───FantasticFantasia-Set35/火の精霊サラマンダー───
【ケース79:晦悠介(再)/アジジ】 ───……ジリジリジリジリ……。 悠介 「………」 ベリー「………」 現在、ロプロスト砂漠のド真ん中。 ベリーに促されるままに来たが、ハンパな暑さじゃない……。 というよりむしろ、暑いというか熱い。 降り立った途端に熱を通さない靴が出ますって言って、イメージを弾けさせたくらいだ。 ベリー「えーと……どこだったっけ……暑くて頭が回らないわ……」 悠介 「ほんとにこんな場所にサラマンダーの聖堂があるのか?」 ベリー「あるわよぅ……随分前の話だから……自信はないけど……」 息も絶え絶えに言うベリー。 魔女の格好が余計に暑さを際立たせるが、そこはそれ、魔女として脱ぎたくはないらしい。 ベリー「ダ、ダメ……式程度の氷結結界じゃ間に合わない……。     ね、悠介……なにか冷たいもの創造して……」 悠介 「頑張れ」 ベリー「うあー……そんな言葉なんて欲しくないわよぅ……。     大体なに?どうして平然とした顔でいられるの……?」 ベリーが俺に向けて杖変わりにしていた木の枝を振るう。 するとその枝が瞬時に氷付き、ボロボロと砕けた。 ベリー「うあ……なにこれ」 悠介 「ダイヤモンドダストカーテン。     中に居る俺は涼しいけど───手とか伸ばすなよ、その枝と同じ破目になるぞ」 ベリー「うああずっこいー!わたしにも頂戴よー!」 悠介 「ダメだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!!」 ベリー「なによ秘仙丹って!」 悠介 「知らん!言ってみただけだ!って!だから近づくなって!     凍って砕けても知らないぞ!?」 ベリー「だったらわたしにも頂戴よ!     それじゃなくてもいいから、なにか涼しくなる創造物!」 悠介 「魔女の名が泣くな……なにか出来ないのか?氷を作るとかさ」 ベリー「いやー……それがね、わたし攻撃系のことばっかり研究してたから……     保護の式とか強化の式ってあんまり知らないのよね……あはは」 悠介 「……アホゥ、ただの自業自得だろうが。もういいから聖堂を探そう」 ベリー「全然よくないんだけどね……あぅううあづいぃい……」 だらだらと汗を流しながら歩くベリー。 既にフラフラだ、いつ倒れてもおかしくないな。 ……それ以前に脱水症状で倒れそうだが。 悠介 「まったく……つくづくアホゥだな……」 呟いて、熱を遮断する膜をベリーの周りに創造する。 するとキョトンとした顔で俺を見るベリー。 悠介 「気にするな、ついでだ。なんのついでなのかは不問だぞ」 ベリー「う……うぅうう……ありがとぉ悠介〜……」 悠介 「情けない顔するなよ……とにかく、さっさと聖堂を探そう」 ベリー「う、うん───へ、へっくちっ!!     うぅわ寒ッ!!なにっ!?なんでいきなりこんなに寒く……!?」 悠介 「まあ……熱を遮断する膜を張ったからな、     これっぽっちの熱も通さないんじゃあ、寒くなるのは当然だ」 ベリー「どうしてそう極端なもの作るかなぁ……!!うぅ、へっくちっ!!」 悠介 「さぁ行くかぁ。お望みのものも創造してやったんだし、文句はないよな?」 ベリー「うっうっ……差別だぁ……」 だうーと涙を流すベリーを無視して、先へ先へと歩いてゆく。 そうすると結局ベリーも置いていかれまいと駆け出し、俺の前に出ると歩いてゆく。 ベリー「……あれぇ?ポイント的にここでいい筈なんだけどな。     あの歴史書、ウソが書いてあったのかな」 悠介 「ここにあった筈なのか?」 ベリー「ん、そ───ふ、ふぇ……へっくちっ!うぅう……うん、そう。     この場所……ポイント909にそのまま、     ドカンと遺跡みたいな聖堂があった筈なんだけど……」 悠介 「移動とかって……いや、それは想像つかないな。     じゃあ誰かが動かしたか壊したかのどっちかだな。     なにかピンと来るものはあるか?」 ベリー「んー……ひとつだけあるかな。ね、悠介?ゾーンイーターって知ってる?」 ゾーンイーターって……ああ、あれか。 悠介 「知ってるぞ、空界の歴史書で見た覚えがある。     