結果……髪を金色に、目を紅蓮に染め、翼と角を生やした悠介さんは言葉通り全力で来て、 一秒と経たずに彰衛門さんはブチノメされていた。 みさお「良かったじゃないですか、世界四週するなんて彰衛門さんくらいですよ?」 彰利 「好きで殴り飛ばされたんじゃないやい!!」 みさお「それでも少しは抵抗するとか」 彰利 「それがね?オラの数倍はありそうな気を浴びせられた所為でね?     体が動かなかったのだよ」 みさお「……それは解りますけどね」 どちらかというと彰衛門さんサイドについてたわたしでさえ、 まさか次はわたしも戦うことになるんじゃないかって考えただけで震えたし。 みさお「悠介さん、頑張りますねー……。確かもう神魔は超越したんですよね……」 彰利 「俺さ、遠慮してたわけじゃないけど今ならハッキリ言えるわ。彼はバケモノよ」 みさお「それ、悠介さん傷つきません?」 彰利 「いやもうなんつーか自覚さえしちまってるから始末に負えねぇのよ。     自分がバケモノだのなんだのと呼ばれようが、     守りたいものを守れればそれでいいんだと」 みさお「……すごいですね、悠介さんは」 わたしにはそんなことは出来そうにない。 彰利 「んで?キミは鎌の発現は完了出来たかね?」 みさお「いえ、結局無理でした。     だから悠介さんに、悠介と同じ重力修行をさせてくださいって言ったんですけど。     『子供の頃から筋肉つけたら体が成長しなくなるからやめとけ』って、     見事にあっさりと一息の下に却下されましたよ」 彰利 「そらそうだ。俺でもそれは心配してやらせはせんよ。     だからこそずっと鎌を発現できるかどうかを調べてたわけだし」 みさお「それでももう一ヶ月以上ですよ?     修行の成果を出せてないのってわたしだけじゃないですか」 彰利 「お馬鹿さん!俺だってラグナロクが無けりゃあ修行の成果なんて発揮出来んわ!     しかも考えてもみろ……いくら破壊力が増したって、     速度で完全に負けてる俺が悠介の役に立てるだなんて思えないだろ」 みさお「え───」 驚いた。 自信過剰と言っても過言じゃないあの彰衛門さんが、 まさか自分を役立たずと言えるなんて。 彰利 「……む?どぎゃんしたのかね」 みさお「あ、いえ。それはどういうことですか?」 彰利 「むう……つまりだ。速度で完全に負けている俺は、     いくら破壊力を身に着けても敵にそれを当てられないってわけだ。     かといって速度を上げる鍛錬をしたところで、     俺と悠介との間には越えられない壁があるわけだ」 みさお「神魔融合と竜人力と反発反動力、ですか」 彰利 「そ。その差がある限り、俺達がいくら修行を積んでも悠介の役に立てるかどうか」 みさお「………」 確かにそれはそうかもしれない。 けれどどうせ役に立てないのなら、別の意味で修行すればいいんだと思う。 みさお「彰衛門さん、だったら未来のために修行したらどうですか?     彰衛門さんは臨終前に悠介さんと喧嘩するって決めてるんですよね?     それならそのために強くなればいいんですよ。     悠介さんだってその時は『ひとりの人間』として向かってくるに決まってますし」 彰利 「ム───ポズィイティヴな思考を持てと?」 みさお「はい。大体、うじうじ考える彰衛門さんなんておかしい……     というかむしろ気持ち悪いです」 彰利 「なんと!?」 彰衛門さんは大変驚いた。 彰利 「物思いに耽る人に気持ち悪いだなんて……鬼かテメェ」 みさお「気にしないでいきましょうよ。わたしたちはわたしたちです。     悠介さんには追いつけそうにありませんけど、自分を高めて損はないと思います」 彰利 「……ふむん。つーかさ、キミって神魔の素質持ってんだよね?」 みさお「え……はぁ、まあ」 彰利 「だったら悠介みたいにそれをいつでも発動できるようにしといたらどうかね?     