───FantasticFantasia-Set46/無の精霊スピリットオブノート───
【ケース107:晦悠介(超再)/全ての始まりにして終わりなる者(その名、スピリットオブノート)
】 ───深い森の中に居た。 木々で出来た天井の隙間から差し込む光は暖かく、 そこに来てようやく、この世界の光は何処にあるんだろうと考えた。 考えてみればこの世界には『星』という概念は無かった気がする。 いつか彰利と見上げた夜空は一面の薄い後と黒を混ぜたような空で、 事実星などどこにも存在していなかった。 だとすればこの世界に『太陽』というものはなく─── 悠介 「───あー……、あ、いや、いいか」 ウィルを召喚して訊こうとしたが、 もしかしたらあの光の聖堂自体が太陽代わりだったのかもしれない。 みさお「ここ、何処でしょうね」 悠介 「そうだなぁ……」 それはそれとして、俺達は現在道に迷っていた。 何処に向かえば聖堂に着くのかも解らない以上、 こうしてがむしゃらに歩くしかないわけだが。 エルフの里にスピリットオブノートが居るのだとしたら、 その近辺を探すのは当然としてもだ。 悠介 「どうしてこう無駄に広いかな……」 みさお「自然が広い事実には普段は喜ぶんですけどね」 まったくだ。 ガーヴに無駄な時間を取られなければ、もっとゆっくりと出来たものを。 悠介 「仕方ないな……あまり呼び出したくなかったんだが……。     ウィルオウィスプ、出てきてくれ」 しぶしぶと指輪に精神を込めるイメージをして召喚を行使する。 即座に現れたウィルは歓喜の色を表情……だけでは留まらず、体全体で表現した。 ウィル『これはこれはマスター!この私に一体どういった御用で!     ああお待ちください、当てて見せましょう!     主の思考を先読みし、面倒を掛けないのも従属者の務め!』 みさお「……いつから従属者になったんですか?」 悠介 「先に言うなよ……俺が訊こうとしたのに」 ウィルはなにやら盛り上がっていた。 これはもう何を言っても無駄な領域に達しているんじゃなかろうか。 ウィル『スピリットオブノートの聖堂がある場所が解らないのでしょう!どうですか!?』 悠介 「その通りだ。その通りだから落ち着いてくれ」 ウィル『マスターの前に立ち塞がる困難などこのウィルの力を以ってすれば薄い膜も同然!     さあ付いてきてくださいませマスター!!無の聖堂はこちらですよ!!』 悠介 「………」 みさお「………」 俺とみさおは開いた口を塞げずに困惑するのみだった。 アア……空ガ蒼イナ…… ───……。 ……。 案内されること数分。 突如、森で見かける動物の数が目に見えて増えてきた。 悠介 「ウィル、ここにはなにかあるのか?」 ウィル『はい。この場は治癒の聖域となっているのです。     無の精霊とはまさに無であり、尚且つ万物の根源たる存在。     全ては無象から始まりますが、やがては有象へと変わります。     言わば有形無形の根源。     クリエイターであるマスターならばそれはお解りになられるでしょう』 悠介 「ああ。そこのところの理は詳しいつもりだ」 ウィル『それでしたら話は簡単でございますよ。無とは何物にも囚われぬもの。     全ての形となり、全ての始まりにも成り得るものでございます。     それは時に癒しであり、時に破壊でもある。     その全てを司るのが無の精霊。名をスピリットオブノート。     全ての始まりにして終わりなる者です』 それがスピリットオブノートか……。 悠介 「なるほど……」 みさお「え……?今の説明で解ったんですか?」 悠介 「うん?ああ、そりゃあな。ようするにスピリットオブノートは高位精霊だけど、     真の意味で『根源精霊』なんだ。故に『全ての始まりにして終わりなる者』。     誕生から始まり破壊に終わり、破壊から始まり誕生に終わる。     全ての矛盾を誓約に置き換えることの出来るのが有形無形の果てにある『無』だ」 みさお「……???