───FantasticFantasia-Set39/雷の聖堂へ───
【ケース87:簾翁みさお/子供楽園】 ……ピキィイイイインッ!!! カルナ「誰だっ!!」 転移した途端、物凄い速さでカルナさんが素っ飛んで来た。 つまりここはチャイルドエデン。 悠介 「あー……久しぶり。って、ここにニーディアが居るのか!?」 ベリー「えっへへー、そゆことー」 カルナ「今すぐ出ろ!子供達が不安がるだろうが!!」 ベリー「え?あ、ちょっと!きゃあっ!何処触ってるのよ!」 カルナ「ヘ、ヘンな言いがかりをつけるな!さっさと出ろ!!」 そして取り付く島もなかった。 ───……。 ……で、チャイルドエデン前。 ベリー「……な〜んだってばか正直に従ってるのよ悠介……」 悠介 「子供が不安がるのが好ましくないからだ。子供の慰めは苦手だ」 ベリー「は〜〜〜ぁあああ……」 ヤムベリングさんが長い長い溜め息を吐くと、カルナさんもまた溜め息を吐いた。 カルナ「で?今度はなんの用だ」 ベリー「ニーディアに会いに来た。会わせれー」 カルナ「どんな理由があったって、ここは子供以外は通さない」 ベリー「ダメ、通しなさい」 カルナ「なんて言われようが通さない。帰ってくれ」 ベリー「……ふぅん、そう。     ウェルドゥーンの赤い魔女がこうやって穏やかに言ってあげてるのに。     いいわ、あなた……わたしのモルモットに」 ゴスンッッ!!! ベリー「はにゅっ!?」 悠介 「な〜に言い出す気だキサマ……」 ベリー「融通利かないから教育してくれようかと……なにかマズかった?」 悠介 「全部悪いわたわけっ!……いいから少し待っててくれ、一応算段はある」 ベリー「……なに、そうなの?だったら最初から言ってよもう……」 ヤムベリングさんが勝手に突っ走っただけだと思いますけどね……。 悠介 「“時操反転(プリーヴィアス)
”」 ともあれ悠介さんは猫に姿を変えると、ゆっくりと巨大な扉に前足を付いた。 が───なんの反応もない。 世界猫「……大丈夫みたいだな。入るぞ?」 カルナ「………」 カルナさんはポカンとしたけれど、『通れるなら文句はない』みたいだった。 みさお「あ、そうですよね。仔猫なら一応子供ですから入れない道理は無いです」 言いながらわたしも一歩前へ。 もちろんわたしは子供だから警報なんて鳴ったりしない。 ベリー「…………わたしは?」 そんな中で、ポツンと残されたヤムベリングさんが寂しそうに言った。 世界猫「子供になる方法とかが無いならここで待つしかないんじゃないか?」 ベリー「うぐっ……そりゃそうだけど……。なんとかならない?」 カルナ「ならない」 ……即答でした。 世界猫「じゃあベリーはここで待機、と。行くか、みさお」 みさお「はい」 ベリー「え……えー?ちょっと待ってよー!     ここまで旅を続けてきたわたしを見捨てるっていうのー!?」 世界猫「見捨てる」 ベリー「むごっ!?」 ……さらに即答でした。 しかも世界猫さん、言うだけ言ったら扉を開けてさっさと進んで行っちゃうし。 ベリー「ちょっと待ってよ悠介!わたしたち仲間じゃ悠介!     ずっと一緒って誓い合ったじゃ悠介!!悠介!悠介ーーーーッ!!!」 世界猫「だぁっ!やかましい!子供かお前はっ!!」 みさお「………」 少しヤムベリングさんに悪いかなと思いながらも、結局わたしも同行した。 ───……。 ……。 ガコォンッ!───後ろで扉が閉ざされた。 もちろんまだヤムベリングさんの罵倒は続いていて、 隙あらば入ってこようとしているのが十二分に理解できる。 世界猫「どちらにしろ精神介入できたり時空移動できたりいろいろな魔導が使えるのに、     自分の姿を子供にすることが出来ないなんて微妙な魔女だよな」 みさお「あ……そうですねぇ」 言われてみれば、そうかもしれない。 