───FantasticFantasia-Set34/水の精霊ウンディーネ───
【ケース77:弦月彰利/黒】 ドントコトントン!ドントコトントン!ドコトコトントン!ドンットトントン!! ドントコトントン!ドントコトントン!ドコトコトントン!ドンットトントン!! ミュキィイイイイイン……!! 彰利 「オー!」 などと、フランスから来たジャンヌ・スティムボードの真似をしてる場合じゃあねぇ。 でもキン肉マンオフィシャルホームページのクイズのローディング音楽っていいよね。 全部クリアしてみても大したことは起こらなかったけど。 ただ最後のコメントに違和感感じただけだったしなぁ……。 えーと?確か苦労してクリアした割に、誤字っぽいものがあっただけで終わったんだっけ。 そうそう、『!!』のあとに『。』があったんだ。 『!!。』って感じに。いやぁ違和感バリバリ。 あとはコメント残せた程度だ。 もちろんそのコメントが何処でどうなったのかなど知るよしもない。 とりあえず時間の無駄をしたと断言することは出来る。 彰利 「まあそれはそれとしてですよ」 現在、ロジアーテ鍾乳洞の深淵、妙な聖堂のような場所に辿り着いております。 じゃけんどね?精霊のせの字も見つからねーのよこれが。 彰利 「何故……!?もしやこの俺が弱ェエとでも!?     やいコラ精霊!俺ゃ強ェエぞ!強いから姿みせろコナラァ!!     そして俺と戦え!そして最強に!」 ───……叫び虚しく、返事無し。 ただ声はよく響き、 なんつーか自分の言葉が自分の脳に何度も叩きつけられるような感覚に陥った。 彰利 「虚しい……虚しすぎるわ。なんなら一曲歌ってみせようか?」 俺は虚しい気持ちを詩に託すかのように口を開いた。 彰利 「昨日、ベランダに鈴蘭の花が咲きました。聞いてください、『栗拾い・改』」 ジャガジャンッ! 彰利 「アッキットッシィッ!リ〜ク〜リ〜エイションッ!!カァッ……!     今日は栗ひィろいィ〜〜〜ッ!!よい」 ビシィッ!! 彰利 「栗……」 歌い途中だというのに、辺りが殺気に包まれた。 こりゃヤバイよ、どうしてか敵意を持たれてしまったらしい。 それなのに姿を見せねぇとはどういう了見だってツッコミたいけど。 彰利 「居留守かオラーーッ!!出て来いコナラァ!!俺が怖いのかコラ!!     エェコラ!!えぇーーーっ!?ヒーコラヒーコラバヒンバヒン!!     うわ!なんか俺懐かしいこと言ってるよ!!」 いや、暴走してる場合じゃないんだが。 彰利 「んでー?シェイドって言ったかー?出てくる気無いんかー?」 声  『………』 彰利 「むっ!?」 なにかの声をキャッチしたぜ!? 微かだが───返事をしたんか!? 彰利 「なんじゃいもしかしてシャイボーイか!?     実行系だとシャイニングボーイ!?いや違うだろそれ。     とにかく!聞こえなかったからハッキリ言ってみぃ!ホレ!遠慮すんな!」 声  『貴様では無理だ、早々に立ち去れ』 彰利 「うわ!マジでハッキリだ!!だがそういうわけにもいかーーん!!     立ち去らせたかったら実力行使で来てみぃホレ!!言っとくが俺ゃ強ぇぜ!?」 ドドンと胸を叩き、ふんぞり返ってみる。 相手の実力が解らんから虚勢みたいなもんだが─── それでも相手にしてくれないよりはマシだ。 声  『強者であれば誰であろうといいわけではない。ただ貴様では無理だ、失せろ』 彰利 「なんと!!おのれレザードめ!この俺をたばかったか!?」 声  『少しは黙れ……。それと、さっさと失せろ』 彰利 「ぬ……」 最初ッから相手にする気ゼロってわけか? この野郎、いい度胸してやがるぜ。 彰利 「やいテメッ───」 声  『ひとつ訊ねてやろう。貴様はなんのために我が力を求める』 彰利 「む……そりゃ今の俺じゃあ役に立てんから、     貴様の力でドドーンとパワーアップを図ろうと」 声  『……訊くだけ無駄だったな。理解に至らぬようだから言ってやろう。     貴様のその考えは、我ら精霊が最も嫌っている思考だ。     私以外のどの精霊と接触したところで、貴様は力を得ることなど出来ぬ』 彰利 「なんですと!?それはいったいどういうことかね!!」 ───…………訊き返してみるも、もう声は聞こえなかった。 野郎、シカトするつもりか───!? 彰利 「いい度胸だ……!だったらハイって言うまで破壊工作でもしてくれようか……!」 右手に月醒力を込め、一気に月醒光を放つ。 放たれた光は薄暗い聖堂を照らし、一瞬だが俺以外の存在の姿を明確にさせる。 黒い光でも光は光だ、それは確かにその存在を照らしてくれた。 彰利 「ヌ!そげなところに居やがったンかオラァーーッ!!」 それを確認すればあとは早かった。 手に込めたブラストを連続に放ち、牽制のつもりで掛かる。 が───その全てはボヒュンという音とともに虚空の闇に飲まれ、 行方すらも解らなくなった。 声  『知り、理解に至れ。死神という存在が【闇】を打倒することなど有り得ない。     貴様は思い違いをしているようだから言ってやろう。     確かに貴様は死神としての強さはある。だがそれだけだ。     