あの、余計にこんがらがって……」 悠介 「じゃあ解りやすく喩えて───創造の理力はどんな能力だ?」 みさお「どんな、って……思考を具現化する能力ですよね?」 悠介 「そう。確かに『思考』っていう糧があってようやく具現出来る能力だ。     でもな、思考を糧にするってだけで、実際にはそこには『何も無い』。     ようするに『無象から有象へ』の理そのものが創造の理力だ。     何も『無い』ところから何かを創りだす。ようするに『無』を『有』に変える力。     癒しも出来れば再生も出来て、けど破壊も出来れば消滅にだって誘える。     ……ここまで言えば解るよな」 みさお「───……じゃあ。まさかその『無の精霊』って……」 みさおの表情が驚愕の色に染まる。 言ってくる言葉は恐らく予想しているものと同じものだろうが、だとしたらそれは違う。 悠介 「『創造者か』って言ったらそれは違うと思う。似たようなものだけど、     俺の予想じゃあスピリットオブノートは完全に『世界の枷』から外れた存在だ。     俺みたいに半端な創造なんてしないし、それこそ出来ないことは無いだろう」 俺はベリーの言っていた言葉を思い返す。 『出来ないことはそうそうない』と言われたその精霊の存在を。 ウィル『そうです……スピリットオブノートに出来ないことなどありません。     ですからマスターの寿命を万単位に引き伸ばしてもら───』 悠介 「やめれ!!……でも、そこまで凄い存在だと契約出来るかどうか不安だ」 みさお「そうですね……ウィルさん的にはどうですか?契約は───出来そうですか?」 ウィル『あの万物嫌いにマスターの素晴らしさが解ればどうとでもなるのだが……』 悠介 「万物嫌いなのか……」 ウィル『例外はありますが───その能力を欲して、     私利私欲でスピリットオブノートに近づく者は少なくありませんでした。     故にスピリットオブノートは人からモンスター、竜族から亜人の全てを嫌った。     彼がこんな辺境に居るのもそのためなのですよ』 悠介 「なるほどな……」 全てを嫌った精霊か。 契約なんて出来るんだろうか……ほんと先行き不安だ……。 ───……。 ウィルに案内されつつ、随分と歩いた頃のこと。 俺達はようやく開けた場所に辿り着くと、その石碑を見つけて息を漏らした。 そこは聖堂、というよりは神聖な森そのものだったから。 悠介 「ウィル……高位精霊っていうのは『聖堂』を持たないものなのか?」 ウィル『流石はマスター、その通りでございます。     高位精霊は自然とともにあることを望みます。     我ら根源、大精霊にはそれぞれの役割があるので、     聖堂を設けてそこからこの空界にそれぞれの役割である力を流します。     即ち、ノームは大地を守り、ウンディーネはその大地に雨を降らし、     サラマンダーは潤いと乾きの均衡を保ち、シルフがそれらを風で撫でる。     光と闇は言うまでもないでしょう』 悠介 「そか……」 みさお「ちゃんと精霊の存在の意味はあったんですね。     いろいろ考えてみると、ゲームの中のファンタジーの中に居る精霊って     世界的に意味が無いんじゃないかって思ってたんですよ」 悠介 「ああ、それは俺も考えてた。けどそんなもんなんじゃないか?     意味がないからって存在しちゃいけない理由には繋がらない。     それにちゃんと契約して一緒に戦ってくれるだろ。     それが世界を守るための冒険なら、ちゃんと世界の役には立ってるさ」 みさお「あ……なるほど、それは盲点です」 みさおは俺の言葉にうんうんと頷いた。 俺はそんなみさおに小さく苦笑を贈ると、 気を取り直す意味も込めてまっすぐに石碑を見─── 悠介 「おわぁああああーーーーーーーーっ!!!!!」 ウィル『うわぁあーーーーーっ!!!!!』 みさお「ひゃあっ!?な、ななななんですかっ!!?」 頷いていたみさおが肩を跳ね上がらせた。 けどしょうがない。 