悠介さんの精神内部で初めて見たヤムベリングさんは結構な能力の持ち主に見えた。 それが、蓋を開けてみれば魔力が強いだけで案外ナマケモノな女性だった。 褒められるのはその知識くらいですかね。 声  「あーっ!みさおだーっ!」 みさお「はい?あ……」 聞こえた声に振り向いてみると、 以前ここで知り合った子供達の何人かがわたしを指差して驚いていた。 しかもその声を聞いた他の子供達がゾロゾロと集まってくる。 ……で、真っ先に放たれた言葉といえば─── ナノス「聖は?どうしたんだ?」 ……でした。 後ろからはアビディくんも現れて、次々と『聖は?聖は?』と訊いてくる。 カルナ「ほーら散れ散れー!みんな作業に戻れって!」 ナノス「カタイこと言うなよカルナの兄キー!こんな時くらいいいじゃんかよー!」 カルナ「お前はさっきパンの焼成に入るって言ってたろ。     自動停止機能なんて無いんだから焦げるぞ」 ナノス「あ───うわヤバイッ!」 シリル「じゃ、俺は残っててもいいよなカル兄」 カルナ「お前はリミルの手伝いをするって言ってただろ……」 シリル「えー?いいっていいって、料理作るんだったら聖の方が上手いし。     だったら聖に頼んだ方が美味しいじゃ───あいっ!?」 リミル「シ〜〜〜リ〜〜〜ル〜〜〜……!?」 シリル「うあっ!リミルッ!って!いてててて!耳引っ張んなよ!!」 リミル「いいからこっち来るっ!!自分から手伝うって言い出したんでしょ!?」 シリル「なんだよこの剛力主婦紛い女〜……」 リミル「なんですってぇっ!?」 ……みんな元気ですねー。 なんて思ってた時、視線の下の方で世界猫さんが『さっさと行くぞ』と目配せをした。 というより……『俺は行くけど、積もる話があるならここに居ていいぞ』って目だった。 目だけでこれだけ解るのは奇妙だけど─── 悠介さんの性格を考えるとなんとなくそれが一番正解に近いと思った。 テッド「で、みさおー?聖は?」 みさお「しつこいですね……。ああもういいです、聖ちゃんなら地界に居ます。     多分こっちには来ないと思いますよ」 テッド「え───なんで!?」 みさお「やかましいですよ、来ないものは来ないんです。     わたしは用事があるからこれで失礼します」 テッド「な、なんだよその馬鹿丁寧な態度。     あ、もしかしてお前、聖と喧嘩したのか?」 みさお「え……あ、……」 テッド「はぁ〜ん?なんだよ、ほんとに喧嘩したのか〜?ははっ、ダァッセェの〜!」 みさお「う……」 世界猫「シャケェッ!!」 ギャオッ!───ゴヅゥンッ!! テッド「うわぁっ!?」 みさお「あ……」 デリカシーの欠片もない訊きたがりのテッドの頬に、 世界猫さんのフリーザさまばりの高速ヘッドアタックが炸裂した。 うん、間違いないです。ちゃんと『ギャオッ!』って鳴ってましたし。 でもその掛け声である『シャケェッ!』はまるで関係無いものでしたが。 ともあれテッドはゴロゴロズシャー!と 柔らかな芝生の大地を転がり滑って動かなくなりました。 世界猫「ガキだからってなんでも許されると思うなよ。     引き止めるなとは言わないが、     訊かれたくないことを根掘り葉掘り訊かれる者の身にもなれ」 カルナ「いや……あんまり無茶しないでくれ。そりゃあ今のは確実にテッドが悪いが……」 世界猫「子供は嫌いじゃないけどな、     ああいう『人の弱点を見つけたらとことん追い詰める』って考え方が嫌いだ。     適度ならいいっていったって、それが出来ないのが子供だろ?」 カルナ「地界で言う融通の利かない不良みたいなもんだな。