───FantasticFantasia-Set50/ONE for ALL ALL for ONE───
【ケース116:晦悠介/先生解りません 何故だ 解らないから。それくらい解れ先生】 指輪 『───……そうだな。まずは精神力を鍛えることから始めよう』 それが始まりの合図だった。 指輪の中のノートに言われるままに黄昏を展開し、精霊を一体一体呼び出していった。 やがて─── 悠介 「地獄よりの使者が今まさに貴様の存在を」 ノーム『だからなんでオイラだけその呼び方なんだー!いい加減にしろー!!』 ……怒られてしまった。 ともあれ俺は全ての精霊を召喚し───た途端、眩暈に襲われてドシャアと草原に倒れた。 ディー『悠介さま!?どう───』 ウィル『マスター!?ああなんということだ!     マスターのお美しいお顔が砂で汚れてしまった!!     これは早急に拭ってさしあげねば!』 ディー『なっ……なにを横から!それはわたしがやります!     下がっていてくださいます!?』 ウィル『……貴様が?マスターを?ハッ、顔を乾かして出直してこい、エターナル潤い肌』 ディー『う、潤い肌の何がいけないというのです金ピカ大将軍!!』 ウィル『き、金ピカ……!?おのれ貴様!大精霊である私を侮辱するか!!』 ノーム『者ども、出会え〜』 ウィル『茶化すな粘土チビが!!』 ノーム『オイラ粘土じゃないぞー!』 サラマ『落ち着けウィルオウィスプ、お前はマスター以外には荒すぎだ』 ウィル『私に説教か燃えトカゲ……』 サラマ『誰が燃えトカゲかっ!!』 シルフ『どうでもいいが付き合い切れん。     マスター起きろ。こんなことで倒れていては身が保たんぞ』 ウィル『なにをしている突風男勝り!マスターに気安く触れるな!!』 シルフ『なっ……と、突風男勝り……!?』 ノート『そのくらいにしておけウィルオウィスプ。騒げばマスターに響くだけだぞ』 ウィル『ぐっ……お言葉だがな、スピリットオブノート……!     私はマスターを傷つけたお前を許しているわけでないぞ……!』 ノート『ならば来るか?戦いたいのであれば止めはしないが───』 悠介 「だぁっ!!人が倒れてる傍でギャーギャー喧嘩するなっ!!」 がばーっ!と起き上がって叫んだ───途端、再び倒れた。 ディー『悠───』 ウィル『マスター!?しっかり!!』 ディー『う……ううぅぅぅう……』 ザグシュッ!! ウィル 『あぐあぁああああああっ!!ななななにをする小娘が!!』 ディー 『矛でちょっと刺しただけです!なんですか大精霊ともあろう方が情けない!!      それよりも悠介さまのお世話はわたしがすると言っているでしょう!!』 ウィル 『引っ込んでいろ潤い肌!!マスターの世話は私の務めだ!!これは譲れん!!』 ディー 『こ、このシャイニング変態男っ!!男同士でなにを考えているんですか!!』 ウィル 『シャイッ……!?貴様私を侮辱するか!私のこの思いは純粋なる奉仕の心だ!      貴様のように愛だの恋だの惚れたの腫れたのは知らんわ蒼肌女が!!』 ディー 『あ、蒼肌っ……!?そ、そっちこそ引っ込んでいてくださいませんか!?      大精霊だかなんだか知りませんが邪魔です!!』 シェイド『……貴様らいい加減にしろ。他の精霊達が呆れているぞ……』 ウィル 『引っ込んでいろ薄馬鹿下郎が!!』 ディー 『闇の精霊は闇の精霊らしく影でひっそりと存在していてください!!』 シェイド『なっ───ななななんだと貴様らぁぁああああああっ!!!!』 悠介  「……喧嘩すんなってのが───聞こえなかったのかぁっ!!ガゴォンッ!!!ゴゴゴガバッガァアアアアンッ!!! 精霊 『しひぃっ!!?』 背から取り出したヴィジャヤの石突きが黄昏の草原にバカデカいクレーターを作った。 その威力は凄まじく、一気にゴバァンと広がったクレーターからは雷撃が散るほどだった。 ノート『……ほう。大した精神力だなマスター。     まさかあの状態から早くも起き上がれるとは』 ノートが鼻の頭にある小さな眼鏡をツイと持ち上げながら言う。 だが俺はそんな言葉さえ気にすることもなく、ゆっくりと動き出した。 ウィル  『ハッ……あ、いえあのマスター!?こここれはその喧嘩というか───!!』 シェイド 『待て!新たな主よ!我は被害者だぞ!?落ち着くのだ!竜人化をするな!!』 ディー  『ま、待ってください悠介さま!わたしは悠介さまのためを思って───』 サラマ  『待て───待て待て待て!!何故私まで見るマスター!       ウンディーネを除いた根源精霊は無関係だろう!?       おいニーディア!!シンボルの精霊としてマスターを止めてくれ!!』 ニーディア『無理だな。というよりシンボルだからこそマスターに加勢する。       滅するなよ、精霊たち』 ニンフ  『わたしたちは無関係ですから。       というよりもマスターに加勢するのは契約した者としては当然です。       あぁ、もちろん契約したから手伝うのではありません。       これはわたしたちの意志ですから』 四大元素 『は、薄情者ォオオーーーーーーーッ!!!!』 ドゴシャメゴシャドゴボゴゴシャメシャガンガンガン!!!! 四大元素+大精霊『ほぎゃああああーーーーーーーーーっ!!!!!』 その日、時間枠から外された黄昏の世界に。 数名の精霊の悲鳴が高らかに響いたという……。 ───……。 ノート『身を以って理解したと思うが、マスターが精神力を自力で強化してしまったので     これより個々の精霊力の向上をしていきたいと思う』 精霊達『ハイ……』 体をボロボロにした精霊達が静かに返事をした。 さすがにヴィジャヤは使わなかったが、相当暴れたのは確かである。 ノート『先に言っておくことがあるが、つまらん喧嘩でマスターの精神を削るな。     疲れとは精神にも影響するものだ。     確かに苦労人として随分鍛えられているとは思うが』 悠介 「そういうことは本人が居ない時に言ってくれな、ノート」 べつに好きで周りに引っ張り回されてるわけじゃないんだから。 って……言っても無駄なんだろうな。 解ってる……ああ解ってるさ、伊達にそういうヤツを親友や家族に持ってない。 ノート『……?なにを泣く、マスター』 悠介 「いや……なんだかんだ言って家に居た時の俺に、     平穏や安らぎってあったのかなあって……」 いや、感慨深くなってる場合じゃないな。 そんなことより修行だ修行。 ノート『いいかマスター。まず汝には各精霊の属性を開花してもらう』 悠介 「属性の開花?なんだよ、それ」 ノート『精霊とともにあることで少しずつ自分の内側に溜まる力だ。     