なんでも食っちまう、     胃袋の中に洞窟を持つって言われるくらいのサンドワームだろ?」 ベリー「そ。それのこ───っくちっ!!……それのこと。     あくまで予想だけど……食べられちゃったのかも」 悠介 「なっ───お、おいおい……さすがにそりゃないだろ……。     だって精霊だぞ?いくらなんでも食っちまうヤツが相手でも……」 ベリー「サラマンダーって結構楽しいことが好きって聞いてるけど?     食べられたとしても別にいいって思ってるんじゃない?」 悠介 「んな無茶な……」 苦笑が漏れるが、確証がないので笑い飛ばすことは出来なかった。 ……つまり、結局のところは聖堂が無いとなれば、 唯一の手がかりであるゾーンイーターを見つけるしかないわけだ。 悠介 「なぁ……このだだっ広い砂漠の中、     何処に居るかも解らんサンドワームを探すのか……?」 ベリー「うえぇ、嫌だなぁ……本格的に風邪引いちゃいそうだよ……」 渋りながらも頷くことで肯定してみせるベリーを前に、俺はただ視界を手で覆った。 ───……。 ……。 ───……さて、砂漠を彷徨い30分ってところ。 いい加減寒さに震えてきたベリーがついにキレた。 ベリー「あがぁあああっ!!へっくちっ!もう!いったいどこにいるのよぉっくち!!     へっくち!!はぁっくちぃっ!!」 悠介 「お前のくしゃみってさ、いちいち子供っぽいのな」 ベリー「うっさいモミアゲ!」 悠介 「……ベリーを包んでいる膜を消すブラックホールが出ます───弾けろ」 大変失礼な言葉を放った罰として、 纏めたイメージを弾けさせることで膜の全てを奪い去った。 すると─── ベリー「うぇっ……!?あ、あつ……あ、あぅう……!!?あ、あああ……!!」 冷え切った体が一気に熱に襲われたからだろう。 身体感覚が追いつけないのか、泣きそうな顔で一気に汗を流しながらオロオロとし始めた。 悠介 「まあこの馬鹿者はほうっておくとして。     あ〜〜〜……地獄よりの使者が今まさに貴様の存在を求める。     ノーム……ノーム!!罪深き汝の名はノーム!!汝、今こそ───」 ポムッ。 あ……イメージ纏める前に出た。 ノーム『なんでオイラだけそういう呼び方なんだー!普通に呼べっていったろー!?』 悠介 「すまん、一度やったら引っ込みがつかなくなったんだ」 ノーム『うそつけー!     お前の顔、馬鹿をやる親友が居ないから歯応えが無いって顔だぞー!』 悠介 「そこまで解ってるなら十分だ。で、早速で悪いんだけどな。     地の精霊ってことで、     ここら一帯の砂の中に居る生物をなんとかして発見出来ないか?」 ノーム『なんだー、そんなことならお安い御用だー。     けど条件があるぞー、心して聞けー』 悠介 「大丈夫だ。もうあんな呼び方はしないって約束する」 ノーム『おお、なんでオイラが言おうとしたこと解ったんだー?エスパーかお前ー』 思い当たるものがそれしかなかった……としか言えないな。 悠介 「なんとなくってことにしといてくれ。で、頼めるか?」 ノーム『任せとけー。いっくぞー!“走震流戟(グランドダッシャー)
”!!』 ノームはその手に槍のように長い得物───戟を出現させると、 勢いをつけて砂漠の砂に突き立てた。 すると───ボッゴォンッ!!ドガガガガガァアアアッ!!! 悠介 「どわぁっ!?」 凄まじい地震と、 それに続くようにノームを中心に地震の波のようなものが捌く一帯に広がってゆく。 まるで大地が津波になったみたいだ……凄いな、これは。 などと感心していると、遠くの方でなにやらバカデカい物体が跳ね上がった。 いや、よく見るといろいろな場所で跳ね上がっている。 どうやら砂漠の中に居た生き物が波に押し上げられて吹っ飛んでいるようだった。 は〜……こりゃ本気ですごい───って、感心してる場合じゃなかった。 悠介 「ベリー!ゾーンイーターってのはどれだ!?」 ベリー「は、はう……!はうはう……!!     溶け……?あ、暑い!?……熱い!……?うう、うあぁああん……!!」 悠介 「……あぁもうっ!!熱を適度に遮断する膜が出ます!弾けろ!」 バジュンッ!!───イメージを弾けさせる。 