そもそもキミがそれ発動させてるのって見たことない」 みさお「やろうと思って出来るものじゃないと思いますけどね」 彰利 「やろうと思わなきゃ出来るもんも出来ないだろ」 みさお「うあ……彰衛門さんが正論言ってる……」 彰利 「ホントのこと言って何が悪いのかね!!」 何も悪くはないと思う……けど、似合わない。 彰利 「まあええわい、どうせ似合わないとか思ってんだろ。     俺自身そんな生き方してきたんだから、どう思われようが構わんさね。     んじゃあ俺はスタミナと速度鍛錬開始すっから、みさおも適当に修行しなせぇ。     ただし、筋力鍛錬はするなよ。     ほんとに成長しなくなるぞ、ただでさえちっこいのに」 みさお「ちっこいは余計です!子供なんだから当たり前じゃないですか!     彰衛門さんこそフルブレイクで無茶して消滅なんてしないでくださいよ!?」 彰利 「なんだとてめぇ!親として娘を心配しておるというのに!     俺ゃもう極めたんだぞこの女郎!!」 みさお「極めたって言うならもっと速くイメージ纏められるようにしましょうよ……」 彰利 「それ言われるとオラ辛ェ……」 どこかトボトボした感じでわたしが居る場所から少し離れた彰衛門さんは、 再び意識をイメージの海へと投げ出した。 わたしも出来たらな、と思いつつイメージを弾かせてみるけど…… やっぱり創造なんて出来やしない。 なんだか不公平です。 彰利 「───お……よーしよしよし!そうだよそう!     悠介がいろいろな力を極めていってんなら、     俺は死神を極めてみせりゃあいいんじゃねぇか!!     よく漫画とかアニメとかゲームでもあるじゃねぇか!     広く浅く極めていくより、一点を極めた方が強いって!」 イメージに耽っていた彰衛門さんが突然、決意の絶叫。 拳を強く握って空に突き上げると、さっそく死神状態になって瞑想を始めた。 みさお「でも……」 根本的なことが解ってませんよね、彰衛門さん。 悠介さんってば『広く浅く』なんて生易しい極め方してないですもん。 『広く深くさらに超越』が悠介さんの修行スタイルなんだから、 彰衛門さんが一点を極めても追いつけないと思う。 だって……死神を極めたところで、 その極めた限界を超越しちゃった人には多分追いつけないと思う。 や、つくづく人間やめてますよね、悠介さん。 彰利 「───いや待てよ?……………………ア、アアーーーーッ!!!!」 顎に手を当ててなにかを考えていた彰衛門さんが急に叫んだ。 何事かと思ってわたしは駆け出し、彰衛門さんの傍まで行った。 みさお「ど、どうしたんですか彰衛門さん!」 彰利 「っ……!!」 回り込んでその顔を見てみると、思いっきり漂流教室の飢えた子供の顔をしていた。 さらに震え、顔面蒼白になっている。 みさお「あ、彰衛門さん……?」 彰利 「え、えっと……さ。悠介って確か今、     いろんな反動力の組み合わせで限界目指してるんだったよな……?」 みさお「え……はい、そうですけど」 彰利 「ッ───!!ゆ、悠介ぇええーーーーっ!!!     間違っても空界の回路と天界の回路を合わせるのだけは───」 彰衛門さんが叫びながら悠介さんが居る方向に振り向く。 わたしも釣られて振り向いたけど、その途端に黄昏の世界が凍りつくのを感じた。 みさお「ひっ……!?」 彰利 「うぃいっ……!?ま、間に合わなかった……!!」 ドクン、ドクンとまるで生きているかのように躍動する世界。 朱が黒に点滅し、視線の先の悠介さんからは嫌になるくらいの殺気。 みさお「あ、あき、えもん、さん……これ、どうなって……」 震える口からやっとのことで出した言葉はそれ。 彰衛門さんはその言葉に歯を噛み締めるようにして呟く。 彰利 「……『カオスの波動』だよ……!     ゼロ=クロフィックスも持ってたっていう、あの……!!」 