そうだな、汝の理解を早めるためには創造の理力で喩えた方がいいだろう。     汝の理力は最初は体に馴染まなかった。そうだな?』 悠介 「あ、ああ、そうだけど」 ノート『ならば何故、後になって行使が可能になったのか。     それは理力が少しずつ体に溜まっていったからに他ならない。     小さな水滴でも年月をかければ泉になるのと同じ原理だ。     無茶な行使をすれば泉は枯れ、満ちるまで時間を要する。解るな?』 悠介 「理屈は。というより、もう何度か枯渇した経験もってるしな───     それで、その属性の開花っていうのはどうしたらいいんだ?」 召喚しっぱなしで出来るってわけでもないだろうし……。 ノート『召喚した状態で精霊と意識を同調させればいい。     そうすることでその精霊と意識が繋がり、     汝の中にその精霊の力が少しずつ蓄えられる。     それが一定量満ちればあとは簡単だ。     湧き水に然り、魔術師の魔力然り。体の中で自動生成されるようになる』 悠介 「なるほど……」 そっか、ようするにゲームとか漫画であるようなアレか。 特殊な力を持った人の傍に居たためにその力が開花する、といった感じの。 ちょっと勝手は違うみたいだけど。 悠介 「それでその同調っていうのはどうすればいいんだ?」 ノート『急くな、順を追う。いいか?まず───』 ───……。 ……。 ノートが言った方法というのは 精霊と手を繋いで意識を近しいものにする、というものだった。 どこかが触れ合っていれば気配を探れる者ならば力の在り方も探れる、ということらしい。 『分析』でパターンを読むという提案も出したんだが、 精霊の力を分析するのは難しいらしいので却下が出た。 ノート『その調子だ。汝は実にいいマスターのようだ。信頼されている分、同調が速い』 途中そんなことを言われたが、自分にそんな自覚なんてない。 ただ俺は俺がしたいようにやっているだけなんだ、当たり前だ。 それでも誰かが自分の信頼してくれてるっていうのはきっと、喜んでいいことなんだろう。 ノート『───……よし、ノームとの同調はここまでにしよう。次、ウンディーネ』 ディー『は、はい』 悠介 「よし……」 正直に言えばこの同調、ひどく精神を使う。 いや、使っている気なんてないし、元より精神の使用法なんて解らない。 それでも何かが磨り減っている気がして、内側から体が重くなってゆく。 けれどもそれとは別に、自分の神経───いや、『回路』って言った方がいいんだろうか。 ともかくそれに、暖かく穏やかな気配が流れてゆくのを感じる。 たぶんそれこそが精霊力っていうものなんだろう。 ディー『〜〜〜……!!』 悠介 「…………あー……ディー?」 ディー『は、ははは───はいーーーっ!!!?』 悠介 「オワッ!?」 ノート『……落ち着けウンディーネ。興奮しすぎだ。これでは同調どころじゃない』 ディー『だ、大丈夫です!わたし幸せです!!』 ノート『マスターの手を握りながら力説されても困るんだがな……』 そもそも幸せかどうかは訊いていない。 結局ウンディーネはあっさりと後に回され、次はサラマンダーの番となった。 サラマ『よろしく頼む』 悠介 「ああ、こちらこそ」 サラマンダーの手を取る。 そして目を閉じ───ジュウウウウウ!!!! 悠介 「うわっちぃいいいいいいいっ!!!!!」 火傷しました。 まあ普通に考えれば当然のことだったんだが─── ……。 シルフ『……いつまでもサラマンダーを見ているなマスター。始めるぞ』 悠介 「あ、ああ……悪い、サラマンダー」 サラマ『いや……なにな……』 サラマンダーは自分の燃え盛る手を見ながら悲しそうに呟いた。 ……そんなサラマンダーを余所にシルフと手を繋ぎ、ゆっくりと気配を辿る。 すると─── ノート『───そこまでだ』 悠介 「へ?」 いきなりノートが止めに入った。 まだ少ししかやってないのに…… 悠介 「どうしたんだよノート。なにかあったのか?」 ノート『解らんのか……もう十分だ。風の属性は汝に宿った』 悠介 「───……なにぃ!?」 あ……でも確かに他の気配に比べたら、 シルフの近くで感じられる気配に似たものが俺の中にある感覚が…… ディー『シルフ……?あなたまさかマスターのことを……』 シルフ『ば、ばかを言うなっ!何故わたしがっ!     ただ面倒だから一度で終わらそうと思った故の結果だ!』 ウィル『くっ!負けてなるものか!マスターとの絆が一番深いのは私だ!さあマスター!』 よく解らん対抗意識を燃やしたウィルが握手(アクセス)
を求める。 俺は内心溜め息を吐きながら差し出された手を握ると、意識を集中させる。 ウィル『ぬおぉおおおっ!!届け私の精霊力!』 悠介 「え?いやちょっと待てウィル!最初から全力でいったら───」 チュボゴォンッ!! 悠介 「はごっ!!?」 ……俺の中で何かが爆発した。 そう、多分……回路というとても大事なものが。 ───……。 ……。 死ュ〜〜…… ノート『汝ら、話はよく聞いておけ。いいか、泉は泉が出来るまでは水溜りである。     当然他の泉の水を移し変えることなど出来ないし、すぐに溢れてしまう。     そんなことが解っているのに泉に水を一気に流し込めばどうなる?     または大きさが限定されている風船に、空気を一気に入れたら?』 精霊達『………』 現在、ノートが俺を治してくれてから精霊達に正座をさせて説明をしなおしている。 その傍らではウィルが頭のタンコブから煙を出していて、時折痙攣したりしている。 まあ……ノートのゲンコツじゃあ痛いわ。 ズドゴォン!って凄い音が鳴ったし。 ノート  『───……解ったのならいい。次、ニーディア』 ニーディア『解っている』 ニーディアが前足を差し出す。 その手は雷でバチバチいったりしているが、触れたところでどうということもない。 大体これでどうにかなるくらいならヴィジャヤなんて到底扱えない。 ノート『それまでだ』 悠介 「マテ、まだ手に触れた程度だぞ?」 ノート『それでも答えは出ているだろう。     それだけ汝のシンボルはそれに近しいということだ』 悠介 「………」 シルフの時の比じゃなかった。 触れただけで俺の中には雷の属性が開花し、 少しの意識解放をするだけで手から雷が弾け出る。 ノート 『ふむ……では次。シェイド』 シェイド『うむ』 ニーディアが俺の前から離れ、代わりにシェイドが腰を下ろす。 黒塗りの騎士が胡坐をかいて座るの図……なんだか珍しい。 シェイド『いくぞ、新たなる主』 悠介  「ああ、頼む」 そうして、意識の集中を開始した。 