お前はどうだ?」 世界猫「………」 みさお「不良でした」 世界猫「言うなよ……自己嫌悪なんてしてやらないけど、何気に突き刺さる……」 みさお「融通の利く、変な不良でしたけどね」 世界猫「だから……。言うなって」 カルナ「お前が不良ね……想像つかないな」 みさお「えっと、わたしも誰かさんの記憶の中を見ただけだから、     完全に詳しいわけじゃないんですけどね。     性格:微・人間嫌い、友達:彰衛門さんのみ、好きな物:日本朝食の定番料理、     嫌いな物:無駄に脂のついたギトギトした物。     ここらへんは今とあまり変わりませんけどね。苦笑も毎度でしたし。     あとは───大人嫌いで教師嫌いで、     そのくせ習ってもいないのに歴史だけはいつも満点で、     たまに歴史や古文の授業に出ると教師の言い分を否定して      正確な内容を熱く語ったり……なんだ、結局今と全然変わらないじゃないですか」 世界猫「あのなぁ……勝手に言い出したのはお前だろうが……」 猫の姿で器用に頭に手を当てて溜め息を吐く世界猫さん。 や、ほんと器用です。 世界猫「とにかくそれよりも、今は精霊と会うことの方が先決だろ?」 カルナ「それで、どんな不良だったんだ?」 みさお「えっとですね……授業には出ない、教師には楯突く、それでも学校には行く、と。     まあヘンな不良でしたね。     でも道端に捨て猫が居ると構わずにはいられない不良でした」 カルナ「そこまで行くと微妙だな、オイ……。典型って言やぁ典型なんだが……     漫画かなんかの不良少女かお前は」 世界猫「三途の川スッ飛ばして冥府見てぇかコノヤロウ……」 みさお「でも普通居ませんよー?飼い主が見つかるまで探し回ってあげる不良なんて。     それなのになんだってクラスメイトさんには誤解させたままにするんですか」 世界猫「信用してなかったからだ。今会ったって碌なことにもならないだろうけどな」 みさお「う……それは、そうですけど」 世界猫「だからこの話は終わりだ。さっさと行こう」 みさお「………」 世界猫さんは心なし、急ぎ足でこの場を離れようとする。 正確には─── みさお「あの。もしかして世界猫さん、照れてます?」 世界猫「───、……いや」 あ、一瞬肩が跳ね上がりました。 やっぱり自分の過去の話をされるのが恥ずかしかったみたいです。 猫の姿じゃあ顔が赤くなったかなんて解りませんからね……。 みさお「前から思ってたんですけど、     悠介さんって自分のことを語られるのって苦手ですよね」 世界猫「そんなことは知らんが……誰だってそうだろ?」 みさお「それはそうですけど。でもここまで露骨に恥ずかしがる人も珍しいかと」 世界猫「言いふらせるほどの生き方はしてないからなー……なぁ、もういいだろ?     精霊の居る場所に案内してくれ……正直疲れる」 カルナ「っと、悪い。こっちだ、付いてきてくれ」 みさお「はい」 世界猫「おー……」 世界猫さんは本当に疲れた様子でテトテトと歩いてきた。 でも───二本足で歩く猫って、いつまで経っても慣れませんよね……。 ───……。 ……。 ゴゴッ……コォオン……。 地下聖堂の中心で、床が割れるように開いた。 かつては千年の寿命があったそこは、どうやら先に続く道があったようです。 みさお「この先に精霊さんが居るんですか?」 カルナ「一応そう聞いてる。いつから住み着いたのかは知らないけどな」 さらに下へと続く階段を見下ろしながら、わたしは小さくゴクリと息を飲んだ。 世界猫さんは……どこかわくわくした雰囲気を見せている。 どうやら『地下ダンジョン攻略』という状況にトキメいているようだった。 