───FantasticFantasia-Set41/雷の精霊ニーディア───
【ケース91:晦悠介/シンボル・雷】 ガキリ……カキ、キン……───ガコォンッ。 みさお「はー……終わりましたよー」 悠介 「はぁ……悪い、助かった」 雷の精霊の聖堂への道はとても困難なものだった。 ようやく開けた聖堂への道を見るに至り、 俺とみさおは大きく溜め息を吐かずにはいられない。 ようするに疲れた。 みさおが居なければまずここに来れなかったな……。 分析すれば一発だったんだが、それも反則な気がした。 ……既にボルトリングの分析をした言葉とは思えないが、 使い方が解らなかったんだから仕方が無い。 みさお「やっと聖堂ですよ……もうダンジョンの攻略なんてしたくないです……」 悠介 「ヒントが無く、訳解らん謎解きほど面倒でむかつくものはないな……」 ともあれようやく雷の精霊の聖堂へ辿り着いた。 広い空間の中心にある石碑が、それを確信させる。 石碑を見たあとにゆっくりとみさおを見下ろすと、みさおはコクリと頷いた。 それは『ここで待ってますから』という頷きに他ならなかった。 それを確認してから石碑へと歩き、石碑と石碑周辺に差し込む光の中へと入った。 声  『───よく来た、強者よ』 ビヂィッ!!ドォンッ!! 悠介 「っ……!?」 突然聞こえた声とともに、石碑の前に何かが物凄い速度で降り立った。 瞬間的に白煙さえも巻き上げるその勢いと速さは相当。 俺は降り立った存在から目を逸らすことなく真っ直ぐに見る。 ……やがて白煙が散る頃、俺はただ驚いた。 そこには……雷を帯びた獣が存在していたからだ。 雷獣 『我が名は雷の精霊ニーディア。強者よ、貴様は何を望む』 その姿は雄ライオンのようだった。 だが体自身が───否。まるで体毛が雷で出来ているような存在だった。 (たてがみ)
は目に見えて弾けるようにバヂバヂと弾け、 体全てに存在する体毛は高熱を帯びた青白い災厄のようだった。 そんな存在に驚いたが、それでも俺は真っ直ぐに前を向いて口を開いた。 悠介   「『守りたいもの』を『守れるもの』にするためにお前の力を貸してほしい」 ニーディア『───……』 雷獣が俺をジッと見つめる。 目を見て、体を見て、さらに俺の中を見るように凝視した。 やがて───雷獣は薄く笑うと光へと変わった。 雷光 『いいだろう。お前と我は相性がいいようだ。     わざわざ戦う必要もあるまい、お前の力となろう』 悠介 「え───いいのか?」 雷光 『お前の中には【雷の素質】がある。因果に近いものだな。     どういう生き方をしてきたかは解らんが、     恐らくそれがお前のシンボルなのだろう。     お前の最高の一撃は【雷】によるものだろう?解っているぞ。     ならばお前の傍は我が住みやすく、上を目指しやすい環境だ。拒む必要などない』 悠介 「───……」 驚いた。 俺の中まで見られているような感覚はあったが、 実際に俺の中の雷───“架空・雷迅槍(ヴィジャヤ)”を見い出すなんて。 雷光 『お前の在り方の大半は雷との因果だ。だがお前はそれを拒んではいない。     我はそれを嬉しく思う。故に、お前の力になることを契約しよう』 雷光が俺の額の中へと消えてゆく。 それと同時に右手の人差し指に青白い指輪が出現した。 悠介 「……なんか拍子抜けだ。絶対に戦うことになるって思ってたのに」 みさお「そうですね……でも良かったじゃないですか。戦わずに認められたってことです」 悠介 「そうだけどな。けど……そっか、俺のシンボル───在り方の大半は雷か」 確かに雷は馴染み深いものではある。 元々はルナの勘違いから始まった月鳴の捌き。 逝屠と出会うことで高まった雷の理。 黄昏を創造、ヴィジャヤを完成させることでさらに高まった雷との因果。 それはもう随分と長い付き合いとなる理だ。 悠介 「………」 小さく、手の平に雷を弾けさせた。 すると不思議なくらいに心が穏やかになるのを感じた。 悠介 「……戻るか」 みさお「はいっ」 みさおに向き直ると、石碑に背を向けて歩き出した。 あとは光の精霊と闇の精霊と無の精霊だ。 