───FantasticFantasia-Set43/空の都へ───
【ケース99:晦悠介(再)/光住まう都市、サーフティール】 ───……辺りを見渡しても、もうゴーレムが現れる様子は無い。 俺は息をゆっくりと吐いて、高ぶりを沈めながら人間の状態に戻った。 悠介 「───?」 そうしてみて初めて、その場に彰利とみさおとベリーが居ることに気がついた。 しかし妙なもので、 みんながみんな俺を見て信じられないものを見た、という顔をしている。 悠介 「……どうかしたのか?───もしかしてまだっ……」 後ろを振り向いてみる───が、べつにゴーレムは居ない。 ……だったらなんだ? 彰利   「キャッ……キャア!あげなところに道が出来てるYO!!       行こうぜ友よ!ボクラの旅はまだ始まったばかりだっぜぇ〜〜い!!」 悠介   「いや、そう思いっきり不自然に叫ばれてもな」 彰利   「いやいやいや、オイラキミの強さにはほとほと驚きましたハイ。       つーか今でも信じられん。       こっちがアルファレイドで一掃しながら潰してた相手に       四方八方から襲われて、ひとりで……しかもほぼ無傷で勝ちますか?普通」 悠介   「いやいやこっちも必死だったから、       どこをどうして勝ったかなんてよく覚えてないんだ。       ルドラの意識を読み込んで、さらに槍で戦ったもんだから興奮状態だったし」 彰利   「いやいやまたまたそげなご謙遜を」 悠介   「いや、謙遜なんかじゃなくて実際にだな」 ベリー  「いやいやいやいやうっさい!道が出来たんだからさっさと行くわよ!?」 悠介&彰利『御意』 ベリー  「……悠介ってさ、ツンツン頭と一緒に居ると性格変わる?」 悠介   「そんな時もある」 ともあれ俺達は大庭園の中央に出現した妙な形の扉を開け、中へと入った。 扉といっても本当に扉だけで、建物にくっついてるなんてことは全然無い。 それなのに、扉を開けた瞬間─── 彰利 「オワッ……」 悠介 「うお……」 みさお「わぁあ……!」 ───その景色は一変した。 シェイド『超古代都市サーフティール。      かつてまだ人々が空に住んでいた頃のまま遺された文明だ。      未だに人が生きているかどうかは解らぬが、      この都市の中央に存在するといわれる塔の先、      光の聖堂の中にウィルオウィスプは居る』 彰利  「オオウ……まるでマジモンの天空の城ラピュタみたいじゃねぇの……」 彰利の言う通りだった。 一面見渡してみても、木やツルがビッシリと根を張る樹木都市のようにしか見えない。 それでも眺めは最高で、むしろこんな場所にこそ住みたいと思うほどだ。 彰利 「し、自然がいっぱいだ……こんな城に住めたらステキだろうなぁ……」 悠介 「幸せいっぱい夢いっぱい……」 彰利 「武田商店敗れたり……って友よ!国崎住人になってる場合じゃねぇ!     さっそく探検だヒャッホーーウィ!!」 悠介 「よっしゃあ行くか!中央の塔を一番最後にして探検しまくるぞ!!」 彰利と勢いよく手を弾き合わせ、早速駆け出す───が。 みさお「ま、待ってください!時間が無いんじゃなかったんですか!?」 みさおに呼び止められた。 悠介 「黙れ組織の犬!!」 みさお「い、いきなりなんてことを!ていうかどこの組織ですか!!」 彰利 「落ち着くのだみさおさん!!……俺達は男、キミはおなご……解るね?」 みさお「……?当たり前じゃないですか」 彰利 「だったらそれが答えだ。さらばじゃーーーーっ!!!!」 俺と彰利は弾けるように駆け出した───が。 みさお「待ってくださいってば!訳が解りませんよ!?」 再びみさおに呼び止められた。 ええい埒が開かん。 悠介 「いいかみさお、これは男には必要なことなんだ。     こんな素晴らしい景色を見せられて     心動かない男が居ようかいいや居まい!!……反語」 みさお「彰衛門さんみたいな文句はいいですから、早く精霊さんに会いましょうよ……。     またあの警備メカが出てきたらどうするんですか?」 彰利 「む───そりゃ確かに。んじゃあ三十分!三十分だけ時間をくれ!     