カルナ「しっかし……ドラゴンナイトになったと思ったら次はドラゴンマスターか?     しかも次はエレメンタルマスターを目指してるとくる……。     あんまり無茶すると精神崩壊起こすぞ?」 世界猫「ゴニャッ」 心配の言葉を放つカルナさんに、世界猫さんは軽く前足を上げて応えた。 『解ってる』って言ってるようだった。 ……というか普通に喋らないんですかね。 世界猫「じゃあそろそろ行くか。みさお、用意はいいか?」 みさお「はい、万端です」 カルナ「俺も付いていってやりたいけどさ、     エデンに侵入者が来た時に子供達を守れないのは辛いから」 世界猫「ゴニャッ」 さっきと同じように前足を軽く上げて応える世界猫さん。 ……何気に猫的な返事、好きなんですかね。 ともあれわたしたちは地下ダンジョンへの入り口をゆっくりと降りていった。 緊張が走るのはもちろんだけど、世界猫さんはやっぱりどこかわくわくしてた。 ……男の人ってみんなこういう状況を喜ぶものなんでしょうかね。 【ケース88:世界猫〜晦悠介/ラーガルクランドヴァールズユー】 トタトタトタトタ…… 世界猫「………」 長く続く階段を下り終える頃、目の前に広がるもの見て呆然とした。 みさお「うわ……なんですかこれ」 そんなことは俺が訊きたいが、答えろというのなら答えよう。 世界猫「これは……どう見ても電気コイルだろ……」 階段を下りた先にあった部屋には、これでもかというくらいの電気コイルがあった。 しかもそれぞれが役目を帯びているように見えるあたり、 既に攻略への道は始まっているらしい。 みさお「これって……このコイルに電気を流せってことですかね」 世界猫「そうじゃないか?     そうすることで何かしらの仕掛けが発動するって考えていいと思う」 それこそRPGのダンジョンでよくあるものだ。 ……コイル仕掛けのダンジョンが『よくあるのか』と聞かれれば─── まあその、若干疑問に思わなくもないが。 みさお「じゃあ流しますよ?月鳴───」 世界猫「ああ待ったみさお!待ってくれ!」 みさお「力───って、なんですか?」 世界猫「いやいやまずは落ち着こうじゃないか」 俺は思考を展開し、結論に至ってから言葉を紡いだ。 世界猫「いいかぁみさお。こういうダンジョンにはだな、必ずそのダンジョンに必要なもの     が揃っているものなんだ。RPGなどでのイベント攻略の際にはどこぞのおっさん     に話し掛けて重要品を受け取らなければならないところだが、生憎と俺達はそうゆ     う情報を得なかった。故に、このダンジョンにはきちんと必要なアイテムが揃って     いなければRPGは成り立たない。つまりだ。俺達が家系の力を行使して月鳴力を     使用するまでもなく。このダンジョンには必要なアイテムが揃っているということ     だ。攻略の道も一歩から。故にみさお、ここで能力を行使するのは探求者としての     敗北を意味し、散々探して見つからなかった時に行使することこそ冒険者としての     懐の大きさとRPGに対する日頃の鬱憤を思う様に叫べるというもの。解るな?」 みさお「てんで解りません」 即答だった。 ───……。 ……。 世界猫「……とまあ、ダンジョンを探索してみて見つかったのは……」 みさお「小さな指輪……?あ、あれですかね、ソーサラーリング」 世界猫「……TOPか」 みさお「TOPです」 世界猫「………」 みさお「………えっと。とりあえず嵌めてみますね」 みさおがおずおずと、見つけた指輪を指に嵌めた。 が───なにも起こらない。 みさお「えと……どうすればいいんでしょうか、これ」 世界猫「ん……どれ、ちと貸してみろ。