───FantasticFantasia-Set36/風の精霊シルフ───
【ケース81:晦悠介(極再)/風の谷のロムスカ】 ビュゴォオオオオオオッ!!!! ベリー「う、うぃい……!!」 悠介 「………」 現在、ハローナル渓谷……という場所らしい。 嫌になるくらいの高さの谷に吹き荒ぶ風は、冒険者の体力を削ってゆく。 ……といっても、削られているのはベリーだけなんだが。 悠介 「どーした〜、ベリ〜。魔女がそんなんでどうするー」 ベリー「平然と歩ける悠介がどうかしてるのよ!!」 ベリーは風に横殴りにされながら、 一歩踏み外せば奈落の底に真ッ逆さまの状況に怯えていた。 俺はそんな風を受けながらも平然と歩いているわけだが…… 悠介 「なんならお前も重力装備するかー?」 ベリー「冗談でしょ!?足が潰れるわよ!!」 そう、俺は吹き飛ばされないように重力装備をしている。 といっても100キロ程度じゃ吹き飛ばされてしまうほどの強風なわけで、 今現在の重量は300は軽く越す。 やっぱりアレだな、日々是鍛錬也。 悠介 「文句ばっかり言うなよ、駄々っ子かお前は。     大体、この渓谷の入り口に転移出来るくせに、     聖堂には行ったことがないからって転移出来なかったのはお前の怠慢だろうが」 ベリー「こんな場所の中の方まで行くヤツが馬鹿なのよ!     強風豪雨の中で傘差すくらいに馬鹿よ!」 悠介 「だったら式か魔導で重力上げればいいだろ」 ベリー「ま、魔女とて女!!自ら重力を増やすことは愚行と知れ!!」 悠介 「落ち着け、そんな説教受ける覚えがまるで無い」 ベリー「黙れ!ともかくわたしはこのままで行くのだ!!     重力など増やしてたまるか!!」 それならそれでべつに構わないんだが……どうして口調が漢らしいんだ? ベリー「負けるものか……負けるものか……!     女にとって、重力を増やすことこそ敗北と知れ……!     必ずこのままで攻略してみせるぞハローナル渓谷……!」 ビヂィッ!! ベリー「うひゃうっ!?     あ、あぁあ〜〜〜〜っ!!目がぁ〜〜〜っ!!目がぁあああ〜〜〜〜っ!!!     ぁあああ〜〜〜〜っ!!目がぁああ〜〜〜〜〜っ!!あぁあ〜〜〜〜っ!!!!」 猛っていたベリーが体を『くの字』に曲げて苦しみだした。 どうやら目の中に砂かなにかが入ったらしいが……ムスカくん、キミは英雄だ。 悠介 「なにやってるんだお前は……って待てぇえっ!!」 目を押さえながらフラフラして、 揺れる吊り橋から落ちそうになったベリーの首根っこを危ないところでムンズと掴む。 お、おお……危ねぇ……!危機一髪だ……! 悠介 「あ、あのなぁ……っ!目に何か入ったくらいで飛ばされるなよ……!?」 ベリー「うう……もうやだー……」 目の痛みから涙を流すベリーは本気で子供っぽかった。 こういう状態のベリーと誰かが初めて会えば、 こいつがエンシェントババアだという事実は誰も気づくまい……。 悠介 「とにかく進むぞ、それでいいな?」 ベリー「えー!?なにー!?」 悠介 「進むぞ!!いいな!?」 ベリー「わ、わかったー!!」 よし、了承は得た。 俺はウムと頷くと、ベリーの首根っこを引っ掴んだまま疾駆した。 ベリー「ゴェエッ!!?」 潰れたカエルのような声は当然無視だ。 なにせ、走るたびに吊り橋がバキベキと折れてゆく。 さすがに300キロ以上の重りは伊達じゃない。 というか…… 悠介 (この渓谷に吊り橋を付けたヤツってある意味偉大だよな……) 吹き荒ぶ風を受けていると流石にそう思わざるをえなかった。 ───ベキャアッ!! 悠介 「へっ?あ、おわぁあああーーーーーっ!!!」 偉大ではあったが修繕はしてなかったところは減点ということで。 どうやら痛んでいたらしい部分を踏み抜き、渓谷の底へと落ちてゆく俺は流石に叫んだ。 もちろん竜人化して飛ぼうとも思ったが……こんな強風の中では飛べそうにないと断じ、 そのまま落下していきましたとさ……。 めでたくもなんともないな、うん。 【ケース81:弦月彰利/闇と黒の葛藤。導き出された簡単な答え】 彰利 「さて、そげなわけで……」 みさお「はあ……」 闇に溶け込んだ黒の中、オイラは正面に座らせたみさおさんに話し掛けていた。 もちろんこれからのオイラの先と、みさおさんのこれからについてだ。 彰利 「ひとまずキミがミルちゃんの幼馴染の来世だってことは確認出来たわけだけどさ。     キミはどうするね?このまま残ってても悠介の助けになれるかは謎じゃよ?」 みさお「…………はぁ」 彰利 「煮え切らん態度やね。キミはなにかね?私を馬鹿にしておるのかね」 みさお「馬鹿にしてるのは彰衛門さんだと思いますけど。     あの、彰衛門さん?そんなに簡単に悠介さんのことをほうっておけるんですか?」 彰利 「ぬ?簡単とな……。     いやまあ確かに簡単に説明すりゃあ簡単に聞こえるんだろうけどね。     あたしゃこれでもしっかり悩みましたさね。     その上で、馬鹿にされることを覚悟しながらキミに話したわけよ。     実際こうして『馬鹿にしてるのは彰衛門さんだと思う』って言われたわけだしさ」 正直みさおさんの目が痛い。 俺は俺なりによく考えた上での覚悟だったわけだが、 みさおさんにとってはそう受け取れなかったらしい。 まあ〜〜……アレだ、 言ってることとこれからやることは全然違うだろうから、誤解も六階も無いが。 みさお「わたし、彰衛門さんは絶対に悠介さんのことをほうっておかないと思ってました。     悠介さんとの親友って間柄を羨ましく思ったこともあります。     だってそうでしょう?     普通に考えたら、悠介さんと彰衛門さんほどの親友関係なんて無いです。     確かに彰衛門さんには幸せになる権利はありますよ。     