けど俺は闇の精霊とは彰利が契約するって信じてる。 だから俺の中に残っている目的は、もう光の精霊と無の精霊との契約だけだ。 何処に居るのかは解らないが、頑張ろう。 無の精霊と契約することが出来れば、融合してしまったやつらを元に戻すことが出来る。 もし全てが終わったら、バハムートだけじゃなく四飛竜も元に戻そう。 戦いが終われば『役に立ちたい』なんて意思は必要じゃなくなるのだから、 あいつらが一体に融合している理由なんて無くなる。 悠介 「もう少し……だな」 みさお「目的はよく解りませんけど……頑張りましょうね」 小さく苦笑しながら来た道を戻った。 ───で、そこで俺達はある事実に気づいてしまった。 謎解きで苦労した割に、 ただ戻るだけだとてんで時間がかからなかった事実に。 ……RPGのこういうところってほんとむかつくよな……。 謎解きで削った時間を返してくれ……。 ───……。 ……。 地価聖堂を抜ける際、猫になってから外へ出た。 一応警報は鳴らなかったようで一安心だ。 カルナ「終わったのか?」 地価聖堂の出入り口では七草が待機していた。 なんだかんだで心配してくれたようだが、 戦いらしい戦いもなかったので心配には及ばない。 ……疲れたのは事実だが。 世界猫「ああ、契約は無事終了だ。というわけで俺達は先を急ぐんで」 カルナ「って、もう行くのか?少しは落ち着いていったらどうだ?」 世界猫「時間が無い。光の精霊が何処に居るのか確定できてるなら休めもするけど、     探すしかないんだからゆっくりなんてしてられない」 カルナ「光の精霊……あぁ、ノヴァルシオのラピュウタか。     見えない浮遊島なんて反則だよな、俺も一度は見てみたいって思ってたんだけど」 光の精霊と聞いた時の七草の表情はなんとも微妙なものだった。 恐らく、それがどれほど発見できないものなのかを知っているのだろう。 世界猫「じゃあ、俺達はもう行くから。番人頑張ってくれな」 カルナ「言われるまでもないさ。そっちこそ頑張れよ」 世界猫「……?ああ、なるほど」 ……言われてみれば、確かに言われるまでもなかった。 もう既に頑張ってるんだから頑張れって言われても困る。 そうして、苦笑を漏らしながらチャイルドエデンをあとにした。 ───……。 ……さて。エデンの門を抜け、人型に戻った時、俺の拳は確かに唸りをあげた。 智英 「おかえりモミアゲ〜!」 ドブルバァアンッ!! 智英 「モミャアアアアアーーーッ!!!!」 確かな手応えを感じた俺は、ベリーをキッと睨んだ。 ベリー「えっ───やっ!ちがっ!違うよ!?わたしが呼んだんじゃないってば!!     なんか追ってきたの!ほんとだよ!?わたし悪くないもん!!」 智英 「ケトケトケト……サワヤカに迎えて     油断したところで生爪剥がす作戦は失敗かモミアゲ。     なかなか隙を見せないモミアゲだモミアゲ。     モミアゲがセクシーなだけはあるモミアゲ」 悠介 「“憤慨せし雷光の一撃(インディグネイション)ッ”!!!」 ガガァッ!!ゴロロゴバッシャァアアアアアアアンッ!!!!! 智英 「モギャァアアアアアアオオオオオオオオオオッ!!!!」 契約したばかりの指輪から雷獣が出るとともに、モミアゲ馬鹿が黒コゲになった。 ところどころは燃えていて、パチパチと焼けながらピクリとも動かなくなる。 みさお「う、うあぁ……」 ベリー「け、契約成功したんだ……はは……。     お願いだから……わ、わたしにはコレ使わないでね……?     こんなのくらったら生きていられないわ……」 悠介 「………」 実は俺自身相当に驚いていたりする。 もし戦うことになっていたとしたら、相当に苦戦してたんじゃないかと本気で思う。 溜めも無しに放たれた雷撃だが、威力がハンパじゃない。 ヴィジャヤとまではいかないものの、それに近い威力を溜めも無しに放てるなんて相当だ。 悠介 「……考えるのはまた今度でいいか。で、ベリー?次は光の精霊なんだよな」 ベリー「え?闇の精霊は?行かないの?」 悠介 「だから……闇の精霊は彰利が契約するって。     