それって確か……彰衛門さんの記憶の中に居た、 レイルさんとレインさんが行使していた、あの……? みさお「な、なんで、悠介さん、が……」 彰利 「カオスの波動ってのは天界人と空界人の力が混ざった所為で生まれた力なんだよ!     俺達の喩えで言う神と死神の回路の反発で生まれる力と同じだ!     お前も神魔融合状態にあるんなら解るだろ!?」 みさお「っ……!」 彰衛門さんの口調にいつもの余裕がない。 つまり……視線の先に居る悠介さんはそれほど危険、ということだ。 薄っすらと赤かった両目は『キィイイ』という耳鳴りのようなものとともに金色に染まり、 感じられる気配は天界のものとも空界のものともとれなくなる。 ただひとつだけ理解できることは、アレは危険だ、という事実だけ。 彰利 「……みさお」 みさお「っ……っ……は、は、い……」 恐怖のあまりに嗚咽が込み上げてきた頃、 彰衛門さんがゆっくりとわたしに近づいてわたしを抱き締めた。 みさお「あ、きえ……?」 彰利 「思えば産まれた頃から一度も抱き締めたことがなかったな……抱かせてくれ」 訳が解らない。 けれども抱き締められると不思議と震えも静まってきて───トンッ。 みさお「あっ……───」 首の後ろに軽い衝撃。 けれどそれはわたしの意識を奪い、わたしは彰衛門さんにもたれるようにして気を失った。 【ケース66:弦月彰利/破壊王子の在り方】 当身をして気絶に導いたみさおを約束の木の幹に寝かせる。 それが終わるとゆっくりと立ち上がり、捉えきれない気配を放つ悠介に向き直る。 彰利 「……そこで眠ってろ。あいつの正気は俺が取り戻させてやる」 ついベジータの真似をして気絶させてしまったが、それもいいだろう。 彰利 「まさか、ね。こんな形でお前と向き合うことになるとはねぇ」 悠介 「ウ……ウルル……ルオォオオオオオオオッ!!!!」 俺の視線の先には、力の渦に飲まれた悠介。 見るからに理性を無くしていると思えるそいつは、 厄介なことに力ばかりが飛躍的に上がっていそうだった。 彰利 「まいったな……ただでさえ敵わねぇのに」 すまんな餃子……俺は死ぬかもしれん。 彰利 「もちろん死ぬにしてもそれなりのことをしてから死ぬがね!!いくぜ悠介!!」 悠介 「ガァアアアアアアアアアッ!!!!!」 疾駆したふたつの弾丸がぶつかり合う。 だが吹き飛んだのは一方だけであり、それは俺自身だ。 予想していたとはいえトンデモナイ強さだ……まるで歯が立たない。 彰利 「だからって『ハイそーザマスかヌホホホホ』って諦められるかボケェッ!!     “無形なる黒闇(ダークマター)
!モード闇薙の斬命鎌(ダークイーター)!!”」 吹き飛ばされながら出現させた鎌を握り、身を翻すと同時に振るう。 普通に考えれば振った先には虚空しかない。 だが、悠介の行動パターンを予測するに───ザシュンッ!! 悠介 「ルグォオオオオオオッ!!!!」 ───吹き飛んだ相手をそのままにするような甘い行動はしない筈。 まして、それが『理性』を失った状態ならば確実だ。 振るった鎌は予想通り悠介の腕を切り裂き、 辛うじて腕が体にくっついているような状態した。 彰利 「って……待て───?」 効いた、のか? 青竜との戦いの時は傷ひとつ負わせるのも一苦労だったっていうのに、 実力的には既に竜を越えている悠介に、傷を……? 彰利 「───そうか!」 考えてみれば答えは単純だった。 確かに悠介は力をどんどんと付けていったけど、それは人型としてだ。 力はついたけど体が丈夫になったわけじゃないんだ。 これなら俺でも止められるかもしれない───!! 彰利 「それを考えりゃあ『干渉』にも強くねぇってこったよな。     だったら───“モードチェンジ!運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)”!!     カオスの波動に理性を奪われる決まりごとを破か───いぃっ!!?」 大キョーフ!! 