その力に溺れ、既に自分の限界を決め付けて向上を目指さぬ者に価値は無い』 彰利 「───」 あ、ヤバイよ? なんか今のカチンと来た。 声  『今貴様は少なからず苛立ちを覚えただろう。だが何も言えない。     それがどうしてだか解るか?』 彰利 「そ、そんなん苛立ちが頂点を極めんとしたから……え?」 あ、あれ……?なにどもってんだよ俺。 ハッキリ言えばよかったじゃねぇか。 声  『自分で解っていながらも、貴様は既に上を目指すことをやめたのだ。     それを責める気など私にはない。     貴様は親友のために己を高め、既に望むべき頂には辿り着いただろう。     だが契約するとなれば別だ。今の貴様には志が無い。     我ら精霊はともに強くなろうとする者にこそ力を貸す。     そして───弦月彰利。貴様がその条件に当て嵌まることはない』 彰利 「………」 いろいろな疑問なんて蚊帳の外だった。 どうして俺の名前を知ってるんだ、とか─── どうして俺の生きてきた道を知ってるんだ、とか……きっとそんなのどうでもよかった。 ……ようするに俺は、突きつけられた現実に思考が回転しなくなっていたのだ。 声  『この洞窟は【精神】に近しい。     入った者の記憶や過去など、知りたくなくても知ってしまう。     貴様の【黒】は濃いものだが、だからこそここを去れ。     【黒】は黒であり、【闇】もまた闇。貴様に【闇】は扱えぬ』 彰利 「………」 それはそうかもしれない、と。 簡単にそう思えてしまうなにかが俺の中をよぎった。 それは───『諦め』という名の悪魔だ。 かつて辛い歴史を繰り返した俺が、今になって感情を取り戻して、 粉雪っていう大切な人も手に入れて─── だからこそなまじっか『死』っていうものを体験していると、 いざという時に危ないことから逃げてしまう。 リスクを負うことに怯え、力を手に入れることも諦めてしまう。 ……だから、時々に考える。 俺は『守る者』として強くなれたのか。 それとも、『先を目指す者』として弱くなったのか。 答えなんて出ないけど……俺はきっと、守ってきた親友に酷いことをすることになる。 一番大事な時に傍に居てやれず、 きっとあいつに全てを押し付けてまで───粉雪との未来を選ぶのだろう。 『感情を手に入れる』っていうのはいいことばかりじゃない。 それを、今になって確信した。 感情が無いままだったらきっと、俺は悠介を選べていたというのに。 親友とずっと、無茶をしていられたというのに……。 彰利 「……お前の言う通りかもしれない。いや、実際にその通りだな。     俺はもう、戦えない。親友を裏切ることに繋がるかもしれないけど───     俺はそれでも、自分の我が儘を貫きたい。     あいつはひとりになっちまうけど……     ひとりでこの世界を守るなんて責任を負うことになるけど……それでも」 声  『……たわけ』 彰利 「え……?」 聞こえた声に、俺は俯かせていた顔をあげた。 すると目の前にそいつは立っていた。 闇の精霊『敵わぬものから逃げることは弱さではない。      勇むだけ勇み、死するものこそが弱者の在り方だ。      貴様は今まで十分に親友とやらを守ってきた。      見返りを望む望まぬに関わらず、      何かしらの贅沢を望むことくらいは許されるだろう。      幸せを望みたいというのならば望めばいい。      それは恐らく、貴様の親友とやらも望んでいることだ。誰も責めはしまい』 彰利  「………」 そう、きっと誰も責めないだろう。 けど、だからこそ辛い。 いっそ突き飛ばすくらいにしてくれた方が、俺は─── 闇の精霊『そしてまた腐るか?大概にしろ、幸せになりたければなれと言ったのだ。      貴様の幸せは貴様の幸せだ。      周りを不幸にするかもしれないからなんだという。      貴様が戦から身を引くことは、      既に親友との間に責任の壁を作ることに繋がるだろう。      その時点でいくつかの不幸が生まれるとするならば、今さら何に悩む』 彰利  「……オマエ、闇の精霊のくせによく喋るな。てっきりネクラ野郎だと思ってた」 闇の精霊『それだけ言えれば上等だ。      早々に立ち去れ。戦から身を引くお前がここに居ても意味はあるまい』 彰利  「ん……そうなんだけどね。      ───……うん、すまんね、俺ここでいろいろ考えるわ。      で、全部纏めちまう。死ぬのが怖くなっちまったことも、      粉雪を幸せにしてやりたいって思いも、全部」 闇の精霊『……好きにするがいい。ただし、静かにな』 彰利  「へ?いいじゃん別に。もっと話しようぜヤミちゃん」 闇の精霊『……私は男だ。ちゃんなどと付けるな』 俺は笑いながら、闇に溶け込むように『黒』を展開した。 無形なる黒闇……これを使うのも、案外これが最後かもしれない。 だったら、もういいだろう。 アンリミテッドブラックオーダーからも解放される時が来たのかもしれない。 悪い、悠介。 全部お前に押し付けちまうことになるけど……それでも。 お前さえよかったら、いつまでも俺と親友で…… 彰利 「なんて……な。都合良すぎるよな……」 ほんと、格好悪いって思った。 