繋がれた手から流れてくるのは、ただただ深い闇のイメージ。 俺はそれに合わせるように意識を沈め、干渉する。 …………。 ……。 ─── で、結論。ダメでした。 悠介  「あ〜……ルナとかゼノとかと一緒に居たから闇とかには自信あったのにな……」 シェイド『我は闇そのものだ。      我以外の闇をどう照らし合わせようとしても、そこには至れぬ。      他に喩えを探るな。我の闇のみを探れ』 悠介  「……そうだよな。考えてみたら他の闇を探るのって無意味だ。      よし、もう一度いいか?」 ノート 『だめだ。次はニンフたちと同調してもらう。      一度失敗した属性と続けざまに同調するのはやめておけ』 悠介  「───そか。解った」 なんだかんだで不思議と納得してしまう。 どうにも俺、ノートの言葉には素直に従ってしまうようだ。 疑問はいろいろあったが、その所為で無くなってしまった。 ドリアード『それではマスター、始めましょう』 悠介   「ん、頼む」 ニンフたちが俺の手を握り、目を閉じる。 ……というかコレ、あまりいい状況じゃないな。 あまり女性に触れられるのは好ましくないんだが……。 ───……。 ……。 ノート『……よし。自然の属性も無事終了だ。なんだ、中々上手くできるではないか』 悠介 「そりゃどうも……」 とはいってもこっちはいっぱいいっぱいだ。 もう眩暈はするわ吐き気はするわ、体を起こしていられるのが不思議なくらいだ。 ノート『マスター、一日目は終了だ。もう休め』 悠介 「んなっ……あ、明日には黒竜王と戦うつもりなんだぞ……?     これくらいの修行で満足なんか出来やしない……」 ノート『どのみちその状態では戦えない。今日は休め。     ……大体、この世界は時間が極端に速く進んでいる。     汝がこの世界で一日休もうが、空界では一時間も経ちはしない』 悠介 「………」 ……言われてみれば、そうだった。 まいったな、何気に焦ってるのか俺…… 悠介 「解った、じゃあ寝ることにする。お前たち、指輪の中に戻───」 ノート『戻す必要はない。眠りながら精神を鍛えろ。     常時精霊を召喚した状態に慣れておけ』 悠介 「……マテ。そんなことしたら眠ったって回復しないんじゃないか?」 ノート『馬鹿を言うな。今、汝が寝る必要性は属性を体に馴染ませることのみだ。     それ以外の回復など思考の範疇には無い』 悠介 「うわーすげぇ言い方」 人の体をなんだと思っとるんだこいつは。 ノート『汝は黒竜王に解らせてやりたいことがあるんだろう?     ならば中途半端なことで出来るなどとは思うな。     力を引き出されることを拒むなら汝が皆とともに強くなるしかないだろう』 悠介 「そりゃそうなんだが」 ……まあ、俺も自分の体は酷使しすぎてるくらいだ、 今さら誰がどうだって言ったって始まらない。 だったらせめて、精神だけでも休ませてやろう。 今までも、そしてこれからも苦労をかける───この、『創造された体』を。 【ケース117:弦月彰利/我是誰】 ゴォオオオオ…… 彰利 「フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!」 みさおさんとともにとった休憩時間、オイラは約束の木のてっぺんに登って叫んでました。 山じゃないのが悔やまれます。 彰利 「いや〜しかししかし……」 倒れたまま静かに寝息を立てている悠介を見下ろす。 フフフ、超死神の俺の聴力を以ってすれば、これだけ離れてても寝息くらい聞こえるのだ。 とまあそれはそれとして。 彰利 「相変わらず無茶やってますなぁ……身体保つんかね」 超聴力で聞き取った情報によれば、 なんでも精霊の力を自動精製するために 身体に属性の力を種として植え込んでるみたいじゃない。 彰利 「───ムンアーッ!!」 バシュッ!クルクル───スタムッ!! 彰利 「ギョウ」 ふと気になったオイラは約束の木から華麗に飛び降りると、 悠介の近くに座りながら目を閉じていたノートさんに声を掛けた。 ノート『……弦月彰利か。用件は解っているが、敢えて訊こうか。私に何の用だ』 するとノートさんはこちらの質問を見透かしたような顔で言う。 ぬう、よもや“さとり”に至っているとでも? 彰利 「まあよかギン。ノートさんや?     悠介にやらせてるのって精神負荷を無くす修行だよね?」 ノート『ほう、解るか。存外愚かというわけでもないらしい』 彰利 「ほっほっほ、まあよ。じいやが本気を出せばこれくらいすぐに解るさね」 ノート『汝の言う通り、マスターにやらせているのは     マスターの精神に負担をかけずに精霊を召喚しておけるようにするものだ。     ああして各精霊との同調が済めばマスターの中に精霊の力が生まれる。     そうなれば我ら精霊はマスターの精神を糧にするまでもない。     精神は創造の理力には必要なものだからな、     それを精霊の召喚と一緒に使うなど、勝つことを諦めているようにしか見えん』 彰利 「そうかえ。けどさ、キミはどうなん?     キミの属性を開花させるとなると、物凄く苦労しそうだけど」 ノートさんへ次なる質問。 いろいろ考えたけど、ノートさんの精霊力が開花するってことは、 恐ろしいくらいの力が自分の内側に芽生えちまうってことだ。 そげなことになったら、 旅の途中や修行の途中である日突然『ひでぶっ!』ってなことに……!! ヒィイイ!たまらんよそれ!!堪忍ですわい! ノート『どうだろうな。ただな、弦月彰利。     これくらいで根を上げていては黒竜王には勝てない。     【ただ滅ぼす】というのならば私を召喚し、     黒竜王に攻撃を仕掛けさせれば済むことだ。     最大の力を以ってすれば、黒竜王ごときは滅ぼせる。     もちろんそれによってマスターの精神は確実に崩壊するだろうが、     真に【ただ滅ぼすこと】を望むのであれば方法などどうでもいいだろう』 彰利 「それって悠介が言ってた『終わらせてやりたい』って言葉と通じとるん?」 ノート『マスターは自分で黒竜王と対面し、     その上で様々な能力を行使して勝利することを望んでいる。     自分が見えていない場所で精霊のみに戦わせるなど、     踏ん反り返った魔王のようで好ましくないのだろう』 彰利 「あぁ、そりゃあそうだわ。悠介だしねぇ」 悠介ならまず、他人任せで誰かを救いたいだなんて思わないだろう。 そりゃあ自分に出来ないことっていうのは弁えてるけど、 自分から巻き込んじまったことで他人に任せっきりなのは絶対に嫌う筈だ。 なんてことを思ってた時、ノートが真剣な表情で俺を見た。 