───FantasticFantasia-Set37/珍獣さんいらっしゃい───
【ケース84:弦月彰利/荒焼きサテリコン】 ヒュォンッ───ヂギィン!ガギィン!ギヂィイインンッ!!! 彰利 「つはっ……!はっ、はぁっ……!!」 もう何度目になるのか。 黒と闇が支配するこの聖堂に、橙と白の火花が散る。 都合六十は弾き合わせた得物は今も鈍く輝き、 だが火花が散り消えると同時に輝きも姿を無くす。 それとともに静寂が訪れ、ただふたつの吐息のみがその場に響いた。 彰利  「か、はっ……自信無くすぞ、くそ……!      これでも……結構高めたつもりだったのに……!」 シェイド『……、……───いいや、卑下するほどではない……。      地水火風の加護も無しに我の息を乱すことなど、凡人には出来ぬことだ』 彰利  「はぁっ、は、あ───……っ、これで……一発でも攻撃が当たってりゃあ……      まだ素直に……喜べたのによ……!!」 くそっ……酸素が足りねぇや……。 ムキになって暴れすぎた……。 シェイド『ここまでか。それほど息が上がってはもう何も出来まい』 彰利  「いいや、残念だけどまだまだやれる」 体に月然力を流し、足りない酸素を満たしてゆく。 ゆっくりと息を吸い、吐く───それだけで体勢は整っていた。 彰利  「素晴らしいでしょう、さあ後悔なさい。      今から貴方に三分間のみ後悔する時間を差し上げましょう。      その内に存分に後悔なさい」 シェイド『三分間も要らん。こちらの呼吸も整った、今すぐ始められる』 彰利  「そうですか、では後悔なさい。これからの私はさっきまでの私とは違いますよ。      存分に後悔させてあげましょう。さあ後悔なさい」 体に鎌を馴染ませる。 それとともにゆっくりとルナカオスが漆黒に染まり、 闇と黒の世界に溶け込んで見えなくなる。 彰利 「“接続、破壊神(アクセス、イド)
”」 さらにより深く鎌から力を引き出し、自分の力へと変換してゆく。 彰利 「さあ行きますよ、存分に後悔なさ」 パグシャア!! 彰利 「ペギャーーーイ!!!!」 武器じゃなくて拳が飛んできました。 しかも思いっきり我が左頬を捉える素敵な右拳……。 シェイド『ふざけるのは大概にしろ。貴様の真はそんなものではないだろう』 彰利  「………」 キッパリ言われてしまった。 確かにふざけたりする俺の性格は、 暗い雰囲気を明るくするためや誰かさんに憧れていたからだ。 そしてここにはそれを実行する理由が無い。 だったら─── 彰利  「OK、ふざけるのは無しだ。真面目に行かせてもらう」 シェイド『望むところだ』 彰利  「“解放、闇薙の斬命鎌(ロード、フレイア)”」 相手の属性の弱点を突くのは常套手段。 相手が闇の精霊である以上、これより効果のある方法なんてきっと無い。 彰利 「焚ッ!!」 ビジュンッ!ズガガガガァアアアアアアンッ!!!! シェイド『───!』 力を込めたルナカオスを払うように振るう。 するとまるで、横一線にダークイーターを振るったかのように闇が斬り裂かれる。 シェイド『闇薙の斬命鎌(ダークイーター)……      貴様の精神の内の記憶を見た時から厄介だとは思っていたが、これほどか』 彰利  「反則だなんて思わないからな。      相手の弱点を突くのは戦闘において当然のことだ」 シェイド『当然だ。こんなことで反則だなどと言っていたら戦うことなど出来はしない』 彰利  「おうよ。んじゃあ……行くぜ?」 シェイド『来い』 申し合わせたように双方が疾駆した。 即座───秒に至るまでもなく激突。 額と額をぶつかり合わせてなお、一歩も引くことなく連撃を繰り出した。 俺の攻撃が闇を薙ぎ、シェイドの攻撃が闇を紡ぐ。 まるで永遠の塗り絵のように消えては塗られ、塗られては消されを繰り返す。 彰利  「だぁありゃぁあああああっ!!!!」 シェイド『オォオオオオオオオッ!!!!』 