今のゼットと戦ったら死んでしまう確率の方が高いのも頷けますし、     死ぬのが怖くなってしまった事実も頷けます。     でも───それでも彰衛門さんが悠介さんを二の次にする事実は頷けません」 彰利 「………」 みさおさんの口調には明らかな落胆が感じられる。 落胆と怒りと悲しみか。 そのどれもが俺に向けられたものだ。 ……解ってる。 悠介は俺の未来も守ろうとしてくれてるし、 それなのに俺がそんな親友を二の次にして幸せを優先させることは酷い裏切りだろう。 本当にそうだとしたらだが。 みさお「……彰衛門さん。いつもみたいに『ウソじゃ』でもなんでもいいです。     これ……裏切りなんかじゃないですよね?     彰衛門さんはまだ、悠介さんと親友ですよね?」 彰利 「………」 親友……親友か。 今までは当然のように口に出来た言葉が、どうしてこんなにも胸に刺さるんだろうか。 どうして……胸を張って頷いてやれないんだろうか。 ……それは簡単だ、今ここで頷く必要が無いからだ。 これからヒドイことをするのは確かだし、 それくらいの覚悟は考え事の最中にキメておいた。 みさお「……冗談ですよね……?冗談だって言ってくださいよ……。     だって、悠介さんは彰衛門さんのことを信じて戦ってるんですよ……?     守るものがあるから、信じれるものがあるから戦ってるんですよ……?     それが……一番信じているものに裏切られたりしたら、     悠介さんはどうすればいいんですか……」 彰利 「……知らんよ?」 みさお「え……?」 彰利 「考えてみんさい、いくら親友関係だからって俺は俺、悠介は悠介だ。     いつまでもママゴトみたいに続けてられないし、お前だって言っただろ。     俺には幸せになる権利があるって」 みさお「だからって見捨てるんですか?     確かにゼットには敵わないかもしれませんけど、悠介さんの補助くらいは───」 彰利 「補助?補助ってなんだよ。今の俺が一緒に居たところで邪魔になるだけだろ。     なぁ、解るだろ?もう次元が違うんだよ、俺と悠介じゃあ。     修行した時に解っちまったんだ、俺はもう上を目指せない。     だから闇の精霊にも拒絶されたし、他の精霊にしたって……きっとそうなる」 みさお「そんなことありません。彰衛門さんは強い人です。     強くなれなかったのはちゃんとした意思が無かったからで───」 彰利 「っ……無理なんだよ!!もういいじゃねぇか!     これ以上俺になにをしろっていうんだよ!!     いつもみたいにヘラヘラして悠介の隣に居ろってのか!?     役に立たないって……!役に立てないって解っていながら足引っ張れってのか!?     俺にはもうこんなことくらいしかしてやれねぇんだよ!!     足引っ張らないようにするしかねぇんだよ!!     もううんざりだ!ほうっておいてくれ!!」 みさお「彰衛門さん……」 彰利 「うるせぇ消えろ!!そんなに悠介をなんとかしたけりゃお前が行けばいいだろ!     もう俺に構うな!───行け!行っちまえ!!」 みさお「っ……ば……ばかぁっ!!彰衛門さんのばかぁあっ!!」 キィイイ……バジュンッ!! 明らかな拒絶を見せると、みさおは涙を流しながら闇の中から消えた。 おそらく悠介の気配を探って転移したんだろう。 彰利  「───ハフゥ。んで?いつになったら相手してくれんのよ」 シェイド『……懲りない奴だな。それに意地が悪い。      もう少しスマートに事を運んだらどうだ』 彰利  「生憎と不器用でしてねぇ。      まあアレだ、こんな闇に包まれた場所に居たんじゃみさおのヤツが参っちまう。      それに───俺は俺としてアンタと戦いたい。      悠介と一緒に居る限り、みさおの安全はかなり保証されるわけだし。      俺なんかと一緒に居るよりも笑ってられるだろうさ」 シェイド『……やれやれだ』 彰利  「んで?戦うのか戦わんのか。      一応いろいろ考えて覚悟を決めたつもりなんじゃけど?      やっぱ俺はあいつのためなら幸せなんて二の次だし、      あいつを裏切るなんて天変地異が起きたところで有り得ない。      誰がなんと言おうが、俺はあいつの親友をやめる気は無いんだよ。      格好がどうとかなんて考えた俺が馬鹿だった」 シェイド『───……』 ニパッと笑ってみせると、闇の精霊シェイドも薄っすらと笑ってみせた。 やがて虚空から地面に降り立つと、真紅の眼で俺を射抜く。 シェイド『ひとつ訊ねよう。貴様は黒を背負う者だが、      闇を背負うということがどういうことか理解しているか?』 彰利  「わぁってるよ。伊達に死神の鎌を何個もコピーしてねぇズラ。      幸せから掛け離れたってなんだって、      俺はたったひとりの親友のためならなんにも怖くない。      そこんところはサンクス。闇ン中でいろいろ考えたら理解に至った」 シェイド『───……』 彰利  「あ〜〜〜ん?───って、そっか。      闇の精霊シェイド、俺はお前とともに強くなることを望む。      俺の願いは『親友と一緒に、どんな時でも馬鹿が出来る力』を得ることだ。      頷いてくれるなら、今すぐにでも戦いたい」 シェイド『……いいだろう。我、闇の精霊シェイドの名の下に。      これより貴様が我とともに存在できるほどの強者であるかを審判する』 バキィンッ!! 彰利 「ッ……」 闇の聖堂の空気が凍りつく。 気をしっかり張ってなけりゃ呑まれちまいそうなくらいの殺気が俺を包んだ。 彰利 「───ヘッ、上等───!!」 みさおの安全のためとはいえ、ウソでも親友への裏切りを示した俺には丁度いい戦いだ。 彰利 「一緒に行こうぜ───“無限を刻む真闇の魔人(アンリミテッドブラックオーダー)