それまでに全て見学して、すぐ戻ってくっからYO!」 みさお「うぅ……ほんとに三十分だけですか……?ウソつきませんか……?」 彰利 「俺がキミにウソをついたことがあるかね!?」 全員 『ある』 彰利 「うわヒッデェ!!シェイちゃん!キミまでそんな!!」 みさお「……解りました。じゃあ三十分だけここで待ちますから。     早く帰ってきてくださいね……?」 彰利 「オウヨ!!」 悠介 「───……ってそっか。なんならみさおも一緒に来るか?」 みさお「え───い、いいんですかっ!?」 彰利 「うおう」 なんとなくの確信をもって言った言葉に、予想以上の反応を示すみさお。 ようするにこいつは『俺達に置いていかれたくなかっただけ』なのだ。 彰利もそれに気づいたのか、みさおを肩車してやると極上ガイアスマイルで微笑んだ。 そんな彰利に俺は目配せをする。 悠介 (……いいな?) 彰利 (……御意) 悠介 「じゃあベリーは智英と荒焼きの面倒よろしくな!散ッ!!」 ドシュンッ!!───口早に言いたいことを言うと、俺と彰利は弾けるように疾駆した。 ベリー「え?あっ、ちょ───!!」 聞こえた困惑の声も微かだ。 俺と彰利はあっという間にベリーの居る場所から遠ざかり、ふたりして笑った。 ───……。 鳥  「ケー、ケー」 鳥が鳴いていた。 空が見える窓型の天井を見上げられる広間には木々が縦横無尽に生え、 だが道の邪魔をしているということがないのは驚いた。 悠介   「……歩けば歩くほど気持ちが安らぐ場所だな……」 彰利   「やべぇ……俺このままここに住みてぇ気分だ……」 みさお  「やめてくださいよ……こんなところに住んだら虫とかに襲われますよ?」 彰利   「何を言うか“バッ(バカ)
”!!この“バッ”!!」 悠介   「虫が嫌なら月聖力で聖域を作ればいいんじゃないか?       いつか彰利が過去の時代で晦神社のご神木に使ってただろ」 みさお  「それはそうですけど……ほんとにここに住みたいって思ってるんですか?」 彰利   「激烈思ってる」 悠介   「心の底から本気で思ってる」 彰利   「畑耕すのもいいよな。ここって空気澄んでるし、水もいっぱいあるし」 悠介   「ああ。分析してみたけど不純物ゼロのいい水だ。       そればかりか微量だけど体にいい栄養素も入ってる」 彰利   「その水で畑耕したり田圃作ったり飯炊いたりしたらおめぇ……なぁ?」 悠介   「なぁ?」 彰利&悠介『あっはっはっはっはっはっはっはぁっ!!』 俺と彰利は顔を見合わせたあと肩を組むようにして肩を叩き合った。 顔がニヤケてしまうんだからしょうがない。 みさお「でも待ってくださいよ。     ここに住むにしても、悠介さんには晦神社があるじゃないですか。     あれはどうするつもりですか?」 悠介 「若葉に譲る。元々俺は貰われ者だし、     あんなことがなければ康彦さんも俺に相続権なんて渡したりしなかった」 みさお「で、でもですよ?そんなこと言ったら     若葉さんと木葉さんは兄妹じゃないって言ってるみたいなものじゃないですか」 彰利 「みさお。悠介が晦の家を任されたってのはな、     康彦さんの気の迷いみたいなもんだったんだよ。俺にゃあそれが解る」 みさお「え……?なんですかそれ……」 悠介 「康彦さんはな、本当に俺への罪悪感だけで相続権を渡しただけなんだよ。     それも、自分が危うくなれば簡単に『死ね』って言っちまうくらいに安いものだ。     それを知った時にな、     何処か神社以上に心の休まる場所が見つかればそこに移ろうとは思ってた」 みさお「………」 みさおは解らないって顔で俺を見下ろした。 俺はそんなみさおに、背伸びをすることで頭をポンと撫でてやる。 悠介 「難しく考えるな。     ようは俺は『絶対にあの神社の子で居たい』とは思ってないってことだ。     ……ていうか彰利よ、いつまで肩車やってる気だ?」 彰利 「ピエロだからさーーーっ!!」 関係ないし質問の答えにもなってない上に見当ハズレな物言いだ。 彰利 「まあよ、まあああよ、いいでないの。     