彰利 「……惚れた?」 ノート『惚れるかたわけ。……汝にも言っておこうと思ったことがあるだけだ』 彰利 「ぬ?言っておきたいこととは?」 ノート『知っているかどうかは知らんが、     黒竜王は狭界に居る時に様々な魔物を殺すことで様々な能力を手に入れた。     恐らくは汝の持つ月操力と似たようなものもあるだろう。     だから先に言っておく。気をつけろと』 彰利 「ぬう……そりゃああげなデカブツ前にしたら気をつけるのは当然じゃけぇ。     けどさ、実際どんな能力に気をつけりゃあいいん?オイラには解らんよ」 ノート『……【融合】、【能力記憶】に気をつけろ。     黒竜王は飲み込んだ対象と融合し、能力を奪うことが出来る。     よしんば私がその融合を切り離したところで、     【能力記憶】で行使出来る状態のままになる。解るな?』 彰利 「解らん!」 ノート『……少しは思考を回転させてから物事を言え』 呆れられてしまった……。 いやしかし、ここは世界の精霊サマを呆れさせた者として胸を張るべきか? ノート『いいか。例えば汝が誤って黒竜王に呑まれたとする。     そうなれば汝の持つ能力全てが黒竜王の物となり、     黒竜王はほぼ無敵になってしまうだろう』 彰利 「ぬ……」 つーことは? 俺が自分をパパ〜っと回復しちまうみたいに傷ついてもオッケーな上に、 ヤバくなったら転移で逃げられるってこと? 影に潜って逃げる方法もあるし、その気になりゃあフルブレイクだって…… ノート『理解したか』 彰利 「……っ!!」 寒気とともに頷いた。 あのエネルギーの塊みたいなヤツがフルブレイクなんてやってみろ……空界が消し飛ぶぞ。 そうなったら勝ち負けなんて関係無い。 下手すりゃ次元自体が破壊されて、地界にすら影響が出て滅びるかもしれない。 ノート『そういうことだ。いいか、黒竜王と戦うのはマスターだけだ。     他の者が向かって飲み込まれでもしたら、     たとえその者にとっては小さな能力でも     黒竜王が行使すれば世界破壊レベルに達する。     ヤムベリングやリヴァイアにしてもそうだ。     竜人にもならず、神魔状態でもなく、     精霊との契約も済ませていなかったマスターが蒼竜王を殺してみせた極光を     黒竜王が行使したらどうなるか、解っているな?』 彰利 「………」 ここに来て、俺の小さな期待は完全に砕かれた。 ノートに貰ったこの力さえあれば、 少しは悠介の手伝いが出来るんじゃないかなんて甘い考えを持っていた。 しかしそれは逆だったのだ。 こと黒竜王戦において、悠介の隣に立つということはそれだけ不利になるということ。 それが強者であればあるほどだ。 彰利 「……質問、いいか?     もし悠介が黒竜王に飲み込まれたりしたらどうなるんだ……?」 ノート『吸収される心配はない。     もし吸収したり融合したりすれば逆に黒竜王が滅ぶだけだ。     確かに奴は強者だ。他の追随を許さない部分もあるだろう。     だが───それだけだ。     【ともに在ること】を前提に交わされた九つの契約に耐えられまい。     さらに言えば【創造の理力】は手に入れてすぐに行使出来るほど優しくない。     吸収した途端、黄昏の理に飲まれて死するだけだ。汝なら解るだろう。     マスターの中には未だ【反発反動力】が存在する。     それを意識的に黄昏に流すことでマスターは力に飲まれずに済んでいるが、     果たして急にそんな力を手に入れた者が居たとしたら、どうなるか?     簡単だ、吸収した途端に爆発する。生きてなど居られまい』 彰利 「っ…………」 自然に喉がゴクリと鳴った。 今思えばなんつーもんをコピーしようとしてたのか。 い、いや……考えてみれば創造の理力も黄昏も、 悠介が必死ンなって高めていったものなんだよな。 たくさんの血を流して、涙も流して、そういった辛さの上で手に入れた能力だ。 それを努力もせずにコピーしようだなんて……まいったな、酷い侮辱だ。 ノート『そう気にやむことは無いだろう。     そういった能力を持っているのならば行使するべきだ。     それに───未だマスターの【世界】は真に至っていない。     そんなものを複製しようとするのは汝の勝手だ』 彰利 「至ってないって……あれで?」 冗談でしょう。 だって今まで、とんでもないバケモンやドラゴンさんを倒してきた悠介ですよ? ノート『マスターはなんでも【背負いすぎ】なのだ。     ともに歩いてはくれるが、     辛さや悲しみ、喜びも嬉しさも、なにもかもを背負ってしまう。     答えなど随分前に手に入れているというのに、それに気づけていないのだ』 彰利 「……なんで教えてやらんの?」 ノート『こればかりはマスター自身が気づかなければ意味が無い。     他人に気づかされた状態では、     他人は信じることは出来ても【己】を信じることが出来ない。     それが晦悠介というマスターだ』 彰利 「あー……」 そうでした。 信頼した他人を思いっきり信じるあまり、自分のこと後回しにしちまうんだ。 俺も、悠介も。 それじゃあ他人が言った言葉のままに行使を続けるだろう。 本当の意味での『真』には辿り着けずに。 簡単に考えればそれがどうしたってことだろう。俺の場合だってそうだ。 けど悠介の場合は違う。 悠介の能力は意識や精神が重要なものだ。 自分で気づき、自分の意思で行使する必要がある。 ノート『そもそも、マスターは他人に【真】を教わることを拒むだろう。     なにせ、能力を引き上げてやろうとしたら拒まれたくらいだ。     あの頑固さは筋金入りだな、お手上げだ』 彰利 「旧時代の日本が好きなお方なんてあげなモンデショ。     それより───だったら俺は何をしたらええねん。     力貰っても使いどころが無けりゃあどうにもならんよ?」 ノート『汝には黒飛竜ジハードを押さえつけてもらう」 彰利 「な、なんだってぇえーーーーっ!!!?」 なんてことでしょう! 私はあまりの出来事に大変驚きました!! 彰利 「ば、ばばばばーば……馬鹿言っちゃいかんよ毛利くん!!俺に死ねと!?     飛竜ですよ飛竜!しかも黒飛竜で黒竜王の側近さんなんでしょ!?俺に死ねと!?     無茶です無理です無茶苦茶です!今すぐ作戦変更なさい!後悔させますよ!?」 ノート『マスターには黒竜王との戦いにのみ集中してもらいたい。     そのためにはジハードの存在が少々邪魔だ。     もし黒竜王が見境を無くし、ジハードを飲み込んだらどうなる』 彰利 「グ……グウムッ……!