現れた創造物は言葉で放った通りのもので、 即座にイメージを纏める場合は思考と声で響かせた方が紡ぎやすいため創造は完璧だった。 ベリー「はっ……はぅうう……」 熱から解放されたベリーは、 それこそ頭から湯気でも出すんじゃないかっていうくらいの安堵に包まれてへたり込んだ。 悠介 「出てきてくれ、ウンディーネッ!」 頭の中でウンディーネを呼び出すイメージを纏めると、一気に弾いた。 すると水色の指輪からウンディーネが召喚され、俺の傍へ降り立つ。 悠介    「すまないウンディーネ、ベリーに水をぶっかけてやってくれ。        それと、必要な分を飲ませてやってほしい。        こんなことを精霊であるお前に頼むのは申し訳ないんだが───」 ウンディーネ『いいえ……!悠介さまの頼みでしたらなんなりと……!』 呼び出されたことが嬉しかったのかは解らないけど、 顔を赤くしたウンディーネは矛を回転させると水を作り出し、 飽きるほどベリーに浴びせた。 それが終わると今度はベリーの口に水を流し込み、無理矢理に飲ませる。 ベリー「ぶはふっ!?げほっ!げっほげほ!!」 ……あぁ、どうやら鼻に水が入ったらしい。 痛いんだよなぁ……アレ。 ベリー   「な、なにすんのよアンタ……!」 ウンディーネ『悠介さまのご希望通り、あなたにお水を差し上げました。        あなたごときにはもったいないくらいですがね……フンッ』 ベリー   「うぅぅうあぁあっ……!!なんてムカツク精霊ッ……!!」 ウンディーネ『それよりも悠介さま?あちら側に存在するものがゾーンイーターです。        今は衝撃で苦しんでいますが、間も無く砂漠へ潜り込むことでしょう。        見失わない内に、早く───』 悠介    「そ、そっか。助かるよウンディーネ」 ウンディーネ『〜〜……!!いえ……いえ!』 閉じた目の端に光るものを溜めながら、 なにやら顔を赤くしてフルフルと震えるウンディーネ。 えーと、なんていうのか……彰利も感無量とかの時ってよくあんな風にしてたよな。 俺、なにか喜ばれるようなことしたっけ。 いや、今はそれよりも───! 悠介 「ノーム!ウンディーネ!戻ってくれ!」 精霊たちに指輪に戻るように言うと、ベリーの首根っこを引っ掴んで疾駆した。 向かう先は、目に見えてバカデカいイモムシのようなゾーンイーター。 そいつを体勢を変え、モゴモゴと砂漠の中へ潜ろうとしている。  させるか───!! 知らず、そんな言葉が口から漏れた。 砂漠を走る疾駆は本気の本気、 視界が赤に染まるということは真紅眼……死神化か、神魔竜人化しているのかもしれない。 景色はまるで残像の如く過ぎ去り、目の前にはゾーンイーター。 それを確認するや否や右足を大きく振り被り、一気に弾けさせた。  ボゴッチョォオオオオオンッ!!! まるで何かの咆哮のように弾けるゾーンイーターの悲鳴。 振り切った足は砂漠へ消えようとしていたゾーンイーターを いとも簡単に大空へと吹き飛ばし、 やがて重力に逆らうこともなく落ちてくるゾーンイーターの口目掛け、俺は跳躍した。 ベリー「えぇっ!?い、いやぁああああっ!!!」 悠介 「騒ぐなばかっ!聖堂が見つからないんだったら、     もうここしか想像つかないだろうが!!     それともなにか!?ゾーンイーターってのは何匹も居るもんなのか!?」 ベリー「ンなわけないわよぅー!!     だってコレ、わたしが狭界から召喚したものだものー!!」 悠介 「なっ……どうしてお前はそういう無駄なことばっかりするんだたわけっ!!     こいつが居なけりゃもっと簡単に聖堂を見つけられたってことじゃないか!」 ベリー「刺激が欲しかったんだわよぅー!!     歴史書にも載ってるくらいなんだから褒めてよねー!?ってあわぁああっ!!」 ガボォンッ!! ……あーだこーだ言ってる間に、俺達はゾーンイーターの腹の中に納まっていた。 【ケース80:晦悠介(超再)/火の精霊】 コォオオオ……。 悠介 「へぇ……これは……」 ベリー「やー、でっかいでっかい」 ゾーンイーターの腹の中は奇妙な場所だった。 それ自体が洞窟にでもなっているのかと言いたくなるような場所で。 まるで風が通り抜けてる洞窟のように、断続的に『コォオオ』という音が耳に届く。 