攻撃が当たりさえすれば『闇を裂く理』がシェイドを斬り裂くだろう。 だがその攻撃がどういうわけかまるで当たらない。 彰利 「かっ……!こなくそぉっ!!!」  フォンッ!───ヂギィンッ!  フィィンッ───ガギィンッ!! 振るった攻撃が悉く弾かれる。 単純に攻撃するだけじゃなく、出来うる限りのフェイントも混ぜているのに全てがだ。 シェイド『踏み込みが足りないなっ!!』 ドフッ!! 彰利 「げはぁっ!?」 鋭い拳が俺の腹にめり込む。 そうすると、したくもないのに訪れる数瞬の機能停止が隙を作り、 シェイド『空を飛ぶのは好きか───!?』 まったくの遠慮無しに振るわれた具足での回し蹴りが俺の胸部へと放たれる───!!  ヴオッ!───ドゴォンッ!! 彰利 「ッ……!!」 それほどの自覚は無かったが、今確実に数瞬とはいえ心臓が停止した。 それに気づいたのは自分が宙に舞ってから聖堂の壁に衝突するまでの刹那の間だった。 彰利 「───、……!!っ、かはっ!はぁっ!はぁっ……!!」 喉に何が詰まったわけでもないのに停止していた呼吸が再開する。 心臓が活動し、停止していた分を取り返そうと躍起になって鼓動するためか、 呼吸はまるで安定してくれない。 さっきの要領で月然力を流してもまるで効果が無い───当たり前だ。 あれはただの酸素不足で、今の状態は心臓停止の影響なのだから。 彰利 「あ、───は……!」 立ち上がろうにも足が立ってくれない。 意識はハッキリしているのに───まるで膝から下が泥にでもなったかのように動かない。 シェイド『そこまでか。なんの加護も無く、よくここまで戦った』 彰利  「っ……こ、の……!勝手に終わらせるんじゃ……ねぇっ……!!」 残っている意識を無理矢理足に総動員させて立ち上がる。 視界は黒と闇の点滅を繰り返し、てんで明るさのないその点滅が意識を余計に混濁させる。 それでも負けるわけにはいかない。 ここで負けたら、今までの自分も心から願った意思も、全部がダメになっちまう。 彰利 「……、……───デス、ティニー……ブレイカー……」 運命破壊の鎌を発動、自分の中の『回復しない苦しみ』を破壊し、即座に回復させる。 彰利  「はぁっ……まだ終りじゃない……っ」 シェイド『───いいだろう、来い』 整った呼吸に安堵し、剣を振るう。 しかしそれはシェイドが構えた双頭の剣に弾かれる。 掴む柄を中心に、上下ともに刃であるその剣はまるでよく出来た殺戮風車。 ルナカオスを上の刃で弾くと同時、 その動作のままに襲い掛かる下の刃が俺の腕を斬りつけた。 彰利 「づっ……!?」 咄嗟に身を引かせることで、軽傷で済ませることは成功した。 あのまま闇雲に攻撃を続けていたら 確実に手首から先が無くなっていたであろう事実を考えるとゾッとする。 彰利 「くっそ……互角にもならないなんて傷つくぞ……?」 だからだろうか。 知らず、口から自分に対する情けなさが漏れた。 強くなりたくなかったわけじゃない。 ただ、もう心の底から守りたいと思うものが無くなったために、強くなる必要が無かった。 死神化したことで有頂天になっていたつもりはなくても、 少なくとも地界では敵なんて居ないと思っていた。 もし悠介のように日々修行に明け暮れていたら、 俺は今こんなにも自分に無力を感じることはなかったんだろうか。 彰利 「あぁやめやめっ!!俺は俺だっ!     あの時どうしたらだとか、あいつみたいにだとかはもうたくさんだ!」 顔をバシバシと叩き、真っ直ぐにシェイドを睨みつけた。 すると何がおかしいのか、シェイドは俺を真っ直ぐに見て微笑していた。 闇の中だっていうのにそれが解るのは奇妙だったけど、それは確かなことだった。 彰利 「………」 引っかかることを述べろっていうならひとつだけ。 でもまあそれが強さに繋がるのなら文句なんてなかった。 あ、いや……幾つかあるな、文句。 彰利  「意地が悪いな、アンタ」 シェイド『闇である我がやさしい筈はなかろう?』 