俺とウィルが見たものを見れば、みさおだって絶対に叫─── みさお「あわぁああーーーーーーーーーっ!!!?」 ───んだな、うん。 当然だ。 ───さて……あまり直視したくもないが、 率直に言えばスピリットオブノートらしき存在は確かに居た。 地界で言う神父服のようなものを着た、落ち着いた雰囲気を持った存在……だと思う。 ああいや、問題はその容姿とかではない。 問題は───その、スピリットオブノートが『潰されてること』にあった。 いや落ち着こう、潰れているといってもミンチだとかそういう意味じゃない。 ただ純粋に『押しつぶされている』のだ。 ……俺とシルフが吹き飛ばしたことで落下してきた荒焼き(彰利内蔵)の全体重によって。 しかもものの見事に気絶中。 恐らく不意打ち気味にキマったんだろう。 悠介 「どうしようか、みさお」 みさお「サワヤカな顔な上に     現実逃避一歩手前みたいな口調で決定権をわたしに委ねないでください」 無茶言うな……これから契約しようって相手を潰してしまって、どうしろっていうんだ。 俺は頭を抱えつつも、まずは彰利を荒焼きからズボリと抜くと、 彰利についたアンコと悪臭を飲み込むブラックホールを創造して一息。 次に回復の式を描き、彰利に効果を降り掛ける。 それでまず彰利の回復は終わった。 それはいいんだが───……どうしたものか、この精霊さまは。 悠介 「……ウィル?どうしたらいいと思う?」 ウィル『気に病むことはありません。気絶したフリをしているだけですから』 悠介 「へ?───あ」 気づけば倒れていた筈の精霊は居なくなっていた。 それに気づいた時、俺はすぐに気配をさぐり、石碑の上空を見上げていた。 そしてそこに───そいつは居た。 精霊 『汝がここを訪れることは知っていた。ようこそ、晦悠介。     知っているとは思うが、私はスピリットオブノート。     無の精霊───有形無形を司る、全ての始まりにして終わりなる者である』 ……凄まじい存在感だった。 まるで───そう、空界自体と向き合っているような、異常でしかない感覚。 気配が俺を突き刺すように、 風が吹いたわけでもないのに俺の中を貫き通った感覚に襲われた。 悠介 「っ……」 冗談じゃない。 この存在感は異常以外のなにものでもない。 他の精霊の存在が、この精霊の前では霞んでしまう。 ノート『そう硬くなる必要は無い。確かに私は万物が嫌いだ。     だがそれは私利私欲に動くもののみに限定する。     汝の生き方、汝の在り方を私は見てきたつもりだ。     この空界で随分と無茶をしたようだが、その中に私利私欲は微量なるものだった。     だがその私利私欲でさえ『冒険をしたい』という心であり、     『より美しい景色をこの目で見たい』という澄んだ私欲。     このような存在もあるのかと逆に感心させられた』 悠介 「………」 喉の奥が乾く。 緊張……緊張してるのか?俺は。 ああそうだ、確かにこれは緊張だろう。 今さら気づいたけど、指が小さく震えている。 恐怖……違う、恐怖じゃない。 純粋に───そう、これは───この震えの正体は─── ノート『……素直な男だ。私を前にした者は誰しもが───そう、     たとえそれまで私利私欲に生きてこなかった者でも、     私を前にすれば私利私欲に走ったものだ。だが、まさかな。     ただ純粋に私との邂逅を喜び、打ち震える存在が居るとは』 ……この震えの正体は、ただただ自分の奥底から湧き出してくる───喜びという感情。 ノート『汝の願いは知っている。守りたいものを守れるものにする、だったな。     そして私と契約する理由は融合してしまった者を解き放ちたいという願いから。     真実おかしな男だ。そのどちらもが己のためではなく他人のためか。     世の全てがこうであればと幾度願ったか。───否。     このような存在が居たらと願ったことは幾度とあったが……』 スピリットオブノートが俺の目を真っ直ぐに見る。 ───震えはまだ止まらない。 