───FantasticFantasia-Set52/モミアゲ錬金術師───
【ケース121:晦悠介/錬金、好きですか?】 カラーー……ン……カラーー……ン…… イセリア暦4192年。 私は、痩せっぽちの18歳で───世界は今よりも小さく、単純な法則で成り立っていた。 クグリューゲルス独立魔術アカデミーは退屈極まり無い牢獄のような場所だったが─── 私はそこに幾つかのオリジナルな決め事を持ち込むことで、 毎日をそれなりに楽しく彩ることに成功していた。 たとえば───一週間のうち半分は授業をサボるという決め事。 同じ女とは三回以上デートしないという決め事。 何事からも───半歩ずれた位置に立つという決め事。 ようするに私は18歳らしい18歳で、決められたシナリオも持たず、 毎日毎日……自分の物語をでっち上げて、生きていたということだ。 悠介 「……あのな。人の後ろでモノローグ調に語るのはよせ」 彰利 「え?だって退屈だし」 悠介 「退屈だったら人をナンパ師に見立てて二回はデートさせようとするのかたわけ」 彰利 「オウヨ!」 悠介 「肯定せずに否定してくれよ頼むから……」 ───現在、クグリューゲルス独立魔術アカデミーという場所の一年をやっている俺達。 入学から三日しか経っていないが、知識の方は……まあ順調だ。 今のところゼットの方に大きな動きは無く、 俺達は少し焦りながらも懐かしい雰囲気に包まれている。 それは───久しぶりの学園生活というものだった。 ガネス「そこのふたり。私語は慎みなさい」 彰利 「腹話術なら許されますか?」 ガネス「弦月くん……貴方はもう少し真面目にやりなさい。     同じ特待生の晦くんを見習いなさい」 彰利 「ウハ〜イ、ガーネット教授こそもっと砕けた方がええんでないの?」 ガネス「わたしはこのままでもいいのです。……ああもう構いません、     真面目にやらないで後悔するのはわたしではありませんから。     では各自、昨日の続きをしましょう。まず精霊とマナの関係から」 彰利があっさりと教授に見捨てられた状態で授業は始まった。 マニュアル通りの話がつらつらと述べられていく。 ……正直に言えば『マニュアル通り』と言っても、 大体は教授の経験や予想などから生まれる原理や可能性が語られるのが一般的だ。 それもその筈で、 意見を出し合った上で答えに近しいと感じたものを答えとするものだからだ。 マニュアル通りだのなんだの大層なことを言っても、結局は人の知識。 間違った見解は当然存在するし、 それに対して意義を唱えることもアカデミーでは認められている。 故に生徒が教師を言い負かすことも極たまにあり、 実は俺は入学二日目にしてそれをやってしまい、 教授連中たちからは要注意人物として見られていたりする。 それはそれとしてこのアカデミーが国のこととかに疎くてよかった。 魔術のことばっかり考えてくれてるおかげで、 俺がかつて王だったとかは知られずに済んでいる。 もちろん階級が同じ奴らからは気軽に声をかけられている。 それこそ入学当日なんて大変なもので、 二十四体の仲間を引き連れた俺を見た者たちは腰を抜かしたものだ。 彰利 「しっかし……マナ基礎力学の受講って退屈だね〜……。     オイラ眠くなってきたよ……」 悠介 「だったら別の学科取ればよかっただろ。     無理して俺の選ぶ学科に付き合う必要はないぞ」 彰利 「闇学科なら主席取れる自信あるんだけどなぁ。     闇学科って二回生からだから俺じゃあ出来ないんだよね……」 悠介 「昇学制度を生かせばいいだろ。     研究でそれなりの成果が認められれば飛び級できるんだから」 彰利 「悠介寂しくない?」 悠介 「たわけ、お前の相手なんて寮に居る時だけで十分だ。     俺は基礎を学びに来たんだからこれでいいんだよ」 彰利 「グムムー……」 悠介 「───教授!」 