聖さんに忘れられた今となっちゃあ、     俺の娘は正真正銘、みさおしか居ないんだから。     だったら親らしいことのひとつくらいしてやりてぇじゃない?」 悠介 「……ん、それもそうだな」 俺はどこかやさしい気持ちで小さく息を─── みさお「───待ってください。なんですか、それ」 吐こうとして、その言葉に踏みとどまった。 いや、踏みとどまる必要全然無いんだが。 彰利 「んお?キャア、やっちまったYO、話すつもりなかったのにYO」 悠介 「誤魔化そうとするならもっとやる気を見せような、彰利」 みさお「聖ちゃんが彰衛門さんのことを忘れたって……どうして」 彰利 「俺が記憶を消したから。     聖に限らず、未来の地界の皆様からは俺と悠介に関する記憶の全てを消した」 みさお「ど、どうしてっ……!!」 彰利 「ピエロだからさーーーっ!!」 ぼかっ!! 彰利 「アウチ!!」 みさお「答えになってません!どうして!?どうして消したりしたんですか!?」 彰利 「今を遡ること四百年前……俺はひとりの高名な僧に会った。     そのお方の名は『三三胞子(さんぞうほうし)』といい、頭にキノコの生えたお方だった……
〜完〜
みさお「完じゃないです!真面目に話してください!     じゃないと今日からアデランス・イヴクィーンを着けることになりますよ!?」 みさおがグッと彰利のクセ毛を握る。 すると彰利の顔が蒼白になり、必死に『やめれ』と叫ぶ。 みさお「だったら教えてください……。それなりの理由があったんですよね……?」 彰利 「当たり前じゃ。貴様はなにか?     このじいやが大した理由も無く人の記憶を消すとお思いか?」 みさお「そう思ってないから訊いてるんじゃないですか……!     教えてください、お願いします……!」 彰利 「…………少し、歩こうか」 悠介 「歩いてるが」 彰利 「いや、一度言ってみたかったんだ。     なんか別れる間際のカップルみたいでいいじゃん」 悠介 「……地界に戻った時、日余の親父さんがお前らをそうさせないことを祈るよ」 彰利 「ふざけてゴメンナサイ……真面目にやります……」 ともかく歩きながら、俺と彰利はみさおに未来の地界への思いの全てを打ち明けた。 悠介 「みさおも知ってる通り、     俺は彰利と馬鹿やるために未来の晦神社の権利を凍弥と椛に渡した馬鹿野郎だ。     現代に転移する前にいろいろ考えたし、覚悟も決めた。     未練が全く無いって言ったらウソに───ならないと思えるのが不思議だな」 みさお「えぇっ!?み、未練無いんですか!?」 悠介 「あのなぁ、未来の俺はもう普通に考えればジジイだったんだぞ?     のんびり盆栽育てて、茶ァすすって、神主やってるだけの存在だったんだ。     それが馬鹿逝屠の所為でこういう姿のまま残って、元気なままで居られて。     そうなったら神社でボ〜ッとしてるよりも     こいつと一緒になって馬鹿やってた方が楽しいだろう」 みさお「……今思えば───随分と思い切ったことしましたね……」 悠介 「最初に言っておくが後悔は微塵にも無いからな。     未来の地界でやりたいことはもうやったし、     一緒に居たルナだって今じゃ現代の地界に居る。     椛は凍弥と結婚したし、晦神社には多分篠瀬と聖が住むだろ。     だったらほら、俺に関わる物事なんてそれこそ些細だ。     だったら若いうちにやっておきたかったことを     思う存分やってみるのもいいかって思ったんだよ」 みさお「───あの、その『若いうちにやっておきたかったこと』ってなんですか?」 悠介 「……?解らないのか?」 俺は小さく頭を掻くと、みさおの目を見て言ってやった。 悠介 「この馬鹿が居る時間軸で、一緒にいつまでも馬鹿やることだ。文句あるか?」 言葉を放つとともに、俺は自然とニッと笑っていた。 みさおはそんな俺を見て驚きの表情を隠せず、だけど納得した風に頷いた。 みさお「……解りました、悠介さんの方は納得します。     じゃあ彰衛門さん、彰衛門さんはどうなんですか?     べつに彰衛門さんは記憶を消す理由なんて無い筈じゃあ───」 彰利 「ありますよ失礼な。