あいつはやる時はやる男だ、きっと今頃契約出来てる」 ベリー「そうかしらねぇ……絶対に無理だと思うけど」 みさお「……わたしとしては複雑ですけどね」 そうかもしれない。 みさおにとっては、結局のところなんの説明もなく追い出されたようなものだし。 ───なんてことを思ったときだった。 声  《フフフ……何が複雑だって……?》 みさお「!?だ、誰ですか!?」 突然聞こえてきたくぐもった声にみさおが驚く。 辺りを見渡し、だがそれでも見つからない。 見えるのは草原とエデンの城壁に、 ベリーや俺や黒コゲ丸やニーディア、それに遠くで空を泳いでいる荒焼きくらいだ。 ……って、あいつも無事だったのかよ。 そもそも砕けたし、謎漢にしてみれば溶けた筈だったんだが……。 声    《フハハ!何処を見ている!》 みさお  「卑怯ですよ!姿を見せなさい!」 悠介   「…………ニーディア、あのタイヤキだ。やっちまえ」 ニーディア『承知』 ギガァッ!!ゴロロロ─── 荒焼き「おや?」 雷が落ちる寸前、荒焼きが首を……というか顔面を傾げた。 で、次の瞬間には雷が落下してゴロロガバッシャァアアアアアアンッ!!!! 荒焼き「〜〜〜〜───!!」 放つ叫びすら声にもならず、刹那に黒コゲ丸二号になった。 悠介 「……変だな、荒焼きの口の中にでも居ると思ったのに。     彰利〜?遊んでないで出てこい〜」 みさお「……確信も無いのにあの雷撃に撃たれたんですか……。     不死身とはいえ、災難すぎますね荒焼きさん……」 みさおが白目をむいて黒コゲな荒焼きをツンツンと突付いた。 もちろん反応は無い。 だがその影から、ズズズ……と人影が伸びてくる。 それは人の形をとると───彰利になった。 彰利 「ィヤッホゥッ!!」 で、形を取った途端にウォーマシンの真似だ。 どうやったのかは知らんが、平穏無事ではあるらしい。 悠介 「で、どうだったんだ?その様子からすると───」 彰利 「へ?あぁもうなんじゃい、     もしかしてオイラが精霊と契約しようとしてたこと、バレてんの?」 みさお「暴露しました。それよりも彰衛門さん、答えてください。彰衛門さんは───」 彰利 「オウヨ!闇の精霊と契約してまいりました!!     しかも闇の結晶っつーアイテムも手に入れたからさ!     ホレ!じっちゃんに宝玉作ってもらっちゃった!!」 ベリー「……うぇえ……?契約、出来ちゃったの?」 彰利 「オウヨ!!……まあ仮契約ってことになってるけど。     証拠を見せましょうか!?見せましょう!つーか見ろオラ!!     弦月彰利の名において命じます!お出でなさい!シェイド!」 彰利が口早に指輪が鈍く光る手を高く上げると、闇色の指輪に黒い光が瞬く。 それとともに、やがてそれは現れた───!! ルヒド「呼んだかい?」 彰利 「お前なんぞ呼んじゃいねぇ!!失せろボケッ!!」 ルヒド「あはは、ちょっとした冗談じゃないか。そう怒らないでほしいな」 言うだけ言ってシェイドは姿を消した。 ……何しに来たんだ? シェイド『あまり遊ぶな。我は遊び道具でも見世物でもないぞ』 ───と、ふと気づけば虚空に真っ黒な姿の騎士が居た。 黒い鎧、黒い姿をしたそいつは本当に『闇の精霊』という言葉が合っていた。 シェイド『───貴様が晦悠介か。      仮の主の精神による知識はあるが、(まみ)えるのは初めてだな』 悠介  「ん───そうだな。よろしく」 シェイド『……変わった男だ。仮とはいえ、契約しているのは貴様の親友とやらとだ。      貴様が我に【よろしく】と言う理由は無いと思うが?』 悠介  「そうか?だったらそれでもいい。言いたかったから言っただけだ」 シェイド『……おかしなヤツだ、仮の主と諸共に』 ほっとけ。 シェイド『しかし───ふむ、なるほど。確かに仮の主の思う通りだ。      これほどまでに立派なモミアゲは見たことが───』 ゾワァッ!! シェイド『っ!?あ───いや、その、なんだ。落ち着け、悪く言っているわけではない。      その飛び出た角と尾、それぞれに金色と緋に染まった髪と目を元に戻せ』 悠介  「………」 謎漢の所為でモミアゲという言葉に嫌なくらいに敏感になってしまったらしい…… 無意識に神魔竜人化していた俺は、状態を元に戻して息を大きく吐いた。 