出た笑い声は掠れてて情けないものだったけど、俺は─── 自分が守りたいもののために親友の危機を見過ごす覚悟を、 今ここで……決意してしまった。 謝っても足りないけど、もし許されるのなら許してほしかった。 他の誰でもない、たったひとりの親友だけに。 【ケース78:晦悠介/グラフチャンダリアに愛の手と合いの手を】 ドザザザザザザザ……!! 轟音が高鳴る。 耳障り……とまではいかないものの、 まあ自分の家で慣れてはいるから苦痛ってことはない。 悠介 「で、なんだっけ、ここの名前。マッスルフォール……だったか?」 ベリー「ロックスフォール」 悠介 「あ、そ、そっか」 とまあ、現在はドワーフの里から離れた次なる精霊の居る場所、 ロックスフォールの滝に来ているわけだが。 晦神社の裏手の滝壺とはまた違った景色だ。 眺めがなんていうか段違いだな。 悠介 「滝……水関連、ってことは───ウンディーネか?」 ベリー「正解。まずは四大元素の精霊と契約しましょ。     これが終わったら次はサラマンダー、その次がシルフって感じに」 悠介 「了解だ。それで、滝は滝だが……     滝があるだけで、聖堂っぽい場所は無いみたいだけどな。     もしかしてこのロックスフォールの滝自体が聖堂なのか?     それとも聖堂があるのってノームが居た場所だけなのか?」 ちょっとした疑問をぶつける。 するとベリーはフフンと笑い、さらにニマ〜っと笑顔を作って俺を見た。 ベリー「うっふっふー……!!     解んない?解んない〜?何処に入り口があるか解んない〜?」 悠介 「王道は滝の裏だけど、そう何度も冒険者の心を擽ることが起こるかどうか……。     で、どうなんだ?入り口は何処───」 ベリー「………」 悠介 「……?な、なんだよ」 なんだかベリーがオモチャを取り上げられた子供のような顔で俺を見てきた。 ……俺、何かヘンなこと言ったか……? ベリー「ばかっ!モミアゲッ!悠介なんて知らないわよぅっ!!」 しかもとても辛辣な言葉を浴びせるや否や、 滝の側面から内側へと潜ってゆくと、俺の視界から消える。 悠介 「お……おお!男なら誰もが夢見る『滝の裏の洞窟』がここに……ッ!!」 なんだいベリーのヤツ、しっかり正解だったんじゃないか……って、 じゃあなんで怒ったんだ? 悠介 「……ま、いいか」 俺もさっさと行くとしよう。 もちろん、『ばかっ』のあとに言った言葉に対しての追求もしっかりやらないとな……。 ───……。 ……滝を抜けた先には確かに洞窟があった。 しかもここの場合は露明石とかのお蔭で明るいわけじゃなく、 壁や地面や天井から突き出てる水晶が穏やかな光を放っていた。 悠介 「綺麗なもんだな……」 ベリー「うぅ……ぶったぁ……」 悠介 「子供みたいな声出すな、たわけ」 どうにも今日のベリーは子供っぽくてやりづらい。 最初の印象なんて思いっきり魔女だったっていうのに。 悠介 「お前さ、俺のところにくる前にヘンなモノでも食ったか?」 ベリー「……どういう意味かな」 悠介 「そうだな、一昔前の俺的にキッパリと言わせてもらえば───ガキっぽい」 ベリー「むぐっ!?な、なによそれ!     わたしを三千年以上生きている魔女と知っての言葉!?     っていうよりやっぱり悠介って乱暴な言葉似合わない!やめなさい!」 悠介 「やかぁしい、これでも高校時代は不良で通ってたんだよ。     そもそもどうこう言われる筋合いもないだろ。     不良だった頃の周りの態度は嫌いだったが、     孤立してもあいつと馬鹿やってられた全部の時間まで否定する気はないからな」 ベリー「不良ねぇ……んー……」 なにやらブツブツと言い始めるベリーを余所に、俺は水晶の洞窟をどんどんと歩いてゆく。 ドワーフの洞窟のような罠は無いらしく、ただ道を通るための仕掛けがある程度だ。 たとえば─── 悠介 「これって……これを下げればいいのか?」 道の先に泉みたいな水溜りがあった時や、これ以上進めないかって思った時などには大抵、 近くの壁にスイッチレバーのようなものが突き出していたりする。 試しにそれを降ろしてみれば泉の水が水底に空いていた穴に飲まれていき、 無くなったりして先に進める。 ベリー「あー、よかった。わたしもう罠って嫌」 そういう単純な仕掛けを見るに至り、ベリーは安堵の息を吐いていたりする。 俺的には───ちと寂しかったりするが。 フロッグナイト「ギャーーッ!!」 ナマギョ   「ギャッ!ギャーーーーッ!!!」 ただ、この洞窟にはモンスターはきちんと居るらしく、見ていて飽きなかったりする。 一目散に逃げられるのはどうかと思うが、きっちりベリーは集中攻撃されてるし。 フロッグナイト「ボンゲェエエーーーーーッ!!!!」 ナマギョ   「オギョギャアアーーッ!!ホゲェエーーーッ!!!」 ベリー    「うわやっ!?ちょっ、いきなりなにすんの!」 もちろん俺はそれを無視することで先へと進む。 ベリーなら俺がなにかしないでも十分なんとかなるだろうし。 ベリー「うわー逃げたー!薄情者ー!!」 薄情等。貴様にかける情けは無い。 心の中でキッパリと言って歩く───と、背後で炸裂音が聞こえた。 ベリー「ど、どうして助けてくれないのさ!」 