あのね、キミは知らんだろうけど     オイラはシェイちゃんとの戦いの途中で一度地界に行ったのよ。     そこで夜華さんと会った。……どうなったと思う?」 みさお「あの……斬られましたか?やっぱり」 彰利 「泣きつかれた。夜華さんな、すがりつくように泣いたんだ。信じられるか?」 みさお「え───?」 彰利 「見てないから解らないかもしれないけど、夜華さん相当まいってた。     あのままじゃあ精神の方からダメになるって、俺が見ても確信持てるくらいだ。     だから消した。俺と、悠介に関する記憶の全てを」 みさお「……はい、篠瀬さんは解りました。でも聖ちゃんや他のみんなはどうして───」 彰利 「知りたがりは長生きせんぞ、って言ってやりたい状況だねぇ」 それはそうだが仕方ないだろう。 みさおにとってみれば、一番の友達や本当の両親の記憶を操作されたのだ、 それなりの理由が無ければ引けないだろう。 彰利 「あのね、オイラもともと未来になんぞ居なかった筈の人間だよ?     未来の地界のオイラはもう死んでて、     あそこにオイラの記憶があること自体矛盾しとるの。解る?     解らんのなら次だ。ぶっちゃけて言えばさ、     オイラがもう未来の地界には行かないだろうって思ったから」 みさお「……それだけで、ですか?     だって、彰衛門さんが居たからこそ楽しかった記憶が、     みんなにはあった筈なのに……」 彰利 「馬鹿かねキミは!!俺と一緒に居て楽しいって思ってくれるのは悠介だけぞ!!」 みさお「その物凄い考え方には素直に感心しますけど、そんなことないです。     だって一緒に居て楽しいって思わなきゃ、     篠瀬さんが彰衛門さんを好きになることなんてなかった筈です」 彰利 「きっと何度斬っても死なないところに惚れたのよ」 みさお「真面目に答えてくださいっ!!」 彰利 「グ、グウムッ」 悠介 「今のはお前が悪い」 彰利 「押忍、反省します……」 しゅんとする彰利を横目に、近くにあった湧き水を掬って飲んだ。 せっかくだからと彰利も招き、三人座ってその場で話を続けることにする。 ……何故かみさおは、座った彰利の肩の上のままだが。 悠介    「……降ろさないのか?」 彰利&みさお『トー!テム!ポール!!』 ジャジャ〜〜〜ン!!! ……わざわざ月奏力で音を奏でてまで演出するふたりは、 真実息の合った親子のようだった。 楽しかったかどうかはもちろん度外するが。 何気にみさおのやつ、楽しんでるか? 彰利 「で、何処まで話したっけ?」 悠介 「お前が初めて脱皮した日だろ」 彰利 「あ、あーあーあー、そういやしたねぇ。いや懐かしい。     あれは確かルナっちに鎌で切られた時だったっけね」 悠介 「……素で返されると何も言い返せないな」 実際脱皮してたのだから無茶苦茶だ。 彰利 「いやぁ、オイラ科学では説明つかない超生命体の名を自負してますから」 誇れることじゃないと思うが。 みさお「彰衛門さん、脱皮の話じゃなくてですね……」 彰利 「あー解っとる、解っとるよー。俺が皆様の記憶を消した理由じゃろ?     それなら簡単じゃあ。みんな覚えてるのに夜華さんだけ忘れてたらどうなる?」 みさお「あ……で、でもっ!」 彰利 「夜華さんな、自分で言ってたよ。『わたしは強くなんか無い』ってね。     それ聞いたら……なんていうのかな、それでいいかなって思っちまったんだ。     俺はなんだかんだで夜華さんとの付き合い長かったしさ。     間違った方向だってのは解ってるけど、何かしてやりたかったんだ」 みさお「あ……う……」 彰利 「……他に。なにか質問はあるかね?」 みさお「………」(……ふるふる) みさおは首を横に振った。 だが肩車をしている彰利にはそれが解らず─── 彰利 「ぬ?シカトかコラ!!ええ度胸しとるのォォォォ!!     訊くだけ訊いといてそりゃねぇだろオラ!!」 ……吼えた。一方的に。 だが自慢のツンツン頭をムンズと掴まれると、ピタリと停止する。 みさお「……解りました……もう訊きません。     でも、その……最後にひとつだけいいですか……?」 