それは……そう、まるで初めてシュバルドラインと邂逅した時のように、 体の芯から身体の先までが鋭い感覚の塊にでもなったかのような感覚。 たとえば軽い興奮状態になった際、 何かをせずにはいられなくなるような、不思議な気分だ。 ノート『私が素直に存在を認めたいと思ったのは、     晦悠介───そして弦月彰利、汝らくらいのものだ』 彰利 「えっ!?俺!?」 自分の名が出るなんて思ってもみなかったんだろう。 どこかソワソワしながら離れた場所に居た彰利が体全体を跳ね上がらせて驚いた。 恐らく俺と同じ気分なんだ。 地界に居たんじゃ絶対に味わうことの出来ない『根源』との邂逅。 今でも自分がこの世界に居ることを疑ってしまうくらい、その存在は異質だった。 ノート『汝らは変わった存在だ。何故に己を一番に考えない。     過去を覗かせてもらったが、汝らの生き様の全ては他人のためばかりだ。     過去から現在にかけて傷つきながら生きてきたのであれば、     もう自分のために生きてもいいとは思わぬのか』 質問が投げかけられる。 けど俺達は、その言葉に対してなら胸を張っていられることがある。 それはきっと、なにものにも変えがたい純粋な気持ちだ。 彰利 「仕方ねぇデショ。『守りたい』って思っちまったんじゃい」 悠介 「子供の頃から否定されてきた俺達でも救える存在があった。     なによりも親友とともにあって、一緒に未来を目指すことの喜びを知った。     生きる理由がそれじゃあ不服か?俺達は胸張って笑っていられる。     今の瞬間、今までの瞬間の全てが無駄だなんて思わない」 彰利 「泣いたことなんて何度もあったわい。     どうして俺だけって思ったことは……あんま無かったけど。     そんでもさ。俺はその頃、確かに自分なんかより悠介の存在の方が大事だった。     こいつのためだったら自分の未来がどうなってもいいって思えたんだ。     だから、胸張って言える。俺は……弦月彰利は、     晦悠介と出会うことの出来た自分の人生を絶対に否定なんかしてやらない。     この道がどれだけの悲しみの上にあったっていい。最初から解ってたことなんだ。     俺の今までの人生は、確かにたったひとりの親友のためにあったものなんだから」 ノート『………』 スピリットオブノートは目を閉じながら俺達の言葉をその身に受け止めた。 やがてゆっくりと目を開くと、静かに口を開く。 ノート  『真実呆れた者達だ。言った言葉に虚言のひとつも無いとは。       己の身を削ってでも他人のために生きることにどんな意味がある?』 悠介&彰利『それが自己満足だとしても───私は一向に構わんッッ!!……うおう』 緊張を吹き払おうと、烈海王の真似をしたその行為が見事に重なった。 そして驚きの声さえ重なったその事実に俺と彰利は目を合わせ、やがて笑う。 ノート『……やれやれ……どこまで自然なんだ汝ら。     私の目の前でふざけたり笑い合ったりした存在は汝らが初めてだぞ……』 彰利 「オイラ普通じゃないし!」(ズビシィッ!!) ノート『……そうだな』 彰利 「ゲゲェエエーーーーッ!!!認められた!?」 ……否定してほしかったらしい。 決めポーズまで決めた彰利はこうして、根源が認める非普通人と化した。 ノート『いいだろう、十分だ。     汝らの人間性と他人のために生きる姿勢に心から感心の心を贈る』 彰利 「なんと!ほいじゃあ契約してくれるの!?」 ノート『急くな馬鹿者』 彰利 「ばっ……!!?」 さらに『根源公認・世界的馬鹿』へとクラスチェンジ。 凄まじい成長速度だった。 ノート『汝らの人格はよく解った。だがまだだ。     私の力をその身に受け入れるということは【世界を背負う】も同義。     それだけの力が汝らにあるのか、それを確かめさせてもらう』 彰利 「へ?……って、それってまさか───!」 ノート『ありとあらゆる能力を行使し、抗ってみるがいい。     