”!!」 考える必要なんてなかった。 躊躇する必要だって、もちろんなかった。 思い出そう、そして前を向こう。 あいつは俺の闇も俺の孤独も、俺の苦しみも解ってやるって言ってくれた。 誰が理解できなくても、自分だけは理解してやるって言ってくれた。 だったら───アンリミテッドブラックオーダーを捨てる必要なんて最初から無かった。 俺はこれからも胸を張って、あいつの親友を名乗っていられる。 彰利  「───お前に感謝を。お蔭で自分の在り方を思い出せた。      いっくぜぇえええええっ!!!」 シェイド『来い、人間───!!』 ドッガァアアアアアアンッ!!! 拳と拳がぶつかり合う。 死神化した上に全力で放った拳だったが、砕けたのは俺の拳だけだった。 彰利 「───!ははっ……!」 それでもその痛みが───こんなにも嬉しい。 大丈夫、意思さえ捨てなければ……まだまだ俺はあいつの隣で馬鹿をやれる。 その事実が嬉しくて、俺は回復することも忘れてシェイドに向かっていった。 ───……。 で、ボッコボコにノされました。 彰利  「グビグビ……」 シェイド『……口ほどにもないな、貴様……』 本気で呆れた声を贈られました。 なんかもうマジで泣きたくなるくらいの口調で。 彰利 「ノゥッ!!俺の実力はまだまだこんなもんじゃあねぇ〜〜〜っ!!     見せてやるぜ───修行の中で手に入れた『死神』の究極系!!     “無形なる黒闇(ダークマター)!モード───死神の骨子(デスサイス)!!”」 後悔潰しの時に得たヒントを素に辿り着いた、俺にしか出来ない究極をここに。 ダークマターにて“無制限なり我が漆黒の鎌(アンリミテッドブラックオーダー)”を解放。 今までコピーした鎌の全てを出現させ、 その全てを通常一本しか存在しない死神の骨子とする。 シェイド『……つくづく愚かしいな。それだけの努力が出来るというのに、      何故上を目指そうと真に願わなかった』 彰利  「……正直に言っちまえば、男として悠介の強さに嫉妬してた。      けど俺には神魔の素質も無ければ竜の力も無い。      そこには大きな限界の壁があったんだ、諦めちまうのは簡単だった。      でもそれじゃあダメだってこの闇が教えてくれた。      知ってるか?人間ってな、困難を乗り越えられるように出来てるんだ。      壁にぶつかっちまったんならゆっくりと登っていけばいい。      その壁を登るためならどんな道具を使ってもいいって思えるなら、      諦めさえしなければきっと登れるって信じてる。      そして───あいつが居たからこそ、      生きることを放棄しなかった自分の人生を信じてる───!!」 景色が黒に染まる。 闇と黒───色は同じなのに、それはまったく違う存在だった。 いや……違うか。 近しいからこそ、混ざり合おうとするからこそ自分の意思で弾く。 似ているからこそどちらかが劣ることを認めることが出来ないことと酷似している。 彰利 「手加減するなよ……。アンタには俺の覚悟を受け止めてもらう」 言って、異翔転移を行使して剣を手に取る。 シェイド『その剣───月操剣ルナカオスか』 彰利  「そうだ。冥月刀は───みさおはもう二度と武器として扱わない。      それにやっぱ……ファンタジーっつったら刀より剣だろ」 剣に力を送り、輝かせる。 輝きといっても黒の光だ、闇を照らすには不恰好だが───それでいい。 シェイド『全力で抗え。今の貴様の目は嫌いではない』 彰利  「……そっか。こう言うのも変だけど……サンキュ」 眼を閉じて感謝すると、俺はシェイドに向かって飛翔した。 死神の理は我が(うち)に。 全力を以って抗おう。 俺が、あいつの親友であるために───!! 【ケース82:晦悠介/落下する生命……略して落下生(らっかせい)】 ゴォオオオオオオオッ!!! 悠介 「あああああああっ!!!!」 ベリー「あーーっ!!あああぁああーーーーーーっ!!!!」 ビジュンッ─── みさお「あ……あぁっ!?あぁあああああっ!!!!」 悠介 「あぁあーーーっ!!?あぁああああーーーーっ!!!!!」 ベリー「あぁああああああああっ!!!!」 現在、あらん限りの絶叫とともに落下中。 そんな時に転移してきたみさお───だったが、やっぱり落下すると叫んだ。 『どうしてここに』とかいろいろ訊きたかったがそんな余裕なぞ無かった。 ただ落下するだけならよかったんだが、吹き荒ぶ風の所為で落下位置が確定出来ないのだ。 流石にこの高さから落ちたら一溜まりも無いと思った俺は、 既に重力を解除してあるわけだが───まあ、だからこそ飛ばされている。 悠介 「だぁっ!!」 みさお「うわゎっ!!」 離されそうになったみさおの首根っこを空いている手で掴み、手繰り寄せる。 悠介 「だ、大丈夫かみさお!」 みさお「えぇっ!?なんですか!?」 悠介 「大丈夫かみさお!」 みさお「あ、は、はい!大丈夫です!!」 安全は確認した。 相変わらずの強風の所為で声は聞き取りにくいが、大丈夫というのなら安心だ。 安心だが───この状況をどうしたものか。 悠介 「んー……───!」 吹き飛ばされながらも、眼を凝らしていたお蔭と言えるだろうか。 ともかく洞穴を見つけた俺はイメージを展開し、ブラックホール転移を行使した。 ───……。 ……。 みさお「はっ……はぁ……!い、息しづらかったです……!」 ベリー「まったくよ……!風ってちっともやさしくない……」 洞穴に転移してから耳にした言葉は風に対しての文句ばかりだった。 平和だな、まったく。 悠介 「で、どうしてここに来たんだみさお。彰利はどうした?」 みさお「む……知りませんあんな人」 悠介 「そか、じゃあ一緒に行動するって方向でいいんだな?」 