彰利 「オ、オウヨ……なんでも言いなさい?     だからね?その手をそっと離してくれないかなぁ……」 彰利は怯えている! ……恐らくアデランスという言葉がやけに現実っぽく聞こえて恐怖しているんだろう。 みさお「あ、あの……わたしは……わたしは覚えていてもいいですよね?     みんなのこと……聖ちゃんのこと……彰衛門さんのことも悠介さんのことも……」 彰利 「も、もちろんじゃい!だからね!?ジワジワ髪の毛握る手に力入れるのやめて!     イヤァアッ!!アデランスはイヤァアッ!!クィーンはイヤァアアーーーッ!!」 みさお「ほんとですか……?」 彰利 「ほんとだともさね!彰衛門ウソつかない!!インディアンもウソつかない!!     森写歩郎うそつかない!!だから離して!!ね!?」 みさお「………」 みさおの手がそっと離される。 彰利はその行動に心の底から安堵しましたって顔で息を吐くと、 みさおの足をポンポンと叩いた。 やがて───ビッシィッ!! 彰利&みさお『トー!テム!ポール!!』 再びよく解らん組み体操をしてみせた。 ……何がやりたいんだ? 彰利 「押忍、これにて仲直りを終了します」 みさお「はいっ」 マテ、今のは仲直りの挨拶なのか? ……何をどうすればそうなるんだ? 彰利 「オウ?なにかね?」 悠介 「……いやまあ、お前だしなぁ……」 彰利 「な、なんですかこの……」 謎めいた行動なんて彰利ならよくあることだってことで納得しておこう。 俺はもう一度水を飲んで喉を潤すと立ち上がった。 彰利 「もう行くのかね?」 悠介 「話は終わっただろ?探検もいいけど精霊にも興味があるからな」 彰利 「お───ナルホロ、そいつぁ〜盲点。     どんなんかな、やっぱケセランパサランがビッグになったような物体かな」 悠介 「確かにそんなイメージはあるな。けど案外シェイドみたいなヤツかもしれないぞ」 彰利 「闇の鎧を着た真っ黒な人型の霧がシェイドなら、     ウィルオウィスプは光の鎧を着た光り輝く人型の霧、とか?眩しそうやの〜」 悠介 「ん……確かに」 想像してみたが、かなり眩しそうだった。 これは却下だな。 もっと落ち着いてる存在がいい。 彰利 「あ、じゃあアレだ。TOPのアスカみたいに鳥型の精霊」 悠介 「……ウィルオウィスプって感じ、するか?」 彰利 「全然」 だめだなこれは……考え出したら止まらない。 彰利 「グウウ……なぁぼくのキミ、やっぱりまず光の聖堂に行きません?     気になって仕方ないわい」 悠介 「同意見だ。みさおもそれでいいか?」 みさお「すぅ……くぅ……」 彰利 「寝るの速ッ!いつ!?ねぇいつの間に寝たの!?」 悠介 「『はいっ』て返事をしたあたりから、うとうととはしてたぞ。     疲れてたんだろ。休みたい、みたいなことを言ってたからな……」 彰利 「なんとまあ……マジすか。     どないしょお……眠ったおなごを連れて精霊と戦うわけには……」 肩車状態で彰利の頭を抱くように眠るみさおを見上げ、彰利はモシャアと溜め息を吐いた。 微妙に微笑ましい光景だが…… 悠介 「なぁ彰利?精霊だからって最初から戦うことになるとは限らないだろ?     まずは様子を見て、     どうしても戦うようだったらみさおを離れた場所に寝かせておけばいい」 彰利 「グム、確かに。んじゃあ……行く?」 悠介 「そうだな。んー……───ところで訊きたいんだが……ここって何処だ?     中央の聖堂ってどっちの方向にある?」 彰利 「へ?知らんよ?景色に夢中だったもんだから道なんて覚えてないし」 悠介 「………」 彰利 「……あ、あれ?悠介も?」 悠介 「………」 俺が無言で頷いた瞬間、俺達は正真正銘の迷子になっていた─── ───……。 悠介 「彰利っ!そっちはどうだった!?」 彰利 「アカンわ!聖堂の『せ』の字もあらへん!ほんまに塔なんてあるんかいな!」 さて、迷子発覚から数十分───俺達は全力疾走しながら塔とやらを探していた。 だが塔らしきものは無く、結局手分けして探す前の場所まで戻ってきてしまった。 彰利 「あと探してないところってあったかね……」 悠介 「あとは───……っと、そうだった。