その時こそ私は、汝らとともに在ることを契約する」  ドォッゴォオオンッ!!!! 悠介 「っ───!?」 彰利 「おわぁあっ!!?じ、地震か!?」 突然の地震はしかし、自然のものではないことはすぐに理解出来た。 それだけの力が目の前の存在にはある……ただそれだけのことなのだ。 ノート『───刮目(かつもく)せよ!精霊スピリットオブノートの名の下に、無の審判を始める!』 咆哮めいた言葉の波が、あたかも突風のように俺と彰利の体を突き抜けてゆく。 それが開始の合図だ。 俺はすぐに構え、“月詠の黄昏(ラグナロク)”を創造した。 悠介 「来るぞ彰利!“戦闘開始(セット)”!!」 彰利 「あぁもう!俺絶対に傍観者だと思ってたのに!“戦闘開始(セット)”!!」 彰利もすぐに構え、“無形なる黒闇(ダークマター)”を発動。 懐から見覚えのある剣───ルナカオスを取り出し、 現在の標的であるスピリットオブノートを睨んだ。 彰利 「……、……いくぞシェイちゃん……。     出し惜しみして勝てるわけがない……いや。     出し惜しみしなくても勝てやしないってのが向き合っただけで解る……。     それでも男には戦わねばならん時があるのです。……たっぷり後悔できました?」 剣  『貴様が闇の聖堂に来たこと自体が後悔ならば、たっぷり出来ただろう』 彰利 「ひでぇ!!」 彰利がルナカオスに入っているらしいシェイドと戯れている裡、 ノートは楽しげに笑うと俺たちを見据えた。 ノート『準備は整ったか。では───行くぞ!』 風が頬を撫で、やがて打ちつける突風となった。 気づいた時には相手は背後。 それがただの移動なのだとしたら、俺達は絶対に逃げられやしない。 ノート『地の理よここに。“走震流戟(グランドダッシャー)”!』 振り向いた時には既に攻撃は始まっていた。 スピリットオブノートは首からぶら下げていた首飾りに手を添えると、 それを長い戟へと換え───回転させて地面に突き立てた。 悠介 「彰利!避けろ!」 彰利 「言われるまでもねぇって!!」 当たれば足の破壊は確実だ。 俺達はすぐに跳躍することで、爆裂する地面の波を避けた。 ───が。 ノート『風の理よここに。押し潰せ神風───“風神息吹(ゴッドブレス)”!!』 ヤバイと感じた時には全てが遅い───否。 悠介 「っ!」 風に押し潰され、グランドダッシャーの餌食になるその前。 俺は咄嗟に創造したブラックホールで転移し、スピリットオブノートの後ろに回りこんだ。 それは彰利も同じだったようで、既に駆け出している。 彰利 「“波動災放斬(ブレイクブレイド)”!!」 黒と闇に覆われたルナカオスにさらなる闇が篭る。 その黒くなお美しい閃きはアルファレイドの光。 絶対的な破壊を剣に宿し、さらにシェイドによって引き伸ばされるその威力は相当だろう。 だが───ヂギィンッ!!バッガァアアアアアアンッ!!!! 彰利 「っ───ぐぁあっ!?」 振るわれた剣は背を向けた状態のスピリットオブノートに軽々と受け止められ、 さらに───受け止めた武具が既に変化していて、 それが目に見えて青白い何かを跳ねらせていた。 彰利 「うわやべっ!!」 彰利もそれを感じたんだろう。 すぐさまに転移を行使し、俺の隣に戻ってきた───途端。 視界に映る全てが真っ白になり、俺達は放たれたものの余波に吹き飛ばされた。 ───その感覚をよく知っている。 それは、俺のシンボルだって言われたものだから。 彰利 「か、かかか雷も操れんの!?あんなん喰らったら消し炭にもならねぇよ……!?」 悠介 「っ……」 その雷の威力はニーディアの比じゃない。 全ての始まりにして終わりなる者……その実力は、やはり万物の根源のようだった。 ようするに俺達が今向かっている相手はまさに『世界そのもの』。 自然を操り、物質の在り方さえ変えて装飾品を武具に創り変える存在だ。 生半可な戦い方では絶対に勝てない。 悠介 「“伎装弓術(レンジ/アロー)!!七刃統べる古の至宝剣(その身には、七つの希望が生きている)”!!」 