振り向いてみればベリーがすぐ近くに居て、その後ろを見てもモンスターは居ない。 どうやら魔術で木っ端微塵にしたらしい。 悠介 「ウェルドゥーンの赤い魔女に助けなんて要らないだろ。     実力ならリヴァイアより上なんだろ?助けなんて必要ないじゃないか」 ベリー「女の子はいつでも男の子に助けて欲しいものなのよ……」 悠介 「寝言は寝て言え」 ベリー「むごっ!?」 妙な演出とともに奇妙な口調で言葉を発するベリーを斬り捨てる。 べつに女心なんて一生解らんでもいいわ。 ベリー「キミさぁ、どうしてわたしにはそう冷たいワケ?     わたしもっとやさしいキミを見たいなぁ」 悠介 「スピリットオブノートの力でちゃんと融合分離が出来たら……無理だな、     人にやさしくする自分って想像がつかない」 ベリー「そう?案外笑顔が似合ったりするんじゃない?」 悠介 「んなわけあるか。アホゥな話はいいから、そっちのスイッチ頼む」 ベリー「むー……まあいいけど」 離れた位置に対面するレバーを握る。 いろいろ試してみたが、 ここのレバーは離れた場所のレバーを同時に倒さなけりゃならんらしい。 悠介 「いいかー?」 ベリー「合図は3でいいのー?」 悠介 「3って言うのと同時だぞー」 ベリー「りょーかーい。1、2の───」 悠介 「3っ!!」 ガコォンッ!!───ほぼ同時にレバーが倒れる音がした。 それとともに───この広間に続く入り口……というか来た道が岩によって塞がれた! ベリー「え?え……?」 悠介 「……あー……」 その時点でピンと来た。 水のある場所で入り口が塞がられるってことは……あぁ、アレだ。 悠介 「えーと、どうしたもんかな。まさか自分が体験することになるとは思わなかった」 ベリー「えぇっ!?なに!?なんなのこれ!!」 悠介 「えっとな、ベリー。多分この部屋……部屋か?     まあこの場所は今から水で溢れることになると思うから、     死なないためにも罠の解除を考えてくれ」 ベリー「また罠ぁっ!!?なんで行く先々でこんな目に合うのよぅ!!」 悠介 「馬鹿お前!ダンジョンや洞窟で罠が無いなんて笑い話にもならないだろうが!」 ベリー「それで死んだらそれこそ笑い話にもならないでしょう!!     なに!?悠介ってもしかして大きいモンスターに襲われやすい性質に加えて、     絶命系の罠に嵌まりやすい性質なの!?」 悠介 「んなっ……!!なんてこと言いやがるんだてめぇ!!     これでも気にしてたんだぞコラ!!」 ベリー「そんなの知らない!それより───あ゙」 広間の泉に、天井から降り注ぐ滝のような水。 ああ……早速始まった。 悠介 「で、どうする?」 ベリー「なんでそう冷静なの!?」 悠介 「知らん」 軽く答えると、ベリーは片手で顔を覆うようにして天を仰いだ。 ……そんな時だ。 声  『……強者よ。何を求め、わたしの力を欲しますか』 声が聞こえた。 それとともに、泉の底が輝く。 滝のような水に打たれて歪む泉の底にあるもの─── それは、見づらくはあるがノームの聖堂にあった精霊の石碑のようだった。 となると……今聞こえたのは精霊の声、か? どうやらベリーの耳には届いていなかったらしく、ベリーはただ慌てるだけだ。 悠介 「守りたいものを守る力が欲しい。それだけだ」 声  『……それは唯一を守る、ということですか』 悠介 「世界にあるもの全ては唯一だろ。     俺が守りたいものは、守りたいって思ったもの全てだ」 声  『───自分にはその力があると、本気で信じているのですか?』 悠介 「自分の力に過信なんて持っちゃいない。     けど、そんな力でも……全てを守ることが出来なくても、     一部を守ることが出来るって信じてる。     理想論ばっかり並べても仕方が無いって解ってる。     でも、理想も描けない自分なら元よりなにも目指せやしない。     だから……その理想に一歩でも近づくために、     お前の力を欲する……じゃ、ダメか?」 声  『………』 小さな息を飲むような音。 その少しあとに、天井から落ちる水の柱の中から矛のようなものを手にした女性が現れた。 体は青色で、長い髪をした女性だ。 きっと彼女が───水の精霊、ウンディーネ。 女性 『あなたの覚悟、確かに受け取りました。けれど、最後に確認を。     あなたは己のみが強くあり、己のみで全てを守ることを望みますか?     それとも誰かとともに強くあり、誰かとともに守ることを望みますか?』 悠介 「誰かとともに守ることを望む。     自分ひとりがどれだけ頑張ったって辿り着けない場所があることくらい知ってる。     第一……俺がここに至れたのは俺だけの力じゃない。     自惚れるつもりなんてこれっぽっちもない。     俺は、周りと、たったひとりの親友に守られることでここに至れた。     それは胸を張って言えるくらい誇れるものだ」 女性 『…………解りました。では、その言葉の意味をここで示しなさい。     覚悟は───よろしいですね?』 悠介 「戦えってことか?」 女性 『はい。どんな方法でも構いません。     この水が満ちるまでに、わたしを破ってみせてください。     