彰利、そっちの水溜りの中、見てみろ」 彰利 「ウィ?……って、これか?」 彰利が近くの水溜りを指差す。 俺はそれに答える代わりに頷き、彰利の隣まで歩いて水溜りの中を覗き込んだ。 彰利 「……うおっ!?って、どうなってんだこりゃ!水溜りの中に都市が……!?     これってまるっきりラピュタじゃん!!」 悠介 「ああ。だから思ったんだ。     もしかしてこの沈んだ部分のどこかに光の聖堂があるんじゃないかって」 彰利 「お、おお!そりゃ確かに有り得るわい!     ───って、でもどうするん?ここまで深いと聖堂見つける前にお陀仏だぞ?」 悠介 「そこのところは大丈夫だ。出てきてくれ、ウンディーネ」 出てきて欲しいというイメージを指輪に流すように解放すると、 水色の契約の指輪からウンディーネが飛び出す。 ディー『な、なんでしょう悠介さま』 悠介 「出来たらでいいんだけど、この水溜まりの中にある都市に行きたいんだ。     なんとか出来るか?」 ディー『はい、お任せください。───精霊ウンディーネの名の下に命じます。     磐石なる膜を紡ぎ、我らを宿す盾となりなさい』 トライデントのような矛を手にしたウンディーネはソレを虚空に向け掲げると、 俺と彰利とみさおの周り薄い膜のようなものを作り出した。 ディー『水中ではわたしが導きます。行きたい方向へと指示をください』 悠介 「ありがとう、助かるよ」 ディー『〜〜〜〜っ……!!い、いえっ!いえっ……!!』 なにやら顔を真っ赤にしたウンディーネは早速水の中に潜った。 それとともに俺達を包む膜は導かれるようにウンディーネの後を追い、 俺達は水中を進んでゆく。 ゆっくりと、ゆっくりと。 そうして、まるでピンボケ写真が明確になっていくかのように、 じわりじわりと鮮明になる景色を前に─── 悠介 「……はっ……」 俺は思わず声を漏らした。 彰利 「ちょっ……カメラカメラ!!はいパシャッと!!」 水中に沈んだ都市は、それでもなお美しいものだった。 それも、彰利が本気で撮りたくなるほどのものだ。 気に入った『人』しか写さないはずの彰利が風景を撮るなんて、本気で珍しいことだった。 だが事実、その景色は美しすぎた。 超古代都市サーフティール……それは確かな文明だったのだ。 けどそこに違和感を感じた。 水の上の大庭園は巨人に合わせた景色だったが─── この水に沈んだ都市の大きさは明らかに俺達のような大きさの人間に合わせたものだ。 悠介 「……気づいたか?彰利」 彰利 「ああ……今さらだが、ウンディー姉さんってエエケツしとるのォォォォ」 ベゴォンッ!! 彰利 「しぎゃぴぃいーーーーーーーっ!!!!」 悠介 「下品な言葉で返すなとは言わんが……     人を信用して契約してくれた奴をネタに使って下品なことを言うのはやめろ……」 彰利 「ごげっ!ごげっ!ソ、ソーリー……!痛すぎて二度とやる気が起きません……!     おぉっ……!顎千切れるかと思った……!!」 だぼだぼと涙と血を流し、悲しそうな声で返事をする彰利。 ……こいつって何度自業自得を繰り返せば気が済むんだろうな。 ディー『悠介さま?道が分かれています。どちらへ進みましょうか』 なんてことをぼ〜っと考えていると、ディーが畏まった声でそう訊いてきた。 どっちって…… 悠介 「彰利」 ポムとその肩を叩く。 すると─── 彰利 「右だぁ〜〜〜っ!!」 元気良く叫ぶ親友が居た。 というわけで 悠介 「左だ」 ディー『はい』 彰利 「なんと!?」 ガーン、という音を聞いた気がした。 幻聴だろうけど。 彰利 「お、おのれ〜〜〜!!この俺様をハメやがったな〜〜っ!?     まあそれはいいんだけどさ、俺今とっても嫌な予感をひしひしと感じております」 悠介 「?なんでだ?」 彰利 「だってねぇ……悠介だよ?キミだよ?空界でキミっていったらさぁ───」 声  『ウォゴォオオオオオオオッッ!!!!!』 悠介 「うおゎっ!?ななななんだぁっ!?」 彰利 「ホラ来た……」 彰利が呆れと確信を混ぜた声で溜め息を吐いた。 それとともに都市の奥から巨大な水竜らしき生き物が───ってコラ! 悠介 「そりゃなにか!?