みさお「……あの、悠介さん?こういう場合って普通、     『どうして知らないなんて言うんだ』とか言いませんか?」 悠介 「それなりの事情があるんだろ?言いたくなったら言えばいい」 みさお「うあ……知りたがらない人って珍しいです……」 そう言って、まるで珍獣を見るような目で俺を見るみさお。 ……勘弁してくれ。 みさお「あ、あの……悠介さん。     もし……彰衛門さんが戦うことを放棄して、     自分だけ幸せを手に入れようとしてたとしたらどうしますか?」 悠介 「応援する」(キッパリ) みさお「え───」 突然の質問に即答で答えた。 みさおは驚愕の表情のまま固まってしまったが、そんなの応援するに決まってる。 悠介 「あいつはもう十分に苦しんだ。     他の誰か───天地空間全ての人に幸せになる権利があるかって言われたら     それは解らないけどな、あいつには絶対に幸せになる権利があるよ。     他の誰が認めなくても俺は認める。だから責めたりもしないし、逆に応援する」 みさお「で、でも!悠介さんが戦うのに彰衛門さんは戦わないんですよ!?     そんなのってあんまりじゃないですか!おかしいですよ!」 悠介 「そんなのはな、おあいこなんだよみさお。     俺だってゼノとの戦いでは役に立てなかった。     あいつが苦しんでいた時、俺は暢気に平和な日常の中に居たんだ。     どんな犠牲の上でその平和があったかも知らないで、俺はのうのうと生きていた。     だから、な。今度は俺の番だ。今度は俺が、あいつの未来を守る番。     もちろんそういう恩返しの気持ちもだけど、     なによりも親友としてあいつに幸せになってもらいたい。それが俺の願いだ」 みさお「………」 俺の言葉を聞いたみさおは、ただ悲しそうに俯いた。 俺はそんなみさおの頭にやさしく手を乗せて、ゆっくりと撫でてやった。 みさお「あ……悠介さん……?」 悠介 「彰利が戦いを放棄するって言ったのか?」 みさお「……はい。もう解放されてもいいだろう、って……。     俺じゃあ悠介の役には立てないからって……」 悠介 「───……お前さ、それ絶対騙されたぞ?」 みさお「───え?」 小さく震え始めた肩がピタッと止まった。 込み上げてきていたらしい嗚咽も絶句に堰き止められ、やがて飲み込まれる。 みさお「だ、だまっ……?だって彰衛門さん、凄い剣幕で……!!」 悠介 「自惚れみたいに聞こえて嫌なんだが……     あいつが俺を裏切るとかいうのは有り得ない。     俺だってそうだし、あいつの場合は俺以上の筋金入りの馬鹿野郎だ。     どういう経緯でそんなことになったのかは知らないが、今頃飄々としてるぞ」 みさお「そ、そんなの嘘です!     だってあんなに真剣な彰衛門さん、わたし見たことありません!」 悠介 「………」 真剣ねぇ……。 けどまあ、今の言葉でみさおがどういう目で彰利を見てたのかがよく解ったな。 まあそれはそれとして。 悠介 「彰利のヤツ、今何処でなにやってるんだ?」 みさお「え?えっと……ロジアーテ鍾乳洞っていうところで、     闇の精霊シェイドと対面してると思います……」 悠介 「闇の精霊……あ〜……なるほど。そういえばベリーも言ってたな、     ツンツン頭が黒だから闇が欲しいだのどうのこうのって」 ベリー「忘れてたの?」 悠介 「ああ、容赦無く」 ベリー「うーわー、ヒドい言い方」 がっくりと肩を落とすベリー。 う〜む、そういう様子を見ても罪悪感を感じないのが不思議だ。 悠介 「で、ベリー的にどう思う?     お前の予想とは違って、一応彰利はシェイドと対面出来てるらしいけど」 ベリー「む……そうね、それは確かに予想外。     で、確かツンツン頭の能力って『黒』なのよね?」 悠介 「そうだな、黒だ。それがどうかしたのか?」 ベリー「ん〜……ツンツン頭を弁護するみたいで嫌だけどさ、     そっちの小娘……みさおって言ったっけ?キミってここに来て正解だったわよ?」 みさお「え……どうしてですか?」 突然話を振られたみさおは少し狼狽えながら訊き返した。 対してベリーは小さく息を吐くと腕を胸の前で組み、答えを言う。 ベリー「あのね、黒や闇っていうのは人にはやさしくないものよ。     それこそ子供の頃から慣れているとかならいいけど、     半端な経験者がその場に居れば精神に異常を起こすわ。     真っ暗で何も見えない場所に閉じ込められれば、     余程精神の強い人じゃない限りまいっちゃうのと同じね」 悠介 「……なるほど、相手は闇で彰利は黒だ。     どっちでもないみさおには毒でしかないってことか」 みさお「な……なんですかそれ。じゃあ彰衛門さんは……」 悠介 「言ったろ?あいつは俺を裏切ったりしない。     口ではどうとでも言うヤツかもしれないけど、基本骨子が馬鹿なんだから。     多分自分と居るよりも俺と一緒に居る方が安全だって思ったんだろ。     しかも正攻法で言ったんじゃあお前は納得して俺の所に来たりはしない。     だったらあとはそういう方法しかなかったんじゃないか?」 みさお「う……そ、そんなの言ってみなくちゃ解らないじゃないですか!     わたしはそういうことならきっと納得して───」 悠介 「いや〜……無理だろ。お前の性格って椛に似すぎてるからな。     それ考えれば、あいつがそういう方法とったのも頷ける。     椛の前々々世の頃に親代わりやってたあいつなら、     お前がどういう反応するかが解ってたんだろ」 みさお「うぐ……」 閉口、そして沈黙。 いろいろ考えてみたようだが、自分がどういう反応を示すかが解ってしまったらしい。 悠介 「気にするな。     俺もお前も、あいつのことを思えば素直に引き下がれるような性格してない。     