……って、猫の姿じゃどうにもならんな……。     なぁみさお───ここで人間に戻ったとして、警報はなるだろうか」 みさお「戻ってみたら解るんじゃないですか?」 ……それもそうだ。 だったら─── 世界猫「“時操回帰(アフティアス)”」 チャキィンッ!───猫から人へ戻る。 ……が、警報が鳴った様子は無しだ。 悠介 「───ん」 体の調子を確認したのち、指輪を嵌めて意識を集中させた。 もちろん『構造』を読むためだ。 悠介 「───、……」 視界に映る全てが『構造』へと変わる。 数式の構造が文字の羅列であるように、視界の在り方がレベル単位で刻まれる。 人であるのなら繊維から始まる分子であり、 風に流される塵でさえ色を成し、その在り方が頭の中に叩き込まれる。 しかし俺はその視界の全てを指輪のみに固定し、目を紅蓮に染めた。 悠介 「───……」 流れてくる。 指輪の在り方はもちろん、その構造や能力までの全てが。 それをゆっくりと受け取ると───自然と俺は呟いていた。 悠介 「“グニンティール”」 ……ビヂィッ! 悠介 「……おお」 必要な言葉を唱えると同時に、リングから雷の線が放たれた。 それは丁度直線状にあった電気コイルにぶつかると───光が点った。 みさお「うわっ、やっぱりソーサラーリングだったんですかっ!?」 悠介 「構造分析によれば、ボルトリングだそうだが」 みさお「そうなんですか?それってあんまり───」 ゴコォンッ!! 悠介 「とわっ!?」 みさお「ひゃうっ!?えっ!?えっ!?ななななんですかっ!?」 悠介 「遠慮するなみさお、彰利的に説明してみろ」 みさお「ついにきたっ!東京大地震だっ!!」 悠介 「安心しろ、それはない」 みさお「悠介さんがやれって言ったんじゃないですか!!」 コイルに点った電気がコイルからコイルに伝うと、その場で地震が起きた。 別段景色が変わるということが無かったが、その地震は随分と大きいものだった。 みさお「それで、これっていったい……」 悠介 「電気が通ったことで、     内部でなにかの仕掛けが起きてるって……考えるのが妥当か?」 みさお「仕掛けって……あの、たとえば?」 悠介 「んー……お」 ふと思考とともに天井を見ると、それが目に入った。 で、納得。 大袈裟だが、まあ納得ってことで。 悠介 「たとえば、アレだ」 みさお「あれ?───はうぁっ!?」 バシャァアアアアアアンッッ!!!! みさお「はぶぅっ!!」 ……天井を見上げたみさおの顔面にタライが落ちた。 面積が広く、薄い加工なものだから『バシャアアアン』という爽快な音が鳴った。 ああ、ありゃ痛いな……音からして。 ドラを強く叩いたってあんな音は鳴らんぞ……。 悠介 「……あー、その。     言うだけ無駄だとは思うんだが……一応訊いておく。その、……大丈夫か?」 みさお「───……」 パタリ。バシャァアアアンッ!!ワシャンッ!ワシャアアアンッ!! 気を失っているのか、ストレートに石床に倒れた。 それとともに顔面に留まっていたタライが轟音を立てた。 悠介 「ああやかましいっ!!」 ワシャンワシャンと音を立てるタライを押さえて音を止めた。 で……気づいたが、どうやらそれは金かなんかで出来ているようだった。 ……金でも、ここまで薄めればこんな音出すのか……?───っと、それよりも。 悠介 「みさお?おいみさおっ!」 みさお「あぅわぅあうあうあう……」 悠介 「あー……」 ダメだこりゃ……完全に目ぇ回してる。 キツケでもするか?……なにで? 悠介 「水……は、可哀相だな。いいや、担いでいこう。同じ場所に居させるのは危険だ」 みさおの体をヒョイと抱え上げて肩に引っ掛けるように持つと、俺は先へと─── 悠介 「……先って何処だ?」 ……まいったな、いきなり行き詰まりか? いやいやそんなことはあってはならない。 これはダンジョン名物行き詰まりなどでは───……あるんだろうなぁ。 悠介 「まずは壁でも調べるか。コイルは全部点ってるからコイルはもう関係ないだろう」 消すって方法もあるだろうけど消す方法が無いからどうにもならない。 それを知っているからこそ歩きだし、壁や天井を次々と調べていった。 ───……。 ……で。 悠介 「……見つけたのはこの穴だけか」 壁には大きな穴があった。 穴というより窪みと言った方がいいが、 どうにも何かしらの仕掛けがありそうだと感じた。 悠介 (何かを嵌めるってことか?だけどもうアイテムのようなものは無かった筈だが) 困ったな、どうしたものか───って 悠介 (……まてよ?) そうだ、さっきの金のタライ。 出てきた時は呆れたものだが、ダンジョンにあって無意味なものなど無い筈だ。 俺は一度頷くとタライがあった場所まで戻り、 タライを手にすると窪みのある壁の前まで戻ってきた。 悠介 「……どうだ?」 タライを持ち上げて壁の窪みに押し込んでみる。 すると───ゴコッ、という音とともにそれが合わさった。 悠介 「おっ……」 ガコォンッッ!! 悠介 「オワッ!?」 喜びが体の中に通った途端に地震が起きた。 それとともに嵌めたタライは押し出され、 けれどその窪みがあった壁は左右に分かれて道が出来る。 一応───先は見えたな。 みさお「うう……?」 悠介 「っと、起きたか?」 みさお「……頭がガンガンします……」 悠介 「二日酔いののんだくれかお前は」 みさお「うぅ……ひどいですよぅ……」 悠介 「気にするな。ほら、自分で立てるか?」 みさお「………」 みさおは何も返さなかった。 その代わりに俺の背中に回って首に腕を回すと、 負ぶさるような状態でギュ〜ッと力を込めて抱きついてきた。 ……ようするにこのままでいいってことか。 べつに軽すぎるくらいだからいいんだが。 悠介 「じゃあ行くぞ。眠れるようなら眠っててもいいから」 みさお「はい……」 みさおにそう言うと俺は歩き出した。 さて……次はどういう場所だろうな。 ───……。 ……なんて穏やかに考えていた思考は、次の部屋から先の先まで悉く潰されることになる。 バチバチバチバチィイイイッ!!!! みさお「しゃぎゃああああーーーーーーっ!!!!!」 悠介 「ば、ばかっ!そこらへんのものに触るなって言っただろうがっ!」 ───……。 みさお「悠介さん悠介さん!道がありませんよ!?」 悠介 「そういう時はタライだ!窪みのある壁が何処かにある筈だ!」 みさお「あ、いえ、それはもう見つけてるんですけど。     タライが嵌まる窪みとは思えませんよ?」 悠介 「じゃあ他のアイテムを探すぞ!片っ端からコイルに電気を通していく!」 みさお「は、はいっ!」 ───……。 ヂリヂリヂリヂリ……!! みさお「悠介さぁん……狭い部屋で電気だらけだと熱いです……」 悠介 「考えろ……!考えるんだ……!ここから先に進む方法とはなんだ……!?」 みさお「聞いてませんね……。あの、悠介さん?     もしかしてそこの壁に書いてあった文字に何かの意味があるんじゃないですか?」 悠介 「壁の文字って……     『円を描くものが鍵だとは限らぬ。      その姿は様々であり、記憶されたものである』……だろ?     姿が様々っていうわりには形なんて変えないぞ、これ」 みさお「うー……こういう時に彰衛門さんが居たら、     どういう方法を考えつきますかね……」 悠介 「電気っていったらあいつの中じゃあエネルだろ。     