俺が道を決めたからバカデカい野郎が現れたっていうのか!?」 彰利 「押忍!親友として否定してやりたいところだけど     こればっかりはフォロー出来ん!!」 悠介 「ぐあっ……薄情者っ!!お前それでも親友か!?」 彰利 「ごめんよ大友くん!ぼく怖かったんだ!!」 悠介 「大友言うなぁっ!!」 ガヂィイイイイインッ!!!! 彰利 「キャーーッ!!?」 水竜が水で出来た膜を削るような体当たりをしてゆく。 だがさすがはウンディーネ。 あんな攻撃程度じゃあビクともしない。 ディー『悠介さま、指示を。     一度上へ上がりますか?それともこのままここで戦いますか?』 彰利 「このままでいい……」 ウンディーネの問い掛けに、 どこから出したのか解らない付け毛でモミアゲを演出しながら言う彰利───ブチャアッ! 彰利 「モミャァアアアアアーーーォッ!!!」 ……当然毟り取った。 彰利 「な、ななななにすんの!!     なななにすんのなにすんのぉおーーーーーーーっ!!!!」 悠介 「やかましい!お前が『なにすんの』だ!!     アホゥなことはいいからこれからのこと考えろ!!」 彰利 「これから───押忍!全てが終わったら地界に戻って粉雪と結婚します!!」 ディー『えっ……?』 彰利 「……あの、ウンディー姉さん?     なに、さっきの超絶な疑問を煮詰めて大味にしたような声……」 ディー『……相手、居るのですか……?』 彰利 「直球ですごい失礼だねキミ」 悠介 「言ってる場合か!来るぞ!」 ディー『悠介さま、気をつけてください。     この膜は確かに頑丈であり、放つ力もそのまま外へ出しますが、     威力の高すぎるものが衝突すれば破裂します』 彰利 「───……だったらなにも出来ないのでは?     膜を傷つけずに攻撃なんて不可能っしょ」 顎に手を当てて溜め息を吐く彰利の言葉は真実もっともだ。 ウンディーネの力を小さく見るわけじゃないが、 逆に言えばこの膜を破壊出来ないくらいの力では水竜に対抗できそうにない。 どうするか───そう考えて、ひとつの結論に行き着いた。 悠介 「ディー、あの水竜も一応竜族なのか?」 ディー『はい、その通りですが……』 よし、だったら─── 悠介 「待ってくれ!攻撃をやめてくれ!!」 だったら、話をするまでだ。 俺は目前まで迫っていた水竜に向かって叫ぶと、 戦う意思は無いということを知らせようとした。 が─── 水竜 『!!』 水竜は俺を見るとビクリと一瞬だけ震え、何を言うまでもなく攻撃をやめた。 彰利 「……おろ?」 俺と彰利は訳も解らず疑問符を飛ばすばかりだ。 けどそんな疑問を、他でもない水竜自身が砕いてくれた。 水竜 『……この場になんの用だ、ドラゴンマスターよ』 視線で俺を射抜きつつ言う水竜の存在感は相当なものだ。 周りに居るウンディーネや彰利を完全に見ぬものとして、 ただ俺のみを睨むように見つめている。 悠介 「……光の精霊を探している。もし知っているなら、場所を教えてほしい」 だから俺もその目を見つめ返すと、真正面から向き合うつもりで言葉を返した。 水竜 『……目的は精霊か。しかし異なものだな、     よもやこの場に足を踏み入れる者が現れようとは』 水竜は目を細めるとクッ……と笑った。 その笑みはこの状況と、それからこの場に現れた『俺』という存在を笑ったように見えた。 ポム。 悠介 「……?彰利?」 肩に手を乗せられた感触とともに振り返ると、彰利がひどくサワヤカな顔をして─── 彰利 「オイ……笑われてんぜ?」 サワヤカさを哀れみに変えてそう言ズパァンッ!! 彰利 「ボルヂェッ!!」 もちろん殴った。 思考中だったが容赦なく殴った。 悠介 「お前は……少しは大人しく出来ないのか……?」 彰利 「だ、だってYO……     オイラを置いて会話するなんて仲間ハズレみたいでヤじゃんかよぅ」 悠介 「安心しろ、最初から眼中に無いみたいだ。     仲間ハズレみたい、じゃなくて立派な仲間ハズレだぞ」 彰利 「あ゙……そうすね……」 彰利は酷く寂しそうな顔をすると、 ウンディーネにその心の内を語りかけ、無視されてしくしくと泣いた。 ああもう鬱陶しい。 