洞窟みたいな腹の中には砂が随分と溜まっていて、 足元はきちんとした地面のようになっていた。 壁に触れれば溢れる胃液に少し戸惑うものの、 歩いても胃液が溢れず平気な意味は少し解った気がした。 悠介 「とりあえず───奥か?」 ベリー「だろーねぇ。じゃあなにはともあれ行きますか」 ベリーが砂でできた道を闊歩する。 ゾーンイーターは見た目の大きさに比例し、胃袋の中は信じられないくらい大きかった。 胃袋……というより、これは食道と言った方が喩えには容易いか。 言ってみれば、これは無骨なデカイ蛇みたいなものだ。 体全体が胃袋のようになっていて、飲み込んでしまえばあとはゆっくりと溶かすだけ。 けれど足場だけは、飲み込んだ砂の蓄積で地盤となっていた。 さて、俺達はそんな道と呼べるのかも解らない場所を奥へ奥へと歩くわけだが─── 悠介 「ほんとにこんなところに聖堂なんてあるんだおろかなぁ……」 ベリー「だって見てよ、聖堂なんて軽々と飲み込んじゃうくらいの大きさよ?     きっとあるって。大体、ここになかったらどこにあるっていうのよ」 そりゃそうなんだが。 ていうかそれは食われる前にも俺が言った。 悠介 「しかし……進めど進めど景色は同じ感じだな。     なにがあるってわけでもない、砂ばっかりだ」 ベリー「もしかして消化されちゃったとか?」 悠介 「精霊を消化させるモンスターってどんなのだよ……」 ベリー「あはは、そりゃそっか。じゃあ早いとこ聖堂探そ?」 悠介 「それはいいんだが───ひとつ気になることがあるんだ。いいか?」 ベリー「ん?なによ」 悠介 「お前の知識の中に、ゾーンイーターはどんな生物として記録されてる?     たとえばさ、こうやって少し触れただけでも胃液を出すようなヤツだが」 ゴゾリと硬い胃袋の壁に触れると、そこからジワリと胃液が滲みでてくる。 ベリー「そうね、壁に触れる力が強ければ強いほど、比例して胃液を吐くっていうわよ?     でも大丈夫でしょ、だって触れなきゃいいんだもん」 悠介 「……はぁ。あのさ、いろいろ言うけどよく考えてくれよ?     1、俺達は精霊を探しに来た。2、精霊はお前の言うこの胃袋の中に居ると思う。     3、胃袋の中は衝撃に比例した分の胃液を吐く。     4、今までの精霊はどうやって仲間にした?」 ベリー「……あ゙……えっと……」 悠介 「ちょっと胃液に触ってみたんだけどな、塩酸並だぞ?     少し触っただけで指が焼けた。     そんなものが衝撃に比例して出る腹で精霊と戦ってみろ、一発で溶かされるぞ?」 ベリー「ほ、骨は拾ってよね?」 悠介 「拾う骨が残ればな……」 前途はまるで多難だった。 ───……。 ……。 で。ようやくそれっぽいのを発見したわけだが─── ベリー「うあ……石碑が半分以上溶かされちゃってる……」 聖堂と石碑は、その地盤ごと胃液の泉のような場所に沈んでいて、 見る影もないくらいに溶けてしまっていた。 ベリー「ね、悠介……これ無理だよ。     精霊の石碑ってね、その精霊のシンボルみたいなものなの。     だからそれが欠ければ……その、ね。解るでしょ?」 悠介 「“接続、創造神(アクセス、イド)───モード:ルドラ”」 ベリー「え?ちょ、ちょっと悠介?」 深淵へと潜り込む。 意識を内へと埋没させ、 その奥に存在する創造神の手に自分の手を叩き合わせ、意識を交代させる。 ルドラ「───汝の考えは解っている。しばし待てよ、宿主」 意識を交換した刹那、俺の体はルドラの体へと変異した。 長身にキリッとした顔立ちの死神は自分の中を癒しのイメージで満たすとソードに変わり、 聖堂の石碑を直視した上で『分析』を開始した。 もちろん、石碑を消化液の泉から引き上げてからだ。 やがて分析が済むと自分の中を破壊のイメージで満たし、ルドラに変わる。 もちろん破壊のためじゃない。染まるためだ。 ルドラ「その在り方よ、迷うことなく紅蓮に染まれ」 言はそれだけだった。 疲労も消費も無いその創造はあっさりと成功し、 目の前には綺麗な石碑と───そこから現れた火の精霊が。 それを確認するとルドラはさっさと引っ込み、俺に全てを任せた。 悠介 「あっ!こらっ!