俺は俺のことをダシにした追い出し方をしたことを怒ったりなんかしてないし、     逆にお前がそうやって怒ってくれたことを嬉しいって思ってる。     だから、な?そう落ち込むな」 みさお「悠介さん……」 ベリー「………………ねぇ悠介?     わたし多分、その真っ赤な顔が無ければその言葉がいい言葉に聞こえたと思う」 みさお「え?あ……わっ!?ゆ、悠介さん!?顔真っ赤ですよ!?どうしたんですか!?」 悠介 「〜〜〜っ……ぐああああああっ!!!やっぱダメだ!!慰めるのは苦手だ!!     こんなこと平然と出来るあいつはバケモンか!?」 恥ずかしさに耐え切れなくなった俺は頭をワシャワシャと掻き乱してソッポを向いた。 子供を慰めることに抵抗があるのは相変わらず。 顔が灼熱していることを感じすぎている俺は、 誰とも顔を合わせないようにするしかなかった。 ベリー「……意外なところに弱点ってあるものよね〜……。     なに悠介、キミってどういう風に自分の子供と付き合ってきたの?」 悠介 「ど、どうでもいい……わけない。ルナに任せきりだった……としか言えない」 ベリー「うわっ、放任オヤジだったんだ悠介!モミアゲがセクシーなくせに!」 悠介 「モミアゲ関係ねぇ!!オヤジ言うな!!」 ベリー「や〜……悠介って叩けばたくさん埃が出るよね〜。     なに?もしかして悠介ってば『強さと弱点は表裏一体』系のヒト?」 悠介 「やかましい!!」 ベリー「うっふっふ……これは思わぬ弱みを握っちゃった気分だわ……!     ね〜ぇ悠介?この弱みを国民に暴露されたくなければわたしの言うことを」 グワシィッ!! ベリー「ペイッ!?」 悠介 「わたしの言うことを……なんだ?」 ベリー「うわわちょっとタンマ!!やめて力込めないで!     ていうか何気に悠介ってアイアンクロー好きよね!?」 戯言を言いかけたベリーの顔を片手で掴んだ状態のまま、ゆっくりと持ち上げてゆく。 するとコキコキと小気味のいい音が鳴り─── ベリー「おごごわぁあああーーーーっ!!!ちょっ!やっ!ぐおおおおっ!!」 ベリーが苦しみだした。 悠介 「面白いなぁあああお前……!!     人が告白した事実をそのまま脅迫のネタに使うか……!?     解ってないようなら何度でも言ってやる……!俺はなぁぁああ……!!     人の弱みに付け込んで卑怯な企みごとをするヤツが大嫌いなんだよ……!!」 メキメキメキメキ……!! ベリー「うゎだいだだだだっ!!ごめごめんなさぐああっ!!!」 みさお「うわわ悠介さん!それ本当に痛いからやめてあげてください!     シャレになってませんって!」 悠介 「当たり前だ!真面目にやってるんだからシャレなんかじゃない!」 みさお「余計にやめてください!!」 悠介 「いや、さすがに今のは冗談だ」 パッと手を離すとベリーが大地に着地する。 必死に首をさするのは首を痛めた証拠だろう。 ベリー「うぐぐ……あ、あのさぁ悠介?     もうちょっと、もうちょっとでいいからわたしにやさしく出来ない?」 悠介 「不可能だ」 ベリー「うわぁ断言しちゃったよこの人!!なにキミ鬼神!?」 悠介 「やかぁしい、さっさと先に進もう。こんなところでグズグズしてる暇はないだろ」 ベリー「暇が無いっていうならのんびり行けばいいじゃないのさ。     そんなすぐにミルちゃんと戦うわけじゃないでしょ」 悠介 「たわけでアホゥ。     精霊と契約したあと、一緒に修行する必要があることを忘れるなよ。     明日までにいろいろやっておかなきゃならんのだ、急ぐ必要は十分ある」 ベリー「明日って……あのさぁ悠介?     キミが明日ミルちゃんと戦うっていうならべつに……良くは無いと思うけどさ、     せめて一日くらい伸ばさない?疲れ取れないよ?」 悠介 「なんとかなる、どうにかする。先を急ごう」 ベリー「うう……精霊集めるなんて提案、するんじゃなかったかも……」 がっくりと項垂れるベリーを促し、洞穴から外を見る。 ……一歩先には、進めばあっさりと空の旅に飛翔出来そうな景色が広がっていた。 みさお「あ、あの……悠介さんも精霊を探してるんですか?」 悠介 「ああ。今のところ地、水、火の精霊と契約してある。     ちなみに……って、言うまでもなく解ってると思うけど、     今は風の精霊に会おうとしてるとこだ」 みさお「うわ……もうそんなに……?」 悠介 「ああ、まあその……ベリーの話だと、     四大元素の精霊から契約していった方がいいらしいから」 みさお「……?どうして四大元素から契約した方がいいんですか?」 ベリー「いい質問よ!」 みさお「わひゃっ!?」 項垂れていたベリーが割り込んできた。 ……どうやらもう復活したらしい。 ベリー「精霊は根源精霊、大精霊、高位精霊で大きく分けられていて、地水火風、つまり四     大元素の精霊はその根源精霊にあたって、次に言う大精霊っていうのが光と闇。高     位精霊っていうのが自然や無に属するニンフやスピリットオブノート。ようするに     順序も考えんと四大元素のひとりとも契約してない馬鹿者なんぞが大精霊である闇     の精霊と戦うなんて本気の本気で馬鹿野郎っていうわけでね?つくづくツンツン頭     の頭の悪さが頭に浮かぶわけよ。解る?普通戦えば負けは確実なわけ。そこんとこ     行くと悠介の場合は四大元素と契約してから挑むわけだから、少しは保護された状     態で戦えるわけ。もしツンツン頭がシェイドと戦ってるならボコられて終わりね」 悠介 「……?雷の精霊はどうなるんだ?」 ベリー「あれも根源精霊。地水火風の精霊よりは1ランク上って感じね。ほら、例えば自然     現象とかにもそれぞれの呼び方ってあるでしょ?