目の前の悠介の千切れかかった腕がくっついてって、竜の鱗がそれを塞いだ!! しかも次の瞬間には髪が金色になって角と翼が生えてギャアアア!!!! 彰利 「ゆ、ゆゆゆ悠介が変身出来る決まりごとを破壊しろ!!     “運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)”!!」 ガカァッ!!───鎌から放たれた黒い光が悠介の体を照らす! 途端に悠介の竜人化が解け───た、そのまた次の瞬間には完全に竜人化。 彰利 「ん、んな馬鹿なぁああああっ!!!」 しかもそれだけでは留まらず、角が大きく伸びたと思ったら翼も大きく伸び─── 瞬時に悟った事実は彼が『超越者』だったこと。 理性は飛んでも体が超越を覚えていたのだ。 体を傷つけられればそれに耐えられる体まで己を超越させ、 運命破壊の干渉を受ければそれをさらに越える干渉を生み。 その果てにあったものは─── 彰利 「は、はは……うわはははははははは!!!!!」 その時の俺は素直に死を覚悟した。 半端な行使をした結果がこれだ。 ───超越順応者。 弱点を克服して強くなるという、真実人間を越えた能力。 これがどの回路との反発能力によって生じたものなのかは解らないが、 そんなものはもうどうでもいいのかもしれない。 親友は既に人型であることをやめた。 ここにある事実はそれだけだ。 皇竜 『ギシャァアアアアオォオオンッッ!!!!』 黄昏の大地に皇竜が降り立つ。 大きさは蒼竜王の比じゃない。 その力、その強さに比例するかのように大きくなった親友を前に、 俺はただ愕然とするだけだった。 そして確信するのだ。 『俺じゃあ止められない』と。 彰利 「……い、いや。いや───!」 そうじゃない、止めなきゃいけないんだ。 理性を失ったからなんだ! だったらその理性、一瞬だけでも戻してやる!! 彰利 「“運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)”!悠介の理性を消している要素を破壊しろ!!」 既に運命破壊の干渉は超越されちまったかもしれない。 けど、諦めるわけにはいかない。 鎌の力を限界まで爆発させて───!! 彰利 「オォオオオオオオオオ!!……オ?」 いざ爆発させようって時に、皇竜がピタリと止まった。 しかもどんどんと小さくなっていくと、やがて人型……つまり、悠介に戻った。 彰利 「ゆ……悠介?」 悠介 「───」 ……どさっ。 彰利 「オワッ!?悠介!?悠介ーーッ!!」 戻った途端に気絶。 俺はもう訳解らんやら、無茶な力の行使にご立腹やらで頭を痛めたのでした。 ───……。 ……。 ───皇竜珍道中から三日後。 悠介 「う、ぐ……つ……?」 ボゴシャアッ!! 悠介 「ぶはっ!?」 彼が目覚めた瞬間にマウントパンチを贈呈した。 おお、ここにステキな瞬間到来。 悠介 「い、いきなりなにしやがる!」 彰利 「そりゃこっちの台詞だろがボケ!あたしゃ危うく死ぬところだったんだぞ!?     攻撃されなかったからよかったものの、     あげな状態で攻撃されてりゃ一発で体がミンチになるか消滅するかだったわ!!」 悠介 「…………あー」 ポムと手を打つ悠介。 その様子から見るに、どうやら皇竜になった時の記憶はあるらしい。 悠介 「……悪い。あの時はちゃんと意識はあったんだ。     制御しようとはしたんだけどさ、すぐには無理だった」 彰利 「自分の体を制御出来んようでは一流のファイターにはなれんぞ貴様!!」 悠介 「落ち着けって……     そういうのは純粋なカオスの波動を手に入れてから言ってみろボケ者」 彰利 「ボケ者!?」 ボ、ボケ……ボケ者? 悠介 「こっちはこっちで理性の内側の方で大変だったんだよ。     ルドラと一緒になって理性を包んだ力の原因を分析して、     なんとか押し込めたまではよかったんだけどな……」 彰利 「ウィ……?