シェイド(……仮の主よ。貴様、本当にあの男を守りたいのか……?      守りなど必要無さそうなほどに強者のようだが……) 彰利  (いや……そこでキミに怯えられると俺、マジで泣けてくるんですけど……) シェイド(怯えているわけではない。ただ、これほど早くに      精霊達があいつとともに在ることを望んだ理由が解った気がした。      あの男の傍は酷く落ち着く。精霊が好む環境の全てが整っているのだ。      魔力にしろ心の在り方にしろ───ああ、存在の大半が好ましい。      仮の主、あの男は人よりも人外の存在に好かれやすいだろう) 彰利  (む。まさに。どうしてかね、昔ッからそうなんよ) シェイド(それは精霊があの男の傍を好む理由と同じだ。あの男にはそれが揃っている。      人より動物、動物より人外。人にやさしくはないが、      それ以外には普通以上に接することが出来る存在だからだろうな) 彰利  (……それって、ちっさい頃ルナっちに会ったり、      死神の方のシェイドにいじくられたからかね。      成長してからもルナっちやセレっちと一緒に居ることも多かったし、      今ではゼノも居るし───……なるほど。      悠介って確かに人との交流よりも死神だのなんだのの方との交流が多いわ) 悠介  「……?なんだよ、人の顔見ながら内緒話は意地が悪いぞ」 彰利  「ほっ?ほっほっほ、ちょほいと待っといで!」 ……何を話してるのかは解らんが、ヒソヒソ話されて笑われるのは嫌な気分になるもんだ。 悠介 「……あー……で、一応闇の精霊とは契約出来てるみたいだけど。     何処から見えない島を探す?」 ベリー「普通に考えれば───ノヴァルシオがあった場所。     つまりサウザーントレンドだけど……」 悠介 「そか。じゃあ行くか」 みさお「今すぐですか?休む間も無く……?」 悠介 「休むのは浮遊島の場所を確定できてからでいいだろ」 もっとも休むつもりは毛頭無いが。 みさお「なんだかんだで、悠介さんって空界に来てからタガが外れていますよね……」 悠介 「引っかかる言い方だな、おい……」 彰利 「おーしゃあ!会話終了!目的地を教えれ!強くなった俺の力、見せてやるぜ〜!」 悠介 「そういう風に言うやつって大体が真っ先に死ぬよな」 彰利 「うっさいわい!!解ってて言ってんだからほっといてよもう!!」 小さな言い合いをしながら、自然と笑った。 結局俺は───こいつの傍が一番笑っていられるようだ。 智英 「おいらも行くぜ〜〜〜〜っ!!モミアゲ!!」 荒焼き「お供しましょう、地獄の果てまでも。     そして貴方から変態オカマホモコンの称号と冥月刀を頂きます」 彰利 「………」 ……おお、彰利が困惑しとる。 貴重だ。 彰利 「えっとさ、こいつら何者?」 悠介 「……こっちのモミアゲ馬鹿が山岡智英。繰り返すがモミアゲ馬鹿だ。     で、こっちのタイヤキが泳げ荒焼きくんだそうだ。双方ともに不死身だ」 彰利 「………」 おお、彰利が戸惑ってる。 貴重だ。 悠介 「というかさ、お前ら黒コゲになった筈だろ?     不死身だからってどうして体が元通りになるんだ?」 荒焼き「やれやれこれだから無知な方は……」 智英 「素晴らしいのはモミアゲだけかモミアゲ。     きっとモミアゲに栄養奪われてるんだモミアゲ」 悠介 「……とまあ、何の断りもなく土足で逆鱗を踏みつける野郎どもだ」 ドゴシャァアアアアアアンッ!!!ガガガガォオオオオオオンッ!!!!! 荒焼き&智英『ギョエェエエエエーーーーーーーッ!!!!!』 彰利に説明してる間、ニーディアが雷撃波動砲を口から放ってふたり(?)を黒コゲにした。 悠介 「それと、今は撒いてあるけどもう一体、     メルヘンメルヘン言う妖精が何処かに居るから気をつけろ」 彰利 「おっ……妖精とな!?どんなんどんなん!?     やっぱ小さなおなごの姿だった!?かわいかった!?」 悠介 「………」 みさお「………」 彰利 「あ、あれ?どうしたんだよふたりとも。