どうしていっつも勝手に引っ込むんだっ!」 と言っても間に合わない。 既に深淵へと潜り、俺の声を無視するかのように眠りコケやがった。 俺はもう一度叩き起こそうとするが、それよりも早く俺にかかる声があった。 サラマンダー『……お前か。私の石碑を再生したのは』 悠介    「人違いだ」 ベリー   「即答!?」 少なくとも俺じゃない。 だから都合よく俺だなんて言うことは出来ない。 サラマンダー『そうか。些事だ、気にすることでもなかろう。        さて人間よ、左手の指輪を見れば訊ねるまでもないわけだが───        この火の精霊、サラマンダーに何用か』 意外とあっさりした態度で用件を促すサラマンダー。 自分の石碑が直ったことが些事だなんて到底思えないが、 細かいことは気にするなと言いたいようだった。 俺は───その態度からわざわざ遠回しに言う必要もないだろうと判断して、 サラマンダーに真っ直ぐ向き合って言った。 悠介 「『守りたいもの』を『守れるもの』に変えるために、お前の力が欲しい」 数秒の沈黙。 俺の言葉を聞いたサラマンダーの行動は、確かに沈黙だった。 しかしそれも実際に数秒のこと。 小さく敵意をもった眼で俺の眼を射抜くと、ゆっくりと燃え盛る体で構えをとった。 悠介 「……ここでやってもいいのか?って訊くなんてヤボだよな。解った、始めようか」 言って、俺も構えを取る。 ベリーがなにやら喚き始めたが、男と男の勝負に口出しは無用だ。 そしてそれがファンタジーならば余計に。 悠介    「疾ッ!!」 サラマンダー『応ッ!!』 それはなんの合図も無く開始された同時の疾駆。 申し合わせていたとしか思えないくらいの同時の行動に、 俺も相手も驚愕を隠せない顔をしていただろう。 けど、そんなことこそ今は些事だ。 勢いよく振った腕と腕とがぶつかり合い、その場に衝撃を広がせた。 って─── 悠介 「ぐあぁあっ……!?づ……っ!!」 相手は炎に包まれた存在だけあって、触れればそりゃあ熱かった。 だが一瞬で火傷を通り越して焼け爛れた腕を治す間もなく、 サラマンダーの拳は俺へと放たれた。 が───その拳は虚空にて凍りつく。 サラマンダー『ぐぅうっ!!?』 今度は相手が悲鳴を上げる番だった。 俺の魔力じゃあ完全に使いこなすことは出来ないが、 それでもルーゼンに召喚されたフェンリルの真似事くらいは出来た。 つまり───攻撃の際にはダイヤモンドダストカーテンを退かさなければ攻撃は出来ず、 だが逆に攻撃さえしなければカーテンが守ってくれる状態。 俺はフェンリルに感謝しながらイメージを展開し、髪を金、眼を蒼に変異させる。 ようするに、状態を神側に傾けたわけだ。 当然その傾きによる癒しの力は凄まじく、 人間であるよりも死神であるよりも早く傷が塞がってゆく。 が、俺がそうだったように───サラマンダーも凍った己の腕を既に炎へと変えていた。 触れれば砕けるほどの氷結をものともしない炎を扱うその存在に、思わず溜め息が漏れた。 疲れているわけじゃないし、呆れているわけでもない。 それは感心の類に勝る溜め息だった。  ゴォッ───パガァンッ!! そして、再び広がる衝撃。 攻撃をすれば焼け、焼ければ治癒し、治癒されれば再び衝撃を。 その間に俺の身体は神へ変わり死神へ変わりを繰り返す。 普通であればその急激な変化に体がついてこれなくなるところだろうが、 そこは修行の成果というものだ。 瞬時に切り替えが出来るようにと何度も行った変異の修行は、 早くも成功の有無を有りとして見せ付ける。 ベリー「ちょ、ちょっと悠介!?そんなに神魔変換してたら体力が続かな───あれ?     あのー……ちょっと悠介ー?なんでキミそんなに平然と神魔変換できるのー?     普通はそんな一瞬にやったら奇跡の魔法があったって苦しい筈なのよぅー?」 聞こえた声は無視した。 そこからはもう考え無しだ。 相手が素手で来れば殴り合い、炎の棍を出せばこちらは槍を創造して相手をした。 もちろん攻撃を避けること数十回、 行き場を無くした武具が胃袋の壁に突き刺さって大変なことになることも数十回。 胃液に溶かされながらも俺達は戦いを続けた。 ベリー   「あつっ!?ていうか痛いっ!        ちょ、ちょっとー!