んじゃあなんだ、今まで寝てたのって純粋な疲れからかえ?」 悠介 「そうなるな。まったく……人が全力で分析してるって時に攻撃してくるなよな」 彰利 「え?なに、俺が悪いと?」 悠介 「……実はな?分析自体はすぐに終わる筈だったんだ。     生じたばかりだから、存在自体がそう大きくなかったからな。     でも攻撃された途端にその攻撃に慣れようとして超越するは免疫作るわ、     そうなったら余計に分析が長引くわ押さえ込むのに苦労するわ……」 彰利 「ウ、ウググーーーッ!!!!」 な、なんたること!じゃあ俺がやってたことって逆効果!? い、いや!これは責任転嫁に違いねぇぜ!?オイラ悪くないもん!! 彰利 「うそつけ!ぼくに罪をなすりつける気だな!?」 悠介 「誰の所為かどうかは正直もうどうでもいいんだが」 彰利 「ぼくが悪いという証拠があるなら言ってみろ!そら!!」 悠介 「いや、だからな?」 彰利 「証拠は!!」 悠介 「………」 彰利 「証拠は!!」 悠介 「───はぁ」 ブンッ!ボゴシャアッ!! 彰利 「ヒャベブ!!」 大友くんのように二回『証拠は!』と叫んだあとに殴ろうとしたら、 綺麗で鋭すぎる音速クロスカウンターが俺の頬に突き刺さった。 当然俺は草原に倒れ込み、意識を混濁させた。 声  「……ごめんな、彰利。また……迷惑かけた」 そんな中で聞こえたその声は……とても辛そうな気配の波に包まれていた。 ───『力を求める』という行為は否応無しに孤独を招く。 ましてや悠介が欲する力を考えればそれは当然だ。 彼は強くなりすぎたのだ。 誰もついていくことも出来ず、もう誰かと一緒に誰かと対峙する必要なんて無いのだろう。 なるほど、今の彼ならば黒竜王の気持ちが解るだろう。 『誰かを守る力』を欲するあまりに強くなりすぎてしまった彼は、 誰と協力するまでもなく道を切り開ける者になった。 今の悠介と同じようにだ。 『隣を同じ速度で歩む者』などおらず、歩む道には誰も付いて来れやしない。 それでも力が足りないからもっと力を欲し、堕ちてゆく。 そんな自分を嘆きながらもそうすることしか出来ない状況があるから、 俺の親友は俺に謝ったのだろう。 『謝るくらいならやめちまえ』なんてことは言えない。 何故ならそんな生き方こそ、かつての俺がやってきたことだから。 いくら俺でもあんなに苦しそうに謝る親友に対して、 自分だけを正当化したような言葉を言えたりはしないのだ。 彰利 (……アホか俺……カッコわりぃ……) 事実を知ってしまえば、ただただ殴ってしまった自分を情けなく思う自分ばかりが居た。 だからこそ余計に心に誓った。 元々そんな気なんてなかったけれど、それ以上に強固に固まった意思があった。 『俺は、晦悠介を裏切らない』と。 たとえどんな姿をしてようが、 俺がそれに恐怖を感じようが……俺はあいつを裏切らないと誓う。 他人のために未来を望んだ俺と、他人を守るために力を望む悠介。 進む道は似ているようで全然違うのだから。 俺は悠介を守れればよかったのに対し、 悠介は自分が守りたいと思うもの全てを守ろうとしている。 そのために必要な力は俺が望んだソレとは比較にもなりはしない。 そこにはそれに比例するくらいの辛さがあるだろう。 俺がゼノに立ち向かった時とは次元の違う、絶対的な『死』の具現との戦い。 その、死と隣り合わせの戦いの中で、あいつが頼れる人など居ないのだ。 俺が隣に居ることを望んだところで足手まといになるだけだと自分でも解っている。 俺が悠介と力を合わせてゼノを打倒したことに対し、悠介の戦いはあまりにも孤独すぎる。 この差は……きっと埋められることは無いのだろう。 彰利 (ほんと……カッコわりぃよな……) そんなことを思う俺の心の中は、 親友の役に立てない自分への苛立ちと、親友に対しての謝罪だけだった。 【ケース67:晦悠介/───】 そしてまた懲りずに修行をしている。 いったいどれほど限界にぶつかればいいのかも解らないまま、ただ高みへと登ってゆく。 