あなたにそれだけの力があるのか。精霊ウンディーネの名の下に審判します』 悠介 「……解った」 そう言った途端、ウンディーネの周りに水が集まってゆく。 足場は既に水浸しで、ウンディーネの居る場所は泉の上。 向かったところで水に沈むのがオチだ。 だったら─── 悠介 「ブラストッ!」 ブラストを創造、発射する。 だがそれは圧縮された水に飲まれるとともに、いとも簡単に霧散した───途端。 悠介 「くあっ───!?」 ブラストを吸収した水や、その周りにあった水の塊が一気に俺へと降り注ぐ。 固形物ではないそれは、しかし皮膚にぶつかると同時に鋭い痛みを齎した。 さながら、性質の悪い散弾銃が如し。 水が当たった場所は皮膚が簡単に削られ、血が吹き出た。 悠介 「っ……くっそ……!」 血が出た箇所を庇うが、そうしている間にも水位はどんどんと上がってゆく。 これは……剣士じゃあ勝てっこない。 そう感じた俺は指先に光を灯し、式を編んだ。 まだ初級の式くらいしか出来ないが、それで十分だ。 悠介 「“氷牙(アイシクル)
”!!」 編んだ式を解放し、氷の刃を放つ。 それは俺が立っている場所からウンディーネの居る泉の上までの一直線を凍らせ、 不安定だが道を作り出す。 悠介 「疾───!!」 あとは我慢比べ。 降り止まない雨のように襲い掛かる水の塊の中を強引に駆け抜け、 ウンディーネの居る場所までを詰める───!! ウンディーネ『……、……───』 が、嫌な予感を感じた途端に俺の歩は止まった。 次の瞬間には、奔っていれば確実にその場に居たであろう箇所に─── 泉から突き出した水の塊が幾重にも襲い掛かる。 悠介 「は……はは……」 危なかった。 あのまま突っ込んでたら血が出るどころじゃ済まなかった。 ウンディーネ『がむしゃらに突き進むだけで、あなたはわたしに攻撃しようとしていない。        ……何を躊躇しているのです。女性と戦うことを良しとしませんか?』 悠介    「あ、当たり前だ!普通はそうだ!」 ウンディーネ『では、あなたは敵である者が女性である度にそうやって躊躇するのですか。        その躊躇する時の中で、たとえどれだけの犠牲が出ようとも……あなたは』 悠介    「───……」 それは、そうだ。 そんな事態が絶対無いなんて言えやしない。 けど、それでも女性を本気で殴ったり、だなんてことは戸惑われる。 ウンディーネ『確かにあなたの理想とする壁は大きいのかもしれません。        しかし、あなたはその壁を越えようとしない。        女性が相手というだけで、その壁に手を伸ばすことを止める気ですか?』 悠介    「───」 それは許されないことだ。 守りたいものを守るためには、綺麗ごとばっかりじゃ済まない。 それは自分が目指したものを守ろうとした時点で、覚悟したことじゃないか。 悠介 「───っ……」 バヂィンッ!! ウンディーネ『っ!?』 悠介    「っしゃぁああああっ!!!」 思い切り頬を叩き、自分の理想を貫く覚悟を決める。 ……そうだ、迷いなんて要らない。 何かを守るってことは、何かを斬り捨てることだ。 全部を守ることなんて出来ないなんてこと、小さい頃に知っていたんだ。 だから迷いなんてもう捨てよう。 悠介    「……ごめんな。全力で行かせてもらう」 ウンディーネ『謝罪など無用です。        どの道わたしが泉の上に存在する以上、他者がわたしに触れることなど』 ドボォッ!! ウンディーネ『っ……!?えはっ……!!』 ウンディーネの腹部に俺の掌がめり込む。 その反動でウンディーネの体はくの字に折れ曲がり、力を無くして落ちゆく。 俺はそれを抱き止めて、飛翼をはためかせた。 ウンディーネ『は、ぁ……く……っ!!竜……人……?』 悠介    「ん……まあ、そんなところだ。        近づこうと思えばすぐに近づけたわけなんだ」 ウンディーネ『けほっ!こほっ……!だから……謝罪したのですか……。        嫌な人ですね……精霊に手加減をしてかかるなど……。        近づいたことさえ気づかせないなんて……        精霊としてのプライドがボロボロ……です……』 悠介    「だから、ごめん。正直女の相手が苦手なのは性分なんだよ。        女と一緒に居て、碌な目に合ったためしがない」 ウンディーネ『……それなのに一撃で行動不能にさせるのですね……。        まったく……意地悪なのか、やさしいのか解りません……』 それだけ言い終えると、ウンディーネはくたっと意識を失ってしまった。 俺はそれを見て、精霊でも気絶するんだな、と……空いた方の手で頭をコリコリと掻いた。 ───……。 ……。 ウンディーネが気絶するとともに水の全てはどんどんと何処かへ流れていき、 すっかり元に戻った聖堂の中、 俺とベリーは石碑の前でウンディーネが目覚めるのを待っていた。 ベリー「しっかし……一発ねぇ……」 そんな中、ベリーがジト目で俺を睨んできてたりする。 何がしたいのかは知らんが、鬱陶しいことこの上無い。 ベリー「あのね、わたし思うんだ。     精霊をボディーブローで気絶させたのって悠介が初めてだよきっと」 悠介 「ボディーブローじゃない、掌底だ。     