彰利  「……まったくだ」 黒と闇の世界の所為か、死神の力が高まっているのは確かだった。 自然治癒の力も高まっているし、 無茶な行動だったものが少しずつ無茶ではなくなっていっている。 実際、剣を六十回弾き合わせることで息切れしてた筈の体はとうに八十に耐え、 今尚前を向いていられる。 それがどういうことなのか───そんなもの、相手の意地が悪いとしか言いようがない。 彰利  「もっともっと付き合ってもらうぜ……。俺は今までの自分を超えていく」 シェイド『ああ構わんが。せいぜい退屈凌ぎにはなるよう努めてくれ』 彰利  「かっ……!ホント嫌味な野郎だっ!」 言うや否や、再び黒と闇の空間に剣戟が高鳴る。 その音を耳にしながら、俺はやがて自分が高まることに喜びを覚えるようになっていた。 もっと、もっと高みへと。 悠介と同じ高みへと願うことはきっと贅沢だ。 だから、せめてあいつが守ろうとするものが手の平からこぼれてしまった時、 俺がそれを守ってやれるくらいの高みに行きたい───純粋にそう願えた。 シェイド『脆弱。隙が多い』 ツパァンッ!! 彰利 「おわっ!?」 軸足が弾かれると同時、俺は宙を舞っていた。 すぐに地に手をついて体勢を立て直そうとするが、 その一瞬の逆立ち状態になった俺の腕をさらに払うシェイド。 俺の体は刹那の刻のみ浮遊状態となり、 しかしそれさえ見逃さなずに放たれた回し蹴りが落下を許さなかった。 彰利 「ぐぶっ!?」 まるで、ピンポイントで蹴られたゴムボールのように簡単に宙を舞う体。 一瞬の出来事が終わってみれば俺はまた壁に激突していて、 それでも今回は心臓が停止するなんてことはなかった。 彰利 「けはっ……ははは……」 何がおかしいのか、自然に笑みがこぼれた。 いや……解らないわけじゃない。 笑える理由だって解ってるし、笑みの意味も解ってる。 シェイド『……?どこぞ悪い場所でも打ちつけたか』 彰利  「っ……ははは……そうかもしれねぇなぁ……」 だって、こんなのおかしすぎる。 懸命に戦おうとしてた筈が、いつの間にか『稽古』をつけられているんだから。 相手は俺を殺そうと思えば簡単に殺せるし、 殺さないにしても気絶させることこそ楽だろう。 それがどうだ、攻撃する度にやれ踏み込みが甘いだの隙が多いだの。 そんなことをされれば、普通は気づいてしまう。 もっとも……いつもの俺─── ふざけた状態での俺だったら絶対に怒ったフリをして襲い掛かるだけだっただろう。 彰利 「スゥ……はぁ……」 小さく息を吸って吐く。 それだけで酷く落ち着き、体に力が篭ってゆく。 黒と闇が死神の状態である俺に活力を齎し、疲れと傷を癒してくれる。 さらにこの空間で戦う度に、その経験が死神化した全身や神経に流れ込んでくる。 彰利 「………ん」 考えてみれば単純なことだった。 生き物には住みやすい環境や生きるために必要な場所がある。 それは鍛錬で言っても同じことで、 空気の汚い場所で運動を続ければ体が弱っていくのと同じ。 逆に自分の体質にあった場所で鍛錬を続ければ向上に向かうだろう。 ならば。 死神である俺に適した環境など、この黒と闇の世界以外に有り得ないということ。 故にこれ以上の環境などなく、 創造者である悠介が創造の世界で鍛錬することで、より成長してゆく意に酷似する。 悠介が創造者であるならば創造の世界で。 俺が死神であるならば死神の体性に合った場所で鍛錬をすればいいということ。 そういった結論に辿り着いた時、俺は小さく笑った。 『それでいい』と思えたからだ。 癪だけど、俺が力足らずなのは確かだ。 だったらここで鍛錬を重ねて、その上でこいつを越えられればいい。 そう思えたし、それでいいと思えた。 彰利  「……いくぜ」 シェイド『確認など要らん、存分に足掻いてみせろ』 足掻く……確かに今の俺にはその言葉がよく合ってる気がする。 辿り着けないなにかに辿り着こうとする姿は間違い無く足掻きに見えるだろう。 