あ、もしかして俺だけには教えない気か?     ケチケチすんなよぉ、俺達の仲じゃん。     みさおに言ったことも謝るからさ、な?このとーり!!」 悠介 「……み、みさお、ほらっ、言ってやれよっ……」 みさお「な、なに言い出すんですかっ……!     悠介さんこそ親友ならキッパリと真実を……!」 彰利 「けど『メルヘン』か〜。     そんなこと口にするってことは、よっぽどメルヘンチックなんだろうな〜。     会ってみたいよ俺!……って、なんでふたりとも哀れみの目で泣いてんの?」 悠介 「い、いやっ……それよりな、彰利……」 俺はきょとんとする彰利の肩にポムと手を乗せて、深呼吸してから言葉を放った。 悠介 「夢は、夢のままの方がいい時だってあるんだ……」 彰利 「?……なんじゃいそれ」 解ってもらえなかった。 だが忠告はした……これでももし彰利がメルヘンに出合ったとしたら、 その時こそ理解してくれるだろう。 今の俺とみさおの気持ちも、今言った言葉の意味も。 悠介 「じゃ……行くか……」 みさお「行きましょうか……」 ベリー「そうね……」 彰利 「え……え?ちょ、なんでみんなそんなに暗い顔してんの!?     俺なんか言っちゃいけないこと言ったっけ!?     俺ただ妖精を見てみたいって言っただけだよね!?」 それこそがタブ−だったことを知らない彰利が、今はただ羨ましかった。 俺もな……夢を夢のままにしておきたかったよ……。 彰利   「あっと……悠介、ちょっと話があるんだけど……いいか?」 悠介   「?なんだよ改まったりして。って、他のヤツには聞かれたくないことか?」 彰利   「いや、聞かれてもいいけどまずお前に話しておきたい。アカン?」 悠介   「なんでそこで関西弁風になるのかは解らんが、悪いってことはない。       ちょっと向こうで話すか。       ニーディア、ちょっと話をしてくるから、あいつら近寄らせないでくれ」 ニーディア『了解だ、マスター』 悠介   「……なんでみんなマスターって呼ぶんだろうなぁ」 謎だった。 けどまあそれはまたいつか直してもらうとして、まずは彰利の話を聞こう。 ───……。 ……。 悠介 「───それで、どした?」 みさおやベリーから離れた俺は、一緒に来た彰利に話の先を促した。 彰利は……なんだかいつもの元気を無くし、ただ申し訳無さそうな顔をしている。 それでも一度頷くと、重たげにしていた口を開いた。 彰利 「えっと……な。この時代の地界、あるだろ?」 悠介 「ああ」 彰利 「そこのみんなから、俺と悠介の記憶だけを消した───って言ったら怒るか?」 悠介 「なんでさ」 彰利 「へ?あ、いや……なんでって……勝手に記憶消したんだぞ?     もっとこう……『なにやってんじゃいオラー』くらいないの?」 悠介 「アホゥかお前は……元々未来の時代を捨てて、過去の俺と融合したのは俺だぞ?     今さら未来のことがどうとかっていう未練は無い。     何度も言わせるなよ。俺は、お前にとことん付き合うって言ったんだぞ?     その対象は『弦月彰利』であって、未来に生きる大多数のことじゃない」 彰利 「……な、なんだそりゃ……───っはぁあ〜〜……なんかどっと疲れたわ……。     なんかほんとアホゥだな俺……殴られる覚悟まで決めてたってのに」 悠介 「そうなのか?じゃあせっかくだから、     神魔竜人力限界まで引き出して気持ちいいの一発かまそうか?」 彰利 「死ぬわっ!回復する間も無く死ぬわっ!!」 さすがに冗談だが。 悠介 「とにかく。遠慮なんて今さらだ。付き合うって決めたからには半端は無しだし、     お前がそうと決めたなら俺もそれに付き合うだけだ。     まあ、だからって自分の意思を殺すようなことはしない。     前にも言ったけど『これはダメだ』って思ったら全力で否定するからな」 彰利 「オウヨ!どんと来い!」 悠介 「けどな、理由くらいは聞かせろ。     どうして今になって記憶を消そうって思った?やっぱ篠瀬か?」 彰利 「うぐっ……な、なんで解った!?」 