で、エネルで金っていったら───……あ」 みさお「悠介さん?」 悠介 「……盲点だ。そっか……そうだよな。     ここは雷の精霊の洞窟であり、     無駄な会話イベントが無ければ必要な道具が洞窟にあることになる。     ってことはだ。“グニンティール!───雷 治 金(グローム・パドリング)”!!」 みさお「わっ!タライが形を変えました!」 悠介 「雷で形を変えるタライか……これはこれで貴重な道具だよな……」 ───……。 悠介 「だぁああーーーーーっ!!解らんっ!!どうすりゃいいんだこれは!!」 みさお「落ち着いてください悠介さん!     ……ていうか悠介さんってジグソーパズル苦手なんですか?」 悠介 「………」 みさお「図星ですか……」 悠介 「こんな場所にパズル仕掛けがあるのが悪いっ!!」 みさお「意外すぎますね……バラバラのイメージをひとつにして創造するのが得意なのに、     どうしてバラバラのものをひとつのものに纏めるパズルが苦手なんですか」 ───……。 みさお「えっと……ここはどう進めばいいんでしょうかね」 悠介 「円を模した石版はあるが、石版自体に意味は無し。     というと円───タライの形でなにかをしろってことだろ」 みさお「あ、なるほど。それで悠介さん、タライっていえばなんですか?」 悠介 「洗濯」(キッパリ) みさお「いつの時代の人ですか!」 悠介 「馬鹿お前!洗濯っていったらコレと洗濯板が普通だったんだぞ!?     お前らが変わりすぎたんだたわけ!」 みさお「そ、そんなこと言ってる場合じゃないです!そんなことより───」 悠介 「そんなこと!?そんなこととはどういうことだキサマ!!     旧時代の恩恵を馬鹿にするのか!?     地盤が無ければ洗濯のせの字も知ることが無かった新時代の小童が!!」 みさお「あ、あの悠介さん!?今は時代がどうとか言ってる場合じゃ───」 悠介 「過去のことなんて聞きたくないってのか!?貴様は何処で育った!!     この時代に染まってしまったなら今から性根を叩き直してやる!!」 みさお「あぁあーーーーーっ!!墓穴掘りましたぁああーーーーっ!!」 ───……。 みさお「うぅ……疲れました……」 悠介 「なるほどな、タライの音に反応して開く扉か。     それは解るんだがな、なにも俺を叩くことはないだろ……」 みさお「悠介さんがキレたりするからですよ!     熱くなって全然話を聞いてくれなかったんじゃないですか!」 悠介 「過去育ちのお前が過去を否定するようなことを言ったからだろうが!」 みさお「タライから話をあそこまで伸ばせる方がどうかしてるんですよ!」 ───……。 みさお「はぁ……はぁ……ど、どれだけ続くんですかこのダンジョン……」 悠介 「だらしがないぞ、これくらいで。運動不足なんじゃないか?」 みさお「悠介さんを基準にすれば誰だって運動不足になりますよ!!」 悠介 「落ち着け、まず落ち着け。     三番目の部屋で『わたしも謎解きやりたいです』って言って、     背中から降りたのはお前だろ?」 みさお「そうですけど……でも運動云々とは関係ありません。     これだけ長いダンジョンを歩いたり考えたりした疲労を     悠介さんを基準に考えれば、誰だって疲れるに決まってます」 悠介 「だから。それが運動不足だって言ってるんだ。     つまり俺と同じくらい運動すれば平気だったってことだろ?」 みさお「……悠介さん、多分自分の運動量を完全にナメとりますよ。     大体悠介さんが『小さい頃に筋肉を発達させるな』って言ったんじゃないですか」 悠介 「それは……ん、そうだな。じゃあどうする?また負ぶさるか?」 