けど、だから辿り着けない道理なんて何処にもないし、辿り着ける根拠も何処にもない。 結局この人の在り方なんて『きっと』に縛られていて、 それでも諦めなければいつかは辿り着けることを俺は知っていた。 それを気づかせてくれたのは───他の誰でもない、俺のたったひとりの親友だ。 何度も歴史を繰り返す中で、俺は歴史が変えられるものだということを知った。 ただ生きるだけじゃない、 人の可能性っていうのはこんなにも広いものなのだということを知った。 そう思えたからこそ俺はまだ頑張れるって思った。 今まで忘れてしまっていたあの時の気持ちを、今こそ思い出そう。 守りたいものが無くなったなんてウソだ。 こんな俺でもまだあいつの親友で居られてるし、 それなら高みへ昇りすぎたあいつを支えてやれる。 地界には粉雪だって待っていてくれるし、 あんなこと言っちまったけどみさおだって守ってやりたい。 彰利  「だぁありゃぁあああああああっ!!!!」 シェイド『…………そうだ、足掻け。限界を限界と決め付けるな。      この世の理など全てに置いて明確に非ず。      確かなものなど希少であり、不確かなものこそ確かである。      人であり死神であるからこそ矛盾である汝よ、その【矛盾】の意味を知れ。      何故力が必要なのか、何故汝は力を求めるのか、      何故強くならなければならないのか。その答えは元より汝の裡にある』 ギヂィィインッ!! 渾身の力を以って振るわれたルナカオスは、いとも簡単に受け止められた。 彰利 「甘いっ!」 だが伏線は先にあり。 ルナカオスに込めていた力を解放すると、 受け止められた先───つまりシェイドの眼前でソレが発射された。 シェイド『チィッ……!!』 暗闇に轟音を響かせるのは神屠る閃光の矢。 通常、美しいとも言えるくらいに白く輝いていたソレはしかし、 俺の『黒』にあてられて漆黒の輝きに変わっていた。  ───バヂィイイイインッ!!! シェイド『くっ!?小癪!』 放たれた漆黒の光は咄嗟に体を屈めたシェイドの肩当てを破壊したのみで終わる。 だが目の前の黒騎士はそれさえも退屈凌ぎだと断ずるかのように笑い、 双剣をドゴォオオオオンッ!!!! 声  「しゃげぁああああーーーーーーーーーっ!!!!」 ……オウ? シェイド『……なんの声だ』 彰利  「や、俺に訊かれても」 俺とシェイドはお互いに休戦だと申し合わせたように武器を降ろす。 で、闇の先を見てみる───と。 彰利 「……タイヤキ?」 シェイドの肩当てを破壊し、流れ弾となった神屠る閃光の矢が直撃したらしく、 こんがり焦げて今が食べごろな巨大なタイヤキが落ちてた。 彰利  「……なんデショ、コレ……」 シェイド『知らん。見覚えも無ければ存在すら知らん』 彰利  「左に同じ……」 とか言ってるうちにシェイドの肩に闇が集っていき、肩当てが再生された。 まあね、精霊っていうんだからノーマルアーマーなんて装備してるわけがない。 つーことはこの鎧とかも全部合わせた状態が闇の精霊シェイドってことか……ちと怖い。 彰利 「しかし見事にコゲてるね。つーか神屠る閃光の矢でコゲる筈ないんだが……」 恐る恐る、ところどころでアンコが飛び出しているタイヤキに近づいて─── 彰利 「ぶわっ!くっせぇっ!!」 ───ゆく過程、凄まじい激臭を感じてバックステップ。 臭ぇ……こりゃ臭ぇぞ? しかも今さら気づいたがこのタイヤキ……手が生えてる。 さらに言えば『だぼだぼ』言いながら口からアンコを吐いて─── 彰利 「むわっ!これだっ!このアンコの匂いだコレ!!くっさぁあああーーーっ!!!」 勘弁したれや……臭すぎだぞこれ。 彰利 「あ」 と、俺はとあることにハッとしてゆっくりと隣を見てみた……ら、 シェイド『………………』 かつてない形相(顔は真っ黒で解らないんだが)でタイヤキを睨んでいるシェイドさんが。 