彰利 「あ、ちなみに『異なものだな』ってのは     めずらしいものだなって言ってるようなものらしいよ?」 悠介 「べつに聞いちゃいないが……」 彰利 「いや、実は詳細は俺もよう知らん。でも会話に入れてオイラハッピー。     というわけでオイラ歌うよ!この思いを風に乗せて!     水中だから風なんざ無ェけど気にすんな!つーわけで前口上からお聞きください」 ボロロレ〜ン♪ じゃんじゃんじゃがじゃんじゃ〜〜〜ん……♪ 彰利 「……昨日、ベランダでラフレシアの花が咲きました。     ぼくの人生もきっと……     この花みたいに腐った血肉のような彩りを飾るんだと思います。     聞いてください……『いよかん』」 ポロポロポロレロポロポロロン♪ 彰利 「アキトシ〜〜ロ〜ン〜リ〜ィ〜ハ〜ァト〜♪」 ディー『……悠介さま。水竜が呆れかえっていますが……     というよりあの男と仲間だと思われているんじゃないかと思うだけで、     わたしもう逃げ出したいです……』 悠介 「解ってる……なにも言わないでくれ……」 月奏力とともに歌いだす彰利を横目に、親友である俺も呆れ果てざるをえない。 水竜にしてみればまるで訳の解らない事態だろう。 悠介 「あー……水竜、この馬鹿のことは無視してくれていいから。     それよりひとつ訊きたいんだけど、この都市にはもう人は居ないのか?」 ずっと気になっていた。 いくらこの場所がずっと空界の人々からの干渉が無かったからとはいえ、 元居た人たちは繁栄できなかったのだろうかと。 水竜 『知らんな。     居たとして、この場に訪れる者が居なければ我にとっては居ぬも同然よ』 ……それはそうかもしれない。 べつにずっと水中に居るわけじゃないとは思うが─── 悠介 「ちょっといいか?聞き方によってはそれって、     ずっと昔からこの場所が水に埋もれてたみたいに取れるぞ?」 水竜 『真実そうなのだから当然だ。     ここは元々水に沈んだ都市であり、住んでいた者は魚人だ。     だがそれも、食糧難のために絶滅の手前にまで追い遣られてしまったのだ』 悠介 「手前……?手前ってことは、まだ───?」 水竜 『数名だが生きている。この場に人は来ないが、魚人ならば居る』 悠介 「……そっか」 それを聞いて安心した。 この都市の人は絶滅したわけじゃなかったんだ。 庭園の方がどうなのかは解らないが少なくともゼロではなかったわけだ。 水竜 『話が逸れたな。光の精霊ならばこの先の塔の中に居る。     質問はこれで終わりだな。我は再び眠るとしよう』 悠介 「え───あ、おいっ」 水竜は一方的に話を終わらせると、現れた時と同じように遠くの景色に消えていった。 悠介 「……この先、か……」 小さく息を吐く。 ……大丈夫、緊張してるわけじゃない。 それでもあと一歩でスピリットオブノートに届く。 他人の都合で無理矢理融合させられてしまったあいつらを救ってやれる。 悠介 「……進もう、ウンディーネ。止まっていても仕方が無い」 ディー『はい、悠介さま』 膜の球体が進む。 それとともに都市の中でも一際大きい建物─── 恐らくは水竜の行っていた塔が、どんどんと大きくなってくる。 俺は一度深呼吸をすると、覚悟を決めて─── 彰利 「アッキットッシィッ!!リ〜ク〜リ〜エイションッ!!カァッ……!     今日は栗ひぃンろい〜〜ッ!!     良い栗にはトゲッがっあぁるぅ〜〜〜っ!!きぃンみぃにぃ〜〜〜っ!!!」 ベパァン!! 彰利 「トギャァォッ!!」 未だに歌っていた彰利の頬に掌底をお見舞いした 彰利 「なにすんじゃいオラァッ!!……って、あ、あれ?水竜は?」 悠介 「……とっくに帰ったが」 彰利 「なんと……俺の歌声が聞くに耐えないほどに美麗だったのか……シャイなヤツめ」 悠介 「お前、それ絶対に言い方間違ってるから」 聞くに耐えないもんが美麗なわけがないだろう……。 と、心の中で思っているとウンディーネが『塔へ入りますよ』と言った。 そうやって言われて初めて、既に塔の目の前に辿り着いていたことに気づいた。 ……気をつけよう、こいつのペースに流されると時間を忘れる。 Next Menu back