じゃ、じゃけんど……」 ノート『………』 突然の提案に焦る俺を、ノートさんが厳しい目つきで射抜いた。 そして口を開く。 ノート『少々訊くぞ。汝はなにを怯えている』 彰利 「お、怯えて当然でしょうがナメとんのかオゥ!?     俺なんぞが黒竜王の側近に勝てるわけが───」 ノート『それだ。何故戦う前から諦める。汝はそこまで己を卑下して何が楽しい』 彰利 「なにって……知らんよ?」 ノート『そうだろうな。卑下することで楽しいことなど見つけられまい。     しかしどうだ?ここで汝が下がり、マスターが飛竜と黒竜王と戦うことになり、     万が一に不覚をとった時───汝はそれこそその未来になにを望める?』 彰利 「───……意地悪いやっちゃね、きみ」 そげなこと言われたら悩むことも出来なくなっちまう。 俺にはもう悠介が死んだ世界なんぞ考えられん。 あいつと一緒に地界に戻って、桜を見るって約束した。 地界では悠介の帰りを待ってる奴らが居る。 それなのに俺だけがのこのこ帰ったりしたら……俺はその時の自分を許せやしない。 彰利 「けどさ、算段なんてあるのか?     確かにあんさんから頂いたこの能力は素晴らしいさね。     じゃけんど……まだ竜族に勝てるなんて確信は無いぞえ?」 ノート『だからこそ修行をしているんだろう。───忘れるな。     今の汝は死神としてならば右に出る者は居ない強者だ。     コピーした鎌の数だけ、上を目指せる可能性を持っている。     コピーした鎌が5なら5、10なら10の数だけ限界を目指せ。     汝が真に上を目指すのならば、それが出来る』 彰利 「ノートはん……あんさんまさか最初っからそれを見越して……?」 ノート『……妙な話方はよせ。汝は精霊とともにあるよりも、     死神として上を目指した方が効率がいいと踏んだだけのことだ』 彰利 「………」 強く、なれるだろうか。 あいつを支えてやれるくらい。 彰利 「な、なぁ!俺はどうしたらいい!?どうしたら強くなれる!?     さっき悠介のことで『教えてもらって強くなっても』的なこと言ったけど───     情けねぇけど俺には自分がどうすりゃ強くなれるのかなんて解らねぇ!!     初めて……初めて他人に本気で頼む───教えてくれ!」 ノート『………』 親友を支えてやることが出来るかもしれない。 そう思った時、俺は自分でも驚くくらいに自然に、ノートに頭を下げていた。 ───こんな気分は初めてだ。 自分には何も出来ないんじゃないかって思っていたのに、何かが出来るかもしれない。 それなのに自分にはそれをするために何をすればいいのかも解らない。 だから頭を下げて、本気で願った。 ───こんな気分は初めてだった。 今までの自分は誰かに何かを断られることを他人ごとのように思ってきた。 やってもらわなきゃ困ることでさえあっけらかんと笑ってみせた今までの自分。 そんな俺が、断られることを本気で恐れていた。 ……強くなりたい───いいや、支えになってやりたい。 俺と居ることで嫌な思いもしたであろう親友のために。 ノート『……つくづくたわけだ。顔をあげろ』 彰利 「っ……」 反応は……最悪だったのかもしれない。 ノートは俺に向かって心底呆れたような声を出し、頭を下げる行為をやめるように言う。 それでも顔を上げなかった俺を、ノートは無理矢理調整した。 頭を掴み、グギギと力を込めて、俺と目を合わせる。 そして─── ノート『誰が教えないと言った。男が軽々しく頭をさげるな馬鹿者』 そう言ったのだ。 彰利 「へ……?だ、だって俺が真剣に『教えてくれ』って言った時、     黙秘権を主張して……」 ノート『教えないとは一言も言っていないつもりだがな。     それと、沈黙していたのは汝の返答が意外だったからだ。     元々汝さえ拒まなければ教えているところだった。早合点が過ぎるな、人間』 彰利 「ギ、ギィイイイイイーーーーーーーーッ!!!!!」 おぉおおおなんでしょうこの切なさ炸裂の瞬間!! 知り合って、ただ電話なかっただけで爆発するような切なさに対して、 俺は今猛烈に怒りを覚えている!! つーか自分から電話ようとか出向こうとか思わないのかボケ! そりゃあ切なさ炸裂というか阿呆さ炸裂だぜ!そィで逆に怒り頂点かよ! なんたるセンチメンタルグラフティ!……関係ないけどね? 彰利 「ま、まあいいコテ。して?オイラはなにをすりゃあええのん?」 ノート『瞑想から入るといい。汝は【集中力】というものが決定的に欠けている。     瞑想し、鎌と鎌の持ち主のパターンを鮮明にイメージしろ。     この黄昏の世界ならば思いの他早くに身に付く』 彰利 「む、なるほど」 ここはオイラも創造が行使できるっていう特殊空間だ。 もちろん『イメージする』ってことはそれだけ具現が早いわけだから、身に付くのも早い。 道理は揃ってますが……やる人が俺ってのが問題だなぁ。 集中力が無いって言われた時、本気で焦ったし。 彰利 「よ、よし!ならばこれから俺は悟りの人となるぜ!?     これでも俺は悟り猫を自称している男だ!     最強に至った時、この私を虚仮にしたことを存分に後悔させて差し上げます!」 ノート『……そういうところが集中力が欠ける原因になると思うんだがな。     まあいい、どうあれ志があるというのは成功に繋がるものだ。     壁にぶつかった時、もう一度私に話し掛けるといい。     それまでは己の力で足掻いてみろ。まずは【頼ること】を消してゆけ』 彰利 「フフフフフ……その言葉がいつまで続くか楽しみです。     貴方には私が修行を終えるまでの間だけ後悔する時間を差し上げます」 ノート『……ああ、させてみるといい。私はこれまで生きてきて、     後悔など一度たりともしたことは無い。故に興味はある』 小さく笑うノートさんに軽く手を上げ、 オイラはみさおさんが座っている場所へと駆け出した。 さあ頑張りましょうかね、あやつを後悔させるためにも。 【ケース118:晦悠介/ガンバルマン】 ───修行二日目突入。 現在の精霊力開花状況:地、風、雷、闇、然 ノート『……よし、同調はここまでにしよう。同調の鍛錬は明日に持ち越しだ』 悠介 「ま、待て、まだ出来るって」 あっさりと終了宣言された俺は納得出来ずに再度を願った。 が───あっさりと却下を下されることになる。 ノート『たわけ、今でさえ無茶な同調をしているんだ。     これ以上無茶をすればそれこそ精神崩壊に繋がる。     ノームとシェイドの諸力を開花することが出来ただけで十分だ』 悠介 「しょりょく?