彰利 「オワッ!?」 彰利が唸った際、教授の説に一方的な見解を見つけた俺は挙手して立ち上がっていた。 ガネス「なんですか、晦くん」 悠介 「教授の説ですが、教授の言い方には一方的な見解が数多く見受けられます。     それは教授ひとりの見解であり、私たちの見解とはやはり異なるもの。     即ちそれは決して正しい説というわけではないと思われます。     確立、体系化のされていない知識を説き聞かせるのは適当ではありません」 ガネス「ほう。ではわたしの見解の何処が一方的なのかを説いてみせてください」 悠介 「望むところです。まず精霊ニンフに対しての認識ですが───」 ガネス「……ふむ、しかしそれでは───」 悠介 「いいえ違います。そもそも───」 彰利 「……ま〜た始まったよ……。これ始まると長いんだよねぇ〜……」 マルク「昨日はオド基礎力学の受講を丸々潰しちゃったからな。     けど見ろよ、ガーネット教授のあの困った顔。何秒保つと思う?」 彰利 「む?次で終わりじゃよ、終わり」 ガネス「っ……そこまで述べるのでしたら確たる証があるのでしょうね、晦くん。     その説を確かなものにさせる証を示してもらいましょう」 悠介 「そうですか。では───」 マルク「あー、そうだったそうだった。     昨日もこうやって目の前に精霊自体を召喚されて、教授が腰抜かしてたんだっけ」 彰利 「笑ったよね〜……って、あら。やっぱ腰抜かした」 彰利と彰利の隣に座っているマルクが小声で話す中、 大きくしたニンフを目の当たりにしたガーネット教授(略称:ガネス教授)が腰を抜かす。 その後はあわあわと腰を抜かしたまま教室から出てゆき、生徒たちだけが残された。 ラリー「やあ、見事な論説だったよ晦。案外キミの方が教授に向いているんじゃないか?」 悠介 「ただ単に精霊が一緒に居るから解ったことだよ。     一緒に居てくれるヤツを誤解されたままなんて我慢できなかった。それだけだ」 そう言うと、小さな状態のニンフがありがとうと語りかけてきた。 普段はノートの提案で見えないようにしてあるが、 (それを出来るようになるまでにも苦労があったことは言うまでもない) こうして必要な時に“インビジブル”の魔法を解除して見えるようにしている。 つまり見えないだけで、俺の周りには常に二十四体の仲間が居るわけだ。 時折なにも知らずに場のノリで俺の背中を叩こうとするヤツが、 ウンディーネとウィルオウィスプの逆鱗に触れて地獄を見たりすることもある。 どうしてそこまで怒るのかは解らないが、時々困ることがあるのは確かだった。 ……ちなみに、“インビジブル”の魔法は【光】と【然】を合わせて精製したものである。 マルク「しかしこう自習ばっかりだとここに来ている意味がないな。自習でもするか。     晦、教壇に立って説いてくれないか。精霊学に関してはキミの方が得意そうだ」 悠介 「いいのか?って、そうだな。じゃあそのあとはお前が基礎学教えてくれ」 マルク「お安い御用だ。精霊学は二回生からだから興味あったんだ」 テッド「というよりマルクはそれが目的でアカデミーに入学したくらいだしね。     ああ、僕テッド。そこのボサボサ頭のマルクとは腐れ縁の友人だ」 悠介 「ああ、よろしく。って待て。ここって魔術学会だろ?     精霊学に興味持ってるヤツが入る場所とは思えないが」 マルク「他に精霊学を学ばせてくれる場所が無いんだから仕方ないさ。     どこに行っても精霊なんて存在しない、だとかなんとか。     それをキミが証明してくれた。感謝の言葉もないね」 彰利 「なるほど、感謝してねぇのか」 マルク「そういう意味じゃないって。それより頼むよ。精霊のこと、教えてくれ」 悠介 「解ってる。じゃああとで基礎のこと教えてくれな」 マルク「OKOK、これでも基礎には五月蝿いんだ。……テッドが」 テッド「キミは……また僕に頼るのか。     