悠介 「……あのな、お前が未来のことで悩むっていったら篠瀬のことくらいだろ。     大方、神社に行ってみたら篠瀬に泣き付かれたとか、そんなところだな」 彰利 「ゲッ……あ、あの……キミさ、予言とか出来たりする?」 悠介 「予言は出来んが予測は出来る。それだけだ」 彰利 「キミさ、親友である俺が言うのもなんだけどほとほと人間超越してるよね」 悠介 「ほっとけ……最近、段々と判断基準が空界寄りになってる自分に呆れてんだ……」 彰利 「それって強さの平均基準をミノタウロスに喩えるくらいに空界寄りってやつ?」 悠介 「………」 彰利 「や、返事してくれんと……そこで黙られるとさすがにフォローできんわ俺……」 流石にミノタウロスが基準ってことはないが、 もはや地界のチンピラが平均だなんて思えなくなってしまっている。 悠介 「段々、迫りつつある自分が怖い……」 彰利 「気ィ落とすなYO〜、楽しく行こうぜ親友よ。     俺達の戦いは───まだ始まったばかりだ!」 悠介 「どこぞの打ち切り漫画みたいな言葉で励ますのはやめてくれ」 そもそも励ましになってないぞそれ。 悠介 「それはそれとしてだ。     ともかくこの時代の地界の連中からは俺達の記憶を消したんだよな?     俺と、お前に関する記憶だけを」 彰利 「オウヨ。俺達が居なけりゃ解決には向かわなかったことも、     あいつらの脳が勝手に穴埋めしてくれると思う。     写真には残っちまうが……     そこんところは心霊写真扱いを受けることを覚悟しようぜ親友」 嫌な覚悟をしなければいけないようだった。 けどまあやっぱり大多数よりもこいつの考えを優先するあたり、 俺も存外に甘いんだと思う。 悠介 「じゃ、解決したことだし行くか」 彰利 「何を以って解決と断ずるかね、この状況……」 悠介 「考えたって仕方ないから強引に決める。その方が俺達らしくていいだろ」 彰利 「む。そりゃ確かに」 悠介 「けどそっか、地界のやつらが俺たちのことを忘れたんなら、     この時代の空界に直接俺達の時代を繋げてもらうかな……」 彰利 「……マジですか?」 悠介 「リヴァイアの記憶は消してないんだろ?だったらなんとかしてもらおう。     未来の地界に用は無くなったけど、未来の空界には用がある。     王なんてものはやめちまっていいと思うけど───     それでも後釜が見つかるまではそれでいいかもしれない。     まあそれにしたって竜族の王になっちまったものはしょうがないんだが」 彰利 「あ……あっちゃぁ……そういや国王は後釜に任せられっけど、     竜族の王はそうはいかんもんなぁ……どうすんのキミ」 それを前からずっと悩んでたんだが。 結局どうするかは─── 悠介 「───よし」 一度コクリと頷いて屠竜剣を抜くと、 剣と柄の間に嵌まっている皇竜珠をココンと小突いた。 ディルゼイルの反応は早く、小突いた次の瞬間にはもう翼を翻して地面に降り立っていた。 ディル『どうしたのだ王。何処かへ飛ぶのか?』 悠介 「いや、竜族のことでちと相談。     もし俺がこの時代の空界に来なくなったとしたら、竜族はどうなる?」 ディル『───……私のみに答えを望むのならば、答えは【どうともならん】だ。     竜族は王を慕ってはいるが、特別王に何かをしてほしいと望むことはない。     王は王ではあるが、それと同時に自由な存在でもある。     竜族は王が居るからといって、その王に全てを押し付けるわけではないのだから』 悠介 「……じゃあ、俺が居なくても困らないってことか?」 ディル『結論を言えばそうだ。     この世界に癒しが齎された以上、竜族は再び繁栄の軌道を進むだろう。     あとは人間どもやモンスターどもがそれを脅かさねばいい。     この時代で王に何かを望むのならば、     ただそれだけを人間に言い聞かせてくれればいい』 悠介 「……そっか。人間には人間の、竜族には竜族の領土があればいいんだな?」 ディル『話が解るな、王。既に今の竜族は以前ほど戦を好まん。     人間やモンスターがこちらに敵意を見せない限りは戦いなど起きようもない』 悠介 「……そうか」 だったら安心出来る。 