闇を象った黒い体、黒い顔の中、その赤い目だけが怒りを表しているように見えた。 ……そりゃそうか、自分の部屋をこんな激臭だらけにされたら誰だって怒る。 彰利 「……空狭転移」 あまりの臭さに頭が痛くなってきた俺は、悠介の気配を探知し、この汚物を転移させた。 悪ぃ悠介、今強くなるためにはこいつが心の底から爪の先まで邪魔だから。 彰利  「んじゃ、続けるか」 シェイド『興が殺がれたがな……動かなければやってられん』 まったくもってその通りだった。 【ケース85:晦悠介/モミアゲインフェルノ】 ───……ォオオオオオオオッ!!! ベリー「うぃいいいっ!!!」 みさお「ひきゃあああああああっ!!!!」 現在、空界上空。 ディルゼイルに乗って、ベリーが言う方向へと飛んでいる状態だ。 悠介 「なぁベリー。こっちでいいのか?」 ベリー「いいっ!いいから止めてっ!止めてくれないまでも、せめてもっとゆっくり!!」 悠介 「飛翔中の速度において、     ディルが俺の言うことなんて聞いたためしなんてただの一度としてない。諦めろ」 ベリー「うーーーっひゃああーーーーーーーっ!!!!」 みさお「ゆゆゆ悠介さん!?悠介さんはなんで平気な顔してるんですかっ!?」 悠介 「ん?ああ、シルフが風を受け流してくれてる。だから全然風が来ない」 みさお「ず、ずるいですーーーーっ!!!!     シルフさん!?わたしたちも保護してくださいよぅ!!」 シルフ『冗談ではない。わたしはわたしが認めた者しか護ろうとは思わん』 みさお「ううぁっ!性格が篠瀬さんみたいです!」 悠介 「ん───ああ、それは確かに」 少し思考を巡らせてみたが、この態度にこの口調は篠瀬に近いものがある。 案外篠瀬が契約したら面白かったかもしれない。 シルフ『……何を考えているのかは解らんがな、わたしはお前以外と契約する気はないぞ。     お前はわたしをたったひとりで打倒してみせた初めての男だ。     もはやお前以外の者など知ったことではない』 悠介 「そうなのか?けどな、俺との契約が切れたら次の奴とか───」 シルフ『次の奴など居ない。だからお前は永遠を生きろ』 悠介 「無茶言うな!!ただでさえ俺は三千年も生きるんだぞ!?     それ以上生きてどうするんだよ!」 シルフ『───……そうか、三千年生きるのか。だったらその間だけでもいい、生きろ。     白状してしまえばお前の傍は酷く心地いい。     今まで契約してきた者など、表面は優しそうだったが内面などドス黒かった』 悠介 「俺の傍が心地いいって……そりゃないだろ、俺はこれでも死神だぞ?」 シルフ『種族がどうだろうが関係無い。     わたしが言いたいのはお前の傍は居心地がいいということだけだ』 ディー『その通りです悠介さま。あなたのような契約者なんて初めてです。     心から信頼出来ますし、心がとても安らぎます。     もう、なんといったらいいのか……     毎日お味噌汁を作ってさしあげたくなるくらいに素敵なかたです』 ……マテ、何故ここで味噌汁が出てくる。 というか空界に味噌汁の知識はあるのか? そもそも召喚したつもりはないんだが…… サラマンダー『あまり深く考えるな。ようするにお前の意識が緩んでいたということだ。        シルフが表に出ていることで、        【精霊】という概念に意識が流れやすくなっていたんだろう』 悠介    「……いつの間にか居ていつの間にか話し掛けられても戸惑うが。        ようするにシルフが居るなら他のヤツもって考えたってことか?」 サラマンダー『そういうことだ。まあ必要と思ってもらえるのなら嬉しいものだがな』 悠介    「……そか。で、ひとつ訊いていいか?」 サラマンダー『なんだ?なんでも言ってみるといいぞマスター』 悠介    「そのマスターってのやめてくれ。俺には晦悠介って名前がある。        で、本題だけどさ……お前はなんて呼ばれたい?」 