『強い火』を『炎』って呼んだり     『水が固まった物』を『氷』って呼んだり。つまりはそういうことよ。雷の精霊の     他には氷の精霊っていうのも居るんだけどね、残念ながら空界には居ないわ」 みさお「…………説明好きって居るものですねぇ……」 悠介 「一発で理解に至られるのも、ある意味才能だな……さすがはエンシェントババア」 ベリー「むっ!?ちょっと悠介!?悠介だっていずれは三千年生きるんだからね!?     わたしをそんな風に呼ぶと後悔するわよぅ!?     未来においてエンシェントジジイって呼ぶわよぅ!?」 悠介 「お前さ、その時が来たら自分こそ本気で     エンシェントババアになってるって予想、出来てるのか?」 ベリー「!?」 あ……今、ザグシャア!って音が聞こえた。 心に何かが刺さったような擬音だな……。 ベリー「エ……エンシェント……うががが……」 悠介 「じゃあみさお、こいつのことは忘れて先に進もうか。     先って言っても何処が聖堂なのか解ったもんじゃないが」 みさお「……迷ってたんですか?」 悠介 「ああ、思いっきり。困ったことに聖堂に辿り着けた前例が無い。     契約した前例はあるものの、聖堂に辿り着けたってヤツは居ないみたいだ」 みさお「うあ……」 だったらどうやって契約したんだって話だが、 渓谷を自由気ままに浮遊していたシルフを打倒して契約したのだそうだ。 だから実質、聖堂を見た者は居ないらしい。 まあ……この風だしな、じっくり探せってのは無茶な話だ。 みさお「あ、じゃあまずこの洞穴の奥を調べてみたらどうですか?     まだ行ってませんよね?」 悠介 「ん───そうだな、そういえばまだだった」 考えてみればこの洞穴自体、吊り橋とは離れた場所にあった。 洞穴の外は一歩出れば崖。 となれば……───なんだ、本当にここなのかもしれない。 悠介 「よし、じゃあ行くか」 みさお「はい」 ベリー「御意」 悠介 「彰利みたいな言い方するなよ……」 ベリー「それは先入観ってものよ。悠介の身近の人がそれを言ったからといって、     わたしがその人の真似をしているとは限らないわけ。     つまり目が痛かったから目が〜目が〜って言ったって、     ムスカくんの真似してたわけじゃないわよ」 悠介 「どこからそういう知識を持ってくるんだかなぁお前は」 ベリー「悠介とツンツン頭のデータから。     ほら、一度わたしの工房でパーソナルデータ読み込んだでしょ?」 悠介 「行こうか、みさお」 みさお「そうですね」 ベリー「あ、やっ……ちょっと待ってぇ!!無視するなんてヒドイわよ〜!!」 泣き付いてこようとしたベリーを直感のみでサッと避け、 俺はみさおの手を引いてズンズンと歩いていった。 ……ちなみに直感のみで避けられたベリーは相当悲しそうな声で俺に罵声を飛ばした。 やかましいことこの上無かった。 【ケース83:晦悠介(再)/風の精霊】 コォッ─── 悠介 「っと……!?」 みさお「あ……」 ベリー「あれぇ!?」 狭い通路から広い場所に続く部分に圧縮された風が展開された。 結果───俺と、みさおとベリーは隔離された。 みさお「えと……これって……」 ベリー「ちょっとぉっ!用の無いヤツは入ってくるなってことぉっ!?」 開けた場所に入ることが出来なかったふたりは戸惑っていた……特にベリー。 俺は少々苦笑しながら前に向き直ると、中央よりやや奥にあるもの───石碑を見た。  ゴォッ!───ォオオゥウウン……!! 途端、石碑の上部に風が集まり、人の形を取ってゆく。 やがて現れた存在は……女性の姿をした者だった。 女性 『……強者よ。我が聖堂に如何なる用か』 真っ直ぐな目が俺を睨んだ。 俺はその目を真っ直ぐに見つめ返すと、きっぱりと答えてやった。 悠介 「精霊シルフと見受ける。     守りたいものを守れるものにするためにお前の力が欲しい」 シルフ『───いいだろう、わたしに勝つことが出来れば頷くとしよう。     ただし最初から全力で来い。手加減するのもされるのも苦手だ』 悠介 「……了解。準備はいいな?」 シルフ『気にするな、とうに始まっている』 その言葉に笑顔で応え、神魔、竜人を開放する。 すると一気に染まる髪と目、そして生える角と翼。 悠介 「はぁ───っ!!」 バガァンッ!!───地面を爆発させるかのような疾駆。 一気に間合いを詰めた俺は手加減無しの拳を振るい───ドフゥッ……!! 悠介 「───!?なっ……」 その拳が虚空で停止する。 い、いや……停止させられた。 これは───風の壁!? シルフ『馬鹿げた速さだがな。事前に対処法を張っていればどうということもない』 言った途端、俺の周りに風が凝縮された。 ヤバイ───そう思い、身を引いた時には遅かった。 圧縮された風は矢と化し、幾つもの目に見えない武器となって俺を襲う───!! シルフ『突き穿て乱風。“───風臨烈空刃(エアリアルアロー)”』 ヒンッ───ゾボガガガガガガァッ!!!! 悠介 「くあっ!?ぎっ……あぁあっ!!」 無数の見えない鏃が俺の体を穿ち、裂き、削り取った。 時間にしてみれば秒にも至らぬ刹那─── 俺の体からは鮮血が噴き出し、信じられないくらいのダメージを負わせた。 悠介 「あ……ぐ、……!」 これは……困った。 ゲイボルグを喰らったサラマンダーの気分って、多分こういうものだ。 あちこちに痛みが走って、体を動かす意識に集中出来ない。 体中は傷だらけであり、血が流れる度に意識が薄れてゆく。 悠介 「くっそ……───くうっ!?」 このままじゃ戦えないと思った俺は回復のイメージを展開するが、 休む間もなく放たれた風の刃が俺の頬を斬り裂いて消えてゆく。 悠介 「こんのっ……竹槍が出ますっ!捻り穿て!“螺旋は在りしを突き穿つ(スパイラル・エア)”!!」 