いい加減、自分でも教えられるくらいになっておいた方がいいよ?」 マルク「ギブアンドテイクだって。マナ関連はテッドの得意分野だろ。     俺はオド関連やってるからいいんだよ」 そんな言葉に見送られるように俺は教壇へと降り立ち、 置きっぱなしの教鞭を手に説明を開始した。 といっても───大半は精霊達自らが話すんだが。 悠介 「昨日も言ったが、あまり公にしないでくれな。研究材料にだけはなりたくない」 マルク「解ってるって」 彰利 「脱げー!」 悠介 「脱ぐかっ!!」 叫ぶとともに精霊や召喚獣、飛竜のインビジブルを解き、まずは一息。 それからそれぞれの分野についてそれぞれの精霊、召喚獣、飛竜に質問を連ねてゆく。 正直俺もまだまだ学ぶことの方が多いくらいだ。 そう思った俺は教壇を精霊、召喚獣、飛竜に任せ、席に戻った。 するとマルクが幸福の溜め息を吐きつつ言う。 マルク「は〜……やっぱ精霊っていいよなぁ……。     あ、あのな、俺の夢は一目でもいいからスピリットオブノートに会うことなんだ。     空界じゃあ精霊の中の精霊って言われてるほどの精霊なんだぞ?     契約するとまでいかなくてもいいから、せめて会ってみたいよな〜」 悠介 「そっか。よかったな、夢が叶って」 マルク「え?いやだからさ、     精霊と会うことじゃなくて、スピリットオブノートに会うことなんだってば」 悠介 「だから。もう会ってるだろ?」 マルク「…………へ?」 マルクがポカンと口を開ける。 さらに言えば今の俺の言葉は丁度話が途切れた時に放たれたため、講堂によく響いた。 そうなった途端、講堂に居る生徒大半がざわ……とどよめく。 ノート『うん?ああ、自己紹介をしていなかったな。     マスターと弦月彰利以外の万物は好かんが、まあそれくらいはな。     知っていると思うが私は精霊スピリットオブノート。無の精霊である』 総員 『な、なんだってぇええええーーーーーーーっ!!!?』 総員、ノートの自己紹介に絶叫した。 それが何故MMR調だったのかは知らんが……まあとにかく驚いた。 マルク 「ススススススピリットオブノートが目の前にっ……あ、えっ!?マスター!?      ってことはけいや───契約したって───えぇえええっ!!?      晦お前何者だ!?ていうかうぉおおおおお感無量ォオオオオッ!!!!」 彰利  「落ち着きないねこの人」 悠介  「そうだな」 ウリ  「ってオイ……もしかしてあれ、ベヒーモスじゃないか……!?」 カコナ 「あっちのあれはリヴァイアサンじゃあ……!?」 ピナカ 「あ、あっちには四色の飛竜……もしかして竜王従属の飛竜じゃあ……!!」 マサリ 「あれってフェンリルとグリフォンだろ……!?      ルーゼンさまが召喚してたっていう……!」 ネノ  「あ、あっちの美しいお嬢さんがたは誰だ……?      波動からして精霊っぽいけど……」 ナット 「ば、ばかっ!六人の女性で精霊っていったらニンフしか居ないだろうが!!」 ホリン 「すげぇ……あっちは四大元素と雷の精霊と……光と闇の精霊まで居るぞ……!」 カティ 「と、ところであの床でウゾウゾ動いてるのはなに……?」 マシラン「待て、教本で見た覚えが───ってそうだ!      あれロプロスト砂漠に居たゾーンイーターだ!」 カティ 「うわ……あれって召喚獣だったんだ……」 皆それぞれに感嘆や驚愕を漏らしてゆく。 だがその精霊自体に散々しごかれた俺としては…… その驚きがだんだんと解らなくなっていたりする。 ああ……俺も最初はあんなんだったのか……若かったなぁ……。 リドル「なんていうかさ、晦ってたまに酷く遠い目をするよな」 彰利 「苦労してますから」 それぞれがそれぞれの言葉を交わす中で、 ただひとり俺は何処ともとれぬ方向を見ながら物思いに耽っていた。 ───……。 ……入学四日目、アカデミー院生寮。 彰利 「クハァさっぱりしたー!悠介もどぎゃんね?風呂気持ちえーよ?」 悠介 「ちょっと待て、今復習中だ。っと……マナの存在は空界だけのものであり……」 彰利 「……なぁ悠介?ホンマに二週間でこのアカデミー卒業するつもりかね?     普通は三回生まで上がらんと卒業出来んでしょう」 悠介 「昇学制度を限界まで活用する。     いい成績取れればすぐにでも回を上げてくれるって院長が言ってた」 彰利 「ほへー……で、今学んでるのは?」 悠介 「ん?三回生の学科だが」 彰利 「早ッ!!一回生と二回生の学科は!?」 悠介 「そんなもんさっき終わった」 彰利 「オウ……」 ───……。 ベリー「えっとね、つまり自分の内側から生まれる力をオド、     自然から集める力をマナといって───」 彰利 「教授!」 ベリー「む……なにかな、弦月彰利くん」 彰利 「教授の説は経験主義において展開されています!     しかし、経験から独立して知られる本流的、或いは先見的な観念原則が───」 ベリー「はいはい、無い頭で適当なこと言わないの。座って良し」 彰利 「うっうっ……悠介が居ねぇとつまんねぇYO……。     ねぇヤムヤム教授、オイラも昇学させて?」 ベリー「実力が伴ったらねー」 ───……。 ベリー「わはー、じゃあ今日はミニ試験として、     錬金術でとあるアイテムを作ってもらうわねー。     魔導錬金術じゃなくて錬金術だからねー?そこんとこ間違えないようにー」 セリパ「教授、とあるアイテムって───」 ベリー「え?ダマスクス。鉄鉱石を渡すから各自取りに来てー」 オラン「よ、よりにもよって鉄からの錬成ですか!?せめて魔導石から……」 ベリー「甘い!最近の学会ってば魔導石で錬成してるの?んーなんだから上達しないのよ。     とにかく課題はダマスクスの錬成。     材料は用意してあげるから、各自クオリティを大事にして錬成すること」 悠介 「出来たぞー」 全員 『早ッ!!』 ベリー「わはー、さすが悠介。えーとどれどれ?クオリティの方は……む。     ちょっとヘンなもの混ざってるよ?もっと慎重にやらな……い、と……」 オラン「?教授?」 ベリー「あ、あわわ……あわわわーわわ……ね、ねぇ悠介!?これ貰っていい!?」 セリパ「ちょっと教授、どうしたっておわぁーーーっ!!」 パンプ「どうしたんだ───って!すげぇ!この混ざってるのって精霊石じゃねぇか!?     こんなの古文書でしか見たことねぇよ!!どうやって作ったんだ!?」 悠介 「どうって……精霊達の声に耳を傾けながら作ったら出来たんだが」 ベリー「む、むむむ……せ、精霊と協力していいなんて言ってないわよ!?     だから罰としてコレ没収!!いいよね!?」 オラン「あ!ずっりぃ!俺にくださいよ教授!!」 ベリー「やー!離せ愚民どもー!これはわたしんだー!!」 ───……。 院長 「三回生昇学おめでとう、晦悠介くん。     キミは本校始まって以来の素晴らしい成績と速度で昇学した。     よってキミには『魔術師』と『魔導術師』の称号を授けるとともに、     自分の魔導工房を持つことを許可しよう。     さ、これが工房の鍵だ。何処でも好きな鍵穴に挿せばそこが工房の入り口になる。     あとはコツさえ覚えれば、何処に居ようが開けるようになる。     ……これからも、精進なさい」 悠介 「───はい。ありがとうございます」 ───……。 彰利 「つまり、いくら光が届く場所だろうと、     『真の闇』がある場所では全てが闇に染まるわけであるわけです。     即ち、光があれば闇があるという定説は必ずしも闇が影になるわけでは無く、     光の『中』にこそ真実の闇は存在するのです」 エルダ「ふむ……面白いことを言う。     