傍観してる人の身にもなってよー!        大体なんで本気でかかんないのよ悠介ー!!」 サラマンダー『……!?本気を出していないだと!?』 コアッ───ドッパァンッ!! サラマンダー『がはぁっ!!?』 サラマンダーの腹に俺の拳が突き刺さる。 そして凍傷覚悟で腕に巻きつけたダイヤモンドダストカーテンが、 サラマンダーの体に存在する業火を相殺してゆくと、 サラマンダーの力が徐々に失われてゆく。 悠介    「勘違いが無いように言っておくけどな、        本気を出してなかったわけじゃない。        ただ決定的な隙の瞬間を狙ってただけだ」 サラマンダー『くっ……まんまと引っかかってしまったということか……───だが』 体の火が完全に消えたサラマンダーは俺から距離を取ると、もう一度体に業火を纏った。 サラマンダー『ヒートウェイヴ!!』 途端に放たれる炎の波は振るわれた拳から放たれたもの。 砂地である地面を焼き、眼前に迫る熱はサラマンダーを包む炎とは雲泥の差の熱だ。 悠介 「出てきてくれウンディーネ!!」 凶悪な熱を前にイメージを解放、ウンディーネを召喚する。 ウンディーネ『呼応なさい───タイダルウェイヴ!!』 相手が炎の波ならばこちらは水の波。 水は炎を消し、熱は水を蒸発させる。 精霊同士の攻撃だ、どちらが勝つかなど解らない。 だが───常識で考えれば水が炎に負けることなど有り得ない。 熱で水が蒸発するには時間を要するし、 水はなにも一瞬にして蒸発するわけではなく、お湯になったのちに蒸発する。 そこにどれだけ精霊の力が加わろうと、 どちらも精霊なのであれば引けなどとろう筈もない。 火は、炎は、水であろうとお湯であろうと消せるのだ。 ───事実、ヒートウェイヴはタイダルウェイヴによって消され、 さらに波はサラマンダーに襲い掛かる。 しかしサラマンダーは退くどころか波目掛けて疾駆し、己を包む炎の密度を上げた。 悠介 「……?───!」 その意図に気づいた俺はウンディーネを指輪に戻す。 そうした刹那にサラマンダーはタイダルウェイヴを蒸発させ、勢いを止めずに疾駆した。 悠介    「最初のヒートウェイヴはどう転んでも囮だったってことか……!」 サラマンダー『オォオオッ!!』 炎を纏った棍が打突にて放たれた。 俺はそれを焼けることも構わず手で受け止め、捌く。 ───タイダルウェイヴが蒸発してしまった答えは簡単だ。 サラマンダーはおそらく、 最初に俺の指にある指輪を見た時点でウンディーネと契約していることに気づいていた。 そこに放たれた、胃袋ギリギリの幅に放たれたヒートウェイヴ。 それは、俺が無視して突っ切ろうが俺にダメージはあり、 ウンディーネを呼んで水で消しにかかっても結果はそう変わらない。 ヒートウェイヴはタイダルウェイヴによって消されるだろうが、 さっきも考え至ったようにどちらも精霊なのだ。 相性があるとはいえサラマンダーの炎はタイダルウェイヴを極限まで熱し、 結果───次弾にて蒸発させることの出来る状態にした。 あとは眼で見た通りだ。 サラマンダーはあっさりとタイダルウェイヴを蒸発させてみせ、 勢いを殺すことなく疾駆してきた。  ヒュッ───ドボォッ!! 悠介 「ぶぐっ……!?」 今度は俺が体を曲げる番だった。 振るわれた拳は確実に俺の鳩尾を射抜き、内臓を圧迫した。 悠介 「はっ……あ、が……!!」 呼吸停止はほんの数秒。 だがその数秒さえあれば素人にだって攻撃が出来る。 ましてや相手は精霊。 翻した体と、連続に放たれる棍の連撃はまさに息つく暇も無い閃光のような打突だった。 膝、腹、額、喉、人中、肩、腕、様々な箇所を一瞬で打ち抜き、 それでも止まない連撃はまるで、横向きに降り注ぐ豪雨のようだった。 しかしその豪雨は触れた箇所を悉く焼き、痛みは瞬間的な動作を鈍らせた。 反撃しようとすればその痛みに体が勝手に戦慄き、行動が出来ないままに次が降り注ぐ。 サラマンダー『愚か!トドメも刺さぬ内に暢気に会話などしようとするからこうなる!』 サラマンダーの怒声が耳に届く。 が、俺はそれを冷静な思考で受け止めた。 そして呟く。 『そう、思うか?』と。 サラマンダー『なに……?』 サラマンダーの訝しげな表情が視界に移る。 