みさお「……いえ、このままでいいです」 悠介 「なんだかんだで負けず嫌いだよな、お前」 ───……。 【ケース88:ヤムベリング=ホトマシー/退屈】 うろうろうろうろ…… ベリー「……暇だわ」 悠介たちがチャイルドエデンに入ってから軽く一時間。 こうしてボ〜ッと待っているのは正直疲れるわたし。 だからって何処かで暇を潰すわけにもいかないし、 けどチャイルドエデンに侵入すれば悠介のアイアンクローが待ってるだろうし。 アレ痛いのよね。それで終わらずに持ち上げるもんだから首がメキメキ痛むし。 ベリー「……はぁ。これからどうしよっかなぁ……」 声  「おいらの話相手になるモミアゲ」 ベリー「却下」 声  「そんな顔も見ずにモミアゲ!?     貴様おいらを甞めると大変なことになるモミアゲ!」 ベリー「ていうかさ、キミ、溶けてなかったっけ?」 いい加減耳元でギャースカ喚かれるのが嫌だったから、ついっと声のするほうに向き直る。 智英 「やっとこっち向いたモミアゲ。     もう少し遅かったら生爪を剥がしていたところだモミアゲ」 ベリー「………」 なんていうかこう……悠介の気持ちが少し解った気が。 ちょっと事情は違うと思うけど、モミアゲモミアゲ言われるのはやたらとムカツクものだ。 語尾がモミアゲってだけだって解っているものの、 まるでわたしがモミアゲだって言われてるみたいで癪に障る。 智英 「だんまりモミアゲ?ところでここにモミアゲ死神は居るモミアゲ?     人型の牛ヅラモンスターに追われながら全力疾走したらここに着いたモミアゲ。     でも貴様は居たけどモミアゲ死神が居ないモミアゲ」 ベリー「………」 声  「私も誰が何処に居るのか興味がありますね」 ベリー「───!?」 聞こえた声に向き直る。 馬鹿な───足音なんて聞こえなかったのに───!! 荒焼き「やあ」 メゴシャア!! 荒焼き「ハゴベェエーーーーーーッ!!!!」 容赦なく浮遊するタイヤキを殴りつけた。 浮いてるんじゃあ足音なんて聞こえるわけなかった。 タイヤキはキリモミしつつ口からアンコ吐いてドチャリと大地に沈んだ。 さらにエレエレとアンコを垂れ流すと、ピクピクと痙攣した。 ベリー「うぅわ弱ッ!!」 魔術師や魔導術師の腕力なんて魔導を込めなきゃ大したことないのに、 それでも拳一発で動かなくなるタイヤキって……。 ベリー「なんだか棒人間思い出すわ……」 智英 「神界以外の人物はみんな暴力的なのかモミアゲ?     それとも全世界共通で暴力的なのかモミアゲ?」 ベリー「全世界共通でしょ、それは。神界のカミサマたちは傲慢らしいから」 人それぞれ……というか神それぞれだけどね、と付け足す。 智英 「確かに神界にも碌なヤツは居なかったモミアゲ。     思えば散々殴られたモミアゲ……」 ベリー「………」 智英 「それにしても貴様はここでなにやってるんだモミアゲ?     もしかして置いてけぼりくらったのかモミアゲ?」 ベリー「…………」 智英 「ん?モミアゲ。なにか言ったらどうだモミアゲ?」 ベリー「うがぁあああああっ!!!」 ベパァンッ!! 智英 「モミッ!?な、なにしやがるこのブタ野郎モミアゲ!!     いきなり裏拳なんて反則だぞモミアゲ!!」 ベリー「やっぱりむかつく!!いっぺん死ねモミアゲ馬鹿!!     わたしはモミアゲじゃないしブタでも野郎でもないわぁあああーーーーっ!!!」 智英 「ケトケトケトケトケト!!!怒るってことは図星だモミアゲ!!図星───」 ベリー「“災いの氷牙(アイシクルディザスタ)ァアアアアアアアッ”!!!!」 智英 「ウギャアモミアゲェエーーーーーーッ!!!!」 ───……。 Next Menu back