拳なんかよりよっぽど響くから内側に衝撃通しやすいんだよ。     素人は拳で殴るより手の平で殴れっていうくらいなんだ、こんなの常識だ」 ベリー「話が気絶問題から一口格闘講座に変わってる気がするのは気の所為かしら」 悠介 「細かいことなど忘れてしまえ」 ともあれ……くたっとしたまま目を覚まさないウンディーネを見ると、流石に不安になる。 喋り途中の時に腹部に掌底だからな…… 気絶までしちまったんじゃあ、相当ヒドイことになってるのかもしれない。 悠介 「な、なぁベリー?ちょっとウンディーネの腹部の様子、見てやってくれないか?」 ベリー「へ?そんなの自分でやりなさい。なんでわたしが」 悠介 「ばっ……!ばばばかっ!おおお俺にそんなこと出来るかっ!!」 ベリー「……なに赤くなってんの?」 悠介 「うるさいっ!と、とにかく男が女性の腹部を調べるなんて、     そんなものは医師以外には有り得ないんだ!」 ベリー「うわー、断言したよこの人。     なに、もしかして悠介って女性との関係とかって苦手?」 悠介 「そ、そんなの当たり前だ!得意なヤツがどうかしてるんだっ!     だだだ男子が女に触れるなんて、それこそ、その……だな……」 ベリー「………」 デゴシッ! ベリー「ふぎゅっ!?いったぁああーーーーいっ!!いきなりなにすんのさぁっ!!」 悠介 「オモチャを見つけた子供みたいな目で見るなっ!     人をからかってそんなに面白いかっ!」 ベリー「だからって脳天にチョップはないでしょーーっ!!?     なにさこのウブ助!モミアゲウブ助!!     今時女の子に触ること考えただけでこんなに真っ赤になる男なんて居ないわよ!」 悠介 「誰がモミアゲウブ助だ!!って、そんなことはどうでもよくないが後回しだ!     今はウンディーネの状態を調べてだなっ……!」 ベリー「わたし、やー。調べたいなら悠介が勝手にやればー?」 悠介 「出来るかそんなこと!!というよりやらんっ!」 ベリー「なんで?この時代での悠介って、もう孫も居るほどの経験者なんでしょ?     だったら女性に触るくらいどうってこと───」 デゴシッ!! ベリー「ふぎゅうっ!!?……な、殴った……!また殴ったぁああーーーっ!!」 悠介 「殴ってない!手刀だ!じゃなくてそんなことより!     女に触ることがどうってこないなんてことは断じて無い!!     だだ大体、深冬が───子供が出来たのだって、     ルナの馬鹿が俺の寝込みを襲いやがったからであって!     俺からなんて一度も───ぐはっ!!」 なにを自分で暴露してるんだ俺はっ……! 落ち着け……落ち着け俺……! ───などと考えつつ、ハッとしてベリーを見れば……極上の笑みで迎えるベリー。 ベリー「へ〜……そうなんだぁ〜♪     じゃあ悠介って女の子のことに関しては、まるっきり奥手なんだぁ〜」 悠介 「───……なぁ、記憶が飛ぶまで全力で殴っていいか?」 そう言って拳を握ると自然に髪が銀色に染まり、視界が赤く変異する。 そんな俺に─── ベリー「死ぬわっ!!」 ベリーは絶叫するようにそう返してきた。 悠介 「大丈夫だ……10分の9殺しだから……」 ベリー「いやー!死んでるー!九割死んでるー!!     たんまー!へるぷよへるぷー!のーもあなっくるー!!」 ───……。 ……。 ベリー「うぅうう……ぶったぁ……」 悠介 「殴ったんだ」 ベリー「同じよぅ!!大体どうして悠介ってわたしにばっかりやさしくないの!?     わたし子供だよ!?ほらほら!こんな愛くるしい子供をどうして殴るの!?」 悠介 「彰利に『美しいお姉さんって誰?』とか言ってたヤツが何言ってんだ」 ベリー「うぐっ……!ああ……先に立つ後悔があればなぁ……」 容姿こそは子供っぽいが、こいつは確かに三千は生きている存在なわけで。 はぁ……世の中って解らん。 悠介 「そもそもな、子供は自分のことを『ほらほら』って指差して、     『愛くるしい子供だ』なんて自慢しない」 ベリー「そうかなぁ……っと、目ェ覚めたみたいよ?」 悠介 「ん?あ、ああ」 隣に座っていたベリーから視線を外すと、 丁度正面を向く形になる視線の先で、ウンディーネがゆっくりと目を開けた。 悠介    「大丈夫か?」 ウンディーネ『あ……わたし……は……』 瞬かせる瞼にはまだ力がない。 けれど俺の顔を見ると、はぁ、と息を吐いて起き上がった。 ウンディーネ『そう……でしたね。わたしは負けたのでした』 悠介    「……すまない。攻撃するにしても、もっと箇所ってものがあった。        女の腹に衝撃を与えるなんて……」 ウンディーネ『いいえ、お気になさらないでください。        ……というより、不思議な方ですね、あなたは。        今までわたしと契約を結ぼうとした者や結んだ者は、        全員わたしを【精霊】としてしか見ませんでした。        それこそ勝って契約するためには手段を選ばなかったほどです。        それが……女性だからと、加減までして……本当に不思議な方です』 悠介    「不思議なもんか。加減できるんだったら、        もっと別の箇所に攻撃をしていれば……」 ベリー   「別の場所?