だが先ほどのような油断は無く、棍の豪雨は止まない。 本来攻撃を受け止める筈のダイヤモンドダストカーテンさえも溶かす連撃は確かに悪夢。 だが……それでも俺はしっかりと相手を見るだけの余裕があった。 サラマンダー『貴様。まだ……?』 ───そうだ。 確かに動かすべき場所に打突が来る度にその箇所は数瞬の間だけ行動が取れない。 目の前で手を叩かれれば、解っていたとしても怯んでしまう現象とこれはよく似ている。 人として当たり前の反応だ。 だが。 もとより俺には『構え』なんてものは必要じゃない。 相手が『一撃必殺』を望んでかからない限り、 この連撃は苦痛を乗り切るための小さな痛みでしかない。 ベリー   「……ああ、こりゃ悠介の勝ちだわ。        そうやって相手を動けなくするだけじゃあアナタは悠介には勝てない」 サラマンダー『なに……!?』 ───戦う者の全てがこうであるわけじゃない。 反撃が出来ないのであれば普通ならば戦意を喪失することもあるだろう。 負けを宣告して終わる者も居るかもしれない。 だが、それこそ真実に『構える必要』が無いのであれば─── サラマンダーのこの連撃は意味を成さない。 悠介    「イメージ、解放───」 サラマンダー『───!?』 そう、構える必要なんてない。 相手が『イメージする時間』を与えてくれるのなら、 こんなありがたいことなどないのだから。 悠介 「“三十矢の地槍(みとやのちそう)───」 ゾボガガガガガガァアアッ!!! サラマンダー『げはぁああっ!!?』 悠介    「───ゲイボルグ”」 虚空から現れた無数の槍がサラマンダーの体を蜂の巣まがいにした。 だがそれでも倒れないサラマンダーに、さすがに驚きを隠せない。 サラマンダー『っ……お、のれ……!        それだけの力持っていながら……最初から行使しないなど……!』 悠介    「そうした方が良かったっていうのか?違うだろ。        俺はちゃんと戦った上で、自分の力の範疇を知ってもらいたかった。        俺が欲しいのは守る力であって、         敵だと決め付けてさっさと殺す力じゃない」 サラマンダー『………』 悠介    「だから、お前の力を貸してほしい。俺と契約をしてくれ」 サラマンダー『………』 サラマンダーは何も言わない。 だが顔を俯かせて何かを考えたのち、俺の眼を見て言った。 サラマンダー『答えを言え。お前の力はあれが限界か?』 悠介    「……正直に言えば、違うと思う。        俺は自分の全力がどの程度のものなのか解らないんだ。        確かに思い切り力を出せばそれが全力なのかもしれない。        けど───鍛えればまだまだ上を目指せるのに、        それを全力って言ってしまうのはちょっと違うと思う」 サラマンダー『なんだと……?貴様、その力を持って尚、途上だというのか』 悠介    「生憎と、自分に限界なんて枷は付けてない。        外せる枷は全て外せって言われながら修行してきたんだ。        そもそも───自分より強いヤツが居るとして、        自分はそいつより弱いのに今が限界だって言うのは悔しいだろ」 サラマンダー『……なるほど、それは言えていることだ。        だがそこまで己を強くしてまで守りたいものとはなんだ?        貴様は十分に強いだろう。        竜王をも屠るのであれば、それ以上に望むことなどあるまい』 悠介    「………」 そう。 普通の───地界に存在するものが相手だというのなら、 これ以上の力を欲する行為は意味を為さない。 だが違うのだ。 俺が今救ってやりたい馬鹿野郎は、自分よりも強い相手。 この空界に遙か昔から在り、均衡を守ってきた孤独な黒竜王なのだ。 だから俺は……折れるわけにはいかない。 悠介    「…………黒竜王、ミルハザード……って言えば解ってくれるか?」 サラマンダー『……!?貴様、まさか……』 悠介    「馬鹿な話だって笑ってくれていい。けど決めたことは守りたい。        同じ竜人として、あいつの魂を救ってやりたいんだ。だから───頼む」 サラマンダー『………』 愚考であることなど百も承知。 