それを確信とともに受け取った俺は屠竜剣を弓に変えると光の武具を創造、それを放つ。 七支刀は放たれると同時に七つの極光と六十一の光の鏃と化し、 スピリットオブノートに襲い掛かる───!! ノート『───飛び道具は命取りだ。“弧曲螺旋風(エアリアルリフレクス)”』 悠介 「あ───!」 気づいた時には遅い。 あの時放ったものはガトリングブラストだったが今は違う、なんて言い訳は利かない。 この精霊が『命取り』と言ったら確実に『命取り』なのだ。 悠介 「彰利避けろ!!」 彰利 「へ?なんで?あんな風ごときで光の武具が防げるわけ───」 悠介 「馬鹿っ!いいからっ!!」 渋る彰利の頭を掴み、すぐさまに地面に倒した。 それと同時か否か、 スピリットオブノートの体の周りに作られた風が極光と光を……予想通り跳ね返してきた。 彰利 「うわマジ───おわぁああああああっ!!!!!」 悠介 「くあぁああああっ!!!!」 跳ね返された光の束は性質の悪い巨大な花火の火花が如く降りかかる。 俺と彰利の体は幾つかの場所を射抜かれ、だがそれを回復させるとすぐさま立ち上がった。 彰利 「かぁっ……!飛び道具は効かねぇわ背後からの攻撃は通用しねぇわ……!     どうすんだよ悠介……!あいつ強すぎだぞ……!?     さすがの俺もふざけてる余裕がねぇよ……!」 困ったことにその通りだ。 正直、今までのどの敵よりも戦いづらいことはこれだけの戦いですぐに解った。 それでもやるしかない。 戦いが始まった以上、この精霊からは絶対に逃げられないという確信がある。 彰利だってそれは理解出来ているんだろう。 悠介  「……こうなったら……彰利、ダメだったら後任せるな。      シェイド、ちょっと力貸してくれ」 シェイド『───いいだろう』 彰利  「へ?や、ちょっ───待て!なにする気───」 悠介  「───“伎装剣術(レンジ/ブレイク)”!!」 彰利の声を振り切るように疾駆しながら弓を剣に変え、一気にその間合いを詰める。 さらに千里眼を行使───一手先の未来を予測し、攻撃に備える。 そしてその一手先のスピリットオブノートが手を振り上げるのを『視た』刹那─── 悠介 「疾ッ!!」 神魔竜人力を解放し、爆発的に速度を高めて剣を横薙ぎに振るった───!! ノート『───!?』 その表情に一瞬の驚愕の色が浮かぶ。 だがそこはさすがと言うべきか、スピリットオブノートは瞬時に身を翻し、 バックステップをすると剣が描く弧の軌道を避けて見せた。 だが既にそれも読んでいる。 悠介 「“蓄積思考解放(オープン)───無限を紡ぐ剣槍の瞬き(インフィニティ・バレット・アームズ)”」 バックステップした場所目掛け、虚空から現れた光の武具が飛翔する。 ノート『チィッ!』 この時初めて焦りを見せたスピリットオブノートは着地とともに即座に跳躍。 比較的、武具の少なかった真上へ変換させた武具を振るうことで上空に逃れた。 ノート『なかなかやる。今のは流石の私も驚いたぞ』 悠介 「そりゃ結構!───全精霊力解放!その力、我が意思を以って雷鳴とせん!」 ノート『……───!?』 その驚愕、息を飲む音は誰のものか。 光の武具が中心点でぶつかり合う爆煙に紛れ、ブラックホールにて転移していた俺は、 刹那の間のみ無防備になっていたその背中へと雷光を込めた一撃を構えていた。 悠介 「イメージ───超越、凌駕にて解放!     精霊の加護の下、我が意識の破壊をこの世ものとして創造する!」 ───俺とともにある精霊十二体に加え、彰利とともにあるシェイドの力を雷光に変える。 その馬鹿げた試みはしかし、確かな『形』となってそれを精製してゆく。 そんな中、飛び散る雷光が俺の腕さえ傷つけてゆく。 だがその余波が俺を滅ぼす前に、それは確かに放たれていた。 真実、驚愕の色に染まる無の精霊目掛けて。 悠介 「っ……───真に至れ!“紫電を放つ雷神の槍(ヴィジャヤ)”!!」 創造されたものは架空ではない。 