別の場所ってどこ?ね、どこどこ〜?」 悠介    「へ?あ、いや、たとえば……」 ベリー   「たとえば?たとえば何処かなぁ。うりうり〜、言ってみれ〜?」 悠介    「た、たとえばぁあ……」 ベリー   「胸?お尻?それとも口で言えないようなとこ!?」 どがすっ!!ぼごぼごぼごっ!!! ベリー「あいたぁっ!!いたたたたたたっ!!!!」 悠介 「少し黙ってろたわけっ!!」 ベリー「ご、ごめんなさいぃ……」 たわけたことを言うベリーをゲンコツで黙らせ、ウンディーネに向き直る。 ウンディーネは……どうしてか、俺に合わせて正座をしていた。 正座する精霊って……なんか奇妙というか珍しいというか。 なんてことを思っているとウンディーネは俺の目を見て微笑み、 首と胸の間の部分に左手を添えると、口を開いた。 ウンディーネ『……あなたの勝利です。さあ、あなたは何を望みますか?        わたしはあなたへの敗北を認め、あなたの力になることを約束します』 なんだか嬉しそうに言うウンディーネ。 俺はその言葉に─── 悠介 「たわけ」 そう、言葉を放っていた。 ウンディーネ『え……あの……?』 困惑するウンディーネ。 けれどこればっかりは許さん。 悠介    「あのな……敗北したから俺の力になるなんて、        それじゃあまるっきり俺が強引にお前の自由を奪うみたいじゃないか。        俺はそんなの嫌だし、どうせなら勝ち負けを抜きにして力になってほしい。        だから訊き返す。お前は俺に負けたから力になってくれるのか、        それともそんなことを抜きにしても力になってくれるのか、どっちだ?」 ウンディーネ『あ……』 言いたいことを言って、ウンディーネの目を見つめ返す。 すると……どうしたことかウンディーネの頬が赤くなり、視線があちらこちらに泳ぐ。 ベリー「あーのー……ちょっと悠介サン?ひとつ訊いていいかな?」 悠介 「ん?なんだよ」 ベリー「……契約するんじゃなくて、告白してどうすんの?」 悠介 「……へ?なんだよ、告白って」 ベリー「あー……あ、うん、解ってないならいいや。     確かに確実に告白って風に聞こえるわけじゃないしね。     奥手の悠介サンにそんなこと出来っこないもんねぇ」 ……よく解らんが、ベリーの疑問は解決されたらしい。 けどもうひとつの疑問は晴れやしない。 なんだってウンディーネは顔を赤くしてるんだ? 悠介    「……なぁウンディーネ?なんで───」 ウンディーネ『……はい。わたしは、敗北を抜きにして……        あなたとともにあることを約束します』 悠介    「───へ?あ、ああ……これから、よろしく」 ウンディーネ『はい、こちらこそ』 微笑んだウンディーネが光となり、俺の額に消えてゆく。 それと同時に俺の左手の薬指に水色の指輪が現れた。 悠介 「……契約、完了だな」 ベリー「ぷくっ……くふふっ……」 悠介 「……で、なんで笑ってるかなお前は……」 ベリー「だ、だってウンディーネったらカワイイったらないでしょ……!     ブフッ……!左手の薬指に指輪って……!ブフフッ……!!」 悠介 「……?」 なんだかよく解らんが、ベリーは何かが大層面白いらしかった。 俺にはやっぱりよく解らん。 ベリー「悠介ってほんとアレだねぇ。     人にはあまり好かれないのに、人じゃない存在に気に入られやすいわ」 悠介 「そうか?誰からもそう気に入られてるとは思わないけどな。     自分の性格くらい知ってる。これは人に好かれる性格じゃないさ」 ベリー「……悠介さぁ。もうちょっと自分を知っておくべきだと思うよ?     あ、この場合自分じゃなくて周りかな?」 悠介 「じゃ、次行くかー」 ベリー「うわ、無視だよこの人。なんでそう冷たいかなぁ。     大体確認はしないの?ノームの時みたいに」 悠介 「召喚出来ないかどうかか?……そうだな、出てきてくれウンディーネ」 ベリーの提案を受け取ると、小さく呟いて左手を翳す。 すると薬指の指輪が輝き、ウンディーネが召喚される。 ウンディーネ『お呼びですか、マスター』 出てきたウンディーネは嬉しそうに微笑んだ。 が─── 悠介    「ウンディーネ、それはダメだ」 ウンディーネ『え───あ、あの。なにか至らない点が……?        な、直します!直しますから……!        どういったところがダメなのかを───!』 悠介    「いや、ちょ───落ち着け。別に難しいこととかじゃないから。        それに、ちゃんと言っておかなかった俺が悪かった、ごめんな」 ウンディーネ『いえ……いえ……!許してくださるならそれで……!』 悠介    「………」 ベリー   「………」 えーと……なんて言えばいいんだろうな。 ウンディーネってこういう性格だったっけ? 契約する前はもっとこう……威厳があったというか……。 まあいい、とにかく要点を言おう。 悠介    「自己紹介がまだだったよな、俺は晦悠介。        竜人、なんてことになってしまってるけど、生粋の地界人だ。        そして……ウンディーネ。        