開き直ったわけでもなく、最初から本気の意思を以ってサラマンダーにそう言い放った。 それを─── サラマンダー『───了解だマスター。私はこれより、汝とともに生きることを望む』 サラマンダーはまるで、最初からそうするのが目的だったかのように頷いて見せた。 『……いいのか?』なんてことは訊かない。 相手がそれを望んでくれたのならば、わざわざ訊き直す必要などないだろう。 悠介 「ああ。これからよろしく」 そう返事をするとサラマンダーは光の球体となり、俺の額に消えていった。 悠介 「……ん」 静かに息を吐いて指を見てみれば、左手の中指に赤色の指輪が現れていた。 ……契約は無事完了した。 ベリー「あー……終わったのよね?だったら言わせてもらうわ。     なんで毎回さっさと竜人化して戦わないわけ?     竜人化しちゃった方がすぐ終わるでしょ」 悠介 「知らん」 ベリー「むごっ!?……次からはさっさとキメちゃってよね。     見てるこっちが落ち着かないわよ」 悠介 「善処はするよ」 とは言うものの───俺は竜人化することに抵抗を感じている。 アレは異常だ。 普通に考えれば有り得ない能力であり、 使い続ければ『自分』が削られていくことに気づいている。 そう、たとえば……ミルハザードが感情に流されるままに暴れてしまうように。 おそらくいつかは溢れ出す破壊衝動を抑えきれなくなるだろう。 だがそれは竜人化を行使し続ければの話。 竜の力を吸収する屠竜剣を手にして、さらに自分も抑えればそんなことにはならない筈だ。 悠介 「……俺の在り方、黄昏の意味……か───」 ソードに言われたことを小さく呟くと、俺は空を見上げ───られなかった。 そういえばまだゾーンイーターの腹の中だったっけ。 悠介 「えーと……どうする?というよりどう出る?」 ベリー「コロがしちゃえば?悠介なら出来るでしょ」 悠介 「あ、あのなぁ……簡単に言うなよな……。     大体これ召喚したのお前なんだろ?制御くらいしろ。たわけ」 ベリー「召喚したものに責任なんて感じないわ。     というより今も世界に散らばるわたしが召喚したコ達を思うと、     毎日大量の魔力が吸われ続けてるのよね。     というわけでベヒーモスとかリヴァイアサンの時みたくコロがして?お願い」 悠介 「自分で召喚したものの責任くらい取れ……頼むから」 ああ、頭痛い……。 けれどもこうして、無尽蔵になんでも喰らう物体を放置するわけにもいかないし─── ああもう、結局やるしかないのかよ……。 なんていうか俺、 彰利にしろベリーにしろ、相手の尻拭いばっかりしてる気がしてきた……。 悠介 「“戦闘開始(セット)”。     イメージ───超越、凌駕にて解放。“架空・雷迅槍(ヴィジャヤ)”───!!」 それでもやる俺は、おそらく馬鹿なんだろう。 そんな自覚とともに手の平サイズの黄昏から雷迅槍を放つ。  ───ビジュンッ……バガガガガァァアアォオオオンッ!!!! ベリー「うぃいっ!!?」 悠介 「っ……!!」 放たれた雷迅槍はゾーンイーターの胃袋に触れると大きく炸裂した。 ただしそれだけでは済まず、 いつかミル・ガーゴイルを仕留めた時のように対象を滅ぼしてゆく。 事実、気づけば俺とベリーは砂漠に広がる大きなクレーターの底に居た。 ベリー「え……え?い、一撃……?」 悠介 「………」 まあ、考える必要性はそう無いが。 ミル・ガーゴイルの時のことを思い起こせば喩えなんてそれで十分だ。 元々破壊のイメージを最大限にまで高めた一撃だ、 ミル・ガーゴイルを一瞬で殲滅したことがあるのなら、他の生命体であろうと同じこと。 問題は戦ってきたヤツらの硬さにあったわけだ。 ドラゴンは鱗が硬いが体内への攻撃には弱いことは、 シュバルドラインとの戦いでよく知っている。 ベリー「……なんか今、悠介の精神を操ってた自分が愚か者に思えたわ……。     悠介さぁ、今のキミなら世界の均衡になれるよ?」 悠介 「興味無い」 ベリー「うおう」 ベリーの提案を一言で斬り捨てると、クレーターになっている砂漠を登っていった。 さて……次は風の精霊だったな……。 今度はちゃんと、聖堂が残ってればいいが─── Next Menu back