黒竜王さえ倒せば、俺はこの世界をただの思い出の場所に出来るのかもしれない。 王だとかなんだとかをそっちのけで、ひとりのブレイバーとして。 彰利 「人間ってガメツイからねィェ〜、多分金のためなら喜んで禁忌を犯すよ。     たとえば───飛竜の卵が珍味だ〜って噂を聞けば、     どこぞのブレイバーが取ってきて高値で売る、みたいに。     いわゆるモンスターハンターみたいなブレイバー」 悠介 「……そういやブレイバーじゃないけど居たな、そんなヤツ」 まだ棒人間の集落に居るのだろうか。 転移させたままずっと忘れていたが。 悠介 「……よし解った。ありがとう、もう十分だ」 ディル『必要な時はいつでも呼べ』 ディルが皇竜珠へと戻ってゆく。 それを確認すると、俺は彰利へと向き直る。 ───と、彰利はシェイドとなにやら話をしていた。 丁度いい、闇の精霊には聞きたいことがあった。 彰利  「それはそうとシェイちゃん、キミいったいどげなこと出来るの?」 シェイド『シェイちゃんはやめろ、おぞましい。      ───なにが出来るのかと訊かれれば返答し難いものだが、      貴様は身をもって知っているだろう。      あれが全てとは言わないが、闇の操作が大体だ』 彰利  「まあ、そりゃそうだわなぁ」 ムハァと息を吐いて頭を掻く彰利。 俺はその話に横から入るように声をかけた。 悠介  「ちょっといいか?ここからでも光の精霊の居る場所って解るか?」 シェイド『容易い。対極に位置する精霊の居る場所など、      確定することに苦などはあるまい。───すぐに乗り込むのか?』 悠介  「ああ、場所が確定できるならそのつもりだけど」 シェイド『そうか。ではいくぞ』 悠介  「へ?」 シェイドの体から闇が溢れる。 それは鮮やかな球体となり、 俺と彰利、遠くに居るみさおやベリー、ついでに何故か智英や荒焼きまで包み込んだ。 悠介  「いや待て!あいつらは要らん!!あの超次元生命体は捨てておいていいっ!!」 シェイド『一度実行すれば移動が済むまで止められん。      向こうに着いた時に貴様の好きにすればいい。      ああただし───浮遊島は敵だらけだ。好きに出来るだけの余裕があればだが』 彰利  「なんと!?敵だらけとな!?      フフフ……腕が鳴りおるわ!!ど〜んとやったるでぃ!!」 悠介  「って、まさかこのまま浮遊島に突っ込むのか!?」 シェイド『先に訊いた筈だがな、すぐに乗り込むのかと。      場所の確定など我の中ではとうに済んでいる。行くぞ』 悠介  「ちょ、ちょっと待て!ベリーが言ってた方法と全然違───」 シェイド『憶測だけでものを語る魔女に騙されたか?      ああ気にすることはない、些事だろう。それだけの実力があるのなら平気だ』 彰利  「オウヨ〜!!やったろうじゃねぇの悠介!」 悠介  「……楽しそうでいいな、オマエ……」 彰利  「もちろんさ!なにせ、なんだかんだ言っても      お前の傍が一番楽しいって解っちまったからねィェ〜〜ッ!!!      だからオイラは挫けない!クレイジーダイヤモンドは砕けない!」 クレイジーダイヤモンドは関係ないが。 でもな、彰利。 俺もそうやって早まった言葉の所為で後悔すること散々あったぞ……。 シュバルドラインとの戦いがいい例だよ……。 俺は遠くの方で闇の球体に包まれながら、 俺達と同じく飛翔しているベリーやみさおの罵倒を耳にして溜め息を吐いた。 休むんじゃなかったんですかー!とか、行くなら行くって声くらいかけなさいよー!とか。 あぁそうさ……どうせ確認とらなかった俺が悪いのさ……。 そうやって空界で起こること全部俺の所為にすりゃいいさ……。 俺がバカデカいモンスターに襲われやすいのも、 周りがそれに巻きこまれるのも俺の所為さ……。 悠介 「……なんか自分の思考で泣きたくなってきたぞ俺……」 彰利 「なんとかならぁ!」 俺は親友の無責任な励ましに疲労感のどん底に叩き込まれつつ、 闇に包まれながら光の精霊の待つ浮遊島へと向かうのだった……。 Next Menu back