サラマンダー『……なんて、とは───どういうことだ?私の名はサラマンダーだが』 悠介    「そうなんだけどな、        略した愛称のようなものがあった方がいいってそこのたわけが言うんだ」 ベリー   「たわっ……!?」 指差してやると、ベリーは微妙な表情で顔を引き攣らせた。 悠介    「やっぱり『ラ・マン』はまずいよな?」 サラマンダー『当たり前だっ!!』 そりゃそうだ。 悠介    「じゃあどう呼べばいい?俺としてもパッと呼べた方がいいんだが」 サラマンダー『……好きに呼べばいい。ただし【ラ・マン】以外でだ』 悠介    「解ってる解ってる」 とは言ったものの……さて。 悠介 「ダー、っていうのもディーみたいでダメだな。     サラ……女みたいだな。サラマ……んー……マンダー……んー……」 ……ダメだ、ラ・マンっていう名前の所為でどれこれもヘンな名前に感じる。 これは困った……。 悠介 「………」 ベリー「?」 犯人はきょとんとした顔で風に襲われてる……いっそ憎いぞこの野郎。 みさお「逆から読んでみるっていうのはどうですか?」 悠介 「……お前も。いつの間に俺の後ろに来たんだ?」 みさお「今です。悠介さん後ろなら風の抵抗が無いようなので。     で、ですね。サラマンダーっていう名前を逆に読んで喩えるんですよ。     サラマンダア、っていうのをえっと……アダンマラサっていう感じに」 悠介 「なるほど……じゃあアダンか?」 みさお「………」 悠介 「サラマンダーって感じじゃないな……」 みさお「はい……まったくで……」 悠介 「じゃあマラ───ぶふっ!!げっふげふっ!!」 みさお「?……悠介さん?」 悠介 「い、いやっ!なんでもないっ!逆さ読みは却下だ却下!!他の手で行こう!!」 みさお「……?」 あぁまったく……何考えてんだ俺は……。 なまじっかあの馬鹿野郎と付き合いが長い所為で、 余計な知識まで身に着いちまった自分が悲しい。 悠介 「じゃあもうサラマでいいな。      ラムダ、っていうのも考えたけどしっくりこなかった」 みさお「ラムダ……ですか?」 悠介 「それも彰利の所為で身に着いた名前だけどな……。     『ン』を『ム』って読むんだよ。『今日から俺は!』の影響だ」 みさお「はあ……サラマンダーの『ラ、ン、ダ』を取った名前ですか。     なんていうか、さすが彰衛門さんですね。変則的なことは得意です」 悠介 「彰利を褒めたいならあいつの前で褒めろ。俺の前で言っても仕方ないだろ」 みさお「いいんです。彰衛門さんはわたしが居ると邪魔だったんですから」 言って、ツンとソッポを向くみさお。 俺はそんな態度に苦笑を漏らし、サラマンダー……サラマに呼び方の決定例を伝えた。 サラマ『……まあ、いいがな……』 するとなにやら不満の残る顔で指輪へと戻っていった。 確かにサラマはあんまりだと思うが、ラ・マンよりはマシだろう。 悠介 「……なぁみさお」 みさお「はい?あ───」 悠介 「ん?」 ふと気になったことがあってみさおに話し掛けると、 みさおは戸惑ったような驚いたような、とにかく妙な表情をした。 なんだ、と思って視線を追ってみても───そこにあるのは虚空だけだ。 悠介 「みさお?」 みさお「悠介さん……なにか───来ます」 悠介 「へ?」 なにかって─── ベリー「次元移動の反応よ。何か来る───構えて!」 悠介 「っ!」 言われた通り構えた。 意識を集中させ、いつ、何が来ても対応出来るように。  ───ディルゼイルが飛翔する先の方の虚空に大きな渦が出現した。 みさおやベリーが言った通り、確かに何かが来ることに間違いは無さそうだった。 しかしその虚空───正確に言えば虚空の渦の中だが、その先に数人の人影が見えた。 その中に居たひとりは……見間違えじゃあなければ咲桜純だった。 そんな景色に意識を一瞬でも奪われた刹那、ソレは落ちてきた。 謎の物体「オアーーーーーッ!!!」 