久しぶりに竹槍を創造、言とともに一気に放つ───!! シルフ『斬り弾け疾風。“風塵剣(エアブレード)”』 ゾフィンッ!!───だが、放った螺旋槍は同じく放たれた風の刃によって真っ二つ。 さらに放たれた鎌鼬の密集によって塵になるまで刻まれた。 悠介 「……っ」 まいった、こいつは相当だ。 本当に全力で向かわない限りは抵抗にもならない大自然現象の具現が目の前に居る。 悠介 「“伎装弓術(レンジ/アロー)!ガトリングブラストォッ”!!」 ヒィイイン───ガチュチュチュチュチュチュチュゥウウウウウウンッ!!!! 抜き去った屠竜剣を弓に変えると、ガトリングブラストを高速連射で弾き放つ。 彰利でさえ全力で逃走した光はしかし、悠然に構えたシルフの前に─── シルフ『捻じ曲がれ直線。“弧曲螺旋風(エアリアルリフレクス)”』 展開した竜巻にて、その全てを……だぁああっ!?方向転換させて返してきやがった!! 悠介 「チィッ───っ!?」 それを跳躍することでかわすが、その跳躍した先の頭上に既にシルフは居た。 シルフ『詰めたぞ───捻り殺せ旋風。“風塵旋風刃(サイクロン)”』 静かに構えられた手からそれぞれ、左方向に回る風と右方向に回る風が人束に放たれた。 つまり───先に放たれた竜巻が引き込む竜巻であり、後に放たれた竜巻が弾く竜巻。 気づいた時には俺の体は竜巻に巻き込まれ、 凄まじい回転に襲われた先で弾く竜巻に飲まれる。 途端、上半身が弾かれようとされ、 だが下半身は未だに吸い込む竜巻に巻き込まれているために体が逆方向に捻られてゆく。 悠介 「かはっ!?ぐ、あぁあっ!あ、が……!あ……あぁああああああっ!!!」 そのままでは確実に上半身と下半身が捻り分けられると判断した俺は、 圧縮した空気を創造───その中に火を創造して爆発を起こし、竜巻を破壊した。 シルフ『なかなかやる。竜の力を持つとはいえ、人であるのに大したものだ』 悠介 「っ…………!」 大したことなんてあるもんか……こいつ、本気で強い。 相性の問題もあるんだろうが、それでも強い。 シルフ『だが落胆させてくれるな竜人。わたしは【本気で来い】と言った筈だ。     全力を出さずに負けるのは貴様の望むところではあるまい』 悠介 「………」 それは───そうだ。 全力も出さずに負けるのは馬鹿な行為だ。 だったら全力で行けばいい。 強者に性別の云々なんて関係───あるだろ普通! シルフ『……?どうした、何故かかってこない』 悠介 「アホかぁっ!!女相手に本気の戦いなんてやっぱり出来っこないわぁっ!!」 ベリー「ちょっ……なによそれー!それがわたしにメガフレア放ったヤツの言葉ー!?」 悠介 「黙ってろ外野ッ!!」 ベリー「ひゃああごめんなさいっ!!」 ───と、外野は黙らせたが……目の前の敵は納得してはくれなさそうだった。 シルフ『ふざけるな。強者に性別の云々など関係ない。     それとも貴様は相手が女性であり強者である場合、     守りたいものを放棄してまで死するというのか』 悠介 「───」 確かにそれはあってはならないことだ。 考えるまでもない、なにをやってるんだ俺は……。 悠介 「……解った、覚悟決める。恨みっこ無しだ」 シルフ『姑息な手を使われようと油断した者が悪い。     命の遣り取りをしているのだ。こと戦いにおいて、姑息という言葉は必要ない』 悠介 「そうだな。その言葉聞いて安心した。───“伎装剣術(レンジ/ブレイク)”」 言って、集中を開始する。 視ろ……その目を以って、目の前にある全てを。 悠介 「疾ッ!」 吹き荒れる風へと疾駆する。 その行動を見たシルフは構え、再び風を圧縮させる。 ───構わない、予測済みだ。 悠介 「“天地斬離剣(エア)───”!!」 手の平に創造した黄昏から乖離剣を引き出す。 さらに意識を集中。剣に『意味』を重ねてゆく。 悠介 「“創世、是即ち乖離也(エストランジメント)”!!」 そうだ……難しく考える必要なんてない。 姑息がどうとか恨みっこはなしだとか、そんなことは既に相手から見た俺の中に存在する。 創造の理力───誰もが持ち得ない、『最高の例外』を俺は行使しているのだから。  ヒュオッ───ゾフィィイイイインッ!!!! 下から上へ弧を描く軌道が風の膜を世界から斬り離す。 途端に前へ進みづらかった体が弾け、勢いを付けた分の前進を開始する。 シルフ『捻り潰せ圧風。“風神息吹(ゴッドブレス)”』 バッガァンッ!! 悠介 「───うぎぃっ!?あ、ぐはっ……!」 だが『詰めた』と確信した俺の頭上から振り注ぐ高圧縮の風が、俺を大地に沈ませた。 だが進む。それでも進む。 シルフ『……?大した我慢強さだ。この風の圧力の中を歩くか』 悠介 「歩く……?冗談だろ───」 ボゴォンッ!!───頭上から降りかかる風の圧力の中、俺は疾駆した。 シルフ『───馬……鹿な……有り得ない……。この風の中を……?』 悠介 「生憎とっ……!『上から圧し掛かる力』には慣れてるんでねっ!!……そこっ!」 予測とともに左へ跳躍する。 次の瞬間には俺が立っていた場所に風の矢が降り注ぎ、岩盤を砕いていった。 シルフ『……解せない。どういうことだ、貴様……予知でも出来ると───?』 そんなものは出来やしない。 ただ俺は、先を『予測』しているだけにすぎない。 イーグルアイ───グリフォンの瞳を宿したこの目で。 悠介 「はぁっ!!」 ゾフィインッ!!!! シルフ『っ』 展開されたばかりの風の壁を世界から斬り離す。 相手は既に眼前。 だが油断することもなく、イーグルアイで視ることで先を予測する。 ───鷹の目、千里眼とも云える能力は行動の一歩先を俺の視界に移し、次の行動を促す。 だがそれはあくまで『予測』であり、俺が一歩先の相手の行動に反応したとしても、 相手がその俺の行動に反応できる限りはこの能力はやはり予知ではなく予測の範疇だ。 