さすがに闇の学説だけで二回生まで上がってきただけのことはあるね。     ……うん、いいだろう。弦月くん、私の助手をしてみないか?     私はこれでも闇や魔や影の研究をしているんだ。     教授といっても研究したいという気持ちに変わりはないからね。どうだい?」 彰利 「フフフ、逆に教えてくれるわ……今や闇や黒や影で俺の右に出るものは居ねぇ」 エルダ「それなら逆に好都合だ。知りたいものを知ることが出来るなら嬉しいさ。     けど院生が教授の助手になる場合、三回生でなければならないんだ。     というわけで───私が院長に掛け合って、キミを三回生に昇学させてもらう」 彰利 「ほへ?ええの?オイラ他はなんにも出来ない修羅だけど」 エルダ「アカデミーっていうのはね、     勉強する本人が目指す方向性を確信させるためにあるんだ。     興味もないものを勉強して時間を潰すのはもったいない。     そのために学科が選べるんだ。解るだろう?」 彰利 「ナルホロ。んじゃあこれから頼ンまぁ教授」 エルダ「こちらこそ。ところで───キミと同期の晦くんだけど」 彰利 「悠介?オイラの親友がどぎゃんしたと?」 エルダ「なんでももう自分の工房を手に入れて、     院生でありながら『教授』の資格を取ったらしい」 彰利 「な、なんだってぇえーーーーっ!!!?」 エルダ「今では教授である私たちの方が教わることがあるくらいだ。     彼は凄いよ。本当の意味で努力家だ。     しかも、一度覚えたことを忘れる様子がまるで無い」 彰利 「……何処まで行くんだ、親友よ……」 ───……。 ドリアード『そう……そうです。あとは霊薬に精霊石を浸せば……』 悠介   「よし……───出来たっ!!」 ドリアード『おめでとうございます、マスター。エリキシルの完成ですね』 悠介   「はは、ありがとう。いやしかし……寝ないで作業するのも案外疲れるな。       でも研究者たちが眠らずに研究をしようとする理由が少し解った。       研究と錬金術は違うだろうけど、作成過程で続きが気になってしょうがない。       完成するまで眠りたくないって気持ちが簡単に勝ったよ」 ノート  『錬金術の成功率も大分上がったな。       やはり全ての属性の精霊石は先に作成しておいてよかっただろう』 悠介   「ああ、大分助けられた。でも……未だに信じられないな。       ファンタジーに憧れてただけの俺が……まさかエリキシルを……。       想像と創造で作ったエリクサーなんかとは存在感そのものが違うよ」 ノート  『当然だ。最高純度の然の精霊石の加護を受けた霊薬だぞ。       たとえ比較対照が創造の理力だろうと、劣るなどということは無い』 悠介   「それを今実感してるところだよ……。       なんていうかこう、創造の理力にはない達成感がある。       ここまで来れたんだなってさ」 ノート  『満足するのは賢者の石を錬成してからにするんだな。       ……エリキシルの分析は済んだか?』 悠介   「ああ。しっかしある意味で反則だよな。       一度作ったものは分析さえしてあればすぐに創造出来るから、       高等錬成の時に材料に困らない」 ノート  『気にすることはない。汝はたまたまそういった能力を持っていて、       たまたま私たちのような精霊と契約し、       たまたま私たちが錬成の仕方を知っていただけのことだ。       世にある一本の軌道以外、全ては偶然で出来ている。       私たちが汝と邂逅したことが運命であれ偶然であれ、       そうした能力を有意義に使わないのは宝の持ち腐れというものだ』 悠介   「……はは、それもそうか。じゃあ次、行こうか」 ドリアード『あの、マスター。そろそろお休みした方がよいのではないでしょうか。       