まるで最初の頃のキン肉マンのような悲鳴とともに落ちてくるソイツは、 それぞれ額に『謎』、腹に『漢』と書かれた生命体だった。 謎の物体「ついに!ついに見つけたぞモミアゲモミアゲ!!      今こそお前のハラワタを食い散らして創造の理力をおいらのモノにモミアゲ!」 メゴシャァアアーーーーーーーーーンンッ!!!! 謎の物体「モミギャアアアーーーーーーーーッ!!!!」 渦から弾き出されるような勢いで飛んできたソイツの顔面に、 繰り出した拳が思い切りめり込んだ。 次の瞬間、そいつは同じ極の磁石に弾かれるようにバゴシャアと弾き飛び、 雄大なる空界の大地に落下していった。 みさお「うあ……生きてますかねアレ……」 ベリー「単純に考えると渦に弾かれた速度とディルちゃんのバカみたいな飛行速度と、     悠介の音速拳の速度と力とが合わさったこれ以上無いってくらいの拳でしょ?     ……アレで生きてたらバケモンよ……?」 みさお「ですよね……血を撒き散らしながらキリモミで飛んでいきましたし……」 ベリー「けど───現れた瞬間に悠介にモミアゲって言うなんて勇者よね〜……」 みさお「それは同感ですね……ある意味勇者です」 ベリー「その末路がアレ、と。覚えとこ……」 みさお「勇者の末路なんてあんなものですよね……     って、また何か来ますよ!?なんですか!?」 悠介 「ン───うおっ!?」 既に随分離れている虚空の渦から三体の謎の物体が飛び出した。 そいつらは遠く離れた俺の顔を見ると即座にこちらへ飛翔。 ギラギラした目で『俺だけ』を狙ってきている。 悠介 「し、しかしあの顔……ぶくっ……!」 みさお「悠介さん?『あの顔』って……見えるんですか?随分離れてますよ?」 悠介 「よ、余裕で見えるが……!ぐくっ……!ぷぐふっ……!!」 千里眼で眺めた先に現れた三体の謎の物体は、真実謎の物体だった。 先ほど殴り飛ばした謎の物体と違い、なにやらしきりに『メルヘン』と叫んでいる。 しかしそれよりなにより笑わせてくれたのがあいつらの顔だった。 その顔……まさしくアシュラマンの阿修羅面(怒)。 これで悲しげな顔をして 『シバ〜〜〜ッ!!シバ〜〜〜〜ッ!!!』とか言ったら堪えきれずに笑っていただろう。 悠介 「なぁベリー、上半身は人間で下半身は馬で、     メルヘンメルヘン叫ぶ阿修羅面(怒)顔の物体って知ってるか?」 ベリー「へあ?あー……あ〜あ〜!知ってる知ってる!     神界に住む妖精でね、男だけを───その、襲うのが趣味な変態妖精よ」 悠介 「襲うって……」 じゃあなにか?真っ直ぐに俺のみを凝視して追いかけてくるのは─── ベリー「ところでどうしていきなりそんなこと訊くの?」 悠介 「あー……えっとな。今こっちに向かってる三体がソレだからだ」 ベリー「……えぇっ!?なんで!?だってアレ、神界にしか存在しない妖精よ!?」 みさお「上半身人間で下半身馬で阿修羅面(怒)顔、ですか……」 悠介 「なんていうかこう、妖精のイメージが完全に崩れたな」 ベリー「で、どうするの悠介。もし追いつかれたら死ぬまで愛を育まれるらしいけど」 悠介 「冗談じゃないっ!つーか男色の妖精ってなんだよ!」 ベリー「え?なに言ってんの悠介。妖精って雌しか居ないのよ?」 悠介 「───……」 みさお「………」 ケンタウロスボディに阿修羅面(怒)フェイス……それで雌……? ベリー「メルヘン妖精は他種族の雄と交配して子を授かるんだって。     で、生まれてくる子もああいったヘンテコな姿らしくて」 悠介 「マテ!どんなことよりアレがどのツラ下げて雌だっていうんだ!?     今にも『ア、アア〜〜〜ッ!!』とか     『シバーーーッ!!シバーーーッ!!』とか叫びそうなツラだぞ!?     阿修羅面で、しかもよりにもよって(怒)だぞ!?     あれだったらまだ阿修羅面(ウル目)の方が雌っぽいだろ!!」 