『あるのかも解らない限界』を目指すのは正直に辛い。 けど『ここが限界だろう』と思える部分は確かにあるのだ。 それを見つけた時は嬉しくもあり寂しくもある。 そんなときにふと思うのだ。 ああ、つくづく人間じゃないな、と。 そんなことは解っている。 だからもう今さらなのだ。 そんなことを考えることなどやめてしまえばいい。 ……そう、せめてあの馬鹿野郎をブチのめすまでは。 悠介 「……よし」 一息を吐いて、気分を一新させる。 うだうだ悩んでたって仕方ない、とにかく今は自分に出来ることをするべきだろう。 悠介 「イメージ、解放」 ゆっくりと思考の中を弾けさせると、体と武具から重力要素が消滅する。 重力修行はここまでだ。 あとは普通の重力の中で自分がどう動けるかを調べなきゃならない。 『戦いが始まってから慣れます』じゃあ死にに行くようなもんだよなぁ。 悠介 「よし、一応修行は終了ってことで」 あとは『慣れ』だ。 下の身体になれなきゃいけない。 悠介 「ひとまず軽く走るか。うん、それがいい」 誰にともなく呟き、軽くなった体で駆けた。 ───……。 ……。 悠介 「……よし。とりあえず強化ゴブリンにも苦も無く追いつけることがよく解った。     重力装備をしてた時に追いつくのは苦労したからなぁ」 それを考えると随分楽だった気がする。 あいつの速さはちと反則気味だったわけだし。 悠介 「あとはいろいろと慣らしていけばいいな。それと『無茶は禁物』と」 注意してても『無茶』になることは多々あるわけだが、 この力に関しては注意しておいてしすぎるってことはないだろう。 悠介 「さて、と……」 その他もろもろを確認しながら、俺は風呂を創造してのんびり浸かることにした。 張り切るのもいいが、たまの休みがないととてもじゃないがやってられない。 ……まあその、精神の方は特に。 ───……。 ……。 そんなわけで、彰利を誘って風呂に入る。 彰利 「フッ……貴様との裸の付き合いも、今に思えば中学の修学旅行以来か」 悠介 「修行初めてから毎日入ってるだろうが」 彰利 「何を言うか!毎度毎度別々に入ってるという事実を努々忘れるでないぞ!」 悠介 「言い回しが明らかに違うことを高らかに叫ぶなよ」 彰利 「それがアタイのEところーっ!!」 悠介 「ああ、お前がそれを言うのは懐かしい気分だな」 彰利 「そもそも感情が浮上してからは、     自分のことを『アタイ』って呼ぶこと少なくなったしね」 彰利が湯船にどっしりと浸かりながらモシャアと息を吐く。 ……言っておくが、当然みさおは居ないぞ? 悠介 「……って、誰に言ってんだか」 彰利 「ウィ?なんぞね」 悠介 「なんでもない」 俺も息を吐いて、創造したタオルをお湯に浸してそれで顔を拭った。 彰利 「いやぁ〜〜、やっぱ大浴場ってえーよね。     なんつーの?こう……心が洗われるっていうか」 悠介 「ついでに頭の中も洗っとけ。いつか後悔するぞ」 彰利 「望むところだ!」 悠介 「望むなよ!」 交わされる遣り取りは相変わらずだ。 親友が竜になるのを目の当たりにしても、こいつの態度は───そう、相変わらずだった。 だからつい思ってしまうこともある。 悠介 「お前って変なヤツだよな」 彰利 「と……突拍子も無く失礼な!!」 けれども思ったことを素直に口にするのもどうかと思った瞬間だった。 彰利 「はぁ〜ンア……なぁ悠介。確認しときたいことがあるんだけど。     お前は守りたいヤツを守るために強くなってるんだよな?自分のためじゃなくて」 悠介 「ん……ああ、そうだけど。それがどうかしたのか?」 彰利 「絶対に後悔することになるぞ。ひとりを守るっていうならいいけど、     悠介の場合は『守りたい』って思ったヤツ全員って意味だろ?     俺は……親友の未来を守りたかったから頑張ってこれた。     でもさ、それを貫くためにはいろいろなものを捨てなくちゃいけなかったよ。     