目に見えて疲労が浮かんでいます』 悠介   「そ、そうか?意識は結構高ぶってるんだけどな」 ノート  『ハイになっているだけだ。確かに無理に続けるのは良くない。もう寝ろ』 悠介   「……りょーかい」 ───……。 ……。 ───コンコン。 声  「カムイン」 悠介 「自分で言うなよ……彰利だろ?入っていいぞ」 ガチャリ…… 彰利 「ヨゥメェーーーン!!久しぶりじゃねぇの!元気してた!?」 悠介 「まあそれなりにな。そっちはどうだ───って、その様子なら訊くまでもないな」 彰利 「実は先日、教授と闇のマナを結晶化させる実験やってたら暴走しましてね……。     院長が大事にしてたエリキシルの霊薬をブチ壊してしまいまして……」 悠介 「カラ元気かよ……あぁ解った、     エリキシルならそこの棚にあるから好きなの持ってけ」 彰利 「ってちょっと待てェい!!そげな簡単に貰っちゃってええの!?」 悠介 「いいも悪いも、必要になったらいつでも作れるから気にすることないぞ。     それよりも彰利、闇の結晶作れるか?     今錬成しようとしてるものにどうしても必要なんだ」 彰利 「お、押忍、そりゃすぐに作れますがね……。     いいのか?エリキシルと闇の結晶ごときを交換で……。     闇の結晶なんて錬金ランクC程度で作れるヤツだろ?     それをランクAのものと交換なんて……」 悠介 「いいって。それより早く頼む。タイミングが重要なんだ」 彰利 「ぬう……すっかり錬金術にハマッとりますな。     まあいいコテ、ほれ。今丁度持ってるからこれ使いなされ」 少し苦笑気味の彰利が懐から闇の結晶を取り出し、渡してくれる。 俺はそれを受け取ると純度を調べ、比率を考慮しながら結晶を削り混ぜてゆく。 彰利 「ちなみに───今何作っとるん?」 悠介 「ダークマテリア。闇の精霊石のハイクオリティだ。     純度90%以上の精霊石をさらに高めたやつ。知ってるだろ?」 彰利 「ぬお……俺昨日それ失敗したばっか……」 悠介 「お前もか……俺もさっき失敗して爆発した」 彰利 「難しいよね、マテリア。他の属性のマテリアは試したかね?」 悠介 「ああ。一応サンダーマテリアは錬成出来た。いや〜、錬金術って面白いなぁ。     お前の言う通りだけど、すっかりハマっちまった」 彰利 「やり始めると寝る間も惜しみたくなるよね、マジで」 悠介 「だよなぁ」 そうしてふたりして笑う。 最初は乗り気じゃなかったものも、案外奥が深いもので…… 続ければ続けるほど心が弾んでいくのを実感できた。 特に『成功か失敗か』を待つ瞬間のなんとも言えない緊張感がたまらない。 ……とはいえ、失敗すると爆発したりするから、それの緊張感もあったりするんだが。 悠介 「そういえば聞いたぞ、お前もそろそろ自分の工房もらえるんだってな」 彰利 「押忍。今度の試験の結果次第じゃんけんどね。     あ、そうそう。さっきリヴァイアが来てさ。     頑張れー、ってピネトレーマンドラゴラの根っ子を二本置いてった」 悠介 「あ……そっか、考えてみればまだ試してない材料も結構あるんだったな。     一本貰っていいか?」 彰利 「オウヨ。そのためにお邪魔しに来たんじゃけぇのぉ」 悠介 「そか。みさおはどうしてる?」 彰利 「子供の部で魔導の基礎から学んでるみてぇよ?     そっちの方じゃあ昇学制度が無いみたいだから地道にやっとぅぜ」 悠介 「……そっか。だったらこのまま地道に通わせるのも面白いかもな」 彰利 「オイラ達はオイラ達で楽しんどるしね。     そっれよっかさ〜♪悠介そろそろ賢者の石の錬成に入ったりするんか?」 悠介 「一応な。で───賢者の石の材料、知ってるか?」 彰利 「んにゃ。難しいとは思うけど、どんなんなん?」 はぁ……と、溜め息ひとつ吐いてから俺はそれを口にした。 悠介 「基本として、全属性のマテリア。