俺のことはマスターじゃなくて、名前で呼んで欲しい。        言ってくれただろ?敗北条件で協力してくれるわけじゃないって。        だから。マスター、なんて呼び方は無しだ。        俺は上下関係を築きたいんじゃない、        一緒に同じ立場で成長していきたいんだ。そう思うのは……ダメか?」 ウンディーネ『〜〜……!!』 ……えーと。 なんだか知らんがウンディーネのヤツ……顔を真っ赤にして固まってしまったんだが。 ウンディーネ『あ、あの……それでは、その……ゆ、ゆゆゆ……悠、介……さま』 悠介    「ん?……ああ」 『さま』は余計だけど……ちゃんと呼んでもらえたことに安堵した俺は、 自然とウンディーネの目を見つめたまま微笑んだ。 ウンディーネ『───!!』 珍しく苦笑っぽくじゃなく、やわらかな笑みだったと思う。 だがそれを見たウンディーネは限界まで顔を真っ赤にすると、 そのままバターンと気絶してしまった。 悠介    「へ?───あ、うわっ!?ど、どうしたんだよウンディーネ!おいっ!!」 ベリー   「……精霊でも人に恋をするのね〜……ってそっか、        そういえばニンフって人や神と恋をするって云われてるもんね……。        それを考えれば、精霊だって心を持ってるわけだし。なるほどなるほど」 悠介    「ブツブツ言ってないでなんとかしてくれっ!ワケが解らんっ!」 ベリー   「目覚めのキッスでもしてあげれば?」 ウンディーネ『ひゃあああっ!!?だ、だだ大丈夫です!起きています!!』 ベリー   「あら残念」 がばーっ!と起き上がるウンディーネ。 そこにはもう威厳の『い』の字もなかった。 けど───うん、なんだかそれでいいって思える。 カタッ苦しいことは抜きにして一緒に成長していきたいし。 ベリー   「うん、ディーちゃん、わたしはあなたを応援してあげるわよー」 ウンディーネ『大きなお世話です、人間』 ベリー   「うわ冷たいっ!!な、なによぅ!人が応援してあげようとしてるのに!」 ウンディーネ『わたしの契約主は悠介さまただひとりです。        他の誰からも指図は受けません。ましてや女性であるあなたには余計に』 ベリー   「ギ、ギィイイイイイイイイッ!!!!!        だったらキツイ一言言ってやろうじゃないのさ!        悠介はねぇ!既婚者なのよ!?だからあんたがどう思おうと無駄なの!」 ウンディーネ『……!?……だ、だから……だからどうだと言うのです!?        わたしの思いに変わりはありません!思い続けるのはわたしの勝手です!』 ベリー   「そんなこと言って泣き面かくなよー!!」 ウンディーネ『〜〜……!!知りませんっ!!失礼しますっ!』 バジュンッ!……ウンディーネは出てきた時は違い、涙目で指輪の中に戻ってしまった。 悠介 「ベリー……お前なぁ」 ベリー「な、なによぅ!わたしが悪いっての!?ホントのこと言っただけじゃない!     それともなに!?悠介ってばディーちゃんのこと好きなの!?」 悠介 「一緒に成長しようって言ったのは事実だ。     愛だの恋だのは別として、信頼関係としては好きになれると思うぞ」 ベリー「なっ……わ、わたしは!?」 悠介 「死ね」 ベリー「うわぁあっ!差別だぁっ!!なんでなんで!?わたしの何処が悪いのっ!?」 悠介 「第一印象」 ベリー「うあ……それは覆せないわ……」 がっくりと落ち込むベリーを余所に、俺は水色の指輪をそっと撫でた。 悠介 「ごめんな……気を悪くしたなら謝る。     こいつは三千年生きてもガキっぽい馬鹿だから、許してやってほしい」 …………キキンッ。 謝罪の言葉を言うと、しばらく間を置いてから指輪が瞬いた。 なんとなくそれが『はい』って頷いてくれたように思えた俺は、 自然と『ありがとう』と言っていた。 悠介 「じゃ、行くか。次は何処だ───って、なにブツブツ言ってるんだよ」 ベリー「三千年馬鹿って言われた……ガキっぽいって言われた……」 悠介 「三千年馬鹿なんて言った覚えはないんだが……」 けど、ああ確かにと頷きそうになる自分を必死で抑える自分が居た。 ベリー「まあいいや、気にしてたって仕方ない。     確かにわたし、悠介に嫌われるようなことやっちゃったしね。     それはまあ自業自得だ〜って受け取っとくわよ。     で、それはそれとしてなんだけど、ちょっといい?」 悠介 「確認とらなくてもいいぞ、訊きたいこととかあるなら言ってくれ」 ベリー「そ?じゃあ訊くわ。なんでノームの時だけあんな呼び出し文句だったわけ?」 悠介 「へ?……なんだ、そんなことか。先に言っただろ、あれは冗談だって。     同じ冗談を何度もやるほど暇人じゃないぞ、俺は」 ベリー「ふ〜ん……悠介ってヘンなヤツだねぇ」 悠介 「万人から見れば誰だってヘンなヤツなんだよ。     天才だって馬鹿者から見れば異常者だ、それと同じだろ」 ベリー「あ、なるほど。上手く逃げたねぇ悠介」 悠介 「逃げ言うな」 まあとりあえずは無事に契約を果たした俺は次の場所へ向かうべく、 ベリーとともにロックスフォールの滝をあとにした。 Next Menu back