それは確かな『雷神』の槍であり、 精霊たちから流れるイメージが形となった、俺の中の最高の破壊の具現。 ノート『───!“弧曲螺旋風(エアリアルリフレクス)───”』 それはどういう反応か。 硬直していた筈の体は翻り、その目が俺を見据えるより速く、風の壁が精製された。 だが放たれた紫電の槍には風など通用しなかった。 絶え間なく放たれる雷が風を薙ぎ殺し、 おそらくそうなることを知っていただろう無の精霊の右胸を───  ゾバァンッ!!ズガガガガガガォオオオオンッ!!! ───その槍は射抜き、さらに雷で焼き殺さんとする。 ノート『がはぁあああっ!!!』 槍はスピリットオブノートを貫いてなお勢いを無くさず、 そのまま大地に突き刺さると大爆発を起こす。 槍に貫かれた勢いに吹き飛ばされていたスピリットオブノートはしかし、 そんな爆風に当てられてなお勢いを無くさずに爆煙の中へ消えてゆく。 俺は彰利の隣に着地すると神魔竜人化を解き、息を吐いた。 彰利 「や、やったのか……?」 悠介 「………」 彰利が俺に訊いてくる。 だが答えることもなく、ただ静かに首を横に振った。 彰利 「うえぇっ!?ま、マジかよ……!あれで倒せないって……!」 ……風が吹き、煙が晴れてゆく。 それとともに煙の先に立っているらしき人影が見えると、 やはり戦いは終わっていないのだと震えた。 ノート『……傷を付けられたことなど初めてだ。それも、まさか胸を穿たれるとは』 やがて煙が完全に晴れる頃、 巨大なクレーターの先に立っていたスピリットオブノートが俺を見て笑った。 その右胸には大きく風穴が空き、血が噴き出している。 しかしスピリットオブノートはそれを気にするふうでもなく、 ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。 ……気にしない筈だ。 歩いている裡にも、みるみる風穴が塞がっていっている。 ノート『手並みの拝見は済んだ。これより全力を以ってぶつかろう』 彰利 「───!」 悠介 「………」 彰利と俺は明らかな驚愕を受けた。 確かに今までの攻撃は全力なんかじゃなかっただろう。 だが、それでもと心のどこかですがっていた。 あれが全力だったのなら、まだ救いがあると。 だが目の前の精霊はそれを否定した。 楽しくて仕方が無いといった表情で俺と彰利を見て笑ったのだ。 ノート『いつでも来るがいい。これより私はしばらく無防備になる』 何を思ったのか、 スピリットオブノートはその言葉の通りに構えも取らずに無防備になった。 攻撃してくる様子も、防御に徹する様子も無い。 ただ目を閉じて、何かに集中しているように見えた。 彰利 「だったら遠慮無く───おぉらぁっ!!」 彰利がルナカオスを振るう。 恐らく大体のものを斬り、裂き、穿ち、破壊する筈の連撃だ。 だがその攻撃の悉くは相手の肌を斬ることも許されず、弾かれるのみだった。 彰利 「……!?ど、どうなってんだよこれ……!悠介!?」 悠介 「解ってる!!」 俺は神魔竜人化した状態でクレーター中央に全速力で疾駆すると、 その場に突き刺さっていたヴィジャヤを手にして再び疾駆した。 が。 それは聞こえてきた『言』によって中断させられた。 ノート『Mein Korper existiert, um etwas zu machen.     Mangelnde Ubereinstimmung wird Existenz, obwohl Existenz widerspruchlich ist.     Meine Phantasie ubersteigt die bestehende Sache.     Phantasie ist die einzige Freiheit fur mich.     Obwohl erfreulicherweise nicht gereicht hat, singe ich Poesie.     Meine Worter werden die Poesie, die etwas macht.     