で、純度100%のエリキシルに精霊の涙。     星の砂と魔導の砂と虹色鉱石の原石、銀水晶に神々の雫───以上」 彰利 「うへぇっ!?た、大抵がランクSの材料じゃねぇの!俺じゃあ無理だなこりゃ」 悠介 「ノートの話じゃあ完全に錬成出来たヤツは居ないんだとさ。     錬成出来たヤツは居るには居るんだけど、純度はDのマイナス。     20%にもならないものだったそうだ」 彰利 「へぇ……そんで、その人はその後どぎゃんしたの?」 悠介 「一応は賢者の石を錬成したってことで、満足したそうだ。     しかも自分以上の錬成をするヤツが現れるのを恐れて、     必要な素材は隠したまま絶命。     今じゃその錬成方法を知ってるのはノートくらいなんだとさ」 彰利 「なんとまあ……マジすか」 一応真実である。だからこそ俺も教えてもらったわけだ。 さらに言えば純度20%程度の賢者の石でもかなりの力があったそうで、 それ故にその作ったヤツも満足してしまったんだろう。 けど───こっちはそれで満足なんてしてやらない。 一度作ったものは創造出来るし、材料に困ることは無いからだ。 故に最高純度のものが出来るまで何度だってやってやる。 悠介 「これは───そう、夢だ。浪漫だ。     錬金術に手を染めたものならば夢にまで見る伝説の物体、賢者の石……!     それを作れるのならば眠気など超えてゆく!!」 彰利 「熱くなってるとこスマンけどさ、純度の高いインゴットくれんかね?     教授が必要だ〜とか言っとったんで」 悠介 「インゴットなら純度100%の錬成に成功してる。     アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、マテリアルと、     どれでもそこの棚にあるから好きなだけ持ってってくれ」 彰利 「………」 一瞬、彰利がバケモノでも見るような顔で俺を見たが、まああまり気にしないでおこう。 バケモノがどうとかも今さらだ。 彰利 「あ、あのー……マ、マテリアルインゴットってランクSだったよね……?」 悠介 「うん?ああ、そうだな」 彰利 「これあれば、アイアンもブロンズもシルバーもゴールドも要らないってやつ……」 悠介 「……そうだな。どうした?」 彰利 「………」 悠介 「…………?」 彰利 「これ売っ払って研究資金にしていい?」 悠介 「ダメだ」 彰利 「即答!?なんで!?いいじゃんこんだけあるなら!」 悠介 「錬金術の掟その一。研究資金は必ず己の手で稼ぐこと。     上を目指すならそれは禁忌だぞ彰利」 彰利 「夢だけでメシが食えるか!!つーか闇系の錬成アイテムって値段が安いんだよ〜!     マテリアを錬成出来れば飛躍的に売価も上がるけど、     まだ一度も成功してないんじゃよ〜!!」 凄まじく情けない声で叫ぶ彰利。 どうやらそうとう切羽詰っているらしい。 悠介  「だから……それも努力次第でどうとでも───っと、よし。      ダークマテリア錬成完了っと。シェイド、純度調べてもらっていいか?」 シェイド『ああ構わん。貸してみるといい』 インビジブルを解いたシェイドに錬成したマテリアを渡す。 と───シェイドは目を閉じてマテリアを両手で包むと───小さく笑みをこぼした。 シェイド『おめでとう、と言うべきか。純度100%だ』 悠介  「あ───本当か!?」 彰利  「くれ!!」 悠介  「自分で作れたわけ!!」 彰利  「自分で出来りゃあ『くれ』なんて言いませんよ失礼な!!」 シェイド『これで貴様の中の諸力とは別に、闇の属性を持っていられる。      精霊を召喚中の負担が減るぞ』 悠介  「あれ───そうなのか?」 ていうかいつまで経っても『貴様』呼ばわりなのな。 シェイド『精霊石もそうだが、マテリアは段違いだ。      