なんだそれ」 ノート『【魔力】の本来の呼び名だ。普通、魔術師などが行使する力は【諸力】といい、     【魔力】などという呼び方はしない。     今で言えば【魔力】と言った方が理解されやすいものだが、     空界で言う【魔力】と【諸力】は全くの別物だ。     人が行使する魔術や式のための力を【魔力】、     精霊や召喚獣が行使する力の源を【諸力】という』 悠介 「へぇ……力にもいろいろあるんだな」 ノート『納得したところで次だ。今汝は精神力を以って精霊を召喚しているな?     次にする修行は、精霊を今言った【諸力】で召喚することにある』 ……なんですと? 悠介 「ちょ、ちょっと待て!いきなりそんなこと言われたって出来るかっ!」 ノート『出来る出来ない以前の問題だ。【出来なければ死ぬだけ】だ。     全ての精霊は汝と契約して日が浅い。     その今をおいて、この修行をやる意味は存在しない。     解るか。汝の中には反発反動力が未だに存在する。     そこにきて、根源精霊、大精霊、高位精霊と契約をしている。     属性の在り方くらいは諸力を開花させた汝にも解るだろう。     同じ【精霊】だからといって、反発する力が無いわけじゃない。     むしろ反発するものの方が多いくらいだ。     そんな状態で精神と精霊が完全に一体化してみろ、     汝は今持っている反発反動力に加え、精霊の反発反動力に押し潰されて滅する』 悠介 「………」 ノート『もう一度言うぞ───【出来なければ死ぬだけ】だ。     強くなるということは死と隣り合わせという事実と知れ。     強者がより強者になるためにはそういった橋を何度も渡る必要があるのだ。     まして、汝のように全てを背負おうとする強者は余計にな』 ……背負う、か。 確かに俺はなんでもかんでも背負いすぎてるんだと思う。 だけどそれは、そうしたいと思ったからだ。 出会ってきたものや経験したことの全てを置いていくことなんて出来ない。 だったら、そうやって持っていくしかないじゃないか。 悠介 「……出来なければ死ぬだけ。出来れば───明日を目指せるか?」 ノート『───』 ノートは俺の目を真っ直ぐに見て、しばらく黙ったのち─── 薄く笑い、口の端を持ち上げるようにして『無論だ』と言ってみせたのだった。 ───……。 ……。 ノート『いいか。まずは汝の中にある諸力を分析しておけ。     全てを分析するんじゃないぞ、表面の在り方だけでいい。     諸力がどういうものなのか。そのカケラを掴めればそれでいい』 悠介 「っ……、……」 身体の奥底に存在している諸力に分析の能力を通す。 だが、軽く通しただけで頭が割れそうになるくらいに痛み、 汗が嫌になるくらいに噴き出る。 そうしたいわけでもないのに息は乱れ、平衡感覚というものがどんどんと削られてゆく。 ノート『解るか。たったひとつの諸力だけでその有様なんだ。     全ての精霊の諸力を手に入れた時のことを想像してみろ、     嫌でも分析しなければいけないと思えるぞ』 悠介 「っ……かっ……!!い、いやなヤツだなお前……!!」 ノート『馬鹿者、汝を思えばこそだ。汝の生き方が不器用であり、     汝が黒竜王に解らせてやりたいことがあるというからこうしている。違うか?』 悠介 「そう、だけどさ……!!あ、ぐっ……がはっ……!!」 ノート『苦しめる内に苦しんでおけ。それがここ一番という時に役に立つ時がある。     万物は未体験の痛みに弱いものだ。今の内に慣れておけばいい。     特に汝は如何なる時でもイメージを行使出来る状態にある必要がある』 悠介 「ッ───あ、あぐあぁあああああっ!!!」 キィイイ───パキィンッ!! 気合を入れてイメージを読み込んだ。 さらにそれを圧縮するようなイメージを纏め、 やがて───俺の手の上にはひとつの丸い玉が。 悠介 「っ……は、はぁっ……!はっ……!ど、どうだ!?出来たぞ!」 ボゴッ!! 悠介 「ぐはぁっ!!って、なにすんだよ!」 つーか今殴った!世界の精霊が殴った! ノート『たわけ、誰が複製までしろと言った……。分析だけでよかったんだ』 悠介 「………」 ノート『汝、まさか私の話をきちんと聞いていなかったんじゃないだろうな』 悠介 「いや……はっ……途切れ途切れに、はぁ……意識、飛んでたから……」 ノート『それで、これか……。まあ上出来だ。まさか複製に至れるとはな。     ならばもう諸力の在り方は読み取れたんだな?』 悠介 「いや……だからさ。     途切れ途切れだったから、部分的に未判明な場所があるわけで……」 チリッ……チチチキィイイァアアォオオオゥウン……!!! ノート『───!!ば、馬鹿者!早くその玉を投げ捨てろ!!爆発するぞ!!』 悠介 「へ?───って、おわぁああーーーーっ!!!」 ドゴシャァアアアーーーーーンッ!!!! ───……。 ……。 ノート『……マスター。     汝は存外にそそっかしいというか、隙だらけだということが解った。     完璧に限りなく近いが、何処かがぬけている所為でそこに至れぬ馬鹿者だ』 悠介 「………」 言い返したいのは山々だったが、 大きくハゲてしまった黄昏の一部を見るとさすがに何も言えない。 ノート『追加して言っておく。イメージが不完全なものを複製することはあまりに危険だ。     【複製】は【複製】でなければならない。創造の理力とはまさしく創造だ。     【複製】を軌道とする限り、     それを開始したからには複製でなくてはならない。解るな?』 悠介 「えっと……つまり、俺が何かを複製しようって思った時点で、     それはこの世で『完成すること』が決まってるってことだよな?」 ノート『その通りだ。本来【モノ】とはなんであれ製造過程が存在する。     式に然り、剣に然り、人に然り。     精霊の力である諸力といえど精霊の内側で製造されるものだ。     だが汝の理力はその【製造過程】そのものを飛ばして創り出すものだ。     故に【作成】ではなく【創造】。     作成とは物体の過程を辿るように【作り上げるもの】だ。     だが創造は完成品を具現するもの。     汝は創造するものを頭の中で一から十へと組み立てるか?違うだろう。     完成したもののイメージを想像し、それを完成品のまま具現している。     それが【創造】。製造過程を素っ飛ばした、【完成を世に落とすもの】だ』 悠介 「……思ったんだけど、いいか?」 ノート『なんだ?遠慮など要らん、解らないことは好きなだけ訊け』 悠介 「……───ノートってさ、一度話し始めると止まらない性質だろ」 ノート『………』 ───……その日。 