さらに言えばこれはソードで言う『分析』と同じで、 『俺の自身の能力』ではないために消費が存在する。 正直先を視るたびに目が軋み、赤である視界がより赤く染まっていっている。 悠介 「ッ───おぉおおっ!!」 ゾフィィインッ!! シルフ『あ───』 やがて、手を伸ばせば届く距離で───恐らく最後であろう風の壁を斬り離した。 即座に手を伸ばすとシルフの顔面を鷲掴み、一度振り上げたのちに一気に───! 悠介 「オォオオラァアッ!!!」 バゴシャァッ!! シルフ『ぐぅあぁっ───、……』 岩である地面に遠慮無しに叩きつけた。 そうすると、この場所を包んでいた風は治まり─── 出入り口に展開されていた風も消え去った。 悠介 「あ……あ〜……おい、無事か?」 さすがに神魔竜人状態でコレはやりすぎたか……? なんていうかピクリとも動かないんだが……。 ベリー「……あのー、悠介?終わったのよね?」 悠介 「………」 みさお「……あの。その精霊さん生きてます?ピクリとも動かないんですけど……」 悠介 「………」 困った……これは困ったぞ。 手荒なことはしないようにって順序を追って近づいて捕まえたのに、 最後の最後で最大のポカをやらかした。 近づくまで苦労した分、掴んだ瞬間に気が昂ぶっちまった。 思い切り、とまではいかなかったものの、相当な力で叩き付けちまった……しかも岩盤に。 みさお「うわ……見事なクレーターですね……。     相手を掴んで叩きつけるだけでクレーター作るなんて、     ブロリーじゃなきゃできませんよ……?」 悠介 「どうして喩えが真っ先にブロリーになるかな……」 ベリー「それよりも悠介、また訊くけどさ。     どうして竜人化したのにさっさとキメないの?     竜人化した状態なら精霊の風くらい突き抜けられたでしょ」 悠介 「……お前さ、精霊と戦い終わったあと、説教しなきゃ気が済まないのか?」 ベリー「効率問題でしょ?時間が無いとか言いながら、     そんなのんびりした戦い方してていいの?」 悠介 「……はぁ」 頭をコリコリと掻いてから状態を元に戻した。 髪は黒に戻り、視界も元に戻り───角と尾も引っ込む。 ベリー「悠介だって男の子なら解るっしょー?     戦人にとって、手加減されることは屈辱よ。     それは精霊だって同じだし、男だって女だって同じ。     悠介のそれ、悠介やツンツン頭が嫌ってる『差別』と似たようなものよ?」 悠介 「んー……頭では解ってるんだ。     解ってるんだけどな、いざ前にするとどうにもこう……難しいんだよ、思うより」 ベリー「相手が手加減するなって言ってんのになんだって手加減する必要があるのよ。     シルちゃん、絶対に納得なんてしてないわよ?」 悠介 「……思ったんだが。お前さ、精霊に愛称つけるのも好きなのか?」 ベリー「だってそのまま呼んだら長ったらしいじゃない。     特にウンディーネとサラマンダーは」 悠介 「シルフは一文字足りないだけだろうが……。     長ったらしくもないのに略してどうする」 ベリー「じゃあ長ったらしい名前の精霊はいいのよね?     ウンディーネはディーで、サラマンダーは……愛人(ラ・マン)!!」 ボッゴォオンッ!!! ベリー「しぎゃああああーーーーーーっ!!!!!」 悠介 「ああっ!呼び出してもいないの火の指輪から炎が!!」 ベリー「あちゃちゃちゃちゃ!!うわちゃああーーーーっ!!!」 ───……。 ……。 ……で、ベリーが灼熱のファイヤーダンスをしばらく披露したのち、 シルフはゆっくりと目を覚ました。 まあ、開口一番が『……うるさい』だったけど。 シルフ『……負けたんだな、わたしは』 ベリー「わたしは燃えたけどね」 悠介 「ラ・マン言われりゃ燃やされるわ」 かなり当然だと思う。 シルフ『解った、いいだろう。お前とともに頂を目指すことをここに約束する。     ……ひとりでわたしに勝つ者が現れるとは思わなかった。     お前とならより一層上を目指せるだろう。退屈させるなよ、マスター』 悠介 「へ?あ、おいっ───」 言いたいことだけ言うと、シルフは光になって俺の額に消えていった。 それと同時に左手の小指に薄い緑色の指輪が出現する。 ベリー「……はふぅ、ようやく四大元素終了ね」 悠介 「そうだな。じゃあ……次行くか」 みさお「このあと、まだ何処かに行くんですか?」 悠介 「一応そうなってる。で、ベリー?次はどの精霊に会いに行くんだ?」 考えてみれば四大元素の精霊を集めることを前提にしてた分、 そのあと何処に行くのかを聞いてなかった。 向き直ってみるとベリーは腕を組んだような状態で顎に手を当てて、 思考を凝らしているようだった。 ベリー「んー……無難に自然の精霊ニンフかな。     雷の精霊でもいいと思ったけど、いい加減に戦いばっかりで疲れたでしょ?」 悠介 「へ?……その言い方だとニンフとは戦う必要がないっていう風に聞こえるぞ?」 ベリ−「そりゃそうよ、戦う必要なんてないもの。     悠介は彼女たちに好まれるだけのことをした。     だから、戦うなんてことは絶対に有り得ないわ」 悠介 「………」 そんなこと言われたってな、 俺はそのニンフって精霊になにかをした覚えなんて無いんだが…… ベリー「まあいいわ、早く行きましょ。時間は待ってはくれないんでしょー?」 悠介 「あ、ああ。それはいいけど何処に向かうんだ?」 ベリー「それは着いてのお楽しみー♪ほらほらチビッ子もさっさとわたしに掴まって」 みさお「チビッ子って……」 なにか文句を言おうとしたみさおだったが、小さく溜め息を吐くとベリーの手を握った。 俺もそれに習うとベリーは小さく式を展開。 次の目的地へと転移した。 Next Menu back