Die Poesie von zwei Personen singt viel mangelnde Ubereinstimmung.     Obwohl es nichts gibt, kann etwas bestimmt gemacht werden.     Mangelnde Ubereinstimmung befreit eine Idee. Deshalb kann etwas vorgestellt werden.     Wenn es es ist, ist seine Welt bestimmt unbegrenzte Freiheit.』 ───感じたのは寒気だった。 まるで古代呪文のような言を耳にし、俺と彰利が取った行動は距離を取ること。 本能的にスピリットオブノートから離れ、ただ構えた。 それでも寒気は消えない。 あれを唱えさせちゃダメだって意識が言っているのに、体はてんで動きやしないのだ。 ノート『Es schaut eifrig zu(刮目せよ)───“Erheben Sie sich End neu zu Pobelnull.(全ての始まりにして終わりなる世界)』 ……そうして、ゆっくりと引き金は引かれたんだと思う。 しかし目に見えて変わったものなどない。 それでも動けないままの俺達を余所に、 ゆっくりと目を開いたスピリットオブノートが小さく笑みをこぼす。 やがて手にした装飾武具を地面に突き立てた───刹那。  ガカァアアォオオオオオンッ!!!! 悠介 「っ───!!な、……!?」 彰利 「……、え……?」 黄昏だった世界は『新たに創られた世界』によって塗り潰された(・・・・・・)……!! ノート『我が素は根源。創り、滅ぼし、誕生させ、地に還らすことこそが真。     創造者晦悠介。汝の理解は未だ高みへ辿り着けていない。     汝の世界の在り方、そしてその意味を知れ。     そうすれば汝は黒竜王などに負けはしないだろう』 悠介 「っ……は、はぁっ……はぁっ……!!」 彰利 「……、……!」 ノート『終いにしよう』 感じるものは今度こそ恐怖───だろうか。 体全体が震えて、思考を纏めたくても纏まりやしない。 それを諦めと感じたのかどうかは知らない。 けれどもスピリットオブノートは両手をそれぞれ俺と彰利に向けると、小さく唱えた。 ノート『地より出でし災いなる母に誘われ、母なる租へと降り落ちるは恵みの証。     たとえその身が焼かれようと、風の息吹が撫でるであろう』 ───地面が爆裂した。 抗う間も無く吹き飛ばされた俺達はさらに、空から降り落ちる矢のような雨に貫かれ、 落下するとともに業火の塊に吹き飛ばされ、さらに風の刃に切り刻まれる。 ノート『光によって世界を覗く万物たる者よ。その傍らにある常を知れ。     闇の理こそは冷却と漆黒、不安と絶望。されど光が光たる所以である』 空中に放り出された俺達はスピリットオブノートを見据えるが、 突如放たれた極光に目を開けることすら出来ず、だがその間にも光の刃が俺達を刻む。 そうして地面に落下すると、自分の影から飛び出した漆黒の剣が俺達の体を貫通した。 ノート『ああ時よ、自然よ、汝の理は何処にあるか。     海に生き水に生き木に生き山に生き森に生き谷に生きる万物よ、     その景色の全てこそが生命であることを証明しておくれ。     長い時がその姿を変えてしまう前に』 さらに自然の全てが俺達の敵となると、俺達の体は次々と無残に刻まれてゆく。 裂き、貫き、焼かれ、斬られ、押し潰され、跳ね飛ばされ。 やがて─── ノート『全ては生まれ、やがて還る。即ち───“全ての終わりにして始まりなる者(Spirit of Nought)”』  バガァッ!!ヂガァアアアアアアンッ!!! 悠介&彰利『ぐあぁあああああっ!!!!』 どの属性ともとれない凄まじい衝撃が俺達を襲うと、俺達はもう動けなくなっていた。 つまり……敗北した。 Next Menu back