黄昏のとある一角が新たな世界に塗り潰され、 ひとりの創造者が様々な属性の渦に呑まれて地獄を見たという。 ───……。 ……。 ノート『これより、修行に必要なこと以外の無駄口は控えることだ』 悠介 「りょ、了解……」 お花畑を素っ飛ばして三途の川に落下した俺は、危ういところで戻ってこれた。 どうやら初めてノートと戦った時にやられたディバインパウアをもう一度やられたらしく、 あっさりと同じ相手からの二度目の敗北を味わわされたわけだ。 今回はしっかりと雷の属性も混ざっていたため、心なし身体がパリパリと痺れている。 ノート『さあ続きだ。諸力のことは大体頭に叩き込んだな?     だったら次は、自分の中にある諸力の属性の精霊を呼び出すんだ。     きちんと見合った属性の諸力をイメージして、だぞ』 悠介 「……よし。やってみる」 俺は妥当なところ───つまり自分のシンボルである雷の属性の諸力をイメージして、 ゆっくりと右手人差し指の指輪に力を込めていった。 ああもちろん、事前にニーディアには指輪の中に戻ってもらった。 悠介 「……出てきてくれ、ニーディア」 呟いて、意識を指輪に流す要領で───って違ぁう!! 俺は慌てて纏まりかけたイメージを霧散させ、 指輪から出始めていた雷を指輪に無理矢理押し戻した。 ノート『……ふむ。召喚する前に気づければ上等だ。     さてマスター、今の自分が何を間違っていたのか言ってみろ』 悠介 「はぁ……指輪に流すイメージは『意識』じゃなくて『諸力』だろ……?     いきなりそれを忘れてたから中断したんだよ……」 ノート『よし、上出来だ。と言いたいところだがな。     諸力の分析をさせたというのにそれをいきなり忘れる馬鹿が居るか、たわけ』 悠介 「……面目ない」 まいったな……これでも集中してやってるつもりなんだが、 上手くやろうとすればするほど穴が出る。 ……やっぱり自然体で行くのが一番だな。反省しよう。 ノート『………』 悠介 「?どうしたんだよノート、そんな笑ったりして。     ───あ、も、もしかして俺、またヘマやったか?」 ノート『いいや。ただ物分りの早いマスターで助かると思っただけだ、気にするな』 悠介 「……そうか?」 よく解らんが……。 というより物分りがいいなら失敗なんてしてないと思うが。 まあいいか。 悠介 「じゃ、もう一度第一工程から───」 目を閉じて集中する。 意識を自分に見立てて、いつかドリアードの枯れ木に意識を飛ばした時、 ニンフたちの意識の手を握ったことを思い出す。 すると自分が意識と身体とに分かれた錯覚を覚え、 自分の中の回路を走っている景色が閉じた視界に広がった。 そんな中で俺は、自分に一番近しい気配を探って─── やがてひとつの諸力を抱えて、それを指輪に届くように祈って空に飛ばした。 すると───バヂィッ!!ヂヂヂ……バヅンッ!! 悠介 「っ……はっ───」 意識が身体に戻るのと同時に、俺の目の前に居たニーディアを見て安堵した。 成功だ、という安堵の内に額をぬぐってみれば、びっしょりと汗をかいている。 ノート『……よし、とりあえずは成功だ。     次は意識を内側に飛ばさずに諸力を飛ばせるようにするんだ』 悠介 「だぁっ!次から次へと簡単に言うなぁーーーーっ!!!」 安堵するのも実に束の間。 平然とした顔で無茶を言ってくるノートを前に、俺は叫ばずにはいられなかった。 ───……。 ……。 ……それでもやってるんだからアホゥだよな、俺って。 悠介 「かはっ!げっほっ!!は、は───づ……!!」 ノート『……ふむ。召喚はここまでだな。ニーディアは完璧に召喚出来るようになった。     あとは少しずつ慣れていけばいい。それじゃあそろそろ───』 悠介 「きゅ、休憩か……?」 ノート『いいや。リミッター解除を常とする修練に入ってもらう』 悠介 「や、休む暇無しかぁっ!!」 ノート『無しだ。さあ始めるぞ』 悠介 「おぉぉおおぉぉ……」 鬼だ……この精霊修行の鬼だ……。 ノート『いいか?リミッターの解除と言っても、汝にはみっつのリミッターがある。     ひとつはその剣であり、ひとつは黄昏の真であり、ひとつは反発反動力。     今回は剣のリミッター解除をした状態を常とする修練だ』 悠介 「リミッターって……剣に流れる竜人の力に慣れるってことだよな?     それならもう随分とやったつもりだぞ?」 ノート『ほう。その際、皇竜珠は外したか?』 悠介 「え……あ、いや、付けっぱなしだったな。少しずつ上げていくつもりだったから」 ノート『……外して剣を構えてみろ。面白いことになる』 悠介 「………」 あ、今物凄く嫌な予感がした。 けど……やらなきゃ始まらないのは確かだし、 珠を抜いた状態で修練しなかった俺としてもその先があるのか気になる。 ……よし、当たって砕けろだ。 俺は深呼吸をひとつ、ゆっくりと屠竜剣から皇竜珠を取り外した。 そして言われた通りに剣を構える───と。 悠介 「ぃ───!?」 まるでそれを待っていたかのように、剣から俺へと流れ込んでくる力があった。 それは───まさしく竜人の力。 悠介 「ちょ、待て───!!な、なんだっていきなり……!?」 ノート『純粋な【素】である【力】というのは消費するものじゃない。     汝の裡には既に竜人としての力が───     まあ今までの修行のことで喩えれば【開花】した状態にある。     即ち【自動に精製されてゆく力】だ。     だがそれには【絶対量】というものが存在する。     人の体力は動けば疲れる。なるほど、それは確かに消費だろう。     だが逆に器が鍛えられればその絶対量も増えるものだ。     ところで汝に問うが、     今まで汝の身体で精製されていた竜人の力は屠竜剣に流れていたな。     それはどうなっていたと思う?』 悠介 「っ……い、今まではある程度溜まると霧散でもしてたんじゃ、って思ったけど……     こ、この力の反動は……」 ノート『その通りだ。オリハルコンやバハムートのオーブの欠片で作られた屠竜剣。     その強度と許容の範囲は以前の屠竜剣の比ではない。     汝が竜人となり、その剣を握ってから今までの間、     ずっとその剣の中に溜まっていっていたのだ。     そして───今からその溢れるくらいの竜人の力を汝の許容とする。     これはそのための修行だ』 悠介 「かっ……無茶言うな!!こんなとんでもない力、受け入れられるわけが───」 ノート『何故だ?誰がそんなことを決めた。許容を超えているからなんだ?     