これひとつに貴様の諸力と同等程度の属性が詰まっている』 悠介  「……それにか?」 自分で錬成しておいてなんだが、 そんな小さな黒い結晶の中に俺が苦労して開花させた能力が同じ分だけあるって…… ……ショックだ……。 彰利 「なぁ親友。分析はしなくてよいのかね?」 悠介 「……あ、ああ……そうだったな……」 彰利に促されるままにダークマテリアの分析を開始、終了する。 と─── 彰利 「よしくれ!!」 いきなり『くれ』と言ってきやがった。 悠介 「……ったく、解ったよ。ただし売ったりしないこと。     もし売って、それがバレれば試験受ける前にツブされるぞ。     そうなれば工房の件も錬金術実行権利も剥奪される」 彰利 「バレなきゃいいのよ……バレなきゃな、フフフ」 悠介 「……エリキシルとインゴット持ってとっとと帰れ」 彰利 「あぁっ!ウソウソ!!売らないって!ただ見本が欲しいだけ!ね!?」 悠介 「錬金術で完成品が見本になるかよ。ほらとっとと帰れ。     これから肉体の方の鍛錬に入るから、工房閉めなきゃいけないんだ」 彰利 「なんと!?ま、まだ肉体鍛錬やってたの!?     俺ゃてっきり錬金術だけにお熱かと……!」 悠介 「体が鈍るのは嫌だからな。毎日欠かさずやってるぞ」 彰利 「………」 彰利が信じられないものを見るような目で俺を見た。 何回目だろうな、これも。 彰利 「フッ……すっかり遠い場所にまで行っちまったようだな……。     貴様が俺を卒業する日も近い……」 悠介 「……?なに言ってんだ馬鹿、俺とお前の関係がそう簡単に終わるか。     妙なこと言ってないで教授のところに戻れって。     試験合格すれば同じ工房魔導術師だろうが。何が遠いもんか」 彰利 「ぬ。そらそうだ───っと?おわわっ!ゆ、悠介!?」 たははと笑う彰利に複製したダークマテリアを投げ渡すと、 苦笑で返して工房から追い出した。 悠介 「頑張れよ。別に魔法が使えたって錬成が出来たって、俺は俺だしお前はお前だ。     本質なんて変わらないんだ、差なんてもの考えずに楽しめ」 彰利 「オウヨ!解っとうぜ〜!見てろ親友!オイラやるぜ!?」 悠介 「試験中は立ち入り禁止で見ることなんて出来んわ馬鹿者」 彰利 「オウヨオウヨ〜!!」 彰利は俺の行動が嬉しかったのか、 ダークマテリアとエリキシルとマテリアルインゴットを手にしながら跳ね回り、 やがて見えなくなっていった。 ……まったく、もうちょっと素直に楽しめないかねあいつは。 悠介 「さてと……じゃあ始めようか、ノート」 ノート『ああ。では今日はマテリアを使った戦い方を教えよう』 悠介 「了解」 工房を進入禁止状態にして、その中で黄昏を創造した。 それと同時にインビジブルで隠していた精霊から始まる二十四体が見えるようになると、 俺は静かに意識を戦闘体勢に移すために“戦闘開始(セット)
”を唱えた。 ───……。 ……ちなみに。 その翌日に行われた試験前、 とある馬鹿者がダークマテリアルを院生に横流ししようとして押さえられたらしい。 捕らえられたA・Y氏はしきりに 『すまなんだぁ〜〜っ!すまなんだぁ〜〜っ!出来心だったんだぁ〜〜〜っ!!』 と叫んでいた。 もちろん出会い頭にヤクザキックを勢い付けてブチかましてやったのは言うまでもない。 結局その馬鹿は工房取得の権利を剥奪され、さらにはアカデミーを追放されることとなる。 ……さて。そいつが今何をしているかというと─── 悠介 「……お前さ、何がやりたかったんだ……?」 彰利 「なんでしょうね……」 俺の目の前で、しくしくと泣きべそをかいていたりする。 俺が院長に掛け合ったことで錬金行使資格の剥奪は免れたが、 工房を持つことは永劫に禁止とする、と言われてしまった。 なんというか彰利らしいっていえばらしかったが、 自業自得すぎてフォローも出来ないのは紛れも無い事実だった。 Next Menu back