小さく残ってた感情だって、知り合いに罵倒されることだって、なんでもだ。     その先で何が守れたか、って言えば───確かに親友の未来は守れたよ。     けど……『自分』は守れなかったんだと思う」 悠介 「彰利……」 彰利 「俺は馬鹿だから、この修行をしてる間中ずっと考えてた。     頭なんて大して回転しちゃくれなかったけど、それでも考えた。     ……なぁ悠介。お前がやろうとしてることは確かに誰かを守ることには繋がる。     でもそれってただの『結果』だろ?     あれも救いたいこれも救いたいなんてものは都合のいい理想論でしかないよ。     最初からそいつを守りたかったわけじゃなくて、     危険になったから助けたいなんて……     そんなことがある度に上を目指して体を酷使してさ。     こんなこと続けてたんじゃ、いつかお前……壊れちまうよ……」 悠介 「………」 その言葉は罵倒でもなんでもなかった。 ただただ俺を心配し、自分が同じような道を歩んできたからこそ言える言葉だった。 『許されるなら、あんなヤツと戦うのはやめてくれ』 放たれた言葉の中には、そんな意味が混ざっているようにも聞こえた。 確かにみさおを連れて地界にでも逃げれば、 少なくとも無用な戦いは避けられるのかもしれない。 けどそれは『その場凌ぎ』でしかない。 あいつは俺の過去を知っていた。 それはつまり、あいつが吸収していった能力の中に『過去視』の能力があったってこと。 そうなれば当然リヴァイアの工房から地界へ行けることも知っているし、 ドアを壊すなんて行動を見過ごすとは思えない。 たとえそれが上手くいっても…… 狂ってしまったゼットが心の拠り所にしているみさおを失って、 果たして平気でいられるだろうか。 ……いや。 『意味を無くした』と勘違いをして、空界を滅ぼす可能性だってあるのだ。 これは『無用な戦い』なんかじゃない。 やらなきゃいけないことなんだ。 悠介 「……ごめんな。それでも俺は……」 彰利 「…………───まあ、な。お前ならそう言うと思ってたよ。     もし俺が悠介だったら、って考えたらそんな答えが出ちまったんだ。     ほんと……しょうがねぇよな……」 悠介 「……ごめん」 謝ることしか出来なかった。 彰利が辛い思いをしてまで切り開いてくれた俺達の未来。 それを、俺は自分勝手なことで壊してしまうかもしれないんだ。 こいつが長い時を生き抜いた理由を、親友の俺が。 彰利 「あ……な、なぁ!もしこの戦いが終わってさ!     悠介も誰も死なないような未来が開けたらさ……!みんなで花見しねぇか!?」 悠介 「花見……?この季節にか?」 彰利 「桜の木の季節なんざ月空力でかっ飛ばすって!だから、な!?」 悠介 「彰利……」 目の前の親友は、親友に対するどうしようもない気持ちを押さえ込みながら無理に笑う。 罪悪感がチリッと心を焦がそうとするけど、俺はその種火を静かに消した。 罪悪感なんて持つな、と。 そんなことは親友に対して失礼だ。 この道を選んだのは俺であり、親友にこんな無理な笑顔をさせてるのも俺だ。 だったら……俺が胸を張って前を向かないでどうする。 悠介 「そうだな……行けると、いいな」 彰利 「───行けるさ。絶対だ」 悠介 「……そうだな。よし、絶対だ!必ず勝って、季節外れの花見といこう!!」 黄昏の世界に点在する大浴場に飛沫が飛ぶ。 俺と彰利は同時に拳を空に向けて突き上げて、顔を見合わせて笑った。 そんな時に……いや。 こんな時だからこそ思うのだろう。 ひとりじゃないっていうのはいいもんだ、って。 ───黄昏の空に水滴と笑い声が昇る頃、俺達はふたりで約束をした。 必ず生きて、地界の大地を踏みしめようと。 そうしてみるとあまり好きじゃなかった アスファルトの大地でさえ懐かしく思えるのだから不思議なものだった。 Next Menu back