それは元々、汝の身から精製された力だぞ。何故それを拒む必要がある』 悠介 「───!」 ノート『物事を短絡的に捉えるな。そんなことだから未だ枷から脱しない。     汝の理解はまず、そうした小さな物事から崩していかねば頂に届きそうもない。     ───さてそこでだが。汝にはこれから【あること】をしてもらう』 悠介 「あ、あること……!?」 ノート『そう。その剣を握ったまま、少しずつ己を高めてゆけ。     一気に飲み込めば破裂するだけだ。     少しずつ己を、精神を、竜人の力の許容を鍛えるのだ』 悠介 「っ……」 簡単に言ってくれる。 こっちはもう一秒でも早く剣から手を離したいっていうのに。 こうして手に持っている間にも俺の手は強力すぎる竜人の力に耐え切れず、 弾けて血が出てきている。 それをなんとか制御しようとするが、 剣から流れ込んでくる力は明らかに俺が許容出来るように鍛えた範疇を超えている。 悠介 「くそっ……!こ、こんなのどうしろっていうんだ……!!」 血が吹き出る。 ───が、それは同じく漏れようとする竜人の力によって塵と化され、 草原が血に染まることさえない。 そんな強大な力だ、自分の手だって弾けるのは当然のこと。 悠介 「あっ……ぐ、うぐぁああっ……!!」 言われた通りに少しずつ受け入れようとするけど、 俺の方がすぐに許容を超え、受け入れられなくなった。 ……なにかの冗談だろう、この全てを受け入れろなんて。 そう思った時、俺の肩に触れるものがあった。 それは───ニンフたちの手だった。 ドリアード『恐れないでください、マスター。力が悲しみます』 ナイアード『忘れないでください。その力は元々貴方の裡から生まれたもの』 オレアード『人であろうと力であろうと、生まれた場所を好まぬものなど存在しません』 ネレイド 『その子たちは貴方の裡に帰りたがっています。どうか───』 ナパイア 『どうか、受け入れてあげてください』 悠介   「…………」 そんなことは解ってる、言われるまでもない。 あの時と同じなんだ。 この力も戻りたいと泣いている。 集中してみれば、 俺の中に入ろうとしている竜人の力が俺の手を引っ掻き回しているようにも感じられた。 ……そうだ、俺はまた『知ること』を忘れていた。 いつか、ニンフたちと契約した時───あんなにも自然を身近に感じられていたのに。 自然にだって意思があるんだ。 そして、発生し、生まれる力にだってなにかしらの意味がある。 だったら───自分の中に『自然』の諸力がある今なら、 俺にはそれを感じることが出来るんじゃないか───? 悠介 「っ───」 目を閉じて、集中を開始する。 腕の痛みなんて、意識を自分の中に埋没させることで忘れた。 『出来なければ死ぬだけ』という言葉も置いてゆく。 だって、それはそうだ。 俺は自分を守りたくて強くなるわけじゃない。 元々そうやって上を目指せた。 だから─── 悠介 「っ……ぐあぁああああああっ!!!!!」 だから、今の自分で足りないのなら今ここで強くなろう。 腕が壊れようが血が無くなろうが知ったことじゃない。 それこそ『出来なければ死ぬだけ』。 それは即ち、出来なければ守りたいものも守れないことにイコールするんじゃないか。 だったらもう迷うな。 最初から『受け入れられない』なんて決め付けるな。 悠介 「───は、あ……!!」 けど、現実は思うほど上手くいかない。 事実に身体は内側から壊れていってるし、既に立っているだけでもやっとってくらいだ。 これは、もうだめか───そう思った時。 今まで黙っていたアルセイドが、そっと俺に言った。 アルセイド『……ねぇ。貴方はいつまで【背負う】の……?』 悠介   「──────!」 その時だ。 その言葉を聞いた時、俺の中の『枷』にヒビが入った。 朦朧とした意識の中で『真』を見た気がした俺の裡で、何かが変わろうとした。 けれどそれが長く続くことは無く─── 見えかけた『真』は、再び闇の中へと消えてしまった。 悠介 「……ははっ……」 それでもこれ以上無いってくらいの喝にはなった。 俺はもう一度集中して、多すぎるくらいの竜人の力と正面から向き合った。 もう迷わない。 もう逃げない。 俺はお前を受け入れて、そして─── 悠介 「超えてゆく───!!」 ギヂッ───バサァッ!! ……意識したわけでもないのに、角と翼が出現した。 解放したわけでもないのに神魔状態が解放された。 それは……どう喩えたらいいんだろう。 まるで、俺の体と意思の全てが、 剣から流れる竜人の力を受け入れようと手を広げているようだった。 ───そうだ、なにも一箇所で受け止める必要なんてなかったんだ。 今はまだ無理だけど、これから自分を高めて───もっと許容出来るようになった時こそ、 その全てを竜人の力が開花した場所へ帰そう。 だから今は───我慢してくれ。 悠介 「づっ───か、ぁああっ!!」 ───ピキィンッ!! ノート『───』 さっきまであれほど荒ぶっていた大気が静まる。 剣は何事もなかったように落ち着き、俺の体にも異常という異常は見当たらない。 一応成功……か? ノート『……見事だ。少々予定とは違ったが、まあ少しずつ慣らしていけばいい。     ただ───一言だけ言っておくぞ。     あれはあのまま受け入れていた方がまだ楽だった』 悠介 「はぁ、はっ……───へ?」 ノ−ト『言っただろう。【その力を許容とする】と。     汝の許容は既に今取り込んだ竜人の力と元よりあった竜人の力を合わせたものだ。     もちろん鍛えねばその部分に流すことは出来ないだろうがな。     だがそれは逆に、鍛えられればその分が後から精製されるということだ。     そこに今取り込んだ分の竜人の力を流すとなると大変だぞ』 悠介 「………」 アア……なんだか最初に感じた嫌な予感の正体が解ったような気がした。 ようするに、既に開花した力の泉は湧き水状態であり、 鍛えた分は当然泉の広さは変わるわけだが───そこは当然ながら湧き水であり、 広くなった部分なんて広くなった途端に満たされてしまう。 満たされればもちろん注ぎ足すなんてことは出来ないわけだ。 無理に注げば先ほどのような激痛に襲われる。 つまり……ノートの微妙な呆れ顔はそれを意味する。 ノート『結局、全てを受け入れるとなると限界の限界を超えることになるな。     痛みも相当だ、頑張れ』 悠介 「ア、アゥワワワワワ……」 思わず彰利のような情けない声が口から漏れた。 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。 Next Menu back