ベリー「やー……わたしに言われても」 悠介 「……はぁ。なぁみさお、あいつの過去、月視力で見れるか……?」 みさお「もう見ましたけどね……。     どうやら咲桜さんの所為でここに飛ばされたようです。     他にも飛ばされたモノが居て、     彰衛門さんの所には『泳げ荒焼きくん』っていうタイヤキで、     悠介さんのところには『山岡 智英』っていう額に『謎』、     腹部に『漢』って書かれた謎の生命体。     で、そうなると一緒に旅をしているわたしには対象の相手が居ないということで、     急遽あのメルヘン妖精をわたし用に送り込んだようです……」 悠介 「……ちょっと待て。     咲桜のヤツはあの妖精が男好きっていうこと知らなかったのか?」 みさお「いえ、思い切り知ってました」 悠介 「咲桜よぉ……」 解らない……どうして俺の知ってるヤツは大体、 俺に迷惑が降りかかるような行動を敢えてとるんだろうか……。 メルヘン「メ〜ルヘ〜ン・レ〜ザ〜!!  ドガァアッ!!チュゥウウウウウウウウンッ!!!! みさお「ひぇえっ!!?レ、レーザ……!レーザー撃ってきましたよ!?」 悠介 「どういう妖精だよ!!ああもう!」 即座に意識を裡に埋没させ、自分の奥底から理力の具現を引き上げる。 悠介 「“鏡面にて弾く石眼の盾(イージス)”!!」 イメージを弾くとともにその場に盾が創造され、その鏡面にてレーザーを弾いた。 悠介 「くっは……!咲桜のたわけ……!     ただでさえ面倒なことになってるってのに……!」 ドォッゴォオオオオオオオオンッ!!!! みさお「ひきゃああああああっ!!?」 ベリー「うーわー、弾いたレーザーが山ひとつ吹き飛ばしたわよ?」 悠介 「よし断定。アレは妖精じゃねぇ」 少なくともいきなり自然破壊に走る妖精なんて俺は知らんし、 レーザーを撃つ妖精なんてそれこそ聞いたこともない。 いや、そもそも阿修羅面(怒)な時点で妖精じゃないが。 メルヘン「メ〜ルメルメルメル───メ〜ルヘン!! ……あ、ヤバイ。 なんか近づいてきてる。 悠介 「ディ、ディル!?追いつかれるぞ!?」 ディル『構わん、私が速度を落としただけだ。鬱陶しいから始末してくれ』 悠介 「オイ」 ディルさん、そりゃあんまりだ……。 メルヘン「メ〜ルヘ〜ン・レ〜ザ〜!! って!またレーザーかっ!? ああくそっ!なんだってんだ! みさお「えーと……はい」 メキィッ!! メルヘン「メルッ!? 構えようとした瞬間、レーザーを放とうとしたメルヘンの首が横を向く。 その先にはメルヘンが二体居て、俺達に放たれるべきレーザーは二体のメルヘンへと───  ───ドチュゥウッ!!ドッゴォオオオオオオンッ!!!! メルヘン×2『メッ……メルヘーーーーーン!!!!』 声     「しぎゃああーーーーーーっ!!!!」 悠介    「だわぁあっ!!?」 ベリー   「うひゃあっ!?」 …………あー……なんだ? みさおが月影力でメルヘン一体を操ったのは解ったが、他二体はなんで爆発を? ベリー 「……補足。メルヘン妖精ってね、死ぬ瞬間自爆……っていうか大爆発起こすの」 悠介  「………」 凄まじく迷惑な性質だな。 巻き込まれた所為でレーザー撃ったメルヘンも重症負って、しかも目が眩んでる……。 逃げるなら今だな。 悠介 「というか……なぁみさお?     メルヘンが爆発した時、他の誰かの声が聞こえなかったか?」 みさお「あ……はい、それはわたしも聞きました。     でも声は聞こえましたけど、さすがに姿までは……」 悠介 「………」 一瞬、タイヤキのような姿の物体を見た気がしたが……いいや、今は忘れよう。 ベリー「っと、着いたわよ悠介。ここで降りるの」 悠介 「へ?」 ベリーの声にハッとして目的地とやらを見下ろした。 すると───そこにあったのは、俺のよく知る場所だった。 というより『ニンフ』の正体がなんとなく解った気がした。 Next Menu back